説明

蓄電装置及び蓄電装置の作製方法

【課題】安定した電圧を供給することができ、且つ、残存容量又は充電容量を容易に検知することができる蓄電装置を提供することを課題の一とする。
【解決手段】少なくとも、正極と、正極と電解質を介して対向するように設けられた負極と、を有し、正極における放電曲線又は充電曲線が、プラトー(電位平坦部とも呼ぶ)を有する蓄電装置である。特に、複数のプラトーを有し、正極電位を複数段階でモニターすることにより、残存容量及び充電容量を容易に検知することが可能な蓄電装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蓄電装置及び蓄電装置の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への関心が高まるなか、ハイブリッド自動車用電源に使用する二次電池や電気二重層キャパシタなど蓄電装置の開発が盛んである。その候補として、エネルギー性能の高いリチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタが注目されている。リチウムイオン電池は、小型でも大容量の電気を蓄えられるため、既に携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなど携帯情報端末に搭載され、製品の小型化などに一役買っている。
【0003】
二次電池及び電気二重層キャパシタは、正極と負極との間に電解質を介在させた構成を有する。正極及び負極は、それぞれ、集電体と、集電体上に設けられた活物質と、を有する構成が知られている。例えば、リチウムイオン電池は、リチウムイオンを挿入及び脱離することのできる材料を活物質として電極に用い、電解質を間に介在させて構成する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2006/049001号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような蓄電装置の放電を行う際、負荷となる電気回路においては、供給される電圧が変化すると電気回路が破壊される又は電気回路の誤動作が生じる場合がある。そのため、蓄電装置は、一定の電圧を供給できることが好ましい。すなわち、蓄電装置の放電特性が安定していることが求められる。
【0006】
また、蓄電装置の充電を行う際、過充電や充電不足を防止する必要がある。そのため、蓄電装置の充電特性が安定していることが求められる。
【0007】
そこで、本発明の一態様は、安定した放電特性を有する蓄電装置を提供することを課題の一とする。または、安定した充電特性を有する蓄電装置を提供することを課題の一とする。
【0008】
更に、蓄電装置では残存容量(放電終了までの残りの容量)を検知することが重要であり、蓄電装置の電極電位をモニターすることで残存容量の検知が可能である。しかし、上記のように安定した電圧の供給が求められる一方で、放電終了まで電極電位に変化がないと、電極電位から残存容量を検知することは困難である。
【0009】
また同様に、蓄電装置では充電容量(所定時間までに充電された容量)を検知することも重要であるが、充電終了まで電極電位に変化がないと、電極電位から充電容量を検知することは困難である。
【0010】
そこで、本発明の一態様は、蓄電装置の充放電特性を安定させ、且つ、残存容量又は充電容量を容易に検知することが可能な蓄電装置の提供を課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
少なくとも、正極と、正極と電解質を介して対向するように設けられた負極と、を有する蓄電装置とする。正極は、集電体と、集電体上に設けられた活物質を含む膜と、で構成される。そして、正極における充電曲線又は放電曲線は、電位平坦部を有する。特に、複数の電位平坦部を有することを特徴としている。
【0012】
活物質を含む膜は、活物質の薄膜、活物質の粒子が分散された膜、又は活物質の粒子の集合体とすることができる。
【0013】
本発明の一態様は、正極と、正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有し、正極における放電曲線又は充電曲線は、複数の電位平坦部を有する蓄電装置である。
【0014】
また、本発明の一態様は、正極と、正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有する蓄電装置の作製方法であって、正極の作製工程は、集電体上にLiFePOをターゲットとしたスパッタリング法を用いて活物質を含む膜を形成した後、活物質を含む膜に加熱処理を行う工程を有し、正極の放電曲線又は充電曲線は、複数の電位平坦部を有する蓄電装置の作製方法である。
