説明

薬剤中におけるアミジン基を有する活性物質の生物学的利用率の向上

本発明は、薬剤中の生物学的利用率を向上させるため、薬剤中のアミジン基を[化2]のN,N’−ジヒドロキシアミジン(I)、N,N’−ジヒドロキシアミジンエーテル(II)、N,N’−ジヒドロキシアミジンジエーテル(III)、N,N’−ジヒドロキシアミジンエステル(IV)、N,N’−ジヒドロキシアミジンジエステル(V)または4−ヒドロキシ−1,2,4−オキサジアゾリン(VI)とした薬剤の製造に関する。[化2]のRは、水素原子、アルキル基および/またはアリル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のアミジン基を有する薬物の生物学的利用率の向上と、それに応じて修飾された薬物を含む薬剤とに関する。
【背景技術】
【0002】
1種以上のアミジン基を有する活性成分を含む製剤は、経口的使用において薬理効果をほとんど示さない。経口投与後における活性成分の治療効果の前提条件は、消化管からのその摂取である。かかる効果の最も重要な機序は、受動拡散である。受動拡散経路による吸収の程度は、その脂肪親和性に依存しており、従って、活性成分の酸性度および塩基性度に依存する。
【0003】
ベンズアミジン等の塩基性が高い化合物は、胃(pH1)や小腸(pH6.4)でほとんど完全にイオン化される。経口投与後の吸収のためには、消化管膜の脂質二重層の通過が必要であるため、その吸収はほとんど生じない。官能基としてアミジンを有する活性成分は、全て、経口的使用における吸収が不十分であると推定される。
【0004】
アミドオキシム等のN−ヒドロキシル化誘導体は、酸素原子の導入によって塩基性度が低下する。アミドオキシムは、生理的条件下でプロトン化されない。ベンズアミドオキシムは、アミドオキシム基を含む多くの薬物のためのモデル化合物を表す(非特許文献1参照)。しかし、キシメラガトランの場合、アミドオキシム基を導入し、メラガトランと比較することにより、7%から14%に経口投与時の生物学的利用率を増大させることが可能であった(非特許文献2参照)。このように、依然として経口投与後に消化管を介して効率的に吸収されるアミジン基を有する薬物が緊急に必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Clement,B.(2002)Drug Met.Rev.34 565−579
【非特許文献2】Clement,B.;Lopian,K.(2003)Drug Met.Dispos.31 645−651
【非特許文献3】Ley H.(1898)Ber.Dtsch.Chem.Ges.31 2126−2129;Liu K.−C.
【非特許文献4】Shelton B.R.;Hews RK.(1980)J.Org.Chem.45 3916−3918
【非特許文献5】Ley H.:Ulrich,M.(1914)Ber.Dtsch.Chem.Ges.47 2938−2944
【非特許文献6】Andrewes,C.H.;King,H.;Walker,J.(1946)Proceedings of the Royal Society of London,Series B 133 20−62
【非特許文献7】Desherces,S.;Barrans,J.;Roubaty,J.L.(1978)Revue Roumaine de Chimie 23 203−208
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、アミジン基を含む物質の経口生物学的利用率を増大させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的は、請求項1の特徴によって本発明に従って達成される。従属クレームは、本発明の有利な改善を表すものである。
【0008】
本発明に記載の使用によれば、N,N’−ジヒドロキシアミジン、N,N’−ジヒドロキシアミジンエステル、N,N’−ジヒドロキシアミジンエーテル、オキサジアゾリンで少なくとも1種のアミジン基を置換することによって、まず経口投与後のそれらの吸収が効率的になり、その後内因性エステラーゼとN還元とによって、実際の活性型、即ちアミジン(プロドラッグ成分)に変換される。消化管における修飾アミジン基の優れた吸収性は、塩基性度の大きな低下と、活性成分分子の脂肪親和性の増大とによるものと思われる。アミジン基をN,N’−ジヒドロキシアミジン基に化学修飾することよって、アミジンのpKaが、約11から、N,N’−ジヒドロキシアミジン並びにそのエーテルおよびエステルの約4に低下する。故に、活性成分の吸収の主要な部位である腸において、N,N’−ジヒドロキシアミジンあるいはN,N’−ジヒドロキシアミジンエステルおよびN,N’−ジヒドロキシアミジンエーテルは、ほとんど完全に遊離塩基の形態である。アミジン基における修飾によって塩基性度が低下すると同時に、対応する活性成分の脂肪親和性が増大する。
【0009】
