説明

芳香族ハロゲン化合物の抽出方法及び抽出装置

【課題】芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油から、親油性の芳香族ハロゲン化合物を効率的に抽出するようにした芳香族ハロゲン化合物の抽出方法及び抽出装置を提供する。
【解決手段】芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油11から、前記芳香族ハロゲン化合物を抽出する方法であって、被処理油11のpHをpH9以上にした後、該pH調整がされた被処理油に、沸点が80℃以下であるアルコール及びケトンから選ばれる極性抽出溶媒13を添加・混合し、15℃以下の温度で重力分離することにより、前記芳香族ハロゲン化合物を極性抽出溶媒側に抽出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ハロゲン化合物の抽出方法及び抽出装置に関し、更に詳しくは、芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油から、親油性の芳香族ハロゲン化合物を効率的に抽出するようにした芳香族ハロゲン化合物の抽出方法及び抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有害なポリ塩化ビフェニル(以下、「PCB」ということがある。)などの芳香族ハロゲン化合物は、電気絶縁特性が優れるためトランス、コンデンサ等の電気絶縁体として使用されていた。これらの芳香族ハロゲン化合物は、微量でも毒性が高いため、安全に無害化する処理方法が種々提案され、例えば焼却処理や化学分解により脱塩素化する処理方法が知られており、被処理物が含有する芳香族ハロゲン化合物が微量である場合には、被処理物から芳香族ハロゲン化合物を分離・濃縮したものを無害化処理することにより、芳香族ハロゲン化合物を効率よく無害化する処理方法が検討されている。芳香族ハロゲン化合物を分離・濃縮する方法としては、抽出方法が代表的であり、抽出溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、芳香族ハロゲン化合物は親油性が高いため、上述した電気絶縁油や潤滑油から芳香族ハロゲン化合物を抽出処理する場合には、抽出溶媒としてDMSOを使用する場合は、芳香族ハロゲン化合物を効率よく抽出することが困難であった。したがって、被処理油の中に芳香族ハロゲン化合物が残存するため、被処理油を完全に無害化することができなかった。しかもDSMOでは抽出処理後における芳香族ハロゲン化合物とDMSOとの分離性が悪いこと及び処理コストが高くなるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−210945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油から、親油性の芳香族ハロゲン化合物を効率的に抽出するようにした芳香族ハロゲン化合物の抽出方法及び抽出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の芳香族ハロゲン化合物の抽出方法は、芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油から、前記芳香族ハロゲン化合物を抽出する方法であって、前記被処理油のpHをpH9以上にした後、該pH調整がされた被処理油に、沸点が80℃以下であるアルコール及びケトンから選ばれる極性抽出溶媒を添加・混合し、15℃以下の温度で重力分離することにより、前記芳香族ハロゲン化合物を極性抽出溶媒側に抽出することを特徴とする。
【0007】
前記極性の抽出溶媒は、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンから選ばれる少なくとも1種であるとよい。また、前記芳香族ハロゲン化合物を抽出した極性抽出溶媒は、pH1〜pH3に調整した後、該pH調整がされた極性抽出溶媒と非極性の抽出溶媒とを接触させて、前記芳香族ハロゲン化合物を非極性の抽出溶媒側に抽出することができる。また、前記非極性の抽出溶媒により芳香族ハロゲン化合物を除去した極性抽出溶媒は、蒸留分別により回収することが好ましい。
