説明

色素増感太陽電池及びその製造方法

【課題】構造が簡単なため製造コストの低減及び品質の安定化が可能で、しかも大型化も容易となる色素増感太陽電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】表側透明基板11と、表側透明基板11に対向配置され、内側には導電膜12が形成された裏側基板13と、表側透明基板11と裏側基板13との間で、表側透明基板11の内側に配置された色素が担持された酸化チタンからなる光起電層14と、光起電層14の内側に配置されたポーラスチタン層15と、表側透明基板11及び裏側基板13の間にあって、光起電層14及びポーラスチタン層15を囲む部屋を形成する非導電セパレータ16と、ポーラスチタン層15に電気的に接続され、非導電セパレータ16の外部まで延長形成されたチタン電極17と、非導電セパレータ16、表側透明基板11、及び裏側基板13で囲まれる空間に充填される電解質18とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシリコン系太陽電池は、高価な材料と特殊な製造装置を使用するため製造コストが上昇し発電コストも高くなるという問題を有している。このため、安価な材料を用いて、しかも特殊な製造装置も必要としない色素増感太陽電池が提案されている。ここで、色素増感太陽電池の素子は、透明基板(例えば、ガラス板)の一方の面に形成された透明導電膜(例えば、フッ素がドープされた酸化スズ)と、透明導電膜上に形成され増感色素が担持された多孔質半導体層(例えば、多孔質酸化チタン層)と、多孔質半導体層に対向して設けられた基板の内側面に形成された導電膜(例えば、白金膜)と、透明基板及び基板の間に封入された電解質(例えば、ヨウ素電解液)とを備えている。高い発電エネルギーを得るためには素子の大型化が必要になるが、透明導電膜のシート抵抗が高いため、素子を大型化すると電池の内部抵抗(フィルファクター(FF値)ともいう)が増大して発電性能が低下するという問題が生じる。そこで、透明導電膜の表面に、例えば銀ペースト等の導電性材料で形成した集電配線を設けて、大型化に伴う電池の内部抵抗の増大を防止している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−203681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているように透明導電膜の表面に集電配線を設けた場合、集電配線は電解質と接触して腐食されるため、集電配線の周囲を保護層で被覆して腐食を防止する必要がある。このため、色素増感太陽電池の構造が複雑になることで製造工程が長期化し、製造コストが上昇するという問題が生じる。また、集電配線を被覆する保護層の形成状態により集電配線の腐食状況が影響を受け、色素増感太陽電池の耐久性が変動し易いという問題も生じる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、構造が簡単なため製造コストの低減及び品質の安定化が可能で、しかも大型化も容易となる色素増感太陽電池及び高速フレーム溶射法又はコールドスプレー法を用いたその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る色素増感太陽電池は、光が当たる表側透明基板と、
前記表側透明基板に隙間を有して対向配置され、内側には導電膜が形成された裏側基板と、
前記表側透明基板と前記裏側基板との間で、前記表側透明基板の内側に配置された色素が担持された酸化チタン及び酸化チタン以外の半導体物質のいずれか一方又は双方からなる光起電層と、
前記光起電層の内側に配置されたポーラスチタン層と、
前記表側透明基板及び前記裏側基板の間にあって、絶縁体又は絶縁体と導体の組み合わせからなって、前記光起電層及び前記ポーラスチタン層を囲む部屋を形成する非導電セパレータと、
前記ポーラスチタン層に電気的に接続され、前記非導電セパレータの外部まで延長形成されたチタン電極と、
前記非導電セパレータ、前記表側透明基板、及び前記裏側基板で囲まれる空間に充填される電解質とを有している。
【0007】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層の厚みは、0.1〜200μmの範囲にすることが好ましい。
ここで、該ポーラスチタン層における厚みの下限値は、好ましくは0.5μm、より好ましくは1μmで、上限値は、好ましくは100μm、より好ましくは50μmである。下限値の限定理由は、該ポーラスチタン層の厚みを0.1μm以上とすることで、光起電層の内側に配置する該ポーラスチタン層の電気抵抗値が低下するため、該ポーラスチタン層に連続化した導電性を付与できる。他方、上限値は、該ポーラスチタン層の厚みを200μm以下とすることで、光起電層の内側と裏側基板の導電膜との距離を一定範囲内、例えば、1〜100μm、好ましくは10〜50μmに保つことができ、本願発明の色素増感太陽電池を大型化しても、電気抵抗値の小さい電池を得ることができる。
【0008】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層の酸素濃度が0又は0を超え15%以下で、窒素濃度が0又は0を超え1.5%以下であることが好ましい。
酸素、及び窒素のガス成分は、通常ポーラスチタン層には、不純物として微少量が含まれる。しかしこれらのガス濃度では上限値を超えない限り、ポーラスチタン層の導電性は確保することができるので、ガス濃度の上限値のみを規定する。酸素濃度の上限値は15%、好ましくは10%、より好ましくは8%で、窒素濃度の上限値は1.5%、好ましくは1%、より好ましくは0.8%である。酸素濃度が上限値を超えるとTiOやTiO等の酸化物が、窒素濃度が上限値を超えるとTiN0.3等の窒化物がそれぞれ生成し、ポーラスチタン層の電気抵抗値が上昇するため好ましくはない。酸素濃度が15%以下、及び窒素濃度が1.5%以下存在しても、太陽電池へ及ぼす影響は小さいので、ポーラスチタン層の形成、取扱いを酸素が存在する雰囲気、例えば、大気中でも溶射施工を行うことができる。
