説明

蒸気混合型加熱殺菌装置

【課題】実際の殺菌処理状況に応じて、高品質の殺菌処理を安定的に実施することのできる蒸気混合型加熱殺菌装置を提供する。
【解決手段】蒸気混合型加熱殺菌装置は、加熱殺菌すべき流体に蒸気を混合することで流体を加熱する加熱系と、加熱系の下流側に接続され、加熱系において加熱された流体に対して殺菌処理を施す殺菌処理系とを備えており、加熱系は、ロータの作用により昇圧を伴って流体を移送し、移送途中の流体に蒸気を混合する動力付混合装置としての蒸気混合用ポンプ4を少なくとも有する。また、加熱系は、蒸気混合用ポンプ4の入口側における流体の圧力を検出する圧力センサ19と、圧力センサ19により検出された圧力値に応じてロータの回転数を制御し、これにより、ポンプ入口側の流体の圧力を制御する圧力制御部PIC−1とをさらに有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気を流体に直接的に混合することで流体を加熱する蒸気混合型加熱殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の殺菌装置は、短い加熱時間で済み、かつ、流体への熱影響が小さく品質の低下防止が可能であるため、例えばコーヒーフレッシュや豆乳などの焦げ付き易い液体、あるいは青汁など変色し易い液体などの殺菌処理に好適に用いられる傾向にある。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、殺菌されるべき液体に直接蒸気を吹き込むことにより当該液体を殺菌温度にまで加熱するインジェクションヒーターと、インジェクションヒーターの下流側に配設され、加熱した状態の液体を所定時間保持することで液体の殺菌処理を行う保持管とを備えた蒸気吹込み式直接加熱殺菌装置が開示されている。また、インジェクションヒーターの上流側には、インジェクションヒーターに向けて液体を圧送するためのロータリーポンプが配設されると共に、保持管の下流側に背圧バルブが配設される。
【特許文献1】特開2004−201533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の殺菌装置であれば、液体の圧力損失も考慮してなるべくポンプ背圧を高く設定するのが望ましいが、その場合には、インジェクションヒーターに供給される液体の圧力が高くなるため、蒸気を混合するために非常に高い蒸気圧が必要となる。これでは、高温の蒸気が液体に接触するために局部的には所要の殺菌温度を超えて必要以上に加熱することになり、被加熱液体への熱ダメージ、ひいては液体の品質低下を招く恐れがあり好ましくない。
【0005】
一方、飲食用流体など比較的粘性の高い液体を殺菌処理対象とする場合には圧力変動が生じやすく、また、殺菌処理の継続実施に伴い、管内壁におけるスケール等の発生など、加熱系や殺菌処理系の状態が変動する場合も少なくない。そのため、これらの変動に早急に応答することのできる高精度な加熱殺菌装置が要求される。この点、上記特許文献1に記載の殺菌装置では、保持管内を通過する液体の流速を計測し、当該計測値に基づき殺菌処理を続行するか否かを判断するに過ぎず、例えば殺菌温度を実際の処理状況に応じて制御するための手段につき何らの開示あるいは示唆もなされていない。
【0006】
以上の事情に鑑み、実際の殺菌処理状況に応じて、高品質の殺菌処理を安定的に実施することのできる蒸気混合型加熱殺菌装置を提供することを本発明により解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題の解決を図るためになされたものである。すなわち、本発明に係る蒸気混合型加熱殺菌装置は、加熱殺菌すべき流体に蒸気を混合することで流体を加熱する加熱系と、加熱系の下流側に接続され、加熱系において加熱された流体に対して殺菌処理を施す殺菌処理系とを備えた蒸気混合型加熱殺菌装置において、加熱系は、回転子の作用により昇圧を伴って流体を移送して移送途中の流体に蒸気を混合する動力付混合装置を少なくとも有し、かつ、動力付混合装置の入口側における流体の圧力を検出する圧力検出部と、圧力検出部により検出された圧力値に応じて回転子の回転数を制御する回転数制御部とをさらに有する点をもって特徴付けられる。
【0008】
