蒸気タービン及び耐エロージョン性機械部品、並びに蒸気タービンの表面層形成方法
【課題】 蒸気タービンの翼面において、高い耐エロージョン性を発揮する突起形状の表面層を形成することができ、また、エロージョンが発生した場合にも該突起形状部分の耐エロージョン性皮膜再生を工数を最小限に抑えて補修することができる技術を確立する。
【解決手段】 械加工、あるいは肉盛り処理により翼面より所定形状盛り上げ形状とした蒸気タービン翼の先端前縁部に対し、Siの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下のSi表面層を形成する。
【解決手段】 械加工、あるいは肉盛り処理により翼面より所定形状盛り上げ形状とした蒸気タービン翼の先端前縁部に対し、Siの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下のSi表面層を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐エロージョン性の要求される機械部品である例えば蒸気タービン部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水滴を含む湿り蒸気などが高速で衝突する場合などに部材が侵食されるエロージョンは、蒸気タービンの翼、ポンプの配管、流体の噴射部品等で重要な問題であり、例えば特許文献1に示されるように、ろう付けや溶射などにより耐エロージョン性の高い材料の被覆処理、レーザ光照射等による硬化処理が行われている。
また、長期使用に伴いエロージョンが発生した場合には、特許文献2に示されるように、肉盛溶接などにより母材を肉盛したのち所定の補修を施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−027261号公報
【特許文献2】特開2007−182776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ろう付けにより耐エロージョン皮膜を施す場合、工数がかかること、ろう付け部には少なからずともいくつかの欠陥(気孔、溶け込み不足など)を含むことなどの問題がある。また、溶接の場合には、過度の入熱による部材の変形や強度の低下のため形状修正や熱処理が必要になったり、人手による方法のため熟練作業が必要であったり、製造プロセスが煩雑である。また、溶射の場合には、新規に製造した場合には、溶射膜がつきやすいように余熱やボンドコート処理などが必要となり、製造プロセスが煩雑である上、そもそも溶射皮膜自体の密着力が十分とは言えない。
さらにこれらの皮膜形成技術において、補修の場合にはさらに耐エロージョン皮膜を完全に除去しエロージョン発生部位を切除するなどしてから元の状態に復元するので、新規製造よりもさらに工数がかかる。
また、損傷を受けた箇所を除去して肉盛溶接で埋める手法では、補修箇所ともとの部材との境界部は耐久性に乏しくなる。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、エロージョンが発生したとしても簡便に補修できるようなタービン翼の製造方法および耐エロージョン皮膜の形成方法を得るものである。
具体的には、エロージョンが発生しやすい部位を機械加工あるいは肉盛り加工により予め周囲より盛り上げて、該盛り上げ部に放電表面処理によって耐エロージョン皮膜を形成し、エロージョンが発生した場合には、エロージョン発生部位を切除した後再度放電表面処理することで、熱処理や形状修正等のプロセスを不要としながら補修ができるようにする。また、母材の機械的強度を損なうことがない。さらに、熟練に頼るのではなく、機械により自動的に部材への処理を実施できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る蒸気タービンは、機械加工、あるいは肉盛り処理により翼面より所定形状盛り上げ形状とした蒸気タービン翼の先端前縁部に対し、Siの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下のSi表面層を形成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、Si電極を用いた放電により部材に安定して良質の皮膜を形成することができるため高い耐エロージョン性を発揮する表面層を形成することができ、エロージョンが発生した場合にも工数を最小限に抑えて補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】放電表面処理システムの説明図である。
【図2】放電表面処理における電圧、電流波形を示した図である。
【図3】放電現象を表した図である。
【図4】電極の抵抗値R、抵抗率ρ、面積S、長さLの関係を示す図である。
【図5】放電を検出できない場合の電流波形を示した図である。
【図6】Siを含む表面層の分析結果を示す図である。
【図7】耐エロージョンの評価試験の概略図である。
【図8】ステンレス基材の評価試験結果を示す図である。
【図9】ステライトの評価試験結果を示す図である。
【図10】TiC皮膜の評価試験結果を示す図である。
【図11】Si表面層の評価試験結果を示す図である。
【図12】Si表面層の評価試験結果を示す図である。
【図13】Si表面層の条件一覧表である。
【図14】Si表面層の表面写真である。
【図15】Si表面層の断面写真である。
【図16】Si表面層が破壊された様子を示した写真である。
【図17】ステライトのエロージョンの様子を示した写真である。
【図18】Si表面層の耐エロージョン特性図である。
【図19】Si表面層にクラックが進展した写真である。
【図20】Si表面層の耐エロージョン特性図である。
【図21】Si表面層の耐エロージョン特性図である。
【図22】Si表面層のX線回折像である。
【図23】蒸気タービンの動翼に対してSi表面層を形成する様子を示した図である。
【図24】蒸気タービンの動翼に対してSi表面層を形成する様子を示した図である。
【図25】蒸気タービンの動翼に対してSi表面層を形成する様子を示した図である。
【図26】蒸気タービン動翼の補修方法による補修の各過程におけるタービン動翼の断面を表す断面概略図である。
【図27】Si表面層に発生したエロージョンを補修した様子を示した写真である。
【図28】Si表面層を形成させる段部の高さの健全な下限範囲を示す図である。
【図29】Si表面層を形成させる段部の高さの健全な上限範囲を示す図である。
【図30】本発明の補修方法が適用できる曲面の一例を断面から見た図である。
【図31】本発明の補修方法が適用できる曲面の一例を断面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。
実施の形態1.
Si電極と部材との間にパルス状の放電を発生させ、部材表面に耐エロージョン性の機能を有する組織を形成する放電表面処理方法の概略を図1に示す。
図において、1は固体形状の金属シリコン(Si)電極、2は蒸気タービン翼などの処理対象である部材、3は加工液である油、4は直流電源、5は直流電源4の電圧をSi電極1と部材2との間に印加する(あるいは停止する)ためのスイッチング素子、6は電流値を制御するための電流制限抵抗、7はスイッチング素子5のオンオフを制御するための制御回路、8はSi電極1と部材2の間の電圧を検出し放電が発生したことを検出するための放電検出回路である。
なお、蒸気タービン翼などの処理対象である部材2は、例えばSUS630やSUS410J1、SUS304、SUS316といった鉄基の合金である。
【0010】
次に動作について電圧、電流波形を示した図2を用いて説明する。
制御回路7によりスイッチング素子5をオンすることで、Si電極1と部材2との間に電圧が印加される。図示しない電極送り機構により、Si電極1と部材2との間の極間距離は適切な距離(放電が発生する距離)に制御されており、しばらくするとSi電極1と部材2との間に放電が発生する。予め電流パルスの電流値ieやパルス幅te(放電持続時間)や放電休止時間t0(電圧を印加しない時間)は設定しておき、制御回路7及び電流制限抵抗6により決定される。
放電が発生すると、放電検出回路8により、Si電極1と部材2との間の電圧の低下とタイミングから放電の発生を検出し、放電発生と検出された時から所定の時間(パルス幅te)後に制御回路7によりスイッチング素子5をオフする。
スイッチング素子5をオフした時から所定の時間(休止時間t0)後に再び制御回路7によりスイッチング素子5をオンする。
以上の動作を繰り返し行うことで連続して設定した電流波形の放電を発生させることができる。
【0011】
尚、図1では、スイッチング素子をトランジスタとして描画しているが電圧の印加を制御できる素子であれば他のものでもよい。また、電流値の制御を抵抗器で行っているように描画しているが、電流値が制御できれば他の方法でもよいことはいうまでない。
また、図1の説明では、電流パルスの波形を矩形波としているが、他の波形でももちろんよい。電流パルスの形により電極をより多く消耗させてSi材料を多く供給したり、電極の消耗を減らしたりすることで材料を有効に使用するなどのことができるが、本明細書の中では詳細は論じない。
【0012】
以上のように連続してSi電極1と部材2との間に放電を発生させることで、部材2の表面にSiを多く含んだ層を形成することができる。
しかし安定して本目的にかなう良質のSi含有層を形成するためにはどのようなSiでもよいわけではなく、また、図1の回路にも必要な条件がある。このことについて、後ほど詳細に説明する。
【0013】
まず、Si電極及び回路の条件について説明する前に、放電表面処理に関する従来技術と本実施の形態との差異を明確にするために、放電加工による皮膜成形技術について説明する。
シリコンを放電加工の電極として用い、被加工物表面にアモルファス合金層若しくは微細な結晶構造をもつ高耐蝕、高耐熱特性の表面層を形成する手法が日本国特公平5-13765号公報に開示されている。
【0014】
該公報に開示されたSi電極での放電加工は、電圧印加時間を3μs、休止時間を2μsと固定した周期的に電圧をオンオフする回路方式により、ピーク値Ipが1Aのエネルギを供給する手法である。
そのため、電圧を印加している3μsの期間において、放電が電圧パルスのどこで発生するかは全て異なり、実際の放電継続時間である電流が流れる電流パルス幅が逐次変化し、安定した皮膜形成は難しくなる。
【0015】
例えば、図3に例示する如く、周期的に電圧をオンオフする回路方式の電源では、電圧波形、電流波形が変化し、パルス毎のエネルギが異なる現象が生じ、電極材料であるSiを部材に供給する量、および、部材の表面を溶融させ表面層を作るエネルギがばらばらになるため、安定した処理が困難になる。
なお、図では、放電の電圧は一定、電流も一定としているが、実際には電圧は変動するし、電流も変動する。また、Siのような高抵抗の材料を電極とした場合には、Siでの電圧降下分も含んだ電圧になるため、電圧は高く、また、変動も大きくなる。
【0016】
次に、該公報が上述のように周期的に電圧をオンオフしなければならなかった理由について説明する。
該公報では、固有抵抗値0.01Ωcm程度の高抵抗材料であるシリコンを用い、非常に小さな電流パルスの条件を使用している。
そのため、放電のアーク電位を検出することで放電発生を検出する従来の制御方式では、電極が高抵抗材料である場合の放電発生時には、Si電極に電流が流れた場合の電圧降下の電圧が放電のアーク電位に加わった値となり、電圧降下の電圧が高い場合には、放電が発生しているにもかかわらず、回路は放電が発生したと認識できないからである。
【0017】
また、従来の放電加工によるシリコン皮膜は、処理が大きくばらつき、安定してできないといった問題もあった。
この問題もSiが高抵抗であることに起因している。
例えば、図4に示すように電極の抵抗値Rは抵抗率をρ、面積をS、長さをLとすると、R=ρ・L/Sと表される。
しかし電極への給電の方法、すなわち、電極の保持方法により、ρが大きい場合にはRの値は大きくばらつくことになってしまう。
従来では、ρ=0.01Ωcmのシリコンを電極として使用しているが、これくらいの高抵抗の材料の場合には、無条件で処理ができるわけではない。例えば、Si電極が長く、一方の端をつかんで給電する場合には、電極が長い場合には、電極の抵抗が高く、短くなるに従い抵抗が低くなる。電極が長く抵抗が高い場合には、上述のように放電を検出できず、異常なパルスが発生する確率も高くなるし、異常が発生しない場合でも抵抗が高いため、放電の電流値が低くなる。
【0018】
発明者らの研究では、ρ=0.01Ωcm程度の抵抗値のシリコンを電極として使用する場合、電極長さが数10mm程度以上になると放電が発生した場合の電流による電極での電圧降下が大きくなり異常な放電が発生し正常な表面層の形成が困難であったとなる場合があった。
また、このような異常な放電が起きる条件は、ほぼ、給電位置と放電の位置、すなわち、電極の長さによって決まり、電極の面積(太さ)にはあまり関係ないことがわかった。
