説明

薄膜の製造方法、薄膜および薄膜の製造装置

【課題】薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を均一かつ効率的に形成することが可能な薄膜の製造方法、薄膜の製造装置およびこれにより製造された薄膜を提供する。
【解決手段】薄膜の製造方法は、レーザ光が入射窓31を通してターゲット81に照射される工程と、レーザ光が照射されたターゲット81からターゲット粒子89が飛散する工程と、ターゲット粒子89が基板82上に堆積することにより、基板82上に薄膜83が形成される工程とを備えている。そして、レーザ光が照射される工程では、入射窓31からターゲット81に向かうレーザ光の行路91において、ターゲット81から入射窓31に向かう向きとは異なる向きである矢印92の向きに気体が流される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜の製造方法、薄膜および薄膜の製造装置に関し、より特定的には、レーザ光をターゲットに照射することにより基板上に形成される薄膜、レーザ光をターゲットに照射することにより基板上に薄膜を形成する薄膜の製造方法およびこれに適した薄膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に薄膜を形成する方法として、たとえばレーザ蒸着法などのように、ターゲットにレーザ光が照射され、当該ターゲットから飛散した粒子が基板上に堆積することにより、基板上に薄膜が形成される方法が採用される場合がある。この場合、レーザ光は、レーザ光を透過する素材からなる入射窓を通してターゲットに照射されることが多い。このような薄膜の製造方法では、ターゲットにレーザが照射されると、ターゲットから飛散した粒子は、基板上だけでなく上記入射窓にも付着する。そして、入射窓に付着した当該粒子は、レーザ光の透過を阻害する。そのため、ターゲットに到達するレーザ光のエネルギーが低下し、薄膜を均一かつ効率的に形成することができないという問題があった。
【0003】
これに対し、入射窓とターゲットとの間に、成膜中に移動可能であり、かつレーザ光を透過する板材を配置する方法が提案されている。これにより、ターゲットから飛散した粒子は、入射窓に付着する前に当該板材に捕捉される。そして、この板材を成膜中に移動させて、レーザ光が板材の清浄な領域(ターゲットから飛散した粒子が付着していない領域)を透過するようにすることで、ターゲットに到達するレーザ光のエネルギーが低下することを抑制することができる(たとえは、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−52741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、レーザ光の行路においてレーザ光を透過する部材に、ターゲットから飛散した粒子が付着すること自体が抑制されるものではない。したがって、ターゲットから飛散した粒子の上記板材への付着に応じて、当該板材を移動させる必要がある。そのため、特に、長尺の薄膜超電導線材の作製や大面積の超電導薄膜の作製など、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合、薄膜を均一かつ効率的に形成できないという問題が十分に解決されるものではなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を均一かつ効率的に形成することが可能な薄膜の製造方法および薄膜の製造装置を提供すること、さらには均一かつ効率的に製造された薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従った薄膜の製造方法は、レーザ光が入射窓を通してターゲットに照射される工程と、レーザ光が照射されたターゲットからターゲットを構成する物質の粒子であるターゲット粒子が飛散する工程と、ターゲット粒子が基板上に堆積することにより、基板上に薄膜が形成される工程とを備えている。そして、レーザ光が照射される工程では、入射窓からターゲットに向かうレーザ光の行路において、ターゲットから入射窓に向かう向きとは異なる向きに気体が流される。
【0007】
本発明の薄膜の製造方法では、レーザ光が照射される工程において、レーザ光の行路に、ターゲットから入射窓に向かう向きとは異なる向きに気体が流される。そのため、レーザ光の照射によりターゲットから飛散した粒子であるターゲット粒子が入射窓に向かって移動することが、当該気体の流れにより阻害される。その結果、本発明の薄膜の製造方法によれば、ターゲット粒子が入射窓に付着すること自体が抑制されるため、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を均一かつ効率的に形成することが可能となる。
