説明

蓄光性成形体

【課題】 一定時間の光の照射によって、その照射が停止した後、長時間に渡って自己発光する蓄光性部材の研究が進んでいる。非常時あるいは大災害時の照明用又は目印用として注目を浴びてきている。この蓄光性部材で最も重要なことは、輝度を上げることよりは長時間明るさを保つことが重要である。事故発生当時は明るくても、20分後、60分後にはもうほとんど見えないようでは意味がない。そこで、本発明は、できるだけ長時間輝度を維持でき、かつ人目を引くような種々の形状を容易に、綺麗に製造できる蓄光性成型体の製造方法を提供する。
【解決手段】 基材上に型部材を載置し、該型部材の打ち抜き部分に、樹脂混合物とガラスビーズを充填し、該樹脂硬化後に型部材から脱型するものであって、該樹脂混合物は少なくとも樹脂、蓄光性粒子及び光透過性を有する沈降防止剤からなる蓄光性成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一定時間の光の照射によって、その照射が停止した後、長時間に渡って自己発光する蓄光材の研究が進んでいる。特に単なる装飾やおもしろさだけでなく、非常時あるいは大災害時の照明用又は目印用として注目を浴びてきている。
【0003】
例えば、大きな旅館やホテル、また、地下鉄構内では地震によって停電した場合、完全に真っ暗になるため避難ができなかったり、パニックに陥った人々によってまた別の災害が生じる場合もある。それらのため、電池による非常灯や自家発電装置を準備しているところもあるが、多くの事業所や地下鉄ではまだそこまでは至っていない。また、そのような設備では、大きな災害時には断線、装置の破壊その他によって実際の機能も疑問視されている。
【0004】
このような欠点を解消するため、壁面等に蓄光材で目印を付けることも行なわれてきている。例えば、特許文献1のような蓄光剤を含有する誘導用舗装板である。また、特許文献2のように道路に蓄光顔料を含む樹脂を塗布する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−197518
【特許文献2】特開平08−325477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、どのような方法であっても、その発光部分全体に蓄光材粉体を塗布したものである。この蓄光材は、表面積を増大させ同重量での発光を多くするため粉体にされている。粉体をそれのみで塗布することは困難なため、樹脂に混合してそれを塗布することになる。
【0007】
この蓄光性部材で最も重要なことは、輝度を上げることよりは長時間明るさを保つことが重要である。事故発生当時は明るくても、20分後、60分後にはもうほとんど見えないようでは意味がない。
逆に当初は少々輝度が小さくても、減少速度が小さく、長時間一定の輝度を保つものが望ましいのである。
【0008】
このように長時間輝度をできるだけ維持するためには、蓄光性粒子を含有する樹脂層を単に厚く形成しても意味がない。なぜならば、厚く形成(塗布)すれば、下方に光が届かず、下方の蓄光性粒子に発光エネルギーを蓄えられないためである。
【0009】
そこで、本発明は、できるだけ長時間輝度を維持でき、かつ人目を引くような種々の形状を容易に、綺麗に製造できる蓄光性成型体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような現状に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果本発明蓄光性成型体の製造方法を完成させたものであり、その特徴とするところは、基材上に型部材を載置し、該型部材の打ち抜き部分に、樹脂混合物とガラスビーズを充填し、該樹脂硬化後に型部材から脱型するものであって、該樹脂混合物は少なくとも樹脂、蓄光性粒子及び光透過性を有する沈降防止剤からなる点にある。
【0011】
ここで基材とは、板状のもので通常は平面状であるが、特殊な場合湾曲していてもよい。この基材には2種類ある。即ち、その上で成形し、成形後は除去するものと、その上で成形しそれが成形体と一体となるものである。
