説明

蓄電装置の開路電圧検出装置および残容量検出装置

【課題】蓄電装置の開路電圧および残容量を精度良く検出する。
【解決手段】状態量算出部31は、反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mを各時定数TH,TMの遅れ要素からなる応答に近似し、状態変数xを電流検出値Iactに応じて算出する。時定数調整器41は、高圧バッテリー17の充電時には各時定数TH,TMとして充電時の各時定数THc,TMcを設定する。一方、高圧バッテリー17の放電時には各時定数TH,TMとして放電時の各時定数THd(<THc),TMd(<TMc)を設定する。減算部36は電圧検出値Vactから、内部抵抗成分推定値Westと、反応抵抗成分推定値Hestおよび充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestとを減算して開路電圧推定値Eestを算出する。残容量推定部38は、開路電圧推定値Eestに応じたマップ検索によって残容量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばバッテリーなどの蓄電装置の開路電圧検出装置および残容量検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばバッテリーなどの蓄電装置において、充放電電流がゼロでは無い場合の端子電圧を開路電圧と内部抵抗成分と過渡応答成分とにより構成し、端子電圧の検出値から少なくとも過渡応答成分を減算することによって開路電圧を算出すると共に、この開路電圧から残容量を算出する蓄電装置の開路電圧検出装置および残容量検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
これらの蓄電装置の開路電圧検出装置および残容量検出装置では、過渡応答成分を、蓄電装置の電解液の拡散抵抗や分極などの化学的な反応に起因する抵抗による電圧成分とし、電流値の変動に対する電圧値の応答(例えば、電流値がステップ状に変化したときの電圧値の応答)のうち過渡応答を示す成分としている。そして、過渡応答成分は、時定数の遅れ要素を有し、電流変化の発生時刻でのゼロから徐々に増加して、適宜の時間経過後に、充放電電流の検出値に比例する平衡値である整定電圧へと到達するようにして変化すると設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4255795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術の一例による蓄電装置の開路電圧検出装置および残容量検出装置においては、開路電圧の検出精度および信頼性を、より一層、向上させ、この信頼性の高い開路電圧に応じて蓄電装置の残容量を精度良く算出することが望まれている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、蓄電装置の開路電圧を精度良く検出することが可能な蓄電装置の開路電圧検出装置および蓄電装置の残容量を精度良く検出することが可能な蓄電装置の残容量検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の第1態様に係る蓄電装置の開路電圧検出装置は、蓄電装置(例えば、実施の形態での高圧バッテリー17)の放電電流または充電電流の電流値を検出する電流検出手段(例えば、実施の形態での電流センサ17a)と、前記蓄電装置の端子電圧の電圧値を検出する電圧検出手段(例えば、実施の形態での電圧センサ17b)と、前記電流値の変動に対する前記電圧値の応答の過渡応答成分に係る状態量(例えば、実施の形態での状態変数x)として、前記電流検出手段により検出される前記電流値に対して少なくとも上限飽和電圧値(例えば、実施の形態での状態上限飽和電圧(uplimMs))または下限飽和電圧値(例えば、実施の形態での下限飽和電圧(lowlimMs))を有する遅れ特性の充放電ヒステリシス電圧成分と前記電流検出手段により検出される前記電流値に比例する平衡値(例えば、実施の形態での整定電圧Hs)を有する遅れ特性の反応抵抗成分とに係る状態量を算出する状態量算出手段(例えば、実施の形態での状態量算出部31および過渡応答成分算出部32)と、前記電圧検出手段により検出される前記電圧値から、少なくとも前記状態量算出手段により算出される前記状態量に係る前記過渡応答成分を減算して前記蓄電装置の開路電圧を算出する開路電圧算出手段(例えば、実施の形態での減算部36)と、前記電流検出手段により検出される前記電流値に応じて充電状態であるか放電状態であるかを判定する充放電判定手段(例えば、実施の形態での時定数調整器41が兼ねる)と、前記過渡応答成分の時定数を調整する時定数調整手段(例えば、実施の形態での時定数調整器41)とを備え、前記状態量算出手段は、前記充放電ヒステリシス電圧成分および前記反応抵抗成分の少なくとも何れかに係る状態量を、前記時定数調整手段により調整された前記時定数に基づき算出しており、前記時定数調整手段は、前記充放電判定手段により前記充電状態であると判定された場合の前記時定数が、前記充放電判定手段により前記放電状態であると判定された場合の前記時定数に比べてより大きくなるように調整する。
【0006】
また、本発明の第2態様に係る蓄電装置の開路電圧検出装置は、蓄電装置(例えば、実施の形態での高圧バッテリー17)の放電電流または充電電流の電流値を検出する電流検出手段(例えば、実施の形態での電流センサ17a)と、前記蓄電装置の端子電圧の電圧値を検出する電圧検出手段(例えば、実施の形態での電圧センサ17b)と、前記電流値の変動に対する前記電圧値の応答の過渡応答成分に係る第1の状態量(例えば、実施の形態での反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分M)と、前記蓄電装置の開路電圧に係る第2の状態量(例えば、実施の形態での開路電圧E)とを備える状態量(例えば、実施の形態での状態変数x)を算出する際に、前記第1の状態量として、前記電流検出手段により検出される前記電流値に対して少なくとも上限飽和電圧値(例えば、実施の形態での状態上限飽和電圧(uplimMs))または下限飽和電圧値下限飽和電圧(lowlimMs))を有する遅れ特性の充放電ヒステリシス電圧成分と前記電流検出手段により検出される前記電流値に比例する平衡値(例えば、実施の形態での整定電圧Hs)を有する遅れ特性の反応抵抗成分とに係る状態量を算出する状態量算出手段(例えば、実施の形態での状態量算出部61および開路電圧及び過渡応答成分算出部62)と、少なくとも前記状態量算出手段により算出される前記第1の状態量に係る前記過渡応答成分および前記第2の状態量に係る前記開路電圧を加算して得た値と、前記電圧検出手段により検出される前記電圧値との差異がゼロとなるように、前記第1の状態量および前記第2の状態量のうち少なくとも前記第2の状態量を修正するフィードバック手段(例えば、実施の形態での状態量算出部61および開路電圧及び過渡応答成分算出部62および加算部63および減算部64)と、前記第2の状態量から前記開路電圧を算出する開路電圧算出手段(例えば、実施の形態での開路電圧抽出部65)と、前記電流検出手段により検出される前記電流値に応じて充電状態であるか放電状態であるかを判定する充放電判定手段(例えば、実施の形態での時定数調整器41が兼ねる)と、前記過渡応答成分の時定数を調整する時定数調整手段(例えば、実施の形態での時定数調整器41)とを備え、前記状態量算出手段は、前記充放電ヒステリシス電圧成分および前記反応抵抗成分の少なくとも何れかに係る状態量を、前記時定数調整手段により調整された前記時定数に基づき算出しており、前記時定数調整手段は、前記充放電判定手段により前記充電状態であると判定された場合の前記時定数が、前記充放電判定手段により前記放電状態であると判定された場合の前記時定数に比べてより大きくなるように調整する。
【0007】
また、本発明の第3態様に係る蓄電装置の残容量検出装置は、第1態様または第2態様に記載の蓄電装置の開路電圧検出装置と、前記開路電圧算出手段により算出される前記開路電圧に基づき、前記蓄電装置の残容量を算出する残容量算出手段(例えば、実施の形態での残容量推定部38)とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1態様に係る蓄電装置の開路電圧検出装置によれば、過渡応答成分の時定数を蓄電装置の充放電状態に応じて調整し、充電状態での時定数が放電状態での時定数に比べてより大きくなるようにすることで、メモリー効果による放電電圧の電圧降下に対応しつつ、蓄電装置において電流値の適宜の変動に伴う電圧値の応答が本来有する収束性を適切にモデル化することができ、装置構成が複雑化することを抑制しつつ信頼性の高い算出処理によって開路電圧の算出精度を向上させることができる。
【0009】
また、本発明の第2態様に係る蓄電装置の開路電圧検出装置によれば、過渡応答成分の時定数を蓄電装置の充放電状態に応じて調整し、充電状態での時定数が放電状態での時定数に比べてより大きくなるようにすることで、メモリー効果による放電電圧の電圧降下に対応しつつ、蓄電装置において電流値の適宜の変動に伴う電圧値の応答が本来有する収束性を適切にモデル化することができる。そして、少なくとも第1の状態量または第2の状態量を修正するフィードバック制御を実行することによって開路電圧の算出精度を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の第3態様に係る蓄電装置の残容量検出装置によれば、信頼性の高い開路電圧に応じて蓄電装置の残容量を精度良く算出することができる。
すなわち、開路電圧は、例えば蓄電装置の温度や劣化等に関わらず、いわば一義的に残容量を記述する数値である。例えば蓄電装置の開路電圧以外の状態量に基づき残容量を推定する場合には、蓄電装置の温度や劣化の影響を除去する為の演算やマップ等が必要であり、これらの演算処理やマップ等の記憶に膨大なメモリーが必要になる。さらに、温度や劣化レベル毎にマップを作成する為に、予め事前に膨大な実験データを取得する必要が生じる。これらの問題に対して、本発明の蓄電装置の残容量検出装置によれば、蓄電装置の開路電圧を精度良く推定することができるので、上述したような膨大な実験データや温度や劣化レベル毎に補正用のマップも必要とせず、蓄電装置の温度や劣化に関わらずに精度良く残容量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る蓄電装置の残容量検出装置を搭載する車両の構成図である。
【図2】高圧バッテリーの開路電圧Eと残容量との相関関係の一例を示すグラフ図である。
【図3】バッテリー電流Iの変化に伴うバッテリー電圧Vの時間変化の一例を示すグラフ図である。
【図4】バッテリー電流Iに比例する反応抵抗成分Hの整定電圧Hsの変化の一例を示すグラフ図である。
【図5】バッテリー電流Iの変化に伴うバッテリー電圧Vの反応抵抗成分Hの時間変化の一例を示すグラフ図である。
【図6】メモリー効果の発生有無による電圧変化の一例を示すグラフ図である。
【図7】高圧バッテリーの充放電ヒステリシス領域の一例を示すグラフ図である。
【図8】高圧バッテリーの充放電間ヒステリシス電圧の一例を示すグラフ図である。
【図9】バッテリー電流Iに対する充放電ヒステリシス電圧成分Mの整定電圧Msの変化の一例を示すグラフ図である。
【図10】バッテリー電流Iに対する充放電ヒステリシス電圧成分Mの整定電圧Msの変化の一例を示すグラフ図である。
【図11】バッテリー電流Iの変化に伴うバッテリー電圧Vの充放電ヒステリシス電圧成分Mの時間変化の一例を示すグラフ図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係る蓄電装置の残容量検出装置の構成図である。
【図13】図12に示す内部抵抗推定器の構成図である。
【図14】図13に示す電圧近似微分演算部および電流近似微分演算部のバンドパス(ハイパス)フィルター作用の周波数特性の一例を示すグラフ図である。
【図15】内部抵抗推定器に具備される変換演算部の入出力特性の例を示す図である。
【図16】図12に示す蓄電装置の開路電圧検出装置および蓄電装置の残容量検出装置の動作を示すフローチャートである。
【図17】本発明の第2の実施形態に係る蓄電装置の残容量検出装置の構成図である。
【図18】本発明の第2の実施形態に係る蓄電装置の開路電圧検出装置および蓄電装置の残容量検出装置の動作を示すフローチャートである。
【図19】本発明の実施形態の変形例に係る内部抵抗推定器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の蓄電装置の開路電圧検出装置および残容量検出装置の第1の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
第1の実施形態による蓄電装置の残容量検出装置10aは、例えば電気自動車やハイブリッド車両等に備えられている。
【0013】
例えば図1に示す車両1は、駆動源としての内燃機関11およびモータ12を直列に直結し、少なくとも内燃機関11またはモータ12の何れか一方の動力を変速機構13を介して自車両の駆動輪Wに伝達して走行するハイブリッド車両である。
この車両1では、減速時に駆動輪W側からモータ12側に動力が伝達されると、モータ12は発電機として機能していわゆる回生制動力を発生し、車体の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。さらに、車両1の運転状態に応じて、モータ12は内燃機関11の出力によって発電機として駆動され、発電エネルギーを発生する。
【0014】
例えば複数の気筒(図示省略)を有する内燃機関11の運転はエンジン制御装置14により制御される。内燃機関11には、内燃機関11の運転状態を検出するためのセンサとして、内燃機関11の機関温度(例えば、内燃機関11の冷却水温TW)を検出する温度センサ11aや内燃機関11の回転速度(エンジン回転数)NEを検出する回転速度センサ11b等のセンサが備えられている。
各センサから出力される検出信号は、内燃機関11の運転制御を行うためにCPU等を含む電子回路により構成されたエンジン制御装置14に入力されている。また、エンジン制御装置14には、イグニッション(図示略)のON/OFFを指示するイグニッションスイッチ11cからの信号が入力されている。
【0015】
例えば3相のDCブラシレスモータからなるモータ12の駆動および回生作動はモータ制御装置15から出力される制御指令を受けてパワードライブユニット(PDU)16により行われる。
PDU16は、例えばトランジスタのスイッチング素子から構成されたインバータ等を備えて構成され、モータ12と電気エネルギーの授受を行う高圧系の高圧バッテリー17にコンタクタ部18を介して接続されている。
PDU16は、例えばモータ12の駆動時には、高圧バッテリー17から供給される直流電力を3相交流電力に変換してモータ12へ供給する。また、モータ12の回生作動時には、モータ12から出力される交流の回生電力を直流電力に変換して高圧バッテリー17を充電または直流電力をDC−DCコンバータ19へ供給する。
【0016】
モータ12には、モータ12の動作状態を検出するために、モータ12の回転速度(モータ回転数)NMを検出する回転速度センサ12a等のセンサが備えられ、センサから出力される検出信号は、モータ12の動作制御を行うためにCPU等を含む電子回路により構成されたモータ制御装置15に入力されている。
なお、コンタクタ部18は、メインコンタクタ18aと、メインコンタクタ18aに並列に設けられたプリチャージコンタクタ18bおよびプリチャージ抵抗器18cとを備えて構成されている。
【0017】
例えばNi−MHバッテリーやLiイオンバッテリー等からなる高圧バッテリー17にはコンタクタ部18を介してDC−DCコンバータ19が接続されている。
DC−DCコンバータ19は、バッテリー制御装置20から出力される制御指令に応じて高圧バッテリー17の端子電圧Vあるいはモータ12を回生作動させた際のPDU16のインバータの端子間電圧を降圧して12Vバッテリー21を充電する。
【0018】
12Vバッテリー21は、各種補機類に加えて、各制御装置14,15,20に対して電力供給を行う。
高圧バッテリー17には、高圧バッテリー17からモータ12等の負荷へと供給される放電電流及び負荷から高圧バッテリー17へと供給される充電電流からなる電流Iを検出する電流センサ17a、高圧バッテリー17の端子電圧Vを検出する電圧センサ17b、高圧バッテリー17の温度TBを検出する温度センサ17c等のセンサが備えられている。
各センサから出力される検出信号は、高圧バッテリー17の状態を監視、保護するためにCPU等を含む電子回路により構成されたバッテリー制御装置20に入力されている。
【0019】
このバッテリー制御装置20は、第1の実施形態による蓄電装置の残容量検出装置10a(以下、単に、残容量検出装置10aと呼ぶ)および蓄電装置の開路電圧検出装置10b(以下、単に、開路電圧検出装置10bと呼ぶ)を備えている。
バッテリー制御装置20は、後述するように、各センサ17a,17b,17cから出力される検出信号と予め記憶された所定データとに基づき、高圧バッテリー17の内部抵抗の算出や高圧バッテリー17の残容量の算出や高圧バッテリー17の寿命に係る劣化判定処理等を行う。
【0020】
なお、エンジン制御装置14と、モータ制御装置15と、バッテリー制御装置20とはバス22を介して相互に接続されており、各制御装置14,15,20は、各センサ11a,11b,12a,17a,17b,17cから取得した各検出データや、制御処理に際して生成したデータを相互に授受可能とされている。
【0021】
第1の本実施形態による残容量検出装置10aは、例えば初期状態等の劣化の無い高圧バッテリー17の無負荷状態での電圧特性に応じて予め作成した所定のマップを記憶している。このマップは、例えば図2に示すように高圧バッテリー17を無負荷状態で所定時間を超える長時間に亘って放置した際の端子電圧Vの値(開路電圧E)と高圧バッテリー17の残容量との相関関係を示している。
そして、残容量検出装置10aは開路電圧検出装置10bから出力される開路電圧推定値Eestに応じたマップ検索によって高圧バッテリー17の残容量を算出する。
【0022】
なお、本発明における残容量とは、高圧バッテリー17に満充電状態で蓄積されている電気量(Ah)を100%として、実際に高圧バッテリー17に蓄積されている電気量(Ah)の割合である。また、残容量は、電気量(Ah)の代わりに電力量(Wh)によって算出されてもよい。
【0023】
この開路電圧Eは、温度に関わらず一義的に残容量を記述するという特性を有している。また、開路電圧Eは、仮に高圧バッテリー17が劣化しても、この劣化した高圧バッテリー17の満充電状態にて蓄積される電気量や電力量を100%とした時の、実際に高圧バッテリー17に蓄積されている電気量や電力量の割合を一義的に記述するという特性も有している。
すなわち、開路電圧Eは、高圧バッテリー17の温度や劣化に関わらず、いわば一義的に残容量を記述する数値である。
【0024】
第1の実施形態による開路電圧検出装置10bは、電流センサ17aにより検出される高圧バッテリー17の電流Iの電流検出値Iactと、電圧センサ17bにより検出される高圧バッテリー17の端子電圧Vの電圧検出値Vactとに基づき、高圧バッテリー17の開路電圧Eを推定する。
この開路電圧検出装置10bは、例えば下記数式(1)に示すように、高圧バッテリー17の端子電圧Vが4つの電圧成分、つまり開路電圧Eと内部抵抗成分Wと反応抵抗成分Hと充放電ヒステリシス電圧成分Mとからなると設定している。
【0025】
【数1】

