説明

舵角センサ

【課題】 より高精度の舵角センサを提供する。
【解決手段】 ステアリングシャフト103に取り付け、当該ステアリングシャフトの絶対角度を測定するための舵角センサ1であって、当該ステアリングシャフトと連動して可逆回転する主動ギア7と、主動ギアと連動して回転する微信号用ギア19の回転角度を検出する第1検出手段と、主動ギアと連動して回転する粗信号用ギア45gの回転角度を検出する第2検出手段と、を備え、当該第1検出手段は、検出した当該微信号用ギアの回転角度を示す微信号を出力するホール素子及び磁石を含めて構成してあり、当該第2検出手段は、検出した当該粗信号用ギアの回転角度を示す粗信号を出力するポテンショメータを含めて構成してある。そのため、なるべく少ない部品点数で、隣接する検出手段相互の磁束の影響を受けない、より高精度の舵角センサを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車などの車両に搭載される主動ギア(ステアリングシャフト)の回転角度を検出する舵角センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで知られている舵角センサ(以下、適宜「従来センサ」という)には、たとえば、特許文献1に記載されたものがある。従来の舵角センサは、ホール素子と磁石と、を含めて構成されている。従来センサでは、ステアリングシャフトの回転角度を高精度に検出することが求められており、その達成手段として、磁石の周りにリング状の強磁性体が設けられている。検出手段が複数の磁気検出手段より構成されているので、磁石相互の磁気的な干渉がある。この干渉によって、回転角度の検出値の精度が落ちるといった問題があったが、従来センサでは、リング状の強磁性体が磁石の周りに設けられることにより、磁石相互の磁場を乱すことなく磁気検出が図られている。
【特許文献1】特開2004−271427(段落0017 図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、強磁性体を設けられた従来センサではその分だけ、確実に部品点数が増えることになる。そこで、本発明が解決しようとする課題は、なるべく少ない部品点数で、隣接する検出手段相互の磁束の影響を受けない、より高精度の舵角センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記した課題を解決するために開発を進めた発明者は、精度が要求される微信号は磁気検出により出力させ、粗信号は全回転領域内にて単調に増加又は減少した信号が得られるポテンショメータにより出力させ、さらに、両者のデータを組み合わせることによって、磁石の磁気の影響を受けない、より精度の高い舵角センサを提供できるとの考えに至った。本発明は、上記観点からなされたものである。その構成の詳しい内容は、次項以下で説明する。なお、何れかの請求項に係る発明の説明において行う用語の定義等は、その性質上可能な範囲で他の請求項に係る発明にも適用されるものとする。
【0005】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る舵角センサ(以下、適宜「請求項1の舵角センサ」という)は、ステアリングシャフトに取り付け、当該ステアリングシャフトの絶対角度を測定するための舵角センサである。具体的には、当該ステアリングシャフトと連動して可逆回転する主動ギアと、当該主動ギアと連動して回転する微信号用ギアの回転角度を検出する第1検出手段と、当該主動ギアと連動して回転する粗信号用ギアの回転角度を検出する第2検出手段と、を備えている。当該第1検出手段は、検出した当該微信号用ギアの回転角度を示す微信号を出力する、ホール素子及び磁石を含めて構成してあり、当該第2検出手段は、検出した当該粗信号用ギアの回転角度を示す粗信号を出力するポテンショメータを含めて構成してある、ことを特徴とする。
【0006】
請求項1の舵角センサによれば、第1検出手段は、微信号を出力するホール素子と磁石を含む磁気検知式であるが、第2検出手段は、粗信号を出力するポテンショメータを含むが磁石を含まない。第2検出手段は磁石を使用していないから、第1検出手段が発生する磁場により乱されることはない。つまり、第1検出手段が発生する磁束の影響を第2検出手段は受けず、さらに、磁束が発生しない第2検出手段からの影響を第1検出手段は受けず、回転角度の検出精度が落ちない。したがって、なるべく少ない部品点数で、隣接する検出手段相互の磁束の影響を受けない、より精度の高い舵角センサを提供できる。なお、第1検出手段と第2検出手段は相互干渉しないから、磁気を遮る部材も不要である。
