説明

船外機の潤滑装置

【課題】エンジンの停止時にオイルフィルタを取り外した場合においても、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルが外部に溢れ出すのを低減する。
【解決手段】オイルフィルタ7の上流側のオイル通路10には、オイルフィルタ7の上流側のオイル通路10に溜まった潤滑オイルをオイルパン6に戻す上流側オイル戻し流路14を接続するとともに、オイルポンプ5の下流側のオイル通路には、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路11、13およびメインギャラリ12に溜まった潤滑オイルをオイルパン6に戻す下流側オイル戻し流路15を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船外機の潤滑装置に関し、特に、船外機の潤滑装置に設けられるオイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まったオイルが逆流して外部に溢れ出すのを低減する方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
船外機のエンジンには、クランクシャフトやカムシャフトなどの摺動面を潤滑するために、エンジン内に潤滑オイルを循環させる潤滑装置が設けられ、この潤滑装置には潤滑オイルを濾過するオイルフィルタが設けられている。ここで、エンジンが停止した時に、オイルフィルタの上流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルをオイルパンに戻すために、オイルリリーフバルブにオイルリーク孔を設けることが行われている。
【0003】
また、例えば、特許文献1には、クランク室内の各ジャーナル軸受部のクランクケース側軸受構成部分に対して、シリンダと対向するクランクケースの壁部に近接して、上下方向に連通するオイル戻し孔をそれぞれ形成することで、クランク軸の軸受部を潤滑した後でクランク軸の回転に連れ回りする潤滑オイルを、スムーズにクランク室の底部に流し、オイルパンへの潤滑オイルの戻しを効率化する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平9−273406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の船外機の潤滑装置では、オイルフィルタの上流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルをオイルパンに戻すことはできるが、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルをオイルパンに戻すことはできず、エンジンが停止すると、オイルフィルタの下流側のオイル通路には潤滑オイルが溜まったままとなる。このため、従来の船外機の潤滑装置では、オイルフィルタの交換時などに、オイルフィルタを取り外すと、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルが逆流し、オイルフィルタの方向に戻ることから、その潤滑オイルが外部に溢れ出し、船外機を汚したりするという問題があった。
【0005】
また、特許文献1に開示された方法では、クランク軸の軸受部を潤滑した後の潤滑オイルがオイル戻し孔を介してクランク室の底部に流されるため、エンジンが停止すると、クランク軸の軸受部を潤滑する前の潤滑オイルは下流側のオイル通路に溜まったままとなる。このため、特許文献1に開示された方法においても、オイルフィルタを取り外すと、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルが逆流し、オイルフィルタの方向に戻ることから、その潤滑オイルが外部に溢れ出し、船外機を汚したりするという問題があった。
そこで、本発明の目的は、エンジンの停止時にオイルフィルタを取り外した場合においても、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルが外部に溢れ出すのを抑制することが可能な船外機の潤滑装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1記載の船外機の潤滑装置によれば、エンジンの可動部に潤滑オイルを導くオイル通路と、前記オイル通路に前記潤滑オイルを送り出すオイルポンプと、前記可動部に導かれる潤滑オイルを濾過するオイルフィルタと、前記オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルをオイルパンに戻すオイル戻し流路とを備えることを特徴とする。
