説明

薄膜部品及び製造方法

【課題】 信頼性の高い薄膜部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 基板1上で樹脂層9,9Aに対しては露出し、その側面から外部に突出している。すなわち、樹脂層9,9Aによって端子電極本体8は被覆されていない。なお、電子素子は絶縁層9,9Aによって保護されており、端子電極本体8と電子素子とは電気的に接続されているので、端子電極本体8に電気信号を加えると、電子素子に電気信号を伝達することができる。端子電極本体8と、端子電極本体8と樹脂層9との境界Aは被覆層10によって被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサやコイルなどの電子素子が形成されてなる薄膜部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜部品は内部に複数の電子素子を有しており、電子素子上には、素子全体を覆う保護樹脂膜が形成されている。薄膜部品の形成されたウェハをダイシングして、複数の薄膜部品に分離する場合、軟らかい樹脂膜と硬いセラミックス基板を同時に切断することになる。このような場合、樹脂と基板で剥離を生じたり、保護樹脂膜はダイシングの刃の目詰まりを生じ量産性の低下が生じてしまう。したがって、薄膜部品の端子電極は、端子電極本体上に所定の金属層を被覆してなるが、この端子電極は、予めウェハ上に薄膜部品を集積する段階で樹脂保護膜の外部に露出させることが好ましい。これにより、薄膜部品に分離する段階でセラミック基板のみを切断することが出来る為、量産性が向上すると共に、めっきにより形成する外部端子との接合面積が増大し、より確実な接合が可能となり、接合の信頼性が向上する。
【0003】
このような薄膜部品は、例えば、下記特許文献1乃至3に記載されている。
【特許文献1】特開2002−33559号公報
【特許文献2】特開2004−172348号公報
【特許文献3】特開2005−109410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、外部端子を樹脂保護膜の外部に露出させた場合においても、樹脂保護膜と端子電極本体との間で剥離が発生した。この原因を、本願発明者が鋭意研究したところ、酸性溶剤による洗浄工程において、樹脂保護層の下面と端子電極本体の上面間に形成された金属酸化物が溶解し、剥離が生じることが判明した。金属酸化物としてはCuO,CuO等が挙げられる。この金属酸化物は、樹脂保護膜の形成前において、金属材料が自然酸化することにより形成されたものであるが、樹脂保護膜が加熱により硬化形成された場合には、さらに酸化が進行し、金属酸化物が多く形成され、剥離の十分な要因となる。また、完全な剥離は生じないものの、酸性溶剤による酸化物のエッチングによって、最終的に製造されたものの端子金属(外部端子)と樹脂保護膜との間に隙間が生じ、この隙間が後々の剥離の原因となる場合や、製品毎の電気特性にバラツキが生じる場合があり、信頼性に劣るものとなることとなる。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、信頼性の高い薄膜部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明に係る薄膜部品は、基板上に電子素子が形成されてなる薄膜部品であって、電子素子を被覆する樹脂層と、電子素子に電気的に接続され基板上で樹脂層に対して外部に露出した端子電極本体と、端子電極本体と樹脂層との境界を被覆する被覆層と、を備え、被覆層は、端子電極本体の酸化物のエッチング液に対するエッチング速度よりも、エッチング速度の遅い材料からなることを特徴とする。
【0007】
この構造の場合、端子電極本体の酸化物をエッチングする溶液に薄膜部品が晒される場合があっても、エッチング耐性の高い被覆層が境界を被覆しているので、樹脂層の剥離が抑制され、また、製品毎の電気特性のバラツキが抑制される。したがって、この薄膜部品は、信頼性に優れるものとなる。電子素子は絶縁層によって保護されており、端子電極本体と電子素子とは電気的に接続されているので、端子電極本体に電気信号を加えると、電子素子に電気信号を伝達することができる。
【0008】
また、薄膜部品は、被覆層を被覆する金属層を更に備えていることが好ましい。この場合、金属層が外部に露出することになるので、配線などをこの金属層に電気的に接続することが可能となる。金属層としては、配線との接触性に優れ、酸化しにくい金属が好ましい。