【0007】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係る舵角センサ(以下、適宜「請求項2の舵角センサ」という)には、請求項1の舵角センサの基本構成を備えさせた上で、前記微信号用ギアは、前記主動ギアに対して増速回転するとともに、前記粗信号用ギアは、前記主動ギアに対して減速回転することにより、前記第1検出手段と前記第2検出手段の2つから、絶対角度を演算する演算機構を、さらに含めて構成してあることを特徴とする。
【0008】
請求項2の舵角センサによれば、請求項1の舵角センサの作用効果に加え、所定角度で繰り返し出力される正確な微信号と、全操舵角領域において単調増加又は減少するポテンショメータによる粗信号出力が得られ、微信号と粗信号の組合せにより、容易に絶対角度を演算できる。したがって、精度の高い舵角センサを提供できる。
【0009】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係る舵角センサ(以下、適宜「請求項3の舵角センサ」という)には、請求項2の舵角センサの基本構成を備えさせた上で、前記演算機構は、微信号用ギアの回転角度をθb、粗信号用ギアの回転角度をθc、前記主動ギアと前記微信号用ギアのギア比をmとし、[θc-{θb/m±(360/m)×n}]の絶対値を最小とするような整数をnとした場合に、絶対角度θaが、θa=θb/m±(360/m)×nで与えられることを特徴とする。
【0010】
請求項3の舵角センサによれば、請求項2の舵角センサの作用効果に加え、演算機構が当該演算手段を採用することにより、容易にかつ精度良く絶対角度を演算できるという作用を有する。
【0011】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係る舵角センサ(以下、適宜「請求項4の舵角センサ」という)には、請求項3の舵角センサの基本構成に加え、前記演算機構は、前記微信号及び前記粗信号のうち、少なくとも前記微信号から複数回、前記絶対角度θaの超過測定を行い当該超過測定データを出力するオーバーサンプリング部と、当該オーバーサンプリング部が当該超過測定を行い当該超過測定データ−を出力する時に前記θaの異常データを検出・排除する異常データ検出・排除部と、当該超過測定データの中から任意にデータを選択し、または、当該任意に選択したデータから更に平均値を算出し、前記排除した異常データの代わりに当該任意に選択したデータ、または、当該平均値、を補間する補間処理部とを含めて構成してあることを特徴とする。
【0012】
請求項4の舵角センサによれば、請求項3の舵角センサの作用効果に加え、最初に検出された絶対角度θaに対して、オーバーサンプリングを行い、異常データの排除を行っているから、最終的な出力データの信頼性が格段に向上する。したがって、信頼性向上の分精度の高い舵角センサを提供できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る舵角センサによれば、なるべく少ない部品点数で、隣接する検出手段相互の磁束の影響を受けない、より高精度の舵角センサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
各図を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施形態」という)について図面を用いて述べる。図1は、本実施形態における舵角センサの取付位置の概略を示すための斜視図である。図2は、本実施形態における舵角センサの平面図である。図3は、図2に示す舵角センサの支持基板を取り外した状態の平面図である。図4は、本実施形態における舵角センサの分解斜視図である。図5は、図2に示す舵角センサのA−A断面図である。なお、図5に示す回転リング及び固定リングは断面とせずに側面を示してある。図6は、本実施形態における舵角センサの電気的構成を示すブロック図である。図7は、本実施形態における微信号を示すグラフである。図8は、本実施形態における粗信号を示すグラフである。図9は、本実施形態における演算機構及びその周辺を示すブロック図である。図10は、図9の一対のオーバーサンプリング部を説明するための図である。図11は、図9の一対の異常データ検出部及び一対の異常データ排除部を説明するための図である。なお、図6に示す符号105は、使用時において舵角センサに装着するステアリングシャフトを示す。
