説明

荷電粒子ビーム描画方法及び装置

【課題】荷電粒子ビーム描画方法及び装置に関し、限られた数の円形開口を用いながら広いサイズ範囲にわたる円形パターンを得る。
【解決手段】荷電粒子ビーム源1と、該荷電粒子ビーム源から出射した荷電粒子ビームが照射する第1の矩形開口を有する第1成形スリット4と、開口径が異なる複数の円形開口を有する第2成形スリット7と、該第1成形スリットの開口を通過した荷電粒子ビームを第2成形スリット上に結像させる成形レンズ6と、該第1成形スリットの開口を通過した電子ビームを偏向させて前記第2成形スリット上の所望の円形開口に照射させる偏向器5とを備え、第2成形スリットのいずれかの円形開口を通過した成形円形ビームを描画材料13上にショットし、円形パターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法において、前記第2成形スリット上の異なった円形開口で形成された成形円形ビームを、描画材料上に中心位置を一致させ重ねてショットする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子ビーム描画方法及び装置に関し、更に詳しくは円形パターンを描画材料上に描画する場合における荷電粒子ビーム描画方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微細なパターンを荷電粒子ビーム(例えば電子ビーム)を用いて高速度で描画する装置として、可変面積型電子ビーム描画装置が開発され、使用されている。この可変面積型電子ビーム描画装置においては、矩形状開口を有する2枚の成形開口板とその間に配置される成形偏向器を使用して作成した矩形状の可変成形ビームを描画材料上の任意の位置にショットし、次々と電子ビームの形状および断面積を変化させてショットを行うことにより、微細なパターンを高速度で描画することが可能である。
【0003】
このような可変面積型電子ビーム描画装置において、描画パターンが円形の場合、矩形状のビームの組み合わせで円形パターンを描画するのが困難なため、矩形状開口とは別に円形開口を設け、この円形開口を用いて作成した円形断面の電子ビームを用いて描画することが行われる。
【0004】
図7は円形開口を備えた可変面積型電子ビーム描画装置の概略説明図であり、電子銃1から発生した電子ビームが、第1成形スリット4に照射される。第1成形スリット4には矩形状開口4aが穿たれており、この開口4aを通過した矩形状断面を持った電子ビームは、成形レンズ6を介して同じく矩形状開口7aを有する第2成形スリット7に投射される。成形レンズ6は、開口4aの像を第2成形スリット7の開口7aの位置に結像し、この像の位置を、第1及び第2成形スリットの間に配置された成形偏向器5により変えることにより、第2成形スリット7の開口7aを通過する電子ビームの形状および断面積を変化させることができる。そして、開口7aを通過した成形電子ビームは、静電レンズ9、対物レンズ10、位置決め偏向器11、位置決め副偏向器12を介して描画材料13上に投射される。
【0005】
一方、第2成形スリット7には、矩形開口7aに隣接して径の異なる複数の円形開口A,B,Cが設けられており、円形パターン描画を行う際には、この円形開口が使用される。すなわち、円形パターン描画を行う際には、第1成形スリット4を通過した電子ビームは、円形開口A,B,Cのいずれかに照射されるように成形偏向器5によって偏向される。そして、いずれかの円形開口を通過して円形断面が与えられた成形電子ビームは、静電レンズ9、対物レンズ10、位置決め偏向器11、位置決め副偏向器12を介して描画材料13上の所定の位置にジャストフォーカスの状態で投射される。
【0006】
円形ビームの径は、基本的には、円形開口A(小),B(中),C(大)を使い分けることにより、小中大の3段階に切り換えることが出来る。円形開口の数を増やせば、更に多段階に切り換えることができるが、製作コスト及び配列スペースなどの面で制約がある。
【0007】
そこで、例えば3種類の径の成形電子ビームを使用しながらも、ショット時間を調節して入射エネルギーを変化させることにより、現像された際に得られる径を変化させ、更に多段階の大きさの円形パターンが得られるようにしている。
【0008】
図8は、入射エネルギーと現像後に得られる円形パターンの直径との関係を説明するための図である。例えば円形開口Aを用いた径Daの成形電子ビーム50を、レジストを表面に塗布した材料にショット時間を3段階に変えてショットした時の、レジストが受けた円形ビームショットの中心を通る線50D上の入射エネルギー分布を示す図である。横軸が材料上の位置で0が円形ビーム中心を示し、縦軸が入射エネルギーを示している。
