説明

薄膜の製造方法および薄膜製造装置

【課題】本発明は、ノジュールの発生に起因する薄膜の欠陥を減少できる、薄膜の製造方法および薄膜製造装置を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、ターゲット下部に配置した磁石を揺動させながらスパッタリングを行う薄膜の製造方法において、磁石の揺動範囲を段階的に狭める揺動範囲変更を行うことにより、ノジュールの発生に起因する薄膜の欠陥を減少させることを特徴とする薄膜の製造方法、および、ターゲット下部に配置した磁石を揺動させながらスパッタリングを行う薄膜製造装置において、前記磁石の揺動範囲を変更できる変更手段を有することを特徴とする薄膜製造装置を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石の揺動範囲を段階的に狭めることにより、ノジュールの発生に起因する薄膜の欠陥が減少された薄膜の製造方法および薄膜製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫等の薄膜は透明導電性を有していることから光センサー、撮影デバイス等の受光デバイスやタッチパネル、太陽電池等の分野をはじめ各分野で広く使用されている。このような薄膜を基材上に形成する方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(化学蒸着法)等がよく知られているが、緻密で密着性に優れた膜が形成でき、成膜材料の制約がないスパッタリングによるのが一般的である。
【0003】
従来のスパッタリング装置では各種方式の電極構造が提案されているが、その中で、工業的に、マグネトロン方式の電極構造が最も多く使用されている。その理由は、成膜速度が大きく生産性が高いためである。従来のマグネトロン方式の電極には、様々なタイプが存在するが、現在のところ、マグネトロン方式の電極の中で、特に平面形状を有するターゲットを備えた平板マグネトロンカソードが工業的に最も有用である。
【0004】
このような、マグネトロン方式には、磁石を固定した状態で用いる方法と、磁石を揺動させる方法がある。磁石が固定された状態でスパッタリングを行う場合は、ターゲット上のエロージョン領域の面積は、用いる磁石からなる磁場とほぼ同じ面積にしかならない。そのため、広いエロージョン領域を得たい場合は、用いる磁石を大型化しなければならない。近年、特に、液晶表示装置製造用として、大面積の基板上に均質で膜厚の分布が均一な成膜が要求されているが、その要求に応えるためには、薄膜製造装置を巨大化する必要があった。
【0005】
一方、磁石を揺動させる場合は、ターゲット上のエロージョン領域を、磁石が揺動する磁場の範囲まで広げられる。そのため、小さい磁石で、より広いエロージョン領域を得ることができ、浸食される箇所が移り変わることでターゲットの寿命を長くすることができる。
【0006】
しかし、スパッタリングを長時間継続して行うと、浸食されたターゲットの微粒子の一部が(以下、この微粒子をノジュールと呼ぶことがある)ターゲットの、浸食されるエロージョン領域の外周部である、浸食されない非エロージョン領域に付着する。その状態でスパッタリングを継続すると、非エロージョン領域に堆積していたノジュールが剥がれ落ちて、形成された薄膜に付着したり、薄膜にノジュールが接触して薄膜の一部が欠損し、ピンホールが生じたりするなどの不具合が発生する。それらの不具合を防止するためは、堆積したノジュールを除去する必要があり、ターゲットの寿命が残っているにもかかわらず、清掃のために生産を中止しなければならなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、スパッタリング法により薄膜を形成するに際して効率的に薄膜を製造することができる薄膜の製造方法及び薄膜製造装置を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明においては、ターゲット下部に配置した磁石を揺動させながらスパッタリングを行う薄膜の製造方法において、磁石の揺動範囲を段階的に狭める揺動範囲変更を行うことにより、ノジュールの発生に起因する薄膜の欠陥を減少させることを特徴とする薄膜の製造方法を提供する。
【0009】
本発明によれば、磁石の揺動範囲を段階的に狭める揺動範囲変更を行うことにより、ターゲットのノジュールが付着した非エロージョン領域近傍の浸食を防止することで、ノジュールが剥がれ落ちて薄膜に欠陥を生じさせるという不具合を防止することが可能となる。