【0009】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層のシート抵抗が0.002〜10Ωであることが好ましい。
ここで、シート抵抗は低ければ低いほど、色素増感太陽電池の内部抵抗が減少するので、電池としては有効である。このため、シート抵抗の上限値を10Ω(好ましくは8Ω、より好ましくは5Ω)とすることで、色素増感太陽電池の内部抵抗の増大を抑制することができる。しかし、シート抵抗を一定値以上とすることで、電解質を介して、裏側基板の導電膜とポーラスチタン層が短絡するのを防止して、該導電膜と該ポーラスチタン層を接近させることができるので、シート抵抗の下限値は0.002Ωとする。
【0010】
なお、シート抵抗の下限値を0.002Ωとしたのは、以下の算定結果に基づく。すなわち、長さがL、断面積がS、幅がw、厚みがtのポーラスチタン層の電気抵抗Rは、ポーラスチタン層の比抵抗値をρとすると、
R=ρ・L/S=ρ・L/wt ・・・・・(1)
と求まる。ここで、ポーラスチタン層のシート抵抗Rsは、L=wのときの電気抵抗値であるから、
Rs=ρ/t ・・・・・(2)
一方、緻密チタン(バルク状のチタン)の比抵抗値ρは、55×10−8Ω・m程度の値であるため、厚みtが200μmでは、
Rs=55×10−8Ω・m/2×10−4m=0.00275Ω ・・・・・(3)
厚みtが100μmでは、
Rs=55×10−8Ω・m/1×10−4m=0.0055Ω ・・・・・(4)
厚みtが0.1 μmでは、
Rs=55×10−8Ω・m/1×10−7m= 5.5Ω ・・・・・(5)
となる。従って、(3)〜(5)の算定結果から、前記ポーラスチタン層のシート抵抗Rsを0.002〜10Ωと規定することができる。
【0011】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層は、加熱されたチタン粒子の衝突(例えば、溶射やコールドスプレー)によって形成されることが好ましい。
【0012】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、前記導電膜は、白金、導電性高分子、及びカーボンのいずれか1種又は2種以上とすることができる。
これにより、電解質が接触しても導電膜の腐食を防止できる。
【0013】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、前記チタン電極は前記表側透明基板の内側に前記光起電層の周縁部を取囲んで形成され、該チタン電極に前記ポーラスチタン層の周縁部が被さって該チタン電極と該ポーラスチタン層を電気的に接続することができる。
また、前記ポーラスチタン層の周縁部が前記チタン電極と前記光起電層との間に配置されて該ポーラスチタン層と該チタン電極を電気的に接続することもできる。
ここで、前記チタン電極は、チタン箔を前記ポーラスチタン層の周囲の一部又は全部に貼着したものとすることができる。
あるいは、前記チタン電極は、チタンを真空蒸着して形成してもよい。
【0014】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、前記チタン電極の厚みは0.1〜200μmとすることが好ましい。
チタン電極に対しても、前記ポーラスチタン層のシート抵抗と全く同様に、上記(1)及び(2)式の関係が成立するので、電気抵抗値が低ければ低いほど、色素増感太陽電池の内部抵抗が減少するので好ましい。ここで、電解質を介して、裏側基板の導電膜とチタン電極が短絡するのを防止するため、チタン電極のシート抵抗の下限値を0.002Ωとすることが好ましく、チタン電極の厚みの上限値は200μm程度と見積もることができる。一方、色素増感太陽電池の内部抵抗を減少させる観点からは、チタン電極のシート抵抗値を10Ω以下とすることが好ましく、チタン電極の厚みの下限値は0.1μm程度と見積もることができる。この結果、表側透明基板の内側と裏側基板の導電膜との距離を、一定範囲内、例えば、0.1〜200μmに保つことができる。
更に、前記チタン電極は、前記ポーラスチタン層を延長して形成することもでき、この場合にも、ポーラスチタン層は0.1〜200μmの厚みで形成される。
【0015】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層の代わりにポーラスタングステン層又はポーラスニッケル層を使用することができる。
また、前記チタン電極の代わりにタングステン電極又はニッケル電極を使用することもできる。
ここで、ポーラスタングステン層、タングステン電極は、スパッタリング法を用いて形成する。
【0016】
前記目的に沿う第2の発明に係る色素増感太陽電池の製造方法は、第1の発明に係る色素増感太陽電池の製造方法において、前記ポーラスチタン層の形成には、高速フレーム溶射法又はコールドスプレー法を用いて形成する。
ここで、高速フレーム溶射法とは、例えば、特開2005−068457号公報で示す装置を用いて、チタン粒子を加熱して溶融もしくは軟化させながら、これを微粒子状にしてガス、又は圧縮エアーにより加速して、噴射ノズル先端から100mmの距離におけるフレーム温度を800〜2000℃に加熱して光起電層に衝突させ、扁平に潰れたチタン粒子を凝固し堆積させるコーティング方法(皮膜形成方法)である。
