説明

航空機進出入路付近の船舶監視システム、及び航空機進出入路付近の船舶監視方法

【課題】 空港の航空機進出入路と船舶航路が交差する場合に、船舶のマスト頂点が航空機進出入路下方限界面に接近するか否かを高い信頼性で監視し得るシステム及び方法を提供する。
【解決手段】 船舶自動識別システムAISの規格の装置からTDMA方式等により無線送信されるIMO番号と、その船舶の現在位置、現在の移動方向や速度を受信するAIS受信装置2と、IMO番号とその船舶のマスト高さを対応づけて格納し検索可能な船舶マスト高さデータベース装置3と、航空機進出入路付近の海面の高さを出力する海面高さ出力装置4と、受信したIMO番号から船舶マスト高さデータベース装置3により検索したマスト高さと、海面高さから、当該船舶のマスト頂点の位置を演算し、当該船舶の現在位置と移動方向及び速度から当該船舶の将来位置を予測演算し、航空機進出入路下方限界面にマスト頂点が接近するか否かを判別するコントローラ1を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機進出入路の下方が海域となっている空港の近傍の陸上部に設置され、滑走路の端部の海岸の位置から航空機進出入路の外方へ上昇する仮想の斜面(以下、「航空機進出入路下方限界面」という。)に付近を航行中のいずれかの船舶のマストの頂点が接近するか否かを監視するシステム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2及び図5に示すように、航空機301が離着陸する空港は、海に面して設置されているものが多い。着陸時に航空機301が空港の滑走路302に向かって進入してくる空路、又は離陸時に航空機301が空港の滑走路302から外方へ向かって進出していく空路である航空機進出入路は、滑走路302の端部の海岸位置P1から航空機進出入路の外方へ上昇する仮想の斜面である航空機進出入路下方限界面303を下面とし、略扇型(滑走路302の端部の海岸位置P1を扇の元の部分とし、海側へ向かって拡がる略扇型)の形状を有する斜路を形成しており、海に面した空港の場合は、航空機進出入路の下方が海域となることが多い。海域には船舶304が航行するため、この場合には船舶航路と航空機進出入路は空間的に交差することになる。船舶304には柱状の構造物であるマスト305を有するものがあるが、小型船舶では、海面Sからマスト頂点306までの高さ(以下、「マスト高さ」という。)Hは高くなく、船舶が航空機進出入路の直下に入っても問題となることはなかった。
【0003】
しかし、近年、船舶の大型化により、船舶304のマスト高さHが高くなり、大型船舶では海面から55メートル程度又はそれ以上のマスト高さHを有するものもある。このような大型船舶では、船舶304の位置によっては、航空機進出入路の直下に入った場合に、マスト305の頂点306が航空機進出入路下方限界面303の上方に侵入する可能性があり、その場合には事故等の不測の事態が発生するおそれがある。
【0004】
このため、海に面した空港では、付近を航行する船舶304のマスト高さHを監視し、その結果、船舶304のマスト頂点306が航空機進出入路下方限界面303を支障するおそれがある場合には、船舶航路の変更等を船舶に命じるような船舶への管制、関係する航空機301への管制等の対処を行う必要が生じてきた。
【0005】
このような状況に対処する技術としては、特許文献1に開示されているものが知られている。これは、レーダにより船舶の位置を監視するとともに、レーダと同期して水平方向に発射されるレーザビームにより船舶の高度を監視し、空港に進出入する航空機に対する支障の有無を判定する装置である。
【0006】
しかし、一般に、レーダの電波は、周波数が高いため、電波の波長が微少であり、霧や雨の場合などでは、霧や雨の水滴等によって電波が散乱され、この散乱により電波が減衰し、位置探知能力が低下する。このため、特許文献1の技術では、雨等の悪天候の場合には、レーダによる探知位置の信頼性が低下し、事故等の不測の事態も起こしかねない、という問題があった。
【特許文献1】特開2004−264212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、本発明の解決しようとする課題は、空港の航空機進出入路と付近の船舶航路が交差する場合に、悪天候時でも高い信頼性で、船舶のマスト頂点が航空機進出入路下方限界面に接近するか否かを監視し得るシステム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る航空機進出入路付近の船舶監視システムは、
航空機進出入路の下方が海域である空港の近傍の陸上部に設置される船舶監視システムであって、
国際海事機関IMOにより制定された船舶自動識別システムAISの国際規格に適合する仕様を有し船舶に搭載されたAIS船舶側搭載装置からVHF帯の電波によりTDMA(時分割多元接続)方式又はDSC(デジタル選択呼出)方式により送信される情報であって、送信側船舶を特定する番号であるIMO番号と、送信側船舶の現在位置と、送信側船舶の現在の移動方向と、送信側船舶の現在の移動速度を含むAIS情報を受信するAIS受信手段と、
電子計算機からなり、前記IMO番号のデータ集合と、前記IMO番号により特定される船舶のマスト高さの値のデータ集合とを対応づけて格納するマストデータ格納部と、検索用入力として前記IMO番号を入力した場合に前記マストデータ格納部から対応するマスト高さを検索して出力するデータ検索部を有する船舶マスト高さデータベース手段と、
空港の航空機進出入路付近の海面の高さの値を計算又は計測に基づいて出力する海面高さ出力手段と、
電子計算機からなる判別手段を備え、
前記判別手段は、空港の航空機進出入路付近の海域に存在する船舶からの電波から受信した前記AIS情報に含まれる前記IMO番号を前記検索用入力として前記船舶マスト高さデータベース手段に入力し、前記船舶マスト高さデータベース手段が検索して出力したマスト高さと、前記航空機進出入路付近の海面高さから、当該船舶のマストの頂点の位置を演算し、当該船舶の現在の位置と移動方向と移動速度から当該船舶の将来の位置を予測演算し、前記空港の滑走路の端部の海岸位置から前記航空機進出入路の外方へ上昇する仮想の斜面である航空機進出入路下方限界面にいずれかの船舶のマストの頂点が接近するか否かを判別すること
を特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る航空機進出入路付近の船舶監視システムは、
請求項1記載の航空機進出入路付近の船舶監視システムにおいて、
前記海面高さ出力手段は、電子計算機からなり、太陽と月の引力、風、及び気圧に基づき、前記航空機進出入路付近の海面高さの値を計算すること
を特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る航空機進出入路付近の船舶監視システムは、
請求項1記載の航空機進出入路付近の船舶監視システムにおいて、
前記海面高さ出力手段は、前記航空機進出入路付近の海域に設置され海面高さの値を計測する海面高計測手段を有すること
を特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る航空機進出入路付近の船舶監視システムは、
請求項1記載の航空機進出入路付近の船舶監視システムにおいて、