【0010】
また、本発明を用いることにより、スパッタリングの開始から、ノジュールの除去清掃が必要になるまでの時間が大幅に延長されるので、清掃のために生産を停止する回数が減り、薄膜の製造の効率を大幅に向上させることができる。
【0011】
上記発明においては、前記磁石の揺動範囲変更量は、1回に5〜25mmの範囲内であることが好ましい。1回に狭められる揺動範囲変更量が上記範囲より小さいと、ノジュールが付着している領域からの距離が十分でない可能性があり、本発明の効果が十分に発揮されない場合がある。また、上記範囲より大きいと、浸食できる領域が狭くなってしまい、効率が低下する可能性がある。
【0012】
また、本発明においては、ターゲット下部に配置した磁石を揺動させながらスパッタリングを行う薄膜製造装置において、前記磁石の揺動範囲を変更できる変更手段を有することを特徴とする薄膜製造装置を提供する。このような薄膜製造装置を用いることにより、欠陥の発生率が低い、高品質な薄膜を効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薄膜の製造方法および薄膜製造装置によれば、ターゲット下部に配置した磁石を揺動させながらスパッタリングを行う薄膜の製造方法において、磁石の揺動範囲を段階的に狭める揺動範囲変更を行うことにより、ノジュールの発生に起因する薄膜の欠陥を減少させることができ、品質の良い薄膜を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、ターゲット下部に配置した磁石を揺動させながらスパッタリングを行う薄膜の製造方法において、磁石の揺動範囲を段階的に狭める揺動範囲変更を行うことにより、ノジュールの発生に起因する薄膜の欠陥を減少させることを特徴とする薄膜の製造方法、および薄膜製造装置に関するものである。以下、本発明の薄膜の製造方法、および薄膜製造装置について詳細に説明する。
【0015】
(薄膜の製造方法)
本発明における薄膜の製造方法は、ターゲットの非エロージョン領域に堆積したノジュールが剥がれ落ちて、薄膜に付着したり、薄膜に当たって薄膜にピンホールが開いたりする不具合を減少させるために、薄膜製造装置の磁石の揺動範囲を段階的に狭める揺動範囲変更を行うものである。磁石の揺動範囲を狭めて、ノジュールが堆積した非エロージョン領域から一定距離を保った領域で浸食を行うことで、上記不具合を大幅に減少することができる。以下、その製造方法について説明する。
【0016】
A.揺動範囲変更
図3(a)に示すように、本発明のスパッタリングに用いるターゲット1は、バッキングプレート2上に設けられている。上記ターゲット1の表面は、スパッタリングの際に浸食されるエロージョン領域3と、エロージョン領域3の外側に位置し、浸食されない非エロージョン領域4との2つの領域に分けることができる。スパッタリング装置の磁石が揺動し、浸食される領域がエロージョン領域3であり、ノジュールは、浸食されるエロージョン領域3の外周、つまり、非エロージョン領域4に堆積しやすい。
【0017】
そこで、本発明では、一定時間スパッタリングを行なってノジュールが堆積したら、図3(b)のように、エロージョン領域3を狭める揺動範囲変更を行い、そのノジュールが堆積した領域から一定の距離を保って浸食するようにする。この揺動範囲変更を複数回繰り返して行い、段階的に揺動範囲を狭めることで、ノジュールの除去清掃の必要回数を大幅に減らすことができ、品質の良い薄膜を効率よく製造することができる。
【0018】
前記磁石の揺動範囲変更量は、1回に5〜25mmの範囲内、より好ましくは10〜20mmの範囲内、特に好ましくは15〜20mmの範囲内である。1回に狭められる揺動範囲が上記範囲より小さいと、ノジュールが付着している領域からの距離が十分でない可能性があり、本発明の効果が十分に発揮されない場合がある。また、上記範囲より大きいと、浸食できる領域が狭くなってしまい、効率が低下する可能性がある。
【0019】
また、次の揺動範囲変更を行うまでの時間としては、装置の種類やスパッタリングの条件、ターゲットの材料等により大きく異なるものであるが、ノジュールの発生量や、薄膜の欠陥の発生率などから、一般的には50〜150時間、より好ましくは、80〜100時間おきに揺動範囲変更を行うことが好ましい。揺動範囲変更までの時間が上記範囲より短いと、エロージョン領域を有効に使えず、上記範囲より長いと、ノジュールが堆積している領域の近傍を浸食してしまい、本発明の効果が十分に得られない可能性があるからである。
