説明

蒸気動力サイクルシステム

【課題】 純物質を作動流体とする蒸気動力サイクルを複数段用いて、熱源の熱を有効利用すると共に、各熱交換器における熱源となる流体側の流路の圧力損失を低減して、熱源となる流体と作動流体とを効率よく熱交換させられる蒸気動力サイクルシステムを提供する。
【解決手段】 複数段設けた各蒸気動力サイクル部10、20の蒸発器11、21と凝縮器13、23における熱源となる流体の各流路を、蒸気動力サイクル部10、20間で所定の順序で直列に接続するだけでなく、各蒸発器と凝縮器をそれぞれ直交流型熱交換器とし、さらに熱源の流体が流れる向きにそれぞれ並べることから、蒸発器や凝縮器をなす各熱交換器では、各流体の流入出方向と熱交換器内での流れ方向がいずれも並び方向と同じとなり、熱源の流体側の流路の長さを必要最小限とすると共に流路形状を単純化でき、その圧力損失を抑えて、複数段化による効率向上を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体を加熱、冷却させつつ循環させ、相変化を繰返す作動流体に仕事を行わせて動力を得る蒸気動力サイクルシステムに関し、特に、複数構築した蒸気動力サイクルで、作動流体と熱交換する高温熱源や低温熱源としての各流体を共通に用いる、複数段構成の蒸気動力サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
作動流体を加熱、冷却させつつ循環させ、相変化を繰返す作動流体に仕事を行わせて動力を得る蒸気動力サイクルとしては、蒸発器、タービン、凝縮器及びポンプを有し、水を作動流体として用いるランキンサイクルが一般的である。
【0003】
ただし、発電装置等として蒸気動力サイクルを用いるにあたり、特に海洋温度差発電装置への適用など、高温熱源と低温熱源のいずれの温度も水の沸点より低く、また熱源間の温度差が小さい場合には、作動流体を適切に相変化させて有効に熱を動力に変換できるようにするため、作動流体として一般的な水ではなく、アンモニア等の水より沸点の低い流体を用いたランキンサイクル、あるいは、水や水以外の互いに沸点の異なる複数種類の流体をそれぞれ混合して、水より沸点を低くした混合媒体、を作動流体として用いるカリーナサイクル等の蒸気動力サイクルが従来から提案されている。
【0004】
従来の低沸点作動流体によるランキンサイクルの例として、これを用いた温度差発電装置として特開昭52−156246号公報に開示されるものや、三つのサイクルを設けた海洋温度差発電装置として特開平5−340342号公報に開示されるものがある。また、従来の混合媒体を作動流体とした蒸気動力サイクルの例としては、特開昭57−200607号公報に記載されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−156246号公報
【特許文献2】特開平5−340342号公報
【特許文献3】特開昭57−200607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の蒸気動力サイクルは前記各特許文献に示されるような構成となっており、このうち、前記特許文献3に例示される、混合媒体による蒸気動力サイクルは、相変化の際に作動流体の温度が変化するという特性により、作動流体の蒸発や凝縮において熱源側の温度変化に沿った温度変化を生じることとなり、純物質の作動流体を用いるランキンサイクルに比べて、熱サイクル効率を高めることができるという利点を有している。
【0007】
しかしながら、作動流体として混合媒体を用いることで、混合媒体をなす物質間の熱伝達などの影響を受け、蒸発器や凝縮器などの熱交換器における伝熱性能が低下し、熱交換器の性能が相対的に悪化することとなる。このため、熱交換器の大規模化など処理能力向上を図る必要が生じ、結果として熱交換器のコスト増大を招き、こうした熱交換器のコスト面がシステム全体の経済性を悪化させてしまうことから、商用化が難しいという課題を有していた。
【0008】
一方、前記特許文献1に示される、作動流体に純物質を用いる一般的なランキンサイクルは、熱サイクル効率の点で劣るものの、熱交換器をはじめとして単純な構成にすることができる。こうした方式を用いた場合の熱サイクル効率の向上のためには、前記特許文献2に示されるように、ランキンサイクルを複数段化して、温海水や冷海水などの熱源となる流体を段階的に利用する方法が提案されており、複数段化された各サイクルの状態変化を熱源側の温度変化にそれぞれ対応させ、熱源の有する熱を作動流体で適切に回収して損失分をより小さくすることで、効率向上を図れることとなる(図18参照)。
【0009】
ただし、ランキンサイクルを複数段化した場合、各サイクルの蒸発器や凝縮器における、熱源となる流体の流路を、蒸発器同士や凝縮器同士でそれぞれ直列に接続する必要がある。例えば、海洋温度差発電装置を構成するランキンサイクルを複数段化する場合、蒸発器や凝縮器をなす熱交換器に向流型の一般的なプレート式熱交換器を用いると、複数の熱交換器の現実的な配置関係を考慮すれば、各熱交換器における熱源となる流体としての海水の流路は、熱交換器間に管路等を介在させる状態で直列接続されることとなる(図19参照)。一方、複数段化に伴い、各サイクルにおける蒸発器や凝縮器での熱源となる流体の出入口温度差が小さくなることで、蒸発器や凝縮器における作動流体側の流量に対する熱源となる流体側の流量の比率は、一段(単段)の場合より大きくせざるを得ない。
【0010】
こうした理由から、ランキンサイクルが一段の場合と複数段の場合とで同じ蒸発器や凝縮器を用いたと仮定しても、複数段の場合では一段の場合に比べ、蒸発器や凝縮器での、熱源となる流体としての海水の圧力損失が、少なくとも段数分の合計を大きく超える数倍の大きさに増加し、これに伴い、ポンプ用途等のシステムの自己消費電力も段数分の合計を超える大きさになってしまうという課題を有していた。
【0011】
特に、海洋温度差発電システムの場合、許容される自己消費電力は、一般に発電端出力の30%程度までであることから、複数段のランキンサイクルにおける自己消費電力が極めて大きくなることは、これを用いる発電システムを有効に運用できないことを意味し、複数段化はその実現性の点で問題があった。
【0012】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、純物質を作動流体として用いる蒸気動力サイクルを複数段用いて、熱源の温度差に対応する熱を有効利用すると共に、各熱交換器における熱源となる流体側の流路の圧力損失を低減して、熱源となる流体をスムーズに各熱交換器に導入して作動流体と効率よく熱交換させられ、蒸気動力サイクルの構築及び運用に係る費用対効果を高められる蒸気動力サイクルシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る蒸気動力サイクルシステムは、作動流体を液相の状態で所定の高温流体と熱交換させ、前記作動流体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で得られた気相の作動流体を導入されて作動流体の保有する熱エネルギを動力に変換する膨張機と、当該膨張機を出た気相の作動流体を所定の低温流体と熱交換させ、凝縮させる凝縮器と、当該凝縮器を出た液相の作動流体を前記蒸発器へ向けて圧送するポンプとを少なくとも有する、蒸気動力サイクル部を複数備え、当該複数の蒸気動力サイクル部が、各々の蒸発器における高温流体の流路同士を直列に相互接続されると共に、各々の凝縮器における低温流体の流路同士を直列に相互接続され、且つ、高温流体と低温流体の流通に係る各蒸気動力サイクル部の順序が高温流体の場合と低温流体の場合とで互いに逆順又は同順となる接続設定とされてなり、前記各蒸気動力サイクル部の蒸発器が、作動流体の流れ方向と高温流体の流れ方向とが直交するクロスフロー型熱交換器とされると共に、高温流体側の流路断面積が作動流体側に比べ大きく、且つ高温流体側の流路長が作動流体側に比べて短い熱交換器形状とされてなり、蒸発器同士を高温流体の流れ方向に並べた配置としてそれぞれ配設され、前記各蒸気動力サイクル部の凝縮器が、作動流体の流れ方向と低温流体の流れ方向とが直交するクロスフロー型熱交換器とされると共に、低温流体側の流路断面積が作動流体側に比べ大きく、且つ低温流体側の流路長が作動流体側に比べて短い熱交換器形状とされてなり、凝縮器同士を低温流体の流れ方向に並べた配置としてそれぞれ配設されるものである。
【0014】
このように本発明においては、複数段にわたり設けた各蒸気動力サイクル部の蒸発器と凝縮器における熱源となる高温流体や低温流体の各流路を、蒸気動力サイクル部間で所定の順序で直列に接続するだけでなく、各蒸気動力サイクル部の蒸発器と凝縮器をそれぞれクロスフロー型熱交換器とし、さらに熱源の流体が流れる向きにそれぞれ並べることにより、蒸発器や凝縮器をなす各熱交換器では、各流体の流入、流出方向と熱交換器内での流れの向きが同じになり、さらに熱交換器同士が適切に配置されることとなり、全ての蒸気動力サイクル部にわたる熱源の流体側の流路の流路長を必要最小限とすると共に流路形状を単純化し、その圧力損失を抑えて、各蒸気動力サイクル部で熱源の流体をスムーズに通過させられ、ポンプ等の、流体の流通に要するエネルギー消費や設備コストを抑えられる。また、複数段とした蒸気動力サイクル部のそれぞれで各熱源の流体と作動流体との間で無理なく熱交換が可能となり、確実に熱サイクル効率を高めて有効に動力を取出せる。
【0015】
また、本発明に係る蒸気動力サイクルシステムは必要に応じて、作動流体を液相の状態で所定の高温流体と熱交換させ、前記作動流体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で得られた気相の作動流体を導入されて作動流体の保有する熱エネルギを動力に変換する膨張機と、当該膨張機を出た気相の作動流体を所定の低温流体と熱交換させ、凝縮させる凝縮器と、当該凝縮器を出た液相の作動流体を前記蒸発器へ向けて圧送するポンプとを少なくとも有する、蒸気動力サイクル部を複数備え、当該複数の蒸気動力サイクル部が、各々の蒸発器における高温流体の流路同士を直列に相互接続されると共に、各々の凝縮器における低温流体の流路同士を直列に相互接続され、且つ、高温流体と低温流体の流通に係る各蒸気動力サイクル部の順序が高温流体の場合と低温流体の場合とで互いに逆順又は同順となる接続設定とされてなり、一の蒸気動力サイクル部における膨張機出口から凝縮器に向う作動流体を、他の蒸気動力サイクル部におけるポンプ出口から蒸発器に向う作動流体と熱交換させる、予熱用熱交換器が配設されるものである。
【0016】
このように本発明においては、一の蒸気動力サイクル部における蒸発器で高温流体と熱交換し、さらに膨張機で仕事を行わせた後の気相の作動流体を、予熱用熱交換器で、他の蒸気動力サイクル部におけるポンプから蒸発器に向う作動流体と熱交換させ、気相の作動流体の保有する熱を、他の蒸気動力サイクル部における、より温度の低い他の作動流体で回収することにより、一の蒸気動力サイクル部では凝縮器における熱交換をより低温側で行えると共に、他の蒸気動力サイクル部では蒸発器における熱交換をより高温側で行え、特にこの蒸発器では、蒸発器より前の予熱用熱交換器によりあらかじめ作動流体が温度上昇する分、蒸発器における作動流体の顕熱域での熱交換を減らして、蒸発器における作動流体への熱伝達の効率を向上させられるなど、システム全体で熱損失を抑えて熱効率を高められる。
【0017】
また、本発明に係る蒸気動力サイクルシステムは必要に応じて、作動流体を液相の状態で所定の高温流体と熱交換させ、前記作動流体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で得られた気相の作動流体を導入されて作動流体の保有する熱エネルギを動力に変換する膨張機と、当該膨張機を出た気相の作動流体を所定の低温流体と熱交換させ、凝縮させる凝縮器と、当該凝縮器を出た液相の作動流体を前記蒸発器へ向けて圧送するポンプとを少なくとも有する、蒸気動力サイクル部を複数備え、当該複数の蒸気動力サイクル部が、各々の蒸発器における高温流体の流路同士を直列に相互接続されると共に、各々の凝縮器における低温流体の流路同士を直列に相互接続され、且つ、高温流体と低温流体の流通に係る各蒸気動力サイクル部の順序が高温流体の場合と低温流体の場合とで互いに逆順又は同順となる接続設定とされてなり、前記各蒸気動力サイクル部が、前記蒸発器と膨張機との間の作動流体流路に、前記蒸発器を出た作動流体を気相分と液相分とに分離し、気相の作動流体を膨張機に向わせる一方、液相の作動流体を蒸発器の入口側に向わせる気液分離器を有するものである。
【0018】
このように本発明においては、蒸発器を出る作動流体の乾き度を下げて、作動流体の気相分と液相分が混在する状態とした上で、気液分離器で作動流体を気相分と液相分とに分離し、気相の作動流体を膨張機に向わせる一方、液相の作動流体を蒸発器入口側に向わせることにより、蒸発器に高温の液相作動流体が還流されて、蒸発器入口における作動流体全体の温度が上昇することとなり、蒸発器における熱交換をより高温側で行えると共に、作動流体が温度上昇する分、蒸発器における作動流体の顕熱域での熱交換を減らして、蒸発器における作動流体への熱伝達の効率を向上させられるなど、システム全体で熱損失を抑えて熱効率を高められる。さらに、気液分離器で分離された液相の作動流体の、蒸発器への流入状態を調整するようにすれば、蒸発器における作動流体の蒸発状態を変化させることができ、蒸気動力サイクル部に対する負荷や季節変化等による熱源温度の変動に対応して、システムの稼働状態の安定化が図れる。
【0019】
また、本発明に係る蒸気動力サイクルシステムは必要に応じて、一の蒸気動力サイクル部における膨張機出口から凝縮器に向う作動流体を、他の蒸気動力サイクル部におけるポンプ出口から蒸発器に向う作動流体と熱交換させる、予熱用熱交換器が配設されるものである。
【0020】
このように本発明においては、クロスフロー型熱交換器からなる蒸発器と凝縮器をそれぞれ有する複数の蒸気動力サイクル部のうち、一の蒸気動力サイクル部の膨張機で仕事を行わせた後の気相の作動流体を、他の蒸気動力サイクル部におけるポンプから蒸発器に向う作動流体と熱交換させる予熱用熱交換器を設けて、一の蒸気動力サイクル部における作動流体の保有する熱を、他の蒸気動力サイクル部における他の作動流体で回収することにより、蒸気動力サイクル部間での作動流体同士の熱交換を経て、一の蒸気動力サイクル部では凝縮器における熱交換をより低温側で行え、且つ他の蒸気動力サイクル部では蒸発器における熱交換をより高温側で行えて、システム全体における熱損失を抑えられることとなり、各蒸発器や凝縮器で熱源の流体側の流路の圧力損失を低く抑えられることと合わせて、システムの総合的な効率を確実に高められる。
【0021】
また、本発明に係る蒸気動力サイクルシステムは必要に応じて、前記各蒸気動力サイクル部が、前記蒸発器と膨張機との間の作動流体流路に、前記蒸発器を出た作動流体を気相分と液相分とに分離し、気相の作動流体を膨張機に向わせる一方、液相の作動流体を蒸発器の入口側に向わせる気液分離器を有するものである。
【0022】
このように本発明においては、各蒸気動力サイクル部の蒸発器を出る作動流体の乾き度を下げて、作動流体の気相分と液相分が混在する状態とした上で、気液分離器で作動流体を気相分と液相分とに分離し、気相の作動流体を膨張機に向わせる一方、液相の作動流体を蒸発器入口側に向わせることにより、蒸発器に高温の液相作動流体が還流されて、蒸発器入口における作動流体全体の温度を上昇させられることとなり、蒸発器における熱交換をより高温側で行えると共に、作動流体が温度上昇する分、蒸発器における作動流体の顕熱域での熱交換を減らして、蒸発器における作動流体への熱伝達の効率を向上させられるなど、システム全体で熱損失を抑えて熱効率を高められる。さらに、気液分離器で分離された液相の作動流体の、蒸発器への流入状態を調整するようにすれば、蒸発器における作動流体の蒸発状態を変化させることができ、蒸気動力サイクル部に対する負荷や季節変化等による熱源温度の変動に対応して、システムの稼働状態の安定化が図れる。
【0023】
また、本発明に係る蒸気動力サイクルシステムは必要に応じて、所定の蒸気動力サイクル部における気液分離器から蒸発器の入口側に向う液相作動流体を、前記所定の蒸気動力サイクル部とは別の蒸気動力サイクル部におけるポンプ出口から蒸発器に向う作動流体と熱交換させる、再生熱交換器が配設されるものである。