前記マストデータ格納部には、前記船舶のマスト高さとして、船舶の底面の最低高さ位置とマスト頂点との間の高さH0から、旅客又は積載物を最大に積載した状態である満載時における前記船舶の底面の最低高さ位置と、前記満載時における海面が船腹に接する線である喫水線との間の高さである満載時喫水高さdmaxを減算した値(H0−dmax)の値が格納され、
前記判別手段は、前記航空機進出入路下方限界面にいずれかの船舶のマストの頂点が接近するか否かの判別時には、前記船舶マスト高さデータベース手段が検索して出力したマスト高さの値である補正前マスト高さに、1.01〜2.00の範囲の適宜の値である割り増し係数を乗算して得た補正後マスト高さと、前記航空機進出入路付近の海面高さから、当該船舶のマストの頂点の位置を演算すること
を特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5に係る航空機進出入路付近の船舶監視システムは、
請求項1記載の航空機進出入路付近の船舶監視システムにおいて、
前記マストデータ格納部には、前記船舶のマスト高さとして、船舶の底面の最低高さ位置とマスト頂点との間の高さH0から、旅客又は積載物を最大に積載した状態である満載時における前記船舶の底面の最低高さ位置と、前記満載時における海面が船腹に接する線である喫水線との間の高さである満載時喫水高さdmaxを減算した値(H0−dmax)である補正前マスト高さの値に、1.01〜2.00の範囲の適宜の値である割り増し係数を乗算して得た補正後マスト高さが格納されること
を特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項6に係る航空機進出入路付近の船舶監視方法は、
航空機進出入路の下方が海域である空港の近傍の陸上部に設置される船舶監視方法であって、
国際海事機関IMOにより制定された船舶自動識別システムAISの国際規格に適合する仕様を有し船舶に搭載されたAIS船舶側搭載装置からVHF帯の電波によりTDMA(時分割多元接続)方式又はDSC(デジタル選択呼出)方式により送信される情報であって、送信側船舶を特定する番号であるIMO番号と、送信側船舶の現在位置と、送信側船舶の現在の移動方向と、送信側船舶の現在の移動速度を含むAIS情報を受信するAIS受信手段と、
電子計算機からなり、前記IMO番号のデータ集合と、前記IMO番号により特定される船舶のマスト高さの値のデータ集合とを対応づけて格納するマストデータ格納部と、検索用入力として前記IMO番号を入力した場合に前記マストデータ格納部から対応するマスト高さを検索して出力するデータ検索部を有する船舶マスト高さデータベース手段と、
空港の航空機進出入路付近の海面の高さの値を計算又は計測に基づいて出力する海面高さ出力手段と、
電子計算機からなる判別手段を用い、
前記判別手段は、空港の航空機進出入路付近の海域に存在する船舶からの電波から受信した前記AIS情報に含まれる前記IMO番号を前記検索用入力として前記船舶マスト高さデータベース手段に入力し、前記船舶マスト高さデータベース手段が検索して出力したマスト高さと、前記航空機進出入路付近の海面高さから、当該船舶のマストの頂点の位置を演算し、当該船舶の現在の位置と移動方向と移動速度から当該船舶の将来の位置を予測演算し、前記空港の滑走路の端部の海岸位置から前記航空機進出入路の外方へ上昇する仮想の斜面である航空機進出入路下方限界面にいずれかの船舶のマストの頂点が接近するか否かを判別すること
を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る航空機進出入路付近の船舶監視システム及び監視方法は、航空機進出入路の下方が海域である空港の近傍の陸上部に設置され、国際海事機関IMOにより制定された船舶自動識別システムAISの国際規格に適合する仕様を有し船舶に搭載されたAIS船舶側搭載装置からVHF帯の電波によりTDMA(時分割多元接続)方式又はDSC(デジタル選択呼出)方式により送信される情報であって、送信側船舶を特定する番号であるIMO番号と、送信側船舶の現在位置と、送信側船舶の現在の移動方向と、送信側船舶の現在の移動速度を含むAIS情報を受信するAIS受信手段と、電子計算機からなり、IMO番号のデータ集合と、IMO番号により特定される船舶のマスト高さの値のデータ集合とを対応づけて格納するマストデータ格納部と、検索用入力としてIMO番号を入力した場合にマストデータ格納部から対応するマスト高さを検索して出力するデータ検索部を有する船舶マスト高さデータベース手段と、空港の航空機進出入路付近の海面の高さの値を計算又は計測に基づいて出力する海面高さ出力手段と、電子計算機からなる判別手段を備えるように構成したため、判別手段により、空港の航空機進出入路付近の海域に存在する船舶からの電波から受信したAIS情報に含まれるIMO番号を検索用入力として船舶マスト高さデータベース手段に入力し、船舶マスト高さデータベース手段が検索して出力したマスト高さと、航空機進出入路付近の海面高さから、当該船舶のマストの頂点の位置を演算し、当該船舶の現在の位置と移動方向と移動速度から当該船舶の将来の位置を予測演算し、空港の滑走路の端部の海岸位置から航空機進出入路の外方へ上昇する仮想の斜面である航空機進出入路下方限界面にいずれかの船舶のマストの頂点が接近するか否かを判別することができる、という利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に説明する実施例は、航空機進出入路の下方が海域である空港の近傍の陸上部に設置される船舶監視システムであり、国際海事機関IMOにより制定された船舶自動識別システムAISの国際規格に適合する仕様を有し船舶に搭載されたAIS船舶側搭載装置からVHF帯の電波によりTDMA(時分割多元接続)方式又はDSC(デジタル選択呼出)方式により送信される情報であって、送信側船舶を特定する番号であるIMO番号と、送信側船舶の現在位置と、送信側船舶の現在の移動方向と、送信側船舶の現在の移動速度を含むAIS情報を受信するAIS受信手段と、電子計算機からなり、IMO番号のデータ集合と、IMO番号により特定される船舶のマスト高さの値のデータ集合とを対応づけて格納するマストデータ格納部と、検索用入力としてIMO番号を入力した場合にマストデータ格納部から対応するマスト高さを検索して出力するデータ検索部を有する船舶マスト高さデータベース手段と、空港の航空機進出入路付近の海面の高さの値を計算又は計測に基づいて出力する海面高さ出力手段と、電子計算機からなる判別手段を備えるように構成したため、判別手段により、空港の航空機進出入路付近の海域に存在する船舶からの電波から受信したAIS情報に含まれるIMO番号を検索用入力として船舶マスト高さデータベース手段に入力し、船舶マスト高さデータベース手段が検索して出力したマスト高さと、航空機進出入路付近の海面高さから、当該船舶のマストの頂点の位置を演算し、当該船舶の現在の位置と移動方向と移動速度から当該船舶の将来の位置を予測演算し、空港の滑走路の端部の海岸位置から航空機進出入路の外方へ上昇する仮想の斜面である航空機進出入路下方限界面にいずれかの船舶のマストの頂点が接近するか否かを判別することができ、本発明を実現するための構成として最良の形態である。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の第1実施例について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施例である船舶監視システムの構成を示すブロック図である。
