説明

色素増感型太陽電池用電極

【課題】 支持体としてプラスチック基材を用いながら、十分な量の色素を吸着し高い電荷輸送効率を得ることができ、なおかつ多孔質酸化物膜が良好に基材に積層された、光発電性能の高い色素増感型太陽電池を製造できる、色素増感型太陽電池用電極を提供する。
【解決手段】 エレクトロスピニング法により得られた金属酸化物吐出物を破砕して得られた金属酸化物粒子を、透明導電層を備えたプラスチックフィルムのうえに積層したことを特徴とする、色素増感型太陽電池用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色素増感型太陽電池用電極に関し、詳しくは、プラスチック基材を使用していながら光発電性能の高い色素増感型太陽電池を製造することができる色素増感型太陽電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池は、色素増感半導体微粒子を用いた光電変換素子が提案されて以来(「ネイチャー(Nature)」 第353巻、第737〜740ページ、(1991年))、シリコン系太陽電池に替る新たな太陽電池として注目されている。
【0003】
プラスチック基材を用いた色素増感型太陽電池は、柔軟化や軽量化が可能であり、結晶性の金属酸化物微粒子を基材上の透明導電層に固着することで電荷輸送効率の高い太陽電池用電極の開発が検討されている。しかし、透明導電層上に固着された金属酸化物微粒子は、取り扱い時に粉末状で脱離したり電解液中で剥離したりする問題がある。
【0004】
他方、金属酸化物を製造する方法としてエレクトロスピニング法がある。この方法においては、ポリマー等の焼失成分を含む酸化物前駆体を高いアスペクト比で基材上に吐出したのちに高温で熱処理することで金属酸化物を得る。このエレクトロスピニング法を利用して、ガラス基材に金属酸化物の層を設けた色素増感型太陽電池用電極が既に知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−288745号公報
【特許文献2】特開2001−160426号公報
【特許文献3】特開2002−50413号公報
【特許文献4】特開2001−93590号公報
【特許文献5】特開2001−358348号公報
【特許文献6】特開2003−105658号公報
【特許文献7】特開2002−249966号公報
【特許文献8】US2005/0109385
【非特許文献1】ダン リら著、ナノレター、2004年、p933〜938
【非特許文献2】ダン ヨン キムら著、ナノテクノロジー、2004年、p1861〜1865
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の色素増感型太陽電池用電極においては、金属酸化物前駆体をガラス基板上の透明導電層のうえに高アスペクト比の状態で吐出して堆積したのち、高温で焼成することで金属酸化物層を得ている。この焼成の際に金属酸化物の自己収縮によって金属酸化物が透明導電層から剥離する傾向にあり、単にエレクトロスピニング法によって金属酸化物の層を設けても、十分に高い比表面積と高い電荷輸送効率とを達成することはできない。さらにガラス基材のうえでの金属酸化物の焼成工程自体が400℃以上で行なわれるため、この技術をプラスチック基材を用いる色素増感型太陽電池用電極に適用するのは困難である。
【0007】
本発明は、プラスチック基材を用いながら、十分な量の色素を吸着し高い電荷輸送効率を得ることができ、なおかつ多孔質酸化物膜が剥離することなく良好な密着性で基材に積層された、光発電性能の高い色素増感型太陽電池を製造できる、色素増感型太陽電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、エレクトロスピニング法により得られた金属酸化物吐出物を破砕して得られた金属酸化物粒子を、透明導電層を備えるプラスチックフィルムの透明導電層のうえに積層したことを特徴とする、色素増感型太陽電池用電極である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プラスチック基材を用いながら、十分な量の色素を吸着し高い電荷輸送効率を得ることができ、なおかつ多孔質酸化物膜が剥離することなく良好な密着性で基材に積層された、光発電性能の高い色素増感型太陽電池を製造できる、色素増感型太陽電池用電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
[金属酸化物粒子]
本発明において、透明導電層を備えたプラスチックフィルムのうえに積層する金属酸化物粒子は、エレクトロスピニング法で得られた金属酸化物吐出物を破砕したものである。
【0011】
金属酸化物吐出物は、金属酸化物前駆体およびこれとの錯体を形成する化合物の混合物と、溶媒と、高アスペクト形成性の溶質とから成る溶液を、エレクトロスピニング法にて捕集基板上に吐出して累積および焼成させてることによって得ることができる。この金属酸化物吐出物は高アスペクト比であり、本発明ではこれを破砕して用いる。
【0012】
金属酸化物前駆体としては、例えば、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラターシャリーブトキシドを用いることができるが、入手のしやすさより、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシドが好ましい。
【0013】
金属酸化物前駆体との錯体を形成する化合物としては、例えば、カルボン酸、アミド、エステル、ケトン、ホスフィン、エーテル、アルコール、チオールなどの配位性の化合物を用いることができる。好ましくは、アセチルアセトン、酢酸、テトラヒドロフランを用いる。金属酸化物前駆体との錯体を形成する化合物の添加量は、金属酸化物前駆体に対して、例えば0.5等量以上、好ましくは1〜10等量である。
【0014】
