説明

蒸着装置

【課題】被処理体に蒸着する成膜材料の蒸気を均熱化することができる蒸着装置を提供する。
【解決手段】減圧された処理室30内において、被処理体に成膜材料を蒸着して成膜処理する蒸着装置であって、成膜材料の蒸気を噴出させる蒸気噴出口80が処理室30に配置された蒸着ヘッド65を備える。蒸着ヘッド65には、処理室30内に対して封止されたヒータ収納部102が形成され、ヒータ収納部102には、アルゴンガス、窒素ガスの少なくともいずれかが存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱した成膜材料を被処理体に蒸着して成膜処理する蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス(EL;Electro Luminescence)を利用した有機EL素子が開発されている。有機EL素子は、熱をほとんど出さないのでブラウン管などに比べて消費電力が小さく、また、自発光なので、液晶ディスプレイ(LCD)などに比べて視野角に優れている等の利点があり、今後の発展が期待されている。
【0003】
有機EL素子の基本的な構造は、ガラス基板上にアノード(陽極)層、発光層、およびカソード(陰極)層を重ねて形成したサンドイッチ構造である。発光層の光を外に取り出すために、ガラス基板上のアノード層には、ITO(Indium Tin Oxide)からなる透明電極が用いられる。かかる有機EL素子は、表面にITO層(アノード層)が予め形成されたガラス基板上に、発光層とカソード層を順に成膜することによって製造されるのが一般的である。発光層としては、例えば、多環芳香族炭化水素、ヘテロ芳香族化合物、有機金属錯体化合物等の材料が用いられる。また、必要に応じて、アノード層と発光層との間、またはカソード層と発光層との間に、発光効率を良好にするための薄膜を形成することもあり、これらの薄膜も、蒸着により形成することができる。
【0004】
以上のような有機EL素子の発光層を成膜させる装置としては、例えば特許文献1に示す真空蒸着装置が知られている。
【0005】
一般に、有機EL素子の発光層を成膜させる工程では、処理容器内を所定の圧力まで減圧させることが行われる。その理由は、上記のように有機EL素子の発光層を成膜させる場合、蒸着ヘッドから200℃〜500℃程度の高温にした成膜材料の蒸気を供給して、基板表面に成膜材料を蒸着させるが、仮に大気中で成膜処理すると、気化させた成膜材料の蒸気の熱が処理容器内の空気を伝わることにより、処理室内に配置された各種センサ等の部品を高温にさせ、それら部品の特性を悪化させたり、部品自体の破損を招いてしまうからである。そこで、有機EL素子の発光層を成膜させる工程では、処理容器内を所定の圧力まで減圧させ、成膜材料の蒸気の熱が逃げないように維持している(真空断熱)。
【0006】
一方、成膜材料を蒸発させる蒸気発生部や、蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を蒸着ヘッドに送る配管、成膜材料の蒸気の供給を制御する制御弁などは、成膜材料の補充、メンテナンス等の理由から、処理容器の外部に置かれるのが一般的である。ところが、これら蒸気発生部、配管、制御弁などを大気圧下に配置した場合、空気中を通じて放熱することにより、蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を、蒸着ヘッドに送るまでの間、所望の温度に保ちにくいといった問題を生じる。したがって、蒸気発生部、配管、制御弁などもまた、減圧空間内に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−282219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、蒸着ヘッド内で成膜材料の蒸気を加熱するヒータが、上記のように減圧空間内に設置されていることにより、ヒータと成膜材料の流路との間に少しでも隙間があると、真空断熱状態となり、ヒータの熱が十分に成膜材料に伝わらない。そのため、成膜材料を均一に加熱することが困難であり、温度のばらつきが生じていた。
【0009】
