蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造及びその製作方法
【課題】気タービンを含む熱機関の流体シール構造におおいて、環状のリング溝にシール部材の挿入を確実におこない、且つ運転時のシール性を高精度に維持するとともに、片当たり等の発生のない熱機関の流体シール構造及びその製作方法を提供する。
【解決手段】熱機関の流体シール構造において、シール部材は第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料からなるとともに、前記リング溝内の内周面入口側に突起部を形成し、該突起部は常温時にはシール部材をリング溝内に保持し温度上昇にともない該シール部材の該突起部による係止を解除可能にして該シール部材を前記第2のケース部材のシール部に摺接するように構成したことを特徴とする。
【解決手段】熱機関の流体シール構造において、シール部材は第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料からなるとともに、前記リング溝内の内周面入口側に突起部を形成し、該突起部は常温時にはシール部材をリング溝内に保持し温度上昇にともない該シール部材の該突起部による係止を解除可能にして該シール部材を前記第2のケース部材のシール部に摺接するように構成したことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンを含む熱機関に適用される。蒸気タービン含む熱機関において、第1のケース部材に形成された環状のリング溝に環状のシール部材を挿入し、前記熱機関の昇温時に該シール部材を第2のケース部材のシール部に摺接して、第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行うように構成された蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造及びかかる流体シール構造の製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンの翼環と車室のシールは、図13に示すように、車室2の軸直角面に形成された環状のリング溝4に、環状のシール部材(Cシール)80を該リング溝4内で微動可能に挿入し、蒸気タービンの昇温時に前記シール部材80がリング溝内4で微移動して、翼環1の軸直角面な翼環側壁1aに摺接して、前記車室2と翼環1との間の静翼3側からのシールを行うように構成されている。
【0003】
前記環状のリング溝4に挿入する環状のシール部材80は、いわゆる面タッチでシールしており、蒸気の圧力荷重によるロータ軸方向(図13の紙面上で左右方向)にかかるスラスト力により、リング溝を設けた接合面に面圧が発生し、それにより蒸気のリークを防止し、シール機能を持たせる構造となっている。
【0004】
かかる前記蒸気タービンの翼環と車室のシール構造において、隔壁の熱変形による応力集中の発生を抑制するように構成された技術として、特許文献1(特開2007−40156号公報)等がある。
【特許文献1】特開2007−40156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図13に示される蒸気タービン、翼環と車室のシールにおいて、リング溝4にシール部材80を挿入する場合、一体物の環状のシール部材では物理的に挿入が不可能であり、少なくとも1つ以上に分割して、ロータの周方向からリング溝4に沿って挿入し、リング溝4内をロータの周方向にスライドさせながら挿入していくのが通常である。
しかし、このようにリング溝4に沿って、ロータ周方向にシール部材80を挿入すると、リング溝内面との接触により、シール部材の表面に傷がつき易い。シール面に傷がつくと蒸気のリークが発生し易い。
【0006】
また、図13に示すように、前記リング溝4形成部近傍の車室形状は、車室内部の温度分布に従い、ロータ軸方向の高温部側に傾いた変形を生じたり、軸方向にもうねった変形となる。この場合、例えば、車室2と翼環1の嵌合部の剛性が、車室2が翼環1より高すぎるなど、バランスが悪い場合などに、前記うねりに対する追従性が低下し、前記接合部5a近傍で口開きを発生させたり、また均一な接触面が得られず、面当たりではなく片当たり(線当たり)などを招いたりする。
【0007】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造におおいて、環状のリング溝にシール部材の挿入を確実におこない、且つ運転時のシール性を高精度に維持するとともに、片当たり等の発生のない熱機関の流体シール構造及びその製作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、熱機関の第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、
該シール構造は、前記第2のケース部材との接合面に形成される環状のリング溝を備えた第1のケース部材と、前記第1のケース部材の対向面を形成する第2のケース部材と、前記リング溝内に設置される柔構造で前記第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料からなるシール部材と、から構成され、前記リング溝は、内周面入口側に前記シール部材を係止する環状の突起部を備えることを特徴とする。
【0009】
かかる発明において、好ましくは、前記リング溝の下部に、該リング溝の下面と前記第1のケース部材と第2のケース部材との間の隙間とを連通する圧力供給手段を備える。
【0010】
かかる発明において、好ましくは、前記シール部材は、ピッチ円径が小径の第1リング及び該第1リングに平行に配置されたピッチ円径が大径の第2リング並びにこれらを連結する板状の中間材から構成されるシール片が複数連結されて、ロータ軸線を含む断面視で、台形状で環状一体に形成されるとともに、前記シール部材の幅は、前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール部材の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記第1リングの内径は前記突起部の外径より小さく形成され、且つ前記第2リングが前記第1リングよりもロータ軸方向で前記リング溝内の内奥に配置されている。
【0011】
また、かかる発明において、好ましくは、前記シール部材は、前記複数のシール片を円周方向に接続するソケットと嵌合体との組み合わせにて円周方向に連結して構成される。
【0012】
また、かかる発明において、好ましくは、前記シール部材は、前記シール片の末端に当板を備え、前記シール片は該当板を介して隣接するシール片に当接して環状で一体に形成される。
【0013】
また、かかる発明において、好ましくは、前記シール部材は、断面形状がU字形状又はE字形状のいずれか1つの複数のシール片から構成され、前記シール片の幅は前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール片の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成されている。
【0014】
また、かかる発明において、好ましくは、前記突起部を、接着材で構成し該接着材を前記突起部と同一形態に仕上げて形成する。
【0015】
前記のように構成された流体シール構造の製作方法に関する発明は、
熱機関の第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、前記第1のケース部材に形成された環状のリング溝に、環状のシール部材を該リング溝内で微動可能に挿入し、前記熱機関の昇温時に前記シール部材がリング溝内で移動して前記第2のケース部材のシール部に摺接して前記第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行うように構成された熱機関の流体シール構造の製作方法において、
前記シール部材に第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料を用い、常温時に、係止手段にて前記シール部材を該リング溝に係止し、熱機関の稼動時に温度上昇にともない係止手段が解除されてシール部材がリング溝内で微動可能して、前記第2のケース部材のシール部に摺接するようにしたことを特徴とする。
【0016】
かかる制作方法発明において、好ましくは、前記係止手段として、前記リング溝内の内周面入口側に突起部を形成し、該突起部は、常温時は前記シール部材を前記リング溝内に保持し、温度上昇にともない該シール部材の係止を解除可能に構成される。
【0017】
また、かかる制作方法発明において、好ましくは、前記係止手段として、接着剤で前記シール部材を前記リング溝に貼着し、前記接着剤は前記シール部材を一定温度以下で前記リング溝内に保持し、一定温度を超えると該シール部材とリング溝との貼着が解除可能に設定される。
【0018】
また、第1のケース部材と第2のケース部材との間をメタルタッチ面にてシールする発明の1つは、
熱機関の第1のケース部材に設けられた軸直角面と熱機関の第2のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にて流体シールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記第1のケース部材の軸方向の厚さ(A)と第2のケース部材の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成して、前記軸方向の厚さ(A)の面と軸方向の厚さ(B)の面とを圧着したことを特徴とする。
【0019】
また、前記第1のケース部材と第2のケース部材との間をメタルタッチ面にてシールする発明の、他の1つは、
熱機関に用いられ、薄肉に形成された第1のケース部材と、該第1のケース部材よりも厚肉に形成された第2のケース部材との間の軸方向の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、
前記第1のケース部に設けられた軸直角面と第2のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にてシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記薄肉の第1のケース部材の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成し、該テーパー面を前記メタルタッチ面に構成して前記第2のケース部材に当接したことを特徴とする。
【0020】
そして、前記のように構成された流体シール構造を適用した蒸気タービンの発明は、次の6つである。
(1)前記請求項1,2,3を併せ備えた流体シール構造を適用した蒸気タービンの流体シール構造において、前記第1のケース部材を車室に構成するとともに第2のケース部材を翼環に構成し、前記車室の内壁に環状のリング溝を設けて該リング溝内に環状のシール部材を装填して、該シール部材を前記翼環の側面に接触させて、該シール部材により前記車室と翼環間の流体シールを行うように構成されてなる。
【0021】
(2)前記シール部材は、前記複数のシール片を円周方向に接続するソケットと嵌合体との組み合わせにて円周方向に連結して構成されてなる。
【0022】
(3)前記シール部材は、前記シール片の末端に当板を備え、前記シール片は該当板を介して隣接するシール片に当接して環状で一体に形成される。
【0023】
(4)前記シール部材は、断面形状がU字形状又はE字形状のいずれか1つの複数のシール片から構成され、前記シール片の幅は前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール片の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成されている。
【0024】
(5)請求項11からなるメタルタッチの流体シール構造を用いた蒸気タービンの流体シール構造において、
前記第1のケース部材を蒸気タービンの車室に構成するとともに第2のケース部材を蒸気タービンの翼環に構成し、前記車室に設けられた軸直角面と翼環に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にて流体シールを行うように構成され、前記車室の軸方向の厚さ(A)と翼環の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成して、前記車室の厚さ(A)の面と翼環の厚さ(B)の面とを圧着する。
【0025】
(6)請求項12からなるメタルタッチの流体シール構造を用いた蒸気タービンの流体シール構造であって、
薄肉に形成された第1のケース部材を蒸気タービンの車室に構成するとともに厚肉に形成された第2のケース部材を蒸気タービンの翼環に構成して、前記車室に設けられた軸直角面と翼環に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にてシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記薄肉の車室の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成し、該テーパー面を前記メタルタッチ面に構成して前記翼環に当接する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、シール構造は、前記第2のケース部材との接合面に形成される環状のリング溝を備えた第1のケース部材と、前記第1のケース部材の対向面を形成する第2のケース部材と、前記リング溝内に設置される柔構造で前記第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料からなるシール部材と、から構成され、前記リング溝は、内周面入口側に前記シール部材を係止する環状の突起部を備えたので、