これは、電流が電極内を流れる際に電極の断面全体を均一に流れるのではなく、ある細い経路を流れるからであると推測できる。したがって、0.01Ωcm以上の抵抗率のシリコンを電極として用いても放電が発生する位置と給電点を近くすれば安定した放電を発生させることは可能になる。例えば、1mm程度の板状のシリコンを金属に接合して給電すれば、抵抗値が0.05Ωcm程度でも安定した放電は可能であった。しかし、0.01Ωcmの電極でも数10mm程度以上、例えば100mm程度の長さになると、異常な放電が発生する場合があり、安定した処理は困難であった。
【0019】
以上の議論のように発明者らの実験から以下のことが明らかとなった。
・シリコンを電極として油中でのパルス放電を利用して部材の表面にSiを含む表面層を、工業的に使用に耐えるように10μm程度の厚みで高速に形成するためには、抵抗の低いSiを用い、図1、図2に示したような放電のパルス幅(放電電流パルス)を制御(ほぼ同じパルス幅にそろえる)する方式の回路を使用しなければならない。
【0020】
・シリコンを電極として部材表面に10μm程度の表面層を形成するためには、抵抗値(比抵抗)は低い方がよい。工業的な実用を考慮し、電極の長さが100mm程度以上でも使用する場合を考えるとρが0.005Ωcm以下であることが望ましい。Siの抵抗値を下げるには、他の元素をドーピングするなど、いわゆる不純物の濃度を増せばよい。
【0021】
・ρが0.005Ωcm以上であっても、給電点と放電位置が近い場合には、安定した処理が可能である。その際の指標は、ρが0.005Ωcm以下の場合も含めて以下のようにすればよい。
すなわち、極間に印加する電圧が低下したことにより放電が発生したと認識し、その放電が発生したと認識した時点から所定の時間(パルス幅te)経過した後に電圧の印加を停止(すなわち放電を停止)させる電源により、Siを電極として部材表面にSiを含む表面層を形成する際に、放電が発生した際の抵抗体であるSi電極での電圧降下を含んだ極間電圧が、放電検出レベルよりも低くなる状態で処理を行えばよい。
【0022】
一般的にアークの電位は25V〜30V程度であるが、放電検出レベルの電圧は、電源電圧よりも低く、アークの電位よりも高く設定すればよい。しかし、放電検出レベルを低く設定すれば、Siの抵抗値は低くしなければ放電が発生しても放電が発生したと認識できず、図5に示したような異常な長いパルスが生じてしまう危険が増える。
放電検出レベルを高く設定すれば、Siの抵抗がやや高くても放電が発生した場合には放電検出レベルを下回りやすくなる。すなわち、Siの抵抗値が低い場合には、電極が長くともよく、Siの抵抗値が高い場合には、Siの長さを短くして、放電が発生した場合の極間電圧が放電検出レベルよりも低くなるようにすればよい。放電検出レベルは、電源電圧よりも低く、アークの電位よりも高く設定すればよいが、以上の説明から、電源電圧よりもわずかに低いレベルに設定するのがよい。
発明者らの実験では、電源電圧よりも10V〜30V程度低い値に設定することが実用上もっとも汎用性があることがわかった。より厳密には、10V〜20V程度電源電圧よりも低い値とするのが使用できるSiにも幅ができて都合がよかった。
【0023】
以上のような条件を満たすことで、高抵抗材料であるSiを電極として用いて、自在な放電パルスを安定して発生させることができ、Siを含む表面層を部材に形成することができる。
【0024】
さて、以上のようなSiを含む表面層ができるようになり、その性質を調べたところ以下のようなことがわかってきた。
図6はSiを含む表面層の分析結果である。上段左写真がSi表面層断面のSEM写真、上段中がSiの面分析結果、上段右はCrの面分析結果、下段左はFeの面分析結果、下段右(中)はNiの面分析結果である。
また、この結果からある程度の厚みがある表面層になっているが、Si表面層はSiが母材の上にのっているのではなく、Siが母材と一体化しており、母材にSiが高濃度で浸透したような状態の表面層になっていることがわかる。この表面層はSiの含有量を増した鉄基金属組織であり、被膜という表現は適切ではないため、以下簡単のため、Si表面層と呼ぶことにする。なお、この表面層は、成分分析により母材よりわずかでもSi量が増加した部分を、表面層と定義することとする。
このような状態であるので、表面層は他の表面処理方法とは異なり被膜が剥離することはない。この表面層について調べた結果、ある条件を満たす場合には極めて高い耐エロージョン性があることがわかった。エロージョンとは、部材に水などがあたり浸食する現象であり、水や蒸気の通る配管部品、あるいは、蒸気タービンの動翼などの故障の原因となる現象である。耐エロージョンのための技術としては、前述のように様々な先行技術があるが、それぞれが問題を有している。
【0025】
ここでまず、所定の条件を満たすSi表面層の高い耐エロージョン性を示す実験結果について説明する。所定の条件については後述する。
本実施の形態の耐エロージョン性能について以下に試験結果を説明する。
図7は耐エロージョンの評価として試験片にウォータージェットを当てて浸食の様子を比較した試験の概略である。
ウォータージェットを200MPaの圧力で当てた。試験片としては、1)ステンレス基材、2)ステライト(一般的に、耐エロージョン用途に使用される材料)、3)放電によるTiC皮膜、4)本発明によるSiの多い表面層をステンレスに形成したもの、の4種類を使用した。
3)の皮膜は、国際公開番号WO01/005545に開示されている方法により形成したTiC皮膜であり、高い硬さを持っている被膜である。
それぞれの試験片に10秒間ウォータージェットを当て、試験片の浸食をレーザー顕微鏡により測定した。
【0026】
図8は1)の結果、図9は2)の結果、図10は3)の結果、図11は4)すなわち本実施の形態による表面層の場合の結果である。
図8に示される如く、ステンレス基材では10秒間ウォータージェットを当てた場合に約100μmの深さまで浸食されている。
それに対し、図9に示される如く、ステライト材では、浸食の様子が異なるものの、深さは60〜70μm程度であり、ステライト材での耐エロージョン性がある程度確認できた。
図10は、硬さの非常に高いTiC被膜の結果であるが、約100μmの深さまで浸食されており、耐エロージョンが表面の硬さだけによるのではないことがわかる結果となった。
【0027】
一方、図11は本実施の形態によるSiの表面層の場合の結果であるが、ほとんど浸食されていないことがわかる。
この表面層の硬さは約800HV程度(表面層の厚みが薄いため荷重10gとしてマイクロビッカース硬さ計で測定した。硬さの範囲は、おおよそ600〜1100Hvの範囲であった)であり、1)に示されるステンレス基材(350Hv程度)や、2)に示されるステライト材(420Hv程度)に比べると高いものの、3)に示されるTiC皮膜(約1500Hv)に比べると硬さは低い。
すなわち、耐エロージョン性は硬さだけでなく、他の性質も合わせた複合的な効果であることがわかる。
【0028】
図10では、硬い被膜であるにもかかわらず、えぐり取られたようにみえることから、表面だけ硬い場合でも表面に靭性がない薄い被膜の場合にはウォータージェットの衝撃で破壊されてしまうと推察される。
それに対して本実施の形態における4)の被膜は別の試験により靭性があり、変形にも耐えられる表面になっており、その点が高い耐エロージョン性を示す原因であると推察している。実験的には、薄板表面にTiC皮膜とSi表面層を形成し、折り曲げ試験を行なった場合、TiCにはクラックがすぐに入るが、Si表面層には入りにくかった。
【0029】
4)の表面層は厚さ5μm程度の厚さで試験しているが、被膜が薄い場合にはやはり強度が十分ではなく浸食がおきやすくなることが確認された。
先行技術である日本国特公平5−13765号公報では、Siの被膜について研究され、高い耐食性は明らかとされたにもかかわらず耐エロージョン性については発見できなかったのは表面層を厚くできなかったことが大きな原因の1つであると推察できる。
耐エロージョンの場合には、水などのエロージョンの原因となる物質の衝突する速度にもよるが、5μm以上の表面層のあることが望ましい。もちろん衝突する物質の速度が遅い場合には2〜3μm以上であれば十分効果を発揮する場合もある。
【0030】
4)に示されるSiの表面層に対する試験ではほとんど浸食が確認できなかったので、さらにSiの表面層に対する試験を延長して60秒間連続してウォータージェットを当てた結果を図12に示す。
ウォータージェットが当たった場所が少し磨かれた状態になり判別はできるが、ほとんど磨耗はしていないことがわかる。
以上より、本実施の形態の表面層の高い耐エロージョン性が確認できた。
【0031】
以上の結果を踏まえ、蒸気タービンの用途に適切な条件を見出すための実験を行った。図13に示した各条件での被膜にウォータージェットを当てて浸食の様子を調べた。
図13には、各処理条件に対し、その条件の放電パルスのエネルギに相当する値である放電パルスの電流値の時間積分の値(A・μs)(矩形波であれば、電流値ie×パルス幅te)、その処理条件でのSi表面層の厚み、Si表面層のクラックの有無を示している。
処理条件は、横軸に電流値ie、縦軸にパルス幅teとして、その値の矩形波の電流パルスを使用した。この試験に使用した基材はSUS630である。
Si電極はρ=0.01Ωcmのものを使用し、放電パルスが正常に発生する範囲のサイズの電極を作成し、試験を行なった。
【0032】
図より、Si表面層の形成条件の1つとして、クラックの有無について見ることができる。クラックの有無は放電パルスのエネルギと相関が強く、放電パルスのエネルギ相当量である放電電流の時間積分値が80A・μs以下の範囲にあることがクラックのないSi表面層を形成するための条件であることがわかる。
【0033】
もちろん加工条件によりクラックが入るか入らないかは、基材にも多少は影響を受ける。
例えばステンレス鋼と呼ばれる材料の中でも、SUS304のような固溶体である材料は比較的クラックが入りにくく、SUS630のような析出硬化型の材料では若干クラックが入りやすい傾向がある。蒸気タービンには一般的にSUS630等の析出硬化型のステンレス鋼が用いられるので、クラックの入らない望ましい範囲はSUS304のようなオーステナイト系のステンレス鋼よりは狭くなる。
【0034】
図13より、Si表面層の形成条件の他の1つとしてSi表面層の厚みがある。
図13からわかるように、Si表面層の厚みも放電パルスのエネルギ相当量である放電電流の時間積分値と相関があり、放電電流の時間積分値が小さいと厚みが小さくなり、放電電流の時間積分値が大きいと厚みも大きくなることがわかる。
ここで言うところの厚みはすなわち放電のエネルギで溶融し、電極成分であるSiが進入した範囲のことを言っている。
熱の影響の範囲は放電パルスのエネルギの大きさ相当量である放電電流の時間積分値の大きさで決まるが、進入するSiの量は放電の発生回数も影響する。放電が少ない場合には当然のことながらSiが十分に進入できないので、Si表面層のSiの量は少なくなる。逆に十分以上に放電が発生してもSi表面層のSi量はある値で飽和し、それ以上は増加しなくなる。
Si量が少ない場合には、後述するようなSi表面層の効果は十分に得られなくなる場合がある。Si量は、十分にSi表面層にSiが入った場合で、3〜11wt%であった。より安定して形成したSi表面層では6〜9wt%であった。ここで言うSi量は、エネルギ分散型X線分光分析法(EDX)により測定した値であり、測定条件は、加速電圧15.0kV、照射電流1.0nAである。またSi量は、表面層の中でほぼ最大の値を示した部分の数値である。
【0035】
Si表面層のSi量は6〜9wt%が最適であり、この範囲では、処理した面が平滑であり、エロージョンの起点となるような面の荒れがほとんどない状態になる。Siが適量表面に入ることで、放電により溶融した基材材料と、電極のSiの材料が平滑に凝固することができる。Si量が少なくなると溶融した材料を平滑にする働きが少なくなり3wt%を下回ると、放電により溶融し、凝固した材料が固まる際の凹凸部がより目立つようになり、水滴などが衝突したときにダメージの起点になる部分ができ、耐エロージョン性が低下することがわかった。
逆にSi量を多くするには、パルス幅teを長くすることが必要となり、パルス幅が長くなるとその条件により面の凹凸がやはり大きくなることがわかった。
Si量を11wt%以上にしようとすると面の凹凸が大きくやはりダメージの起点になる部分が増えることがわかった。
以上より、Si表面層のSi量は3〜11wt%、より望ましくは6〜9wt%であることがわかった。以上のような効果が得られる範囲のSi表面層では硬さが600〜1100Hvであった。
【0036】
