説明

荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法

【目的】偏向信号の通信遅延によるスループットの低下を抑制可能な装置を提供する。
【構成】描画装置100は、XYステージ105の移動に追従させるための荷電粒子ビームの偏向量を、互いに重なり合う時期を持ちながら時差をおいて演算する複数のトラッキング演算部22,24と、基板面を仮想分割した複数の小領域の小領域毎に、ビームの照射が終了したことを示す終了信号を入力し、終了信号をトリガとして、複数のトラッキング演算部の一方の出力から他方の出力へと切り替える切り替え部34と、ステージが移動する中、複数のトラッキング演算部の切り替え前は、複数のトラッキング演算部の一方から出力される信号に基づき第n番目の小領域へ荷電粒子ビームを偏向し、切り替え後は、他方から出力される信号に基づき第n+1番目の小領域へ荷電粒子ビームを偏向する主偏向器208と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法に係り、例えば、電子線描画において、光転送により偏向データを送信する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
図6は、従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。可変成形型電子線(EB:Electron beam)描画装置は、以下のように動作する。第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形例えば長方形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式(VSB方式)という(例えば特許文献1参照)。
【0004】
電子ビーム描画では、基板の描画領域をメッシュ状に分割したサブフィールド(SF)単位で描画を行う。昨今のパターンの微細化に伴い、かかるSF数が増加し、SFへ偏向する偏向データの処理速度のさらなる高速化と正確性が求められている。例えば、制御回路からの偏向信号を光転送により送信する場合、通信遅延が発生してしまう。一方、移動するステージ上のマスク基板のあるSFに電子ビームを照射する場合には、ステージの移動に追従するようにトラッキング処理が必要となり、トラッキングされた位置に偏向する必要が生じる。また、1つのSFにおける描画処理が終了した後に、次のSF位置のトラッキングを開始する。そのため、通信遅延があると、その分、次のSFに対する描画処理が遅れ、そのまま描画時間の増加につながり、描画装置のスループットを劣化させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−043083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、偏向信号の通信遅延によるスループットの低下を抑制可能な装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
被描画対象となる基板を載置する、移動可能なステージと、
ステージの移動に追従させるための荷電粒子ビームの偏向量を、互いに重なり合う時期を持ちながら時差をおいて演算する複数のトラッキング偏向量演算部と、
基板面を仮想分割した複数の小領域の小領域毎に、当該小領域への荷電粒子ビームの照射が終了したことを示す終了信号を入力し、終了信号をトリガとして、複数のトラッキング演算部の一方の出力から他方の出力へと切り替える切り替え部と、
ステージが移動する中、複数のトラッキング演算部の切り替え前は、複数のトラッキング演算部の一方から出力される信号に基づき第n番目の小領域へ荷電粒子ビームを偏向し、切り替え後は、複数のトラッキング演算部の他方から出力される信号に基づき第n+1番目の小領域へ荷電粒子ビームを偏向する偏向器と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、小領域毎に、当該小領域への荷電粒子ビームの照射が終了する前に、終了信号の擬似信号を出力する擬似信号出力部をさらに備え、
複数のトラッキング偏向量演算部は、擬似信号を入力し、擬似信号をトリガとして、交互に上述した演算を開始すると好適である。
【0009】
また、複数のトラッキング演算部と切り替え部は、光ケーブルを介して接続されると好適である。
【0010】
また、偏向器は、主副2段の多段偏向器で構成され、
主偏向器は、小領域毎に、ステージの移動に追従させながら当該小領域の基準位置へと荷電粒子ビームを偏向し、
副偏向器は、当該小領域内の各ショット位置へと荷電粒子ビームを偏向すると好適である。
【0011】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画方法は、
荷電粒子ビームを放出する工程と、
被描画対象となる基板を載置するステージの移動に追従させるための荷電粒子ビームの偏向量を、複数のトラッキング偏向量演算部により互いに重なり合う時期を持ちながら時差をおいて演算する工程と、
