説明

蒸気タービン制御装置

【課題】発電プラントのメンテナンスに伴う各機器の交換や経年劣化等による制御特性の変化を容易に調整することができるようにすること。
【解決手段】圧力制御装置9A、圧力制御調整装置11、蒸気弁制御装置12を備えたタービン制御装置8において、タービン制御装置8は、一次遅れ要素を備えた周波数特性調整装置20を新たに設け、この一次遅れ要素の時定数を調整することにより、蒸気圧力信号の周波数特性変化を打ち消すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタービン制御装置に係り、特に発電プラントのメンテナンスに伴う各機器の交換や経年劣化等による制御特性の変化を容易に調整することができる蒸気タービン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は原子力発電所等の発電プラントに設けられた従来のタービン制御装置の制御系統図であり、一点鎖線枠で囲んだ部分がタービン制御装置8である。
図6において、1は原子力発電所における蒸気発生器であり、ここで発生した蒸気は主蒸気系配管2に設けられた主蒸気止め弁3および蒸気加減弁4を経て蒸気タービン5に導入される。周知のように、主蒸気止め弁3はタービン停止時には全閉し、タービン運転中は全開する。一方、蒸気加減弁4は後述するタービン制御装置8から出力される開度指令信号V12に基づいて弁開度が調整され、蒸気タービン5へ流入する蒸気量を調節する。
【0003】
蒸気タービン5は蒸気流入量に応じたタービン出力を発生し、タービン回転軸に直結された発電機6を駆動して発電を行う。蒸気タービン5に流入して仕事を終えた蒸気は復水器で復水されたあと、図示していない低圧給水過熱器および高圧給水過熱器を経て再び蒸気発生器1に戻るようになっている。
【0004】
前記主蒸気止め弁3の入口側、すなわち、蒸気タービン5の入口側には、同じ型式の3台の蒸気圧力検出器7A、7Bおよび7Cを設置しており、これら蒸気圧力検出器7A、7Bおよび7Cで検出した蒸気圧力信号A1、B1およびC1を一点鎖線枠で示したタービン制御装置8に導入している。このタービン制御装置8は、蒸気圧力信号A1、B1およびC1を同じ構成の3台の圧力制御装置9A、9Bおよび9Cにそれぞれ個々に入力している。
【0005】
この圧力制御装置9A、9Bおよび9Cは、蒸気圧力検出器7A、7Bおよび7Cで検出した蒸気圧力信号A1、B1およびC1が所定の圧力となるように制御を行うものであり、その内部構成については図示していないが、圧力制御装置9Aを代表して概要を説明すると、蒸気圧力検出器7Aによって検出された蒸気圧力信号A1と、図示しない圧力設定器によって設定された圧力設定値とから圧力偏差信号を演算し、その圧力偏差信号を圧力制御信号V9Aとして出力するように構成されている。圧力制御装置9B、9Cについても同様にして圧力制御信号V9B、V9Cを出力する。
【0006】
そして、これらの圧力制御装置9A、9Bおよび9Cからそれぞれ出力された圧力制御信号V9A、V9BおよびV9Cは、次段の中間値選択器10に入力されて、入力された3信号の内の中間値の信号をV10として出力する。
【0007】
以上のように同じ型式の蒸気圧力検出器7A〜7Cや同じ構成の圧力制御装置9A〜9Cをそれぞれ3台ずつ設置し、さらに中間値選択器10を設けている理由は、単一不良時にも残りの検出器で正常に検出して制御の信頼性を確保するためである(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
中間値選択器10から出力された中間値信号V10は、圧力制御調整装置11に入力される。この圧力制御調整装置11は、主蒸気止め弁3の入口側の圧力が一定となるために必要な演算処理を行なうもので、中間値選択器10から出力された圧力制御装置9A〜9Cの何れかの圧力制御信号を、例えば、特定周波数ゲイン減衰フィルタ(ノッチフィルタ)に入力して圧力制御信号に含まれる特定周波数を減衰させたうえで、進み遅れ補償演算を行い、さらに、所定のゲインを乗算して蒸気弁開度指令V11として蒸気弁制御装置12に出力するように構成されている。
蒸気弁制御装置12は、蒸気加減弁4の開度を調整するための開度指令信号V12を信号回路13によって蒸気加減弁4に伝達(出力)する。
【0009】
