説明

薄膜ガスセンサ

【課題】本発明は、十分な機械的強度を備え、かつ、安定で、信頼性の高い薄膜ガスセンサを提供する。
【解決手段】電気絶縁層上に形成されるガス感知層を備える薄膜ガスセンサであって、前記ガス感知層が、前記電気絶縁層上に形成される一対の感知電極層と、該一対の感知電極層の一部を覆うように、かつ、該一対の感知電極層の両方に渡って形成される感知層と、前記感知電極層及び該感知層を覆うように形成される選択燃焼層とを含み、前記選択燃焼層に含まれるバインダの粒径が、前記感知層を構成するSnOの粒径及び前記選択燃焼層を構成する金属酸化物の粒径よりも小さいことを特徴とする薄膜ガスセンサを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低消費電力型薄膜ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、薄膜ガスセンサはガス漏れ警報機等の用途に用いられ、特定のガス、例えば一酸化炭素、メタン、プロパン、メタノール等に選択的に感応するデバイスであり、高感度、高選択性、高応答性、高信頼性、低消費電力であることが必要不可欠である。家庭用として普及しているガス漏れ警報器には、都市ガス用及びプロパンガス用の可燃性ガスの検知を目的とするものと、燃焼機器の不完全燃焼ガス検知を目的とするものと、又は両方の機能を併せ持ったもの等がある。しかし、いずれもコストや設置性の問題から普及率はそれほど高くない。このような事情から、普及率の向上を図るため、設置性の向上、即ち薄膜ガスセンサを電池で駆動することを可能とし、コードレス化することが望まれている。
【0003】
電池で駆動することを可能とするためには、消費電力を低くすることが必要である。しかし、接触燃焼式や半導体式のガスセンサでは、ガスを検知するために、ガスセンサのガス感知膜を300〜500℃の高温に加熱する必要がある。この加熱が電力を消費する要因となっている。そこで、微細加工プロセスにより、高断熱性で、かつ、低熱容量の構造であるダイアフラム構造を有した薄膜ガスセンサの開発が行われている。
【0004】
一般に、ガス感知膜として半導体薄膜を用いた場合、ガス感知膜単体では複数の還元性ガス種に感応してしまうため、特定のガスのみに選択的に感応することはできない。また、電池駆動型のガスセンサにおいて低消費電力化を実現するためには、デューティ比(Duty比:ヒータをオンにしている時間とオフにしている時間の比率)が1/300〜1/100程度となるように、ガスセンサを間欠的に駆動することが必要である。この間欠駆動によって、急激な昇温及び降温を引き起こし、ガス感知膜に熱応力が発生する。このため、ガス感知膜の上に設けられる選択燃焼層が剥離するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−164566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、十分な機械的強度を備え、かつ、安定で、信頼性の高い薄膜ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明によれば、電気絶縁層上に形成されるガス感知層を備える薄膜ガスセンサであって、前記ガス感知層が、前記電気絶縁層上に形成される一対の感知電極層と、該一対の感知電極層の一部を覆うように、かつ、該一対の感知電極層の両方に渡って形成される感知層と、前記感知電極層及び該感知層を覆うように形成される選択燃焼層とを含み、前記選択燃焼層に含まれるバインダの粒径が、前記感知層を構成するSnOの粒径及び前記選択燃焼層を構成する金属酸化物の粒径よりも小さいことを特徴とする薄膜ガスセンサが提供される。
本発明に係る薄膜ガスセンサは、一般的には、貫通孔を有するSi基板と、該貫通孔を塞ぐように、該Si基板上に形成される熱酸化膜と、該熱酸化膜上に形成される熱絶縁支持層と、該熱絶縁支持層上に形成されるヒータ層とを備え、上記した電気絶縁層は、前記ヒータ層を覆うように形成される。また、一般的には、上記した電気絶縁層と上記した感知電極層との間に、接合層が形成される。
すなわち、本発明に係る薄膜ガスセンサは、その一つの形態として、貫通孔を有するSi基板と、該貫通孔を塞ぐように、該Si基板上に形成される熱酸化膜と、該熱酸化膜上に形成される熱絶縁支持層と、該熱絶縁支持層上に形成されるヒータ層と、該ヒータ層を覆うように形成される電気絶縁層と、該電気絶縁層上に形成されるガス感知層とを備える薄膜ガスセンサであって、前記ガス感知層が、前記電気絶縁層上に形成される一対の接合層と、該接合層上に形成される一対の感知電極層と、該一対の感知電極層の一部を覆うように、かつ、該一対の感知電極層の両方に渡って形成される感知層と、前記接合層、前記感知電極層、及び該感知層を覆うように形成される選択燃焼層とを含み、前記選択燃焼層に含まれるバインダの粒径が、前記感知層を構成するSnOの粒径及び前記選択燃焼層を構成する金属酸化物の粒径よりも小さいことを特徴とする。