第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料からなるシール部材をロータ軸方向からリング溝内に挿入して、シール部材の温度上昇に伴い該シール部材が突起部から外れて機械的にシールができるので、シール部材の表面に傷をつけるおそれがない。
また、熱機関の稼動時に車室内に温度分布が生じて、第1のケース部材と第2のケース部材の接合面に変形やうねり等が発生しても、常に漏れのないシールが維持である。
【0027】
また、シール部材に、第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料を用い、シール部材の取付け時に、リング溝内の入口部分に設けた突起部あるいはシール部材を該リング溝に貼着する接着剤等の係止手段にて、前記シール部材を該リング溝に係止するので、この場合、挿入時にシール部材にプリテンション力を残留するように付与して、該リング溝内に挿入する。
従って、ピッチ円径が大径で円環状のリング溝に略円錐台状のシール部材を挿入する際に、シール部材は前記リング溝内の突起部あるいは接着剤等の係止手段により、リング溝に該係止手段を用いて係止しておくので、横方向からの挿入作業がシール部材の落下等を起こすことなく簡単に、且つ確実に行うことができる。
【0028】
そして、熱機関の稼動時にシール部材の温度が一定温度以上になると、シール部材にリング溝の構成部品よりも線膨張率の大きい材料を用いているので、該シール部材が前記熱膨張の力と及び前記リング溝の圧力差によって、さらに前記プリテンション力も加わって、係止手段から外れてリング溝の外周側に微動し、ケース部材のシール部に摺接する。
これにより、ピッチ円径が大径で円環状のリング溝に略円錐台形状のシール部材のロータ軸方向からの挿入作業が容易にでき、蒸気のリークが発生を確実に防止できる。
【0029】
リング溝の下部に、該リング溝の下面と前記第1のケース部材と第2のケース部材との間の隙間とを連通する圧力供給手段を備えるので、前記圧力供給手段によりリング溝の下面と第1のケース部材と第2のケース部材との間の隙間とを連通して均圧するので、かかる均圧作用によりシール部材が背圧による変形を防止できて、シール部材の変位を防止できる。
【0030】
また、かかる発明において、前記シール部材は、前記複数のシール片を円周方向に接続するソケットと嵌合体との組み合わせにて円周方向に連結して構成し、
あるいは、前記シール部材は、前記シール片の末端に当板を備え、前記シール片は該当板を介して隣接するシール片に当接して環状で一体に形成して構成するので、
シール部材の、円周方向の接続部に、ソケットと嵌合体との組み合わせによる円周方向の連結、あるいはシール片の末端に当板を設けることにより、隣接するシール片に当接して環状で一体に形成する構成を、とることによりシール部材の円周方向位置を確実にかつ強固に連結できる。
【0031】
また、かかる発明においては、シール部材は、断面形状がU字形状又はE字形状のいずれか1つの複数のシール片から構成され、前記シール片の幅は前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール片の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成されるので、
前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成することにより、シール部材の突起部内側への組み付けが、前記各実施例よりも簡単になる。
【0032】
また、一方側のケース部材に設けられた軸直角面と他方側のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面でシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記一方側のケース部材の軸方向の厚さ(A)と他方側のケース部材の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成するので、
一方側が軸方向の厚さAで柔らかく、他方側が軸方向の厚さBで硬いので、熱機関の温度が上昇すると柔らかい厚さAの部分の変形量が大きくなって変形し、硬い軸方向の厚さBの部分に、厚さAの部分が追従して密着することとなり、前記メタルタッチ面でのシール効果が向上する。
即ち、前記B>Aに構成したことにより、一方側が軸方向の厚さAの部分が柔軟性を有するため、相手方に追従できて、メタルタッチ面での一方側が自在に変形できてシール効果があがり、片当たり(線当たり)の発生を防止でき、経年変化やメインテナンス性の低下を阻止できる。
【0033】
また、薄肉に形成された一方側のケース部材と、該ケース部材よりも厚肉に形成された他方側のケース部材との間の軸方向の流体シールを行い、前記一方側のケース部材に設けられた軸直角面と他方側のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面でシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記薄肉の一方側のケース部材の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成し、該テーパー面を前記メタルタッチ面に構成したので、薄肉の一方側のケース部材の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成したので、熱機関の温度が上昇すると、該一方側のケース部材がテーパー面で構成されているため根元が柔らかくなって、厚肉に形成された前記他方側のケース部材の部分に、テーパー面が形成された一方側のケース部材が追従して変形して、密着することとなり、前記メタルタッチ面でのシール効果が向上する。
即ち、テーパー面の部分が柔軟性を有するため、相手方に自在に追従できて、メタルタッチ面での一方側が自在に変形できて、シール効果があがり、片当たり(線当たり)の発生を防止でき、経年変化やメインテナンス性の低下を阻止できる。
【0034】
また、本発明にかかる流体シール構造を、最適の適用例として蒸気タービンの、車室と翼環間の流体シールを行うように構成している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【実施例1】
【0036】
図1(A)は、本発明の第1実施例を示す蒸気タービンの流体シール構造を示す概略図であり、(B)は図1(A)のA−A断面図のその1、(C)は図1(A)のA−A断面図のその2を示す。
【0037】
(第1実施例)
第1実施例に示す流体シール構造は、図13に示す従来技術において、Cシールを組み込んだ流体シール構造に代わり、断面が台形状のシール部材を組み込んだ流体シール構造に係わるものである。
図1(A)に示すように、第1実施例の流体シール構造7は、翼環1との接合面を形成する車室側壁2aに設けられるリング溝4(リング溝4の深さL,リング溝4の幅X)を備えた車室2(第1のケース部材)と、車室2の対向面を形成する翼環側壁1aを備えた翼環1(第2のケース部材)と、リング溝4内に挿入される柔構造のシール部材5と、シール部材5の取付けの際、シール部材5をリング溝4内に一時的に拘束するための突起部6とから構成される。
【0038】
前記リング溝4は、車室2の翼環1との接合面である車室側壁2aに設けられ、ロータ軸線Yを中心として環状に配置される。
突起部6は、リング溝4の内周面4bの入口側で車室側壁2aに沿って環状に配置されている。
また、リング溝4は、図1(B)、(C)に示すように、一端は車室側壁2aに開口し、他端はリング溝4の内周面4bに開口する圧力供給手段としての圧力供給孔8が設けられる。圧力供給手段としては、図1(B)に示すように、突起部6を貫通する圧力供給孔8でもよいし、図1(C)に示す歯形状の圧力供給溝8でもよい。該圧力供給手段8は、ロータ軸心線Yを中心に複数個設けられる。
【0039】
第1実施例に係わる流体シール構造の詳細を以下に説明する。
図2(A)は前記シール部材の外観斜視図、図2(B)は(A)のB−B断面図である。
図2(A)に示すように、第1実施例に係わるシール部材5は、複数に分割されたシール片21と、複数のシール片21を連結して環状の一体シールを形成するためのソケット22を備えている。
図2(B)に示すように、シール片21は、円形状の断面を備え、ピッチ円径が小径で円弧状の第1リング23及び、ピッチ円径が大径で円弧状の第2リング24と、両者を接合する薄板状の中間材25から構成されている。
【0040】
前記シール片21は、一体に削り出しで製作してもよいし、第1リング23、第2リング24、中間材25を個別に製作し、溶接等で接合して一体のシール片としてもよい。
一体に成形されたシール部材5は、ロータ軸線Yを含む断面視で台形の形状をしており、上辺が第1リング23、下辺が第2リング24からなり、両者を連結する中間材25で台形の高さ方向の辺が形成される。円弧状に形成された第1リング23(上辺)のピッチ円直径d1は、円弧状に形成された第2リング24(下辺)のピッチ円直径d2より小さい。
【0041】
図2(A)に示すように、一体化により環状に組まれた第1リング23及び第2リング24の直径(平均ピッチ円直径)d1、d2が、1000〜2000mm程度(幅W=(d2−d1)/2)であるのに対して、シール部材5の厚さTは5〜20mm程度で非常に小さい。また、第1リング23、第2リング24の素線の太さに比較して、中間材の板厚は非常に薄い。
従って、シール部材5は、全体として弾性があり、フレキシブルな柔構造を備える。
即ち、図2(B)に示すように、弾性変形の範囲内で、ロータ軸方向に力Fを第1リング23にかけると、破線のようにシール部材全体がロータ軸方向に弾性変形して、中間材25が第2リング24を支点として時計方向に捩じられ、シール部材5の厚さTが薄くなる。軸方向の力Fを除くと、元の形状に復帰する。
【0042】
図3は、シール片21(図2(A)参照)の長手方向の端部の拡大図である。
図3(A)はシール片21の端部の平面図、図3(B)はシール片21の端部の側面図(図3(A)のY矢視図)を示す。
また、図4はソケット22(図2(A)参照)の1例を示す。図4(A)は、ソケット22の平面図、図4(B)はソケット22の側面図(図4(A)のX矢視図)を示す。
図3において、各シール片21の第1リング23及び第2リング24の端部は、ソケット22との接続が容易となるよう、先細り形状のテーパ部23a、24aを備える。
一方、図4において、ソケット22は、前記シール片21のテーパ部23a、24aを受入れ可能なように、ソケット22の両端面22a、22bにテーパ孔22cを設けている。
【0043】
図4(A)に示す例では、端面22a、22bに設けたテーパ孔22cと同軸の貫通孔22dを設けているが、端面22a、22bに設けるテーパ孔22cが同軸に維持できれば、貫通孔22dを設けなくてもよい。
なお、前記シール部材5は、テーパ部23a、24a及びテーパ孔22cを介して、各シール片21の端部21aをソケット22に差し込んで、一体化される。
【0044】
前記シール部材5の一体化に際して、第1実施例の第1変形例を図5に示す。
この変形例は、前記ソケット22を用いずに、シール片21の端部21a同士をスポット溶接Rで接合して一体化した例である。接合部のスポット溶接Rは、1箇所あたりに1点スポットでもよいし、2点スポット以上でもよい。本変形例では、ソケットを必要としないので部品数が少なくなり、構造が簡単になる。
【0045】
次に、図6(A)、(B)を参照しながら、シール部材5をリング溝4に取り付け、車室2と翼環1との間の接合面(翼環側壁1a、車室側壁2a)で密着したシールが完成する過程を説明する。(A)が組付け前、(B)が組付け後である。
図6(a)に示すように、まず第1リング23、第2リング24及び中間材25からなるシール片21が、ロータ軸方向からリング溝4に挿入される。挿入に際して、第2リング24は第1リング23よりリング溝4の内奥に配置され、第1リング23はリング溝4から翼環側壁1a側へ露出した状態でシール片21を配置する。
即ち、シール片21にプリテンションを与えていない状態では、シール部材5の厚さTはリング溝4の深さLより大きく形成される。この状態で、隣接するシール片21をリング溝内に搬入し、各シール片21とソケット22を連結して、一体のシール部材5を形成する。
【0046】
なお、一体化したシール部材5をリング溝4内に取り付ける際は、あらかじめシール部材5をリング溝4内に一時的に固定するための係止手段を備えることが望ましい。前述のリング溝4内に設ける突起部6が、本実施例の場合の係止手段の一手段となる。シール部材の係止手段を設けず、シール部材の一部をリング溝4から翼環側壁1a側へ露出させた状態で、車室2に翼環1を組み込むと、シール部材の表面に傷がつき易い。車室2と翼環1を接合させる場合、車室に対して翼環はロータ径方向から挿入しなければならず、翼環側壁1aとシール部材5が擦りあうためである。
【0047】
また、図6(A)に示すように、第1リング23の内径d11が突起部6の外径D3より小さく、リング溝4の内周面4bの外径D1よりも大きくすることが望ましい((D3−D1)/2=h)。このような寸法を選択するのは、シール部材5をリング溝4内に固定し易くするためである。
即ち、シール部材5を一体化させて、ロータ軸方向に力Fで第1リング23を押し込めば、シール部材5の復元力で第1リング23が突起部6の内壁6aに押し付けられ、突起部6は第1リング23が押し込み前の形状に復元するのを阻止する係止手段として働くからである。
このようにすれば、取付け前にあらかじめシール部材5をリング溝内に確実に拘束できるので、シール部材の取付け時におけるシール部材の表面に傷がつくのを防止できる。
【0048】
各シール片21を接合せずに一体化を図る第2変形例を図7に示す。図7(A)は、本変形例のシール片の平面図、図7(B)はシール片の断面図(図7(A)の断面C−C)、図7(C)は当板の平面図(図7(A)の断面D−D)を示す。