このように、従来のタービン制御装置8では、検出した蒸気圧力信号A1、B1およびC1に含まれる周波数特性の調整を圧力制御調整装置11により行なっている。ここで設定されている値は、発電プラント建設時に実機試験により決定された最適値である。発電プラントの定期検査毎に、建設時と同様の実機試験により最適値を調整する必要はなく、必要最低限の試験により調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−180188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した蒸気圧力検出器7A、7Bおよび7Cの周波数特性は、検出器の交換や経年劣化によって変化する。また、タービン制御装置8自体を交換した場合、交換の前と後では、アナログ入力特性が変化することがある。
【0012】
タービン制御装置8に設定された周波数特性は、発電プラント全体の挙動により決定されるため、従来では個別の蒸気圧力検出器の周波数特性の変化を反映できるような設定を行なうことができなかった。
【0013】
そこで本発明は、発電プラントのメンテナンスに伴う各機器の交換や経年劣化等による制御特性の変化を容易に調整することができるようにした蒸気タービン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、蒸気発生器で発生した蒸気を主蒸気系配管に設けられている主蒸気止め弁および蒸気加減弁を介して蒸気タービンに供給し発電機を駆動する発電プラントに設けられ、前記主蒸気系配管に設置された蒸気圧力検出器と、この蒸気圧力検出器により検出された蒸気圧力信号と圧力設定値との圧力偏差信号を圧力制御信号として出力する圧力制御装置と、この圧力制御信号中の特定周波数を減衰させたうえで進み遅れ補償演算を行い、さらに、ゲインを乗算して蒸気弁開度指令として出力する圧力制御調整装置と、この圧力制御調整装置から出力された蒸気弁開度指令に基づいて前記蒸気加減弁の開度を調整するための開度指令信号を出力する蒸気弁制御装置と、を備えたタービン制御装置において、前記タービン制御装置に一次遅れ要素を備えた周波数特性調整装置を設け、この一次遅れ要素の時定数を調整することにより、蒸気圧力信号の周波数特性変化を打ち消すようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発電プラントのメンテナンスに伴う各機器の交換や経年劣化等による制御特性の変化を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態1に係るタービン制御装置の系統図。
【図2】実施形態1の周波数特性調整装置の一例を示す図。
【図3】本発明の実施形態2に係るタービン制御装置の系統図。
【図4】本発明の実施形態3に係るタービン制御装置の系統図。
【図5】本発明の実施形態4に係るタービン制御装置の系統図。
【図6】従来のタービン制御系統図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図を通じて同一装置、同一部品には同一符号を付けて重複する説明は適宜省略する。
【0018】
[実施形態1]
以下、図1および図2を参照して本実施形態1に係るタービン制御装置について説明する。
本実施形態1は、図6に示した従来システムに対して二点鎖線枠で囲まれた周波数特性調整装置20を付加したことを特徴とするものであり、これ以外の装置は従来構成と同一である。
【0019】
図1において、周波数特性調整装置20は蒸気圧力検出器7A、7Bおよび7Cに対応してA系の周波数特性調整装置20A、B系周波数特性調整装置20BおよびC系周波数特性調整装置20Cを備えており、それぞれ蒸気圧力信号A1、B1およびC1を入力するように構成されている。
【0020】
これら周波数特性調整装置20A、20Bおよび20Cは、蒸気圧力検出器の交換または経年劣化、あるいはタービン制御装置自体の交換などにより変化した周波数特性を打ち消すための一巡周波数伝達関数(G)を有しており、入力された蒸気圧力信号A1、B1およびC1に、この一巡周波数伝達関数(G)を乗算した信号を蒸気圧力信号A2、B2およびC2として出力する。
【0021】
したがって、周波数特性調整装置20A、20Bおよび20Cから出力された蒸気圧力信号A2、B2およびC2は、蒸気圧力検出器の交換または経年劣化、あるいはタービン制御装置自体の交換などにより変化した周波数特性に影響されない信号になっている。
【0022】
