説明

芳香族水酸化物の製造方法

【課題】フェノールなどの芳香族水酸化物を製造する場合に有用な、十分に高い収率及び選択率をもって芳香族化合物の部分酸化反応を行うことを可能とするプロセスおよび部分酸化用触媒、ならびにそれを用いたフェノールの製造方法の提供。
【解決手段】芳香族化合物および水を含む反応溶液をマイクロリアクター流路を流通させながら放射線を照射することにより、芳香族水酸化物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族化合物の部分酸化反応による芳香族水酸化物、特にフェノールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール等の芳香族水酸化物は、樹脂原料をはじめ合成原料として非常に有益な化合物である。フェノールの工業的な製法としてクメン法が確立されているが、多段階プロセスを必要とするなどの課題を有する。そこで、これらの芳香族水酸化物の製造方法として、従来より、芳香族化合物を部分酸化させ、芳香族水酸化物に変換する方法(直接酸化法)が検討されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では、バナジウム等の酸化物を用いた酸化触媒の存在下、一酸化二窒素等により酸素アニオンラジカルを生成させ、それによりベンゼンをフェノールに酸化する方法が開示されている。また、特許文献2では、リン酸系触媒存在下、ベンゼンと水とを気相接触反応させ、ベンゼンからフェノールを製造する方法を開示する。しかしながら、これらの方法は、高温を必要とする一方、収率及び選択率が低く実用に供しえるものではない。
【0004】
また、酸化剤として、過酸化水素を用いる方法は、水以外に排出するものがないことから、グリーンケミストリーの観点より注目されている。例えば、特許文献3では、芳香族化合物と酸化剤を高圧容器に入れ300〜750℃、20〜50MPaの亜臨界水または臨界水中で反応させることにより、フェノールを製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−146522号公報
【特許文献2】特開平2−101034号公報
【特許文献3】特開2004−175782号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】表面科学 Vol.26,No.10,pp.578−584,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の超臨界水または亜臨界水中での反応は、ベンゼンが一酸化炭素に分解される量が多く、また、反応容器材料としてハステロイ−Cの様な耐食性に強い特殊な金属が必要となる。また、これらの反応は高温下、または高温高圧下で行われ、目的とする部分酸化生成物がさらに逐次酸化を受けてしまうという問題を有し、いずれの方法も炭化水素を部分酸化して含酸素化合物を得るための性能が未だ十分なものではなかった。
【0008】
そこで、本発明は上記従来技術の有する課題を解決するため、ベンゼン等の芳香族からフェノールなどの芳香族水酸化物を製造する場合に有用な、十分に高い収率及び選択率をもって部分酸化反応を行うことを可能とする新たなプロセスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、芳香族化合物と水とを含む反応溶液をマイクロリアクター流路を流通させながら放射線を照射することにより、芳香族化合物から芳香族水酸化物を得る方法を見出した。また、酸化剤として過酸化水素を用いることによりベンゼンを部分酸化させるフェノールの製造方法において、十分に高い収率と十分に高い選択率とが得られることを見出した。さらに、(i)マイクロリアクター流路に光触媒、貴金属粒子、貴金属酸化物粒子、またはコバルト化合物を固定化することにより、または、(ii)光触媒、貴金属粒子もしくは貴金属酸化物粒子を反応溶液に懸濁して、または貴金属化合物もしくはコバルト化合物を溶媒に溶解して、反応溶液と一緒に流通させることにより、芳香族水酸化物の収率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記貴金属粒子または貴金属酸化物粒子には、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、インジウム等の金属単体、酸化物およびそれらの混合物を使用できる。また担体としては、酸化チタン、ゼオライト、シリカ、アルミナ等、一般的な担体が使用可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、ベンゼン等の芳香族化合物から効率よくフェノール等の芳香族水酸化物へ転換することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明において好適に使用されるマイクロリアクター反応装置の概略図である。
【図2】本発明において好適に使用されるマイクロリアクター反応装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、芳香族化合物および水を含む反応溶液をマイクロリアクター流路に流通させながら、放射線照射により芳香族化合物を部分酸化させて芳香族水酸化物を生成する水酸化工程を備える芳香族水酸化物製造方法に関する。以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の単なる一例であって、当業者であれば、適宜設計変更可能である。
【0014】
(芳香族化合物)