除去するものでは、除去が容易なように剥離処理してもよい。
また、除去しないタイプのものは、材質としては金属、プラスチック等が好適であり、光の反射を促進するように白色その他の反射率の大きいものが好ましい。例えば、酸化チタンの白色塗料を塗布する等である。また、ガラスビーズを固定する場合、その他の用途によっては表面に粘着性を有するものが好ましい。有しない場合には粘着剤を塗布してもよい。
【0012】
型部材とは、種々の形状に打ち抜いたものであり、打ち抜く前のシート状物は柔軟性はあるが形態保持性がよく裁断しやすいものである。その厚さは一般に1〜10mmである。シート状物はその表面に接着剤を塗布し積層して用いることもできる。
【0013】
一度に複数個を製造するため複数の打ち抜き部を設けてもよい。形状としては、文字、記号、模様や図形、キャラクター等である。記号としては、矢印、図形としては避難口や出口を表す図形等である。材質は発泡プラスチックが好適であるが、ポリエチレン系やポリプロピレン系のものが優れている。未硬化の樹脂を充填した場合、硬化に至る間に変形するような物は好ましくない。
【0014】
型部材は、本体部(図2でいう2番)は必須であるが、裏面に粘着剤を塗布しその上に剥離紙(図2でいう3番)を設けて、その機能(便利さ)を拡大することができる。使用するときには、剥離紙を剥離し、粘着剤によって基材に固着するのである。
【0015】
また、本体部と同様に打ち抜かれることになるが、本体部の上方に接着層を介して薄いフィルム層(合成樹脂、紙等からなる)を設けてもよい。これは、打ち抜き部に樹脂混合物を充填したときに、型部材の上にも樹脂混合物は残るため、硬化前に余分な樹脂混合物を薄いフィルムとともに剥離し、それを除去しておくのである。そして樹脂硬化後に型部材本体部を硬化成形物から剥がし除去すればよい。このように硬化前に型部材上の不要な樹脂混合物を除去しておけば、硬化後に本体部が除去しやすくなる。
本体部の厚みは、成形体の厚みとなるため、製造する成形体の厚みによって決めればよく限定するものではない。しかし通常は、1〜10mm程度であり上方の離型するフィルム層(合成樹脂や紙製等)は100〜200μm程度でよい。
【0016】
打ち抜き部分とは、型部材の成形物が充填される空隙部であり、その開け方はどのような方法でもよい。打ち抜き刃で打ち抜いても、カッターで切除しても、その他の方法で除去してもよい。
【0017】
ここでいう樹脂混合物は、少なくとも樹脂、蓄光性粒子、光透過性を有する沈降防止剤からなるものである。
勿論、これ以外に本発明の趣旨を逸脱しない添加物を加えてもよい。
【0018】
樹脂は紫外線や可視光線の透過を阻害するようなものは好ましくなく、無色で透明性の高い物、不純物を含まない物が望ましい。ウレタン系、エポキシ系等が好ましいが、中でも耐候性の置換基(例えば、飽和炭化水素、環状炭化水素等)が導入されているものが好ましい。
【0019】
上記の樹脂の中でも次のものがより好適である。
化学式1で示されるエポキシ化合物を主剤とし、炭素シクロ環を有するジアミンであって不飽和結合を有しないものを硬化剤として用いるものである。
【化1】

【0020】
硬化剤の炭素シクロ環とは、ヘテロ原子を含まない環状構造である。更に、分子中には不飽和結合を有していない。これらの例として、1、3−BAC、イソフォロンジアミン(IPDA)、ノルボルナンジアミン、TCDジアミン等がある。
【0021】
これらの主剤と硬化剤の混合比率は、主剤100重量部に対して硬化剤が25〜60重量部程度である。
【0022】
この特殊エポキシ樹脂の主剤には、用途や施工条件によっては、硬化速度を速めるため通常のベンゼン環を有するものを30重量%以下加えてもかまわない。しかし、透明性等からできるだけ少ない方がよく、まったく加えない方がよいことは当然である。
この特殊エポキシ樹脂を使用すると、透明性が高いため、蓄光性粒子が十分エネルギーを吸収でき、照射時にも減衰がすくないため、非常に輝度が大きく、時間による減衰もゆっくりである。
【0023】