【0009】
好ましくは、端子電極本体はCu又はAlを含む層からなり、被覆層はCr又はTiを含む層からなる。また、好ましくは、金属層はSn又はAuを含む層からなる。Cu(又はAl)からなる端子電極本体は、酸化しやすく、銅酸化物は、酸性のエッチング液に対して大きなエッチング速度を有するが、Cr又はTiのエッチング速度は、銅酸化物のエッチング液よりも小さなエッチング速度を有する。Crは密着性に優れた金属であり、エッチング液の境界への侵入を十分に抑制する。Sn又はAuは酸化耐性の高い金属であるため、この薄膜部品を放置しておいてもSn又はAuの表面は酸化されにくく、信頼性に優れることとなる。
【0010】
また、端子電極本体の樹脂層による被覆領域と、樹脂層との間には、端子電極本体の酸化物が介在していることが好ましい。樹脂層と端子電極本体との間にある酸化物は、これらの層間密着性の向上に寄与する。
【0011】
端子電極本体の基板から最も離れた露出面と、上記境界を含む樹脂層の側面との成す角度は鈍角であることが好ましい。すなわち、露出面と側面との間の角度が鈍角であるため、被覆層のステップカバレッジが向上する。したがって、信頼性の高い被覆となるため、更に部品の信頼性に優れることとなる。
【0012】
また、端子電極本体の基板から最も離れた露出面と、基板の端子電極本体側の表面との間の距離は、端子電極本体の先端部に向かうに従って小さくなっており、被覆層は、露出面から基板の表面に至るまで延びていることが好ましい。この場合、被覆層が端子電極本体の先端部において端子電極本体の側面上を這う長さは、露出面が基板表面に平行な場合によりも短くなり、したがって、被覆層が当該側面において途切れる確率が低くなり、且つ、当該側面と基板表面の境界も被覆することになる。したがって、被覆層の特性が製品毎にばらつかず、また、当該側面と基板表面との境界も被覆層によって保護されることとなる。
【0013】
基板は、セラミック基板上に平滑化用樹脂層または無機層を積層してなることが好ましい。セラミック基板は、絶縁性と剛性が比較的高い基板として知られているが、その表面に微小な凹凸が形成されている場合がある。その場合には凹凸を平坦化するため、セラミック基板上には平滑化用樹脂層または無機層を形成することが好ましい。樹脂を用いることで、より基板表面の凹凸が大きい場合であっても十分に平坦化可能であるので好ましい。また、この平滑化用樹脂層の熱膨張係数がセラミックよりも著しく大きい場合には、前記平坦化用樹脂層に加え更に無機層を上部に形成することにより、より剥離の影響を抑制した、より高信頼性の電子素子とすることが出来る。
【0014】
また、電子素子上に形成される樹脂層の輪郭は、基板に垂直な方向からみて、角部が曲線で構成されていることが好ましく、樹脂層の角部と、その下地との間にかかる応力が低減され、樹脂層の剥離が抑制される。
【0015】
また、本発明に係る薄膜部品の製造方法は、基板上に電子素子が形成されてなる薄膜部品の製造方法であって、電子素子に電気的に接続された端子電極本体を基板上に形成する工程と、電子素子を樹脂層で被覆する工程と、樹脂層をパターニングし、樹脂層に対して端子電極本体を外部に露出させる工程と、端子電極本体上に形成された端子電極本体の酸化物をスパッタエッチングする工程と、端子電極本体と樹脂層との境界を被覆層で被覆する工程と、被覆層が形成された薄膜部品中間体をエッチング液で洗浄する工程とを備え、被覆層は、端子電極本体の酸化物のエッチング液によるエッチング速度よりも、エッチング速度の遅い材料からなることを特徴とする。
【0016】
この方法によれば、端子電極本体の酸化物をスパッタエッチングによって除去した後、上記境界上に被覆層で被覆してから、エッチングを行う。したがって、被覆層によって境界が被覆されているため、境界内へエッチング液侵入せず、樹脂層の剥離が抑制される。また、端子電極本体の酸化物は除去されているため、この上に金属層を形成した場合には、電気抵抗の低い接触が得られることなる。すなわち、薄膜部品の製造方法は、被覆層を被覆する金属層を更に形成する工程を備えることが好ましい。この方法では、信頼性の高い薄膜部品を製造することができる。
【0017】
また、この製造方法においても、上述の理由から、端子電極本体はCuを含む層からなり、被覆層はCr又はTiを含む層からなることが好ましい。また、金属層はSn又はAuを含む層からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の薄膜部品は信頼性が高く、本発明の製造方法は信頼性の高い薄膜部品を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、具体的な一実施形態に係る薄膜部品及びその製造方法について説明する。なお、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0020】