本発明に用いられる芳香族化合物は、分子内に少なくとも一つのベンゼン環を有し、当該ベンゼン環に水酸基を導入可能な未置換部位を有するベンゼン系芳香族化合物を包含している。ここに、ベンゼン系芳香族化合物は、単一のベンゼン環を有する芳香族系化合物(以下、単環式芳香族化合物という。)と、二以上のベンゼン環を多価基を介して連結された芳香族化合物(以下、多価式芳香族化合物という。)と二以上のベンゼン環を縮合状態で有する芳香族系化合物(以下、縮合環式芳香族化合物という。)と二以上のベンゼン環が直接連結した芳香族系化合物(以下、環集合式芳香族化合物という。)とを包含している。単環式芳香族化合物としては、ベンゼンの他、一置換ベンゼン、二置換ベンゼン、多置換ベンゼンを挙げることができる。置換基としては、特に限定しないで、各種官能基を含む置換基で置換されていてもよい。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基などの各種の直鎖状及び分岐状の飽和あるいは不飽和炭化水素基、シクロアルキル基などの環状の飽和及び不飽和炭化水素基、さらに、ヒドロキシ基、カルボニル基、オキシ基、カルボキシル基、エステル基などの含酸素官能基を有する置換基、シアノ基、イミド基などの含窒素官能基を有する置換基などであってもよい。また、複素環系官能基を有する置換であってもよい。これらの置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、カルボキシル基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、アセチル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、アセトキシ基、ハロゲン元素、チオアルコキシ基等を挙げることができる。
【0015】
このような単環式芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、スチレン、キシレン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、クメン、シメン、安息香酸、ニトロベンゼン、アニリン、ベンゾニトリル、アセトフェノン、アニソール、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、酢酸フェニル、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、クレゾール、クロロトルエン、塩化ベンジル、ニトロトルエン、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ベンズアルデヒド、ベンゼンスルホン酸、およびトルエンスルホン酸等を挙げることができる。なかでも、ベンゼン、アルキルベンゼン、芳香族ヒドロキシ化合物、アニリン、アニソール、クロロベンゼンなどの電子供与基をもつベンゼン誘導体を好ましく用いることができ、より好ましくはベンゼンおよびアルキルベンゼンである。
【0016】
なお、単環式芳香族化合物は、ベンゼン以外の他の共役環を含む炭化水素環や複素環をベンゼン環に縮合してあるいは連結して有する化合物も含まれる。このような単環式芳香族化合物としては、インデン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、ベンゾピラン、キノサン等を挙げることができる。
【0017】
多価式芳香族化合物は、オキシ基、アルキレン基、イミノ基などの二価以上の多価基を介してベンゼン環あるいはベンゼン環を含むユニットが連結された化合物である。多価芳香族化合物には、ベンゼン環を含むユニットを単量体単位として直鎖状あるいは分枝状に連結された高分子化合物も含まれる。多価式芳香族化合物は置換基を有していてもよく、置換基は、単環式芳香族化合物におけるのと同様の各種置換基を有することができる。例えば、このような多価式芳香族化合物としては、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジベンジルケトン、ジベンジル等を挙げることができる。
【0018】
多環式芳香族化合物としては、縮合環系芳香族化合物と環集合系芳香族化合物とを挙げることができる。縮合環系芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、トリフェニリン等あるいはこれらのベンゼン環において1あるいは2以上の置換基を有する化合物を挙げることができる。置換基は、単環式芳香族化合物におけるのと同様の各種置換基を有することができる。このような縮合環系芳香族化合物としては、例えば、ナフタレン、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、アントラセン、トリフェニリン、ベンゾフェナントレン等を挙げることができる。
【0019】
また、環集合系芳香族化合物としては、分子内の少なくとも二つのベンゼン環が共有原子を持つことなく結合を介して連結されている化合物である。例えば、ビフェニル、テルフェニルなどのベンゼン環が直鎖状に連結した環集合系芳香族化合物、分岐して連結した環集合系芳香族化合物及びこれらのベンゼン環において1あるいは2以上の置換基を有する化合物を挙げることができる。置換基は、単環式芳香族化合物におけるのと同様の各種置換基を有することができる。このような縮合環系芳香族化合物としては、例えば、ビフェニル、テレフェニル、スチルベン等を挙げることができる。
【0020】
なお、本発明の芳香族化合物は、水酸基を導入可能な未置換部位を有する少なくとも一つのベンゼン環あるいは非ベンゼン系芳香族環を有していれば足り、上記のカテゴリーに分類されないあるいは2つ以上のカテゴリーに同時に分類される化合物も包含している。
【0021】
本発明における典型的な芳香族化合物としては、ベンゼン、フェノール、トルエンおよびナフタレンを用いることができる。なお、これらの芳香族化合物は、置換基を有していてもよく、置換基を有していなくてもよい。
【0022】
(水)
本発明では反応溶液に水を含む。水が酸化剤として芳香族化合物の部分酸化に寄与してもよい。芳香族化合物に対する水の量は芳香族化合物に対し1重量部以上、より好ましく5重量部以上が好ましい。
【0023】
(酸化剤)
本発明の一実施態様において、当該反応溶液はさらに酸化剤を含む。酸化剤として、分子状酸素、過酸化水素、亜酸化窒素が利用可能である。これらの中でも、分解後に有害な副生物を生成しない過酸化水素、分子状酸素が好ましい。また、これらの酸化剤は、反応溶液中の芳香族化合物と等モル当量以上の含有量であることが好ましい。一方、酸化剤の添加量は、経済的観点から、芳香族化合物の10モル当量程度までが好ましい。
【0024】
(反応溶媒)
過酸化水素および水等の水溶性の化合物を酸化剤として使用する場合、酸化剤がベンゼン等の芳香族化合物に溶解しないため、相溶性の溶媒をさらに使用してもよい。相溶性溶媒の種類は、特に制限はされないが、酢酸、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が利用できる。
