説明

航空機コンポーネント間の接合部

第1コンポーネント、端部で終わる接合領域で第1コンポーネントに接合する第2コンポーネント、接合領域の端部と第2コンポーネントの端部の間に位置し、第1、第2コンポーネントが接合しない非接合領域、および非接合領域を貫通し、第1コンポーネントを第2コンポーネントに留める1つ以上の留め具で構成される、一組の航空機コンポーネント間の接合部。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の一組のコンポーネント間の接合部に関するものである。この接合部は、第1コンポーネントおよび接合領域で第1コンポーネントに接合される第2コンポーネントから構成される。これらのコンポーネントは、共硬化、共接合、二次接合 (例えば接着層によるもの)またはその他の適切な接合方法によって接合することができる。
【背景技術】
【0002】
図1は、ストリンガー(縦通材)脚部1および翼スキンパネル2との間の従来の接合部を示す。これらのコンポーネントは、接着層3によって接合されている。フェイルセーフボルト4は、接着層3の欠陥の場合に、コンポーネント間の連結を維持する。
【0003】
航空機の翼の使用時には、典型的に主に3種類の負荷が接合部に作用する。先ず、翼全体の屈曲によって生じる、翼スキン2の局部的な屈曲の結果として、接合部に負荷が作用する。次に、せん断負荷が翼スキン2に作用し、これは、接合部によってストリンガー1に伝達される。最後に、ストリンガーランアウト5における幾何学的不連続の結果として、ストリンガー脚部1をスキン2から分離させる剥離負荷が作用する。
【0004】
せん断応力6は、グラフ7に示すように、スキン2からストリンガー脚部1に接着層3によって伝達される。せん断応力は、伝達が始まった時点は最大であり、全ての負荷が一旦コンポーネント間に均等に分配されると、ゼロに達する。接着層3が無傷である間は、ボルト4はほとんどまたは全くせん断応力を伝達しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1の配置の問題は、接着層3が亀裂の影響を受けやすいことである。亀裂は、せん断応力7が最大であるストリンガーランアウト5で、典型的に発生する。
【0006】
フェイルセーフボルト4の存在により、壊滅的な欠陥よりも前に、構造体は全体として比較的高い負荷に耐えることができるが、航空機規定では、構造体の全体的な健全性を保つことが求められている。よって、究極の負荷レベル、すなわち航空機の稼働寿命の間に経験する可能性のある最大の負荷レベルまで、亀裂発生を防ぐ必要がある。これは典型的には、スキン2を厚くすることによって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、第1コンポーネント、端部で終わる接合領域で該第1コンポーネントに接合される第2コンポーネント、該接合領域の該端部と該第2コンポーネントの端部との間に位置し、これらのコンポーネントが接合されていない非接合領域、および、該非接合領域を貫通して該第1コンポーネントを該第2コンポーネントに留める1つ以上の留め具で構成される、一組の航空機コンポーネント間の接合部を提供する。
【0008】
第1コンポーネントは、例えばパネルで構成し、第2コンポーネントは、例えば一組の側端部と該側端部よりも短い終端部とを有するストリンガーで構成してもよい。この場合、非接合領域は、接合領域の端部とストリンガーの終端部との間に位置する。
【0009】
好適には、接合部は、非接合領域内でコンポーネントの間に位置するシム層でさらに構成される。該シム層は、低摩擦材料で形成され、シム層と第1コンポーネントの間の摩擦係数は、第2コンポーネントと第1コンポーネントの間の摩擦係数よりも小さい。シム層は、好適には、非接合領域の大部分に延在する。
【0010】
任意選択でシム層を省いてもよいが、この場合には、第1および/または第2コンポーネントは、2つのコンポーネント間の非接合領域を実質的に埋めるステップを含むこともできる。これにより、シム層のない場合には、製造中に非接合領域で接合が発生するのを防ぐことができる。
【0011】
好適には、留め具はコンポーネントの内の1つまたは両方および、シム層が含まれている場合には、シム層を貫通する。留め具は好適にはボルトである。
【0012】
好適には、接合領域の端部に一番近い留め具は、非接合領域を貫通する最小直径Dのシャフトを有し、シャフトの中心軸と接合領域の端部との間の距離Lは、2Dよりも大きい。
【0013】
第2コンポーネントは、共硬化、共接合または二次接合により、接合領域で第1コンポーネントに接合してもよい。コンポーネントの内の1つまたは両方は、例えば複合材料の複数の層から形成してもよい。
【0014】
本発明の第2の観点は、コンポーネントの間でせん断力を伝達する方法を提供し、該方法は、非接合領域を介してコンポーネント間でせん断力を実質的に何も伝達しないステップと、留め具を介してコンポーネント間で少なくともいくらかのせん断力を伝達するステップとを含む。
【0015】