【0015】
図1を参照しながら、舵角センサの設置位置の一例を説明する。舵角センサ1は、車両のハンドル101に付属するステアリングコラム103の中に内蔵されるのが一般的である。ハンドル101には、ハンドル101と一体回転するステアリングシャフト105(図4参照)が固定してある。舵角センサ1は、ステアリングシャフト105のステアリングシャフト回転角度を検出するためのセンサであり、それ自体は回転しないが後述する回転リング7がステアリングシャフト105と一体回転するように構成してある。
【0016】
(舵角センサの概略構造)
図2乃至5を参照しながら、舵角センサの概略構造を説明する。舵角センサ1は、合成樹脂製のケーシング3を備え、ケーシング3が舵角センサ1の主要外観を構成する。ケーシング3は、底部3aと底部3aの周縁から起立する周壁部3bとから概ね構成してある。ケーシング3は、たとえば、内蔵させるギアの大きさや数等の内部構造の違いや舵角センサ1を取り付ける取付環境等の外部構造の違い等に合わせて様々な形状に形成可能であり、ステアリングシャフト105を貫通させるためのシャフト孔4を厚み方向に備えている。シャフト孔4は円形であって、その周縁には、底部3aから周壁部3bと平行に起立する環状の内側リブ3cと、内側リブ3cの外側で起立する同じく環状の外側リブ3dと、を形成してある。外側リブ3dは、その一部を切り欠いた形状に形成してあり、切り欠きによって開放した外側リブ3dの一端と周壁部3bとを連結リブ3eにより、開放した外側リブ3dの他端と周壁部3bとを連結リブ3fによりそれぞれ連結してある。さらに、連結リブ3eと連結リブ3fとの間にも、外側リブ3dと周壁部3bとを連結する連結リブ3g,3hを形成してある。連結リブ3e,3f,3g,3hは、何れも外側リブ3dと同じ高さに形成してある。連結リブ3e,3f,3g,3hは、外側リブ3d等と相俟って、ケーシング3の補強とともに、その上に載置する支持基板5を下方から支持する役目、ケーシング3の底部3aと支持基板5との間に後述する従動ギア12等を収納可能な空間(連結リブ3eと連結リブ3f及び周壁部3bによって囲まれた空間)を形成する役目等を担っている。なお、符号3j,3kは、舵角センサ1を所定箇所に取付可能とするためにケーシング3から側方(周壁部3bに対して垂直方向)に突き出させた取付突片を示している。符号3pは、支持基板5に搭載された電子部品(図示を省略)等と外部との電気的接続を行うために接続ピン(図示を省略)を収納するためにケーシング3と一体成形して形成した収納体を示している。
【0017】
支持基板5は、ケーシング3の内部を有効活用するために内部をほぼ占有する形状(大きさ)に形成してある。このため、支持基板5は、ケーシング3より僅かに小さなほぼ相似形に形成してある。支持基板5には、ケーシング3に納めたときにシャフト孔4と同心となる円形の支持孔5hを貫通形成してある。支持孔5hは、シャフト孔4よりも大径に、かつ、その周縁がケーシング3の外側リブ3d及び連結リブ3e,3fの上に、下方から支持させるために載置可能に形成してある。支持基板5を外側リブ3d等の上に載置すると、支持基板5の支持孔5hの周縁とケーシング3の内側リブ3cとの間(内側リブ3cと外側リブ3dとの間)に、平面視したときに見える環状空間10が存在している(図3参照)。図4及び5に示すように支持基板5は、ケーシング3の底部3aに対向する対向面5a(図5の向かって右側となる面)と、対向面5aとは反対側の面となる取付面5bと、を備えている。支持基板5には、取付面5bが含む支持孔5h周辺の領域を除き、図6に示す部品を含む各種電子部品を適宜搭載してある。
【0018】