蓄光性粒子とは、蓄光性を有する粒子であり、蓄光性顔料等である。蓄光性とは、可視光、紫外線などの電磁波を受けて、そのエネルギーにより照射電磁波が消えた後も一定時間可視光を放射する特性をいう。
蓄光性粒子のサイズは自由であるが、数μm〜数百μm程度である。蓄光性粒子の混合量は、必要な輝度や持続時間によって適当に決めればよいが、樹脂混合物全体の10〜70重量%が好適である。
【0024】
沈降防止剤とは、樹脂の中で前記蓄光性粒子が重力によって沈降する速度を軽減あるいは阻止するものである。これを入れないと、蓄光性粒子(密度約3.5g/cm3 )の沈降速度が大きく、成形時の充填による均等な配分が困難になるばかりか、例えば、蓄光性粒子20〜30重量%の混合では、その成形物の上方半分が透明となり下方には蓄光性粒子層が沈下、生成してしまうのである。
【0025】
沈降防止剤は光透過性を有するものである必要がある。これは、蓄光性成形体の構成成分となるので当然のことである。従来の微細骨材のような沈降防止剤では、光が妨げられて輝度が大きく減少する。
【0026】
沈降防止剤としては光透過性であれば、どのようなものでもよいが微細透明繊維が好適である。ここで透明とは、ガラス板のように光を透過するということだけではなく、微細な繊維状、フィルム状の物体が光の入射角度により、反射したり透過したりするもので、微細繊維の大気中での外観は白色、樹脂液中では半透明である。入射光の損失も極めて少ないものである。
【0027】
微細繊維は、例えばポリオレフィン樹脂を高温高圧下に有機溶媒に溶解し、吐出ノズルから大気圧へとフラッシュ紡糸し、処理することにより得られるものである。常圧下で溶剤は瞬時に爆発的に蒸発するためポリマーは発泡した超微細フィルムあるいは微細繊維となり、これらは折りたたまれたり、よりがかかったりして微細フィブリル状になるが、その比表面積は数m2 〜数十m2 /gに達する。
【0028】
例えば、ポリエチレン等のポリオレフィン繊維の径(一次繊維径あるいは膜厚み)が数百nm〜数μm、長さ(見かけ)は0.1〜3mmという微細フィブリル状繊維である。発明者の実験では、このような繊維状物(白色のふわふわした外観のもの)がチキソトロピー性に優れ、沈降防止効果において顕著な効果を示した。
【0029】
さらに、このような微細繊維を混合すると、流動性が減少して蓄光性粒子や他の添加粒子の沈降を阻害するとともに、光を反射し、蓄光性粒子に多くの光エネルギーを与えることができる。
【0030】
ガラスビーズは、通常の透明ガラスの球体である。市販されているものでよい。サイズは小さいものは、平均粒径10μm〜300μm程度のもので、大きいものは0.5〜5mm程度のものである。
比重の小さな(2〜3程度)ガラスでも、大きな(4以上)ガラスでも問題はない。
【0031】
本発明方法のガラスビーズを打ち抜き部分に導入する方法は2通りある。第1の方法は、予め樹脂混合物とガラスビーズを混合し、それを打ち抜き部に充填する方法である。この方法の場合には、ガラスビーズは1mm(平均粒径)未満のものである。好ましくは、10μm〜300μmであり、より好ましいのは20〜200μmである。
【0032】
このようにすると、樹脂混合物中にガラスビーズが浮遊し、光線の散乱効果を発揮し、蓄光性粒子の光エネルギー吸収効率を高める。この効果は大粒径のガラスビーズでも同様である。ガラスビーズの場合、光の乱反射の観点から、同一重量で使用する時には、比表面積の大きな上記した小ビーズあるいは微細ビーズが好ましい。着色がなく無色透明なものである必要がある。
【0033】
更に、樹脂は一般的には可燃物であるが、ガラスビーズの混合によって樹脂の含有率を低下し、樹脂の燃焼性を低下させる。
【0034】
ガラスビーズは、蓄光性粒子と樹脂混合系(スラリー状)に混合することにより、蓄光材スラリーの流動性を改善する効果があり製造の効率を高める。蓄光材も樹脂も価格がガラスビーズよりかなり高い傾向にあるのでコスト低減に寄与する。
【0035】