このように、昇圧を伴って移送される流体に対して蒸気の混合を可能とする動力付混合装置を設けることで、従来に比べて低圧の蒸気を供給することができる。そのため、供給すべき蒸気が比較的低温で済み、流体に与える熱ダメージを抑えて、品質の劣化を防止することができる。さらに、昇圧途中の流体に対して蒸気を混合することで、蒸気の混合後も昇圧することができるので、液体の昇温により生じる恐れのあるキャビテーションを極力避けることができる。これにより、蒸気を流体に均一に溶け込ますことができ、ばらつきの少ない安定した加熱処理が可能となる。
【0009】
また、上記構成によれば、動力付混合装置の入口側における流体の圧力を検出し、検出した圧力値に応じて動力付混合装置の回転数を調整することが可能となる。ここで、上記構成の混合装置(例えばポンプなど)であれば、その回転子の回転数増加に伴い昇圧の勾配も増加することから、上述の如く回転数を調整することで、加熱殺菌すべき流体の種類や、実際の殺菌処理時における流体の状態に合わせて混合装置入口側の流体圧を適切に設定することができる。以上より、動力付混合装置の昇圧作用と、上記回転数制御部との相互作用により、混合装置の2次側の圧力(背圧)に左右されることなく、加熱時の流体の圧力バランスを好適な状態に保って、高精度かつ安定した加熱殺菌処理を行うことができる。
【0010】
この場合、回転数制御部により、動力付混合装置の入口側での流体の圧力を、殺菌温度における飽和蒸気圧以上となるように制御するようにしてもよい。このように制御することで、全ての蒸気を確実に流体に溶け込ますことが可能な程度に混合装置入口側の流体圧力を設定することができる。そのため、混合装置入口側の流体圧力を下げすぎることなく、また、背圧設定圧力に左右されることなく好適な圧力バランスを保って加熱殺菌処理を行うことができる。また、混合蒸気との圧力差を極力小さくすることで、加熱によるダメージを最小限に抑えることができる。
【0011】
上記加熱殺菌装置は、種々の流体の加熱殺菌処理に好適に使用できるが、中でも、飲食用流体の如く、風味や色合いなど食品等に特有の品質を確保するため微細かつ高精度な処理が必要とされる流体に対して特に好適である。なお、ここでいう「飲食用流体」には、上記加熱殺菌が可能な程度に流動性を有する食品はもちろん、飲料等の液体も含まれる。加熱殺菌後の加工を経て食品ないし飲料となるもの(食品等原料)も含まれる。また、全体として上記加熱殺菌が可能な程度に流動性を有していればよく、微小な粒状物(その他の微小固形物を含む)が混入しているものも含まれる。また、摂取の仕方についても問わず、例えば経管栄養など各種の経腸栄養法に提供される栄養剤(経腸栄養剤)なども含まれる。
【0012】
また、この場合、装置内の加熱系や殺菌処理系を洗浄ないし滅菌するため、飲食用流体の代わりに水を流して、これを加熱することで、当該系を滅菌処理する場合がある。かかる場合、飲食用流体又は水を択一的に切替えて動力付混合装置に接続できるように構成してもよく、また、この場合、飲食用流体と水との切替え位置が、圧力検出部による流体の圧力検出位置よりも上流側に位置するようにしてもよい。このように構成すれば、処理流体の切替え時に、飲食用流体と水との粘度の違いや圧力損失の違いに起因して流体の圧力、特に動力付混合装置の入口側における流体圧力が減少するのを抑制することができる。そのため、圧力の急激な変化(低下)に伴うキャビテーションの発生も可及的に抑制することができ、滅菌処理をやり直す手間も省ける。また、水から飲食用流体への切替えに伴う流体の温度変化にも即座に対応して早急に安定した殺菌処理状態を実現することができる。
【0013】
また、殺菌処理系は、加熱された流体を保持する保持管を少なくとも有するものであってよく、また、その場合、保持管の出口側に背圧制御部が配設されていてもよい。このようにすれば、背圧制御部の2次側(下流側)における圧力変化の影響が1次側(上流側)に及ぶのを回避して、動力付混合装置の背圧を安定化させることができる。ここでは、保持管の出口側に背圧制御部を配設しているので、背圧制御部の2次側における圧力変動が保持管内の流体に及ぼす影響を排除して、一層安定した殺菌処理を実施することができる。また、背圧が安定することで、動力付混合装置の入口側における流体の圧力変動を一層小さく抑えることができ、当該入口側圧力を高精度に制御できるようになる。
【0014】
また、この場合、背圧制御部により、動力付混合装置の出口側における流体の圧力が、蒸気との混合領域における流体の圧力より高く設定されるのが好ましい。このようにすれば、一旦流体に溶け込んだ蒸気がキャビテーションを起こさないよう、蒸気混合流体を高圧に維持して、より安定した加熱殺菌を行うことができる。また、動力付混合装置の回転数制御部と背圧制御部との組み合わせにより、動力付混合装置の入口側から出口側、そして保持管までの流体の圧力状態を高精度かつ自在に管理することができる。