図2乃至5に基づいて、回転リング7について説明する。回転リング7は、合成樹脂を一体成形によって形成した中空部7hを有する環状の部材であって、環状フランジ部7aと、環状フランジ部7aの一方の面から起立する環状壁部7bと、から概ね構成してある。環状壁部7bは、環状フランジ部7aと同心状に形成してあり、環状フランジ部7aから起立させてあることから環状フランジ部7aの外径よりも小さな外径になっている。回転リング7は、中空部7h側に突出する段部7cが形成してある(図4参照)。段部7cは、次に述べる固定リング9を嵌め込んだときの抜け止めを、その主な役目とする。固定リング9は、ステアリングシャフト105と回転リング7とを可逆に連動回転させるための固定部材であって、両者間に介在可能、かつ、両者に対して着脱自在に構成してある。環状壁部7bの環状フランジ部7aから見た先端部外周面には、回転リング7を主動ギアとして機能させるためのギア部7gを形成してある。環状壁部7bおよびギア部7gは支持基板5の支持孔5h周縁とケーシング3の内側リブ3cとの間にある環状空間10に差込可能に構成してある。すなわち、回転リング7(主動ギア7)がステアリングシャフト105の操作に合わせて、可逆回転可能にケーシング3のほぼ中央に設置されている。なお、環状空間10に差し込んだ環状壁部7b及びギア部7gが、支持孔5h周縁(外側リブ3d)と内側リブ3cに対して、同じく円周方向に回転可能であることは言うまでもない。
【0019】
(従動ギア・第1検出手段の構造)
図2乃至6を参照しながら、従動ギアと第1検出手段について説明する。従動ギア12は、ケーシング3の底部3aから起立させた支持ピン12p(図3参照)を軸として回転可能、かつ、ギア部7gと噛み合い可能に設けてある。なお、主動ギア7と従動ギア12との増速比は、概ね1:3前後に設定してある。
【0020】
第1検出手段15は、測定用小径ギア17と、測定用小径ギア17と噛み合って従動回転する微信号用ギア19と、微信号用ギア19と同軸で一体回転する円盤磁石21(図3、6参照)と、円盤磁石21の磁界を検知するためのホール素子33、35を含む検知回路31と、により概ね構成してある。後述する第2検出手段では、磁石を備えていないから、ヨークは設けていない。ホール素子33およびホール素子35は、回転する円盤磁石21が発する磁界を検知するために、円盤磁石21(微信号用ギア19)の中心を共通の中心とする円周上にほぼ90度ずらした位置に配してある。すなわち、微信号用の2つのホール素子33,35からは、図7に示されるように、90度位相がずれた2つの出力波形が得られる。それぞれ、SIN波、COS波と同等である。各出力はVsin、Vcosの電圧波形で得られ、これらの出力から、arctan(Vsin/Vcos)を演算することにより、微信号用ギア19の回転角度が得られることとなる。ただし、これらの角度は、微信号用ギア19からみれば、360度毎に繰り返し出力されており、これだけでは、何回転目かの判定は不可能である。測定用小径ギア17は、従動ギア12と同軸一体に設けてあり、支持ピン12pを軸として従動ギア12と一体回転可能に構成してある。つまり、従動ギア12は、ステアリングシャフト105の操作に合わせて、可逆回転可能に配置されている。以上から主動ギア7と微信号用ギア19は、連動して回転している。なお、主動ギア7と微信号用ギア19のギア比は2に設定してある。
【0021】
第1検出手段15からホール素子33、35を介して演算機構に入力される信号は、ステアリングシャフト105が、0度〜360度の範囲におけるステアリングシャフト回転角度を示す微信号と呼ばれている。
【0022】
(検知回路・第2検出手段)
図6に示すように、検知回路31は、上述したホール素子33およびホール素子35のほか、角度変換回路37及びMPU39、リセットIC41、EPROM43、CANトランシーバー44及び第2検出手段45を含めて構成してある。角度変換回路37は、ホール素子33,35から得た位相違いの検知信号を合成角度に変換するための回路である(図7参照)。
【0023】
MPU39は、舵角センサ1全体の制御のほか、後述するように演算機構として機能する。リセットIC41は、MPU39の暴走防止を行うためのICである。EPROM43は、たとえば、主動ギア7(ギア部7g)と従動ギア12との噛み合いにおいて生じるバックラッシに基づく位相ずれを補正するための補正値を記憶するための装置である。CANトランシーバー44は、ステアリングシャフト105のステアリングシャフト回転角度を示す信号を外部へ出力するための通信機能を担っている。
【0024】