前記バインダの粒径は、10nm以下の範囲であることが好適である。なお、このバインダの最小粒径は、通常の透過型電子顕微鏡(TEM)で観測することが困難なレベル、あるいはTEMによる測定の下限値以下であるので特に記載しない。
前記バインダは、金属酸化物のゾルであることが好適である。
前記バインダの金属酸化物は、Al、Cr、Fe、NiO、ZnO、又はSiOであることが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、十分な機械的強度を備え、かつ、安定で、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る薄膜ガスセンサの一実施の形態を示す構造図である。
【図2】実施例1で得られた薄膜ガスセンサにおける、選択燃焼層と感知層との界面付近の断面TEM像である。
【図3】比較例1で得られた薄膜ガスセンサにおける、選択燃焼層と感知層との界面付近の断面TEM像である。
【図4】下地がスパッタリング法によって形成された平坦なSiO膜である場合[図4(a)]と、下地が感知層であるSnO膜である場合[図4(b)]のシェア強度による評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る薄膜ガスセンサの構造について、その一実施の形態を図1を参照して説明する。なお、本発明の対象となる薄膜ガスセンサは、図1のものに限定されるものではない。
薄膜ガスセンサ10の大まかな製造手順に従って、その構造を説明する。まず、両面に熱酸化膜12を備えたSi基板11上に、熱絶縁支持層13としてSi層13a、SiO層13bを順次形成する。この熱絶縁支持層13上に、ヒータ層14を形成する。このヒータ層14を電気絶縁層15で覆う。この電気絶縁層15上に、ガス感知層16として、接合層16a、感知電極層16b、感知層16c、選択燃焼層16dを順次形成する。最後にSi基板11の裏面からエッチングによりSiを除去し、ダイアフラム構造とする。なお、図1では、Siを除去した状態の薄膜ガスセンサの構造を示している。
【0011】
Si基板11は、シリコンにより形成され、貫通孔を有するように形成される。この貫通孔は、Si基板11の裏面からエッチングを行い、Siを除去することによって形成される。
Si基板11の両面又は片面には、熱酸化膜12を備える。熱酸化膜12は、Si基板11の有する貫通孔を塞ぐように形成される。熱酸化膜12としては、例えば、熱酸化法により、SiO膜が形成される。この熱酸化膜12は、ヒータ層14で発生する熱をSi基板11側へ熱伝導しないようにし、熱容量を小さくする機能を有する。また、熱酸化膜12は、上述のエッチングに対して高い抵抗力を示す。
【0012】
熱絶縁支持層13は、Si層13a、SiO層13bの二層構造となっている。Si層13a、SiO層13bは、熱酸化膜12上に、順次プラズマCVD法により形成される。SiO層13bは、ヒータ層14との密着性を向上させるとともに、電気絶縁性を確保する。また、プラズマCVD法によって形成されるSiO層13bは、内部応力が小さいため好ましい。
【0013】
ヒータ層14は、Pt−W膜であって、スパッタリング法によって成膜されることで形成する。ヒータ層14は、熱絶縁支持層13のほぼ中央の上面に設けられる。
【0014】
電気絶縁層15は、SiO層であって、スパッタリング法によって形成される。電気絶縁層15は、熱絶縁支持層13及びヒータ層14を覆うように設けられる。電気絶縁層15は、ヒータ層14と感知電極層16bとの間に電気的な絶縁を確保するとともに、感知層16cとの密着性を向上させる。
【0015】
接合層16a(Pt又はAu)及び感知電極層16b(Ta又はTi)は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、スパッタリング法により成膜する。成膜条件は、接合層、感知電極層ともに同じで、一般的には例えば、Arガス圧力が1Pa、基板温度が300℃、RFパワーが2W/cm、膜厚が接合層/感知電極層=500Å/2000Åが好適である。接合層16aは、感知電極層16bと電気絶縁層15との間に介在して接合機能を高める機能を有している。
【0016】