【0015】
また、加熱系は、動力付混合装置の出口側における流体の温度計測値に基づき、流体に対する蒸気の供給量を制御する蒸気量制御部をさらに有するものであってもよい。このようにすれば、例えば一定の蒸気圧を有する蒸気の供給量のみの調整で、加熱温度の微調整が可能となる。特に、既述の回転数制御部および背圧制御部にて、流体の圧力状態を一定に維持した場合には、動力付混合装置内の蒸気供給領域における流体の圧力が安定的に制御されるため、蒸気供給量のみの調整で効率よく高精度な加熱殺菌処理が可能となる。
【0016】
また、本発明に係る加熱系は、動力付混合装置の上流側に配設される流体の移送装置と、移送装置の出口側における流体の流量計測値に基づき、移送装置の移送容量を制御する流量制御部とをさらに有するものであってもよい。このようにすれば、動力付混合装置の下流側に配設される殺菌処理系(例えば保持管)における流体の流量を一定にできる。よって、殺菌処理系における処理流量を一定にして、その殺菌時間を安定化させることができる。特に、背圧制御部により動力付混合装置の背圧が一定に制御される場合には、流体の流量制御性も併せて向上するため好適である。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明によれば、実際の殺菌処理状況に応じて、高品質の殺菌処理を安定的に実施することのできる蒸気混合型加熱殺菌装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る蒸気混合型加熱殺菌装置の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1に示す蒸気混合型加熱殺菌装置は、例えば飲食用流体等の液体の加熱殺菌に用いられるもので、加熱殺菌処理の対象となる液体を貯蔵、排出する液体タンク1と、液体タンク1内の液体を後述する熱交換器3および動力付混合装置としての蒸気混合用ポンプ4に移送するための移送装置としての移送用ポンプ2と、移送用ポンプ2により送られてきた液体を、混合すべき蒸気の温度に近づける目的で予備加熱する熱交換器3と、熱交換器3で予備加熱された液体に蒸気を混合して、液体を殺菌温度にまで加熱する蒸気混合用ポンプ4と、蒸気混合用ポンプ4の下流側に配設され、蒸気混合により加熱された液体を一定時間保持するホールドパイプ5と、ホールドパイプ5で殺菌処理がなされた液体を所定温度以下の温度にまで冷却する主冷却器7と、ホールドパイプ5と主冷却器7との間に配設される背圧制御部としての主背圧弁6と、主冷却器7の下流側に配設される副背圧弁8とを主たる構成要素として備える。
【0020】
なお、図1中において、符号9は、蒸気混合型加熱殺菌装置内の流体系(主に加熱系と殺菌処理系)の洗浄あるいは滅菌処理に使用される水を貯蔵、排出する水タンクを示している。また、符号10は、運転条件に応じて、液体タンク1と蒸気混合用ポンプ4の入口側との間の接続と、水タンク9と蒸気混合用ポンプ4の入口側との間の接続とを択一的に切換える第1切替弁を示している。ここでは、移送用ポンプ2の上流側に第1切替弁10が配設されている。また、系滅菌処理後の水を回収することを主な目的として、主冷却器7および副背圧弁8の下流側には第2切替弁11が配設されており、副背圧弁8の側と殺菌処理済の液体の回収ラインとの間の接続と、系滅菌処理後の水の回収ラインとの間の接続とを適宜切替えできるように構成されている。
【0021】
また、同図中、符号12は、系滅菌処理時あるいは殺菌処理不良発生時に、処理済の液体を不具合なく回収ライン(例えば排水ライン)へと流すために当該液体の冷却を行う排液用冷却器を示すと共に、符号13は、排液用冷却器12の下流側に設けられ、排液ラインの背圧を一定に保持する排液用背圧弁を示している。さらに、符号14は、蒸気混合用ポンプ4の出口側(後述する排出口42の下流側)における液体温度、あるいはホールドパイプ5の出口側における液体温度が設定すべき殺菌温度範囲を逸脱した場合、処理済液体を回収ライン(排水ライン)へと送るための第3切替弁を示している。なお、この実施形態では、排液用背圧弁13の下流側に、この排液用背圧弁13の側と排液回収ラインとの間の接続と、液体の殺菌処理ラインとの間の接続とを切替える第4切替弁15が配設されており、例えば所定の殺菌温度に到らず十分な殺菌処理がなされなかった場合、対応する液体を、当該液体の殺菌処理ラインへと還流できるように構成されている。