好適には、該方法は、接合領域で第2コンポーネントを第1コンポーネントに接合するステップ、非接合領域でこれらのコンポーネントが接合されるのを防ぐステップ、および非接合領域を貫通する1つ以上の留め具でこれらのコンポーネントを固定するステップをさらに含む。好適には、これらのコンポーネントは、シム層により、非接合領域内で接合されないようにする。シム層は、これらのコンポーネントの間に位置し、接合ステップの際には、非接合領域内でこれらのコンポーネントの間に位置する。上述の様に、このシム層は任意選択で省いてもよく、その場合には、これらのコンポーネントの内の1つ(または両方)は、非接合領域を実質的に埋めるステップをさらに含み、製造中に非接合領域で接合が発生するのを防ぐ。
【0016】
本発明のさらなる観点は、本発明の第1の観点による接合部を備える航空機を提供する。
【0017】
本発明の実施形態を添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ストリンガーとパネルの間の従来の接合部を示す図である。
【図2】本発明の実施形態による接合部を示す図である。
【図3】航空機の翼スキンの内面に取り付けられた、3つのストリンガーを示す図である。
【図4】図3のA−Aの線に沿った断面図である。
【図5】2つのコンポーネント間の接合部の製造方法を説明する図である。
【図6】図5の方法によって得られる接合部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図3は、航空機の翼の下側のスキン14の内表面に取り付けられた、3つのストリンガー10〜12を示す。ストリンガー10〜12およびスキン14は、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fibre Reinforced Plastic:CFRP)のような、積層複合材料でできている。典型的にCFRPは、エポキシ樹脂基体を含浸させた、一方向炭素繊維の一連の層から成る。
【0020】
各ストリンガー10〜12は、スキン14に平行に設置される脚部15〜17、およびスキン14に垂直に設置されるブレード18〜20を有する。各ストリンガー脚部は、一組の比較的長い側端部と一組の比較的短い終端部とを有する。これらの終端部は、従来「ランアウト」として知られている。ストリンガー脚部16の1つのランアウト22を図示するが、ストリンガー脚部15、17のランアウトは図示しない。尚、ストリンガー11のブレード19は、ランアウト22の手前の先端23で終わる、先細の終端部21を有する。これにより、スキン14とストリンガー11との間の負荷伝達プロセスがスムーズに行われる。
【0021】
図4は、図3に示されるA−Aの線に沿った断面図であり、ストリンガーランアウトの領域内のストリンガー/スキン接合部を示す。ストリンガー11の脚部16は、接着層30と6本のボルト31のセットによって、翼スキン14に取り付けられ、図4にはその内の3本を示している。接着層30は、端部32とランアウト22の間の、接着剤のない非接合領域を残して、端部32で終わっている。シム層33は、この非接合領域内のコンポーネントの間に位置する。ボルト31は、コンポーネント14、16およびシム層33を貫通する。
【0022】
図1の従来の配置とは対照的に、ボルト31は、コンポーネント間の大部分のせん断負荷を伝達する。この原理は図2に示される。図2は、コンポーネントの間にシム層8を設け、接着層3を端部9で終わらせることによって変更した、図1の接合部を示す。シム層8によって伝達されるせん断応力は、ほぼまたは全くないので、ボルト4は大部分のせん断負荷を伝達させ、接着剤によって伝達されるせん断負荷はかなり減少する。よって、図1の配置と比較して、接着剤で亀裂の発生する可能性が大幅に減少する。同様の原理は、図4に示す接合部に適用される。
【0023】
尚、ボルト31の大きさは、従来の接合部と比べて増大させる必要があるかもしれないが、この重量の増加は、スキンおよび/またはストリンガーをより薄くすることによって相殺される。
【0024】
さらに図4に戻ると、接着剤の端部32は、ストリンガーランアウト22とスキン14の間の幾何学的不連続から離れているので、剥離負荷は、もはや接着剤によって伝達される必要がなくなり、代わりにボルト31がこの負荷を伝達する。また、翼の全体的な屈曲によって生じる接着剤上の負荷は、曲げモーメントのより少ない翼上の場所に端部32を位置させることにより、最小限に抑えられる。
【0025】
大部分のせん断応力が、接着剤よりもボルトで伝達されることを確実にするために、端部32とボルトの間に大きな隙間を維持することが好ましい。より具体的には、距離L(図4参照)は、接合領域の端部32と、接合領域の端部32に最も近いボルトである、ボルト31のシャフトの中心軸との間に画定することができる。この距離Lは、好適には、ボルト31のシャフトの最小直径Dの2倍よりも大きく、座屈距離よりも小さい。この座屈距離は、構造体が許容できない座屈のリスクにさらされるまで耐えることのできる、最大距離Lと定義される。
【0026】
シム層33は、テフロンのような摩擦係数の低い材料で形成される。これはボルト31がプレテンションされている場合には、特に重要である。これにより、シム層33を通したせん断応力の伝達を最小限に抑えることができる。シム層33はまた、非接合領域への水分浸透を防ぐ。
【0027】
図5は、第1および第2コンポーネント50、51の間の上述の接合部に類似した、接合部の製造方法を示す。先ず、シム層52を非接合領域内の第1および/または第2コンポーネント50に設置する。次に、接着層53を接合領域内の第1コンポーネント50に塗布する。これら2つのコンポーネントは、接着剤が固まるまでくっつける。接着剤が固まった後で、ボルト54を非接合領域に貫通させる。結果として得られる接合部を図6に示す。シム層52により、接合領域の端部55の位置を簡単に調節することができる。図2および図4に示される接合部もこの方法によって製造することができる。この場合には、接着層は典型的にはパネルに塗布し、ストリンガーをパネル上の接着層に押えつける。