図1は、薄膜部品100の斜視図である。図9は、図1に示した薄膜部品100のII−II矢印断面図である。
【0021】
本例の薄膜部品100は3端子のフィルタであり、アルミナ(Al)やSiOなどの絶縁材料を含んで形成された基板1の表面上に形成された3つの端子電極T1、T2、T3を備えている。基板1の表面上には複数の電子素子としてのキャパシタC1及びコイルL1が形成されており、これらの電子素子は保護用の2層の樹脂層9,9Aによって被覆されている。この樹脂層9,9Aは、1層の樹脂層からなることとしてよく、3層以上の樹脂層からなることとしてもよい。なお、XYZ三次元座標系において、基板1の表面はXY平面に一致することとすると、樹脂層9,9Aの厚み方向がZ軸方向に一致する。
【0022】
端子電極T1、T2、T3の構造は同一であり、内部に位置する端子電極本体8と、端子電極本体8の表面を被覆する金属層11を備えている。端子電極本体8は、コイルL1及びキャパシタC1に電気的に接続されており、基板1上で樹脂層9,9Aに対しては露出し、その側面から外部に突出している。すなわち、樹脂層9,9Aによって端子電極本体8は被覆されていない。なお、電子素子は絶縁層9,9Aによって保護されており、端子電極本体8と電子素子とは電気的に接続されているので、端子電極本体8に電気信号を加えると、電子素子に電気信号を伝達することができる。
【0023】
端子電極本体8と、端子電極本体8と樹脂層9との境界Aは被覆層10によって被覆されている(図9参照)。
【0024】
端子電極T1,T2,T3は、コイルL1及びキャパシタC1からなるフィルタに電気的に接続されているが、本例のフィルタは端子電極T2を入力端子とし、端子電極T1を出力端子とし、端子電極T3をグランドに接続することで、ローパスフィルタとして機能させることができる。
【0025】
フィルタとして使用する場合に、各端子の位置が必要になる場合がある。例えば、対称配置された2端子又は4端子フィルタの場合、各端子がいずれの端子電極であるのかを判別する必要がある。本例では、樹脂層9,9Aを感光性のフォトレジストから構成することとし、その表面の重心からずれた位置上に識別標識Sをパターニングしてあり、各端子電極の区別が可能とされている。識別標識Sの形状は、各端子電極の区別が可能であれば、三角形、円形、四角形の他、樹脂層表面の重心を含んでパターンニングされた非対称図形であってもよい。この識別標識Sにより、製造・組立て時における部品の向きの判別プロセスを削減することができる。
【0026】
なお、フィルタの構造としては、ローパスフィルタの他、ハイパスフィルタやバンドパスフィルタが知られており、樹脂層9内部に形成されるコイル及びキャパシタの数及び接続関係を適宜変更することで、これらを形成することができる。また、電子素子として抵抗を追加することも可能である。
【0027】
樹脂層9,9Aは、フォトリソグラフィ工程によってパターニングが可能な感光性ポリイミド等の感光性樹脂材料からなる。このように例えば主として非ノボラック系樹脂からなるもの、好ましくはネガ型の感光性材料(ネガ型フォトレジスト)、より具体的には、ポリイミド系樹脂(感光性ポリイミド)、エポキシ系樹脂(感光性エポキシ)、ノボラック系樹脂以外のフェノール樹脂、シリコーン系樹脂、等が挙げられ、アルミナ、フェライト等の無機材料を含んでいてもよい。その中でも感光性のポリイミド系樹脂を用いることが信頼性の点で最も好ましい。
【0028】
樹脂層9,9Aは、基板1の最外周から一定距離だけ内側に位置する領域内に形成されており、ダイシング等のチップ加工時にダメージを受けない構造となっている。更に9Aは9よりもより薄膜部品の内側に配置されることで、金属層11の形成領域を制御でき、金属層11を形成する際に予想以上に広い範囲に形成されることによる電極端子間の短絡を防止することができる。それと同時に電子素子を保護する層がより増えることにより薄膜部品の信頼性も向上する。樹脂層9,9Aの角部Rは、円弧としてのアールがつけられている。すなわち、樹脂層9,9Aの輪郭は、基板1に垂直な方向(Z軸)からみて、角部Rが曲線で構成されているおり、樹脂層9,9Aの角部Rと、その下地との熱膨張係数に違いによって、これらの間にかかる応力が低減されている。これにより、樹脂層9、9Aの剥離が抑制される。