溶媒としては、例えばヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、テトラリンといった芳香族炭化水素;n−ブタノール、エチレングリコールといったアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサンといったエーテル;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、n−メチルアミノピリジン、水を用いることができるが、各溶質への親和性の点でN,N−ジメチルホルムアミド、水が好ましい。溶媒は単独で用いてもまた複数組み合わせて用いてもよい。溶媒の量としては、金属酸化物前駆体の重量に対して、好ましくは0.5〜30倍量、さらに好ましくは0.5〜20倍量である。
【0015】
高アスペクト比形成性の溶質としては、取り扱いの点や焼成によって除去される必要があることから有機高分子を用いることが好ましい。例えば、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、エーテルセルロース、ペクチン、澱粉、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルイソシアネート、ポリブチルイソシアネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリノルマルプロピルメタクリレート、ポリノルマルブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド−3,4′―オキシジフェニレンテレフタラミド共重合体、ポリメタフェニレンイソフタラミド、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、フィブロイン、天然ゴム、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルノルマルプロピルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルノルマルブチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルターシャリーブチルエーテル、ポリビニリデンクロリド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカルバゾル)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリビニルメチルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリプロピレンオキシド、ポリシクロペンテンオキシド、ポリスチレンサルホン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、並びにこれらの共重合体を例示することができる。中でも溶媒に対する溶解性の点から、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、セルローストリアセテートが好ましい。
【0016】
有機高分子の分子量は、分子量が低い場合は、有機高分子の添加量が大きくなり、焼成によって発生する気体が多くなり、金属酸化物の構造に欠陥が発生する可能性が高くなるので好ましくないことから、適宜設定される。好ましい分子量としては、例えばポリエチレンオキシドのうちポリエチレングリコールの場合、好ましくは100,000〜8,000,000、より好ましくは100,000〜600,000である。
【0017】
高アスペクト比形成性の溶質の添加量は、高アスペクト比の形成される濃度範囲で可能な限り少ないことが金属酸化物の緻密性向上の点から好ましく、金属酸化物前駆体の重量に対して好ましくは0.1〜200重量%、さらに好ましくは1〜150重量%である。
【0018】
金属酸化物吐出物はエレクトロスピニング法によって製造される。エレクトロスピニング法自体は公知の方法であり、高アスペクト比形成性の基質を溶解させた溶液を電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液を電極に向けて曳糸し、形成される高アスペクト比形成物を捕集基板上に累積することによって金属酸化物吐出物を得る方法である。金属酸化物吐出物は高アスペクト比形成性の基質を溶解させた溶媒が留去して積層体となっている状態のみならず、前記溶媒が吐出物に含まれている状態においても高アスペクト比を維持している。
【0019】
通常、エレクトロスピニングは室温で行われるが、溶媒の揮発が不十分な場合など、必要に応じて紡糸雰囲気の温度を制御したり、捕集基板の温度を制御してもよい。
【0020】
前述の電極は、金属、無機物、または有機物のいかなるものでも導電性を示しさえすれば用いることができ、また、絶縁物上に導電性を示す金属、無機物、または有機物の薄膜を持つものであっても良い。
【0021】
また、静電場は一対又は複数の電極間で形成されており、いずれの電極に高電圧を印加しても良い。これは、例えば電圧値が異なる高電圧の電極が2つ(例えば15kVと10kV)と、アースにつながった電極の合計3つの電極を用いる場合も含み、または3つを越える数の電極を使う場合も含む。
【0022】
エレクトロスピニング法によって吐出を行された高アスペクト比の金属酸化物吐出物は捕集基板である電極上に吐出・堆積される。次にこの金属酸化物吐出物を焼成する。焼成には、一般的な電気炉を用いることができるが、必要に応じて炉内の気体を置換可能な電気炉を用いてもよい。また、焼成温度は、十分な結晶成長及び制御できる条件が好ましい。金属酸化物が酸化チタンの場合、アナターゼ型の結晶成長とルチル型の結晶転位を抑制するために、好ましくは300〜900℃、さらに好ましくは500〜800℃で焼成するとよい。このようにして得られる高アスペクト比の金属酸化物吐出物は、例えば平均径が50〜1000nmであり長さが100μm以上であり、BET比表面積が0.1〜200m/gである。
【0023】
本発明では、この金属酸化物吐出物を粉砕して金属酸化物粒子として用いる。金属酸化物粒子のアスペクト比は、良好な電化輸送効率を得るために、好ましくは3〜300、さらに好ましくは5〜100であり、金属酸化物粒子の大きさは、短径が好ましくは50〜1000nm、長径が好ましくは0.1〜500μmである。