【0028】
図5の例では、どちらのコンポーネントも、接着層によって接合される前に早期硬化されている。しかしながら、共硬化および共接合を含むその他の接続方法を使用してもよい。共硬化の場合には、コンポーネントは同時に硬化され、それらは硬化されるに従い、接合領域内で接合し、シム層がエポキシ樹脂の非接合領域への流出を防ぐ。接着層は、共硬化の場合には存在してもよいし、しなくてもよい。共接合の場合には、コンポーネントの内の1つ(典型的にはパネル)は早期硬化され、ストリンガーがパネル上に硬化される。共接合の場合、接着層は存在してもしなくてもよい。
【0029】
本発明を1つ以上の好適な実施形態を参照して上述の様に説明したが、添付の請求項に定めるように、本発明の主旨から逸脱することなく、種々の変更や変形が可能であると理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コンポーネント;
端部で終わる接合領域で該第1コンポーネントに接合する第2コンポーネント;
該接合領域の該端部と該第2コンポーネントの端部との間に位置し、これらのコンポーネントが接合されない非接合領域;および
該非接合領域を貫通し、該第1コンポーネントを該第2コンポーネントに留める1つ以上の留め具、を具える、一組の航空機コンポーネント間の接合部。
【請求項2】
前記第1コンポーネントはパネルから構成され、前記第2コンポーネントは一組の側端部および該側端部よりも短い終端部を持つストリンガーから構成され、前記非接合領域は前記接合領域の前記端部と該ストリンガーの終端部の間に位置する、請求項1に記載の接合部。
【請求項3】
前記非接合領域内の前記コンポーネントの間に位置するシム層をさらに具える、請求項1または2に記載の接合部。
【請求項4】
前記シム層は低摩擦材料より形成され、該シム層と前記第1コンポーネントの間の摩擦係数は、前記第2コンポーネントと該第1コンポーネントの間の摩擦係数よりも小さい、請求項3に記載の接合部。
【請求項5】
各留め具は前記シム層を貫通する、請求項3または4に記載の接合部。
【請求項6】
前記シム層は前記非接合領域の大部分に延在する、請求項3、4または5に記載の接合部。
【請求項7】
前記留め具は前記コンポーネントの内の1つまたは両方を貫通する、請求項1〜6の何れかに記載の接合部。
【請求項8】
前記留め具はボルトである、請求項7に記載の接合部。
【請求項9】
前記接合領域の前記端部に最も近い留め具は、前記非接合領域を貫通する最小直径Dのシャフトを有し、該シャフトの中心軸と前記接合領域の前記端部の間の距離Lは2Dよりも大きい、請求項1〜8の何れかに記載の接合部。
【請求項10】
前記第2コンポーネントは、共硬化、共接合または二次接合によって、前記接合領域で前記第1コンポーネントに接合される、請求項1〜9の何れかに記載の接合部。
【請求項11】
前記コンポーネントの内の1つまたは両方は、複数の層から形成される、請求項1〜10の何れかに記載の接合部。
【請求項12】
前記コンポーネントの内の1つまたは両方は、複合材料の複数の層から形成される、請求項11に記載の接合部。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の接合部のコンポーネント間でせん断力を伝達する方法であって、
前記非接合領域を介して、前記コンポーネントの間でせん断力を実質的に伝達しないステップ;および
前記留め具を介して、前記コンポーネントの間で少なくともいくらかのせん断力を伝達するステップ、
を含む、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の接合部を製造する方法であって、
前記接合領域で、前記第2コンポーネントを前記第1コンポーネントに接合するステップ;
前記非接続領域内で、前記第1および第2コンポーネントが接合されることを防ぐステップ;および
前記非接合領域を貫通する1つ以上の留め具で、前記第1および第2コンポーネントを留めるステップ
を含む方法。
【請求項15】
前記第1および第2コンポーネントの間でかつ前記接合ステップの間における前記非接合領域内に位置するシム層によって、前記第1および第2コンポーネントが該非接合領域内で接合されるのを防ぐ、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−506014(P2012−506014A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531572(P2011−531572)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051377
【国際公開番号】WO2010/046684
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(510286488)エアバス オペレーションズ リミテッド (30)
【氏名又は名称原語表記】AIRBUS OPERATIONS LIMITED
【Fターム(参考)】