【0009】
入射エネルギー分布曲線51が、ショット時間が一番短いときのもので、52,53とショット時間が長くなるにつれて、入射エネルギーが高まることが分かる。Lはレジストの解像(現像)レベルを示し、この解像レベルと各入射エネルギー分布曲線51,52,53との2交点の距離が、現像により得られる円形パターンの直径を示している。図9から、ショット時間が長くなるにつれて、現像により得られる円形パターンの直径は、Da+、Da++、Da+++と、増加することが分かる。
【0010】
このように、円形開口Aを用いた成形電子ビームでショット時間を3段階に調節することにより3段階に径を変化させた円形パターンを得ることができ、他の2つの円形開口を用いた場合でも同様に3段階にショット時間を変化させれば、合計9段階に径を変化させた円形パターンを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−62562号公報(段落0024、図4)
【特許文献2】米国公開特許公報US 2010/0055580 A1(Mar.4, 2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、成形ビームのショット時間(入射エネルギー/ビーム照射量)を調整してサイズ調整を実施すると、以下のような問題が発生する。
【0013】
すなわち、ビーム照射量でサイズ(直径)調整すると、レジスト感度により照射量に対するサイズの変化量が変わってしまう。このため、描画材料上に描画する際、レジストによっては所望の円サイズをカバーすることが出来なくなることがある。
【0014】
以下、この問題点を詳細に説明する。図9は、サイズが3段階に異なる3つの円形開口(A、B、C)を使用して成形した3種類の径の電子ビームを使用し、ショット時間を変化させてビーム照射量を変化させることにより、現像後に得られる円形パターン直径を変化させた場合の例を示す図である。図9より、円形開口Aを使用して成形した電子ビームにより実現可能な直径の範囲と、円形開口Bを使用して成形した電子ビームにより実現可能な直径の範囲とは重なっており、また、円形開口Bを使用して成形した電子ビームにより実現可能な直径の範囲と、円形開口Cを使用して成形した電子ビームにより実現可能な直径の範囲とも重なっていることが分かる。
【0015】
従って、要求される円形パターンの直径D1から直径DNまで、3つの円形開口(A、B、C)のいずれかを使用して成形した電子ビームについて、ショット時間を調節することにより、対応可能である。
【0016】
一方、同じ3つの円形開口(A、B、C)を使用し、図9の場合とは感度及び/又は性能の異なるレジストについて測定した、ビーム照射量に対する現像後得られる円形パターンの直径の変化を図10に示す。このレジストは、入射エネルギーの変化による現像後得られる円形パターンの直径の変化幅が図10の場合のレジストよりも狭い。このため、図9の例の場合と異なり、図10では開口Aで得られる最大パターン直径と開口Bで得られる最小パターン直径とが重なっていない。同様に、開口Bで得られる最大パターン直径と開口Cで得られる最小パターン直径とも重なっていない。このような重ならない領域BD1,BD2が存在すると、この領域の直径の円形パターンを形成できないことになる。
【0017】
特に、現在開発されているレジストは、レジスト自身のボケを小さくして解像度を上げることを目指している。この方向性は、ビーム照射量の変化に対して現像後得られるパターン直径の変化が小さくなっていくことに結びつく。そのため、サイズ変化をビーム照射量で調整するのは次第に困難になりつつあると言える。