また、コールドスプレー法では、ヘリウム、窒素、又は空気等のガスを電気抵抗(ジュール)熱によりチタンの融点又は軟化温度より低い温度に加熱して、先細末広(ラバル)ノズルから超音速流にして噴出させ、その流れの中にチタン粒子を投入して加速させ、固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成する方法である。ここで、ガスの加熱温度は、先細末広ノズルの先端から5mmの距離で100〜800℃である。
【0017】
第2の発明に係る色素増感太陽電池の製造方法において、前記高速フレーム溶射法による成膜速度は、前記光起電層の表面積を1000cmに換算して30〜300μm/分とすることができる。
ここで、成膜速度の下限値は、好ましくは50μm/分、より好ましくは80μm/分であり、上限値は、好ましくは250μm/分、より好ましくは200μm/分である。成膜速度を30μm/分以上とすることで、ポーラスチタン層内に連通する孔を形成することができ、成膜速度を300μm/分以下とすることで、ポーラスチタン層内のチタン粒子同士の連結を確実にして電気抵抗の増大を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明に係る色素増感太陽電池においては、光起電層の内側にポーラスチタン層が配置され、ポーラスチタン層にチタン電極が電気的に接続されているので、太陽光に照射された光起電層中の色素は電子を放出してホールを形成し、放出された電子は光起電層を通過してポーラスチタン層に移動しチタン電極に到達することができる。一方、色素に形成されたホールは電解質のイオンを酸化して消滅する。このため、外部回路を介してチタン電極と裏側基板の導電膜を接続すると、チタン電極に達した電子は外部回路を経由して導電膜に到達し、導電膜に達した電子は電解質中の酸化されたイオンを還元する。そして、電解質中のイオンの酸化還元反応が繰返されることで外部回路を電子が移動して電池が形成される。ここで、ポーラスチタン層を電池内部に形成することで、表側透明基板に透明電極を設ける必要がなくなり、かつ、透明電極に比べ、ポーラスチタン層は電気抵抗が小さいため、色素増感太陽電池を大型化しても、すなわち、表側透明基板の面積を広くしても、電池の内部抵抗の増大を抑制でき、大型化が容易になる。また、透明導電膜の表面に集電配線及び集電配線の保護層を設ける必要がないため色素増感太陽電池の構造が簡単になって製造工程が短縮化し、生産性の向上と製造コストの低減を図ることができる。更に、集電配線及び集電配線の保護層が存在しないことから、集電配線の保護層に起因する色素増感太陽電池の耐久性の変動が発生せず、色素増感太陽電池の耐久性を安定化させることができる。
【0019】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、ポーラスチタン層の厚みが0.1〜200μmの範囲にある場合、ポーラスチタン層の抵抗増加を抑制すると共に、表側透明基板の内側と裏側基板の導電膜との距離の増大も抑制でき、発電性能を高めることができる。
ポーラスチタン層の酸素濃度が0又は0を超え15%以下で、窒素濃度が0又は0を超え1.5%以下である場合、例えば、特開2005−068457号公報に記載した温度可変型の高速フレーム溶射法を使用すれば、ポーラスチタン層の形成、取扱いを酸素が存在する雰囲気、例えば、大気中で行うことができ、色素増感太陽電池の製造が容易になる。
ポーラスチタン層のシート抵抗が0.002〜10Ωである場合、色素増感太陽電池を大型化しても電池内抵抗の増大を抑制することができる。
ポーラスチタン層が、加熱されたチタン粒子の衝突によって形成される場合、ポーラスチタン層の厚み方向に連通する孔を容易に形成することができる。
導電膜が、白金、導電性高分子、カーボンのいずれか1種又は2種以上からなる場合、電解質による導電膜の腐食を防止して、電解質中の酸化したイオンを還元することができる。
【0020】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、チタン電極にポーラスチタン層の周縁部が被さって、又はポーラスチタン層の周縁部がチタン電極と光起電層との間に配置されて、チタン電極とポーラスチタン層を電気的に接続する場合、色素増感太陽電池の構造が簡単なため製造が容易になって、低コスト化を図ることができる。
また、チタン電極が、チタン箔をポーラスチタン層の周囲の一部又は全部に貼着したものである場合、色素増感太陽電池を大型化した際にチタン電極の形成を容易に行うことができると共に、ポーラスチタン層との電気的接続も確実に行うことができる。
チタン電極が、チタンを真空蒸着して形成された場合、チタン電極の形成が容易になると共に、ポーラスチタン層との電気的接続を行うことができる。
チタン電極の厚みが0.1〜200μmである場合、チタン電極の抵抗増加を抑制すると共に、表側透明基板の内側と裏側基板の導電膜との距離の増大も抑制でき、発電性能を高めることができる。
チタン電極が、ポーラスチタン層を延長して形成した場合、チタン電極及びポーラスチタン層の形成を同時に行うことができ、製造工程を短縮することができる。
【0021】
第1の発明に係る色素増感太陽電池において、ポーラスチタン層の代わりにポーラスタングステン層又はポーラスニッケル層を使用する場合、あるいはチタン電極の代わりにタングステン電極又はニッケル電極を使用する場合、電解質に合わせて素材を選択することができ、色素増感太陽電池のコスト低減及び耐久性向上を図ることができる。
【0022】
第2の発明に係る色素増感太陽電池の製造方法において、ポーラスチタン層の形成には高速フレーム溶射法又はコールドスプレー法を用いるので、面積に制約を受けずにポーラスチタン層を容易かつ安価に作製することができる。
