説明

蒸着装置及び蒸着方法

【課題】大型の成膜対象物の表面に分布が均一な成膜を簡素な構成の装置で行うことができる技術を提供する。
【解決手段】本発明の蒸着装置1は、真空槽の外部に設けられたホスト材料用蒸気発生源3h、ドーパント材料用蒸気発生源3dと、互いの雰囲気が隔離され、ホスト材料用蒸気発生源3h、ドーパント材料用蒸気発生源3dから供給される有機材料の蒸気をそれぞれ基板15に向って面状に放出するホスト材料用蒸気放出器5h、ドーパント材料用蒸気放出器5dを有する蒸気放出器ユニット2とを備える。ホスト材料用蒸気放出器5h、ドーパント材料用蒸気放出器5dは、蒸気放出基準点Oを中心として放射状に配列され当該蒸気放出基準点Oからの距離に応じて当該蒸発材料の蒸気の放出量が増加するように構成された複数の蒸気放出口7h,7dを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機ELディスプレイや有機EL照明デバイスや蒸着重合膜等を作製するための蒸着技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の成膜装置としては、例えば特許文献1、2に記載されたようなものが知られている。
特許文献1に係る従来技術は、インラインの基板を移動させながら成膜を行うものであり、このようなインライン方式の蒸着装置では基板を移動させる機構が必須であるため、装置構成が複雑でコストアップを招くという問題がある。
【0003】
一方、特許文献2に係る従来技術においては、有機物が収納された坩堝100に、近接配置された複数のパイプ状のノズル120がそれぞれ接続されており、各ノズル120には、複数の開口部125が設けられ、坩堝100を加熱することにより、各開口部125から有機物の蒸気を噴出するように構成されている。
【0004】
しかし、特許文献2に係る従来技術では、長方形状に蒸気が放出されるため、例えば、ウェーハのような円形の基板に対して蒸発材料が無駄になるという問題がある。
また、この従来技術では、膜厚分布を均一にすることが困難であり、大面積の基板に対して膜厚が均一の成膜を行うことができない。
加えて、この従来技術では、ホスト材料の蒸発装置とドーパント材料の蒸発装置が相互に汚染され、基板上における膜質分布を均一にすることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−146219号公報
【特許文献2】特開2002−184571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、大型の成膜対象物の表面に分布が均一な有機層の成膜を簡素な構成の装置で行うことができる技術を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、異なる蒸発材料を用いて蒸着を行う場合に複数の蒸気放出器が相互に汚染されるおそれがない技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明は、成膜対象物が配置される真空槽と、前記真空槽の外部に設けられ蒸発材料での蒸気を発生させる複数の蒸気発生源と、互いの雰囲気が隔離され、前記複数の蒸気発生源から供給される蒸発材料の蒸気をそれぞれ前記成膜対象物に向って面状に放出する複数の蒸気放出器を有する蒸気放出器ユニットとを備え、前記蒸気放出器ユニットの複数の蒸気放出器が、当該蒸発材料の蒸気を放出する際の基準となる蒸気放出基準点を中心として放射状に配列され当該蒸気放出基準点からの距離に応じて当該蒸発材料の蒸気の放出量が増加するように構成された複数の蒸気放出口を有する蒸着装置である。
本発明では、前記蒸気放出器ユニットが、前記蒸気放出基準点を中心として円周方向に関して交互に配置された第1及び第2の蒸気放出器を有する場合にも効果的である。
本発明では、前記複数の蒸気放出器の蒸気放出口が、前記蒸気放出基準点を中心として同心円上に配置されている場合にも効果的である。
本発明では、前記複数の蒸気発生源、当該複数の蒸気発生源から前記複数の蒸気放出器に蒸発材料の蒸気を導入する蒸気導入手段、及び当該前記複数の蒸気放出器が、それぞれ独自に温度を制御するように構成されるとともに、互いに熱伝達を防止する断熱構造を有している場合にも効果的である。
本発明では、前記複数の蒸気放出器の蒸気放出口が、円弧形状に形成されている場合にも効果的である。