本発明の目的は、ヒータの熱を効率的に成膜材料に伝えて成膜材料の蒸気を均熱化することができる蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明は、蒸着により被処理体を成膜処理する蒸着装置であって、被処理体を成膜処理する処理室と、成膜材料を蒸発させる蒸気発生室と、前記処理室の内部を減圧させる排気機構とを設け、前記処理室に露出して配置された成膜材料の蒸気を噴出させる蒸気噴出口と、前記蒸気発生室に、成膜材料を蒸発させる蒸気発生部と、成膜材料の蒸気の供給を制御する制御弁とを配置し、前記蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を、前記処理室と前記蒸気発生室の外部に出さずに、前記蒸気噴出口に供給させる流路を有する蒸着ヘッドを設け、前記蒸着ヘッドには、前記処理室内に対して封止されたヒータ収納部が前記流路を囲むように形成され、前記ヒータ収納部に、アルゴンガス、窒素ガスの少なくともいずれかが存在していることを特徴とする蒸着装置を提供する。これにより、ヒータと加熱面との間に隙間が生じても、アルゴンガス、窒素ガスのいずれかを介して熱が伝達される。
【0011】
また、本発明は、蒸着により被処理体を成膜処理する蒸着装置であって、被処理体を成膜処理する処理室と、前記処理室に隣接させて配置され、成膜材料を蒸発させる蒸気発生室と、前記処理室の内部を減圧させる排気機構とを設け、前記処理室に露出して配置された成膜材料の蒸気を噴出させる蒸気噴出口と、前記蒸気発生室に、成膜材料を蒸発させる蒸気発生部と、成膜材料の蒸気の供給を制御する制御弁とを配置し、前記蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を、前記処理室と前記蒸気発生室の外部に出さずに、前記蒸気噴出口に供給させる流路を有する蒸着ヘッドを設け、前記蒸着ヘッドには、前記蒸気発生室および前記処理室内に対して封止されたヒータ収納部が前記流路を囲むように形成され、前記ヒータ収納部に、アルゴンガス、窒素ガスの少なくともいずれかが存在していることを特徴とする蒸着装置を提供する。
【0012】
前記ヒータ収納部が密閉され、前記アルゴンガス、前記窒素ガスの少なくともいずれかが数十トル程度の圧力となるように封入されていてもよい。
【0013】
1つの蒸着ヘッドに対し、複数の蒸気発生部を備えていてもよい。
【0014】
前記ヒータへの電力供給線が前記蒸気発生室の内部を通って前記処理室の外側へ延びていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヒータの熱を成膜材料に効率よく伝達し、処理室に噴出される成膜材料の蒸発量と蒸気の温度を均一に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】有機EL素子の説明図である。
【図2】成膜システムの説明図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる蒸着装置の構成を概略的に示した断面図である。
【図4】蒸着ユニットの斜視図である。
【図5】蒸着ユニットの回路図である。
【図6】蒸着ヘッドの設置状態を示す斜視図である。
【図7】蒸着ヘッドのヒータ収納部へのヒータの取り付け状態を示す断面図と、一部分の拡大図である。
【図8】図7で用いる皿ばねの例を示す斜視図である。
【図9】異なる連通路を設けた蒸着ユニットを示す斜視図である。
【図10】異なる蒸着ユニットの設置状態を示す斜視図である。
【図11】実施例の試験体を正面および平面から見た図である。
【図12】実施例のヒータ取り付け状態を示す断面図であり、(A)は本発明にかかる取付方法によるもの、(B)は0.2mm厚さのスペーサを設けたもの、(C)は従来方法によるものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態において製造される有機EL素子Aの説明図である。有機EL素子Aのもっとも基本となる構造は、陽極1と陰極2との間に発光層3を挟んだサンドイッチ構造である。陽極1は、被処理体としてのガラス基板G上に形成されている。陽極1には、発光層3の光を透過させることが可能な、例えばITO(Indium Tin Oxide)からなる透明電極が用いられる。
【0019】
発光層3である有機層は一層から多層のものまであるが、図1では、第1層a1〜第6層a6を積層した6層構成である。第1層a1はホール輸送層、第2層a2は非発光層(電子ブロック層)、第3層a3は青発光層、第4層a4は赤発光層、第5層a5は緑発光層、第6層a6は電子輸送層である。かかる有機EL素子Aは、後述するように、ガラス基板G表面の陽極1の上に、発光層3(第1層a1〜第6層a6)を順次成膜し、仕事関数調整層(図示せず)を介在させた後、Ag、Mg/Ag合金などの陰極2を形成し、最後に、全体を窒化膜(図示せず)などで封止して、製造される。
【0020】