【0008】
上記目的を達成する芳香族ハロゲン化合物の抽出装置は、芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油から、前記芳香族ハロゲン化合物を抽出する装置であって、前記被処理油のpHをpH9以上にする第1のpH調整手段と、該第1のpH調整手段で処理した被処理油に、沸点が80℃以下の極性抽出溶媒を添加・混合し、15℃以下の温度で重力分離することにより、前記芳香族ハロゲン化合物を極性抽出溶媒側に抽出する第1の抽出手段を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の抽出装置は、前記第1の抽出手段から取り出した芳香族ハロゲン化合物を含有する極性抽出溶媒のpHをpH1〜pH3に調整する第2のpH調整手段と、該第2のpH調整手段で処理した極性抽出溶媒に非極性抽出溶媒を接触させることにより、前記芳香族ハロゲン化合物を非極性抽出溶媒側に抽出する第2の抽出手段を有してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の芳香族ハロゲン化合物の抽出方法によれば、芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油のpHをpH9以上にすると共に、沸点が80℃以下のアルコール、ケトンから選ばれる極性抽出溶媒を添加・混合し、15℃以下の温度で重力分離するようにしたので、被処理油中の芳香族ハロゲン化合物を極性抽出溶媒側に容易に抽出し、被処理油から親油性の芳香族ハロゲン化合物を効率的に抽出・除去することができる。
【0011】
本発明の芳香族ハロゲン化合物の抽出装置によれば、芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油のpHをpH9以上にする第1のpH調整手段により、芳香族ハロゲン化合物が極性溶媒により抽出可能にする。このpH調整手段で処理した芳香族ハロゲン化合物を含む被処理油と沸点が80℃以下のアルコール、ケトンから選ばれる極性抽出溶媒とを混合し、15℃以下の温度で重力分離する第1の抽出手段により、芳香族ハロゲン化合物を極性抽出溶媒側に抽出することができ、被処理油から親油性の芳香族ハロゲン化合物を効率的に抽出除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の芳香族ハロゲン化合物の抽出方法に使用する抽出装置の構成を例示する概略的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1において、1はpH調整混合槽、2,6は分離槽、3,7,8は蒸発槽、4はpH調整槽、5は混合槽、9は濃縮液タンク、10は蒸留塔である。親油性の芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油11は、pH調整混合槽1に供給され、アルカリ12の添加によりpH9以上に調整される。pH調整された被処理油には、沸点が80℃以下のアルコール、ケトンから選ばれる極性抽出溶媒13を添加・混合する。この混合液は、分離槽2に移送され、15℃以下の温度で重力分離することにより、被処理油から芳香族ハロゲン化合物が抽出・分離される。この芳香族ハロゲン化合物を含む極性抽出液が分離槽2の下層から排出され、芳香族ハロゲン化合物が除去された処理油が分離槽2の上層から蒸発槽3に移される。蒸発槽3に移送された処理油は、極性抽出溶媒を蒸発分離した後、回収油として取り出される。蒸発分離された極性抽出溶媒は、蒸留塔10へ供給され精製される。なお、図示の例は、pH調整混合槽1において、pH調整及び極性抽出溶媒の添加・混合の2つの操作を行う構成例であるが、pH調整混合槽の代わりにpH調整槽と極性抽出溶媒の混合槽とに分けて構成してもよい。
【0014】
本発明において、分離槽2の下層から排出された極性抽出液を、芳香族ハロゲン化合物を含む水溶性の被処理液として、pH調整槽4以降の工程において芳香族ハロゲン化合物を非極性抽出溶媒で抽出することにより、更に濃縮し減容することができる。