【0022】
また、同図中、符号16、17、18はそれぞれ、予備加熱用の熱交換器3に使用する熱水を所定量確保するための熱水タンク、熱水タンク16と熱交換器3との間で熱水を循環させるための循環用ポンプ、循環用ポンプ17から送られた熱水を所定温度にまで昇温するヒーターを示している。
【0023】
また、この実施形態では、各種流体の圧力や温度、流量を計測もしくは制御するための制御部が設けられている。例えば図1中、符号PIC−1は、蒸気混合用ポンプ4の入口側における液体の温度を圧力検出部としての圧力センサ19により検出し、この検出値に基づき、蒸気混合用ポンプ4の回転数を制御し、これによりポンプ入口側の液体の圧力を制御する圧力制御部を示している。この場合、蒸気混合用ポンプ4の下流側に配設された主背圧弁6により、ポンプ出口側の液体圧力が所定の値に保持されるので、ポンプ回転数は、実質的に蒸気混合用ポンプ4の入口側における液体の圧力を制御することになる。この圧力制御(回転数制御)は、例えば、液体ごとの所望の殺菌温度に応じて蒸気混合用ポンプ4の入口側圧力の値を設定しておき、この設定値と、上述の圧力検出値との差に基づき、コンバーターの周波数制御により後述する蒸気混合用ポンプ4のロータ44の回転数を所定の値に随時調節することで行われる。
【0024】
また、図1中、符号TICA−1は、蒸気混合用ポンプ4の出口側における液体の温度を温度センサにより計測し、この計測値に基づき、同計測箇所における液体温度が所要の温度範囲内に収まるよう蒸気混合用ポンプ4への蒸気の供給量を調節する殺菌温度制御部を示している。具体的には、後述する蒸気混合用ポンプ4に設けられた蒸気供給口46の上流側に蒸気の供給量を調整するための蒸気コントロール弁20を設け、この蒸気コントロール弁20の開度を殺菌温度制御部TICA−1により制御することで、蒸気の供給量が所定の値に設定される。同様に、符号TICA−2は、主冷却器7の出口側における液体の温度を計測し、この計測値に基づき、同計測箇所における液体温度が所要の温度範囲内に収まるよう主冷却器7への冷却水供給量を調節する冷却温度制御部を、符号TICA−3は、熱交換器3の出口側における液体の温度を計測し、この計測値に基づき、同計測箇所における液体温度が所要の温度範囲内に収まるよう熱交換器3に使用する熱水の温度(例えばヒーター18による加熱量)を調節する予熱温度制御部をそれぞれ示している。
【0025】
また、図1中、符号TIA−1は、殺菌が確実に行われているか否かを監視するために設置されるもので、ホールドパイプ5の出口側における液体の温度を計測し、この計測値(温度)が、所要の殺菌温度範囲内に収まっていない場合には、当該情報により液体の運転を停止するか、もしくは、当該情報を第3切替弁14に伝達し、あるいは切換信号を伝達する殺菌温度監視部を示している。また、符号FICA−1は、移送用ポンプ2の出口側における液体の流量を計測し、この計測値に基づき、同計測箇所における液体の流量が所定の値となるよう移送用ポンプ2の回転数(ここではインバータの周波数)を調節する流量制御部を示している。
【0026】
次に、蒸気混合用ポンプ4の構成について説明する。
【0027】
図2は、蒸気混合用ポンプ4の軸直交断面図を示す。同図に示すように、蒸気混合用ポンプ4は、液体の流入口41および排出口42とを有するケーシング43と、ケーシング43の内部に収容され、図示しないモータの駆動軸に回転可能に連結された回転子としてのロータ44と、ケーシング43の内壁43aとロータ44との間に形成される液体の昇圧流路45と、ケーシング43に設けられ、昇圧流路45に開口する蒸気供給口46とを備えている。かかる構成により、ロータ44の回転時かつ蒸気の導入時には、昇圧流路45における蒸気供給口46の開口部分に、このポンプ4内部に導入した液体に蒸気を供給するための蒸気供給領域47が形成される。
【0028】
この実施形態では、蒸気混合用ポンプ4は主にカスケードポンプで構成されている。流入口41と排出口42との間には、隔壁部48が形成され、流体流路となる昇圧流路45が、円板状のロータ44の外周に沿って、流入口41と排出口42とをつなぐように一部環状に形成される。これにより、流入口41から流入した液体は、ロータ44の約一周分流れて(昇圧流路45を通って)排出口42から外部へ排出されるようになっている。ロータ44は、この図示例ではいわゆる羽根車であり、その外周に沿って複数の羽根溝44aを有している。また、蒸気供給口46は、この実施形態では、一部環状をなす昇圧流路45の円周方向中間位置(正確には、流入口41までの距離と排出口42までの距離とが等しくなる位置)より流入口41に近い側に開設されている。