本変形例は、図7(A)に示すように、一体化したシール片21の末端に当板26を配置したものである。図7(A)に示す例は、シール部材5を2分割した場合であるが、この例に限らず、3分割以上でもよい。各分割箇所に、当板26が一枚ずつ配置されている。図7(B)に示すように、当板26はシール片の端部に載置するのみで、溶接等で固定する必要はない。即ち、当板26は、第1リング23、第2リング24及び中間材25のいずれの端部にも固着されていない。
その他の構成は、図1(A)、(B)、(C)と同様であり、これらと同一の部材は同一の符号で示す。
【0049】
図7(A)は、当板26近傍がリング溝4内に挿入された状態の平面図を示す。
当板26は、リング溝の矩形状の断面に嵌まり込み、出来るだけ隙間のない形状とするのが望ましい。リング溝と当板26との間の隙間が大きいと、熱ひずみに伴うシール部材5の自由な変形が拘束され、シールの密着性が維持できないおそれがあるからである。
【0050】
図7(A)、(B)、(C)に示す本変形例で、シール部材5をリング溝内に挿入して、リング溝内に係止する手順を説明する。
図7(A)はシール部材の平面図、(B)はC−C断面図、(C)はD−D断面図である。
図7(A)に示すように、リング溝4内にシール片21を挿入する。シール片21を配置した状態では、当板26はリング溝4内に納まり、シール部材5の一部(例えば、第1リング23)はリング溝4の外側に露出された状態である。
この状態から、第1実施例と同様に、第1リング23に力Fを付加してシール部材5を変形させ、シール部材5を突起部6により係止させ、リング溝4内に拘束する。
次に、シール部材5がリング溝4に係止された状態で、シール片21の両端部21aに当板26を載置する。この場合、シール片21と当板26は、溶接等で接合する必要はない。
【0051】
更に、隣接するシール部材5の端部21aが当板26に当接するように、リング溝4内に配置し、力Fを付加して変形させ、同様にリング溝4内に拘束する。シール片同士は、当板26を介して互いに当接するのみで、固着されない。
最終的に、複数の当板26を介して複数のシール片21を環状に配置して、一体化されたシール部材5が出来上がる。
【0052】
蒸気温度の上昇にともないシール部材5の拘束がはずれ、第1リング23、第2リング24の熱伸びにより、翼環側壁及びリング溝4内壁に摺接してタイトシールが成立する過程で、リング溝4の外周面4aから受ける反力を隣接するシール片21に伝える必要がある。
当板26があれば、シール片21同士は互いに当接するだけで、当板26を介して互いに反力を伝えることができる。また、当板26とシール片21は固着されていないので、熱ひずみ等によりシール部材が変形する際、当板26に拘束されずにリング溝4内を自由に動き得るのは他の例と同様である。
【0053】
次に、かかる第1実施例に関して、図1を参照して、蒸気タービン稼動後、密着したシールが完成するまでの過程を以下に説明する。
蒸気タービンの稼動状態では、蒸気入口側から蒸気出口側に向かって差圧が働き、車室側壁2aで翼環1側からのスラスト力を受けて、車室2と翼環1との接合面(翼環側壁1a、車室側壁2a)には高い面圧が発生する。
また、メイン蒸気を流す蒸気通路(図示せず)は、翼環1の内周側に配置されており、リング溝4内のシール部材5を挟んで、シール部材5の内周側で高圧(P1)となり、シール部材5の外周側で低圧(P2)となる。
【0054】
即ち、図1に示すように、稼動状態では、シール部材5は、リング溝4内に押し込まれ、ロータ中心側から外周側に向かって差圧(P1−P2)が働く。つまり、シール部材5は、差圧(P1−P2)により、リング溝4内で外周方向に押し付けられ、リング溝4の外周面4aと翼環側壁1aの2箇所で接触して、密着したシールが完成する。
【0055】
本発明の特徴は、シール部材5と車室2(第1のケース部材)との熱膨張の差を利用して、タービンの運転温度の上昇とともに、シール部材5と車室2との熱膨張差が拡大し、シール部材5の突起部6による拘束が外れて、シール部材5にかかる差圧を利用して、機械的にシール部材5とリング溝4内壁及び翼環側壁1aとの間で自動的にシールされる点に特徴がある。
【0056】
具体的には、シール部材5と車室1の材料に関して、線膨張率の差の大きい材料の組み合わせを選択し、熱伸びの差を利用して、蒸気の温度上昇とともにシール部材5の拘束が自動的にはずれ、シール部材5の復元力を利用して、シール部材5とリング溝4の内壁2a、翼環側壁1aの間でシールされる構造を採用している。
即ち、シール部材5には線膨張係数の大きい材料を選定し、車室2には線膨張率の小さい材料を選定する。
【0057】
例えば、シール部材5は、オーステナイト系ステンレス鋼やインコネル等が適用でき、車室2は低合金鋼(クロムモリブデン鋼)等が適用できる。蒸気温度の上昇とともに、シール部材5の第1リング23全体が熱伸びを生じて、図6(A)、(B)に示すように、その内径d11が拡大する。
一方、シール部材5をリング溝4に係止している突起部6は、相対的に線膨張率の小さい材料(車室2と同一)を用いているため、その外径D3の熱伸びは小さい。
従って、所定の運転条件に達する前に、シール部材5の第1支持材の内径寸法d11が、リング溝4の突起部6の外径寸法D3を上回り、シール部材5はリング溝4との係止状態から開放され、元の形状に復帰する。
【0058】
なお、車室2の重量は、シール部材5の重量より圧倒的に大きいため、車室2の熱容量はシール部材5の熱容量より格段に大きい。つまり、シール部材5の温度は蒸気温度の上昇に追随するが、車室2の温度上昇は非常に緩慢である。
従って、蒸気温度が比較的低い温度条件において、シール部材5は突起部6の係止状態から開放される。
【0059】
ここで、リング溝4に設ける圧力供給手段の機能を、図1を参照して説明する。
シール部材5が、突起部6に拘束されている状態で車室2内へ蒸気が導入された場合、車室2内には蒸気圧力がかかる。即ち、リング溝4内に拘束されているシール部材5の外側(径方向の外方側)には、翼環側壁1a側から、翼環1と車室2の接合面を介して蒸気圧力を背圧として受ける。
一方、リング溝4内には、前述の圧力供給手段(圧力供給孔8又は圧力供給溝8)が設けられている。従って、前記圧力供給手段8を介して、シール部材5の内側(径方向の内方側)にも、蒸気圧力が伝達され、シール部材5の外側と内側は、均圧の状態が維持される。
【0060】
リング溝4が圧力供給手段8を備えない場合、シール部材5の熱伸びにより、シール部材5が、突起部6の拘束から開放されるまでの間、シール部材5は翼環側面1a側から常に背圧を受けているため、シール部材5が突起部6から開放されても、元の形状に復帰しにくい。また、蒸気圧力によっては、シール部材5が外圧(背圧)により変形して、本来のシール機能を果たさない可能性もある。前述の圧力供給手段8は、このような問題を防止するのに有効である。
【0061】
図2のように、各シール片21を構成する第1リング23、第2リング24及び中間材25は同じ材料を使用しているため、第1リング23及び第2リング24ともに、径方向の外方へ同程度の熱伸びを生ずる。
図1(A)及び図2(B)に示すように、リング溝4内にシール部材5を取付ける際、シール部材5の幅Wは、リング溝4の幅Xより突起部6の高さhだけ小さく形成するのが望ましい。
シール部材5の幅Wとは、図2(B)においてロータ軸方向からの正面視で、第1リング23の内側半径(d1/2)と第2リング25の外側半径(d2/2)との差(W)を意味する。
なお、シール部材5が突起部6に拘束されている場合と突起部6の拘束から開放されている場合の幅Wの差違は、突起部6の高さh(図6A参照)に比較してリング溝4の幅Xは十分に大きいので、ほとんど無視できるほど小さい。
従って、シール部材5の幅Wは、シール部材5にプリテンション(力F)が与えられていない静置状態での幅と略同じと考えてよい。
【0062】
上述のように、リング溝4の形状との関係で、図2(B)におけるシール部材5の厚さT及び幅Wを選定すれば、第1リング23が熱伸びにより突起部6の拘束から開放されるのと同時に、第2リング24の外面がリング溝4の外周面4a(図1(A)参照)に当接し、シール部材5の全体は元の形状に復帰する。
なお、突起部6の高さh(図6(A)参照)は、車室2とシール部材5の線膨張率の違いと稼動状態の運転温度から選定できる。
【0063】
次に、図6(B)を参照しながら、稼動状態における流体シール構造の動きを説明する図6(B)は、稼動状態における流体シール構造の概略配置を示す。
突起部6の拘束から開放されたシール部材5は元の形状に復帰しようとするが、第1リング23の外面が車室側壁2aの対向面である翼環側壁1aに摺接したところで、シール部材の形状の復元が止まる。
この状態で、高圧側(P1)の蒸気通路側(図6(B)の下方)と低圧側(P2)の車室側(図6(B)の上方)との間が、シール部材5を境としてシールされる。一旦、シール部材の前後でシールが形成されると、車室内圧力が常圧に戻らない限り、シール部材には高圧側(P1)から低圧側(P2)へ向かって、常時差圧(P1−P2)がかかり続ける。
【0064】
その後、通常の稼動状態に達するまでの昇温過程では、第1リング23及び第2リング24ともに熱伸びが持続する。通常の稼動状態に達した状態では、シール部材5に差圧(P1−P2)がかかった状態で、第1リング23は翼環側壁1aに摺接し、第2リング24はリング溝4の外周面4aに摺接して固定される。
この昇温過程で、シール部材5に熱ひずみが生じても、第1リング23及び第2リング24のそれぞれが摺接している翼環側壁1a及びリング溝4の外周面4aから反力を受けるので、シール部材5とリング溝4との密着性が維持され、シール部材5によるシールは十分に確保できる。
【0065】
(第2実施例)
図8(A)、(B)に基づき、第2実施例に係わる流体シール構造を説明する。
図8(A)は、シール部材5が、リング溝4内に拘束される前の状態を示し、図8(B)は拘束後の状態を示す断面図である。
第2実施例では、図8(A)に示すように、シール部材5として断面がU字形状を備えた流体シール構造7であり、複数に分割されたシール片21をロータ軸方向からリング溝4内に挿入して、環状に形成したものである。
シール片21が、リング溝4内に挿入され、プリテンションがかからない状態では、シール片21の厚さT(シール片の外表面間の長さ)は、リング溝の深さLより大きい。また、図8(B)に示すように、シール片21の幅W(シール片21の端部と曲がり部の外表面との長さ)は、シール片21を突起部6の高さhを乗り越えてリング溝4内へ挿入し易いように、幅Wはリング溝4の幅Xより突起部6の高さhだけ小さく形成するのが望ましい。
【0066】
また、図8(A)に示すように、突起部6を乗り越えて、リング溝4内に挿入されたシール片21は、ロータ軸方向から力Fを付加して弾性変形させ、シール片21の幅Tを小さくして、内周面4b内に押し込む。
図8(B)に示すように、シール片21は、復元力で元の形状に復帰しようとするが、突起部6の内壁6aに当接し、リング溝4内に拘束される。
更に、隣接するシール片21を同様の手順で挿入し、リング溝4内に拘束させる。内周面4b内に嵌め込んだ各シール片21を環状に配置すれば、各シール片21は、互いに隣接するシール片21の端部同士を接合することなく、端部を当接した状態で一体化されたシール部材5が形成される。なお、複数のシール片を一体化する方法は、上述のように、端部同士を当接させる方法でもよく、第1実施例に示すソケットを介在させてもよく、第1変形例に示す溶接方法でもよく、第2変形例に示す当板を介在させる方法でもよい。
【0067】
第2実施例の流体シール構造7が、蒸気タービンの昇温過程から稼動状態に至るまでの間で、密着したシールが完成する手順は、以下の過程である。
蒸気温度の上昇にともなう熱伸びのため、シール部材5は径方向の外方に膨張する。車室2よりも線膨張率の大きい材料を選定することにより、シール部材5の内径d12が突起部6の外径D3を上廻り、シール部材5は突起部6の拘束から開放される。
同時に、シール部材5の外端5aがリング溝4の外周面4aに当接する。シール部材5が突起部6の拘束から開放された後、密着シールが完成するまでの過程は、第1実施例と同じである。
その他の構成は、図1(A)と同様であり、これらと同一の部材は同一の符号で示す。
【0068】
(第3実施例)
次に、図9には、第3実施例に係わる流体シール構造を示す。
図9(A)は、シール部材が、リング溝内に拘束される前の状態を示し、図9(B)は拘束後の状態を示す断面図である。
この第3実施例は、第2実施例と比較して、シール部材5の断面がE字形状である点が異なっている。
図9(A)に示すように、シール片21の厚さTはリング溝4の深さLより大きく、シール片21の幅Wは、リング溝4の幅Xより突起部6の高さhだけ小さくするのが望ましい。その他の構成及び作用、効果は、第2実施例の場合と同じである。
【0069】
(第4実施例)
図10には、本発明の第4実施例に係わる他の係止手段に関する流体シール構造を示す図10に示すように、前記のシール部材5をリング溝4内に係止する手段として、突起部6を設ける方法に変えて、シール部材5を該リング溝4に接着する接着剤70を設けてもよい。
接着剤70は、常温では液状で、運転温度で蒸発する材料であれば、公知の接着剤70を使用できる。また、接着剤70は、第1支持材に沿って全周に塗布する必要はなく、断続塗布で仮付けしてよい。
その他の構成は、図1(A)と同様であり、これらと同一の部材は同一の符号で示す。
【0070】
以上のように、シール部材5を該リング溝4に組み付ければ、図10のように、環状のリング溝4に略円錐台形状のシール部材5を挿入する際に、シール部材5は前記リング溝4内の突起部6あるいは接着剤70の係止手段により、あらかじめリング溝4内に該係止手段を用いて係止しておくので、車室2に翼環1を組み付ける際、シール部材の表面に傷をつけることなく確実に組み付け作業を行うことができる。
また、面開きが発生しても、シール部材5の密着性が維持できるので、蒸気のリークの発生を確実に防止できる
その他の構成は、図1(A)と同様であり、これらと同一の部材は同一の符号で示す。
【0071】
(第5実施例)
図11は、本発明の第5実施例を示すメタルシール部の要部断面図である。