第2検出手段45は、ステアリングシャフト105(図4参照)がどちらの方向(時計方向、反時計方向)に何回転したか検出するための検知部材或いは検知機構等であるポテンショメータ45pと粗信号用ギア45gとから概ね構成してある。ポテンショメータ45pは、回転させることによりその回転角に略比例した信号を出力する。ポテンショメータ45pが出力する信号は、一般に、粗信号とも呼ばれ、ステアリングシャフト105の回転角度を特定するためのものである。粗信号用ギア45gはステアリングシャフトの全回転領域で、ほぼ1回転するようにギア比が設定されている。本実施形態ではステアリングシャフトの全回転、ほぼ4.4回転(左右ともに2.2回転)で、粗信号用ギア45gがほぼ1回転するように調整されている。当該領域で、ポテンショメータ45pの出力は、直線的に変化するように設定されている。本実施形態では、ステアリングシャフトからみて、中立点(直進方向)を0度とし、左回し切り位置をー790度、右回し切り位置+790度として、この間で、単調増加するようにポテンショメータ45pのシャフト位置は設定されている。図8は、ポテンショメータ45pが出力した粗信号を示したものであり、略直線状の特性を示している。なお、粗信号用ギア45gの回転は、1回転に限る必要は必ずしもなく、状況に応じて複数回転するように構成してもよい。
【0025】
ポテンショメータ45pは、その周囲に粗信号用ギア45gを備え、次に述べる機構によって回転させられる。すなわち、まず、微信号用ギア19の回転については、これと同軸一体回転する伝達用小径ギア20を設けてある。伝達用小径ギア20は、図3に示す微信号用ギア19の裏側に位置するため、同図において破線で示してある。伝達用小径ギア20は、原車として支持ピン23pによって回転可能に支持された中間大径ギア23と噛み合いこれを回転させるように構成してある。伝達用小径ギア20の従車として回転する中間大径ギア23は、これと同軸一体の中間小径ギア25を一体回転させ、中間小径ギア25はこれと噛み合う粗信号用ギア45g、すなわち、第2検出手段45を回転させるようになっている。粗信号用ギア45gは主動ギア7と連動して回転する。上記構成によって出力される粗信号と、前述した0度〜360度の範囲の角度を示す微信号(以下、微信号に係る回転を「微回転」という)と、を組み合わせることによって、ステアリングシャフト105の回転角度を検知することができる。
【0026】
微信号と粗信号との関係から、現在のステアリングシャフトの絶対角度を確定する手順について具体例を挙げながら説明する。前提として、まず微信号用ギアは、ステアリングシャフトを回転させることで可逆回転する主動ギアに対してギア比2:1で増速回転している。さらに、粗信号用ギアは、ステアリングシャフトを回転させることで可逆回転する主動ギアの全回転域(+790度〜−790度)につき1回転未満の減速回転を行っているものとする。
【0027】
たとえば、ステアリングシャフト105のある回転位置での微信号の計測値を123度とする。この計測値は、上述したとおり、2つのホール素子33,35の電圧出力値33V,35Vから、arctan(33V/35V)に基づき算出されたものである。この微信号の計測値123度のみからでは、微信号用ギア19が中点位置から右回転しているのか、左回転しているのか判別がつかない。また、中点位置から、何回転したのかも不明である。尚、本実施形態では、主動ギア7と微信号用ギア19とのギア比が2:1のため、現在のステアリング回転角は61.5度(123/2)付近と予想できるのであるが、当該回転角が右回転か、左回転かの、何回転目であるのかは以前不明である。
【0028】
上述したとおり、粗信号のデータ処理は、粗信号用ギア45gに組み込まれたポテンショメータ45pによる出力電圧を計測することによって、微信号データほど精度は高くないが、中点位置からステアリングシャフト105が右又は左回転のどの位置まで回転したのかを一意的に確定できる。本実施形態では、ステアリングシャフト105の回転の中立を0度として、左回し切り位置が−790度、右回し切り位置が+790度となっているため、−790度〜+790度の間でポテンショメータ45pは直線的な出力電圧を示すことになる。ここでは、このような設定された粗信号出力値が420度であったものとして、以下説明する。尚、ポテンショメータ45pの出力精度が多少悪くても、次に述べるように、微信号出力をメインとする組合せにより絶対角度θaを算出するので、最終的に得られる絶対角度の精度は問題ない。
【0029】