基板面を仮想分割した複数の小領域の小領域毎に、当該小領域への前記荷電粒子ビームの照射が終了したことを示す終了信号を入力し、終了信号をトリガとして、複数のトラッキング演算部の一方の出力から他方の出力へと切り替える工程と、
ステージが移動する中、複数のトラッキング演算部の切り替え前は、複数のトラッキング演算部の一方から出力される信号に基づき第n番目の小領域へ荷電粒子ビームを偏向する工程と、
ステージが移動する中、複数のトラッキング演算部の切り替え後は、複数のトラッキング演算部の他方から出力される信号に基づき第n+1番目の小領域へ荷電粒子ビームを偏向する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、偏向信号の通信遅延があっても偏向処理速度の低下を抑制できる。よって、描画装置のスループットの低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【図2】実施の形態1における偏向制御回路と中継ユニットにおける信号のタイムチャートを示す図である。
【図3】実施の形態1と比較するための、トラッキング演算部が1つしかなく、主偏向用の中継ユニット内に信号の切り替え機能が無い場合の構成を示す概念図である。
【図4】実施の形態1と比較するための、トラッキング演算部が1つしかなく、主偏向用の中継ユニット内に信号の切り替え機能が無い場合の偏向制御回路と中継ユニットにおける信号のタイムチャートの一例を示す図である。
【図5】実施の形態1と比較するための、トラッキング演算部が1つしかなく、主偏向用の中継ユニット内に信号の切り替え機能が無い場合の偏向制御回路と中継ユニットにおける信号のタイムチャートの他の一例を示す図である。
【図6】従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、荷電粒子ビーム装置の一例として、可変成形型の描画装置について説明する。
【0015】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。特に、可変成形型(VSB型)の描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキング(BLK)偏向器212、ブランキングアパーチャ214、第1の成形アパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2の成形アパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208及び副偏向器209が配置されている。描画室103内には、少なくともXY方向に移動可能なXYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画対象となる試料101が配置される。試料101(基板)には、半導体装置を製造するための露光用のマスクやシリコンウェハ等が含まれる。マスクにはマスクブランクスが含まれる。そして、試料101上には、レジストが塗布されている。
【0016】
制御部160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路120、中継ユニット130,132、ステージ制御回路134、磁気ディスク装置等の記憶装置140、及びデジタルアナログ変換(DAC)アンプ170,172,174,176を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路120、ステージ制御回路134、及び磁気ディスク装置等の記憶装置140は、図示しないバスを介して互いに接続されている。偏向制御回路120は、光ケーブル122によって中継ユニット130,132に接続されている。中継ユニット130,132は、互いに接続されている。中継ユニット132は、DACアンプ170を介してブランキング偏向器212に接続され、DACアンプ172を介して成形用の偏向器205に接続され、DACアンプ174を介して副偏向器209に接続される。中継ユニット130は、DACアンプ176を介して主偏向器208に接続される。
【0017】
偏向制御回路120内には、BLK演算部10、成形偏向演算部12、副偏向演算部14、制御部18、主偏向演算部20、及び複数のトラッキング演算部22,24が配置されている。BLK演算部10、成形偏向演算部12、副偏向演算部14、制御部18、主偏向演算部20、及び複数のトラッキング演算部22,24といった各機能は、プログラムといったソフトウェアで構成されても良い。或いは、電子回路等のハードウェアで構成されてもよい。或いは、これらの組み合わせであってもよい。偏向制御回路120に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリに記憶される。
【0018】
中継ユニット130内には、複数の主偏向I/F回路30,32及び切り替え部34が配置されている。
【0019】