【0017】
この船舶監視システム101は、航空機進出入路の下方が海域である空港の近傍の陸上部、例えば空港の航空管制部署内、あるいは空港の近傍の海域での船舶の監視や管制を行う部署などに設置されている。図1に示すように、船舶監視システム101は、コントローラ1と、AIS受信装置2と、船舶マスト高さデータベース装置3と、海面高さ出力装置4と、操作部11と、表示部12を備えて構成されている。
【0018】
上記の各構成要素のうち、コントローラ1は、その内部構成は図示はしていないが、入出力インタフェイスと、CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)と、ROM(Read Only Memory:読出し専用メモリ)と、RAM(Random Access Memory:随時書込み読出しメモリ)等を有している。このような構成により、コントローラ1は、全体としてコンピュータ(電子計算機)を構成している。
【0019】
コントローラ1の上記の構成要素のうち、入出力インタフェイスは、CPU外部からCPUへ送られる信号等が入力される部分であり、かつ、CPUからの信号を外部へ出力するための部分である。また、CPUは、各種演算やプログラム実行等の処理を行い、各部に制御信号を送って制御する部分である。また、ROMは、CPUを制御するための制御プログラムや、CPUが用いる各種データ等を格納している部分である。ROMとしては、半導体メモリなどが用いられる。RAMは、CPUにより演算された途中のデータ等を一時記憶する部分である。RAMとしては、半導体メモリなどが用いられる。
【0020】
また、操作部11は、各種スイッチ、又は操作ボタン、又は操作ダイヤル、又はキーボード、又はポインティング・デバイス等、若しくはこれらの適宜の組合せを有しており、コントローラ1への操作指令やデータの入力等を行う部分である。ポインティング・デバイスとは、表示部12の画面上に、矢印状の図形(ポインタ)が表示され、操作によってポインタを移動することができ、かつ画面の任意の位置をクリック等によって選択可能な装置であり、マウスのほか、パッド状のもの、回転可能なボール状のものなどがある。操作部11に入力された操作指令やデータは、入出力インタフェイスを経て、コントローラ1内のCPUへ送られる。
【0021】
また、表示部12は、ブラウン管や液晶表示器又はプラズマディスプレイ等からなり、コントローラ1内のCPUから入出力インタフェイスを経て出力された画像や文字等のデータが、画像や文字等として画面に表示される。なお、出力されたデータは、さらにプリンタ(図示せず)により紙に印刷されて出力されることも可能となっている。
【0022】
次に、AIS受信装置2の構成と作用の説明に先立ち、AISについて詳細に説明を行う。
【0023】
AISとは、国際連合の一機関である国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)により制定された船舶自動識別システム(Automatic Identification System)の略称である。AISは、船舶の識別(例えば船舶相互の識別)を支援すること、船舶との情報交換を簡易化することなどを目的としてスウェーデンで開発されたシステムである。AISは、IMOの「海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)」により、SOLAS条約で規定されるすべての旅客船、国際航海を行う300トン以上の船舶、国内航海を行う500トン以上の貨物船への搭載が義務づけられている。
【0024】
AISは、図3に示すような国際規格に適合する仕様を有するAIS船舶側搭載装置201を各船舶に搭載し、各船舶の間で無線通信を行うシステムである。使用する電波の周波数帯域は、150MHz帯のVHFとなっている。従来の船舶用レーダでは、使用周波数が高いため、霧や雨、島影では電波が減衰し、探知能力が低下して安全性に問題があったことから、AISでは、レーダよりも周波数が低いVHF帯電波を使用することにした。VHF帯電波を使用したことにより、霧や雨による電波の減衰はほとんど無く、島影であっても電波が屈折することにより到達することができる。このようなことから、AISでは、20〜30海里(40〜55km)程度の距離でも通信が可能となっている。
【0025】
図3に示すように、AIS船舶側搭載装置201は、AISトランスポンダ56と、操作部61と、表示部62と、ジャイロコンパス63と、第2GPS受信部64と、GPSアンテナA13を備えて構成されている。なお、AISトランスポンダ56と、操作部61と、表示部62は、一つのケースに内蔵された一つの装置として構成されてもよい。
【0026】
また、AISトランスポンダ56は、VHFアンテナA11と、GPSアンテナA12と、アンテナ切換部50と、AIS受信部51と、AIS送信部55と、AIS制御部52と、第1GPS受信部53を有している。
【0027】
上記において、AIS制御部52は、その内部構成は図示はしていないが、入出力インタフェイスと、CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)と、ROM(Read Only Memory:読出し専用メモリ)と、RAM(Random Access Memory:随時書込み読出しメモリ)等を有している。このような構成により、AIS制御部52は、全体としてコンピュータ(電子計算機)を構成している。
【0028】
また、AIS制御部52の上記の構成要素のうち、入出力インタフェイスは、CPU外部からCPUへ送られる信号等が入力される部分であり、かつ、CPUからの信号を外部へ出力するための部分である。また、CPUは、各種演算やプログラム実行等の処理を行い、各部に制御信号を送って制御する部分である。また、ROMは、CPUを制御するための制御プログラムや、CPUが用いる各種データ等を格納している部分である。ROMとしては、半導体メモリなどが用いられる。RAMは、CPUにより演算された途中のデータ等を一時記憶する部分である。RAMとしては、半導体メモリなどが用いられる。
【0029】
また、操作部61は、各種スイッチ、又は操作ボタン等を有しており、コントローラ1への操作指令やデータの入力等を行う部分である。操作部61に入力された操作指令やデータは、入出力インタフェイスを経て、AIS制御部52内のCPUへ送られる。
【0030】
また、表示部62は、ブラウン管や液晶表示器又はプラズマディスプレイ等からなり、コントローラ1内のCPUから入出力インタフェイスを経て出力された画像や文字等のデータが、画像や文字等として画面に表示される。なお、出力されたデータは、さらにプリンタ(図示せず)により紙に印刷されて出力されることも可能となっている。
【0031】
上記のAIS船舶側搭載装置201において、送信を行う場合には、送信する情報がAIS制御部52からAIS送信部55へ送られ、アンテナ切換部50が送信側に切り換えられ、VHFアンテナA11から電波となって送信される。また、上記のAIS船舶側搭載装置201において、受信を行う場合には、アンテナ切換部50が受信側に切り換えられたときに、VHFアンテナA11でとらえられた電波がAIS受信部51で受信され抽出された情報がAIS制御部52に送られる。