図2は、有機EL素子Aを製造するための成膜システム10の説明図である。この成膜システム10は、基板Gの搬送方向(図2において右向き)に沿って、ローダ11、トランスファーチャンバ12、発光層3の蒸着装置13、トランスファーチャンバ14、仕事関数調整層の成膜装置15、トランスファーチャンバ16、エッチング装置17、トランスファーチャンバ18、スパッタリング装置19、トランスファーチャンバ20、CVD装置21、トランスファーチャンバ22、アンローダ23を直列に順に並べた構成である。ローダ11は、基板Gを成膜システム10内に搬入するための装置である。トランスファーチャンバ12、14、16、18、20、22は、各処理装置間で基板Gを受け渡しするための装置である。アンローダ23は、基板Gを成膜システム10外に搬出するための装置である。
【0021】
ここで、本発明の実施の形態にかかる蒸着装置13について、更に詳細に説明する。図3は、蒸着装置13の構成を概略的に示した断面図、図4は、蒸着装置13が備える蒸着ユニット55(56,57,58,59,60)の斜視図、図5は、蒸着ユニット55(56,57,58,59,60)の回路図である。
【0022】
蒸着装置13は、内部において基板Gを成膜処理するための処理室30と、成膜材料を蒸発させる蒸気発生室31とを上下に隣接させて配置した構成である。これら処理室30と蒸気発生室31は、アルミニウム、ステンレススチール等で構成された容器本体32の内部に形成されており、処理室30と蒸気発生室31の間は、断熱材で構成された隔壁33によって仕切られている。
【0023】
処理室30の底面には、排気孔35が開口しており、排気孔35には、容器本体32の外部に配置された排気機構である真空ポンプ36が、排気管37を介して接続されている。この真空ポンプ36の稼動により、処理室30の内部は所定の圧力に減圧される。
【0024】
同様に、蒸気発生室31の底面39には、排気孔40が開口しており、排気孔40には、容器本体32の外部に配置された排気機構である真空ポンプ41が、排気管42を介して接続されている。この真空ポンプ41の稼動により、蒸気発生室31の内部は所定の圧力に減圧される。
【0025】
処理室30の上方には、ガイド部材45と、このガイド部材45に沿って適宜の駆動源(図示せず)によって移動する支持部材46が設けられている。支持部材46には、静電チャックなどの基板保持部47が取り付けられており、成膜対象である基板Gは基板保持部47の下面に水平に保持される。
【0026】
処理室30の側面には、搬入口50と搬出口51が形成されている。この蒸着装置13では、搬入口50から搬入された基板Gが、基板保持部47で保持されて、処理室30内において図3中の右向きに搬送され、搬出口51から搬出される。
【0027】
処理室30と蒸気発生室31の間を仕切っている隔壁33には、成膜材料の蒸気を供給する6個の蒸着ユニット55,56,57,58,59,60が、基板Gの搬送方向に沿って配置されている。これら蒸着ユニット55〜60は、ホール輸送層を蒸着させる第1の蒸着ユニット55、非発光層を蒸着させる第2の蒸着ユニット56、青発光層を蒸着させる第3の蒸着ユニット57、赤発光層を蒸着させる第4の蒸着ユニット58、緑発光層を蒸着させる第5の蒸着ユニット59、電子輸送層を蒸着させる第6の蒸着ユニット60からなり、基板保持部47によって保持されながら搬送されていく基板Gの下面に対して成膜材料の蒸気を順に成膜させるようになっている。また、各蒸着ユニット55〜60の間には、蒸気仕切り壁61が配置されており、各蒸着ユニット55〜60から供給される成膜材料の蒸気が互いに混合せずに、基板Gの下面に順に成膜されるようになっている。
【0028】
各蒸着ユニット55〜60はいずれも同様の構成を有しているので、代表して第1の蒸着ユニット55について説明する。図4に示すように、蒸着ユニット55は、蒸着ヘッド65の下方に配管ケース(輸送路)66を取り付け、この配管ケース66の両側面に、3つの蒸気発生部70,71,72と3つの制御弁75,76,77を取り付けた構成である。
【0029】
蒸着ヘッド65の上面には、有機EL素子Aの発光層3の成膜材料の蒸気を噴出させる蒸気噴出口80が形成されている。蒸気噴出口80は、基板Gの搬送方向に直交する方向に沿ってスリット形状に配置されており、基板Gの幅と同じか僅かに長い長さを有している。このスリット形状の蒸気噴出口80から成膜材料の蒸気を噴出させながら、上述の基板保持部47によって基板Gを搬送することにより、基板Gの下面全体に成膜させるようになっている。
【0030】
蒸着ヘッド65は、蒸気噴出口80が形成された上面を処理室30内に露出させた姿勢で、処理室30と蒸気発生室31とを仕切る隔壁33に支持されている。蒸着ヘッド65の下面は、蒸気発生室31内に露出しており、この蒸着ヘッド65の下面に取り付けられた配管ケース(輸送路)66と、配管ケース66に取り付けられた蒸気発生部70,71,72および制御弁75、76,77がいずれも蒸気発生室31に配置されている。また、連通路101が、配管ケース66の下部から底面39を貫通して処理室30の外側へ連通している。
【0031】