【0015】
pH調整槽4において、芳香族ハロゲン化合物を含む水溶性被処理液には、酸14が添加されpH1〜pH3に調整される。pH調整された水溶性被処理液は、混合槽5に移送され非極性抽出溶媒15を添加・混合することにより、芳香族ハロゲン化合物が非極性抽出溶媒15側に抽出される。この混合液は、分離槽6に移送され重力分離により分離され、下層から水溶性処理液が蒸発槽7に移送され、上層から非極性抽出溶媒が蒸発槽8に移送される。蒸発槽7に移送された水溶性処理液は、芳香族ハロゲン化合物を含有しておらず、非極性抽出溶媒を蒸発分離した後、処理液として取り出される。また、蒸発槽8に移送された抽出溶液は、非極性抽出溶媒を蒸発分離することにより芳香族ハロゲン化合物を更に濃縮し、濃縮液タンク9に移送される。この芳香族ハロゲン化合物の濃縮液は、化学分解等により芳香族ハロゲン化合物が無害化処理される。なお、蒸発槽7,8により分離された非極性抽出溶媒は、上述した蒸発槽3により分離された極性抽出溶媒と共に、蒸留塔10に供給され蒸留分別により精製され再利用される。
【0016】
本発明において、芳香族ハロゲン化合物は、ハロゲン元素が一次結合した芳香族環を有する化合物である。芳香族ハロゲン化合物としては、例えばポリ塩化ビフェニル(以下、「PCB」ということがある。)、ダイオキシン類、クロロベンゼン、クロロトルエン、等の芳香族環を有するハロゲン化合物が例示される。また、芳香族ハロゲン化合物は、上述した芳香族ハロゲン化合物の少なくとも一つのハロゲン元素がヒドロキシ基に置換された芳香族ハロゲン化合物でもよい。このようなヒドロキシ基を有する芳香族ハロゲン化合物は、芳香族ハロゲン化合物が空気又は被処理油中の溶存酸素と接触することにより、芳香族ハロゲン化合物にヒドロキシラジカルが作用して生成する。また、被処理油中に鉄さび(第一酸化鉄)等の金属酸化物が含まれると、これが触媒となってヒドロキシ基を有する芳香族ハロゲン化合物の生成が促進される。また、被処理油としては、PCB等を含む潤滑油、電気絶縁油、混合油、及びこれが混入した各種液体が例示される。
【0017】
本発明の抽出方法において、pH調整混合槽1では、まずアルカリ12が芳香族ハロゲン化合物を含む被処理油11に添加され、pH9以上、好ましくはpH10〜pH12に調整される。被処理油のpHがpH9未満である場合には、被処理油から親油性の芳香族ハロゲン化合物を抽出・除去する作用が十分に得られない。このため、被処理油中に芳香族ハロゲン化合物が残存する虞がある。また、被処理油のpHをpH12より大きくしても、芳香族ハロゲン化合物の抽出率は特に向上せず、処理コストが高くなるだけである。pH調整に使用するアルカリは、被処理油をpH9以上に調整可能なものであれば、特に制限されるものではなく、例えばNaOH、KOH、Ca(OH)等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物を例示することができる。
【0018】
次に、pH調整混合槽1に、沸点が80℃以下のアルコール、ケトンから選ばれる極性抽出溶媒13を添加し混合・攪拌する。極性抽出溶媒はアルコール及び/又はケトンであることが必要である。アルコール及びケトンは、潤滑油や電気絶縁油等の被処理油との分離性がよく、容易に重力分離することができる。一方、例えばジエチルエーテル(沸点35℃)は、芳香族ハロゲン化合物を抽出する性能は良好であるものの、親油性が高く被処理油との分離性が劣るため、被処理油中に芳香族ハロゲン化合物が残存してしまう。
【0019】
本発明で使用するアルコール及びケトンの沸点は、80℃以下、好ましくは60℃〜80℃である。極性抽出溶媒の沸点が80℃より高い場合には、常圧操作での分離操作が困難になる。このような極性抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが好ましく挙げられ、なかでもアセトン、エタノールが好ましい。
【0020】