【0018】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、複数のサイズの異なった円形開口で成形された荷電粒子ビームを同じ位置で重ねて露光することにより、現像後得られる円形パターンのサイズの変化幅を増やすことができる荷電粒子ビーム描画方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するために、本発明の荷電粒子ビーム描画方法は、荷電粒子ビーム源と、該荷電粒子ビーム源から出射した荷電粒子ビームが照射する第1の矩形開口を有する第1成形スリットと、開口径が異なる複数の円形開口を有する第2成形スリットと、該第1成形スリットの開口を通過した荷電粒子ビームを第2成形スリット上に結像させる成形レンズと、該第1成形スリットの開口を通過した電子ビームを偏向させて前記第2成形スリット上の所望の円形開口に照射させる偏向器とを備え、第2成形スリットの円形開口を通過した成形円形ビームを描画材料上にショットし、円形パターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法において、前記第2成形スリット上の異なった円形開口で形成された成形円形ビームを描画材料上の中心位置を一致させ重ねてショットすることにより、所望のサイズの円形パターンを描画することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の荷電粒子ビーム描画装置は、荷電粒子ビーム源と、該荷電粒子ビーム源から出射した荷電粒子ビームが照射する第1の矩形開口を有する第1成形スリットと、開口径が異なる複数の円形開口を有する第2成形スリットと、該第1成形スリットの開口を通過した電子ビームを第2成形スリット上に結像させる成形レンズと、該第1成形スリットの開口を通過した電子ビームを偏向させて前記第2成形スリット上の所望の円形開口に照射させる偏向器とを備え、第2成形スリットのいずれかの円形開口を通過した成形円形ビームを描画材料上にショットし、円形パターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置において、円形パターンの直径サイズに応じた、ショットに用いる前記複数の円形開口の単独または組み合わせの種類と、照射量の関係を記憶させたメモリを設け、描画すべき円形パターンの直径サイズに基づき、前記メモリからショットに用いる前記複数の円形開口の単独または組み合わせの種類と、照射量のデータを読み出し、該データに基づいて、第2成形スリットのいずれかの円形開口を通過した成形円形ビームの単独ショットで円形パターンを描画するか、あるいは前記第2成形スリット上の異なった円形開口で形成された成形円形ビームを、描画材料上に中心位置を一致させ重ねてショットすることにより、円形パターンを描画することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数のサイズの異なった円形成形スリットで形成された荷電粒子ビームを同じ位置で重ねて描画することにより、現像により得られる円形パターンのサイズ調整の幅を増やすことができ、ビーム照射量の変化に対して現像後得られるパターン直径の変化が小さいレジストを用いた場合であっても、所望の円形パターンサイズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の方法を実施するための荷電粒子ビーム装置の構成例を示す図である。
【図2】円形開口AとBを通り、それぞれのサイズに成形された荷電粒子ビームの入射エネルギー分布とそれぞれの照射量を1/2にして、同じ位置に照射した際の入射強度分布を示す図である。
【図3】円形開口AとBの入射エネルギー分布とそれぞれの1/2照射量の和の比較グラフを示す図である。
【図4】本発明の動作を示すフローチャートである。
【図5】メモリ20aに記憶させた、データを説明するための図である。
【図6】副偏向領域の描画の説明図である。
【図7】円形開口を備えた可変面積型電子ビーム描画装置の概略説明図である。
【図8】入射エネルギーと現像後に得られる円形パターンの直径との関係を説明するための図である。
【図9】円形開口A,B,Cを使用し形成した電子ビームについて、ビーム照射量の変化に対する現像後得られる円形パターン直径の変化を示す図である。
【図10】感度・性能の異なるレジストを用い、図10と同様に求めたビーム照射量の変化に対する現像後得られる円形パターン直径の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例について、詳細に説明する。図1は本発明方法を実施するための電子ビーム描画装置の構成例を示す図である。図1の装置は基本的には図7と同じ構成であり、図7と同一の構成要素には同一の符号が付されているが、図7では省略されているブランカーなどの構成要素が加えられている。図1において、1は荷電粒子ビームを発生する荷電粒子源としての電子銃であり、電子銃1から発生した電子ビームはブランカー2及び照射レンズ3を介して第1成形スリット4上に照射される。
【0024】
