説明

蒸気加減弁の開度監視方法

【課題】蒸気加減弁の開度動作の異常に対して、運転員が迅速に対処できる開度監視方法を提供する。
【解決手段】発電プラントSにおいて、給水ポンプ16を駆動させるタービン20に供給する蒸気量を増減させる蒸気加減弁32の開度監視方法であって、蒸気加減弁32の開度と目標開度との第1偏差が第1設定値以上となったことを条件に警報装置70Aを作動させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気加減弁の開度監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力及び原子力発電所では、蒸気発生装置によって発生させた蒸気によって発電用タービンを回転させ、発電を行っている。蒸気発生装置へ給水を行うために、タービン駆動ポンプが用いられている。タービン駆動ポンプは、蒸気発生装置で発生した蒸気の一部が供給されることで駆動され、蒸気の供給量に比例して蒸気発生装置への給水量が増減する。タービン駆動ポンプへの蒸気の供給量は、ポンプに付設された蒸気加減弁の開度によって増減される。蒸気加減弁の開度を調整することで、蒸気発生装置への給水量を増減させ、蒸気発生装置の水位を一定にしている。このような蒸気加減弁の開度調整装置としては、下記特許文献1及び2に記載の装置が提案されている。特許文献1及び2に記載の装置は、複数の油圧機器及びリンク機構を組み合わせることで構成されている。電気信号によって、油圧機器ひいてはリンク機構を動作させ、リンク機構と接続された蒸気加減弁を動作させる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−147204号公報
【特許文献2】特開昭62−213603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2の装置において、蒸気加減弁の開閉動作に異常が発生した場合は、発電プラントの運転員が、その動作異常に対して迅速に対処することが必要である。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、蒸気加減弁の開閉動作に異常が発生した場合に、その異常に対して、運転員が迅速に対処できる開度監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、発電プラントにおいて、給水ポンプを駆動させるタービンに供給する蒸気量を増減させる蒸気加減弁の開度監視方法であって、前記蒸気加減弁の開度と目標開度との第1偏差が第1設定値以上となったことを条件に第1警報装置を作動させることに特徴を有する。
【0007】
本発明の実施態様として、以下の構成とすることが好ましい。
前記蒸気加減弁の開閉をさせる開閉機構が、電気信号によって開閉する第1バルブと、前記第1バルブが開くことで供給される作動油によって動作する第1油圧アクチュエータと、前記第1油圧アクチュエータの動作によって開閉される第2バルブと、前記第2バルブが開くことで供給される作動油によって動作し、前記蒸気加減弁を開閉させる第2油圧アクチュエータと、から構成される電気油圧制御式のものにおいて前記第1油圧アクチュエータの変位と目標変位との第2偏差が第2設定値以上となったことを条件に第2警報装置を作動させることを特徴とする。このような構成としておけば、第2警報装置が作動した場合は第1油圧アクチュエータに異常が発生したと推測できる。このため、運転員は異常個所の特定が容易にでき、より迅速な対応ができる。
【0008】
前記第1偏差が、予め設定された第1所定時間継続して、前記第1設定値以上となったことを条件に前記第1警報装置を作動させ、前記第2偏差が、予め設定された第2所定時間継続して、前記第2設定値以上となったことを条件に前記第2警報装置を作動させることを特徴とする。このようにしておけば、第1偏差及び第2偏差が各所定時間継続して、各設定値以上となった場合にのみ、対応する各警報装置が作動する。このため、例えば、発電プラントの出力上昇時に起こる両油圧アクチュエータの動力伝達の遅れなどによって第1及び第2偏差が瞬間的に増大した場合に、各警報装置が作動することを防止できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1警報装置の作動により、蒸気加減弁の動作に異常が発生したことを確認できる。これにより運転員は、その動作異常に対して迅速な対応をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】原子力発電プラントの系統図
