説明

芳香族ポリアミドの製造方法

【課題】芳香族ポリアミド、なかでも高重合度の芳香族ポリアミドの製造方法を提供する。
【解決手段】遊星攪拌機にて攪拌することにより重合せしめることを特徴とする、下記式(I)
−CO−Ar−CO−NH−Ar−NH− (I)
(式(I)において、Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表す)
からなる、特有粘度3.0以上10以下の芳香族ポリアミドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミド、なかでも高重合度の芳香族ポリアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Twaron、Kevlarに代表されるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)等の芳香族ポリアミドは耐熱性、機械的特性の優れた繊維、その他の成型品の原料として有用であることが知られている。
【0003】
公知の方法としてPPTAは有機溶媒中で重合しポリマーを抽出後、硫酸中に溶解させ、繊維に成型される(例えば特許文献1〜4参照)。繊維成型品を得るには高重合度のポリマーを得ることが求められるが、ポリマーの重合時、重合度の進行に伴い溶媒の粘度が上昇し攪拌効率が低下し、重合度が上昇しにくいという問題がある。
【0004】
【特許文献1】米国特許第3671542号明細書
【特許文献2】米国特許第3673143号明細書
【特許文献3】米国特許第3817941号明細書
【特許文献4】米国特許第3819587号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は高重合度の芳香族ポリアミドを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、遊星攪拌機にて攪拌することにより重合せしめることを特徴とする、下記式(I)
−CO−Ar−CO−NH−Ar−NH− (I)
(式(I)において、Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表す)
からなる、特有粘度3.0以上10以下の芳香族ポリアミドの製造方法。である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法により、高重合度の芳香族ポリアミドを効率良く製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳述する。
本発明の製造方法で目的とする芳香族ポリアミドは、実質的に下記式(I)の構成単位からなる全芳香族ポリアミドである。
−CO−Ar−CO−NH−Ar−NH− (I)
(式(I)において、Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表す。)
これらの芳香族基は、1個のベンゼン環またはナフタレン環を含むものでもよいが、複数のベンゼン環またはナフタレン環が直接結合したもの、あるいは、これらの環が−O−,−CO−,−S−,−SO−,−CH−,−C(CH−等を介して結合したものでもよい。
【0009】
かかる芳香族基の具体例としては、
Arについては
【化1】