【0008】
上記薄膜の製造方法において好ましくは、レーザ光が照射される工程では、入射窓からターゲットに向かうレーザ光の行路において、上記気体は、入射窓からターゲットに向かう向きの成分を有するように流される。
【0009】
上記気体が、入射窓からターゲットに向かう向きの速度成分を有するように流されることにより、ターゲット粒子の、ターゲットから入射窓に向かう速度成分を減少させることができる。その結果、ターゲット粒子が入射窓に付着することがさらに抑制されるため、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を一層均一かつ効率的に形成することが可能となる。
【0010】
上記薄膜の製造方法において好ましくは、レーザ光が照射される工程では、入射窓からターゲットに向かうレーザ光の行路において、気体の流速のうち入射窓からターゲットに向かう向きの成分が16.7cm/分以上である領域が形成される。
【0011】
本発明者は、レーザ光の行路における気体の流れとターゲットに到達するレーザのエネルギーの経時的な低下率との関係について、検討を行なった、その結果、レーザ光の行路において、気体の流速のうち入射窓からターゲットに向かう向きの成分が16.7cm/分以上である領域が形成されることにより、ターゲットに到達するレーザのエネルギーの低下率が大幅に抑制可能であることを見出した。そのため、上記構成によれば、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜をさらに均一かつ効率的に形成することが可能となる。
【0012】
上記薄膜の製造方法において好ましくは、レーザ光が照射される工程では、貫通孔を有するガイド部材の貫通孔を通してレーザ光が照射される。
【0013】
上記構成によれば、レーザ光の行路がガイド部材により保護される。その結果、ターゲット粒子が入射窓に向かう経路が制限され、ターゲット粒子が入射窓に付着することがさらに抑制される。そのため、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜をさらに均一かつ効率的に形成することが可能となる。
【0014】
上記薄膜の製造方法において好ましくは、レーザ光が照射される工程では、上記気体は、上記ガイド部材の貫通孔を通して、入射窓からターゲットに向かう向きの成分を有するように流される。
【0015】
これにより、ターゲット粒子の、ターゲットから入射窓に向かう速度成分を減少させることができる。その結果、ターゲット粒子が入射窓に付着することがさらに抑制されるため、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を一層均一かつ効率的に形成することが可能となる。
【0016】
上記薄膜の製造方法において好ましくは、上記気体はプロセスガスである。上記気体として、薄膜の形成に本来必要のない気体を採用するのではなく、プロセスガスを採用することにより、薄膜の形成に悪影響を与えることなく、容易にターゲット粒子が入射窓に付着することを抑制することができる。ここで、プロセスガスとは、薄膜の製造過程において用いられるガス(気体)をいう。
【0017】
本発明に従った薄膜は、上述の薄膜の製造方法により製造されている。薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を均一かつ効率的に形成することが可能な上記薄膜の製造方法を用いて製造されていることにより、本発明の薄膜によれば、均一な厚みを有し、かつ低コストな薄膜を提供することができる。
【0018】
上記薄膜においては、当該薄膜は超電導材料からなっていてもよい。超電導材料からなる薄膜(超電導薄膜)には、厚みの均一性および低コスト化が要求される。そのため、超電導薄膜は、上記本発明の薄膜を適用することに好適である。
【0019】
上記薄膜においては、上記超電導材料をRE123とすることができる。RE123は、上記本発明の薄膜を構成する超電導材料として、特に好適である。なお、RE123とは、組成式REBaCuで表される超電導材料であり、REは希土類元素である。
【0020】
本発明に従った薄膜の製造装置は、成膜室と、当該成膜室に向けてレーザ光を出射するレーザ光源とを備えている。そして、成膜室は、レーザ光が透過する入射窓と、レーザ光を照射可能な位置にターゲットを保持するターゲット保持部と、ターゲット保持部に保持されたターゲットに対向する位置に基板を保持する基板保持部と、入射窓からターゲットに向かうレーザ光の行路において、ターゲットから入射窓に向かう向きとは異なる向きに気体が流れるように、成膜室に気体を流入させる気体流入部とを含んでいる。
