説明

薄肉成形体の製造方法

【課題】 メタクリル樹脂組成物からなる成形体であって、厚さが1mm以下でありながら、耐衝撃性、とりわけ面衝撃強度に優れる薄肉成形体を作製することができる、薄肉成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 メタクリル樹脂組成物からなる厚さ1mm以下の薄肉成形体の製造方法であって、前記メタクリル樹脂組成物を溶融した後、1〜15mL/秒の射出速度で金型に射出することを特徴とする。前記メタクリル樹脂組成物は、該組成物総量に対し、40〜90重量%のメタクリル樹脂と10〜60重量%のゴム粒子とを含むものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル樹脂組成物からなる厚さ1mm以下の薄肉成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂組成物からなる成形体は、例えば、ノート型パソコンや携帯電話といった情報機器における表示部を構成する部材等として利用されているが、近年、これら情報機器の軽量化・薄型化に伴い、前記部材にも薄肉化が求められている。具体的には、かかる部材として用いられるメタクリル樹脂組成物成形体の厚さは、例えば1mm以下といった薄肉であることが要望されている。
このような薄肉化された成形体は、通常、メタクリル樹脂組成物を射出成形することにより製造されており、例えば、所定のメタクリル樹脂組成物を溶融した後、80mm/秒または100mm/秒の射出速度で金型に射出する方法(特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−80940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の方法で得られる薄肉成形体は、厚さが薄い故に耐衝撃性、とりわけ面衝撃強度の点で、必ずしも満足のいくものではなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、メタクリル樹脂組成物からなる成形体であって、厚さが1mm以下でありながら、耐衝撃性、とりわけ面衝撃強度に優れる薄肉成形体を作製することができる、薄肉成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった。その結果、メタクリル樹脂組成物を1mm以下の厚さに射出成形する際には、樹脂組成物の射出速度を1〜15mL/秒と通常よりも遅い速度に制御することにより、耐衝撃性(とりわけ面衝撃強度)を向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)メタクリル樹脂組成物からなる厚さ1mm以下の薄肉成形体の製造方法であって、前記メタクリル樹脂組成物を溶融した後、1〜15mL/秒の射出速度で金型に射出することを特徴とする薄肉成形体の製造方法。
(2)前記メタクリル樹脂組成物が、該組成物総量に対し、40〜90重量%のメタクリル樹脂と10〜60重量%のゴム粒子とを含むものである前記(1)に記載の薄肉成形体の製造方法。
(3)前記メタクリル樹脂が、メタクリル酸メチルを単量体成分総量に対し85重量%以上含有する単量体成分の重合体である前記(1)又は(2)に記載の薄肉成形体の製造方法。
(4)前記単量体成分が、アクリル酸エステルをも含有する前記(3)に記載の薄肉成形体の製造方法。
(5)前記ゴム粒子が、アクリル系ゴム粒子である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の薄肉成形体の製造方法。
(6)前記メタクリル樹脂組成物が、該組成物総量に対し0.01〜0.1重量%の離型剤を含有する前記(1)〜(5)のいずれかに記載の薄肉成形体の製造方法。
(7)情報機器表示部の保護部材として用いる薄肉成形体を製造する前記(1)〜(6)のいずれかに記載の薄肉成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メタクリル樹脂組成物からなる成形体であって、厚さが1mm以下でありながら、耐衝撃性、とりわけ面衝撃強度に優れる薄肉成形体を、射出成形によって容易に製造することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の薄肉成形体の製造方法(以下「本発明の製造方法」と称する)は、メタクリル樹脂組成物を特定の射出速度で射出成形するものである。
本発明の製造方法において、射出成形に供するメタクリル樹脂組成物は、特に制限されないが、メタクリル樹脂を必須成分とし、さらにゴム粒子をも含むものであることが好ましい。このようにメタクリル樹脂にゴム粒子を加えた組成物を用いることにより、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0010】
前記メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチルを含む単量体成分を重合してなる重合体であれば、特に制限されないが、好ましくは、メタクリル酸メチルを85重量%以上含有する単量体成分の重合体であるのがよい。この単量体成分は、さらにアクリル酸エステルを含有するものであってもよい。詳しくは、前記メタクリル樹脂を構成する好ましい単量体成分は、メタクリル酸メチルを必須とし、必要に応じて、アクリル酸エステルと、メタクリル酸メチルまたはアクリル酸エステルと共重合可能な単量体(以下「共重合可能な他の単量体」と称する)とを含みうるものである。なお、メタクリル樹脂は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
