説明

薬剤を放出するステントコーティング及び方法

【課題】隙間のある格子構造を有する、金属製ステントプロテーゼのコーティング及び方法を提供すること。
【解決手段】コーティングは、比較的に薄い層を有し、この層は生物学的に安定なエラストマー材料からなる。このエラストマー材料には、所定量の生物学的に活性な物質、特にヘパリンが分散しており、また、非血栓性の表面を有する。一実施態様では、表面に、フルオロシリコーンで被覆することにより、電気陰性度が高い種からなる部位が設けられている。これにより、溶離、特に、初期の放出速度及び非血栓性の制御を補助する。ヘパリンのための非血栓性の外側層、例えば、ポリエチレングリコールと共有結合しているものが開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件特許出願は、1995年9月11日に出願された関連出願第08/526,273号の一部継続出願であるとともに、1995年4月19日に出願された関連出願08/424,884号の一部継続出願でもある。本件特許出願に包含されておらず、かつ、これらの親出願に包含されている全ての事項は、如何なる目的においても、本明細書に援用されている。本件と発明者及び譲受人が共通し、かつ、同日に出願された、出願第08/ 号、発明の名称、「薬剤放出ステントコーティング方法」、並びに、上記した出願の一部継続出願に対して、相互に参照される。本件特許出願に包含されていない事項については、如何なる目的においても参照文献として本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、一般に、生物学的に安定なエラストマーコーティングを移植片の表面上に提供することに関し、当該コーティングは、当該コーティング中で制御された放出特性を有する生物学的に活性な物質を包含するものである。本発明は、特に、生物学的に活性な物質の時間制御された放出の間または放出後に非血栓性の表面を提供することに関する。本発明は、特に、生体管腔内への移植、例えば血管移植のための治療において拡張可能なステントプロテーゼ(prosthesis)上のコーティングに関して記載される。
【背景技術】
【0003】
外科的または他の関連する侵襲性の工程において、血管、尿管またはその他のアクセスが困難な箇所にステント器具を挿入、拡張させることは、再狭窄を防ぎ、管もしくは管腔壁支持体若しくは補強体を提供するために、そしてその他の治療上の若しくは健康回復のための機能のために、長期治療の通常の形態となってきている。典型的にはそのようなプロテーゼは、血管カテーテル若しくは同様の管腔貫通器具を用いて所期の位置に適用されて、ステントが所期の位置に運ばれる。その後、そこにおいてステントは放出されて拡張するか、またはin situで拡張する。これらの器具は、一般に、永久移植片として設計されており、移植部位において接触する血管またはその他の組織に埋め込まれてもよいものである。
【0004】
自己拡張するステントの一つの型は、幾つかのスレッド(thread) 要素であって個々が柔軟なものから形成される柔軟な管状体を有する。各々のスレッド要素は螺旋状に伸びており、管状体の中心線が各々のスレッド要素の共通軸として作用する。これらのスレッド要素は、同じ方向に巻き付けられているが、互いに軸方向にずれて配置されている。そして、やはり軸に沿って配置されているが、反対方向に巻き付けられている同様の数の要素と交差して出会っている。この配置により、弛緩の際安定した広がりを与える弾力性のある網目状の管状構造が提供される。軸方向の張力は、伸張並びに対応する直径方向の収縮を生じさせ、これによりステントはカテーテル器具上に配置されて細い伸張した器具として管状システムを通して運ばれる。in situで張力がいったん弛緩すると、器具は少なくとも実質的にその原型に戻る。網目状の柔軟性管状体を含むクラスのプロテーゼは、Wallstenの米国特許第4,655,771号および4,954,126号、並びにWallstenらの米国特許第5,061,275号に図解および記載されている。
【0005】
移植されたステントは血栓崩壊剤等の医療用試薬を運搬するために使用されてきた。Froixの米国特許第5,163,952号はステント自体の材料中に医療用試薬を含んで運搬するために設計された、温度依存性形状記憶拡張プラスチック性ステント器具を開示している。Pinchukは、米国特許第5,092,877号において、薬剤の運搬に関連するコーティングを有していてもよいポリマー性材料からなるステントを開示している。生物分解性若しくは生物吸収性ポリマーを用いたクラスの器具に関するその他の特許は、Tangらの米国特許第4,916,193号およびMacGregorの米国特許第4,994,071号を含む。
【0006】
Sahatjianの特許である、米国特許第5,304,121号はヒドロゲルポリマー、並びに細胞増殖抑制因子もしくはヘパリン等の予め選択された薬剤から成るステントに適用されるコーティングを開示している。治療用物質を送達する被覆された血管内ステントを製造するためのさらなる方法は、1995年11月7日に発行された、Bergらの米国特許第5,464,650号、ならびにこれに対応する1994年11月9日に公開された欧州特許出願第0,623,354 A1号に記載されている。この開示では、ポリマーコーティング材料は溶剤に溶解され、治療用物質は溶剤中に分散される;溶剤は塗布後に蒸発する。
【0007】
Michael N. Helmus(本発明の共同発明者)による文献「医療器具設計−システムアプローチ:中心静脈カテーテル」、材料および方法の工学技術学会の発展のための第22回国際会議(1990)は、ヘパリンを放出するためのポリマー/薬剤/膜システムに関する。これらのポリマー/薬剤/膜システムは機能するために2つの異なる型の層を必要とする。
【0008】
血液がin vivoで外来物体の表面と接触すると、血栓形成反応が誘導される傾向があること、そして宿主血液と接触する外来器具の表面積が増加するほど、これらの表面での凝血および血塊形成の傾向が増加することが認識されてきている。これにより、この現象を減ずるために酸素吸入器具等の血液と接する表面上に、ヘパリン等の固定化された全身性抗凝血剤もしくは血栓溶解剤の使用がもたらされた。このような手法はWintersらの米国特許第5,182,317号、第5,262,451および第5,338,770号に記載されており、これらの文献において、活性物質のアミン官能基はシロキサン表面上のポリエチレン酸化物(PEO)を用いて共有結合されている。
【0009】
他のアプローチは、ラーム(Larm)に付与された米国特許第4,613,665号に記載されている。このアプローチでは、ヘパリンは、プラスチック製表面材料に共有結合で化学的に固定されており、この表面材料は、非血栓性を付与するために1級アミノ基を含有する。へパリンを固定する他のアプローチは、下記の文献に記載されている:Barbucci, et al.「ヘパリン化可能な新たな材料による商業的に入手できる材料のコーティング」(Coating of commercially availablematerials with a new heparinizable material), Journal of Biomedical Materials Research, 第25巻、1259-1274(1991);Hubbell, J.A., 「材料の薬学的な修飾」(Pharmacologic Modification of Materials) Cardiovascular Pathology, 第2巻、第3号(Suppl.), 121S-127S(1993);Gravlee, G.P., 「ヘパリンで被覆された心肺バイパス回路」(Heparin-Coated Cardiopulmonary Bypss Circuites), Journal of Cardiothroacic and Vascular Anesthesia, Vol 8, No 2, pp 213-222 (1994)。
【0010】