【0032】
上記のAIS船舶側搭載装置201における無線通信の送受信方式としては、2種類の方式が使用される。一つは、時分割多元接続(TDMA:Time Multiple Access)方式であり、これには161.975MHzの専用チャンネル(CH87B)と、162.025MHzの専用チャンネルの2つの専用チャンネル(CH88B)が使用されている。もう一つは、デジタル選択呼出(DSC:Digital Selective Calling)方式であり、これには156.525MHzの専用チャンネル(CH70)が使用されている。
【0033】
次に、TDMA(時分割多元接続)方式について、図4を参照しながら詳細に説明する。AISで用いられるTDMA方式は、SOTDMA(Self Organized TDMA:自己管理形TDMA)というプロトコルが使われる。この方式は、まず、1分間を2250個のスロットに分割する。図4において、上部に図示した一つの四角形は、一つのスロットを表現している。時間は、図4の左から右へ流れるものとする。
【0034】
図4に示すように、船舶501は、無線電波W1により、情報をスロット511Aとして送信する。このスロット511Aには、自船情報(後述する自船501のIMO番号、自船位置等の情報など)と、次のスロット(次回に送信を行うスロット)511Bを予約するための予約情報を、1パケットにして送信する。この電波W1は、他の船舶502及び503によって受信される。
【0035】
次に、船舶502は、船舶501が予約した予約スロット511Bの時刻を避けて重複しないようにし、無線電波W2により、情報をスロット512Aとして送信する。このスロット512Aには、自船情報(後述する自船502のIMO番号、自船位置等の情報など)と、次のスロット(次回に送信を行うスロット)512Bを予約するための予約情報を、1パケットにして送信する。この電波W2は、他の船舶501及び503によって受信される。
【0036】
また、船舶503は、船舶501が予約した予約スロット511Bと、船舶502が予約した予約スロット512Bの両方を避けて重複しないようにし、無線電波W3により、情報をスロット513Aとして送信する。このスロット513Aには、自船情報(後述する自船503のIMO番号、自船位置等の情報など)と、次のスロット(次回に送信を行うスロット)513Bを予約するための予約情報を、1パケットにして送信する。この電波W3は、他の船舶501及び502によって受信される。
【0037】
このような手順を次々に繰り返すことにより、スロットが重複しないように回避しながら通信を行う方式が、SOTDMA(Self Organized TDMA:自己管理形TDMA)というプロトコルである。
【0038】
他の通信方式であるデジタル選択呼出(DSC:Digital Selective Calling)方式については、図示はしていないが、上記と同様に時間を分割し、自局に割り当てられた時間帯内でバースト(断続的な情報信号)を送るようにするものである。
【0039】
1分間が2250に分割された各スロットは、256ビットで構成されており、このうち168ビットが情報(データ)用に用いられる。以下、この情報(データ)を、「AIS情報」という。AIS情報は、静的情報と、動的情報と、航行関連情報と、その他情報を有している。
【0040】
静的情報は、IMO番号(送信側船舶を特定する国際的な識別番号)、船舶の名称、船舶の種類、船体長さ、船体幅などの情報を含んでいる。また、動的情報は、自船位置(緯度、経度)、世界標準時の時刻、対地針路、対地速度(移動速度)、船首方位、回頭率、航海ステータス(航行中、停泊中などの状態など)の情報を含んでいる。また、航行関連情報は、喫水、積載物、目的地などの情報を含んでいる。その他情報は、安全関連通信文などの情報である。
【0041】
また、これらの情報の更新時間は、静的情報については、6分ごと、あるいは要求された場合となっている。また、動的情報については、船速が0〜14ノット(約0〜26km/時)のときは10秒ごと、船速が14〜23ノット(約26〜43km/時)のときは6秒ごと、船速が23ノット(約43km/時)以上のときは2秒ごと、などとなっている。
【0042】
図3に示すAIS船舶側搭載装置201においては、AISトランスポンダ56内の第1GPS受信部53は、GPSアンテナA12がとらえたGPS人工衛星からの電波から、世界標準時の現在時刻を検出する。GPS人工衛星は、地球の周囲の静止軌道上に存在する複数の人工衛星であり、世界標準時、地球三次元位置座標に関するデータを送信している。第1GPS受信部53により検出された世界標準時の現在時刻の情報は、AIS制御部52に送られる。AIS制御部52は、この世界標準時の現在時刻の情報を、上記のTDMAの時刻基準信号に用いるとともに、上記したAIS情報の動的情報の世界標準時の時刻として用いる。
【0043】
また、AISトランスポンダ56外の第2GPS受信部64は、GPSアンテナA13がとらえたGPS人工衛星からの電波から、地球三次元位置座標に関するデータを検出する。第2GPS受信部64により検出された地球三次元位置座標に関するデータの情報は、AIS制御部52に送られる。AIS制御部52は、この地球三次元位置座標に関するデータの情報により、上記したAIS情報の動的情報の自船位置(緯度、経度)、自船の対地針路、自船の対地速度(移動速度)の情報を生成する。
【0044】
また、ジャイロコンパス63は、慣性力、角速度を検出するセンサーであり、検出した慣性力、角速度をAIS制御部52に送る。AIS制御部52は、この慣性力、角速度のデータにより、上記したAIS情報の動的情報の船首方位、回頭率の情報を生成する。AIS制御部52は、船首方位のデータと、上記した対地針路のデータから、自船の移動方向を検出する。
【0045】
また、AIS受信部51は、TDMA方式の受信部を2系統(2チャンネル分)と、DSC方式の受信部を1系統(1チャンネル分)有している。このAIS受信部51は、VHFアンテナA11がとらえた他の船舶からのVHF電波から、AIS情報を検出し、その船舶のIMO番号、その船舶の現在位置(緯度、経度)、その船舶の現在の移動方向、その船舶の現在の移動速度などを検出する。AIS受信部51により検出されたAIS情報は、AIS制御部52に送られる。
【0046】
また、AIS送信部55は、TDMA方式の送信部を2系統(2チャンネル分)と、DSC方式の送信部を1系統(1チャンネル分)有している。このAIS送信部55へは、AIS制御部52から、自船のIMO番号、自船の現在位置(緯度、経度)、自船の現在の対地針路、自船の現在の対地速度などを含むAIS情報が送られる。AIS送信部55は、このAIS情報を、TDMA方式又はDSC方式で出力し、アンテナ切換部50が送信側に切り換えられ、VHFアンテナA11から電波となって他の船舶へ向けて送信される。
【0047】
このような構成と通信方式等により、図3に示すAIS船舶側搭載装置201を搭載した船舶は、相互間でVHF無線通信を行い、他の船舶について、IMO番号、船舶の名称、自船位置(緯度、経度)、移動方向、移動速度などを数秒から数分の時間間隔で把握することができる。このため、夜間や悪天候時、島が多い海域などであっても、安全に航海を行うことができる。
【0048】