【0021】
本発明の薄膜の製造装置においては、成膜室が、レーザ光の行路においてターゲットから入射窓に向かう向きとは異なる向きに気体が流れるように、成膜室に気体を流入させる気体流入部を含んでいる。そのため、ターゲット粒子が入射窓に向かって移動することが、当該気体の流れにより阻害される。その結果、本発明の薄膜の製造装置によれば、ターゲット粒子が入射窓に付着すること自体が抑制されるため、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を均一かつ効率的に形成することが可能となる。
【0022】
上記薄膜の製造装置において好ましくは、気体流入部は、入射窓からターゲットに向かうレーザ光の行路において、気体が入射窓からターゲットに向かう向きの成分を有して流れるように、気体を成膜室に流入させる。
【0023】
上記気体が入射窓からターゲットに向かう向きの速度成分を有するように流されることにより、ターゲット粒子の、ターゲットから入射窓に向かう速度成分を減少させることができる。その結果、ターゲット粒子が入射窓に付着することがさらに抑制されるため、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を一層均一かつ効率的に形成することが可能となる。
【0024】
上記薄膜の製造装置において好ましくは、成膜室は、入射窓からターゲットに向かうレーザ光の行路を取り囲む貫通孔を有するガイド部材をさらに含んでいる。
【0025】
上記構成によれば、レーザ光の行路がガイド部材により保護される。その結果、ターゲット粒子が入射窓に向かう経路が制限され、ターゲット粒子が入射窓に付着することがさらに抑制される。そのため、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜をさらに均一かつ効率的に形成することが可能となる。
【0026】
上記薄膜の製造装置において好ましくは、ガイド部材は、上記気体を、貫通孔を通して成膜室に流入させることにより、気体流入部として機能する。
【0027】
これにより、ターゲット粒子の、ターゲットから入射窓に向かう速度成分を減少させることができる。その結果、ターゲット粒子が入射窓に付着することがさらに抑制されるため、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を一層均一かつ効率的に形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
以上の説明から明らかなように、本発明の薄膜の製造方法および薄膜の製造装置によれば、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を均一かつ効率的に形成することができる。また、本発明の薄膜によれば、均一な厚みを有し、かつ低コストな薄膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
【0030】
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1における薄膜の製造装置の構成を示す概略図である。また、図2は、本発明の一実施の形態である実施の形態1における薄膜の製造方法の概略を示すフローチャートである。図1および図2を参照して、実施の形態1における薄膜の製造方法、薄膜および薄膜の製造装置について説明する。
【0031】
まず、図1を参照して、実施の形態1における薄膜の製造装置の構成について説明する。図1を参照して、実施の形態1における薄膜の製造装置としてのレーザ蒸着装置1は、成膜室3と、成膜室3に向けてレーザ光を出射するレーザ光源5とを備えている。成膜室3は、レーザ光が透過する入射窓31と、レーザ光を照射可能な位置にターゲット81を保持するターゲット保持部32と、ターゲット保持部32に保持されたターゲット81に対向する位置に基板82を保持する基板保持部33とを含んでいる。さらに、成膜室3は、入射窓31からターゲット81に向かうレーザ光の行路91において、ターゲット81から入射窓31に向かう向きとは異なる向きである矢印92の向きに気体が流れるように、成膜室3に気体を流入させる気体流入部34を含んでいる。
【0032】
より具体的には、気体流入部34は、入射窓31からターゲット81に向かうレーザ光の行路91において、気体が、入射窓31からターゲット81に向かう矢印92Aの向きの成分を有して流れるように、気体を成膜室3に流入させる構造を有している。別の観点から説明すると、気体流入部34の向き(気体の吐出方向)は、行路91に向かうとともに、行路91に垂直な平面より入射窓31側に傾いた位置からターゲット81に向かうようになっている。
