説明

蒸着源セル、薄膜の製造方法、絞り部材、及び蒸着源加熱ヒータ

【課題】 広範囲な蒸着レートの設定が可能で、安定した蒸着レートを得ることが可能な安価な蒸着源セルを提供する。
【解決手段】 蒸着装置に用いる蒸着源セル20であって、上部に開口部を有する坩堝30と、坩堝30の開口部の面積を制限する絞り部42を有する独立した絞り部材40と、絞り部材40を直接加熱するヒータ50とを備える構成とした。これにより、坩堝内部にてランダムに蒸発した蒸着物質118の噴出流量、噴出速度及び噴出方向を安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置に用いる蒸着源セル、及び薄膜の製造方法に係り、特に安定した蒸着レートで蒸着を行うことが可能な、蒸着源セル、薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置や光通信等の分野で有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機ELと称す)の開発が進められている。この有機ELは、EL発光機能を有する有機低分子または有機高分子材料で薄膜の発光層を形成した素子であり、高視野角、高速応答性、超薄型、低い輝度むら、低消費電力、及び高い色再現性を誇る自己発光型の素子としてその性能の向上が注目されている。
【0003】
これらの特徴のうち、更に輝度むら、色再現性、及び低消費電力化を推進する上で、有機ELの電子注入層、正孔注入層、及び発光層の薄膜化とその膜厚の制御を正確に行う必要がある。特に発光層において、Alq3、Gaq3、Almq3、NPB、TPDS、又はTPD等のホスト蒸着膜と、DEQ(キナクリドン誘導体)、ルブレン等のドーピング膜等のゲスト蒸着膜とを共蒸着する際に、ホスト分子とゲスト分子との間の分子間距離を短くして、有機ELを発光させる際に、ホスト分子の励起エネルギーをゲスト分子に効率よく移動させる必要がある。
【0004】
ここで、ホスト分子とゲスト分子との間の分子間距離を狭めるためにゲスト分子の濃度を濃くすると、ゲスト分子の相互作用が強くなり、蛍光量子収率が低下する濃度消光現象が生じるので、ホスト分子とゲスト分子とを共蒸着する際のモル比を適切な比率(例えば30:1〜40:1)に維持することが重要となる。一方で、もしホスト蒸着膜の比率が高くなった場合には、ゲスト分子による蛍光量子収率が低下してしまうという不具合を生ずる。
【0005】
従来から、有機ELの電子注入層、発光層、又は正孔注入層の薄膜を形成する際に蒸着装置が用いられている。蒸着装置は、高真空に減圧可能な真空チャンバ内にガラス基板や半導体ウエハ等の被蒸着基板を設置して、この被蒸着基板の薄膜形成面に向けて蒸着源セルを設置した装置である。蒸着装置では、蒸着源セルに設けられている坩堝に蒸発させる蒸着源を溜めておき、ヒータを用いて坩堝を加熱することにより蒸着源を溶融、蒸発させる。そして、加熱により蒸発した蒸着物質を被蒸着基板に蒸着させ、薄膜を形成する。
【0006】
有機ELの薄膜を構成する有機EL材料は、融点が低く、しかも熱伝導率が低い材料が多い。有機ELの薄膜を蒸着装置により形成する際には、蒸着源セルの坩堝に溜めた有機EL材料が長時間高温に晒されることになる。特に、その有機EL材料の熱伝導率の低さから、坩堝の内周付近又はヒータの近傍に存在する有機EL材料が部分的に高温に晒され続け、坩堝の中央部分又はヒータから離れた位置に存在する有機EL材料は蒸発されずに残ってしまう状況が生ずる。
【0007】
有機ELは発光特性が良好であるが、その薄膜を形成する有機EL材料は、長時間高温に晒すと高分子の鎖をなす化学的結合が破壊されて熱損傷を受けやすい傾向がある。有機ELを構成している薄膜が熱損傷を受けると、有機ELとしての所要の性能を満たさなくなり、発光に関する性能が低下するという不具合を生ずる。
【0008】
また、蒸着源セルの坩堝内における温度分布が不均一なことや、坩堝内における有機EL材料の表面温度の低下等に起因する蒸発分子の不均一性により、形成される膜厚や蒸着レートが不均一になるという不具合を生じていた。特に、有機ELの発光性能を維持するためには、発光層におけるホスト蒸着膜とゲスト蒸着膜との濃度のモル比を所定の割合に保つ必要がある。
【0009】
このような状況に鑑み、坩堝の中の温度勾配を小さくし、有機EL材料のような熱伝導率の低い蒸発材料でも、熱損傷を与えることなく、効率よく蒸発分子を発生させることを目的とした薄膜堆積用分子線源セルの発明が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
特許文献1に記載の薄膜堆積用分子線源セルを用いることによって、熱伝導率の低い蒸発材料でも、蒸着分子に対して熱損傷を与えることなく坩堝の中で効率良く伝熱でき、坩堝の中の温度勾配を小さくして、効率よく蒸発分子を発生させることができるとされている。更に、薄膜を形成する主成分の他にドーパントのような微量成分である副成分も基板に向けて同時に放出し、反応蒸着を可能とすることができる旨の記載がなされている。
【0011】
なお、他の従来の市販の蒸着源セルの断面図を図5に示す。図5に示すように、従来の蒸着源セル920は、蒸着源18を加熱して蒸発した蒸着物質118を発生させる坩堝30と、坩堝30を加熱するヒータ950と、坩堝30を保持すると共にヒータ950が発した熱を保温する炉体960と、坩堝30、ヒータ950、及び炉体960を内部に収納して外部に輻射する熱量を減少させるセラミックス製の炉体カバー70及び蓋体72と、坩堝30の温度を計測する熱電対74を有している。炉体960は、坩堝30を加熱するヒータ950を内側に設けた螺旋形状の溝に配置している。ヒータ950が発した熱は、炉体960及び炉体カバー70の2箇所で外部に対して遮ることができる。