【0026】
この開路電圧Eは、高圧バッテリー17を無負荷状態で所定時間を超える長時間に亘って放置した際の端子電圧Vの値である。
また、内部抵抗成分Wは、例えば高圧バッテリー17の導電部材や電解液の抵抗等の高圧バッテリー17の構造に起因する抵抗による電圧成分である。
そして、反応抵抗成分Hは、例えば高圧バッテリー17の電解液の拡散抵抗や分極等の化学的な反応に起因する抵抗による電圧成分である。
そして、充放電ヒステリシス電圧成分Mは、高圧バッテリー17の充電時と放電時とで充放電停止時の端子電圧Vに生じるヒステリシスによる電圧成分である。
【0027】
例えば図3に示すように、高圧バッテリー17の電流(バッテリー電流)Iをステップ状に(例えば、0Aから5Aに)変化させて充電を行うと、先ず、この電流変化の発生時刻t1において、高圧バッテリー17の端子電圧(バッテリー電圧)Vは開路電圧Eから内部抵抗成分Wだけ増大する。
【0028】
内部抵抗成分Wはバッテリー電流Iに比例し、例えば高圧バッテリー17の温度状態や充放電履歴や動作時間等に応じた比例係数である内部抵抗aによって、下記数式(2)に示すようにして記述される。
なお、以下において、バッテリー電流Iの符号は充電電流に対して正とし、放電電流に対して負とする。
【0029】
【数2】

【0030】
そして、電流変化の発生時刻t1以降において、バッテリー電圧Vは、開路電圧Eに内部抵抗成分Wを加算して得た値から、反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mだけ増大する。
【0031】
反応抵抗成分Hは、例えば電流変化の発生時刻t1での値であるゼロから徐々に増加して適宜の時間経過後に平衡値である整定電圧Hsへと到達するようにして変化する。
この整定電圧Hsが、例えば図4に示すように、高圧バッテリー17の温度状態や充放電履歴や動作時間等に応じた所定の比例係数bに応じて高圧バッテリー17の電流Iに比例するとすれば、整定電圧Hsは下記数式(3)に示すようにして記述される。
【0032】
【数3】

【0033】
このように、ステップ状の電流変化に対して、内部抵抗成分Wのような瞬時の電圧変化とは異なる反応抵抗成分Hの時間遅れの応答は、例えば高圧バッテリー17の温度状態や充放電履歴や動作時間等に応じた時定数THの1次遅れ要素の応答によって近似することができる。
この場合、例えば図5(A),(B)に示すように、反応抵抗成分Hの時間変化を示すグラフ図において、充電時の適宜の時刻tc2(つまり、図5(A)での充電時のFH点)および放電時の適宜の時刻td2(つまり、図5(B)での放電時のFH点)での反応抵抗成分Hの傾き(dH/dt)は、下記数式(4)に示すようにして記述される。
【0034】
【数4】