ここで、高速フレーム溶射法による成膜速度を、光起電層の表面積を1000cmに換算して30〜300μm/分とする場合、シート抵抗が0.002〜10Ωで、色素が溶解した溶液及び電解質が通過可能な孔が形成されたポーラスチタン層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の第1の実施の形態に係る色素増感太陽電池の断面図、図2(A)〜(E)は同色素増感太陽電池の製造方法の説明図、図3はポーラスチタン層の形成に使用する低温高速フレーム溶射装置の説明図、図4は本発明の第2の実施の形態に係る色素増感太陽電池の断面図、図5(A)〜(E)は同色素増感太陽電池の製造方法の説明図である。
【0024】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る色素増感太陽電池10は、光が当たる表側透明基板(例えば、ガラス基板)11と、表側透明基板11に隙間を有して対向配置され、内側には導電膜の一例である白金膜12が形成された裏側基板(例えば、ガラス基板)13と、表側透明基板11と裏側基板13との間で、表側透明基板11の内側に配置された色素の一例であるルテニウム錯体が担持された酸化チタンからなる光起電層14と、光起電層14の内側に配置されたポーラスチタン層15と、表側透明基板11及び裏側基板13の間にあって、絶縁体の一例であるアイオノマー樹脂からなって、光起電層14及びポーラスチタン層15を囲む部屋を形成する非導電セパレータ16と、ポーラスチタン層15に電気的に接続され、非導電セパレータ15の外部まで延長形成されたチタン電極17と、非導電セパレータ16、表側透明基板11及び裏側基板13で囲まれる空間に充填される電解質の一例であるヨウ素溶液18とを有している。そして、チタン電極17は表側透明基板11の内側に光起電層14の周縁部を取囲んで形成され、チタン電極17にポーラスチタン層15の周縁部が被さってチタン電極17とポーラスチタン層15が電気的に接続されている。以下詳細に説明する。
【0025】
ポーラスチタン層15は光起電層14の内側に配置されているので、光起電層14とポーラスチタン層15とは電気的に接続されることになる。従って、チタン電極17と裏側基板13の白金膜12を外部回路を介して接続して、表側透明基板11を介して光起電層14を太陽光で照射すると、光起電層14の酸化チタンに担持されたルテニウム錯体が太陽光のエネルギーを吸収して電子を放出し、放出された電子は酸化チタンに移動し、光起電層14と電気的に接続するポーラスチタン層15を介してチタン電極17に移動することができる。一方、電子を放出したルテニウム錯体にはホールが形成され、ホールはヨウ素溶液18中のヨウ素イオンIを酸化して三ヨウ素イオンIに変える。
【0026】
そして、チタン電極17に移動した電子は外部回路を介して白金膜12に到達することができ、電子は三ヨウ素イオンIを還元してヨウ素イオンIに戻し、還元されたヨウ素イオンIはルテニウム錯体で再び酸化される。その結果、光起電層14(ルテニウム)と白金膜12の間でヨウ素イオンIの酸化還元反応により電子を白金膜12から光起電層14に移動することができ、光起電層14と白金膜12の間でヨウ素イオンIの酸化還元反応を繰返すことで、電池を形成することができる。
ここで、白金膜12はヨウ素溶液18に腐食されないため、ヨウ素イオンIの酸化還元反応を継続して発生させることができる。なお、白金膜12の変わりに、ヨウ素溶液18に腐食されない導電性高分子(例えば、ポリフェニレンビニレン)又はカーボンを用いて導電膜を形成することもできる。
【0027】
また、チタンは高耐食性金属であるため、ヨウ素溶液18が進入可能な連通孔が形成されるポーラスチタン層15としてもヨウ素溶液18中に安定して存在させることができ、ポーラスチタン層15を光起電層14の内側に配置することで、従来の表側透明基板内側に形成している透明導電膜の代わりとすることができる。また、チタンは電気の良導体のため、ポーラスチタン層15の厚みを0.1〜200μmとしても、ポーラスチタン層15のシート抵抗を0.002又は0.01〜10Ωとすることができる。ポーラスチタン層15の厚みを0.5〜100μmとすることで、光起電層14の内側と白金膜12との距離を一定範囲内、例えば、1〜200μmに保つことができ、色素増感太陽電池10の発電性能を向上させることができる。また、シート抵抗を0.002〜10Ωとすることで、色素増感太陽電池10を大型化しても電池内抵抗が増大するのを抑制でき、集電配線を設けなくても発電性能の低下を防止することができる。そして、表側透明基板11の内側における透明導電膜の形成、集電配線の形成、及び集電配線の保護膜の形成が不要となるため、色素増感太陽電池10の製造工程を大幅に簡略化することができる。
【0028】
続いて、本発明の第1の実施の形態に係る色素増感太陽電池10の製造方法について説明する。
図2(A)に示すように、表側透明基板11の内側に、チタンを真空蒸着して枠形状のチタン電極17(厚みが0.1〜200μm)を形成する。次いで、図2(B)に示すように、枠形状のチタン電極17の内側に露出している表側透明基板11上に酸化チタン層19を、例えば、酸化チタンの高速フレーム溶射で形成する。低温高速フレーム溶射は、例えば、特開2005-068457号公報に開示されている装置及び手法を用いて行うことができ、白灯油等の燃料を、酸素と空気を混合した燃焼支援ガスと共に燃焼室で燃焼して高速フレームを発生させ、燃焼室と直結した噴射ノズル内で霧化した酸化チタン粒子のスラリーと高速フレームを混合し酸化チタン粒子の表層部を部分的に溶融させながら高速フレームの流れで搬送して、高速フレームの流れに対して垂直に配置された表側透明基板11に形成された枠形状のチタン電極17の内側の表側透明基板11上に堆積させる。
【0029】