これにより、エンジンの停止時にオイルフィルタを取り外した場合においても、エンジンの停止時にオイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルをオイルパンに戻すことができる。このため、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルが外部に溢れ出すのを抑制することが可能となり、船外機を汚したりするのを防止することができる。
【0007】
また、請求項2記載の船外機の潤滑装置によれば、前記オイル戻し流路は、前記オイルフィルタよりも下方に配置されていることを特徴とする。
これにより、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルのうち、オイルフィルタよりも上方に溜まった潤滑オイルをオイルパンに完全に戻すことが可能となるとともに、濾紙を境界としてオイルフィルタ内部の下流側に溜まった潤滑オイルもオイルパンに戻すことができ、オイルフィルタを取り外した場合においても、オイルフィルタの方向に潤滑オイルが戻るのを防止することができ、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルが外部に溢れ出すのを防止することができる。
【0008】
また、請求項3記載の船外機の潤滑装置によれば、前記オイル戻し流路は、クランク軸と並行してシリンダブロックに形成されたメインギャラリの下端に接続されていることを特徴とする。
これにより、エンジンに複雑な加工を施すことなく、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルのうち、オイルフィルタよりも上方に溜まった潤滑オイルをオイルパンに効率よく戻すことが可能となるとともに、濾紙を境界としてオイルフィルタ内部の下流側に溜まった潤滑オイルもオイルパンに戻すことができ、コストアップを抑制しつつ、オイルフィルタの方向に潤滑オイルが戻るのを防止することができる。
【0009】
また、請求項4記載の船外機の潤滑装置によれば、前記オイルフィルタの下流側のオイル通路に連通するようにシリンダブロックに形成され、前記オイルパンに連通した空間に開口面が設けられた開口部と、前記開口部に連通されたオイル通路が塞がれるように前記開口部内に埋め込まれた埋め栓とを備え、前記オイル戻し流路は、前記埋め栓に形成されたオイルリーク孔であることを特徴とする。
【0010】
これにより、オイルリーク孔が形成された埋め栓を開口部内に埋め込むことで、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルをオイルパンに戻すことができ、シリンダブロックやクランクケースを直接加工することなく、オイルリーク孔を形成することができる。このため、オイルリーク孔の形成を容易に行うことが可能となるとともに、加工工程を煩雑化することなく、オイルリーク孔の径を小さくすることができ、オイルフィルタの下流側のオイル通路にオイルリーク孔を設けた場合においても、エンジンの動作時の油圧の立ち上がりの劣化を抑制することが可能となるとともに、コストアップを抑制することができる。
【0011】
また、請求項5記載の船外機の潤滑装置によれば、前記オイル戻し流路に装着され、前記エンジンの動作に応じて開閉する電磁バルブをさらに備えることを特徴とする。
これにより、エンジンの動作時にオイルフィルタの下流側のオイル通路から潤滑オイルをリークさせることなく、エンジンの停止時に下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルがオイルフィルタの方向に戻るのを防止することができ、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルが外部に溢れ出すのを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、エンジンの停止時にオイルフィルタを取り外した場合においても、オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルが外部に溢れ出すのを抑制することが可能となり、船外機を汚したりするのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る船外機の潤滑装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る船外機の潤滑装置の概略構成を模式的に示す断面図である。