これら周波数特性調整装置20A、20Bおよび20Cからそれぞれ出力された蒸気圧力信号A2、B2およびC2は、次段の圧力制御装置9A、9Bおよび9Cにそれぞれ入力される。
【0023】
圧力制御装置9A、9Bおよび9Cからそれぞれ出力された圧力制御信号V9A、V9BおよびV9Cは、中間値選択器10に入力されて、3信号の内の中間値の信号をV10として出力し、圧力制御調整装置11に入力する。
【0024】
図2は、周波数特性調整装置20の一例を示す構成図であり、A系周波数特性調整装置20Aを代表して図示している。
【0025】
この周波数特性調整装置20Aの一巡周波数伝達関数Gは、K/(1+Ts)で表される一次遅れ要素によって構成されており、時定数Tを調整することによって一巡周波数特性を調整することができるようになっている。なお、Kはゲイン定数、sはラプラス演算子である。
【0026】
以上述べたように、本実施形態1によれば、蒸気圧力検出器7A、7Bおよび7Cによってそれぞれ検出された蒸気圧力信号A1、B1およびC1の検出に関する特性だけを調査・比較し、その変化を打ち消す特性をタービン制御装置8に新たに設けた周波数特性調整装置20A、20Bおよび20Cに設定することにより、蒸気圧力検出器の交換または経年劣化、あるいはタービン制御装置自体の交換などがあったとしても、発電プラント建設時と同等の制御性を確保することが可能となる。
【0027】
[実施形態2]
次に、図3を参照して実施形態2に係るタービン制御装置について説明する。
本実施形態2は、図6に示した従来システムの蒸気弁制御装置12と蒸気加減弁4とを接続する信号回路13に、二点鎖線枠で囲んだテスト信号出力手段30を付加したことを特徴とするものであり、これ以外の装置は図6に示した従来構成と同一である。
【0028】
本実施形態2で付加したテスト信号出力手段30は、蒸気タービン5に導入される蒸気流量の通常運転時の変動に比べて高周波の信号をテスト信号(既知の信号)として発生するテスト信号発生器31と、このテスト信号および蒸気弁制御装置12から出力される開度指令信号V12の2つの信号を入力し、切換指令に基づいて一方を選択し出力する信号切換器32とから構成されている。
【0029】
本実施形態2において、蒸気圧力信号A1、B1およびC1の特性変化を調査する場合は、信号切換器32を操作して既知である高周波のテスト信号V31を開度指令信号V12に替えて蒸気加減弁4に出力させる。この結果、蒸気加減弁4は信号切換器32からテスト信号V31が与えられている間、弁開度の開閉を高速に繰り返すので、結果として蒸気タービン5に供給される蒸気圧力を振動させることができる。
【0030】
このように、本実施形態2によれば、蒸気弁制御装置12と蒸気加減弁4とを接続する信号回路13にテスト信号出力手段30を付加したことにより、蒸気加減弁4の弁開度を高速に繰り返し開閉させて主蒸気系の蒸気圧力を振動させ、主蒸気系の周波数特性を調査することができる。これにより、既設の発電プラントの主蒸気系の周波数特性変化の調査を容易に行なうことができる。
【0031】
[実施形態3]
以下、図4を参照して実施形態3に係るタービン制御装置について説明する。
本実施形態3は、図3の実施形態2と同様の目的を達成するための実施形態であり、図3の実施形態2との相違点は、圧力制御装置9A、9Bおよび9Cの前段に図1で付加した周波数特性調整装置20を備えている点である。
【0032】
すなわち、本実施形態3は、図1に示した実施形態1のシステムにおいて、蒸気弁制御装置12と蒸気加減弁4とを接続する信号回路13に、二点鎖線枠で囲んだテスト信号出力手段30を付加したことを特徴とするものであり、これ以外の装置は図1に示した構成と同一である。
【0033】
本実施形態3の場合も前述した実施形態2と同様に、蒸気圧力信号A1、B1およびC1の特性変化を調査する場合は、信号切換器32を操作して既知の高周波のテスト信号V31を開度指令信号V12に替えて蒸気加減弁4に出力させる。この結果、蒸気加減弁4は信号切換器32からテスト信号V31が与えられている間、弁開度の開閉を高速に繰り返すので、結果として蒸気タービン5に供給される蒸気圧力を振動させることができる。
【0034】
このように、本実施形態3によれば、蒸気弁制御装置12と蒸気加減弁4とを接続する信号回路13にテスト信号出力手段30を付加したことにより、蒸気加減弁4の弁開度を高速に繰り返し開閉させて主蒸気系の蒸気圧力を振動させ、主蒸気系の周波数特性を調査することができる。これにより、既設の発電プラントの主蒸気系の周波数特性変化の調査を容易に行なうことができる。
