説明

薄膜電子部品

【課題】引出電極と薄膜電極層の接続部及びその近傍への応力の集中を抑制することが可能で、信頼性の高い薄膜電子部品を提供する。
【解決手段】薄膜電極層1(1a,1b)と、薄膜電極層上に配設された、所定の位置に貫通孔16a(16b)が配設された絶縁層4と、導電性を有する材料からなり、貫通孔の底部となる薄膜電極層の露出部に配設された緩衝層であって、外周面5xが傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する緩衝層5(5a,5b)と、絶縁層の上面から、貫通孔の内周面を経て緩衝層にまで達し、緩衝層を介して薄膜電極層と電気的に接続する引出電極6(6a,6b)とを備えた構成とし、引出電極を裾広がりのテーパ形状を有する緩衝層を介して薄膜電極層に接続することによって、引出電極と絶縁層の境界部にかかる応力を抑制する。
緩衝層5(5a,5b)の外周面の傾斜角度を30°以下、より好ましくは、15°以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品に関し、詳しくは、薄膜電極層と、それを被覆する絶縁層と、絶縁層を経て薄膜電極層と導通する引出電極とを備えた構造を有する薄膜電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に広く使用される電子部品の一つにキャパシタがあり、電子機器の小型化にともなって、例えば、図12に示すような構成を有する薄膜キャパシタが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この薄膜キャパシタ60は、例えばシリコン基板などの基板51上に、キャパシタ構造体61を設けたものであり、キャパシタ構造体61は、基板51の側から順に、例えばPt電極などの下部薄膜電極層52、例えば(BaSrY)TiO3層などの誘電体層53、Pt電極などの上部薄膜電極層54を備えている。
【0004】
そして、キャパシタ構造体61の上面は、例えばエポキシ樹脂のような絶縁性樹脂から形成された絶縁層55で保護されている。さらに、絶縁層55にはコンタクトホール56及び66が開口されており、それぞれのコンタクトホール56,66には導体金属、例えば銅(Cu)が充填されている。そして、コンタクトホール56及び66の最上面には、それぞれ、引出電極として機能する電極パッド56a及び66aが配設されている。
【0005】
ところで、このような構造を採用した場合、薄型の薄膜キャパシタを得ることが可能になるが、下部薄膜電極層52,誘電体層53、上部薄膜電極層54、絶縁層55、電極パッド56a、66aの各層の熱膨張係数などの差によって発生する応力が、下部薄膜電極層52及び上部薄膜電極層54の特定の部分、具体的には電極パッド56a,66aと下部薄膜電極層52及び上部薄膜電極層54の接合部の外周部(すなわち電極パッド56a,66aの外周下端部)と絶縁層55の境界部Aおよびその近傍に集中して発生する。そして、この応力集中により、下部薄膜電極層52、上部薄膜電極層54、下部薄膜電極層52と上部薄膜電極層54の間に位置する誘電体層53などが損傷する場合が生じるとともに、耐湿性や耐熱衝撃性の低下が生じるという問題点がある。
【0006】
この応力集中に対する耐性を高めるためには薄膜電極層の厚さを厚くすることが有効であるが、例えば、上記のような薄膜キャパシタの場合、薄膜誘電体層を成膜するときの高温酸化雰囲気に耐えられるように電極材料として、通常は、Ptなどの貴金属が用いられるため、薄膜電極層の厚さを厚くすると材料コストが増大するという問題点がある。
【0007】
また、引出電極との接続部だけ下部薄膜電極層及び上部薄膜電極層の厚さを厚くすることも考えられるが、その場合には厚さを厚くした部分、すなわち構造変化のある部分に応力集中が生じ、根本的な問題の解決にはならないという問題点がある。