図1に示す船舶監視システム101におけるAIS受信装置2は、図3に示すAIS船舶側搭載装置201における受信用の部分のみを備えている。すなわち、AIS受信装置2は、VHFアンテナA1と、GPSアンテナA2及びA3と、AIS受信部21と、AIS制御部22と、第1GPS受信部23と、第2GPS受信部24を有している。
【0049】
ここに、VHFアンテナA1は、図3におけるVHFアンテナA11と同様な構成と作用を有している。また、GPSアンテナA2は、図3におけるGPSアンテナA12と同様な構成と作用を有している。また、GPSアンテナA3は、図3におけるGPSアンテナA13と同様な構成と作用を有している。また、AIS受信部21は、図3におけるAIS受信部51と同様な構成と作用を有している。また、第1GPS受信部23は、図3における第1GPS受信部53と同様な構成と作用を有している。また、第2GPS受信部24は、図3における第2GPS受信部64と同様な構成と作用を有している。また、AIS制御部22は、図3におけるAIS制御部52とほぼ同様な構成と作用を有している。なお、図3のAIS船舶側搭載装置201においては、操作部61からの信号の受け入れ、及び表示部62への画像信号の出力もAIS制御部52が行っていたが、図1の船舶監視システム101においては、操作部11からの信号の受け入れ、及び表示部12への画像信号の出力は、別のコンピュータであるコントローラ1が行う点が異なっている。
【0050】
したがって、船舶監視システム101のAIS受信装置2においては、第1GPS受信部23は、GPSアンテナA2がとらえたGPS人工衛星からの電波から、世界標準時の現在時刻を検出する。第1GPS受信部23により検出された世界標準時の現在時刻の情報は、AIS制御部22に送られる。AIS制御部22は、この世界標準時の現在時刻の情報を、上記のTDMAの時刻基準信号に用いるとともに、上記したAIS情報の動的情報の世界標準時の時刻として用いる。
【0051】
また、第2GPS受信部24は、GPSアンテナA3がとらえたGPS人工衛星からの電波から、地球三次元位置座標に関するデータを検出する。第2GPS受信部24により検出された地球三次元位置座標に関するデータの情報は、AIS制御部22に送られる。AIS制御部22は、この地球三次元位置座標に関するデータの情報により、この船舶監視システム101のAIS受信装置2が設置されている陸上局の自局位置(緯度、経度)の情報を生成し、コントローラ1に送る。
【0052】
また、AIS受信部21は、TDMA方式の受信部を2系統(2チャンネル分)と、DSC方式の受信部を1系統(1チャンネル分)有している。このAIS受信部21は、VHFアンテナA1がとらえた船舶からのVHF電波から、AIS情報を検出し、その船舶のIMO番号、その船舶の現在位置(緯度、経度)、その船舶の現在の移動方向、その船舶の現在の移動速度を検出する。AIS受信部21により検出されたAIS情報は、AIS制御部22に送られる。AIS制御部22は、このAIS情報をコントローラ1に送る。ここに、AIS受信装置2は、特許請求の範囲におけるAIS受信手段に相当している。
【0053】
図1に示す船舶監視システム101には、船舶マスト高さデータベース装置3が設けられている。図1に示すように、船舶マスト高さデータベース装置3は、マストデータ格納部31と、データ検索部32を有している。マストデータ格納部31は、ハードディスク装置などにより構成されており、データを格納することができる。このマストデータ格納部31には、IMO番号のデータ集合と、IMO番号により特定される船舶のマスト高さの値のデータ集合とが対応づけて格納されている。例えば、
「IMO番号:N1」→「マスト高さ:H=41.2メートル」
「IMO番号:N2」→「マスト高さ:H=35.5メートル」

「IMO番号:NX」→「マスト高さ:H=54.6メートル」
のようにである。
【0054】
これらのデータは、国際海事機関(IMO)の船舶関係資料、あるいは公開されている他の国際船舶関係のデータ等を入手し、マストデータ格納部31にデータ入力することにより作成することができる。
【0055】
上記したマスト高さHは、以下のようにして算出され、入力されてマストデータ格納部31に格納される。すなわち、図5に示すH0の値から、図5に示すdの値を減じた値である。H0の値としては、船舶の底面の最低高さ位置308と、マスト頂点306との間の高さとして、国際海事機関(IMO)の船舶関係資料、あるいは公開されている他の国際船舶関係のデータ等から入手可能である。また、dの値は、船舶の底面の最低高さ位置308と、喫水線307(海面が船腹に接する線)との間の高さ(以下、「喫水高さ」という。)である。喫水高さdとしては、旅客や積載物を最大に積載した状態(以下、「満載時」という。)の喫水高さdmaxが、国際海事機関(IMO)の船舶関係資料、あるいは公開されている他の国際船舶関係のデータ等から入手可能である。第1実施例の船舶監視システム101のマストデータ格納部31には、マスト高さHとして、図5に示すH0の値から、満載時の喫水高さdmaxの値を減算した値(H0−dmax)が格納されている。
【0056】
また、データ検索部32は、その内部構成は図示はしていないが、入出力インタフェイスと、CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)と、ROM(Read Only Memory:読出し専用メモリ)と、RAM(Random Access Memory:随時書込み読出しメモリ)等を有している。このような構成により、データ検索部32は、全体としてコンピュータ(電子計算機)を構成している。
【0057】
データ検索部32の上記の構成要素のうち、入出力インタフェイスは、CPU外部からCPUへ送られる信号等が入力される部分であり、かつ、CPUからの信号を外部へ出力するための部分である。また、CPUは、各種演算やプログラム実行等の処理を行い、各部に制御信号を送って制御する部分である。また、ROMは、CPUを制御するための制御プログラムや、CPUが用いる各種データ等を格納している部分である。ROMとしては、半導体メモリなどが用いられる。RAMは、CPUにより演算された途中のデータ等を一時記憶する部分である。RAMとしては、半導体メモリなどが用いられる。
【0058】
データ検索部32のCPU(図示せず)は、コントローラ1のCPU(図示せず)から、検索用入力としてIMO番号が入力された場合には、マストデータ格納部31のデータの中から、そのIMO番号に対応するマスト高さを検索し、コントローラ1のCPU(図示せず)に出力する。ここに、船舶マスト高さデータベース装置3は、特許請求の範囲における船舶マスト高さデータベース手段に相当している。
【0059】
また、図1に示す船舶監視システム101には、海面高さ出力装置4が設けられている。海面高さ出力装置4は、その内部構成は図示はしていないが、入出力インタフェイスと、CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)と、ROM(Read Only Memory:読出し専用メモリ)と、RAM(Random Access Memory:随時書込み読出しメモリ)等を有している。このような構成により、海面高さ出力装置4は、全体としてコンピュータ(電子計算機)を構成している。
【0060】