前記アクリル酸エステルとしては、特に制限はないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸シクロペンタジエン等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸メチルやアクリル酸エチルが好ましい。なお、前記アクリル酸エステルは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0012】
前記単量体成分がアクリル酸エステルを含有する場合、単量体成分中に占めるアクリル酸エステルの含有割合は、15重量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10重量%である。アクリル酸エステルが15重量%以上になると、得られる薄肉成形体が高温多湿な環境下での使用時にその形状を維持しうるだけの充分な耐熱性を有さないことになる場合がある。
【0013】
前記共重合可能な他の単量体としては、特に制限はなく、例えば、ラジカル重合可能な二重結合を1個有する単官能単量体や、ラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体が挙げられる。具体的には、ラジカル重合可能な二重結合を1個有する単官能単量体としては、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロペンタジエン等のメタクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸の酸無水物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の窒素含有モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;等が挙げられ、ラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレートの如きグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル;アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルの如き不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートの如き多塩基酸のポリアルケニルエステル;トリメチロールプロパントリアクリレートの如き多価アルコールの不飽和カルボン酸エステル;ジビニルベンゼン;等が挙げられる。なお、前記共重合可能な他の単量体は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0014】
なお、前記単量体成分が共重合可能な他の単量体として前記多官能単量体を含有する場合には、単量体成分中に占める前記多官能単量体の含有割合は、メタクリル樹脂組成物の流動性を維持できる範囲内で適宜調整される。
【0015】
前記単量体成分を重合してメタクリル樹脂を得る際の重合方法については、特に制限はなく、例えば、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、乳化重合などの公知の重合法を採用することができる。
【0016】
前記ゴム粒子としては、例えば、アクリル系、ブタジエン系、スチレン−ブタジエン系、オレフィン系の各ゴム粒子を用いることができるが、中でも、アクリル系ゴム粒子が好ましく用いられる。なお、ゴム粒子は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記アクリル系ゴム粒子は、例えば、アルキル基の炭素数が4〜8であるアクリル酸アルキルと多官能単量体とを、必要に応じて他の単官能単量体とともに、共重合させてなる弾性重合体(ゴム弾性体)を含有するものであるのがよい。ここで用いられる多官能単量体は、1分子中に少なくとも2個の重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物であり、例えば、メタクリル樹脂を構成する単量体成分のうち前記共重合可能な他の単量体として上述したラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体と同様のものが挙げられる。また、任意に共重合成分とされる他の単官能単量体としては、例えば、スチレン、核アルキル置換スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル等が挙げられる。なお、アクリル酸アルキル、多官能単量体および他の単官能単量体は、それぞれ、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0018】
前記アクリル系ゴム粒子は、上述した弾性重合体からなる単層のアクリル系ゴム粒子であってもよいし、弾性重合体からなる少なくとも一つの層(弾性重合体層)と、例えばメタクリル酸メチルを主体とする単量体成分を重合させてなる硬質重合体からなる少なくとも一つの層(硬質重合体層)とを含む多層構造のアクリル系ゴム粒子であってもよいが、好ましくは、多層構造を有するアクリル系ゴム粒子であるのがよい。
【0019】