【0012】
蒸着装置を用いて被蒸着基板の表面に薄膜を形成する場合には、真空チャンバ内に被蒸着基板を設置し、蒸着源セル920内に設けられている坩堝に蒸着させる蒸着源18を入れて、蒸着装置の真空チャンバ内部を真空にする。そして、蒸着源セル920のヒータ950に電力の供給を開始して、蒸着源18の加熱を開始する。
【0013】
蒸着源18を加熱する際には、蒸着源セル920の内部に設けた熱電対74を用いて坩堝30の温度を計測しながらヒータ950に供給する電力を増減させて蒸着源18の温度を制御する。また、蒸着源セル920から蒸発した蒸着物質118の噴出が始まると、被蒸着基板(図示せず)に対する蒸着を開始することができる。蒸着源セル920から噴出された蒸着物質118は、被蒸着基板の表面に付着して薄膜を形成する。蒸着レートの制御は、蒸着検出素子(図示せず)の表面に堆積した蒸着源18の膜厚を計測して、その膜厚の情報と熱電対74が計測した温度とに基づいて、ヒータ950に供給する電力を増減させて蒸着源18の温度を制御するフィードバック制御を行う。
【0014】
この従来の蒸着源セル920を用いて、温度制御によるフィードバック制御を行った際の蒸着レートの時間的な変動状態を図6に示す。図6は、横軸に時間(sec)を表し、縦軸に蒸着物質の蒸着レート(ナ/sec)を表している。図6は、有機ELの代表的な緑色発光であるアルミキノリノール錯体(Alq3)を蒸着させた際の、蒸着レートの時間的な変動状態を示す図である。なお、温度制御により蒸着レートを制御する制御機器として、Cygnus社製膜厚制御器を使用した。図6に示すように、従来の蒸着源セル920を用いて蒸着を行うと、蒸着レートの設定値(1ナ/sec)に対してア15〜20%の変動が生じていることがわかる。
【特許文献1】特開2003−34591号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
図6に示したように、従来の蒸着源セル920を用いて蒸着を行うと士15〜20%の変動が生ずるために、有機ELの発光層のホスト分子とゲスト分子とを共蒸着する際の濃度のモル比に要求される30:1〜40:1を維持することができないという不具合を生じていた。一方、特許文献1の記載によれば、薄膜堆積用分子線源セルの素材として、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の素材が用いられている。これらの素材は、セラミックスの中では熱伝導率が高いために坩堝としては好都合な素材ではあるが、素材自体高価な物質であると共に、特許文献1に記載されているように、一部内径及び外形が細くなった括れ部と、この括れ部から放出口に至るテーパガイド部とを成形するのが困難なために、更に高価なものになってしまうという不具合を生じている。坩堝の価格の上昇は、製品の有機ELの価格まで上昇させ、有機ELの適用範囲を狭めたり、適用の可能性を妨げるおそれがある。
【0016】
前述のように、特許文献1に記載の薄膜堆積用分子線源セルは、立体形状の括れ部及びテーパガイド部を備えている。更に、蒸発材料収納部の上部から括れ部やテーパガイド部を経て放出口に至る部分の周囲を加熱するための第二のヒータを必要としているために、薄膜堆積用分子線源セル自体が大型となり、これを収納するための大型の真空チャンバを用いる必要があるという不具合を生じていた。また、第二のヒータが輻射した熱を効率よく吸収するために、括れ部及びテーパガイド部に吸熱塗装を行う必要があった。
【0017】
有機EL作製用の蒸着源セルは、薄膜を形成する有機材料の種類毎に、その数量分配置する必要がある。したがって、有機ELを作成する場合には、通常8〜10種類の薄膜堆積用分子線源セルを真空チャンバの内部に配置する必要がある。特許文献1に記載の薄膜堆積用分子線源セルでは、一つ一つの分子線源セルが高価であることに加えて、分子線源セルが大型であるために、高価な大型の真空チャンバを準備する必要があるという不具合を生じていた。
【0018】
本発明は上記不具合を解決するためになされたもので、広範囲な蒸着レートの設定が可能で、安定した蒸着レートを得ることが可能な、安価な蒸着源セル及び薄膜の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】

そこで、本発明の蒸着源セルは、上部に開口部を有する坩堝と、開口部の面積を制限する絞り部を有する独立した絞り部材と、絞り部材を直接加熱するヒータを備えることとした。これによれば、蒸着物質の噴出流量を制限する絞り部を効率よく加熱することができる。したがって、坩堝内部にてランダムに蒸発する蒸着物質の噴出流量、噴出速度及び噴出方向を、安価な構成を用いて安定させることができ、被蒸着基板の表面に形成する薄膜の蒸着レートを安定させることができる。また、絞り部を加熱することによって、蒸着物質が絞り部に再付着して噴出流量が減少することを防止して、所望の蒸着レートを長期にわたって維持することができる。また、絞り部材で坩堝の上部を覆うことによって、坩堝の内部を保温することが可能となり、坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。また、絞り部材を加熱することによって、更に坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。したがって、噴出する蒸着物質の流量が安定するので、蒸着レートを安定させることができる。また、坩堝内部の蒸着源の温度を安定させることができるので、必要以上に蒸着物質が加熱されて熱損傷を受けるという不具合を防止することができる。
【0020】