後述の段落0042でも触れるが、本実施の形態により処理されたSi表面層はアモルファス構造を有しているため耐エロージョン性が高くなる。ただし、アモルファス構造を有しているだけでは耐エロージョン性の確保は不十分で、上述の通り、表面粗さも重要な要素となる。発明者らの検討により、本発明の耐エロージョン性と表面粗さの関係を調査した結果、表面粗さが小さくなるほど耐エロージョン性が高くなることがわかっている。蒸気タービンの翼の表面粗さは10〜20μmであることが知られている。そこで、Si表面層を形成させる基材の表面粗さと、その表面にSi量が3〜11wt%となるように形成したSi表面層の上述の耐エロージョン性評価を行ったところ、Rz(最大高さ)が20μm以下の場合に耐エロージョン性が良好であることが確認された。信頼性の観点では、Rz8μm以下であるとより好ましい。
説明が後になったが、表面粗さの測定方法は次の通りである。測定装置はTaylorHobson製フォームタリサーフを用い、スタンダードのスタイラスで、測定長さを4.8mm、高域カットオプ長0.8mm、バンド幅比100:1、フィルタタイプをガウシアンとして測定した。測定した値はJISのB0601:2001に準拠した。
【0037】
Si表面層のSi量が面の表面粗さに影響する点について述べたが、その一例を図14、図15に示す。
Si電極での同一処理条件での処理を時間毎に変えて行い、Si表面層の表面(図14)、及び、Si表面層の断面(図15)の様子を観察したものである。
すべての処理を処理条件一定で行なっているので、処理条件はすなわち発生した放電の回数の比とほぼ同じと考えてよい。すなわち、処理時間が短い場合には放電回数が少なく、処理時間が長い場合には放電の回数が多いことになる。(ただし、処理時間は休止時間などの条件により変わるため、同一放電パルス数を発生させるためには、休止時間が変化すれば必要な処理時間はかわる。)
図に示したSi表面層の処理時間は3分、4分、6分、8分である。図から以下のことが言える。
処理時間が短い場合(3分)ではまだ面の凹凸が多く、表面に小さな突起状の部分が存在するのが観察される。(図示は省略するが、より短いとさらに突起状の部分が多く、処理時間3分程度で突起が目立たなくなる。)
処理時間を増していくと、これらの凹凸、突起が少なくなり平滑になっていく様子がわかる。
一方断面写真を見ると、処理時間3分から8分までの断面で、Si表面層の厚みはほとんど変化のないことがわかる。それぞれの被膜のSi量を分析すると、処理時間3分の表面層が約3wt%、処理時間4分の表面層が約6wt%、処理時間6分の表面層が約8wt%、処理時間8分の被膜が約6wt%であった。処理時間が短い場合にはSiが十分に表面層に入っていないが、ある程度処理時間が経過(この条件では4分)するとSiがほぼ十分に入り、面が平滑になることがわかった。以上より、Siが少ないと面の平滑性が悪く、3wt%以上は必要であり、より望ましくは6wt%以上必要なことがわかる。
【0038】
説明が後になったが、Si表面層の性能について以下に論じる。
なお、エロージョンには大きく2つのモードがあり、1つは水の衝撃で大きく抉り取られるモード、もう1つは水が強く当たり表面を流れる際に表面を引っかき削りとるモードである。
図16は厚さ3μmのSi表面層にウォータージェットを200MPaで60秒当てたときにSi表面層が破壊された結果である。細かく剥ぎ取られたような痕は見えないものの、大きく抉り取られるように破壊されていることがわかる。これは、水の衝突により擦り取られた傷ではなく、ウォータージェットで大量の水を当てているための衝撃にSi表面層が耐えられずに破壊された結果であると考えられる。すなわち、Si表面層が4μm以下と薄い場合には、水が強く当たり表面を流れる際に表面を引っかき削りとるモードに対しては効果があるが、水の衝撃で大きく抉り取られるモードに対しては、効果が少ないということを示している。
また、図17は耐エロージョン性が高いとされる材料であるステライトNo6単体であり、90MPaのウォータージェットを60秒当てた場合の結果である。図では、水が強く当たり表面を流れる際に表面を引っかき削りとるモードを示している。
【0039】
次に、Si表面層の厚さと耐エロージョン性との関係を図18に示す。
図に示されるように、Si表面層の厚さが4μm以下では蒸気タービンで水滴がタービン翼に衝突する速度相当である音速程度の速度でウォータージェットを当てた場合には、Si表面層が薄いと被膜が耐えられず、表面が破壊される現象が高い確率で発生することがわかった。
Si表面層の厚みが薄いと衝撃に弱く、厚いと衝撃に強い理由は以下のように推察している。すなわち、Si表面層が薄い場合には、衝撃を受けていると歪が基材に徐々に蓄積され最後に母材の粒界から破壊が発生するが、Si表面層が厚い場合には、歪が母材に達しにくく基材が守られる一方で、Si表面層は非晶質に近い組織であるため粒界がなく粒界での破壊に至らないということである。
この観点で、Si表面層を厚くするためには、放電パルスのエネルギを大きくする必要があり、5μm以上にするためには、放電パルスのエネルギは30A・μs以上である必要があることがわかった。
【0040】
以上のようにSi表面層の膜厚を厚くすることで耐エロージョン性を上げることができるが、一方で、膜厚を厚くすることに伴う問題もあり、そのことが原因で耐エロージョン性を悪化させることがある。前述のように、Si表面層を厚くするためには、放電パルスのエネルギを大きくする必要があるが、放電のエネルギを大きくするに従い、熱の影響も大きくなり、表面にクラックが発生するようになる。クラックは、放電パルスのエネルギが大きくなるほど入りやすくなり、前述のように、80A・μs以上のパルスで処理した場合には表面にクラックが入るようになる。
表面にクラックが入ると耐エロージョン性が著しく低下することがわかった。図19はウォータージェットを当てることでクラックが進展した様子を示している。さらに継続するとある範囲で大きく被膜が破壊される。80A・μsのエネルギのパルス条件で処理した場合に膜厚は10μm程度になり、これが事実上の耐エロージョン用途のSi表面層の上限値になることがわかった。
クラックの観点で、Si表面層の膜厚と耐エロージョン性との関係を図示すると、図20のようになる。図18と図20をあわせると、Si表面層の膜厚と耐エロージョン性との関係は図21のようになることがわかった。
【0041】
以上をまとめると次のようになる。耐エロージョン性を有するSi表面層を形成するためには、Si表面層を5μm以上にすることが必要であり、そのためには放電パルスのエネルギは30A・μs以上である必要がある。
一方で、表面のクラックを防止するためには、放電パルスのエネルギは80A・μs以下であることが必要であり、そのためSi表面層は10μm以下となる。
このように、耐エロージョン性を得るには、表面粗さRzが20μm以下の基材に対して、Si表面層の層厚を5〜10μmと厚くして、Si量を3〜11wt%とする必要があることを見出した。この層厚のSi表面層を形成するための放電パルスのエネルギは30A・μs〜80A・μsであり、そのときのSi表面層硬さは、600Hv〜1100Hvの範囲であった。
【0042】
ところで、耐エロージョン性能として、本発明によるSi表面層が優れている理由については以下のように考えている。耐エロージョン性は、一般的には硬さと相関が強いといわれている。しかし、前述の評価結果からもわかるように、硬さだけでは説明のつかない点も多い。硬さ以外の要素としては、表面の性状が影響しており、粗い面より、より鏡面に近いほうが、耐エロージョン性が上がることがわかってきている。Si表面層で耐エロージョン性が優れている理由としても面の性状が挙げられる。Si表面層は硬さが600Hv〜1100Hvとある程度硬く、面の性状が滑らかな面になっている。このことが耐エロージョン性に影響していると考えている。
さらに、通常の高硬度な被膜(例えば前述のTiC被膜やPVD、CVDなどによる硬質被膜)は靭性が低く、わずかな変形により被膜が破壊されてしまうのに対し、Si表面層は靭性が高く変形を加えてもクラックなどが入りにくい性質を持っていることも高い耐エロージョン性の原因の1つであると考えている。さらに、Si表面層の結晶構造にも影響していると考えている。本発明の範囲の条件で形成したSi表面層のX線回折結果を図22に示す。図では基材のSUS630とその上にSi表面層を形成した場合の回折像を示している。Si表面層の回折像を見るとわかるように基材のピークは見えるものの、非晶質(アモルファス)組織の形成が認められる幅広いバックグラウンドが観察される。すなわちSi表面層は非晶質になっており、そのため通常の材料で発生しやすい結晶粒界での破壊がおきにくいと考えることができる。
この耐エロージョン性を有するのに必要な条件の1つとなる非晶質構造を持たせるには、Si量は1〜20wt%である。1wt%以下では非晶質構造が形成されず、20wt%以上とすると結晶化してしまう。
【0043】
さて、本実施の形態により高い耐エロージョン表面層が得られることがわかったので、実際のアプリケーション技術について説明する。
なお、これ以降のアプリケーション技術では、これまで述べてきた基本技術を実際の用途に適用する技術について述べるので、以後の説明の中では繰り返さないが、今まで説明した技術を使用することが前提であることを断っておく。
【0044】
本発明の蒸気タービン翼の製造方法並びに補修方法を説明する前に、現状の蒸気タービンの実際について説明する。前述の特許文献にも説明があるように、蒸気タービンでエロージョンが起きるのは動翼の前縁部などの部分である。現状の蒸気タービンのエロージョンが発生する部位、特に低圧タービン動翼の前縁部や先端部には、ろう付けや溶接などによってステライトなどの耐エロージョン性の材料を被覆している。ろう付けの場合、翼側のろう付けされる箇所はプレートが収まるようにくぼんでおり、このくぼみに収めるように、ステライトなどの耐エロージョン性の材料のプレートをろう付けするが、この時プレートの表面は蒸気タービン翼の面よりも0.5mm程度嵩高い状態となっている。通常このまま使用することが多い。先端部は溶接によりステライトを肉盛る場合があるが、その後は手作業により曲面が作られるため、形状はそれぞれ多少異なることがほとんどである。
【0045】
続いて、本発明の蒸気タービン翼の製造方法並びに補修方法を説明する。
図23はエロージョンが問題となることの多い蒸気タービンの動翼に対して本発明のSi表面層を形成する様子を示している。
図において、11はSi電極、12は被処理部材である蒸気タービン動翼、13は蒸気タービン動翼12の表面に形成されたSiを含む表面層である。蒸気タービン動翼12は図示しない治具により位置決めされ、固定される。なお、図では強調されているが、蒸気タービン動翼12のSiを含む表面層を形成させる面は0.5mm段状に盛り上げている。また、本実施の形態で使用した蒸気タービン翼2の材質はSUS630である。
実際の加工に際しては、根元のツリー部分を固定すれば安定して固定することができる。
放電による表面層形成の際には、放電する部分は油中に浸漬させる必要があるので、図示しない治具も油を貯めるための加工槽内に設置するのが実用上は便利である。
【0046】
図では、耐エロージョン性が要求される部位の形状に合わせたSi電極を作り、図示しない油の中で蒸気タービン動翼と対向させる。
Si電極と相手材(タービン動翼)の間に長時間放電させても相手部材(タービン動翼)にダメージを与えないので、放電により形状をならわせてもよい。溶接や溶射あるいはろう付けによる耐エロージョン材料の被覆では入熱が大きく部材が変形してしまうが、本放電表面処理による方法では、変形がほとんどないため、部材の形状に合わせた電極ができればそのまま繰り返し使用することができる。
よって、従来の方法が人手による熟練の必要な方法であったのに対し、本実施の形態では、作業を機械が行うため、人によらず安定した処理ができる。
【0047】
上記方法により、蒸気タービン動翼に自動で、耐エロージョン性の高い表面層を形成することができるが、大きな面積の電極を形成するのがやはり大変な場合もある。
そのような場合には、図24のように薄い電極を作り、電極を処理進行に従い走査することで必要な部分全体に処理を行うこともできる。図24では走査の方向が翼先端から根元に向かっているが、処理が必要な箇所を処理できれば走査方向は特に問わないのは言うまでもない。
蒸気タービン動翼の前縁部は湾曲しているため、同一の形状の電極で走査するだけでは電極形状が動翼断面の形状に合わないが、電極の厚みを薄くすることで電極の消耗を促進させ、処理面の形状にならいやすくすることができる。
【0048】
以上の方法により、蒸気タービン動翼に自動で、耐エロージョン性の高い表面層を形成することができるが、処理面積が大きい場合には、処理時間が長くかかるという問題がある。その場合には、図25のように電極を分割し、それぞれ独立に給電することで処理時間を短縮することができる。
電極と電極の間の隙間は電極を電極間の間隙部分以上、わずかに移動させながら処理することで、隙間なく被膜を形成することができる。
【0049】