ここで、低温高速フレーム溶射による酸化チタン層19の形成では、燃料の一例である白灯油の流量が2〜5ガロン/時、酸素の流量が1500〜1900立法フィート/時、空気混合比率が0〜75%であり、噴射ノズルの先端から100mmの距離における高速フレームの温度は1500℃以下、好ましくは1000℃以下とする。酸化チタンの場合、高速フレームの温度が1500℃を超えると、アナターゼ型結晶構造の酸化チタンが表側透明基板11に到達する前にルチル型へ変態し、更に酸化チタン粒子が溶融する温度の場合には、堆積した酸化チタン粒子同士が融着しルテニウム錯体を酸化チタン層に均一に担持させることができず、色素増感作用を十分に発揮させることができない。なお、酸化チタン層19中のアナターゼ型結晶構造の含有率は70重量%以上であることが好ましい。
【0030】
噴射ノズルから噴射される高速フレームの速度は、噴射ノズルの先端で500m/s以上が必要で、これを下回る速度の場合には、堆積した酸化チタン粒子間に十分な密着強度を得ることができず、電池性能を低下させる原因となる。噴射ノズルと表側透明基板11との距離は、噴射ノズルの先端から100〜500mmであることが好ましいが、温度条件等によって変動する。また、酸化チタン粒子のスラリーに用いる分散媒は、特に限定されるものではなく、例えば、水あるいは水と有機溶媒との混合液であってもよい。スラリー中の酸化チタンの含有率は特に限定されるものではないが、効率的な堆積速度が実現でき、かつ噴射ノズルに閉塞が生じないようにするためには、5〜50重量%である。
【0031】
図2(C)に示すように、酸化チタン層19の上に、高速フレーム溶射法によりポーラスチタン層15の周縁部がチタン電極17に被さるように形成する。これによって、チタン電極17とポーラスチタン層15を電気的に接続することができる。ここで、高速フレーム溶射法によるポーラスチタン層15の形成では、図3に示すように、酸素カードル20から酸素供給ライン21を介して供給された圧力が0.1〜10MPaの酸素ガスと、空気のレシーバタンク22、レシーバタンク22からの空気を0.1〜10MPaに加圧する加圧機(例えば、ブースターコンプレッサ)23、及び加圧空気中の異物を除去するフィルタ24を備えた空気供給ライン25から供給される空気とを混合器26で混合して混合ガスを燃焼支援ガスとして使用する。このとき、混合器26内にそれぞれ供給する酸素ガスの流量を酸素供給ライン21に設けた図示しない流量計で調整し、空気の流量を空気供給ライン25に設けた流量計27で調整することで、混合ガス中の酸素と窒素の比率を調整できる。
【0032】
溶射制御部29で燃料が混合ガス中の酸素で完全燃焼するようにように燃料に対する混合ガスの供給量を調整し、燃料の一例である白灯油の流量を例えば2〜6ガロン/時として燃焼室で燃焼させて高速フレームを発生させ、噴射ノズル30内で高速フレームに混入したチタン粒子を加熱して軟化させながら高速フレームの流れで搬送して、表側透明基板11に形成され高速フレームの流れに対して垂直に配置された酸化チタン層19上にポーラスチタン層15を形成する。そして、噴射ノズルの先端から100mmの距離における高速フレームの温度を800℃(好ましくは1200℃)以上、2000℃(好ましくは1800℃)以下、噴射ノズル30から噴射される高速フレームの速度を、噴射ノズル30の先端で200m/s(好ましくは、500m/s)以上とすることで、加熱されたチタン粒子を衝突扁平化させながら、ポーラスチタン層15を、酸化チタン層19の表面積を1000cmに換算して30〜300μm/分の成膜速度で形成でき、形成したポーラスチタン層15の酸素濃度を0又は0を超え15%以下で、窒素濃度を0又は0を超え1.5%以下とすることができる。
【0033】
ここで、高速フレーム中の酸素で白灯油を完全燃焼させて高速フレームの温度を800℃以上2000℃以下とし、噴射ノズル30から噴射される高速フレームの速度を噴射ノズル30の先端で200m/s以上とすることで、チタン粒子の酸化を抑制してチタン粒子を軟化させながら高速フレームの流れで搬送し、チタン粒子を衝突扁平化しながら堆積させてチタン粒子間に十分な密着強度を発現できる。ポーラスチタン層15が、衝突扁平化したチタン粒子で形成されるので、ポーラスチタン層15の厚み方向に連通する孔を容易に形成することができる。なお、噴射ノズル30と表側透明基板11上に形成された酸化チタン層19との距離は、噴射ノズル30の先端から50〜500mmであることが好ましいが、温度条件等によって変動する。
【0034】
ポーラスチタン層15の酸素濃度を0又は0を超え15%以下で、窒素濃度を0又は0を超え1.5%以下とすることで、ポーラスチタン層15に十分な導電性を付与させることができ、ポーラスチタン層15の厚みを0.1〜200μmとした際に、ポーラスチタン層15のシート抵抗を0.002〜10Ωとすることができる。このため、色素増感太陽電池を大型化した際に、電池内抵抗の増大を抑制することができる。
【0035】
次いで、図2(D)に示すように、酸化チタン層19を形成している各酸化チタン粒子にルテニウム錯体を吸着させることで(酸化チタンでルテニウム錯体が担持されて)、酸化チタン層19が光起電層14に転換される。ここで、酸化チタンにルテニウム錯体を吸着させるには、ルテニウム錯体が溶解した溶液中にチタン電極17、酸化チタン層19、及びポーラスチタン層15が形成された表側透明基板11を浸漬する含浸法によりルテニウム錯体を酸化チタン層19内に進入させ、含浸後の表側透明基板11を乾燥又は加熱することにより行う。なお、酸化チタンに担持される色素には、ルテニウム錯体の他に、例えば、
シアニン色素、スチリル色素、オキサジン色素、キサンテン色素、クマリン色素、オキサゾール色素、オキサチアゾール色素等を使用できる。
【0036】