【特許文献1】特開2004−281446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、引出電極と薄膜電極層の接続部及びその近傍への応力の集中を抑制することが可能で、薄膜電極層などがダメージを受けるおそれが少なく信頼性の高い薄膜電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の薄膜電子部品は、薄膜電極層と、前記薄膜電極層上に配設され、所定の位置に前記薄膜電極層にまで達する貫通孔を備えた絶縁層と、導電性を有する材料からなり、前記貫通孔の底部となる前記薄膜電極層の露出部に配設され、外周面が傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する緩衝層と、前記絶縁層の上面から、前記貫通孔の内周面を経て前記緩衝層にまで達し、前記緩衝層を介して前記薄膜電極層と電気的に接続する引出電極とを具備することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の薄膜電子部品は、下部薄膜電極層と、前記下部薄膜電極層上に形成された薄膜誘電体層と、前記薄膜誘電層上に形成された上部薄膜電極層と、前記下部薄膜電極層及び前記上部薄膜電極層を覆うように配設され、所定の位置に前記下部薄膜電極層にまで達する第1の貫通孔、及び前記上部部薄膜電極層にまで達する第2の貫通孔とが配設された絶縁層と、導電性を有する材料からなり、前記第1の貫通孔の底部となる前記下部薄膜電極層の露出部に配設され、外周面が傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する第1の緩衝層と、導電性を有する材料からなり、前記第2の貫通孔の底部となる前記上部薄膜電極層の露出部に配設され、外周面が傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する第2の緩衝層と、前記絶縁層の上面から、前記第1の貫通孔の内周面を経て前記第1の緩衝層にまで達し、前記第1の緩衝層を介して前記下部薄膜電極層と電気的に接続する第1の引出電極、及び前記第2の貫通孔の内周面を経て前記第2の緩衝層にまで達し、前記第2の緩衝層を介して前記上部薄膜電極層と電気的に接続する第2の引出電極とを具備することを特徴としている。
【0011】
また、前記薄膜電極層は貴金属からなり、前記緩衝層は卑金属からなるものであることが望ましい。
【0012】
また、前記緩衝層の外周面と底面のなす角度が30°以下であることが望ましく、さらには15°以下であることが望ましい。
【0013】
また、本発明の薄膜電子部品は、薄膜キャパシタとして構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の薄膜電子部品は、薄膜電極層と、その上に配設された、所定の位置に薄膜電極層にまで達する貫通孔を備えた絶縁層と、貫通孔の底部となる薄膜電極層の露出部に配設され、外周面が傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する、導電性材料からなる緩衝層と、絶縁層の上面から、貫通孔の内周面を経て緩衝層にまで達し、緩衝層を介して薄膜電極層と電気的に接続する薄膜引出電極とを備えた構成とされていることから、引出電極と薄膜電極層の接合部及びその近傍(例えば、引出電極と薄膜電極層の接合面の外周部の、引出電極と絶縁層の境界部など)への応力の集中を防止するとともに、応力の集中に起因して薄膜電極層や絶縁層が損傷することを防止して、信頼性の高い薄膜電子部品を提供することが可能になる。
【0015】
すなわち、緩衝層がテーパ形状を有している場合、緩衝層の剛性が緩やかに減少していくため、引出電極と薄膜電極層との接合部及びその近傍に、応力が集中することを抑制して、応力集中に起因する薄膜電極層や絶縁層の損傷を防止することが可能になり、信頼性の高い薄膜電子部品を得ることが可能になる。
【0016】
また、本発明の薄膜電子部品は、薄膜誘電層を挟むように下部薄膜電極層と上部薄膜電極層が配設され、かつ、引出電極が裾広がりのテーパ形状を有する緩衝層を介して下部薄膜電極層及び上部薄膜電極層に接続された構造を有しているので、引出電極と、下側薄膜電極層及び上側薄膜電極層との接合部及びその近傍に応力が集中することを抑制しつつ、下側薄膜電極層及び上側薄膜電極層に引出電極を確実に接続することが可能になり、応力集中に起因する薄膜電極層や絶縁層の損傷を防止して、信頼性の高い薄膜電子部品を得ることが可能になる。