【0020】
なお、上記揺動範囲変更は、エロージョン領域の横方向のみでも、縦方向のみでも、両方向ともに変更されてもよい。
【0021】
B.その他
本発明の製造方法に用いられるターゲットは特に限定されるものではないが、一般的には、クロム(Cr)やITO (Indium Tin Oxide) のものが好適に用いられる。
【0022】
また、バッキングプレートが浸食されるのを防止するために、ターゲットの外周付近は、浸食されない非エロージョン領域が設けてある。この非エロージョンの幅は、通常5〜15mm、より好ましくは5〜8mmである。非エロージョン領域の幅が上記範囲より狭いと、バッキングプレートが浸食されてしまうおそれがあり、上記範囲より広いと、ターゲットを有効に利用できない可能性があるからである。
【0023】
(薄膜製造装置)
次に、本発明の上記薄膜の製造方法を可能にする、薄膜製造装置について説明する。
【0024】
A.薄膜製造装置の構成
図1および図2に本発明の薄膜製造装置の一例を示す。この例の薄膜製造装置では、バッキングプレート2に支持されたターゲット1の背面(バッキングプレート2側)に平板状の磁石6が配置され、上記ターゲット1に対向するようにガラス基板5が配置される。このバッキングプレート2に電圧をかけると共に、バッキングプレート2の背面に配置した磁石6により、ターゲット1の表面に磁界を生じさせるように構成されている。この磁界と電界との作用によって、電子がサイクロン運動を起こし、ターゲット面内と磁界内に高密度のプラズマが生じ、ターゲットの磁界に囲まれた領域でエロージョンが進展する。その際、エロージョンをより広い領域で進展させるために、磁石6は磁石揺動範囲7内を揺動される。
【0025】
また、この例の薄膜製造装置には、真空チャンバ8と大気エリア9とが設けられており、この真空チャンバ8と大気エリア9とは、真空チャンバ壁10と、真空チャンバ壁10にインシュレータ11を介して取り付けられるバッキングプレート2によって隔てられている。真空チャンバ8の機密性を保持するために、真空チャンバ壁10とインシュレータ11との接触面、および、インシュレータ11とバッキングプレート2との接触面はシールされている。
【0026】
真空チャンバ8内をガラス基板5が図中の矢印12の方向に搬送され、搬送中にターゲット1からスパッタされて飛んできた微粒子がガラス基板5に堆積して、ガラス基板5上に薄膜が形成される。また、矢印13はガラス基板が搬送される領域、すなわち、成膜領域を示している。磁石揺動範囲7は、この成膜領域より広く設定されているので、磁石揺動範囲7が多少狭くなっても、成膜される領域が狭くなることはない。
【0027】
ターゲット1はバッキングプレート2に取り付けられており、ターゲット1はバッキングプレート2を介して装置に取り付けられる。バッキングプレートはスパッタリングの際に電極として機能することから、導電性の良い銅又はこれらの合金等の材料から成ることが好ましい。また、バッキングプレート2と真空チャンバ壁10はインシュレータ11によって絶縁されている。
【0028】
ターゲット1は、1枚の平板から成るものでも、複数枚に分割されたものでもよい。また、ターゲット1の材料としては、上述したようにCrやITOなどが好適に用いられる。
【0029】
B.磁石の揺動方法
本発明の薄膜製造装置において、磁石は図1に示すように、四角形14を描くように揺動される。揺動方法は、磁石を所望の速度で安定的に移動させることができる方法ならば特に限定はされないが、例えば、ボールスクリューをインバーターで制御する方法や、エアーシリンダーを用いる方法等が挙げられる。また、磁石を縦方向に揺動させる方法と、横方向に揺動させる方法は、同じ方法でも異なった方法でもよい。
【0030】
C.磁石揺動範囲の変更手段
本発明の薄膜製造装置は、ターゲット下部に配置した磁石を揺動させながらスパッタリングを行う薄膜製造装置において、前記磁石の揺動範囲を変更できる変更手段を有することを特徴とする。揺動範囲の変更は、上記「B.磁石の揺動方法」で述べた方法によって揺動される磁石の動きの一部を制限することにより行うことができる。具体的な変更手段は磁石の揺動方法によって異なるが、磁石の揺動装置の駆動時間を短くして、移動範囲を短くする方法、磁石や揺動装置の位置をセンサーで感知し、揺動装置の駆動を止める方法、揺動装置にストッパーを取り付けて、磁石の動きを物理的に制限する方法などが挙げられる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示し、本発明をさらに説明する。