【図2】蒸気加減弁の開閉機構を示す図
【図3】スピードリレー固着時のリンク機構の動作を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
本発明の実施形態を図1ないし図3によって説明する。
(1)全体構成
図1は、原子力発電プラントの系統図である。本実施形態の原子力発電プラントS(以下、発電プラントS)は、原子炉11、発電タービン12、復水器13、給水ポンプ16、17を配管を介して順に接続することで構成されている。
【0012】
原子炉11は、原子炉圧力容器11C内に燃料集合体11Aと制御棒11Bを備えてなる。燃料集合体11Aは複数本の燃料棒を配列することで構成されている。燃料棒には核分裂性物質を含む燃料が封入されており、この燃料が核分裂する際の熱によって、原子炉圧力容器11C内の軽水を沸騰させ、蒸気を発生させる構成となっている(沸騰水形軽水炉:BWR)。
【0013】
制御棒11Bは、核分裂時に発生する中性子を吸収するもので、例えば4体一組の燃料集合体11A間に出し入れ自在に収容される。これにより、燃料集合体11Aに対して制御棒11Bを出し入れすることで、炉内の中性子数を調整し原子炉11の出力を調整している。
【0014】
また、原子炉圧力容器11Cには再循環ポンプ14が付設されている。再循環ポンプ14は原子炉圧力容器11C内の軽水(冷却材)を循環させることで、沸騰によって軽水内に発生する蒸気泡の量を調整する機能を担っている。具体的に説明すると、再循環ポンプ14による循環量が増加すると蒸気泡の量が減少する(軽水の密度が上昇)。原子炉圧力容器11C内の軽水は減速材の役割を果たすため、蒸気泡の量が減少する結果、減速される中性子の数が増加して原子炉11の出力は上昇する。上記の構成により、原子炉11から出力される蒸気量は、制御棒11Bの出し入れ量及び再循環ポンプ14の回転量によって制御される。また、原子炉11は水位計15を備えており、原子炉11内の軽水の水位を計測可能となっている。
【0015】
発電タービン12は、原子炉11で発生した蒸気が供給されることで回転駆動される。復水器13はその内部を冷却水が循環する構成となっており、発電タービン12から排気された蒸気を凝縮して復水にする機能を担っている。
【0016】
給水ポンプ16、17は復水器13で凝縮された復水を昇圧して原子炉11に給水する機能を担っている。給水ポンプは、2系統の給水ポンプ16及び17から構成されており、原子炉11の出力によって両系統の駆動を切り替えている。具体的には、電動機駆動の給水ポンプ17a、17bは、主に発電タービン12の起動時に駆動され、タービン駆動の給水ポンプ16a、16bは、主に出力上昇時及び定格出力時に駆動される(詳しくは後述)。また、給水ポンプ17は給水ポンプ16の故障時に、その代替としても駆動される。
【0017】
上記の構成により、原子力発電プラントSはランキンサイクルを構成し、蒸気及び復水を循環させることで、連続的に蒸気を発電タービン12を送り込み、タービン軸に連結された発電機Gを回転駆動させて発電を行う構成となっている。
【0018】
タービン駆動の給水ポンプ16a、16bは、それぞれタービン20a、20bが付設されている。タービン20a、20bは、原子炉11によって発生した蒸気の一部が送られることで駆動され、給水ポンプ16a、16bを回転駆動させる機能を担っている。
【0019】
タービン20a、20bの蒸気入口側には蒸気加減弁32及び、蒸気加減弁32の開閉機構30がそれぞれ設置されている。制御装置37からの信号によって開閉機構30を駆動させ、蒸気加減弁32の開度を調整することでタービン20a、20bへの蒸気量を増減させる構成となっている。
【0020】
(2)蒸気加減弁の開閉機構の構成
次に、本発明の開度監視方法が適用される蒸気加減弁32の開閉機構30について詳しく説明する。図2に示すように、開閉機構30は、サーボ弁38(第1バルブ)、スプール開閉装置36、サーボモータ48(第2油圧アクチュエータ)、モータ動力伝達機構49を主体に構成されている。開閉機構30は、電気信号によってサーボ弁38を開くことで、スプール開閉装置36及びサーボモータ48に作動油を供給し、油圧によって、より大きい動力で蒸気加減弁32を開閉させる機構(電気油圧制御式)となっている。