図11において、車室2の内周突部10に形成された軸直角なシール面と、翼環1の外周突部11に設けられた軸直角なシール面とが摺接し、このメタルタッチ面11aで翼環1の静翼3側からのシールを行うように構成されている。
この第5実施例においては、車室2の内周突部10の軸方向の厚さ(A)と外周突部11の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成している。
【0072】
このように、前記内周突部10の軸方向の厚さ(A)と外周突部11の軸方向厚さ(B)との関係をB>Aに構成したことにより、内周突部10が軸方向の厚さ(A)で柔らかく、外周突部11側が軸方向の厚さ(B)で硬いので、タービンの温度が上昇すると、柔らかい内周突部10の厚さAの部分の変形量が大きくなって変形し、硬い外周突部11側の軸方向の厚さ(B)の部分に、内周突部10の厚さ(A)の部分が追従して密着することとなり、前記メタルタッチ面11aでのシール効果が向上する。
即ち、前記B>Aに構成したことにより、内周突部10の厚さ(A)の部分が柔軟性を有するため、相手方に追従できて、メタルタッチ面11aでの変形が自在に変形できてシール効果があがり、片当たり(線当たり)の発生を防止でき、経年変化やメインテナンス性の低下を阻止できる。
【0073】
(第6実施例)
図12は、本発明の第6実施例を示すメタルタッチ部の要部断面図である。
この第6実施例においては、車室2の薄肉の内周突部10に形成された軸直角なシール面と、前記内周突部10よりも厚肉に形成されている翼環1の外周突部11に設けられた軸直角なシール面とが摺接し、このメタルタッチ面11aで翼環1の静翼3側からのガスのシールを行うように構成されている。
そして、前記薄肉の内周突部10の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面12に形成し、該テーパ面12をメタルタッチ面11aに構成している。
【0074】
従って、薄肉の内周突部10の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面12に形成しているので、タービンの温度が上昇すると、該内周突部10がテーパー面12で構成されているため根元が柔らかくなって、厚肉に形成された前記外周突部11の部分に、テーパー面12が形成された内周突部10が追従して変形して、密着することとなり、前記メタルタッチ面11aでのシール効果が向上する。
即ち、テーパー面12の部分が柔軟性を有するため、相手方に自在に追従できて、メタルタッチ面11aでの一方側が自在に変形できて、シール効果があがり、片当たり(線当たり)の発生を防止でき、経年変化やメインテナンス性の低下を阻止できる。
その他の構成は図11に示す第5実施例と同様であり、同一の部材は同一の符号で示す。
【0075】
尚、本発明は、蒸気タービンのみならず、ガスタービン等の熱機関に広く適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、気タービンを含む熱機関の流体シール構造におおいて、環状のリング溝にシール部材の挿入を確実におこない、且つ運転時のシール性を高精度に維持するとともに、片当たり等の発生のない熱機関の流体シール構造及びその製作方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(A)は、本発明の第1実施例を示す蒸気タービンの流体シール構造を示す概略図であり、(B)は図1(A)のA−A断面図のその1、(C)は図1(A)のA−A断面図のその2を示す。。
【図2】図2(A)は前記シール部材の外観斜視図、図2(B)は(A)のB−B断面図である。
【図3】(A)はシール片の端部の平面図、(B)はシール片の端部の側面図((A)のY矢視図)を示す。
【図4】(A)はソケットの側面図、(B)は(A)のX矢視図である。
【図5】シール部材の斜視図である。
【図6】(A)はシール部材の組付け前、(B)シール部材のが組付け後である。
【図7】(A)は、本変形例のシール片の平面図、(B)はシール片の断面((A)の断面C−C)、(C)は当板の平面図((A)の断面D−D)を示す。
【図8】第2実施例に係わる(A)はシール部材がリング溝内に拘束される前の状態を示し、(B)は拘束後の状態を示す断面図である。
【図9】(A)はシール部材が、リング溝内に拘束される前の状態を示し、(B)は拘束後の状態を示す断面図である。
【図10】本発明の第4実施例に係わる他の係止手段に関する流体シール構造を示す。
【図11】本発明の第5実施例を示すメタルタッチ部の要部断面図である。
【図12】本発明の第6実施例を示すメタルタッチ部の要部断面図である。
【図13】従来技術の流体シール構造の断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 翼環
1a 翼環側壁
2 車室
2a 車室側壁
4 リング溝
5 シール部材
6 突起部
7 流体シール構造
8 圧力供給孔(圧力供給溝)
9 接着剤
10 内周突部
11 外周突部
11a メタルタッチ面
12 テーパー面
21 シール片
22 ソケット
23 第1リング
24 第2リング
25 中間材
26 当板
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンを含む熱機関に適用される。蒸気タービン含む熱機関において、第1のケース部材に形成された環状のリング溝に環状のシール部材を挿入し、前記熱機関の昇温時に該シール部材を第2のケース部材のシール部に摺接して、第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行うように構成された蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造及びかかる流体シール構造の製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンの翼環と車室のシールは、図13に示すように、車室2の軸直角面に形成された環状のリング溝4に、環状のシール部材(Cシール)80を該リング溝4内で微動可能に挿入し、蒸気タービンの昇温時に前記シール部材80がリング溝内4で微移動して、翼環1の軸直角面な翼環側壁1aに摺接して、前記車室2と翼環1との間の静翼3側からのシールを行うように構成されている。
【0003】
前記環状のリング溝4に挿入する環状のシール部材80は、いわゆる面タッチでシールしており、蒸気の圧力荷重によるロータ軸方向(図13の紙面上で左右方向)にかかるスラスト力により、リング溝を設けた接合面に面圧が発生し、それにより蒸気のリークを防止し、シール機能を持たせる構造となっている。
【0004】
かかる前記蒸気タービンの翼環と車室のシール構造において、隔壁の熱変形による応力集中の発生を抑制するように構成された技術として、特許文献1(特開2007−40156号公報)等がある。
【特許文献1】特開2007−40156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図13に示される蒸気タービン、翼環と車室のシールにおいて、リング溝4にシール部材80を挿入する場合、一体物の環状のシール部材では物理的に挿入が不可能であり、少なくとも1つ以上に分割して、ロータの周方向からリング溝4に沿って挿入し、リング溝4内をロータの周方向にスライドさせながら挿入していくのが通常である。
しかし、このようにリング溝4に沿って、ロータ周方向にシール部材80を挿入すると、リング溝内面との接触により、シール部材の表面に傷がつき易い。シール面に傷がつくと蒸気のリークが発生し易い。
【0006】
また、図13に示すように、前記リング溝4形成部近傍の車室形状は、車室内部の温度分布に従い、ロータ軸方向の高温部側に傾いた変形を生じたり、軸方向にもうねった変形となる。この場合、例えば、車室2と翼環1の嵌合部の剛性が、車室2が翼環1より高すぎるなど、バランスが悪い場合などに、前記うねりに対する追従性が低下し、前記接合部5a近傍で口開きを発生させたり、また均一な接触面が得られず、面当たりではなく片当たり(線当たり)などを招いたりする。
【0007】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造におおいて、環状のリング溝にシール部材の挿入を確実におこない、且つ運転時のシール性を高精度に維持するとともに、片当たり等の発生のない熱機関の流体シール構造及びその製作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、熱機関の第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、
該シール構造は、前記第2のケース部材との接合面に形成される環状のリング溝を備えた第1のケース部材と、前記第1のケース部材の対向面を形成する第2のケース部材と、前記リング溝内に設置される柔構造で前記第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料からなるシール部材と、から構成され、前記リング溝は、内周面入口側に前記シール部材を係止する環状の突起部を備えることを特徴とする。
【0009】
かかる発明において、好ましくは、前記リング溝の下部に、該リング溝の下面と前記第1のケース部材と第2のケース部材との間の隙間とを連通する圧力供給手段を備える。
【0010】
かかる発明において、好ましくは、前記シール部材は、ピッチ円径が小径の第1リング及び該第1リングに平行に配置されたピッチ円径が大径の第2リング並びにこれらを連結する板状の中間材から構成されるシール片が複数連結されて、ロータ軸線を含む断面視で、台形状で環状一体に形成されるとともに、前記シール部材の幅は、前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール部材の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記第1リングの内径は前記突起部の外径より小さく形成され、且つ前記第2リングが前記第1リングよりもロータ軸方向で前記リング溝内の内奥に配置されている。
【0011】
また、かかる発明において、好ましくは、前記シール部材は、前記複数のシール片を円周方向に接続するソケットと嵌合体との組み合わせにて円周方向に連結して構成される。
【0012】
また、かかる発明において、好ましくは、前記シール部材は、前記シール片の末端に当板を備え、前記シール片は該当板を介して隣接するシール片に当接して環状で一体に形成される。
【0013】
また、かかる発明において、好ましくは、前記シール部材は、断面形状がU字形状又はE字形状のいずれか1つの複数のシール片から構成され、前記シール片の幅は前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール片の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成されている。
【0014】
また、かかる発明において、好ましくは、前記突起部を、接着材で構成し該接着材を前記突起部と同一形態に仕上げて形成する。
【0015】
前記のように構成された流体シール構造の製作方法に関する発明は、
熱機関の第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、前記第1のケース部材に形成された環状のリング溝に、環状のシール部材を該リング溝内で微動可能に挿入し、前記熱機関の昇温時に前記シール部材がリング溝内で移動して前記第2のケース部材のシール部に摺接して前記第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行うように構成された熱機関の流体シール構造の製作方法において、
前記シール部材に第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料を用い、常温時に、係止手段にて前記シール部材を該リング溝に係止し、熱機関の稼動時に温度上昇にともない係止手段が解除されてシール部材がリング溝内で微動可能して、前記第2のケース部材のシール部に摺接するようにしたことを特徴とする。
【0016】
かかる制作方法発明において、好ましくは、前記係止手段として、前記リング溝内の内周面入口側に突起部を形成し、該突起部は、常温時は前記シール部材を前記リング溝内に保持し、温度上昇にともない該シール部材の係止を解除可能に構成される。
【0017】
また、かかる制作方法発明において、好ましくは、前記係止手段として、接着剤で前記シール部材を前記リング溝に貼着し、前記接着剤は前記シール部材を一定温度以下で前記リング溝内に保持し、一定温度を超えると該シール部材とリング溝との貼着が解除可能に設定される。
【0018】
また、第1のケース部材と第2のケース部材との間をメタルタッチ面にてシールする発明の1つは、
熱機関の第1のケース部材に設けられた軸直角面と熱機関の第2のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にて流体シールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記第1のケース部材の軸方向の厚さ(A)と第2のケース部材の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成して、前記軸方向の厚さ(A)の面と軸方向の厚さ(B)の面とを圧着したことを特徴とする。
【0019】
また、前記第1のケース部材と第2のケース部材との間をメタルタッチ面にてシールする発明の、他の1つは、
熱機関に用いられ、薄肉に形成された第1のケース部材と、該第1のケース部材よりも厚肉に形成された第2のケース部材との間の軸方向の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、
