説明

蒸気採取方法

【課題】ボイラにおける蒸気質を調べ、ボイラ水系に腐食やスケール障害が発生していないかどうかや、製品直接加熱用蒸気としての適否を監視するために、ボイラより発生する蒸気を安全に採取する方法を提供する。
【解決手段】ボイラにおける蒸気質を調べるために、ボイラより発生する蒸気を、蒸気取出し配管10に設けたサンプリング口6から採取する方法であって、前記蒸気取出し配管10の末端に圧力計4を設置すると共に、該圧力計4と前記サンプリング口6との間にサイホン管2bを設けることを特徴とする蒸気採取方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラにおける蒸気質を調べ、ボイラ水系に腐食やスケール障害が発生していないかどうかや、食品やガーゼ、包帯など製品の直接加熱用蒸気としての適否を監視するために、ボイラより発生する蒸気を安全に採取する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボイラが良好な状態で運転しているかどうかを調べるために、蒸気を採取し、それを凝縮させて、溶存酸素量(DO)、pH及び電気伝導率などを調べることが行われている。また、被殺菌処理製品を加熱ないし殺菌する際、ボイラで発生させた蒸気を熱交換器に導入して製品と間接的に熱交換する手法が多く採用されているが、近年、この蒸気を熱交換器を使用せず直接製品に吹き込んで製品の加熱や殺菌を行うことが一般化してきた。
食品製造工場では、原材料のおいしさや新鮮さをできるだけ維持するために、蒸気を直接食品に吹き込み、殺菌することが行われ始めた。このような状況下では、蒸気に万一異物が含まれると、この蒸気を吹き込んだ食品は品質が維持できないため出荷されず、廃棄されてしまう。従来は、十分に水処理された水を用い、かつ十分に管理されたボイラが使用されているので、このような蒸気の質は殆んど問題になることはなく、最終製品の品質を経験者が試験により判定し、合格品のみを出荷していた。このような状況は、コーンフレークなどのシリアル、レトルト食品や缶詰などの製造工程でも発生する他に、病院におけるガーゼ、包帯などの殺菌などでも発生する。
【0003】
従来のように、蒸気発生源として十分に水処理された水を用い、管理されたボイラを使用する限りは、発生した蒸気質はさほど問題にならない。しかし、近年、比較的価格が安く、無人運転が可能な小型貫流ボイラが普及してきた。小型貫流ボイラ(JIS B 8223では特殊循環ボイラと定義されている。)においては、経済性が重視され、性能的にあまり優れていない気水分離器が設けられているために、蒸気に不純物が含まれやすい傾向がある。従ってこのような小型貫流ボイラで発生した蒸気を前記製品と直接接触させるような用途に使用するためには、ボイラより発生する蒸気を採取し、蒸気の質を監視する必要がある。
また、従来においては、十分に水処理された水を用い、かつ十分に管理されたボイラを使用する場合であっても、蒸気への異物の混入を防止するために、ボイラの運転開始初期の蒸気は廃棄し、運転開始から相当な時間が経過後の蒸気を使用に供しているため、いたずらに廃棄される蒸気量が多く、蒸気の無駄を生じていた。蒸気の質を的確に計測することができるならば、このような蒸気の無駄を防止することができる。
【0004】
このように、ボイラ水系の運転状態を調べるためや食品やガーゼ、包帯など製品の直接加熱用蒸気としての適否を監視するために、ボイラより発生する蒸気を採取し、その蒸気質を調べることは、重要である。
そこで本願出願人は、具体的に蒸気質を調べる装置を完成させ提案した(特許文献1)。
ところが、既設低圧プラントの多くは、蒸気採取箇所が設けられていることが少なく、また、工場連続操業中に蒸気採取箇所が新設できない問題が存在する。そこで、既設の圧力計等を外して蒸気採取箇所を設け、任意の期間、蒸気質の監視を実施することになる。