続いて、図2(E)に示すように、チタン電極17上にアイオノマー樹脂からなる熱可塑性接着剤フィルムで形成した非導電セパレータ16を密着配置して光起電層14及びポーラスチタン層15を囲む部屋を形成し、非導電セパレータ16の上端部にヨウ素溶液18が注入できるよう外周部の2箇所に隙間を設けた。また、裏側基板13の内側に、例えば、スパッタリング法により白金膜12を形成し、白金膜12側がポーラスチタン層15と対向するようにして裏側基板13を非導電セパレータ16に被せて貼り合わせた。次いで、裏側基板13と非導電セパレータ16の隙間から、ヨウ素溶液18を毛細管現象を利用して非導電セパレータ16、表側透明基板11、及び裏側基板13で囲まれる空間に充填する。そして、隙間を接着剤(例えば、エポキシ樹脂)で封止することにより色素増感太陽電池10の組立てが完了する。
なお、電解質には、ヨウ素溶液をゲル状とすることもできる。
【0037】
図4に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る色素増感太陽電池31は、本発明の第1の実施の形態に係る色素増感太陽電池10と比較して、ポーラスチタン層32の周縁部にチタン箔(厚みは0.1〜100μm)で形成されたチタン電極33が貼着されて、チタン電極33と光起電層14との間にポーラスチタン層32が配置されていることが特徴となっている。従ってポーラスチタン層32、チタン電極33について説明し、第1の実施の形態に係る色素増感太陽電池10と同一の構成部材には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0038】
チタン電極33がポーラスチタン層32の周縁部に貼着される構成のため、ポーラスチタン層32はチタン電極33と電気的に接続する。このため、チタン電極33と裏側基板13の白金膜12を外部回路を介して接続して、表側透明基板11を介して光起電層14を太陽光で照射してルテニウム錯体から電子を放出させると、放出された電子は、光起電層14、ポーラスチタン層32、チタン電極33、外部回路を介して白金膜12に移動することができ、電子を放出したルテニウム錯体に形成されたホールは酸化された三ヨウ素イオンIを還元してヨウ素イオンIに戻すことができる。このため、光起電層14と白金膜12の間でヨウ素イオンIの酸化還元反応を繰返すことで、電池を形成することができる。
【0039】
チタン電極33がポーラスチタン層32の周縁部に貼着される構成のため、ポーラスチタン層32を形成した後チタン電極33を配置することができる。このため、表側透明基板11上に形成する光起電層14のサイズが大きくなるのに伴ってポーラスチタン層32のサイズが大きくなっても、チタン電極33をポーラスチタン層32のサイズに合わせて表側透明基板11上に配置することができる。ここで、ポーラスチタン層32の周縁部とチタン電極33との貼着を容易にするため、ポーラスチタン層32は光起電層14に被さるように形成するのがよい。これによって、光起電層14とチタン電極33との間にポーラスチタン層32を介在させることができ、光起電層14からポーラスチタン層32を介してチタン電極33へ電子を容易に移動させることができる。
【0040】
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る色素増感太陽電池31の製造方法について説明する。
図5(A)に示すように、表側透明基板11の内側に酸化チタン層34を、例えば、酸化チタンの高速フレーム溶射で矩形状に形成する。なお、酸化チタンの高速フレーム溶射は、第1の実施の形態に係る色素増感太陽電池10の場合と同様の方法で行う。そして、図5(B)に示すように、酸化チタン層34の上に、高速フレーム溶射法によりポーラスチタン層32を、酸化チタン層34の裏面側及び周縁部を覆うように、平面視して矩形状に形成する。なお、ポーラスチタン層32の高速フレーム溶射は、第1の実施の形態に係る色素増感太陽電池10の場合と同様の方法で行う。
【0041】
次いで、図5(C)に示すように、酸化チタン層34を形成している各酸化チタン粒子にルテニウム錯体を吸着させることで、酸化チタン層34が光起電層14に転換される。ここで、酸化チタンにルテニウム錯体を吸着させるには、ルテニウム錯体が溶解した溶液中に酸化チタン層34及びポーラスチタン層32が形成された表側透明基板11を浸漬する含浸法によりルテニウム錯体を酸化チタン層34内に進入させ、含浸後の表側透明基板11を乾燥又は加熱することにより行う。
【0042】
続いて、図5(D)に示すように、例えばプレス成形で、厚みが0.1〜100μmのチタン箔を用いてポーラスチタン層32の周縁部に被さってポーラスチタン層32の頂部が露出可能な形状のチタン電極33を成形し、ポーラスチタン層32に被せて圧着しポーラスチタン層32の周縁部にチタン電極33を当接させる。そして、図5(E)に示すように、チタン電極33上にアイオノマー樹脂からなる熱可塑性接着剤フィルムで形成した非導電セパレータ16を密着配置して光起電層14及びポーラスチタン層32を囲む部屋を形成し、非導電セパレータ16の上端部にヨウ素溶液18が注入できるよう2箇所に隙間を設け、白金膜12が形成された裏側基板13を白金膜12側がポーラスチタン層32と対向するように配置して非導電セパレータ16に被せて貼り合わせた。次いで、熱可塑性接着剤フィルムの隙間から、ヨウ素溶液18を毛細管現象を利用して非導電セパレータ16、表側透明基板11、及び裏側基板13で囲まれる空間に充填し、隙間を接着剤で封止することにより色素増感太陽電池31を組立てた。
【実施例】
【0043】
縦70mm、横70mm、厚み3mmのガラス板で形成した表側透明基板の一面側に、チタンを真空蒸着して中央部に縦50mm、横50mmの開口部を備えた枠形状で厚みが10μmのチタン電極を形成する。次いで、チタン電極の開口部内に厚みが20μmの酸化チタン層を酸化チタンの高速フレーム溶射で形成した。使用した酸化チタンはアナターゼ型の結晶構造を有し、純度99.5%、平均粒子径は20nmであり、搬送段階での凝集を抑制し、供給を安定化させるため、水と混合して濃度が10重量%のスラリーとしており、霧化器を介して霧状として溶射装置の噴射ノズルへ送給する。