前記第1のケース部に設けられた軸直角面と第2のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にてシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記薄肉の第1のケース部材の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成し、該テーパー面を前記メタルタッチ面に構成して前記第2のケース部材に当接したことを特徴とする。
【0020】
そして、前記のように構成された流体シール構造を適用した蒸気タービンの発明は、次の6つである。
(1)前記請求項1,2,3を併せ備えた流体シール構造を適用した蒸気タービンの流体シール構造において、前記第1のケース部材を車室に構成するとともに第2のケース部材を翼環に構成し、前記車室の内壁に環状のリング溝を設けて該リング溝内に環状のシール部材を装填して、該シール部材を前記翼環の側面に接触させて、該シール部材により前記車室と翼環間の流体シールを行うように構成されてなる。
【0021】
(2)前記シール部材は、前記複数のシール片を円周方向に接続するソケットと嵌合体との組み合わせにて円周方向に連結して構成されてなる。
【0022】
(3)前記シール部材は、前記シール片の末端に当板を備え、前記シール片は該当板を介して隣接するシール片に当接して環状で一体に形成される。
【0023】
(4)前記シール部材は、断面形状がU字形状又はE字形状のいずれか1つの複数のシール片から構成され、前記シール片の幅は前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール片の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成されている。
【0024】
(5)請求項11からなるメタルタッチの流体シール構造を用いた蒸気タービンの流体シール構造において、
前記第1のケース部材を蒸気タービンの車室に構成するとともに第2のケース部材を蒸気タービンの翼環に構成し、前記車室に設けられた軸直角面と翼環に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にて流体シールを行うように構成され、前記車室の軸方向の厚さ(A)と翼環の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成して、前記車室の厚さ(A)の面と翼環の厚さ(B)の面とを圧着する。
【0025】
(6)請求項12からなるメタルタッチの流体シール構造を用いた蒸気タービンの流体シール構造であって、
薄肉に形成された第1のケース部材を蒸気タービンの車室に構成するとともに厚肉に形成された第2のケース部材を蒸気タービンの翼環に構成して、前記車室に設けられた軸直角面と翼環に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にてシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記薄肉の車室の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成し、該テーパー面を前記メタルタッチ面に構成して前記翼環に当接する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、シール構造は、前記第2のケース部材との接合面に形成される環状のリング溝を備えた第1のケース部材と、前記第1のケース部材の対向面を形成する第2のケース部材と、前記リング溝内に設置される柔構造で前記第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料からなるシール部材と、から構成され、前記リング溝は、内周面入口側に前記シール部材を係止する環状の突起部を備えたので、
第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料からなるシール部材をロータ軸方向からリング溝内に挿入して、シール部材の温度上昇に伴い該シール部材が突起部から外れて機械的にシールができるので、シール部材の表面に傷をつけるおそれがない。
また、熱機関の稼動時に車室内に温度分布が生じて、第1のケース部材と第2のケース部材の接合面に変形やうねり等が発生しても、常に漏れのないシールが維持である。
【0027】
また、シール部材に、第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料を用い、シール部材の取付け時に、リング溝内の入口部分に設けた突起部あるいはシール部材を該リング溝に貼着する接着剤等の係止手段にて、前記シール部材を該リング溝に係止するので、この場合、挿入時にシール部材にプリテンション力を残留するように付与して、該リング溝内に挿入する。
従って、ピッチ円径が大径で円環状のリング溝に略円錐台状のシール部材を挿入する際に、シール部材は前記リング溝内の突起部あるいは接着剤等の係止手段により、リング溝に該係止手段を用いて係止しておくので、横方向からの挿入作業がシール部材の落下等を起こすことなく簡単に、且つ確実に行うことができる。
【0028】
そして、熱機関の稼動時にシール部材の温度が一定温度以上になると、シール部材にリング溝の構成部品よりも線膨張率の大きい材料を用いているので、該シール部材が前記熱膨張の力と及び前記リング溝の圧力差によって、さらに前記プリテンション力も加わって、係止手段から外れてリング溝の外周側に微動し、ケース部材のシール部に摺接する。
これにより、ピッチ円径が大径で円環状のリング溝に略円錐台形状のシール部材のロータ軸方向からの挿入作業が容易にでき、蒸気のリークが発生を確実に防止できる。
【0029】
リング溝の下部に、該リング溝の下面と前記第1のケース部材と第2のケース部材との間の隙間とを連通する圧力供給手段を備えるので、前記圧力供給手段によりリング溝の下面と第1のケース部材と第2のケース部材との間の隙間とを連通して均圧するので、かかる均圧作用によりシール部材が背圧による変形を防止できて、シール部材の変位を防止できる。
【0030】
また、かかる発明において、前記シール部材は、前記複数のシール片を円周方向に接続するソケットと嵌合体との組み合わせにて円周方向に連結して構成し、
あるいは、前記シール部材は、前記シール片の末端に当板を備え、前記シール片は該当板を介して隣接するシール片に当接して環状で一体に形成して構成するので、
シール部材の、円周方向の接続部に、ソケットと嵌合体との組み合わせによる円周方向の連結、あるいはシール片の末端に当板を設けることにより、隣接するシール片に当接して環状で一体に形成する構成を、とることによりシール部材の円周方向位置を確実にかつ強固に連結できる。
【0031】
また、かかる発明においては、シール部材は、断面形状がU字形状又はE字形状のいずれか1つの複数のシール片から構成され、前記シール片の幅は前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール片の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成されるので、
前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成することにより、シール部材の突起部内側への組み付けが、前記各実施例よりも簡単になる。
【0032】
また、一方側のケース部材に設けられた軸直角面と他方側のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面でシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記一方側のケース部材の軸方向の厚さ(A)と他方側のケース部材の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成するので、
一方側が軸方向の厚さAで柔らかく、他方側が軸方向の厚さBで硬いので、熱機関の温度が上昇すると柔らかい厚さAの部分の変形量が大きくなって変形し、硬い軸方向の厚さBの部分に、厚さAの部分が追従して密着することとなり、前記メタルタッチ面でのシール効果が向上する。
即ち、前記B>Aに構成したことにより、一方側が軸方向の厚さAの部分が柔軟性を有するため、相手方に追従できて、メタルタッチ面での一方側が自在に変形できてシール効果があがり、片当たり(線当たり)の発生を防止でき、経年変化やメインテナンス性の低下を阻止できる。
【0033】
また、薄肉に形成された一方側のケース部材と、該ケース部材よりも厚肉に形成された他方側のケース部材との間の軸方向の流体シールを行い、前記一方側のケース部材に設けられた軸直角面と他方側のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面でシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記薄肉の一方側のケース部材の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成し、該テーパー面を前記メタルタッチ面に構成したので、薄肉の一方側のケース部材の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成したので、熱機関の温度が上昇すると、該一方側のケース部材がテーパー面で構成されているため根元が柔らかくなって、厚肉に形成された前記他方側のケース部材の部分に、テーパー面が形成された一方側のケース部材が追従して変形して、密着することとなり、前記メタルタッチ面でのシール効果が向上する。
即ち、テーパー面の部分が柔軟性を有するため、相手方に自在に追従できて、メタルタッチ面での一方側が自在に変形できて、シール効果があがり、片当たり(線当たり)の発生を防止でき、経年変化やメインテナンス性の低下を阻止できる。
【0034】
また、本発明にかかる流体シール構造を、最適の適用例として蒸気タービンの、車室と翼環間の流体シールを行うように構成している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【実施例1】
【0036】
図1(A)は、本発明の第1実施例を示す蒸気タービンの流体シール構造を示す概略図であり、(B)は図1(A)のA−A断面図のその1、(C)は図1(A)のA−A断面図のその2を示す。
【0037】
(第1実施例)
第1実施例に示す流体シール構造は、図13に示す従来技術において、Cシールを組み込んだ流体シール構造に代わり、断面が台形状のシール部材を組み込んだ流体シール構造に係わるものである。
図1(A)に示すように、第1実施例の流体シール構造7は、翼環1との接合面を形成する車室側壁2aに設けられるリング溝4(リング溝4の深さL,リング溝4の幅X)を備えた車室2(第1のケース部材)と、車室2の対向面を形成する翼環側壁1aを備えた翼環1(第2のケース部材)と、リング溝4内に挿入される柔構造のシール部材5と、シール部材5の取付けの際、シール部材5をリング溝4内に一時的に拘束するための突起部6とから構成される。
【0038】
前記リング溝4は、車室2の翼環1との接合面である車室側壁2aに設けられ、ロータ軸線Yを中心として環状に配置される。
突起部6は、リング溝4の内周面4bの入口側で車室側壁2aに沿って環状に配置されている。
また、リング溝4は、図1(B)、(C)に示すように、一端は車室側壁2aに開口し、他端はリング溝4の内周面4bに開口する圧力供給手段としての圧力供給孔8が設けられる。圧力供給手段としては、図1(B)に示すように、突起部6を貫通する圧力供給孔8でもよいし、図1(C)に示す歯形状の圧力供給溝8でもよい。該圧力供給手段8は、ロータ軸心線Yを中心に複数個設けられる。
【0039】
第1実施例に係わる流体シール構造の詳細を以下に説明する。
図2(A)は前記シール部材の外観斜視図、図2(B)は(A)のB−B断面図である。
図2(A)に示すように、第1実施例に係わるシール部材5は、複数に分割されたシール片21と、複数のシール片21を連結して環状の一体シールを形成するためのソケット22を備えている。
図2(B)に示すように、シール片21は、円形状の断面を備え、ピッチ円径が小径で円弧状の第1リング23及び、ピッチ円径が大径で円弧状の第2リング24と、両者を接合する薄板状の中間材25から構成されている。
【0040】
前記シール片21は、一体に削り出しで製作してもよいし、第1リング23、第2リング24、中間材25を個別に製作し、溶接等で接合して一体のシール片としてもよい。
一体に成形されたシール部材5は、ロータ軸線Yを含む断面視で台形の形状をしており、上辺が第1リング23、下辺が第2リング24からなり、両者を連結する中間材25で台形の高さ方向の辺が形成される。円弧状に形成された第1リング23(上辺)のピッチ円直径d1は、円弧状に形成された第2リング24(下辺)のピッチ円直径d2より小さい。
【0041】
図2(A)に示すように、一体化により環状に組まれた第1リング23及び第2リング24の直径(平均ピッチ円直径)d1、d2が、1000〜2000mm程度(幅W=(d2−d1)/2)であるのに対して、シール部材5の厚さTは5〜20mm程度で非常に小さい。また、第1リング23、第2リング24の素線の太さに比較して、中間材の板厚は非常に薄い。
従って、シール部材5は、全体として弾性があり、フレキシブルな柔構造を備える。
即ち、図2(B)に示すように、弾性変形の範囲内で、ロータ軸方向に力Fを第1リング23にかけると、破線のようにシール部材全体がロータ軸方向に弾性変形して、中間材25が第2リング24を支点として時計方向に捩じられ、シール部材5の厚さTが薄くなる。軸方向の力Fを除くと、元の形状に復帰する。
【0042】
図3は、シール片21(図2(A)参照)の長手方向の端部の拡大図である。
図3(A)はシール片21の端部の平面図、図3(B)はシール片21の端部の側面図(図3(A)のY矢視図)を示す。
また、図4はソケット22(図2(A)参照)の1例を示す。図4(A)は、ソケット22の平面図、図4(B)はソケット22の側面図(図4(A)のX矢視図)を示す。
図3において、各シール片21の第1リング23及び第2リング24の端部は、ソケット22との接続が容易となるよう、先細り形状のテーパ部23a、24aを備える。