【0035】
なお、上記数式(4)の時定数THは、例えば図5(A)に示す充電時において時定数THcであり、例えば図5(B)に示す放電時において時定数THdであり、充電時の時定数THcは放電時の時定数THdよりも長い値(THc>THd)とされている。
このような充電時と放電時とにおける時定数THの差異は、例えば図6に示すような高圧バッテリー17のメモリー効果による放電電圧の降下を考慮して設定されている。
【0036】
すなわち、メモリー効果が発生していないバッテリー17を、完全放電や完全充電を行なわずに充放電を繰り返して使用すると、この後に完全充電を行なっても充放電を繰り返した付近で放電電圧の電圧降下が生じる電圧挙動となる。そして、放電電圧の電圧降下に伴い、充電時には放電時よりもゆっくりと電圧が整定電圧Hsに達するようになり、充電時の時定数TH(つまり、ステップ状の電流変化に対する電圧変化の時間遅れの応答の時定数TH)は放電時の時定数THよりも長くなる。
【0037】
なお、反応抵抗成分Hの時間遅れの応答は、上記数式(4)に示すように、単一の時定数TH(つまり、充電時の時定数THcおよび充電時の時定数THd)の1次遅れ要素の応答によって近似してもよいし、複数の異なる時定数TH(nは任意の自然数であって、例えば、充電時の時定数THcおよび充電時の時定数THdなど)の各1次遅れ要素の線形結合からなる応答に近似してもよい。
そして、整定電圧Hsはバッテリー電流Iに比例するとしたが、これに限定されず、例えばバッテリー電流Iに関する適宜の単調増加関数f(I)であってもよい。この場合、上記数式(4)は、下記数式(5)に示すように記述される。
【0038】
【数5】

【0039】
また、例えば図7に示すように、高圧バッテリー17での所定電流による充電時と放電時との間には、充放電停止時のバッテリー電圧V(充放電停止時電圧E0)から充電側にずれた0A充電仮想ラインと放電側にずれた0A放電仮想ラインとによって、充放電停止時電圧E0に対するヒステリシスの領域(充放電ヒステリシス領域)が生じる。
そして、例えば図8に示すように、適宜の残容量(SOCa)での瞬時抵抗および反応抵抗による電圧変化に対して、0A充電仮想ラインでの電圧値(0A充電仮想点)と0A放電仮想ラインでの電圧値(0A放電仮想点)とによって充放電停止時電圧E0に対する充放電間ヒステリシス電圧が生じる。
【0040】
この充放電ヒステリシス領域による充放電ヒステリシス電圧成分Mは、例えば電流変化の発生時刻t1での値であるゼロから徐々に増加して適宜の時間経過後に整定電圧Msへと到達するようにして変化する。
そして、整定電圧Msは、電流値に対しては、比例する値を取りつつ、飽和値として、例えば、少なくとも上限飽和電圧(uplimMs)または下限飽和電圧(lowlimMs)を有している。
【0041】
例えば図9および下記数式(6)に示すように記述される整定電圧Msは、所定の上限飽和電圧(uplimMs)と下限飽和電圧(lowlimMs)との間でバッテリー電流Iに比例する。
【0042】
【数6】

【0043】
また、例えば図10および下記数式(7)に示すように記述される整定電圧Msは、図9および上記数式(6)の例において、電流値に対する比例係数をゼロとした場合の例であって、高圧バッテリー17の充電時に所定の上限飽和電圧(uplimMs)となり、放電時に下限飽和電圧(lowlimMs)となり、充放電停止時にゼロとなる。
【0044】
【数7】

【0045】
なお、整定電圧Msは、例えば図9に示すようなバッテリー電流Iに対する直線的な変化に限らず、直線的な変化にスムージング処理などを行なって得た曲線的な変化を有していてもよい。
【0046】
また、整定電圧Msは、例えば高圧バッテリー17の組成などに応じて、充電側での変化と放電側での変化とが、同じあるいは異なる。
例えば上限飽和電圧(uplimMs)と下限飽和電圧(lowlimMs)とは、絶対値が同じ(|uplimMs|=|lowlimMs|)、あるいは異なる(|uplimMs|<|lowlimMs|または|uplimMs|>|lowlimMs|)。
また、例えば整定電圧Msが所定の上限飽和電圧(uplimMs)と下限飽和電圧(lowlimMs)との間でバッテリー電流Iに比例する場合に、充電側と放電側とで比例係数が同じ、あるいは異なる。
【0047】
このように、ステップ状の電流変化に対して、内部抵抗成分Wのような瞬時の電圧変化とは異なる充放電ヒステリシス電圧成分Mの時間遅れの応答は、例えば高圧バッテリー17の温度状態や充放電履歴や動作時間等に応じた時定数TMの1次遅れ要素の応答によって近似することができる。
この場合、例えば図11(A),(B)に示すように、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時間変化を示すグラフ図において、充電時の適宜の時刻tc2(つまり、図11(A)での充電時のFM点)および放電時の適宜の時刻td2(つまり、図11(B)での放電時のFM点)での充放電ヒステリシス電圧成分Mの傾き(dM/dt)は、下記数式(8)に示すようにして記述される。
【0048】
【数8】

【0049】
なお、上記数式(8)の時定数TMは、例えば図11(A)に示す充電時において時定数TMcであり、例えば図11(B)に示す放電時において時定数TMdであり、充電時の時定数TMcは放電時の時定数TMdよりも長い値(TMc>TMd)とされている。
このような充電時と放電時とにおける時定数TMの差異は、反応抵抗成分Hと同様にして、例えば図6に示すような高圧バッテリー17のメモリー効果による放電電圧の降下を考慮して設定されている。
【0050】
すなわち、メモリー効果が発生していないバッテリー17を、完全放電や完全充電を行なわずに充放電を繰り返して使用すると、この後に完全充電を行なっても充放電を繰り返した付近で放電電圧の電圧降下が生じる電圧挙動となる。そして、放電電圧の電圧降下に伴い、充電時には放電時よりもゆっくりと電圧が整定電圧Msに達するようになり、充電時の時定数TM(つまり、ステップ状の電流変化に対する電圧変化の時間遅れの応答の時定数TM)は放電時の時定数TMよりも長くなる。
【0051】
なお、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時間遅れの応答は、上記数式(8)に示すように、単一の時定数TM(つまり、充電時の時定数TMcおよび充電時の時定数TMd)の1次遅れ要素の応答によって近似してもよいし、複数の異なる時定数TM(mは任意の自然数であって、例えば、充電時の時定数TMcおよび充電時の時定数TMdなど)の各1次遅れ要素の線形結合からなる応答に近似してもよい。
【0052】
そして、整定電圧Msを、例えばゼロを含むバッテリー電流Iに関する適宜の単調増加関数g(I)とすれば、上記数式(8)は、下記数式(9)に示すように記述される。
【0053】
【数9】

【0054】
開路電圧検出装置10bは、例えば上記数式(1)および数式(2)および数式(5)および数式(9)を高圧バッテリー17の特性を示す状態方程式として、反応抵抗成分Hの推定値である反応抵抗成分推定値Hestおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの推定値である充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestを算出する。
そして、反応抵抗成分推定値Hestおよび充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestと内部抵抗成分Wの推定値である内部抵抗成分推定値Westと高圧バッテリー17の端子電圧Vの電圧検出値Vactとに応じて高圧バッテリー17の開路電圧Eの推定値である開路電圧推定値Eestを算出する。
残容量検出装置10aは、開路電圧検出装置10bにより算出される開路電圧推定値Eestに応じて、例えば図2に示すマップを検索し、高圧バッテリー17の残容量を算出する。
【0055】
この開路電圧検出装置10bは、例えば図12に示すように、整定電圧調整器24と、絶対値積分器25と、使用期間演算器26と、状態量算出部31と、過渡応答成分算出部32と、加算部33と、内部抵抗推定器34と、乗算部35と、減算部36と、ローパスフィルター37と、状態量記憶部40と、時定数調整器41とを備えて構成されている。さらに、残容量検出装置10aは、例えば、開路電圧検出装置10bと、残容量推定部38とを備えて構成されている。
【0056】
開路電圧検出装置10bは、反応抵抗成分Hの時間遅れの応答を、例えば、上記数式(5)に示すように、単一の時定数THの1次遅れ要素の応答によって近似、あるいは、複数の異なる時定数TH(nは任意の自然数)の各1次遅れ要素の線形結合からなる応答に近似する。
また、開路電圧検出装置10bは、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時間遅れの応答を、例えば、上記数式(9)に示すように、単一の時定数TMの1次遅れ要素の応答によって近似、あるいは、複数の異なる時定数TM(mは任意の自然数)の各1次遅れ要素の線形結合からなる応答に近似する。
例えば反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの時間遅れの応答を各時定数TH,TMの1次遅れ要素の応答によって近似した上記数式(5),(9)を一体化すると、行列式によって下記数式(10)に示すように記述される。
【0057】
【数10】

【0058】
そして、上記数式(1)および数式(10)において、下記数式(11)に示すようにして状態変数xおよびバッテリー電流Iに関する関数j(I)および係数A,Cを設定すると、高圧バッテリー17の特性を示す状態方程式は、例えば下記数式(12)に示すようにして簡潔表現される。
【0059】
【数11】

【0060】
【数12】

【0061】
上記数式(11)および上記数式(12)は状態変数xの時間変化を示す連続の状態方程式であり、上記数式(12)に対応する離散化した状態方程式は、下記数式(13)に示すように記述される。
【0062】
【数13】