本発明では、前記複数の蒸気放出器の蒸気放出口が、前記蒸気放出基準点を中心とする複数の同心円上に設けられている場合にも効果的である。
本発明では、前記蒸気放出器ユニットが、前記蒸気放出基準点を中心とする複数の同心円上に設けられた複数の蒸気放出部を有し、当該蒸気放出部には、それぞれ複数の蒸気放出口が設けられている場合にも効果的である。
一方、本発明は、上述したいずれかの蒸着装置を用い、真空中で基板表面に有機膜を形成する方法であって、蒸発材料として、有機EL装置の有機薄膜層を形成するためのホスト材料とドーパント材料を用いる蒸着方法である。
また、本発明は、上述したいずれかの蒸着装置を用い、真空中で基板表面に膜を形成する方法であって、蒸発材料として、フッ化リチウム又は三酸化モリブデンを用いる蒸着方法である。
【0008】
本発明の場合、蒸気放出器ユニットの複数の蒸気放出器が、当該蒸発材料の蒸気を放出する際の基準となる蒸気放出基準点を中心として放射状に配列され当該蒸気放出基準点からの距離に応じて当該蒸発材料の蒸気の放出量が増加するように構成された複数の蒸気放出口を有することから、複数の蒸気放出器から蒸発材料の蒸気を面状に放出させることによって、基板を回転させることなく、大型基板に対して膜厚及び膜質が均一な膜を高速で形成することができる。
また、本発明によれば、複数の蒸気放出器は互いの雰囲気が隔離されていることから、異なる蒸発材料(例えば、ドーパント材料とホスト材料、光の三原色の蒸気を発生させるための蒸発材料)を用いて同時に成膜を行う場合であっても、各蒸気放出器が相互に汚染されるおそれがない。
また、本発明によれば、成膜対象物を移動させる必要がない(固定成膜)ので、構成が簡素な蒸着装置を提供することができる。
本発明において、蒸気放出器ユニットが、蒸気放出基準点を中心として円周方向に関して交互に配置された第1及び第2の蒸気放出器を有する場合には、蒸気放出器と成膜対象物との間において、異なる蒸発材料の蒸気を十分に混合することができるため、共蒸着した膜の膜厚及び膜質の均一性をより高めることができる。
本発明において、複数の蒸気放出器の蒸気放出口が、蒸気放出基準点を中心として同心円上に配置されている場合には、成膜対象物上における膜厚及び膜質の均一性をより高めることができる。
本発明において、複数の蒸気発生源、複数の蒸気発生源から複数の蒸気放出器に蒸発材料の蒸気を導入する蒸気導入手段、及び複数の蒸気放出器が、それぞれ独自に温度を制御するように構成されるとともに、互いに熱伝達を防止する断熱構造を有している場合には、蒸発温度差の大きい異なる蒸発材料(例えばホスト材料とドーパント材料)を用いる場合に、蒸気発生源、蒸気導入手段及び蒸気放出器内において、蒸発温度が低い蒸発材料の分解を防止することができ、また、蒸着重合の場合には、蒸気発生源、蒸気導入手段及び蒸気放出器内において、蒸発材料の反応を防止することができる。
本発明において、蒸気放出器の蒸気放出口が、円弧形状に形成されている場合、また、蒸気放出器の蒸気放出口が、蒸気放出基準点を中心とする複数の同心円上に設けられている場合、また、蒸気放出器が、蒸気放出基準点を中心とする複数の同心円上に設けられた蒸気放出部を有し、当該蒸気導入部には、それぞれ複数の蒸気放出口が設けられている場合には、大型の成膜対象物、特に円形やリング形状の成膜対象物上における膜厚及び膜質の均一性をより高めることができ、これにより例えば均一な面内分布で発光する有機EL照明平面ランプを提供することができる。
一方、上述したいずれかの蒸着装置を用い、真空中で基板表面に有機膜を形成する際に、蒸発材料として、有機EL装置の有機薄膜層を形成するためのホスト材料とドーパント材料を用いる場合には、大型基板を用いる有機EL装置の有機薄膜層を均一且つ高速で形成することができる。
また、上述したいずれかの蒸着装置を用い、真空中で基板表面に膜を形成する際に、蒸発材料として、フッ化リチウムを用いる場合には、大型基板を用いる有機EL装置の電子注入層を均一且つ高速で形成することができる。
さらに、上述したいずれかの蒸着装置を用い、真空中で基板表面に膜を形成する際に、蒸発材料として、三酸化モリブデンを用いる場合には、大型基板を用いる有機EL装置の陽極バッファ層を均一且つ高速で形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば有機EL素子を製造する装置において、基板を回転させることなく、大型基板に対して均一な膜を高速で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a):本発明に係る蒸着装置の実施の形態の蒸気放出器の概略平面図(b):図1(a)の蒸気放出器のA−A線断面図