【0044】
溶射条件は、高速フレーム溶射の燃料として用いた白灯油の流量が3ガロン/時、酸素の流量が2000立方フィート/時、空気混合比率が50%である。また、噴射ノズルの先端と表側透明基板との距離は、噴射ノズルの先端から200mmである。溶射フレームの温度は噴射ノズルの先端から100mmの距離で測温し、フレームの速度は、噴出ノズルの先端での速度を、燃焼温度から計算により求めた。その結果、噴射ノズルの先端から100mmにおける溶射フレームの温度は600℃、溶射フレームの速度は600m/秒
であった。なお、形成された酸化チタン層中のアナターゼ型結晶構造の残存率は99.9%であった。
【0045】
酸化チタン層の上に、高速フレーム溶射法によりポーラスチタン層を、酸化チタン層全体を覆ってその周縁部がチタン電極に被さるように形成する。高速フレーム溶射では、溶射制御部で燃料の白灯油(供給量5ガロン/時)が混合ガス中の酸素で完全燃焼するようにように白灯油に対する混合ガスの供給量を調整し、燃焼室で燃焼させて高速フレームを発生させる。噴射ノズルの先端と表側透明基板との距離は、噴射ノズルの先端から400mmである。溶射フレームの温度は噴射ノズルの先端から100mmの距離で測温し、フレームの速度は、噴出ノズルの先端での速度を燃焼温度から計算により求めた。その結果、噴射ノズルの先端から100mmにおける溶射フレームの温度は1500℃、溶射フレームの速度は700m/秒
であり、ポーラスチタン層の成膜速度は、下地となる酸化チタン層の表面積を1000cmに換算して50μm/分であった。なお、形成されたポーラスチタン層の酸素濃度は6%であり、窒素濃度は0.7%であった。
【0046】
次いで、チタン電極、酸化チタン層、及びポーラスチタン層が形成された表側透明基板をビス(イソチオシアナト)ビス(2,2'−ビピリジルー4,4'−ジカルボキシラト)−ルテニウム(II)のイソプロピルアルコール溶液に浸漬した。浸漬中にイソプロピルアルコール溶液はポーラスチタン層を通過して酸化チタン層に達し、酸化チタン層を形成している各酸化チタン粒子にルテニウム錯体が吸着して酸化チタン層が光起電層に転換する。
【0047】
続いて、チタン電極上にアイオノマー樹脂からなる熱可塑性接着剤フィルムで形成した非導電セパレータを密着配置して光起電層及びポーラスチタン層を囲む部屋を形成し、非導電セパレータの上端部にヨウ素溶液が注入できるよう2箇所の隙間を設け、白金膜が形成された裏側基板を白金膜側がポーラスチタン層と対向するように配置して非導電セパレータに被せて貼り合わせた。
【0048】
そして、非導電セパレータと裏側基板の間に形成された隙間から毛細管現象を利用して、0.5モルのヨウ化リチウム、0.5モルのt-ブチルピリジン、及び0.05モルのヨウ素を含むアセトニトリル溶液を非導電セパレータ、表側透明基板、及び裏側基板で囲まれる空間に充填した後で、隙間をエポキシ樹脂で封止して、色素増感太陽電池を得た。
作製した色素増感太陽電池を、100mW/cmのソーラーシミュレータによる照射の下でその発電性能を測定すると、太陽光エネルギー変換効率は7%であった。
【0049】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、第1の実施の形態でチタン電極をチタンの真空蒸着で形成したが、チタン箔を表側透明基板の内側に貼着することでチタン電極を形成することも、第2の実施の形態で、チタン電極をチタン箔で形成したが、表側透明基板の内側にチタンを真空蒸着することでチタン電極を形成することもできる。
また、ポーラスチタン層を酸化チタン層の外側に延長して形成することにより、ポーラスチタン層の外側領域をチタン電極とすることができる。なお、電解質が液体の場合、電解質がポーラスチタン層を通過して外部に流出できるので、ポーラスチタン層の孔を、例えば、樹脂等の充填材で封止する必要がある。
【0050】
更に、酸化チタンの他に、例えば、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等の半導体物質のいずれか1を使用して光起電層を形成することも、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、及び酸化インジウムのいずれか2以上を組合わせて光起電層を形成することもでき、ポーラスチタン層の代わりにポーラスタングステン層又はポーラスニッケル層を、チタン電極の代わりにタングステン電極又はニッケル電極を使用することができる。
そして、非導電セパレータを絶縁体であるアイオノマー樹脂で形成したが、絶縁体(例えば、アイオノマー樹脂)と導体(例えば、導電性樹脂)を組み合わせて非導電セパレータを形成することもできる。非導電セパレータを絶縁体と導体を組み合わせて形成する場合、導体がチタン電極と裏側基板の導電膜の両者と同時に接続しないように、導体はチタン電極及び導電膜のいずれか一方とは絶縁体を介して接続するようにする。
また、裏側基板に形成する導電膜を白金で形成したが、導電性高分子又はカーボンで形成することも、白金、導電性高分子、及びカーボンのいずれか2種以上を用いて形成することもできる。
更に、ポーラスチタン層の形成に、コールドスプレー法を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る色素増感太陽電池の断面図である。
【図2】(A)〜(E)は同色素増感太陽電池の製造方法の説明図である。
【図3】ポーラスチタン層の形成に使用する溶射装置の説明図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る色素増感太陽電池の断面図である。