中継ユニット132内には、ブランキング(BLK)I/F回路36、成形偏向I/F回路38、副偏向I/F回路40、サブフィールドエンド(SFE)検出部42、及びプレサブフィールドエンド(PreSFE)演算部44が配置されている。
【0020】
記憶装置140には、パターンのレイアウト、図形コード、及び座標等の描画に必要な描画データが外部から入力され、格納されている。
【0021】
ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。例えば、ここでは主副2段の主偏向器208および副偏向器209を用いているが、1段或いは3段以上の偏向器を用いて試料の所定の位置へと偏向するようにしても構わない。
【0022】
パターン入力工程として、制御計算機110は、記憶装置140に記憶された描画データを入力する。
【0023】
そして、制御計算機110は、記憶装置140から入力された描画データに対して、複数段のデータ変換処理を行って、装置固有のショットデータを生成する。制御計算機110は、描画データ処理部として機能する。制御計算機110は、描画データに定義された複数の図形パターンを1度の電子ビーム200で照射可能なサイズ(成形可能なサイズ)のショット図形に変換し、各ショット図形の照射量、照射位置、ショット図形の種類、及びショット図形サイズ等が定義されたショットデータを生成する。制御計算機110に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ112に記憶される。
【0024】
そして、生成されたショットデータは偏向制御回路120に出力される。そして、偏向制御回路120内では、BLK演算部10がショットデータに沿って、定義された照射量(偏向時間)だけビームONの状態になるように、ビームONの状態とビームOFFの状態を交互に生成するためのBLK偏向データを演算して生成する。生成されたBLK偏向データは、光ケーブル122を通って中継ユニット132に出力される。
【0025】
また、成形偏向演算部12がショットデータに沿って、ビームONの状態で生成された各ショット用の電子ビーム200について、ショット毎にビーム形状とサイズを可変成形するための成形偏向データを演算して生成する。生成された成形偏向データは、光ケーブル122を通って中継ユニット132に出力される。
【0026】
ここで、試料101の描画領域は、x方向或いはy方向に向かって主偏向器208で偏向可能な幅で短冊状のストライプ領域に仮想分割される。さらにストライプ領域は副偏向器209で偏向可能なサブフィールド(SF)に仮想分割される。そして、副偏向演算部14がショットデータに沿って、SF毎に、当該SFの基準位置からSF内の各ショット位置へ電子ビーム200を偏向するための偏向データ(副偏向データ)を演算して生成する。生成された副偏向データは、光ケーブル122を通って中継ユニット132に出力される。
【0027】
また、主偏向演算部20がショットデータに沿って、各SFへ電子ビーム200を偏向するための偏向データ(主偏向データ)を演算して生成する。生成された主偏向データは、トラッキング演算部22,24に出力される。
【0028】
ここで、試料101に描画を行う際、XYステージ105は移動しているため、複数のトラッキング演算部22,24が、XYステージ105の移動に追従するように主偏向器208で偏向するためのトラッキング用の偏向データ(トラッキングデータ)を演算して生成する。XYステージ105の位置は、例えば、ステージ制御回路134から入力すればよい。実施の形態1では、例えば、第n番目のSFのトラッキングデータをトラッキング演算部22が演算し、次の第n+1番目のSFのトラッキングデータをトラッキング演算部24が演算するといったように、トラッキング演算部22,24が、各SFのトラッキングデータを交互に演算する。そして、SF毎に、主偏向データと該当トラッキングデータが、光ケーブル122を通って中継ユニット130に出力される。トラッキング演算部22,24のトラッキングデータは、(トラッキングデータ=主偏向データ−ステージ位置データ)である。そして、主偏向データはSF毎に設定されるため、SF毎オフセット(OFFSET)が違う。そのため、第n番目のSFと第n+1番目のSFでのトラッキング演算を複数個のトラッキング演算部22,24で行うとより好適である。
【0029】
中継ユニット132内では、BLK偏向データがブランキングI/F回路36を介してDACアンプ170に出力される。そして、DACアンプ170によって、デジタル信号からアナログ信号に変換され、増幅された上で、偏向電圧として、BLK偏向器212に印加される。
【0030】
また、成形偏向データが成形偏向I/F回路38を介してDACアンプ172に出力される。そして、DACアンプ172によって、デジタル信号からアナログ信号に変換され、増幅された上で、偏向電圧として、成形用の偏向器205に印加される。
【0031】
また、副形偏向データが副偏向I/F回路40を介してDACアンプ174に出力される。そして、DACアンプ174によって、デジタル信号からアナログ信号に変換され、増幅された上で、偏向電圧として、副偏向器209に印加される。