蓄光材と樹脂混合系に、ガラスビーズを添加した場合、ガラスビーズは光の散乱効果があるため、蓄光性能が高まるように思えるが、一般には、ガラスビーズの添加により蓄光性は低下する。その理由は、蓄光材とガラスビーズの密度(それぞれ3.5g/cm3及び2.5g/cm3)が大きく異なること、及びそれぞれの形と大きさが異なるため、一般に蓄光材が底部に堆積するためである。
ここで、混合した状態で浮遊させる本発明の沈降防止剤が重要な役割を果たすのである。沈降防止剤添加系において、蓄光性粒子とガラスビーズ粒子が適度な距離を保って分散している間に樹脂が重合して系の粘度が高まり、もはや沈降できない状態になり硬化することになる。
沈降防止剤のない状態では前述したとおり、先に蓄光性粒子が沈降し、多くのガラスビーズは遅れて沈降するため蓄光材が主として下層となり、上層はガラスビーズリッチとなる。この状態で固化すれば上層のガラスビーズが上方から来る光線を乱反射し、少しは蓄光材層に届くかもしれないが大部分は上方に逃げてしまう。これが、ガラスビーズを添加するだけでは蓄光性が減少する理由である。
【0036】
沈降防止剤は、チキソトロピー性を有し、樹脂液中で沈降防止剤の分子あるいは微粒子がネットワークを形成(増粘する)するため、蓄光性粒子やガラスビーズなどの沈降を防止するものと考えられる。しかし、多くの沈降防止剤は形成されるネットワーク微細構造が弱いので蓄光材やガラスビーズの沈降防止に十分な効果を発揮できない。
【0037】
それに対して、本願の特に優れた性能の沈降防止剤の微細フィブリル状の繊維は樹脂液によく馴染み、高い比表面積と繊維状(フィブリル状)の長い手で液中で繊維どおし触れ合うので、沈降防止の強い力を発揮するのである。光の透過性、反射性も優れている。
【0038】
ガラスビーズの有用性は前述の通りであるが、蓄光材成形物の性能をめざましく高めないからと言って没にするのは惜しい。少々の改善でもガラスビーズを使う価値がある。本発明では、沈降防止剤を使用することによってガラスビーズの散乱光、反射光が蓄光性粒子に届き、残光輝度が改善されることがわかった。
【0039】
蓄光性粒子の蓄光・発光の活性点は表裏(内部も含まれる)に関係なく均等に存在していると考えられる。照射光は、一般に一方向からであるが、蓄光性粒子に侵入すると活性化し有効な光線は次々に吸収されて弱まる。吸収されずに残った光線はたとえ活性化に有効なものであっても外部へと通り抜けると考えられる。活性点は、入射光に対し配置的にランダムな状態にあるので、たとえ活性点の組成や構造が同じでも、一定方向の光により、必ずしも活性化されるわけではない。光の吸収に適した配置(向き)状態にあればよいが、そうでなければ光を透過してしまうと考えられる。しかし、配置の異なる活性点でも異なる方向の光に対しては適合していれば活性化されると考えられる。
蓄光性粒子間に適正に配置されたガラスビーズは、一方向からの入射光を種々の方向に乱反射し、近傍にある蓄光材の表面、内部、裏面を照射し、活性点を活性化するのである。これが蓄光性粒子/ガラスビーズ混合系の残光輝度を改善しているものと考えられる。
【0040】
ガラスビーズを打ち抜き部に導入する第2の方法は、まず最初にガラスビーズのみを打ち抜き部に入れ、その上から樹脂混合物を充填する方法である。このときのガラスビーズは1mm(平均粒径)以上のものである。好ましくは、1〜5mmである。
【0041】
ガラスビーズのみ先に導入する方法もいくつかある。
まず第1は、型部材の厚みより小さなガラスビーズを打ち抜き部に充填し、その後樹脂混合物を充填する方法である。この方法は樹脂混合物量が少なくなる。
第2は、型部材の厚みと同じ大きさのサイズのガラスビーズをきっちりと充填する方法である。この方法は樹脂混合物の充填が容易で高さも一定になる。
第3の方法は、型部材の厚みと同じサイズのガラスビーズをまばらに入れ、その上から樹脂混合物を充填する方法である。
第4の方法は、型部材の厚みと同じサイズのガラスビーズをまばらに入れ、その隙間に小さなガラスビーズを入れ、その上から樹脂混合物を充填する方法である。
【0042】
この時、ガラスビーズが動かないように、打ち抜き部に(基材の上面)粘着剤を塗布するか、粘着シートを置いてもよい。