【0024】
[多孔質半導体層の形成]
多孔質半導体層を設けるために使う塗液は、エレクトロスピニング法により得られた金属酸化物粒子を分散媒に分散させた分散液である。
【0025】
金属酸化物粒子は、焼成後の金属酸化物吐出物を、例えば乳鉢、乾式ミルで破砕するがことで製造することができる。得られた金属酸化物粒子を分散媒に分散することで塗液が得られる。また塗液中に含まれる分散媒中で分散してもよい。分散媒中で、例えばボールミル、媒体攪拌型ミル、ホモジナイザーなどを利用した物理的分散、超音波処理によって分散するとよい。
【0026】
塗液中のエレクトロスピニング法により得られた金属酸化物粒子の量は、好ましくは0.5〜90重量%、さらに好ましくは1〜70重量%、特に好ましくは1〜50重量%である。0.5重量%未満であると最終的な多孔質半導体層の厚みが薄くなるため好ましくない。90重量%を超えると粘度が高くなりすぎて塗布するのが困難となり好ましくない。
【0027】
分散媒としては、水または有機溶媒、有機溶媒として好ましくはアルコールを用いる。分散媒への分散の際には、必要に応じて分散助剤を少量添加してもよい。分散助剤としては、例えば界面活性剤、酸、キレート剤を用いることができる。
【0028】
色素の吸着量を増すために、この分散液には、さらに金属酸化物微粒子を配合することが好ましい。この金属酸化物微粒子の粒径は2〜500nm、好ましくは3〜200nm、さらに好ましくは5〜150nmである。金属酸化物微粒子の粒径が2nm未満であると凝集性が著しく高く取り扱いが困難であるため好ましくない。500nmを超えると金属酸化物の比表面積が低下色素の吸着量が低下し光電効率の向上が困難であるため好ましくない。この金属酸化物微粒子の塗液中の含有量は、0.1〜50重量%、好ましくは1〜30重量%である。0.1重量%未満であると色素の吸着量が少なくなるため発電量が低下して好ましくない。50重量%を超えると剥離が起こることがあり好ましくない。なお、塗液中の金属酸化物粒子と金属酸化物微粒子との合計濃度は、高い発電量を得ると共に剥離を防止する観点から、好ましくは0.6〜90重量%である。
【0029】
この分散液には、さらに金属酸化物の接着剤を添加してもよい。金属酸化物の接着剤としては例えば金属酸化物前駆体を用いることができる。例えば、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラターシャリーブトキシド、チタン水酸化物を用いることができる。これらは単体で用いてもよく、複数組み合わせて使用してもよい。
【0030】
透明導電層のうえへの塗液の塗布は、従来から塗布加工に際し慣用されている任意の方法を用いて行うことができる。例えば、ローラ法、ディッブ法、エアーナイフ法、ブレード法、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法を適用することができる。汎用機によるスピン法やスプレー法を用いてもよく、凸版、オフセットおよびグラビアの3大印刷法をはじめ、凹版、ゴム版、スクリーン印刷のような湿式印刷を用いて塗布してもよい。これらの中から、液粘度やウェット厚さに応じて、好ましい製膜方法を用いることができる。塗液の塗布量は、乾燥時の支持体1m当り、好ましくは0.5〜20g/m、さらに好ましくは5〜10g/mである。
【0031】
透明導電層のうえに塗液を塗設したあと熱処理を行ない、多孔質半導体層を形成する。この熱処理は、乾燥工程で行なってもよく、乾燥後の別工程で行なってもよい。熱処理は、好ましくは170〜250℃で1〜120分間、さらに好ましくは180〜230℃で1〜90分間、特に好ましくは190〜220℃で1〜60分間の条件で行なう。この熱処理を行うことで、透明導電層を支持するフィルムの加熱による変形を防ぎながら多孔質半導体層の抵抗上昇を小さくすることができる。最終的な多孔質半導体層の厚さは、好ましくは1〜30μm、さらに好ましくは2〜10μmであり、特に透明度を高める場合には2〜6μmが最も好ましい。
【0032】
なお、多孔質半導体層を構成することになる金属酸化物粒子に対して粒子が強く吸収する紫外光などを照射したり、マイクロ波を照射して微粒子層を加熱することにより、粒子の間の物理的接合を強める処理を行ってもよい。
【0033】
エレクトロスピニング法により得られた金属酸化物吐出物を破砕して得られた金属酸化物粒子からなる多孔質半導体層の形成は、電着によって金属酸化物粒子の薄膜を透明導電層のうえに担持する方法を用いて行なってもよい。すなわち、半導体微粒子を適当な低伝導度の溶媒、例えば純水、アルコールやアセトニトリル、THFなどの極性有機溶媒、ヘキサン、クロロホルムなどの非極性有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒に添加し、凝集のないよう均一に分散し、電着すべき導電性樹脂シート電極と対極とを一定の間隔で平行に対向させ、この間隙に上記の分散液を注入し、両電極間に直流電圧を印加する。このようにして、分散液の濃度と電極間隔を選択することにより、基板電極に一定かつ均一な厚みの電着膜である多孔質半導体層を形成してもよい。
【0034】
なお、多孔質半導体を担持する透明導電層が対極と電気的に短絡することを防止するな
どの目的のため、予め透明導電層の上に下塗り層を設けておくこともできる。この下塗り層としては、TiO、SnO、ZnO、Nb、特にTiOが好ましい。この下塗り層は、例えばElectrochim、Acta40、643〜652(1995)に記載されているスプレーパイロリシス法の他、スパッタ法などにより設けることができる。この下塗り層の膜厚は、好ましくは5〜1000nm、さらに好ましくは10〜500nmである。
【0035】
[プラスチックフィルム]
本発明において、透明導電層を支える支持体としてプラスチックフィルムを用いる。プラスチックフィルムとしては、ポリエステルフィルムが好ましく、このポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。
【0036】
かかるポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等を例示することができる。これらの共重合体またはこれと小割合の他樹脂とのブレンドであってもよい。これらのポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが力学的物性や光学物性等のバランスが良いので好ましい。
【0037】
特にポリエチレン−2,6−ナフタレートは機械的強度の大きさ、熱収縮率の小ささ、加熱時のオリゴマー発生量の少なさなどの点でポリエチレンテレフタレートに勝っているので最も好ましい。
【0038】
ポリエチレンテレフタレートとしては、エチレンテレフタレート単位を好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上有するものを用いるとよい。ポリエチレン−2,6−ナフタレートとしては、ポリエチレン−2,6−ナフタレート単位を好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上有するものを用いるとよい。ポリエステルは、ホモポリマーでも、第三成分を共重合したコポリマーでもよいが、ホモポリマーが好ましい。
【0039】
ポリエステルの固有粘度は、好ましくは0.40dl/g以上、さらに好ましくは0.40〜0.90dl/gである。固有粘度が0.40dl/g未満では工程切断が多発することがあり好ましくなく、0.90dl/gを超えると溶融粘度が高いため溶融押出しが困難になり、重合時間が長く不経済であり好ましくない。
【0040】
ポリエステルは従来公知の方法で得ることができる。例えば、ジカルボン酸とグリコールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法で得ることができる。また、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとをエステル交換反応触媒を用いて反応させた後、重合反応触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。エステル交換反応触媒としては、従来公知のもの、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、コバルトを含む化合物を用いることができる。重合反応触媒としては、従来公知のもの、例えば三酸化アンチモン、五酸化アンチモンのようなアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウムで代表されるようなゲルマニウム化合物、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルカリウム、チタントリスアセチルアセトネートのようなチタン化合物を用いることができる。エステル交換反応を経由して重合を行う場合は、重合反応前にエステル交換触媒を失活させる目的でトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、正リン酸等のリン化合物が通常は添加されるが、リン元素としてのポリエステル中の含有量が20〜100ppmであることが熱安定性の点から好ましい。なお、ポリエステルは、溶融重合後これをチップ化し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中において更に固相重合を施してもよい。
【0041】
ポリエステルフィルムは、実質的に粒子を含有しないことが好ましい。粒子を含有していると高透明性が損なわれたり、表面が粗面化し透明導電層の加工が困難になることがある。フィルムのヘーズ値は、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下、特に好ましくは0.5%以下である。
【0042】
ポリエステルフィルムは、波長370nmにおける光線透過率が3%以下、400nmでの光線透過率が70%以上であることが好ましい。なお、光線透過率は(株)島津製作所製分光光度計MPC3100を用いて測定した数値である。この光線透過率は、2,6−ナフタレンジカルボン酸のような紫外線を吸収するモノマーを構成成分とするポリエステルを用いることにより、また紫外線吸収剤をポリエステルに含有させることにより得ることができる。
【0043】
紫外線吸収剤を用いる場合、例えば2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−p−フェニレンビス(6−メチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−p−フェニレンビス(6−クロロ−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(2,6−ナフチレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などの環状イミノエステル化合物を用いることができる。
【0044】
ポリエステルフィルムは、3次元中心線平均粗さが、両面共に好ましくは0.0001〜0.02μm、さらに好ましくは0.0001〜0.015μm、特に好ましくは0.0001〜0.010μmである。特に、少なくとも片面の3次元中心線平均粗さが0.0001〜0.005μmであると、透明導電層の加工がしやすくなるので好ましい。少なくとも片面の最も好ましい表面粗さは、0.0005〜0.004μmである。
ポリエステルフィルムの厚みは、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは20〜400μm、特に好ましくは50〜300μmである。
【0045】