【0015】
上記作製方法において、加熱処理は、450℃以上700℃以下、且つ、30分以上40時間以下で行うことが好ましい。
【0016】
なお、本明細書において、電位平坦部とは、横軸を容量、縦軸を電位とした充放電曲線において、容量の変化に対し、電位が平坦性を維持して変化する部分を指す。電位平坦部は、プラトーとも呼ぶ。
【発明の効果】
【0017】
充放電曲線において電位平坦部を有することで、安定した充放電特性を有する蓄電装置を提供することができる。
【0018】
更に、充放電曲線において複数の電位平坦部を有することで、安定した充放電特性を有し、且つ、残存容量及び充電容量を容易に検知することが可能な蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】蓄電装置の充放電特性の一例を示す図。
【図2】蓄電装置の作製方法の一例を示す図。
【図3】蓄電装置の構造の一例を示す図。
【図4】蓄電装置の充放電特性の一例を示す図。
【図5】X線回折の測定結果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下の実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
(実施の形態1)
本実施の形態では、蓄電装置の充放電特性について説明する。
【0022】
図1は、蓄電装置の正極における充放電特性であり、放電曲線101及び充電曲線103を示している。横軸を容量、縦軸を正極電位とする。
【0023】
図1において、放電曲線101は、電位平坦部(以下、プラトーとも呼ぶ)を有しているため安定した電圧を供給できる。更に、図1の例では、三段階のプラトー(プラトー105、プラトー107、プラトー109)を有することを特徴している。
【0024】
そして、放電曲線101における各々のプラトーにおける正極電位は、プラトー105の電位Vmax=3.5V、プラトー107の電位Vmid=2.9V、プラトー109の電位Vmin=2.4Vである。
【0025】
放電曲線101が三段階のプラトーを有することで、正極電位を三段階でモニターすることができる。そして、正極電位のモニターにより、放電終了までの蓄電装置の残存容量を容易に検知することが可能である。
【0026】
また、蓄電装置の残存容量に合わせて用途を変えることで、蓄電装置の使用回数を増やすことが可能となる。図1では、高い電位が必要な場合は3.5Vを用い、低い電位が必要な場合は2.4Vを用い、そして、それらの中間の電位が必要な場合は2.9Vを用いることができる。
【0027】
また、充電曲線103についても、プラトーを有しているため安定した電圧を供給することができる。更に、図1の例では、三段階のプラトー(プラトー111、プラトー113、プラトー115)を有することを特徴としている。
【0028】
そして、充電曲線103における各々のプラトーにおける正極電位は、プラトー111の電位Vmax=3.5V、プラトー113の電位Vmid=2.9V、プラトー115の電位Vmin=2.4Vである。
【0029】
充電曲線103が三段階のプラトーを有することで、正極電位を三段階でモニターすることができる。そして、正極電位のモニターにより、充電容量を容易に検知することが可能である。
【0030】
また、低い電位を用いる場合には、完全に充電を終了させる必要がないため、充電時間の短縮、及び充電による蓄電装置の劣化を抑制することが可能である。図1では、高い電位が必要な場合は3.5Vまで充電し、低い電位が必要な場合は2.4Vまで充電し、そして、それらの中間の電位が必要な場合は2.9Vまで充電する。
【0031】
なお、放電曲線101及び充電曲線103の三段階のプラトーにおいて、Vmaxと、Vmidと、Vminとの関係が、0.3≦Vmin/Vmax≦0.8を満たし、且つ、−0.3≦2×(Vmid−V)/(Vmax−Vmin)≦0.3を満たすことが好ましい。このような関係を満たすことで、電位のモニターを三段階で正確に行うことができる。なお、VはVmaxとVminとの中間の電位であり、V=(Vmax+Vmin)/2である。
【0032】
また、複数の蓄電装置を直列に接続した場合などは、VmaxとVminの差が大きくなる場合(例えば差が5V以上)がある。その場合は、Vmaxの付近においてVmax及びVmidのプラトーを有するようにしてもよい。その際、Vmaxと、Vmidとの関係が、0.05V≦Vmax−Vmid≦2V(好ましくは0.05V≦Vmax−Vmid≦0.5V)を満たすことが好ましい。そうすることで、Vmaxの付近において複数段階で電位のモニターを行うことができる。また、Vminの付近においてVmin及びVmidのプラトーを有するようにしてもよい。その際、Vminと、Vmidとの関係が、0.05V≦Vmid−Vmin≦2V(好ましくは0.05V≦Vmid−Vmin≦0.5V)を満たすことが好ましい。そうすることで、Vminの付近において複数段階で電位のモニターを行うことができる。