【0017】
また、本発明においては、薄膜電極層として貴金属からなるものを用いることにより、高温酸化雰囲気での熱処理に耐えられる信頼性の高い薄膜電極層を形成することが可能になり、また、緩衝層として卑金属からなるものを用いることにより、コストの低減を図ることが可能になる。
なお、緩衝層として卑金属を用いることができるのは、薄膜誘電体層の形成後に緩衝層を形成するため、緩衝層が高温酸化雰囲気にさらされることがないことによる。
また、前記緩衝層としては、Cuを主成分とする材料を用いることが望ましい。これは、Cuを主成分とする材料が比較的安価で、かつ導電率が高いことによる。
【0018】
また、前記緩衝層の外周面と底面のなす角度は、30°以下であることが望ましく、また、15°以下であることがより望ましい。
なお、緩衝層の外周面と底面のなす角度(以下、「外周面の傾斜角度」ともいう)とは、図6においてθで示される角度、すなわち、緩衝層5の外周面(母線)5xと底面5yのなす角度である。
【0019】
緩衝層の外周面の傾斜角度を30°以下とすることにより、緩衝層の剛性が適度に緩やかに減少していくため、応力集中をより確実に緩和することが可能になる。
さらに、緩衝層の外周面の傾斜角度を15°以下とした場合、緩衝層の剛性がより緩やかに減少することになり、応力の集中をさらに確実に緩和することが可能になる。
なお、本発明においては、緩衝層の外周面の傾斜角度を1〜30°の範囲とすることにより、所期の効果を得ることが可能であるが、緩衝層の外周面の傾斜角度が小さくなると、制約されたエリア(貫通孔の底部)で所定の厚さを有する領域を所定面積だけ備えた緩衝層を形成することが困難になるため、通常、緩衝層の外周面の傾斜角度は7°以上とすることが望ましい。
【0020】
また、請求項2の要件を備えた半導体セラミック電子部品は、薄膜キャパシタとして構成することが可能であり、それにより、極めて薄くて大きな静電容量を得ることが可能なキャパシタを提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の一実施例にかかる薄膜キャパシタを示す断面図である。
この薄膜キャパシタは、図1に示すように、基板10の表面に形成された下部薄膜電極層1aと、下部薄膜電極層1aの上に形成された薄膜誘電体層2と、薄膜誘電体層2の上に形成された上部薄膜電極層1bと、上部薄膜電極層1bの上に配設された絶縁層4と、緩衝層5(5a)を介して下部薄膜電極層1aと導通する第1の引出電極6aと、緩衝層5(5b)を介して上部薄膜電極層1bと導通する第2の引出電極6bとを備えている。
【0023】
なお、第1の引出電極6aは、上部薄膜電極層1bを内周面に露出させずに、絶縁層4、上部薄膜電極層1b、及び薄膜誘電体層2とを貫通して下側薄膜電極層1aにまで達する貫通孔16aを経て第1の緩衝層5aに接続されており、また、第2の引出電極6bは、絶縁層4を貫通して、上側薄膜電極層1bにまで達する貫通孔16bを経て第2の緩衝層5bに接続されている。
【0024】
上述のような構成を有する薄膜キャパシタにおいては、薄膜誘電体層2を挟むように配設された下部薄膜電極層1aと上部薄膜電極1bとの間に静電容量が発生するように構成されている。
【0025】
ここで、基板10としてはSi基板が好適に用いられ、表面に熱酸化膜を有するものが好ましい。
【0026】
また、下部薄膜電極層1aおよび上部薄膜電極層1bの構成材料としては、薄膜誘電体層2を形成する際の高温酸化雰囲気に耐えうるように、貴金属や導電性酸化物を用いることが好ましく、例えばPtを用いることが好ましい。
【0027】
絶縁層4は、薄膜電極層と外部との短絡の防止、外部からの機械的な衝撃に対する保護、耐湿性の向上などを目的として設けられているものである。この絶縁層4の好ましい構成材料としては、例えば、ポリイミド樹脂を挙げることができる。