ステアリングシャフトの絶対角度θaの確定手順は、次の通り算出する。すなわち、MPU内での演算も微信号出力をθb、粗信号出力をθc、主動ギアと微信号用ギアのギア比をmとしたときに、[θc−{θb/m±(360/m)×n}]の絶対値を最小とするような整数nを求めた場合には、絶対角度θaは、θa=θb/m±(360/m)×nから算出できる。たとえば、微信号の出力値123°、粗信号の出力値が420°の場合を考えてみる。上記算式に当てはめすると、[420°−{123°/2±(360/2)×n}]の代入式が求められる。ここで、θa=123°/2±(360/2)×nであるから、θaが420°にもっとも近いnを求めれば、そのときのθaが求める絶対角度となり、n/mがステアリングシャフト105の中点位置からの回転数となる。ただし、上記式の±は粗信号の出力値の符号に依存して変化し、mはギア比(本実施形態では2)、nは正の整数(n>=0)とする。粗信号の出力値が420°の場合、θa=61.5°+180°×nとなる。したがって、θaが420°にもっとも近くなるのは、n=2のときであり、そのときの絶対角度θaはθa=61.5°+180°×2=421.5°となる。なお、実際のステアリングシャフトは中点位置から右に1回転(n/m=2/2=1)、とさらに61.5°回った位置にあることがわかる。
【0030】
また、微信号の出力値が23°、粗信号の出力値が12°の場合は同様に、ω=12−(11.5+180×n)より、ωの絶対値を最小にするnは、n=0となる。そのときの絶対角度θaは、θa=11.5°であることがわかる。実際のステアリングシャフト105は、n/m=0より、1回転未満で、右に11.5°回転した位置にあることがわかる。
【0031】
さらに、他の例として、微信号の出力値が37°、粗信号の出力値が−162である場合には、θa=18.5°−180°×nよりn=1を得る。絶対角度θaはθa=−161.5°となる。なお、n/m=0.5のため、実際のステアリングシャフト105の絶対角度θaは、左1回転未満で161.5°回った位置にあることがわかる。
【0032】
(ステアリングシャフトの絶対角度の測定)
図9を参照して、微信号と粗信号とを併用してステアリングシャフト105のステアリングシャフト回転角度(絶対角度)を測定するフローについて説明する。測定精度をできるだけ高くするために本実施形態では、第1検出手段15からホール素子33,35を介して得る微信号と、第2検出手段(ポテンショメータ)45から得る粗信号とは、次のとおり処理されるようになっている。また、併せて、角度変換回路37及びMPU39の具体的構造も説明する。すなわち、角度変換回路37は、ホール素子33,35を介して得る微信号に係る2つの位相の異なるアナログ量をディジタル量に変換するA/D変換部37−1と、2つの位相の異なるディジタル量から微信号(合成角度)に合成する角度合成部37−2と、を備えている。
【0033】
演算機構として機能するMPU39は、微信号の処理を行う微信号処理系と、粗信号の処理を行う粗信号処理系と、微信号処理系及び粗信号処理系が共有する絶対角度演算変換部39−9と、粗信号処理系にのみ設けたA/D変換部39−1と、から概ね構成してある。A/D変換部39−1は、第2検出手段45が出力する粗信号(アナログ量)をディジタル量に変換する機能を有している。以下、微信号処理系(粗信号処理系)、絶対角度演算変換部の順で説明する。なお、粗信号と微信号の違いはあるものの粗信号処理系の構成と微信号処理系のそれとの間に異なる点はない。したがって、微信号処理系の構成を説明するにあたって、微信号処理のための構成部材に該当する粗信号処理のための構成部材名等を、次項において微信号処理のための構成部材名等の後に記す括弧書きの中に記すにとどめ、可能な範囲において粗信号処理のための構成部材についての説明を省略する。
【0034】
すなわち、MPU39は、微信号処理系(粗信号処理系)として、オーバーサンプリング部39−3a(オーバーサンプリング部39−3b)と、平均角度算出処理部39−4a(平均角度算出処理部39−4b)と、異常データ検出部39−5a(異常データ検出部39−5b)と、異常データ排除部39−6a(異常データ排除部39−6b)と、補間処理部39−7a(補間処理部39−7b)と、補間済み微信号出力部39−8a(補間済み粗信号処理部39−8b)と、を備えている。微信号処理系と粗信号処理系、両処理系にオーバーサンプリング部を設けたのは、より高精度が求められる微信号について超過測定を行い当該超過測定データを出力(以下「オーバーサンプリング」という)するだけでなく、粗信号についてもオーバーサンプリングすることにより、舵角センサ1の精度を飛躍的に高めることができるからである。以下、微信号処理系についてのみ説明する。