ステントについては、ポリマー製ステントは有効であるが、近似する厚さ及び網目の金属製ステントと比べて、機械特性が劣る場合がある。金属製血管ステントであって均等な比較的に細い金属で網目のものは、内側に向かう周方向の圧力に耐える強度を顕著に大きくすることができる。ポリマー材料で同等の強度を得るためには、側壁を更に厚い構造とし、かつ、フィラメントの織物組織(weave)を更に重く、また、織物組織の密度を更に高くする必要がある。従って、ステント内部を流れるために確保される断面積が減少することになり、及び/又は、織物組織にある隙間のスペースの量が減少することにもなる。カテーテル送達系を用いてポリマー製ステントを配置し、送達することは、一般的にはより困難である。
【0011】
例えば、網目状金属製ステントのようなある種のステントは、特定の用途で好まれる場合がある。しかし、本発明のコーティング及びコーティング修飾方法は、このように限定されるものではなく、様々なプロテーゼに用いることができる。従って、ステントの場合には、本発明は、例えば、自己拡張的でないステントに適用することができ、ここで、自己拡張的でないステントには、バルーンで拡張させることができるものも含まれる。また、本発明は、如何なる種類のポリマー製ステントにも適用することができる。本発明により利益を得ることができる医療器具としては、例えば、血液交換装置、血管アクセスポート、中心静脈カテーテル、心臓血管カテーテル、対外サーキット、血管移植、ポンプ、心臓弁、心臓血管縫合等が挙げられる。詳細な実施態様にかかわらず、本発明の適用範囲は、移植のデザイン、移植位置又は構成要素の材料に関し、制限されるものではない。更に、本発明は、移植可能な他の種類のプロテーゼに用いることもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の第1の目的は、生物学的に活性な物質を長期間に渡って有効に制御して送達することができるコーティングと、患部に配置されたステントプロテーゼとして使用されるステントを被覆する方法とを提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、生物学的に安定な疎水性エラストマーを用いた、コーティング及びステントプロテーゼを被覆する方法を提供することである。ここで、コーティングの疎水性エラストマーは、生物学的に活性な物質を包含する。
【0014】
本発明の更なる目的は、多層コーティング及び生物学的に活性な物質を送達する方法を提供することであり、ここで、活性な物質の割合は、層ごとに異なっていてもよい。
【0015】
本発明の更なる目的は、多層コーティング及び生物学的に活性な物質をコーティングから送達する方法を提供することであり、ここで、コーティングは非血栓性の表面を有する。
【0016】
本発明の更なる目的は、生物学的に活性な物質、例えば、ヘパリンを送達する多層コーティングであって、フルオロシリコーン上部層(top layer)を有するものを提供することである。
【0017】
本発明の更なる目的は、生物学的に活性な物質、例えば、ヘパリンを送達する多層コーティングであって、固定化されたポリエチレングリコール(PEG)を有する表面を有するものを提供することである。
【0018】
本発明のその他の目的及び利点は、当業者が明細書及びこれに含まれる特許請求の範囲を理解することにより更に明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、比較的に薄い層状のコーティングを提供するものであり、このコーィテングは、生物学的に安定なエラストマー材料からなる。また、このエラストマー材料は、生物学的に活性な物質の所定量をその内部に包含するとともに、非血栓性の表面を有する。かかる表面は、例えば、ステントのような、患部に配置することができる(deployable)プロテーゼの表面のコーティングに有用である。
【0020】
被覆されるステントは、自己拡張的であり、かつ、開口端を有する筒状のステントプロテーゼが好ましい。ポリマー材料を含む他の材料を用いることができるが、好ましい実施態様では、この筒状体は、自己拡張的である、隙間のある網目状に形成され、単一の又は複数のフィラメントの金属ワイヤからなる。この金属ワイヤは、陥没することなく曲がるものであり、容易に軸方向に変形して、細長い形状になり、血管カテーテルを介して管腔に挿入され、その部位(in situ)で除去された際には、所定の径に安定的に拡張する。
【0021】
この方法において、初期のコーティングは、ポリマー材料と、微細に分割された(finely divided)生物学的に活性な物質との混合物、溶液又は懸濁液として塗布されることが好ましい。ここで、かかる物質は、有機媒体に分散していてもよい。また、溶媒又は媒体の溶液又は部分的な溶液であってもよく、ここで、この媒体は、ポリマー及び/又は生物学的に活性な物質の媒体である。本件特許出願の目的において、「微細に分割された」という用語は、任意の種類又はサイズの包含されている材料を意味し、かかる材料は、懸濁液、コロイド及び微粒子混合物から溶解した分子である。活性な材料は、担体材料の内部に分散しており、この担体材料は、ポリマー、溶媒、又は、この両者であってもよい。コーティングは、複数の比較的に薄い層として塗布されることが好ましく、これらの層は、順次、比較的に素早い順序で塗布されていることが好ましく、経方向に拡張した状態のステントに塗布されていることが好ましい。
【0022】
多くの用途において、層状のコーティングは、アンダーコート(undercoat)及びトップコート(topcoat)を有することを意味し、また、アンダーコート及びトップコートを有することに特徴がある。トップコートに対するアンダーコートのコーティングの厚さの比は、所望される効果及び/又は溶離(elution)系により、異なるものである。典型的には、これらは互いに異なる組成を有しており、アンダーコートはほとんど又は全ての活性材料を包含し、非血栓性の表面はトップコートに見出される。
【0023】
コーティングは、浸せき又は噴霧により塗布することができ、何れの場合であても、比較的に高い蒸気圧を有する揮発性溶媒材料を用いて、所望する粘度を得て、コーティング層の厚さを素早く確定する。経方向に拡張しているステントを回転させつつ、空気ブラシ装置を用いて、相反して(reciprocally)噴霧コーティングをする方法が好ましい。このコーティング方法により、ステントの隙間のある構造のフィラメントの全表面に付着して、形状が適合することができるとともに、フィラメントの全表面を被覆することができる。同時に、このコーティング方法により、コーティング装置で、網目状又は他のパターンである隙間のある格子構造を維持することができる。
【0024】
このコーティングは、室温にて、所定の時間(例えば、1時間以上)換気装置に曝露し、溶媒媒体を蒸発させる。ある種のアンダーコート材料の場合には、この後に、室温又は上昇した温度にて、ポリマー材料を硬化させる。硬化とは、加熱、及び/又は化学薬品を用いることにより、物理化学的変化を惹起させて、エラストマー又はポリマー材料を、最終的な即ち有用な状態に変換することと定義される。例えば、ポリウレタン熱可塑性エラストマーをアンダーコート材料に用いることができ、室温にて溶媒を蒸発させることができる。これにより、更に硬化させることなく、アンダーコート材料を制御された薬剤の放出に有用にすることができる。
【0025】
硬化のために適用することができる換気時間及び温度は、関与する特定のポリマー及び用いられる特定の薬剤によって決定される。例えば、シリコーン材料、即ち、ポリシロキサン材料(例えば、ポリジメチルシロキサン)を好ましく用いることができる。ウレタンプレポリマーもまた用いることができる。ポリウレタン熱可塑性エラストマーと異なって、これらの材料のいくつかは、コーティング組成物中のプレポリマーとして塗布されるので、熱により硬化することが必須となる。好ましいシリコーン種は、比較的に低い硬化温度を有するものであり、例えば、室温で加硫できる(RTV)材料として知られているものである。ポリジメチルシロキサン材料のいくつかは、硬化することができ、例えば、約90℃にて、例えば、16時間という期間、空気に曝露することにより硬化することができる。硬化工程は、アンダーコート若しくはいくつか下部層(lower layer)を塗布した後、及び、上部層(top layer)を塗布した後の双方で行ってもよいし、あるいは、コーティングが完了した後に一回だけ硬化工程を行ってもよい。