【0021】
サーボ弁38は、油供給源と油圧シリンダ39との間に設けられ、制御装置37からの制御信号(電気信号)によって開閉することで、油圧シリンダ39のポート39A又はポート39Bへの作動油の供給を切り替える機能を担っている。
【0022】
スプール開閉装置36は、油圧によって駆動する油圧シリンダ39(第1油圧アクチュエータ)、パイロット弁41、スピードリレー42、及び、これら装置の動力を伝達するリンクA1〜A6(図2の左右方向に延びるリンク)及びリンクB1〜B4(図2の上下方向に延びるリンク)から構成されており、油圧シリンダ39の作動により後述するスプール弁48B(第2バルブ)を開閉させる機能を担っている。
【0023】
パイロット弁41は油供給源と接続され、スプール41Cが移動することでスピードリレー42のポート42Aへの油の流入又は、ポート42Aからの作動油の流出を切替可能となっている。
【0024】
スピードリレー42は、パイロット弁41から油が供給されることで、ピストン42Dが上昇する。またピストン42Dは内蔵されたスプリング42Eによって下降する方向に付勢される構成となっている。
【0025】
リンクA1は一端がヒンジで回転可能に固定されており、他端がリンクB1の下端と接続されている。また、リンクA1は長さ方向の略中間箇所で、油圧シリンダ39のロッド39Fと接続されている。
【0026】
リンクA2は一端がリンクB1の上端、他端がリンクB2の下端と接続されている。また、リンクA2は長さ方向における中間よりもリンクB2寄りの箇所で、パイロット弁41のスプール41Cから伸びるロッド41Fと接続されている。リンクA3は長さ方向における略中間箇所で回転可能に固定されている。
【0027】
リンクA3の一端はリンクB2の上端と接続され、他端はスピードリレー42のロッド42Fと接続されている。リンクA4は長さ方向の略中間箇所で回転可能に固定されている。リンクA4の一端はスピードリレー42のロッド42Fの上端と接続され、他端はリンクB3の下端と接続されている。
【0028】
リンクA5は長さ方向の略中間箇所で回転可能に固定されている。リンクA5の一端はリンクB3の上端と接続され、他端はリンクB4の上端と接続されている。リンクA6の一端はリンクB4の下端と接続され、他端はサーボモータ48のピストン48Dから延びるロッド48Fと接続されている。
【0029】
また、リンクA6は、長さ方向において中間よりリンクB4寄りの箇所で、サーボモータ48のスプール48Cから延びるロッド48Gの上端と接続されている。なお、上述した各リンク及び各ロッドの接続箇所は、それぞれヒンジによって回転可能に接続されている。
【0030】
サーボモータ48は、油供給源と接続されており、付設されたスプール弁48Bのスプール48Cが移動(スプール弁48Bの開閉)することで、A室48Aへの作動油の流入及びA室48Aからの作動油の流出を切替可能となっている。また、A室48Aに取り付けられたピストン48Dはスプリング48Eによって上昇する方向に付勢されている。
【0031】
モータ動力伝達機構49は、アームC1、C2及びロッドC3から構成されている。アームC1の一端は、サーボモータ48のロッド48F上端と回転可能に接続されており、他端はロッドC3の一端に取り付けられている。ロッドC3は細長い円柱状をなし、ブラケット33に対して、軸方向に回転可能に取り付けられている。ロッドC3の他端はアームC2の一端に取り付けられている。アームC2の一端はブラケット34に対して回転可能に取り付けられている。アームC2の他端は中継部材50を介して蒸気加減弁32に接続されており、アームC2が一端を中心として回転することで蒸気加減弁32が上下(開閉)する構成となっている。
【0032】
油圧シリンダ39のロッド39Fの上端には、差動トランス55が取り付けられている。また、アームC1には中継部材57を介して差動トランス56が取り付けられている。両差動トランス55、56は可動側であるコアと、固定側である1次コイル及び2次コイル(いずれも図示せず)を主体に構成され、各コアが油圧シリンダ39のロッド39F及び中継部材57にそれぞれ取り付けられている。