あるいは、本発明の蒸着源セルは、上部に開口部を有する坩堝と、開口部の面積を制限する加熱可能な絞り部を有する平板形状の絞り部材を備えることとした。これによれば、坩堝内部にてランダムに蒸発する蒸着物質の噴出流量、噴出速度及び噴出方向を、安価な構成を用いて安定させることができる。したがって、被蒸着基板の表面に形成する薄膜の蒸着レートを安定させることができる。また、絞り部の開口部の大きさを適宜設定することによって、容易に所望の蒸着レートを設定することができる。また、蒸着物質の噴出流量を制限する絞り部を加熱することによって、蒸着物質が絞り部に再付着して噴出流量が減少することを防止して、所望の蒸着レートを長期にわたって維持することができる。また、絞り部材を用いて坩堝の上部を覆うことによって、坩堝の内部を保温することが可能となり、坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。また、絞り部材を加熱することによって、更に坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。したがって、噴出する蒸着物質の流量が安定するので、蒸着レートを安定させることができる。また、坩堝内部の蒸着源の温度を安定させることができるので、必要以上に蒸着物質が加熱されて熱損傷を受けるという不具合を防止することができる。
【0021】
さらに、本発明の薄膜の製造方法は、被蒸着基板と、上部に開口部を有する坩堝と、開口部の面積を制限する絞り部を有する絞り部材と、前記坩堝内の蒸着源を加熱する第1ヒータと、絞り部材を直接加熱する第2ヒータと、薄膜の蒸着量を検出する蒸着検出素子とを真空チャンバ内に設置し、蒸着検出素子が検出した薄膜の蒸着量に基づいて坩堝内の蒸着源の蒸発量を制御して被蒸着基板に薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、坩堝に蒸着源を投入とする工程と、第2ヒータに電力を供給し絞り部材を加熱して蒸着源を上方から先に加熱する工程と、第1ヒータに電力を供給し坩堝内の蒸着源を加熱する工程と、蒸着検出素子から取得した薄膜の蒸着量に基づいて第1ヒータ及び第2ヒータに供給する電力を制御する工程とを備えることとした。これによれば、絞り部材が蒸着源を上方から先に加熱することが可能となり、蒸着源の蒸発の応答性を速め、制御性を改善することができる。したがって、噴出する蒸着物質の流量が安定するので、坩堝に熱伝導率があまり高くないセラミックスを用いた場合であっても、蒸着レートを安定させることができる。また、制御性の向上により坩堝内部の蒸着源の温度を安定させることができるので、必要以上に蒸着物質が加熱されて熱損傷を受けるという不具合を防止することができる。
【0022】
さらに、坩堝の開口部付近に配置する絞り部材を平板形状とするとともに、坩堝内で蒸発した蒸着物質の噴出流量を制限する加熱可能な絞り部を備えることとした。これによれば、坩堝内部にてランダムに蒸発する蒸着物質の噴出流量、噴出速度及び噴出方向を、安価な構成を用いて安定させることができる。したがって、被蒸着基板の表面に形成する薄膜の蒸着レートを安定させることができる。また、絞り部の開口部の大きさを適宜設定することにより、容易に所望の蒸着レートを設定することができる。また、蒸着物質の噴出流量を制限する絞り部を加熱することによって、蒸着物質が絞り部に再付着して噴出流量が減少することを防止して、所望の蒸着レートを長期にわたって維持することができる。また、絞り部材を用いて坩堝の上部を覆うことによって、坩堝の内部を保温することが可能となり、坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。また、絞り部材を加熱することによって、更に坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。したがって、噴出する蒸着物質の流量が安定するので、蒸着レートを安定させることができる。また、坩堝内部の蒸着源の温度を安定させることができるので、必要以上に蒸着物質が加熱されて熱損傷を受けるという不具合を防止することができる。
【0023】
さらに、蒸着源を加熱する一体型のヒータであって、蒸着源を溜める坩堝を加熱する小径のヒータ部分と、坩堝内で蒸発した蒸着物質の噴出流量を制限する絞り部材を加熱する大径のヒータ部分とを備える構成とした。これによれば、一体型のヒータを坩堝及び絞り部材の加熱に用いることによって、市販されている標準の坩堝、炉体カバー及び蓋体をそのまま蒸着源セルに用いて、蒸着レートが安定する小型の蒸着源セルを提供することができる。また、坩堝を加熱する小径のヒータと絞り部材を加熱する大径のヒータとを一つのヒータで構成することによって、ヒータに供給する電力の制御が容易となる。
【0024】
本発明を有機ELの発光層の薄膜形成に用いることによって、ホスト蒸着膜とゲスト蒸着膜との濃度のモル比を安定させることができるので、発光色が安定し、電気的特性が安定した有機ELを、安価にて製造して提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、坩堝内部にてランダムに蒸発した蒸着物質の噴出流量、噴出速度及び噴出方向を安定させることができる。したがって、蒸着レートを制度よく制御することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の蒸着源セルは、上部に開口部を有する坩堝と、開口部の面積を制限する加熱可能な絞り部を有する絞り部材を備えている。さらに、絞り部材を平板形状とし、絞り部材を直接加熱する第一ヒータを備えることとした。
【0027】
また、坩堝を収納する炉体を有し、炉体の外側に第一ヒータを配置し、炉体の内側に坩堝を加熱する第二ヒータを配置することとした。さらに、坩堝と第一ヒータを収納する炉体カバーと炉体カバーの上部に配置して絞り部を除き絞り部材の上面を覆う蓋体を備えることとした。第一ヒータと第二ヒータを一体に形成することもできる。また、絞り部材の熱伝導率が坩堝の熱伝導率よりも高くなるように構成すると効果的である。