【0026】
被覆されたステントは、硬化後の処理工程に曝され、かかる処理工程は、不活性ガスプラズマ処理及び滅菌化を含み、滅菌化としては、例えば、ガンマ線照射、ETO処理、電子線処理、蒸気処理が挙げられる。
【0027】
プラズマ処理においては、拘束されていない被覆されたステントを反応室に置き、系を窒素ガスでパージし、20〜50ミリトルの真空にする。次いで、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム又はこれらの混合物を、プラズマ処理のため、反応室に導入する。一方法では、アルゴン(Ar)ガスを用い、200〜400ワットの出力範囲、分当たり150〜650標準ミリリットルの流速(この流速は、約100〜450ミリトルに相当する。)、及び、30秒乃至約5分の曝露時間という条件で処理する。プラズマ処理の後、ステントを即座に除去することができ、又は、アルゴン雰囲気に更に所定の時間、典型的には5分間、保持することがでできる。
【0028】
本発明では、トップコート、即ち、表面コーティングは、数種の方法の何れかで塗布されてもよく、これにより、血栓形成性を更に制御することができ、更に、所望により、放出プロフィール、特に、初期の顕著に高い放出速度であってヘパリンの溶離に関連するものを制御することができる。
【0029】
一実施態様では、フルオロシリコーンからなる外部層(outer layer)が、トップコートとして、アンダーコートに塗布される。外部層もまたヘパリンを含有してもよい。他の実施態様では、ポリエチレングリコール(PEG)が、コーティングの表面で固定化される。この方法では、下部層(underlayer)を不活性ガスプラズマ処理し、その後、即座にアンモニア(NH3)プラズマ処理し、表面をアミノ化する。本明細書では、アミノ化とは、表面にイミノ基及び他のニトロ基含有(nitro containing)種を生成することを意味する。その後、還元剤、例えば、シアノボロヒドリドナトリウムにより、求電子的に活性化されたポリエチレングリコール(PEG)溶液に即座に浸せきする。
【0030】
コーティング及び硬化されたステントであって修飾された外部層又は表面を有するものを、最終的には、ガンマ線照射、通常は2.5乃至3.5ミリラドにより、滅菌化する。アルゴン(Ar)プラズマ処理されたステントは、曝露された際に拘束されていようといまいと、照射後に十分に弾力性を享受する。もっとも、予めアルゴンプラズマ処理されていないステントが拘束された状態でガンマ線滅菌化された場合には、弾力性を失い、十分な又は適当な速度で回復しない。
【0031】
ステントコーティングの下部層(underlayer)を形成するエラストマー材料は、特定の特性を有するべきである。下部層は、疎水性、かつ、生物学的に安定なエラストマー材料であって分解しないものから構成されるべきであることが好ましい。表面層の材料は、組織の拒絶反応及び組織の炎症を最小限にし、かつ、ステントが移植された部位に隣接する組織により内部に包み込まれることが可能なものが好ましい。曝露される材料は、接触する血液により凝固する傾向が小さくなるようにデザインされているべきであり、表面はそれに応じて修飾されていることが好ましい。従って、上記材料の下部層には、フルオロシリコーン外側コーティング層が設けられていることが好ましく、この外側コーティング層は、埋め込まれている生物活性物質、例えば、ヘパリンを含有してもよいし、含有しなくてもよい。あるいは、外部コーティングは、ポリエチレングリコール(PEG)、多糖、リン脂質又はこれらの組み合わせから実質的に構成されていてもよい。
【0032】
アンダーコート又は下部層(underlayer)に一般的に適しているポリマーとしては、シリコーン(例えば、ポリシロキサン及び置換ポリシロキサン)、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー一般、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィンエラストマー、ポリアミドエラストマー及びEPDMゴムが挙げられる。上記材料は、本発明が考慮される環境では、疎水性と考えられる。表面層の材料としては、フルオロシリコーン、ポリエチレングリコール(PEG)、多糖、リン脂質、並びに、これらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
包含される活性物質としては、ヘパリンが好ましい。しかし、包含される薬剤としては、抗血栓剤、抗凝血剤、抗生物質抗血小板剤、血栓崩壊剤、抗増殖剤、ステロイド系抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症剤、過形成、特に、再狭窄の抑制剤、平滑筋細胞抑制剤、成長因子、成長因子抑制剤、細胞癒着抑制剤、細胞癒着促進剤、健康な新内膜組織(内皮細胞の再生を含む。)の形成促進剤が挙げられる。肯定的な作用は、特定の細胞(例えば、平滑筋)又は組織形成(例えば、繊維性筋性組織)の抑制で得られる場合がある一方、異なる細胞移動(例えば、内皮)及び組織形成(例えば、新内膜組織)の促進で得られる場合もある。
【0034】
網目状ステントを得るための好適な材料としては、ステンレス鋼、タンタル、チタン合金及びある種のコバルト合金が挙げられる。ここで、チタン合金には、ニチノール(nitinol)、即ち、ニッケルチタン合金材料であり、熱により形状記憶するものが含まれる。また、コバルト合金には、コバルト−クロム−ニッケル合金、例えば、Elgiloy(登録商標)及びPhynox(登録商標)が含まれる。ステントそのものの製造その他の側面についての詳細は、既に参照した米国特許第4,655,771号及び第4,954,126号(両特許はWallstenに付与されている。)、並びに、米国特許第5,061,275(Wallsten el alに付与されている。)に記載されており、これらの文献は本明細書に参照文献として援用されている。
【0035】
ポリマーコーティング材料の様々な組み合わせが、関心のある生物学的に活性な物質とともに用いることができ、移植されるべき本発明のステントに被覆された場合には、所望する効果を奏することができる。治療材料の充填には多くの種類がある。生物学的に活性な物質を表面コーティングに組み込む機構、及び、発現させる機構は、表面コーティングポリマー及び組み込まれる活性物質の両者の性質に依存する。放出機構は、組み込みのモードにも依存する。生物活性物質は、粒子と粒子との間の通路を通って溶離してもよいし、内部に封じ込めている物質を通る輸送又は拡散により投与されてもよい。
【0036】
本明細書において、「溶離」とは、物質が体液に直接接触することによる抽出又は放出であって、コーティングの外部に接続する、粒子と粒子との間の通路を通るものが関与する放出過程と定義される。「輸送」又は「拡散」とは、放出される物質が他の物質を通過する放出機構を含むものと定義される。
【0037】
所望する放出速度プロフィールは、コーティングの厚さ、生物活性物質の経方向の(即ち、層から層への)分布、混合方法、生物活性物質の量、異なる層における異なるマトリックスポリマー材料の組み合わせ及びポリマー材料の架橋密度を変化させることにより、調整することができる。架橋密度は、実際に起きる架橋の量と、マトリックスの相対的な気密度であって用いられる特定の架橋剤により生じるものとに関連する。硬化過程において、架橋の量が確定し、従って、ポリマー材料の架橋密度も確定する。架橋されたマトリックスから放出される生物活性物質、例えば、ヘパリンでは、架橋構造の密度が増大する場合には、放出時間が長期になり、バースト効果が減少する。
【0038】
薬剤が担持されていないシリコーンの薄い上部層には利点があり、薬剤の溶離を更に制御することができる。しかし、ヘパリンの場合において、例えば、トップコート又は表面コーティングが修飾されたときには、初期のヘパリン放出プロフィールを更に制御することができ、又は、表面を更に非血栓性にすることにより顕著な利点が得られることは理解されるべきである。