一般に、圧力計は、ブルドン管式のものが使用される。圧力計のブルドン管は扁平な管を円弧状に曲げ、その一端を固定し多端を閉じて自由に動けるようにしたもので、その先に歯付扇形片をかみ合わせる構造となっている。この圧力計は蒸気が直接接触する位置に取付けると、蒸気がブルドン管に入り熱せられて温度が高くなり、正しい値を示さないことがあった。そのため、圧力計の手前にサイホン管を取付け、その中に水を入れてブルドン管に蒸気や高温の水が直接入らないようにして用いる(80℃以下での使用)手法がとられている。
【0005】
上記理由のため、既設の蒸気配管に配置されている圧力計は、「蒸気ヘッダー−サイホン管−バルブ−圧力計」の順に取付けられていることが多い。圧力計の手前にバルブが設置されているのは、圧力計が故障した際に、圧力計のみの交換を容易にするためである。
この状態より蒸気を採取する場合には、バルブから先の圧力計のみを取り外して、蒸気を採取する以外の手段はなく、蒸気を採取しながら、同時に圧力を測定することができなかった。このため、蒸気の取出し口を設置する作業時に蒸気が噴出するなど、作業員に常に危険が付きまとっていたのが実状である。
一方、ボイラの復水系の腐食状況を監視する装置として、ボイラから蒸気を受け入れて凝縮させる蒸気冷却器と、復水出口を有し、内部にテストピースを装着可能な、透明材料で構成されたテストピースカラムと、前記蒸気冷却器からの復水を該テストピ−スカラムに供給する配管とを備えてなるボイラ復水系用監視装置が開示されている(特許文献2参照)。しかし、この技術においても、前に挙げた特許文献1においてもボイラより発生する蒸気を採取する方法について、なんら言及されていない。
【0006】
【特許文献1】特願2005−283870号明細書
【特許文献2】特許第3662037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下で、ボイラにおける蒸気質を調べ、ボイラ水系の運転状態を調べたり、製品直接加熱用蒸気としての適否を監視するために、ボイラより発生する蒸気を、安全に採取する方法を提供することを目的とするものである。また、ボイラより発生する蒸気を安全に採取した後、凝縮し、直接加熱用蒸気として適しているか否か評価できる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、サンプリング口が設けた蒸気取出し配管の末端に圧力計を設置すると共に、該圧力計と前記サンプリング口との間にサイホン管を設けることにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)ボイラにおける蒸気質を調べるために、ボイラより発生する蒸気を、蒸気取出し配管に設けたサンプリング口から採取する方法であって、前記蒸気取出し配管の末端に圧力計を設置すると共に、該圧力計と前記サンプリング口との間にサイホン管を設けることを特徴とする蒸気採取方法、
(2)主蒸気配管、蒸気ヘッダー及び高温再生器入口のいずれかに、蒸気取出し配管を配設する上記(1)に記載の蒸気採取方法、
(3)サンプリング口から採取された蒸気は凝縮され、凝縮水の水質を計測し、当該蒸気の質が製品を直接加熱・殺菌する蒸気として適しているか否かを評価する上記(1)又は(2)に記載の蒸気採取方法、及び
(4)サンプリング口から採取された蒸気は凝縮され、凝縮水の電気伝導率、pH、TOC及び溶存酸素濃度の少なくとも一つを測定する上記(1)又は(2)に記載の蒸気採取方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボイラにおける蒸気質を調べ、ボイラ水系が好適に運転されているか否かや、食品などの製品直接加熱用蒸気としての適否を監視するために、ボイラより発生する蒸気を安全に採取する方法を提供することができる。
また、本発明によれば、安全に採取した蒸気を凝縮し、必要項目の水質分析を行うことによって、ボイラ水系が好適に運転されているか否かや、製品直接加熱用蒸気として適しているか否かを評価する方法を提供することができる。その結果、腐食やスケールによる突発事故や、質の低い蒸気を食品などの製品に誤って直接吹き込で不良品を発生させるような事故を未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の蒸気採取方法は、ボイラにおける蒸気質を調べるために、ボイラより発生する蒸気を、蒸気取出し配管に設けたサンプリング口から採取する方法であって、前記蒸気取出し配管の末端に圧力計を設置すると共に、該圧力計と前記サンプリング口との間にサイホン管を設けることを特徴とする。