図5に示すように、3つの蒸気発生部70,71,72と3つの制御弁75,76,77は互いに対応した関係であり、制御弁75は、蒸気発生部70で発生させた成膜材料の蒸気の供給を制御し、制御弁76は、蒸気発生部71で発生させた成膜材料の蒸気の供給を制御し、制御弁77は、蒸気発生部72で発生させた成膜材料の蒸気の供給を制御するようになっている。配管ケース66の内部には、各蒸気発生部70〜72と各制御弁75〜77を接続する枝配管81,82,83と、各蒸気発生部70〜72から各制御弁75〜77を経て供給された成膜材料の蒸気を、合流させて蒸着ヘッド65に供給する合流配管85が設けられている。各蒸気発生部70〜72は、いずれも同様の構成を有しており、内部に有機EL素子Aの発光層3の成膜材料(蒸着材料)が配置され、側面に複数のヒータが取り付けられて、成膜材料を蒸発させる。
【0032】
蒸着ヘッド65には、図6に示すように、成膜材料の蒸気の流路の近傍を囲んでヒータ100が取り付けられている。蒸気の流路の全側面に沿ってヒータ100を設けることにより、蒸着ヘッド65内を通過する蒸気の温度のばらつきを低減させ、均一に加熱することができる。
【0033】
図7は、ヒータ収納部102内におけるヒータ100の配置例と、破線円内を拡大して示した図である。図7に示すように、ヒータ100は、ヒータ収納部102に取り付けられる。ヒータ100は、成膜材料の蒸気の流路103に面したヒータ収納部102の内側面に押さえつけられている。押さえつける手段としては、例えば図8に示すような皿ばね110が用いられ、適宜間隔で配置される。さらに、皿ばね110の押圧力が均等にヒータ100の面全体に伝達されるように、皿ばね110とヒータ100との間に、図7の拡大図に示すように、押さえ板111を配置させることが好ましい。このようにしてヒータ100が流路103側に向けて押さえつけられることにより、蒸着ヘッド65内を通過する成膜材料の蒸気に効率的且つ均一に熱が伝わるので、温度管理が容易になり、蒸気の温度を安定させて安定した蒸着プロセスが実現できる。
【0034】
さらに、図4に示すように、ヒータ100へ電力を供給するための電力供給線104が収納された連通路101が、処理室30の外側へ連通している。この連通路101を介して、ヒータ収納部102に大気が入り込み、ヒータ100が大気中に配置されることになる。これにより、ヒータ100とヒータ収納部102の側面との間に隙間の開いた個所が生じても、空気を介してヒータ100の熱を流路103側へ伝達し、均一に熱を伝えることができる。
【0035】
また、図6に示すように、ヒータ収納部102に例えば熱電対121などの温度測定手段を設けることにより、ヒータ100の温度を測定するとともに、温度データをフィードバックして、適切な温度制御を行うことができる。熱電対121の接続線122、およびヒータ100に電力を供給する電力供給線104は、連通路101を通って処理室30の外側へ延ばす。
【0036】
また、図9は、異なる形態の連通路101aを設けた蒸着ユニット55を示す。連通路101aは、図示するように、蒸着ヘッド65下部の両側面から延びて蒸気発生室31の底面39を貫通し、蒸着ヘッド65内部と蒸気発生室31の外部とを連通する。連通路101aは、例えば蛇腹状等とすることにより柔軟に変形できるものとし、材質はステンレス等が用いられる。上述の図4の連通路101と同様、ヒータ100への電力供給線104等は、図9の連通路101a内を通って処理室30の外側へ延びる。
【0037】
なお、図10に示すように、蒸着ヘッド65内のヒータ収納部102を密閉空間とし、その内部に、アルゴンガスや窒素ガス等を例えば数十トル程度の圧力になるように封入してもよい。この場合にも、これらのガスを介して、ヒータ100の熱を伝達することができる。なお、ヒータ100への電力供給線104は、例えば蒸気発生室31の内部を通って処理室30の外側へ延びている。
【0038】
その他、図2に示す仕事関数調整層の成膜装置15は、蒸着によって基板Gの表面に対して仕事関数調整層を成膜するように構成されている。エッチング装置17は、成膜された各層などをエッチングするように構成されている。スパッタリング装置19は、Agなどの電極材料をスパッタリングして、陰極2を形成させるように構成されている。CVD装置21は、窒化膜などからなる封止膜を、CVD等によって成膜し有機EL素子Aの封止を行うものである。
【0039】
以上のように構成された成膜システム10において、ローダ11を介して搬入された基板Gが、トランスファーチャンバ12によって、先ず、蒸着装置13に搬入される。この場合、基板Gの表面には、例えばITOからなる陽極1が所定のパターンで予め形成されている。
【0040】