【0024】
このように本発明においては、所定の蒸気動力サイクル部における気液分離器で気相分と分離された高温液相作動流体を、再生熱交換器で、別の蒸気動力サイクル部におけるポンプから蒸発器に向う作動流体と熱交換させ、高温液相作動流体の保有する熱を、別の蒸気動力サイクル部における、より温度の低い別の作動流体で回収することにより、システム全体における熱損失を抑えられることに加え、特に前記別の蒸気動力サイクル部では、蒸発器より前の再生熱交換器であらかじめ作動流体が温度上昇する分、蒸発器における作動流体の顕熱域での熱交換を減らして、蒸発器における作動流体への熱伝達の効率を向上させられることとなり、システム全体として熱効率を高められる。
【0025】
また、本発明に係る蒸気動力サイクルシステムは必要に応じて、前記各蒸気動力サイクル部の蒸発器及び凝縮器が、複数並列状態とされた略矩形状金属薄板製の各熱交換用プレートを、所定の略平行をなす二端辺部位で隣合う一の熱交換用プレートと水密状態として溶接される一方、隣合う他の熱交換用プレートと前記二端辺と略直交する他の略平行な二端辺部位で水密状態として溶接されて全て一体化され、各熱交換用プレート間に作動流体の通る第一流路と高温流体又は低温流体の通る第二流路とをそれぞれ一つおきに生じさせる熱交換器本体をそれぞれ有してなるものである。
【0026】
このように本発明においては、複数並列状態とされた熱交換用プレートを溶接一体化して、各熱交換用プレート間に作動流体の通る第一流路と、熱源となる高温流体又は低温流体の通る第二流路とをそれぞれ一つおきに生じさせた、プレート式熱交換器である熱交換器本体を、蒸気動力サイクル部の蒸発器及び凝縮器の要部として用いることにより、各第一流路を通る作動流体と各第二流路を通る熱源の流体とが直交流をなす状態を得つつ、熱交換器本体の四方に各流体の流入出する開口部を最大限確保でき、蒸発器又は凝縮器を並べた状態における熱源の流体側の流路を、その流路断面積の変化の少ない簡略な流路形状として圧力損失を大幅に抑えることができる。また、作動流体と高温流体又は低温流体とが各熱交換用プレートを介して効率よく熱交換を行うことができ、熱交換能力を十分確保しつつ熱交換器のコンパクト化が図れると共に、作動流体を流入出させる配管構成も簡略化でき、熱交換器周囲のスペースを有効に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムの概略系統図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおける蒸発器の概略構成図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおける凝縮器の概略構成図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおける蒸発器又は凝縮器をなす熱交換器本体の要部概略斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムでの複数熱交換器における海水の流路の概略説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおける他の蒸発器の概略構成図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおける他の凝縮器の概略構成図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおける別の蒸発器の概略構成図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムの概略系統図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおける蒸発器の顕熱域での熱交換量低減状態説明図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおける他の概略系統図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムの概略系統図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る他の蒸気動力サイクルシステムの概略系統図である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムの概略系統図である。
【図15】本発明の第4の実施形態に係る他の蒸気動力サイクルシステムの概略系統図である。
【図16】本発明の第4の実施形態に係る別の蒸気動力サイクルシステムの概略系統図である。
【図17】本発明の実施例の蒸気動力サイクルシステムに対する比較例となる単段システムの概略系統図である。
【図18】従来のランキンサイクルの複数段化による熱サイクル効率向上状態説明図である。
【図19】従来の複数段化蒸気動力サイクルでの複数熱交換器における海水の流路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態を図1ないし図5に基づいて説明する。本実施形態では、海洋温度差発電装置に適用した例について説明する。
前記各図において本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステム1は、ランキンサイクルをなす複数の蒸気動力サイクル部10、20を備え、各蒸気動力サイクル部10、20における、高温熱源となる高温流体の流路同士を直列に相互接続されると共に、低温熱源となる低温流体の流路同士を直列に相互接続され、且つ、これら高温流体と低温流体の流通に係る各蒸気動力サイクル部10、20の順序が、高温流体の場合と低温流体の場合とで互いに逆順となる接続設定とされてなる複数段構成であり、各蒸気動力サイクル部10、20ごとに作動流体の得た熱エネルギを動力に変換するものである。
【0029】
前記蒸気動力サイクル部10、20は、アンモニアからなる作動流体と前記高温流体としての温海水とを熱交換させ、作動流体蒸気、すなわち気相の作動流体を得る蒸発器11、21と、気相の作動流体を導入されて動作し、作動流体の保有する熱エネルギーを動力に変換する前記膨張機としてのタービン12、22と、このタービン12、22を出た気相の作動流体を前記低温流体としての冷たい深層海水等と熱交換させることで凝縮させて液相とする凝縮器13、23と、凝縮器13、23から取出された作動流体を蒸発器11、21に送込むポンプ14、24とを備える構成である。このうち、タービン12、22及びポンプ14、24については、一般的な蒸気動力サイクルで用いられるのと同様の公知の装置であり、説明を省略する。
【0030】
これら各蒸気動力サイクル部10、20は、高温熱源となる高温流体及び低温熱源となる低温流体をそれぞれ共通に所定の順序で利用するように組合わされる。すなわち、高温流体については、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11を経てから第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器21へ向う順となるように、蒸発器11、21における高温流体の流路同士が接続される。また、低温流体については、第二の蒸気動力サイクル部20の凝縮器23を経てから第一の蒸気動力サイクル部10の凝縮器13へ向う順となるように、凝縮器13、23における低温流体の流路同士が接続される。
【0031】
ただし、各蒸気動力サイクル部10、20における作動流体の流路同士は、互いに独立したものとなっており、各蒸気動力サイクル部10、20ごとに各々の作動流体の得た熱エネルギを動力に変換することとなる。そして、これら蒸気動力サイクル部10、20を組合わせた複数段構成の蒸気動力サイクルシステム1と、タービン12、22により駆動される発電機51、52とで、温度差発電装置が構成される。前記発電機51、52は、公知のタービンを駆動源とする発電に用いられるのと同様のものであり、詳細な説明を省略する。
【0032】
前記蒸発器11、21、及び凝縮器13、23は、いずれも共通して、複数並列状態の熱交換用プレート30aを溶接一体化した熱交換器本体30と、この熱交換器本体30に作動流体を流入出させる管路31a、31bとを備える構成である。
【0033】
また、前記熱交換器本体30の周囲には、熱交換器本体30の一部と接合しつつ起立状態とされ、熱交換器本体30の周囲空間を二つの領域34、35に分ける隔壁32、及び、この隔壁32で分けられた二つの領域34、35と外部の空間とを区画する区画壁36がそれぞれ配設される。
【0034】
前記熱交換器本体30は、複数並列状態とされた略矩形状金属薄板製の各熱交換用プレート30aを、所定の略平行をなす二端辺部位で隣合う一の熱交換用プレートと水密状態として溶接される一方、隣合う他の熱交換用プレートと前記二端辺と略直交する他の略平行な二端辺部位で水密状態として溶接されて、全て一体化されて形成される構成である(図4参照)。
【0035】
この熱交換器本体30は、各熱交換用プレート30a間に作動流体の通る第一流路30bと高温流体又は低温流体としての海水の通る第二流路30cとをそれぞれ一つおきに生じさせており、前記各第一流路30bを通る作動流体と前記各第二流路30cを通る海水とが直交流をなす、いわゆるクロスフロー型熱交換器の構造を採ることとなる。具体的には、蒸発器11、21の場合、熱交換器本体30では、第一流路30bに作動流体が、第二流路30cに高温流体としての温海水がそれぞれ流通し、各第一流路30bを通る作動流体と各第二流路30cを通る温海水とが直交流をなす。一方、凝縮器13、23の場合、熱交換器本体30では、第一流路30bに作動流体が、第二流路30cに低温流体としての冷海水がそれぞれ流通し、各第一流路30bを通る作動流体と各第二流路10cを通る冷海水とが直交流をなす。
【0036】
また、熱交換器本体30における高温流体又は低温流体側の第二流路30cの流路断面積は、作動流体側の第一流路30bに比べ大きく、且つ、高温流体又は低温流体側の第二流路30cの流路長が作動流体側の第一流路30bに比べて短い形状とされる。さらに、熱交換器本体30は、第二流路30cの一方の開口部分周囲にフランジ30dを形成されてなり、このフランジ30dによって、隔壁32に水密状態として取付けられる構成である。
【0037】
前記隔壁32は、海水を表裏で隔離可能な平板状の壁体として形成され、高温流体又は低温流体としての海水が上端を越えることのない十分な高さとなる起立配置状態で配設される構成である。熱交換器本体30の周囲空間のうち、隔壁32で区画された一方を領域34、他方を領域35とする。隔壁32は、熱交換器本体30の配設位置に対応させて貫通孔32aを穿設され、この貫通孔32a周囲部分を、熱交換器本体30におけるフランジ30dと水密状態で接合させて、各熱交換器本体30と一体化される。
【0038】
蒸発器11、21の場合、隔壁32における一方の領域34側の面の貫通孔32a周囲部分に、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11をなす熱交換器本体30が取付けられ、また、隔壁32における他方の領域35側の面の貫通孔32a周囲部分には、第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器21をなす熱交換器本体30が取付けられることとなる。
【0039】
凝縮器13、23の場合、隔壁32における一方の領域34側の面の貫通孔32a周囲部分に、第二の蒸気動力サイクル部20の凝縮器23をなす熱交換器本体30が取付けられ、また、隔壁32における他方の領域35側の面の貫通孔32a周囲部分には、第一の蒸気動力サイクル部10の凝縮器13をなす熱交換器本体30が取付けられることとなる。
【0040】
こうして、この隔壁32における貫通孔32a周囲部分の両面に熱交換器本体30が二つ取付けられ、互いに別の蒸発器あるいは凝縮器を構成するこれら二つの熱交換器本体30が、第二流路30cの開口部分同士を向い合わせにした状態で固定される。蒸発器及び凝縮器をなす熱交換器本体30は、クロスフロー型の構造を採ることから、高温流体又は低温流体の、第二流路30cの開口部分に対し流入出する向きと、第二流路30cを流れる向きとは一致しており、二つの熱交換器本体30にわたって流通する高温流体又は低温流体の流れは直線状となる(図5参照)。
【0041】
すなわち、別の蒸発器あるいは凝縮器をなす二つの熱交換器本体30の隔壁32への取付により、二つの蒸発器11、21の高温流体の流路同士を直列に接続し、且つ各蒸発器11、21を高温流体の流れる方向へ並べた状態、並びに、二つの凝縮器13、23の低温流体の流路同士を直列に接続し、且つ各凝縮器13、23を低温流体の流れる方向へ並べた状態が、それぞれ得られる仕組みである。
【0042】
このように、蒸発器11、21同士を高温流体の流れ方向にそのまま並べた配置として直列に接続した状態や、凝縮器13、23同士を低温流体の流れ方向にそのまま並べた配置として直列に接続した状態では、高温流体又は低温流体は最短距離を通る単純な直線状の流れとなり、また、第二流路30cの流路断面積は、作動流体側の第一流路30bに比べ大きく、且つ、第二流路30cの流路長は第一流路30bに比べて短い形状とされていることもあり、複数の蒸発器11、21に対し高温流体が出入りし、且つこれらを通過する際や、複数の凝縮器13、23に対し低温流体が出入りし、且つこれらを通過する際の圧力損失を極めて低く抑えることができる。従って、高温流体や低温流体が複数の蒸発器11、21や凝縮器13、23をそれぞれ通る場合でも、圧力損失の増大を回避して、蒸気動力サイクル部の複数段化による効果を確実に享受できることとなる。
【0043】
前記区画壁36は、熱交換器本体30、及び隔壁32を側方及び下方から取囲むように配設される壁体として形成される構成である。区画壁36は、前記二つの領域34、35を適度な大きさに設定しつつ、これらを外部に対し隔離する。区画壁36の各領域34、35と面する箇所にはそれぞれ開口部(図示を省略)が設けられ、この開口部位置で、これらに接続された海水流通用の管路を通じて、又は隣接する外部の海中から直接、海水が領域34、35に対し流入出する仕組みである。区画壁36の開口部外側には、海水を加圧するポンプ37、38が配設され、加圧した海水を一方の領域34に流入させることで、前記二つの領域34、35における各海水間にヘッド差を生じさせることとなる。
【0044】
蒸発器11、21や凝縮器13、23を使用する状況では、前記二つの領域34、35及び各熱交換器本体30の第二流路30cには、区画壁36の開口部を通じた外部からの海水の流入に伴って海水が存在する。このうち、隔壁32を挟む前記他方の領域35は、海水を自然流入させているが、前記一方の領域34では、海水の自然流入だけでなく、ポンプ37、38による加圧も伴うため、この領域34での海水の水位は、領域35における水位より高い水位とされる。
【0045】
各領域34、35においては、海水の水面位置より下側に熱交換器本体30の全体や管路31a、31bが位置する、すなわち、これらが全て海水中に水没する状態としてもよく、この場合、管路も海水中にあることで、熱交換器本体30を出た作動流体の温度維持が容易となり、管路での作動流体の不要な凝縮又は蒸発の防止が図れ、熱交換効率を高めることができ好ましい。
【0046】
こうして、隔壁32を挟んで、一方の領域34にある海水と、他方の領域35にある海水との間に、ヘッド差としての水位差を与えていることで、一方の領域34から、熱交換器本体30の第二流路30cを通り、隔壁32の貫通孔32aを経て、他の熱交換器本体30の第二流路30cに達し、さらに他方の領域35へ向う海水の流れが生じる仕組みである。
【0047】
そして、各熱交換器本体30の第二流路30cを通る海水の流れが生じるのに伴い、熱交換器本体30では第一流路30bの作動流体と第二流路30cの海水との間で継続して熱交換を行わせることができる。なお、熱交換器本体30を出て領域35に達した海水は、区画壁36の前記他方の領域35に面する部分の開口部から区画壁36の外に流出する。
【0048】