【0063】
状態量算出部31は、例えばタイマー割り込み処理として所定周期(例えば10ms等)毎に離散演算を実行する。この離散演算では、各時定数TH,TMに応じた係数A’およびバッテリー電流Iおよび前回の離散演算での状態変数(状態変数xの前回値)xと、上記数式(13)とに基づき、状態変数xを算出する。
状態変数xは、反応抵抗成分Hの推定値および充放電ヒステリシス電圧成分Mの推定値からなり、過渡応答成分算出部32および状態量記憶部40へ出力される。
【0064】
このため、状態量算出部31には、電流センサ17aから出力される電流検出値Iactと、状態量記憶部40から出力される前回の状態変数(状態変数xの前回値)xと、時定数調整器41から出力される係数A’とが入力されている。
【0065】
不揮発メモリー(図示略)を備える状態量記憶部40は、状態量算出部31から出力される状態変数xを前回値xとして記憶し、この前回値xを状態量算出部31へ出力する。
【0066】
すなわち、例えば車両1の運転時における推定モードやイグニッションスイッチ11cがONからOFFへと切り換えられる車両1の運転停止時の推定終了モードにおいては、所定のサンプリング周期(例えば、10ms等)にて実行される離散演算の前回の処理にて算出されて状態量記憶部40に格納された前回値xが、離散演算の今回の処理にて状態量算出部31へ出力される。
【0067】
また、イグニッションスイッチ11cがOFFからONへと切り換えられる車両1の運転開始時の初期化モードにおいては、車両1の運転停止時の推定終了モードにて算出されて状態量記憶部40に格納された前回値xが、離散演算の今回の処理にて状態量算出部31へ出力される。この初期化モードにおいては、イグニッションスイッチ11cがONからOFFへと切り換えられた運転停止時から、イグニッションスイッチ11cがOFFからONへと切り換えられる運転開始時までの経過時間が、離散演算のサンプリング周期として設定されることになる。
【0068】
時定数調整器41は、電流センサ17aにより検出される高圧バッテリー17の電流Iの電流検出値Iactに応じて、高圧バッテリー17が充電状態であるか、あるいは放電状態であるかを判定する。
そして、時定数調整器41は、高圧バッテリー17が充電状態である場合には、反応抵抗成分Hの時定数THとして充電時の時定数THcを設定し、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMとして充電時の時定数TMcを設定する。一方、高圧バッテリー17が放電状態である場合には、反応抵抗成分Hの時定数THとして放電時の時定数THdを設定し、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMとして放電時の時定数TMdを設定する。
なお、充電時の時定数THcは放電時の時定数THdよりも長い値(THc>THd)とされ、充電時の時定数TMcは放電時の時定数TMdよりも長い値(TMc>TMd)とされている。
【0069】
そして、時定数調整器41は、高圧バッテリー17の充放電状態に応じた反応抵抗成分Hの時定数THおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMと、サンプリング周期とに応じて、例えば高圧バッテリー17の特性を示す状態方程式(つまり上記数式(11),(12))をサンプリング周期に応じて離散化して得た状態方程式により係数A’を算出する。
なお、サンプリング周期は、例えば車両1の運転時における推定モードやイグニッションスイッチ11cがONからOFFへと切り換えられる車両1の運転停止時の推定終了モードにおいては、所定のサンプリング周期(例えば10ms等)とされている。
また、例えばイグニッションスイッチ11cがOFFからONへと切り換えられる車両1の運転開始時の初期化モードにおいては、この初期化モードでの現在時刻tと前回の車両1の運転停止時の推定終了モードでの時刻(前回時刻)tとの差である経過時間(t−t)つまり車両1の運転停止時から運転開始時までに亘る高圧バッテリー17の充放電の休止時間とされている。
【0070】
状態量算出部31は、上記数式(20)において、推定モードおよび推定終了モードでは、状態量記憶部40から入力される前回の状態変数xと、時定数調整器41から出力される係数A’とに基づき、さらに、電流センサ17aにより検出される電流検出値Iactをバッテリー電流Iに入力することにより反応抵抗成分Hの推定値および充放電ヒステリシス電圧成分Mの推定値からなる状態変数xを算出する。
また、初期化モードでは、状態量記憶部40から入力される前回の状態変数xと、時定数調整器41から出力される係数A’とに基づき、さらに、車両1の運転停止期間中のゼロまたは所定の休止時電流をバッテリー電流Iに入力することにより反応抵抗成分Hの推定値および充放電ヒステリシス電圧成分Mの推定値からなる状態変数xを算出する。
【0071】
過渡応答成分算出部32は、状態量算出部31にて算出した状態変数xに上記数式(11)に示す係数Cを作用させて、反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの線形結合からなる反応抵抗成分Hの推定値である反応抵抗成分推定値Hestと充放電ヒステリシス電圧成分Mの推定値である充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestとの加算値(Hest+Mest)を算出し、加算部33へ出力する。
【0072】
内部抵抗推定器34は、例えば図13に示すように、電圧近似微分演算部51と、電流近似微分演算部52と、第1乗算部53と、減算部54と、第2乗算部55と、ゲイン設定部56と、積分演算部57とを備えて構成されている。
【0073】
電圧近似微分演算部51および電流近似微分演算部52は、適宜の1次遅れ時定数Tdおよびラプラス演算子Sにより、例えば下記数式(14)に示すように記述される伝達関数G(S)によって、各電圧検出値Vactおよび電流検出値Iactから角周波数(1/Td)以下の低周波成分を除去すると共に、各電圧検出値Vactおよび電流検出値Iactの時間変化率つまり電圧変化ΔV(=dV/dt)および電流変化ΔA(=dI/dt)を算出する。
【0074】
【数14】

【0075】
この1次遅れ時定数Tdは、反応抵抗成分Hの時定数THおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMに対して、例えば下記数式(15)に示すように、角周波数(1/Td)が、反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの各角周波数(1/TH),(1/TM)よりも十分に大きな値となるように設定されている。
【0076】
【数15】

【0077】
これにより、電圧近似微分演算部51および電流近似微分演算部52のバンドパス(ハイパス)フィルター作用の周波数特性が、例えば図14に示すような周波数特性である場合には、カットオフ周波数である角周波数(1/Td)以下の低周波成分の利得が−3dB以下となる。特に、電圧検出値Vactの電圧変動からは低周波成分に相当する過渡応答(つまり反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分M)による電圧変動分が除去され、高周波成分に相当する内部抵抗成分Wによる電圧変動分のみが抽出されることになる。
【0078】
第1乗算部53は、後述する積分演算部57から出力される高圧バッテリー17の内部抵抗aの推定値である内部抵抗推定値aestの前回値と電流近似微分演算部52から出力される電流変化ΔAとを乗算して得た値を、電圧変化推定値ΔVestとして出力する。
【0079】
減算部54は、電圧近似微分演算部51から出力される電圧変化ΔVから第1乗算部53から出力された電圧変化推定値ΔVestを減算して得た差分(ΔV−ΔVest)を出力する。
【0080】
第2乗算部55は、後述するゲイン設定部56から出力されるゲインKと減算部54から出力される差分(ΔV−ΔVest)とを乗算することによって、高圧バッテリー17の内部抵抗aの補正量に相当する内部抵抗補正量Q(=K×(ΔV−ΔVest))を算出する。
【0081】
ゲイン設定部56は、例えば、予め設定した所定の固定値、あるいは、電圧近似微分演算部51から出力される電圧変化ΔVまたは電流近似微分演算部52から出力される電流変化ΔAなどの高圧バッテリー17の状態変化に係る状態変化量の値(実測値や演算値など)または指令値に基づき、ゲインKを設定する。
【0082】
例えば下記数式(16)に示すパラメータ(α・ΔA)のように、電流変化ΔAのみに基づき設定されるゲインKでは、任意の定数α(例えば、α=1/100など)は、内部抵抗推定値aestが発散せずに、急激な変動ではなく適正な変動で収束するようにして、正負の符号と値の大きさとが設定される。
また、例えば下記数式(16)に示す各パラメータ((β・ΔV),(γ・ΔA+δ・ΔV),(ε・ΔA・ΔV))のように、電圧変化ΔVのみ、あるいは、電流変化ΔAと電圧変化ΔVとの和、あるいは、電流変化ΔAと電圧変化ΔVとの積などに基づき設定されるゲインKでは、各任意の定数β,γ,δ,εは、内部抵抗推定値aestが発散せずに、急激な変動ではなく適正な変動で収束するようにして、正負の符号と値の大きさとが設定される。
また、例えば所定の固定値は、予め実施される各種の試験結果などに応じて、内部抵抗推定値aestが発散せずに、急激な変動ではなく適正な変動で収束するようにして、正負の符号と値の大きさが設定される。
【0083】
【数16】