通常蒸気タービン翼は、鍛造にて概略形状を作った後、切削加工などにより詳細形状を作り、その後耐エロージョン性を付与するためにろう付けや溶接の処理を行い、その後、歪とりのための処理、熱処理を経て、最後に仕上げ加工という工程で製造される。本発明の技術を用いれば、鍛造にて概略形状を作った後、切削加工などにより詳細形状を作り、仕上げ加工を行い、最後に、Si表面層を形成する処理を行なうことで、耐エロージョン性を付与することができる。工程も短縮でき、大幅なコストダウンが可能となる。また、後述するように、耐エロージョン性を付与する箇所を盛り上げる形状をもともと作っておくことで、その後の補修も損傷箇所の切除だけで補修が可能となり、補修作業も簡便になる。盛り上げる箇所は、鍛造にて概略形状を作った後、切削加工により作っても良いし、従来どおり形状の翼の上に肉盛溶接などによって盛り上げても良い。
【0050】
次に、上記の方法で作製され、補修が必要となった蒸気タービン翼についての、Siを含む表面層を形成した箇所(0.5mm段状に盛り上げた箇所)の補修方法とこの補修方法により再利用が可能となったタービン翼を、図26を用いて説明する。
図26はSiを含む表面層を形成した箇所の補修の各過程における一断面の模式図であり、図26(a)は損傷を受けたSi表面層である。図26(b)は損傷を受けた深さまで放電加工やグラインダーや研磨、研削等で段部を除去した状態を示している。グラインダーや研磨、研削の場合、Si表面層の耐エロージョン性能をより高めるためとその後のSi表面層を形成させる加工時間の短縮のため、Si表面層を形成する前の母材表面粗さは特に規定はないが、Si表面層を形成していない部分と同程度の表面粗さ以下にまで仕上げることが望ましい。これは、放電加工による表面除去についても同様である。特に本発明で使用するSi電極を用いて放電加工で除去する際は実質図26(b)の工程は省け、さらに工程数の削減することができる。図26(b)で仕上げられた面に対して、図26(c)のようにSi表面層を形成する。図26ではSi表面層よりも深い部位にまで損傷が進行している様子が描かれているが、Si表面層内で損傷がとどまっている場合には、Si電極により放電表面処理を施せば、表面がならい、補修が可能である。図27は、発生したエロージョン部を補修した一例として、前記ウォータージェット試験によって発生したクラックや損傷を上記方法で補修した様子を示している。
【0051】
上記のように、蒸気タービン翼の先端前縁部に、あらかじめ段状に盛り上げた(高くしておいた)箇所設け、本発明のような放電表面処理によるマイクロメートルオーダーの耐エロージョン性を有する層を形成させることで、段状の盛り上がりがなくなるまで簡便に(補修の工数を低減して)何度も補修することが可能となる上、肉盛溶接のように部材欠損部を埋めるような手法を不要とするため、部材の、特に部材と肉盛部境界の機械的強度の低下の心配がない。前述のように、耐エロージョン材のろう付けでは、0.5mm程度嵩高くなっているので、蒸気タービンの前縁部などの耐エロージョン被膜を施す箇所は蒸気タービン翼を製造する時点で盛り上げることは大きな問題とならない。さらにSi表面層により、ろう付けで心配となる欠陥やはく離といった問題が発生しなくなる。
【0052】
Si表面層を形成する箇所となる盛り上がり部分の高さについては、本実施の形態では0.5mmとしたが、段の高さはある程度自由で、耐エロージョン性が求められる部品の都合によるところが大きい。図28に示すように、蒸気タービンの場合、盛り上がりが0.005mmとすると、Si表面層の層厚は5〜10μm程度であるので、損傷がなかった時、ダメージのない健全なSi表面層を再度形成する際、一度しか補修ができなくなるので、これ以上の盛り上げは必要となる。また、図29に示すように、3mm以上盛り上げるとタービン中を流れる蒸気の流れを乱すため、機械としての効率が低下し、問題となる。したがって、蒸気タービン翼のSi表面層を形成する箇所の盛り上がりは、0.005mm〜3.0mmの範囲が良い。
【0053】
Si表面層を形成する面の形状は平面でなくとも良い。蒸気タービンの設計に合わせた曲面であっても、処理する際に使用するSi電極の放電面をその形状にならすか、あらかじめその形状に加工しておけばよい。補修時にSi表面層を形成する面をつくる(切除して新しい面を出す)際も同様である。盛り上がりの端部も図26では直角に表現されているが、なだらかとなっていても良い。また、蒸気タービンの先端のような複雑な曲面の場合は、例えば図30、図31に示すようにあらかじめ厚くしておけばよい。
段落0044で触れたように、蒸気タービン翼は多少形状が自由であるため、段落0052に記載の理由で、0.005mm〜3mmの範囲であれば、図30、図31に示されるように翼先端部が厚くなっても大きな問題にならない。
但し、蒸気タービン翼の自由曲面部においては、その寸法形状を考慮しなければならず、例えば径がΦ10mmの箇所に3mm程度盛り上げてしまうと曲面形状が大きく変わり、図28と同様に蒸気タービンの効率に悪い影響を及ぼしてしまうので、径の5%程度である0.500mm程度に抑えた方が良い。
【0054】
上述した段落0045〜0053では、蒸気タービン翼のSi表面層を形成させる部分を盛り上げる場合について記述したが、従来の蒸気タービン翼のように盛り上がった形状を有していないものについても同様に補修が可能である。ただし、このような部材に対する補修の場合、補修を重ねる度にSi表面層を形成する箇所がその周囲よりも落ち込むことになる。
その落ち込みは2mm以上となるとタービン中を流れる蒸気の流れが乱れ、タービンの効率が大きく低下したり、2mm以上でなくとも翼のもともとの厚さの半分以上肉薄になると翼としての機械強度が低下したりするで、エロージョンにより進行、またはその補修により落ち込んだ深さが0〜2mmまたは厚み比0.5以上の範囲であれば、このような補修方法を実施することが可能となる。
【0055】
実施の形態として、耐エロージョン部品としては蒸気タービンの動翼に適用する場合について述べたが、他にも耐エロージョン性が要求される耐エロ-ジョン部品用途には同様に適用できることは言うまでない。
例えば、配管内部の流体が強く当たる部分やキャビテーションを生じやすい形状の部分などには、同様の方法で処理することができる。このような用途には、他に燃料の噴射部品などがある。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る表面層成形方法は、耐エロ-ジョン部品への適用に有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 Si電極、2 部材、3 加工液、4 直流電源、5 スイッチング素子、6 電流制限抵抗、7 制御回路、8 放電検出回路、11 Si電極、12 蒸気タービン動翼、13 Siを含む表面層、14 Siを含む表面層に生じた損傷、15 Siを含む表面層、16 蒸気タービン動翼のSi表面層が形成される盛り上がり箇所、17 蒸気タービン動翼本体、18 損傷箇所がなくなるように切除された、蒸気タービン動翼のSi表面層が形成される盛り上がり箇所、19 新規に形成されたSiを含む表面層、20 部材、 21 肉付け部、 22 部材、 23 肉付け部、 24 部材、25 肉付け部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐エロージョン性の要求される機械部品である例えば蒸気タービン部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水滴を含む湿り蒸気などが高速で衝突する場合などに部材が侵食されるエロージョンは、蒸気タービンの翼、ポンプの配管、流体の噴射部品等で重要な問題であり、例えば特許文献1に示されるように、ろう付けや溶射などにより耐エロージョン性の高い材料の被覆処理、レーザ光照射等による硬化処理が行われている。
また、長期使用に伴いエロージョンが発生した場合には、特許文献2に示されるように、肉盛溶接などにより母材を肉盛したのち所定の補修を施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−027261号公報
【特許文献2】特開2007−182776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ろう付けにより耐エロージョン皮膜を施す場合、工数がかかること、ろう付け部には少なからずともいくつかの欠陥(気孔、溶け込み不足など)を含むことなどの問題がある。また、溶接の場合には、過度の入熱による部材の変形や強度の低下のため形状修正や熱処理が必要になったり、人手による方法のため熟練作業が必要であったり、製造プロセスが煩雑である。また、溶射の場合には、新規に製造した場合には、溶射膜がつきやすいように余熱やボンドコート処理などが必要となり、製造プロセスが煩雑である上、そもそも溶射皮膜自体の密着力が十分とは言えない。
さらにこれらの皮膜形成技術において、補修の場合にはさらに耐エロージョン皮膜を完全に除去しエロージョン発生部位を切除するなどしてから元の状態に復元するので、新規製造よりもさらに工数がかかる。
また、損傷を受けた箇所を除去して肉盛溶接で埋める手法では、補修箇所ともとの部材との境界部は耐久性に乏しくなる。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、エロージョンが発生したとしても簡便に補修できるようなタービン翼の製造方法および耐エロージョン皮膜の形成方法を得るものである。
具体的には、エロージョンが発生しやすい部位を機械加工あるいは肉盛り加工により予め周囲より盛り上げて、該盛り上げ部に放電表面処理によって耐エロージョン皮膜を形成し、エロージョンが発生した場合には、エロージョン発生部位を切除した後再度放電表面処理することで、熱処理や形状修正等のプロセスを不要としながら補修ができるようにする。また、母材の機械的強度を損なうことがない。さらに、熟練に頼るのではなく、機械により自動的に部材への処理を実施できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る蒸気タービンは、機械加工、あるいは肉盛り処理により翼面より所定形状盛り上げ形状とした蒸気タービン翼の先端前縁部に対し、Siの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下のSi表面層を形成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、Si電極を用いた放電により部材に安定して良質の皮膜を形成することができるため高い耐エロージョン性を発揮する表面層を形成することができ、エロージョンが発生した場合にも工数を最小限に抑えて補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】放電表面処理システムの説明図である。
【図2】放電表面処理における電圧、電流波形を示した図である。
【図3】放電現象を表した図である。
【図4】電極の抵抗値R、抵抗率ρ、面積S、長さLの関係を示す図である。
【図5】放電を検出できない場合の電流波形を示した図である。
【図6】Siを含む表面層の分析結果を示す図である。
【図7】耐エロージョンの評価試験の概略図である。
【図8】ステンレス基材の評価試験結果を示す図である。
【図9】ステライトの評価試験結果を示す図である。
【図10】TiC皮膜の評価試験結果を示す図である。
【図11】Si表面層の評価試験結果を示す図である。
【図12】Si表面層の評価試験結果を示す図である。
【図13】Si表面層の条件一覧表である。
【図14】Si表面層の表面写真である。
【図15】Si表面層の断面写真である。
【図16】Si表面層が破壊された様子を示した写真である。
【図17】ステライトのエロージョンの様子を示した写真である。
【図18】Si表面層の耐エロージョン特性図である。
【図19】Si表面層にクラックが進展した写真である。
【図20】Si表面層の耐エロージョン特性図である。
【図21】Si表面層の耐エロージョン特性図である。
【図22】Si表面層のX線回折像である。
【図23】蒸気タービンの動翼に対してSi表面層を形成する様子を示した図である。
【図24】蒸気タービンの動翼に対してSi表面層を形成する様子を示した図である。
【図25】蒸気タービンの動翼に対してSi表面層を形成する様子を示した図である。
【図26】蒸気タービン動翼の補修方法による補修の各過程におけるタービン動翼の断面を表す断面概略図である。
【図27】Si表面層に発生したエロージョンを補修した様子を示した写真である。
【図28】Si表面層を形成させる段部の高さの健全な下限範囲を示す図である。
【図29】Si表面層を形成させる段部の高さの健全な上限範囲を示す図である。
【図30】本発明の補修方法が適用できる曲面の一例を断面から見た図である。
【図31】本発明の補修方法が適用できる曲面の一例を断面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。
実施の形態1.
