説明

蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法

【課題】 被成膜処理物に蒸着重合法により成膜する蒸着重合高分子膜被覆体の表面を短時間で親水化することができる親水化方法を提供すること。
【解決手段】 蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法であって、被処理蒸着重合高分子膜被覆体をオゾン雰囲気に曝し、その後、30〜70%湿度雰囲気に放置することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅資材、空調機器の熱交換器、マイクロ流体チップの液体流路などに用いられる各種部材、或いは、シリコンウエハー等の電子材料等にポリイミド膜やポリ尿素膜等の蒸着重合高分子膜を成膜した蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミド膜等の被覆体を親水化する方法として、例えば、特許文献1に開示されるように、被覆体をオゾン雰囲気中に暴露して被覆体の表面を親水化する方法がある。
しかしながら、この方法では、親水化処理のために3時間以上もの時間がかかり、工業的に実施するには問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開平5−207630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためのもので、ポリイミド膜やポリ尿素膜等の蒸着重合高分子膜被覆体の表面を短時間で親水化することができる親水化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討の結果、蒸着重合高分子膜被覆体をオゾン雰囲気に晒してオゾン処理した後、所定の湿度雰囲気下に放置することで、親水化のための処理時間を短縮することができるという知見に基づき、下記の通り解決手段を見出した。
即ち、本発明の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法は、請求項1に記載の通り、蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法であって、被処理蒸着重合高分子膜被覆体をオゾン雰囲気に曝し、その後、30〜70%湿度雰囲気に放置することを特徴とする.
また、請求項2記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法は、請求項1記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法において、前記湿度雰囲気が45〜55%湿度雰囲気であることを特徴とする。
また、請求項3記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法は、請求項1または2記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法において、前記蒸着重合高分子膜がポリイミド膜、或いは、ポリ尿素膜であることを特徴とする。
また、請求項4記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法は、請求項1乃至3の何れかに記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法において、 前記放置時間が 1〜6時間であることを特徴とする。
また、請求項5記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法は、請求項1乃至4の何れかに記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法において、前記オゾン処理時間が5〜20分であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法によれば、被処理蒸着重合高分子膜被覆体をオゾン雰囲気に曝し、その後、30〜70%湿度雰囲気に放置するようにすることで、極めて短時間のオゾン処理によって親水化処理を行える。
また、その湿度雰囲気を45〜55%湿度雰囲気とした場合、オゾン処理時間を短縮して、しかも、極めて良好な親水性を示す親水化処理を行うことができる。
【実施例】
【0007】
以下、添付図面に従って、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
図1は、本発明方法を実施するために用いられる成膜装置の一例を示すもので、図中1は、真空処理室1を示し、この真空処理室1の一側には真空排気系2が接続されて任意の真空度に調整自在となっている。また、前記真空処理室1の天井側には、原料モノマーの無水ピロメリット酸(PMDA)の供給源3と、オキシジアニリン(ODA)の供給源4と、オゾン原料ガスである酸素の供給源5に接続されたオゾン発生装置6とが、それぞれ、流量コントロールバルブ7,8,9を介して連結されている。また、前記真空処理室1の中央部に支持部材10が配置され、この支持部材10の上には被成膜処理物であるシリコンウエハー20が設置され、また、前記支持部材10はその裏面側に配置されたヒーター11によって所定の温度に調整自在とされている。尚、図中30は、成膜されたポリイミド膜を示す。
【0008】
本実施例では、先ず、前記成膜装置を用いてポリイミド膜を成膜した。ポリイミド膜の成膜原料物質としては、前記した通り、無水ピロメリット酸(PMDA)と、オキシジアニリン(ODA)を用いた。また、被成膜処理物としては、8インチのシリコンウエハー20を用いた。このシリコンウエハー20を真空処理室1の支持部材10上に設置し、真空排気系2を介して真空処理室1内を所定の真空度に設定し、原料モノマーの供給源3,4から流量調整バルブ7,8を調整しながら所定量の原料モノマーを導入し、前記シリコンウエハー20の表面にポリイミド膜30を成膜した。具体的な成膜条件は、PMDA蒸発温度200℃、ODA蒸発温度188℃、基板温度180℃とした。