【0028】
さらに、本発明の被蒸着基板に薄膜を形成する薄膜の製造方法は、上部に開口部を有する坩堝に蒸着源を投入とする工程と、開口部の面積を制限する絞り部材を加熱して蒸着源を上方から加熱するとともに、坩堝を加熱することにより前記蒸着源を加熱する工程と、蒸着源から蒸発した材料により形成された薄膜の蒸着量に基づいて、絞り部材の加熱と坩堝の加熱を制御する工程と、を備えることとした。ここで、絞り部材の加熱が、坩堝の加熱よりも先に開始されるとより効果がある。
【0029】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0030】
蒸着装置に用いる蒸着源セルは、被蒸着基板の表面に薄膜を形成するために、蒸着源を加熱して蒸着物質を蒸発させる坩堝と、坩堝を加熱するヒータ(例えば、シーズヒータ、メッシュヒータ等。)と、坩堝を保持すると共にヒータが発した熱を保温する炉体と、坩堝、ヒータ、及び炉体を内部に収納して外部に輻射する熱量を減少させるセラミック製の炉体カバー及び蓋体と、坩堝の温度を計測するために温度接点を接触させた熱電対とを有している。蒸着源セルは、坩堝の底部中央に設けた熱電対により坩堝の温度を測定しながら、坩堝の加熱温度をヒータに印加する電力で制御し、坩堝の内部に溜めてある蒸着源を蒸発させる。
【0031】
本発明に係る蒸着源セルは、上部に開口部を有する坩堝と、坩堝の開口部の面積を制限する絞り部を有する独立した絞り部材と、その絞り部材を直接加熱するヒータとを備える構成とした。これにより、蒸着物質の噴出流量を制限する絞り部を効率よく加熱することができる。したがって、蒸着物質の噴出流量等を安価な構成で安定させることができ、薄膜の蒸着レートを安定させることができる。また、絞り部を加熱することによって、蒸着物質が絞り部に再付着して噴出流量が減少することを防止して、所望の蒸着レートを長期にわたって維持することができる。また、絞り部材で坩堝の上部を覆うことによって、坩堝の内部を保温することが可能となり、坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。また、絞り部材を加熱することにより、更に坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。したがって、噴出する蒸着物質の流量が安定するので、蒸着レートを安定させることができる。また、坩堝内部の蒸着源の温度を安定させることができるので、必要以上に蒸着物質が加熱されて熱損傷を受けるという不具合を防止することができる。
【0032】
また、本発明に係る蒸着源セルは、上部に開口部を有する坩堝と、坩堝の開口部の面積を制限し、且つ蒸着源の蒸発温度以上に加熱することが可能な絞り部を有する平板形状の絞り部材とを備える構成とした。これにより、蒸着物質の噴出流量等を安価な構成で安定させることができ、薄膜の蒸着レートを安定させることができる。また、絞り部の開口部の大きさを適宜設定することにより、容易に所望の蒸着レートを設定することができる。また、蒸着物質の噴出流量を制限する絞り部を加熱することによって、蒸着物質が絞り部に再付着して噴出流量が減少することを防止して、所望の蒸着レートを長期にわたって維持することができる。また、絞り部材を用いて坩堝の上部を覆うことによって、坩堝の内部を保温することが可能となり、坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。また、絞り部材を加熱することによって、更に坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。したがって、噴出する蒸着物質の流量が安定するので、蒸着レートを安定させることができる。また、坩堝内部の蒸着源の温度を安定させることができるので、必要以上に蒸着物質が加熱されて熱損傷を受けるという不具合を防止することができる。
【0033】
また、本発明に係る蒸着源セルは、坩堝を収納する炉体を有し、その炉体の内側に坩堝を加熱する第1ヒータを配置し、炉体の外側に絞り部材を加熱する第2ヒータを配置する構成とした。これにより、市販されている標準の炉体を小改造することで、蒸着レートが安定する小型の蒸着源セルを提供することができる。したがって、市販されている標準の坩堝、炉体カバー及び蓋体をそのまま蒸着源セルに用いることができ、安価な蒸着源セルを提供することが可能となる。また、本発明に係る蒸着源セルは、坩堝及び第2ヒータを収納する炉体カバーと、炉体カバーの上部に配置して絞り部を除き絞り部材の上面を覆う蓋体とを備える構成とした。これにより、市販されている標準の炉体カバー及び蓋体をそのまま蒸着源セルに用いることができ、蒸着レートが安定する小型で安価な蒸着源セルを提供することができる。また、本発明に係る蒸着源セルは、第1ヒータと第2ヒータとを一体に形成した。これにより、ヒータを含む蒸着源セルの小型化が可能となり、ヒータに供給する電力の制御も容易となる。
【0034】
また、本発明に係る蒸着源セルは、絞り部材の熱伝導率を坩堝の熱伝導率よりも高い構成とした。これにより、絞り部材が蒸着源を上方から先に加熱することが可能となり、蒸着源の蒸発の応答性を速め、制御性を改善することができる。したがって、噴出する蒸着物質の流量が安定するので、坩堝に熱伝導率があまり高くないセラミックスを用いた場合であっても、蒸着レートを安定させることができる。また、制御性の向上により坩堝内部の蒸着源の温度を安定させることができるので、必要以上に蒸着物質が加熱されて熱損傷を受けるという不具合を防止することができる。
【0035】