前記アクリル系ゴム粒子が多層構造を有する場合、その層構成は、特に限定されず、例えば、内層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる2層構造、内層(硬質重合体層)/外層(弾性重合体層)からなる2層構造、内層(硬質重合体層)/中間層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる3層構造、内層(弾性重合体層)/中間層(硬質重合体層)/外層(弾性重合体層)からなる3層構造、内層(弾性重合体層)/内層側中間層(硬質重合体層)/外層側中間層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる4層構造等が挙げられる。これら層構造の中でも特に、最外層(外層)が硬質重合体層である層構造が、メタクリル樹脂との混和性に優れる点で好ましい。また、得られる成形体の表面硬度が必要とされる場合には、内層(硬質重合体層)/中間層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる3層構造が好適である。また、内層(硬質重合体層)/中間層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる3層構造のアクリル系ゴム粒子においては、内層の硬質重合体層を形成する際に、単量体成分としてメタクリル酸メチルとともに少量の多官能単量体(例えば、メタクリル樹脂を構成する単量体成分のうち前記共重合可能な他の単量体として上述したラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体)を用いることにより、内層を架橋された硬質重合体で構成することが好ましい。かかる3層構造のアクリル系ゴム粒子は、例えば、特公昭55−27576号公報(米国特許第3793402号明細書)等に記載の公知の方法によって製造することができる。
【0020】
前記アクリル系ゴム粒子の粒子径は、数平均径で、下限が、通常50nm以上、好ましくは80nm以上、より好ましくは150nm以上であり、上限が、通常500nm以下、好ましくは350nm以下、より好ましくは300nm以下である。アクリル系ゴム粒子の平均粒径が前記範囲よりも小さすぎると、得られる成形体の耐衝撃性が不充分となるおそれがあり、一方、前記範囲よりも大きすぎると、得られる成形体の透明性が低下する傾向がある。
【0021】
なお、多層構造のアクリル系ゴム粒子のうち、最外層(外層)が硬質重合体層である層構造を有するアクリル系ゴム粒子を用いる場合、最外層(外層)の硬質重合体層は、樹脂組成物に含まれるメタクリル樹脂と混和するため、最外層(外層)の硬質重合体層を除いた粒子の粒子径(換言すれば、最も外側にある弾性重合体層の径であり、例えば、内層(硬質重合体層)/中間層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる3層構造のアクリル系ゴム粒子であれば、内層の硬質重合体層と中間層の弾性重合体層とからなる粒子の径に該当する)がアクリル系ゴム粒子の粒子径に相当するものとし、これが上述した数平均径の範囲であることが好ましい。
【0022】
最外層(外層)が硬質重合体層である層構造を有するアクリル系ゴム粒子を用いる場合、最外層(外層)の硬質重合体層を除いた粒子の粒子径は、例えば、当該アクリル系ゴム粒子を樹脂組成物に含有させるメタクリル樹脂と混合し、その断面において酸化ルテニウムによる弾性重合体層への染色を施した後、電子顕微鏡で観察すればよい。そうすると、当該アクリル系ゴム粒子は最外層(外層)を除いた状態のほぼ円形状の粒子として観察されることになり、例えば、内層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる2層構造のアクリル系ゴム粒子であれば、内層の弾性重合体層のみが染色されて単層構造の粒子として観察され、内層(硬質重合体層)/中間層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる3層構造のアクリル系ゴム粒子であれば、内層である粒子中心部分の硬質重合体層は染色されず、中間層の弾性重合体層のみが染色された2層構造の粒子として観察される。
【0023】
前記好ましいメタクリル樹脂組成物において、前記メタクリル樹脂の含有量は、組成物総量に対して40〜90重量%であり、前記ゴム粒子の含有量は、組成物総量に対して10〜60重量%であるのがよい。より好ましくは、前記メタクリル樹脂の含有量は、組成物総量に対して40〜70重量%であるのがよく、前記ゴム粒子の含有量は、組成物総量に対して30〜60重量%であるのがよい。ゴム粒子の含有量が10重量%未満であると、得られる成形体の耐衝撃性の向上効果が不充分となるおそれがあり、一方、60重量%を超えると、得られる成形体の耐衝撃性は高くなるが、耐熱性、表面硬度および透明性が低下する傾向がある。しかも、ゴム粒子の含有量が60重量%を超えると、メタクリル樹脂組成物の流動性が低下するため、射出成形に供する際の成形加工性が損なわれるおそれもある。また、メタクリル樹脂の含有量が40重量%未満であると、相対的にゴム粒子の含有量が増えることになる結果、樹脂組成物の流動性が低下し、射出成形に供する際の成形加工性が損なわれることがあり、一方、90重量%を超えると、相対的にゴム粒子の含有量が少なくなるため、得られる成形体の耐衝撃性が不充分となるおそれがある。なお、2種以上のメタクリル樹脂またはゴム粒子を用いる場合には、それぞれ2種以上の合計量が前記範囲になるようにすればよい。
【0024】
前記メタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂組成物総量に対して0.01〜0.1重量%の離型剤を含有することが好ましい。より好ましくは、離型剤の含有量はメタクリル樹脂組成物総量に対して0.05〜0.1重量%であるのがよい。離型剤を含有させることにより、得られた成形体を金型から離型する際の離型性を向上させることができる。離型剤の添加方法としては、予めメタクリル樹脂に添加しておいてもよいし、メタクリル樹脂とゴム粒子とを混合する際に併せて添加してもよい。