海面高さ出力装置4の上記の構成要素のうち、入出力インタフェイスは、CPU外部からCPUへ送られる信号等が入力される部分であり、かつ、CPUからの信号を外部へ出力するための部分である。また、CPUは、各種演算やプログラム実行等の処理を行い、各部に制御信号を送って制御する部分である。また、ROMは、CPUを制御するための制御プログラムや、CPUが用いる各種データ等を格納している部分である。ROMとしては、半導体メモリなどが用いられる。RAMは、CPUにより演算された途中のデータ等を一時記憶する部分である。RAMとしては、半導体メモリなどが用いられる。
【0061】
海面高さ出力装置4のCPU(図示せず)は、太陽と月の引力、風、及び気圧に基づき、船舶監視システム101の監視している空港の航空機進出入路付近の海面高さの値を計算し、コントローラ1のCPU(図示せず)に所定時間間隔ごとに出力する。ここに、海面高さ出力装置4は、特許請求の範囲における海面高さ出力手段に相当している。
【0062】
次に、図1、図2及び図5を参照しつつ、この船舶監視システム101の作用を説明する。図2は、空港の滑走路端部付近を上空から見た平面図である。図2において、符号302は滑走路を、P1は滑走路端部の海岸位置を、400は海域を、401〜403は付近を航行中の船舶を、313Rは航空機進出入路の右側の限界面を、313Lは航空機進出入路の左側の限界面を、301は進入中の航空機を、それぞれ示している。
【0063】
この船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、AIS受信装置2から送られてくるAIS情報により、この船舶監視システム101の装置が設置されている箇所(空港付近の陸上部)の近傍の海域400を航行する船舶401〜403について、そのIMO番号、その船舶の現在位置(緯度、経度)、その船舶の現在の移動方向、その船舶の現在の移動速度V1〜V3を数秒から数分の時間間隔で検出する。これらの値は、上記したAIS情報の動的情報のうち、自船位置(緯度、経度)、世界標準時の時刻、対地針路、対地速度(移動速度)、船首方位、回頭率を用いて算出される。これにより、船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、各船舶401〜403の将来の位置、例えば5分後、10分後などの位置を予測計算により算出することができる。例えば、図2において、船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、船舶401が30分後に401aの位置、すなわち、航空機進出入路の直下に到達することを検出する。
【0064】
次に、船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、すでにAIS受信装置2から受信したAIS情報の内容が送られてきており、コントローラ1のRAM(図示せず)などに一時記憶させておいた船舶401のIMO番号(例えばN401とする。)を読み出す。次に、船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、船舶マスト高さデータベース装置3のマストデータ格納部31のCPU(図示せず)にIMO番号N401を入力し、このIMO番号に対応するマスト高さをマストデータ格納部31のデータの中から検索させる。これにより、船舶マスト高さデータベース装置3のマストデータ格納部31のCPU(図示せず)は、マストデータ格納部31のデータの中から検索を行い、IMO番号N401に対応するマスト高さ(例えば、H=54.5メートルとする)を検索し、コントローラ1のCPU(図示せず)に出力する。
【0065】
この際、船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、船舶マスト高さデータベース装置3から送られてきたマスト高さHのデータ(以下、「補正前マスト高さ」という。)に、所定の補正演算処理を施したのちに、マスト高さ(以下、「補正後マスト高さ」という。)として採用する。この補正演算では、船舶マスト高さデータベース装置3から送られてきた補正前マスト高さの値に、割り増し係数1.01〜2.00の範囲の適宜の値が乗算され、データベース装置3からの補正前マスト高さの1〜100%増しの値とされ、この値が補正後マスト高さとして採用される。例えば、ある空港付近海域では、補正前マスト高さの値に乗算される割り増し係数として1.20が用いられ、船舶マスト高さデータベース装置3から送られてきた補正前マスト高さが20%増しとされて補正後マスト高さとして採用され、また他のある空港付近海域では、補正前マスト高さの値に乗算される割り増し係数として1.40が用いられ、船舶マスト高さデータベース装置3から送られてきた補正前マスト高さが40%増しとされて補正後マスト高さとして採用される、というように運用される。
【0066】
この割り増しの理由を、図5を参照しつつ説明する。上記したように、マストデータ格納部31に格納されている補正前マスト高さのデータは、図5に示すH0の値から、満載時の喫水高さdmaxの値を減じた値(H0−dmax)である。しかし、通常、船舶は、満載状態ではない場合も多い。船舶が満載状態ではない場合には、図5におけるdの値は、満載時喫水高さdmaxの値よりも小さい。一方、図5に示すH0の値は、船舶の積載状態等にかかわらず一定の値である。したがって、満載状態ではない場合には、実際のマスト高さHは、船舶マスト高さデータベース装置3に格納されている補正前マスト高さの値よりも高くなっている。このため、船舶マスト高さデータベース装置3に格納されている補正前マスト高さの値をそのまま用いるのでは、船舶監視システム101の本来の目的からは十分ではなく、割り増しを行うことが必要である。割り増し係数の値の範囲1.01〜2.00は、船舶の諸元、船舶の運航の現状などから、この程度の値が適切である、考えられる。
【0067】
なお、上記したように、上記したAIS情報の静的情報には、喫水の情報が含まれることになっている。しかし、喫水の値は、動的情報の自船位置(緯度、経度)、世界標準時の時刻、対地針路、対地速度(移動速度)、船首方位、回頭率等のように、GPS人工衛星からのデータを用いて、各船舶のAIS船舶側搭載装置201がほぼ自動的に算出して送信してくる情報ではなく、AIS情報を送信する各船舶が独自に入力する必要がある値であり、毎回送信されるか、その値が正確か、等については不確実性が高い、と考えられる。このため、本発明においては、AIS情報の静的情報のうちの喫水の情報は利用しないこととしている。
【0068】
次に、船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、すでに海面高さ出力装置4から計算結果が送られてきており、コントローラ1のRAM(図示せず)などに一時記憶させておいた海域400の海面S(図5参照)の高さの値を読み出す。その結果、現在の海面がS1(図5参照)の位置で、Sの場合よりΔhだけ高ければ、図5において補正後マスト高さがHであっても、現時点では、マスト頂点306はさらにΔhだけ上昇していることになり、マスト頂点306はさらに航空機進出入路下方限界面303に接近していることになり、より危険な状態となっている。
【0069】