【0033】
次に、上記図1のレーザ蒸着装置を用いた薄膜の製造方法について説明する。図2を参照して、実施の形態1における薄膜の製造方法においては、まず、レーザ光が入射窓を通してターゲットに照射されるレーザ光照射工程が実施される。具体的には、図1を参照して、レーザ光照射工程では、レーザ光源5から出射されたレーザ光が、入射窓31を通して、ターゲット保持部32に保持されたターゲット81に照射される。ここで、ターゲット81を構成する物質であるターゲット物質としては、たとえば超電導材料であるRE123としてのHoBaCuを採用することができる。
【0034】
次に、図2を参照して、レーザ光が照射されたターゲットからターゲットを構成するターゲット物質の粒子であるターゲット粒子が飛散するターゲット粒子飛散工程が実施される。具体的には、図1を参照して、ターゲット粒子飛散工程では、レーザ光が照射されたターゲット81からターゲット粒子89が飛散する。ここで、ターゲット81から飛散したターゲット粒子89のうち、一部のターゲット粒子89Aは基板82へと向かい、他の一部のターゲット粒子89Bは入射窓31へと向かう。
【0035】
次に、図2を参照して、ターゲット粒子が基板上に堆積することにより、基板上に薄膜が形成される堆積工程が実施される。具体的には、図1を参照して、たとえばHoBaCuからなるターゲット81が採用された場合、ターゲット81から基板82に向けて飛散したターゲット粒子89Aが、基板82上に堆積することにより、基板82上に超電導材料であるRE123としてのHoBaCuからなる薄膜83が形成される。ここで、上記レーザ光照射工程では、入射窓31からターゲット81に向かうレーザ光の行路91において、ターゲット81から入射窓31に向かう向きとは異なる向きである矢印92の向きに、たとえばプロセスガスである酸素ガスが流される。
【0036】
より具体的には、レーザ光照射工程では、入射窓31からターゲット81に向かうレーザ光の行路91において、上記酸素ガスなどの気体は、入射窓31からターゲット81に向かう矢印92Aの向きの成分を有するように流される。つまり、上記酸素ガスなどの気体のレーザ光の行路91における流速は、入射窓31からターゲット81に向かう矢印92Aの向きの成分と、これに直交する矢印92Bの向きの成分とを有している。
【0037】
本実施の形態におけるレーザ蒸着装置1を用いた薄膜の製造方法では、レーザ光照射工程において、レーザ光の行路91に、ターゲット81から入射窓31に向かう向きとは異なる矢印92の向き、より具体的には、入射窓31からターゲット81に向かう矢印92Aの向きの成分を有するように、プロセスガスである気体、たとえば酸素などが流される。そのため、レーザ光の照射によりターゲット81から飛散したターゲット粒子89Bが入射窓31に向かって移動することが、当該気体の流れにより阻害される。その結果、本実施の形態における薄膜の製造方法によれば、ターゲット粒子89Bが入射窓31に付着すること自体が抑制されるため、薄膜83の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜83を均一かつ効率的に形成することが可能となる。また、本実施の形態におけるレーザ蒸着装置1を用いた薄膜の製造方法により製造された薄膜83は、均一な厚みを有し、かつ低コストな薄膜となっている。
【0038】
また、上記実施の形態1の薄膜の製造方法においては、レーザ光照射工程では、入射窓31からターゲット81に向かうレーザ光の行路91において、酸素などの上記気体の流速のうち入射窓31からターゲット81に向かう矢印92Aの向きの成分が16.7cm/分以上である領域が形成されることが好ましい。より具体的には、図1を参照して、レーザ光の行路91と矢印92とが交差する領域において、酸素などの上記気体の流速のうち矢印92Aの向きの成分が、16.7cm/分以上となっていることが好ましい。
【0039】
これにより、ターゲット81に到達するレーザのエネルギーの低下率が大幅に抑制され、薄膜83の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜83をさらに均一かつ効率的に形成することができる。
【0040】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における薄膜の製造方法、薄膜および薄膜の製造装置について説明する。図3は、本発明の一実施の形態である実施の形態2における薄膜の製造装置の構成を示す概略図である。
【0041】