【0032】
一方、中継ユニット130内では、主偏向データとトラッキング演算部22から出力されたトラッキングデータが主偏向I/F回路30に、主偏向データとトラッキング演算部24から出力されたトラッキングデータが主偏向I/F回路32に出力される。そして、主偏向I/F回路30,32の一方を介してDACアンプ176に主偏向データとトラッキングデータが出力されるように、切り替え部34が、主偏向I/F回路30,32とDACアンプ176の接続を切り替える。そして、DACアンプ176によって、デジタル信号からアナログ信号に変換され、増幅され、さらに主偏向データとトラッキングデータが加算された上で、偏向電圧として、主偏向器208に印加される。
【0033】
そして、描画部150は、電子ビーム200を用いて、試料101にパターンを描画する。具体的には、以下の動作を行なう。
【0034】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、ブランキング偏向器212内を通過する際にブランキング偏向器212によって、ビームONの状態では、ブランキングアパーチャ214を通過するように制御され、ビームOFFの状態では、ビーム全体がブランキングアパーチャ214で遮へいされるように偏向される。ビームOFFの状態からビームONとなり、その後ビームOFFになるまでにブランキングアパーチャ214を通過した電子ビーム200が1回の電子ビームのショットとなる。ブランキング偏向器212は、通過する電子ビーム200の向きを制御して、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する。例えば、ビームONの状態では電圧を印加せず、ビームOFFの際にブランキング偏向器212に電圧を印加すればよい。かかる各ショットの照射時間で試料101に照射される電子ビーム200のショットあたりの照射量が調整されることになる。
【0035】
以上のようにブランキング偏向器212とブランキングアパーチャ214を通過することによって生成された各ショットの電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形例えば長方形の穴を持つ第1の成形アパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2の成形アパーチャ206上に投影される。偏向器205によって、かかる第2の成形アパーチャ206上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させる(可変成形を行なう)ことができる。かかる可変成形はショット毎に行なわれ、通常ショット毎に異なるビーム形状と寸法に成形される。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器208及び副偏向器209によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料101の所望する位置に照射される。まず、主偏向器208がショットされるSFの基準位置に電子ビーム200を偏向する。XYステージ105は移動しているため、主偏向器208はXYステージ105の移動に追従するように電子ビーム200を偏向する。そして、副偏向器209により、SF内の各位置に照射される。
【0036】
図2は、実施の形態1における偏向制御回路と中継ユニットにおける信号のタイムチャートを示す図である。図2において、例えば、第n番目のSF用に、偏向制御回路120から主偏向データと主偏向データに引き続きトラッキングデータが出力される。そして、主偏向用のDACアンプ176のセトリング時間を待機して、BLK偏向データが出力される。偏向制御回路120と中継ユニット130,132との間は、光ケーブル122で接続されているため、信号転送に遅延(時間T1)が生じる。そのため、偏向制御回路120から主偏向データとトラッキングデータが時間T1遅れて中継ユニット130に届く。同様に、BLK偏向データが時間T1遅れて中継ユニット132に届く。そして、DACアンプ176のセトリング時間が経過し、主偏向器208へ印加する偏向電圧が安定した状態で、DACアンプ170からの偏向電圧のON/OFFによってBLK偏向器212が各ショット用のONビームを生成する。そして、ショット毎に、当該ショット用の電子ビームが偏向器205で成形され、副偏向器209でSF内の当該ショット位置に成形された電子ビームが照射されることでショット図形が描画される。かかるショット図形の組み合わせによりSF内のパターンが試料101に描画されることになる。そして、第n番目のSFへの描画が終了すると、SFE検出部42が、第n番目のSFへの描画の終了を検出して、サブフィールドエンド(SFE)信号(SFEフラグ)を出力する。
【0037】
ここで、第n番目のSFへの描画が終了し、次の第n+1番目のSFへの描画を行う際、かかるSFE信号を待っていたのでは、次のような問題が生じる。
【0038】