【0033】
これにより、1次コイルを励磁させた状態で、コアの位置が変位すると、2次コイルからは、そのコアの位置に対応した誘起電圧が発生する。このため、差動トランス55によって油圧シリンダ39の変位、差動トランス56によってアームC1の変位を検出可能となっている。差動トランス55、56は、それぞれ制御装置37と電気的に接続され、各変位に対応した信号が制御装置37に出力される。なお、制御装置37は、油圧シリンダ39の2つの差動トランス55A、55Bから、それぞれ出力された信号を比較して、出力の大きい信号を油圧シリンダ39の変位として取得する。これにより、差動トランス55A、55Bのうち、いずれか一方に動作不良が生じた場合であっても、油圧シリンダ39の変位を確実に取得できる。
【0034】
制御装置37は、給水ポンプ16の目標給水量から蒸気加減弁32の目標開度を算出する。そして、蒸気加減弁32の目標開度から油圧シリンダ39の目標変位を算出する。制御装置37は、サーボ弁38に制御信号を出力して、油圧シリンダ39が目標変位となるようにサーボ弁38の開度を調整する。なお、制御装置37からサーボ弁38へ出力される制御信号は、制御装置37にフィードバックされる構成となっており、制御信号が正しく出力されているかを監視可能となっている。
【0035】
さて、制御装置37には、2種類の警報装置70A、70Bが電気的に接続されている。各警報装置70A、70Bは例えばブザー、表示ランプから構成され、発電プラントSの運転員に開閉機構30の異常を伝える機能を担っている。制御装置37は、蒸気加減弁32の目標開度と差動トランス56から出力されるアームC1の変位(蒸気加減弁32の開度に対応)との第1偏差を算出する。
【0036】
制御装置37内の記憶部37Aには第1設定値、第1所定時間が記憶されている。そして、制御装置37は、第1偏差が第1設定値以上となった状態が第1所定時間継続したことを条件に警報装置70Aへ信号を出力し、警報装置70Aを作動させる。なお、第1設定値及び第1所定時間は、発電プラントの通常運転時に取得された第1偏差のデータに基づいて決定される。本実施形態では、例えば、第1偏差が±20%(第1設定値)以上となった状態が、2秒(第1所定時間)以上継続した場合に、警報装置70A(第1警報装置)を作動させるように設定されている。
【0037】
また、記憶部37Aには第2設定値、第2所定時間が記憶されている。制御装置37は、油圧シリンダ39の目標変位と差動トランス55から出力された油圧シリンダ39の変位との第2偏差を算出する。そして、制御装置37は、第2偏差が第2設定値以上となった状態が第2所定時間継続したことを条件に警報装置70Bへ信号を出力し、警報装置70B(第2警報装置)を作動させる。
【0038】
なお、第2設定値及び第2所定時間は、第1設定値及び第1所定時間と同様に、発電プラントの通常運転時に取得された第2偏差のデータに基づいて決定される。本実施形態では、例えば、第2偏差が±15%(第2設定値)以上となった状態が、7秒(第2所定時間)以上継続した場合に、警報装置70B(第2警報装置)を作動させるように設定されている。
【0039】
また、記憶部37Aには、トリップ設定値が記憶されている。トリップ設定値は上述した第1設定値より高い値で設定され、本実施形態では例えば、±25%で設定されている。制御装置37は、制御装置80と電気的に接続されている。制御装置37は、第1偏差とトリップ設定値とを比較することで、第1偏差がトリップ設定値に達したかを判定し、その判定結果を、制御装置80に出力する。
【0040】
また、制御装置81は、原子炉11の水位計15及び制御装置80と電気的に接続されている。制御装置81に設けられた記憶部81Aには、予め設定された複数の水位レベルが記憶されている。制御装置81は水位計15から出力される原子炉水位が、設定された水位レベルの範囲内にあるかを判定し、その判定結果を、制御装置80に出力する。
【0041】
制御装置80は、開閉機構30、及び各給水ポンプ17(17a、17b)とそれぞれ電気的に接続されている。制御装置80は、制御装置37、81からの出力を受け、次の条件(1)、(2)を同時に満たした場合には、給水ポンプ16の運転を停止させ、給水ポンプ17の運転に切り替える機能を担っている。