Si電極と部材との間にパルス状の放電を発生させ、部材表面に耐エロージョン性の機能を有する組織を形成する放電表面処理方法の概略を図1に示す。
図において、1は固体形状の金属シリコン(Si)電極、2は蒸気タービン翼などの処理対象である部材、3は加工液である油、4は直流電源、5は直流電源4の電圧をSi電極1と部材2との間に印加する(あるいは停止する)ためのスイッチング素子、6は電流値を制御するための電流制限抵抗、7はスイッチング素子5のオンオフを制御するための制御回路、8はSi電極1と部材2の間の電圧を検出し放電が発生したことを検出するための放電検出回路である。
なお、蒸気タービン翼などの処理対象である部材2は、例えばSUS630やSUS410J1、SUS304、SUS316といった鉄基の合金である。
【0010】
次に動作について電圧、電流波形を示した図2を用いて説明する。
制御回路7によりスイッチング素子5をオンすることで、Si電極1と部材2との間に電圧が印加される。図示しない電極送り機構により、Si電極1と部材2との間の極間距離は適切な距離(放電が発生する距離)に制御されており、しばらくするとSi電極1と部材2との間に放電が発生する。予め電流パルスの電流値ieやパルス幅te(放電持続時間)や放電休止時間t0(電圧を印加しない時間)は設定しておき、制御回路7及び電流制限抵抗6により決定される。
放電が発生すると、放電検出回路8により、Si電極1と部材2との間の電圧の低下とタイミングから放電の発生を検出し、放電発生と検出された時から所定の時間(パルス幅te)後に制御回路7によりスイッチング素子5をオフする。
スイッチング素子5をオフした時から所定の時間(休止時間t0)後に再び制御回路7によりスイッチング素子5をオンする。
以上の動作を繰り返し行うことで連続して設定した電流波形の放電を発生させることができる。
【0011】
尚、図1では、スイッチング素子をトランジスタとして描画しているが電圧の印加を制御できる素子であれば他のものでもよい。また、電流値の制御を抵抗器で行っているように描画しているが、電流値が制御できれば他の方法でもよいことはいうまでない。
また、図1の説明では、電流パルスの波形を矩形波としているが、他の波形でももちろんよい。電流パルスの形により電極をより多く消耗させてSi材料を多く供給したり、電極の消耗を減らしたりすることで材料を有効に使用するなどのことができるが、本明細書の中では詳細は論じない。
【0012】
以上のように連続してSi電極1と部材2との間に放電を発生させることで、部材2の表面にSiを多く含んだ層を形成することができる。
しかし安定して本目的にかなう良質のSi含有層を形成するためにはどのようなSiでもよいわけではなく、また、図1の回路にも必要な条件がある。このことについて、後ほど詳細に説明する。
【0013】
まず、Si電極及び回路の条件について説明する前に、放電表面処理に関する従来技術と本実施の形態との差異を明確にするために、放電加工による皮膜成形技術について説明する。
シリコンを放電加工の電極として用い、被加工物表面にアモルファス合金層若しくは微細な結晶構造をもつ高耐蝕、高耐熱特性の表面層を形成する手法が日本国特公平5-13765号公報に開示されている。
【0014】
該公報に開示されたSi電極での放電加工は、電圧印加時間を3μs、休止時間を2μsと固定した周期的に電圧をオンオフする回路方式により、ピーク値Ipが1Aのエネルギを供給する手法である。
そのため、電圧を印加している3μsの期間において、放電が電圧パルスのどこで発生するかは全て異なり、実際の放電継続時間である電流が流れる電流パルス幅が逐次変化し、安定した皮膜形成は難しくなる。
【0015】
例えば、図3に例示する如く、周期的に電圧をオンオフする回路方式の電源では、電圧波形、電流波形が変化し、パルス毎のエネルギが異なる現象が生じ、電極材料であるSiを部材に供給する量、および、部材の表面を溶融させ表面層を作るエネルギがばらばらになるため、安定した処理が困難になる。
なお、図では、放電の電圧は一定、電流も一定としているが、実際には電圧は変動するし、電流も変動する。また、Siのような高抵抗の材料を電極とした場合には、Siでの電圧降下分も含んだ電圧になるため、電圧は高く、また、変動も大きくなる。
【0016】
次に、該公報が上述のように周期的に電圧をオンオフしなければならなかった理由について説明する。
該公報では、固有抵抗値0.01Ωcm程度の高抵抗材料であるシリコンを用い、非常に小さな電流パルスの条件を使用している。
そのため、放電のアーク電位を検出することで放電発生を検出する従来の制御方式では、電極が高抵抗材料である場合の放電発生時には、Si電極に電流が流れた場合の電圧降下の電圧が放電のアーク電位に加わった値となり、電圧降下の電圧が高い場合には、放電が発生しているにもかかわらず、回路は放電が発生したと認識できないからである。
【0017】
また、従来の放電加工によるシリコン皮膜は、処理が大きくばらつき、安定してできないといった問題もあった。
この問題もSiが高抵抗であることに起因している。
例えば、図4に示すように電極の抵抗値Rは抵抗率をρ、面積をS、長さをLとすると、R=ρ・L/Sと表される。
しかし電極への給電の方法、すなわち、電極の保持方法により、ρが大きい場合にはRの値は大きくばらつくことになってしまう。
従来では、ρ=0.01Ωcmのシリコンを電極として使用しているが、これくらいの高抵抗の材料の場合には、無条件で処理ができるわけではない。例えば、Si電極が長く、一方の端をつかんで給電する場合には、電極が長い場合には、電極の抵抗が高く、短くなるに従い抵抗が低くなる。電極が長く抵抗が高い場合には、上述のように放電を検出できず、異常なパルスが発生する確率も高くなるし、異常が発生しない場合でも抵抗が高いため、放電の電流値が低くなる。
【0018】
発明者らの研究では、ρ=0.01Ωcm程度の抵抗値のシリコンを電極として使用する場合、電極長さが数10mm程度以上になると放電が発生した場合の電流による電極での電圧降下が大きくなり異常な放電が発生し正常な表面層の形成が困難であったとなる場合があった。
また、このような異常な放電が起きる条件は、ほぼ、給電位置と放電の位置、すなわち、電極の長さによって決まり、電極の面積(太さ)にはあまり関係ないことがわかった。
これは、電流が電極内を流れる際に電極の断面全体を均一に流れるのではなく、ある細い経路を流れるからであると推測できる。したがって、0.01Ωcm以上の抵抗率のシリコンを電極として用いても放電が発生する位置と給電点を近くすれば安定した放電を発生させることは可能になる。例えば、1mm程度の板状のシリコンを金属に接合して給電すれば、抵抗値が0.05Ωcm程度でも安定した放電は可能であった。しかし、0.01Ωcmの電極でも数10mm程度以上、例えば100mm程度の長さになると、異常な放電が発生する場合があり、安定した処理は困難であった。
【0019】
以上の議論のように発明者らの実験から以下のことが明らかとなった。
・シリコンを電極として油中でのパルス放電を利用して部材の表面にSiを含む表面層を、工業的に使用に耐えるように10μm程度の厚みで高速に形成するためには、抵抗の低いSiを用い、図1、図2に示したような放電のパルス幅(放電電流パルス)を制御(ほぼ同じパルス幅にそろえる)する方式の回路を使用しなければならない。
【0020】
・シリコンを電極として部材表面に10μm程度の表面層を形成するためには、抵抗値(比抵抗)は低い方がよい。工業的な実用を考慮し、電極の長さが100mm程度以上でも使用する場合を考えるとρが0.005Ωcm以下であることが望ましい。Siの抵抗値を下げるには、他の元素をドーピングするなど、いわゆる不純物の濃度を増せばよい。
【0021】
・ρが0.005Ωcm以上であっても、給電点と放電位置が近い場合には、安定した処理が可能である。その際の指標は、ρが0.005Ωcm以下の場合も含めて以下のようにすればよい。
すなわち、極間に印加する電圧が低下したことにより放電が発生したと認識し、その放電が発生したと認識した時点から所定の時間(パルス幅te)経過した後に電圧の印加を停止(すなわち放電を停止)させる電源により、Siを電極として部材表面にSiを含む表面層を形成する際に、放電が発生した際の抵抗体であるSi電極での電圧降下を含んだ極間電圧が、放電検出レベルよりも低くなる状態で処理を行えばよい。
【0022】
一般的にアークの電位は25V〜30V程度であるが、放電検出レベルの電圧は、電源電圧よりも低く、アークの電位よりも高く設定すればよい。しかし、放電検出レベルを低く設定すれば、Siの抵抗値は低くしなければ放電が発生しても放電が発生したと認識できず、図5に示したような異常な長いパルスが生じてしまう危険が増える。
放電検出レベルを高く設定すれば、Siの抵抗がやや高くても放電が発生した場合には放電検出レベルを下回りやすくなる。すなわち、Siの抵抗値が低い場合には、電極が長くともよく、Siの抵抗値が高い場合には、Siの長さを短くして、放電が発生した場合の極間電圧が放電検出レベルよりも低くなるようにすればよい。放電検出レベルは、電源電圧よりも低く、アークの電位よりも高く設定すればよいが、以上の説明から、電源電圧よりもわずかに低いレベルに設定するのがよい。
発明者らの実験では、電源電圧よりも10V〜30V程度低い値に設定することが実用上もっとも汎用性があることがわかった。より厳密には、10V〜20V程度電源電圧よりも低い値とするのが使用できるSiにも幅ができて都合がよかった。
【0023】
以上のような条件を満たすことで、高抵抗材料であるSiを電極として用いて、自在な放電パルスを安定して発生させることができ、Siを含む表面層を部材に形成することができる。
【0024】
さて、以上のようなSiを含む表面層ができるようになり、その性質を調べたところ以下のようなことがわかってきた。
図6はSiを含む表面層の分析結果である。上段左写真がSi表面層断面のSEM写真、上段中がSiの面分析結果、上段右はCrの面分析結果、下段左はFeの面分析結果、下段右(中)はNiの面分析結果である。
また、この結果からある程度の厚みがある表面層になっているが、Si表面層はSiが母材の上にのっているのではなく、Siが母材と一体化しており、母材にSiが高濃度で浸透したような状態の表面層になっていることがわかる。この表面層はSiの含有量を増した鉄基金属組織であり、被膜という表現は適切ではないため、以下簡単のため、Si表面層と呼ぶことにする。なお、この表面層は、成分分析により母材よりわずかでもSi量が増加した部分を、表面層と定義することとする。
このような状態であるので、表面層は他の表面処理方法とは異なり被膜が剥離することはない。この表面層について調べた結果、ある条件を満たす場合には極めて高い耐エロージョン性があることがわかった。エロージョンとは、部材に水などがあたり浸食する現象であり、水や蒸気の通る配管部品、あるいは、蒸気タービンの動翼などの故障の原因となる現象である。耐エロージョンのための技術としては、前述のように様々な先行技術があるが、それぞれが問題を有している。
【0025】
ここでまず、所定の条件を満たすSi表面層の高い耐エロージョン性を示す実験結果について説明する。所定の条件については後述する。
本実施の形態の耐エロージョン性能について以下に試験結果を説明する。
図7は耐エロージョンの評価として試験片にウォータージェットを当てて浸食の様子を比較した試験の概略である。
ウォータージェットを200MPaの圧力で当てた。試験片としては、1)ステンレス基材、2)ステライト(一般的に、耐エロージョン用途に使用される材料)、3)放電によるTiC皮膜、4)本発明によるSiの多い表面層をステンレスに形成したもの、の4種類を使用した。