第1成形スリット4には矩形状開口が穿たれており、この開口を通過した矩形状断面を持った電子ビームは、成形レンズ6を介して同じく矩形状開口を有する第2成形スリット7に投射される。成形レンズ6は、開口4aの像を第2成形スリット7の開口の位置に結像し、この像の位置を、第1及び第2成形スリットの間に配置された成形偏向器5により変えることにより、第2成形スリット7の開口を通過する電子ビームの形状および断面積を変化させることができる。そして、第2成形スリット7の開口を通過した成形電子ビームは、縮小レンズ8、静電レンズ9、対物レンズ10、位置決め偏向器11、位置決め副偏向器12を介してステージ14上に載置された描画材料13に照射される。
【0025】
制御CPU21は、パターンデータメモリ22からパターンデータを読み出し、データ転送回路20を介してブランカー制御回路15、成形偏向器駆動回路16、静電レンズ駆動回路17,位置決め偏向器駆動回路18へ送る。更に、制御CPU21は、描画材料13のフィールド毎移動のために、ステージ駆動回路19を介して描画材料13が載せられたステージ14を制御する。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0026】
先ず、矩形状断面の成形電子ビームを用いた基本的な描画動作について説明する。パターンデータメモリ22に格納されたパターンデータは、制御CPU21により逐次読み出され、データ転送回路20に供給される。このデータ転送回路20からのデータに基づき、成形偏向器駆動回路16は成形偏向器5を駆動し、また位置決め偏向器駆動回路18は位置決め偏向器11と位置決め副偏向器12を駆動する。この結果、各パターンデータに基づき、成形偏向器5により電子ビームの断面がデータに基づくパターン形状(矩形)に成形される。この時、ブランカー制御回路15からのブランキング信号によりブランカー2から電子ビームが1ショットずつ取り出されるため、データに基づくパターン形状に成形された成形ビームが順次描画材料13上にショットされ、所望の形状のパターン描画が行われる。
【0027】
また、位置決め偏向器駆動回路18の偏向範囲内における偏向位置によるフォーカスずれを補正するため、静電レンズ駆動回路17が位置決め偏向器駆動回路18と連動して静電レンズ9を動作させる。
【0028】
更に、描画材料13上の次の領域への描画の際には、制御CPU21からステージ駆動回路19への指令により、ステージ14は所定の距離(例えば1フィールド分)移動させられる。なお、ステージ14の移動距離は、図示しないレーザー測長器により監視されており、測長器からの測長結果に基づいてステージ14の位置は正確に制御されるようになっている。
【0029】
図1における第1成形スリット4及び第2成形スリット7は、図7に示される円形開口A(小),B(中),C(大)を有しており、円形パターン、若しくは円形パターンの集合を描画する場合、先に説明したように、第1成形スリット4を通過した電子ビームを第2成形スリット7の円形開口A,B,Cのいずれかに照射することにより、第2成形スリット7から円形開口A,B又はCの径に応じたサイズの円形の成形ビームが取り出されて順次描画材料13上にショットされる。
【0030】
先に説明した従来技術では、その時、ショットは1回で、そのショット時間(照射時間/入射エネルギー)を調節することにより、現像後に得られる円形パターンのサイズを調節しているが、本発明では、複数回、例えば2回のショットで1つの円形パターンを描画する。例えば最初に円形開口Aを使用した小径の円形成形ビームがショットされ、次に円形開口Bを使用した中径の円形成形ビームが同じ位置に重ねてショットされる。
【0031】
更に、それぞれのショットの際、ブランカー2によりビーム照射時間(ビーム照射量)をそれぞれのショットに対してコントロールすることにより、現像後に得られる円形パターンのサイズを精密に調節することが可能になる。
【0032】
図2において(A),(B)は、円形開口AとBを通過し、それぞれのサイズ(小径、中径)に成形された電子ビームをショット時間Tでショットした時の入射エネルギー分布と、ショット時間をT/2としそれぞれの照射量を1/2(50%)にして照射した際の入射エネルギー分布を示す図である。
【0033】
(A)において、f1は円形開口Aによる小径ビームのショット時間Tの1回のショットでの入射エネルギー分布を、f2はその小径ビームをショット時間T/2でショットした時の入射エネルギー分布を示している。一方、(B)において、f3は円形開口Bによる中径ビームのショット時間Tの1回のショットでの入射エネルギー分布を、f4はその中径ビームをショット時間T/2でショットした時の入射エネルギー分布を示している。