図1において、船外機に搭載されるエンジンには、シリンダ2内のピストン3の往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト1が設けられている。ここで、シリンダ2およびピストン3は水平方向に向くように配置されるとともに、クランクシャフト1は、そのクランク軸が垂直方向に向くように配置され、コンロッド4を介してピストン3に接続されている。
【0014】
そして、船外機の潤滑装置には、エンジンの可動部に潤滑オイルを導くオイル通路9、10、11、13およびメインギャラリ12と、オイル通路9、10、11、13およびメインギャラリ12に潤滑オイルを送り出すオイルポンプ5と、潤滑後の潤滑オイルを受けて溜めておくオイルパン6と、エンジンの可動部に導かれる潤滑オイルを濾過するオイルフィルタ7が設けられている。
【0015】
なお、潤滑オイルが導かれるエンジンの可動部としては、例えば、クランクシャフト1やシリンダ2や不図示のカムシャフトやロッカーシャフトなどの摺動面を挙げることができる。また、オイルポンプ5はクランクシャフト1を介して駆動することができ、クランクシャフト1とドライブシャフトとの結合部分に配置することができる。また、メインギャラリ12は、クランク軸と並行してシリンダブロックに形成することができ、オイルポンプ5から送り出された潤滑オイルを垂直方向に導き、オイル通路13などに分配することができる。
【0016】
そして、オイルパン6内にはオイルストレーナ8が配置され、オイルストレーナ8はオイル通路9を介してオイルポンプ5のオイル流入口に接続され、オイルポンプ5のオイル流出口はオイル通路10を介してオイルフィルタ7のオイル流入口に接続され、オイルフィルタ7のオイル流出口はオイル通路11を介してメインギャラリ12に接続されている。そして、クランクシャフト1の摺動面に通じるようにメインギャラリ12から枝分かれしたオイル通路13が設けられている。
【0017】
そして、オイルフィルタ7の上流側のオイル通路10には、オイルフィルタ7の上流側のオイル通路10に溜まった潤滑オイルをオイルパン6に戻す上流側オイル戻し流路14が接続され、オイルポンプ5の下流側のオイル通路には、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路11、13およびメインギャラリ12に溜まった潤滑オイルをオイルパン6に戻す下流側オイル戻し流路15が接続されている。
【0018】
なお、上流側オイル戻し流路14としては、例えば、オイルリリーフバルブに形成されたオイルリーク孔を用いるようにしてもよいし、オイル通路10に通じる孔をクランクケースやシリンダブロックに直接形成してもよい。また、下流側オイル戻し流路15としては、例えば、オイル通路に連通する開口部に埋め込まれた埋め栓に形成されたオイルリーク孔を用いるようにしてもよいし、オイル通路11またはメインギャラリ12に通じる孔をクランクケースやシリンダブロックに直接形成してもよい。また、下流側オイル戻し流路15は、オイルフィルタ7よりも下方に配置することが好ましく、例えば、メインギャラリ12の下端に接続することができる。
【0019】
そして、エンジンが動作すると、シリンダ2内のピストン3の往復運動がコンロッド4を介してクランクシャフト1に伝えられ、回転運動に変換される。そして、クランクシャフト1の回転に伴ってオイルポンプ5が動作し、実線の矢印で示すように、オイルパン6に溜まっている潤滑オイルがオイルストレーナ8を介して吸い上げられ、オイル通路9を通ってオイルポンプ5内に流入し、オイル通路10を介してオイルフィルタ7に送り出される。そして、オイルフィルタ7に送り出された潤滑オイルは濾過された後、オイル通路11を介してメインギャラリ12に送られ、メインギャラリ12を介してオイル通路13に分配されることで、クランクシャフト1の摺動面に送られ、クランクシャフト1の摺動面を潤滑した後、オイルパン6内に落下することでオイルパン6内に回収される。
【0020】
一方、エンジンが停止すると、オイルポンプ5の動作が停止し、オイルフィルタ7の上流側のオイル通路10に溜まった潤滑オイルは、一点鎖線の矢印で示すように、オイル通路10を逆流し、上流側オイル戻し流路14を介してオイルパン6内に戻されることで、オイルフィルタ7の上流側のオイル通路10に溜まった潤滑オイルが抜き取られる。
また、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路11、13およびメインギャラリ12に溜まった潤滑オイルは、点線の矢印で示すように、オイル通路11、13およびメインギャラリ12を逆流し、下流側オイル戻し流路15を介してオイルパン6内に戻されることで、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路11、13およびメインギャラリ12に溜まった潤滑オイルが抜き取られる。
【0021】