【0033】
なお、本実施の形態では、正極の特性について説明したが、負極の特性に適用することもできる。ただし、負極の場合、負極材料を含む合金の形成等の影響により特性が安定しないため、正確に電位をモニターすることができない可能性がある。そのため、本実施の形態のように、正極の充放電曲線にプラトーを有する構成とすることで、蓄電装置の充放電特性を安定させることができる。上記合金は、集電体と活物質との合金、集電体と電解質の合金、活物質と電解質との合金、集電体と活物質と電解質との合金等が挙げられる。
【0034】
また、蓄電装置は、電位をモニターするための検出部を有していてもよい。検出部は、三段階のプラトーにおける電位の検出を行い、三段階の検出信号を出力する。。一例として、段階に応じて赤、青、緑等の三色の内一色のランプを点灯させる構成が挙げられる。このような構成とすることで、残存容量又は充電容量を容易に検知することができる。
【0035】
また、本実施の形態では、三段階のプラトーを有する例を示したが、二段階としてもよく、四段階以上としてもよい。つまり、電位のモニターを行うためには複数のプラトーを有していればよい。
【0036】
以上のような充放電特性を有することで、安定した複数段階の電圧を供給することでき、且つ、残存容量又は充電容量を容易に検出することが可能な蓄電装置を提供することができる。
【0037】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0038】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1で示すような充放電特性を実現し得る蓄電装置の作製方法の一例について説明する。
【0039】
図2は、リチウム二次電池の正極の作製方法の一例である。
【0040】
まず、集電体201を準備する(図2(A))。
【0041】
集電体201の材料は、特に限定されないが、白金、アルミニウム、銅、チタン等の導電性の高い材料を用いることができる。本実施の形態では、チタンを用いる。
【0042】
次に、集電体201上に、活物質を含む膜203を形成する(図2(B))。
【0043】
活物質を含む膜203に含まれる活物質の材料は、リチウム酸化物を用いることが好ましい。リチウムは、イオン化傾向が大きく、原子半径が小さいため、正極への挿入及び脱離が安定して行われる。そのため、正極の充放電特性を安定させることができる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、又はリン酸鉄リチウム(LiFePO)等の、化学式Li(x、y、zは、正の実数)で表される化合物を用いることができる。ここで、Mは1つ又は複数の物質を示す。Mが1つの場合、金属であることが好ましい。Mが複数の場合、複数の金属の組み合わせ、又は、金属と非金属の組み合わせでもよい。
【0044】
活物質を含む膜203の作製方法としては、PVD法(例えばスパッタリング法)、真空蒸着法、又はCVD法(例えばプラズマCVD法)などの乾式法を用いることができる。乾式法を用いて活物質を含む膜203を形成することで、均質且つ薄膜の活物質を含む膜203を得ることができる。そのため、正極の充放電特性を安定させることができる。
【0045】
また、活物質を含む膜203の作製方法として、塗布法などの湿式法を用いてもよい。ただし、湿式法を用いると、活物質の粒子が分散され、均質性が損なわれる可能性がある。そのため、本実施の形態のように、乾式法を用いることが好ましい。
【0046】
本実施の形態では、スパッタリング法により、LiFePOターゲットを用いて、膜厚10nm〜3μmのリン酸鉄リチウム(活物質を含む膜203)を形成する。ここでは、膜厚を100nmとして活物質を含む膜203を形成する。
【0047】
以上のようにして、正極205を作製する(図2(C))。
【0048】
なお、活物質を含む膜203に加熱処理を行ってもよい。例えば、活物質がリン酸鉄リチウムの場合、加熱処理を行うことで活物質を含む膜203を結晶化させる。又は結晶性を高めることができる。
【0049】
加熱処理の温度としては、450℃以上700℃以下で行うことが好ましい。また、加熱処理の時間としては、30分以上40時間以下、好ましくは2時間以上10時間以下で行えばよい。また、加熱処理の雰囲気としては、希ガス雰囲気、窒素雰囲気等を用いることが好ましく、活物質を含む膜203を均質にすることができる。本実施の形態では、加熱処理は、窒素雰囲気中において、600℃、4時間行う。
【0050】