図3は、実施の形態1と比較するための、トラッキング演算部が1つしかなく、主偏向用の中継ユニット内に信号の切り替え機能が無い場合の構成を示す概念図である。図3において、偏向制御回路320と中継ユニット331,332は、図1と同様、光ケーブルで接続される。図3の構成では、偏向制御回路320が中継ユニット332側から第n番目のSFについてのSFEフラグを受けて、第n+番目のSFへの描画処理を開始することになる。
【0039】
図4は、実施の形態1と比較するための、トラッキング演算部が1つしかなく、主偏向用の中継ユニット内に信号の切り替え機能が無い場合の偏向制御回路と中継ユニットにおける信号のタイムチャートの一例を示す図である。図4において、第n番目のSF用に、偏向制御回路320側から主偏向データと主偏向データに引き続きトラッキングデータが出力される。そして、主偏向用のDACアンプ176のセトリング時間を待機して、BLK偏向データが出力される。偏向制御回路320と中継ユニット331との間は、光ケーブルで接続されているため、信号転送に遅延(時間T1)が生じる。そのため、偏向制御回路320から主偏向データとトラッキングデータが時間T1遅れて中継ユニット331に届く。そして、DACアンプ176のセトリング時間が経過し、主偏向器へ印加する偏向電圧が安定した状態で、DACアンプ170からの偏向電圧のON/OFFを受けたBLK偏向器によって各ショット用のONビームが形成される。そして、ショット毎に、ビームが成形され、当該ショット位置に成形された電子ビームが照射される。ここで、中継ユニット332から偏向制御回路320にSFEフラグが到着するまでには光ケーブルによる転送遅延として時間T2がかかるため、偏向制御回路320内では、第n番目のSFのためのBLK偏向データが終了後も、T1+T2の時間、トラッキングデータを演算し、出力し続ける必要が生じてしまう。第n番目のSFへの描画が終了する前にトラッキングを終了してしまうと描画位置がずれてしまうからである。その結果、実際には第n番目のSFへの描画用のトラッキングデータは十分であるにもかかわらず、さらに、データを演算し続けることになり、次のSF用の演算開始がその分遅くなるといった問題が生じる。
【0040】
図5は、実施の形態1と比較するための、トラッキング演算部が1つしかなく、主偏向用の中継ユニット内に信号の切り替え機能が無い場合の偏向制御回路と中継ユニットにおける信号のタイムチャートの他の一例を示す図である。図4では、SFEフラグを待つため、次のSF用の演算開始がT1+T2の時間、遅延してしまう。そこで、図5の例では、第n番目のSFへの描画が終了する前に、遅延時間T1+T2を見越して事前にプレSFEフラグを中継ユニット332から偏向制御回路320に出力する。ここでは、中継ユニット332が、マージン時間Tmを用いて、描画終了時からT1+T2−Tmだけ前にプレSFEフラグを中継ユニット332から偏向制御回路320に出力する。元々、SFEが主偏向データやトラッキングデータと同期していないので、光通信モジュールの遅延時間、ジッタ、及びスキュー等を考慮してさらに安全係数をかけたマージン時間Tmを設定する必要がある。これにより、偏向制御回路320では、プレSFEフラグを受けて、トラッキングデータの演算を終了できるため無駄時間を低減できる。しかしながら、図5の手法では、マージン時間Tmの設定の見積もりを誤ると、描画終了前に、トラッキングデータが停止してしまうといった問題が起こり得る。
【0041】
そこで、実施の形態1では、図1で示したように、偏向制御回路120内に複数のトラッキング演算部を配置し、主偏向用の中継ユニット130内に信号の切り替え機能を配置した。そして、図2で示したように、第n番目のSFへの描画が終了する前に、遅延時間T1+T2を見越して事前にプレSFEフラグを中継ユニット130から偏向制御回路120に出力する。ここでは、中継ユニット132内のPreSFE演算部44が、マージン時間T0を用いて、描画終了時からT1+T2+T0だけ前にプレSFEフラグを生成し、中継ユニット132から偏向制御回路120に出力する。言い換えれば、PreSFE演算部44は、SF(小領域)毎に、当該SFへの電子ビームの照射が終了する前に、終了信号となるSFEフラグの擬似信号となるプレSFEフラグを出力する。PreSFE演算部44は、擬似信号出力部の一例となる。
【0042】