これにより、エンジンの停止時にオイルフィルタ7を取り外した場合においても、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路11、13およびメインギャラリ12に溜まった潤滑オイルが外部に溢れ出すのを抑制することが可能となるとともに、濾紙を境界としてオイルフィルタ7内部の下流側に溜まった潤滑オイルも外部に溢れ出すのを抑制することが可能となり、船外機を汚したりするのを防止することができる。
【0022】
なお、下流側オイル戻し流路15を設けた場合、エンジンの動作時にオイルフィルタ7の下流側のオイル通路からオイルパン6内に潤滑オイルがリークするのを防止するために、エンジンの動作に応じて開閉する電磁バルブを下流側オイル戻し流路15に装着するようにしてもよい。ここで、下流側オイル戻し流路15に電磁バルブを装着した場合、エンジンの動作時には電磁バルブが閉じ、エンジンの停止時には電磁バルブが開くように制御することができる。
【0023】
図2は、本発明の第2実施形態に係る潤滑装置が適用される船外機の概略構成を示す断面図である。
図2において、船外機には、アッパーカウリング21、ロアーカウリング22、アッパーケーシング23およびロアーケーシング24が上から下に順次設けられている。そして、アッパーカウリング21およびロアーカウリング22にはエンジン31が収容され、アッパーケーシング23にはドライブシャフト32が収容されるとともに、アッパーケーシング23の前方にはブラケット25が装着され、ロアーケーシング24にはベベルギア33およびプロペラシャフト34が収容されるとともに、ロアーケーシング24の後方にはプロペラ35が装着されている。ここで、アッパーカウリング21は、ロアーカウリング22に対して脱着自在に構成されている。そして、アッパーカウリング21を取り外すことにより、エンジン31を船外機から露出させ、エンジン31を点検したり、エンジン31に装着されたオイルフィルタ57を交換したりすることができる。
【0024】
なお、エンジン31としては、例えば、水冷4サイクルV型8気筒エンジンを用いることができるが、V型6気筒エンジンや直列多気筒エンジンなどのその他のエンジンを用いるようにしてもよい。
そして、エンジン31はクランクシャフト51のクランク軸が垂直方向に向くようにアッパーカウリング21およびロアーカウリング22内に配置され、ロアーカウリング22とアッパーケーシング23との間に配置されたエキゾーストガイド36上に固定されている。そして、クランクシャフト51は、ドライブシャフト32、ベベルギア33およびプロペラシャフト34を順次介してプロペラ35に動力が伝えられるようにドライブシャフト32に接続されている。
【0025】
ここで、エンジン31には、クランクカバー41、クランクケース42、シリンダブロック43およびシリンダヘッド44が前方から後方に向かって順次設けられている。そして、クランクケース42およびシリンダブロック43内にはクランク室45が形成され、クランク室45にはクランクシャフト51が収容されるとともに、クランクシャフト51はクランクケース42およびシリンダブロック43にてクランク軸を中心として回転自在に支持され、クランクケース42の前方側はクランクカバー41にて覆われている。ここで、クランク室45は、隔壁59にて上下方向に気筒ごとに区画されている。また、シリンダブロック43には、シリンダ52が水平方向を向くように形成されるとともに、シリンダ52内にはピストン53が挿入されることで燃焼室61が形成され、ピストン53はコンロッド54を介してクランクシャフト51に接続されている。
【0026】
そして、シリンダブロック43の後方側はシリンダヘッド44にて覆われ、シリンダヘッド44には、点火プラグ62が配置されるとともに、不図示の吸気バルブ、排気バルブおよびカムシャフトなどが配置される。
そして、エンジン31の潤滑系には、潤滑オイルをエンジン31内に送り出すオイルポンプ55、エンジン31を潤滑した後の潤滑オイルを受けるオイルパン56、潤滑オイルを濾過するオイルフィルタ57が設けられている。ここで、オイルポンプ55は、クランクシャフト51とドライブシャフト32との間に配置され、クランクシャフト51の回転に伴って動作することができる。また、オイルパン56はエンジン31の下方に配置され、オイルパン56内にはオイルストレーナ58が配置されるとともに、オイルフィルタ57はクランクカバー41側に配置されている。
【0027】
図3(a)は図2のB−B線で切断した断面図、図3(b)は図3(a)のE−E線で切断した断面図、図4(a)は図3のC−C線で切断した断面図、図4(b)は図4(a)の埋め栓76の部分を拡大して示す断面図、図5は図3のD−D線で切断した断面図、図6は図2のA方向からオイルフィルタ57を見た時の正面図である。