一方、図4において、ソケット22は、前記シール片21のテーパ部23a、24aを受入れ可能なように、ソケット22の両端面22a、22bにテーパ孔22cを設けている。
【0043】
図4(A)に示す例では、端面22a、22bに設けたテーパ孔22cと同軸の貫通孔22dを設けているが、端面22a、22bに設けるテーパ孔22cが同軸に維持できれば、貫通孔22dを設けなくてもよい。
なお、前記シール部材5は、テーパ部23a、24a及びテーパ孔22cを介して、各シール片21の端部21aをソケット22に差し込んで、一体化される。
【0044】
前記シール部材5の一体化に際して、第1実施例の第1変形例を図5に示す。
この変形例は、前記ソケット22を用いずに、シール片21の端部21a同士をスポット溶接Rで接合して一体化した例である。接合部のスポット溶接Rは、1箇所あたりに1点スポットでもよいし、2点スポット以上でもよい。本変形例では、ソケットを必要としないので部品数が少なくなり、構造が簡単になる。
【0045】
次に、図6(A)、(B)を参照しながら、シール部材5をリング溝4に取り付け、車室2と翼環1との間の接合面(翼環側壁1a、車室側壁2a)で密着したシールが完成する過程を説明する。(A)が組付け前、(B)が組付け後である。
図6(a)に示すように、まず第1リング23、第2リング24及び中間材25からなるシール片21が、ロータ軸方向からリング溝4に挿入される。挿入に際して、第2リング24は第1リング23よりリング溝4の内奥に配置され、第1リング23はリング溝4から翼環側壁1a側へ露出した状態でシール片21を配置する。
即ち、シール片21にプリテンションを与えていない状態では、シール部材5の厚さTはリング溝4の深さLより大きく形成される。この状態で、隣接するシール片21をリング溝内に搬入し、各シール片21とソケット22を連結して、一体のシール部材5を形成する。
【0046】
なお、一体化したシール部材5をリング溝4内に取り付ける際は、あらかじめシール部材5をリング溝4内に一時的に固定するための係止手段を備えることが望ましい。前述のリング溝4内に設ける突起部6が、本実施例の場合の係止手段の一手段となる。シール部材の係止手段を設けず、シール部材の一部をリング溝4から翼環側壁1a側へ露出させた状態で、車室2に翼環1を組み込むと、シール部材の表面に傷がつき易い。車室2と翼環1を接合させる場合、車室に対して翼環はロータ径方向から挿入しなければならず、翼環側壁1aとシール部材5が擦りあうためである。
【0047】
また、図6(A)に示すように、第1リング23の内径d11が突起部6の外径D3より小さく、リング溝4の内周面4bの外径D1よりも大きくすることが望ましい((D3−D1)/2=h)。このような寸法を選択するのは、シール部材5をリング溝4内に固定し易くするためである。
即ち、シール部材5を一体化させて、ロータ軸方向に力Fで第1リング23を押し込めば、シール部材5の復元力で第1リング23が突起部6の内壁6aに押し付けられ、突起部6は第1リング23が押し込み前の形状に復元するのを阻止する係止手段として働くからである。
このようにすれば、取付け前にあらかじめシール部材5をリング溝内に確実に拘束できるので、シール部材の取付け時におけるシール部材の表面に傷がつくのを防止できる。
【0048】
各シール片21を接合せずに一体化を図る第2変形例を図7に示す。図7(A)は、本変形例のシール片の平面図、図7(B)はシール片の断面図(図7(A)の断面C−C)、図7(C)は当板の平面図(図7(A)の断面D−D)を示す。
本変形例は、図7(A)に示すように、一体化したシール片21の末端に当板26を配置したものである。図7(A)に示す例は、シール部材5を2分割した場合であるが、この例に限らず、3分割以上でもよい。各分割箇所に、当板26が一枚ずつ配置されている。図7(B)に示すように、当板26はシール片の端部に載置するのみで、溶接等で固定する必要はない。即ち、当板26は、第1リング23、第2リング24及び中間材25のいずれの端部にも固着されていない。
その他の構成は、図1(A)、(B)、(C)と同様であり、これらと同一の部材は同一の符号で示す。
【0049】
図7(A)は、当板26近傍がリング溝4内に挿入された状態の平面図を示す。
当板26は、リング溝の矩形状の断面に嵌まり込み、出来るだけ隙間のない形状とするのが望ましい。リング溝と当板26との間の隙間が大きいと、熱ひずみに伴うシール部材5の自由な変形が拘束され、シールの密着性が維持できないおそれがあるからである。
【0050】
図7(A)、(B)、(C)に示す本変形例で、シール部材5をリング溝内に挿入して、リング溝内に係止する手順を説明する。
図7(A)はシール部材の平面図、(B)はC−C断面図、(C)はD−D断面図である。
図7(A)に示すように、リング溝4内にシール片21を挿入する。シール片21を配置した状態では、当板26はリング溝4内に納まり、シール部材5の一部(例えば、第1リング23)はリング溝4の外側に露出された状態である。
この状態から、第1実施例と同様に、第1リング23に力Fを付加してシール部材5を変形させ、シール部材5を突起部6により係止させ、リング溝4内に拘束する。
次に、シール部材5がリング溝4に係止された状態で、シール片21の両端部21aに当板26を載置する。この場合、シール片21と当板26は、溶接等で接合する必要はない。
【0051】
更に、隣接するシール部材5の端部21aが当板26に当接するように、リング溝4内に配置し、力Fを付加して変形させ、同様にリング溝4内に拘束する。シール片同士は、当板26を介して互いに当接するのみで、固着されない。
最終的に、複数の当板26を介して複数のシール片21を環状に配置して、一体化されたシール部材5が出来上がる。
【0052】
蒸気温度の上昇にともないシール部材5の拘束がはずれ、第1リング23、第2リング24の熱伸びにより、翼環側壁及びリング溝4内壁に摺接してタイトシールが成立する過程で、リング溝4の外周面4aから受ける反力を隣接するシール片21に伝える必要がある。
当板26があれば、シール片21同士は互いに当接するだけで、当板26を介して互いに反力を伝えることができる。また、当板26とシール片21は固着されていないので、熱ひずみ等によりシール部材が変形する際、当板26に拘束されずにリング溝4内を自由に動き得るのは他の例と同様である。
【0053】
次に、かかる第1実施例に関して、図1を参照して、蒸気タービン稼動後、密着したシールが完成するまでの過程を以下に説明する。
蒸気タービンの稼動状態では、蒸気入口側から蒸気出口側に向かって差圧が働き、車室側壁2aで翼環1側からのスラスト力を受けて、車室2と翼環1との接合面(翼環側壁1a、車室側壁2a)には高い面圧が発生する。
また、メイン蒸気を流す蒸気通路(図示せず)は、翼環1の内周側に配置されており、リング溝4内のシール部材5を挟んで、シール部材5の内周側で高圧(P1)となり、シール部材5の外周側で低圧(P2)となる。
【0054】
即ち、図1に示すように、稼動状態では、シール部材5は、リング溝4内に押し込まれ、ロータ中心側から外周側に向かって差圧(P1−P2)が働く。つまり、シール部材5は、差圧(P1−P2)により、リング溝4内で外周方向に押し付けられ、リング溝4の外周面4aと翼環側壁1aの2箇所で接触して、密着したシールが完成する。
【0055】
本発明の特徴は、シール部材5と車室2(第1のケース部材)との熱膨張の差を利用して、タービンの運転温度の上昇とともに、シール部材5と車室2との熱膨張差が拡大し、シール部材5の突起部6による拘束が外れて、シール部材5にかかる差圧を利用して、機械的にシール部材5とリング溝4内壁及び翼環側壁1aとの間で自動的にシールされる点に特徴がある。
【0056】
具体的には、シール部材5と車室1の材料に関して、線膨張率の差の大きい材料の組み合わせを選択し、熱伸びの差を利用して、蒸気の温度上昇とともにシール部材5の拘束が自動的にはずれ、シール部材5の復元力を利用して、シール部材5とリング溝4の内壁2a、翼環側壁1aの間でシールされる構造を採用している。
即ち、シール部材5には線膨張係数の大きい材料を選定し、車室2には線膨張率の小さい材料を選定する。
【0057】
例えば、シール部材5は、オーステナイト系ステンレス鋼やインコネル等が適用でき、車室2は低合金鋼(クロムモリブデン鋼)等が適用できる。蒸気温度の上昇とともに、シール部材5の第1リング23全体が熱伸びを生じて、図6(A)、(B)に示すように、その内径d11が拡大する。
一方、シール部材5をリング溝4に係止している突起部6は、相対的に線膨張率の小さい材料(車室2と同一)を用いているため、その外径D3の熱伸びは小さい。
従って、所定の運転条件に達する前に、シール部材5の第1支持材の内径寸法d11が、リング溝4の突起部6の外径寸法D3を上回り、シール部材5はリング溝4との係止状態から開放され、元の形状に復帰する。
【0058】
なお、車室2の重量は、シール部材5の重量より圧倒的に大きいため、車室2の熱容量はシール部材5の熱容量より格段に大きい。つまり、シール部材5の温度は蒸気温度の上昇に追随するが、車室2の温度上昇は非常に緩慢である。
従って、蒸気温度が比較的低い温度条件において、シール部材5は突起部6の係止状態から開放される。
【0059】
ここで、リング溝4に設ける圧力供給手段の機能を、図1を参照して説明する。
シール部材5が、突起部6に拘束されている状態で車室2内へ蒸気が導入された場合、車室2内には蒸気圧力がかかる。即ち、リング溝4内に拘束されているシール部材5の外側(径方向の外方側)には、翼環側壁1a側から、翼環1と車室2の接合面を介して蒸気圧力を背圧として受ける。
一方、リング溝4内には、前述の圧力供給手段(圧力供給孔8又は圧力供給溝8)が設けられている。従って、前記圧力供給手段8を介して、シール部材5の内側(径方向の内方側)にも、蒸気圧力が伝達され、シール部材5の外側と内側は、均圧の状態が維持される。
【0060】
リング溝4が圧力供給手段8を備えない場合、シール部材5の熱伸びにより、シール部材5が、突起部6の拘束から開放されるまでの間、シール部材5は翼環側面1a側から常に背圧を受けているため、シール部材5が突起部6から開放されても、元の形状に復帰しにくい。また、蒸気圧力によっては、シール部材5が外圧(背圧)により変形して、本来のシール機能を果たさない可能性もある。前述の圧力供給手段8は、このような問題を防止するのに有効である。
【0061】
図2のように、各シール片21を構成する第1リング23、第2リング24及び中間材25は同じ材料を使用しているため、第1リング23及び第2リング24ともに、径方向の外方へ同程度の熱伸びを生ずる。
図1(A)及び図2(B)に示すように、リング溝4内にシール部材5を取付ける際、シール部材5の幅Wは、リング溝4の幅Xより突起部6の高さhだけ小さく形成するのが望ましい。
シール部材5の幅Wとは、図2(B)においてロータ軸方向からの正面視で、第1リング23の内側半径(d1/2)と第2リング25の外側半径(d2/2)との差(W)を意味する。
なお、シール部材5が突起部6に拘束されている場合と突起部6の拘束から開放されている場合の幅Wの差違は、突起部6の高さh(図6A参照)に比較してリング溝4の幅Xは十分に大きいので、ほとんど無視できるほど小さい。
従って、シール部材5の幅Wは、シール部材5にプリテンション(力F)が与えられていない静置状態での幅と略同じと考えてよい。
【0062】
上述のように、リング溝4の形状との関係で、図2(B)におけるシール部材5の厚さT及び幅Wを選定すれば、第1リング23が熱伸びにより突起部6の拘束から開放されるのと同時に、第2リング24の外面がリング溝4の外周面4a(図1(A)参照)に当接し、シール部材5の全体は元の形状に復帰する。
なお、突起部6の高さh(図6(A)参照)は、車室2とシール部材5の線膨張率の違いと稼動状態の運転温度から選定できる。
【0063】
次に、図6(B)を参照しながら、稼動状態における流体シール構造の動きを説明する図6(B)は、稼動状態における流体シール構造の概略配置を示す。
突起部6の拘束から開放されたシール部材5は元の形状に復帰しようとするが、第1リング23の外面が車室側壁2aの対向面である翼環側壁1aに摺接したところで、シール部材の形状の復元が止まる。
この状態で、高圧側(P1)の蒸気通路側(図6(B)の下方)と低圧側(P2)の車室側(図6(B)の上方)との間が、シール部材5を境としてシールされる。一旦、シール部材の前後でシールが形成されると、車室内圧力が常圧に戻らない限り、シール部材には高圧側(P1)から低圧側(P2)へ向かって、常時差圧(P1−P2)がかかり続ける。
【0064】
その後、通常の稼動状態に達するまでの昇温過程では、第1リング23及び第2リング24ともに熱伸びが持続する。通常の稼動状態に達した状態では、シール部材5に差圧(P1−P2)がかかった状態で、第1リング23は翼環側壁1aに摺接し、第2リング24はリング溝4の外周面4aに摺接して固定される。
この昇温過程で、シール部材5に熱ひずみが生じても、第1リング23及び第2リング24のそれぞれが摺接している翼環側壁1a及びリング溝4の外周面4aから反力を受けるので、シール部材5とリング溝4との密着性が維持され、シール部材5によるシールは十分に確保できる。
【0065】
(第2実施例)
図8(A)、(B)に基づき、第2実施例に係わる流体シール構造を説明する。
図8(A)は、シール部材5が、リング溝4内に拘束される前の状態を示し、図8(B)は拘束後の状態を示す断面図である。
第2実施例では、図8(A)に示すように、シール部材5として断面がU字形状を備えた流体シール構造7であり、複数に分割されたシール片21をロータ軸方向からリング溝4内に挿入して、環状に形成したものである。
シール片21が、リング溝4内に挿入され、プリテンションがかからない状態では、シール片21の厚さT(シール片の外表面間の長さ)は、リング溝の深さLより大きい。また、図8(B)に示すように、シール片21の幅W(シール片21の端部と曲がり部の外表面との長さ)は、シール片21を突起部6の高さhを乗り越えてリング溝4内へ挿入し易いように、幅Wはリング溝4の幅Xより突起部6の高さhだけ小さく形成するのが望ましい。