このように、熱源となる高温流体や低温流体としての海水の存在し得る複数の領域を設定する隔壁32を設けると共に、熱交換器本体30をこの隔壁32に沿って配設し、蒸発器11、21や凝縮器13、23の使用時に、熱交換器本体30の第二流路30c部分や隔壁32の要部を、海水中に水没するようにし、また、二つの領域34、35の外部(海中)との連通を維持しつつ、ポンプ37、38による適度な加圧で海水を領域34に流入させることで、熱交換器本体30の第二流路30cに海水がスムーズに流通することとなり、海水の流通に係る圧力損失を抑えられることに加え、大量の海水を流入出させるために、熱交換器本体30において第二流路30cに連通する管路等の複雑な構造を採用せずに済み、管路配設に係るコストを抑えられる。
【0049】
そして、隔壁32により熱交換器本体30に対し第二流路30cに通じる二つの領域34、35を設定していることで、簡易に海水を第二流路30cに導入し且つ第二流路30cから取り出すことができると共に、複数の熱交換器をよりコンパクトに配置構成でき、必要最小限のスペースで効率よく熱交換を行わせることができる。
【0050】
また、熱交換器本体30の近傍には貫通孔32aのある隔壁32のみ設けられ、熱交換器本体30周囲を覆うような耐圧容器等が存在しないことで、熱交換器本体30への作業者のアクセスが極めて容易であり、熱交換器本体30に対する目視点検や洗浄等のメンテナンス作業を確実に行え、熱交換用流体として海水を使用した結果生じる生物汚れにも、洗浄等で適切に対応できる。
【0051】
次に、本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムの動作状態について説明する。前提として、海の表層から高温流体としての温海水を、また、海の所定深さ位置から低温流体としての冷海水を、それぞれ所定の流量を確保しつつ取水して、各蒸気動力サイクル部10、20の蒸発器11、21や凝縮器13、23にそれぞれ導入し、また、蒸発器11、21や凝縮器13、23では、その周囲の二つの領域34、35にそれぞれ存在する海水に、ヘッド差としての水位差を与えることで、一方の領域34から、各熱交換器本体30の第二流路30cを経て、他方の領域35へと向う海水の流れが生じ、熱交換器本体30において作動流体と海水との熱交換を同じ条件で継続できる状態にあるものとする。
【0052】
第一の蒸気動力サイクル部10においては、蒸発器11が、高温流体としてポンプ37で加圧され、領域34を経て導入される温海水と、下側の作動流体の管路31aから導入される全て液相の作動流体とを、熱交換器本体30で熱交換させる。ここで加熱された作動流体のうち、昇温に伴い蒸発して気相となった作動流体は、上部の作動流体の管路31bを経てこの蒸発器11外へ出て、タービン12に向う。
【0053】
蒸発器11を出た高温気相の作動流体は、タービン12に達してこれを作動させ、このタービン12により発電機51が駆動され、熱エネルギーが使用可能な動力、さらに電力に変換される。こうしてタービン12で膨張して仕事を行った気相作動流体は、圧力及び温度を低減させた状態となる。そして、タービン12を出た気相の作動流体は、凝縮器13に導入される。
【0054】
凝縮器13では、第二の蒸気動力サイクル部20側の凝縮器23をなす、隣接した領域34側の熱交換器本体30を先に通過した後で、この凝縮器13をなす領域35側の熱交換器本体30に導入された冷海水と、上側の作動流体の管路31bから熱交換器本体30に導入された気相の作動流体とが、熱交換用プレート30aを介して熱交換し、冷却された気相の作動流体は凝縮して液相に変化することとなる。
【0055】
凝縮器13で凝縮して得られた液相の作動流体は、熱交換器本体30から作動流体の管路31aを経て凝縮器13外に排出される。凝縮器13を出た液相の作動流体は、作動流体としては蒸気動力サイクル部10内で最も低い温度及び圧力となっている。この液相の作動流体は、ポンプ14を経由して加圧された上で、蒸発器11へ向け進むこととなる。
この後、作動流体は蒸発器11内に戻り、前記同様に蒸発器11での熱交換以降の各過程を繰返すこととなる。
【0056】
一方、第二の蒸気動力サイクル部20においては、蒸発器21で、高温流体として、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11をなす、領域34側の熱交換器本体を通過した後の温海水と、下側の作動流体の管路31aから導入される全て液相の作動流体とを、この蒸発器21をなす領域35側の熱交換器本体30で熱交換させる。ここで加熱された作動流体のうち、昇温に伴い蒸発して気相となった作動流体は、上部の作動流体の管路31bから蒸発器21外へ出て、タービン22に向う。
【0057】
蒸発器21を出た高温気相の作動流体は、タービン22に達してこれを作動させ、このタービン22により発電機52が駆動され、前記タービン12及び発電機51の場合と同様、熱エネルギーが最終的に電力に変換される。こうしてタービン22で膨張して仕事を行った気相作動流体は、圧力及び温度を低減させた状態となり、タービン22を出た後、凝縮器23に導入される。
【0058】
凝縮器23では、低温流体としてポンプ38で加圧され且つ領域34を経て熱交換器本体30に導入された温度の低い冷海水と、作動流体の管路31bから熱交換器本体30に導入された気相の作動流体とが、熱交換用プレート30aを介して熱交換し、冷却されて、気相の作動流体は凝縮して液相に変化することとなる。
【0059】
凝縮器23で凝縮して得られた液相の作動流体は、熱交換器本体30下の作動流体の管路31aから凝縮器23外に排出される。凝縮器23を出た液相の作動流体は、作動流体としては蒸気動力サイクル部20内で最も低い温度及び圧力となっている。この液相の作動流体は、ポンプ24を経由して加圧された上で、蒸発器21へ向け進むこととなる。
こうして第二の蒸気動力サイクル部20の作動流体は蒸発器21内に戻り、前記同様に蒸発器21での熱交換以降の各過程を繰返すこととなる。
【0060】
凝縮器23と凝縮器13での各熱交換に連続使用された低温流体としての海水は、作動流体からの熱を受けて所定温度まで昇温している。この海水は、凝縮器13の外の領域35へ排出された後、この領域35に通じる区画壁36の開口部から外部に流出し、最終的にシステム外部の海中へ放出され、拡散していく。
【0061】
同様に、蒸発器11と蒸発器21での各作動流体との熱交換に伴い、温度が下がった高温流体としての海水も、蒸発器21での熱交換後に領域35を経て区画壁36の開口部からシステム外部の海中へ放出され、拡散していく。
【0062】
一方、ポンプ37、38の動作に伴い、新たな海水が区画壁36の開口部から領域34に入り、蒸発器11や凝縮器23をなす各熱交換器本体30での熱交換に供されることとなり、上記の各過程がシステムの使用の間、すなわち、二つの蒸気動力サイクル部10、20でそれぞれ蒸気動力サイクル動作を継続する間、繰返される。
【0063】
なお、高温流体や低温流体が極めて大量に存在する海水であるため、熱交換後の海水が外部の海中に拡散した後の、海水全体に対する熱交換後の海水の保有する熱の影響、すなわち、拡散後の海水全体の温度変化はほとんど無視でき、熱交換継続に伴い熱交換器本体30に順次新規に導入される海水には温度変化は生じておらず、熱交換開始当初と同じ温度条件で継続して熱交換が行えると見なせる。
【0064】
このように、本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、複数段にわたり設けた各蒸気動力サイクル部10、20の蒸発器11、21と凝縮器13、23における熱源となる高温流体や低温流体の各流路を、蒸気動力サイクル部10、20間で所定の順序で直列に接続するだけでなく、各蒸気動力サイクル部10、20の蒸発器11、21と凝縮器13、23をそれぞれクロスフロー型熱交換器とし、さらに熱源の流体が流れる向きにそれぞれ並べることから、蒸発器11、21や凝縮器13、23をなす各熱交換器では、各流体の流入、流出方向と熱交換器内での流れの向きが同じになり、さらに熱交換器同士が適切に配置されることとなり、全ての蒸気動力サイクル部10、20にわたる熱源の流体側の流路の流路長を必要最小限とすると共に流路形状を単純化し、その圧力損失を抑えて、複数段とした蒸気動力サイクル部10、20のそれぞれで各熱源の流体と作動流体との間で無理なく熱交換が可能となり、確実に熱サイクル効率を高めて有効に動力を取出せる。また、各蒸気動力サイクル部10、20で熱源の流体をスムーズに通過させられ、ポンプ等の、流体の流通に要するエネルギー消費や設備コストを抑えられる。
【0065】
また、隔壁32で分けられた領域34、35間で海水を流通させて、管路を経由させずに熱交換器本体30の第二流路30c側に高温流体又は低温流体としての海水を導入することで、海水側で管路の配設が不要となり、管路配設に係るコストを抑えられ、管の設置スペースを省略できる。
【0066】
なお、前記実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、二つの蒸気動力サイクル部10、20を用い、蒸発器11、21や凝縮器13、23における熱源となる高温流体や低温流体の流路を異なる蒸気動力サイクル部同士で接続し、高温流体や低温流体を共通に用いる二段構成としているが、これに限らず、三段、四段など他の複数段構成とすることもできる。
【0067】
また、前記実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいて、各蒸発器11、21や凝縮器13、23は、それぞれ熱交換器本体30を一つのみ備えて形成され、その熱交換器本体30は隔壁32に唯一穿設された貫通孔32aの周囲部分に取付けられて、熱源となる高温流体又は低温流体を流通可能とされる構成としているが、これに限らず、隔壁に貫通孔を複数並べて穿設し、これら貫通孔に対応させて隔壁に熱交換器本体を複数並べて配設する構成や、図6に示すように、一の隔壁と平行に他の隔壁を設けて、二つの隔壁に挟まれた中間の領域を生じさせ、二つの隔壁のそれぞれに熱交換器本体30を配設すると共に、中間の領域を通じて、熱源となる流体を各隔壁の熱交換器本体30に各々流通させる構成をそれぞれ採用することもできる。これらの場合、複数あるいは多数の熱交換器本体30が並列配置されて熱源となる流体を等しく流通させることとなり、同じ領域内の複数あるいは多数の熱交換器本体30が一つの蒸発器11、21又は凝縮器13、23をなすものとなる。こうした複数あるいは多数の熱交換器本体30により、必要とする出力に応じた高温流体や低温流体、あるいは作動流体の流量に適切に対応した蒸発器や凝縮器を構築できる。
【0068】
また、前記実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、蒸発器11、21をなす熱交換器本体30における第二流路30cの開口部分と、貫通孔32aを隔てた他の熱交換器本体の第二流路開口部分とを対向配置状態として、この熱交換器本体内で海水の流れる向きと平行に、各熱交換器本体をまっすぐ線状に並べて配設し、開口部分に流入して第二流路を流れる海水をそのまま直進させて他の熱交換器本体側に到達させる構成としているが、これに限らず、隣合う熱交換器本体の間に前記隔壁と異なる中空構造体、例えば図7に示すようなチャンバ33、が介在して、前記隔壁の貫通孔深さを大きく超えるような所定の間隔が生じている場合、隣接する熱交換器本体30における各第二流路30cの開口部分が、互いに対向する位置から上下左右に多少ずれたオフセット状態となっていてもよく、各熱交換器本体30がそれぞれの熱交換器本体内での海水の流れる向きが互いに平行をなすように並んでさえいれば、複数の熱交換器本体30を厳密な直線状に並べられない配置上の制約がある場合などで、第二流路30cの開口位置が完全に対向していなくても、海水を各熱交換器本体30の第二流路30cにスムーズに流通させて、圧力損失を抑えられる状態を維持できる。
【0069】
また、前記実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいて、一つの隔壁32に熱交換器本体30の第二流路開口部分の一方を取付け、隔壁32で熱交換器本体30のある側の領域と隔壁を挟んだ他の領域とを仕切る構成としているが、この他、前記図7に示すように、熱交換器本体30を挟んで隔壁32を平行に二つ配置し、隔壁32で仕切られた複数領域のうち、二つの隔壁32の対向する面に挟まれた領域39には熱源となる流体を供給しない構成とすることもできる。この場合、熱交換器本体30の第二流路開口部分を除く外側部分や、作動流体を通す管路が、熱源となる高温流体又は低温流体の中に没する必要がなくなることから、保守、管理の面では都合がよい。
【0070】
また、前記実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、隔壁32に貫通孔32aを穿設し、隔壁32の各面における貫通孔32a周囲部分に熱交換器本体30を一つずつ配置する構成としているが、この他、前記図7に示すように、隔壁32で区画された領域が十分に大きい場合には、熱交換器本体30を熱交換用流体の流れ方向に複数直列に連結して一体化した状態で隔壁32に取付け、隔壁の一取付位置ごとに複数配設する構成とすることもでき、同じ隔壁面積あたりでより多くの熱交換器本体30を配設して、スペースを有効に活用しつつ、作動流体の流量を多くできる。
【0071】
また、前記実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、蒸発器11、21や凝縮器13、23をなす熱交換器本体30を隔壁32に沿って配設し、隔壁32で熱源となる高温流体や低温流体としての海水の存在し得る二つの領域34、35を設定して、熱交換器本体30の第二流路30cに海水を流通させる仕組みとし、海水の流通に係り、熱交換器本体30において第二流路30cに連通する管路等の複雑な構造を採用せず、且つ、熱交換器本体30周囲を覆うような耐圧容器等も用いない構成としているが、これに限らず、図8に示すように、高温流体の流れ方向に並べた配置とされる各蒸発器11、21や、低温流体の流れ方向に並べた配置とされる各凝縮器が、それぞれ最外殻をなして他の機器と管路61で接続される中空耐圧構造のシェル60を有し、高温流体又は低温流体と作動流体を熱交換させる熱交換器本体30をシェル60内部に配置した、より一般的な熱交換器構造をなし、熱交換器本体30の第二流路30cへの海水の流通が管路61を介して行われる構成とすることもできる。
【0072】
この場合、高温流体又は低温流体である海水の流れ方向と作動流体の流れ方向とが直交するクロスフロー型とされると共に、海水側の流路断面積が作動流体側に比べ大きく、且つ海水側の流路長が作動流体側に比べて短い熱交換器形状をなす熱交換器本体30の、作動流体側の各第一流路30bは、シェル60の長手方向両端部における作動流体の各流入出口と連通状態で一体化されており、また、熱交換器本体30における海水側の第二流路30cはシェル60の長手方向と直交する方向の両端部における海水の各流入出口と連通状態で一体化され、各流入出口を除いてシェル60の内部と外部は水密状態で隔離される。
【0073】
(本発明の第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態を図9及び図10に基づいて説明する。
前記各図において本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステム2は、前記第1の実施形態同様、複数の蒸気動力サイクル部10、20を備える一方、異なる点として、第一の蒸気動力サイクル部10におけるタービン12出口から凝縮器13に向う作動流体を、第一の蒸気動力サイクル部10より高温流体を流通させる順序が後となる第二の蒸気動力サイクル部20におけるポンプ24出口から蒸発器21に向う作動流体と熱交換させる、予熱用熱交換器41が配設される構成を有するものである。
【0074】
本実施形態の蒸気動力サイクルシステム2をなす各蒸気動力サイクル部10、20における、高温流体や低温流体の流路同士の接続は、前記第1の実施形態と同様、高温流体は第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11から第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器21へ流れる順序設定とされ、低温流体は高温流体の場合と逆に、第二の蒸気動力サイクル部20の凝縮器23から第一の蒸気動力サイクル部10の凝縮器13へ流れる順序設定とされる構成である。