図3〜5において、シリンダブロック43には、クランク軸と並行してメインギャラリ73が形成されている。なお、エンジン31が水冷4サイクルV型8気筒エンジンである場合、8個のシリンダ52は水平面内でV字が形成されるように2列に配列され、V型に配列されたシリンダ52間に形成されるVバンクの谷間のシリンダブロック43内にメインギャラリ73を配置することができる。
【0028】
そして、図3(a)に示すように、エキゾーストガイド36には、オイルストレーナ58にて吸い上げられた潤滑オイルをオイルポンプ55に導くオイル通路80が形成されるとともに、オイルポンプ55から送り出された潤滑オイルの油圧を常に規定値に保つオイルリリーフバルブ74が設けられている。ここで、図3(b)に示すように、オイルリリーフバルブ74には、図5のオイルフィルタ57の上流側のオイル通路82、84に溜まった潤滑オイルをオイルパン56に逃すオイルリーク孔75が形成されている。なお、オイルリーク孔75は、図1の上流側オイル戻し流路14として用いることができる。また、オイルリーク孔75の径は、エンジンの動作時の油圧の立ち上がりに悪影響を与えないようにするためには小さくすることが望ましいが、オイルリーク孔75の径が小さ過ぎると、エンジンの停止時にオイルフィルタ57の上流側のオイル通路82、84に溜まった潤滑オイルを抜き取るのに時間がかかる。このため、オイルリーク孔75の径は、エンジンの動作時に必要な油圧の立ち上がりと、潤滑オイルを抜き取るのに与えられる時間とを考慮して決めることができ、例えば、1mmとすることができる。
【0029】
また、図3(a)に示すように、シリンダブロック43には、オイル通路80を介して導かれた潤滑オイルをオイルポンプ55に流入させるオイル流入口71が形成されるとともに、オイルポンプ55にて送り出された潤滑オイルを流出させるオイル流出口72が形成されている。
さらに、図3から図5に示すように、シリンダブロック43には、オイルフィルタ57にて濾過された潤滑オイルをメインギャラリ73に導くオイル通路86、81、87が形成されるとともに、図3および図4に示すように、隔壁59には、メインギャラリ73にて導かれる潤滑オイルをクランクシャフト51の摺動面に導くオイル通路77が形成されている。
【0030】
また、図3から図5に示すように、シリンダブロック43には、クランクケース42内に開口面を有し、オイル通路87に連通する開口部79が形成されている。そして、開口部79内には、オイル通路87を塞ぐ埋め栓76が埋め込まれている。なお、開口部79は、シリンダブロック43の外から掘削によりシリンダブロック43内にオイル通路87を形成するために用いることができ、潤滑オイルを導くためには必要ないものである。
【0031】
ここで、埋め栓76には、オイルフィルタ57の下流側のオイル通路83、85、86、81、87、77およびメインギャラリ73に溜まった潤滑オイルをオイルパン56に逃すオイルリーク孔78が形成されている。なお、オイルリーク孔78は、図1の下流側オイル戻し流路15として用いることができる。また、オイルリーク孔78の径は、エンジンの動作時の油圧の立ち上がりに悪影響を与えないようにするためには小さくすることが望ましいが、オイルリーク孔78の径が小さ過ぎると、エンジンの停止時にオイルフィルタ57の下流側のオイル通路83、85、86、81、87、77およびメインギャラリ73に溜まった潤滑オイルを抜き取るのに時間がかかる。このため、オイルリーク孔76の径は、エンジンの動作時に必要な油圧の立ち上がりと、潤滑オイルを抜き取るのに与えられる時間とを考慮するとともに、図3のオイルリリーフバルブ74に形成されたオイルリーク孔75からリークするオイル流量とバランスをとりながら決めることができ、例えば、1.2mmとすることができる。
【0032】
また、図5に示すように、クランクケース42には、オイルポンプ55にて送り出された潤滑オイルをオイルフィルタ57に導くオイル通路84が形成されるとともに、オイルフィルタ57にて濾過された潤滑オイルをメインギャラリ73に導くオイル通路85が形成されている。
また、図5および図6に示すように、クランクカバー41には、オイル通路84を介して導かれた潤滑オイルをオイルフィルタ57に導くオイル通路82が形成されるとともに、オイルフィルタ57にて濾過された潤滑オイルをメインギャラリ73に導くオイル通路83が形成されている。
【0033】