蒸着源セルに設ける絞り部材の素材には、タングステン、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、タンタル、チタン、銅、バナジウム又はこれらを含む合金を用いることができる。なお、絞り部材の素材として、融点が約800℃以上の熱伝導率のよい材料を用いることが望ましい。これにより、絞り部の加工が容易となり、蒸着物質の蒸着レートを安価な構成で容易に設定することができる。また、熱伝導率が高い素材を用いることによって、絞り部における蒸着物質の再付着を防止することができる。
【0036】
また、上部に開口部を有する坩堝と、前記開口部の面積を制限する絞り部を有する絞り部材と、前記坩堝内の蒸着源を加熱する第1ヒータと、前記絞り部材を直接加熱する第2ヒータと、薄膜の蒸着量を検出する蒸着検出素子とを真空チャンバ内に設置し、前記蒸着検出素子が検出した薄膜の蒸着量に基づいて前記坩堝内の蒸着源の蒸発量を制御して前記被蒸着基板に薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記坩堝に蒸着源を投入とする工程と、前記第2ヒータに電力を供給し絞り部材を加熱して蒸着源を上方から先に加熱する工程と、前記第1ヒータに電力を供給し坩堝内の蒸着源を加熱する工程と、前記蒸着検出素子から取得した薄膜の蒸着量に基づいて第1ヒータ及び第2ヒータに供給する電力を制御する工程とを備えた。これにより、絞り部材が蒸着源を上方から先に加熱することが可能となり、蒸着源の蒸発の応答性を速め、制御性を改善することができる。したがって、噴出する蒸着物質の流量が安定するので、坩堝に熱伝導率があまり高くないセラミックスを用いた場合であっても、蒸着レートを安定させることができる。また、制御性の向上により坩堝内部の蒸着源の温度を安定させることができるので、必要以上に蒸着物質が加熱されて熱損傷を受けるという不具合を防止することができる。また、真空チャンバ内の坩堝の温度を検出する熱電対を備え、検出した坩堝の温度に基づいて、第1ヒータ及び第2ヒータに供給する電力を制御する工程を設けた。この温度フィードバックのループを設けることにより、坩堝内の蒸着源の温度を安定させることができる。
【0037】
また、本発明では蒸着に際し、坩堝内で蒸発した蒸着物質の噴出流量を制限すると共に蒸着物質の蒸発温度以上に加熱可能な絞り部を有する平板形状の絞り部材を、坩堝の開口部付近に配置する構成とした。これにより、蒸着物質の噴出流量等を安定させることができ、安価な構成で薄膜の蒸着レートを安定させることができる。また、絞り部を加熱することが可能な構成としたので、絞り部における蒸着物質の再付着を防止して、蒸着レートを一定に保つことができる。また、絞り部の開口部の大きさを適宜設定することにより、容易に所望の蒸着レートを設定することができる。また、絞り部材を用いて坩堝の上部を覆うことによって、坩堝の内部を保温することが可能となり、坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。また、絞り部材を加熱することによって、更に坩堝内部の温度を高温状態に安定させることができる。したがって、噴出する蒸着物質の流量が安定するので、蒸着レートを安定させることができる。また、坩堝を加熱するヒータとして小径のヒータを用い、絞り部材を加熱するヒータとして大径のヒータを用いる構成とした。これにより、市販されている標準の坩堝、炉体カバー及び蓋体をそのまま蒸着源セルに用いることができ、炉体及びヒータについても小変更を行うのみで、蒸着レートが安定する小型の蒸着源セルを提供することができる。また、坩堝を加熱する小径のヒータと絞り部材を加熱する大径のヒータとを一体型のヒータで構成することにより、小径のヒータを坩堝と炉体との間に配置すると共に、大径のヒータを炉体と炉体カバーとの間に配置することができるので、蒸着源セルの構造を簡素にすることが可能となる。また、ヒータに供給する電力の制御も容易となる。
【0038】
以下、本発明の着源セルについて図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明に係る蒸着源セルを用いた蒸着装置の真空チャンバ内部の構成を説明するための概要図である。また、本発明に係る蒸着源セルの断面図を図2に、その分解斜視図を図3に示す。また、本発明に係る蒸着源セルを用いて、温度制御によるフィードバック制御を行った際の蒸着レートの時間的な変動状態を図4に示す。
【0039】
先ず、図1を用いて本発明に係る本発明に係る蒸着源セルを用いた蒸着装置の、真空チャンバ内部の構成を説明する。蒸着装置10のチャンバ内部には、有機EL材料の基材となるガラス基板等の被蒸着基板12を回転可能に保持する回転基材14と、回転基材14を回転させることにより被蒸着基板12を移動させて被蒸着基板12の表面に蒸着させる蒸着物質の膜厚を均一にする回転機構16と、1乃至複数種類の蒸発した蒸着物質118を被蒸着基板12に向けて噴出させて被蒸着基板12の表面に蒸着膜を堆積させる蒸着源セル20A、20Bとを備えている。
【0040】
被蒸着基板12の蒸着面の下方には、蒸着物質118の蒸着範囲を規定するマスク34と、蒸着源18を加熱してから蒸着レートが安定するまで被蒸着基板12を覆い隠すシャッタ28と、それぞれの蒸着源セル20A、20Bが発した蒸着物質118が他方の蒸着源セル又は蒸着検出素子22A、22Bを汚染しないように蒸着物質118の拡散を制限して相互干渉を防止する仕切り板26とを備えている。また、蒸着装置には、図1に示す他に、被蒸着基板12を搬送するトランスファーチャンバーやロードロック室、グローブボックス等を備えているが、同図では説明を省略してある。
【0041】