【0035】
オーバーサンプリング部39−3aは、角度合成部37−2から得る微信号について、図10に示すように、時刻t−1〜tの間で、通常1回の測定(t軸上の「△」位置での1回の測定)データを求めるところ、常時8回の測定(t−1〜t間の「○」位置での8回の測定、8倍オーバーサンプリング)データを求める、超過測定データ(微信号超過測定データ)を獲得する機能を有している。本実施形態におけるオーバーサンプリングは、上述したように、通常サンプリングの8倍に設定してある。この設定は、度重なる評価実験の結果得られたもので、必要に応じて設定を変更することを妨げるものではない。尚、時刻t〜t+1間でも同様の処理を行っている。
【0036】
平均角度算出処理部39−4aは、オーバーサンプリング部39−3aから得た微信号測定データから平均角度Xmを算出処理する機能を有している。異常データ検出部39−5aは、微信号測定データの平均角度Xmのうち、所定範囲を逸脱した異常データを検出する機能を有している。異常データ排除部39−6aは、異常データ検出部39−5aが検出した異常データを排除する機能を有している。補間処理部39−7aは、測定データ及び超過測定データから異常データの代わりに選択したデータを補間する機能を有している。補間済み微信号出力部39−8aは、補間済み微信号を出力する機能を有している。
【0037】
異常データ検出部39−5aは、検出信号の実測値から成るサンプリング曲線(図10)を受け、粗信号及び微信号のそれぞれについて、異常データの検出を行う。測定データが、平均値Xmの上限Xm+ε及び下限Xm−εの範囲(所定範囲)を逸脱した場合のサンプリング曲線を図11に示す。その結果、サンプリング曲線の突出部分が、異常データ検出部39−5aによって検出され、検出された異常データは、異常データ排除部39−6aによって排除される。微信号処理系の構成は上述したとおりであるが、微信号処理系と粗信号処理系とは、微信号と粗信号の違いこそあれ基本的に同じ機能を有している。この点は前述したとおりである。したがって、上記微信号処理系についての説明は、微信号の代わりに粗信号とすることで、そのまま粗信号処理系にも該当する。
【0038】
補間処理部39−7a,39−7bは、測定データから排除した異常データの代わりに、例えば、当該排除した異常データの直前または直後の測定データを基に、所定のデータ列を選択し、当該データ列の平均値を求める。排除により抜けた分を、当該平均値で補うことにより、オーバーサンプリングした効果を最大限に引き出すことができるからである。
【0039】
また、上記補間手法とは異なる補間手法として、平均データによるものがある。すなわち、異常データの実測値が所定範囲の上限Xm+ε及び下限Xm―εを逸脱した場合、補間処理部39−7a(補間処理部39−7b)は、異常データの発生時刻をtiとすると、直前のti−1及び直後のti+1のデータの平均値(ti−1のデータ+直後のti+1のデータ)/2で簡単に演算して即座に補間することが可能である。このようにして、予測値の予測関数(y=ax+bの一次関数(a、bは、定数で、横軸xは時間、縦軸yは角度))が、サンプリング曲線を補間する結果、非常に高精度のデータが測定されることになる。
【0040】
絶対角度演算変換部39−9は、補間済み微信号出力部39−8aが出力する補間済み微信号と、補間済み粗信号出力部39−8bが出力する補間済み粗信号を演算し、この演算結果に基づいてステアリングシャフトの絶対角度を演算する機能を有している。すなわち、補間済み微信号及び補間済み粗信号は、いずれも絶対角度演算変換部39−9に入力され、そこで両信号は、ステアリングシャフトの絶対角度に変換される。演算されたステアリングシャフト回転角度は、TXラインを介してCANトランシーバー44に送出される。
【0041】
本発明の実施形態における舵角センサは、上述した実施例に限定されず、様々な変形・修正が考えられる。例えば、測定データの補間の際、予想値の予測関数が、一次関数の直線で近似するのに限定されず、予測関数が、2次以上の多項式の曲線に近似して補間しても良い。この場合、異常データの個数が多いときに有益で、最小二乗法やスプライン近似等により、予想値の予測関数(近似関数)を求めて補間されたサンプリング曲線を得ることにより、高精度化を図ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態における舵角センサの取付位置の概略を示すための斜視図である。