そして、図2〜6において、図2のエンジン31が動作すると、シリンダ52内のピストン53の往復運動がコンロッド54を介してクランクシャフト51に伝えられ、回転運動に変換される。そして、クランクシャフト51の回転に伴ってオイルポンプ55が動作し、図3の実線の矢印で示すように、オイルパン56に溜まっている潤滑オイルがオイルストレーナ58を介して吸い上げられ、オイル通路80を通ってオイル流入口71に導かれ、オイル流入口71からオイルポンプ55内に流入する。そして、オイルポンプ55内に流入した潤滑オイルは、オイル流出口72から送り出され、図5のオイル通路84、82を順次通ってオイルフィルタ57に導かれる。そして、オイルフィルタ57に導かれた潤滑オイルは濾過された後、図5のオイル通路82、85、86.81、87を順次通ってメインギャラリ73に送られ、図4に示すように、潤滑オイルがクランクシャフト51のクランク軸に並行に導かれる。そして、メインギャラリ73にて導かれた潤滑オイルはオイル通路77に分配されることで、クランクシャフト51の摺動面に送られ、クランクシャフト51の摺動面を潤滑した後、クランクケース42またはシリンダブロック43を介してオイルパン56内に落下することでオイルパン56内に回収される。
【0034】
一方、図2のエンジン31が停止すると、オイルポンプ55の動作が停止し、図5のオイルフィルタ57の上流側のオイル通路84、82に溜まった潤滑オイルは、一点鎖線の矢印で示すように、オイル通路84、82を逆流し、図3のオイルリリーフバルブ74に形成されたオイルリーク孔75を介してオイルパン56内に戻されることで、オイルフィルタ57の上流側のオイル通路84、82に溜まった潤滑オイルが抜き取られる。
【0035】
また、図3〜図5のオイルフィルタ57の下流側のオイル通路83、85、86、81、87、77およびメインギャラリ73に溜まった潤滑オイルは、点線の矢印で示すように、オイル通路83、85、86、81、87、77およびメインギャラリ73を逆流し、埋め栓76に形成されたオイルリーク孔78を介してクランクケース42内を通ってオイルパン56内に戻されることで、オイルフィルタ57の下流側のオイル通路83、85、86、81、87、77およびメインギャラリ73に溜まった潤滑オイルが抜き取られるとともに、濾紙を境界としてオイルフィルタ57内部の下流側に溜まった潤滑オイルも抜き取られる。
【0036】
ここで、オイルフィルタ57の下流側のオイル通路83、85、86、81、87、77およびメインギャラリ73に溜まった潤滑オイルをオイルパン56に戻すために、オイルリーク孔78が形成された埋め栓76を開口部79内に埋め込むことにより、シリンダブロック43やクランクケース42を直接加工することなく、オイルリーク孔78を形成することができる。このため、オイルリーク孔78の形成を容易に行うことが可能となるとともに、加工工程を煩雑化することなく、オイルリーク孔78の径を小さくすることができ、オイルフィルタ57の下流側のオイル通路87に通じるオイルリーク孔78を設けた場合においても、エンジン31の動作時の油圧の立ち上がりの劣化を抑制することが可能となるとともに、コストアップを抑制することができる。
【0037】
なお、上述した第2実施形態では、オイルフィルタ57の下流側のオイル通路83、85、86、81、87、77およびメインギャラリ73に溜まった潤滑オイルをオイルパン56に戻すために、オイルリーク孔78を埋め栓76に形成する方法について説明したが、シリンダブロック43やクランクケース42を直接加工することで、オイルフィルタ57の下流側のオイル通路83、85、86、81、87、77およびメインギャラリ73に溜まった潤滑オイルをオイルパン56に戻すオイルリーク孔を形成するようにしてもよい。
【0038】
図7は、本発明の第3実施形態に係る船外機の潤滑装置の概略構成を模式的に示す断面図である。なお、図1と同一部分については同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
図7において、図1のメインギャラリ12に接続された下流側オイル戻し流路15の代わりに、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路11には、チェックバルブ16が装着されている。ここで、チェックバルブ16は、オイルフィルタ7のオイル流出口から排出された潤滑オイルは通過させ、オイルフィルタ7のオイル流出口に逆流する潤滑オイルは阻止することができる。
【0039】
そして、エンジンの動作時には、オイルフィルタ7のオイル流出口から排出された潤滑オイルはチェックバルブ16を介してメインギャラリ12に送出され、クランクシャフト1の摺動面を潤滑することができる。
一方、エンジンの停止時には、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路11、13およびメインギャラリ12に溜まった潤滑オイルは、チェックバルブ16によってオイルフィルタ7の方向に逆流するのを阻止される。
【0040】