まず、実施の形態2における薄膜の製造装置の構成について説明する。図3を参照して、実施の形態2における薄膜の製造装置としてのレーザ蒸着装置1は、図1に基づいて説明した実施の形態1のレーザ蒸着装置1と、基本的には同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2におけるレーザ蒸着装置1は、成膜室3の構造において、実施の形態1とは一部異なっている。
【0042】
すなわち、実施の形態2における入射窓31は、レーザ光源5から出射されたレーザ光が透過する固定入射窓311と、固定入射窓311とターゲット保持部32との間に配置され、固定入射窓311を透過したレーザ光が透過する回転入射窓312とを含んでいる。回転入射窓312は、円盤状の形状を有しており、回転入射窓312を取り囲むように形成された回転入射窓保持室39内に配置されている。また、回転入射窓312には、棒状の形状を有する回転つまみ37がその中心を含む領域に接続されている。この回転つまみ37の、回転入射窓312に接続されている側とは反対側の端部には、保持部37Aが形成されている。回転つまみ37は、回転入射窓保持室39の壁面を貫通するとともに、回転入射窓保持室39の壁面との間に隙間を形成することなく、軸周りに回転可能となっている。そして、保持部37Aを保持して回転つまみ37を軸周りに回転させると、回転入射窓312が周方向に回転する。また、レーザ光源5から出射されたレーザ光は、回転入射窓312の中心以外の領域を透過するように、回転入射窓312は配置されている。
【0043】
さらに、成膜室3は、入射窓31からターゲット81に向かうレーザ光の行路91を取り囲む貫通孔を有するガイド部材35を含んでいる。そして、ガイド部材35は、回転入射窓保持室39に接続されている。また、回転入射窓保持室39には、気体供給部36が接続されている。その結果、気体供給部36の、回転入射窓保持室39に接続された側とは反対側の端部に接続された図示しない気体供給源から供給された気体(たとえば、酸素など)が、気体供給部36から回転入射窓保持室39の内部に供給され、さらにガイド部材35の貫通孔を通して成膜室3の内部に供給される構造を、成膜室3は有している。つまり、ガイド部材35は、酸素などの気体を、貫通孔を通して成膜室3に流入させることにより、気体流入部として機能する。
【0044】
すなわち、気体流入部としてのガイド部材35は、酸素などの気体がガイド部材35の貫通孔を通って入射窓31からターゲット81に向かう矢印92の向き向きの成分を有して流れるように、当該気体を成膜室3に流入させる。
【0045】
次に、上記図3のレーザ蒸着装置を用いた実施の形態2における薄膜の製造方法について説明する。実施の形態2における薄膜の製造方法は、図1および図2に基づいて説明した上記実施の形態1の薄膜の製造方法と基本的には同様に実施することができる。
【0046】
すなわち、図2を参照して、実施の形態2における薄膜の製造方法においても、実施の形態1と同様に、まず、レーザ光が入射窓を通してターゲットに照射されるレーザ光照射工程が実施される。具体的には、図3を参照して、レーザ光照射工程では、レーザ光源5から出射されたレーザ光が、入射窓31を通して、ターゲット保持部32に保持されたターゲット81に照射される。ここで、実施の形態2におけるレーザ光照射工程では、貫通孔を有する上記ガイド部材35の貫通孔を通してレーザ光が照射される。このとき、プロセスガスである酸素などの気体が、ガイド部材35の貫通孔を通して、入射窓31からターゲット81に向かう向きの成分を有するように流される。つまり、プロセスガスである酸素などの気体は、ガイド部材35の貫通孔を通して、入射窓31からターゲット81に向けて流される。
【0047】
実施の形態2におけるレーザ蒸着装置1を用いた薄膜の製造方法においては、上述のように、レーザ光の行路91がガイド部材35により保護される。その結果、レーザ光の照射により飛散したターゲット粒子89が入射窓31に向かう経路が制限され、ターゲット粒子89が入射窓31に付着することが抑制される。さらに、実施の形態2においては、プロセスガスである酸素などの気体が、ガイド部材35の貫通孔を通して、入射窓31からターゲット81に向かう成分を有するように、より具体的には入射窓31からターゲット81に向かう矢印92の向きに流される。そのため、ターゲット粒子89の、ターゲット81から入射窓31(回転入射窓312)に向かう速度成分を減少させることができる。その結果、ターゲット粒子89が入射窓31に付着することがさらに抑制される。さらに、ターゲット粒子89がガイド部材35の貫通孔を通して回転入射窓312に到達し、付着した場合でも、回転つまみ37を軸周りに回転させて回転入射窓312を周方向に回転させることにより、レーザ光が回転入射窓312の清浄な領域を透過するようにすることができる。そのため、ターゲット81に到達するレーザ光のエネルギーの低下を一層抑制することができる。以上のように、実施の形態2におけるレーザ蒸着装置1を用いた薄膜の製造方法によれば、薄膜の作製を長時間にわたって連続的に行なう必要がある場合でも、薄膜を一層均一かつ効率的に形成することが可能となる。