【0025】
(貴金属または貴金属酸化物触媒)
さらに本発明では、マイクロリアクター内に貴金属または貴金属酸化物を含む触媒を固定化してもよい。当該触媒との相乗作用により、芳香族水酸化物の収率を向上させることができる。本発明で使用する貴金属または貴金属酸化物部分酸化触媒は、周期表第8類〜第11類の貴金属の金属単体、酸化物、およびそれらの混合物を用いることができる。好ましくは、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、インジウム等の金属単体、酸化物、およびそれらの混合物からなる群から選択される。さらに好ましくは、金、銀、または白金の金属単体、酸化物、およびそれらの混合物である。
【0026】
本発明で使用する貴金属または貴金属酸化物触媒は粒子であってもよい。貴金属または貴金属酸化物粒子の粒径は、特に制限はしないが、50nm以下、詳細には30nm以下、より詳細には、粒径10nm以下のものが活性が高く好ましい。なお、貴金属粒子または貴金属酸化物粒子の粒径は、電子顕微鏡または一酸化炭素および水素吸着法により測定することができる。
【0027】
さらに、本発明で使用する貴金属粒子および貴金属酸化物粒子部分酸化触媒は、貴金属粒子および貴金属酸化物粒子単独でも利用可能であるが、担体に担持してもよい。担体に担持することにより、操作性が向上し、より広範囲の用途に利用することができる。
【0028】
本発明にかかる貴金属または貴金属酸化物粒子の担体は、特に制限されるものではないが、比表面積が大きい物質を使用することが好ましい。比表面積が大きいと、貴金属ナノ粒子の担持量を多くしても、粒子間の距離が大きいために、粒子同士が結合して粒子径が増大することを防ぐことができる。当該担体は比表面積が50m2/g以上であることが好ましく、100m2/g以上であることがより好ましい。担体の形状は特に制限されないが、以下に詳述する利用形態に応じて異なってもよい。
【0029】
本発明の部分酸化触媒の担体としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニア、ゼオライト、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、メソポーラスシリカ、メソポーラスチタニア、酸化タングステン、酸化ニオブ、窒化炭素、多孔質シリカ、多孔質チタニア、ジルコニア、セリア、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバー等の無機化合物が利用できる。さらに、これらの担体を構成する主成分に他の元素を付加した化合物も利用できる。
【0030】
担体に担持される貴金属粒子または貴金属酸化物粒子の量は、特に制限されないが、例えば、酸化チタンに担持された金粒子の量は、酸化チタンを基準として、0.01 〜10.0重量%であることが好ましく、0.1〜2.0重量%であることがより好ましい。また、ゼオライトに担持された白金の量は、ゼオライトを基準として0.01〜10.0 重量%であることが好ましく、0.1〜2.0重量%であることがより好ましい。
【0031】
反応液中に触媒を懸濁して使用する場合、反応溶液中の触媒の濃度は、1重量%未満、好ましくは0.1重量%未満である。
【0032】
貴金属粒子触媒の製造方法は、特に制限はされないが、通常の還元方法等で製造することができる(例えば、非特許文献1参照)。例えば、貴金属塩水溶液に還元剤を添加して還元する方法、貴金属水溶液にアルコール等の弱い還元剤を添加して還流しながら還元する方法等がある。この時、貴金属水溶液にポリビニルピロリドン等の分散剤を添加してもよい。また、これらの製造した貴金属粒子を担体に担持させて貴金属粒子担持触媒として使用することもできる。さらには担体上に貴金属イオンを含浸後、または、水酸化物として付着後、還元処理により貴金属ナノ粒子にして、貴金属ナノ粒子触媒とすることもできる。
【0033】
本発明で使用する貴金属酸化物粒子触媒は、特に制限されないが、通常の方法で製造することができる。例えば、担体上に貴金属イオンを含浸させた後、空気中加熱処理により酸化して貴金属酸化物粒子を担体上に形成してもよい。また、貴金属粒子を担体上に形成し、その後、空気中加熱処理により貴金属酸化物粒子を担体上に形成してもよい。
【0034】
(光触媒)
また本発明では、マイクロリアクター内に光触媒を固定化してもよい。本発明で使用する光触媒は、紫外光以上のエネルギーで励起できる光触媒であれば使用可能である。好ましくは、酸化チタン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化亜鉛、およびこれらの混合物を使用できる。
【0035】
上記光触媒は、助触媒として白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、金、銀、銅、ニッケル、コバルト等を担持してもよい。助触媒の担持方法は、特に制限されないが、光触媒の粉末に助触媒の金属種を含む金属塩溶液を含浸させて、光触媒上に金属ナノ粒子を形成させてもよい。また、光触媒粉末を助触媒を含む水溶液に懸濁し、紫外線を当てながら撹拌を行い、光電着により助触媒を光触媒に担持させてもよい。
【0036】
(コバルト触媒)
他の実施態様において、本発明では、マイクロリアクター内にコバルト化合物を固定化してもよい。コバルト化合物は、二価および三価のコバルトを含む化合物であれば利用することができるが、好ましくは酸化コバルト(II,III)または酸化コバルト(II,III)を含むコバルト化合物を使用することができる。
【0037】
本発明で使用する酸化コバルト(II,III)は、特に制限はされないが、市販品を購入しても良く、また硝酸コバルト等の水溶性コバルト化合物から製造してもよい。また、本発明で使用する酸化コバルト(II,III)は、比表面積が50m2/g以上であることが好ましい。
【0038】
反応液中に触媒を懸濁して使用する場合、反応溶液中の触媒の濃度は、1重量%未満、好ましくは0.1重量%未満である。
【0039】
(均一触媒)