前記活性成分は、提唱される形態の少なくとも1種の活性アミジン基を含めば十分である。従って、前記活性成分は、複数のアミジン基(例えばペンタミジンの場合は2個)を含むことが可能であり、その場合、これらの基内の少なくとも1個が上記記載の方法で修飾される。少なくとも1種の活性成分がアミジン基を有する限り、活性成分の混合物を使用することは同程度に可能である。経口剤形は、液状製剤、半固形製剤、または固形製剤として、特に、錠剤、コーティング錠、ペレット剤、またはマイクロカプセルとして調製できる。この点に関連して、液状製剤が用いられるそれらの実施形態のために、前記活性成分または前記活性成分の混合物を、適切な無毒性溶媒、例えば、水、一価アルコール、特にエチルアルコール、多価アルコール、特にグリセロールおよび/またはプロパンジオール、ポリグリコール、特にポリエチレングリコールおよび/またはミグリオール、グリセロールホルマール、ジメチルイソソルビトール、天然油または合成油中に取り込むことができる。半固形製剤または固形製剤、例えば、ベントナイト、ビーガム、グアーゴムおよび/またはセルロース誘導体、特にメチルセルロースおよび/またはカルボキシメチルセルロース、およびビニルアルコールおよび/またはビニルピロリドンのポリマー、アルギナート、ペクチン、ポリアクリレート、固体および/または液体ポリエチレングリコール、パラフィン、脂肪アルコール、ワセリンおよび/またはろう、脂肪酸および/または脂肪酸エステルを作製するために、従来の塩基を使用する。
【0010】
固形製剤は、それ自体公知の増量剤、例えば、コロイドシリカ、タルク、ラクトース、澱粉粉末、糖、ゼラチン、金属酸化物および/または金属塩を更に含むことができる。適切な更なる添加剤は、安定化剤、乳化剤、分散剤および保存剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明による使用によって修飾される薬物は、優れた吸収性と、経口投与における生物学的利用率とを示し、従って、アミジンの薬理効果が明確に増大される。従って、アミジンの経口的使用のための最適な剤型の提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】3頭のブタにN,N’−ジヒドロキシベンズアミジン(10mg/kg BW)を経口投与後のベンズアミジンの血漿中濃度のプロット図である。
【図2】2頭のブタにおける注入(2mg/kg BW)後のベンズアミジンの血漿中濃度のプロット図である。
【図3】3頭のブタにおけるN,N’−ジヒドロキシベンズアミジン(2mg/kg BW)の注入後のベンズアミジンの血漿中濃度のプロット図である。
【図4】2頭のブタにおけるN,N’−ジヒドロキシベンズアミジン(2mg/kg BW)の注入後のベンズアミドオキシムの血漿中濃度のプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
アミジン基が、各種使用分野のための各種の重要な活性成分の必須成分であるとため、本発明による使用は特に重要である。アミジン基は、とりわけ以下の活性成分の種類または活性成分の成分である:プロテアーゼ阻害剤(メラガトラン等のトロンビン阻害剤、Xa因子阻害剤、VII因子阻害剤、凝固カスケードの全プロテアーゼの阻害剤;マトリプターゼ阻害剤)、抗凝固剤、血栓溶解剤、抗線維素溶解剤、DNAインターカレーター化合物およびRNAインターカレーター化合物(例えば、ペンタミジン、ジミナゼン、イソメタミジウム)、N−メチル−D−アスパラギン酸受容体アンタゴニスト、ウイルス酵素阻害剤(例えばノイラミニダーゼ阻害剤等)。
【0014】
活性アミジン基を含む活性成分は、血液の凝固の阻害、内臓リーシュマニア症および皮膚リーシュマニア症、トリパノソーマ症(アフリカ睡眠病)、またはニューモシスチス−カリニ(PcP)肺炎の予防および治療、悪性腫瘍の成長の阻害、血圧降下、神経保護、およびインフルエンザ感染症やHIV感染症等のウイルス感染症の抑制のために、とりわけ使用できる。
【0015】
上記の一覧は単なる例示であり、本発明は、原則として、少なくとも1種のアミジン基を有する全ての活性成分を包含する。従って、本発明による使用は、非常に広範囲の活性成分の種類および適応症に適用することが可能であり、活性型がアミジンを含む多くの薬物の生物学的利用率を明確に増大させ得る。
【0016】
本発明に従って修飾される薬物の記述される例としては、本発明に記載のN,N’−ジヒドロキシベンズアミジンやその誘導体がある。N,N’−ジヒドロキシベンズアミジンは、LeyおよびLiuら(非特許文献3、4)に記載の通りに合成できる。そのモノエーテルは、Leyら(非特許文献5)に記載の方法で合成できる。ジエーテルは、例えばヨウ化メチルによるモノエーテルのO−メチル化によって合成できる。N,N’−ジヒドロキシベンズアミジンのモノエステルおよびジエステルは、Andrewesら(非特許文献6)に記載の通りに合成される。4−ヒドロキシ−1,2,4−オキサジアゾリンは、Deshercesら(非特許文献7)に記載の通りに合成できる。
【実施例】
【0017】
消化管からの吸収およびその後の遊離アミジンへの還元について示すために、N,N’−ジヒドロキシベンズアミジンを、新規プロドラッグ成分のためのモデル化合物として選択し、3頭のブタに経口投与および静脈内投与した。in vivoにおけるN,N’−ジヒドロキシベンズアミジンのベンズアミジンへの代謝は、[化1]のように進行する。
【0018】
【化1】

【0019】
前記物質の正確な投与量を確認するために、前記動物の体重を週1回測定した。そのデータから、毎日の体重増加を算出した。経口投与する物質は、湿らせ、粉砕された飼料濃縮物に混入した。静脈内投与する物質は、溶血を回避するため、0.9%NaCl溶液中に溶解して投与した。