下記の図において、近似する引用番号は、近似する部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の方法の工程を示す工程図である。
【図2】多層系における放出プロフィールを示し、2週間の期間において放出されたヘパリンの割合を示す。● 結合層=37.5%ヘパリンコーティング、上部層(top layer)=シリコーン□ 結合層=37.5%ヘパリンコーティング、上部層=16.7%ヘパリンコーティング◇ 単一層=37.5ヘパリンコーティング
【図3】多層系における放出プロフィールを示し、2週間の期間におけるヘパリンの相対的な放出速度を示す。● 結合層=37.5%ヘパリンコーティング、上部層=シリコーン□ 結合層=37.5%ヘパリンコーティング、上部層=16.7%ヘパリンコーティング
【図4】近似するコーティング厚さにおける異なる薬剤充填の放出速度論プロフィールを示し、2週間の期間におけるヘパリンの放出を示す。なお、非血栓性の表面を長期に渡って提供する関連手段は設けられていない。
【図5】コーティング厚さが異なり、かつ、ヘパリンの充填が一定の場合において、2週間の期間における薬剤溶離速度論を示す。なお、非血栓性の表面を長期に渡って提供する関連手段は設けられていない。ここで、薬剤、即ち、ヘパリンの充填は、41.1%である。
【図6】アンダーコート及びトップコートの組成が一定であり、アンダーコートの厚さが異なる場合における放出速度論を示す。なお、ヘパリンの割合は、アンダーコート及びトップコートのそれぞれで一定に保たれた。
【図7】pH7.4におけるリン酸塩緩衝系におけるヘパリン放出速度論のプロットである。フルオロシリコーン(FSi)トップコートの有無が異なる。◆ フルオロシリコーン上部層あり □ フロオロシリコーン上部層なし 最初の2時間において、フルオロシリコーンがないコーティングの放出速度は、フルオロシリコーンがある場合と比べて、25倍速い。
【図8】pH7.4におけるリン酸塩緩衝系におけるヘパリン放出速度論のプロットである。フルオロシリコーン(FSi)のみを含有するトップコートと、16.7%ヘパリンが埋め込まれているFSiトップコートとが比較されている。◆ フルオロシリコーン上部層(top layer)中にヘパリンなし□ フロオロシリコーン上部層中に16.7%ヘパリン 37.5%ヘパリンの結合コートの厚さは、約40ミクロンである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明では、ステントコーティングは、生体内、in situで、関心のある身体管腔に時間制御された送達をするために生物学的に活性な物質を組み込んでいる。かかるステントコーティングでは、調製されたコーティング溶液又は懸濁液を噴霧することにより、多くの薄い層が得られ、かかる層の内部に生物学的に活性な物質が組み込まれている。かかる方法の工程は、図1に概説されている。コーティング溶液又は懸濁液を、後述するようにして、10で調製する。架橋剤を添加する場合には、所望量の架橋剤を懸濁液又は溶液に、12で添加し、次いで、その混合物を攪拌し、均一なコーティング組成物を14で得る。その後、この組成物を塗布容器又は塗布装置に写し、この塗布容器又は塗布装置は、16の吹き付け塗装のための容器であってもよい。コーティング溶液の典型的な調製例であって、ヘパリン及びデキサメタゾン(dexamethasone)に用いられるものについて、次に述べる。
【0041】
ヘパリンアンダーコーティング組成物の一般的製造
シリコーンは溶媒(キシレン)中ポリマー先駆体の混合物のとして入手した。例えば、キシレン中の35%固体シリコーン重量をApplied Silicone,Part#40,000から入手した。最初に、シリコーン−キシレン混合物を秤量した。固体シリコーン含量をVendorの分析法に従って測定した。予め算出した量の微粉状(finely divided)ヘパリン(2〜6ミクロン)をシリコーン中に加えて、次に、テトラヒドロフラン(THF)HPCL等級(Aldrich又はEM)を加えた。例えば、37.5%ヘパリンコーティングに関して、Wsilicone=5g;固体%=35%;Whep=5x0.35x0.375/(0.625)=1.05g。このコーティング溶液中のTHF必要量(44ml)は、37.5%ヘパリンコーティング溶液に関して式:Wsilicone/Whep=0.04を用いて算出した。最後に、Pasteur P−ピペットを用いて製造者の架橋剤溶液を加えた。架橋剤の添加量は放出速度プロフィールをもたらすように定められた。典型的に、各5gのシリコーン−キシレン混合物に5滴の架橋剤溶液を加えた。懸濁液が均質なミルク状になるまで、撹拌ロッドを用いて溶液を撹拌した。次に、コーティング溶液をエアブラシによる塗布のための条件でペイントジャー中に移した。
【0042】
デキサメタゾンアンダーコーティング組成物の一般的製造
Metler秤上のビーカー中にシリコーン(上記のような35%溶液)を秤り入れた。0.35を乗じたシリコーン重量と、デキサメタゾンの望ましい割合(1〜40%)とによって、デキサメタゾン遊離アルコール又はアセテート形の重量を算出し、必要量を秤量した。例:Wsilicone=5g;10%デキサメタゾンコーティングに関して、Wdex=5x0.35x0.1/(0.9)=0.194gと、このコーティング溶液中のTHF必要量を算出した。10%デキサメタゾンコーティング溶液に関して、Wsilicone solid/VTHF=0.06。例:Wsilicone=5g;VTHF=5x0.35/0.06=29ml。デキサメタゾンを分析用秤上のビーカー中に秤り入れ、THFの総量の1/2を加えた。この溶液をデキサメタゾンが確実に完全に溶解するように充分に撹拌した。次に、撹拌済みDEX−THF溶液をシリコーン容器に移した。ビーカーを残りのTHFで洗浄して、これをシリコーン容器に移した。Pasteur P−ピペットを用いて、架橋剤溶液を加えた。典型的に、各5gのシリコーンに対して5滴の架橋剤溶液を用いた。
【0043】
ステント(stent)へのコーティング物質の塗布は全てのコーティング物質に関して同じであり、上記例におけるように調製したヘパリン懸濁液とデキサメタゾン懸濁液に関しても同じであった。塗布すべき懸濁液を図1の16において塗布デバイスに移した。典型的に、レギュレーター(Norgren、0〜160psi)から圧縮空気源を供給される、例えばBadger Model 150のような、エアブラシに取り付けられたペイントジャーを用いた。ブラシのホースをレギュレーターの下流の圧縮空気源に取り付けてから、空気を供給した。圧力を約15〜25psiに調節し、ノズル状態をトリガーを押し下げることによってチェックした。
【0044】
吹き付けのためにステントを固定するためには任意の適当な方法を用いることができ、実験室では回転固定具(rotating fixture)を用いて成功を収めることができた。関連ステントの両端を2個の弾性保持体、通常はアリゲータークリップによって固定具に固定し、ステントが弛緩した非伸長状態に留まるようにクリップ間の距離を調節した。次に、ローターに動力を与えて、回転速度を所望の塗布速度を与えるように、即ち、約40rpmに調節した。
【0045】
実質的に水平な面内でステントを回転させながら、ノズルからステントまでの距離が約2〜4インチになるように、吹き付けノズルを調節し、ブラシをステントに沿ってステントの遠位端部から近位端部まで向け、次に近位端部から遠位端部まで向けて、約3回のステント回転中に1回の吹き付けサイクルが生ずるような速度でのスイーピング運動(sweeping motion)で動かした。典型的に、1分間未満、通常は1/2分間の小休止が層の間に設けられた。もちろん、塗布層の数は特定の用途によって変化しており、今後も変化する。例えば、図1の18におけるような典型的な結合層(tie-layer)では、突出面1cm2につき3〜4mgのヘパリンの塗布レベルのために、20サイクルのコーティング塗布が必要であり、3.5mm直径x14.5cm長さのステントに対して約30mlの溶液が消耗される。