【図2】同蒸気放出器の蒸気放出口の配置を説明するための平面図
【図3】本発明における蒸気放出器の他の例を示す平面図
【図4】本発明における蒸気放出器の他の例を示す平面図
【図5】(a):本発明に係る蒸着装置の他の実施の形態の蒸気放出器の概略平面図(b):図5(a)の蒸気放出器のB−B線断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1(a)は、本発明に係る蒸着装置の実施の形態の蒸気放出器の概略平面図、図1(b)は、図1(a)の蒸気放出器のA−A線断面図である。
また、図2は、同蒸気放出器の蒸気放出口の配置を説明するための平面図である。
以下、蒸着装置の上下関係については図1(b)に示す構成に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
図1(a)(b)に示すように、本実施の形態の蒸着装置1は、基板15が配置される真空槽(図示せず)を有し、この真空槽の内部に、蒸気放出器ユニット2が設けられて構成されている。
この蒸気放出器ユニット2は、真空槽の外部に設けられたホスト材料用蒸気発生源3h、ドーパント材料用蒸気発生源3dに接続されている。
【0013】
ここで、ホスト材料用蒸気発生源3hの蒸発容器30h内には、蒸発材料として、有機EL素子の有機薄膜形成用のホスト材料が収容され、ドーパント材料用蒸気発生源3dの蒸発容器30d内には、有機EL素子の有機薄膜形成用のドーパント材料が収容されている。
【0014】
本実施の形態の場合、ホスト材料用蒸気発生源3h、ドーパント材料用蒸気発生源3dの蒸発容器30h、30dは、それぞれ図示しない加熱冷却手段によって所定の温度に温度制御されるようになっている。また、これら蒸発容器30h、30dは、図示しない断熱部材によって互いに熱が伝達されないように構成されている。
【0015】
また、ホスト材料用蒸気発生源3h、ドーパント材料用蒸気発生源3dの蒸発容器30h、30dは、それぞれキャリアガス供給装置31h、31dに接続され、キャリアガス源32から供給されるキャリアガスが、それぞれホスト材料用蒸気発生源3h、ドーパント材料用蒸気発生源3dの蒸発容器30h、30dに供給されるように構成されている。
【0016】
本実施の形態の蒸気放出器ユニット2は、複数(本例では8個)のホスト材料用蒸気放出器(第1の蒸気放出器)5hと、複数(本例では8個)のドーパント材料用蒸気放出器(第2の蒸気放出器)5dとを有している。
本実施の形態の場合、ホスト材料用蒸気放出器5h、ドーパント材料用蒸気放出器5dは、同一形状の蒸気放出面6h、6dを有している。
【0017】
ここで、ホスト材料用蒸気放出器5h及びドーパント材料用蒸気放出器5dの蒸気放出面6h,6dは、同一の水平面内に設けられるとともに、蒸気放出基準点Oを中心として放射状に広がる形状に形成され、各蒸気放出面6h,6dには、それぞれ複数の蒸気放出口7h,7dが設けられている。
【0018】
これらホスト材料用蒸気放出器5h及びドーパント材料用蒸気放出器5dの蒸気放出口7h,7dは、後述するように、それぞれ上述した蒸気放出基準点Oを通る線分上に放射状に配設され、例えば当該線分方向に延びる長孔形状に形成されている。
【0019】
ここで、ホスト材料用蒸気放出器5h及びドーパント材料用蒸気放出器5dの蒸気放出口7h,7dは、蒸気放出基準点Oからの距離に応じてその数を増加させることにより、有機材料の蒸気の放出量が増加するように構成されている。
【0020】
例えば、図2に示すように、ホスト材料用蒸気放出器5hについては、蒸気放出面6h上の蒸気放出基準点Oを通る一本の線分M1上に一列の蒸気放出口7h1が配設され、さらに、蒸気放出基準点Oを通り且つ上記線分M1の両側に放射状に延びる2本の線分M2、M3上に、それぞれ一列の蒸気放出口7h2、7h3が配設されている。
【0021】
本発明の場合、特に限定されることはないが、有機材料の蒸気をより均一に放出する観点からは、蒸気放出基準点Oを通る線分Mの両側に設けられる蒸気放出口7h2、7h3が、当該線分M1上に対して線対称の位置に配置することが好ましい。