その後、電解質と、電解質を間に介して正極と対向するように負極を形成することで、蓄電装置を得ることができる。
【0051】
以上のように作製された、リチウム二次電池の正極205において、実施の形態1で示した充放電特性を有することで、安定した電圧を複数段階で供給することができ、且つ、残存容量又は充電容量を容易に検知することができる。
【0052】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0053】
(実施の形態3)
本実施の形態では、蓄電装置の構造の一例について説明する。
【0054】
蓄電装置に用いる正極の構造の一例について、図2(C)を用いて説明する。
【0055】
正極205は、集電体201と、集電体201上に形成された活物質を含む膜203を有している。
【0056】
集電体201の材料としては、実施の形態2で示したものを用いることができる。本実施の形態では、チタンを用いる。
【0057】
活物質の材料としては、実施の形態2で示したものを用いることができる。本実施の形態では、膜厚100nmのリン酸鉄リチウムを用いる。
【0058】
次に、上記正極を用いた蓄電装置の構造の一例について説明する。
【0059】
図3は、蓄電装置の構造の一例であり、正極205と、電解質301を介して対向するように設けられた負極303とを有している。また、正極205と負極303との間には、セパレータ305を有している。
【0060】
電解質301は、リチウムイオンを伝導する機能を有する。すなわち、リチウムイオンは、電解質301を介して正極205と負極303との間を移動する。電解質301の材料としては、液体又は固体を用いることができる。なお、電解質301の材料は、活物質等に応じて、適宜変更することができる。
【0061】
液体の場合、溶媒と、溶媒に溶解される溶質(塩)とを含んでいる。溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート若しくはエチレンカーボネート等の環状カーボネート、又はジメチルカーボネート若しくはジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。溶質(塩)としては、例えば、LiPF、LiBF、又はLiTFSA等、軽金属塩(リチウム塩等)を1種又は2種以上含んでいるものを用いることができる。
【0062】
固体の場合、例えば、LiPO、LiPOに窒素を混ぜたLiPO(x、y、zは正の実数)、LiS−SiS、LiS−P、LiS−B等を用いることができる。また、これらにLiIなどのハロゲン化リチウムをドープしたもの、若しくはLiPOなどのリチウム酸素酸塩をドープしたものなどを用いることができる。
【0063】
セパレータ305は、正極205と負極303との接触を防止するとともに、リチウムイオンを通過させる機能を有する。セパレータ305の材料としては、例えば、紙、不織布、ガラス繊維、あるいは、ナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維であり、ビナロンとも呼ぶ)、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンといった合成繊維等を用いることもできる。ただし、電解質に溶解しない材料を選ぶ必要がある。なお、電解質301に固体電解質を適用すれば、セパレータ305を省略した構成とすることも可能である。
【0064】
負極303は、集電体309と、活物質を含む膜307とを有する。集電体309の材料としては、特に限定されないが、白金、銅、チタン等の導電性の高い材料を用いることができる。活物質の材料としては、特に限定されないが、リチウム金属、黒鉛等の炭素材料、シリコン等を用いることができる。なお、負極303としてリチウム金属等を単独で用いてもよい。本実施の形態では、負極303として膜厚0.6mmのリチウム金属を用いる。
【0065】
次に、蓄電装置としてリチウム二次電池を用いた場合の充放電の一例を説明する。
【0066】
充電は、図3(B)に示すように、正極205と負極303との間に電源311を接続することで行われる。電源311から電圧が印加されると、正極205のリチウムがイオン化し、リチウムイオン313が脱離するとともに、電子315が発生する。リチウムイオン313は、電解質301を介して負極303に移動する。電子315は、電源311を介して負極303に移動する。そして、リチウムイオン313は、負極303で電子315を受け取り、リチウムとして負極303に挿入される。
【0067】