本発明では、反応溶液と一緒に、溶媒に溶解した均一触媒をマイクロリアクターに流通させながら電子線照射して酸化反応をおこなってもよい。均一触媒としては、コバルト化合物、パラジウム化合物、ルテニウム化合物、ロジウム化合物、白金化合物およびこれらの混合物を使用できる。詳細には、酢酸コバルト、硝酸コバルト、硝酸パラジウム等の金属塩、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、テトラアンミン白金(II)等の金属錯体を用いることができる。
【0040】
ここで、反応溶液中の触媒の濃度は、反応溶液の重さを基準に金属または貴金属として1重量%未満、好ましくは0.1重量%未満である。
【0041】
(その他の成分)
なお、本発明の方法には、本発明の目的を妨げない範囲で他の成分を含ませることができる。例えば、無機酸や無機アルカリなど、副生成物の生成あるいは増加に関与しない範囲で含ませることもできる。また、反応溶液中での触媒粒子の分散性を向上させるために、分散剤を添加してもよい。
【0042】
(芳香族ヒドロキシ化合物)
本発明の方法により得られる芳香族ヒドロキシ化合物とは、芳香族化合物のベンゼン環を形成する炭素に直接ヒドロキシル基が少なくとも1個結合した化合物である。本発明方法に則していえば、前記芳香族化合物のベンゼン環を形成する炭素における炭素−水素結合の少なくとも1つが炭素−ヒドロキシ結合に変換された化合物である。したがって、分子中に、芳香族環の炭素原子に結合した水酸基を一つのみならず、2以上有する芳香族ヒドロキシ化合物も含まれる。例えば、ベンゼンからは、フェノール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、レゾルシン等が生成し、ナフタレンからは、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等が生成し、トルエンからは、モノ及びポリヒドロキシトルエン等が生成する。
【0043】
(マイクロリアクター流路による水酸化工程)
次に、本発明のプロセスについて説明する。本発明では、芳香族化合物および水を含む反応溶液をマイクロリアクター流路に流通させながら、放射線照射により芳香族化合物を部分酸化させて芳香族水酸化物を生成する。
【0044】
本発明において、「放射線」とは電離性を有する高いエネルギーを持った粒子線または電磁波を指す。詳細には、透過性が高く、化合物との反応性が高いためガンマ線および電子線が好ましい。低エネルギー電子線(200keV未満)を利用する場合は、電子線の透過力が非常に弱いため、深さ100μm未満のマイクロリアクター流路で反応させることが好ましい。
【0045】
本発明の一実施態様において、当該反応溶液はさらに酸化剤を含む。また、本発明の一実施態様において、本発明の水酸化工程は触媒を使用しないで行ってもよい。また別の実施態様において、本発明の水酸化工程は、触媒を反応液に添加してもよく、あるいはマイクロリアクター流路内の電子線透過領域に触媒を固定化して行ってもよい。
【0046】
触媒を反応液に添加して、マイクロリアクター流路を流通させる場合、当該触媒として、光触媒、貴金属粒子、貴金属酸化物粒子触媒、もしくはコバルト化合物粒子触媒単独、または、光触媒、貴金属粒子、貴金属酸化物粒子もしくはコバルト化合物粒子触媒を粒径20μm以下の担体上に固定化した触媒を使用できる。反応後の触媒は、ろ過または遠心分離等により、反応液から分離して、再利用することもできる。
【0047】
また、貴金属粒子、貴金属酸化物粒子またはコバルト化合物粒子を担体上に固定した触媒をマイクロリアクター流路の壁面に固定し、反応溶液を流通させてもよい。この場合の担体は、粒径10μm以下の粒子状が好ましいが、特に制限されるものではない。マイクロリアクター流路への触媒の固定化は、特に制限されないが、無機バインダーを使用して固定化することができる。無機バインダーとして、アルミナゾル、シリカゾル等のセラミックスゾルが好ましい。セラミックスゾルと触媒を混合し、流路表面に塗布後、200℃以上の温度で加熱して、固定化することができる。加熱処理温度は、無機バインダーが固着する温度を選択する必要が有る。また、触媒によっては、無機バインダーでマイクロリアクター流路に固定化後、さらに、還元雰囲気で貴金属粒子を還元処理してもよい。
【0048】
本発明において好適に使用されるマイクロリアクター反応装置の一例を図1に示す。図1において、マイクロリアクター反応装置は、ポンプ部1aおよび1b、マイクロリアクター流路部2、電子線照射部3、ペルチェ温度制御部4、流路カバー5、流路カバー押さえ6からなる。ポンプ部1aおよび1bから水を含む溶媒、ベンゼン、任意選択的に過酸化水素をマイクロリアクター流路部2に導入する。このとき、マイクロリアクター流路の入り口をY字型にして、水を含む溶媒およびベンゼンと過酸化水素とを別々の流路から導入してもよい。
【0049】
流路カバー5は、低エネルギー電子線が透過できるように10μm以下の金属薄膜が好ましい。金属の種類は、チタン、ベリリウム、アルミニウム、ステンレス等が使用できるが、特に制限されるものではない。耐放射線性が強ければ、カプトン等の樹脂を使用しても良い。ただし、樹脂の場合は、定期的に電子線のダメージを確認する必要がある。
【0050】
ペルチェ型温度制御部4は、電子線照射によりマイクロリアクター流路部2の温度が上昇するのを抑えるため、または、特定の反応温度に制御するために使用される。電子線照射部3から照射される電子線は、直線状でも良いし、放射状に拡散してもよい。また、X,Yステージ上にペルチェ型温度制御部4およびマイクロリアクター流路部2を設置し、X,Yステージを動かすことにより、マイクロリアクター流路部2全体に電子線が照射できるようにしてもよい。
【0051】
このような本発明のプロセスを用いた場合に収率及び選択率が向上する理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0052】
ベンゼンと過酸化水素との反応によりフェノールを製造する場合を例にとると、一般的には、以下の工程を経由すると考えられる。
【0053】
(第1工程)
放射線の照射によりベンゼンおよび過酸化水素が活性化され、ベンゼンラジカルおよび水酸基ラジカル(OHラジカル)が生成する。
【0054】
(第2工程)