偏向制御回路120内では、制御部18が、プレSFEフラグを受けて、主偏向演算部20に対して、第n+1番目のSF用の主偏向データの演算を開始させる。さらに、制御部18は、現在、第n番目のSF用のトラッキングを行っている例えばトラッキング演算部22とは異なる他方のトラッキング演算部24に対して、第n+1番目のSF用のトラッキングデータの演算を開始させる。そして、偏向制御回路120から主偏向データと主偏向データに引き続きトラッキングデータが中継ユニット130へと出力される。偏向制御回路120と中継ユニット130との間は、光ケーブル122で接続されているため、信号転送に遅延(時間T1)が生じる。そのため、偏向制御回路120から主偏向データとトラッキングデータが時間T1遅れて中継ユニット130に届く。この時点では、まだ、第n番目のSFの描画が終了していない。そのため、複数のトラッキング演算部22,24が、XYステージ105の移動に追従させるための電子ビームの偏向量となるトラッキングデータを、互いに重なり合う時期を持ちながら時差をおいて演算することになる。また、制御部18が、プレSFEフラグを受けて、BLK演算部10、成形偏向演算部12、及び副偏向演算部14を制御して、第n+1番目のSF内の各ショット用のBLK偏向データ、成形偏向データ、及び成形偏向データをそれぞれ演算させる。そして、BLK偏向データ、成形偏向データ、及び成形偏向データが偏向制御回路120から中継ユニット132へと出力される。BLK偏向データ、成形偏向データ、及び成形偏向データについても光ケーブル122で接続されているため、信号転送に遅延(時間T1)が生じる。そのため、偏向制御回路120から時間T1遅れて中継ユニット132に届く。
【0043】
そして、中継ユニット130内の切り替え部34は、中継ユニット132内のSFE検出部42から出力されたSFEフラグを入力し、SFEフラグをトリガとして、トラッキング演算部22の出力から他方のトラッキング演算部24の出力へと接続を切り替える。これにより、直ちに、第n番目のSF用の主偏向データ及びトラッキングデータから第n+1番目のSF用の主偏向データ及びトラッキングデータへと切り替わる。そして、接続切り替え前の第n+1番目のSF用の主偏向データが中継ユニット130に届いた時からDACアンプ176のセトリング時間が経過した後に、DACアンプ170からの偏向電圧のON/OFFによってBLK偏向器212が第n+1番目のSF内の各ショット用のONビームを生成する。そして、ショット毎に、当該ショット用の電子ビームが偏向器205で成形され、副偏向器209で第n+1番目のSF内の当該ショット位置に成形された電子ビームが照射されることでショット図形が描画される。かかるショット図形の組み合わせにより第n+1番目のSF内のパターンが試料101に描画されることになる。そして、第n+1番目のSFへの描画が終了すると、SFE検出部42が、第n+1番目のSFへの描画の終了を検出して、SFE信号(SFEフラグ)を出力する。以下、同様に、動作する。
【0044】
ここで、接続切り替え前の第n+1番目のSF用の主偏向データが中継ユニット130に届いた時からSFEフラグが中継ユニット130に届くまでの時間は、数百nSと主偏向用のDACアンプ176に必要なセトリング時間に対して十分短い。そのため、接続切り替え前の第n+1番目のSF用の主偏向データが中継ユニット130に届いた時からDACアンプ176のセトリング時間が経過した時点で第n+1番目のSF用の描画を開始しても、主偏向器208へ印加する偏向電圧は安定した状態にできる。
【0045】
以上のように、複数のトラッキング演算部22,24は、擬似信号となるプレSFEフラグを入力し、プレSFEフラグをトリガとして、交互にトラッキング演算を開始する。そして、切り替え部34が、SF毎に、当該SFへの電子ビームの照射が終了したことを示すSFEフラグを入力し、SFEフラグをトリガとして、複数のトラッキング演算部22,24の一方の出力から他方の出力へとDACアンプ176との接続を切り替える。そして、XYステージ105が移動する中、主偏向器208は、複数のトラッキング演算部の切り替え前は、複数のトラッキング演算部22,24の一方から出力される信号に基づき第n番目のSFへ電子ビーム200を偏向する。そして、副偏向器209が、第n番目のSF内の各ショット位置へ該当ショットのビームをそれぞれ偏向する。次に、切り替え後は、主偏向器208が複数のトラッキング演算部22,24の他方から出力される信号に基づき第n+1番目のSFへ電子ビーム200を偏向する。そして、副偏向器209が、第n+1番目のSF内の各ショット位置へ該当ショットのビームをそれぞれ偏向する。
【0046】
n番目のSF用のSFEフラグを受信し、切り替え部34により接続が切り替えられるまでの間、プレSFEフラグにより生成されたn+1番目のSF用のトラッキングデータは使用されずに所謂捨て信号となる。しかし、n番目のSF用のトラッキングデータとn+1番目のSF用のトラッキングデータの重複期間を持つことで、無駄な待機時間を無くすことができる。よって、図5で説明したトラッキングデータが描画中に停止しないようにするために必要とされたマージンTmも不要にできる。
【0047】
以上のように、実施の形態1によれば、光ケーブル等を接続に用いた場合のような偏向信号の通信遅延があっても偏向処理速度の低下を抑制できる。よって、描画装置のスループットの低下を抑制できる。
【0048】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、上述した例では光ケーブルを用いたが、これに限るものではなく、通信遅延が生じる接続であれば適用できる。