【0048】
なお、本発明の薄膜の製造方法および薄膜の製造装置においては、ターゲットからターゲット粒子を飛散させることが可能なエネルギーを有する種々のレーザを採用可能であるが、たとえばKrF、XeCl、ArFなどのエキシマレーザを採用することができる。さらに、入射窓へのターゲット粒子の付着を抑制するために流される気体としては、上述のように、酸化物超電導材料からなる薄膜を形成する場合、たとえばプロセスガスである酸素、アルゴン、窒素などを採用することができる。
【実施例1】
【0049】
以下、本発明の実施例1について説明する。入射窓からターゲットに向かうレーザ光の行路において、入射窓にターゲット粒子が付着することを防止するための気体の流速のうち、入射窓からターゲットに向かう向きの成分と、ターゲットに到達するレーザ光のエネルギーの低下率との関係を調査する実験を行なった。
【0050】
まず、実験の手順について説明する。薄膜の製造装置として、上記実施の形態2と同様のレーザ蒸着装置を使用した。ターゲットを構成する物質には、HoBaCuを採用した。また、レーザは、出射エネルギー1000mJ、繰り返し周波数150Hzのエキシマレーザとした。さらに、成膜室内の雰囲気は圧力200mTorrの酸素雰囲気とし、温度は750℃とした。そして、当該成膜室内において、基板となるベース線材を10m/時間の搬送速度で搬送しつつ、当該ベース線材上にHoBaCuからなる超電導薄膜を形成することにより、長さ100mの超電導線材を10時間かけて作製した。このとき、酸素ガスを入射窓側からターゲット側に向けて流速0〜83.3cm/分の一定の流速で流した。そして、各流速の場合について、成膜開始前および成膜完了後におけるターゲット上でのレーザのエネルギーを測定し、成膜開始前に対する成膜完了後のエネルギー低下率を算出した。なお、酸素ガスは、0〜500sccm(standard cc/min.)の流量で、断面積6cmの吐出口から成膜室の内部に向けて導入された。酸素ガスの流速は、この酸素ガスの流量を吐出口の断面積で除して算出された。
【0051】
次に、実験結果について説明する。図4は、酸素の流速とレーザのエネルギー低下率との関係を示す図である。図4において、横軸は、入射窓側からターゲット側に向かう酸素の流速であり、縦軸は、成膜開始前に対する成膜完了後のターゲット上におけるレーザのエネルギーの低下率を示している。なお、成膜開始前におけるターゲット上でのレーザのエネルギーは、酸素の流速にかかわらず、いずれも700mJであった。
【0052】
図4を参照して、入射窓側からターゲット側に向かう酸素の流速が0cm/分である場合、成膜完了時には、エネルギーが15.7%低下していた。これに対し、酸素の流速を8.3cm/分とすると、エネルギーの低下率は11.4%に抑制され、酸素の流速を16.7cm/分とすると、エネルギーの低下率は4.3%にまで大幅に抑制された。そして、酸素の流速を58.3cm/分とすると、エネルギーの低下率は1.4%にまでさらに抑制され、酸素の流速を83.3cm/分とすると、エネルギーの低下率は0.7%となった。
【0053】
以上の実験結果から、入射窓からターゲットに向かうレーザ光の行路において、入射窓にターゲット粒子が付着することを防止するための気体の流速のうち、入射窓からターゲットに向かう向きの成分は、8.3cm/分以上でエネルギーの低下率の抑制効果が明確であり、16.7cm/分以上で当該効果が大幅に向上することが確認された。さらに、当該気体の流速のうち、入射窓からターゲットに向かう向きの成分は、58.3cm/分以上が好ましく、83.3cm/分以上とすることがより好ましいといえる。
【0054】
なお、上述のように、上記気体の流速のうち、入射窓からターゲットに向かう向きの成分は、基本的には大きいほうが好ましい。
【0055】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の薄膜の製造方法、薄膜および薄膜の製造装置は、レーザ光をターゲットに照射することにより基板上に形成される薄膜、レーザ光をターゲットに照射することにより基板上に薄膜を形成する薄膜の製造方法、およびこれに使用される薄膜の製造装置に、特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施の形態1における薄膜の製造装置の構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態1における薄膜の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図3】実施の形態2における薄膜の製造装置の構成を示す概略図である。