【0028】
引出電極6a,6bは、下部薄膜電極層1aおよび上部薄膜電極層1bに対して外部からの電気的接続を可能ならしめる機能を果たすものであり、その構成材料としては、貴金属、卑金属いずれをも用いることが可能であるが、コストを抑制する見地からは、例えばCuを主たる成分とする卑金属材料を用いることが好ましい。なお、引出電極は薄膜誘電体層の成膜時の高温酸化雰囲気にさらされないことから卑金属を用いることができる。
【0029】
薄膜誘電体層2としては、例えば、チタン酸バリウム系の誘電体セラミックや、チタン酸ストロンチウム系の誘電体セラミック、Ba、Sr、Tiを含む複合酸化物などの種々のセラミック誘電体材料を用いることが可能である。
薄膜誘電体層2はスパッタ法、CVD法(Chemical Vapor Deposition法)や、CSD法(Chemical Solution Deposition法)などの公知の種々の薄膜形成方法により成膜することが可能であるが、製造コストの観点からCSD法を用いて成膜することが好ましい。
【0030】
次に、図2を参照しつつ本発明に係る薄膜誘電体層キャパシタの製造方法について説明する。
【0031】
(1)まず、例えば、Siからなり表面に表面酸化膜としてSiO2膜が形成された基板(Si基板)10を用意する。そして、図2(a)に示すように、基板10の表面に、下部薄膜電極層1a、薄膜誘電体層2および上部薄膜電極層1bの順で各層を形成する。
なお、このとき、基板10の表面に、下部薄膜電極層1aとの密着性を向上させるための密着層を設けることも可能である。密着層としては、例えばTiなどを用いることができる。
【0032】
下部薄膜電極層1aは、例えばRFマグネトロンスパッタ法によって成膜する。この実施例1では、下部薄膜電極層1aとして、Ptからなり、膜厚が200nmの薄膜電極層を形成する。
【0033】
また、薄膜誘電体層2は次のようにして形成する。まず、例えば、Ba,Sr,Tiの有機化合物をエステル系の有機溶媒に溶解させた前駆体溶液を下部薄膜電極層1a上にスピンコートし、350℃のホットプレート上で乾燥させ、このスピンコートと乾燥を複数回繰り返すことによって、厚さ170nmの前駆体膜を形成する。そして、この前駆体膜を650℃で30分間熱処理して結晶化させることにより薄膜誘電体層2を形成する。
【0034】
さらに、例えばRFマグネトロンスパッタ法により、Ptからなり、膜厚が200nmの上部薄膜電極層1bを形成する。
【0035】
(2)次に、フォトリソグラフィーによって、図2(b)に示すように上部薄膜電極層1bおよび薄膜誘電体層2をパターニングする。
この実施例1では、レジストマスクの形成とArイオンミリングを繰り返して上部薄膜電極層1b、薄膜誘電体層2及び下部薄膜電極層1aを順次パターニングし、図2(b)に示すような構造を得た。それから、800℃で30分間の熱処理を行って薄膜誘電体層2の結晶性を高めることにより、薄膜誘電体層2の誘電特性を向上させた。
【0036】
(3)それから、下部薄膜電極層1a、薄膜誘電体層2及び上部薄膜電極層1b上からRFマグネトロンスパッタ法によって、図2(c)に示すように、所定の膜厚のCu膜7を成膜する。
【0037】
(4)次いで、図2(d)及び図3に示すように、Cu膜7上に、外周面が傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する、断面形状が台形状のレジストパターン8を形成する。
このようなテーパ形状のレジストパターンは、例えば、開口率が徐々に変化するフォトマスクを使用して露光した後、現像する方法などの方法により形成することができる。すなわち、開口率が徐々に変化するフォトマスクを使用して、感光の割合を制御することにより、外周面の傾斜角度を制御することが可能である。
【0038】
(5)上述のようにしてテーパ形状のレジストパターン8を形成した後、ドライエッチングによってCu膜のパターニングを行うことにより、図2(e)に示すように、外周面が傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する緩衝層(Cu膜)5(5a,5b)を形成する。