本発明において、被処理油に対する極性抽出溶媒の混合比は、被処理油中の芳香族ハロゲン化合物の濃度によって、経験的に決めることができる。被処理油に対する極性抽出溶媒の混合比が不足すると、被処理油中の芳香族ハロゲン化合物を十分に抽出することができない。また、被処理油に対する極性抽出溶媒の混合比が必要以上に大きいと芳香族ハロゲン化合物を濃縮し被処理物を減溶する操作の手間がかかる。このように、被処理油と極性抽出溶媒との混合比は、被処理油中の芳香族ハロゲン化合物の含有量により適宜調整することができる。
【0021】
pH調整混合槽は、攪拌装置を有する温度調整が可能な混合槽であるとよい。被処理油と極性抽出溶媒とが微細に分散した略均一な混合系を形成することにより、芳香族ハロゲン化合物の抽出を効率的に進めることができる。pH調整混合槽における攪拌条件は、被処理液の懸濁度、温度、粘度などに応じて適宜調整するとよい。例えばブレードが100rpm程度で攪拌するときは、混合時間を数十分くらいにするとよい。また、pH調整混合槽では、後工程の重力分離と略同じ温度に調整するとよく、好ましくは15℃以下、より好ましくは5〜10℃にするとよい。
【0022】
pH調整混合槽1で処理した被処理油と極性抽出溶媒との混合液は、分離槽2に移送され、15℃以下での重力分離により分離される。重力分離により下層から芳香族ハロゲン化合物を含む極性抽出溶液が排出され、上層から芳香族ハロゲン化合物が除去された被処理油が取り出される。重力分離を行う温度は、15℃以下であり、好ましくは5〜10℃にする。重力分離の温度が15℃より高い場合には、被処理油から芳香族ハロゲン化合物を極性抽出溶媒側へ抽出し重力分離する効果が十分に得られない。このため、被処理油中に芳香族ハロゲン化合物が残存することがある。
【0023】
分離槽2の下層から排出された極性抽出液は、芳香族ハロゲン化合物を含むので化学分解等により芳香族ハロゲン化合物を無害化処理する工程へ移送するか、或いは芳香族ハロゲン化合物を含む水溶性の被処理液として非極性の抽出溶媒で抽出することにより更に濃縮減容することができる。
【0024】
芳香族ハロゲン化合物を含む水溶性の被処理液として更に濃縮・減容する場合には、これを、pH調整槽4に供給し、酸14を添加することによりpH1〜pH3、好ましくはpH2〜pH3に調整する。水溶性被処理液のpHがpH3を超えると、水溶性被処理液がヒドロキシ基を有する芳香族ハロゲン化合物を含有する場合に、後工程における非極性溶媒を使用した抽出性が困難になる。また、被処理油のpHをpH1未満にしても、抽出性に大きな改善は見られず、処理コストが高くなる。pH調整に使用する酸は、pH1〜pH3に調整可能なものであれば、特に制限されるものではなく、例えば塩酸、硫酸等の無機酸等を例示することができる。
【0025】
pH調整槽でpH調整された水溶性被処理液は、混合槽5に移送され、非極性の抽出溶媒15と混合・接触することにより、水溶性被処理液中の芳香族ハロゲン化合物が、非極性抽出溶媒側に抽出される。水溶性被処理液はpH1〜pH3に調整されているため、芳香族ハロゲン化合物がヒドロキシ基を有する場合でも、ヒドロキシ基が解離していないため非極性の抽出溶媒により容易に抽出することができる。
【0026】
また、混合槽5に移送され水溶性被処理液には懸濁物がなく、清浄系の抽出を行う。このため、水溶性被処理液と非極性抽出溶媒との混合比は、水溶性被処理液中の芳香族ハロゲン化合物の濃度に応じて適宜調整すればよい。例えば非極性抽出溶媒/水溶性被処理液の容積比は、好ましくは1/99〜10/90にすることが可能である。
【0027】
本発明において、混合槽5は、攪拌装置を有し温度調整が可能であるとよい。混合槽の温度は、水溶性被処理液及び非極性抽出溶媒の性状に応じて適宜調整することができる。なお、芳香族ハロゲン化合物の抽出を効率的に進めるためには、水溶性被処理液と非極性抽出溶媒とが微細に分散した略均一な混合系にするのが好ましいため、混合槽の温度は、常圧での蒸気圧があまり大きくならない温度、例えば10〜50℃にするとよい。また、混合槽における混合は、通常の攪拌強度、時間であればよく、例えばブレードが100rpm程度で回転するときは、滞留時間を10〜20分くらいにするとよい。
【0028】