【0022】
また、ドーパント材料用蒸気放出器5dについては、蒸気放出面6d上の蒸気放出基準点Oを通る一本の線分m1上に一列の蒸気放出口7d1が配設され、さらに、蒸気放出基準点Oを通り且つ上記線分m1の両側に放射状に延びる2本の線分m2、m3上に、それぞれ一列の蒸気放出口7d2、7d3が配設されている。
【0023】
本発明の場合、特に限定されることはないが、有機材料の蒸気をより均一に放出する観点からは、蒸気放出基準点Oを通る線分mの両側に設けられる蒸気放出口7d2、7d3が、当該線分m1上に対して線対称の位置に配置することが好ましい。
そして、ホスト材料用蒸気放出器5h及びドーパント材料用蒸気放出器5dは、上記蒸気放出基準点Oの周囲において、円周方向に関して交互に配置されている。
【0024】
本発明の場合、特に限定されることはないが、有機材料の蒸気をより均一に放出する観点からは、隣接するホスト材料用蒸気放出器5hについて、蒸気放出口7h1同士、また蒸気放出口7h2、7h3の間隔が等しく、かつ、蒸気放出基準点Oを中心とする同心円上に配置することが好ましい。
また、同様の観点から、隣接するドーパント材料用蒸気放出器5dについて、蒸気放出口7d1同士、また蒸気放出口7d2、7d3の間隔が等しく、かつ、蒸気放出基準点Oを中心とする同心円上に配置することが好ましい。
【0025】
一方、以下に説明するように、ホスト材料用蒸気放出器5hは、ホスト材料導入部8hを介してホスト材料の蒸気が導入されるように構成され、ドーパント材料用蒸気放出器5dは、ドーパント材料導入部9dを介してドーパント材料の蒸気が導入されるように構成されている。
【0026】
図1(b)に示すように、ホスト材料用蒸気放出器5hのホスト材料導入部8hは、蒸気放出基準点Oを通る鉛直線分Lの周囲において鉛直方向に延びる例えば断面リング形状で円筒形状の鉛直導入部8Vを有している。
そして、この鉛直導入部8Vの下端部に、水平方向に延びる水平導入部8Hが接続され、この水平導入部8Hは、バルブ33hを介して上記ホスト材料用蒸気発生源3hの蒸発容器30hに接続されている。
【0027】
また、ホスト材料導入部8hの鉛直導入部8Vは、その上端部において、蒸気導入口10を介して各ホスト材料用蒸気放出器5hと接続されている。
一方、ドーパント材料用蒸気放出器5dのドーパント材料導入部9dは、蒸気放出基準点Oを通る鉛直線分L上において鉛直方向に延びるパイプ状の鉛直導入部9Vを有している。
【0028】
この鉛直導入部9Vの下端部には、水平方向に延びる水平導入部9Hが接続され、この水平導入部9Hは、バルブ33dを介して上記ドーパント材料用蒸気発生源3dの蒸発容器30dに接続されている。
また、ドーパント材料導入部9dの鉛直導入部9Vは、その上端部において、蒸気導入室11及び蒸気導入口12を介して各ドーパント材料用蒸気放出器5dと接続されている。
【0029】
なお、ホスト材料導入部8hの水平導入部8Hの先端部分近傍には、コンダクタンスの小さい蒸気放出ノズル13hが設けられ、この蒸気放出ノズル13hから放出される有機材料の蒸気の量を膜厚センサ14hによって測定するように構成されている。
【0030】
また、ドーパント材料導入部の水平導入部9Hの先端部分近傍には、コンダクタンスの小さい蒸気放出ノズル13dが設けられ、この蒸気放出ノズル13dから放出される有機材料の蒸気の量を膜厚センサ14dによって測定するように構成されている。
【0031】
なお、上述したホスト材料用蒸気放出器5h及びホスト材料導入部8h並びにドーパント材料用蒸気放出器5d及びドーパント材料導入部9dは、それぞれ図示しない加熱冷却手段によって所定の温度に温度制御されるとともに、図示しない断熱部材によって互いに熱が伝達されないように構成されている。
【0032】
このような構成を有する本実施の形態において、基板15上に有機材料の膜を蒸着形成する場合には、真空槽内の圧力を所定の圧力にした状態で、ホスト材料用蒸気発生源3hからホスト材料導入部8hを介してホスト材料の蒸気をホスト材料用蒸気放出器5h内に導入する。
【0033】
また、ドーパント材料用蒸気発生源3dからドーパント材料導入部9dを介してドーパント材料の蒸気をドーパント材料用蒸気放出器5d内に導入する。
これにより、ホスト材料用蒸気放出器5hの蒸気放出口7hからホスト材料の蒸気が基板15に向って面状に放出されるとともに、ドーパント材料用蒸気放出器5dの蒸気放出口7dからドーパント材料の蒸気が基板15に向って面状に放出され、基板15全表面にホスト材料及びドーパント材料の共蒸着膜が形成される。