【0066】
また、図8(A)に示すように、突起部6を乗り越えて、リング溝4内に挿入されたシール片21は、ロータ軸方向から力Fを付加して弾性変形させ、シール片21の幅Tを小さくして、内周面4b内に押し込む。
図8(B)に示すように、シール片21は、復元力で元の形状に復帰しようとするが、突起部6の内壁6aに当接し、リング溝4内に拘束される。
更に、隣接するシール片21を同様の手順で挿入し、リング溝4内に拘束させる。内周面4b内に嵌め込んだ各シール片21を環状に配置すれば、各シール片21は、互いに隣接するシール片21の端部同士を接合することなく、端部を当接した状態で一体化されたシール部材5が形成される。なお、複数のシール片を一体化する方法は、上述のように、端部同士を当接させる方法でもよく、第1実施例に示すソケットを介在させてもよく、第1変形例に示す溶接方法でもよく、第2変形例に示す当板を介在させる方法でもよい。
【0067】
第2実施例の流体シール構造7が、蒸気タービンの昇温過程から稼動状態に至るまでの間で、密着したシールが完成する手順は、以下の過程である。
蒸気温度の上昇にともなう熱伸びのため、シール部材5は径方向の外方に膨張する。車室2よりも線膨張率の大きい材料を選定することにより、シール部材5の内径d12が突起部6の外径D3を上廻り、シール部材5は突起部6の拘束から開放される。
同時に、シール部材5の外端5aがリング溝4の外周面4aに当接する。シール部材5が突起部6の拘束から開放された後、密着シールが完成するまでの過程は、第1実施例と同じである。
その他の構成は、図1(A)と同様であり、これらと同一の部材は同一の符号で示す。
【0068】
(第3実施例)
次に、図9には、第3実施例に係わる流体シール構造を示す。
図9(A)は、シール部材が、リング溝内に拘束される前の状態を示し、図9(B)は拘束後の状態を示す断面図である。
この第3実施例は、第2実施例と比較して、シール部材5の断面がE字形状である点が異なっている。
図9(A)に示すように、シール片21の厚さTはリング溝4の深さLより大きく、シール片21の幅Wは、リング溝4の幅Xより突起部6の高さhだけ小さくするのが望ましい。その他の構成及び作用、効果は、第2実施例の場合と同じである。
【0069】
(第4実施例)
図10には、本発明の第4実施例に係わる他の係止手段に関する流体シール構造を示す図10に示すように、前記のシール部材5をリング溝4内に係止する手段として、突起部6を設ける方法に変えて、シール部材5を該リング溝4に接着する接着剤70を設けてもよい。
接着剤70は、常温では液状で、運転温度で蒸発する材料であれば、公知の接着剤70を使用できる。また、接着剤70は、第1支持材に沿って全周に塗布する必要はなく、断続塗布で仮付けしてよい。
その他の構成は、図1(A)と同様であり、これらと同一の部材は同一の符号で示す。
【0070】
以上のように、シール部材5を該リング溝4に組み付ければ、図10のように、環状のリング溝4に略円錐台形状のシール部材5を挿入する際に、シール部材5は前記リング溝4内の突起部6あるいは接着剤70の係止手段により、あらかじめリング溝4内に該係止手段を用いて係止しておくので、車室2に翼環1を組み付ける際、シール部材の表面に傷をつけることなく確実に組み付け作業を行うことができる。
また、面開きが発生しても、シール部材5の密着性が維持できるので、蒸気のリークの発生を確実に防止できる
その他の構成は、図1(A)と同様であり、これらと同一の部材は同一の符号で示す。
【0071】
(第5実施例)
図11は、本発明の第5実施例を示すメタルシール部の要部断面図である。
図11において、車室2の内周突部10に形成された軸直角なシール面と、翼環1の外周突部11に設けられた軸直角なシール面とが摺接し、このメタルタッチ面11aで翼環1の静翼3側からのシールを行うように構成されている。
この第5実施例においては、車室2の内周突部10の軸方向の厚さ(A)と外周突部11の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成している。
【0072】
このように、前記内周突部10の軸方向の厚さ(A)と外周突部11の軸方向厚さ(B)との関係をB>Aに構成したことにより、内周突部10が軸方向の厚さ(A)で柔らかく、外周突部11側が軸方向の厚さ(B)で硬いので、タービンの温度が上昇すると、柔らかい内周突部10の厚さAの部分の変形量が大きくなって変形し、硬い外周突部11側の軸方向の厚さ(B)の部分に、内周突部10の厚さ(A)の部分が追従して密着することとなり、前記メタルタッチ面11aでのシール効果が向上する。
即ち、前記B>Aに構成したことにより、内周突部10の厚さ(A)の部分が柔軟性を有するため、相手方に追従できて、メタルタッチ面11aでの変形が自在に変形できてシール効果があがり、片当たり(線当たり)の発生を防止でき、経年変化やメインテナンス性の低下を阻止できる。
【0073】
(第6実施例)
図12は、本発明の第6実施例を示すメタルタッチ部の要部断面図である。
この第6実施例においては、車室2の薄肉の内周突部10に形成された軸直角なシール面と、前記内周突部10よりも厚肉に形成されている翼環1の外周突部11に設けられた軸直角なシール面とが摺接し、このメタルタッチ面11aで翼環1の静翼3側からのガスのシールを行うように構成されている。
そして、前記薄肉の内周突部10の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面12に形成し、該テーパ面12をメタルタッチ面11aに構成している。
【0074】
従って、薄肉の内周突部10の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面12に形成しているので、タービンの温度が上昇すると、該内周突部10がテーパー面12で構成されているため根元が柔らかくなって、厚肉に形成された前記外周突部11の部分に、テーパー面12が形成された内周突部10が追従して変形して、密着することとなり、前記メタルタッチ面11aでのシール効果が向上する。
即ち、テーパー面12の部分が柔軟性を有するため、相手方に自在に追従できて、メタルタッチ面11aでの一方側が自在に変形できて、シール効果があがり、片当たり(線当たり)の発生を防止でき、経年変化やメインテナンス性の低下を阻止できる。
その他の構成は図11に示す第5実施例と同様であり、同一の部材は同一の符号で示す。
【0075】
尚、本発明は、蒸気タービンのみならず、ガスタービン等の熱機関に広く適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、気タービンを含む熱機関の流体シール構造におおいて、環状のリング溝にシール部材の挿入を確実におこない、且つ運転時のシール性を高精度に維持するとともに、片当たり等の発生のない熱機関の流体シール構造及びその製作方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(A)は、本発明の第1実施例を示す蒸気タービンの流体シール構造を示す概略図であり、(B)は図1(A)のA−A断面図のその1、(C)は図1(A)のA−A断面図のその2を示す。。
【図2】図2(A)は前記シール部材の外観斜視図、図2(B)は(A)のB−B断面図である。
【図3】(A)はシール片の端部の平面図、(B)はシール片の端部の側面図((A)のY矢視図)を示す。
【図4】(A)はソケットの側面図、(B)は(A)のX矢視図である。
【図5】シール部材の斜視図である。
【図6】(A)はシール部材の組付け前、(B)シール部材のが組付け後である。
【図7】(A)は、本変形例のシール片の平面図、(B)はシール片の断面((A)の断面C−C)、(C)は当板の平面図((A)の断面D−D)を示す。
【図8】第2実施例に係わる(A)はシール部材がリング溝内に拘束される前の状態を示し、(B)は拘束後の状態を示す断面図である。
【図9】(A)はシール部材が、リング溝内に拘束される前の状態を示し、(B)は拘束後の状態を示す断面図である。
【図10】本発明の第4実施例に係わる他の係止手段に関する流体シール構造を示す。
【図11】本発明の第5実施例を示すメタルタッチ部の要部断面図である。
【図12】本発明の第6実施例を示すメタルタッチ部の要部断面図である。
【図13】従来技術の流体シール構造の断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 翼環
1a 翼環側壁
2 車室
2a 車室側壁
4 リング溝
5 シール部材
6 突起部
7 流体シール構造
8 圧力供給孔(圧力供給溝)
9 接着剤
10 内周突部
11 外周突部
11a メタルタッチ面
12 テーパー面
21 シール片
22 ソケット
23 第1リング
24 第2リング
25 中間材
26 当板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱機関の第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、
該シール構造は、前記第2のケース部材との接合面に形成される環状のリング溝を備えた第1のケース部材と、前記第1のケース部材の対向面を形成する第2のケース部材と、 前記リング溝内に設置される柔構造で前記第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料からなるシール部材と、から構成され、前記リング溝は、内周面入口側に前記シール部材を係止する環状の突起部を備えることを特徴とする熱機関の流体シール構造。
【請求項2】
前記リング溝の下部に、該リング溝の下面と前記第1のケース部材と第2のケース部材との間の隙間とを連通する圧力供給手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項3】
前記シール部材は、ピッチ円径が小径の第1リング及び該第1リングに平行に配置されたピッチ円径が大径の第2リング並びにこれらを連結する板状の中間材から構成されるシール片が複数連結されて、ロータ軸線を含む断面視で、台形状で環状一体に形成されるとともに、前記シール部材の幅は、前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール部材の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記第1リングの内径は前記突起部の外径より小さく形成され、且つ前記第2リングが前記第1リングよりもロータ軸方向で前記リング溝内の内奥に配置されていることを特徴とする請求項1に記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項4】
前記シール部材は、前記複数のシール片を円周方向に接続するソケットと嵌合体との組み合わせにて円周方向に連結して構成されたことを特徴とする請求項3に記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項5】
前記シール部材は、前記シール片の末端に当板を備え、前記シール片は該当板を介して隣接するシール片に当接して環状で一体に形成されたことを特徴とする請求項3に記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項6】
前記シール部材は、断面形状がU字形状又はE字形状のいずれか1つの複数のシール片から構成され、前記シール片の幅は前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール片の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成されていることを特徴とする請求項2に記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項7】
前記突起部を、接着材で構成し該接着材を前記突起部と同一形態に仕上げて形成することを特徴とする請求項1または2のいずれか1つに記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項8】
熱機関の第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、前記第1のケース部材に形成された環状のリング溝に、環状のシール部材を該リング溝内で微動可能に挿入し、前記熱機関の昇温時に前記シール部材がリング溝内で移動して前記第2のケース部材のシール部に摺接して前記第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行うように構成された熱機関の流体シール構造の製作方法において、
前記シール部材に第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料を用い、常温時に、係止手段にて前記シール部材を該リング溝に係止し、熱機関の稼動時に温度上昇にともない係止手段が解除されてシール部材がリング溝内で微動可能して、前記第2のケース部材のシール部に摺接するようにしたことを特徴とする熱機関の流体シール構造の製作方法。
【請求項9】
前記係止手段として、前記リング溝内の内周面入口側に突起部を形成し、該突起部は、常温時は前記シール部材を前記リング溝内に保持し、温度上昇にともない該シール部材の係止を解除可能に構成されたことを特徴とする請求項8に記載された熱機関の流体シール構造の製作方法。
【請求項10】
前記係止手段として、接着剤で前記シール部材を前記リング溝に貼着し、前記接着剤は
前記シール部材を一定温度以下で前記リング溝内に保持し、一定温度を超えると該シール部材とリング溝との貼着が解除可能に設定されたことを特徴とする請求項8に記載された熱機関の流体シール構造の製作方法。
【請求項11】
熱機関の第1のケース部材に設けられた軸直角面と熱機関の第2のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にて流体シールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記第1のケース部材の軸方向の厚さ(A)と第2のケース部材の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成して、前記軸方向の厚さ(A)の面と軸方向の厚さ(B)の面とを圧着したことを特徴とする熱機関の流体シール構造。
【請求項12】
熱機関に用いられ、薄肉に形成された第1のケース部材と、該第1のケース部材よりも厚肉に形成された第2のケース部材との間の軸方向の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、
前記第1のケース部に設けられた軸直角面と第2のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にてシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記薄肉の第1のケース部材の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成し、該テーパー面を前記メタルタッチ面に構成して前記第2のケース部材に当接したことを特徴とする熱機関の流体シール構造。
【請求項13】
前記請求項1,2,3を併せ備えた流体シール構造を適用した蒸気タービンの流体シール構造において、前記第1のケース部材を車室に構成するとともに第2のケース部材を翼環に構成し、前記車室の内壁に環状のリング溝を設けて該リング溝内に環状のシール部材を装填して、該シール部材を前記翼環の側面に接触させて、該シール部材により前記車室と翼環間の流体シールを行うように構成されてなる、蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項14】
前記シール部材は、前記複数のシール片を円周方向に接続するソケットと嵌合体との組み合わせにて円周方向に連結して構成されたことを特徴とする請求項13に記載の蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項15】
前記シール部材は、前記シール片の末端に当板を備え、前記シール片は該当板を介して隣接するシール片に当接して環状で一体に形成されたことを特徴とする請求項13に記載の蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項16】
前記シール部材は、断面形状がU字形状又はE字形状のいずれか1つの複数のシール片から構成され、前記シール片の幅は前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール片の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成されていることを特徴とする請求項13に記載の蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項17】
請求項11からなる流体シール構造を用いた蒸気タービンの流体シール構造において、
前記第1のケース部材を蒸気タービンの車室に構成するとともに第2のケース部材を蒸気タービンの翼環に構成し、前記車室に設けられた軸直角面と翼環に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にて流体シールを行うように構成され、前記車室の軸方向の厚さ(A)と翼環の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成して、前記車室の厚さ(A)の面と翼環の厚さ(B)の面とを圧着したことを特徴とする蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項18】
請求項12からなる流体シール構造を用いた蒸気タービンの流体シール構造において、
薄肉に形成された第1のケース部材を蒸気タービンの車室に構成するとともに厚肉に形成された第2のケース部材を蒸気タービンの翼環に構成して、前記車室に設けられた軸直角面と翼環に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にてシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、
前記薄肉の車室の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成し、該テーパー面を前記メタルタッチ面に構成して前記翼環に当接したことを特徴とする蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項1】
熱機関の第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、
該シール構造は、前記第2のケース部材との接合面に形成される環状のリング溝を備えた第1のケース部材と、前記第1のケース部材の対向面を形成する第2のケース部材と、 前記リング溝内に設置される柔構造で前記第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料からなるシール部材と、から構成され、前記リング溝は、内周面入口側に前記シール部材を係止する環状の突起部を備えることを特徴とする熱機関の流体シール構造。
【請求項2】
前記リング溝の下部に、該リング溝の下面と前記第1のケース部材と第2のケース部材との間の隙間とを連通する圧力供給手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項3】
前記シール部材は、ピッチ円径が小径の第1リング及び該第1リングに平行に配置されたピッチ円径が大径の第2リング並びにこれらを連結する板状の中間材から構成されるシール片が複数連結されて、ロータ軸線を含む断面視で、台形状で環状一体に形成されるとともに、前記シール部材の幅は、前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール部材の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記第1リングの内径は前記突起部の外径より小さく形成され、且つ前記第2リングが前記第1リングよりもロータ軸方向で前記リング溝内の内奥に配置されていることを特徴とする請求項1に記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項4】
前記シール部材は、前記複数のシール片を円周方向に接続するソケットと嵌合体との組み合わせにて円周方向に連結して構成されたことを特徴とする請求項3に記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項5】
前記シール部材は、前記シール片の末端に当板を備え、前記シール片は該当板を介して隣接するシール片に当接して環状で一体に形成されたことを特徴とする請求項3に記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項6】
前記シール部材は、断面形状がU字形状又はE字形状のいずれか1つの複数のシール片から構成され、前記シール片の幅は前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール片の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成されていることを特徴とする請求項2に記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項7】
前記突起部を、接着材で構成し該接着材を前記突起部と同一形態に仕上げて形成することを特徴とする請求項1または2のいずれか1つに記載された熱機関の流体シール構造。
【請求項8】
熱機関の第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、前記第1のケース部材に形成された環状のリング溝に、環状のシール部材を該リング溝内で微動可能に挿入し、前記熱機関の昇温時に前記シール部材がリング溝内で移動して前記第2のケース部材のシール部に摺接して前記第1のケース部材と第2のケース部材との間の流体シールを行うように構成された熱機関の流体シール構造の製作方法において、
前記シール部材に第1のケース部材よりも線膨張率の大きい材料を用い、常温時に、係止手段にて前記シール部材を該リング溝に係止し、熱機関の稼動時に温度上昇にともない係止手段が解除されてシール部材がリング溝内で微動可能して、前記第2のケース部材のシール部に摺接するようにしたことを特徴とする熱機関の流体シール構造の製作方法。
【請求項9】
前記係止手段として、前記リング溝内の内周面入口側に突起部を形成し、該突起部は、常温時は前記シール部材を前記リング溝内に保持し、温度上昇にともない該シール部材の係止を解除可能に構成されたことを特徴とする請求項8に記載された熱機関の流体シール構造の製作方法。
【請求項10】
前記係止手段として、接着剤で前記シール部材を前記リング溝に貼着し、前記接着剤は
前記シール部材を一定温度以下で前記リング溝内に保持し、一定温度を超えると該シール部材とリング溝との貼着が解除可能に設定されたことを特徴とする請求項8に記載された熱機関の流体シール構造の製作方法。
【請求項11】
熱機関の第1のケース部材に設けられた軸直角面と熱機関の第2のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にて流体シールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記第1のケース部材の軸方向の厚さ(A)と第2のケース部材の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成して、前記軸方向の厚さ(A)の面と軸方向の厚さ(B)の面とを圧着したことを特徴とする熱機関の流体シール構造。
【請求項12】
熱機関に用いられ、薄肉に形成された第1のケース部材と、該第1のケース部材よりも厚肉に形成された第2のケース部材との間の軸方向の流体シールを行う熱機関の流体シール構造であって、
前記第1のケース部に設けられた軸直角面と第2のケース部材に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にてシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、前記薄肉の第1のケース部材の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成し、該テーパー面を前記メタルタッチ面に構成して前記第2のケース部材に当接したことを特徴とする熱機関の流体シール構造。
【請求項13】
前記請求項1,2,3を併せ備えた流体シール構造を適用した蒸気タービンの流体シール構造において、前記第1のケース部材を車室に構成するとともに第2のケース部材を翼環に構成し、前記車室の内壁に環状のリング溝を設けて該リング溝内に環状のシール部材を装填して、該シール部材を前記翼環の側面に接触させて、該シール部材により前記車室と翼環間の流体シールを行うように構成されてなる、蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項14】
前記シール部材は、前記複数のシール片を円周方向に接続するソケットと嵌合体との組み合わせにて円周方向に連結して構成されたことを特徴とする請求項13に記載の蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項15】
前記シール部材は、前記シール片の末端に当板を備え、前記シール片は該当板を介して隣接するシール片に当接して環状で一体に形成されたことを特徴とする請求項13に記載の蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項16】
前記シール部材は、断面形状がU字形状又はE字形状のいずれか1つの複数のシール片から構成され、前記シール片の幅は前記リング溝の幅より前記突起部高さだけ小さく形成され、前記シール片の厚さは前記リング溝の深さより大きく形成され、前記シール片の内径は前記突起部の外径より小さく形成されていることを特徴とする請求項13に記載の蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項17】
請求項11からなる流体シール構造を用いた蒸気タービンの流体シール構造において、
前記第1のケース部材を蒸気タービンの車室に構成するとともに第2のケース部材を蒸気タービンの翼環に構成し、前記車室に設けられた軸直角面と翼環に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にて流体シールを行うように構成され、前記車室の軸方向の厚さ(A)と翼環の軸方向の厚さ(B)との関係をB>Aに構成して、前記車室の厚さ(A)の面と翼環の厚さ(B)の面とを圧着したことを特徴とする蒸気タービンの流体シール構造。
【請求項18】
請求項12からなる流体シール構造を用いた蒸気タービンの流体シール構造において、
薄肉に形成された第1のケース部材を蒸気タービンの車室に構成するとともに厚肉に形成された第2のケース部材を蒸気タービンの翼環に構成して、前記車室に設けられた軸直角面と翼環に設けられた軸直角面とを摺接して、メタルタッチ面にてシールを行うように構成された熱機関の流体シール構造において、
前記薄肉の車室の軸直角面を内周方向から外周方向に厚いテーパー面に形成し、該テーパー面を前記メタルタッチ面に構成して前記翼環に当接したことを特徴とする蒸気タービンの流体シール構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−144707(P2010−144707A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326536(P2008−326536)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]