【0075】
前記蒸気動力サイクル部10、20は、それぞれ、前記第1の実施形態同様、蒸発器11、21と、タービン12、22と、凝縮器13、23と、ポンプ14、24とを備える一方、異なる点として、第一の蒸気動力サイクル部10の作動流体と第二の蒸気動力サイクル部20の作動流体とを熱交換させる予熱用熱交換器41を共用する構成を有するものである。そして、前記第1の実施形態同様、蒸気動力サイクル部10、20を組合わせた蒸気動力サイクルシステム2と、タービン12、22により駆動される発電機51、52とで、前記第1の実施形態同様、温度差発電装置を構成することとなる。
なお、前記蒸発器11、21と、タービン12、22と、凝縮器13、23と、ポンプ14、24は、前記第1の実施形態同様の構成であり、説明を省略する。
【0076】
前記予熱用熱交換器41は、第二の蒸気動力サイクル部20における蒸発器21に達する前の全て液相の作動流体と、第一の蒸気動力サイクル部10におけるタービン12を出た後の気相の作動流体とを熱交換させる熱交換器であり、前記蒸発器11、21や凝縮器13、23をなす熱交換器本体30と同様のプレート式熱交換器とされてなり、詳細な説明は省略する。
【0077】
この予熱用熱交換器41における、第一の蒸気動力サイクル部10の作動流体側の流路は、第一の蒸気動力サイクル部10のタービン12出口側と、凝縮器13入口側にそれぞれ接続され、タービン13を出て予熱用熱交換器41における熱交換で冷却された作動流体が、凝縮器13に達する仕組みである。
【0078】
一方、予熱用熱交換器41における、第二の蒸気動力サイクル部20の作動流体側の流路は、第二の蒸気動力サイクル部20におけるポンプ24出口側と、蒸発器21の入口側にそれぞれ接続され、ポンプ24を出て予熱用熱交換器41における熱交換で加熱された作動流体が、蒸発器21に達する仕組みである。
【0079】
蒸気動力サイクル部を複数段化することに伴って温度差を生じている、第一の蒸気動力サイクル部10のタービン出口における作動流体と、第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器入口における作動流体とを、予熱用熱交換器41で熱交換させて、第一の蒸気動力サイクル部10の作動流体の保有する熱を、第二の蒸気動力サイクル部20のより低温となっている作動流体で回収することで、第一の蒸気動力サイクル部10では、凝縮器13に導入される作動流体の温度を下げて、凝縮器13における熱交換をより低温側で行えることとなる。また、第二の蒸気動力サイクル部20では、蒸発器21に導入される作動流体の温度を上昇させて、蒸発器21における熱交換をより高温側で行えることとなり、システム全体として熱サイクル効率の向上が図れる。
【0080】
さらに、蒸発器11、21においては、作動流体を沸点まで温度上昇させる顕熱域での熱交換と、作動流体を気化させる潜熱域での熱交換が行われており(図10参照)、クロスフロー型の蒸発器の場合、作動流体の顕熱域での熱交換において、熱伝達の性能向上が図りにくいものの、第二の蒸気動力サイクル部20では、予熱用熱交換器41による蒸発器21の前段での予熱に伴い、作動流体が温度上昇する分、蒸発器21における作動流体の顕熱域での熱交換を減らせることから、蒸発器の性能(総括熱伝達係数)も相対的に向上する。
【0081】
次に、本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムの動作状態について説明する。前提として、前記第1の実施形態同様、海の表層から高温流体としての温海水を、また、海の所定深さ位置から低温流体としての冷海水を、それぞれ所定の流量を確保しつつ取水して、各蒸気動力サイクル部10、20の蒸発器11、21や凝縮器13、23にそれぞれ導入し、また、蒸発器11、21や凝縮器13、23では、その周囲の二つの領域34、35にそれぞれ存在する海水に、ヘッド差としての水位差を与えることで、一方の領域34から、各熱交換器本体30の第二流路30cを経て、他方の領域35へと向う海水の流れが生じ、熱交換器本体30において作動流体と海水との熱交換を同じ条件で継続できる状態にあるものとする。
【0082】
第一の蒸気動力サイクル部10においては、蒸発器11が、高温流体としてポンプ37で加圧され、領域34を経て導入される温海水と、下側の作動流体の管路31aから導入される全て液相の作動流体とを、熱交換器本体30で熱交換させる。ここで加熱された作動流体のうち、昇温に伴い蒸発して気相となった作動流体は、上部の作動流体の管路31bを経てこの蒸発器11外へ出て、タービン12に向う。
【0083】
蒸発器11を出た高温気相の作動流体は、タービン12に達してこれを作動させ、このタービン12により発電機51が駆動され、熱エネルギーが使用可能な動力、さらに電力に変換される。こうしてタービン12で膨張して仕事を行った気相作動流体は、圧力及び温度を低減させた状態となる。そして、タービン12を出た気相の作動流体は、予熱用熱交換器41に導入される。
【0084】
予熱用熱交換器41では、前記タービン12を出た気相の作動流体と、別途予熱用熱交換器41に導入された第二の蒸気動力サイクル部20における液相の作動流体とを熱交換させ、第二の蒸気動力サイクル部20側の液相作動流体を昇温させて、第一の蒸気動力サイクル部10側の気相作動流体の保有する熱を回収する。
この予熱用熱交換器41での熱交換を経て、第一の蒸気動力サイクル部10側の気相作動流体は冷却され、この冷却された気相作動流体は予熱用熱交換器41を出た後、凝縮器13に向う。
【0085】
凝縮器13では、第二の蒸気動力サイクル部20側の凝縮器23をなす、隣接した領域34側の熱交換器本体30を先に通過した後で、この凝縮器13をなす領域35側の熱交換器本体30に導入された冷海水と、上側の作動流体の管路31bから熱交換器本体30に導入された気相の作動流体とが、熱交換用プレート30aを介して熱交換し、冷却された気相の作動流体は凝縮して液相に変化することとなる。
【0086】
凝縮器13で凝縮して得られた液相の作動流体は、熱交換器本体30から作動流体の管路31aを経て凝縮器13外に排出される。凝縮器13を出た液相の作動流体は、作動流体としては蒸気動力サイクル部10内で最も低い温度及び圧力となっている。この液相の作動流体は、ポンプ14を経由して加圧された上で、蒸発器11へ向け進むこととなる。
この後、作動流体は蒸発器11内に戻り、前記同様に蒸発器11での熱交換以降の各過程を繰返すこととなる。
【0087】
一方、第二の蒸気動力サイクル部20においては、蒸発器21で、高温流体として、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11をなす、領域34側の熱交換器本体を通過した後の温海水と、下側の作動流体の管路31aから導入される全て液相の作動流体とを、この蒸発器21をなす領域35側の熱交換器本体30で熱交換させる。ここで加熱された作動流体のうち、昇温に伴い蒸発して気相となった作動流体は、上部の作動流体の管路31bから蒸発器21外へ出て、タービン22に向う。
【0088】
蒸発器21を出た高温気相の作動流体は、タービン22に達してこれを作動させ、このタービン22により発電機52が駆動され、前記タービン12及び発電機51の場合と同様、熱エネルギーが最終的に電力に変換される。こうしてタービン22で膨張して仕事を行った気相作動流体は、圧力及び温度を低減させた状態となり、タービン22を出た後、凝縮器23に導入される。
【0089】
凝縮器23では、低温流体としてポンプ38で加圧され且つ領域34を経て熱交換器本体30に導入された温度の低い冷海水と、作動流体の管路31bから熱交換器本体30に導入された気相の作動流体とが、熱交換用プレート30aを介して熱交換し、冷却されて、気相の作動流体は凝縮して液相に変化することとなる。
【0090】
凝縮器23で凝縮して得られた液相の作動流体は、熱交換器本体30下の作動流体の管路31aから凝縮器23外に排出される。凝縮器23を出た液相の作動流体は、作動流体としては蒸気動力サイクル部20内で最も低い温度及び圧力となっている。この液相の作動流体は、ポンプ24を経由して加圧された上で、予熱用熱交換器41に達する。
【0091】
予熱用熱交換器41では、前記ポンプ24を出た液相の作動流体と、前記第一の蒸気動力サイクル部10におけるタービン12を出た気相の作動流体とを熱交換させることで、第二の蒸気動力サイクル部20側の液相作動流体を昇温させる。昇温した液相の作動流体は、予熱用熱交換器41を出た後、蒸発器21へ向け進むこととなる。
【0092】
こうして第二の蒸気動力サイクル部20側の液相作動流体は、予熱用熱交換器41での熱交換を経て、あらかじめ所定温度まで昇温した状態で蒸発器21内に戻り、前記同様に蒸発器21での熱交換以降の各過程を繰返すこととなる。
【0093】
凝縮器23と凝縮器13での各熱交換に連続使用された低温流体としての海水は、作動流体からの熱を受けて所定温度まで昇温している。この海水は、凝縮器13の外の領域35へ排出された後、この領域35に通じる区画壁36の開口部から外部に流出し、最終的にシステム外部の海中へ放出され、拡散していく。
【0094】
同様に、蒸発器11と蒸発器21での各作動流体との熱交換に伴い、温度が下がった高温流体としての海水も、蒸発器21での熱交換後に領域35を経て区画壁36の開口部からシステム外部の海中へ放出され、拡散していく。
【0095】
一方、ポンプ37、38の動作に伴い、新たな海水が区画壁36の開口部から領域34に入り、蒸発器11や凝縮器23をなす各熱交換器本体30での熱交換に供されることとなり、上記の各過程がシステムの使用の間、すなわち、二つの蒸気動力サイクル部10、20でそれぞれ蒸気動力サイクル動作を継続する間、繰返される。
【0096】
前記第1の実施形態同様、高温流体や低温流体は極めて大量に存在する海水であるため、熱交換後の海水が外部の海中に拡散した後の、海水全体に対する熱交換後の海水の保有する熱の影響、すなわち、拡散後の海水全体の温度変化はほとんど無視でき、熱交換継続に伴い熱交換器本体30に順次新規に導入される高温流体や低温流体としての海水には温度変化は生じておらず、熱交換開始当初と同じ温度条件で継続して熱交換が行えると見なせる。
【0097】
このように、本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、第一の蒸気動力サイクル部10における蒸発器11で高温流体と熱交換し、さらにタービン12で仕事を行わせた後の気相の作動流体を、予熱用熱交換器41で、第二の蒸気動力サイクル部20におけるポンプ24から蒸発器21に向う作動流体と熱交換させ、第一の蒸気動力サイクル部10の気相作動流体の保有する熱を、第二の蒸気動力サイクル部20における、より温度の低い他の作動流体で回収することから、第一の蒸気動力サイクル部10では凝縮器13における熱交換をより低温側で行えると共に、第二の蒸気動力サイクル部20では蒸発器21における熱交換をより高温側で行え、特に蒸発器21では、蒸発器21の前段の予熱用熱交換器41によりあらかじめ作動流体が温度上昇する分、蒸発器21における作動流体の顕熱域での熱交換を減らして、蒸発器21における作動流体への熱伝達の効率を向上させられるなど、システム全体で熱損失を抑えて熱サイクル効率を高められる。
【0098】
なお、前記実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、予熱用熱交換器41で、第一の蒸気動力サイクル部10におけるタービン12を出た気相の作動流体と、第二の蒸気動力サイクル部20におけるポンプ24を出た液相の作動流体とを熱交換させ、第二の蒸気動力サイクル部20側の液相作動流体を昇温させて、第一の蒸気動力サイクル部10側の気相作動流体の保有する熱を回収する構成としているが、これに限らず、図11に示すように、高温流体を蒸発器に流通させる順序が他より後となる蒸気動力サイクル部、例えば、第二の蒸気動力サイクル部20におけるタービン22を出た気相の作動流体と、この蒸気動力サイクル部20より高温流体を蒸発器に流通させる順序が先となる他の蒸気動力サイクル部、すなわち、第一の蒸気動力サイクル部10における、ポンプ14を出た液相の作動流体とを熱交換させる他の予熱用熱交換器43を設け、第一の蒸気動力サイクル部10側の液相作動流体を昇温させて、第二の蒸気動力サイクル部20側の気相作動流体の保有する熱を回収する構成とすることもでき、前記実施形態同様、熱サイクル効率を高められる。
【0099】
(本発明の第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態を図12に基づいて説明する。
前記図12において本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステム3は、前記第1の実施形態同様、複数の蒸気動力サイクル部10、20を備える一方、異なる点として、前記各蒸気動力サイクル部10、20が、前記蒸発器11、21とタービン12、22との間の作動流体流路に、蒸発器11、21を出た作動流体を気相分と液相分とに分離し、気相の作動流体をタービン12、22に向わせる一方、液相の作動流体を蒸発器11、21の入口側に向わせる気液分離器15、25を有し、また、この気液分離器15、25から蒸発器11、21の入口側に向う液相作動流体の流路に、作動流体を蒸発器11、21へ向けて圧送する補助ポンプ16、26を配設されてなる構成を有するものである。
【0100】
前記蒸気動力サイクル部10、20を組合わせた本実施形態の蒸気動力サイクルシステム3は、前記第1の実施形態同様、タービン12、22により駆動される発電機51、52と共に、温度差発電装置を構成するものである。前記蒸発器11、21と、タービン12、22と、凝縮器13、23と、ポンプ14、24は、前記第1の実施形態同様の構成であり、説明を省略する。
【0101】
前記気液分離器15、25は、蒸発器11、21で温海水との熱交換を経て高温で且つ気液混相状態となった作動流体を、気相分と液相分とに分ける公知の装置であり、詳細な説明を省略する。作動流体は、この気液分離器15、25内で気相分と液相分に分れ、タービン12、22入口側と連通する管路を通じて気相の作動流体がタービン12、22へ向う。
【0102】
一方、液相の作動流体は、気液分離器15の液相作動流体出口側と、蒸発器11、21入口側とを連通させる管路を経て、途中で補助ポンプ16、26による加圧を受けつつ、蒸発器11、21の入口側へ向い、ポンプ14、24から蒸発器11、21に向う作動流体と合流して、蒸発器11、21に流入することとなる。
【0103】
気液分離器15、25を設けて、蒸発器11、21を出た作動流体を気相分と液相分に分離し、気相分をタービン12、22に向わせる一方、液相分を蒸発器入口側に還流させることで、タービン側に向う作動流体の流量を気液分離器を設けない場合の蒸気動力サイクル部と同じにした場合、気液分離器15、25からそのまま蒸発器入口側に向う液相作動流体の分だけ、蒸発器11、21に導入される作動流体の全体流量を増やせることとなる。また、気液分離器15、25で分離した液相作動流体を補助ポンプ16、26を用いて蒸発器入口側に循環させることで、蒸発器11、21内の作動流体の流速を上昇させることができる。
【0104】
特に、クロスフロー型の熱交換器からなる蒸発器の場合、上下方向の流路を流れる作動流体の流速が低いと、流動において重力が支配的になることから、作動流体と直交する向きに流通する高温流体としての海水の、流路入口側から出口側にかけての温度分布の影響を十分に緩和できず、作動流体の熱交換においてその流路における海水流通方向の不均衡が著しくなり、蒸発に係る性能が低下することとなる。これに対し、補助ポンプ16、26を用いるのに伴って、蒸発器11、21内の作動流体流速を上昇させていることで、作動流体を強制的に流動、対流させられ、熱交換を均衡化して蒸発を促進させ、性能低下を防止することができ、蒸発器として十分な能力を発揮させられる。
【0105】
この他、気液分離器15、25で分離した高温の液相作動流体を蒸発器11、21に還流させることで、蒸発器入口での作動流体全体の温度が上昇する分、蒸発器11、21における作動流体の顕熱域での熱交換を減らすことができ、蒸発器の性能(総括熱伝達係数)も相対的に向上させられ、熱損失を抑えて熱効率を高められる。
【0106】