【0034】
以上述べたように本実施の形態においては、ホスト材料用蒸気放出器5hとドーパント材料用蒸気放出器5dが、蒸気放出基準点Oを中心として放射状に配列され蒸気放出基準点Oからの距離に応じて有機材料の蒸気の放出量が増加するように構成された複数の蒸気放出口7h、7dを有することから、ホスト材料用蒸気放出器5hとドーパント材料用蒸気放出器5dからホスト材料とドーパント材料の蒸気を面状に放出させることによって、基板15を回転させることなく、基板15上に膜厚及び膜質が均一な膜を高速で形成することができる。
【0035】
また、本実施の形態によれば、ホスト材料用蒸気放出器5hとドーパント材料用蒸気放出器5dは互いの雰囲気が隔離されていることから、ホスト材料用蒸気放出器5hとドーパント材料用蒸気放出器5dが相互に汚染されるおそれがない。
【0036】
さらに、本実施の形態では、ホスト材料用蒸気放出器5hとドーパント材料用蒸気放出器5dが、蒸気放出基準点Oを中心として円周方向に関して交互に配置されていることから、蒸気放出器ユニット2と基板15との間において、ホスト材料とドーパント材料の蒸気を十分に混合することができるため、共蒸着した膜の膜厚及び膜質の均一性をより高めることができる。
【0037】
さらにまた、本実施の形態では、ホスト材料用蒸気放出器5hとドーパント材料用蒸気放出器5dの蒸気放出口7h,7dが、蒸気放出基準点Oを中心として同心円上に配置されているため、基板15上における膜厚及び膜質の均一性をより高めることができる。
【0038】
加えて、本実施の形態では、ホスト材料用蒸気発生源3h及びドーパント材料用蒸気発生源3d、ホスト材料導入部8h及びドーパント材料導入部9d、ホスト材料用蒸気放出器5h及びドーパント材料用蒸気放出器5dが、それぞれ独自に温度を制御するように構成されるとともに、互いに熱伝達を防止する断熱構造を有しているので、蒸発材料として、蒸発温度差の大きいホスト材料とドーパント材料を用いる場合であっても、ホスト材料用蒸気発生源3h及びドーパント材料用蒸気発生源3d、ホスト材料導入部8h及びドーパント材料導入部9d、ホスト材料用蒸気放出器5h及びドーパント材料用蒸気放出器5d内において、蒸発温度が低い方の蒸発材料の分解を防止することができる。
【0039】
また、本実施の形態によれば、基板15を移動させる必要がないので、構成が簡素な蒸着装置を提供することができる。
図3及び図4は、本発明における蒸気放出器の他の例を示す平面図であり、以下、上記実施の形態と対応する部分には、同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0040】
図3に示すように、本例の蒸気放出器ユニット2Aは、ホスト材料用蒸気放出器5hとドーパント材料用蒸気放出器5dの蒸気放出口70h、70dの形状が上記実施の形態と異なり、蒸気放出面6h,6d上に円弧形状の蒸気放出口70h、70dが設けられているものである。
図4に示すように、本例の蒸気放出口70hは、例えば上述した蒸気放出基準点Oを中心とする同心円C1〜C6上にそれぞれ配置されている。
【0041】
本発明の場合、特に限定されることはないが、有機材料の蒸気をより均一に放出する観点からは、隣接するホスト材料用蒸気放出器5hについて、蒸気放出口70h同士の間隔が等しくなるように構成することが好ましい。
さらに、同様の観点から、隣接するドーパント材料用蒸気放出器5dについて、蒸気放出口70d同士、また蒸気放出口70dの間隔が等しくなるように構成することが好ましい。
【0042】
このような構成を有する本実施の形態によれば、上記実施の形態と同様の効果に加え、特に円形やリング形状の大型基板上における膜厚及び膜質の均一性をより高めることができ、これにより例えば均一な面内分布で発光する有機EL照明平面ランプを提供することができる。
【0043】
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
図5(a)は、本発明に係る蒸着装置の他の実施の形態の蒸気放出器の概略平面図、図5(b)は、図5(a)の蒸気放出器のB−B線断面図である。
以下、上記実施の形態と対応する部分には、同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0044】