感知層16cは、SnO膜を、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング法により成膜する。ターゲットには、0.1重量%のSbを有するSnOを用いる。成膜条件は、一般的には例えばAr+Oガス圧力が2Pa、基板温度が150〜300℃、RFパワーが2W/cm、膜厚が0.4μmが好適である。この感知層16cは、電気絶縁層15上に形成される一対の接合層16aと、接合層16a上に形成される一対の感知電極層16bと、感知電極層16bの一部を覆うように、かつ、感知電極層16bの両方に渡って形成される。
【0017】
選択燃焼層16dは、電気絶縁層15、一対の接合層16a、一対の感知電極層16b、感知層16cを覆うように形成される。この選択燃焼層16dは、金属酸化物、例えば、Pdを添加したγ−アルミナ(平均粒径2〜3μm)に、有機溶剤、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルと、バインダとして金属酸化物のゾル、例えば、Al、Cr、Fe、NiO、ZnO、又はSiOで(平均粒径10nm以下)を5〜20重量%とを添加して印刷ペーストとする。この印刷ペーストを、スクリーン印刷し、室温で乾燥後、500℃で一時間焼成を行うことによって選択燃焼層16dを形成する。
【0018】
この選択燃焼層16dに含まれるバインダの粒径は、感知層16cを構成するSnOの粒径及び選択燃焼層16dを構成する金属酸化物の粒径よりも小さい。
【0019】
以上のような薄膜ガスセンサの構成によれば、十分な機械的強度を備え、かつ、安定で、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例等を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1
両面に熱酸化膜を備えたSi基板上に、Si膜とSiO膜を順次プラズマCVD法により形成した。次に、ヒータ層としてPt−W膜を、電気絶縁層としてSiO膜を順にスパッタリング法により形成した。次に、その上に接合層としてPt又はAu、感知電極層としてTa又はTiを、RFマグネトロンスパッタリング装置を用いて、スパッタリング法により形成した。成膜条件は、接合層、感知電極層ともに同じで、Arガス圧力を1Pa、基板温度を300℃、RFパワーを2W/cm、膜厚を接合層/感知電極層=500Å/2000Åとした。次に、感知層としてSnO膜を、RFマグネトロンスパッタリング装置を用いて、反応性スパッタリング法により形成した。ターゲットには、0.1重量%のSbを有するSnOを用いた。成膜条件は、Ar+Oガス圧力を2Pa、基板温度を150〜300℃、RFパワーを2W/cm、膜厚を0.4μmとした。次に、選択燃焼層を形成した。選択燃焼層は、7.0重量%のPdを添加したγ−アルミナ(平均粒径2〜3μm)に、7.0重量%のジエチレングリコールモノエチルエーテルと、5〜20重量%のシリカゾルバインダ(平均粒径10nm以下)とを添加して印刷ペーストとし、この印刷ペーストを厚さ約30μmとし、室温で乾燥後、500℃で一時間焼成を行うことによって選択燃焼層を形成した。最後に、Si基板の裏面からエッチングによりSiを除去し、ダイアフラム構造として、薄膜ガスセンサを得た。
平均粒径は、通常の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した。
【0022】
比較例1
シリカゾルバインダの代わりとして、10nm×50nmの針状形状であるアルミナゾルバインダを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0023】
実施例1及び比較例1で得られた薄膜ガスセンサにおいて、選択燃焼層と感知層との界面付近の断面TEM像をそれぞれ撮影した。それぞれの断面TEM像を図2及び図3に示す。
【0024】
図2より、感知層であるSnOは、直径が40nm程度の柱状構造を有していた。また、選択燃焼層である、7.0重量%のPdを添加したγ−アルミナでは、粒径が数nmのγ−アルミナ(図2中のA)上に、粒径が数nmのPd(図2中のB)が分散していた。SnO(図2中のC)とγ−アルミナとの界面は、シリカゾル(図2中のD)で埋められていた。一方、図3より、シリカゾルバインダの代わりにアルミナゾルバインダを用いた場合では、アルミナゾル(図3中のB)がSnOの粒径よりも大きいため、SnO(図3中のC)とγ−アルミナ(図3中のA)との界面に隙間が生じていることが示された。
【0025】
さらに、本発明者らは、実施例1及び比較例1で得られた薄膜ガスセンサについて、選択燃焼層と下地との密着性をシェア強度により評価した。下地としては、スパッタリング法によって形成された平坦なSiO膜と、感知層であるSnO膜を用いた。