さらに、気液分離器15、25で分離された液相作動流体の、補助ポンプ16、26による送出量を変えることにより、液相作動流体の蒸発器11、21への流入状態を調整できることとなる。これに伴い、蒸発器11、21における作動流体全体の蒸発状態を変化させることができ、蒸気動力サイクル部10、20に対する負荷変動や季節変化等による熱源温度の変動に対応して、補助ポンプ16、26による液相作動流体の送出量調整を行えば、蒸発器11、21における作動流体の蒸発状態を最適な状態に制御でき、システムの稼働状態の安定化が図れる他、蒸発器11、21を出た気相分の作動流体の乾き度の調整も行え、乾き度を高めてタービン効率の改善も図れる。
【0107】
前記補助ポンプ16、26は、通常、蒸気動力サイクル部10、20のサイクル動作の間は常に動作させる仕組みとしているが、この他、初期起動時などの必要な時期のみに動作させるようにしてもよく、蒸気動力サイクル部の定常動作状態など、液相作動流体の流路における気液分離器15、25と蒸発器11、21入口側との間に十分な圧力差が生じている場合には、動作させなくても液相作動流体を適切に蒸発器入口側に還流させることができ、補助ポンプを動作させない分、自己消費動力を抑えられる。
【0108】
次に、本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムの動作状態について説明する。前提として、前記第1の実施形態同様、海の表層から高温流体としての温海水を、また、海の所定深さ位置から低温流体としての冷海水を、それぞれ所定の流量を確保しつつ取水して、各蒸気動力サイクル部10、20の蒸発器11、21や凝縮器13、23にそれぞれ導入し、また、蒸発器11、21や凝縮器13、23では、その周囲の二つの領域34、35にそれぞれ存在する海水に、ヘッド差としての水位差を与えることで、一方の領域34から、各熱交換器本体30の第二流路30cを経て、他方の領域35へと向う海水の流れが生じ、熱交換器本体30において作動流体と海水との熱交換を同じ条件で継続できる状態にあるものとする。
【0109】
第一の蒸気動力サイクル部10においては、蒸発器11が、高温流体としてポンプ37で加圧され、領域34を経て導入される温海水と、下側の作動流体の管路31aから導入される全て液相の作動流体とを、熱交換器本体30で熱交換させる。この熱交換で加熱された作動流体は、蒸発して蒸発器11外へ出ようとするが、作動流体は飽和蒸気ではなく、液相分を含んだ湿り蒸気となっている。この気液混相状態の高温作動流体は、上部の作動流体の管路31bを経て蒸発器11外へ出て、気液分離器15に達する。気液分離器15で作動流体は気相分と液相分に分れ、気相の作動流体はタービン12へ向う。
【0110】
気液分離器15を出た高温気相の作動流体は、気液分離器15導入前の作動流体と比較して乾き度が高くなっており、この作動流体がタービン12に達してこれを作動させ、このタービン12により発電機51が駆動され、熱エネルギーが使用可能な動力、さらに電力に変換される。こうしてタービン12で膨張して仕事を行った気相作動流体は、圧力及び温度を低減させた状態となる。そして、タービン12を出た気相の作動流体は、凝縮器13に導入される。
【0111】
凝縮器13では、第二の蒸気動力サイクル部20側の凝縮器23をなす、隣接した領域34側の熱交換器本体30を先に通過した後で、この凝縮器13をなす領域35側の熱交換器本体30に導入された冷海水と、上側の作動流体の管路31bから熱交換器本体30に導入された気相の作動流体とが、熱交換用プレート30aを介して熱交換し、冷却された気相の作動流体は凝縮して液相に変化することとなる。
【0112】
凝縮器13で凝縮して得られた液相の作動流体は、熱交換器本体30から作動流体の管路31aを経て凝縮器13外に排出される。凝縮器13を出た液相の作動流体は、作動流体としては蒸気動力サイクル部10内で最も低い温度及び圧力となっている。この液相の作動流体は、ポンプ14を経由して加圧された上で、蒸発器11へ向け進むこととなる。
【0113】
また、気液分離器15で気相分と分離された高温液相の作動流体は、蒸発器11入口側へ向う管路を進み、ポンプ14から出た作動流体と共に蒸発器11に導入されることとなる。
こうして、作動流体は蒸発器11内に戻り、この後も前記同様に蒸発器11での熱交換以降の各過程を繰返すこととなる。
【0114】
一方、第二の蒸気動力サイクル部20においては、蒸発器21で、高温流体として、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11をなす、領域34側の熱交換器本体を通過した後の温海水と、下側の作動流体の管路31aから導入される全て液相の作動流体とを、この蒸発器21をなす領域35側の熱交換器本体30で熱交換させる。ここで加熱された作動流体は、その大部分が蒸発するのに伴い、液滴を含んだ状態の気液混相流となる。この混相状態の高温作動流体は、上部の作動流体の管路31bを経てこの蒸発器21外へ出て、気液分離器25に達する。気液分離器25で作動流体は気相分と液相分に分れ、気相の作動流体はタービン22へ向う。
【0115】
気液分離器25を出た高温気相の作動流体は、気液分離器25導入前の作動流体と比較して乾き度が高くなっており、この作動流体がタービン22に達してこれを作動させ、このタービン22により発電機52が駆動され、前記タービン12及び発電機51の場合と同様、熱エネルギーが最終的に電力に変換される。こうしてタービン22で膨張して仕事を行った気相作動流体は、圧力及び温度を低減させた状態となり、タービン22を出た後、凝縮器23に導入される。
【0116】
凝縮器23では、低温流体としてポンプ38で加圧され且つ領域34を経て熱交換器本体30に導入された温度の低い冷海水と、作動流体の管路31bから熱交換器本体30に導入された気相の作動流体とが、熱交換用プレート30aを介して熱交換し、冷却されて、気相の作動流体は凝縮して液相に変化することとなる。
【0117】
凝縮器23で凝縮して得られた液相の作動流体は、熱交換器本体30下の作動流体の管路31aから凝縮器23外に排出される。凝縮器23を出た液相の作動流体は、作動流体としては蒸気動力サイクル部20内で最も低い温度及び圧力となっている。この液相の作動流体は、ポンプ24を経由して加圧された上で、蒸発器21へ向け進むこととなる。
【0118】
また、気液分離器25で気相分と分離された高温液相の作動流体は、蒸発器21入口側へ向う管路を進み、ポンプ24を出た作動流体と共に蒸発器21に導入されることとなる。
こうして第二の蒸気動力サイクル部20の作動流体は、いずれも蒸発器21内に戻り、前記同様に蒸発器21での熱交換以降の各過程を繰返すこととなる。
【0119】
凝縮器23と凝縮器13での各熱交換に連続使用された低温流体としての海水は、作動流体からの熱を受けて所定温度まで昇温している。この海水は、凝縮器13の外の領域35へ排出された後、この領域35に通じる区画壁36の開口部から外部に流出し、最終的にシステム外部の海中へ放出され、拡散していく。
【0120】
同様に、蒸発器11と蒸発器21での各作動流体との熱交換に伴い、温度が下がった高温流体としての海水も、蒸発器21での熱交換後に領域35を経て区画壁36の開口部からシステム外部の海中へ放出され、拡散していく。
【0121】
一方、ポンプ37、38の動作に伴い、新たな海水が区画壁36の開口部から領域34に入り、蒸発器11や凝縮器23をなす各熱交換器本体30での熱交換に供されることとなり、上記の各過程がシステムの使用の間、すなわち、二つの蒸気動力サイクル部10、20でそれぞれ蒸気動力サイクル動作を継続する間、繰返される。
【0122】
前記第1の実施形態同様、高温流体や低温流体は、極めて大量に存在する海水であるため、熱交換後の海水が外部の海中に拡散した後の、海水全体に対する熱交換後の海水の保有する熱の影響、すなわち、拡散後の海水全体の温度変化はほとんど無視でき、熱交換継続に伴い熱交換器本体30に順次新規に導入される高温流体又は低温流体としての海水には温度変化は生じておらず、熱交換開始当初と同じ温度条件で継続して熱交換が行えると見なせる。
【0123】
このように、本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、各蒸気動力サイクル部10、20における蒸発器11、21を出た作動流体を気液分離器15、25で気相分と液相分とに分離し、気相の作動流体をタービン12、22に向わせる一方、液相の作動流体を蒸発器11、21入口側に向わせることから、蒸発器11、21に高温の液相作動流体が還流されて、蒸発器入口における作動流体全体の温度が上昇することとなり、蒸発器11、21における熱交換をより高温側で行えると共に、作動流体が温度上昇する分、蒸発器11、21における作動流体の顕熱域での熱交換を減らして、蒸発器11、21における作動流体への熱伝達の効率を向上させられるなど、システム全体で熱損失を抑えて熱効率を高められる。
【0124】
また、気液分離器15、25で分離された液相の作動流体の、蒸発器11、21への流入状態を補助ポンプ16、26で調整することで、蒸発器11、21における作動流体の蒸発状態を変化させることができ、蒸気動力サイクル部10、20に対する負荷や季節変化等による熱源温度の変動に対応して、システムの稼働状態の安定化が図れる。
【0125】
なお、前記実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、気液分離器15、25から蒸発器11、21入口側に向う高温液相作動流体の流路に補助ポンプ16、26を設ける構成としているが、これに限らず、図13に示すように、気液分離器15、25から蒸発器11、21入口側に向う高温液相作動流体の流路にはポンプ等を設けない構成とすることもでき、気液分離器15、25と蒸発器11、21入口側との間の圧力差が十分大きく、且つ、前記流路の圧力損失が小さい場合には、ポンプ等による加圧を伴わなくても、作動流体を蒸発器入口側へ確実に到達させることができる。さらに、補助ポンプ16、26を設置するのに代えて、気液分離器15、25の設置位置を蒸発器11、21に比べて高くし、液高さにより圧力差を確保する構成としたり、起動時には、凝縮器13、23を出た作動流体を蒸発器11、21へ送出すポンプ14、24の流量を少なくして全量が蒸発するようにし、圧力差が生じてきたらポンプ14、24での作動流体の流量を増やす、といった調整手法を採用することもできる。
【0126】
(本発明の第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態を図14に基づいて説明する。
前記図14において本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステム4は、前記第3の実施形態同様、気液分離器15、25をそれぞれ有してなる蒸気動力サイクル部10、20を備える一方、異なる点として、前記第二の蒸気動力サイクル部20における気液分離器25から蒸発器21の入口側に向う液相作動流体を、第二の蒸気動力サイクル部20より高温流体を流通させる順序が先となる、第一の蒸気動力サイクル部10におけるポンプ14出口から蒸発器11に向う作動流体と熱交換させる、再生熱交換器42が配設される構成を有するものである。
【0127】
前記再生熱交換器42は、第一の蒸気動力サイクル部10における凝縮器13からポンプ14を経て蒸発器11に向う、第一の蒸気動力サイクル部10で最も低い温度及び圧力となる作動流体と、第二の蒸気動力サイクル部20における気液分離器25で気相の作動流体と分離された高温液相の作動流体とを熱交換させる熱交換器であり、前記蒸発器11、21や凝縮器13、23の各熱交換器本体11b、14bと同様の構造とされてなり、詳細な説明は省略する。
【0128】
この再生熱交換器42では、気液分離器25の作動流体流出口11dに通じる高温液相作動流体側の支流路1bが蒸発器21入口側と配管接続されており、再生熱交換器42を出た液相の作動流体が、蒸発器21へ導入される仕組みである。
【0129】
次に、本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムの動作状態について説明する。前提として、前記第1の実施形態同様、海の表層から高温流体としての温海水を、また、海の所定深さ位置から低温流体としての冷海水を、それぞれ所定の流量を確保しつつ取水して、各蒸気動力サイクル部10、20の蒸発器11、21や凝縮器13、23にそれぞれ導入し、また、蒸発器11、21や凝縮器13、23では、その周囲の二つの領域34、35にそれぞれ存在する海水に、ヘッド差としての水位差を与えることで、一方の領域34から、各熱交換器本体30の第二流路30cを経て、他方の領域35へと向う海水の流れが生じ、熱交換器本体30において作動流体と海水との熱交換を同じ条件で継続できる状態にあるものとする。
【0130】
第一の蒸気動力サイクル部10においては、蒸発器11が、高温流体としてポンプ37で加圧され、領域34を経て導入される温海水と、下側の作動流体の管路31aから導入される全て液相の作動流体とを、熱交換器本体30で熱交換させる。この熱交換で加熱された作動流体は、蒸発して蒸発器11外へ出ようとするが、作動流体は飽和蒸気ではなく、液相分を含んだ湿り蒸気となっている。この気液混相状態の高温作動流体は、上部の作動流体の管路31bを経て蒸発器11外へ出て、気液分離器15に達する。気液分離器15で作動流体は気相分と液相分に分れ、気相の作動流体はタービン12へ向う。
【0131】
気液分離器15を出た高温気相の作動流体は、気液分離器15導入前の作動流体と比較して乾き度が高くなっており、この作動流体がタービン12に達してこれを作動させ、このタービン12により発電機51が駆動され、熱エネルギが使用可能なエネルギに変換される。こうしてタービン12で膨張して仕事を行った気相作動流体は、圧力及び温度を低減させた状態となる。そして、タービン12を出た気相の作動流体は、凝縮器13に導入される。
【0132】
凝縮器13では、第二の蒸気動力サイクル部20側の凝縮器23をなす、隣接した領域34側の熱交換器本体30を先に通過した後で、この凝縮器13をなす領域35側の熱交換器本体30に導入された冷海水と、上側の作動流体の管路31bから熱交換器本体30に導入された気相の作動流体とが、熱交換用プレート30aを介して熱交換し、冷却された気相の作動流体は凝縮して液相に変化することとなる。
【0133】
凝縮器13で凝縮して得られた液相の作動流体は、熱交換器本体30から作動流体の管路31aを経て凝縮器13外に排出される。凝縮器13を出た液相の作動流体は、作動流体としては蒸気動力サイクル部10内で最も低い温度及び圧力となっている。この液相の作動流体は、ポンプ24を経由して加圧された上で、再生熱交換器42に導入される。
【0134】
再生熱交換器42では、前記ポンプ14を出た液相の作動流体と、前記第二の蒸気動力サイクル部20における気液分離器25で分離された後の液相の作動流体とを熱交換させることで、第一の蒸気動力サイクル部10側の液相作動流体を昇温させて、第二の蒸気動力サイクル部20側の液相作動流体の保有する熱を回収する。第一の蒸気動力サイクル部10側の昇温した液相の作動流体は、再生熱交換器42を出た後、蒸発器11へ向け進むこととなる。
【0135】
また、気液分離器15で気相分と分離された高温液相の作動流体は、蒸発器11入口側へ向う管路を進み、再生熱交換器42から出た作動流体と共に蒸発器11に導入されることとなる。
こうして、作動流体は蒸発器11内に戻り、この後も前記同様に蒸発器11での熱交換以降の各過程を繰返すこととなる。
【0136】
一方、第二の蒸気動力サイクル部20においては、蒸発器21で、高温流体として、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11をなす、領域34側の熱交換器本体を通過した後の温海水と、下側の作動流体の管路31aから導入される全て液相の作動流体とを、この蒸発器21をなす領域35側の熱交換器本体30で熱交換させる。ここで加熱された作動流体は、その大部分が蒸発するのに伴い、液滴を含んだ状態の気液混相流となる。この混相状態の高温作動流体は、上部の作動流体の管路31bを経てこの蒸発器21外へ出て、気液分離器25に達する。気液分離器25で作動流体は気相分と液相分に分れ、気相の作動流体はタービン22へ向う。
【0137】