【0034】
ここで、円形開口Aによる1/2の入射エネルギー分布f2と、円形開口Bによる1/2の入射エネルギー分布f4とを加算すると、(A+B)においてf5で示すような入射エネルギー分布が得られる。このf5の入射エネルギー分布は、円形開口Aによるエネルギー分布f1より小さく、円形開口Bによるエネルギー分布f3よりも大きい強度を有していることがわかる。
【0035】
f5の入射エネルギー分布を同じレジスト解像レベルLで現像すると、得られる円形パターンの直径は、円形開口Aを用いた場合と円形開口Bを用いた場合の中間の値になっていることが分かる。
【0036】
図3は上記入射エネルギー分布f1,f3,f5を、中心を一致させ重ねて描いたものである。f5が分布のダレなどもなくちょうどf1とf3の間に入っていることから、径の異なる円形ビームを同一場所に重ねてショットし2回のショットで円形パターンを得ても、1回のショットで形成する場合(f1,f3)とレジストに与えるボケなどの特性は変化しないことが分かる。
【0037】
ここで、円形開口Aによる小径ビームを例えばショット時間55T/100でショットし、円形開口Bによる中径ビームもショット時間55T/100で同一場所にショットした場合には、2回のショットによる合成の入射エネルギー分布f5は、図3に比べてf3に近付いたものとなる。逆に、例えばそれぞれのショット時間を45T/100とした場合には、2回のショットによる合成の入射エネルギー分布f5は、図3に比べてf1に近付いたものとなる。従って、2回のショットのショット時間を調節することにより、現像後に得られる円形パターンのサイズを精密に調節することが可能になる。
【0038】
なお、上述の説明では、円形開口Aによる小径ビームと円形開口Bによる中径ビームによる2回のショットを例にとって説明したが、円形開口Bによる中径ビームと円形開口Cによる大径ビームによる2回のショットを組み合わせれば、全く同様に更に大きな径の円形パターンに適用することが出来ることは言うまでもない。
【0039】
また、上述の説明では、2回のショットにおけるショット時間を1:1で等しくした場合を例にとった。しかしながら、本発明はこれに限るものではなく、2回のショットにおけるショット時間を1:1から変化させて合成することもできる。例えば、1ショット目と2ショット目のショット時間比率を4:6と1ショット目を少なめにすることにより、2ショット目へのレジストヒーティングの影響を少なくすることができる。この結果、感度変化を発生させずに本来の感度に極力近い感度で適正なサイズのパターンを得ることができるようになる。
【0040】
図4は本発明の第1の動作を示すフローチャートである。図において、22はパターンデータメモリであり、描画すべき多数のパターンのパターンデータが所定のフォーマットで格納されている。データ転送回路20は、円形パターンのサイズと、そのショットサイズに応じて第2成形スリットで使用する円形開口の種類(A,B,C,A+B,B+C)とショット時間 (照射量)を記憶したメモリ20aを備え、制御CPU21により1つずつ読み出されたデータを元に、以下に示すような動作を行なう。なお、このフローチャートは、円形パターンのパターンデータが読み出された場合について説明するものである。
【0041】
データ転送回路20は、制御CPU21からの指令に基づきパターンデータメモリ22から副偏向位置の範囲毎に円形パターンの描画データを読み出す(S1)。次に、この描画データの円形パターンのサイズに基づいてメモリ20aから円形パターンのサイズに対応した第2成形スリットで使用する円形開口の種類と電子ビームのショット時間を読み出す(S2)。
【0042】
メモリ20aには、この描画装置で描画可能な円形パターンの直径サイズがDoからD5の範囲である場合、図5に示すように、DoからD5の範囲を円形開口A,B,Cをそれぞれ単独で使用して描画する3つの範囲Ra(Do≦Ra<D1),Rb(D2≦Rb<D3),Rc(D4≦Rc≦D5)に、範囲RaとRbの間で円形開口A,Bを使用する範囲Rab(D1≦Ra<D2)と、範囲RbとRcの間で円形開口B,Cを使用する範囲Rbc(D3≦Ra<D4)とを加えた5つの範囲に分け、各領域毎に、図5においてFa,Fab,Fb,Fbc,Fcで表される直径とショット時間(ビーム照射量)の関係曲線を示すテーブルあるいは近似式が記憶されている。