【0029】
次に、上記構成の加熱殺菌装置を用いた液体の加熱殺菌工程の一例を説明する。
【0030】
まず、図1に示すように、液体タンク1から排出された液体を移送用ポンプ2により熱交換器3に送り、後述する加熱処理時の温度に近づけるための予備加熱処理(例えば50℃以上100℃未満)を施す。このようにして予備加熱処理が施された液体を、下流側に位置する蒸気混合用ポンプ4へと移送する。
【0031】
蒸気混合用ポンプ4に送られた液体は、図2に示すように、矢印aの方向から流入口41を介して昇圧流路45内に導入される。この際、図示しないモータを駆動させることで当該モータの駆動軸に連結されたロータ44が回転し、この図示例では、流入口41から昇圧流路45に沿って排出口42へと向かう方向に回転し、昇圧流路45内に導入された液体が昇圧を伴って排出口42の側へと移送される。また、これと同時に、ケーシング43に設けられた蒸気供給口46より蒸気を矢印bの方向から昇圧流路45内に導入することで、蒸気供給口46の開口部分に形成される蒸気供給領域47において、昇圧移送中の液体に蒸気が供給される。ここで、蒸気供給口46における蒸気温度が加熱殺菌を行うべき温度以上に設定された蒸気を供給することで、当該液体が加熱殺菌温度にまで昇温(加熱)される。蒸気が供給された液体はロータ44により動的に混合(攪拌)され、かつ昇圧されながら昇圧流路45中を排出口42の側に向けて送られ、攪拌および昇圧の終了と共に排出口42を介して外部(図1、図2でいえば矢印cの方向)に排出される。
【0032】
この際、圧力制御部PIC−1により、蒸気混合用ポンプ4の入口側における液体の圧力を圧力センサ19により検出し、この検出値に基づき、蒸気混合用ポンプ4のロータ44の回転数が所定の値に随時制御される。具体的には、殺菌処理の間、圧力センサ19による圧力検出値が、殺菌処理対象となる液体ごとに定まる殺菌温度時の飽和蒸気圧を所定量上回るように、ロータ44の回転数がインバータ制御される。
【0033】
また、この実施形態では、殺菌温度制御部TICA−1により、蒸気混合用ポンプ4の出口側における液体の温度を温度センサにより計測し、この計測値に基づき、殺菌処理の間、同計測箇所における液体温度が所要の温度範囲内に収まるよう蒸気混合用ポンプ4への蒸気の供給量が調節される。具体的には、蒸気供給口46の上流側に配設した蒸気コントロール弁20の開度を、殺菌温度制御部TICA−1により制御することで蒸気供給量の調整を行う。
【0034】
上述のようにして所定の温度(加熱殺菌温度)にまで加熱された液体を、蒸気混合用ポンプ4の下流側に位置するホールドパイプ5で一定時間保持し、流体の実質的な殺菌処理を行う。この際、蒸気混合用ポンプ4の排出口42およびその下流側に位置する液体は、流体の流量制御部FICA−1およびホールドパイプ5の下流側に配設される主背圧弁6により一定の流速および一定圧に保持される。従い、ホールドパイプ5を通過する液体に対して一定時間の殺菌処理が連続的に行われる。
【0035】
その後、ホールドパイプ5で殺菌処理がなされた液体を主冷却器7にて所定温度以下の温度(例えば100℃未満)にまで冷却することで、加熱殺菌工程が完了する。
【0036】
また、液体の加熱殺菌処理後、第1切替弁10を切替えて水タンク9と移送用ポンプ2に接続すると共に、第2切替弁11を切替えてホールドパイプ5や主冷却器7で構成される殺菌系を排液回収ラインと接続することで、当該加熱殺菌系の滅菌処理を行う。この場合、例えば液体の加熱殺菌温度以上の温度にまで加熱した水を上記加熱殺菌系に流すことで、滅菌処理が行われる。水による滅菌処理が終了した後、次工程に係る加熱殺菌処理時と同じ条件に各種制御部PIC−1,TICA−1,−2,−3,TIA−1,FICA−1を設定した上で、第1切替弁10などを切替え、処理液を水から加熱殺菌すべき液体へと切替える。この際、圧力制御部PIC−1や殺菌温度制御部TICA−1により、実際の液体圧力や温度に基づき、ポンプ回転数が適当に調節され、また、蒸気供給量が調整される。そのため、新たな液体に対しても適切な温度で加熱殺菌処理が連続的に実施される。
【0037】