【0084】
なお、ゲインKは、高圧バッテリー17の状態変化に係る状態変化量の各種のパラメータ(例えば、負荷変動値(実測値や演算値など)または負荷変動指令値、電流変化ΔA、電圧変化ΔV、出力変化ΔW、およびこれらの組み合わせなど)の単一、あるいは、複数の組み合わせに対して、内部抵抗推定値aestが発散せずに、急激な変動ではなく適正な変動で収束するようにして、例えば加算、減算、乗算、除算、累乗などの各種の演算が行なわれて設定されてもよい。
【0085】
なお、ゲインKは、より好ましくは、高圧バッテリー17の状態変化に係る状態変化量により変化する内部抵抗推定値aest(あるいは内部抵抗補正量Q)の算出精度に応じて設定されてもよい。例えば状態変化量がほぼゼロとなる場合には、内部抵抗推定値aest(あるいは内部抵抗補正量Q)の算出精度が極めて低いと判断されて、ゲインKは最小の値とされる。これにより、高圧バッテリー17の充放電電流がほとんど無い場合には、ゲインKがゼロに設定されて、内部抵抗推定値aestが修正されないで維持される。
また、例えば状態変化量が所定の適正範囲の値となる場合には、内部抵抗推定値aest(あるいは内部抵抗補正量Q)の算出精度が高いと判断されて、ゲインKは最大の値とされる。これにより、高圧バッテリー17の充放電電流が内部抵抗推定に最適な場合に演算された内部抵抗推定値aest(あるいは内部抵抗補正量Q)に大きな重みが与えられ、精度の高い内部抵抗推定値aestを得ることができる。
【0086】
そして、これらの最小から最大の間においては、例えば負荷変動または電流変化ΔAまたは電圧変化ΔVまたは出力変化ΔWなどの状態変化量が増大することに伴いゲインKが増大傾向に変化するように、かつ、状態変化量が減少することに伴いゲインKが減少傾向に変化するようにして、ゲインKが設定される。
また、例えば状態変化量が所定の適正範囲を超えて大きな値となる場合には、内部抵抗推定値aest(あるいは内部抵抗補正量Q)の算出精度が低いと判断されて、ゲインKはより小さな値とされる。
【0087】
積分演算部57は、例えば適宜の時定数Tfおよびラプラス演算子Sにより記述される伝達関数Gf(S)(=1/(Tf・S))によって、第2乗算部55から出力される内部抵抗補正量Qを積分することによって内部抵抗推定値aestを算出し、この算出結果を出力する。
なお、内部抵抗推定値aestの初期値は予め適宜に所定の内部抵抗固定値が設定されている。
【0088】
なお、内部抵抗推定器34は、各パラメータ(つまり、Iact,Vact,ΔA,ΔV,ΔVest,(ΔV−ΔVest),K,Q,aestなど)の全てあるいは一部に対して、適宜の変換演算部34aによる変換演算処理を行なってもよい。
【0089】
例えば図15(A)に示す変換演算部34aは、出力値に対して下限値と上限値とを有し、下限値と上限値との間で入力値の増大に比例する単調増大の出力値を出力する。
また、例えば図15(B)に示す変換演算部34aは、入力値の所定範囲(例えば、電流検出値Iactでのゼロを含む所定範囲、電圧検出値Vactでの高圧バッテリー17の定格電圧を含む所定範囲など)において出力値が固定される不感帯を有し、下限値と不感帯との間および不感帯と上限値との間で入力値の増大に比例する単調増大の出力値を出力する。
【0090】
また、例えば図15(A),(B)に示す各変換演算部34aにスムージング処理を行なって得た変換演算処理を行なってもよい。例えば図15(C)に示す変換演算部34aは、図15(B)に示す変換演算部34aにスムージング処理を行なって得たものであって、入力値の絶対値が増大することに伴い増大傾向に変化する出力値の増大率が低下する。
また、例えば図15(D)に示す変換演算部34aは、入力値の所定範囲(例えば、電流検出値Iactでのゼロを含む所定範囲、電圧検出値Vactでの高圧バッテリー17の定格電圧を含む所定範囲など)において出力値が固定される不感帯を有し、この不感帯以外において入力値の増大に比例する単調増大の出力値を出力する。
【0091】
なお、例えば図15(A)〜(D)に示す各変換演算部34aにおいて、出力値=ゼロとなる横軸は、各パラメータに応じて適宜に上下に変更される場合がある。例えば電圧検出値Vactでは常にVact>0であることから、出力値=ゼロとなる横軸は、例えば図15(A)〜(D)に示す点線のようになる。
【0092】
なお、各変換演算部34aは、例えば高圧バッテリー17の劣化状態に係る状態量(例えば、バッテリー電流Iの絶対値の積算値、あるいは、初期状態等の劣化の無い状態からの累積使用時間など)に応じて、変換演算特性が劣化側に変更されてもよい。
例えば図15(A),(B)に示すように出力値に対して下限値と上限値とを有する変換演算部34aにおいて、高圧バッテリー17の劣化度合いが増大した場合には、電流検出値Iact,電圧検出値Vact,電流変化ΔA,電圧変化ΔV,電圧変化推定値ΔVest,差分(ΔV−ΔVest)などに対する変換演算処理では、下限値と上限値との間の間隔を拡大させるようにして、下限値が低下されると共に上限値が増大される。また、内部抵抗補正量Q,内部抵抗推定値aestなどに対する変換演算処理では、例えば下限値と上限値との間の間隔を変更せずに下限値と上限値とを移動させるようにして、下限値および上限値が増大される。
【0093】
また、例えば図15(C),(D)に示すように入力値の増大に伴い増大傾向に変化する出力値の増大率が低下し、かつ、入力値の低下に伴い低下傾向に変化する出力値の低下率が低下する変換演算部34aにおいて、高圧バッテリー17の劣化度合いが増大した場合には、電流検出値Iact,電圧検出値Vact,電流変化ΔA,電圧変化ΔV,電圧変化推定値ΔVest,差分(ΔV−ΔVest)などに対する変換演算処理では、出力値の増大率の低下度合いを低下、かつ、出力値の低下率の低下度合いを低下させる。また、内部抵抗補正量Q,内部抵抗推定値aestなどに対する変換演算処理では、出力値の増大率の低下度合いを低下、かつ、出力値の低下率の低下度合いを増大させる。
【0094】
内部抵抗推定器34から出力された内部抵抗推定値aestは、例えば図13に示すように、乗算部35に入力される。
乗算部35は、電流検出値Iactと内部抵抗推定値aestとを乗算して得た値を内部抵抗成分推定値Westとして設定して出力する。
【0095】
加算部33は、乗算部35から出力される内部抵抗成分推定値Westと、過渡応答成分算出部32から出力される反応抵抗成分推定値Hestと充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestとの加算値(Hest+Mest)とを加算して得た値(West+Hest+Mest)を出力する。
【0096】
減算部36は、電圧センサ17bにより検出される電圧検出値Vactから値(West+Hest+Mest)を減算することによって開路電圧推定値Eestを算出し、この算出結果を出力する。
すなわち、上記数式(1)に示すように、高圧バッテリー17の端子電圧Vは開路電圧Eと内部抵抗成分Wと反応抵抗成分Hと充放電ヒステリシス電圧成分Mとからなり、電圧検出値Vactから、内部抵抗成分Wと反応抵抗成分Hと充放電ヒステリシス電圧成分Mとの各推定値を減算することによって、開路電圧Eの推定値を算出することができる。
【0097】
ローパスフィルター37は、減算部36から出力される開路電圧推定値Eestに含まれる誤差、特に高周波ノイズを除去し、このノイズ除去後の開路電圧推定値Eestを残容量推定部38へ出力する。
残容量推定部38は、例えば図2に示すように高圧バッテリー17を無負荷状態で所定時間を超える長時間に亘って放置した際の端子電圧Vの値(開路電圧E)と高圧バッテリー17の残容量との相関関係を示すマップを記憶している。そして、ローパスフィルター37から出力される開路電圧推定値Eestに応じたマップ検索によって高圧バッテリー17の残容量を算出する。
【0098】
第1の実施形態による残容量検出装置10aおよび開路電圧検出装置10bは上記構成を備えており、次に、残容量検出装置10aおよび開路電圧検出装置10bの動作、特に、推定モードおよび推定終了モードおよび初期化モードにおける状態変数xの算出動作について説明する。
【0099】
なお、推定モードは、イグニッションスイッチ11cがON状態となる車両1の運転継続時における動作モードである。推定終了モードは、イグニッションスイッチ11cがONからOFFに切り換えられる車両1の運転停止時の動作モードである。初期化モードは、イグニッションスイッチ11cがOFFからONに切り換えられる車両1の運転開始時の動作モードである。
【0100】
残容量検出装置10aおよび開路電圧検出装置10bを具備するバッテリー制御装置20は、例えばイグニッションスイッチ11cがOFF以外の状態である場合に、以下に示す一連の処理(つまり、状態変数xの算出処理)を実行するためのタイマー割り込み処理を所定周期(例えば10ms等)毎に実行する。そして、バッテリー制御装置20は、推定モードや推定終了モードでの状態変数xの算出処理において、所定のサンプリング周期(例えば、10ms等)毎に電流センサ17aおよび電圧センサ17bの各検出値を取得し、これらの各検出値に基づき離散演算を実行する。
【0101】
なお、このタイマー割り込み処理は、後述するタイマー割込禁止信号が出力されるまで実行され、例えばイグニッションスイッチ11cがONからOFFへと切り換えられる時点、つまり車両1の運転継続時の推定モードから車両1の運転停止時の推定終了モードへと移行する時点においても、タイマー割り込み処理が実行可能とされている。
また、イグニッションスイッチ11cがOFFからONへと切り換えられる車両1の運転開始時においては、以下に示す初期化モードに係る一連の処理を実行した後に、タイマー割り込み処理を所定周期(例えば10ms等)毎に実行するようになっている。
【0102】
先ず、イグニッションスイッチ11cがOFFからONへと切り換えられる車両1の運転開始時、または、タイマー割り込み処理の実行によって、図16に示す一連の処理の実行が開始される。
先ず、図16に示すステップS01においては、イグニッションスイッチ11cがOFFからONへと切り換えられたか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、後述するステップS09に進む。
一方、この判定結果が「YES」の場合、つまりイグニッションスイッチ11cがOFFからONへと切り換えられた場合には、ステップS02に進み、処理モードとして初期化モードを設定し、ステップS03に進む。
【0103】
ステップS03においては、現在時刻tと前回時刻tとを取得し、ステップS04に進み、経過時間(t−t)を算出し、ステップS05に進む。
ステップS05においては、経過時間(t−t)つまり高圧バッテリー17の充放電休止状態である休止時間をサンプリング周期として、高圧バッテリー17の時間変化特性を示す状態方程式(つまり上記数式(11)及び(12))を離散化し、係数A’を算出する。
【0104】
次に、ステップS06においては、休止時間においてバッテリー電流Iがゼロまたはゼロ近傍の所定の電流値(例えば、暗電流値等)の休止時電流に保持されると仮定する。そして、上記数式(13)において、ゼロまたは所定の休止時電流をバッテリー電流Iに入力し、前回の状態変数xと係数A’とに基づき状態遷移演算を実行し、今回の処理での状態変数xを算出する。
【0105】
次に、ステップS07においては、算出した今回の状態変数xを、新たに前回の状態変数xとして設定し、状態量記憶部40に記憶する。
次に、ステップS08においては、現在時刻tを、新たに前回時刻tとして記憶し、一連の処理を終了する。
【0106】
また、ステップS09においては、イグニッションスイッチ11cがONからOFFへと切り換えられたか否かを判定する。
この判定結果が「YES」の場合には、後述するステップS17に進む。
一方、この判定結果が「NO」の場合、つまりイグニッションスイッチ11cの状態が変更されていない場合には、ステップS10に進み、処理モードとして推定モードを設定し、ステップS11に進む。
【0107】
ステップS11においては、現在時刻tを取得し、ステップS12に進み、電流センサ17aおよび電圧センサ17bの各検出値を取得し、ステップS13に進む。
そして、ステップS13においては、高圧バッテリー17が充電状態であるか否かを判定する。
この判定結果が「YES」の場合には、ステップS14に進み、反応抵抗成分Hの時定数THとして充電時の時定数THcを設定し、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMとして充電時の時定数TMcを設定し、ステップS16に進む。
一方、この判定結果が「NO」の場合には、ステップS14に進み、反応抵抗成分Hの時定数THとして放電時の時定数THdを設定し、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMとして放電時の時定数TMdを設定し、ステップS16に進む。
【0108】
ステップS16においては、反応抵抗成分Hの時定数THおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMと、所定のサンプリング周期(例えば10ms等)とに応じて、例えば高圧バッテリー17の特性を示す状態方程式(つまり上記数式(11),(12))をサンプリング周期に応じて離散化して得た状態方程式により係数A’を算出する。そして、上記数式(13)において、電流センサ17aの検出値をバッテリー電流Iに入力し、前回の状態変数xと係数A’とに基づき状態遷移演算を実行し、今回の処理での状態変数xを算出し、上述したステップS07に進む。
【0109】
また、ステップS17においては、処理モードとして推定終了モードを設定し、ステップS18に進む。
ステップS18においては、現在時刻tを取得し、ステップS19に進み、電流センサ17aおよび電圧センサ17bの各検出値を取得し、ステップS20に進む。
そして、ステップS20においては、高圧バッテリー17が充電状態であるか否かを判定する。
この判定結果が「YES」の場合には、ステップS21に進み、反応抵抗成分Hの時定数THとして充電時の時定数THcを設定し、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMとして充電時の時定数TMcを設定し、ステップS23に進む。
一方、この判定結果が「NO」の場合には、ステップS22に進み、反応抵抗成分Hの時定数THとして放電時の時定数THdを設定し、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMとして放電時の時定数TMdを設定し、ステップS23に進む。
【0110】
ステップS23においては、反応抵抗成分Hの時定数THおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMと、所定のサンプリング周期(例えば10ms等)とに応じて、例えば高圧バッテリー17の特性を示す状態方程式(つまり上記数式(11),(12))をサンプリング周期に応じて離散化して得た状態方程式により係数A’を算出する。そして、上記数式(13)において、電流センサ17aの検出値をバッテリー電流Iに入力し、前回の状態変数xと、係数A’とに基づき状態遷移演算を実行し、今回の処理での状態変数xを算出し、ステップS24に進む。
ステップS24においては、タイマー割込禁止信号を出力し、上述したステップS07に進む。
【0111】
上述したように、第1の実施形態による蓄電装置の残容量検出装置10aおよび開路電圧検出装置10bによれば、バッテリー電圧Vを開路電圧Eと内部抵抗成分Wと反応抵抗成分Hと充放電ヒステリシス電圧成分Mとからなる4つの電圧成分により構成する。そして、バッテリー電流Iの変動に伴う電圧変動で遅れ成分となる反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの応答を、それぞれ1次遅れ応答によって近似して得た高圧バッテリー17の状態方程式によって開路電圧推定値Eestを算出する。このとき、過渡応答成分の時定数を蓄電装置の充放電状態に応じて調整し、充電状態での時定数が放電状態での時定数に比べてより大きくなるようにすることで、メモリー効果による放電電圧の電圧降下に対応する。そして、開路電圧推定値Eestに応じたマップ検索により高圧バッテリー17の残容量を算出する。
これにより、メモリー効果による放電電圧の電圧降下に対応しつつ、バッテリー電流Iの変動に伴う電圧変動が本来有する収束性を適切にモデル化することによって、装置構成が複雑化することを抑制しつつ信頼性の高い推定処理を実行することができ、開路電圧推定値Eestの推定精度を向上させることができる。
【0112】
そして、例えば図2に示すように、Ni−MHバッテリーからなる高圧バッテリー17において、残容量の変化に応じた開路電圧Eの変化が相対的に小さい残容量の中間領域に対しても、開路電圧Eの算出精度が向上することに伴い、残容量を精度良く算出することができる。
【0113】
なお、上述した第1の実施形態においては、減算部36において電圧センサ17bにより検出される電圧検出値Vactから内部抵抗成分推定値Westと反応抵抗成分推定値Hestと充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestとが減算されることによって開路電圧推定値Eestが算出されるとしたが、これに限定されず、例えばバッテリー電流Iがゼロであるときには内部抵抗成分推定値Westがゼロとなるため、減算部36においては、電圧検出値Vactから反応抵抗成分推定値Hestと充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestとが減算されることによって開路電圧推定値Eestが算出されてもよい。
すなわち、減算部36は、電圧センサ17bにより検出される電圧検出値Vactから、少なくとも反応抵抗成分推定値Hestと充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestとを減算することによって開路電圧推定値Eestを算出する。
【0114】
以下、本発明の蓄電装置の開路電圧検出装置および残容量検出装置の第2の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
この第2の実施形態による蓄電装置の残容量検出装置60a(以下、単に、残容量検出装置60aと呼ぶ)および蓄電装置の開路電圧検出装置60b(以下、単に、開路電圧検出装置60bと呼ぶ)は、上述した第1の実施形態に係る残容量検出装置10aおよび開路電圧検出装置10bと同様にバッテリー制御装置20に備えられている。
【0115】
開路電圧検出装置60bは、例えば図17に示すように、上述した第1の実施形態に係る開路電圧検出装置10bに具備される内部抵抗推定器34および乗算部35および状態量記憶部40および時定数調整器41と、状態量算出部61と、開路電圧及び過渡応答成分算出部62と、加算部63と、減算部64と、開路電圧抽出部65とを備えて構成されている。
さらに、残容量検出装置60aは、例えば、開路電圧検出装置60bと、上述した第1の実施形態に係る残容量検出装置10aに具備される残容量推定部38とを備えて構成されている。
【0116】
開路電圧検出装置60bは、後述する状態方程式に基づきバッテリー電圧Vの推定値であるバッテリー電圧推定値Vestを算出し、このバッテリー電圧推定値Vestと電圧検出値Vactとの電圧差Verrがゼロとなるようにフィードバック制御を行う。
残容量検出装置60aは、開路電圧検出装置60bにて算出されるバッテリー電圧推定値Vestに係る状態変数xから開路電圧推定値Eestを抽出し、開路電圧推定値Eestに応じたマップ検索によって高圧バッテリー17の残容量を算出する。
【0117】
なお、以下において上述した第1の実施形態と同一部分については同じ符号を配して説明を省略するが、時定数調整器41については、第2の実施形態では、係数L’,Z’の算出機能が追加されている。また、本発明における算出とは、固定値の出力を含むものとする。
【0118】
この第2の実施形態において、開路電圧検出装置60bは、下記数式(17)に示すように、状態変数xを、例えば高圧バッテリー17の温度状態や充放電履歴や動作時間等に応じた時定数THに対応した反応抵抗成分Hおよび時定数TMに対応した充放電ヒステリシス電圧成分Mと、開路電圧Eとから構成している。
【0119】
【数17】