樹脂混合物の硬化後に、樹脂成形体を基材から剥がすタイプであっても、このように一旦はガラスビーズを基材に仮止めし、動かないようにしてもよいという意味である。樹脂成形体を基材から剥がさないタイプではそのまま固着するので好適である。
【0043】
ガラスビーズの導入において、より規則的、定量的に行なうには、一定メッシュの金属線網状物や円形の孔開きシートを使用することもできる。打ち抜き部の上に、網等をおいて、その上からガラスビーズを入れれば、網や孔を通過するガラスビーズは下の粘着性表面に付着するので、未付着物を除けば所望の付着物が容易に得られる。
【0044】
このようにガラスビーズを充填した後に打ち抜き部にいっぱいに樹脂混合物を充填するのである。大きなガラスビーズを入れた後、樹脂混合物を充填する場合、その樹脂混合物にも小さいガラスビーズを混合しておいてもよい。
【0045】
本発明で製造された成形体で、基材を除去するタイプでは、その裏面に光反射プレート(白色プレート等)を貼ってもよい。また、逆に光反射プレートに本発明の成形体を貼ってもよい。このようにすれば、裏面側に向かう光が反射されて、上方に放射されるか、再度蓄光材に吸収され活性化するため、全体としてより明るくなる。
光反射プレートを貼る方法とは別の方法で、同じ効果をあげることができる。それは、型枠の中に蓄光材/樹脂混合物を成形する前に光を乱反射する白色層を注型しておく方法あるいは、蓄光層を注型硬化させたのちその上に白色層を注型硬化させる方法である。白色層としては、例えば、酸化チタン/樹脂混合液の塗布硬化、あるいは樹脂液を塗布した後未硬化のうちに白色の中〜微粒子を一面に付着硬化させる方法などが可能である。
【0046】
本発明で製造された成形体の使用方法は、壁面や床面に貼付する、看板のように地面に立てる、天井その他からつり下げる等が考えられる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によって製造された蓄光性成形体には、次のような大きな利点がある。
(1) 蓄光樹脂層の下層又は蓄光材料粒子の近傍にガラスビーズが存在するため、一方向からの光に対して蓄光性粒子の光を受けられる面とは違う裏側の面(光を受けて活性化する点はどこにも同じように存在する)にまで光エネルギーが到達し、十分にエネルギーが蓄えられる。よって、光照射停止後、長期間輝度を維持できる。
樹脂もガラスビーズも透明体とすると、中に存在する蓄光性粒子の量が同じならば、蓄光性も同じと考えがちであるが上記した理由により差が出てくるのである。
(2) 樹脂内に透明沈降防止剤を混合しているため、蓄光性粒子が樹脂の重合と相まって、固定され硬化するため粒子間に適度な距離を生じ、より有効に発光する。
(3) 型部材を使用して種々の記号等の形状に樹脂混合物を塗布すれば暗闇でも自ら発光するので、非常に便利な誘導標識になる。
(4) 大きなガラスビーズを用いた場合には、この部分に光(昼間の太陽光や夜間の照明器の光等)が当たると、きらきら反射してよく目立つ。これは、昼間の災害時にメリットがある。
(5) 高価な樹脂が安価なガラスビーズに置き換わっているため、全体として安価になる。
(6) 球状のガラスビーズを混合しているため、不規則な形の蓄光材破砕物単独より滑りやすくなり、混合や成形が容易になる。
(7) ガラスを混合しているため、全体として燃えにくくなると同時に樹脂(可燃物)の割合が低下するので燃焼の発熱量が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に使用する型部材1の1例を示す平面図である。
【図2】図1のAA端面図である。
【図3】本発明製造方法の1例を示す部分端面図である。
【図4】打ち抜き部にガラスビーズと樹脂を充填したときのガラスビーズの位置の例を示す部分端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下好適な実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0050】