生成したベンゼンラジカルおよびOHラジカルが反応して、フェノールが生成する。
【0055】
(第3工程:副反応)
ベンゼンラジカル同士が2量化して、ビフェニルが生成する。
【0056】
一方、理論により限定されるものではないが、本発明においては次のような反応機構が考えられる。
【0057】
(第1工程−2)
マイクロリアクター中で放射線の照射によりベンゼンおよび水が活性化され、ベンゼンラジカルおよびOHラジカルが生成する。
【0058】
(第2工程−2)
生成したベンゼンラジカルおよびOHラジカルが反応して、フェノールが生成する。
【0059】
また、光触媒、貴金属粒子、貴金属酸化物粒子部分酸化触媒、またはコバルト化合物粒子の役割は定かではないが、以下のように、過酸化水素の活性によるOHラジカルの生成およびベンゼンラジカルとOHラジカルの反応に寄与するものと考えられる。
【0060】
(第1工程−3)
光触媒、貴金属触媒、またはコバルト触媒上で過酸化水素が活性化され、水酸基ラジカル(OHラジカル)が生成する。
【0061】
(第2工程−3)
OHラジカルとベンゼンとの反応によるヒドロキシシクロヘキサジエニルラジカルが生成し、このヒドロキシシクロヘキサジエニルラジカルからフェノールが生成される。
【0062】
その結果、本発明では、ビフェニルの生成が抑制され、フェノールが高収率で得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例1
(金粒子担持触媒の調製)
酸化チタン(石原産業製ST−01)10.0gに、酸化チタンの重量を基準に金として0.5重量%含有するように塩化金酸水溶液を含浸させた。乾燥後、10gを10重量%炭酸水素ナトリウム水溶液1Lに入れて、30分以上攪拌した。このときの懸濁液のpHは、9.5以上であった。さらに、還元剤として1重量%水素化ホウ素ナトリウム水溶液20mlを添加した。この懸濁液をろ過洗浄して、110℃で乾燥して、0.5重量%金担持酸化チタン触媒とした。酸化チタン担体上の金粒子を電子顕微鏡で観察した結果、金粒子の粒径は、10nm以下であった。
【0065】
実施例2
(白金粒子担持触媒の調製)
USY型ゼオライト(東ソー製、HSZ−350HUA)10.0gに、ゼオライトの重量を基準に白金として1.0重量%含有するように塩化白金酸水溶液を含浸させた。これを110℃で乾燥後、さらに空気中、450℃で焼成して1重量%白金担持ゼオライト触媒とした。ゼオライト上の白金粒子を電子顕微鏡で観察した結果、白金粒子の粒径は、10nm以下であった。
【0066】
(マイクロリアクターによるベンゼンの水酸化試験)
実施例3〜5、比較例1
ベンゼン5ml、30%過酸化水素水50mlを200mlメスフラスコに入れ、全体で200mlになるように酢酸を添加した。これを反応液として、電子線アシスト型マイクロリアクターで反応を行った。
【0067】
電子線照射装置は、浜松ホトニクス製EB-ENGENE(登録商標)を使用し、照射窓から10mmの距離にマイクロリアクターの流路をセットした。マイクロリアクターの流路には、実施例2で調製した1重量%Pt担持ゼオライトをシリカゾルをバインダーとして固定化した。流路は、幅500μm、深さ100μm、長さ79mmとした。マイクロリアクター流路は厚さ3μmのチタン箔でカバーした。また、マイクロリアクター流路は、ペルチェ素子で温度制御が可能である。この触媒を固定化したマイクロリアクター流路に反応液を0.5ml/minで流しながら、電子線を照射した。電子線照射条件を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例6〜8、比較例2
ベンゼン5ml、30%過酸化水素水50mlを200mlメスフラスコに入れ、全体で200mlになるように酢酸を添加した。これを反応液として、電子線アシスト型マイクロリアクターで反応を行った。
【0070】
電子線照射装置は、浜松ホトニクス製EB-ENGENE(登録商標)を使用し、照射窓から10mmの距離にマイクロリアクターの流路をセットした。マイクロリアクターの流路には、実施例1で調製した0.5重量%金担持酸化チタンをシリカゾルをバインダーとして固定化した。流路は、幅500μm、深さ100μm、長さ79mmとした。マイクロリアクター流路は厚さ3μmのチタン箔でカバーした。また、マイクロリアクター流路は、ペルチェ素子で温度制御が可能である。この触媒を固定化したマイクロリアクター流路に反応液を0.5ml/minで流しながら、電子線を照射した。電子線照射条件を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
実施例9〜11、比較例3
ベンゼン5ml、30%過酸化水素水50mlを200mlメスフラスコに入れ、全体で200mlとなるように、酢酸を添加した。これを反応液として、電子線アシスト型マイクロリアクターで反応を行った。
【0073】
電子線照射装置は、浜松ホトニクス製EB-ENGENE(登録商標)を使用し、照射窓から10mmの距離にマイクロリアクターの流路をセットした。マイクロリアクターの流路には、光触媒用酸化チタン(テイカ製:TKC−304)を固定化した。流路は、幅500μm、深さ100μm、長さ79mmとした。マイクロリアクター流路は厚さ3μmのチタン箔でカバーした。また、マイクロリアクター流路は、ペルチェ素子で温度制御が可能である。この触媒を固定化したマイクロリアクター流路に反応液を0.5ml/minで流しながら、電子線を照射した。電子線照射条件を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
実施例12〜14、比較例4
ベンゼン5ml、30%過酸化水素水50mlを200mlメスフラスコに入れ、全体で200mlとなるように、酢酸を添加した。これを反応液として、電子線アシスト型マイクロリアクターで反応を行った。
【0076】
電子線照射装置は、浜松ホトニクス製EB-ENGENE(登録商標)を使用し、照射窓から10mmの距離にマイクロリアクターの流路をセットした。マイクロリアクターの流路には、触媒を固定化しなかった。流路は、幅500μm、深さ100μm、長さ79mmとした。マイクロリアクター流路は厚さ3μmのチタン箔でカバーした。また、マイクロリアクター流路は、ペルチェ素子で温度制御が可能である。このマイクロリアクター流路に反応液を0.5ml/minで流しながら、電子線を照射した。電子線照射条件を表4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