【0120】
そして、開路電圧検出装置60bは、上記数式(17)に示す状態変数xと行列A,C,Zおよび高圧バッテリー17の内部抵抗aによって、高圧バッテリー17の特性を示す状態方程式を、例えば下記数式(18)に示すように設定する。
なお、下記数式(18)における関数P(E)は、バッテリー電流Iの単位電流変化に伴う開路電圧Eの時間変化率であって、例えば開路電圧Eに関する適宜の関数とされている。
【0121】
【数18】

【0122】
この開路電圧検出装置60bは、後述する減算部64から出力されるバッテリー電圧推定値Vestと電圧検出値Vactとの電圧差Verrを制御ゲインLにより制御増幅して得た値(L・Verr)を上記数式(18)に示す状態変数xの時間変化(dx/dt)の状態方程式に作用させることによって、例えば下記数式(19)に示す新たな状態方程式、すなわちオブザーバを設定する。
そして、この新たな状態方程式を、各モード(例えば、推定モード、推定終了モード、初期化モード)に応じて離散化して設定される係数A’,L’ ,Z’およびバッテリー電流Iおよび前回の状態変数xに基づき、反応抵抗成分Hの推定値および充放電ヒステリシス電圧成分Mの推定値および開路電圧Eの推定値からなる状態変数xを算出する。
なお、係数Z’において成分z’は、前回状態から今回状態までの経過時間(サンプリングタイム)に応じた所定値であって、例えばサンプリングタイムなどとされている。
【0123】
【数19】