【0043】
そして、読み出された円形パターンのサイズが、範囲Ra,Rb又はRcにあった場合、S3,S4又はS5に移り、メモリ20aから読み出された円形開口A,B又はCとショット時間の情報に基づき、いずれかの円形開口を使用して形成した円形ビームを用い、読み出されたショット時間でショットを行い、読み出されたサイズの円形パターンを描画する。
【0044】
読み出された円形パターンのサイズが、範囲Rabにあった場合、S6に移り、メモリ20aから読み出された円形開口A+Bとショット時間の情報に基づき、円形開口Aを使用して形成した円形ビームと、円形開口Bを使用して形成した円形ビームを順次同じ位置に照射する。その際の各円形ビームのショット時間は、前述した1:1のケースでは、メモリ20aから読み出されたショット時間の1/2ずつとなる。
【0045】
読み出された円形パターンのサイズが、範囲Rbcにあった場合、S7に移り、メモリ20aから読み出された円形開口B+Cとショット時間の情報に基づき、円形開口Bを使用して形成した円形ビームと、円形開口Cを使用して形成した円形ビームを順次同じ位置に照射する。その際の各円形ビームのショット時間は、同様にメモリ20aから読み出されたショット時間の1/2ずつとなる。
【0046】
そして、S8において位置決め副偏向範囲の円形パターンの描画がすべて完了したかどうかチェックが行われ、未完了であれば、S2へ戻って次の円形パターンの描画が完了まで行われる。位置決め副偏向範囲の描画が完了した場合には、位置決め偏向器11で次の位置決め副偏向範囲に移動(S9)し、すべての位置決め副偏向範囲の円形パターン描画が完了するまで、S1に戻って次々と円形パターンの描画が行われる。
【0047】
図6は副偏向範囲の露光の説明図である。図6において、30〜33は副偏向範囲である。この副偏向範囲は、位置決め副偏向器12で一度に露光できる範囲である。先ず、位置決め偏向器11で偏向開始ポイントをAの位置にもってくる。そして、位置決め副偏向器12による最初のショットa11が副偏向範囲にショットされる。それ以降、ショットa12〜a55まで、次々とショットが行われ、このようなショットを副偏向範囲30内で繰り返す。そして、この副偏向領域の露光がショットa55で完了すると、今度は位置決め偏向器11で次の副偏向範囲31の開始位置Bに偏向させる。
【0048】
このような描画を繰り返して、その都度位置決め偏向範囲の描画が完了したかどうかチェックする(S10)。完了していない場合は、ステップS1に戻り次の位置決め偏向範囲毎に繰り返し描画が行なわれる。完了した場合には、制御CPU21がステージ駆動回路19を制御してステージ14を次の位置決め偏向器範囲へ移動する(S11)。
【0049】
この実施例によれば、メモリ20aに、円形パターンのサイズと、そのショットサイズに応じて第2成形スリットで使用する円形開口の種類(A,B,C,A+B,B+C)とショット時間(照射量)を記憶させたため、描画すべき円形パターンの直径サイズに応じて、使用する円形開口の種類と、ショット時間をメモリ20aから読み出して円形パターンをショットすることにより、所望のサイズの円形パターンを描画することができる。
【0050】
なお、上記例では、メモリ20aに、描画すべき円形パターンの直径サイズに応じて、使用する円形開口の種類と、ショット時間を記憶させたが、あらかじめ、ショット分割の際に、円形ショットの場合には、直径サイズに応じて、使用する円形開口の種類と、ショット時間を表すデータを円形ショットの描画データとして付加してパターンデータメモリに記憶させるようにしても良い。
【0051】
このようにすれば、図4におけるメモリ20aが不要となり、パターンデータメモリ22からショットデータを読み出すと、円形ショットの場合には、直径サイズに応じた、使用する円形開口の種類と、ショット時間を表すデータが一緒に読み出され、そのデータに基づいて、S3〜S7に移って所望の円形パターンをショットすることができる。
【0052】
上述の実施例では、荷電粒子ビームとして電子ビームを用いた場合を例にとったが、本発明はこれに限るものではなく、各種のイオンビームを用いる場合にも同様に適用することができる。
【0053】
以上詳細に説明したように、本発明によれば第2のアパーチャの直径の異なる複数の円形開口を用いて形成した円形ビームを照射量調節して描画材料上の同じ位置に重ねて描画することにより、広いサイズ範囲の所望の円形パターンを描画することができる。
【符号の説明】
【0054】