また、蒸着装置10は、被蒸着基板12に形成する膜厚を制御するために、飛来する蒸気の蒸着物質118を振動面に蒸着させて薄膜を形成し、その振動の変化を薄膜の膜厚情報として出力する蒸着検出素子22が被蒸着基板12の近傍に配置されており、さらに、蒸着源セル20A及び20Bが発したそれぞれの蒸着物質118の膜厚を膜厚情報として出力する蒸着検出素子22A、22Bと、蒸着物質の蒸着レートのコマンドCMD、それぞれ計測した膜厚情報、及び坩堝の温度情報を入力して、蒸着源セル20A、20Bの内部に設けたヒータに対して蒸着源を加熱するための電力の供給を制御する膜厚制御装置24が設けられている。
【0042】
次に、蒸着装置10を用いた蒸着について説明する。蒸着装置10内の回転基材14に被蒸着基板12を固定し、蒸着源セル20A、20B内に設けられている坩堝にそれぞれ蒸着させる蒸着源を入れて、蒸着装置10の真空チャンバ内部を真空にする。そして、被蒸着基板12の下方にマスク34をセットし、シャッタ28で被蒸着基板12を覆い、蒸着源セル20A、20Bのヒータに電力を供給して、蒸着源の加熱を開始する。蒸着源を加熱する際には、蒸着源セル20A、20Bの内部に設けた熱電対で坩堝の温度を計測しながらヒータに供給する電力を増減させて蒸着源の温度を制御する。蒸着源セル20A、20Bから蒸着物質118が蒸発したら、蒸着検出素子22A、22Bに蒸着した蒸着物質の膜厚を計測し、それぞれ所定の蒸着レートが得られるようになるまで待機する。
【0043】
それぞれの蒸着源セル20A、20Bから蒸発する蒸着物質118の蒸着レートが安定したら、回転機構16に回転指令を出力して回転基材14を回転させ、シャッタ28を取り除いて被蒸着基板12に対する蒸着を開始する。蒸着源セル20A、20Bから噴出された蒸気の蒸着物質118は、所定の蒸着レートで被蒸着基板12の表面に付着して薄膜を形成する。また、同様に蒸着検出素子22の表面にも蒸着物質の薄膜が形成される。この蒸着物質の膜厚を蒸着検出素子22が計測して、その膜厚情報を膜厚制御装置24に出力する。膜厚制御装置24は、入力した蒸着レートのコマンドCMDと時間毎の膜厚情報とを対比して、ヒータに供給する電力を増減させて蒸着源の温度を制御するフィードバック制御を行う。このとき、必要に応じて蒸着検出素子22A、22Bの膜厚情報を用い、それぞれの蒸着源セル20A、20Bのヒータに供給する電力を制御するように構成してもよい。また、ホスト蒸着膜用の蒸着検出素子22Aを省略して、蒸着検出素子22が計測した膜厚情報からホスト蒸着膜の蒸着レートを算出するようにしてもよい。
【0044】
次に、本発明に係る蒸着源セル20の構造について、図2及び図3を用いて説明する。図1に示した蒸着源セル20A、20Bは、薄膜を形成する蒸着物質の材質や蒸着レートに応じて、その大きさ、形状、ヒータの容量、絞りの寸法等を適宜変更する必要がある。図2及び図3に示す蒸着源セル20は、蒸着源18を加熱して蒸発した蒸着物質118を発生させる際の一般的な構成を示すものである。
【0045】
蒸着源セル20は、蒸着源18を加熱して、蒸発した蒸着物質118を発生させる坩堝30と、蒸発した蒸着物質118の噴出流量を制限する絞り部42を有する平板形状の絞り部材40と、坩堝30及び絞り部材40を加熱するヒータ50とを備えている。図2及び図3に示す構成では、ヒータ50は、坩堝30を加熱する小径のヒータ50A及び絞り部材40を加熱する大径のヒータ50Bを一体型のヒータとして示しているが、坩堝30を加熱する小径のヒータ50Aと、絞り部材40を加熱する大径のヒータ50Bを分割して、それぞれ独立したヒータを用いる構成としてもよい。また、ヒータ50の形状は、特に螺旋形に限定するものではない。また、図2及び図3に示す実施形態では、絞り部材40の外径を坩堝30の外径よりも大径として、ヒータ50Bの発する輻射熱を効率良く受けることが可能となっている。
【0046】
坩堝30を加熱する小径のヒータ50Aと絞り部材40を加熱する大径のヒータ50Bを一体型とすることによって、蒸着源セル20の構造を簡素にすることができると共に、ヒータ50A、50Bに供給する電力の制御を容易にすることができる。なお、小径のヒータ50Aと大径のヒータ50Bとの電気的な接続は、直列接続しとしてもよいし、並列接続としてもよい。なお、坩堝30を加熱する際に必要な熱量と、絞り部材40を加熱する際に必要な熱量とが大きく異なる場合などのように、小径のヒータ50Aに要求される線径と大径のヒータ50Bに要求される線径とが異なる場合には、小径のヒータ50Aと大径のヒータ50Bとをそれぞれ独立したヒータとする方が好都合となる。
【0047】
また、蒸着源セル20は、坩堝30を保持すると共に小径のヒータ50Aが発した熱を保温する炉体60と、坩堝30、絞り部材40、ヒータ50、及び炉体60を内部に収納して外部に輻射する熱量を減少させるセラミックス製の炉体カバー70及び蓋体72と、坩堝30の温度を計測する熱電対74とを有している。なお、図2に示す実施形態では、蓋体72は、炉体カバー70の上部に配置して絞り部42を除く絞り部材40の上面を覆う形状にしている。図3に示す例では、炉体60及び炉体カバー70は2分割の部品で構成されており、ヒータ50を組み込んだ後に、直径0.4mm程度のモリブデンワイヤー等を巻いて結合し、固定する。
【0048】
炉体60では、坩堝30を加熱する小径のヒータ50Aを内側に設けた螺旋形状の溝に配置し、絞り部材40を加熱する大径のヒータ50Bを炉体60の外側に配置する構造としている。したがって、坩堝30を加熱するための熱を、炉体60及び炉体カバー70の2箇所で外部に対して遮ることができ、炉体60と炉体カバー70との間のスペースに絞り部材40を加熱する大径のヒータ50Bを配置することができる。
【0049】
図2及び図3に示したように、蒸着源セル20に絞り部材40を追加することで、坩堝30、炉体カバー70及び蓋体72を標準の市販品をそのまま蒸着源セル20に用いることができ、炉体60及びヒータ50についても小変更を行うのみで、蒸着レートを安定させることができる。なお、市販されている坩堝30として、例えば日本バックスメタル株式会社製のCE−2を用いることができる。