図1は、本発明に使用する型部材1の1例を示す平面図である。この例は、出口の出という漢字を表現したものである。図2は図1のAA端面図である(ここでは接着剤層は省略している)。型部材の本体部2の裏面側に剥離紙3、表面側にフィルム4が貼られている。本体部2は発泡ポリエチレン、剥離紙3とフィルム4はポリプロピレンのフィルムで構成されている。
【0051】
図3は、本発明製造方法の1例を示す部分端面図である。(a)は、図2の型部材1の裏面の剥離紙3を剥離し、基材5に載置したところである。本体部2の裏面には粘着剤が塗布され、基材に粘着される。
【0052】
(b)は、(a)の状態で、型部材の打ち抜き空間6にガラスビーズ7を充填したところである。ついで、この打ち抜き空間6に蓄光性粒子を含有する樹脂混合物8を充填する((c))。このときどうしても型部材2の上にも樹脂混合物8が塗布されてしまう。
【0053】
樹脂が硬化する前に、型部材の本体部2上のフィルム4を剥離する。この時、フィルム4の上に塗布されている未硬化の樹脂も一緒に除去される。そして樹脂が硬化するのを待つ。樹脂が硬化した後((d))、型部材1から樹脂の硬化物である成形体を型から取り出す(脱型)。これで成形体は完成である。
【0054】
図4は、打ち抜き部にガラスビーズと樹脂混合物を充填したときのガラスビーズの位置の例を示す部分端面図である。
(a)は、ガラスビーズが非常に小さく(0.5mm以下)、大きいサイズのものを使用していない例である。
(b)は、ガラスビーズが同一のサイズで、そのサイズが型部材の厚みとほとんど同じものが、全面に充填されている。
(c)は、ガラスビーズは2種のものを用い、全面に充填され、大きいサイズのものは型部材の厚みとほとんど同じである。
(d)は、ガラスビーズが同一のサイズで、そのサイズが型部材の厚みとほとんど同じものが、まばらに充填されているものである。
(e)は、ガラスビーズが同一のサイズで、そのサイズが型部材の半分以下のもの(厚みの20〜50%のサイズ)が、全面に充填されている。
【0055】
次に本発明による成形体の輝度について述べる。
まず、所定量の蓄光性粒子(蓄光顔料)と樹脂にガラスビーズを混合した成分を種々作成した。これは、作成する成形体のサイズを同じにするため、3つの成分の合計容量を7.5cm3 (5×5×0.3cmの樹脂成形体)に統一している。
また、蓄光顔料としては、根本特殊化学社製のGー300Cを用いた。量はすべて同じ(5.5g。最大粒径が200μm、粒度分布D5060.2μmで、10μm以下は4.5%以下)である。
【0056】
比較成分1として、ガラスビーズを用いないものを作成した(表1に示す)。その他の実施成分1〜3は、樹脂対ガラスビーズの比を変えたものである(表2〜表4に示す)。ガラスビーズは市販されているもので比重の小さいもの(2.5g/cm3)と比重の大きいもの(4.2g/cm3)である。ガラスビーズのサイズは、比重の大きいものが45μm以下、比重の小さなものは150〜212μmであり、さらに平均粒径1mmの大きなものを使用した。
【0057】
【表1】


【表2】


【表3】


【表4】

【0058】
実験に用いた成形体の製造方法は次の通りである。
まず、樹脂としては、化1で示されるエポキシ化合物を主剤とし、不飽和結合とヘテロ原子を含まない環状構造を持つイソフォロンジアミンを硬化剤とするものを用いた。主剤/硬化剤=2/1(重量比)であった。
樹脂、蓄光剤及びガラスビーズの種々の比率のもの、さらにはガラスビーズのサイズの異なるもの、沈降防止剤を混合したもの等各種の混合スラリーを調整し、基材の上においた5×5×0.3mmの型枠に流し込み常温硬化させた。翌日に脱型し、1週間以上養生したのち測定に用いた。
【0059】
沈降防止剤としては、三井化学社製のポリオレフィン微細フィブリル状短繊維を使用した。サイズは、径が数百nm〜数μmで長さが数十〜数百μmのものである。
ここでは、ガラスビーズの大きなサイズのものでも、先に置くことはせず、スラリー中に混合した。
【0060】