1:電子銃 2:ブランカー 3:照射レンズ 4:第1成形スリット
5:成形偏向器 6:成形レンズ 7:第2成形スリット 8:縮小レンズ
9:静電レンズ 10:対物レンズ 11:位置決め偏向器
12:位置決め副偏向器 13:描画材料 14:ステージ
15:ブランカー制御回路 16:成形偏向器駆動回路
17:静電レンズ駆動回路 18:位置決め偏向器駆動回路
19:ステージ駆動回路 20:データ転送回路 20a:メモリ
21:制御CPU 22:パターンデータメモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム源と、該荷電粒子ビーム源から出射した荷電粒子ビームが照射する第1の矩形開口を有する第1成形スリットと、開口径が異なる複数の円形開口を有する第2成形スリットと、該第1成形スリットの開口を通過した荷電粒子ビームを第2成形スリット上に結像させる成形レンズと、該第1成形スリットの開口を通過した電子ビームを偏向させて前記第2成形スリット上の所望の円形開口に照射させる偏向器とを備え、第2成形スリットのいずれかの円形開口を通過した成形円形ビームを描画材料上にショットし、円形パターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法において、前記第2成形スリット上の異なった円形開口で形成された成形円形ビームを、描画材料上に中心位置を一致させ重ねてショットすることにより、所望のサイズの円形パターンを描画することを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項2】
円形パターンの直径サイズに応じた、ショットに用いる前記複数の円形開口の単独または組み合わせの種類と、照射量の関係をメモリに記憶させ、描画すべき円形パターンの直径サイズに基づき、前記メモリからショットに用いる前記複数の円形開口の単独または組み合わせの種類と、照射量のデータを読み出し、該データに基づいて、第2成形スリットのいずれかの円形開口を通過した成形円形ビームの単独ショットで円形パターンを描画するか、あるいは前記第2成形スリット上の異なった円形開口で形成された成形円形ビームを、描画材料上に中心位置を一致させ重ねてショットすることにより、円形パターンを描画することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記第2成形スリット上の異なった円形開口で形成された成形円形ビームを、描画材料上に中心位置を一致させ重ねてショットする際、各ショットの照射時間を等しくしたことを特徴とする請求項1又は2記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項4】
荷電粒子ビーム源と、該荷電粒子ビーム源から出射した荷電粒子ビームが照射する第1の矩形開口を有する第1成形スリットと、開口径が異なる複数の円形開口を有する第2成形スリットと、該第1成形スリットの開口を通過した電子ビームを第2成形スリット上に結像させる成形レンズと、該第1成形スリットの開口を通過した電子ビームを偏向させて前記第2成形スリット上の所望の円形開口に照射させる偏向器とを備え、第2成形スリットのいずれかの円形開口を通過した成形円形ビームを描画材料上にショットし、円形パターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置において、円形パターンの直径サイズに応じた、ショットに用いる前記複数の円形開口の単独または組み合わせの種類と、照射量の関係を記憶させたメモリを設け、描画すべき円形パターンの直径サイズに基づき、前記メモリからショットに用いる前記複数の円形開口の単独または組み合わせの種類と、照射量のデータを読み出し、該データに基づいて、第2成形スリットのいずれかの円形開口を通過した成形円形ビームの単独ショットで円形パターンを描画するか、あるいは前記第2成形スリット上の異なった円形開口で形成された成形円形ビームを、描画材料上に中心位置を一致させ重ねてショットすることにより、円形パターンを描画することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−41903(P2013−41903A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176468(P2011−176468)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】