条件(1)第1偏差がトリップ設定値に達する(+25%又は−25%になる)。
条件(2)水位計から出力される原子炉水位が、設定された水位レベルの範囲外となる。
なお、制御装置80から、給水ポンプ16の運転を停止させるには、制御装置80から、開閉機構30に指令を送ることで、蒸気加減弁32を閉じればよい。また、制御装置80から、制御装置37に指令信号を送ることで、制御装置37に蒸気加減弁32を閉じさせる構成としてもよい。
【0042】
(3)発電プラントの運転方法
次に発電プラントSの運転方法について説明をする。原子炉11を起動させるには、制御棒11Bを燃料集合体11Aから引き抜くことで核分裂を開始させる。これにより原子炉11内の軽水が沸騰することで発生した蒸気が発電タービン12に送られる。これと同時に電動駆動の給水ポンプ17aを駆動させ、原子炉11に給水を行う。さらに制御棒11Bを引き抜いてゆくことで原子炉の出力を上昇させ、発電タービンの出力(原子炉からの蒸気量に比例)が定格発電時の20%を超えた時点で、例えば、制御装置80からの指令により、給水ポンプ17aを停止させ、代わりにタービン駆動の給水ポンプ16aを駆動させる。
【0043】
そして、さらに制御棒11Bを引き抜いてゆくのと同時に再循環ポンプ14の出力を上昇させることで、原子炉11からの蒸気量を増加させてゆく。蒸気量の増加に対応して、給水ポンプ16aの蒸気加減弁32を開いてゆくことで、原子炉圧力容器への給水量を増加させる。そして出力が50%を超えた時点で、給水ポンプ16aに加えて給水ポンプ16bを駆動させる。これ以降は、給水ポンプ16a、16bの各蒸気加減弁32の開度を開いてゆくことで、給水ポンプ16a、16bの給水量を増加させてゆく。
【0044】
蒸気加減弁32を開くには、次のようにする。まず、制御装置37からサーボ弁38へ制御信号が出力される。これにより油圧シリンダ39のポート39Aに作動油が供給されると、油圧シリンダ39のロッド39Fは上昇し、リンクA2の一端(点53)が上昇する。これによりパイロット弁41のスプール41Cが上側に持ち上げられる。すると、作動油がパイロット弁41からスピードリレー42に供給され、スピードリレー42のピストン42Dはスプリング42Eの付勢力に抗して上昇する。なお、ピストン42Dが上昇することで、リンクA2の点54が下降する。このため、スプール41Cが下降し、ポート42Aへの作動油の供給が停止される。
【0045】
スピードリレー42のピストン42Dが上昇することで、リンクA4の一端(点43)が上昇すると、他端(点44)は下降し、リンクA6の一端(点45)側が持ち上げられる。これにより、サーボモータ48のスプール48Cが持ち上げられると、作動油がA室48Aへ供給され、ロッド48Fが下降する。
【0046】
これにより、ロッド48Fが下降することで、アームC1、ロッドC3、アームC2の順に動力が伝達され、結果、蒸気加減弁32が持ち上げられる(開動作)。一方、サーボモータ48が下降することにより、リンクA6の他端(点47)が下降する。これによって、スプール48Cが押し下げられ、A室48Aへの作動油の供給が停止される。これにより、蒸気加減弁32が停止して目標開度となる。なお、蒸気加減弁32を閉じるには、制御装置37からサーボ弁38へ制御信号を出力し、油圧シリンダ39のポート39Bに作動油が供給してやればよい。この場合の開閉機構30の各構成部品の動作は、上記した蒸気加減弁32を閉じる場合と逆の動作となるため、説明を省略する。
【0047】
制御装置37では、目標開度を増加させることで、蒸気加減弁32を開いてゆく。上記の動作中に制御装置37では、蒸気加減弁32の目標開度と実際の開度(差動トランス56の変位)との第1偏差、及び、油圧シリンダ39の目標開度と実際の変位(差動トランス55の変位)との第2偏差を監視している。
【0048】
上記のように、原子炉11からの蒸気量を増加させると同時に給水ポンプ16a、16bの給水量(蒸気加減弁の開度)を増加させてゆく。これにより原子炉11内の水位を一定範囲内に保ちつつ、発電タービン12の出力を上げ発電量を増加させる。
【0049】
(4)開閉機構30に異常が発生した場合
次に、蒸気加減弁32を開いてゆく途中で、開閉機構30において異常が発生した場合の動作について説明し、本実施形態の開度監視方法を説明する。
(4−1)事例1(警報装置70Aだけ作動する場合)