本発明で使用する非極性の抽出溶媒としては、例えば炭素数が4〜8の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素等が例示される。炭素数が4〜8の脂肪族炭化水素としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンが挙げられ、芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。これら非極性の抽出溶媒のなかでも化学的に安定なヘキサン、ヘプタン、ブタンなどが好ましい。
【0029】
本発明の芳香族ハロゲン化合物の抽出装置は、図1に示すように、第1のpH調整手段としてpH調整混合槽1、第1の抽出手段としてpH調整混合槽1及び分離槽2を有する。前述したとおり、pH調整混合槽1は第1のpH調整手段と第1の抽出手段を兼務しているが、pH調整混合槽1の代わりにpH調整槽と混合槽とを個別に設けてもよい。また、芳香族ハロゲン化合物を含有する極性抽出溶媒を更に濃縮・減容する場合には、第2のpH調整手段として、pH調整槽4、第2の抽出手段として混合槽5及び分離槽6を有する。また、芳香族ハロゲン化合物を除去した被処理油から極性抽出溶媒を蒸発分離する蒸発槽3、芳香族ハロゲン化合物を除去した水溶性被処理液から非極性抽出溶媒を蒸発分離する蒸発槽7及び芳香族ハロゲン化合物を含有する抽出液から非極性抽出溶媒を蒸発分離して芳香族ハロゲン化合物を濃縮する蒸発槽8を備えている。また、蒸発槽3,7,8により分離された極性抽出溶媒及び/又は非極性抽出溶媒は、蒸留塔10に供給され精製され再利用される。
【0030】
本発明の芳香族ハロゲン化合物の抽出装置の第1のpH調整手段は、被処理油及びアルカリの供給手段及び攪拌手段、温度調整手段を備え、芳香族ハロゲン化合物のpHをpH9以上にすることにより、極性抽出溶媒による被処理油中の芳香族ハロゲン化合物の抽出を容易にする。
【0031】
次に、この第1のpH調整手段で処理した芳香族ハロゲン化合物を含む被処理油は、第1の抽出手段において処理される。第1の抽出手段としてのpH調整混合槽1は、pH調整した被処理油及び極性抽出溶媒の供給手段と攪拌手段、温度調整手段を備え、pH調整した被処理油と極性抽出溶媒とを略均一で微細に分散した混合系にする。この被処理油と極性抽出溶媒の混合液は、分離槽2に移送され、温度15℃以下の条件で芳香族ハロゲン化合物を除去した被処理油と芳香族ハロゲン化合物を含む極性抽出溶媒とに重力分離される。分離槽は、通常用いられる分離機能を有するものであればよい。
【0032】
本発明で好適に用いられる第2のpH調整手段は、芳香族ハロゲン化合物を含む極性抽出溶媒からなる水溶性被処理液及び酸の供給手段、攪拌手段及び温度調整手段を備え、芳香族ハロゲン化合物のpHをpH1〜pH3にすることにより、水溶性被処理液中の芳香族ハロゲン化合物がヒドロキシ基を有する場合でもヒドロキシ基が解離しないようにして非極性抽出溶媒による抽出を容易にする。
【0033】
次に、第2の抽出手段の混合槽5は、第2のpH調整手段で処理した水溶性被処理液及び非極性抽出溶媒の供給手段と攪拌手段、温度調整手段を備え、pH調整した水溶性被処理液と非極性抽出溶媒とほぼ均一で微細に分散した混合系として接触させることにより、芳香族ハロゲン化合物を非極性抽出溶媒側に抽出する。抽出操作の後、水溶性被処理液と非極性抽出溶媒の混合液は、分離槽6に移送され、芳香族ハロゲン化合物が除去された水溶性被処理液と芳香族ハロゲン化合物を含む非極性抽出溶媒とに重力分離される。
【0034】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例により限定するものではない。
【実施例】
【0035】
芳香族ハロゲン化合物を含む試料の調製
ビフェニルを10.42g、1,3,5−トリクロロフェノールを10.04g、NaOHを2g、木酢液・タール混合物を30gを秤量し、濃塩酸及び潤滑油を加え200mlにメスアップし、加熱しながら均一に攪拌混合し芳香族ハロゲン化合物を含む試料を調製した。得られた試料のpHは2であった。
【0036】