以上のように、昇圧しながら液体を移送し、かつ移送中に蒸気を混合可能な蒸気混合用ポンプ4を使用すると共に、当該ポンプ4の下流側に主背圧弁6を配設し、かつ、圧力制御部PIC−1によりポンプ入口側の流体圧力を、殺菌温度制御部TICA−1により蒸気の供給量をそれぞれ上述の如く調整し、以下の圧力状態 (殺菌温度時の飽和蒸気圧)<(ポンプ入口側圧力)<(蒸気供給領域における液圧)<(蒸気導入圧)<(ポンプ出口側圧力) を満たすように調整することで、処理すべき液体の種類あるいは状況に応じて、高精度かつ安定した加熱殺菌処理を行うことができる。従って、微妙な調整が必要となる飲食用流体の加熱殺菌処理においても、食品ごとに必要となる殺菌温度を精密かつ容易に調整することが可能となる。
【0038】
また、蒸気混合用ポンプ4の入口側における流体圧力を検出パラメータとし、このパラメータの値に基づきポンプ回転数を圧力制御部PIC−1で制御することで、水による加熱殺菌系の滅菌処理から、液体の加熱殺菌処理に切替える際、液体と水との粘度の違いやその経路長の差によって、ポンプ入口側の流体圧が一時的に低下してもポンプ回転数を減じることで、早急に当該流体圧力を所定の値にまで回復することができる。そのため、処理液の切替えに伴う液体(ここでは飲食用流体)の温度変化にも即座に対応して早急に安定した殺菌処理状態を実現することができる。また、この実施形態では、主背圧弁6の下流側に第3切替弁14を配設するようにしたので、処理液の切替時、圧力損失の違いから主背圧弁6の2次側に大きな圧力損失が生じた場合でも、当該圧力損失が殺菌系に及ぼす影響をなるべく排除して、安定した殺菌処理を実施することができる。
【0039】
このように、本発明に係る加熱殺菌装置は、実際の殺菌処理状況に応じて、高品質の殺菌処理を安定的に継続実施できることから、他の高品質殺菌を必要とする用途、例えばアセプティック殺菌等にも好適に使用できる。例えば、アセプティック殺菌の如き滅菌環境下で蒸気混合による加熱滅菌を実施する場合においては、弁の切替時における僅かな液漏れ等を防止する観点から、殺菌系から極力弁機構を排除する必要が生じる。すなわち、図4に示すように、図1に示す形態ではホールドパイプ5の出口側に設けられていた第3切替弁14を省略した構成を採ることになる。しかし、この場合、水から液体への切替時に液体の温度低下が生じても第3切替弁14がないため殺菌の不十分な液体を逃がすことができない。そのため、再度水に切替えて系滅菌を行う必要が生じるところ、本発明に係る加熱殺菌装置であれば、特に水から液体へ切替えた際の温度変化に対しても早急に対応することができる。そのため、切替時において従来生じていた不安定な温度状態を可及的に解消して、温度安定性に優れた殺菌系を構築することが可能となる。
【0040】
なお、上記実施形態では、ホールドパイプ5の下流側でかつ第3切替弁14の上流側に主背圧弁6を設けるようにしたので、主背圧弁6の2次側における圧力変動による影響を排除して、ホールドパイプ5における殺菌温度ないし時間を高精度に管理することができる。
【0041】
また、上記実施形態では、蒸気混合用ポンプ4として、いわゆるカスケードポンプ(渦流ポンプ)を使用した。この種のポンプは、他のポンプと比べて非常に高い昇圧作用を発揮し得るものである。そのため、この種の加熱殺菌処理のように、極力低圧の蒸気を液体にスムーズに導入し、かつキャビテーションを防ぐ目的で加熱と同時に高い昇圧作用が要求される用途に非常に好適である。
【0042】
以上、本発明に係る蒸気混合型加熱殺菌装置の一実施形態を説明したが、本発明は、この実施形態に限定されることなく、当該発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0043】
例えば上記実施形態では、各種流体の圧力や温度、流量を計測、制御するための制御部を設けて加熱殺菌処理の制御を行う場合を説明した。すなわち、ポンプ入口側の流体圧力やポンプ出口側の液体温度を検出パラメータとし、かつ、これら検出パラメータに基づきポンプ回転数、蒸気供給量を制御パラメータとして加熱殺菌温度および蒸気混合用ポンプ4内の圧力バランスを制御した場合を説明したが、もちろんこの制御形態に限る必要はない。少なくとも、ポンプ入口側の流体圧力を検出し、この検出値に基づきポンプ回転数を制御する構成を採る限りにおいて、他の制御態様は任意である。例えば殺菌温度制御部TICA−1において、蒸気コントロール弁20と蒸気供給口46との間で計測した蒸気圧をフィードバックして蒸気コントロール弁20の開度を調節するようにしても構わない。あるいは、ホールドパイプ5の出口側における液体温度を適当な温度センサで検出し、この検出値に基づき蒸気コントロール弁20の開度を調節するようにしても構わない。また、ポンプ出口側の流体圧力を計測し、この計測値に基づき主背圧弁6の弁開度を制御するように構成しても構わない。