【0124】
上記数式(19)に対応する離散化した状態方程式は、下記数式(20)に示すように記述される。
【0125】
【数20】

【0126】
状態量算出部61は、例えば各モード(例えば、推定モード、推定終了モード、初期化モード)に応じて設定される係数A’,L’,Z’およびバッテリー電流Iおよび前回の離散演算での状態変数(状態変数xの前回値)xと、上記数式(20)とに基づき、状態変数xを算出する。
この状態変数xは、反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mおよび開路電圧Eの推定値からなり、開路電圧及び過渡応答成分算出部62および状態量記憶部40へ出力される。
【0127】
すなわち、推定モードおよび推定終了モードでは、状態量記憶部40から入力される前回の状態変数xと、時定数調整器41から出力される係数A’,L’,Z’とに基づき、さらに、電流センサ17aにより検出される電流検出値Iactをバッテリー電流Iに入力することにより状態変数xを算出する。また、初期化モードでは、状態量記憶部40から入力される前回の状態変数xと、時定数調整器41から出力される係数A’,L’ ,Z’とに基づき、さらに、車両1の運転停止期間中のゼロまたは所定の休止時電流をバッテリー電流Iに入力することにより状態変数xを算出する。
【0128】
この第2の実施形態において、 時定数調整器41は、電流センサ17aにより検出される高圧バッテリー17の電流Iの電流検出値Iactに応じて、高圧バッテリー17が充電状態であるか、あるいは放電状態であるかを判定する。
そして、時定数調整器41は、高圧バッテリー17が充電状態である場合には、反応抵抗成分Hの時定数THとして充電時の時定数THcを設定し、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMとして充電時の時定数TMcを設定する。一方、高圧バッテリー17が放電状態である場合には、反応抵抗成分Hの時定数THとして放電時の時定数THdを設定し、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMとして放電時の時定数TMdを設定する。
なお、充電時の時定数THcは放電時の時定数THdよりも長い値(THc>THd)とされ、充電時の時定数TMcは放電時の時定数TMdよりも長い値(TMc>TMd)とされている。
【0129】
そして、時定数調整器41は、高圧バッテリー17の充放電状態に応じた反応抵抗成分Hの時定数THおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMと、サンプリング周期とに応じて、例えば高圧バッテリー17の特性を示す状態方程式(つまり上記数式(17),(19))をサンプリング周期に応じて離散化して得た状態方程式により係数A’,L’,Z’を算出する。
なお、サンプリング周期は、例えば車両1の運転時における推定モードやイグニッションスイッチ11cがONからOFFへと切り換えられる車両1の運転停止時の推定終了モードにおいては、所定のサンプリング周期(例えば10ms等)とされている。
また、例えばイグニッションスイッチ11cがOFFからONへと切り換えられる車両1の運転開始時の初期化モードにおいては、この初期化モードでの現在時刻tと前回の車両1の運転停止時の推定終了モードでの時刻(前回時刻)tとの差である経過時間(t−t)つまり車両1の運転停止時から運転開始時までに亘る高圧バッテリー17の充放電の休止時間とされている。
【0130】
開路電圧及び過渡応答成分算出部62は、状態量算出部61により算出した状態変数xに上記数式(17)に示す係数Cを作用させて、反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mおよび開路電圧Eの各推定値である反応抵抗成分推定値Hestおよび充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestおよび開路電圧推定値Eestを抽出し、加算部63へ出力する。
【0131】
加算部63は、乗算部35から入力される内部抵抗成分推定値Westと開路電圧及び過渡応答成分算出部62から入力される反応抵抗成分推定値Hestおよび充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestおよび開路電圧推定値Eestとを加算して得た値(West+Hest+Mest+Eest)、つまりバッテリー電圧推定値Vestを減算部64へ出力する。
減算部64は、電圧センサ17bにより検出される電圧検出値Vactからバッテリー電圧推定値Vestを減算することによって、バッテリー電圧推定値Vestの推定誤差である電圧差Verrを算出し、この算出結果を状態量算出部61へ出力する。
また、状態量算出部61にて算出される状態変数xは開路電圧抽出部65に入力されており、開路電圧抽出部65は、例えば状態変数xにベクトル(0,0,1)を作用させて開路電圧推定値Eestを抽出し、残容量推定部38へ出力する。
【0132】
第2の実施形態による残容量検出装置60aおよび開路電圧検出装置60bは上記構成を備えており、次に、残容量検出装置60aおよび開路電圧検出装置60bの動作、特に、推定モードおよび推定終了モードおよび初期化モードにおける状態変数xの算出動作について説明する。
【0133】
なお、推定モードは、イグニッションスイッチ11cがON状態となる車両1の運転継続時における動作モードである。推定終了モードは、イグニッションスイッチ11cがONからOFFに切り換えられる車両1の運転停止時の動作モードである。初期化モードは、イグニッションスイッチ11cがOFFからONに切り換えられる車両1の運転開始時の動作モードである。
【0134】
残容量検出装置60aおよび開路電圧検出装置60bを具備するバッテリー制御装置20は、上述した第1の実施形態による残容量検出装置10aおよび開路電圧検出装置10bを具備するバッテリー制御装置20と同様にして、例えばイグニッションスイッチ11cがOFF以外の状態である場合に、状態変数xの算出処理を実行するためのタイマー割り込み処理を所定周期(例えば10ms等)毎に実行する。そして、バッテリー制御装置20は、推定モードや推定終了モードでの状態変数xの算出処理において、所定のサンプリング周期(例えば、10ms等)毎に電流センサ17aおよび電圧センサ17bの各検出値を取得し、これらの各検出値に基づき離散演算を実行する。
【0135】
この第2の実施形態において、上述した第1の実施形態におけるステップS01〜ステップS18に示す一連の処理と異なる点は、例えば図18に示すように、ステップS05において係数L’,Z’を算出する点と、ステップS06およびステップS16およびステップS23において電圧差Verrのフィードバックの処理を実行する点と、電圧差Verrを算出する新たな処理として、上述したステップS08の処理に続いて順次実行されるステップS31とステップS32との処理を追加した点である。
【0136】
つまり、図18に示すステップS05においては、経過時間をサンプリングタイムとして上記数式(19)を離散化することにより、係数(A’,L’,Z’)を算出する。
【0137】
図18に示すステップS06においては、休止時間においてバッテリー電流Iがゼロまたはゼロ近傍の所定の電流値(例えば、暗電流値等)の休止時電流に保持されると仮定し、上記数式(20)において、ゼロまたは所定の休止時電流をバッテリー電流Iに入力する。そして、前回の状態変数xと、係数A’,L’,Z’と、前回の処理にて減算部64から出力されたバッテリー電圧推定値Vestと電圧検出値Vactとの電圧差Verrに基づき状態遷移演算を実行し、今回の処理での状態変数xを算出し、上述したステップS07に進む。
【0138】
また、図18に示すステップS16においては、反応抵抗成分Hの時定数THおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMと、所定のサンプリング周期(例えば10ms等)とに応じて、例えば高圧バッテリー17の特性を示す状態方程式(つまり上記数式(17),(19))をサンプリング周期に応じて離散化して得た状態方程式により係数A’,L’,Z’を算出する。そして、上記数式(20)において、電流センサ17aの検出値をバッテリー電流Iに入力し、前回の状態変数xと、係数A’,L’,Z’と、前回の処理にて減算部64から出力されたバッテリー電圧推定値Vestと電圧検出値Vactとの電圧差Verrに基づき状態遷移演算を実行し、今回の処理での状態変数xを算出し、上述したステップS07に進む。
【0139】
また、図18に示すステップS23においては、反応抵抗成分Hの時定数THおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの時定数TMと、所定のサンプリング周期(例えば10ms等)とに応じて、例えば高圧バッテリー17の特性を示す状態方程式(つまり上記数式(17),(19))をサンプリング周期に応じて離散化して得た状態方程式により係数A’,L’,Z’を算出する。そして、上記数式(20)において、電流センサ17aの検出値をバッテリー電流Iに入力し、前回の状態変数xと、係数A’,L’,Z’と、前回の処理にて減算部64から出力されたバッテリー電圧推定値Vestと電圧検出値Vactとの電圧差Verrに基づき状態遷移演算を実行し、今回の処理での状態変数xを算出し、上述したステップS24に進む。
【0140】
また、図18に示すステップS31においては、今回の処理での状態変数xに上記数式(17)に示す係数Cを作用させて、反応抵抗成分推定値Hestおよび充放電ヒステリシス電圧成分推定値Mestおよび開路電圧推定値Eestに内部抵抗成分推定値Westを加算して得た値(West+Hest+Mest+Eest)をバッテリー電圧推定値Vestとして算出し、ステップS32に進む。
ステップS32においては、電圧センサ17bにより検出される電圧検出値Vactからバッテリー電圧推定値Vestを減算することによって、バッテリー電圧推定値Vestの推定誤差である電圧差Verrを算出する。そして、この電圧差Verrを前回の電圧差Verrとして記憶部(図示略)に記憶し、一連の処理を終了する。
【0141】
なお、この第2の実施形態において、制御ゲインLを構成する各係数L,…,Lに対して、例えば、各係数L,Lをゼロとし、係数Lをゼロ以外の正の値とすれば、電圧差Verrがゼロとなるようにフィードバック処理を実行することで開路電圧推定値Eestが変化するようになる。この場合、フィードバック処理に対して反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mは寄与せず、電圧差Verrに基づき開路電圧推定値Eestを算出する一連の処理の伝達関数は、1次遅れ要素の伝達関数と同等になり、この伝達関数の時定数は1/Lとなる。すなわち、この一連の処理は、上述した第1の実施形態においてローパスフィルター37の伝達関数を1次遅れ要素とした場合の処理とほぼ同等の作用効果を有する。
つまり、上述した第2の実施形態においては、電圧差Verrがゼロとなるようにフィードバック制御を行うことで、少なくとも開路電圧Eおよび反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの何れか1つに係る状態変数xが修正される。
【0142】
なお、上述した第2の実施形態において、推定モードおよび推定終了モードにおいて時定数調整器41により算出される係数A’,L’,Z’は電圧差Verrに応じて変化する値であってもよい。
【0143】
なお、上述した第2の実施形態において、関数P(E)は開路電圧Eに関する適宜の関数であるとしたが、これに限定されず、例えば高圧バッテリー17の残容量が所定値を超え、かつ、バッテリー電流Iの電流値が相対的に小さい場合等においては、バッテリー電流Iの単位電流変化に伴う開路電圧Eの時間変化率は相対的に小さく、例えばフィードバック処理による状態変数xの収束状態に対する寄与は小さいと判断して、関数P(E)としてゼロまたはゼロ近傍の所定定数を設定してもよい。
【0144】
また、上述した第2の実施形態において、制御ゲインLは、比例要素に限らず、例えば比例・微分要素等であってもよい。
【0145】
なお、上述した第1および第2の実施形態においては、高圧バッテリー17の充放電状態に応じて反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの各時定数TH,TMを充電時または放電時の時定数に切り替えるとしたが、これに限定されず、反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの各時定数TH,TMのうち何れか一方のみを充電時または放電時の時定数に切り替えてもよい。
【0146】
なお、上述した第1および第2の実施形態において、反応抵抗成分Hの時間遅れの応答を、単一の時定数THの代わりに、複数の異なる時定数TH(nは任意の自然数)の各1次遅れ要素の線形結合からなる応答に近似してもよい。この場合の反応抵抗成分Hは、例えば高圧バッテリー17の温度状態や充放電履歴や動作時間等に応じた各時定数TH(nは任意の自然数)に対応した各反応抵抗成分H(nは任意の自然数)の線形結合や積などにより記述されてもよい。
また、上述した第1および第2の実施形態において、充放電ヒステリシス電圧成分Mの時間遅れの応答を、単一の時定数TMの代わりに、複数の異なる時定数TM(mは任意の自然数)の各1次遅れ要素の線形結合からなる応答に近似してもよい。この場合の充放電ヒステリシス電圧成分Mは、例えば高圧バッテリー17の温度状態や充放電履歴や動作時間等に応じた各時定数TM(mは任意の自然数)に対応した各充放電ヒステリシス電圧成分M(mは任意の自然数)の線形結合や積などにより記述されてもよい。
【0147】