【0039】
なお、このとき、レジストパターン8の外周面の傾斜角度が同じであっても、エッチングレートを変えることによって緩衝層5(5a,5b)の外周面の傾斜角度を変えることができる。すなわち、レジストパターン8のエッチングレートをr1、Cu膜7のエッチングレートをr2とした場合に、r1/r2の値が大きいほど、Cu膜7の端面の傾斜が緩やかになる。したがって、レジストパターン8の外周面の傾斜角度とエッチングレートの比r1/r2を適宜調整することにより、緩衝層5(5a,5b)の端面の傾斜を所望の角度にすることができる。
【0040】
(6)続いて感光性樹脂などを用いて絶縁層4を形成した後、露光及び現像を行い、第1の貫通孔16a、第2の貫通孔16bを形成する(図2(f)参照)。
なお、第1の貫通孔16aは、上部薄膜電極層1bを内周面に露出させることなく、絶縁層4、上部薄膜電極層1b、及び薄膜誘電体層2を貫通して、下側薄膜電極層1a上に形成された第1の緩衝層5aにまで達するように形成されている。
また、第2の貫通孔16bは、絶縁層4を貫通して、上部薄膜電極層1b上に形成された第2の緩衝層5bにまで達するように形成されている。
【0041】
それから、RFマグネトロンスパッタ法によって、膜厚300nmのCu膜を成膜した後、レジストマスクの形成及びArイオンミリングを行ってCu膜をパターニングして、図2(f)に示すように、絶縁層4上から、第1の貫通孔16aの内周面を経て緩衝層5aにまで達し、緩衝層5aを介して下部薄膜電極層1aと電気的に接続する第1の引出電極6aと、絶縁層4上から、第2の貫通孔16bの内周面を経て緩衝層5bにまで達し、緩衝層5bを介して上部薄膜電極層1bと電気的に接続する第2の引出電極6bを形成する。
これにより、図1に示すような構造を有する薄膜キャパシタが得られる。
【0042】
[評価]
本発明の効果を確認するため、下記の複数種類の試料を作成し、以下に説明するような特性の評価を行った。なお、評価を行うにあたっては、温度が200℃上昇したときの応力を、有限要素法を用い、円筒座標系で2次元の熱応力解析を行い、その結果から評価を行った。
以下、評価結果について説明する。なお、ここでの回折結果の応力は、ミーゼスの相当応力である。
【0043】
(評価1)
図3に示すように、緩衝層を備えていない従来の構造の薄膜キャパシタを作製し、引出電極6(6a,6b)と薄膜電極層1(1a,1b)の接合領域の外周部と絶縁層4との境界部Aの近傍の、X座標上の位置と、そこにかかる応力の大きさの関係を調べた。なお、境界部Aの位置は、X座標上の0.01mmの位置となる。
ただし、薄膜電極層1(下部薄膜電極層1a及び上部薄膜電極層1b)の厚さは、100nm、200nm、300nm、500nm、及び700nmの範囲で変化させた。その結果を図4に示す。
【0044】
図4に示すように、緩衝層を備えていない薄膜キャパシタの場合、境界部Aの近傍(X座標の0.010mm付近)には大きな応力が加わること、薄膜電極層の厚さが厚くなると応力が小さくなることが確認された。
この結果から、緩衝層がなくても薄膜電極層の厚さを大きくすればある程度応力を抑制できることがわかる。しかしながら、貴金属材料からなる薄膜電極層を厚くすることはコストの増大を招くため好ましくなく、このことは従来技術の問題点として述べたところである。
【0045】
(評価2)
また、以下の(a),(b),(c)の薄膜キャパシタを作製して、引出電極6(6a,6b)と緩衝層5(5a,5b)の接合領域の外周部と絶縁層4との境界部Aの近傍の、X座標上の位置と、そこにかかる応力の大きさの関係を調べた。なお、この場合も境界部Aの位置は、X座標上の0.01mmの位置となる。
【0046】
(a)図3に示すような緩衝層を備えていない薄膜キャパシタ。
ただし、薄膜電極層1(1a,1b)の厚さは200nm。
(b)緩衝層5を備えているが、緩衝層5の外周面の傾斜角度θが90°の薄膜キャパシタ(図5参照)。
ただし、緩衝層5の厚さは300nm、薄膜電極層1の厚さは200nm。
