説明

蓄光シート及びその製造方法

【課題】水に濡れた場合でも確実に滑り止めの機能を発揮するようにした蓄光シートを提供するものである。
【解決手段】シート基材12上に、透明なエラストマー14に対して蓄光顔料粉末15を混合分散して表面を微細凹凸面とした蓄光層13が形成されて成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性を有して夜間あるいは暗闇で発光する蓄光シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夜間での避難誘導、暗闇の屋外、屋内での誘導などの目的で、蓄光材の発光現象を利用した蓄光部材、蓄光シート等が提案されている。例えば特許文献1には、図3に示すように、合成樹脂基材1の表面に複数条の凹溝2を形成し、この凹溝2内に熱可塑性エラストマー100重量部に対して10重量部〜20重量部の蓄光性蛍光物質が配合されてなる線状の滑り止め層3を収めた構成の蓄光性合成樹脂成形体4が記載されている。この蓄光性合成樹脂成形体4は、例えば、屋内における廊下、階段、浴槽等の手摺りや床板、屋外におけるベランダ、柵、テラス、バルコニー、レストランなどの手摺りや床材、公園の遊具や遊歩道、池、泉水などにかかる木橋などに使用されるものである。
【0003】
また、特許文献2には、図4に示すように、耐熱性透明性シリコン剤中にセラミック蓄光材と再帰反射性ガラスビーズ粒とを混合してなる蓄光シート6が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−315687号公報
【特許文献2】特開2005−115300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、現状の多くの蓄光性部材、蓄光シートは、発光輝度の改善などに考慮が払われているが、ノンスリップ性、特に、雨天の屋外、浴室での水に濡れた状態で、足が滑らない、あるいは手が滑らないように考慮されたものは提案されていない。水に濡れも滑らないことを数値化して表したものもないのが現状である。特許文献1でも、滑り止め層を設けているが、数値化されておらず、水に濡れたときには滑る虞れがある。
【0006】
本発明は、上述に点に鑑み、水に濡れた場合でも確実に滑り止めの機能を発揮するようにした蓄光シート及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る蓄光シートは、シート基材上に、透明な樹脂に対して蓄光顔料粉末を混合分散してなる蓄光層が塗布形成され、前記蓄光層の表面が水に濡れた状態でも滑り難い微細凹凸面を有して成ることを特徴とする。
【0008】
本発明の蓄光シートでは、蓄光層が透明な樹脂に対して蓄光顔料粉末が混合分散された塗布層で形成されるので、太陽光あるいは照明光により蓄光され、夜間あるいは暗闇で発光する。さらに、蓄光層が表面を微細凹凸面とした状態でシート基材上に形成されているので、すべり抵抗が大きく、蓄光シート表面が水に濡れた状態でも滑り難い。
【0009】
本発明に係る蓄光シートの製造方法は、透明な樹脂を溶剤に溶かして樹脂溶液を形成する工程と、乾燥樹脂分100重量部に対し蓄光顔料粉末30重量部〜300重量部であり、かつ蓄光顔料粉末が30g/m〜300g/mとなるように、樹脂溶液に蓄光顔料粉末を混合分散する工程と、蓄光顔料粉末が混合分散された樹脂溶液を、シート基材の表面に塗布する工程を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の蓄光シート製造方法では、乾燥樹脂分100重量部に対し蓄光顔料粉末30重量部〜300重量部であり、かつ蓄光顔料粉末が30g/m〜300g/mとなるように、蓄光顔料粉末を混合分散した樹脂溶液を、シート基材上に塗布することにより、水に濡れても十分な滑り抵抗を持つ微細凹凸表面を有した蓄光層が形成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る蓄光シートによれば、すべり抵抗が十分あり、水に濡れた状態でも滑り難いので、夜間あるいは暗闇で且つ例えば雨天、浴室であっても安全に人を誘導したり、あるいはドアノブ等の物理的な操作を確実にすることができる。
本発明に係る蓄光シートの製造方法によれば、水に濡れても滑り難い蓄光シートを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明に実施の形態を説明する。
【0013】
図1A,Bに、本発明に係る蓄光シートの一実施の形態を示す。本実施の形態に係る蓄光シート11は、シート基材12上に、透明な樹脂14に対して蓄光顔料粉末15が混合分散され微細凹凸の表面を有した蓄光層13を塗布形成して構成される。この蓄光層13の表面は、水に濡れた状態でも滑り難い微細凹凸面を有している。
【0014】
基材シート11としては、例えば紙シート、合成樹脂シート、その他のシート状体を用いることができる。合成樹脂シートは取扱易さの点で好ましい。透明な樹脂14としては、例えばエラストマー、あるいは塩化ビニル、その他の適用可能な樹脂を用いることができる。エラストマーとしては、例えばシリコンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、その他の合成ゴムを用いることができる。蓄光顔料粉末15としては、硫酸亜鉛系、アルミン酸ストロンチウム系の蓄光顔料を用いることができる。
【0015】
蓄光顔料粉末15の粒径としては、25μm〜100μm、好ましくは50μmとすることができる。この数値範囲の粒径の蓄光顔料粉末を用いることにより、蓄光層13をコーティングによってシート基材上に形成したとき、水に濡れた状態でも滑り難くする好ましい微細凹凸表面が形成される。因みに、粒径が100μmより大きいと、不用意に蓄光シート上で転ぶとか、擦れたときに傷つき易くなる。粒径が25μmより小さいと、良好な凹凸表面が得難い。
【0016】
微細凹凸表面を形成する条件として、樹脂14に混合分散する蓄光顔料粉末15の含有量がある。乾燥後の樹脂成分に対して蓄光顔料粉末をより多く配合することによって水に濡れても滑りにくい凹凸形状が形成できる。本実施の形態では、乾燥後の樹脂成分100重量部に対して、蓄光顔料粉末を30重量部〜300重量部の範囲とし、かつ、蓄光顔料粉末を30g/m〜300g/mの範囲とすることができる。好ましくは、乾燥後の樹脂成分100重量部に対して蓄光顔料粉末を80重量部〜200重量部、さらに好ましくは100重量部〜150重量部とすることができる。また、蓄光顔料粉末は、好ましくは40g/m〜200g/m、さらに好ましくは50g/m〜150g/mとすることができる。
【0017】
乾燥後の樹脂成分100重量部に対して蓄光顔料粉末を30重量部〜300重量部の範囲内で、かつ、蓄光顔料粉末を30g/m〜300g/mの範囲の範囲内であれば、蓄光層13としての膜形成が良好となり、かつ水に濡れたときの好ましい滑り抵抗がえられる。上記それぞれの条件において、下限値より少ないと、蓄光層13の表面の凹凸が少なく滑り易くなる。また上限値より多くなると、蓄光そう13自体のコーティング膜の形成が困難となる。
【0018】
一方、本実施の形態において、乾燥後の樹脂成分100重量に対して蓄光顔料粉末を30重量部で、かつ蓄光顔料粉末300g/mとしたときの、蓄光層13の膜厚は1mm程度となる。乾燥後の樹脂成分100重量に対して蓄光顔料粉末を300重量部で、かつ蓄光顔料粉末30g/mとしたときの、蓄光層13の膜厚は10μm程度となる。また、乾燥後の樹脂成分100重量に対して蓄光顔料粉末を100〜150重量部で、かつ蓄光顔料粉末50〜150g/mとしたときの、蓄光層13の膜厚は80μm程度となる。
【0019】
本実施の形態においては、乾燥後の蓄光層13の膜厚としては、30μm〜300μmとすることが好ましい。膜厚が30μmより薄くなると、水に濡れた状態でも滑り難い表面凹凸が形成され難い。膜厚が300μmを超えると、樹脂溶液を塗布した後の乾燥工程で内部まで完全に乾燥することが難しくなる。なお、蓄光顔料粉末が単位面積あたり多ければ多き程、蓄光性能が良くなることは当然である。
【0020】
表1に本発明の実施例に係る蓄光シートのすべり抵抗を計測した結果を示す。試料は、蓄光顔料粉末(硫化亜鉛)50重量部、乾燥後の樹脂(エラストマー:スチレン・イソプレン・スチレンのブロックコーポリマー)成分50重量部、溶剤(トルエン)60重量部からなる樹脂溶液(いわゆる蓄光材分散樹脂溶液)を、ポリエステルフィルムによるシート基材上に塗布して、乾燥後の厚みが80μmの蓄光層を形成した蓄光シートである。同じ構成の3枚の試料について試験した。この試料では、蓄光顔料粉末の含有量をg/mでみると、50g/mであった。
【0021】
試験方法は次の通りである。
試験片(試料)の養生:温度20±2℃、相対湿度60±5%の試験室で24時間以上放置。
試験片(試料)の表面状態:湿潤状態;試験体表面を清掃し、十分に散水した状態。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示す結果から、本実施例に係る蓄光シートは、滑り抵抗値が総平均で54(BPN)であった。因みに、東京都建設局の歩行者系道路のカラー舗装設計施工指針の数値は40(BPN)以上とされている。本実施例における蓄光シートの散水の状態での滑り抵抗値54(BPN)は、上記東京都の指針値40(BPN)を越えており、水に濡れた状態でも十分な滑り止め性、つまりノンスリップ性を有することが認められる。
蓄光顔料粉末が30重量部以上、30g/m2以上のときは、40(BPN)以上の滑り抵抗値が得られる。
【0024】
次に、本発明に係る蓄光シートの製造方法の一実施の形態を説明する。図2に、塗布製造装置の概略構成を示す。塗布装置21は、表面のバーコータ22を一体に有する固定ローラ23と、固定ローラ23と少許の間隔を置いて配置した回転ローラ24と、蓄光顔料粉末を混合分散した樹脂溶液25を供給する樹脂溶液供給部26を備える。塗布装置21には、さらにシート基材12を供給する供給ロール27と、シート基材12上に塗布した樹脂溶液25を乾燥する乾燥炉30と、シート基材12上に樹脂溶液25を所要の厚さに塗布し乾燥後の蓄光シート11を巻き取る巻き取りロール28を備える。
【0025】
先ず、透明な樹脂を溶剤に溶かして所要粘度を有する樹脂溶液を形成する。透明な樹脂としては、前述したエラストマー(例えば、シリコンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、その他の合成ゴム)、あるいは塩化ビニル、その他の適用可能か樹脂などを用いることができる。溶剤としては、例えばトルエン、酢酸エチル、ノルマルヘキサン、ベンジン等を用いることができる。
【0026】
次に、この樹脂溶液に、樹脂に対して蓄光顔料粉末を40g/m 〜150g/m となるように、混合し、均一に分散させる。あるいは蓄光顔料粉末の含有量を重量部換算で表せば、乾燥後の樹脂成分100重量部に対して蓄光顔料粉末が30重量部〜300重量部、好ましくは100重量部〜150重量部となるように、混合し、均一に分散させる。
【0027】
この蓄光顔料粉末を混合分散した樹脂溶液25を塗布装置21の樹脂溶液供給部26に蓄積する。供給ロール27からシート基材12を、ガイドローラ29を経て固定ローラ23と回転ローラ24との間に供給し、通過させる。このとき、シート基材12の表面に蓄光顔料粉末が混合分散された樹脂溶液25が付着される共に、バーコータ22で所要の厚みとなるように塗布される。例えば160μm厚に塗布される。
【0028】
次いで、シート基材12の移送途上に配置された乾燥炉30において、シート基材12に塗布された樹脂溶液25が乾燥される。乾燥後に、乾燥後の厚みが例えば80μmとなる蓄光層13を有する蓄光シート11が巻き取りロール18に巻き取られる。
【0029】
なお、シート基材12の裏面には予め接着剤層を形成し、この接着剤層の面に剥離シートを付着して置くのが好ましい。巻き取りロール28に巻き取られた蓄光シート11は、その後、所要の寸法に裁断されて、完成する。この蓄光シート11は、剥離シートを剥離して、必要とされる場所、部材などの所要な面上に接着剤層を介して貼着して使用される。
【0030】
上述の本実施の形態に係る蓄光シート11によれば、蓄光層13の表面が微細凹凸面となって散水状態での滑り抵抗値が40(BPN)以上の表面を有していることにより、水に濡れた状態でも十分な滑り抵抗を有する。従って夜間あるいは暗闇において、雨天、浴室などの水に濡れた状態にあっても、人を安全に誘導することができる。
【0031】
本実施の形態における蓄光シート11は、停電、火災、災害等の時の手元、足元の確保が必要なところに貼着して使用することができる。例えば手すり、ドアノブ、出口の足元等に配置して好適である。その他、本蓄光シート11は、屋内における廊下、階段、浴室の床板、屋外におけるベランダ、柵、テラス、バルコニー、それ以外のところに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】A,B 本発明に係る蓄光シートの一例を示す構成図、及びその要部の拡大断面図である。
【図2】本発明に係る蓄光シートの製造に使用される塗布装置の一例の概略構成図である。
【図3】従来の蓄光性合成樹脂成形体の例を示す斜視図である。
【図4】従来の蓄光シートの例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0033】
11・・蓄光シート、12・・シート基材、13・・蓄光層、14・・透明なエラストマー、15・・蓄光顔料粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート基材上に、透明な樹脂に対して蓄光顔料粉末を混合分散してなる蓄光層が塗布形成され、
前記蓄光層の表面が水に濡れた状態でも滑り難い微細凹凸面を有して成る
ことを特徴とする蓄光シート。
【請求項2】
前記蓄光層は、乾燥樹脂分100重量部に対し蓄光顔料粉末30重量部〜300重量部であり、かつ蓄光顔料粉末を30g/m〜300g/m となるように混合分散した層で形成されて成る
ことを特徴とする請求項1記載の蓄光シート。
【請求項3】
透明な樹脂を溶剤に溶かして樹脂溶液を形成する工程と、
乾燥樹脂分100重量部に対し蓄光顔料粉末30重量部〜300重量部であり、かつ蓄光顔料粉末が30g/m〜300g/mとなるように、前記樹脂溶液に蓄光顔料粉末を混合分散する工程と、
前記蓄光顔料粉末が混合分散された樹脂溶液を、シート基材の表面に塗布する工程を有する
ことを特徴とする蓄光シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−161699(P2009−161699A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2550(P2008−2550)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(508009518)株式会社ユニロンテック (4)
【Fターム(参考)】