実施例15
ベンゼン5ml、純水50mlを200mlメスフラスコに入れ、全体で200mlとなるように、酢酸を添加した。これを反応液として、電子線アシスト型マイクロリアクターで反応を行った。
【0079】
電子線照射装置は、浜松ホトニクス製EB-ENGENE(登録商標)を使用し、照射窓から10mmの距離にマイクロリアクターの流路をセットした。マイクロリアクターの流路には、触媒を固定化しなかった。流路は、幅500μm、深さ100μm、長さ79mmとした。マイクロリアクター流路は厚さ3μmのチタン箔でカバーした。また、マイクロリアクター流路は、ペルチェ素子で温度制御が可能である。このマイクロリアクター流路に反応液を0.5ml/minで流しながら、電子線を110keV、150μAの条件で照射した。
【0080】
比較例5
ベンゼン5ml、30%過酸化水素水50mlを200mlメスフラスコに入れ、全体で200mlになるように、酢酸を添加した。これを反応液として、紫外線を照射しながらマイクロリアクターで反応を行った。
【0081】
マイクロリアクターの流路には、光触媒用酸化チタン(テイカ製:TKC−304)を固定化した。流路は、幅500μm、深さ100μm、長さ79mmとした。マイクロリアクター流路は厚さ11μmのポリエチレンフィルムでカバーした。また、マイクロリアクター流路は、ペルチェ素子で温度制御が可能である。この触媒を固定化したマイクロリアクター流路に反応液を0.5ml/minで流しながら、波長355nmLED照明を使って紫外線を照射した。紫外線の照射量は0.9mW/cm2であった。
【0082】
比較例6
ベンゼン5ml、30%過酸化水素水50mlを200mlメスフラスコに入れ、全体で100mlになるように、酢酸を添加した。これを反応液として、紫外線を照射しながらマイクロリアクターで反応を行った。
【0083】
マイクロリアクターの流路には、実施例1で調製した0.5重量%金担持酸化チタンをシリカゾルをバインダーとして固定化した。流路は、幅500μm、深さ100μm、長さ79mmとした。マイクロリアクター流路は厚さ11μmのポリエチレンフィルムでカバーした。また、マイクロリアクター流路は、ペルチェ素子で温度制御が可能である。この触媒を固定化したマイクロリアクター流路に反応液を0.5ml/minで流しながら、波長355nmLED照明を使って紫外線を照射した。紫外線の照射量は0.9mW/cm2であった。
【0084】
比較例7
ベンゼン5ml、30%過酸化水素水50mlを200mlメスフラスコに入れ、全体で200mlとなるように、酢酸を添加した。これを反応液として、紫外線を照射しながらマイクロリアクターで反応を行った。
【0085】
マイクロリアクターの流路には、実施例2で調製した1重量%白金担持ゼオライトをシリカゾルをバインダーとして固定化した。流路は、幅500μm、深さ100μm、長さ79mmとした。マイクロリアクター流路は厚さ11μmのポリエチレンフィルムでカバーした。また、マイクロリアクター流路は、ペルチェ素子で温度制御が可能である。この触媒を固定化したマイクロリアクター流路に反応液を0.5ml/minで流しながら、波長355nmLED照明を使って紫外線を照射した。紫外線の照射量は0.9mW/cm2であった。
【0086】
分析例1
反応終了後の各反応溶液に内部標準としてナフタレンを加えて、ガスクロマトグラフ法(装置:島津GC−2001、カラム:ZB−WAX、0.25mm×30m)によりフェノールおよびビフェニルの定性および定量分析を行った。このようにして得られたフェノールおよびビフェニルの反応液中の濃度ならびに初期ベンゼン濃度から、下式によりベンゼンのフェノールまたはビフェニルへの転化率を計算した。その結果を表5に示す。
【0087】
フェノールへの転化率(%)=(フェノール濃度(mol/L))/(初期ベンゼン濃度(mol/L))×100
ビフェニルへの転化率(%)=(ビフェニル濃度(mol/L))×2/(初期ベンゼン濃度(mol/L))×100
【0088】
【表5】

【0089】
表5より、マイクロリアクターを使用して、水とベンゼンからフェノールが製造できることが確認できた。また、過酸化水素とベンゼンから効率的にフェノールが製造できることが確認できた。ベンゼンの水酸化反応は、触媒がない場合でも進行したが、貴金属触媒を固定化することにより、さらにフェノールの収率が向上することが確認できた。一方、UV照射下では、触媒の有無に関らず、ほとんど反応が進行しなかった。
【0090】
実施例16
(酸化コバルト触媒の調製)
硝酸コバルト六水和物10.0gを純水1Lに溶解し、10重量%炭酸水素ナトリウム水溶液をpHが9以上になるまで添加し、水酸化コバルトの沈殿を生成させた。この沈殿を1晩静置して熟成させた後、ろ過・洗浄した。さらに、ろ過物を120℃で乾燥
後、空気中300℃で焼成した。得られた粉末は、黒色であり、比表面積が84m2/gであった。
【0091】
実施例17
(金粒子担持酸化コバルト触媒の調製)
実施例16で調製した酸化コバルト10.0gに、酸化コバルトの重量を基準に金として0.5重量%含有するように塩化金酸水溶液を含浸させた。乾燥後、得られた混合物10gを10重量%炭酸水素ナトリウム水溶液1Lに入れて、30分以上攪拌した。このときの懸濁液のpHは、9.5以上であった。さらに、還元剤として1重量%水素化ホウ素ナトリウム水溶液20mlを添加した。この懸濁液をろ過洗浄し、110℃で乾燥して、0.5重量%金担持酸化コバルト触媒とした。酸化コバルト担体上の金粒子を電子顕微鏡で観察した結果、金粒子の粒径は、10nm以下であった。
【0092】
実施例18
(1.0重量%銀担持酸化チタンの調製)
酸化チタン(石原産業製ST−01)10.0gに、酸化チタンの重量を基準に銀として1.0重量%含有するように硝酸銀水溶液を含浸させた。乾燥後、得られた混合物10gを10重量%炭酸水素ナトリウム水溶液1Lに入れて、30分以上攪拌した。このときの懸濁液のpHは、9.5以上であった。さらに、還元剤として1重量%水素化ホウ素ナトリウム水溶液20mlを添加した。この懸濁液をろ過洗浄して、110℃で乾燥して、1.0重量%銀担持酸化チタン触媒とした。酸化チタン担体上の銀粒子を電子顕微鏡で観察した結果、銀粒子の粒径は、10nm以下であった。