【0029】
また、樹脂層9内部の端子電極T1,T2,T3の各側面は、樹脂層9に接しているか、もしくは3方向の側面は樹脂層9に接しており、底面部分は基板に接している。本例では、保護用の樹脂層9,9Aの形状をマスクデザインにより決定できるため、複雑な素子構造を被覆する形状にも対応することができる。また、樹脂層9,9Aとして、スピンコートなどで厚み制御が容易な感光性樹脂を用いることで、これらの厚みを薄く制御することができ、部品の低背化を図ることができる。
【0030】
図9を参照すると、被覆層10は境界Aを被覆しており、被覆層10上を金属層11が被覆している。金属層11は、樹脂層9の上面から被覆層10の表面上を通り、基板1の表面及び側面(YZ平面)及び裏面(Z軸負方向のXY平面)に至るまで延びている。低背化された薄膜部品100は、金属層11を基板裏面上にまで延ばすことで、フリップチップボンディングなどの接続も可能となる。
【0031】
すなわち、金属層11は外部に露出しているので、配線などをこの金属層11に電気的に接続することができる。金属層11としては、配線との接触性に優れ、酸化しにくい金属が好ましい。金属層11は、Cu層11a、Cu/Cr層11b、Cu層11c、Ni層11d、Sn層11eを順次積層してなる。Ni層11dはCu層11cとSn層11eが反応しないように設けられている。また、Cu/Cr層11bは、スパッタ法で形成されCr層が内側に位置しており、Cr層の内側層と外側層との密着度を高めている。外側のCu層11cはめっき法によって形成されており、その厚みが内側のスパッタ法で形成されたCu層よりも大きく設定されている。
【0032】
ここで、被覆層10は、端子電極本体8の酸化物のエッチング液に対するエッチング速度よりも、エッチング速度の遅い材料からなる。この構造の場合、端子電極本体8の酸化物をエッチングする溶液(塩酸、硫酸など)に薄膜部品100が晒される場合があっても、エッチング耐性の高い被覆層10が境界を被覆しているので、樹脂層9の剥離が抑制され、また、製品毎の電気特性のバラツキが抑制される。したがって、この薄膜部品100は、信頼性に優れるものとなる。
【0033】
薄膜部品100の製造中或いは製造後においても、このようなエッチング液に部品が晒される場合がある。端子電極本体8と樹脂層9との間には、適当な温度条件によって、気体中の水分に晒される場合ある。このような水分は、周辺の金属又は気体中の適当な酸性原子を含み、長時間をかけて酸化物を腐食する液体となりえる。本発明の薄膜部品100は、このような環境耐性にも優れている。
【0034】
好ましくは、端子電極本体8はCu(又はAl)を含む層からなり、被覆層10はCr(又はTi)を含む層からなる。好ましくは、金属層11はSn又はAuを含む層からなる。Cu(又はAl)からなる端子電極本体8は、酸化しやすく、銅酸化物は、酸性のエッチング液に対して大きなエッチング速度を有するが、Cr(又はTi)のエッチング速度は、銅酸化物のエッチング液よりも小さなエッチング速度を有する。Crは密着性に優れた金属であり、エッチング液が樹脂層9の端部と端子電極本体8との境界(境界線)であるAから侵入することを十分に抑制することができるので好ましい。Sn又はAuは酸化耐性の高い金属であるため、この薄膜部品を放置しておいてもSn又はAuの表面は酸化されにくく、配線接触の信頼性に優れることとなる。
【0035】
また、端子電極本体8の樹脂層9による被覆領域と、樹脂層9との間には、端子電極本体9の酸化物8Aが介在している。樹脂層9と端子電極本体8との間にある酸化物8Aは、これらの間への水の侵入を抑制し、また、接触度の違いによる電気特性の製品毎のバラツキを抑制することができる。
【0036】
なお、図2は、図9に示した断面の変形例に係る薄膜部品の断面図である。
【0037】
この薄膜部品では、被覆層10は、境界Aを覆っているが、更に、樹脂層9の上面から基板1の表面まで延びている。この構造の場合、被覆層10は端子電極本体8の表面を十分に保護すると共に、基板1と端子電極本体8との境界B(図3参照)も被覆している。
【0038】
図3は、基板1、端子電極本体8及び樹脂層9の位置関係を模式的に示す図である。
【0039】
端子電極本体8の基板1から最も離れた露出面8Sと、境界Aを含む樹脂層9の側面9Sとの成す角度θは鈍角である。例えば、角度θは120度である。露出面8Sと側面9Sとの間の角度θが鈍角であるため、被覆層10のステップカバレッジが向上する。したがって、信頼性の高い被覆となるため、更に部品の信頼性に優れることとなる。