3)の皮膜は、国際公開番号WO01/005545に開示されている方法により形成したTiC皮膜であり、高い硬さを持っている被膜である。
それぞれの試験片に10秒間ウォータージェットを当て、試験片の浸食をレーザー顕微鏡により測定した。
【0026】
図8は1)の結果、図9は2)の結果、図10は3)の結果、図11は4)すなわち本実施の形態による表面層の場合の結果である。
図8に示される如く、ステンレス基材では10秒間ウォータージェットを当てた場合に約100μmの深さまで浸食されている。
それに対し、図9に示される如く、ステライト材では、浸食の様子が異なるものの、深さは60〜70μm程度であり、ステライト材での耐エロージョン性がある程度確認できた。
図10は、硬さの非常に高いTiC被膜の結果であるが、約100μmの深さまで浸食されており、耐エロージョンが表面の硬さだけによるのではないことがわかる結果となった。
【0027】
一方、図11は本実施の形態によるSiの表面層の場合の結果であるが、ほとんど浸食されていないことがわかる。
この表面層の硬さは約800HV程度(表面層の厚みが薄いため荷重10gとしてマイクロビッカース硬さ計で測定した。硬さの範囲は、おおよそ600〜1100Hvの範囲であった)であり、1)に示されるステンレス基材(350Hv程度)や、2)に示されるステライト材(420Hv程度)に比べると高いものの、3)に示されるTiC皮膜(約1500Hv)に比べると硬さは低い。
すなわち、耐エロージョン性は硬さだけでなく、他の性質も合わせた複合的な効果であることがわかる。
【0028】
図10では、硬い被膜であるにもかかわらず、えぐり取られたようにみえることから、表面だけ硬い場合でも表面に靭性がない薄い被膜の場合にはウォータージェットの衝撃で破壊されてしまうと推察される。
それに対して本実施の形態における4)の被膜は別の試験により靭性があり、変形にも耐えられる表面になっており、その点が高い耐エロージョン性を示す原因であると推察している。実験的には、薄板表面にTiC皮膜とSi表面層を形成し、折り曲げ試験を行なった場合、TiCにはクラックがすぐに入るが、Si表面層には入りにくかった。
【0029】
4)の表面層は厚さ5μm程度の厚さで試験しているが、被膜が薄い場合にはやはり強度が十分ではなく浸食がおきやすくなることが確認された。
先行技術である日本国特公平5−13765号公報では、Siの被膜について研究され、高い耐食性は明らかとされたにもかかわらず耐エロージョン性については発見できなかったのは表面層を厚くできなかったことが大きな原因の1つであると推察できる。
耐エロージョンの場合には、水などのエロージョンの原因となる物質の衝突する速度にもよるが、5μm以上の表面層のあることが望ましい。もちろん衝突する物質の速度が遅い場合には2〜3μm以上であれば十分効果を発揮する場合もある。
【0030】
4)に示されるSiの表面層に対する試験ではほとんど浸食が確認できなかったので、さらにSiの表面層に対する試験を延長して60秒間連続してウォータージェットを当てた結果を図12に示す。
ウォータージェットが当たった場所が少し磨かれた状態になり判別はできるが、ほとんど磨耗はしていないことがわかる。
以上より、本実施の形態の表面層の高い耐エロージョン性が確認できた。
【0031】
以上の結果を踏まえ、蒸気タービンの用途に適切な条件を見出すための実験を行った。図13に示した各条件での被膜にウォータージェットを当てて浸食の様子を調べた。
図13には、各処理条件に対し、その条件の放電パルスのエネルギに相当する値である放電パルスの電流値の時間積分の値(A・μs)(矩形波であれば、電流値ie×パルス幅te)、その処理条件でのSi表面層の厚み、Si表面層のクラックの有無を示している。
処理条件は、横軸に電流値ie、縦軸にパルス幅teとして、その値の矩形波の電流パルスを使用した。この試験に使用した基材はSUS630である。
Si電極はρ=0.01Ωcmのものを使用し、放電パルスが正常に発生する範囲のサイズの電極を作成し、試験を行なった。
【0032】
図より、Si表面層の形成条件の1つとして、クラックの有無について見ることができる。クラックの有無は放電パルスのエネルギと相関が強く、放電パルスのエネルギ相当量である放電電流の時間積分値が80A・μs以下の範囲にあることがクラックのないSi表面層を形成するための条件であることがわかる。
【0033】
もちろん加工条件によりクラックが入るか入らないかは、基材にも多少は影響を受ける。
例えばステンレス鋼と呼ばれる材料の中でも、SUS304のような固溶体である材料は比較的クラックが入りにくく、SUS630のような析出硬化型の材料では若干クラックが入りやすい傾向がある。蒸気タービンには一般的にSUS630等の析出硬化型のステンレス鋼が用いられるので、クラックの入らない望ましい範囲はSUS304のようなオーステナイト系のステンレス鋼よりは狭くなる。
【0034】
図13より、Si表面層の形成条件の他の1つとしてSi表面層の厚みがある。
図13からわかるように、Si表面層の厚みも放電パルスのエネルギ相当量である放電電流の時間積分値と相関があり、放電電流の時間積分値が小さいと厚みが小さくなり、放電電流の時間積分値が大きいと厚みも大きくなることがわかる。
ここで言うところの厚みはすなわち放電のエネルギで溶融し、電極成分であるSiが進入した範囲のことを言っている。
熱の影響の範囲は放電パルスのエネルギの大きさ相当量である放電電流の時間積分値の大きさで決まるが、進入するSiの量は放電の発生回数も影響する。放電が少ない場合には当然のことながらSiが十分に進入できないので、Si表面層のSiの量は少なくなる。逆に十分以上に放電が発生してもSi表面層のSi量はある値で飽和し、それ以上は増加しなくなる。
Si量が少ない場合には、後述するようなSi表面層の効果は十分に得られなくなる場合がある。Si量は、十分にSi表面層にSiが入った場合で、3〜11wt%であった。より安定して形成したSi表面層では6〜9wt%であった。ここで言うSi量は、エネルギ分散型X線分光分析法(EDX)により測定した値であり、測定条件は、加速電圧15.0kV、照射電流1.0nAである。またSi量は、表面層の中でほぼ最大の値を示した部分の数値である。
【0035】
Si表面層のSi量は6〜9wt%が最適であり、この範囲では、処理した面が平滑であり、エロージョンの起点となるような面の荒れがほとんどない状態になる。Siが適量表面に入ることで、放電により溶融した基材材料と、電極のSiの材料が平滑に凝固することができる。Si量が少なくなると溶融した材料を平滑にする働きが少なくなり3wt%を下回ると、放電により溶融し、凝固した材料が固まる際の凹凸部がより目立つようになり、水滴などが衝突したときにダメージの起点になる部分ができ、耐エロージョン性が低下することがわかった。
逆にSi量を多くするには、パルス幅teを長くすることが必要となり、パルス幅が長くなるとその条件により面の凹凸がやはり大きくなることがわかった。
Si量を11wt%以上にしようとすると面の凹凸が大きくやはりダメージの起点になる部分が増えることがわかった。
以上より、Si表面層のSi量は3〜11wt%、より望ましくは6〜9wt%であることがわかった。以上のような効果が得られる範囲のSi表面層では硬さが600〜1100Hvであった。
【0036】
後述の段落0042でも触れるが、本実施の形態により処理されたSi表面層はアモルファス構造を有しているため耐エロージョン性が高くなる。ただし、アモルファス構造を有しているだけでは耐エロージョン性の確保は不十分で、上述の通り、表面粗さも重要な要素となる。発明者らの検討により、本発明の耐エロージョン性と表面粗さの関係を調査した結果、表面粗さが小さくなるほど耐エロージョン性が高くなることがわかっている。蒸気タービンの翼の表面粗さは10〜20μmであることが知られている。そこで、Si表面層を形成させる基材の表面粗さと、その表面にSi量が3〜11wt%となるように形成したSi表面層の上述の耐エロージョン性評価を行ったところ、Rz(最大高さ)が20μm以下の場合に耐エロージョン性が良好であることが確認された。信頼性の観点では、Rz8μm以下であるとより好ましい。
説明が後になったが、表面粗さの測定方法は次の通りである。測定装置はTaylorHobson製フォームタリサーフを用い、スタンダードのスタイラスで、測定長さを4.8mm、高域カットオプ長0.8mm、バンド幅比100:1、フィルタタイプをガウシアンとして測定した。測定した値はJISのB0601:2001に準拠した。
【0037】
Si表面層のSi量が面の表面粗さに影響する点について述べたが、その一例を図14、図15に示す。
Si電極での同一処理条件での処理を時間毎に変えて行い、Si表面層の表面(図14)、及び、Si表面層の断面(図15)の様子を観察したものである。
すべての処理を処理条件一定で行なっているので、処理条件はすなわち発生した放電の回数の比とほぼ同じと考えてよい。すなわち、処理時間が短い場合には放電回数が少なく、処理時間が長い場合には放電の回数が多いことになる。(ただし、処理時間は休止時間などの条件により変わるため、同一放電パルス数を発生させるためには、休止時間が変化すれば必要な処理時間はかわる。)
図に示したSi表面層の処理時間は3分、4分、6分、8分である。図から以下のことが言える。
処理時間が短い場合(3分)ではまだ面の凹凸が多く、表面に小さな突起状の部分が存在するのが観察される。(図示は省略するが、より短いとさらに突起状の部分が多く、処理時間3分程度で突起が目立たなくなる。)
処理時間を増していくと、これらの凹凸、突起が少なくなり平滑になっていく様子がわかる。
一方断面写真を見ると、処理時間3分から8分までの断面で、Si表面層の厚みはほとんど変化のないことがわかる。それぞれの被膜のSi量を分析すると、処理時間3分の表面層が約3wt%、処理時間4分の表面層が約6wt%、処理時間6分の表面層が約8wt%、処理時間8分の被膜が約6wt%であった。処理時間が短い場合にはSiが十分に表面層に入っていないが、ある程度処理時間が経過(この条件では4分)するとSiがほぼ十分に入り、面が平滑になることがわかった。以上より、Siが少ないと面の平滑性が悪く、3wt%以上は必要であり、より望ましくは6wt%以上必要なことがわかる。
【0038】
説明が後になったが、Si表面層の性能について以下に論じる。
なお、エロージョンには大きく2つのモードがあり、1つは水の衝撃で大きく抉り取られるモード、もう1つは水が強く当たり表面を流れる際に表面を引っかき削りとるモードである。
図16は厚さ3μmのSi表面層にウォータージェットを200MPaで60秒当てたときにSi表面層が破壊された結果である。細かく剥ぎ取られたような痕は見えないものの、大きく抉り取られるように破壊されていることがわかる。これは、水の衝突により擦り取られた傷ではなく、ウォータージェットで大量の水を当てているための衝撃にSi表面層が耐えられずに破壊された結果であると考えられる。すなわち、Si表面層が4μm以下と薄い場合には、水が強く当たり表面を流れる際に表面を引っかき削りとるモードに対しては効果があるが、水の衝撃で大きく抉り取られるモードに対しては、効果が少ないということを示している。
また、図17は耐エロージョン性が高いとされる材料であるステライトNo6単体であり、90MPaのウォータージェットを60秒当てた場合の結果である。図では、水が強く当たり表面を流れる際に表面を引っかき削りとるモードを示している。
【0039】
次に、Si表面層の厚さと耐エロージョン性との関係を図18に示す。