【0035】
[実施形態4]
以下、図5を参照して実施形態4に係るタービン制御装置について説明する。
本実施形態4は、図1の実施形態1で付加した周波数特性調整装置20の設定値を、図4の実施形態3で追加した既知のテスト信号V31により調査した結果に基づいて自動的に設定するようにしたものであり、これ以外の装置は図4の構成と同一である。なお、蒸気圧力信号A1、B1およびC1は3系統あるが、3系統とも同様なので図5ではA系の蒸気圧力信号を代表して図示している。
【0036】
本実施形態4は、信号切換器32を切換操作してテスト信号発生器31から出力されたテスト信号V31を蒸気加減弁4への開度指令信号として選択している状態において、圧力信号A2とテスト信号V31とを設定値算出手段40に入力する。
【0037】
蒸気圧力検出器7Aで検出された蒸気圧力信号A1は、蒸気加減弁4へテスト信号V31が与えられることによって変動しているため、周波数特性調整装置20Aから出力される圧力信号A2は、蒸気圧力信号A1に対応して振動している。
【0038】
設定値算出手段40は、圧力信号A2とテスト信号V31の両信号を比較し、周波数特性調整装置20Aにとって最適な設定値A5を算出し、これを周波数特性調整装置20Aに入力することによって周波数特性調整装置20の設定を自動で変更する。
【0039】
以上述べたように、本実施形態4によれば、発電プラントの特性変化を自動で検出し、自動で設定することにより、試験時間の短縮、特性変化の削減、制御品質の向上を図ることができる。
【0040】
なお、上述した実施形態1〜4では、蒸気圧力検出器から圧力制御装置までを3重化した例を説明したが、多重化は本発明の主旨ではないので、蒸気圧力検出器から圧力制御装置までを単一系にしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…蒸気発生器、2…主蒸気系配管、3…主蒸気止め弁、4…蒸気加減弁、5…タービン、6…発電機、7A,7B,7C…蒸気圧力検出器、8…タービン制御装置、9A,9B,9C…圧力制御装置、10…中間値選択器、11…圧力制御調整装置、12…蒸気弁制御装置、13…信号回路、20A,20B,20C…周波数特性調整装置、30…テスト信号出力手段、31…テスト信号発生器、32…信号切換器、40…設定値算出手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気発生器で発生した蒸気を主蒸気系配管に設けられている主蒸気止め弁および蒸気加減弁を介して蒸気タービンに供給し発電機を駆動する発電プラントに設けられ、
前記主蒸気系配管に設置された蒸気圧力検出器と、
この蒸気圧力検出器により検出された蒸気圧力信号と圧力設定値との圧力偏差信号を圧力制御信号として出力する圧力制御装置と、
この圧力制御信号中の特定周波数を減衰させたうえで進み遅れ補償演算を行い、さらに、ゲインを乗算して蒸気弁開度指令として出力する圧力制御調整装置と、
この圧力制御調整装置から出力された蒸気弁開度指令に基づいて前記蒸気加減弁の開度を調整するための開度指令信号を出力する蒸気弁制御装置と、
を備えたタービン制御装置において、
前記タービン制御装置に一次遅れ要素を備えた周波数特性調整装置を設け、この一次遅れ要素の時定数を調整することにより、蒸気圧力信号の周波数特性変化を打ち消す信号を出力するように構成されていることを特徴とするタービン制御装置。
【請求項2】
前記周波数特性調整装置は、前記蒸気圧力検出器および前記圧力制御装置間に設けたことと特徴とする請求項1記載のタービン制御装置。
【請求項3】
前記蒸気弁制御装置からの開度指令信号を前記蒸気加減弁に伝達するための信号回路に、当該開度指令信号をテスト信号に切換えて蒸気圧力信号の周波数特性を調査するためのテスト信号出力手段を設けたことを特徴とする請求項1または2記載のタービン制御装置。
【請求項4】
前記周波数特性調整装置から出力された圧力信号および前記テスト信号出力手段から出力されたテスト信号を比較して当該周波数特性調整装置の最適な設定値を算出する設定値算出手段を設け、この設定値算出手段から出力される設定値により前記周波数特性調整装置の設定を自動で変更するようにしたことを特徴とする請求項3記載のタービン制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate