説明

蓄光剤入り建材

【課題】 蓄光剤を含有し、暗所においては確実な発光によりその存在を報せつつ、明るい環境においては蓄光剤の色が目立つことがなく、通常の建材と同様に使用することができる蓄光剤入り建材を提供することにある。
【解決手段】 調色顔料により適宜色彩又は模様が施された合成樹脂製の表面層14を有する建材における表面層14に凹溝16を長手通しに形成すると共に、凹溝内に蓄光剤を含有する蓄光部17を押し出し成形により一体に配設してなる蓄光剤入り建材において、上記蓄光部は、蓄光顔料と上記表面層と同種の調色顔料を含有してなり、この際、調色顔料は、蓄光部全体に対して0.5%以下であり、調色顔料に配合される黒色顔料が蓄光部全体に対して0.1%以下、白色顔料が0.3%以下であり、かつ、上記蓄光部の厚みを0.5mm以上とした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、手摺や階段用滑り止めなどに用いられる蓄光剤入り建材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、手摺や階段用滑り止めなどの建材においては、これに蓄光剤を使用して、夜間などにその位置を報せて歩行者の安全を確保するようにした構造のものが知られている。
【0003】
例えば、特開平11−107477号公報(特許文献1参照)は、手摺部材の表面に形成された合成樹脂層において、その合成樹脂層の壁面と反対側の側面に凹溝を形成し、この凹溝に長尺の面発光体を敷設し、この面発光体の表面に透光材を被せた構造とすることで、常時薄暗くて光量の少ない場所においても、手摺部材表面が線状に発光し手摺が視認され易く、面発光体が傷みにくい構造とした手摺部材を開示している。
【0004】
また、透光性の熱可塑性合成樹脂に濃色のペレットが配合され木目が表現された手摺用部材も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−107477号公報(特許請求の範囲、図1〜図5)
【特許文献2】特開2004−314487(特許請求の範囲、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、現在市場に見られる蓄光剤入り建材の多くは、蓄光剤の発光効果を十分に出すために、蓄光剤自体の色(緑黄色、青など)をそのまま用いるものが多く、このため建材の設置場所によっては周囲と雰囲気が合わないなどの問題を有している。よって蓄光剤の色が目立つことなく、通常の建材と同様に使用できる蓄光剤入り建材の実現が望まれる。
【0006】
上記特開平11−107477号公報に記載の手摺部材の場合、暗所においては確実な発光が確保されるものの、明るい環境における上記違和感の問題についてまでは開示がない。
【0007】
一方、特開2004−314487に記載の手摺用部材では、蓄光性蛍光顔料からの光が透光性の熱可塑性合成樹脂を透過して外部に放射される構造であるため、その発光は弱いという問題がある。
【0008】
そこで、この発明の目的は、上記課題を解決し、蓄光剤を含有し、暗所においては確実な発光によりその存在を報せつつ、明るい環境においては蓄光剤の色が目立つことがなく、通常の建材と同様に使用することができる蓄光剤入り建材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、この発明は、次のように構成したものである。
【0010】
請求項1記載の発明に係る蓄光剤入り建材は、調色顔料により適宜色彩又は模様が施された合成樹脂製の表面層を有する建材における表面層に凹溝を長手通しに形成すると共に、凹溝内に蓄光剤を含有する蓄光部を押し出し成形により一体に配設してなる蓄光剤入り建材において、上記蓄光部は、蓄光顔料と上記表面層と同種の調色顔料を含有してなり、この際、調色顔料は、蓄光部全体に対して0.5%以下であり、調色顔料に配合される黒色顔料が蓄光部全体に対して0.1%以下、白色顔料が0.3%以下であり、かつ、上記蓄光部の厚みを0.5mm以上とした、ことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の蓄光剤入り建材において、上記凹溝を複数形成し、各凹溝内に蓄光部を配設した、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の蓄光剤入り建材において、上記凹溝の短手方向における両端部を中央部に対して深く形成し、凹溝内に配設される蓄光部の短手方向における両端部の厚みを中央部より厚く形成した、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、次のような優れた効果が得られる。
【0014】
請求項1記載の発明によれば、調色顔料により適宜色彩又は模様が施された合成樹脂製の表面層に凹溝を長手通しに形成し、凹溝内に蓄光剤を含有する蓄光部を押し出し成形により一体に配設した構造を前提とし、この蓄光部を、蓄光顔料と、表面層と同種の調色顔料を含有してなり、この際、調色顔料を、蓄光部全体に対して0.5%以下とし、調色顔料に配合される黒色顔料を蓄光部全体に対して0.1%以下、白色顔料を0.3%以下としたので、蓄光剤特有の色を出すことなく、表面層(被覆層)とほぼ同一の色とすることができる。また、上記蓄光部の厚みを0.5mm以上としたので、発光強度も大きく維持することができる。
【0015】
すなわち、この発明によれば、顔料の構成や蓄光部の厚みが最適なものになることから、周囲の雰囲気を損なわずに、高い蓄光剤の発光効果を発揮できる蓄光剤入り建材を得ることができる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、上記凹溝を複数形成し、各凹溝内に蓄光部を配設したので、より高い蓄光剤の発光効果を発揮できる蓄光剤入り建材を得ることができる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、上記凹溝の短手方向における両端部を中央部に対して深く形成し、凹溝内に配設される蓄光部の短手方向における両端部の厚みを中央部より厚く形成したので、表面層と蓄光部との境目の発光を明るくして、境界部をはっきりと示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、この発明の最良の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
<第1実施形態>
図1は、この発明に係る蓄光剤入り建材を手摺部材10に適用した取付状態を示す断面図である。
【0020】
上記手摺部材10は、略円筒状に形成されており、固定手段たるボルト2により壁面1に基部3aが固定された金属製のブラケット3の先端部、すなわち基部3aから上方に向けて延設されたアーム3bの先端部に被着された状態で取り付けられて、全体として歩行を補助する手摺4を構成している。
【0021】
上記手摺部材10は、上記アーム3bの先端部に固定ねじ11により固定された例えばアルミニウム製の芯材12と、この芯材12の全周に被覆された合成樹脂製のリサイクル材からなる円筒状の下地層13と、この合成樹脂製下地層13の外周囲を被覆する形で設けられた合成樹脂製の表面層14とで構成され、上記アーム3bの先端部を呑み込むための嵌挿用凹所15を下面側に有している。この場合、下地層13の厚みは4mmに形成され、表面層14の厚みは0.5mmに形成されている。
【0022】
この手摺部材10の合成樹脂製の表面層14には、製品を設置する場所に応じて適当な色彩が施される他、木目を模した色彩と模様が施されている。また発光部を構成するため、利用者が視認しやすい箇所である斜め上方の部位の複数箇所(2箇所)において、凹溝16が長手通しに形成され、この凹溝16内に、蓄光剤を含有する蓄光部17が配設されている。
【0023】
上記蓄光部17は、蓄光顔料(20〜30重量部)と、表面層14と同種の調色顔料とを、表面層14及び下地層13と共に押し出し成形にて一体成形してなる。この調色顔料は、周囲の表面層14と近似した色を現出させるため、調色顔料に配合される黒色顔料が蓄光部全体に対して0.1%以下(ここでは0.1%)、白色顔料が0.3%以下(ここでは0.3%)が配合され、更に、この黒、白を含めた一般調色顔料全添加量が蓄光部17全体に対して0.5%以下となるように設定している。近似色蓄光化には、例えばアルミン酸塩系蓄光剤である(Sr)Al24を用い、基本色の黒にカーボンブラック、白に酸化チタン/タルクを用い、そして専用色(各色)に群青/ベンガラ/アゾ/クロムイエロ/などを用いる。
【0024】
ここで、黒色顔料が0.1%以下、白色顔料が0.3%以下とした理由は、黒色顔料及び白色顔料は建材の色調として多用されるグレーやブラウン系の調色には欠かせない顔料であるが、透過性が低く蓄光剤の発光を遮る大きな要因となっているからであり、黒色顔料が0.1%より多いか、又は白色顔料が0.3%より多くなると、十分な発光機能が得られないからである。このように、蓄光部17においても表面層14に含有されているものと同種の黒色顔料又は白色顔料を管理して含有することにより、表面層14とほぼ近似する色調を得ることができ、更に蓄光部17は部分的かつ長手通しに配設されるため、通常の屋内照明の下では長尺建材のハイライト部や陰影と相俟って蓄光部17にわずかな濃淡の差が生じたとしても外観上殆ど違和感がない。勿論、表面層14の色調が黒色顔料又は白色顔料を含有しない彩度の高いものであれば、蓄光部17にも黒色顔料又は白色顔料を含有する必要はない。
【0025】
このように、蓄光顔料と、調色のための顔料を混合して蓄光部17を形成することにより、蓄光剤特有の緑がかった色を出すことなく、表面層14とほぼ同一の色とすることができる。
【0026】
また、蓄光部17の厚みは0.5mm以上(ここでは0.5mm)とした。0.5mm以上としたのは、暗所における確実な発光を確保すると共に、下地の影響を極力少なくするために必要な厚さであり、0.5mmより小さいと、下地の色の影響を受けてしまい、近似色にならないためである。また、残光輝度の性能も、厚くなるほど輝度増加および残光時間が長くなることが確認されている。なお、蓄光部17の厚みは少なくとも0.5mm以上であればよいが、表面層14の厚みと同等以下である方が好ましい。その理由は、蓄光部17の厚みを表面層14の厚みより厚くすると、発光しない可視光下において、蓄光部17を透過して下地層13が目視されることがあり、手摺全体の美観が損なわれる虞があるからである。
【0027】
上記のように構成した手摺部材10の蓄光部17は、JIS規格(安全標識板)の新JISZ917(60分後に7mcd/m2)を十分に満たす性能であった。
【0028】
したがって、上記手摺部材10によれば、蓄光剤を含有し、暗所においては確実な発光によりその存在を報せつつ、明るい環境においては手摺表面の色彩などと比較して蓄光剤の色が目立つことがなく、通常の建材と同様に使用することができる蓄光剤入り建材を実現することができる。
【0029】
上記第1実施形態では、凹溝16を複数条(2条)形成したが、1条だけでもよいし、3条以上形成し、各凹溝内に蓄光部17を配設した構成とすることもできる。
【0030】
<第2実施形態>
図2にこの発明に係る蓄光剤入り建材を階段滑り止め20として構成した第2実施形態を示す。
【0031】
上記階段滑り止め20は、階段5の段差縁部に設けられる略横L字状のアルミニウム製の金台21と、この金台21の上面側の面に蟻溝形式で嵌合された合成樹脂製の滑り止め本体としての表面層22とにより構成されている。
【0032】
この合成樹脂製の表面層22には、製品を設置する場所に応じて適当な色彩が施されており、また、利用者が視認しやすい箇所である上面の1箇所又は複数箇所(ここでは3箇所)において、凹溝23が長手通しに形成され、この凹溝23内に、蓄光剤を含有する蓄光部24が配設されている。また、表面層22の下面には、適数箇所において凹所22aが長手通しに形成され、この部分において肉薄に形成されている。また、表面層22中には、蓄光部24が設けられた部位間において、ガラス繊維25が長手通しに設けられ、合成樹脂製の表面層22が熱収縮により変化して、例えば金台21との間に隙間が形成されないように考慮されている。
【0033】
この蓄光部24は、第1実施形態の場合と同様に、蓄光顔料(20〜30重量部)と、表面層14と同種の調色顔料とを、表面層14及び下地層13と共に押し出し成形にて一体成形してなる。この調色顔料は、周囲の表面層14と近似した色を現出させるため、調色顔料に配合される黒色顔料が蓄光部全体に対して0.1%以下(ここでは0.1%)、白色顔料が0.3%以下(ここでは0.3%)が配合され、更に、この黒、白を含めた一般顔料全添加量が蓄光部17全体に対して0.5%以下となるように設定している。また蓄光部24の厚みは0.5mm以上(ここでは0.5mm)としている。このように、蓄光顔料と、調色のための顔料を混合して蓄光部24を形成することにより、蓄光剤特有の色を出すことなく、表面層22とほぼ同一の色とすることができ、また、厚みを0.5mm以上(ここでは0.5mm)とすることにより所定の輝度を得ることができる。
【0034】
上記のように構成した階段滑り止め20の蓄光部24は、新JIS規格(安全標識板)の60分後に7mcd/m2という要請を十分に満たす性能であった。
【0035】
したがって、上記階段滑り止め20によれば、蓄光剤を含有し、暗所においては確実な発光によりその存在を報せつつ、明るい環境においては階段5の表面の色彩などと比較して蓄光剤の色が目立つことがなく、通常の建材と同様に使用することができる蓄光剤入り建材を実現することができる。
【0036】
上記第2実施形態では、凹溝23を3条形成したが、1条又は2条だけ設けてもよいし、4条以上設けることもでき、それぞれ各凹溝内に蓄光部を配設して所望の性能を発揮させることもできる。
【0037】
<第3実施形態>
図3に第3実施形態を示す。これは、上記手摺部材10(図1参照)として構成した蓄光剤入り建材において、上記凹溝16の短手方向における両端部16aを中央部16bに対して深く形成し、凹溝16内に配設される蓄光部17の短手方向における両端部17aの厚みを中央部17bより厚くなるような形状の金型を使用して形成したものである。
【0038】
蓄光部17の形状を、断面形状において、両端部17aを中央部17bよりも厚く形成することで、表面層(被覆層)14と蓄光部17との境界部をはっきりと出すことができる。
【0039】
なお、第3実施形態における蓄光部17の形状を第2実施形態の階段滑り止め20の蓄光部24に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明に係る蓄光剤入り建材を手摺部材に適用した第1実施形態の取付状態を示す断面図である。
【図2】この発明に係る蓄光剤入り建材を階段滑り止めに適用した第2実施形態を示す断面図である。
【図3】この発明に係る蓄光剤入り建材の第3実施形態の第3実施形態を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0041】
4 手摺
5 階段
10 手摺部材
14 表面層
16 凹溝
16a 端部
16b 中央部
17 蓄光部 17a 両端部
17b 中央部
20 階段滑り止め
22 表面層(滑り止め本体)
23 凹溝
24 蓄光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調色顔料により適宜色彩又は模様が施された合成樹脂製の表面層を有する建材における表面層に凹溝を長手通しに形成すると共に、凹溝内に蓄光剤を含有する蓄光部を押し出し成形により一体に配設してなる蓄光剤入り建材において、
上記蓄光部は、蓄光顔料と上記表面層と同種の調色顔料を含有してなり、この際、調色顔料は、蓄光部全体に対して0.5%以下であり、調色顔料に配合される黒色顔料が蓄光部全体に対して0.1%以下、白色顔料が0.3%以下であり、かつ、上記蓄光部の厚みを0.5mm以上とした、ことを特徴とする蓄光剤入り建材。
【請求項2】
請求項1記載の蓄光剤入り建材において、
上記凹溝を複数形成し、各凹溝内に蓄光部を配設した、ことを特徴とする蓄光剤入り建材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の蓄光剤入り建材において、
上記凹溝の短手方向における両端部を中央部に対して深く形成し、凹溝内に配設される蓄光部の短手方向における両端部の厚みを中央部より厚く形成した、ことを特徴とする蓄光剤入り建材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−200125(P2006−200125A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9770(P2005−9770)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000110479)ナカ工業株式会社 (125)
【Fターム(参考)】