から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。Arについては
【化2】

から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
これらの芳香族基において、その水素原子のうち1つまたは複数がそれぞれ独立に、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。また、ポリマー鎖中にこれらの芳香族基が2種以上同時に併存してもかまわない。
【0011】
本発明により得られる芳香族ポリアミドは繊維、フィルム、パルプ等の成形材料として有用である。例えば、該芳香族ポリアミドを、乾式法あるいは湿式法により繊維、フィルム、フィブリッド等に成形することができる。
本発明の製造方法で得られるポリマーの特有粘度は、3.0以上10以下、好ましくは3.2〜9.0である。
上記の如き芳香族ポリアミドは、本発明に従って次の方法によって良好な生産性で工業的に製造することができる。
【0012】
下記一般式(A)(B)の各反応成分(モノマー)を所定割合で同時に反応させてポリマーを得る。
XOC―Ar―COX (A)
NH―Ar―NH (B)
式(A)(B)において、Ar,Arは、各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わし、その詳細は各々全芳香族ポリアミドの説明で述べたAr,Arと同じである。式(A)中のXはハロゲンを表わし、具体的には、臭素、ヨウ素が挙げられる。この中でも反応性、安定性、コストの点で塩素が好ましい。
【0013】
本発明の方法において、各反応成分(モノマー)が下記数式(1)を満足する割合で反応させることが好ましい。
0.8≦ a/b ≦1.2 (1)
(式(1)中、aは芳香族ジカルボン酸ジアシルハライド(A)、bは(B)芳香族ジアミン、の各モル数である。)
【0014】
上記a/bが0.8より小さい場合や1.2より大きい場合には、重合度の十分なポリマーを得ることが困難となることがある。a/bの好ましい下限は0.9以上であり、より好ましくは0.93以上、さらに好ましくは0.95以上である。また、a/bの好ましい上限は1.1以下であり、より好ましくは1.07以下、さらに好ましくは1.05以下である。従って、本発明におけるa/bの最適範囲は0.93≦ a/b ≦1.07ということができる。
【0015】
重合を行うのに用いる溶媒については、特に限定はされないが上記の如き原料モノマー(A)、(B)を溶解し、かつそれらと実質的に非反応性であり、好ましくは特有粘度が少なくとも3.0以上のポリマーを得ることが可能なものであれば如何なる溶媒も使用できる。例えば、N,N,N′,N′−テトラメチル尿素(TMU)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAC)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(DMPR)、N,N−ジメチルブチルアミド(NMBA)、N,N−ジメチルイソブチルアミド(NMIB)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、N−シクロヘキシル−2−ピロリジノン(NCP)、N−エチルピロリドン−2(NEP)、N−メチルカプロラクタム(NMC)、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン(NARP)、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2(NMPD)、N,N′−ジメチルエチレン尿素、N,N′−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N′,N′−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン等のアミド系溶媒、p−クロルフェノール、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,4−ジクロルフェノール等のフェノール系溶媒もしくはこれらの混合物を挙げることができる。
【0016】
これらの中でも好ましい溶媒はN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)である。
この場合、溶解性を挙げるために重合前、途中、あるいは終了時に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0017】
ポリマーの製造は、前記モノマー(A)、(B)より、脱水した上記の溶媒中で通常のポリアミドの溶液重合法と同様に製造する。この際の反応温度は80℃以下、好ましくは60℃以下とする。また、この時の濃度はモノマー濃度として1〜20wt%程度が好ましい。
また、本発明ではトリアルキルシリルクロライドをポリマー高重合度化の目的で使用することも可能である。
【0018】
本発明における芳香族ポリアミドは重合の進行とともに非常に高粘度となり、攪拌が困難となる。さらなる重合の進行のためには高い攪拌能力を有する攪拌装置が好ましく利用でき、本発明においては遊星攪拌機を用いることを特徴とする。遊星攪拌機とは攪拌翼の公転と自転の遊星運動(プラネタリー運動)により攪拌を行うもので、プラネタリミキサーともいう。遊星攪拌機は従来一般の遊星攪拌機が用いられ、攪拌翼は複数でも単数でも構わず、攪拌翼の形状も制限はないが、高い攪拌能力を提供できるものが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。実施例中、特有粘度(ηinh)は、濃硫酸を用いてポリマー濃度0.5g/dlで30℃において測定した相対粘度(ηrel)を基に下記式により求めた値である。
ηinh=(lnηrel)/C
(ηrelは相対粘度、Cは濃度を表す)
【0020】
[参考例1] (塩化カルシウムの乾燥方法)
塩化カルシウム100重量部を窒素気流下、フラスコ内で250℃にて1時間乾燥させ、フラスコ内の温度を室温に戻し乾燥した塩化カルシウムを得た。
【0021】
[実施例1]
窒素を終夜流し、系内を乾燥させた特殊機化工業社製プラネタリーミキサーT.K.HIVIS MIXに、参考例1で得た乾燥された塩化カルシウム40重量部、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)400重量部を加えた。次にパラフェニレンジアミン18重量部を加え溶解させた。この溶液を外部冷却により0℃に保ち、テレフタル酸クロリド33.793重量部添加し、0℃で1時間、50℃で2時間反応せしめ反応を終了した。
その後、反応溶液を大量のイオン交換水中に投入しポリマーを析出させた。得られたポリマーを濾別し、更にエタノール、アセトンで洗浄後ポリマーを得た。ポリマーの特有粘度(ηinh)は5.67であった。
【0022】
[比較例1]
アンカー型攪拌翼を有する竪型一軸の反応器にフラスコに塩化カルシウム40重量部を加え窒素気流下、フラスコ内で250℃にて1時間乾燥させ、フラスコ内の温度を室温に戻した後、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)400重量部を加えた。次にパラフェニレンジアミン18重量部を加え溶解させた。この溶液を外部冷却により0℃に保ち、テレフタル酸クロリド33.793重量部添加し、0℃で1時間反応させたところ粘度が上昇し攪拌が不可能となった。その後攪拌することなく50℃で2時間過熱しせしめ反応を終了した。
その後、反応溶液を大量のイオン交換水中に投入しポリマーを析出させた。得られたポリマーを濾別し、更にエタノール、アセトンで洗浄後ポリマーを得た。ポリマーの特有粘度(ηinh)は2.46であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星攪拌機にて攪拌することにより重合せしめることを特徴とする、下記式(I)
−CO−Ar−CO−NH−Ar−NH− (I)
(式(I)において、Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表す)
からなる、特有粘度3.0以上10以下の芳香族ポリアミドの製造方法。
【請求項2】
式(I)におけるAr
【化1】

から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の芳香族ポリアミドの製造方法。
【請求項3】
式(I)におけるAr
【化2】

から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の芳香族ポリアミドの製造方法。
【請求項4】
下記式(A)で表わされる芳香族ジカルボン酸ジアシルハライドの少なくとも1種と、下記式(B)で表わされる芳香族ジアミンとを
XOC―Ar―COX (A)
NH―Ar―NH (B)
(式(A)(B)において、Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を、Xはハロゲンを表わす。)
下記数式(1)
0.8≦ a/b ≦1.2 (1)
(上記数式(1)中、aは芳香族ジカルボン酸ジアシルハライド(A)、b芳香族ジアミン(B)の各仕込みモル数である。)
を同時に満足する割合で、反応媒体中で反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリアミドの製造方法。

【公開番号】特開2008−63516(P2008−63516A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245333(P2006−245333)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】