【0049】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0050】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画装置及び方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0051】
10 BLK演算部
12 成形偏向演算部
14 副偏向演算部
18 制御部
20 主偏向演算部
22,24 トラッキング演算部
30,32 主偏向I/F回路
34 切り替え部
36 BLKI/F回路
38 成形偏向I/F回路
40 副偏向I/F回路
42 SFE検出部
44 PreSFE演算部
100 描画装置
101 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
112 メモリ
120,320 偏向制御回路
122 光ケーブル
130,132,331,332 中継ユニット
134 ステージ制御回路
140 記憶装置
170,172,174,176 DACアンプ
150 描画部
160 制御部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 第1の成形アパーチャ
204 投影レンズ
205 偏向器
206 第2の成形アパーチャ
207 対物レンズ
208 主偏向器
209 副偏向器
212 ブランキング偏向器
214 ブランキングアパーチャ
330 電子線
340 試料
410 第1のアパーチャ
411 開口
420 第2のアパーチャ
421 可変成形開口
430 荷電粒子ソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
被描画対象となる基板を載置する、移動可能なステージと、
前記ステージの移動に追従させるための前記荷電粒子ビームの偏向量を、互いに重なり合う時期を持ちながら時差をおいて演算する複数のトラッキング偏向量演算部と、
前記基板面を仮想分割した複数の小領域の小領域毎に、当該小領域への前記荷電粒子ビームの照射が終了したことを示す終了信号を入力し、前記終了信号をトリガとして、前記複数のトラッキング演算部の一方の出力から他方の出力へと切り替える切り替え部と、
前記ステージが移動する中、前記複数のトラッキング演算部の切り替え前は、前記複数のトラッキング演算部の一方から出力される信号に基づき第n番目の小領域へ前記荷電粒子ビームを偏向し、切り替え後は、前記複数のトラッキング演算部の他方から出力される信号に基づき第n+1番目の小領域へ前記荷電粒子ビームを偏向する偏向器と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
小領域毎に、当該小領域への前記荷電粒子ビームの照射が終了する前に、前記終了信号の擬似信号を出力する擬似信号出力部をさらに備え、
前記複数のトラッキング偏向量演算部は、前記擬似信号を入力し、前記擬似信号をトリガとして、交互に前記演算を開始することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記複数のトラッキング演算部と前記切り替え部は、光ケーブルを介して接続されることを特徴とする請求項1又は2記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記偏向器は、主副2段の多段偏向器で構成され、
主偏向器は、小領域毎に、前記ステージの移動に追従させながら当該小領域の基準位置へと前記荷電粒子ビームを偏向し、
副偏向器は、当該小領域内の各ショット位置へと前記荷電粒子ビームを偏向することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
荷電粒子ビームを放出する工程と、
被描画対象となる基板を載置するステージの移動に追従させるための前記荷電粒子ビームの偏向量を、複数のトラッキング偏向量演算部により互いに重なり合う時期を持ちながら時差をおいて演算する工程と、
前記基板面を仮想分割した複数の小領域の小領域毎に、当該小領域への前記荷電粒子ビームの照射が終了したことを示す終了信号を入力し、前記終了信号をトリガとして、前記複数のトラッキング演算部の一方の出力から他方の出力へと切り替える工程と、
前記ステージが移動する中、前記複数のトラッキング演算部の切り替え前は、前記複数のトラッキング演算部の一方から出力される信号に基づき第n番目の小領域へ前記荷電粒子ビームを偏向する工程と、
前記ステージが移動する中、前記複数のトラッキング演算部の切り替え後は、前記複数のトラッキング演算部の他方から出力される信号に基づき第n+1番目の小領域へ前記荷電粒子ビームを偏向する工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−151345(P2012−151345A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9812(P2011−9812)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】