気液分離器25を出た高温気相の作動流体は、気液分離器25導入前の作動流体と比較して乾き度が高くなっており、この作動流体がタービン22に達してこれを作動させ、このタービン22により発電機52が駆動され、熱エネルギが使用可能なエネルギに変換される。こうしてタービン22で膨張して仕事を行った気相作動流体は、圧力及び温度を低減させた状態となり、タービン22を出た後、凝縮器23に導入される。
【0138】
凝縮器23では、低温流体としてポンプ38で加圧され且つ領域34を経て熱交換器本体30に導入された温度の低い冷海水と、作動流体の管路31bから熱交換器本体30に導入された気相の作動流体とが、熱交換用プレート30aを介して熱交換し、冷却されて、気相の作動流体は凝縮して液相に変化することとなる。
【0139】
凝縮器23で凝縮して得られた液相の作動流体は、熱交換器本体30下の作動流体の管路31aから凝縮器23外に排出される。凝縮器23を出た液相の作動流体は、作動流体としては蒸気動力サイクル部20内で最も低い温度及び圧力となっている。この液相の作動流体は、ポンプ24を経由して加圧された上で、蒸発器21へ向け進むこととなる。
【0140】
また、気液分離器25で気相分と分離された高温液相の作動流体は、蒸発器21入口側へ向う管路を進み、再生熱交換器42に導入される。この再生熱交換器42では、前記気液分離器22で分離された後の高温液相の作動流体と、第一の蒸気動力サイクル部10におけるポンプ14を出た液相の作動流体とを熱交換させ、第一の蒸気動力サイクル部10側の作動流体を昇温させる。
【0141】
そして、この再生熱交換器42での熱交換で冷却される第二の蒸気動力サイクル部20側の液相作動流体は、再生熱交換器42を出た後、蒸発器21入口側へ向う管路をさらに進み、ポンプ24を出た作動流体と共に蒸発器21に導入されることとなる。
こうして第二の蒸気動力サイクル部20の作動流体は、いずれも蒸発器21内に戻り、前記同様に蒸発器21での熱交換以降の各過程を繰返すこととなる。
【0142】
凝縮器23と凝縮器13での各熱交換に連続使用された低温流体としての海水は、作動流体からの熱を受けて所定温度まで昇温している。この海水は、凝縮器13の外の領域35へ排出された後、この領域35に通じる区画壁36の開口部から外部に流出し、最終的にシステム外部の海中へ放出され、拡散していく。
【0143】
同様に、蒸発器11と蒸発器21での各作動流体との熱交換に伴い、温度が下がった高温流体としての海水も、蒸発器21での熱交換後に領域35を経て区画壁36の開口部からシステム外部の海中へ放出され、拡散していく。
【0144】
一方、ポンプ37、38の動作に伴い、新たな海水が区画壁36の開口部36aから領域34に入り、蒸発器11や凝縮器23をなす各熱交換器本体30での熱交換に供されることとなり、上記の各過程がシステムの使用の間、すなわち、二つの蒸気動力サイクル部10、20でそれぞれ蒸気動力サイクル動作を継続する間、繰返される。
【0145】
前記第1の実施形態同様、高温流体や低温流体は、極めて大量に存在する海水であるため、熱交換後の海水が外部の海中に拡散した後の、海水全体に対する熱交換後の海水の保有する熱の影響、すなわち、拡散後の海水全体の温度変化はほとんど無視でき、熱交換継続に伴い熱交換器本体30に順次新規に導入される、高温流体又は低温流体としての海水には温度変化は生じておらず、熱交換開始当初と同じ温度条件で継続して熱交換が行えると見なせる。
【0146】
このように、本実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、各蒸気動力サイクル部10、20における蒸発器を出た作動流体を気液分離器で気相分と液相分とに分離し、液相の作動流体を蒸発器入口側に向わせる中、第二の蒸気動力サイクル部20における気相分離器25で分離された後の液相の作動流体と、第一の蒸気動力サイクル部10におけるポンプ14出口から蒸発器11に向う作動流体とを再生熱交換器42で熱交換させ、第一の蒸気動力サイクル部10側の液相作動流体を昇温させて、第二の蒸気動力サイクル部20側の液相作動流体の保有する熱を回収することから、蒸気動力サイクル部10、20間での作動流体同士の熱交換でシステム全体における熱損失を抑えられる他、特に第二の蒸気動力サイクル部20では、蒸発器21の前段の再生熱交換器42であらかじめ作動流体が温度上昇する分、蒸発器21における作動流体の顕熱域での熱交換を減らして、蒸発器21における作動流体への熱伝達の効率を向上させられ、システム全体として熱効率を高められる。
【0147】
なお、前記実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、第二の蒸気動力サイクル部20における気相分離器25で分離された後の液相の作動流体と、第一の蒸気動力サイクル部10におけるポンプ14出口から蒸発器11に向う液相の作動流体とを、再生熱交換器42で熱交換させ、第一の蒸気動力サイクル部10側の液相作動流体を昇温させて、第二の蒸気動力サイクル部20側の液相作動流体の保有する熱を回収する構成としているが、これに限らず、図15に示すように、複数の蒸気動力サイクル部のうち、高温流体が蒸発器に流通する順序が最も先となる蒸気動力サイクル部、すなわち、第一の蒸気動力サイクル部10における気相分離器15で分離されて蒸発器11入口側に向う液相の作動流体と、この第一の蒸気動力サイクル部10より高温流体を蒸発器に流通する順序が後となる蒸気動力サイクル部、すなわち、第二の蒸気動力サイクル部20におけるポンプ24を出た液相の作動流体とを熱交換させる他の再生熱交換器44を設け、第二の蒸気動力サイクル部20側の液相作動流体を昇温させて、第一の蒸気動力サイクル部10側の液相作動流体の保有する熱を回収する構成とすることもでき、前記同様に熱サイクル効率を高められる。
【0148】
また、前記第4の実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、気液分離器15、25から蒸発器11、21入口側に向う高温液相作動流体の流路に補助ポンプ16、26を設ける構成としているが、これに限らず、図16に示すように、気液分離器15、25から蒸発器11、21入口側に向う高温液相作動流体の流路にはポンプ等を設けない構成とすることもでき、気液分離器15、25と蒸発器11、21入口側との間の圧力差が十分大きく、且つ、再生熱交換器42を経て蒸発器21入口側へ液相作動流体が導入される状況でも、十分に圧力損失が小さい場合には、ポンプ等による加圧を伴わなくても、作動流体を蒸発器入口側へ確実に到達させることができる。
【0149】
また、前記第1ないし第4の各実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、複数段設けられる蒸気動力サイクル部10、20で、各々の蒸発器11、21における高温流体の流路同士を直列に接続するにあたっての、高温流体の流通に係る各蒸気動力サイクル部10、20の順序と、各々の凝縮器13、23における低温流体の流路同士を直列に接続するにあたっての、低温流体の流通に係る各蒸気動力サイクル部10、20の順序は、互いに逆順となるよう設定される構成としているが、これに限らず、高温流体と低温流体の流通に係る各蒸気動力サイクル部の順序が、高温流体の場合と低温流体の場合とで互いに同順となる接続設定とされる構成とすることもでき、高温流体や低温流体のシステムへの導入位置と、各蒸気動力サイクル部の蒸発器や凝縮器の配置とに応じて、高温流体や低温流体が無理なく蒸発器又は凝縮器に導入可能となるように適宜設定してよい。
【0150】
また、前記第1ないし第4の各実施形態に係る蒸気動力サイクルシステムにおいては、複数段設けられる蒸気動力サイクル部10、20のいずれでも、同じ種類の作動流体を用いる構成としているが、これに限らず、蒸気動力サイクル部が、その流通させる作動流体を、他の一又は複数の蒸気動力サイクル部における作動流体と異なるものとし、且つ、こうした異なる作動流体間の沸点の大小関係を、各作動流体が流通する蒸気動力サイクル部における、熱交換対象の高温流体の温度についての大小関係に対応したものとして用いる構成とすることもでき、各蒸気動力サイクル部の作動流体が、各蒸気動力サイクル部を流通する高温流体の温度レベルに応じた沸点等の特性を有するように、すなわち、高温流体の流通する順序が先の蒸気動力サイクル部ほど、その蒸気動力サイクル部を流通する作動流体の沸点がより高いものとなるように、各蒸気動力サイクル部の作動流体の種類を異ならせ、熱交換する高温流体の温度域に適切に対応させることで、作動流体の顕熱域での熱交換の割合を少なくし、熱損失を必要最小限にして熱エネルギーを効率よく動力等に変換できることとなる。こうして作動流体を異ならせる場合、複数の蒸気動力サイクル部の、高温流体の流通する順序と、低温流体の流通する順序は、互いに逆順となるようにするのが、各作動流体の相変化との関係上好ましい。
【実施例】
【0151】
本発明に係る蒸気動力サイクルシステムについて、熱の出入りする量や圧力等の条件を用いて熱効率等の性能に係る値を求め、得られた結果について、比較例としての従来の蒸気動力サイクル等の結果と比較評価して、有効な性能向上が実現しているか否かを検証した。
【0152】
ただし、本発明の蒸気動力サイクルシステムについての熱効率等の性能に係る値を求めるにあたっては、特記しない限り、タービン、ポンプ等の内部効率、機械効率、熱交換器での圧力損失等は考慮しない。
【0153】
(実施例1)
まず、実施例1として、前記第1の実施形態同様の蒸気動力サイクルシステム、すなわち、図1に示すように蒸気動力サイクル部を二段構成として、高温流体を各蒸気動力サイクル部の蒸発器に連続して流すと共に、低温流体を各蒸気動力サイクル部の凝縮器に連続して流し、これら高温流体や低温流体を各蒸気動力サイクル部で作動流体と熱交換するものについて、熱効率等の値を算出した。計算にあたっては、図1中に示したように、サイクルの各点(1〜4、5〜8)における作動流体の圧力や温度等の状態を示す各種物性値を、蒸発器や凝縮器等の熱交換器の伝熱性能、熱源となる高温流体や低温流体の温度条件等、現実の環境に基づく仮定値を用いて算出した上で、サイクルの熱効率等の各値を計算して求めることとなる。
【0154】
この実施例1の蒸気動力サイクルに係る主要な条件としては、各蒸気動力サイクル部の作動流体にアンモニアを用い、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11における高温流体側の入口温度TWSIは28℃、出口温度TWSMは26℃とし、これと熱交換する作動流体の蒸発器出口(点4)温度T4は24℃に設定した。また、第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器21における高温流体側の入口温度TWSMは26℃、出口温度TWSOは24℃とし、これと熱交換する作動流体の蒸発器出口(点8)温度T8は22℃に設定した。
【0155】
一方、第二の蒸気動力サイクル部20の凝縮器23における低温流体側の入口温度TCSIは4℃、出口温度TCSMは7℃とし、これと熱交換する作動流体の凝縮器出口(点6)温度T6は9℃に設定した。さらに、第一の蒸気動力サイクル部10の凝縮器13における低温流体側の入口温度TCSMは7℃、出口温度TCSOは10℃とし、これと熱交換する作動流体の凝縮器出口(点2)温度T2は12℃に設定した。
【0156】
また、第一の蒸気動力サイクル部10の作動流体の流量GWF1は、65.2t/hとしている。そして、第二の蒸気動力サイクル部20の作動流体の流量GWF2は、64.6t/hとしている。さらに、高温流体の流量GWSは、10000t/hとし、低温流体の流量GCSは、6390t/hとしている。
こうした蒸気動力サイクルの各点(1〜4、5〜8)における作動流体の圧力P、温度T、比エンタルピーh等の各条件値を表1に示す。
【0157】
【表1】

【0158】
また、比較例として、従来のカウンターフロー型の熱交換器を蒸発器や凝縮器として用いたランキンサイクルによる単段(図17参照;比較例1)及び二段構成(比較例2)の各システム、並びに、実施例と同じ蒸気動力サイクル部を単段構成としたもの(比較例3)についても、前記実施例1と同様に、サイクルの各点(1〜4、5〜8)における作動流体の圧力、温度等の状態を求めて、さらにサイクルの熱効率を得る。
【0159】
なお、高温流体や低温流体の温度条件、作動流体のサイクル各点での温度については、単段のランキンサイクルの場合で、作動流体の蒸発器出口温度が22℃となる点を除いて、前記実施例1の本発明に係る装置の設定値と同じである。
【0160】
こうした比較例のサイクル各点における条件値についても、実施例1の場合と同様に表に示す。このうち、比較例1及び比較例2の各条件値は表2に示し、比較例3については、実施例1の各値と合わせて表1に示している。
【0161】
【表2】

【0162】
前記表1で示された熱源の各流体や作動流体の条件値から、実施例1のサイクルの熱効率ηthは、
ηth=(WT−WPWF)/QE={(WT1+WT2)−(WPWF1+WPWF2)}/(QE1+QE2
ここで、タービン出力WT=WT1+WT2=GWF1(h4−h1)+GWF2(h8−h5)=65.2×103(1626.0×103−1577.1×103)/3600+64.6×103(1624.7×103−1570.9×103)/3600=6663.8×106/3600
また、ポンプ動力WPWF=WPWF1+WPWF2=GWF1(h3−h2)+GWF2(h7−h6)=65.2×103(399.6×103−399.1×103)/3600+64.6×103(385.5×103−385.0×103)/3600=64.9×106/3600
さらに、蒸発器熱交換量QE=QE1+QE2=GWSCpWS(TWSM−TWSI)+GWSCpWS(TWSO−TWSM)=GWSCpWS(TWSO−TWSI)=10000×103・4.0×103(28−24)/3600=160000×106/3600
から、
ηth=(6663.8−64.9)/160000=0.0412
よって、実施例1のサイクル熱効率は、4.12%である。
【0163】
また、高温流体用ポンプの自己消費動力WPWSは、第一の蒸気動力サイクル部における蒸発器の高温流体圧力損失dPE1が、蒸発器の熱交換器性能実測値から、高温流体流速0.341m/s、流路長0.70mで11.0kPaとなり、第二の蒸気動力サイクル部における蒸発器の高温流体圧力損失dPE2が、蒸発器の熱交換器性能実測値から、高温流体流速0.341m/s、流路長0.70mで11.3kPaとなることで、二段の蒸気動力サイクル部における蒸発器の高温流体圧力損失dPEが、dPE=dPE1+dPE2=11.0+11.3=22.3[kPa]と算定されることにより、入熱量比の形で以下のように求められる。
PWS/QE=GWS/ρWS・dPE・QE=GWS/ρWS・dPE・{GWSCpWS(TWSO−TWSI)}=dPE/{ρWS・CpWS(TWSO−TWSI)}=22.3×103/{1.023×103・4.0×103(28−24)}
=0.0014
よって、高温流体用ポンプの自己消費動力(入熱量比)は、0.14%となる。
【0164】
また、低温流体用ポンプの自己消費動力WPCSは、第一の蒸気動力サイクル部における凝縮器の低温流体圧力損失dPC1が、凝縮器の熱交換器性能実測値から、低温流体流速0.430m/s、流路長0.70mで17.2kPaとなり、第二の蒸気動力サイクル部における凝縮器の低温流体圧力損失dPC2が、凝縮器の熱交換器性能実測値から、低温流体流速0.430m/s、流路長0.70mで18.3kPaとなることで、二段の蒸気動力サイクル部における凝縮器の低温流体圧力損失dPCが、dPC=dPC1+dPC2=17.2+18.3=35.5[kPa]と算定されることにより、入熱量比の形で以下のように求められる。
PCS/QE=GCS/ρCS・dPC・QE=GCS/ρCS・dPC・{GWSCpWS(TWSO−TWSI)}=6390×103・35.5×103/{1.027×103・10000×103・4.0×103(28−24)}
=0.0014
よって、低温流体用ポンプの自己消費動力(入熱量比)は、0.14%となる。
【0165】
さらに、作動流体用ポンプのポンプ動力、すなわち、自己消費動力WPWFを、入熱量比の形で求めると、