【0040】
また、端子電極本体8の基板1から最も離れた露出面8Sと、基板1の端子電極本体8側の表面1Sとの間の距離Z0は、端子電極本体8の先端部に向かう(−X方向)に従って小さくなっており、被覆層10は、露出面8Sから基板の表面1Sに至るまで延びていることが好ましい。この場合、被覆層10が端子電極本体8の先端部において端子電極本体8の側面8L上を這う長さは、露出面8Sが基板表面1Sに平行な場合によりも短くなり、したがって、被覆層10が側面8Lにおいて途切れる確率が低くなり、且つ、側面8Lと基板表面1Sの境界(境界線)Bも被覆することになる。したがって、被覆層10の特性が製品毎にばらつかず、また、側面8Lと基板表面1Sとの境界Bも被覆層によって保護されることとなる。
【0041】
なお、被覆層10は、図4に示すように、基板1の裏面まで延びていてもよい。
【0042】
図5は、図1に示した薄膜部品100のV−V矢印断面図である。
【0043】
同図にはキャパシタC1の一例が示されているが、キャパシタの構造としては種々のものが知られている。ここで、基板1は、セラミック基板1A上に平滑化用樹脂層2aと、無機絶縁層2bとを順次積層してなることとした。Alなどのセラミック基板1Aは、絶縁性と剛性が比較的高い基板として知られているが、その表面に微小な凹凸が形成されている。凹凸を平坦化するため、セラミック基板1A上には平滑化用樹脂層2aを形成するが、この平滑化用樹脂層2aは熱膨張係数がセラミックよりも大きく、平滑化用樹脂層2a上にキャパシタなどの電子素子や配線を形成した場合には、その熱膨張又は収縮によって、形成された電子素子や配線に応力がかかり、電子素子や配線が劣化する。
【0044】
一方、平滑化樹脂層2a上に無機絶縁層2bを形成すると、その上に形成される電子素子や配線を基板から絶縁すると共に、平滑化樹脂層2aの熱膨張又は収縮の電子素子や配線への影響を抑制する。したがって、無機絶縁層2b上に形成される電子素子や配線にかかる応力を低減し、その信頼性を向上することができる。本例の無機絶縁層2bはAlからなる。また、平滑化樹脂層2a及び無機絶縁層2bは、絶縁性の基板平坦化層2を構成している。
【0045】
キャパシタC1は、誘電体層5と基板1との間に介在する下部電極層4Cと、誘電体層5上に形成された上部電極層8Cを備えており、キャパシタ容量は絶縁体6の開口寸法で規定され、表面が保護用の絶縁層9によって被覆されている。なお、絶縁層9上には図1の絶縁層9Aが形成されていてもよい。
【0046】
図6は、上述の端子電極近傍を更に具体化した端子電極近傍の断面図である。
【0047】
基板1の表面上には、誘電体層5とめっきシード層(Cu)3が形成されており、めっきシード層3上には下部電極(Cu)4が形成され、その上に絶縁層6が形成されている。下部電極4及び絶縁層6上には、上部電極めっきシード層(Cu)7が形成されており、この上に上部電極としての端子電極本体8が形成されている。なお、図1に示した絶縁層9Aは形成しないでもよく、また、同図にはコイルL1の一部を構成する金属配線4Lが示されている。基板1は、セラミック基板1Aと基板平坦化層2からなり、また、金属層11は基板1の裏面までは延びておらず、その他の構成は上述の通りである。なお、金属層11はハッチングを省略して示してある。
【0048】
図7(a)は、図6に記載の構造を備えた薄膜部品100の概略を示す平面図である。
【0049】
本例では、2端子T1、T2を有するLC回路が示されている。端子T1は、端子電極本体8を介して金属配線4Lを螺旋状に形成してなるコイルL1が接続され、コイルL1にはキャパシタC1が接続され、キャパシタC1は端子T2に接続されている。なお、保護用の樹脂層などは記載が省略されている。
【0050】
この薄膜部品100は、図7(b)に示すように、ウェハWからダイシングにより切り出されたチップC(m,n)から構成されている。チップ(m,n)はウェハW上にマトリックス状に複数形成され、その行方向はオリエンテーションフラットOFに平行である。
【0051】
図8(a)は、図7(a)に示した薄膜部品100のVIII−VIII矢印断面図である。
【0052】
右端の端子電極本体8とキャパシタC1の上部電極8Eは同一金属層から構成されている。また、左端の端子電極本体8は、コイルL1の金属配線4Lに電気的に接続されている。その他の構造は上述の通りである。
【0053】