【図5】(A)〜(E)は同色素増感太陽電池の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
10:色素増感太陽電池、11:表側透明基板、12:白金膜、13:裏側基板、14:光起電層、15:ポーラスチタン層、16:非導電セパレータ、17:チタン電極、18:ヨウ素溶液、19:酸化チタン層、20:酸素カードル、21:酸素供給ライン、22:レシーバタンク、23:加圧機、24:フィルタ、25:空気供給ライン、26:混合器、27:流量計、29:溶射制御部、30:噴射ノズル、31:色素増感太陽電池、32:ポーラスチタン層、33:チタン電極、34:酸化チタン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が当たる表側透明基板と、
前記表側透明基板に隙間を有して対向配置され、内側には導電膜が形成された裏側基板と、
前記表側透明基板と前記裏側基板との間で、前記表側透明基板の内側に配置された色素が担持された酸化チタン及び酸化チタン以外の半導体物質のいずれか一方又は双方からなる光起電層と、
前記光起電層の内側に配置されたポーラスチタン層と、
前記表側透明基板及び前記裏側基板の間にあって、前記光起電層及び前記ポーラスチタン層を囲む部屋を形成する非導電セパレータと、
前記ポーラスチタン層に電気的に接続され、前記非導電セパレータの外部まで延長形成されたチタン電極と、
前記非導電セパレータ、前記表側透明基板、及び前記裏側基板で囲まれる空間に充填される電解質とを有することを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項2】
請求項1記載の色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層の厚みが0.1〜200μmの範囲にあることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項3】
請求項1又は2記載の色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層の酸素濃度が0又は0を超え15%以下で、窒素濃度が0又は0を超え1.5%以下であることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層のシート抵抗が0.002〜10Ωであることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層は、加熱されたチタン粒子の衝突によって形成されることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池において、前記導電膜は、白金、導電性高分子、及びカーボンのいずれか1種又は2種以上からなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池において、前記チタン電極は前記表側透明基板の内側に前記光起電層の周縁部を取囲んで形成され、該チタン電極に前記ポーラスチタン層の周縁部が被さって該チタン電極と該ポーラスチタン層は電気的に接続されていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層の周縁部が前記チタン電極と前記光起電層との間に配置されて該ポーラスチタン層と該チタン電極が電気的に接続されていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項9】
請求項8記載の色素増感太陽電池において、前記チタン電極は、チタン箔を前記ポーラスチタン層の周囲の一部又は全部に貼着したものであることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池において、前記チタン電極は、チタンを真空蒸着して形成したことを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池において、前記チタン電極の厚みは0.1〜200μmであることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池において、前記チタン電極は、前記ポーラスチタン層が延長して形成されていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池において、前記ポーラスチタン層の代わりにポーラスタングステン層又はポーラスニッケル層が使用されていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池において、前記チタン電極の代わりにタングステン電極又はニッケル電極が使用されていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池の製造方法において、前記ポーラスチタン層の形成には、高速フレーム溶射法又はコールドスプレー法を用いて形成することを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項16】
請求項15記載の色素増感太陽電池の製造方法において、前記高速フレーム溶射法による成膜速度は、前記光起電層の表面積を1000cmに換算して30〜300μm/分であることを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−33902(P2010−33902A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195128(P2008−195128)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(591209280)株式会社フジコー (25)
【Fターム(参考)】