蒸気加減弁32を開いてゆく途中で、仮に、ピストン42Dとシリンダ(スピードリレー42のシリンダ)とが固着した場合は、油圧シリンダ39を動作させても、ロッド42Fの動作が規制される。このためリンクA3〜A6、B2〜B4が動作せずアームC1が変位しない。このため、蒸気加減弁32の目標開度は上昇してゆくのに対して、差動トランス56の変位は一定のままであるから、上述した第1偏差が増加してゆく。そして、第1偏差が20%(第1設定値)を超えた状態が2秒(第1所定時間)以上継続すると、制御装置37は警報装置70Aを作動させる。なお、ピストン42Dとシリンダとの固着は、例えばスピードリレー42のピストン42Dとシリンダとの摺動箇所に、摺動によって生じた磨耗粉が入り込むことなどで発生する。
【0050】
一方、図3に示すように、ピストン42Dとシリンダとが固着(スピードリレー42の固着)した場合であっても、リンクA2の点54を中心として、リンクA1、A2、B1は、動作可能である(図3の2点鎖線)。このため、スピードリレー42の固着に関わらず、油圧シリンダ39は、目標変位に追従して変位する。このため、第2偏差は増加しないから、第2設定値を超えず、警報装置70Bは作動しない。
【0051】
なお、上記のような警報装置70Aだけが作動する事例は、スピードリレー42の固着以外にも、例えば、リンクA6の固着によって、サーボモータ48のスプール48Cが正常に動作しない場合などが挙げられる。
【0052】
(4−2)事例2(警報装置70A、警報装置70Bの双方が作動する場合)
また、蒸気加減弁32を開いてゆく途中で、油圧シリンダ39が動作不良を起こした場合を次に説明する。この場合は油圧シリンダ39の目標変位が増加してゆくのに対して、差動トランス55の変位が一定のままであるから、第2偏差が増加してゆく。そして、第2偏差が15%(第2設定値)以上となった状態が7秒(第2所定時間)以上継続すると、制御装置37は警報装置70Bを作動させる。
【0053】
一方、油圧シリンダ39が動作しない場合は、リンク機構31も動作しないから、蒸気加減弁32の目標開度の上昇に対して、差動トランス56の変位は一定のままである。このため、第1偏差も増加してゆく。そして、第1偏差が20%(第1設定値)以上となった状態が2秒(第1所定時間)以上継続すると、制御装置37は警報装置70Aを作動させる。このように油圧シリンダ39が動作不良を起こした場合は、警報装置70A、70Bの双方が作動する。
【0054】
以上説明したように、本実施形態では、蒸気加減弁32の開度(本実施形態では、アームC1の変位に比例)と目標開度との偏差(第1偏差)が設定値以上となった場合に、警報装置70Aが動作することで、開閉機構30の動作異常を運転員に知らせることができる。これにより運転員は、この動作異常に対して迅速な対応をすることができる。
【0055】
さらに、仮に、警報装置70A、警報装置70Bの双方が作動した場合は、蒸気加減弁32の開度不良は油圧シリンダ39の動作不良によるものと推測できる。このため運転員は、油圧シリンダ39の動作に影響を与える箇所(サーボ弁38、油圧シリンダ39、パイロット弁41、リンクA1〜2等)で異常が発生したと推測し、異常発生箇所の調査をすればよい。
【0056】
また、警報装置70Aだけが作動した場合は、油圧シリンダ39は正常に動作していると推測されるから、運転員は、開閉機構30のうち、油圧シリンダ39の動作に影響を与える箇所以外で異常が発生したと推測し、異常発生箇所の調査をすればよい。
【0057】
以上のことから、運転員は警報装置70A、70Bの作動から、異常が発生した箇所を絞り込むことができる。このため、異常個所を特定するまでの時間を短縮することができ、より迅速な対応ができる。これにより、第1偏差がトリップ設定値となる前に、異常の原因を取り除いて、給水ポンプ16a、16bのトリップ(緊急停止)を防ぐことも可能となる。
【0058】
また、第1偏差及び第2偏差が各所定時間継続して、各設定値を超えた場合にのみ、対応する各警報装置を作動させる構成としてある。このため、蒸気加減弁32の開閉機構30の動作時において、開閉機構30の異常に起因しない瞬間的な偏差の増加(例えば、油圧の動力伝達の遅れなどで発生する偏差)による各警報装置の作動を防止できる。このため、開閉機構30に異常が発生した場合にのみ各警報装置70A、70Bは作動し、運転員は異常発生を確実に知ることができる。