【0033】
磁石の揺動範囲を変更できる変更手段を有する薄膜製造装置をもちいて、揺動幅の変更をターゲット使用期間(6〜7日間)中に2回実施して成膜を行なった。
【0034】
幅300mmのITOのターゲットを用い、薄膜製造装置の磁石の揺動幅を、エロージョン領域の幅が、実験開始時は290mm、90時間後の第1回変更後に270mm、120時間後の第2回変更後に250mmになるように設定して成膜を行なった。なお、ターゲットの寿命である150時間後に生産を終了した。
【0035】
本実施例における磁石の揺動は、上下方向はリニアガイドおよびエアシリンダ、左右方向はリニアガイド、ボールネジ、およびインバーターモータを用いて行なった。なお、揺動範囲の変更は左右方向のみ行なった。
【0036】
磁石の揺動は、100%の速度で左(右)に移動する磁石が右(左)端にある減速開始センサに到達すると、減速開始タイマが働き、そのタイマが切れた時点で減速を開始し、速度が0%になり、その後−100%まで加速するというサイクルを繰り返すことにより行った。また、揺動範囲の変更は、上記タイマの作動時間を3段階に変更することにより行った。薄膜製造装置は、アルバック社製SDP−s1550VTを用いた。
【0037】
製造された薄膜のうち、打痕傷によって不良となった薄膜の割合(%)を表1に示す。なお、ここで打痕傷とは、異物が一定のエネルギーを持って衝突した結果できた、えぐられたような形状の傷を指すものとする。
【0038】
【表1】

【0039】
上記表1からも明らかなように、2回の揺動幅変更の前と後とでは、不良率は大幅に改善されており、本発明がノジュールに起因する薄膜の欠陥の防止に効果的であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の薄膜製造装置の一例を示す概略平面図である。
【図2】図1のA−A´断面における概略断面図である。
【図3】本発明に用いられるターゲットの概略平面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 … ターゲット
6 … 磁石
7 … 磁石揺動範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット下部に配置した磁石を揺動させながらスパッタリングを行う薄膜製造装置において、前記磁石を四角形を描くように揺動させる揺動装置と、前記磁石の揺動範囲を変更できる変更手段と、を有することを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記磁石の揺動範囲を段階的に狭めることができる手段であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜製造装置。
【請求項3】
前記変更手段は、前記揺動装置の駆動時間を短くして、前記磁石の移動範囲を短くすることにより、前記磁石の揺動範囲を変更する手段であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜製造装置。
【請求項4】
前記変更手段は、前記磁石または前記揺動装置の位置をセンサーで感知し、前記揺動装置の駆動を止めることにより、前記磁石の揺動範囲を変更する手段であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜製造装置。
【請求項5】
前記変更手段は、前記揺動装置にストッパーを取り付けて、前記磁石の動きを物理的に制限することにより、前記磁石の揺動範囲を変更する手段であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−74181(P2009−74181A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318077(P2008−318077)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【分割の表示】特願2003−114225(P2003−114225)の分割
【原出願日】平成15年4月18日(2003.4.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】