一方、放電は、図3(C)に示すように、正極205と負極303の間に負荷317を接続することで行われる。負極303のリチウムがイオン化し、リチウムイオン313が脱離するとともに、電子315が発生する。リチウムイオン313は、電解質301を介して正極205に移動する。電子315は、負荷317を介して正極205に移動する。そして、リチウムイオン313は、正極205で電子315を受け取り、リチウムとして正極205に挿入される。
【0068】
このように、リチウムイオンが正極205及び負極303を移動することで、充放電が行われる。ここで、蓄電装置の正極205において、実施の形態1で示した充放電特性を有することで、安定した電圧を複数段階で供給することができ、且つ、残存容量又は充電容量を容易に検知することができる。
【0069】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【実施例1】
【0070】
本実施例では、蓄電装置の作製方法及び充放電特性について具体的に説明する。
【0071】
まず、作製した蓄電装置のサンプルについて説明する。サンプルとしては、正極と、負極と、正極及び負極の間に電解液を含むセパレータと、を有する2032型コイン形状電池を形成した。サンプルの正極は、チタン上に活物質を含む膜を形成した。負極は、リチウム金属を用いて形成した。セパレータは、ポリプロピレン(PP)を用いた。電解液は、LiPFを溶解させたエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液を用いた。
【0072】
正極の活物質を含む膜は、オリビン型LiFePOターゲットを用い、RF電源の電力700W、圧力0.1Pa、アルゴン雰囲気中において、スパッタリング法により成膜した。
【0073】
次いで、活物質を含む膜に対し加熱処理を行った。加熱処理は、窒素雰囲気下で、600℃、4時間の条件で行った。
【0074】
作製したサンプルを用いて充放電試験((株)東洋システム 充放電試験装置 TOSCAT−3100を使用)を行った。測定電圧は1.5V〜4.2Vの範囲に設定し、測定電流は0.001mAの定電流とした。定電流充電→休止2時間→定電流放電→休止2時間の充放電試験を行い、充電時、充電後の休止時、放電時、放電後の休止時の電圧(V)を及び容量(mAh)を測定した。
【0075】
上記充放電試験で測定した結果を図4に示した。図4は、縦軸を正極電位(V)、横軸を容量(mAh)とした充放電特性である。
【0076】
図4では、0.1Cレートの放電曲線401及び充電曲線403と、0.2Cレートの放電曲線405及び充電曲線407とを示している。ここで、Cレートは、充放電の際の電流値を表すものである。1Cは、電池の全容量を1時間で放電させるだけの電流値をさす。例えば、全容量が2.2[A/h]の電池では、1C=2.2[A]であり、nC(nは正の整数)=2.2n[A]である
【0077】
図4の結果から、正極の充電特性について、0.1Cレート及び0.2Cレートで共に、三段階のプラトー409、411、413が確認できた。また、正極の放電特性についても、0.1Cレート及び0.2Cレートで共に、三段階のプラトー415、417、419が確認できた。
【0078】
そして、0.1Cレートの放電曲線401の三段階のプラトーにおける電位は、Vmax=3.5V、Vmid=2.9V、Vmin=2.4Vであり、Vmin/Vmax=0.69、且つ、2×(Vmid−V)/(Vmax−Vmin)=−0.09であった。
【0079】
また、0.1Cレートの充電曲線403の三段階のプラトーにおける電位は、Vmax=3.5V、Vmid=2.9V、Vmin=2.4Vであり、Vmin/Vmax=0.69、且つ、2×(Vmid−V)/(Vmax−Vmin)=−0.091であった。
【0080】
また、0.2Cレートの放電曲線405の三段階のプラトーにおける電位は、Vmax=3.4V、Vmid=2.8V、Vmin=2.3Vであり、Vmin/Vmax=0.68、且つ、2×(Vmid−V)/(Vmax−Vmin)=−0.091であった。
【0081】
また、0.2Cレートの充電曲線407の三段階のプラトーにおける電位は、Vmax=3.5V、Vmid=2.9V、Vmin=2.3Vであり、Vmin/Vmax=0.66、且つ、2×(Vmid−V)/(Vmax−Vmin)=0であった。
【0082】
そして、これらの計算結果は、実施に形態1で示した、0.3≦Vmin/Vmax≦0.8、且つ、−0.3≦2×(Vmid−V)/(Vmax−Vmin)≦0.3の条件を満たすものである。
【0083】
以上のように、作製されたサンプルは、三段階のプラトーを有し、安定した電圧の供給が可能であった。また、正極電位を三段階でモニターすることができ、正極電位から残存容量及び充電容量を容易に検知することが可能であった。
【0084】