得られたポリイミド膜の親水性評価の指標としての水の接触角は約85度という大きな値を示し、親水性に乏しいものであった。尚、接触角については、接触角計(CA−X150型:協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。
【0009】
次に、バルブ9を開いてオゾンを導入し、シリコンウエハー20の表面のポリイミド膜30をオゾン雰囲気に晒してオゾン処理を施し、その後、種々の湿度雰囲気下に放置して親水化処理を行った。
【0010】
図2は、オゾン処理後の放置時の湿度条件とポリイミド膜表面の接触角の関係を示すもので、30〜70%湿度雰囲気に放置すると接触角が40度以下となり、良好な親水性を示し、45〜55%の湿度雰囲気に放置すると30度以下という小さな接触角となり、極めて良好な親水性を示すことが確認できた。尚、オゾン処理については、処理時間を10分、オゾン流量を20L/minとした。また、湿度雰囲気下での放置時間は6時間とした。
尚、実験の結果、オゾン処理処理時間については5〜20分、オゾン流量については10〜20L/min、所定湿度雰囲気下での放置時間については1〜6時間程度が好ましいことを確認した。
【0011】
以上の実施例から、本発明の表面親水化方法によれば、極めて短時間のオゾン処理によって親水化処理を行えることが確認できた。
【0012】
(実施例2)
本実施例では、前記成膜装置を用いて、8インチのシリコンウエハーにポリ尿素膜を成膜し、このポリ尿素膜に親水化処理を行った。
ポリ尿素膜の成膜原料物質としては、4,4'-ジアミノジフェニルメタン(MDA)と、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)を用いた。具体的な成膜条件は、MDA蒸発温度130℃、MDI蒸発温度112℃、基板温度20℃とした。
得られたポリ尿素膜の親水性評価の指標としての水の接触角は約85度という大きな値を示し、親水性に乏しいものであった。尚、接触角については、接触角計(CA−X150型:協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。
【0013】
次に、バルブ9を開いてオゾンを導入し、シリコンウエハーの表面のポリ尿素膜をオゾン雰囲気に晒してオゾン処理を施し、その後、種々の湿度雰囲気下に放置して親水化処理を行った。
【0014】
実施例1と同様にして、オゾン処理後の放置時の湿度条件とポリ尿素膜表面の接触角の関係を調べたところ、30〜70%湿度雰囲気に放置すると接触角が40度以下となり、良好な親水性を示し、45〜55%の湿度雰囲気に放置すると30度以下という小さな接触角となり、極めて良好な親水性を示すことが確認できた。尚、オゾン処理については、処理時間を10分、オゾン流量を20L/minとした。また、湿度雰囲気下での放置時間は6時間とした。
尚、実験の結果、オゾン処理処理時間については5〜20分、オゾン流量については10〜20L/min、湿度雰囲気下での放置時間については1〜6時間程度が好ましいことを確認した。
【0015】
以上の実施例から、本発明の表面親水化方法によれば、極めて短時間のオゾン処理によって親水化処理を行えることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、住宅資材、空調機器の熱交換器、マイクロ流体チップの液体流路などに用いられる各種部材、或いは、シリコンウエハー等の電子材料等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明方法を実施するために用いられる成膜装置の一例の説明図
【図2】本発明方法による、湿度雰囲気とポリイミド膜表面の接触角の関係を示す特性図
【符号の説明】
【0018】
1 真空処理室
2 真空排気系
3 モノマー供給源
4 モノマー供給源
5 酸素供給源
6 オゾン発生装置
7 流量調整バルブ
8 流量調整バルブ
9 流量調整バルブ
10 支持部材
11 ヒーター
20 シリコンウエハー(被処理物)
30 ポリイミド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法であって、被処理蒸着重合高分子膜被覆体をオゾン雰囲気に曝し、その後、30〜70%湿度雰囲気に放置することを特徴とする蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法。
【請求項2】
前記湿度雰囲気が45〜55%湿度雰囲気であることを特徴とする請求項1記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法。
【請求項3】
前記蒸着重合高分子膜がポリイミド膜、或いは、ポリ尿素膜であることを特徴とする請求項1または2記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法。
【請求項4】
前記放置時間が1〜6時間であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法。
【請求項5】
前記オゾン処理時間が5〜20分であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の蒸着重合高分子膜被覆体の表面親水化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−269866(P2007−269866A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94227(P2006−94227)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】