PWF/QE=(WPWF1+WPWF2)/QE={GWF1(h3−h2)+GWF2(h7−h6)}/{GWSCpWS(TWSO−TWSI)}={65.2×103(399.6×103−399.1×103)/3600+64.6×103(385.5×103−385.0×103)/3600}/{10000×103・4.0×103(28−24)/3600}
=0.0003
よって、作動流体用ポンプの自己消費動力(入熱量比)は、0.03%となる。
【0166】
これらより、自己消費動力のタービン出力に対する割合は、
(WPWS+WPCS+WPWF)/WT
=(0.0014+0.0014+0.0003)/0.0416
=0.075
すなわち、7.5%となる。
【0167】
また、自己消費動力を考慮した熱効率は、
η={WT−(WPWS+WPCS+WPWF)}/QE
=0.0416−(0.0014+0.0014+0.0003)
=0.0384
すなわち、3.84%となる。
【0168】
一方、比較例としての各サイクルシステムについても、上記実施例の場合と同様の手順で、前記表1、表2で示された各条件値に基づき、サイクルの熱効率ηth、高温流体用ポンプの自己消費動力WPWS、低温流体用ポンプの自己消費動力WPCS、作動流体用ポンプの自己消費動力WPWF、自己消費動力のタービン出力に対する割合、及び、自己消費動力を考慮した熱効率、を求めた。
【0169】
ただし、比較例1の、従来のカウンタフロー型熱交換器を用いた単段の蒸気動力サイクル部における蒸発器の高温流体圧力損失dPEは、蒸発器の性能実測値から、高温流体流速0.637m/s、流路長1.80mで38.6kPaとなり、これを用いて前記同様に高温流体用ポンプの自己消費動力WPWSを求める。また、凝縮器の低温流体圧力損失dPCは、凝縮器の性能実測値から、低温流体流速0.517m/s、流路長1.20mで26.4kPaとなり、これを用いて前記同様に低温流体用ポンプの自己消費動力WPCSを求める。
【0170】
さらに、比較例2の、従来のカウンタフロー型熱交換器を用いた二段の蒸気動力サイクル部における蒸発器の高温流体圧力損失dPEは、第一の蒸気動力サイクル部における蒸発器の高温流体圧力損失dPE1が、蒸発器の性能実測値から、高温流体流速0.776m/s、流路長1.80mで51.7kPaとなり、第二の蒸気動力サイクル部における蒸発器の高温流体圧力損失dPE2が、蒸発器の性能実測値から、高温流体流速0.776m/s、流路長1.80mで52.7kPaとなることで、高温流体圧力損失dPEが、dPE=dPE1+dPE2=51.7+52.7=104.4[kPa]と算定され、これを用いて前記同様に高温流体用ポンプの自己消費動力WPWSを求める。同じく、二段の蒸気動力サイクル部における凝縮器の低温流体圧力損失dPCは、第一の蒸気動力サイクル部における凝縮器の低温流体圧力損失dPC1が、凝縮器の性能実測値から、低温流体流速0.940m/s、流路長1.20mで59.4kPaとなり、第二の蒸気動力サイクル部における凝縮器の低温流体圧力損失dPC2が、凝縮器の性能実測値から、低温流体流速0.940m/s、流路長1.20mで62.2kPaとなることで、低温流体圧力損失dPCが、dPC=dPC1+dPC2=59.4+62.2=121.6[kPa]と算定され、これを用いて前記同様に低温流体用ポンプの自己消費動力WPCSを求める。
【0171】
加えて、比較例3の、実施例と同じ蒸気動力サイクル部を単段構成としたシステムにおける蒸発器の高温流体圧力損失dPEは、蒸発器の性能実測値から、高温流体流速0.221m/s、流路長0.70mで6.2kPaとなり、これを用いて前記同様に高温流体用ポンプの自己消費動力WPWSを求める。また、凝縮器の低温流体圧力損失dPCは、凝縮器の性能実測値から、低温流体流速0.223m/s、流路長0.70mで7.5kPaとなり、これを用いて前記同様に低温流体用ポンプの自己消費動力WPCSを求める。
【0172】
こうして、前記実施例及び比較例について、熱効率その他の値を算出した結果を前記表1、表2に前記各条件値と合わせて示す。
これら表1及び表2の算出結果より、実施例1の蒸気動力サイクルシステムでは、高温流体や低温流体のポンプにおける自己消費動力が比較例2に比べて小さなものとなっており、二つの蒸気動力サイクル部における蒸発器や凝縮器としてそれぞれクロスフロー型の熱交換器を用いると共に、蒸発器同士や凝縮器同士を適切に並べて配置することで、圧力損失が低下していることが明らかとなっている。また、これにより、実施例1の場合における、自己消費動力を考慮した熱効率は、各比較例のものより向上しており、複数段化による効率向上を、熱交換器等の改良により現実的なものとしていることがわかる。
【0173】
以上から、実施例1の蒸気動力サイクルシステムは、現実的な条件下で、従来の熱交換器を蒸発器及び凝縮器として用いたランキンサイクルによるシステムより、優れた効率を得られており、クロスフロー型熱交換器を採用した蒸気動力サイクル部を複数段化することで、熱源である高温流体と低温流体の温度差をより有効に利用できることは明らかである。
【0174】
(実施例2)
続いて、実施例2として、前記第2の実施形態同様の蒸気動力サイクルシステム、すなわち、図9に示すように、蒸気動力サイクル部を二段構成として、高温流体を各蒸気動力サイクル部の蒸発器に連続して流すと共に、低温流体を各蒸気動力サイクル部の凝縮器に連続して流し、これら高温流体や低温流体を各蒸気動力サイクル部で作動流体と熱交換することに加え、第一の蒸気動力サイクル部10におけるタービン出口から凝縮器に向う作動流体と、第二の蒸気動力サイクル部20におけるポンプ出口から蒸発器に向う作動流体とを、予熱用熱交換器41で熱交換させるものについて、熱効率等の値を算出した。計算にあたっては、図9中に示したように、サイクルの各点(1−9−2−3−4、5−6−7−10−8)における作動流体の圧力や温度等の状態を示す各種物性値を、蒸発器や凝縮器等の熱交換器の伝熱性能、熱源となる高温流体や低温流体の温度条件等、現実の環境に基づく仮定値を用いて算出した上で、サイクルの熱効率等の各値を計算して求めることとなる。
【0175】
この実施例2の蒸気動力サイクルに係る主要な条件としては、各蒸気動力サイクル部の作動流体にペンタンを用い、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11における高温流体側の入口温度TWSIは28℃、出口温度TWSMは26℃とし、これと熱交換する作動流体の蒸発器出口(点4)温度T4は24℃に設定した。また、第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器21における高温流体側の入口温度TWSMは26℃、出口温度TWSOは24℃とし、これと熱交換する作動流体の蒸発器出口(点8)温度T8は22℃に設定した。
【0176】
一方、第二の蒸気動力サイクル部20の凝縮器23における低温流体側の入口温度TCSIは4℃、出口温度TCSMは7℃とし、これと熱交換する作動流体の凝縮器出口(点6)温度T6は9℃に設定した。さらに、第一の蒸気動力サイクル部10の凝縮器13における低温流体側の入口温度TCSMは7℃、出口温度TCSOは10℃とし、これと熱交換する作動流体の凝縮器出口(点2)温度T2は12℃に設定した。
【0177】
また、予熱用熱交換器41における第一の蒸気動力サイクル部10側の作動流体の入口温度T1は13.8℃、出口温度T9は12℃とし、これと熱交換する第二の蒸気動力サイクル部20側の作動流体の入口温度T7は9.0℃、出口温度T10は13.6℃に設定した。
【0178】
さらに、第一の蒸気動力サイクル部10の作動流体の流量GWF1は、203t/hとしている。そして、第二の蒸気動力サイクル部20の作動流体の流量GWF2は、206t/hとしている。さらに、高温流体の流量GWSは、10000t/hとし、低温流体の流量GCSは、6390t/hとしている。
【0179】
こうした蒸気動力サイクルの各点(1−9−2−3−4、5−6−7−10−8)における作動流体の圧力P、温度T、比エンタルピーh等の各条件値を表3に示す。
【0180】
【表3】

【0181】
また、比較例として、予熱用熱交換器による熱回収を行わない、前記実施例1と同様の二段構成の蒸気動力サイクルシステム(比較例4)についても、前記実施例2と同様に、図1中に示したサイクルの各点(1〜4、5〜8)における作動流体の温度等の状態を求めて、さらにサイクルの熱効率を得る。
【0182】
なお、この比較例4の場合で用いる高温流体や低温流体の温度条件、作動流体のサイクル各点での温度については、予熱用熱交換器を使用しない関係で、第一の蒸気動力サイクル部10の作動流体の凝縮器入口温度を、タービン出口温度T1と同じ13.8℃、第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器入口温度を、ポンプ出口温度T7と同じ9.0℃に設定している他は、前記実施例2の本発明に係る装置の設定値と同じである。
この比較例4のサイクル各点における条件値についても、前記表3に実施例2の場合の各値と合わせて示している。
【0183】
前記表3で示された熱源の各流体や作動流体の条件値から、実施例2のサイクルの熱効率ηthは、
ηth=(WT−WPWF)/QE={(WT1+WT2)−(WPWF1+WPWF2)}/(QE1+QE2
ここで、タービン出力WT=WT1+WT2=GWF1(h4−h1)+GWF2(h8−h5)=203×103(338.8×103−323.4×103)/3600+206×103(335.7×103−318.8×103)/3600=6607.6×106/3600
また、ポンプ動力WPWF=WPWF1+WPWF2=GWF1(h3−h2)+GWF2(h7−h6)=203×103(−55.6×103+55.7×103)/3600+206×103(−62.4×103+62.4×103)/3600=20.3×106/3600
さらに、蒸発器熱交換量QE=QE1+QE2=GWSCpWS(TWSM−TWSI)+GWSCpWS(TWSO−TWSM)=GWSCpWS(TWSO−TWSI)=10000×103・4.0×103(28−24)/3600=160000×106/3600
から、
ηth=(6607.8−20.3)/160000=0.0413
よって、実施例2のサイクル熱効率は、4.13%である。
【0184】
これに対し、比較例4としてのサイクルシステムの熱効率ηthは、
ηth=(WT−WPWF)/QE={(WT1+WT2)−(WPWF1+WPWF2)}/(QE1+QE2
ここで、タービン出力WT=WT1+WT2=GWF1(h4−h1)+GWF2(h8−h5)=203×103(338.8×103−323.4×103)/3600+201×103(335.7×103−318.8×103)/3600=6523.1×106/3600
また、ポンプ動力WPWF=WPWF1+WPWF2=GWF1(h3−h2)+GWF2(h7−h6)=203×103(−55.6×103+55.7×103)/3600+201×103(−62.4×103+62.4×103)/3600=20.3×106/3600
さらに、蒸発器熱交換量QE=QE1+QE2=GWSCpWS(TWSM−TWSI)+GWSCpWS(TWSO−TWSM)=GWSCpWS(TWSO−TWSI)=10000×103・4.0×103(28−24)/3600=160000×106/3600
から、
ηth=(6523.1−20.3)/160000=0.0407
よって、比較例4のサイクル熱効率は、4.07%である。
【0185】
以上から、実施例2の蒸気動力サイクルシステムは、予熱用熱交換器を使用して熱回収を行うことで、比較例4の予熱用熱交換器を使用しない二段構成の場合より優れた熱効率の値が得られており、予熱用熱交換器を使用することで、熱源である高温流体と低温流体の温度差をより有効に利用できることがわかる。
【0186】
(実施例3)
次に、実施例3として、前記第3の実施形態同様の蒸気動力サイクルシステム、すなわち、図13に示すように、蒸気動力サイクル部を二段構成とすることに加え、各蒸気動力サイクル部が気液分離器を有して、蒸発器を出た作動流体を気相分と液相分とに分離し、気相の作動流体をタービンに向わせる一方、液相の作動流体を蒸発器入口側に向わせるものについて、蒸発器の性能に係る各値を算出した。計算にあたっては、図13中に示したように、サイクルの各点(1−2−3−11−12−4・13、5−6−7−14−15−8・16)における作動流体の圧力や温度等の状態を示す各種物性値を、蒸発器や凝縮器等の熱交換器の伝熱性能、熱源となる高温流体や低温流体の温度条件等、現実の環境に基づく仮定値を用いて算出した上で、サイクルにおける蒸発器の性能値を計算して求めることとなる。
【0187】
この実施例3の蒸気動力サイクルに係る主要な条件としては、各蒸気動力サイクル部の作動流体にアンモニアを用い、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11における高温流体側の入口温度TWSIは28℃、出口温度TWSMは26℃とし、第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器21における高温流体側の入口温度TWSMは26℃、出口温度TWSOは24℃とした。
【0188】
一方、第二の蒸気動力サイクル部20の凝縮器23における低温流体側の入口温度TCSIは4℃、出口温度TCSMは7℃とし、これと熱交換する作動流体の凝縮器出口(点6)温度T6は9℃に設定した。さらに、第一の蒸気動力サイクル部10の凝縮器13における低温流体側の入口温度TCSMは7℃、出口温度TCSOは10℃とし、これと熱交換する作動流体の凝縮器出口(点2)温度T2は12℃に設定した。
【0189】
また、この実施例3の場合、気液分離器を設ける関係で、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11における作動流体側の入口(点11)温度T11は15.5℃、出口(点12)温度T12は24℃とし、気液分離器から蒸発器入口に向う作動流体の温度T13は24℃に設定した。さらに、第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器21における作動流体側の入口(点14)温度T14は12.8℃、出口(点15)温度T15は22℃とし、気液分離器から蒸発器入口に向う作動流体の温度T16は22℃に設定した。
さらに、各蒸気動力サイクル部で気液分離器からタービンに向う作動流体の乾き度を0.6としている。
【0190】
こうした実施例3のサイクルシステムの各点(1−2−3−11−12−4・13、5−6−7−14−15−8・16)における作動流体の圧力P、温度T、比エンタルピーh等の各条件値を表4に示す。
【0191】
【表4】

【0192】
また、比較例として、気液分離器による気液分離を行わない、前記実施例1と同じ蒸気動力サイクル部を単段構成としたもの(比較例5)、及び、前記実施例1とした二段構成の蒸気動力サイクルシステム(比較例6)についても、前記実施例3と同様に、サイクルの各点における作動流体の圧力や温度等の状態を求めて、さらに、蒸発器の熱伝達係数等を得る。
【0193】
なお、高温流体や低温流体の流量や温度条件については、前記本発明に係る装置の設定値と同じである。
こうした比較例のサイクル各点における条件値についても、実施例3の場合と同様にして、表5に示す。
【0194】
【表5】

【0195】
前記表4で示された熱源の各流体や作動流体の条件値から、実施例3における、蒸発器での高温流体と作動媒体との流量比GWS:GWF1は、
WS/GWF1=GWS(h12−h11)/QE1=(h12−h11)/CpWS(TWSM−TWSI
=(1158.0×103−415.7×103)/4.0×103(26−24)
=93
よって、GWS:GWF1=93:1
である。
【0196】
この実施例3の蒸発器における高温流体側の熱伝達係数は、第一と第二の各蒸気動力サイクル部のいずれにおいても、蒸発器の熱交換器性能実測値から、高温流体流速0.530m/s、作動流体側の質量流束16.0kg/m2sの場合で、9460W/m2Kとなり、また、同様に、作動流体側の熱伝達係数は、10300W/m2Kとなる。これらの値と、蒸発器の高温流体と作動流体とを隔てる熱交換用プレートの熱伝導率等の性能値や汚れ係数等の条件値に基づき、蒸発器の総括熱伝達係数は、3660W/m2Kとなる。