【0046】
層状構造体を修飾するために組成物の粘度とスプレイノズルの流量とを必要に応じて調節することができるので、もちろん、モーターの回転速度も調節可能である。一般に、上記ミックスに関しては、ステントのサイズに依存して、30〜50rpmの範囲内の回転速度と1分間につきコーティング組成物4〜10mlの範囲内のスプレイノズルの流量とにおいて、最良の結果が得られている。より精緻なコンピューター制御塗布装置が実験室において実行可能であると実証されたプロセスを上首尾に自動化することが考えられる。
【0047】
幾つかの塗布層が、18におけるようなアンダーコートと呼ばれるものを構成する。1つのプロセスでは、生物活性物質とマトリックスポリマー物質と架橋剤とに関して同じ組成でも異なる組成でもあることができる付加的な上部アンダーコートを、例えば、20におけるような上部層として塗布することができる。上部層(top layer)の塗布はアンダーコートと同じ塗布方法に従うが、層の数と厚さとは任意である。もちろん、如何なる層の厚さもステントの回転速度と吹き付け条件とを調節することによって調節することができる。一般に、総塗布厚さは吹き付けサイクル数又は全コートを構成する薄いコート数によって制御される。
【0048】
図1の22に示すように、塗布済みステントにその後に硬化工程を受けさせ、この工程ではプレポリマーと架橋剤とが配位結合して、生物学的に活性な物質を含有する硬化ポリマーマトリックスを生成する。硬化プロセスは溶媒のキシレン、THF等の蒸発と、ポリマーの硬化及び架橋とを含む。ある一定のシリコーン物質は比較的低温(即ち、室温〜50℃)において室温加硫(RTV)プロセスと呼ばれるプロセスで硬化されることができる。しかし、さらに典型的には、硬化プロセスは高温硬化物質を含み、塗布済みステントを約90℃以上のオーブン(oven)に約16時間入れる。デキサメタゾン含有塗布済みステントに関しては150℃程度の高温にまで温度を高めることができる。もちろん、特定のシリコーン、架橋剤及び生物学的活性物質に応じて、時間と温度とを変化することができる。
【0049】
上述したやり方で塗布され、硬化されたステントは、将来の移植用に包装する前に、滅菌されなければならない。滅菌のためには、特にヘパリン含有コーティングに関しては、γ線が好ましい方法である;しかし、本発明の方法に従って塗布され、硬化されたステントへγ線滅菌を適用すると、これらの塗布され、硬化されたステントに24におけるような前処理工程を最初に施さないかぎり、これらのステントはカテーテルを用いて血管その他の管腔に供給する場合に、本来の状態(original posture)を回復するのが非常に緩慢になる可能性がある。
【0050】
前処理工程は、まだ拘束されない形態で塗布され、硬化されたステントのアルゴンプラズマ処理を含む。この方法によると、例えばPlasma Science 350(Himont/Plasma Science,カリフォルニア州、フォスターシティ)のようなプラズマ表面処理系の室にステントを入れる。この系は、反応室と、13.56mHzで作動し、0〜500wattの出力の無線周波数(RF)固体状態発電機であってマイクロプロセッサー制御系を備えているものと、完全真空ポンプパッケージとを備える。反応室は16.75インチ(42.55cm)x13.5インチ(34.3cm)x17.5インチ(44.45cm)深さの妨害されない作用容積(work volume)を有する。
【0051】
プラズマプロセスでは、拘束されない塗布済みステントを反応室に入れ、系を窒素でパージし、真空を20〜50mTorrまで適用する。その後に、プラズマ処理のために、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、又はこれらの混合物)を反応室に入れる。非常に好ましい操作方法は、アルゴンガスの使用と、200〜400wattの出力範囲、100〜450mTorrに相当する150〜650標準ml/分の流量及び30秒間〜約5分間の暴露時間における操作とから成る。プラズマ処理の直後にステントを取り出すか又はアルゴン雰囲気中に付加的な時間、典型的には5分間留めることもできる。
【0052】
この後に、26に示すように、ステントを2.5〜3.5Mradにおけるγ線滅菌にさらすことができる。半径方向において拘束されない状態又は半径方向において拘束された状態のステントに対して放射を実施することができる。
【0053】
しかし、プラズマ処理前に又は滅菌処理方法の直前に付加的な幾つかの処理方法の1つによって表面を改質することが好ましく、このような方法の幾つかは以下の実施例に関連して説明する。
【実施例】
【0054】
実施例1.ヘパリンコーティングを溶離するフルオロシリコーン表面処理
ステントのアンダーコートを上述したように多重塗布層として塗布し、その後に22に説明するように硬化させた。このアンダーコートのヘパリン含量は37.5%であり、コーティング厚さは約30〜40μであった。30においてフルオロシリコーン懸濁液(Applied Silicone#40032)から、一定量のフルオロシリコーン懸濁液を秤量し、関係式:VTHF=1.2xフルオロシリコーン懸濁液の重量に従ってテトラヒドロフラン(THF)を加えることによって、フルオロシリコーン(FSi)スプレイ溶液を製造した。この溶液を充分によく撹拌し、18におけるアンダーコートプロセスの塗布方法を用いて、32においてステント上に吹き付け塗布し、塗布済みステントを90℃において16時間硬化させた。塗布済みステントを上述したγ線滅菌の前に上述した方法により工程22〜26に従ってアルゴンプラズマ処理する。
【0055】
図7は、フルオロシリコーントップコート有りと如何なるトップコートも無しのリン酸塩緩衝剤系中のヘパリン放出速度のプロットである。トップコートの厚さは約10〜15μである。図7のグラフには現れないが、FSi無しのコーティングの放出速度は最初、FSi有りのコーティングの約25倍の大きさであることに注目すべきである。これは、もちろん、明らかにグラフの規模からはみ出る。しかし、FSi上部層(top layer)又は拡散バリヤーを有するコーティングが第1日後から第1週間を通して第10日目まで初期放出速度の低下と溶離速度の上昇とを示すことが注目に値する。さらに、フルオロシリコーン(FSi)トップコートは、フッ素化の高い電気陰性度のために、生物学的活性物質の溶離中及び後に非血栓性(non-thrombogenic)の表面品質を維持する。さらに、ヘパリン自体の負の電荷のために、フルオロシリコーントップコートの電気陰性度は、ヘパリン放出速度プロフィールが変化する少なくとも部分的な原因である。
【0056】
図8は、16.7%封埋ヘパリン含有フルオロシリコーン(FSi)トップコートとフルオロシリコーン(FSi)のみを含むトップコートとのプロットである。アンダーコートは、図7で用いたアンダーコートと同じものであり、約37.5%ヘパリンを含有し、約37〜40μ厚さである。これらの溶離速度は、ヘパリンを含まないFSi上部層と全く匹敵するものであり、ヘパリン放出の初期バーストを大きく低下させるか、さもなくば、FSi上部層中のヘパリンは試験期間にわたってやや大きい放出を示す。
【0057】
実施例2.薬物溶離アンダーコート上のポリエチレングリコール(PEG)の固定
アンダーコートをステント上に塗布し、実施例1におけるように22において硬化させた。次に、ステントを24におけるようにアルゴンガスプラズマによって処理し、40においてアンモニウムガスプラズマによって処理した。アルゴンガスプラズマ処理の装置とプロセスとは上述した通りであった。アンモニウムプラズマ処理をアルゴンガスプラズマ処理の直後に実施して、コーティングの表面をアミノ化した。アンモニウム流量は100〜700cm3/分間(ccM)の範囲内、好ましくは500〜600ccMの範囲内であった。無線周波数プラズマの出力は50〜500wattの範囲内、好ましくは〜200wattであった。プロセス時間は30秒間〜10分間の範囲内、好ましくは〜5分間である。