【図2】本実施形態における舵角センサの平面図である。
【図3】図2に示す舵角センサの支持基板を取り外した状態の平面図である。
【図4】本実施形態における舵角センサの分解斜視図である。
【図5】図2に示す舵角センサのA−A断面図である。
【図6】本実施形態における舵角センサの電気的構成を示すブロック図である。
【図7】本実施形態における微信号を示すグラフである。
【図8】本実施形態における粗信号を示すグラフである。
【図9】本実施形態における演算機構及びその周辺を示すブロック図である。
【図10】図9の一対のオーバーサンプリング部を説明するための図である。
【図11】図9の一対の異常データ検出部及び一対の異常データ排除部を説明するための図である。
【符号の説明】
【0043】
1 舵角センサ
3 ケーシング
3a 底部
3b 周壁部
3c 内側リブ
3d 外側リブ
3e,3f,3g,3h 連結リブ
3j,3k 取付突片
3p 収納体
4 シャフト孔
5 支持基板
5a 対向面
5b 取付面
5h 支持孔
7 回転リング(主動ギア)
7a 環状フランジ部
7b 環状壁部
7c 段部
7g ギア部
7h 中空部
9 固定リング
10 環状空間
12 従動ギア
12p 支持ピン
15 検出手段
17 測定用小径ギア
19 微信号用ギア
20 伝達用小径ギア
21 円盤磁石
23 中間大径ギア
23p 支持ピン
25 中間小径ギア
31 検知回路
33,35 ホール素子
37 角度変換回路
39 MPU
44 トランシーバー
45p ポテンショメータ
45 検出手段
45g 粗信号用ギア
101 ハンドル
103 ステアリングコラム
105 ステアリングシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトに取り付け、当該ステアリングシャフトの絶対角度を測定するための舵角センサであって、
当該ステアリングシャフトと連動して可逆回転する主動ギアと、
当該主動ギアと連動して回転する微信号用ギアの回転角度を検出する第1検出手段と、
当該主動ギアと連動して回転する粗信号用ギアの回転角度を検出する第2検出手段と、を備え、
当該第1検出手段は、検出した当該微信号用ギアの回転角度を示す微信号を出力する、ホール素子及び磁石を含めて構成してあり、
当該第2検出手段は、検出した当該粗信号用ギアの回転角度を示す粗信号を出力するポテンショメータを含めて構成してある
ことを特徴とする舵角センサ。
【請求項2】
前記微信号用ギアは、前記主動ギアに対して増速回転するとともに、
前記粗信号用ギアは、前記主動ギアに対して減速回転することにより、
前記第1検出手段と前記第2検出手段の2つから、絶対角度を演算する演算機構を、さらに含めて構成してある
ことを特徴とする請求項1に記載の舵角センサ。
【請求項3】
前記演算機構は、微信号用ギアの回転角度をθb、粗信号用ギアの回転角度をθc、前記主動ギアと前記微信号用ギアとのギア比をmとし、[θc−{θb/m±(360/m)×n}]の絶対値を最小とするような整数をnとした場合に、絶対角度θaが、θa=θb/m±(360/m)×nで与えられる
ことを特徴とする請求項2に記載の舵角センサ。
【請求項4】
前記演算機構は、前記微信号及び前記粗信号のうち、少なくとも当該微信号から複数回、前記絶対角度θaの超過測定を行い当該超過測定データを出力するオーバーサンプリング部と、
当該オーバーサンプリング部が当該超過測定を行い当該超過測定データを出力する時に前記θaの異常データを検出・排除する異常データ検出・排除部と、
当該超過測定データの中から任意にデータを選択し、または、当該任意に選択したデータから更に平均値を算出し、前記排除した異常データの代わりに、当該任意に選択したデータ、または、当該平均値、を補間する補間処理部とを含めて構成してある
ことを特徴とする、請求項3に記載の舵角センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−26180(P2008−26180A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199790(P2006−199790)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000222934)東洋電装株式会社 (69)
【Fターム(参考)】