また、航空機進出入路下方限界面303は、滑走路302の端部の海岸位置P1から航空機進出入路の外方へ上昇する仮想の斜面であり、その斜面の勾配率は、例えば、2.85%の値が用いられる。この勾配2.85%は、国際連合の機関である国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)の安全基準に定められた値である。海岸位置P1は陸上の点であり、海面とは異なり不動の位置であるから、航空機進出入路下方限界面303の各位置の三次元座標についても不動であり、P1の位置がわかれば計算により算出できる。この航空機進出入路下方限界面303の各位置の三次元座標は、あらかじめ計算され、船舶監視システム101のコントローラ1のRAM(図示せず)又はROM(図示せず)に記憶されている。
【0070】
次に、船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、図2の401aの将来位置におけるこの船舶のマスト頂点306(図5参照)の高さ方向の位置を、上記した補正後マスト高さHと、海面高さ出力装置4からの現在の海面Sの高さから計算によって求める。
【0071】
そして、船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、図2の401aの将来位置におけるこの船舶のマスト305の直上の航空機進出入路下方限界面303の高さをRAMから読み出し、両者を比較する。
【0072】
この結果、マスト頂点306が航空機進出入路下方限界面303よりも上方となるのであれば、将来位置401aでは、マスト頂点306が航空機進出入路下方限界面303を突き抜けて上方へ突出することになる。このような場合には、コントローラ1のCPU(図示せず)は、表示部12に画像信号を送り、その危険性を画面に表示させ、この船舶監視システム101の運用者に報知する。船舶監視システム101の運用者は、他の通信回線等により、危険性を船舶側に連絡し、この船舶401の針路を変更させる命令を発したり、及び関係する航空機301の離着陸を許可しない、等の措置をとる。
【0073】
また、上記の比較の結果、マスト頂点306が航空機進出入路下方限界面303よりも下方ではあるが接近するような場合には、コントローラ1のCPU(図示せず)は、表示部12に画像信号を送り、マスト頂点306が航空機進出入路下方限界面303に接近しつつある旨を画面に表示させ、この船舶監視システム101の運用者に報知するようにしてもよい。船舶監視システム101の運用者は、他の通信回線等により、マスト頂点306が航空機進出入路下方限界面303に接近していることを当該船舶の側、関連する航空機の側等に連絡する。
【0074】
上記において、船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、特許請求の範囲における判別手段に相当している。
【0075】
なお、本発明は、上記した実施例に限定されるものではない。上記した実施例は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0076】
海面高さ出力手段は、計算によって海面高さの値を出力するものには限定されず、他の構成、例えば、航空機進出入路付近の海域に海面高さを測定する装置、例えば、潮位計、検潮儀などを設置して、海面高さの値を計測し、この値を判別手段(船舶監視システム101のコントローラ1の図示しないCPU)に出力するようにしてもよい。この場合には、潮位計、検潮儀などは、特許請求の範囲における海面高計測手段に相当する。
【0077】
また、上記した実施例とは異なり、GPSアンテナA3と第2GPS受信部24を設けない構成のAIS受信装置を有する船舶監視システムとしてもよい。この場合には、GPSアンテナA2がとらえたGPS人工衛星からの電波から、第1GPS受信部23が、地球三次元位置座標に関するデータを検出し、この地球三次元位置座標に関するデータの情報により、この船舶監視システムのAIS受信装置が設置されている陸上局の自局位置(緯度、経度)の情報を生成し、コントローラ1に送る。また、船舶監視システムのAIS受信装置が設置されている陸上局の自局位置(緯度、経度)の情報は、AIS受信装置の設置時に、他のGPS受信機等により検出し、自局位置(緯度、経度)データとして、コントローラ1内のROM等に記憶させておき、このデータを適宜使用するようにしてもよい。
【0078】
なお、上記実施例とは異なり、図1におけるコントローラ1と、船舶マスト高さデータベース装置3と、海面高さ出力装置4と、操作部11と、表示部12は、一つのコンピュータ、例えばパーソナル・コンピュータ、あるいはワーク・ステーション等として構成してもよい。その場合には、コントローラ1のCPUが、上記実施例における船舶マスト高さデータベース装置3内のデータ検索部32のCPUの機能を果たす。また、コントローラ1のCPUは、上記実施例における海面高さ出力装置4のCPUの機能も果たすことになる。また、その場合には、上記実施例における船舶マスト高さデータベース装置3内のマストデータ格納部31は、コントローラ1の中の記憶装置(例えばハードディスク装置)となる。
【0079】
また、上記実施例とは異なり、船舶監視システム101には、外部市出力端子13を備え、コントローラ1からの出力を外部装置、例えば船舶への通信回線、空港の航空管制装置、船舶への管制装置などに出力できるように構成してもよい。
【0080】
また、上記実施例とは異なり、マストデータ格納部31には、補正前マスト高さの値に割り増し係数1.01〜2.00の範囲の適宜の値が乗算されて割増された補正後マスト高さを記憶・格納するようにしてもよい。この場合には、図2の401aの将来位置におけるこの船舶のマスト頂点306(図5参照)の高さ方向の位置は、マストデータ格納部31から検索された補正後マスト高さHと、海面高さ出力装置4からの現在の海面Sの高さから計算によって求められる。そして、船舶監視システム101のコントローラ1のCPU(図示せず)は、図2の401aの将来位置におけるこの船舶のマスト305の直上の航空機進出入路下方限界面303の高さをRAMから読み出し、両者を比較する。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、船舶監視装置や船舶管制装置を製造する電子機器、通信機器等の製造業において製造することができ、これらの産業で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1実施例である船舶監視システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施例である船舶監視システムの作用を説明する図である。
【図3】船舶自動識別システムAISに用いられるAIS船舶側搭載装置の構成を示すブロック図である。
【図4】船舶自動識別システムAISの船舶側搭載装置における通信方式TDMAを説明する図である。
【図5】海に面した空港での問題点を説明する図である。
【符号の説明】
【0083】
1 コントローラ
2 AIS受信装置
3 船舶マスト高さデータベース装置
4 海面高さ出力装置
11 操作部
12 表示部
13 外部出力端子
21 AIS受信部
22 AIS制御部
23 第1GPS受信部
24 第2GPS受信部
31 マストデータ格納部
32 データ検索部
50 アンテナ切換部
51 AIS受信部
52 AIS制御部
53 第1GPS受信部
55 AIS送信部
56 AISトランスポンダ
61 操作部
62 表示部
63 ジャイロコンパス