本発明の蒸気採取方法においては、ボイラより発生する蒸気を採取する箇所に特に制限はないが、主蒸気配管、蒸気ヘッダー及び高温再生器入口のいずれかにおいて採取することが好ましい。
次に、圧力計が設置されている既設の蒸気ヘッダーより、蒸気を採取する例について、添付図面に従って説明する。
図1は、既設の蒸気ヘッダーに圧力計が設置されている状態の一例を示す概要図であって、通常、圧力計4は、「蒸気ヘッダー1−サイホン管2a−バルブ3a−圧力計4」の順に取付けられている。この状態の場合、サイホン管2aの中にドレンが溜まるため、圧力計4のブルドン管に蒸気や高温の水が直接入ることはない。
【0011】
図2は、前記図1で示される「蒸気ヘッダー1−サイホン管2a−バルブ3a−圧力計4」の構成を利用して作製されてなる、本発明の方法に係るサンプリング口を取付けた蒸気取出し配管の構成の一例を示す概要図である。
蒸気取出し配管10は、以下に示す操作によって作製することができる。まず、図1において、バルブ3aを閉め、圧力計4を外す。次いで、図2において、チーズ5、バルブ3b、サンプリング口6、サイホン管2bを取付け、さらに末端に圧力計4を設置することにより、蒸気取出し配管10が作製される。
前記構成の蒸気取出し配管10においては、サンプリング口6から連続的に蒸気を採取すると、サイホン管2aは、蒸気が凝縮した水は溜まらない。一方、サイホン管2bは、圧力計4が末端に設置されており、蒸気が送られないため、蒸気凝縮水が溜まり、圧力計4は、そのブルドン管に蒸気や高温の水が直接入らず、高温になることはない。
本発明においては、蒸気取出し配管を、図2に示す構成とすることにより、暫定的に蒸気採取箇所を設けた場合においても、圧力計を設置することができ、蒸気の噴出などによる作業員への危険を回避することができる。
【0012】
本発明の蒸気採取方法においては、サンプリング口から採取された蒸気は凝縮され、凝縮水の水質を計測し、当該蒸気の質が、製品を直接加熱・殺菌処理する蒸気として適しているか否かを評価することが好ましく、あるいは、凝縮水の電気伝導率、pH、TOC及び溶存酸素濃度の少なくとも一つを測定し、蒸気質を調べることが好ましい。このように蒸気質を調べることによって、蒸気中に製品にとって障害となる成分の混入の有無を評価することができる。
本発明の方法が適用されるボイラに特に制限はなく、丸ボイラ、水管ボイラ、小型貫流ボイラなどの特殊ボイラ、さらには低圧ボイラ、中・高圧ボイラのいずれにも適用することができる。
【0013】
本発明においては、得られた凝縮水の着目したい項目に従って、例えば溶存酸素、pH,電気伝導率及び有機体酸素(TOC)など、1つ以上の項目を測定する。蒸気を食品、飲料などの製品に直接吹き込んで加熱、殺菌などを行う場合、蒸気中の不純物の量は、一応水道水の水質基準以内をメドとする。溶存酸素は、水道水の水質基準には挙げられていないが、蒸気の質を判定する上で重要な項目である。凝縮水の溶存酸素が多いことは、蒸気の中に酸素が多量に存在することを意味するので、酸素含有量の多い高温蒸気を食品、飲料などに直接吹き込むと、製品が酸化により劣化するおそれがある。また、蒸気配管の腐食の原因となり、腐食した配管から剥離した錆が製品に混入するなどの事故を引き起こす可能性がある。
【0014】
pHは、蒸気に含まれるpH影響成分を検出するために測定される。水質基準には、18種の無機化合物が個別に取り上げられ、それぞれについて基準値が定められている。本発明方法においては、凝縮水の電気伝導率を測定することにより、凝縮水中に存在するイオンの量を総合的に判定し、電気伝導率が所定の値以下であれば、凝縮水中にイオン性物質は少なく、従って蒸気の中の無機性の不純物も少ないと判定することができる。凝縮水の電気伝導率が上昇した場合には、個別の化合物について原因を追究し、対策を立てることができる。