そして、蒸着装置13では、表面(成膜面)を下に向けた姿勢にして基板保持部47で基板Gが保持される。なお、このように基板Gが蒸着装置13に搬入される前に、蒸着装置13の処理室30と蒸気発生室31の内部は、真空ポンプ36、41の稼動により、いずれも予め所定の圧力に減圧されている。
【0041】
そして、減圧された蒸気発生室31内において、各蒸気発生部70〜72で蒸発させられた成膜材料の蒸気が、制御弁75〜77の開閉操作によって、任意の組み合わせで合流配管85にて合流され、蒸着ヘッド65に供給される。蒸着ヘッド65に供給された成膜材料の蒸気が、ヒータ100で均一な温度に制御された状態で、処理室30内において、蒸着ヘッド65上面の蒸気噴出口80から噴出される。
【0042】
一方、減圧された処理室30内においては、基板保持部47で保持された基板Gが、図3中の右向きに搬送されていく。そして、移動中に、蒸着ヘッド65上面の蒸気噴出口80から成膜材料の蒸気が供給されて、基板Gの表面に発光層3が成膜・積層されていく。均熱化された蒸気が供給されることにより、高品質な成膜処理が行える。
【0043】
蒸着装置13において発光層3を成膜させた基板Gは、トランスファーチャンバ14によって、次に、成膜装置15に搬入される。こうして、成膜装置15では、基板Gの表面に仕事関数調整層が成膜される。
【0044】
次に、トランスファーチャンバ16によって、基板Gはエッチング装置17に搬入され、各成膜の形状等が調整される。次に、トランスファーチャンバ18によって、基板Gはスパッタリング装置19に搬入され、陰極2が形成される。次に、トランスファーチャンバ20によって、基板GはCVD装置21に搬入され、有機EL素子Aの封止が行われる。こうして製造された有機EL素子Aが、トランスファーチャンバ22、アンローダ23を介して、成膜システム10外に搬出される。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、処理の対象となる基板Gは、ガラス基板、シリコン基板、角形、丸形等の基板など、各種基板に適用できる。また、基板以外の被処理体にも適用できる。
【0046】
図2では、基板Gの搬送方向に沿って、ローダ11、トランスファーチャンバ12、発光層3の蒸着装置13、トランスファーチャンバ14、仕事関数調整層の成膜装置15、トランスファーチャンバ16、エッチング装置17、トランスファーチャンバ18、スパッタリング装置19、トランスファーチャンバ20、CVD装置21、トランスファーチャンバ22、アンローダ23を直列に順に並べた構成の成膜システム10を示したが、これに限ることはなく、各処理装置の台数・配置は任意に変更可能である。
【0047】
なお、各蒸着ユニット55〜60の蒸着ヘッド65から噴出される材料は同じでも異なっていても良い。また、蒸着ユニットの連数は6つに限らず、任意である。また、蒸着ユニットに設けられる蒸気発生部や制御弁の数も任意である。
【実施例】
【0048】
図11に示すように、68mm×260mmの筐体に、45mm×211.5mmのマイカヒータを収納し、加熱面側(蒸気の流路側)であるA面の、A−1,A−2,A−3各点の温度と、ヒータ自体の中央部の温度H−1点、およびヒータ端部の裏面側(B面)の温度B−1点の温度測定を行った。ヒータはマイカヒータとし、ヒータの厚さは1.5mmとした。ヒータ収納部の厚さは、ヒータの厚さに対して0.1mmのクリアランスを有する1.6mmとした。
【0049】
ヒータの取付方法は、本発明例として、図12(A)に示すように、押さえ板111を介してヒータ100の裏面を皿ばね110で加熱側(A面側)へ押さえつけた。押さえ板111の厚さは、0.2mmと0.3mmの2種類について実験を行った。押さえ板111が0.2mmで、皿ばね110を、図11のS1,S3,S5の3個所に配置したものをNo.3、皿ばね110をS1〜S5の5個所に配置したものをNo.4とした。押さえ板111が0.3mmで、No.4と同様に皿ばね110を5個所配置したものをNo.5とした。なお、皿ばね110の位置ずれを防ぐために、皿ばね110の配置位置には、筐体に、0.2mm深さの切り欠きを形成した。使用した皿ばね110の形状は図8に示すものである。
【0050】