次に、ポリエステルフィルムの好ましい製造方法について説明する。なおガラス転位温度をTgと略記する。ポリエステルフィルムは、ポリエステルをフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、この未延伸フィルムをTg〜(Tg+60)℃で長手方向に1回もしくは2回以上合計の倍率が3倍〜6倍になるよう延伸し、その後Tg〜(Tg+60)℃で幅方向に倍率が3〜5倍になるように延伸し、必要に応じて更にTm180℃〜255℃で1〜60秒間熱処理を行うことにより得ることができる。ポリエステルフィルムの長手方向と幅方向における熱収縮率の差、および長手方向の熱収縮を小さくするためには、特開平57−57628号公報に示されるような、熱処理工程で縦方向に収縮せしめる方法や、特開平1−275031号公報に示されるような、フィルムを懸垂状態で弛緩熱処理する方法などを用いることができる。
【0046】
[透明導電層]
透明導電層としては、例えば導電性の金属酸化物(フッ素ドープ酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛複合酸化物(IZO)、金属の薄膜(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウムなど)、炭素材料を用いることができる。この透明導電層は2種以上を積層したり、複合化させたものでもよい。これらのなかでもITOおよびIZOは、光線透過率が高く低抵抗であるため、特に好ましい。
【0047】
透明導電層の表面抵抗は、好ましくは100Ω/□以下、さらに好ましくは40Ω/□以下である。100Ω/□を超えると電池内抵抗が大きくなりすぎて光発電効率が低下するため好ましくない。
【0048】
透明導電層の厚みは、好ましくは100〜500nmである。100nm未満であると十分に表面抵抗値を低くすることができず、500nmを超えると光線透過率が低下するとともに、透明導電層がわれやすくなり好ましくない。
【0049】
透明導電層の表面張力は、好ましくは40mN/m以上、さらに好ましくは65mN/m以上である。表面張力が40mN/m未満であると、透明導電層と多孔質半導体の密着性が劣ることがあり、65mN/m以上であると溶媒の主成分が水である水性塗液の塗布による多孔質半導体層の形成が容易になりより好ましい。
【0050】
上記性質を備える透明導電層は、例えばITOやIZOを用いて透明導電層を形成し、下記のいずれかの方法で加工を施すことにより得ることができる。
(1)酸性もしくはアルカリ性溶液で透明導電層表面を活性化する方法
(2)紫外線や電子線を透明導電層表面に照射して活性化する方法
(3)コロナ処理やプラズマ処理を施して透明導電層表面を活性化する方法
中でもプラズマ処理により表面を活性化する方法は、高い表面張力が得られるため特に好ましい。
【0051】
[易接着層]
ポリエステルフィルムと透明導電層との密着性を向上させるために、ポリエステルフィルムと透明導電層の間に易接着層を設けることが好ましい。易接着層の厚みは好ましくは10〜200nm、さらに好ましくは20〜150nmである。易接着層の厚みが10nm未満であると密着性を向上させる効果が乏しく、200nmを超えると易接着層の凝集破壊が発生しやすくなり密着性が低下することがあり好ましくない。
【0052】
易接着層を設ける場合、ポリエステルフィルムの製造過程で塗工により設けること好ましく、さらには配向結晶化が完了する前のポリエステルフィルムに塗布することが好ましい。ここで、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向または横方向の何れか一方に配向せしめた一軸配向フィルム、さらには縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸配向せしめたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸せしめて配向結晶化を完了せしめる前の二軸延伸フィルム)を含むものである。なかでも、未延伸フィルムまたは一方向に配向せしめた一軸延伸フィルムに、上記組成物の水性塗液を塗布し、そのまま縦延伸および/または横延伸と熱固定とを施すのが好ましい。
【0053】
易接着層は、ポリエステルフィルムと透明導電層の双方に優れた接着性を有する素材からなることが好ましく、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂、シリコンアクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリシロキサン樹脂を用いることができる。これらの樹脂は単独で用いても良く、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0054】
[ハードコート層]
ポリエステルフィルムと透明導電層との密着性、特に密着の耐久性を向上させるために、易接着層と透明導電層との間にハードコート層を設けてもよい。ハードコート層の厚みは好ましくは0.01〜20μm、さらに好ましくは1〜10μmである。
【0055】
ハードコート層を設ける場合、易接着層を設けたポリエステルフィルム上に塗工により設けることが好ましい。ハードコート層は、易接着層と透明導電層の双方に優れた密着性を有する素材からなることが好ましく、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、UV硬化系樹脂、エポキシ系樹脂といった樹脂成分やこれらと無機粒子の混合物を用いることができる。無機粒子としては、例えばアルミナ、シリカ、マイカの粒子を用いることができる。
【0056】
[反射防止層]
本発明においては、光線透過率を上げて光発電効率を高めることを目的として、透明導電層とは反対側の面に反射防止層を設けてもよい。
反射防止層を設ける方法としては、ポリエステルフィルムの屈折率とは異なる屈折率を有する素材を単層もしくは2層以上に積層形成する方法が好ましい。単層構造の場合は、基材フィルムよりも小さな屈折率を有する素材を使用するのがよく、また2層以上の多層構造とする場合は、積層フィルムと隣接する層はポリエステルフィルムよりも大さな屈折率を有する素材とし、その上に積層される層には、これよりも小さな屈折率を有する素材を選択することが好ましい。
【0057】
この反射防止層を構成する素材としては、有機材料、無機材料の如何を問わず上記屈折率の関係を満足するものであればよいが、好ましくは、CaF,MgF,NaAlF,SiO,ThF,ZrO,Nd,SnO,TiO,Ce、O,ZnS,Inからなる群から選ばれる誘電体を用いる。