【図4】酸素の流速とレーザのエネルギー低下率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 レーザ蒸着装置、3 成膜室、5 レーザ光源、31 入射窓、311 固定入射窓、312 回転入射窓、32 ターゲット保持部、33 基板保持部、34 気体流入部、35 ガイド部材、36 気体供給部、37 回転つまみ、37A 保持部、39 回転入射窓保持室、81 ターゲット、82 基板、83 薄膜、89,89A,89B ターゲット粒子、91 レーザ光の行路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光が入射窓を通してターゲットに照射される工程と、
前記レーザ光が照射された前記ターゲットから前記ターゲットを構成する物質の粒子であるターゲット粒子が飛散する工程と、
前記ターゲット粒子が基板上に堆積することにより、前記基板上に薄膜が形成される工程とを備え、
前記レーザ光が照射される工程では、前記入射窓から前記ターゲットに向かう前記レーザ光の行路において、前記ターゲットから前記入射窓に向かう向きとは異なる向きに気体が流される、薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ光が照射される工程では、前記入射窓から前記ターゲットに向かう前記レーザ光の行路において、前記気体は、前記入射窓から前記ターゲットに向かう向きの成分を有するように流される、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光が照射される工程では、前記入射窓から前記ターゲットに向かう前記レーザ光の行路において、前記気体の流速のうち前記入射窓から前記ターゲットに向かう向きの成分が16.7cm/分以上である領域が形成される、請求項2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記レーザ光が照射される工程では、貫通孔を有するガイド部材の前記貫通孔を通して前記レーザ光が照射される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光が照射される工程では、前記気体は、前記ガイド部材の前記貫通孔を通して、前記入射窓から前記ターゲットに向かう向きの成分を有するように流される、請求項4に記載の薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記気体はプロセスガスである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法により製造された、薄膜。
【請求項8】
超電導材料からなる、請求項7に記載の薄膜。
【請求項9】
前記超電導材料はRE123である、請求項8に記載の薄膜。
【請求項10】
成膜室と、
前記成膜室に向けてレーザ光を出射するレーザ光源とを備え、
前記成膜室は、
前記レーザ光が透過する入射窓と、
前記レーザ光を照射可能な位置にターゲットを保持するターゲット保持部と、
前記ターゲット保持部に保持された前記ターゲットに対向する位置に基板を保持する基板保持部と、
前記入射窓から前記ターゲットに向かう前記レーザ光の行路において、前記ターゲットから前記入射窓に向かう向きとは異なる向きに気体が流れるように、前記成膜室に前記気体を流入させる気体流入部とを含む、薄膜の製造装置。
【請求項11】
前記気体流入部は、前記入射窓から前記ターゲットに向かう前記レーザ光の行路において、前記気体が、前記入射窓から前記ターゲットに向かう向きの成分を有して流れるように、前記気体を前記成膜室に流入させる、請求項10に記載の薄膜の製造装置。
【請求項12】
前記成膜室は、前記入射窓から前記ターゲットに向かう前記レーザ光の行路を取り囲む貫通孔を有するガイド部材をさらに含む、請求項10または11に記載の薄膜の製造装置。
【請求項13】
前記ガイド部材は、前記気体を、前記貫通孔を通して前記成膜室に流入させることにより、前記気体流入部として機能する、請求項12に記載の薄膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−161807(P2009−161807A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151(P2008−151)
【出願日】平成20年1月4日(2008.1.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】