これらの試験ピースに、JISに準拠し蛍光灯D65、200Lxで20分間照射後、暗室中で残光輝度(りん光輝度)を経過時間ごとに測定した。その結果を表5に示す。表5において、ガラス種類とは、ガラスビーズの種類であり、Aは、密度が2.5g/cm3、サイズが平均粒径200μm(150〜212μm)のもの、Bは、密度が4.2g/cm3、サイズが平均粒径40μm(数μm〜45μm)、Cは、密度が2.5g/cm3、サイズが平均粒径1mm(ほぼ揃っている)である。
【0061】
【表5】

【0062】
最近では、事故後(照明が停止した後)60分経過した時点での輝度が問題にされてきている。これは、事故直後に輝度が大きくても、60分後にはほとんど見えないようでは、老人や身体障害者の避難する時間がないことによるものである。
【0063】
表5によると、本発明の各実施例では、ガラスビーズの混合において沈降防止剤がない場合には、残光輝度値がかなり低下するが、沈降防止剤の混合により無添加に比べかなり輝度が高いことがわかった(実施例1、2、比較例2参照)。粒子は小さいが屈折率の高いガラスビーズはより効果の高いことがわかった。
ガラスビーズの混合割合が20〜40容量%のときに大きくなっている。これは、ガラスビーズの存在により入射した光が種々の方向に反射し、蓄光顔料に下からも光が届き、蓄光顔料に対して十分にエネルギーを供給しているためと考えられる。
また、ガラスビーズを用いないものでも、一定の効果は出ているが、ガラスビーズの分だけ樹脂量が多くなり高価であることは間違いない。
【0064】
更に、沈降剤を入れない例では、最初から輝度が低いことが分かった。これは樹脂の3倍程度の比重の蓄光顔料が、底に溜まり、表面に少なくなると同時にガラスビーズが表面に出て蓄光材には光が届かず、反対方向に光が放出されるためと考えられる。
従来のように、蓄光塗料を薄く塗布するだけの場合には影響はないが、2mm以上にもなると蓄光顔料の沈降あるいは蓄光顔料とガラスビーズの混合沈降の具合が大きな影響を及ぼすのである。
【符号の説明】
【0065】
1 本発明蓄光性成形体用型部材
2 本体部
3 剥離紙
4 フィルム
5 基材
6 打ち抜き空間
7 ガラスビーズ
8 樹脂混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に型部材を載置し、該型部材の打ち抜き部分に、樹脂混合物とガラスビーズを充填し、該樹脂硬化後に型部材から脱型するものであって、該樹脂混合物は少なくとも樹脂、蓄光性粒子及び光透過性を有する沈降防止剤からなることを特徴とする蓄光性成形体の製造方法。
【請求項2】
該ガラスビーズは、直径1mm未満の小さいビーズであり、該型部材の打ち抜き部分に充填する前に、該樹脂混合物に混合されているものである請求項1記載の蓄光性成形体の製造方法。
【請求項3】
該ガラスビーズは、直径1mm以上の大きなビーズであり、該型部材の打ち抜き部分に、樹脂混合物の充填に先だって充填するものである請求項1記載の蓄光性成形体の製造方法。
【請求項4】
該ガラスビーズの充填は、厚み方向にはガラスビーズが重ならないように1段のみ充填するものである請求項3記載の蓄光性成形体の製造方法。
【請求項5】
該直径1mm以上のガラスビーズを該型部材の打ち抜き部分に、樹脂混合物の充填に先だって充填し、その後に充填する樹脂混合物には直径1mm未満のガラスビーズを混合するものである請求項3記載の蓄光性成形体の製造方法。
【請求項6】
該型部材の打ち抜き部は、文字その他の記号をかたどったものである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の蓄光性成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−73249(P2011−73249A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226436(P2009−226436)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(592189376)オサダ技研株式会社 (23)
【Fターム(参考)】