【0025】
前記離型剤としては、特に制限されないが、例えば、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩等が挙げられる。なお、離型剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0026】
前記高級脂肪酸エステルとしては、具体的には、例えば、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸ブチル、ラウリン酸オクチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸ブチル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、ベヘン酸メチル、ベヘン酸エチル、ベヘン酸プロピル、ベヘン酸ブチル、ベヘン酸オクチルの如き飽和脂肪酸アルキル;オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸プロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸オクチル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸プロピル、リノール酸ブチル、リノール酸オクチルの如き不飽和脂肪酸アルキル;ラウリン酸モノグリセリド、ラウリン酸ジグリセリド、ラウリン酸トリグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、パルミチン酸ジグリセリド、パルミチン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ベヘン酸モノグリセリド、ベヘン酸ジグリセリド、ベヘン酸トリグリセリドの如き飽和脂肪酸グリセリド;オレイン酸モノグリセリド、オレイン酸ジグリセリド、オレイン酸トリグリセリド、リノール酸モノグリセリド、リノール酸ジグリセリド、リノール酸トリグリセリドの如き不飽和脂肪酸グリセリド;等が挙げられる。これらの中でも、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド等が好ましい。
【0027】
前記高級脂肪族アルコールとしては、具体的には、例えば、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコールの如き飽和脂肪族アルコール;オレイルアルコール、リノリルアルコールの如き不飽和脂肪族アルコール;等が挙げられる。これらの中でも、ステアリルアルコールが好ましい。
前記高級脂肪酸としては、具体的には、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、12−ヒドロキシオクタデカン酸の如き飽和脂肪酸;パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、セトレイン酸、エルカ酸、リシノール酸の如き不飽和脂肪酸;等が挙げられる。
【0028】
前記高級脂肪酸アミドとしては、具体的には、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドの如き飽和脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、リノール酸アミド、エルカ酸アミドの如き不飽和脂肪酸アミド;エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、N−オレイルステアロアミドの如きアミド類;等が挙げられる。これらの中でも、ステアリン酸アミドやエチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
前記高級脂肪酸金属塩としては、例えば、上述した高級脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等が挙げられる。
【0029】
前記メタクリル樹脂組成物には、射出温度を高めにする場合には、熱安定化剤を含有させることが好ましい。熱安定化剤を含有させる場合、その含有量は特に制限されるものではなく、通常、メタクリル樹脂組成物総量に対して10〜5000重量ppm程度である。
前記熱安定化剤としては、特に制限されないが、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、リン系化合物などが挙げられる。なお、熱安定化剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0030】
前記メタクリル樹脂組成物には、さらに必要に応じて、紫外線吸収剤、光拡散剤、帯電防止剤などの各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させてもよい。
前記メタクリル樹脂組成物は、3.8kg荷重で測定した230℃におけるMFRが0.5〜35g/10分であることが好ましい。前記MFRは、より好ましくは1〜10g/10分であるのがよい。
【0031】
本発明の製造方法においては、前記メタクリル樹脂組成物を射出成形する。具体的には、前記メタクリル樹脂組成物を成形材料とし、これを溶融状態で所定の厚みの金型に射出(充填)し、次いで冷却後、成形された成形体を金型から取り出せばよい。
【0032】