図5(a)(b)に示すように、本実施の形態の場合、ホスト材料用蒸気放出器5hのホスト材料導入部8hは、蒸気放出基準点Oを通る鉛直線分Lの周囲において鉛直方向に延びる例えば断面リング形状で円筒形状の鉛直導入部8Vを有し、この鉛直導入部8Vが、バルブ33hを介して上記ホスト材料用蒸気発生源3hの蒸発容器30hに接続されている。
【0045】
そして、ホスト材料導入部8hの鉛直導入部8Vの上端部には、例えば、中空円板形状の水平導入部8Hが接続されている。
この鉛直導入部8Vの上面には、蒸気放出基準点Oを中心として例えば等しい角度で放射状に配置された複数(本実施の形態では6個)の蒸気放出ノズル40h、41h、42h、43h、44h及び45hが複数組(本実施の形態では8組)設けられている。
【0046】
これら蒸気放出ノズル40h、41h、42h、43h、44h及び45hの上部には、それぞれ蒸気放出口50h、51h、52h、53h、54h及び55hが設けられている。
ここで、蒸気放出口50h〜55hは、蒸気放出基準点Oからの距離に応じてノズルの径が大きくなるように形成され、これにより蒸気放出基準点Oからの距離に応じて有機材料の蒸気の放出量を増加するようになっている。
【0047】
一方、ドーパント材料用蒸気放出器5dのドーパント材料導入部9dは、蒸気放出基準点Oを通る鉛直線分L上において鉛直方向に延びるパイプ状の鉛直導入部9Vを有し、この鉛直導入部9Vが、バルブ33dを介して上記ドーパント材料用蒸気発生源3dの蒸発容器30dに接続されている。
【0048】
そして、ドーパント材料導入部9dの鉛直導入部9Vの上端部には、例えば蒸気放出基準点Oを中心として例えば等しい角度で放射状に延びる複数(本実施の形態では8個)の水平導入部9Hが接続され、各水平導入部9Hの上面に、蒸気放出基準点Oを中心として放射状に配置された複数(本実施の形態では6個)の蒸気放出ノズル40d、41d、42d、43d、44d及び45dが設けられている。
【0049】
これら蒸気放出ノズル40d、41d、42d、43d、44d及び45dの上部には、それぞれ蒸気放出口50d、51d、52d、53d、54d及び55dが設けられている。
ここで、蒸気放出口50d〜55dは、蒸気放出基準点Oからの距離に応じてノズルの径が大きくなるように形成され、これにより蒸気放出基準点Oからの距離に応じて有機材料の蒸気の放出量を増加するようになっている。
【0050】
なお、本実施の形態では、ドーパント材料導入部9dの水平導入部9Hは、ホスト材料導入部8hの水平導入部8Hの上方に設けられている。そして、これら蒸気放出ノズル40h〜45h並びに40d〜45dの高さが同一となるように構成され、これにより蒸気放出口50h〜55h並びに50d〜55dが同一平面内に位置するように設けられている。
【0051】
また、上述した蒸気放出口50h〜55hと、蒸気放出口50d〜55dは、蒸気放出基準点を中心として円周方向に関して交互に配置されている。さらに、蒸気放出口50h〜55h並びに蒸気放出口50d〜55dに関し、対応する蒸気放出口50h及び50d、51h及び51d、52h及び52d、53h及び53d、54h及び54d、55h及び55dは、それぞれ蒸気放出基準点Oを中心とする同心円上に配置されている。
【0052】
このような構成を有する本実施の形態によれば、上記実施の形態と同様の効果に加え、特に円形やリング形状の大型基板上における膜厚及び膜質の均一性をより高めることができる。
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0053】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、蒸気放出器ユニットにおける蒸気放出器の数は上述した実施の形態のものには限られず、適宜変更することができる。
【0054】
また、上記実施の形態においては、有機EL装置の有機層のホスト材料及びドーパント材料を蒸着する場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、例えば切換バルブを介して3個以上の蒸気発生源を蒸気放出器ユニットに接続し、切換バルブを切り換えることによって種々の有機材料の蒸気を蒸気放出器ユニットに供給するように構成することもできる。
【0055】