シェア強度は、dage社製 万能型ボンドテスター(シリーズ4000)を用いて測定した。
図4に、シェア強度による評価結果を示す。
【0026】
図4より、下地がスパッタリング法によって形成された平坦なSiO膜である場合[図4(a)]、実施例1と比較例1とでシェア強度に差異は見られなかったが、下地が感知層であるSnO膜である場合[図4(b)]、比較例1ではシェア強度が検出下限以下となった。これは、下地が平坦なSiO膜である場合[図4(a)]は、いずれのバインダにおいても、選択燃焼層と下地との界面に隙間が生じなかったが、下地が感知層であるSnO膜である場合[図4(b)]は、図2及び図3で示したように、実施例1では選択燃焼層と下地との界面に隙間が生じなかったが、比較例1では隙間が生じたためであることが考えられる。これらの結果から、実施例1で得られた薄膜ガスセンサにおいては、選択燃焼層と、選択燃焼層と感知層との界面に、十分な機械的強度が付与されたことが示された。
【0027】
実施例2
実施例1及び比較例1で得られた薄膜ガスセンサについて、それぞれ室温〜400℃の間欠動作を1000万回繰り返すことによって、薄膜ガスセンサの耐久試験を行った。
【0028】
得られた試験結果より、実施例1で得られた薄膜ガスセンサにおける選択燃焼層では剥離が生じなかったが、比較例1で得られた薄膜ガスセンサにおける選択燃焼層では剥離が生じたことが確認された。この結果から、実施例1で得られた薄膜ガスセンサは、安定で、かつ、信頼性の高い薄膜ガスセンサであることが示された。
【符号の説明】
【0029】
10 薄膜ガスセンサ
11 Si基板
12 熱酸化膜
13 熱絶縁支持層
13a CVD−Si
13b CVD−SiO
14 ヒータ層
15 電気絶縁層
16 ガス感知層
16a 接合層
16b 感知電極層
16c 感知層
16d 選択燃焼層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁層上に形成されるガス感知層を備える薄膜ガスセンサであって、
前記ガス感知層が、前記電気絶縁層上に形成される一対の感知電極層と、該一対の感知電極層の一部を覆うように、かつ、該一対の感知電極層の両方に渡って形成される感知層と、前記感知電極層及び該感知層を覆うように形成される選択燃焼層とを含み、
前記選択燃焼層に含まれるバインダの粒径が、前記感知層を構成するSnOの粒径及び前記選択燃焼層を構成する金属酸化物の粒径よりも小さい
ことを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項2】
貫通孔を有するSi基板と、該貫通孔を塞ぐように、該Si基板上に形成される熱酸化膜と、該熱酸化膜上に形成される熱絶縁支持層と、該熱絶縁支持層上に形成されるヒータ層と、該ヒータ層を覆うように形成される電気絶縁層と、該電気絶縁層上に形成されるガス感知層とを備える薄膜ガスセンサであって、
前記ガス感知層が、前記電気絶縁層上に形成される一対の接合層と、該接合層上に形成される一対の感知電極層と、該一対の感知電極層の一部を覆うように、かつ、該一対の感知電極層の両方に渡って形成される感知層と、前記接合層、前記感知電極層、及び該感知層を覆うように形成される選択燃焼層とを含み、
前記選択燃焼層に含まれるバインダの粒径が、前記感知層を構成するSnOの粒径及び前記選択燃焼層を構成する金属酸化物の粒径よりも小さい
ことを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項3】
前記バインダは、その粒径が10nm以下(ただし、0nmを含まず)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜ガスセンサ。
【請求項4】
前記バインダが、金属酸化物のゾルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜ガスセンサ。
【請求項5】
前記バインダの金属酸化物が、Al、Cr、Fe、NiO、ZnO、又はSiOであることを特徴とする請求項4に記載の薄膜ガスセンサ。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−163437(P2012−163437A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24068(P2011−24068)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】