【0093】
実施例19
(0.5重量%ルテニウム担持酸化チタンの調製)
酸化チタン(石原産業製ST−01)10.0gに、酸化チタンの重量を基準にルテニウムとして0.5重量%含有するように塩化ルテニウム水溶液を含浸させた。乾燥後、空気中300℃で2時間加熱処理して、0.5重量%ルテニウム担持酸化チタン触媒とした。
【0094】
実施例20
(0.5重量%ルテニウム担持USYゼオライトの調製)
USY型ゼオライト(東ソー製、HSZ−350HUA)10.0gに、ゼオライトの重量を基準にルテニウムとして0.5重量%含有するように塩化ルテニウム水溶液を含浸させた。乾燥後、空気中300℃で2時間加熱処理して、0.5重量%ルテニウム担持ゼオライト触媒とした。
【0095】
実施例21
(0.5重量%金−0.5重量%ルテニウム担持酸化チタンの調製)
酸化チタン(石原産業製ST−01)10.0gに、酸化チタンの重量を基準に金として0.5重量%含有するように塩化金酸水溶液およびルテニウムとして0.5重量%含有するように塩化ルテニウム水溶液を含浸させた。乾燥後、空気中300℃で3時間加熱処理して、0.5重量%ルテニウム担持酸化チタン触媒とした。
【0096】
実施例22
(0.5重量%白金−0.5重量%ルテニウム担持酸化チタンの調製)
酸化チタン(石原産業製ST−01)10.0gに、酸化チタンの重量を基準に白金として0.5重量%含有するように塩化白金酸水溶液およびルテニウムとして0.5重量%含有するように塩化ルテニウム水溶液を含浸させた。乾燥後、空気中300℃で3時間加熱処理して、0.5重量%ルテニウム担持酸化チタン触媒とした。
【0097】
実施例23〜32
ベンゼン5ml、30%過酸化水素水5ml、純水80mlを200mlメスフラスコに入れ、全体で200mlになるように酢酸を添加した。これを反応液として、電子線アシスト型マイクロリアクターで反応を行った。
【0098】
電子線照射装置は、浜松ホトニクス製EB-ENGENE(登録商標)を使用し、照射窓から20mmの距離にマイクロリアクターの流路をセットした。マイクロリアクターの流路には、表6に示す触媒をシリカゾルをバインダーとして固定化した。流路は、幅500μm、深さ100μm、長さ79mmとした。マイクロリアクター流路は厚さ3μmのチタン箔でカバーした。また、マイクロリアクター流路は、ペルチェ素子で20℃に制御した。この触媒を固定化したマイクロリアクター流路に反応液を0.05ml/minで流しながら、加速電圧110KeV,電流値150μAの条件で電子線を照射した。
【0099】
【表6】

【0100】
分析例2
反応終了後の各反応溶液を分析例1と同様の方法で、フェノール、ビフェニルおよびベンゾキノンの定性および定量分析を行った。ただし、ベンゾキノンへの転嫁率はベンゾキノンの反応液中の濃度ならびに初期ベンゼン濃度から、下式により計算した。定性・定量分析の結果を表7に示す。
【0101】
ベンゾキノンへの転化率(%)=(ビフェニル濃度(mol/L))/(初期ベンゼン濃度(mol/L))×100
【0102】
【表7】

【0103】
実施例33〜44
ベンゼン5ml、30%過酸化水素水5ml、純水80mlを200mlメスフラスコに入れ、全体で200mlになるように酢酸を添加した。この反応液200mlに、表7の金属化合物を金属として200mg溶解して電子線アシスト型マイクロリアクターで反応を行った。
【0104】
電子線照射装置は、浜松ホトニクス製EB-ENGENE(登録商標)を使用し、照射窓から20mmの距離にマイクロリアクターの流路をセットした。マイクロリアクターの流路に触媒を固定せずに使用した。流路は幅500μm、深さ100μm、長さ79mmとした。マイクロリアクター流路は厚さ3μmのチタン箔でカバーした。また、マイクロリアクター流路は、ペルチェ素子で20℃に制御した。このマイクロリアクター流路に反応液を0.05ml/minで流しながら、加速電圧110KeV,電流値150μAの条件で電子線を照射した。
【0105】
【表8】

【0106】
分析例3
反応終了後の各反応溶液を分析例1と同様の方法で、フェノール、ビフェニルおよびベンゾキノンの定性および定量分析を行った。定性・定量分析の結果を表9に示す。
【0107】
【表9】

【0108】
以上の通り、マイクロリアクター中において、ベンゼンと過酸化水素の反応溶液を電子線照射することにより、ベンゼンから効率よくフェノールへ転換することが可能となる。
【符号の説明】
【0109】
1a ポンプ部
1b ポンプ部
2 マイクロリアクター流路部
3 電子線照射部
4 ペルチェ温度制御部
5 流路カバー
6 流路カバー押さえ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(a)芳香族化合物および(b)水を含む反応溶液を提供する工程、
(2)前記反応溶液をマイクロリアクターに導入する工程、
(3)前記マイクロリアクター内の前記反応溶液に放射線を照射して、前記芳香族化合物の水酸化物を形成する工程、
を含むことを特徴とする芳香族水酸化物の製造方法。
【請求項2】
(1)(a)芳香族化合物、(b)水、および(c)酸化剤を含む反応溶液を提供する工程、
(2)前記反応溶液をマイクロリアクターに導入する工程、
(3)前記マイクロリアクター内の前記反応溶液に放射線を照射して、前記芳香族化合物の水酸化物を形成する工程、