なお、ここで、本実施例における活物質を含む膜について考察する。本実施例の活物質を含む膜(オリビン型LiFePOターゲットを用い、RF電源の電力700W、圧力0.1Pa、アルゴン雰囲気中において、スパッタリング法により成膜した膜)について、成膜直後におけるX線光電子分光分析(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)の測定及び誘導結合プラズマ質量分析(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:ICP−MS)の測定を行った。
【0085】
XPS及びICP−MSの結果から、成膜直後の活物質を含む膜の組成比はLi:Fe:P:O=9.3:11.9:8.6:61.2と見積もられた。また、XPSにおけるFeの2p軌道のピークから、この段階では、Feの価数は主に2価であると推察された。
【0086】
また、成膜後、加熱処理(窒素雰囲気下、600℃、4時間)を行った後の活物質を含む膜について、X線回折(XRD:X−ray diffraction)の測定を行った。XRDの測定結果を図5に示す。
【0087】
図5の結果から、加熱処理後の活物質を含む膜にはFeのピークと、ナシコン型LiFe(POのピークと、オリビン型LiFePOのピークと、が確認できる。したがって、この段階では、3価のFeが含まれると考察される。図5の結果から、活物質を含む膜に含有されるFeの価数が2価から3価に変化したものも含み、活物質を含む膜を成膜した後、加熱処理を行うことで、活物質を含む膜が酸化されていることがわかる。
【符号の説明】
【0088】
101 放電曲線
103 充電曲線
105 プラトー
107 プラトー
109 プラトー
111 プラトー
113 プラトー
115 プラトー
201 集電体
203 活物質を含む膜
205 正極
301 電解質
303 負極
305 セパレータ
307 活物質を含む膜
309 集電体
311 電源
313 リチウムイオン
315 電子
317 負荷
401 放電曲線
403 充電曲線
405 放電曲線
407 充電曲線
409 プラトー
411 プラトー
413 プラトー
415 プラトー
417 プラトー
419 プラトー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、前記正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有し、
前記正極の放電曲線は、複数のプラトーを有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
正極と、前記正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有し、
前記正極の充電曲線は、複数のプラトーを有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項3】
正極と、前記正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有する蓄電装置の作製方法であって、
前記正極の作製工程は、集電体上にLiFePOをターゲットとしたスパッタリング法を用いて活物質を含む膜を形成した後、前記活物質を含む膜に加熱処理を行う工程を有し、
前記正極の放電曲線は、複数のプラトーを有することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項4】
正極と、前記正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有する蓄電装置の作製方法であって、
前記正極の作製工程は、集電体上にLiFePOをターゲットとしたスパッタリング法を用いて活物質を含む膜を形成した後、前記活物質を含む膜に加熱処理を行う工程を有し、
前記正極の充電曲線は、複数のプラトーを有することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4において、
前記加熱処理は、450℃以上700℃以下、且つ、30分以上40時間以下で行うことを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5のいずれか一において、
前記加熱処理後の前記活物質は、3価のFeを含むことを特徴とする蓄電装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−222497(P2011−222497A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61943(P2011−61943)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】