本発明の製造方法においては、前記メタクリル樹脂組成物を金型に射出する際の射出速度を1〜15mL/秒に制御することが重要であり、好ましくは10〜15mL/秒に制御するのがよい。このように射出速度を1〜15mL/秒に制御することにより、得られる成形体の耐衝撃性(とりわけ面衝撃強度)を向上させることができる。射出速度が1mL/秒未満であると、金型への射出(充填)に長時間を要することになり生産性が低下し、一方、15mL/秒を超えると、充分な耐衝撃性が得られない。
【0033】
前記メタクリル樹脂組成物を金型に射出する際の射出温度は、特に限定されないが、金型への充填性を考慮すると、通常220℃以上、好ましくは240℃以上であるのがよく、とりわけ260℃以上であると耐衝撃性の点で好ましい。一方、300℃を超えると、樹脂の熱分解や熱劣化によって得られる成形体にシルバーなどの形成不良や着色が生じるおそれがあるため、射出温度の上限は300℃以下とすることが好ましい。なお、ここで言う射出温度とは、射出成形機のシリンダーの先端の温度を意味する。
【0034】
前記メタクリル樹脂組成物を射出する際の金型温度は、特に制限されないが、通常60〜100℃とするのが一般的である。金型温度が高すぎると、成形体が冷却されるまでに長時間を要することになるので生産性が低下するおそれがあり、一方、金型温度が低すぎると、樹脂組成物を金型に充分に充填することができないため、成形体を得ることができないおそれがある。
本発明の製造方法で使用する金型は、厚さ1mm以下の成形体が得られるような所定の厚みを有するものである。金型のキャビティサイズは、例えば、面衝撃性試験に使用される試験片(50mm×50mm)よりも大きいサイズであればよい。金型のゲートの構造は、サイドゲート、ファンゲートのいずれの構造であってもよい。金型の厚みは薄いほど良いのであるが、通常、射出成形においては厚さ0.5mmの成形体が得られる程度の厚みが限界である。
【0035】
前記メタクリル樹脂組成物を金型に射出するに際しては、具体的には、例えば、前記メタクリル樹脂組成物をホッパーから投入し、スクリューを回転させながら後退させて、シリンダー内に樹脂組成物を計量し、該樹脂組成物を所定の温度(射出温度)で溶融させ、溶融した樹脂組成物を圧力をかけながら金型内に充填すればよい。そして、金型が充分に冷めるまで一定時間保圧した後、型を開いて成形体を剥離することにより、薄肉成形体が得られる。
【0036】
本発明の製造方法により得られる成形体は、メタクリル樹脂組成物からなる厚さ1mm以下の薄肉成形体であって、その厚さが1mm以下でありながら、高い耐衝撃性(とりわけ面衝撃強度)を有するものである。したがって、本発明の製造方法により得られる薄肉成形体は、例えばノート型パソコンや携帯電話といった情報機器における表示部の保護部材(具体的には、表示部の保護窓や枠体など)として好適に用いられる。
【0037】
なお、本発明の製造方法により得られる薄肉成形体は、実質的に成形体全体が厚さ1mm以下になるものであるが、本発明の効果が発現される範囲において、成形体のごく一部が厚さ1mmを超えるものであってもよい。また、本発明の製造方法により得られる薄肉成形体は、その厚みが均一であってもよいし、不均一であってもよく、また、平面的なものであってもよいし、立体的なものであってもよい。このように、所望の厚みや形状に調節することが可能であるため、本発明の製造方法は前述した保護部材を得る方法として好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
なお、得られた成形体の面衝撃強度は下記の方法で評価した。
<面衝撃強度(50%破壊エネルギー)>
得られた薄肉成形体から縦50mm×横50mmの大きさの試験片を切り出し、JIS−K7211に準拠し、デュポン式落下試験機(安田精機製作所製)を用いてデュポン式落下衝撃試験を行い、面衝撃強度(50%破壊エネルギー)を測定した。このとき、測定条件は、撃ち径:6.4mmφ、重り:100g〜300gを選択、測定温度:23℃、とした。
【0039】
(製造例1−メタクリル樹脂(a)の調製)
メタクリル酸メチル95重量%とアクリル酸メチル5重量%とからなる単量体成分を連続バルク重合法にて重合させて、ペレット状のメタクリル樹脂(a)を得た。なお、重合の際に、離型剤としてステアリルアルコールを0.1重量部(メタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルの合計100重量に対して)を添加した。このメタクリル樹脂(a)のMFRを230℃、3.8kg荷重で測定したところ、5.0であった。
【0040】
(製造例2−メタクリル樹脂(b)の調製)
メタクリル酸メチル98重量%とアクリル酸メチル2重量%とからなる単量体成分を連続バルク重合法にて重合させて、ペレット状のメタクリル樹脂(b)を得た。なお、重合の際に、離型剤としてステアリン酸モノグリセライド0.04重量部およびステアリン酸アミド0.06重量部(いずれも、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルの合計100重量に対して)を添加した。このメタクリル樹脂(b)のMFRを230℃、3.8kg荷重で測定したところ、2.0であった。
【0041】
(製造例3−アクリル系ゴム粒子の調製)