芳香族ハロゲン化合物の抽出操作
上記により得られた試料から10mlを分取し、NaOHを添加し試料を所定のpHの値に調整してから極性抽出溶媒を添加・混合し、所定の温度で1時間静置し重力分離することにより芳香族ハロゲン化合物を極性抽出溶媒側へ抽出することを共通条件とし、pHの値、極性抽出溶媒の種類、添加量及び重力分離の温度を表1,2に示すように異ならせた9種類の抽出操作(実施例1〜4、比較例1〜5)を行った。
【0037】
上記の抽出操作により重力分離により得られた上層から取り出された試料(抽出残渣、主に潤滑油)中の1,3,5−トリクロロフェノールの有無を以下の方法により分析した。
【0038】
1,3,5−トリクロロフェノールの分析
抽出操作された試料(抽出残渣)から3mlを約10mlの栓付広口ビンに分取し、硫酸酸性硫酸第一鉄(7NのHSO,0.5MのFeSO)100μl及び30%過酸化水素水100μlを添加し、広口ビンに栓をして1時間振盪した。この試料からヘッドスペース法にてガスを採取し、GC−ECD(電子捕獲型検出器をもつガスクロマトグラフ)を使用して1,3,5−トリクロロフェノールの分解生成物を検出した。得られた結果を表1,2に示した。この方法による1,3,5−トリクロロフェノールの検出限界は、約1μgであった。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【符号の説明】
【0041】
1 pH調整混合槽
2,6 分離槽
3,7,8 蒸発槽
4 pH調整槽
5 混合槽
9 濃縮液タンク
10 蒸留塔
11 被処理油
12 アルカリ
13 極性抽出溶媒
14 酸
15 非極性抽出溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油から、前記芳香族ハロゲン化合物を抽出する方法であって、前記被処理油のpHをpH9以上にした後、該pH調整がされた被処理油に、沸点が80℃以下であるアルコール及びケトンから選ばれる極性抽出溶媒を添加・混合し、15℃以下の温度で重力分離することにより、前記芳香族ハロゲン化合物を極性抽出溶媒側に抽出する芳香族ハロゲン化合物の抽出方法。
【請求項2】
前記極性抽出溶媒が、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の芳香族ハロゲン化合物の抽出方法。
【請求項3】
前記芳香族ハロゲン化合物を抽出した極性抽出溶媒を、pH1〜pH3に調整した後、該pH調整がされた極性抽出溶媒と非極性の抽出溶媒とを接触させて、前記芳香族ハロゲン化合物を非極性の抽出溶媒側に抽出する請求項1又は2に記載の芳香族ハロゲン化合物の抽出方法。
【請求項4】
前記非極性の抽出溶媒により芳香族ハロゲン化合物を除去した極性抽出溶媒を、蒸留分別により回収する請求項3に記載の芳香族ハロゲン化合物の抽出方法。
【請求項5】
芳香族ハロゲン化合物を含有する被処理油から、前記芳香族ハロゲン化合物を抽出する装置であって、前記被処理油のpHをpH9以上にする第1のpH調整手段と、該第1のpH調整手段で処理した被処理油に、沸点が80℃以下の極性抽出溶媒を添加・混合し、15℃以下の温度で重力分離することにより、前記芳香族ハロゲン化合物を極性抽出溶媒側に抽出する第1の抽出手段を有する芳香族ハロゲン化合物の抽出装置。
【請求項6】
前記第1の抽出手段から取り出した芳香族ハロゲン化合物を含有する極性抽出溶媒のpHをpH1〜pH3に調整する第2のpH調整手段と、該第2のpH調整手段で処理した極性抽出溶媒に非極性抽出溶媒を接触させることにより、前記芳香族ハロゲン化合物を非極性抽出溶媒側に抽出する第2の抽出手段を有する請求項5に記載の芳香族ハロゲン化合物の抽出装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−222476(P2010−222476A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71505(P2009−71505)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】