(c)緩衝層5の外周面の傾斜角度θが7°でテーパ形状を有する緩衝層5(5a,5b)を備えた薄膜キャパシタ(図6参照)。ただし、緩衝層5の厚さが300nmで薄膜電極層1の厚さが200nmのものと、緩衝層5の厚さが600nmで薄膜電極層1の厚さが200nmのものを作製した。
【0047】
上記(a),(b),(c)の各試料について測定したX座標上の位置と、そこにかかる応力の大きさの関係を図7に示す。
図7に示すように、上記(a)の緩衝層を備えていない試料の場合は、境界部Aの近傍(X座標の0.010mm付近)に大きな応力がかかることが確認された。
また、緩衝層を備えていても、上記(b)のように、緩衝層の外周面の傾斜角度θが90°の試料の場合、境界部Aの近傍の、緩衝層の端部Bに対応する位置(X座標の0.011mm付近)に大きな応力がかかることが確認された。
これに対し、上記(c)の傾斜角度θが7°でテーパ形状を有する緩衝層5を備えた試料の場合、境界部Aの近傍(X座標の0.010〜0.015mm付近)にかかる応力が大幅に減少することが確認された。
【0048】
(評価3)
傾斜角度θが7°、15°、30°、45゜、90°の緩衝層5(5a,5b)を備えた薄膜キャパシタを作製し、引出電極6(6a,6b)と緩衝層5(5a,5b)の接合領域の外周部と絶縁層4との境界部Aの近傍の、X座標上の位置と、そこにかかる応力の大きさの関係を調べた。なお、この場合も境界部Aの位置は、X座標上の0.01mmの位置となる。
その結果を図8に示す。ただし、緩衝層の厚さは300nm一定、薄膜電極層の厚さは200nm一定とした。
図8に示すように、傾斜角度が30°以下になると、傾斜角度が90°のときに比べて、応力を15%以上低減できることが確認された。ただし、傾斜があまり緩やかになると、必要な厚さを有する領域を確保しようとすると省スペース化が妨げられるため、通常は、7°以上とすることが望ましい。
【0049】
(評価4)
傾斜角度が7°で、厚さが、50nm、100nm、200nm、300nmの緩衝層を備えた薄膜キャパシタと、傾斜角度が30°で、厚さが、50nm、100nm、200nm、300nmの緩衝層を備えた薄膜キャパシタを作製し、引出電極6(6a,6b)と緩衝層5(5a,5b)の接合領域の外周部と絶縁層4との境界部Aの近傍の、X座標上の位置と、そこにかかる応力の大きさの関係を調べた。なお、この場合も境界部Aの位置は、X座標上の0.01mmの位置となる。
傾斜角度が7°の試料についての評価結果を図9に示し、傾斜角度が30°の試料についての評価結果を図10に示す。
【0050】
図9に示すように、緩衝層の外周面の傾斜角度が同じ7°であっても、厚さが異なる緩衝層を備えた薄膜キャパシタの場合、境界部Aの近傍(X座標の0.009〜0.011mm付近)に加わる応力は、緩衝層の厚さが厚いものの方が小さくなることが確認された。ただし、厚さ200nmと300nmの場合、最大応力に顕著な差がないのに対して、100nmと50nmではその差が大きくなっていることがわかる。しかし、緩衝層の厚さが50nmの場合にも、図7に示す、緩衝層を備えていない従来構造の試料の場合に比べると、応力が小さくなっており、一応の効果が得られることがわかる。
【0051】
また、図10に示すように、傾斜角度が30°の場合も、境界部Aの近傍(X座標の0.009〜0.011mm付近)に加わる応力は、緩衝層の厚さが厚いものの方が小さくなることが確認された。一方、緩衝層の厚さが100nmの場合と50nmの場合に、最大応力に大きな差がないことが確認された。
【0052】
また、図9及び図10より、緩衝層の外周面の傾斜角度が7°の場合と30°の場合のいずれの場合においても図8に示す、緩衝層の外周面の傾斜角度45゜の場合の最大応力を下回っており、本発明の要件を満たす場合には、しかるべき効果が得られることがわかる。
したがって、本発明においては、緩衝層の外周面の傾斜角度にもよるが、通常は緩衝層の厚さが50nm以上であれば、ある程度の効果が得られるものと推測される。