【0058】
アミノ化の直後に、ステントを42において求電子的活性化ポリエチレングリコール(PEG)溶液中に浸漬した。PEGはタンパク質吸収の阻害剤であることが知られている。求電子的活性化ポリエチレングリコールの例は、PEGニトロフェニルカーボネート類、PEGトリクロロフェニルカーボネート類、PEGトレシレート、PEGグリシジルエーテル、PEGイソシアネート等であり、任意に1端部がメトキシ基で終了している。PEGの分子量は約1000〜6000の範囲であり、好ましくは約3000である。簡単なアンモニウムアミノ化はエラストマーポリマー表面(例えばシリコーン)上に多量の第1アミン及び第2アミンを生じない。その代わりに、イミン(>C=N−H)と他のより酸化性のニトロ含有基とが表面を支配する。PEG上の官能基がイミンと、恐らく、表面上の他のニトロ含有種とも反応して、PEGを表面に固定することができるように、反応媒質中に例えばNaBH3CNのような還元剤を加えることが、一般に必要である。NaBH3CNの典型的な濃度は約2mg/mlである。PEGとその誘導体とは水及び多くの極性の芳香族溶媒中に溶解するので、コーティングに用いる溶媒はPEGの溶媒でなければならないが、浸出による薬物の可能な損失を防ぐためにアンダーコート中の薬剤の溶媒であってはならない。ヘパリン溶離性(eluting-heparin)コーティングの場合には、ホルムアミドとメチルエチルケトンとの混合溶媒又はホルムアミドとアセトンとの混合溶媒(好ましくは、ホルムアミド30:メチルエチルケトン又はアセトン70の容量比で)が、ヘパリンを溶解しないので、好ましい溶媒である。PEGの濃度、反応時間、反応温度及びpH値は用いるPEGの種類に依存する。ヘパリン溶離性コーティングの場合には、(30/70)ホルムアミド/メチルエチルケトン中の5%PEGトレシレートが用いられて成功を収めている。反応時間は室温において3時間であった。次に、PEGを表面に共有結合させた。次に、この実施態様の滅菌のために既述したようにγ線を用いた。
【0059】
凝固防止性物質ヘパリンに関して、アンダーコート中の割合は公称約30〜50%であり、トップコート中の割合は約0〜30%活性物質である。トップコートとアンダーコートとのコーティング厚さの比は約1:10から1:2まで変化し、好ましくは約1:6から1:3までの範囲内である。
【0060】
ステンティングプロセス中に医師は抗血小板/凝固防止薬物のボラス注射を患者に投与するので、バースト効果を抑制することも薬物担持の減少を可能にし、換言すると、コーティング層の厚さの低下を可能にする。この結果、ステント中に封埋された薬物は無駄なく完全に用いられることができる。できるだけ薄いコーティング形状において第1日目放出を調節し、第2日目と第3日目の放出を最大にすることは、急性又は亜急性の血栓を軽減する。
【0061】
図4は同じ厚さのコーティングに関する薬物担持の一般的効果を示す。初期溶離速度は、図5に示すように、薬物担持量と共に上昇する。放出速度も同じ担持量ではコーティングの厚さと共に上昇するが、図6の同じ薬物担持量と同様なアンダーコート厚さによって示されるように、トップコートの厚さに逆比例する傾向がある。
【0062】
しかし、現在までに集められたデータから明らかであることは、本発明のプロセスが特定のステント用途の必要条件を満たすために望ましい方法で薬物溶離速度を制御することを可能にすることである。同様な方法で、ステントコーティングを2種類以上の薬物の組合せを用いて、薬物放出順序及び速度を制御して、ステントコーティングを製造することが可能である。例えば、複数の増殖防止性薬をアンダーコート中で組合せ、複数の抗血小板薬をトップコート中で組み合わせることができる。このようにして、抗血小板薬、例えばヘパリンを最初に溶離させ、次に増殖防止薬を溶離させて、移植したステントの安全な封入(encapsulation)をより良好に可能にすることができる。
【0063】
ヘパリン濃度測定はアズレA染料をヘパリンの希薄溶液によって錯化することによって作成した標準曲線を用いておこなった。標準曲線を周知の方法でコンパイルするために16種類の標準を用いた。
【0064】
溶離試験に関しては、ステントを約37℃のインキュベーター内のpH7.4のリン酸塩緩衝液中に浸漬した。この溶液の定期的なサンプリングをおこなって、ヘパリン溶離量を測定した。各サンプリング後に、各ステントをヘパリンを含まない緩衝剤溶液中に入れた。
【0065】
上述したように、エラストマー物質の許容可能なヘパリン担持は変動するが、シリコーン物質の場合には、ヘパリンは層の総重量の60%を越えることができる。しかし、一般的に最も有利に用いられる担持は層の総重量の約10%〜45%の範囲内である。デキサメタゾンの場合には、担持は層の総重量の50%以上ほどの量になることができるが、好ましくは約0.4%〜45%の範囲内である。
【0066】
金属ステントに適用可能な薄い表面コーティング構造中への生物学的活性物質の組み込みの機構が本発明の重要な態様であることは、理解されるであろう。先行技術薬物溶離デバイスに関連した、比較的肉厚のポリマー溶離ステント又は任意の膜オーバーレイの必要性は、生物学的活性物質の運搬のための生分解性又は再吸収性ビヒクルの使用の必要性と同様に無い。この方法は明らかに長時間投与を可能にし、ステント自体の独立した機械的又は治療的利益に対する妨害を最小にする。
【0067】
コーティング物質は、特定の塗布方法、コーティング/薬物組合せ及び薬物注入機構によって設計される。コーティング中の生物学的活性物質の特定の形状及び放出機構の考察がこの方法に非常に良好な結果を生じさせる。このようにして、コーティング構造からの生物学的活性物質の投与を、多様な用途に適合するように調節することができる。
【0068】
上記例は放出されるべき2種類の異なる薬物担持又は割合の生物学的活性物質を示すが、これは決して本発明に関する限定ではなく、所望の放出プロフィールを得るために、任意の数の層と担持の組合せを用いることができるように意図される。例えば、層の担持の漸次グレーディング及び変化を利用して、例えば、薄い層には高い担持を用いることができる。薬物担持を全く有さない層も用いることができる。例えば、シリコーンの非担持層の間にヘパリンを含有する交互層を挿入したコーティングによって又はコーティングの一部に他の物質を用いることによって、パルス状(pulsatile)ヘパリン放出系が得られる。換言すると、本発明は数え切れない数の組合せを可能にし、その結果、移植されたステントに関する生物学的活性物質の放出の制御に関して非常に大きなフレキシビリティを生じる。各塗布層は典型的に約0.5ミクロンから15ミクロンの厚さである。吹き付け塗布される層の総数は、もちろん、広範囲に、10層未満から50層より多くまで、変化することができ、一般には、20〜40層が包含される。コーティング全体の厚さも広範囲に変化することができるが、一般には約10〜200ミクロンであることができる。
【0069】
コーティングのポリマーは薄層としてステント物質に付着することができる、任意の相容性の生物的に安定なエラストマー物質であるが、生物学的活性物質の放出が一般には疎水性物質によっては予測可能に制御されうることが判明しているので、疎水性物質が好ましい。好ましい物質はシリコーンゴムエラストマーと生物的に安定なポリウレタンが特に好ましい。
【0070】
本発明を特許法に従い、かつ当業者に新規な原理を適用し、実施例の実施態様を必要に応じて構成して用いるために必要な情報を与えるためにかなり詳細に説明した。しかし、本発明が特に異なるデバイスによって実施されうること、及び種々な変更が本発明自体の範囲から逸脱せずになされうることを理解すべきである。
【0071】
本発明の実施態様は次の通りである。
1.外表面を有する移植可能な医療器具であって、前記外表面の少なくとも一部が、疎水性エラストマー材料からなる形状が適合したコーティングで被覆されており、
前記疎水性エラストマー材料が、前記疎水性エラストマー材料から時間制御された送達をするために、生物学的に活性な物質の所定量をその内部に包含しており、