【0059】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0060】
(1)上記実施形態では、アームC1に差動トランスを設置して、その変位を蒸気加減弁32の開度として取得したが、これに限定されない。他の箇所に差動トランスを設けてもよく、アームC2に差動トランスを設置して、その変位を蒸気加減弁32の開度として取得する構成としてもよい。
【0061】
(2)第1設定値、第2設定値、第1所定時間、第2所定時間は上記実施形態の値に限定されない。発電プラントの通常運転時に計測される第1、第2偏差のデータから、任意に設定可能である。
【0062】
(3)上記実施形態では、発電プラントとして原子力発電プラントSを例示したが、これに限定されない。例えば、火力発電プラントのタービン駆動ポンプに付設された蒸気加減弁の監視に適用してもよい。
【0063】
(4)上記実施形態では、蒸気加減弁32の開度(変位)及び油圧シリンダ39の変位を差動トランスによって取得する構成としたが、これに限定されない。例えば、リニアエンコーダなどで各変位を取得する構成としてもよい。
【0064】
(5)上記実施形態では、制御装置37にて第1偏差がトリップ設定値に達するかを判定し(条件1)、制御装置81にて、原子炉水位が設定された水位レベルの範囲内にあるか判定した(条件2)。そして、条件1及び条件2に基づいて、制御装置80にて給水ポンプ16の運転を停止させ、給水ポンプ17の運転に切り替える構成とした。上記構成に限定されず、例えば、一台の制御装置にて、条件1及び条件2の判定を行い、その判定結果に基づいて、給水ポンプ16の運転を停止させ、給水ポンプ17の運転に切り替える構成としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
16a、16b…給水ポンプ
20a、20b…タービン
30…開閉機構
32…蒸気加減弁
38…サーボ弁(第1バルブ)
39…油圧シリンダ(第1油圧アクチュエータ)
48B…スプール弁(第2バルブ)
48…サーボモータ(第2油圧アクチュエータ)
70A…警報装置(第1警報装置)
70B…警報装置(第2警報装置)
S…原子力発電プラント(発電プラント)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電プラントにおいて、給水ポンプを駆動させるタービンに供給する蒸気量を増減させる蒸気加減弁の開度監視方法であって、
前記蒸気加減弁の開度と目標開度との第1偏差が第1設定値以上となったことを条件に第1警報装置を作動させることを特徴とする蒸気加減弁の開度監視方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸気加減弁の開度監視方法であって、
前記蒸気加減弁の開閉をさせる開閉機構が、
電気信号によって開閉する第1バルブと、
前記第1バルブが開くことで供給される作動油によって動作する第1油圧アクチュエータと、
前記第1油圧アクチュエータの動作によって開閉される第2バルブと、
前記第2バルブが開くことで供給される作動油によって動作し、前記蒸気加減弁を開閉させる第2油圧アクチュエータと、から構成される電気油圧制御式のものにおいて、
前記第1油圧アクチュエータの変位と目標変位との第2偏差が第2設定値以上となったことを条件に第2警報装置を作動させることを特徴とする蒸気加減弁の開度監視方法。
【請求項3】
請求項2に記載の蒸気加減弁の開度監視方法であって、
前記第1偏差が、予め設定された第1所定時間継続して、前記第1設定値以上となったことを条件に前記第1警報装置を作動させ、
前記第2偏差が、予め設定された第2所定時間継続して、前記第2設定値以上となったことを条件に前記第2警報装置を作動させることを特徴とする蒸気加減弁の開度監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−27090(P2011−27090A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176622(P2009−176622)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】