【0050】
また、図2及び図3に示すように、ヒータ50の形状を坩堝30を加熱する部分を小径にし、絞り部材40を加熱する部分を大径にすることによって、標準品として市販されている炉体60に対してヒータ50を通過させるための小改造を行ったものを用いることができる。
【0051】
絞り部材40の中央部には、蒸発した蒸着物質118の噴出流量を制限し、噴出速度、及び噴出方向を安定させる絞り部42を設けてある。これにより、坩堝30の中でも比較的高温な壁面近くでランダムに蒸発した蒸着物質118を集約させることができ、安定して蒸発した蒸着物質118の噴出を行うことができる。そのため、絞り部42の開口面積を、坩堝30の開口部よりも小径に設定する必要がある。また、蒸発した蒸着物質118の噴出量を安定させるために、坩堝30内部に溜めてある液体の蒸着源18と絞り部42との間には、所定の容積を確保したチャンバ32を形成することがより好ましいと考えられる。
【0052】
更に、絞り部材40で坩堝30の上部を覆うことによって、坩堝30の内部を保温することが可能となり、坩堝30の内部の温度を適温に安定させることができる。また、絞り部材40を加熱することによって、更に坩堝30の内部の温度を適温に維持することができる。したがって、噴出する蒸着物質118の流量が安定するので、蒸着レートを安定させることができる。
【0053】
絞り部42の直径は、被蒸着基板12に形成する皮膜の材質や、加熱温度、又は薄膜の蒸着レート等の蒸着条件に応じて決定することが好ましい。例えば、有機ELの発光層を形成する場合のように、Alq3、Gaq3、Almq3、NPB、TPDS、又はTPD等のホスト蒸着膜と、DEQ、ルブレン等のドーピング膜等のゲスト蒸着膜との蒸着レートを30:1〜40:1程度に設定する必要がある場合には、例えばホスト蒸着膜用の絞り部42の直径を9〜10mmの開口部とし、ゲスト蒸着膜用の絞り部42の直径を1.6mm程度の開口部とすることができる。
【0054】
絞り部材40の形状を平板形状とすることによって、絞り部42の加工が容易となる。また、絞り部42の加工が容易であるために、種々の直径を有する絞り部材40を容易に作成することができ、多様な蒸着レートに対して容易に対応することが可能となる。よって、共蒸着させる蒸着物質の蒸着レートが極端にアンバランスな場合であっても、絞り部材40の形状を平板形状とすることによって容易に対応することができる。なお、絞り部42の開口部の形状は、円形に限定するものではなく、楕円、多角形の形状でもよい。また、絞り部42の開口部の位置も、中央部に限定するものではなく、開口部の数量も一つに限定するものではない。
【0055】
絞り部42の温度が蒸着源18の蒸発温度よりも低い場合には、蒸発した蒸着物質118が結露したり凝固してしまい、絞り部42を通過する蒸発した蒸着物質118の量が減少する。したがって、絞り部42の付近は、蒸着源18の蒸発温度以上に加熱しておく必要がある。絞り部42付近の加熱は、絞り部材40を発熱体で構成して自ら発熱するようにしてもよいし、図2及び図3に示すように、絞り部材40の外周部をヒータ50を用いて加熱して、その熱を中央部に設けた絞り部42まで伝導させるように構成してもよい。絞り部材40の外周部をヒータで加熱して、その熱を中央部の絞り部42まで伝導させるように構成することによって、標準品として市販されている蒸着源セルの部品を多用することが可能となり、安価な蒸着源セル20を提供することが可能となる。
【0056】
さらに、坩堝30の上部に絞り部材40を配置することによって、坩堝30の上部から輻射される熱を減少させることが可能となり、蒸着物質118の蒸発量の応答性を向上させることができる。また、絞り部材40の素材として、熱伝導率の高い物質を用いることによって、坩堝30の上部から蒸着源18を加熱することが可能となり、蒸着物質118の蒸発量の応答性を向上させることができる。絞り部材40の素材には、タングステン、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、タンタル、チタン、銅、バナジウム若しくはこれらを基材とする合金、又はそれらを含む合金等を用いることができる。絞り部材40の素材は、これらの金属に限定するものではないが、好ましくは約800℃以上の高温に耐え得る素材であって、加工が容易で、熱伝導率が高い素材が好ましい。
【実施例】
【0057】
次に、本発明に係る蒸着源セル20を用いて、温度制御によるフィードバック制御を行った際の蒸着レートの時間的な変動状態を図4に示す。図4は、横軸に時間(sec)を表し、縦軸に蒸着物質の蒸着レート(ナ/sec)を表している。図4は、図6の測定例と同様に、有機ELの代表的な緑色発光であるアルミキノリノール錯体(Alq3)を蒸着した際の蒸着レートの時間的な変動状態を示す図である。蒸着レートを制御する制御機器は、図6の測定例と同一のCygnus社製膜厚制御器を使用している。測定に用いた蒸着源セル20の絞り部材40は、直径約34mm、厚さ1mmのタングステンの平板を用い、絞り部42の形状を直径6mmの円形開口部とした。タングステンを素材として用いたのは、高温に耐えうる素材であるとともに、熱伝導率が高い(約0.397cal/cm・s・?)という物性を重視したことによる。また、ヒータ50として直径1.2mmのタングステン線を用い、小径のヒータ50Aは炉体60の内面に設けた螺旋形状の溝に設置し、炉体60の底面近くまで配置した。小径のヒータ50A部分と一体構造の大径のヒータ50B部分は、金属製の絞り部材40と接触しないように、炉体60と炉体カバー70との間に螺旋形状に配置した。
【0058】