さらに、上記実施の形態においては、成膜対象物である基板の下側から蒸気を放出させて基板上に蒸着を行うようにしたが、本発明はこれに限られず、鉛直方向に対して傾けた基板に対して蒸気を放出させることもでき、また、水平方向に向けて配置した基板に対して上方から蒸気を放出し、いわゆるデポダウンの成膜を行うように構成することもできる。
【0056】
さらにまた、本発明は、複数の原料モノマーを用いて蒸着重合を行う装置にも適用することができる。
加えて、本発明は、有機材料のみならず、フッ化リチウム(LiF)や三酸化モリブデン(MoO3)等の無機材料についても適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…蒸着装置
2…蒸気放出器ユニット
3h…ホスト材料用蒸気発生源(蒸気発生源)
3d…ドーパント材料用蒸気発生源(蒸気発生源)
5h…ホスト材料用蒸気放出器(第1の蒸気放出器)
5d…ドーパント材料用蒸気放出器(第2の蒸気放出器)
7h,7d…蒸気放出口
8h…ホスト材料導入部
9d…ドーパント材料導入部
15…基板(成膜対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物が配置される真空槽と、
前記真空槽の外部に設けられ蒸発材料での蒸気を発生させる複数の蒸気発生源と、
互いの雰囲気が隔離され、前記複数の蒸気発生源から供給される蒸発材料の蒸気をそれぞれ前記成膜対象物に向って面状に放出する複数の蒸気放出器を有する蒸気放出器ユニットとを備え、
前記蒸気放出器ユニットの複数の蒸気放出器が、当該蒸発材料の蒸気を放出する際の基準となる蒸気放出基準点を中心として放射状に配列され当該蒸気放出基準点からの距離に応じて当該蒸発材料の蒸気の放出量が増加するように構成された複数の蒸気放出口を有する蒸着装置。
【請求項2】
前記蒸気放出器ユニットが、前記蒸気放出基準点を中心として円周方向に関して交互に配置された第1及び第2の蒸気放出器を有する請求項1記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記複数の蒸気放出器の蒸気放出口が、前記蒸気放出基準点を中心として同心円上に配置されている請求項1又は2のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記複数の蒸気発生源、当該複数の蒸気発生源から前記複数の蒸気放出器に蒸発材料の蒸気を導入する蒸気導入手段、及び当該前記複数の蒸気放出器が、それぞれ独自に温度を制御するように構成されるとともに、互いに熱伝達を防止する断熱構造を有している請求項1乃至3のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記複数の蒸気放出器の蒸気放出口が、円弧形状に形成されている請求項1乃至4のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記複数の蒸気放出器の蒸気放出口が、前記蒸気放出基準点を中心とする複数の同心円上に設けられている請求項1乃至5のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項7】
前記蒸気放出器ユニットが、前記蒸気放出基準点を中心とする複数の同心円上に設けられた複数の蒸気放出部を有し、当該蒸気放出部には、それぞれ複数の蒸気放出口が設けられている請求項1乃至6のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の蒸着装置を用い、真空中で基板表面に有機膜を形成する方法であって、
蒸発材料として、有機EL装置の有機薄膜層を形成するためのホスト材料とドーパント材料を用いる蒸着方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の蒸着装置を用い、真空中で基板表面に膜を形成する方法であって、
蒸発材料として、フッ化リチウム又は三酸化モリブデンを用いる蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−126958(P2012−126958A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279484(P2010−279484)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】