図に示されるように、Si表面層の厚さが4μm以下では蒸気タービンで水滴がタービン翼に衝突する速度相当である音速程度の速度でウォータージェットを当てた場合には、Si表面層が薄いと被膜が耐えられず、表面が破壊される現象が高い確率で発生することがわかった。
Si表面層の厚みが薄いと衝撃に弱く、厚いと衝撃に強い理由は以下のように推察している。すなわち、Si表面層が薄い場合には、衝撃を受けていると歪が基材に徐々に蓄積され最後に母材の粒界から破壊が発生するが、Si表面層が厚い場合には、歪が母材に達しにくく基材が守られる一方で、Si表面層は非晶質に近い組織であるため粒界がなく粒界での破壊に至らないということである。
この観点で、Si表面層を厚くするためには、放電パルスのエネルギを大きくする必要があり、5μm以上にするためには、放電パルスのエネルギは30A・μs以上である必要があることがわかった。
【0040】
以上のようにSi表面層の膜厚を厚くすることで耐エロージョン性を上げることができるが、一方で、膜厚を厚くすることに伴う問題もあり、そのことが原因で耐エロージョン性を悪化させることがある。前述のように、Si表面層を厚くするためには、放電パルスのエネルギを大きくする必要があるが、放電のエネルギを大きくするに従い、熱の影響も大きくなり、表面にクラックが発生するようになる。クラックは、放電パルスのエネルギが大きくなるほど入りやすくなり、前述のように、80A・μs以上のパルスで処理した場合には表面にクラックが入るようになる。
表面にクラックが入ると耐エロージョン性が著しく低下することがわかった。図19はウォータージェットを当てることでクラックが進展した様子を示している。さらに継続するとある範囲で大きく被膜が破壊される。80A・μsのエネルギのパルス条件で処理した場合に膜厚は10μm程度になり、これが事実上の耐エロージョン用途のSi表面層の上限値になることがわかった。
クラックの観点で、Si表面層の膜厚と耐エロージョン性との関係を図示すると、図20のようになる。図18と図20をあわせると、Si表面層の膜厚と耐エロージョン性との関係は図21のようになることがわかった。
【0041】
以上をまとめると次のようになる。耐エロージョン性を有するSi表面層を形成するためには、Si表面層を5μm以上にすることが必要であり、そのためには放電パルスのエネルギは30A・μs以上である必要がある。
一方で、表面のクラックを防止するためには、放電パルスのエネルギは80A・μs以下であることが必要であり、そのためSi表面層は10μm以下となる。
このように、耐エロージョン性を得るには、表面粗さRzが20μm以下の基材に対して、Si表面層の層厚を5〜10μmと厚くして、Si量を3〜11wt%とする必要があることを見出した。この層厚のSi表面層を形成するための放電パルスのエネルギは30A・μs〜80A・μsであり、そのときのSi表面層硬さは、600Hv〜1100Hvの範囲であった。
【0042】
ところで、耐エロージョン性能として、本発明によるSi表面層が優れている理由については以下のように考えている。耐エロージョン性は、一般的には硬さと相関が強いといわれている。しかし、前述の評価結果からもわかるように、硬さだけでは説明のつかない点も多い。硬さ以外の要素としては、表面の性状が影響しており、粗い面より、より鏡面に近いほうが、耐エロージョン性が上がることがわかってきている。Si表面層で耐エロージョン性が優れている理由としても面の性状が挙げられる。Si表面層は硬さが600Hv〜1100Hvとある程度硬く、面の性状が滑らかな面になっている。このことが耐エロージョン性に影響していると考えている。
さらに、通常の高硬度な被膜(例えば前述のTiC被膜やPVD、CVDなどによる硬質被膜)は靭性が低く、わずかな変形により被膜が破壊されてしまうのに対し、Si表面層は靭性が高く変形を加えてもクラックなどが入りにくい性質を持っていることも高い耐エロージョン性の原因の1つであると考えている。さらに、Si表面層の結晶構造にも影響していると考えている。本発明の範囲の条件で形成したSi表面層のX線回折結果を図22に示す。図では基材のSUS630とその上にSi表面層を形成した場合の回折像を示している。Si表面層の回折像を見るとわかるように基材のピークは見えるものの、非晶質(アモルファス)組織の形成が認められる幅広いバックグラウンドが観察される。すなわちSi表面層は非晶質になっており、そのため通常の材料で発生しやすい結晶粒界での破壊がおきにくいと考えることができる。
この耐エロージョン性を有するのに必要な条件の1つとなる非晶質構造を持たせるには、Si量は1〜20wt%である。1wt%以下では非晶質構造が形成されず、20wt%以上とすると結晶化してしまう。
【0043】
さて、本実施の形態により高い耐エロージョン表面層が得られることがわかったので、実際のアプリケーション技術について説明する。
なお、これ以降のアプリケーション技術では、これまで述べてきた基本技術を実際の用途に適用する技術について述べるので、以後の説明の中では繰り返さないが、今まで説明した技術を使用することが前提であることを断っておく。
【0044】
本発明の蒸気タービン翼の製造方法並びに補修方法を説明する前に、現状の蒸気タービンの実際について説明する。前述の特許文献にも説明があるように、蒸気タービンでエロージョンが起きるのは動翼の前縁部などの部分である。現状の蒸気タービンのエロージョンが発生する部位、特に低圧タービン動翼の前縁部や先端部には、ろう付けや溶接などによってステライトなどの耐エロージョン性の材料を被覆している。ろう付けの場合、翼側のろう付けされる箇所はプレートが収まるようにくぼんでおり、このくぼみに収めるように、ステライトなどの耐エロージョン性の材料のプレートをろう付けするが、この時プレートの表面は蒸気タービン翼の面よりも0.5mm程度嵩高い状態となっている。通常このまま使用することが多い。先端部は溶接によりステライトを肉盛る場合があるが、その後は手作業により曲面が作られるため、形状はそれぞれ多少異なることがほとんどである。
【0045】
続いて、本発明の蒸気タービン翼の製造方法並びに補修方法を説明する。
図23はエロージョンが問題となることの多い蒸気タービンの動翼に対して本発明のSi表面層を形成する様子を示している。
図において、11はSi電極、12は被処理部材である蒸気タービン動翼、13は蒸気タービン動翼12の表面に形成されたSiを含む表面層である。蒸気タービン動翼12は図示しない治具により位置決めされ、固定される。なお、図では強調されているが、蒸気タービン動翼12のSiを含む表面層を形成させる面は0.5mm段状に盛り上げている。また、本実施の形態で使用した蒸気タービン翼2の材質はSUS630である。
実際の加工に際しては、根元のツリー部分を固定すれば安定して固定することができる。
放電による表面層形成の際には、放電する部分は油中に浸漬させる必要があるので、図示しない治具も油を貯めるための加工槽内に設置するのが実用上は便利である。
【0046】
図では、耐エロージョン性が要求される部位の形状に合わせたSi電極を作り、図示しない油の中で蒸気タービン動翼と対向させる。
Si電極と相手材(タービン動翼)の間に長時間放電させても相手部材(タービン動翼)にダメージを与えないので、放電により形状をならわせてもよい。溶接や溶射あるいはろう付けによる耐エロージョン材料の被覆では入熱が大きく部材が変形してしまうが、本放電表面処理による方法では、変形がほとんどないため、部材の形状に合わせた電極ができればそのまま繰り返し使用することができる。
よって、従来の方法が人手による熟練の必要な方法であったのに対し、本実施の形態では、作業を機械が行うため、人によらず安定した処理ができる。
【0047】
上記方法により、蒸気タービン動翼に自動で、耐エロージョン性の高い表面層を形成することができるが、大きな面積の電極を形成するのがやはり大変な場合もある。
そのような場合には、図24のように薄い電極を作り、電極を処理進行に従い走査することで必要な部分全体に処理を行うこともできる。図24では走査の方向が翼先端から根元に向かっているが、処理が必要な箇所を処理できれば走査方向は特に問わないのは言うまでもない。
蒸気タービン動翼の前縁部は湾曲しているため、同一の形状の電極で走査するだけでは電極形状が動翼断面の形状に合わないが、電極の厚みを薄くすることで電極の消耗を促進させ、処理面の形状にならいやすくすることができる。
【0048】
以上の方法により、蒸気タービン動翼に自動で、耐エロージョン性の高い表面層を形成することができるが、処理面積が大きい場合には、処理時間が長くかかるという問題がある。その場合には、図25のように電極を分割し、それぞれ独立に給電することで処理時間を短縮することができる。
電極と電極の間の隙間は電極を電極間の間隙部分以上、わずかに移動させながら処理することで、隙間なく被膜を形成することができる。
【0049】
通常蒸気タービン翼は、鍛造にて概略形状を作った後、切削加工などにより詳細形状を作り、その後耐エロージョン性を付与するためにろう付けや溶接の処理を行い、その後、歪とりのための処理、熱処理を経て、最後に仕上げ加工という工程で製造される。本発明の技術を用いれば、鍛造にて概略形状を作った後、切削加工などにより詳細形状を作り、仕上げ加工を行い、最後に、Si表面層を形成する処理を行なうことで、耐エロージョン性を付与することができる。工程も短縮でき、大幅なコストダウンが可能となる。また、後述するように、耐エロージョン性を付与する箇所を盛り上げる形状をもともと作っておくことで、その後の補修も損傷箇所の切除だけで補修が可能となり、補修作業も簡便になる。盛り上げる箇所は、鍛造にて概略形状を作った後、切削加工により作っても良いし、従来どおり形状の翼の上に肉盛溶接などによって盛り上げても良い。
【0050】
次に、上記の方法で作製され、補修が必要となった蒸気タービン翼についての、Siを含む表面層を形成した箇所(0.5mm段状に盛り上げた箇所)の補修方法とこの補修方法により再利用が可能となったタービン翼を、図26を用いて説明する。
図26はSiを含む表面層を形成した箇所の補修の各過程における一断面の模式図であり、図26(a)は損傷を受けたSi表面層である。図26(b)は損傷を受けた深さまで放電加工やグラインダーや研磨、研削等で段部を除去した状態を示している。グラインダーや研磨、研削の場合、Si表面層の耐エロージョン性能をより高めるためとその後のSi表面層を形成させる加工時間の短縮のため、Si表面層を形成する前の母材表面粗さは特に規定はないが、Si表面層を形成していない部分と同程度の表面粗さ以下にまで仕上げることが望ましい。これは、放電加工による表面除去についても同様である。特に本発明で使用するSi電極を用いて放電加工で除去する際は実質図26(b)の工程は省け、さらに工程数の削減することができる。図26(b)で仕上げられた面に対して、図26(c)のようにSi表面層を形成する。図26ではSi表面層よりも深い部位にまで損傷が進行している様子が描かれているが、Si表面層内で損傷がとどまっている場合には、Si電極により放電表面処理を施せば、表面がならい、補修が可能である。図27は、発生したエロージョン部を補修した一例として、前記ウォータージェット試験によって発生したクラックや損傷を上記方法で補修した様子を示している。
【0051】