また、上部薄膜電極層および下部薄膜電極層の厚さは、緩衝層の厚さや緩衝層の外周面の傾斜角度などの条件にもよるが、一般的には、100nm以上であることが望ましいものと考えられる。
【実施例2】
【0053】
図11は、本発明の他の実施例(実施例2)にかかる薄膜電子部品の構成を示す断面図である。
この実施例2の薄膜電子部品は、基板20と、基板20上に配設された一層の薄膜電極層21と、薄膜電極層21上に配設された、所定の位置に貫通孔26が設けられた絶縁層24と、導電性を有する材料からなり、貫通孔26の底部となる薄膜電極層21の露出部に配設され、外周面が傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する緩衝層25とを備えている。
【0054】
この実施例2の薄膜電子部品の場合にも、上記実施例1の薄膜キャパシタに準じる効果、すなわち、引出電極と薄膜電極層の接合部近傍への応力の集中を抑制、防止して、薄膜電子部品の信頼性を向上させることができるという効果が得られる。なお、この実施例2の構成は、絶縁層により絶縁被覆された回路配線を外部に引き出す場合などに好適に適用することが可能である。
【0055】
また、この実施例2の薄膜電子部品は、上記実施例1の、図1の薄膜電子部品(薄膜キャパシタ)とは、薄膜誘電体層2と上部薄膜電極層1bとを備えていない点で構成を異にするが、他の部分の構成は実施例1のものと同様であり、実施例1の薄膜キャパシタの製造方法に準じる方法で製造することができる。
【0056】
なお、本発明は、引出電極により引き出される対象となる薄膜電極層の層数や配設態様に制約されるものではなく、実施例1の場合のように引出電極により引き出される対象となる薄膜電極層が2層であってもよく、実施例2の場合のように一層であってもよい。
【0057】
また、本発明は、複数層の薄膜電極層のうちの所定の薄膜電極層(それが一層であっても複数層であっても構わない)と引出電極を導通させる場合にも適用することが可能である。
【0058】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変形や応用を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上述のように、本発明によれば、引出電極と薄膜電極層の接続部及びその近傍への応力の集中を抑制することが可能で、信頼性の高い薄膜電子部品を提供することが可能になる。
したがって、本発明は、薄膜キャパシタをはじめとする薄膜電子部品の分野に広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施例にかかる薄膜電子部品(薄膜キャパシタ)の構成を示す断面図である。
【図2】(a)〜(f)は本発明の一実施例にかかる薄膜電子部品(薄膜キャパシタ)の製造方法を示す図である。
【図3】本発明の効果を確認するために比較用に作製した、緩衝層を備えていない従来の構造の薄膜電子部品(試料)の要部構成を示す断面図である。
【図4】図3の比較用の試料について調べた、引出電極と薄膜電極層の接合領域の外周部と絶縁層との境界部近傍の位置と、そこにかかる応力の大きさの関係を示す図である。
【図5】本発明の効果を確認するために比較用に作製した、緩衝層の外周面の傾斜角度が90°の試料の要部構成を示す断面図である。
【図6】本発明の実施例にかかる、緩衝層の外周面の傾斜角度が30℃以下の要件を満たす試料の要部構成を示す断面図である。
【図7】図5に構造を示した緩衝層の外周面の傾斜角度が90°の比較用の試料や本発明の実施例にかかる試料などについて調べた、引出電極と緩衝層の接合領域の外周部と絶縁層との境界部近傍の位置と、そこにかかる応力の大きさの関係を示す図である。
【図8】緩衝層の外周面の傾斜角度を変えた場合の、引出電極と緩衝層の接合領域の外周部と絶縁層との境界部近傍の位置と、そこにかかる応力の大きさの関係を示す図である。
【図9】本発明の実施例にかかる、緩衝層の外周面の傾斜角度が7°の試料について緩衝層の厚さを変えた場合の、引出電極と緩衝層の接合領域の外周部と絶縁層との境界部近傍の位置と、そこにかかる応力の大きさの関係を示す図である。