【0058】
反射防止層を積層する方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーテイング法などのドライコーティング法を用いることができ、また例えばグラビア方式、リバース方式、ダイ方式などのウェットコーティング法を用いることができる。
反射防止層の積層に先立って、コロナ放電処理、プラズマ処理、スパッタエッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、プライマ処理、易接着処理などの前処理を施してもよい。
【0059】
[色素増感型太陽電池の作成]
本発明の電極を用いて色素増感型太陽電池を作成するには、公知の方法を用いることができる。具体的は例えば下記の方法で作成することができる。
(1)本発明の電極の多孔質半導体層に色素を吸着させる。ルテニウムビピリジン系錯体(ルテニウム錯体)に代表される有機金属錯体色素、シアニン系色素、クマリン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素など、可視光領域および赤外光領域の光を吸収する特性を有する色素を、アルコールやトルエンなどの溶媒に溶解させて色素溶液を作成し、多孔質半導体層を浸漬するか、多孔質半導体層に噴霧または塗布する。(電極A)
(2)対極としては、本発明の電極の透明導電層側に、薄い白金層をスパッタ法により形成したものを用いる。(電極B)
(3)上記電極Aと電極Bを、熱圧着性のポリエチレンフィルム製フレーム型スペーサー(厚さ20μm)を挿入して重ね合わせ、スペーサー部を120℃に加熱し、両電極を圧着する。さらに、そのエッジ部をエポキシ樹脂接着剤でシールする。
(4)シートのコーナー部にあらかじめ設けた電解液注入用の小孔を通して、ヨウ化リチウムとヨウ素(モル比3:2)ならびにスペーサーとして平均粒径20μmのナイロンビーズを3重量%含む電解質水溶液を注入する。内部の脱気を十分に行い、最終的に小孔をエポキシ樹脂接着剤で封じる。
【実施例】
【0060】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。また以下の各実施例、比較例における評価項目は以下のとおりの手法にて実施した。
(1)金属酸化物粒子および金属酸化物微粒子の平均径および平均長さ
金属酸化物粒子または金属酸化物微粒子の表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)により撮影(倍率2000倍)して得た写真図から無作為に20箇所を選んでフィラメントの径及び長さを測定し、平均値を求めて、平均径及び平均長さとした。
【0061】
(2)BET比表面積の測定方法
金属酸化物粒子または金属酸化物微粒子の比表面積測定を、窒素ガスを用いたBET法により測定した。
【0062】
(3)X線回折の測定
金属酸化物吐出物を、X線回折装置(株式会社リガク社製)を使用し、X線源にCuのKα線を用い、多層膜コンフォーカルミラーにより単色化してX線回折図形を得た。
【0063】
(4)固有粘度
固有粘度([η]dl/g)は、35℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。
【0064】
(5)フィルム厚み
マイクロメーター(アンリツ(株)製のK−402B型)を用いて、フィルムの連続製膜方向および幅方向に各々10cm間隔で測定を行い、全部で300ヶ所のフィルム厚みを測定した。得られた300ヶ所のフィルム厚みの平均値を算出してフィルム厚みとした。
【0065】
(6)塗布層の厚み
フィルムの小片をエポキシ樹脂(リファインテック(株)製エポマウント)中に包埋し、Reichert−Jung社製Microtome2050を用いて包埋樹脂ごと50nm厚さにスライスし、透過型電子顕微鏡(トプコンLEM−2000)にて加速電圧100KV、倍率10万倍にて観察し、塗膜層の厚みを測定した。
【0066】
(7)表面抵抗値
4探針式表面抵抗率測定装置(三菱化学(株)製、ロレスタGP)を用いて任意の5点を測定し、その平均値を代表値として用いた。
【0067】
(8)表面張力
表面張力が既知である水、およびヨウ化メテレンの透明導電性薄膜に対する接触角:θ、θを接触角計(協和界面科学社製「CA−X型」)を使用し、25℃、50%RHの条件で測定した。これらの測定値を用い、以下の様にして透明導電性薄膜の表面張力γを算出した。
透明導電性薄膜の表面張力γは、分散性成分γsdと極性成分γspとの和である。即ち、
γ=γsd+γsp (式1)
また、Youngの式より、
γ=γsw+γ・cosθ (式2)
γ=γsy+γ・cosθ (式3)
ここで、γswは透明導電性薄膜と水との間に働く張力、γswは透明導電性薄膜とヨウ化メチレンとの間に働く張力、γは水の表面張力、γはヨウ化メチレンの表面張力である。
また、Fowkesの式より、
γsw=γ+γ−2×(γsd・γwd1/2−2×(γsp・γwp1/2 (式4)
γsy=γ+γ−2×(γsd・γyd1/2−2×(γsp・γyp1/2 (式5)
である。
ここで、γwdは水の表面張力の分散性成分、γwpは水の表面張力の極性成分、γydはヨウ化メテレンの表面張力の分散性成分、γypはヨウ化メチレンの表面張力の極性成分である。
【0068】
式1〜5の連立方程式を解くことにより、透明導電性薄膜の表層張力γ=γsd+γspを算出できる。この時、水の表面張力(γ):72.8mN/m、よう化メチレンの表面張力(γ):50.5mN/m、水の表面張力の分散性成分(γwd):21.8mN/m、水の表面張力の極性成分(γwp):51.0mN/m、ヨウ化メチレンの表面張力の分散性成分(γyd):49.5mN/m、ヨウ化メテレンの表面張力の極性成分(γyp):1.3mN/mを用いた。
【0069】
(9)I−V特性(光電流−電圧特性)