図8(b)は、被覆層10の形成前の薄膜部品の断面図である。この場合、酸性のエッチング液による洗浄工程において、境界Aからエッチング液が内部に入り、酸化物8Aがエッチングされてしまう。一方、被覆層10を形成した場合、エッチング液が内部に入り込まないという利点がある。
【0054】
次に、薄膜部品100の製造方法について説明する。まず、電子素子に電気的に接続された端子電極本体8を基板上に形成する。次に、電子素子を樹脂層9で被覆する。さらに、樹脂層9をパターニングし、樹脂層9に対して端子電極本体8を外部に露出させる。端子電極本体8上に形成された端子電極本体8の酸化物8Aを、スパッタ法を用いてエッチングする。
【0055】
しかる後、端子電極本体8と樹脂層9との境界Aを被覆層10で被覆する。被覆層10が形成された薄膜部品中間体を、上述のエッチング液で洗浄する。
【0056】
この方法によれば、端子電極本体8の酸化物8Aをスパッタエッチングによって除去した後、境界A上に被覆層10で被覆してから、エッチングを行う。したがって、境界Aが被覆層10によって被覆されているため、境界内へエッチング液が侵入せず、樹脂層9の剥離が抑制される。また、端子電極本体8の酸化物8Aは除去されているため、この上に金属層11を形成した場合には、電気抵抗の低い接触が得られることなる。すなわち、被覆層10上には、金属層11を更に形成する。この方法によれば、信頼性の高い薄膜部品100を製造することができる。
【0057】
詳細に説明すると、アルミナ等のセラミック製基板(以後ウェハ)に化学機械研磨(CMP)等の平坦化処理を施した後に、下部電極めっきシード層3をスパッタ装置を用いて成膜する。めっきシード層3としては、基板1との密着層としてのTiやCrを介してCuが用いられる。
【0058】
次に、下部電極配線4,4L,4Cを形成する為、ポジ型フォトレジストをスピンコートによりめっきシード層3上に塗布し、フォトマスクを用いて露光・現像を施すことでレジストパターンが形成される。
【0059】
次に、シード層3に電気めっきを施すことで、フォトレジストが存在しない部分に下部電極層4,4L,4Cが形成される。電極材料としては、導電率や経済性の観点からCuが望ましい。使われる電子部品の周波数帯によって表皮厚みが異なる為、周波数帯に合わせて厚さを調整可能であるが、電極層の厚さとしては3〜15umが望ましい。電気めっき後は、レジストパターンを剥離し、余分なめっきシード層3をウェットエッチング又はイオンミリングによって除去して、下部電極配線パターンが形成される。
【0060】
続いて、下部電極配線パターン上に、誘電体膜5がウェハ全面に形成される。誘電体膜5の種類としては、SiO、Si,Al、AlN、ZrO、NbO、Ta、TiO,SrTiO等が用いられ、蒸着、スパッタ、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の手法で形成される。
【0061】
次に、キャパシタC1の開口寸法を規定し、かつコイルL1の線間・層間絶縁の役目を果たす絶縁樹脂層6を形成する。ポリイミドに代表される絶縁樹脂をスピンコートにより塗布した後に露光、現像、加熱を施して絶縁樹脂層6が形成される
【0062】
次に、コイルL1の下部電極4Lと上部電極8Lを接続する箇所の絶縁層6、端子引出電極としての端子電極本体8に付着している誘電体膜5を除去する。これらに該当する部分のみ開口し、その他はレジストで被覆されたレジストパターンを作製した後に、ドライエッチングやイオンミリングの手法で余分な誘電体膜を除去する。
【0063】
続いて、上部電極のめっきシード層7となるCuを、CrやTi等の密着層を介し、下部電極と同様にスパッタで形成する。次に上部電極の配線パターンに該当するレジストパターンを形成した後に、電気めっきを行い、レジスト剥離を行い、不用なめっきシード層を除去して、端子電極本体8としての上部電極配線パターンが形成される
【0064】
続いて形成される封止用の樹脂層9には、ポリイミドに代表される感光性樹脂が使用される。感光性樹脂をスピンコートにより塗布した後に露光・現像によって端子引出し電極部としての端子電極本体8以外が被覆されたパターンを形成した後に、加熱硬化する。
【0065】
なお、この後、実施例では、ウェハ全面にCrもしくはTi、続いてCuをスパッタ成膜してめっきシード層を形成する。その際に、下地層との密着性を向上する為に、スパッタエッチを十分に行い、電極8層上の酸化層や絶縁樹脂層9上の吸着物を除去する。続いて、レジストパターンを形成後、電気めっきを行い、レジスト剥離、めっきシード層を除去して、端子電極保護層としての被覆層10を形成する。