まず、メタクリル酸メチル93.8重量%とアクリル酸メチル6重量%とメタクリル酸アリル0.2重量%とからなる単量体成分を乳化重合法にて重合させて、硬質重合体からなる内層を形成し、次いで、アクリル酸ブチル81重量%とスチレン17重量%とメタクリル酸アリル2重量%とからなる単量体成分を乳化重合法にて重合させて、弾性重合体からなる中間層を形成し、次いで、メタクリル酸メチル94重量%とアクリル酸メチル6重量%とからなる単量体成分を乳化重合法にて重合させて、硬質重合体からなる外層を形成することにより、球形3層構造のアクリル系ゴム粒子を得た。なお、アクリル系ゴム粒子を構成する各層の割合、すなわち内層/中間層/外層(重量比)は35/45/20(重量比)となるようにした。
得られたアクリル系ゴム粒子の数平均径を、以下のようにして測定したところ、220nmであった。
【0042】
<アクリル系ゴム粒子の数平均径の測定方法>
測定対象であるアクリル系ゴム粒子をメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、得られたフィルムを適当な大きさに切り出し、切片を0.5重量%四酸化ルテニウム水溶液中に室温で15時間浸漬することにより、ゴム粒子中の弾性重合体層を染色した。次いで、染色後の切片をミクロトームを用いて約80nmの厚さにスライスして、その切断面を透過型電子顕微鏡にて撮影した。そして、得られた電子顕微鏡写真から無作為に100個の染色された弾性重合体層を選択して、各々の径を測定し、それらの平均値を数平均径とした。
【0043】
(実施例1)
製造例1で得たメタクリル樹脂(a)を30重量部と、製造例2で得たメタクリル樹脂(b)を50重量部と、製造例3で得たアクリル系ゴム粒子を20重量部と、離型剤としてステアリルアルコールを0.075重量部と、熱安定化剤として2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを0.035重量部とを、押出機を用いて溶融混練し、メタクリル樹脂組成物を得た。このメタクリル樹脂組成物のMFRを230℃、3.8kg荷重で測定したところ、2.0であった。
次に、得られたメタクリル樹脂組成物を用いて、射出成形機(FANUC社製「150D」)にて射出成形を行った。すなわち、得られたメタクリル樹脂組成物を260℃の射出温度にて溶融し、60℃の金型温度に設定した金型に射出速度10mL/秒で射出することにより、縦50mm×横90mm×厚さ1mmの薄肉成形体を得た。この薄肉成形体の面衝撃強度を表1に示す。
【0044】
(実施例2)
製造例1で得たメタクリル樹脂(a)100重量部を単独でメタクリル樹脂組成物として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、縦50mm×横90mm×厚さ1mmの薄肉成形体を得た。この薄肉成形体の面衝撃強度を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
製造例1で得たメタクリル樹脂(a)100重量部を単独でメタクリル樹脂組成物として用いるとともに、射出速度を10mL/秒から30mL/秒に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、縦50mm×横90mm×厚さ1mmの薄肉成形体を得た。この薄肉成形体の面衝撃強度を表1に示す。
【0046】
(比較例2)
製造例1で得たメタクリル樹脂(a)100重量部を単独でメタクリル樹脂組成物として用いるとともに、射出速度を10mL/秒から60mL/秒に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、縦50mm×横90mm×厚さ1mmの薄肉成形体を得た。この薄肉成形体の面衝撃強度を表1に示す。
【0047】
(比較例3)
射出速度を10mL/秒から60mL/秒に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、縦50mm×横90mm×厚さ1mmの薄肉成形体を得た。この薄肉成形体の面衝撃強度を表1に示す。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル樹脂組成物からなる厚さ1mm以下の薄肉成形体の製造方法であって、
前記メタクリル樹脂組成物を溶融した後、1〜15mL/秒の射出速度で金型に射出することを特徴とする薄肉成形体の製造方法。
【請求項2】
前記メタクリル樹脂組成物が、該組成物総量に対し、40〜90重量%のメタクリル樹脂と10〜60重量%のゴム粒子とを含むものである請求項1に記載の薄肉成形体の製造方法。
【請求項3】
前記メタクリル樹脂が、メタクリル酸メチルを単量体成分総量に対し85重量%以上含有する単量体成分の重合体である請求項1又は2に記載の薄肉成形体の製造方法。
【請求項4】
前記単量体成分が、アクリル酸エステルをも含有する請求項3に記載の薄肉成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ゴム粒子が、アクリル系ゴム粒子である請求項1〜4のいずれかに記載の薄肉成形体の製造方法。
【請求項6】
前記メタクリル樹脂組成物が、該組成物総量に対し0.01〜0.1重量%の離型剤を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の薄肉成形体の製造方法。
【請求項7】
情報機器表示部の保護部材として用いる薄肉成形体を製造する請求項1〜6のいずれかに記載の薄肉成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−25458(P2011−25458A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171589(P2009−171589)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】