100mm大の色素増感型太陽電池を形成し、下記の方法で光発電効率を算出した。ぺクセルテクノロジーズ社製ソーラーシュミレーター(PEC−L10)を用い入射光強度が100mW/cmの模擬太陽光を、気温25℃、湿度50%の雰囲気で測定した。電流電圧測定装置(PECK 2400)を用いて、システムに印加するDC電圧を10mV/secの定速でスキャンし、素子の出力する光電流を計測することにより、光電流−電圧特性を測定し、光発電効率を算出した。
【0070】
[実施例1]
<ポリエステルフィルムの作成>
固有粘度が0.63で、実質的に粒子を含有しないポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのペレットを170℃で6時間乾燥後、押出機ホッパーに供給し、溶融温度305℃で溶融し、平均目開きが17μmのステンレス鋼細線フィルターで濾過し、3mmのスリット状ダイを通して表面温度60℃の回転冷却ドラム上で押出し、急冷して未延伸フィルムを得た。このようにして得られた未延伸フィルムを120℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で15mm上方より850℃のIRヒーターにて加熱して縦方向に3.1倍に延伸した。この縦延伸後のフィルムの片面に下記の塗剤Aを乾燥後の塗膜厚みが0.25μmになるようにロールコーターで塗工し易接層を形成した。
【0071】
続いてテンターに供給し、140℃にて横方向に.3.3倍に延伸した。得られた二軸配向フィルムを245℃の温度で5秒間熱固定し、固有粘度が0.58dl/g、厚み125μmのポリエステルフィルムを得た。その後、このフィルムを懸垂状態で、弛緩率0.7%、温度205℃で熱弛緩させた。
【0072】
<塗剤Aの調製>
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル66部、イソフタル酸ジメチル47部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル8部、エチレングリコール54部、ジエチレングリコール62部を反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.05部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。次いで反応系の温度を徐々に255℃まで上昇させ系内を1mmHgの減圧にして重縮合反応を行い、ポリエステルを得た。このポリエステル25部をテトラヒドロフラン75部に溶解させ、得られた溶液に10000回転/分の高速攪拌下で水75部を滴下して乳白色の分散体を得、次いでこの分散体を20mmHgの減圧下で蒸留し、テトラヒドロフランを留去し、固形分が25重量%のポリエステルの水分散体を得た。
【0073】
次に、四つ口フラスコに、界面活性剤としてラウリルスルホン酸ナトリウム3部、およびイオン交換水181部を仕込んで窒素気流中で60℃まで昇温させ、次いで重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部、亜硝酸水素ナトリウム0.2部を添加し、更にモノマー類である、メタクリル酸メチル30.1部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン21.9部、ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリル酸39.4部、アクリルアミド8.6部の混合物を3時間にわたり、液温が60〜70℃になるよう調整しながら滴下した。滴下終了後も同温度範囲に2時間保持しつつ、攪拌下に反応を継続させ、次いで冷却して固形分が35%重量のアクリルの水分散体を得た。
【0074】
一方で、シリカフィラー(平均粒径:100nm)(日産化学株式会社製 商品名スノーテックスZL)を0.2重量%、濡れ剤として、ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名ナロアクティーN−70)の0.3重量%添加した水溶液を作成した。
上記のポリエステルの水分散体8重量部、アクリルの水分散体7重量部と水溶液85重量部を混合して、易着層の形成に用いる塗剤Aを作成した。
【0075】
<ハードコートの形成>
得られたポリエステルフィルムを用い、この易接層側にUV硬化性ハードコート剤(JSR製 デソライトR7501)を厚さ約5μmになるよう塗布し、UV硬化させてハードコート層を形成した。
【0076】
<透明導電層の形成>
ハードコート層が形成された片面に、主として酸化インジウムからなり酸化亜鉛が10重量%添加されたIZOターゲットを用いた直流マグネトロンスパッタリング法により、膜厚260nmのIZOからなる透明導電層を形成した。透明導電層のスパッタリング法による形成は、プラズマの放電前にチャンバー内を5×10−4Paまで排気した後、チャンバー内にアルゴンと酸素を導入して圧力を0.3Paとし、IZOターゲットに2W/cm2の電力密度で電力を印加して行った。酸素分圧は3.7mPaであった。透明導電層の表面抵抗値は15Ω/□であった。
【0077】
次いで、常圧プラズマ表面処理装置(積水化学工業製AP−T03−L)を用いて、窒素気流下(60L/分)、1m/分にて透明導電層表面にプラズマ処理を施した。このとき、表面抵抗値16Ω/□、表面張力は71.5mN/mであった。
【0078】
<反射防止層の形成>
積層フィルムの透明導電層を形成した面とは反対側の面に、厚さ75nmで屈折率1.89のY層、その上に厚さ120nmで屈折率2.3のTiO層、更にその上に厚さ90nmで屈折率1.46のSiOを、夫々高周波スパッタリング法によって製膜し、反射防止処理層とした。各静電体薄膜を製膜するに際し、いずれも真空度は1×10−3Torrとし、ガスとしてAr:55sccm、O:5sccmを流した。また、基板は製膜行程中、加熱もしくは冷却をすることなく室温のままとした。このようにして、透明導電層と反射防止層を備える積層フィルムを得た。
【0079】
<エレクトロスピニング法による金属酸化物の調製>