【0020】
あらゆる未溶解部分による血栓形成の誘発を回避するため、静脈留置カテーテル内への注入の直前に溶液を濾過した。注入後、少なくとも10mLの0.9%NaCl溶液によるフラッシングを再び行った。前記物質の投与は、その都度朝に行った。薬物の完全な排泄を確実にするため、ウォッシュアウト期間を、その都度翌日に設けた。
【0021】
N,N’−ジヒドロキシベンズアミジンの経口投与用量は、いずれの場合においても10mg/kg体重(BW)であった。ボーラスとして静脈内投与された物質の濃度は、2mg/kg BWであった。ベンズアミジンおよびN,N’−ジヒドロキシベンズアミジンを、同様に静脈内投与した。あらかじめ定めた時点で試料を採取した。1つの条件についての実験期間は、1日間継続した。前記物質の投与後24時間にわたって、血液試料を採取した。経口投与の0、30、60、90、120、150、180、240、360、480、720および1440分後に、前記試料を採取した。静脈内投与の5および15分後に、更なる試料を採取した。得られた全血をヘパリン管に移し、遠心分離した(4℃、10分間、1500g)。遠心分離後、約4mLの血漿を上澄液として除去し、エッペンドルフ容器内にピペットで移し、−80℃で凍結した。血漿試料を徐々に解凍し、次いで7000rpmで3分間遠心分離し、固相抽出を行い、HPLCに供した。
【0022】
実験結果を図に示した。
【0023】
以下の表で得られたデータから、N,N’−ジヒドロキシベンズアミジンの経口投与後のベンズアミジンの経口生物学的利用率を決定することが可能であった。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の表から明らかな通り、ベンズアミジンは、N,N’−ジヒドロキシベンズアミジンの経口投与後の生物学的利用率が90.62%であった。このことは、プロドラッグが、経口投与後にほぼ完全に吸収され、速やかに血液中で活性型に還元されることを示している。N,N’−ジヒドロキシベンズアミジンの注入後においても、プロドラッグはアミジンに速やかに還元され、この投与方法の後、ベンズアミドオキシムもまた、血漿中で更に検出可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物の生物学的利用率を向上させるために、薬剤中の薬物のアミジン基を、下記式[化2](Rは、水素原子、アルキル基および/またはアリル基を表す)のN,N’−ジヒドロキシアミジン(I)、N,N’−ジヒドロキシアミジンエーテル(II)、N,N’−ジヒドロキシアミジンジエーテル(III)、N,N’−ジヒドロキシアミジンエステル(IV)、N,N’−ジヒドロキシアミジンジエステル(V)または4−ヒドロキシ−1,2,4−オキサジアゾリン(VI)とする薬剤の製造方法。
【化2】

【請求項2】
前記薬物が、プロテアーゼ阻害剤、DNAインターカレーター化合物、RNAインターカレーター化合物、ウイルス酵素阻害剤、およびN−メチル−D−アスパラギン酸受容体アンタゴニストの群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤の製造方法。
【請求項3】
前記プロテアーゼ阻害剤が、トロンビン阻害剤、Xa因子阻害剤、VII因子阻害剤、凝固カスケードの全プロテアーゼの阻害剤、またはマトリプターゼ阻害剤であることを特徴とする、請求項2に記載の薬剤の製造方法。
【請求項4】
前記プロテアーゼ阻害剤がウロキナーゼ阻害剤であることを特徴とする、請求項2に記載の薬剤の製造方法。
【請求項5】
前記DNAインターカレーター化合物およびRNAインターカレーター化合物が、ペンタミジン、ジミナゼンまたはイソメタミジウムであることを特徴とする、請求項2に記載の薬剤の製造方法。
【請求項6】
前記ウイルス酵素阻害剤がノイラミニダーゼ阻害剤であることを特徴とする、請求項2に記載の薬剤の製造方法。
【請求項7】
前記薬物がN−メチル−D−アスパラギン酸受容体アンタゴニストであることを特徴とする、請求項2に記載の薬剤の製造方法。
【請求項8】
前記薬物が、内臓リーシュマニア症および/または皮膚リーシュマニア症、トリパノソーマ症、またはニューモシスチス−カリニ肺炎の予防および治療、悪性腫瘍の成長の阻害、血液の凝固の阻害、血圧降下、神経保護、またはインフルエンザ感染症やHIV感染症等のウイルス感染症の治療のために投与されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の薬剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−544588(P2009−544588A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519786(P2009−519786)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【国際出願番号】PCT/DE2007/001216
【国際公開番号】WO2008/009264
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(509017310)ドリッテ パテントポルトフォーリオ ベタイリグングスゲゼルシャフト エムベーハー ウント コー.カーゲー (2)
【Fターム(参考)】