を含むことを特徴とする芳香族水酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記マイクロリアクター内に光触媒を固定化していることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記光触媒が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化亜鉛、およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記光触媒に助触媒として、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、金、銀、銅、ニッケル、コバルトからなる群れから選択される少なくとも一種以上の金属またはその酸化物が担持されていることを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記マイクロリアクター内に貴金属または貴金属酸化物を含む触媒を固定化していることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記貴金属または貴金属酸化物が、第8類から第11類に属する金属の金属単体、酸化物、およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記貴金属または貴金属酸化物が、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウムおよびインジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種以上の貴金属またはその酸化物であることを特徴とする請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記貴金属または貴金属酸化物が、金、銀、および白金であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の芳香族水酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記貴金属または貴金属酸化物が、粒径50nm以下の粒子であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記貴金属または貴金属酸化物が、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニア、ゼオライト、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、メソポーラスシリカ、メソポーラスチタニア、酸化タングステン、酸化ニオブ、窒化炭素、多孔質シリカ、多孔質チタニア、ジルコニア、セリア、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーからなる群から選ばれる少なくとも一種以上の担体に担持されていることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記マイクロリアクター内にコバルトを含む触媒を固定化していることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
前記コバルトを含む触媒が、コバルト酸化物であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記コバルト酸化物が、酸化コバルト(II、III)であることを特徴とする請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記コバルト酸化物が、比表面積が50m2/g以上であることを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
(1)(a)芳香族化合物、(b)水、(c)酸化剤、および(d)コバルト化合物溶液を含む反応溶液を提供する工程、
(2)前記反応溶液をマイクロリアクターに導入する工程、
(3)前記マイクロリアクター内の前記反応溶液に放射線を照射して、前記芳香族化合物の水酸化物を形成する工程、
を含むことを特徴とする芳香族水酸化物の製造方法。
【請求項17】
前記コバルト化合物が、水または有機溶媒に溶解するコバルト化合物であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記コバルト化合物が、酢酸コバルト(II)、ギ酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硫酸コバルト、およびコバルト(II)アセチルアセトナトであることを特徴とする請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
(1)(a)芳香族化合物、(b)水、(c)酸化剤、および(d)貴金属化合物溶液を含む反応溶液を提供する工程、
(2)前記反応溶液をマイクロリアクターに導入する工程、
(3)前記マイクロリアクター内の前記反応溶液に放射線を照射して、前記芳香族化合物の水酸化物を形成する工程、
を含むことを特徴とする芳香族水酸化物の製造方法。
【請求項20】
前記貴金属化合物が、水または有機溶媒に溶解する貴金属化合物であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記貴金属化合物が、硝酸パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、ビスアセチルアセトナトパラジウム(II)、テトラアンミンパラジウム(II)硝酸塩、テトラアンミン白金(II)硝酸塩、ビスセチルアセトナト白金(II)、およびヘキサアンミンルテニウム(III)硝酸塩であることを特徴とする請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記酸化剤が、過酸化水素、亜酸化窒素であることを特徴とする請求項2、16または19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記酸化剤は前記マイクロリアクターに導入される直前に反応溶液に添加されることを特徴とする請求項2、16または19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記芳香族化合物がベンゼンであり、さらに芳香族水酸化物がフェノールであることを特徴とする請求項1〜請求項23のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77066(P2012−77066A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150909(P2011−150909)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】