図4に示すように、アルミキノリノール錯体(Alq3)の蒸着レートは、設定値の1ナ/secに対してア1%程度の変動率に改善した。図6に示した従来の蒸着レートに対して、格段に変動率が改善されていることが読み取れる。図4に示した実施例では、絞り部42として直径6mmの円形開口部を用いているが、蒸着レートに応じて適宜選択することにより、広範囲な蒸着レートを設定することができ、他の有機材料についても同様の試験を行った結果、概ね1%程度の変動率を得ることができた。
【0059】
また、炉体60の外側に配置した大径のヒータ50Bの幅射熱を用いて絞り部材40を加熱するようにしたので、その熱が絞り部42に伝導し、蒸発した蒸着物質118が絞り部42に再付着することなく、坩堝30に充填した蒸着源18が無くなるまで、ア1%以下の変動率の安定した蒸着レートを維持することができた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、融点が低く且つ熱伝導率が低い材料であっても、広範囲な蒸着レートの設定が可能となり、また安定した蒸着レートを得ることが可能となる。したがって、輝度むらが少なく、色再現性が良好で、費電力の少ない有機ELを安価にて製造することができる。また、その他の蒸着の用途にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る蒸着源セルを用いた蒸着装置の真空チャンバ内部の構成を説明するための図。
【図2】本発明に係る蒸着源セルの断面図。
【図3】本発明に係る蒸着源セルの分解斜視図。
【図4】本発明に係る蒸着源セルを用いて、温度制御によるフィードバック制御を行った際の蒸着レートの時間的な変動状態を示す図。
【図5】従来の市販の蒸着源セルの断面図。
【図6】従来の蒸着源セルを用いて、温度制御によるフィードバック制御を行った際の蒸着レートの時間的な変動状態を示す図。
【符号の説明】
【0062】
10 蒸着装置
12 被蒸着基板
14 回転基材
16 回転機構
18 蒸着源
20、920 蒸着源セル
20A、20B 蒸着源セル
22、22A、22B 蒸着検出素子
24 膜厚制御装置
26 仕切り板
28 シャッタ
30 坩堝
32 チャンバ
34 マスク
40 絞り部材
42 絞り部
50、950 ヒータ
50A 小径のヒータ(第1ヒータ)
50B 大径のヒータ(第2ヒータ)
60、960 炉体
70 炉体カバー
72 蓋体
74 熱電対
118 蒸着物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に開口部を有する坩堝と、
前記開口部の面積を制限する加熱可能な絞り部を有する絞り部材と、
を備えることを特徴とする蒸着源セル。
【請求項2】
前記絞り部材は平板形状を持ち、前記絞り部材を直接加熱する第一ヒータを備えることを特徴とする請求項1に記載の蒸着源セル。
【請求項3】
前記坩堝を収納する炉体を有し、前記炉体の外側に前記第一ヒータを配置し、前記炉体の内側に前記坩堝を加熱する第二ヒータを配置した請求項2に記載の蒸着源セル。
【請求項4】
前記坩堝と前記第一ヒータを収納する炉体カバーと、前記炉体カバーの上部に配置して前記絞り部を除き前記絞り部材の上面を覆う蓋体を備えることを特徴とする請求項3に記載の蒸着源セル。
【請求項5】
前記第一ヒータと前記第二ヒータを一体に形成したことを特徴とする請求項3又は請求項4のいずれか一項に記載の蒸着源セル。
【請求項6】
前記絞り部材の熱伝導率は、前記坩堝の熱伝導率よりも高いことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の蒸着源セル。
【請求項7】
前記絞り部材は、タングステン、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、タンタル、チタン、銅、バナジウム又はこれらを含む合金からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の蒸着源セル。
【請求項8】
被蒸着基板に薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、
上部に開口部を有する坩堝に蒸着源を投入とする工程と、
前記開口部の面積を制限する絞り部材を加熱して、前記蒸着源を上方から加熱するとともに、前記坩堝を加熱することにより前記蒸着源を加熱する工程と、
前記蒸着源から蒸発した材料により形成された薄膜の蒸着量に基づいて、前記絞り部材の加熱と前記坩堝の加熱を制御する工程と、を有することを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記絞り部材の加熱が、前記坩堝の加熱よりも先に開始されることを特徴とする請求項8に記載の薄膜の製造方法。
【請求項10】
蒸着源を加熱して蒸発させるための坩堝の開口部付近に配置する絞り部材であって、
前記坩堝内で蒸発した蒸着物質の噴出流量を制限する加熱可能な絞り部を有する平板形状の絞り部材。
【請求項11】
蒸着装置にて、蒸着源を加熱するヒータであって、
蒸着源を溜める坩堝を加熱する小径のヒータ部分と、前記坩堝内で蒸発した蒸着物質の噴出流量を制限する絞り部材を加熱する大径のヒータ部分とを備えることを特徴とする一体型の蒸着源加熱ヒータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−224393(P2007−224393A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49416(P2006−49416)
【出願日】平成18年2月25日(2006.2.25)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】