【0044】
ここで、主背圧弁6は既述のように他の制御部からの指令により弁の開閉を調整可能なものでもよく、また、エアー圧の調整等で自動的に背圧を制御可能な構造を有するものであってもよい。もちろん、蒸気混合用ポンプ4の背圧を保持し得る限りにおいてその具体的態様は特に問わず、背圧弁に代えて他の背圧制御部を設けることも可能である。他の背圧弁8,13についても同様である。
【0045】
また、上記実施形態では、蒸気混合用ポンプ4として、渦流ポンプを適用した場合を説明したが、これ以外のポンプを使用することも可能である。例えば、非容積式であれば、渦巻式のポンプなどが使用可能であり、また、回転容積式であれば、ロータリー式やスクリュー式のポンプなどが使用可能である。ロータ44の形状も問わない。もちろん、ロータ(回転子)を備え、その回転作用により流体の昇圧移送と蒸気の動的混合とを同時に実施可能とするものである限り、ポンプに限ることなく任意の混合装置が使用可能である。
【0046】
以上の説明に係る蒸気混合型加熱殺菌装置は、種々の流体の加熱殺菌処理に適用可能であるが、その優れた加熱温度制御性能やその安定性を活かして、特に殺菌温度が比較的低い豆乳などの飲食用流体に好適に使用することが可能である。また、本発明に係る加熱殺菌装置であれば、飲食用流体と同様、精密な加熱殺菌処理を必要となる液状の医薬品(医薬部外品を含む)に対しても有効である。
【実施例1】
【0047】
本発明に係る蒸気混合型加熱殺菌装置の有用性を立証するため、当該殺菌装置による各種流体(水、豆乳、牛乳、生クリーム)の加熱殺菌処理を行い、その性能を評価した。
【0048】
具体的には、図1に係る構成において、主背圧弁6によりポンプ出口側(蒸気混合用ポンプ4の排出口42の下流側)における液体の圧力P2[MPa]を所定値に設定すると共に、圧力センサ19により検出した圧力検出値に基づき圧力制御部PIC−1でポンプ回転数n[Hz]を調整して、ポンプ入口側における液体の圧力P1[MPa]を所定値ないし所定範囲に維持するようにした。また、蒸気混合後の液体が設定すべき加熱殺菌温度T0[℃]となるよう、ポンプ出口側の温度T2[℃]に基づき殺菌温度制御部TICA−1により蒸気コントロール弁20の開度を調節し、蒸気混合用ポンプ4への蒸気供給量を制御するようにした。また、流量制御部FICA−1により、移送用ポンプ2の出口側における流体の流量Q1を一定に調整して各流体に対する殺菌処理実験を行った。
【0049】
図3に実験結果を示す。ここで、T1はポンプ入口側における液体の温度[℃]を、P3は蒸気導入圧[MPa](同欄中左側は導入蒸気の元圧、右側は蒸気供給口における蒸気圧をそれぞれ示す)をそれぞれ示す。同図に示す実験結果から、何れの設定温度においても、また、処理液体の種類に関らず、非常に誤差の少ない高精度な殺菌温度制御がなされていることがわかる。また、この場合、供給される蒸気圧(蒸気導入圧P3)がポンプ入口側圧力P1に比べて大きく、かつ、ポンプ出口側圧力P2に比べて小さいことがわかる。また、何れの場合も、飽和蒸気圧とポンプ入口側圧力P1が、その加熱殺菌温度T0における飽和蒸気圧(例えば135℃のとき0.216、MPa、150℃のとき0.378MPaを示す)以上に設定されていることがわかる。また、異種液体間での制御状態を比較すると、例えば設定温度120℃における水と豆乳とでは、何れも高精度に殺菌温度制御がなされており、ポンプ入口側圧力P1も同じである一方で、ポンプ回転数nのみが大きく異なる。設定温度135℃における水と牛乳とについてみた場合も同様の結果であった。これらの結果から、ポンプ入口側の流体圧力をその圧力検出値に基づき制御する手段は水に比べて粘性の大きい飲食用流体を加熱殺菌する場合にも有効であることがわかった。
【実施例2】
【0050】
また、特に水から処理対象となる液体への切替時における本発明の有効性を立証するため、水から液体への切替えの前後における蒸気混合用ポンプ4出口側の流体(水および液体)の温度および圧力の変化を評価した。具体的には、図1あるいは図4に示すように、ポンプ入口側の流体の圧力P1を計測し、この計測値に応じてポンプ回転数nを適宜制御するように構成したもの(実施例)と、ポンプ回転数nを一定としたもの(比較例)とでそれぞれ加熱殺菌処理を行い、水から液体(ここでは豆乳)への切替えの前後における流体のポンプ出口側圧力P2の変化および温度T2の変化を評価した。設定温度T0は120℃とした。その他の条件については実施例1と同様である。