また、反応抵抗成分Hは、複数の異なる時定数TH(nは任意の自然数)の1次遅れ要素の線形結合に限定されず、複数の1次遅れ要素に対して非線形であってもよい。さらに、反応抵抗成分Hは、1次遅れ要素に限らず、例えば2次遅れ要素等のその他の遅れ成分によって構成されてもよい。
また、充放電ヒステリシス電圧成分Mは、複数の異なる時定数TM(mは任意の自然数)の1次遅れ要素の線形結合に限定されず、複数の1次遅れ要素に対して非線形であってもよい。さらに、充放電ヒステリシス電圧成分Mは、1次遅れ要素に限らず、例えば2次遅れ要素等のその他の遅れ成分によって構成されてもよい。
【0148】
なお、上述した第1および第2の実施形態においては、イグニッションスイッチ11cがONからOFFへと切り換えられたと判定された時点で処理モードとして推定終了モードを設定したが、これに限定されず、例えばイグニッションスイッチ11cがONからOFFへと切り換えられた後に、さらに、電圧検出値Vactが所定値の範囲内であると判定された時点で推定終了モードを設定してもよい。あるいは、イグニッションスイッチ11cがONからOFFへと切り換えられた後に、さらに、所定時間以上経過したと判定された時点で処理モードとして推定終了モードを設定してもよい。
【0149】
なお、上述した第1および第2の実施形態においては、車両1の運転状態において、例えば所定時間周期毎に開路電圧推定値Eestを算出することに伴って内部抵抗補正量Qを算出してもよいし、車両1の所定の運転状態に応じて、例えばバッテリー電流Iが相対的に増大するときに内部抵抗補正量Qを算出してもよい。
この状態は、例えばDC−DCコンバータ19を駆動し、高圧バッテリー17の端子電圧Vを降圧して12Vバッテリー21を充電する場合である。
また、この状態は、例えば内燃機関11のアイドル運転状態等において、内燃機関11の運転に伴う車体振動の発生を抑制するようにしてモータ12を駆動させる場合である。
また、この状態は、例えば全ての気筒を稼働する全筒運転と一部の気筒を休止して運転する休筒運転とに切換可能な内燃機関11に具備される制振装置(図示略)を、内燃機関11の休筒運転と全筒運転との切り替えに伴う車体振動の発生を抑制するように作動させる場合である。
これらの場合などにおいて内部抵抗補正量Qを算出することによって、算出精度を向上させることができる。
また、高圧バッテリー17の残容量が所定値を超えることで残容量に余裕がある場合等においては、例えばモータ12に対するトルク軸電流は不変のまま界磁軸電流を増減させて内部抵抗補正量Qを算出してもよい。
【0150】
なお、上述した第1および第2の実施形態において、整定電圧Msは、例えば高圧バッテリー17の劣化状態に係る状態量(例えば、バッテリー電流Iの絶対値の積算値、あるいは、初期状態等の劣化の無い状態からの累積使用時間など)に応じて、変更されてもよい。
また、反応抵抗成分Hの整定電圧Hsおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの整定電圧Msは、例えば高圧バッテリー17の使用状況、劣化状態などによって変更されてもよい。
例えば、各整定電圧Hs,Msは、電流検出値Iactの絶対値の積算値(使用電流積算量)や、高圧バッテリー17の使用期間や、内部抵抗推定値aestや、高圧バッテリー17のバッテリー劣化度に係る劣化推定値や、反応抵抗成分Hの時間遅れの応答に係る時定数THおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mの時間遅れの応答に係る時定数TMや、温度センサ17cから出力される高圧バッテリー17の温度TBなどに応じて、随時、調整されてもよい。
なお、各整定電圧Hs,Msはバッテリー電流Iに関する関数j(I)により記述されることから、この関数j(I)が調整されることで、各整定電圧Hs,Msが調整されることになる。
【0151】
例えば図9に示す整定電圧Msでは、上限飽和電圧(uplimMs)と下限飽和電圧(lowlimMs)とバッテリー電流Iに比例する部分との全てあるいは一部が高圧バッテリー17の劣化度合いに応じて変更される。
この高圧バッテリー17の劣化度合いに応じた整定電圧Msの変更は、高圧バッテリー17の組成になど応じた特性(例えば、相対的に強いバッテリー特性を有するか否か、あるいは相対的に強いキャパシタ特性を有するか否かなど)に基づき、上記の各種パラメータを適宜用いて行なわれる。
このように、例えば上限飽和電圧(uplimMs)および下限飽和電圧(lowlimMs)などを、高圧バッテリー17の劣化状態に応じて変更(例えば、それぞれで選択される増大または低下など)することにより、開路電圧推定値Eestの検出精度を向上させることができる。
【0152】
また、上述した第1および第2の実施形態において、各残容量検出装置10a,60aは、Ni−MHバッテリーをなす高圧バッテリー17の内部抵抗aおよび残容量を算出するとしたが、これに限定されず、例えば鉛蓄電池やリチウムイオン蓄電池等の他の蓄電池や、例えば電気二重層コンデンサや電解コンデンサ等からなるキャパシタの内部抵抗aおよび残容量を算出してもよい。
【0153】
なお、上述した第1および第2の実施形態において、内部抵抗推定器34は、電圧近似微分演算部51および電流近似微分演算部52を備えるとしたが、これに限定されず、電圧近似微分演算部51および電流近似微分演算部52の代わりに、例えば所定の周波数特性を有する差分演算部や、例えば所定周波数領域の信号のみを抽出するバンドパスフィルターや、さらに、電圧検出値Vactおよび電流検出値Iactの変動を算出する各変動算出部等を備えてもよい。
例えば、差分演算部は、入力される各電圧検出値Vactおよび電流検出値Iactの所定周波数領域(例えば、反応抵抗成分Hによる電圧変動分が含まれる周波数領域よりも高い高周波領域)のデータに対して、現在値と所定時間以前の過去値との差(電圧差および電流差)を算出し、算出結果を出力する。
また、例えば、バンドパスフィルターは、入力される各電圧検出値Vactおよび電流検出値Iactの所定周波数領域(例えば、反応抵抗成分Hおよび充放電ヒステリシス電圧成分Mによる電圧変動分が含まれる周波数領域よりも高い高周波領域)のデータを抽出して、抽出結果を電圧変動算出部および電流変動算出部へ出力する。
電圧変動算出部および電流変動算出部は、バンドパスフィルターから入力される所定周波数領域のデータに対して、例えば、周期的に振動するデータの振幅等を算出し、算出結果を出力する。
【0154】
なお、上述した第1および第2の実施形態において、内部抵抗推定器34は、電圧変化ΔVと電圧変化推定値ΔVestとの差分(ΔV−ΔVest)に基づき内部抵抗補正量Qを算出するとしたが、これに限定されず、例えば図19に示すように、電流変化ΔAと電流変化推定値ΔAestとの差分(ΔA−ΔAest)に基づき内部抵抗補正量Qを算出してもよい。
この変形例に係る内部抵抗推定器34は、例えば、電圧近似微分演算部51と、電流近似微分演算部52と、除算部83と、減算部84と、乗算部85と、ゲイン設定部56と、積分演算部57とを備えて構成されている。
【0155】
除算部83は、電圧近似微分演算部51から出力される電圧変化ΔVを、積分演算部57から出力される高圧バッテリー17の内部抵抗aの推定値である内部抵抗推定値aestの前回値で除算して得た値を、電流変化推定値ΔAestとして出力する。
【0156】
減算部84は、電流近似微分演算部52から出力される電流変化ΔAから除算部83から出力された電流変化推定値ΔAestを減算して得た差分(ΔA−ΔAest)を出力する。
【0157】
乗算部85は、ゲイン設定部56から出力されるゲインKと減算部84から出力される差分(ΔA−ΔAest)とを乗算することによって、高圧バッテリー17の内部抵抗aの補正量に相当する内部抵抗補正量Q(=K×(ΔA−ΔAest))を算出する。
【0158】
積分演算部57は、例えば適宜の時定数Tfおよびラプラス演算子Sにより記述される伝達関数Gf(S)(=1/(Tf・S))によって、乗算部85から出力される内部抵抗補正量Qを積分することによって内部抵抗推定値aestを算出し、この算出結果を出力する。
なお、内部抵抗推定値aestの初期値は予め適宜に所定の内部抵抗固定値が設定されている。
【0159】
なお、上述した第1および第2の実施形態において、内部抵抗推定器34は、電圧変化ΔVと電圧変化推定値ΔVestとの差分(ΔV−ΔVest)に基づき内部抵抗補正量Qを算出するとしたが、これに限定されず、例えば電流変化ΔAと電圧変化ΔVとに基づき、除算値(ΔV/ΔA)などにより内部抵抗演算瞬時値Rを算出し、この内部抵抗演算瞬時値Rにローパスフィルターによるフィルター処理を行なって内部抵抗推定値aestを算出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0160】
開路電圧検出装置10b,60bにより算出される開路電圧推定値Eestによる高圧バッテリー17の残容量の推定や、内部抵抗推定器34により算出される内部抵抗推定値aestによる高圧バッテリー17の劣化判定に加え、開路電圧推定値Eestや内部抵抗推定値aestは、ハイブリッド車両等における高圧バッテリー17の充放電制御やニッケル系バッテリーなどのバッテリーのメモリー効果の状態の推定に用いることができる。
【符号の説明】
【0161】
10a,60a 蓄電装置の残容量検出装置
10b,60b 蓄電装置の開路電圧検出装置
17 高圧バッテリー(蓄電装置)
17a 電流センサ(電流検出手段)
17b 電圧センサ(電圧検出手段)
31 状態量算出部(状態量算出手段)
32 過渡応答成分算出部(状態量算出手段)
34 内部抵抗推定器(内部抵抗算出手段)
36 減算部(開路電圧算出手段)
38 残容量推定部(残容量算出手段、記憶手段)
41 時定数調整器(充放電判定手段、時定数調整手段)
61 状態量算出部(状態量算出手段、フィードバック手段)
62 開路電圧及び過渡応答成分算出部(状態量算出手段、フィードバック手段)
63 加算部(フィードバック手段)
64 減算部(フィードバック手段)
65 開路電圧抽出部(開路電圧算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置の放電電流または充電電流の電流値を検出する電流検出手段と、前記蓄電装置の端子電圧の電圧値を検出する電圧検出手段と、
前記電流値の変動に対する前記電圧値の応答の過渡応答成分に係る状態量として、前記電流検出手段により検出される前記電流値に対して少なくとも上限飽和電圧値または下限飽和電圧値を有する遅れ特性の充放電ヒステリシス電圧成分と前記電流検出手段により検出される前記電流値に比例する平衡値を有する遅れ特性の反応抵抗成分とに係る状態量を算出する状態量算出手段と、
前記電圧検出手段により検出される前記電圧値から、少なくとも前記状態量算出手段により算出される前記状態量に係る前記過渡応答成分を減算して前記蓄電装置の開路電圧を算出する開路電圧算出手段と、
前記電流検出手段により検出される前記電流値に応じて充電状態であるか放電状態であるかを判定する充放電判定手段と、
前記過渡応答成分の時定数を調整する時定数調整手段とを備え、
前記状態量算出手段は、前記充放電ヒステリシス電圧成分および前記反応抵抗成分の少なくとも何れかに係る状態量を、前記時定数調整手段により調整された前記時定数に基づき算出しており、
前記時定数調整手段は、前記充放電判定手段により前記充電状態であると判定された場合の前記時定数が、前記充放電判定手段により前記放電状態であると判定された場合の前記時定数に比べてより大きくなるように調整することを特徴とする蓄電装置の開路電圧検出装置。
【請求項2】
蓄電装置の放電電流または充電電流の電流値を検出する電流検出手段と、前記蓄電装置の端子電圧の電圧値を検出する電圧検出手段と、
前記電流値の変動に対する前記電圧値の応答の過渡応答成分に係る第1の状態量と、前記蓄電装置の開路電圧に係る第2の状態量とを備える状態量を算出する際に、前記第1の状態量として、前記電流検出手段により検出される前記電流値に対して少なくとも上限飽和電圧値または下限飽和電圧値を有する遅れ特性の充放電ヒステリシス電圧成分と前記電流検出手段により検出される前記電流値に比例する平衡値を有する遅れ特性の反応抵抗成分とに係る状態量を算出する状態量算出手段と、
少なくとも前記状態量算出手段により算出される前記第1の状態量に係る前記過渡応答成分および前記第2の状態量に係る前記開路電圧を加算して得た値と、前記電圧検出手段により検出される前記電圧値との差異がゼロとなるように、前記第1の状態量および前記第2の状態量のうち少なくとも前記第2の状態量を修正するフィードバック手段と、
前記第2の状態量から前記開路電圧を算出する開路電圧算出手段と、
前記電流検出手段により検出される前記電流値に応じて充電状態であるか放電状態であるかを判定する充放電判定手段と、
前記過渡応答成分の時定数を調整する時定数調整手段とを備え、
前記状態量算出手段は、前記充放電ヒステリシス電圧成分および前記反応抵抗成分の少なくとも何れかに係る状態量を、前記時定数調整手段により調整された前記時定数に基づき算出しており、
前記時定数調整手段は、前記充放電判定手段により前記充電状態であると判定された場合の前記時定数が、前記充放電判定手段により前記放電状態であると判定された場合の前記時定数に比べてより大きくなるように調整することを特徴とする蓄電装置の開路電圧検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓄電装置の開路電圧検出装置と、
前記開路電圧算出手段により算出される前記開路電圧に基づき、前記蓄電装置の残容量を算出する残容量算出手段とを備えることを特徴とする蓄電装置の残容量検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−42429(P2012−42429A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186358(P2010−186358)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】