比較例としては、図12(B)に示すように、ヒータ100の両端に0.2mm厚さのスペーサ121を配置して0.2mmの隙間を設けたものをNo.1とした。さらに、従来方法として、図12(C)に示すように、ヒータの厚さよりも0.1mm厚い収納部にヒータ100を収納したもの、即ち0.1mmの隙間を有するものをNo.2とした。筐体の平面部分を水平方向に向けた平置き、および平面部分を鉛直方向に向けた縦置きの両方について、A−1点の温度が450℃になるまでヒータ加熱を行い、各点の温度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1より、平置き、縦置きともに、皿ばね110を用いてヒータ100を加熱側に押さえつけることにより、加熱側(A面)の表面温度のばらつき(温度差ΔT)が小さくなった。押さえ板111は、0.2mmよりも0.3mmの方が、よりばらつきが少なくなった。A−1点が450℃になるときのヒータ自体の温度(H−1点の温度)は、隙間寸法が大きいNo.1が最も高くなった。押さえ板111が0.3mmの場合にも、H−1点の温度が若干高くなる傾向が見られたが、温度のばらつきを低減する効果があり、成膜材料の蒸気の温度を安定させるためには有効である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、有機EL素子の製造分野に適用できる。
【符号の説明】
【0054】
A 有機EL素子
G ガラス基板
10 処理システム
11 ローダ11
12、14、16、18、20、22 トランスファーチャンバ
13 発光層の蒸着装置
15 仕事関数調整層の成膜装置
17 エッチング装置
19 スパッタリング装置
21 CVD装置
23 アンローダ
30 処理室
31 蒸気発生室
32 容器本体
33 隔壁
35、40 排気孔
36、41 真空ポンプ
45 ガイド部材
47 基板保持部
55〜60 蒸着ユニット
65 蒸着ヘッド
66 配管ケース
70〜72 蒸気発生部
75〜77 制御弁
80 蒸気噴出口
100 ヒータ
101、101a 連通路
102 ヒータ収納部
103 流路
104 電力供給線
110 皿ばね
111 押さえ板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着により被処理体を成膜処理する蒸着装置であって、
被処理体を成膜処理する処理室と、
成膜材料を蒸発させる蒸気発生室と、
前記処理室の内部を減圧させる排気機構とを設け、
前記処理室に露出して配置された成膜材料の蒸気を噴出させる蒸気噴出口と、
前記蒸気発生室に、成膜材料を蒸発させる蒸気発生部と、成膜材料の蒸気の供給を制御する制御弁とを配置し、
前記蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を、前記処理室と前記蒸気発生室の外部に出さずに、前記蒸気噴出口に供給させる流路を有する蒸着ヘッドを設け、
前記蒸着ヘッドには、前記処理室内に対して封止されたヒータ収納部が前記流路を囲むように形成され、
前記ヒータ収納部に、アルゴンガス、窒素ガスの少なくともいずれかが存在していることを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
蒸着により被処理体を成膜処理する蒸着装置であって、
被処理体を成膜処理する処理室と、
前記処理室に隣接させて配置され、成膜材料を蒸発させる蒸気発生室と、
前記処理室の内部を減圧させる排気機構とを設け、
前記処理室に露出して配置された成膜材料の蒸気を噴出させる蒸気噴出口と、
前記蒸気発生室に、成膜材料を蒸発させる蒸気発生部と、成膜材料の蒸気の供給を制御する制御弁とを配置し、
前記蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を、前記処理室と前記蒸気発生室の外部に出さずに、前記蒸気噴出口に供給させる流路を有する蒸着ヘッドを設け、
前記蒸着ヘッドには、前記蒸気発生室および前記処理室内に対して封止されたヒータ収納部が前記流路を囲むように形成され、
前記ヒータ収納部に、アルゴンガス、窒素ガスの少なくともいずれかが存在していることを特徴とする蒸着装置。
【請求項3】
前記ヒータ収納部が密閉され、前記アルゴンガス、前記窒素ガスの少なくともいずれかが数十トル程度の圧力となるように封入されていることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
1つの蒸着ヘッドに対し、複数の蒸気発生部を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記ヒータへの電力供給線が前記蒸気発生室の内部を通って前記処理室の外側へ延びていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−52243(P2012−52243A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263824(P2011−263824)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【分割の表示】特願2008−171979(P2008−171979)の分割
【原出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】