【0051】
図5に比較例の結果を、図6に実施例の結果をそれぞれ示す。まず、図5に示す実験結果から、比較例の如くポンプ回転数nを一定にした状態では、水から液体(豆乳)への切替後、ポンプ入口側圧力P1が大きく減少すると共に、ポンプ出口側圧力P2および温度T2が大きく変動して不安定な状態となっていることがわかる。これは、ポンプ入口側圧力P1が殺菌温度(ここでは120℃)の飽和蒸気圧を下回ることで、加熱された液体がいわゆるフラッシングを生じるためと考えられる。これに対して、図6に示す実験結果から、実施例では、回転数制御部(圧力制御部PIC−1)により、蒸気混合用ポンプ4の入口側圧力P1を、殺菌温度における飽和蒸気圧以上となるように制御しているので、導入した蒸気を確実に流体に溶け込ますことができ、高品質な殺菌処理が行われていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る蒸気混合型加熱殺菌装置の一構成例を示す概略図である。
【図2】蒸気混合用ポンプの軸直交断面図である。
【図3】実施例1に係る加熱殺菌試験の結果を示す表である。
【図4】蒸気混合型加熱殺菌装置の他の構成例を示す概略図である。
【図5】実施例2に係る比較例の加熱殺菌実験の結果を示す図である。
【図6】実施例2に係る実施例の加熱殺菌実験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 液体タンク
2 移送用ポンプ(移送装置)
3 熱交換器
4 蒸気混合用ポンプ(動力付混合装置)
5 ホールドパイプ
6 主背圧弁
7 主冷却器
9 水タンク
19 圧力センサ
20 蒸気コントロール弁
PIC−1 圧力制御部
TICA−1 殺菌温度制御部
TICA−2 冷却温度制御部
TICA−3 予熱温度制御部
TIA−1 殺菌温度監視部
FICA−1 流量制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱殺菌すべき流体に蒸気を混合することで前記流体を加熱する加熱系と、該加熱系の下流側に接続され、前記加熱系において加熱された前記流体に対して殺菌処理を施す殺菌処理系とを備えた蒸気混合型加熱殺菌装置において、
前記加熱系は、回転子の作用により昇圧を伴って前記流体を移送して移送途中の前記流体に前記蒸気を混合する動力付混合装置を少なくとも有し、かつ、
該動力付混合装置の入口側における前記流体の圧力を検出する圧力検出部と、該圧力検出部により検出された圧力値に応じて前記回転子の回転数を制御する回転数制御部とをさらに有することを特徴とする蒸気混合型加熱殺菌装置。
【請求項2】
前記回転数制御部により、前記動力付混合装置の入口側での前記流体の圧力が殺菌温度における飽和蒸気圧以上となるように制御されている請求項1に記載の蒸気混合型加熱殺菌装置。
【請求項3】
前記流体が飲食用流体である請求項1又は2に記載の蒸気混合型加熱殺菌装置。
【請求項4】
前記飲食用流体又は水を択一的に切替えて前記動力付混合装置に接続できるように構成され、かつ、前記飲食用流体と前記水との切替え位置が、前記圧力検出部による前記流体の圧力検出位置よりも上流側に位置する請求項3に記載の蒸気混合型加熱殺菌装置。
【請求項5】
前記殺菌処理系は、加熱された前記流体を保持する保持管を少なくとも有し、該保持管の出口側には背圧制御部が配設されている請求項1〜4の何れかに記載の蒸気混合型加熱殺菌装置。
【請求項6】
前記加熱系は、前記動力付混合装置の出口側における前記流体の温度計測値に基づき、前記流体に対する前記蒸気の供給量を制御する蒸気量制御部をさらに有する請求項1〜5の何れかに記載の蒸気混合型加熱殺菌装置。
【請求項7】
前記加熱系は、前記動力付混合装置の上流側に配設される前記流体の移送装置と、該移送装置の出口側における前記流体の流量計測値に基づき、前記移送装置の移送容量を制御する流量制御部とをさらに有する請求項1〜6の何れかに記載の蒸気混合型加熱殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−268431(P2009−268431A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123477(P2008−123477)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000152480)株式会社日阪製作所 (60)
【Fターム(参考)】