【0015】
水質基準には、22種の有機化合物が個別に取り上げられ、それぞれについて基準値が定められている。本発明方法においては、凝縮水の有機体炭素を測定することにより、凝縮水中に存在する有機化合物の量を総合的に判定し、有機体炭素が所定の値以下であれば、凝縮水中に有機化合物は少なく、従って蒸気の中の有機性の不純物も少ないと判定することができる。凝縮水の有機体炭素が上昇した場合には、個別の化合物について原因を追究し、対策を立てることができる。
【0016】
本発明においては、溶存酸素(DO)、電気電導率、pH、有機体炭素(TOC)などを測定する項目は、ボイラ用水の水質、蒸気の使用目的などに応じて適宜選択することができる。
本発明によれば、このように、ボイラより発生する蒸気を安全に採取して蒸気質を調べることができ、蒸気凝縮水の電気伝導率やpH、TOC、溶存酸素濃度などを測定することにより、蒸気を直接加熱用蒸気として適しているか否かを評価することができる。
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこの例によってなんら限定されるものではない。
実施例
多管式小型貫流式ボイラ〔(株)サムソン製〕の蒸気ヘッダーに、図2に示す、サンプリング口を取付けてなる蒸気取出し配管を配設した。次いで、この小型貫流式ボイラにおいて、常用圧力0.6〜0.8MPaまで圧力をかけ、その状態を1ヶ月間維持した。その結果圧力計には全く異常が見られず、正常値を示し続けた。また、サンプリング口から採取した蒸気は水冷式熱交換器に供給して、常温の凝縮水とした。
これらから、本発明方法においては何の危険性も伴わず、常に正常な圧力計による計測のもと蒸気を採取することができ、しかも蒸気は容易に凝縮されて水質分析用機器に供することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の蒸気採取方法は、ボイラにおける蒸気質を調べ、ボイラ水系に腐食やスケール障害が発生していないかどうかを調べるためや、製品直接加熱用蒸気としての適否を監視するために、ボイラより発生する蒸気を、安全に採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】既設の蒸気ヘッダーに圧力計が設置されている状態の一例を示す概要図である。
【図2】本発明の蒸気採取方法に係る、サンプリング口を取付けた蒸気取出し配管の構成の一例を示す概要図である。
【符号の説明】
【0020】
1 蒸気ヘッダー
2a、2b サイホン管
3a、3b バルブ
4 圧力計
5 チーズ
6 サンプリング口
10 蒸気取出し配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラにおける蒸気質を調べるために、ボイラより発生する蒸気を、蒸気取出し配管に設けたサンプリング口から採取する方法であって、前記蒸気取出し配管の末端に圧力計を設置すると共に、該圧力計と前記サンプリング口との間にサイホン管を設けることを特徴とする蒸気採取方法。
【請求項2】
主蒸気配管、蒸気ヘッダー及び高温再生器入口のいずれかに、蒸気取出し配管を配設する請求項1に記載の蒸気採取方法。
【請求項3】
サンプリング口から採取された蒸気は凝縮され、凝縮水の水質を計測し、当該蒸気の質が製品を直接加熱・殺菌する蒸気として適しているか否かを評価する請求項1又は2に記載の蒸気採取方法。
【請求項4】
サンプリング口から採取された蒸気は凝縮され、凝縮水の電気伝導率、pH、TOC及び溶存酸素濃度の少なくとも一つを測定する請求項1又は2に記載の蒸気採取方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−241610(P2008−241610A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85366(P2007−85366)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】