生物学的に活性な物質について時間制御された送達がされた後に、非血栓性の表面を提供する手段であって形状が適合したコーティングに関連するものを有する移植可能な医療器具。
2.形状が適合したコーティングが、疎水性エラストマー材料中に微細に分割された生物学的に活性な物質の所定量を包含する上記1に記載の医療器具。
3.微細に分割された生物学的に活性な物質が、約15ミクロン未満の平均粒子径を有する上記2に記載の医療器具。
4.微細に分割された生物学的に活性な物質が、約10ミクロン未満の平均粒子径を有し、形状が適合したコーティングの約25〜60重量%の薬剤を担持する上記2に記載の医療器具。
5.形状が適合したコーティングが、エラストマー材料中に分子レベルで分散した生物学的に活性な物質の所定量を包含する上記1に記載の医療器具。
6.生物学的に活性な物質が、抗血栓剤、抗凝血剤、抗血小板物質剤、血栓崩壊剤、抗増殖剤、ステロイド系抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症剤、過形成、特に、再狭窄の抑制剤、平滑筋細胞抑制剤、成長因子、成長因子抑制剤、細胞癒着抑制剤、細胞癒着促進剤、健康な新内膜組織の形成促進剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる上記1に記載の医療器具。
7.疎水性エラストマー材料が、シリコーン、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィンエラストマー、ポリアミドエラストマー、及び、EPDMゴム、並びに、これらの組み合わせからなる群から選ばれる上記1に記載の医療器具。
8.形状が適合したコーティングが、エラストマー材料からなる複数の層を包含し、前記エラストマー材料が、その内部に、生物学的に活性な物質の所定量を包含する上記1に記載の医療器具。
9.形状が適合したコーティングに関連する手段が、外層を有し、この外側層が、形状が適合したコーティングを少なくとも部分的に被覆し、かつ、非血栓性のポリマー材料を包含する上記1に記載の医療器具。
10.非血栓性のポリマー材料が、フルオロシリコーン、ポリエチレングリコール、多糖、及び、リン脂質、並びに、これらの組み合わせからなる群から選ばれる上記9に記載の医療器具。
11.非血栓性のポリマー材料が、形状が適合したコーィングに付着したフルオロシリコーンコーティングを包含する上記10に記載の医療器具。
12.非血栓性のポリマー材料が、アミノ化された形状が適合したコーティングに共有結合により結合しているポリエチレングリコールを包含する上記10に記載の医療器具。
13.移植可能な医療器具が金属で形成されている上記1に記載の医療器具。
14.開口端と、隙間のある格子からなる側壁構造と、を有する管状金属体と;
前記側壁構造の表面に設けられた、連続的な形状が適合したコーティングと;
を有する人体に移植可能な拡張可能なステントであって、
前記形状が適合したコーティングは、疎水性エラストマー材料を包含し、前記疎水性エラストマー材料が、前記疎水性エラストマー材料から時間制御された送達をするために、生物学的に活性な物質の所定量をその内部に包含しており、
前記コーティングは、隙間のある格子を保持するように、前記側壁構造に適合し、前記コーティングは、非血栓性の外表面を有するステント。
15.生物学的に活性な物質がヘパリンである上記14に記載のステント。
16.コーティングの外側層が、フルオロシリコーン及びポリエチレングリコール(PEG)からなる群から選ばれた材料を包含する上記15に記載のステント。
17.前記外側層が、フルオロシリコーンである上記16に記載のステント。
18.前記外側層が、所望により、微細に分割されたヘパリンの所定量を更に含む上記17に記載のステント。
19.前記外側層が、ポリエチレングリコールを含む上記16に記載のステント。
20.開口端と側壁とを有する管状金属体と;
前記側壁の表面に設けられた、連続的な形状が適合したコーティングと; を有する血管の管腔に移植するためのステントであって、
前記コーティングは、疎水性エラストマー材料からなるアンダーコートを更に有し、前記疎水性エラストマー材料が、前記疎水性エラストマー材料から時間制御された送達をするために、微細に分割されたヘパリンの所定量をその内部に包含しており、
前記コーティングは、所定量のフルオロシリコーンを含有するトップコートを更に有するステント。
21.前記トップコートが、所望により、微細に分割されたヘパリンの所定量を更に含有する上記20に記載のステント。
22.開口端と側壁とを有する管状金属体と;
前記側壁の表面に設けられた、連続的な形状が適合したコーティングと; を有する血管の管腔に移植するためのステントであって、
前記コーティングは、疎水性エラストマー材料からなるアンダーコートを有し、前記疎水性エラストマー材料が、前記疎水性エラストマー材料から時間制御された送達をするために、微細に分割されたヘパリンの所定量をその内部に包含しており、
前記コーティングは、所定量のポリエチレングリコールを含有するトップコートを有するステント。
23.移植可能なステントプロテーゼを層で被覆する方法であって、
前記層は、疎水性エラストマー材料を包含し、前記疎水性エラストマー材料が、前記疎水性エラストマー材料から時間制御された送達をするために、生物学的に活性な物質の所定量をその内部に包含しており、
(a) トップコートを塗布する工程と、
ここで、前記トップコートは、溶媒混合物中の未硬化のポリマー性材料と、微細に分割された生物学的に活性な物質の所定量とを含有する組成からなり;
(b) 前記ポリマー性材料を硬化する工程と;
(c) トップコートを塗布する工程と、
ここで、前記トップコートは、特性を有する組成からなり、前記特性は、非血栓性の表面を付与し、かつ、生物学的に活性な物質の修飾した送達を可能ならしめることである;を有する方法。
24.エラストマー材料がシリコーンであり、かつ、生物学的に活性な物質がヘパリンである上記23に記載の方法。
25.前記トップコートが、フルオロシリコーンを包含する上記24に記載の方法。
26.前記トップコートが、所定量のヘパリンを包含する上記25に記載の方法。
27.前記トップコートが、ポリエチレングリコールを包含する上記24に記載の方法。
28.(d) 硬化後の前記トップコートを、不活性ガスプラズマで処理し、次いで、アンモニアプラズマで処理する工程と;
(e) ポリエチレングリコール(PEG)の溶液から、ポリエチレングリコールからなる外側コーティングを塗布する工程と;
を更に有する上記27に記載の方法。
29.前記溶液中のポリエチレングリコール(PEG)が、PEGニトロフェニルカーボネート類、PEGトリクロロフェニルカーボネート類、PEGトレシレート、PEGグリシジルエーテル、PEGイソシアネート及びこれらの組み合わせから選ばれた上記28に記載の方法。
30.ポリエチレングリコールが、求電子的に活性である上記28に記載の方法。
31.ポリエチレングリコールが、メトキシ基末端を有する上記28に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーン拡張用ステントであって、
患者の血管への永久移植用に設計された、開口格子状の側壁を有する金属製の血管内バルーン拡張用ステント構造体、
第1の生物学的に安定なポリマーと再狭窄の抑制剤とを含み、開口格子状の側壁を有するステント構造体に適合してこれを保持する第1のポリマー組成物、および
第1の生物学的に安定なポリマーとは異なる第2の生物学的に安定なポリマーを含み、第1のポリマー組成物の少なくとも一部に適合して開口格子状の側壁を有するステント構造体を保持する第2のポリマー組成物、ここで、第2のポリマー組成物は、第1のポリマー組成物の一部へ適用した場合に再狭窄の抑制剤を実質的に含まず、また、第2の生物学的に安定なポリマーが非血栓形成性である
を含む、前記バルーン拡張用ステント。
【請求項2】
使用時に再狭窄の抑制剤が第2の速度とは異なる第1の速度にてステントから血管へ放出され、ここで第2の速度とは、第2のポリマー組成物を第1のポリマー組成物へ適用しなかった場合に、同じ再狭窄の抑制剤がステントから放出される速度である、請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