【図10】本発明の実施例にかかる、緩衝層の外周面の傾斜角度が30°の試料について緩衝層の厚さを変えた場合の、引出電極と緩衝層の接合領域の外周部と絶縁層との境界部近傍の位置と、そこにかかる応力の大きさの関係を示す図である。
【図11】本発明の他の実施例にかかる薄膜電子部品の構成を示す断面図である。
【図12】従来の薄膜キャパシタの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 薄膜電極層
1a 下部薄膜電極層
1b 上部薄膜電極層
2 薄膜誘電体層
4 絶縁層
5 緩衝層
5a 第1の緩衝層
5b 第2の緩衝層
5x 緩衝層の外周面(母線)
5y 緩衝層の底面
6 引出電極
6a 第1の引出電極
6b 第2の引出電極
7 Cu膜
8 レジストパターン
10 基板
16a 第1の貫通孔
16b 第2の貫通孔
20 基板
21 薄膜電極層
24 絶縁層
25 緩衝層
26 貫通孔
θ 緩衝層の外周面と底面のなす角度(傾斜角度)
A 引出電極と緩衝層の接合領域の外周部と絶縁層との境界部
B 境界部の近傍の、緩衝層の端部に対応する位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜電極層と、
前記薄膜電極層上に配設され、所定の位置に前記薄膜電極層にまで達する貫通孔を備えた絶縁層と、
導電性を有する材料からなり、前記貫通孔の底部となる前記薄膜電極層の露出部に配設され、外周面が傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する緩衝層と、
前記絶縁層の上面から、前記貫通孔の内周面を経て前記緩衝層にまで達し、前記緩衝層を介して前記薄膜電極層と電気的に接続する引出電極と
を具備することを特徴とする薄膜電子部品。
【請求項2】
下部薄膜電極層と、
前記下部薄膜電極層上に形成された薄膜誘電体層と、
前記薄膜誘電層上に形成された上部薄膜電極層と、
前記下部薄膜電極層及び前記上部薄膜電極層を覆うように配設され、所定の位置に前記下部薄膜電極層にまで達する第1の貫通孔、及び前記上部部薄膜電極層にまで達する第2の貫通孔とが配設された絶縁層と、
導電性を有する材料からなり、前記第1の貫通孔の底部となる前記下部薄膜電極層の露出部に配設され、外周面が傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する第1の緩衝層と、
導電性を有する材料からなり、前記第2の貫通孔の底部となる前記上部薄膜電極層の露出部に配設され、外周面が傾斜して裾広がりのテーパ形状を有する第2の緩衝層と、
前記絶縁層の上面から、前記第1の貫通孔の内周面を経て前記第1の緩衝層にまで達し、前記第1の緩衝層を介して前記下部薄膜電極層と電気的に接続する第1の引出電極、及び前記第2の貫通孔の内周面を経て前記第2の緩衝層にまで達し、前記第2の緩衝層を介して前記上部薄膜電極層と電気的に接続する第2の引出電極と
を具備することを特徴とする薄膜電子部品。
【請求項3】
前記薄膜電極層は貴金属からなり、前記緩衝層は卑金属からなることを特徴とする請求項1または2記載の薄膜電子部品。
【請求項4】
前記緩衝層の外周面と底面のなす角度が30°以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜電子部品。
【請求項5】
前記緩衝層の外周面と底面のなす角度が15°以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜電子部品。
【請求項6】
薄膜キャパシタであることを特徴とする請求項2記載の薄膜電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−277520(P2008−277520A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118947(P2007−118947)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】