【0066】
次に、ウェハ裏面を研削して所望の厚みに薄肉化し、ダイサーにより個片化される。個片化工程では素子に水がかかって引出電極表面は酸化し、有機物である研削液も付着する為、個片化した素子は酸で洗浄し、脱脂等の前処理工程を経て、側面端子電極が形成される。側面端子としての金属層11は、メタルマスクを用いて、めっき下地層を形成した後にバレルめっきする事で形成される。
【0067】
なお、比較例として、被覆層10を形成しないで薄膜部品を形成した。
【0068】
比較例にて作成した素子を85℃、85%の恒温恒湿層に168時間放置したところ、端子部から水分が浸入して配線層が変色し、半数の素子について配線層の変色が見られ、特性が劣化する事が判明した。側面端子形成前の酸洗浄において、酸化膜が溶解し、この界面にて微小な空隙が生じた結果、信頼性試験中に当該の空隙から水分が浸入し、素子の特性を劣化させたものと考えられる。一方、実施例に係る薄膜部品では、このような劣化は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】薄膜部品100の斜視図である。
【図2】図1に示した薄膜部品100のII−II矢印断面図である。
【図3】基板1、端子電極本体8及び樹脂層9の位置関係を模式的に示す図である。
【図4】端子近傍の断面図である。
【図5】図1に示した薄膜部品100のV−V矢印断面図である。
【図6】端子電極近傍を更に具体化した端子電極近傍の断面図である。
【図7】図6に記載の構造を備えた薄膜部品100の概略の平面図(a)とウエハ(b)を示す平面図である。
【図8】薄膜部品100のVIII−VIII矢印断面図である。
【図9】図1に示した薄膜部品100のII−II矢印断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1・・・基板、9・・・樹脂層、8・・・端子電極本体、10・・・被覆層、11・・・金属層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に電子素子が形成されてなる薄膜部品であって、
前記電子素子を被覆する樹脂層と、
前記電子素子に電気的に接続され前記基板上で前記樹脂層に対して外部に露出した端子電極本体と、
前記端子電極本体と前記樹脂層との境界を被覆する被覆層と、
を備え、
前記被覆層は、前記端子電極本体の酸化物のエッチング液に対するエッチング速度よりも、エッチング速度の遅い材料からなることを特徴とする薄膜部品。
【請求項2】
前記端子電極本体の前記樹脂層による被覆領域と、前記樹脂層との間には、前記端子電極本体の酸化物が介在していることを特徴とする請求項1に記載の薄膜部品。
【請求項3】
前記端子電極本体の前記基板から最も離れた露出面と、前記境界を含む前記樹脂層の側面との成す角度は鈍角であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜部品。
【請求項4】
前記端子電極本体の前記基板から最も離れた露出面と、前記基板の前記端子電極本体側の表面との間の距離は、前記端子電極本体の先端部に向かうに従って小さくなっており、
前記被覆層は、前記露出面から前記基板の前記表面に至るまで延びている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の薄膜部品。
【請求項5】
前記端子電極本体はCu又はAlを含む層からなり、
前記被覆層はCr又はTiを含む層からなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜部品。
【請求項6】
前記基板は、セラミック基板上に平滑化用樹脂層と、無機絶縁層とを順次積層してなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の薄膜部品。
【請求項7】
前記樹脂層の輪郭は、前記基板に垂直な方向からみて、角部が曲線で構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の薄膜部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−251974(P2008−251974A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93849(P2007−93849)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】