ステントがステンレス鋼から構成される、請求項1に記載の医療器具。
【請求項4】
第1の生物学的に安定なポリマーが、エチレン−酢酸ビニル共重合体材料を含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項5】
再狭窄の抑制剤が抗生物質を含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項6】
再狭窄の抑制剤が平滑筋細胞抑制剤を含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項7】
第1のポリマー組成物の一部へ適用した場合に、第2のポリマー組成物が治療剤を何ら含まない、請求項1に記載の医療器具。
【請求項8】
請求項1に記載の医療器具を患者の血管へ移植することを含む、再狭窄の治療方法。
【請求項9】
バルーン拡張用ステントであって、
患者の血管への永久移植用に設計された、開口格子状の側壁を有する金属製の血管内バルーン拡張用ステント構造体、
エチレン−酢酸ビニル共重合体材料と抗生物質とを含み、開口格子状の側壁を有するステント構造体に適合してこれを保持する第1のポリマー組成物、および
第1のポリマー組成物のエチレン−酢酸ビニル共重合体材料とは異なる第2の生物学的に安定なポリマーを含み、第1のポリマー組成物の少なくとも一部に適合して開口格子状の側壁を有するステント構造体を保持する第2のポリマー組成物、ここで、第2のポリマー組成物は、第1のポリマー組成物の一部へ適用した場合に第1のポリマー組成物の抗生物質を実質的に含まず、また、第2の生物学的に安定なポリマーが非血栓形成性である
を含む、前記バルーン拡張用ステント。
【請求項10】
使用時に抗生物質が第2の速度とは異なる第1の速度にてステントから血管へ放出され、ここで第2の速度とは、第2のポリマー組成物を第1のポリマー組成物へ適用しなかった場合に、同じ抗生物質がステントから放出される速度である、請求項9に記載の医療器具。
【請求項11】
ステントがステンレス鋼から構成される、請求項9に記載の医療器具。
【請求項12】
抗生物質が平滑筋細胞抑制剤である、請求項9に記載の医療器具。
【請求項13】
第1のポリマー組成物の一部へ適用した場合に、第2のポリマー組成物が治療剤を何ら含まない、請求項9に記載の医療器具。
【請求項14】
バルーン拡張用ステントの製造方法であって、
患者の血管への永久移植用に設計された、開口格子状の側壁を有する金属製の血管内バルーン拡張用ステント構造体を用意し、
第1の生物学的に安定なポリマーと再狭窄の抑制剤とを含む第1のポリマー組成物を、開口格子状の側壁を有するステント構造体の少なくとも一部へ適合するように適用して開口格子状の側壁を有するステント構造体を保持し、
第1の生物学的に安定なポリマーとは異なる第2の生物学的に安定なポリマーを含む第2のポリマー組成物を、第1のポリマー組成物の少なくとも一部へ適合するように適用して開口格子状の側壁を有するステント構造体を保持し、ここで、第2のポリマー組成物は、第1のポリマー組成物の一部へ適用した場合に再狭窄の抑制剤を実質的に含まず、また、第2の生物学的に安定なポリマーが非血栓形成性である
ことを含む、前記方法。
【請求項15】
使用時に再狭窄の抑制剤が第2の速度とは異なる第1の速度にてステントから血管へ放出され、ここで第2の速度とは、第2のポリマー組成物を第1のポリマー組成物へ適用しなかった場合に、同じ再狭窄の抑制剤がステントから放出される速度である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステントがステンレス鋼から構成される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
第1の生物学的に安定なポリマーが、疎水性エラストマー材料、エチレン−酢酸ビニル共重合体材料、または、これらの混合物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
第1の生物学的に安定なポリマーが、エチレン−酢酸ビニル共重合体材料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
再狭窄の抑制剤が抗生物質を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
再狭窄の抑制剤が平滑筋細胞抑制剤を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
第2の生物学的に安定なポリマーが、再狭窄の抑制剤の放出時および放出後にも依然として非血栓形成性である、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
ステントが再狭窄の抑制剤を一定期間にわたって放出する、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
第1のポリマー組成物の一部へ適用した場合に、第2のポリマー組成物が治療剤を何ら含まない、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
バルーン拡張用ステントの製造方法であって、
患者の血管への永久移植用に設計された、開口格子状の側壁を有する金属製の血管内バルーン拡張用ステント構造体を用意し、
エチレン−酢酸ビニル共重合体材料と抗生物質とを含む第1のポリマー組成物を、開口格子状の側壁を有するステント構造体の少なくとも一部へ適合するように適用して開口格子状の側壁を有するステント構造体を保持し、
第1のポリマー組成物のエチレン−酢酸ビニル共重合体材料とは異なる第2の生物学的に安定なポリマーを含む第2のポリマー組成物を、第1のポリマー組成物の少なくとも一部へ適合するように適用して開口格子状の側壁を有するステント構造体を保持し、ここで、第2のポリマー組成物は、第1のポリマー組成物の一部へ適用した場合に第1のポリマー組成物の抗生物質を実質的に含まず、また、第2の生物学的に安定なポリマーが非血栓形成性である
ことを含む、前記方法。
【請求項25】
使用時に抗生物質が第2の速度とは異なる第1の速度にてステントから血管へ放出され、ここで第2の速度とは、第2のポリマー組成物を第1のポリマー組成物へ適用しなかった場合に、同じ抗生物質がステントから放出される速度である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ステントがステンレス鋼から構成される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
抗生物質が平滑筋細胞抑制剤である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
第2の生物学的に安定なポリマーが、抗生物質の放出時および放出後にも依然として非血栓形成性である、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
ステントが抗生物質を一定期間にわたって放出する、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
第1のポリマー組成物の一部へ適用した場合に、第2のポリマー組成物が治療剤を何ら含まない、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−213928(P2009−213928A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156687(P2009−156687)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【分割の表示】特願2006−286386(P2006−286386)の分割
【原出願日】平成9年6月13日(1997.6.13)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】