【0197】
一方、前記表5で示された熱源の各流体や作動流体の条件値から、比較例5としての単段構成のシステムにおける、高温流体と作動媒体との流量比GWS:GWF1は、
WS/GWF1=GWS(h4−h3)/QE1=(h4−h3)/CpWS(TWSO−TWSI
=(1624.7×103−399.5×103)/4.0×103(28−24)
=77
よって、GWS:GWF1=77:1
である。
【0198】
この比較例5の蒸発器における高温流体側の熱伝達係数は、蒸発器の熱交換器性能実測値から、高温流体流速0.221m/s、作動流体側の質量流束9.86kg/m2sの場合で、5460W/m2Kとなり、また、同様に、作動流体側の熱伝達係数は、3830W/m2Kとなる。これらの値と、蒸発器の高温流体と作動流体とを隔てる熱交換用プレートの熱伝導率等の性能値や汚れ係数等の条件値に基づき、蒸発器の総括熱伝達係数は、1940W/m2Kとなる。
【0199】
さらに、前記表5で示された熱源の各流体や作動流体の条件値から、比較例6としての二段構成のシステムにおける、高温流体と作動媒体との流量比GWS:GWF1は、
WS/GWF1=GWS(h4−h3)/QE1=(h4−h3)/CpWS(TWSO−TWSI
=(1626.0×103−399.6×103)/4.0×103(26−24)
=154
よって、GWS:GWF1=154:1
である。
【0200】
この比較例6の蒸発器における高温流体側の熱伝達係数は、第一と第二の各蒸気動力サイクル部のいずれにおいても、蒸発器の熱交換器性能実測値から、高温流体流速0.342m/s、作動流体側の質量流束7.70kg/m2sの場合で、7340W/m2Kとなり、また、同様に、作動流体側の熱伝達係数は、3190W/m2Kとなる。これらの値と、蒸発器の高温流体と作動流体とを隔てる熱交換用プレートの熱伝導率等の性能値や汚れ係数等の条件値に基づき、蒸発器の総括熱伝達係数は、1920W/m2Kとなる。
【0201】
こうして、前記実施例及び比較例について、流量比や熱伝達係数の値を算出した結果を、前記表4、表5に前記各条件値と合わせて示す。
これら算出結果から、実施例3の蒸気動力サイクルシステムは、気液分離器を使用して気液分離を行い、乾き度調整を行うことで、気液分離器を使用しない各比較例の構成の場合より、蒸発器の熱伝達係数、特に作動流体側の熱伝達係数を大きくすることができ、蒸発器の性能を示す総括熱伝達係数が向上している。こうして、複数段構成の蒸気動力サイクル部で、さらに気液分離器を使用することで、蒸発器をより有効に利用して、熱伝達における損失を抑えられることがわかる。
【0202】
(実施例4)
また、実施例4として、前記第4の実施形態同様の蒸気動力サイクルシステム、すなわち、図16に示すように、前記実施例3と同様に蒸気動力サイクル部を二段構成とし、各蒸気動力サイクル部が気液分離器を有するのに加えて、第二の蒸気動力サイクル部における気相分離器で分離された後の液相の作動流体と、第一の蒸気動力サイクル部におけるポンプ出口から蒸発器に向う液相の作動流体とを再生熱交換器で熱交換させるものについて、サイクルの熱効率を算出した。計算にあたっては、図16中に示したように、サイクルの各点(1−2−3−17−11−12−4・13、5−6−7−14−15−8・16−18)における作動流体の圧力や温度等の状態を示す各種物性値を、蒸発器や凝縮器等の熱交換器の伝熱性能、熱源となる高温流体や低温流体の温度条件等、現実の環境に基づく仮定値を用いて算出した上で、サイクルの熱効率等の各値を計算して求めることとなる。
【0203】
この実施例4の蒸気動力サイクルに係る主要な条件としては、各蒸気動力サイクル部の作動流体にアンモニアを用い、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11における高温流体側の入口温度TWSIは28℃、出口温度TWSMは26℃とし、第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器21における高温流体側の入口温度TWSMは26℃、出口温度TWSOは24℃とした。
【0204】
一方、第二の蒸気動力サイクル部20の凝縮器23における低温流体側の入口温度TCSIは4℃、出口温度TCSMは7℃とし、これと熱交換する作動流体の凝縮器出口(点6)温度T6は9℃に設定した。さらに、第一の蒸気動力サイクル部10の凝縮器13における低温流体側の入口温度TCSMは7℃、出口温度TCSOは10℃とし、これと熱交換する作動流体の凝縮器出口(点2)温度T2は12℃に設定した。
【0205】
また、この実施例4の場合、再生熱交換器を設ける関係で、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11における作動流体側の入口温度は18.1℃、出口温度は24℃とし、気液分離器から蒸発器入口に向う作動流体の温度は24℃に設定した。さらに、第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器21における作動流体側の入口温度は10.2℃、出口温度は22℃とし、気液分離器から蒸発器入口に向う作動流体の温度は22℃に設定した。
さらに、各蒸気動力サイクル部で気液分離器からタービンに向う作動流体の乾き度を0.6としている。
【0206】
こうした実施例4のサイクルシステムの各点(1−2−3−17−11−12−4・13、5−6−7−14−15−8・16−18)における作動流体の圧力P、温度T、比エンタルピーh等の各条件値を表6に示す。
【0207】
【表6】

【0208】
また、比較例として、再生熱交換器による熱回収を行わない、前記実施例3と同様の二段構成の蒸気動力サイクルシステム(比較例7)についても、前記実施例4と同様に、サイクルの各点における作動流体の圧力や温度等の状態を求めて、さらにサイクルの熱効率を得る。
なお、高温流体や低温流体の流量や温度条件、蒸発器や凝縮器の熱伝達条件については、前記本発明に係る装置の設定値と同じである。
【0209】
異なる条件として、再生熱交換器を使用しない関係で、第一の蒸気動力サイクル部10の蒸発器11における作動流体側の入口温度は15.5℃に設定している。また、第二の蒸気動力サイクル部20の蒸発器21における作動流体側の入口温度は12.8℃に設定している。
この比較例7のサイクル各点における条件値についても、前記表6に実施例4の場合の各値と合わせて示している。
【0210】
前記表6で示された熱源の各流体や作動流体の条件値から、実施例4のサイクルの熱効率ηthは、
ηth=(WT−WPWF)/QE={(WT1+WT2)−(WPWF1+WPWF2)}/(QE1+QE2
ここで、タービン出力WT=WT1+WT2=GWF1(h4−h1)+GWF2(h8−h5)=66.3×103(1626.0×103−1577.1×103)/3600+63.6×103(1624.7×103−1570.9×103)/3600=6670.4×106/3600
また、ポンプ動力WPWF=WPWF1+WPWF2=GWF1(h3−h2)+GWF2(h7−h6)=66.3×103(399.6×103−399.1×103)/3600+63.6×103(385.5×103−385.0×103)/3600=65.0×106/3600
さらに、蒸発器熱交換量QE=QE1+QE2=GWSCpWS(TWSM−TWSI)+GWSCpWS(TWSO−TWSM)=GWSCpWS(TWSO−TWSI)=10000×103・4.0×103(28−24)/3600=160000×106/3600
から、
ηth=(6670.4−65.0)/160000=0.0413
よって、実施例4のサイクル熱効率は、4.13%である。
【0211】
これに対し、比較例7としてのサイクルシステムの熱効率ηthは、
ηth=(WT−WPWF)/QE={(WT1+WT2)−(WPWF1+WPWF2)}/(QE1+QE2
ここで、タービン出力WT=WT1+WT2=GWF1(h4−h1)+GWF2(h8−h5)=65.2×103(1626.0×103−1577.1×103)/3600+64.6×103(1624.7×103−1570.9×103)/3600=6663.8×106/3600
また、ポンプ動力WPWF=WPWF1+WPWF2=GWF1(h3−h2)+GWF2(h7−h6)=65.2×103(399.6×103−399.1×103)/3600+64.6×103(385.5×103−385.0×103)/3600=64.9×106/3600
さらに、蒸発器熱交換量QE=QE1+QE2=GWSCpWS(TWSM−TWSI)+GWSCpWS(TWSO−TWSM)=GWSCpWS(TWSO−TWSI)=10000×103・4.0×103(28−24)/3600=160000×106/3600
から、
ηth=(6663.8−64.9)/160000=0.0412
よって、比較例7のサイクル熱効率は、4.12%である。
【0212】
以上から、実施例4の蒸気動力サイクルシステムは、再生熱交換器を使用して作動流体の熱回収を行うことで、再生熱交換器を使用しない蒸気動力サイクル部の二段構成の場合より優れた熱効率を得られており、複数段構成の蒸気動力サイクル部で、それぞれ気液分離による乾き度調整に加えて、再生熱交換器を併用することで、熱源である高温流体と低温流体の温度差をより有効に利用して効率を高められることがわかる。
【符号の説明】
【0213】
1、2、3、4 蒸気動力サイクルシステム
10、20 蒸気動力サイクル部
11、21 蒸発器
12、22 タービン
13、23 凝縮器
14、24 ポンプ
15、25 気液分離器
16、26 補助ポンプ
30 熱交換器本体
30a 熱交換用プレート
30b 第一流路
30c 第二流路
30d フランジ
31a、31b 管路
32 隔壁
32a 貫通孔
33 チャンバ
34、35、39 領域
36 区画壁
37、38 ポンプ
41、43 予熱用熱交換器
42、44 再生熱交換器
51、52 発電機
60 シェル
61 管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を液相の状態で所定の高温流体と熱交換させ、前記作動流体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で得られた気相の作動流体を導入されて作動流体の保有する熱エネルギを動力に変換する膨張機と、当該膨張機を出た気相の作動流体を所定の低温流体と熱交換させ、凝縮させる凝縮器と、当該凝縮器を出た液相の作動流体を前記蒸発器へ向けて圧送するポンプとを少なくとも有する、蒸気動力サイクル部を複数備え、
当該複数の蒸気動力サイクル部が、各々の蒸発器における高温流体の流路同士を直列に相互接続されると共に、各々の凝縮器における低温流体の流路同士を直列に相互接続され、且つ、高温流体と低温流体の流通に係る各蒸気動力サイクル部の順序が高温流体の場合と低温流体の場合とで互いに逆順又は同順となる接続設定とされてなり、
前記各蒸気動力サイクル部の蒸発器が、作動流体の流れ方向と高温流体の流れ方向とが直交するクロスフロー型熱交換器とされると共に、高温流体側の流路断面積が作動流体側に比べ大きく、且つ高温流体側の流路長が作動流体側に比べて短い熱交換器形状とされてなり、蒸発器同士を高温流体の流れ方向に並べた配置としてそれぞれ配設され、
前記各蒸気動力サイクル部の凝縮器が、作動流体の流れ方向と低温流体の流れ方向とが直交するクロスフロー型熱交換器とされると共に、低温流体側の流路断面積が作動流体側に比べ大きく、且つ低温流体側の流路長が作動流体側に比べて短い熱交換器形状とされてなり、凝縮器同士を低温流体の流れ方向に並べた配置としてそれぞれ配設されることを
特徴とする蒸気動力サイクルシステム。
【請求項2】
作動流体を液相の状態で所定の高温流体と熱交換させ、前記作動流体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で得られた気相の作動流体を導入されて作動流体の保有する熱エネルギを動力に変換する膨張機と、当該膨張機を出た気相の作動流体を所定の低温流体と熱交換させ、凝縮させる凝縮器と、当該凝縮器を出た液相の作動流体を前記蒸発器へ向けて圧送するポンプとを少なくとも有する、蒸気動力サイクル部を複数備え、
当該複数の蒸気動力サイクル部が、各々の蒸発器における高温流体の流路同士を直列に相互接続されると共に、各々の凝縮器における低温流体の流路同士を直列に相互接続され、且つ、高温流体と低温流体の流通に係る各蒸気動力サイクル部の順序が高温流体の場合と低温流体の場合とで互いに逆順又は同順となる接続設定とされてなり、
一の蒸気動力サイクル部における膨張機出口から凝縮器に向う作動流体を、他の蒸気動力サイクル部におけるポンプ出口から蒸発器に向う作動流体と熱交換させる、予熱用熱交換器が配設されることを
特徴とする蒸気動力サイクルシステム。
【請求項3】
作動流体を液相の状態で所定の高温流体と熱交換させ、前記作動流体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で得られた気相の作動流体を導入されて作動流体の保有する熱エネルギを動力に変換する膨張機と、当該膨張機を出た気相の作動流体を所定の低温流体と熱交換させ、凝縮させる凝縮器と、当該凝縮器を出た液相の作動流体を前記蒸発器へ向けて圧送するポンプとを少なくとも有する、蒸気動力サイクル部を複数備え、
当該複数の蒸気動力サイクル部が、各々の蒸発器における高温流体の流路同士を直列に相互接続されると共に、各々の凝縮器における低温流体の流路同士を直列に相互接続され、且つ、高温流体と低温流体の流通に係る各蒸気動力サイクル部の順序が高温流体の場合と低温流体の場合とで互いに逆順又は同順となる接続設定とされてなり、
前記各蒸気動力サイクル部が、前記蒸発器と膨張機との間の作動流体流路に、前記蒸発器を出た作動流体を気相分と液相分とに分離し、気相の作動流体を膨張機に向わせる一方、液相の作動流体を蒸発器の入口側に向わせる気液分離器を有することを
特徴とする蒸気動力サイクルシステム。
【請求項4】
前記請求項1に記載の蒸気動力サイクルシステムにおいて、
一の蒸気動力サイクル部における膨張機出口から凝縮器に向う作動流体を、他の蒸気動力サイクル部におけるポンプ出口から蒸発器に向う作動流体と熱交換させる、予熱用熱交換器が配設されることを
特徴とする蒸気動力サイクルシステム。
【請求項5】
前記請求項1、2、4のいずれかに記載の蒸気動力サイクルシステムにおいて、
前記各蒸気動力サイクル部が、前記蒸発器と膨張機との間の作動流体流路に、前記蒸発器を出た作動流体を気相分と液相分とに分離し、気相の作動流体を膨張機に向わせる一方、液相の作動流体を蒸発器の入口側に向わせる気液分離器を有することを
特徴とする蒸気動力サイクルシステム。
【請求項6】
前記請求項3又は5に記載の蒸気動力サイクルシステムにおいて、
所定の蒸気動力サイクル部における気液分離器から蒸発器の入口側に向う液相作動流体を、前記所定の蒸気動力サイクル部とは別の蒸気動力サイクル部におけるポンプ出口から蒸発器に向う作動流体と熱交換させる、再生熱交換器が配設されることを
特徴とする蒸気動力サイクルシステム。
【請求項7】
前記請求項1ないし6のいずれかに記載の蒸気動力サイクルシステムにおいて、
前記各蒸気動力サイクル部の蒸発器及び凝縮器が、複数並列状態とされた略矩形状金属薄板製の各熱交換用プレートを、所定の略平行をなす二端辺部位で隣合う一の熱交換用プレートと水密状態として溶接される一方、隣合う他の熱交換用プレートと前記二端辺と略直交する他の略平行な二端辺部位で水密状態として溶接されて全て一体化され、各熱交換用プレート間に作動流体の通る第一流路と高温流体又は低温流体の通る第二流路とをそれぞれ一つおきに生じさせる熱交換器本体をそれぞれ有してなることを
特徴とする蒸気動力サイクルシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−57305(P2013−57305A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197606(P2011−197606)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【出願人】(598117056)株式会社ゼネシス (19)
【Fターム(参考)】