これにより、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路から潤滑オイルをリークさせることなく、エンジンの停止時に下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルがオイルフィルタ7の方向に戻るのを防止することができ、エンジンの動作時の油圧の立ち上がりを劣化させることなく、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルが外部に溢れ出すのを防止することができる。
なお、図7の実施形態では、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路11にチェックバルブ16を装着する方法について説明したが、オイルフィルタ7の下流側のオイル通路11に電磁バルブを装着するようにしてもよい。ここで、電磁バルブを用いる場合、エンジンの動作時には電磁バルブが開き、エンジンの停止時には電磁バルブが閉じるように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態に係る船外機の潤滑装置の概略構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る潤滑装置が適用される船外機の概略構成を示す断面図である。
【図3】図3(a)は図2のB−B線で切断した断面図、図3(b)は図3(a)のE−E線で切断した断面図である。
【図4】図4(a)は図3のC−C線で切断した断面図、図4(b)は図4(a)の埋め栓76の部分を拡大して示す断面図である。
【図5】図3のD−D線で切断した断面図である。
【図6】図2のA方向からオイルフィルタ57を見た時の正面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る船外機の潤滑装置の概略構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1、51 クランクシャフト
2、52 シリンダ
3、53 ピストン
4、54 コンロッド
5、55 オイルポンプ
6、56 オイルパン
7、57 オイルフィルタ
8、58 オイルストレーナ
9、10、11、13、77、80、82、81、83、84、86、87 オイル通路
12、73 メインギャラリ
14 上流側オイル戻し流路
15 下流側オイル戻し流路
16 チェックバルブ
21 アッパーカウリング
22 ロアーカウリング
23 アッパーケーシング
24 ロアーケーシング
25 ブラケット
31 エンジン
32 ドライブシャフト
33 ベベルギア
34 プロペラシャフト
35 プロペラ
36 エキゾーストガイド
41 クランクカバー
42 クランクケース
43 シリンダブロック
44 シリンダヘッド
45 クランク室
59 隔壁
61 燃焼室
62 点火プラグ
71 オイル流入口
72 オイル流出口
74 オイルリリーフバルブ
75、78 オイルリーク孔
76 埋め栓
79 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの可動部に潤滑オイルを導くオイル通路と、
前記オイル通路に前記潤滑オイルを送り出すオイルポンプと、
前記可動部に導かれる潤滑オイルを濾過するオイルフィルタと、
前記オイルフィルタの下流側のオイル通路に溜まった潤滑オイルをオイルパンに戻すオイル戻し流路とを備えることを特徴とする船外機の潤滑装置。
【請求項2】
前記オイル戻し流路は、前記オイルフィルタよりも下方に配置されていることを特徴とする請求項1記載の船外機の潤滑装置。
【請求項3】
前記オイル戻し流路は、クランク軸と並行してシリンダブロックに形成されたメインギャラリの下端に接続されていることを特徴とする請求項2記載の船外機の潤滑装置。
【請求項4】
前記オイルフィルタの下流側のオイル通路に連通するようにシリンダブロックに形成され、前記オイルパンに連通した空間に開口面が設けられた開口部と、
前記開口部に連通されたオイル通路が塞がれるように前記開口部内に埋め込まれた埋め栓とを備え、
前記オイル戻し流路は、前記埋め栓に形成されたオイルリーク孔であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の船外機の潤滑装置。
【請求項5】
前記オイル戻し流路に装着され、前記エンジンの動作に応じて開閉する電磁バルブをさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の船外機の潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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