上記のように、蒸気タービン翼の先端前縁部に、あらかじめ段状に盛り上げた(高くしておいた)箇所設け、本発明のような放電表面処理によるマイクロメートルオーダーの耐エロージョン性を有する層を形成させることで、段状の盛り上がりがなくなるまで簡便に(補修の工数を低減して)何度も補修することが可能となる上、肉盛溶接のように部材欠損部を埋めるような手法を不要とするため、部材の、特に部材と肉盛部境界の機械的強度の低下の心配がない。前述のように、耐エロージョン材のろう付けでは、0.5mm程度嵩高くなっているので、蒸気タービンの前縁部などの耐エロージョン被膜を施す箇所は蒸気タービン翼を製造する時点で盛り上げることは大きな問題とならない。さらにSi表面層により、ろう付けで心配となる欠陥やはく離といった問題が発生しなくなる。
【0052】
Si表面層を形成する箇所となる盛り上がり部分の高さについては、本実施の形態では0.5mmとしたが、段の高さはある程度自由で、耐エロージョン性が求められる部品の都合によるところが大きい。図28に示すように、蒸気タービンの場合、盛り上がりが0.005mmとすると、Si表面層の層厚は5〜10μm程度であるので、損傷がなかった時、ダメージのない健全なSi表面層を再度形成する際、一度しか補修ができなくなるので、これ以上の盛り上げは必要となる。また、図29に示すように、3mm以上盛り上げるとタービン中を流れる蒸気の流れを乱すため、機械としての効率が低下し、問題となる。したがって、蒸気タービン翼のSi表面層を形成する箇所の盛り上がりは、0.005mm〜3.0mmの範囲が良い。
【0053】
Si表面層を形成する面の形状は平面でなくとも良い。蒸気タービンの設計に合わせた曲面であっても、処理する際に使用するSi電極の放電面をその形状にならすか、あらかじめその形状に加工しておけばよい。補修時にSi表面層を形成する面をつくる(切除して新しい面を出す)際も同様である。盛り上がりの端部も図26では直角に表現されているが、なだらかとなっていても良い。また、蒸気タービンの先端のような複雑な曲面の場合は、例えば図30、図31に示すようにあらかじめ厚くしておけばよい。
段落0044で触れたように、蒸気タービン翼は多少形状が自由であるため、段落0052に記載の理由で、0.005mm〜3mmの範囲であれば、図30、図31に示されるように翼先端部が厚くなっても大きな問題にならない。
但し、蒸気タービン翼の自由曲面部においては、その寸法形状を考慮しなければならず、例えば径がΦ10mmの箇所に3mm程度盛り上げてしまうと曲面形状が大きく変わり、図28と同様に蒸気タービンの効率に悪い影響を及ぼしてしまうので、径の5%程度である0.500mm程度に抑えた方が良い。
【0054】
上述した段落0045〜0053では、蒸気タービン翼のSi表面層を形成させる部分を盛り上げる場合について記述したが、従来の蒸気タービン翼のように盛り上がった形状を有していないものについても同様に補修が可能である。ただし、このような部材に対する補修の場合、補修を重ねる度にSi表面層を形成する箇所がその周囲よりも落ち込むことになる。
その落ち込みは2mm以上となるとタービン中を流れる蒸気の流れが乱れ、タービンの効率が大きく低下したり、2mm以上でなくとも翼のもともとの厚さの半分以上肉薄になると翼としての機械強度が低下したりするで、エロージョンにより進行、またはその補修により落ち込んだ深さが0〜2mmまたは厚み比0.5以上の範囲であれば、このような補修方法を実施することが可能となる。
【0055】
実施の形態として、耐エロージョン部品としては蒸気タービンの動翼に適用する場合について述べたが、他にも耐エロージョン性が要求される耐エロ-ジョン部品用途には同様に適用できることは言うまでない。
例えば、配管内部の流体が強く当たる部分やキャビテーションを生じやすい形状の部分などには、同様の方法で処理することができる。このような用途には、他に燃料の噴射部品などがある。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る表面層成形方法は、耐エロ-ジョン部品への適用に有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 Si電極、2 部材、3 加工液、4 直流電源、5 スイッチング素子、6 電流制限抵抗、7 制御回路、8 放電検出回路、11 Si電極、12 蒸気タービン動翼、13 Siを含む表面層、14 Siを含む表面層に生じた損傷、15 Siを含む表面層、16 蒸気タービン動翼のSi表面層が形成される盛り上がり箇所、17 蒸気タービン動翼本体、18 損傷箇所がなくなるように切除された、蒸気タービン動翼のSi表面層が形成される盛り上がり箇所、19 新規に形成されたSiを含む表面層、20 部材、 21 肉付け部、 22 部材、 23 肉付け部、 24 部材、25 肉付け部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械加工、あるいは肉盛り処理により翼面より所定形状盛り上げ形状とした蒸気タービン翼の先端前縁部に対し、Siの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下のSi表面層を形成したことを特徴とする蒸気タービン。
【請求項2】
Si表面層は、蒸気タービン翼の先端前縁部に厚さ5〜10μmで形成したことを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービン。
【請求項3】
Si表面層におけるSiの含有量を3〜11wt%、硬度を600〜1100HVの範囲の非晶質層とすることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸気タービン。
【請求項4】
先端前縁部は、翼面より0.005〜3mmの範囲で盛り上げられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蒸気タービン。
【請求項5】
加工液中に対エロージョン性機能部品を配置し、所定間隔離間したSi電極との間で放電を発生させることで前記Si電極からSi成分を部材側に供給することで形成された表面層を有する耐エロージョン性機械部品であって、
該表面層は、厚さ5〜10μmの範囲にSiの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下で形成させたことと特徴とする耐エロージョン性機械部品。
【請求項6】
表面層の硬度を600〜1100HVの範囲とすることを特徴とする請求項5に記載の耐エロージョン性機械部品。
【請求項7】
機械加工、あるいは肉盛り処理により翼面より所定形状盛り上げる盛り上げ工程と、
該盛り上げ部が形成された蒸気タービンを加工液中に配置し、該盛り上げ部に対し、Si電極を所定間隙離間して配置し、放電パルスの電流値の時間積分の値が30〜80A・μsの範囲である放電パルスを発生させることで、前記Si電極からSi成分を蒸気タービン盛り上げ部に供給し、Siの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下のSi含有表面層を形成する工程と、
を備えた蒸気タービンの表面層形成方法。
【請求項8】
翼面より所定形状盛り上げられた盛り上げ部に形成されたSi表面層の補修方法であって、
該盛り上げ部を機械加工あるいは放電加工により研削、研磨する工程と、
該研削、研磨された盛り上げ部を加工液中に配置し、Si電極を所定間隙離間して配置し、放電パルスの電流値の時間積分の値が30〜80A・μsの範囲である放電パルスを発生させることで、前記Si電極からSi成分を蒸気タービン盛り上げ部に供給し、Siの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下のSi含有表面層を形成する工程と、
を備えた蒸気タービンの表面層形成方法。
【請求項1】
機械加工、あるいは肉盛り処理により翼面より所定形状盛り上げ形状とした蒸気タービン翼の先端前縁部に対し、Siの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下のSi表面層を形成したことを特徴とする蒸気タービン。
【請求項2】
Si表面層は、蒸気タービン翼の先端前縁部に厚さ5〜10μmで形成したことを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービン。
【請求項3】
Si表面層におけるSiの含有量を3〜11wt%、硬度を600〜1100HVの範囲の非晶質層とすることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸気タービン。
【請求項4】
先端前縁部は、翼面より0.005〜3mmの範囲で盛り上げられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蒸気タービン。
【請求項5】
加工液中に対エロージョン性機能部品を配置し、所定間隔離間したSi電極との間で放電を発生させることで前記Si電極からSi成分を部材側に供給することで形成された表面層を有する耐エロージョン性機械部品であって、
該表面層は、厚さ5〜10μmの範囲にSiの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下で形成させたことと特徴とする耐エロージョン性機械部品。
【請求項6】
表面層の硬度を600〜1100HVの範囲とすることを特徴とする請求項5に記載の耐エロージョン性機械部品。
【請求項7】
機械加工、あるいは肉盛り処理により翼面より所定形状盛り上げる盛り上げ工程と、
該盛り上げ部が形成された蒸気タービンを加工液中に配置し、該盛り上げ部に対し、Si電極を所定間隙離間して配置し、放電パルスの電流値の時間積分の値が30〜80A・μsの範囲である放電パルスを発生させることで、前記Si電極からSi成分を蒸気タービン盛り上げ部に供給し、Siの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下のSi含有表面層を形成する工程と、
を備えた蒸気タービンの表面層形成方法。
【請求項8】
翼面より所定形状盛り上げられた盛り上げ部に形成されたSi表面層の補修方法であって、
該盛り上げ部を機械加工あるいは放電加工により研削、研磨する工程と、
該研削、研磨された盛り上げ部を加工液中に配置し、Si電極を所定間隙離間して配置し、放電パルスの電流値の時間積分の値が30〜80A・μsの範囲である放電パルスを発生させることで、前記Si電極からSi成分を蒸気タービン盛り上げ部に供給し、Siの含有量1〜20wt%とした鉄基金属組織を表面粗さRz20μm以下のSi含有表面層を形成する工程と、
を備えた蒸気タービンの表面層形成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
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【図4】
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【図16】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
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【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2011−102561(P2011−102561A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257942(P2009−257942)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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