64 第2GPS受信部
101 船舶監視システム
201 AIS船舶側搭載装置
301 航空機
302 滑走路
303 航空機進出入路下方限界面
304 船舶
305 マスト
306 マスト頂点
307 喫水線
308 船舶最低位置
313L、313R 航空機進出入路側方限界面
400 海域
401 船舶
401a 移動後の船舶予測位置
402、403 船舶
501〜503 船舶
511A〜513B スロット
A1 VHFアンテナ
A2、A3 GPSアンテナ
A11 VHFアンテナ
A12、A13 GPSアンテナ
H マスト高さ
Δh 海面高さ変位量
P1 滑走路端部の海岸位置
S 海面
S1 上昇した海面
T AISトランスポンダ
V1〜V3 船舶移動速度
W1〜W3 電波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機進出入路の下方が海域である空港の近傍の陸上部に設置される船舶監視システムであって、
国際海事機関IMOにより制定された船舶自動識別システムAISの国際規格に適合する仕様を有し船舶に搭載されたAIS船舶側搭載装置からVHF帯の電波によりTDMA(時分割多元接続)方式又はDSC(デジタル選択呼出)方式により送信される情報であって、送信側船舶を特定する番号であるIMO番号と、送信側船舶の現在位置と、送信側船舶の現在の移動方向と、送信側船舶の現在の移動速度を含むAIS情報を受信するAIS受信手段と、
電子計算機からなり、前記IMO番号のデータ集合と、前記IMO番号により特定される船舶のマスト高さの値のデータ集合とを対応づけて格納するマストデータ格納部と、検索用入力として前記IMO番号を入力した場合に前記マストデータ格納部から対応するマスト高さを検索して出力するデータ検索部を有する船舶マスト高さデータベース手段と、
空港の航空機進出入路付近の海面の高さの値を計算又は計測に基づいて出力する海面高さ出力手段と、
電子計算機からなる判別手段を備え、
前記判別手段は、空港の航空機進出入路付近の海域に存在する船舶からの電波から受信した前記AIS情報に含まれる前記IMO番号を前記検索用入力として前記船舶マスト高さデータベース手段に入力し、前記船舶マスト高さデータベース手段が検索して出力したマスト高さと、前記航空機進出入路付近の海面高さから、当該船舶のマストの頂点の位置を演算し、当該船舶の現在の位置と移動方向と移動速度から当該船舶の将来の位置を予測演算し、前記空港の滑走路の端部の海岸位置から前記航空機進出入路の外方へ上昇する仮想の斜面である航空機進出入路下方限界面にいずれかの船舶のマストの頂点が接近するか否かを判別すること
を特徴とする航空機進出入路付近の船舶監視システム。
【請求項2】
請求項1記載の航空機進出入路付近の船舶監視システムにおいて、
前記海面高さ出力手段は、電子計算機からなり、太陽と月の引力、風、及び気圧に基づき、前記航空機進出入路付近の海面高さの値を計算すること
を特徴とする航空機進出入路付近の船舶監視システム。
【請求項3】
請求項1記載の航空機進出入路付近の船舶監視システムにおいて、
前記海面高さ出力手段は、前記航空機進出入路付近の海域に設置され海面高さの値を計測する海面高計測手段を有すること
を特徴とする航空機進出入路付近の船舶監視システム。
【請求項4】
請求項1記載の航空機進出入路付近の船舶監視システムにおいて、
前記マストデータ格納部には、前記船舶のマスト高さとして、船舶の底面の最低高さ位置とマスト頂点との間の高さH0から、旅客又は積載物を最大に積載した状態である満載時における前記船舶の底面の最低高さ位置と、前記満載時における海面が船腹に接する線である喫水線との間の高さである満載時喫水高さdmaxを減算した値(H0−dmax)の値が格納され、
前記判別手段は、前記航空機進出入路下方限界面にいずれかの船舶のマストの頂点が接近するか否かの判別時には、前記船舶マスト高さデータベース手段が検索して出力したマスト高さの値である補正前マスト高さに、1.01〜2.00の範囲の適宜の値である割り増し係数を乗算して得た補正後マスト高さと、前記航空機進出入路付近の海面高さから、当該船舶のマストの頂点の位置を演算すること
を特徴とする航空機進出入路付近の船舶監視システム。
【請求項5】
請求項1記載の航空機進出入路付近の船舶監視システムにおいて、
前記マストデータ格納部には、前記船舶のマスト高さとして、船舶の底面の最低高さ位置とマスト頂点との間の高さH0から、旅客又は積載物を最大に積載した状態である満載時における前記船舶の底面の最低高さ位置と、前記満載時における海面が船腹に接する線である喫水線との間の高さである満載時喫水高さdmaxを減算した値(H0−dmax)である補正前マスト高さの値に、1.01〜2.00の範囲の適宜の値である割り増し係数を乗算して得た補正後マスト高さが格納されること
を特徴とする航空機進出入路付近の船舶監視システム。
【請求項6】
航空機進出入路の下方が海域である空港の近傍の陸上部に設置される船舶監視方法であって、
国際海事機関IMOにより制定された船舶自動識別システムAISの国際規格に適合する仕様を有し船舶に搭載されたAIS船舶側搭載装置からVHF帯の電波によりTDMA(時分割多元接続)方式又はDSC(デジタル選択呼出)方式により送信される情報であって、送信側船舶を特定する番号であるIMO番号と、送信側船舶の現在位置と、送信側船舶の現在の移動方向と、送信側船舶の現在の移動速度を含むAIS情報を受信するAIS受信手段と、
電子計算機からなり、前記IMO番号のデータ集合と、前記IMO番号により特定される船舶のマスト高さの値のデータ集合とを対応づけて格納するマストデータ格納部と、検索用入力として前記IMO番号を入力した場合に前記マストデータ格納部から対応するマスト高さを検索して出力するデータ検索部を有する船舶マスト高さデータベース手段と、
空港の航空機進出入路付近の海面の高さの値を計算又は計測に基づいて出力する海面高さ出力手段と、
電子計算機からなる判別手段を用い、
前記判別手段は、空港の航空機進出入路付近の海域に存在する船舶からの電波から受信した前記AIS情報に含まれる前記IMO番号を前記検索用入力として前記船舶マスト高さデータベース手段に入力し、前記船舶マスト高さデータベース手段が検索して出力したマスト高さと、前記航空機進出入路付近の海面高さから、当該船舶のマストの頂点の位置を演算し、当該船舶の現在の位置と移動方向と移動速度から当該船舶の将来の位置を予測演算し、前記空港の滑走路の端部の海岸位置から前記航空機進出入路の外方へ上昇する仮想の斜面である航空機進出入路下方限界面にいずれかの船舶のマストの頂点が接近するか否かを判別すること
を特徴とする航空機進出入路付近の船舶監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−163965(P2006−163965A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356207(P2004−356207)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【特許番号】特許第3689744号(P3689744)
【特許公報発行日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(501198039)国土交通省国土技術政策総合研究所長 (23)
【Fターム(参考)】