ポリアクリロニトリル(和光純薬工業株式会社製)1重量部、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社製、特級)9重量部よりなる溶液に、チタンテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業株式会社製、一級)1重量部とアセチルアセトン(和光純薬工業株式会社製、特級)1重量部よりなる溶液を混合し紡糸溶液を調製した。この紡糸溶液からエレクトロスピニング法による吐出装置を用いて、金属酸化物を繊維構造体状に吐出した。噴出ノズル1の内径は0.8mm、電圧は15kV、噴出ノズル1から電極4までの距離は15cmであった。用いたエレクトロスピニング法による吐出装置の詳細を図1に示す。得られた繊維構造体状の金属酸化物を空気雰囲気下で電気炉を用いて600℃まで10時間で昇温し、その後600℃で2時間保持することにより高アスペクト比の金属酸化物吐出物を作製した。この高アスペクト比の金属酸化物を電子顕微鏡で観察したところ、繊維径は600nmであり、繊維長100μm以上であった。また、BET比表面積は73m/gであった。得られた金属酸化物吐出物のX線回折結果では、2θ=25.3°に鋭いピークが認められ、酸化チタンのアナターゼ型結晶が形成されていることが確認された。
【0080】
<多孔質半導体層の形成>
前述のエレクトロスピニング法による金属酸化物10.0重量部、テトライソプロポキシチタン(和光純薬製)7.5重量部、エタノール(和光純薬製)82.5重量部からなる分散液を作成し40.0Hzの超音波照射下30分処理した。当初フィルム状であった金属酸化物が溶液中に良好に分散した。こうして超音波処理により破砕された金属酸化物粒子の平均アスペクト比は7.2であり、大きさは、平均短径が600nm、平均長径は4.3μmであった。この塗液を直ちにバーコーターにて塗布し、大気中180℃で5分間の熱処理を行って厚み5μmになるように多孔質二酸化チタン層を形成した。熱処理後多孔質半導体層の剥離や脆さは観察されず、基材と密着性の良い色素増感型太陽電池の電極が得られた。
【0081】
<色素増感型太陽電池の作成>
この電極をルテニウム錯体(Ru535bisTBA、Solaronix製)の300μMエタノール溶液中に24時間浸漬し、光作用電極表面にルテニウム錯体を吸着させた。
他方、前記<反射防止層の形成>で得た透明導電層と反射防止層を備える積層フィルムの透明導電層のうえにスパッタリング法によりPt膜を堆積して対向電極を作成した。
【0082】
電極と対向電極を、熱圧着性のポリエチレンフィルム製フレーム型スペーサー(厚さ20μm)を介して重ね合わせ、スペーサー部を120℃に加熱し、両電極を圧着する。さらに、そのエッジ部をエポキシ樹脂接着剤でシールする。電解質溶液(0.5Mのヨウ化リチウムと0.05Mのヨウ素と0.5Mのtert−ブチルピリジンを含む3−メトキシプロピオニトリル溶液)を注入した後、エポキシ系接着剤でシールした。
【0083】
完成した色素増感型太陽電池のI−V特性の測定(有効面積100mm)を行った結果、開放電圧、短絡電流密度、曲線因子はそれぞれ、0.7V、5.9mA/cm、0.5であり、その結果、光発電効率は2.0%であった。
【0084】
[実施例2]
多孔質半導体層形成時にエレクトロスピニング法による金属酸化物粒子5.0重量部、テイカ株式会社製光触媒用酸化チタンAMT−100(平均粒子径:6nm アナターゼ相)を5.0重量部、テトライソプロポキシチタン7.5重量部、エタノール82.5重量部とした以外は同様の手法を用いた。熱処理後多孔質半導体層の剥離や脆さは観察されず、基材と密着性の良い色素増感型太陽電池の電極を作成した。こうして得られた電極を用いて実施例1と同様の手法で色素増感型太陽電池を作成しI−V特性の測定(有効面積100nm)を行った結果開放電圧、短絡電流密度、曲線因子はそれぞれ、0.7V、6.7mA/cm、0.6であり、その結果、光発電効率は2.8%であった。
【0085】
[比較例1]
多孔質半導体層形成時にエレクトロスピニング法による金属酸化物を用いず、テイカ株式会社製光触媒用酸化チタンAMT−100(平均粒子径:6nm アナターゼ相)のみを10.0重量部、テトライソプロポキシチタン7.5重量部、エタノール82.5重量部とした以外は同様の手法を用いた。熱処理後多孔質半導体層は非常に脆く剥離が観察された。この電極を用いて実施例1と同様の手法で色素増感型太陽電池を作成しI−V特性の測定(有効面積100nm)を行った結果開放電圧、短絡電流密度、曲線因子はそれぞれ、0.5V、3.1mA/cm、0.4であり、その結果、光発電効率は0.6%であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の色素増感型太陽電池用電極は、色素増感型太陽電池の電極として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施例で用いたエレクトロスピニング法による吐出装置である。
【符号の説明】
【0088】
1 溶液噴出ノズル
2 溶液
3 溶液保持槽
4 電極
5 高電圧発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスピニング法により得られた金属酸化物吐出物を破砕して得られた金属酸化物粒子を、透明導電層を備えるプラスチックフィルムの透明導電層のうえに積層したことを特徴とする、色素増感型太陽電池用電極。
【請求項2】
金属酸化物粒子の積層が、金属酸化物粒子を含有する塗液を塗布することによって行なわれる、請求項1記載の色素増感型太陽電池用電極。
【請求項3】
塗液が、エレクトロスピニング法により得られた金属酸化物吐出物を破砕して得られた金属酸化物粒子の他に、さらに粒子径2〜500nmの金属酸化物微粒子を含む、請求項2記載の色素増感型太陽電池用電極。

【図1】
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【公開番号】特開2007−18951(P2007−18951A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201323(P2005−201323)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】