説明

薬剤耐性黄色ブドウ球菌感染症治療のための医薬組成物

本発明は多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物がβ−ラクタム系抗生物質の活性を増強させる特徴を利用した薬剤耐性菌感染症治療に関する。より具体的には、本発明は、多価フェノール誘導体または医薬的に許容され得るそれらの塩を含むβ−ラクタム系抗生物質の活性増強剤、およびβ−ラクタム系抗生物質および多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物を含む薬剤耐性菌感染症治療のための医薬組成物、および治療方法、医薬組成物の製造のための使用、消毒剤、および多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物を含む機能性食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物がβ−ラクタム系抗生物質の活性を増強させる特徴を利用した薬剤耐性菌感染症治療のための医薬組成物に関する。さらに、多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物を有効成分とする薬剤耐性菌に対する抗菌作用を有する消毒剤又は機能性食品に関する。
【背景技術】
最初の抗生物質であるペニシリンはβ−ラクタム環を有し、ブドウ球菌に対して優れた効力を発揮した。しかし、ペニシリンが利用されるようになってまもなくペニシリンを分解する酵素ペニシリナーゼ(β−ラクタマーゼ)を産生するペニシリン耐性菌が出現した。その後、メチシリンなどのペニシリナーゼ抵抗性ペニシリンやセフェム系の抗生物質が開発され、問題は解決されたかのように思われた。しかし、メチシリンが開発された1年後に、メチシリンに耐性を示す株MRSAが出現し、その後、全ての抗生物質に耐性を示すMRSAが臨床レベルで分離された。すなわち、MRSAは、ペニシリン系だけでなく、セフェム系抗生物質、アミノ配糖体系、マクロライド系、ニューキノロン系抗生物質にも広く耐性をもった多剤耐性黄色ブドウ球菌として、重大な社会問題となってきた。現在用いられているMRSA感染症に対する抗生物質としてバンコマイシン(VCM)等があるが、VCMの短時間殺菌作用は決して強力でなく聴毒性や腎毒性等の重篤な副作用の問題がある。従ってこのような耐性菌に対し有効な新規抗菌薬の開発が急務となっている。
【発明の開示】
本発明者らは副作用がないかあっても弱い生薬から抗MRSA活性を有する化合物を検索するうちに、タラ(Tara,Caesalpinia spinosa)抽出物およびタラ抽出物から得られた多価フェノール誘導体がβ−ラクタム剤耐性を抑制し、感受性を誘導するという興味ある事実を発見した。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
本発明に用いられる「タラ」は、日本のタラノキとは別のペルー原産のマメ科のTara(学名 Caesalpinia spinosa)であり、このタラには、メラニン色素をつくる酵素チロシナーゼを抑制するエラグ酸が含まれ、シミ・ソバカスを防ぎ美白作用があることが知られている(例えば、LION生活情報、「日やけによるシミ・ソバカスを防ぐには」、[平成14年11月6日検索]、インターネット<http://www.lion.co.jp/life/life3p2.htm>参照)。また、タラから抽出されたガロタンニンに脱臭作用があるとの開示もある(例えば、特開平9−327504号公報参照)。
しかし、タラ抽出物がβ−ラクタム系抗生物質との組み合わせによる耐性菌に対する増強活性は知られていない。
本発明の第1の態様は、多価フェノール誘導体または医薬的に許容され得るそれらの塩を含むβ−ラクタム系抗生物質の活性増強剤である。
本発明の第2の態様は、多価フェノール誘導体または医薬的に許容され得るそれらの塩を有効成分として含むタラ抽出物を含むβ−ラクタム系抗生物質の活性増強剤である。
本発明の「タラ」は、ペルー原産のマメ科のTara(学名 Caesalpinia spinosa)であり、全草中に多価フェノール誘導体を約0.25%含む。タラ抽出物とはタラを適当な有機溶媒または水で抽出したものをいう。有機溶媒とは例えばメタノール、エタノールをいい、水との混液であってもよい。また、タラはどの部位であってもよい。多価フェノール誘導体は50%エタノール抽出エキス中に約0.32%含まれている。各種ガレート類は市販のものを用いることができる。
β−ラクタム系抗生物質は、好ましくは、オキサシリン、セファピリン、アンピシリン、ペニシリン、セフォキシチンであり、より好ましくは、オキサシリンおよびセファピリンである。
多価フェノール誘導体としては、式I:

[式中、Rは低級アルキル、OR(ここで、Rは低級アルキルである)、またはカテキンアニオンである]で示される多価フェノール誘導体を挙げることができる。
より具体的には、多価フェノール誘導体が、式II:

[式中、RはOR(ここで、Rは低級アルキルである)、またはカテキンアニオンである]で示されるガルス酸(没食子酸)誘導体であり、例えば、メチルガレート、エチルガレート、n−プロピルガレート、n−ブチルガレート、n−ペンチルガレート、n−ヘキシルガレート、n−ヘプチルガレート、n−オクチルガレート、n−ノニルガレート、n−デシルガレート、n−ウンデシルガレート、n−ラウリルガレート、イソブチルガレート、イソアミルガレート、カテキンガレート、ガロカテキンガレートおよびエピカテキンガレートを挙げることができる。好ましくは、メチルガレート、エチルガレート、n−プロピルガレート、n−ブチルガレート、n−ペンチルガレート、n−オクチルガレート、n−ノニルガレート、n−デシルガレート、イソブチルガレート、イソアミルガレート、カテキンガレート、ガロカテキンガレートおよびエピカテキンガレートであり、より好ましくは、n−プロピルガレート、n−ブチルガレート、n−ペンチルガレート、イソアミルガレートおよびカテキンガレートである。
さらに、タラからOHがガルス酸で置換されたキニン酸(1,3,4,5−テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸)誘導体である、4,5−ジ−ガロイルキニン酸メチルエステル、3,4,5−トリ−ガロイルキニン酸、3,4,5−トリ−ガロイルキニン酸メチルエステル、3,4−ジ−ガロイルキニン酸の存在が確認され、これらにもβ−ラクタム系抗生物質の活性増強作用があり、特に、3,4,5−トリ−ガロイルキニン酸および4,5−ジ−ガロイルキニン酸メチルエステルが優れている。
本発明の第3の態様は、β−ラクタム系抗生物質および上記の活性増強剤を含む、薬剤耐性感染症治療のための医薬組成物である。
本発明の第4の態様は、タラ抽出物およびタラ抽出物より得られた多価フェノール誘導体とβ−ラクタム抗生物質を有効成分として含む薬剤耐性菌用消毒剤である。
本発明の第5の態様は、抗生物質の薬剤耐性菌に対する活性を増強させる多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物を含む薬剤耐性菌感染症の予防または改善のための機能性食品である。
【発明を実施するための最良の形態】
この明細書で用いられる「低級アルキル」は、飽和の直鎖または分枝状の炭素原子1〜12個を含む炭化水素残基をいう。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ラウリル、イソブチル、イソアミルをいう。また、「カテキンアニオン」は、例えば、カテキン、ガロカテキン、エピカテキンのアニオンをいう。
また、本発明の多価フェノール誘導体、抗生物質または抗菌薬には製薬上許容され得るそれらの塩が含まれる。製薬上許容され得る塩とは、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム等の塩、およびプロカイン、ジベンジルアミン等のアミン塩類や塩酸塩等の酸添加塩など、通常用いられる医薬的に許容可能な塩を意味する。また、他の医薬有効成分とともに処方することができる。
薬剤耐性菌としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、ペニシリナーゼ産生黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、基質特異性拡張型β−ラクタマーゼ(ESBLSs)などを挙げることができ、好ましくはMRSAであり、ペニシリナーゼ産性黄色ブドウ球菌であってもよい。
本発明に用いられるβ−ラクタム系抗生物質の例としては、ベンジルペニシリン、フェノキシメチルペニシリン、フェネチシリン、プロピシリン、アンピシリン、メチシリン、オキサシリン、クロキサシリン、フルクロキサシリン、ジクロキサシリン、ヘタシリン、タランピシン、バカンピシリン、レナンピシリン、アモキシシリン、シクラシリン、カルベニシリン、スルベニシリン、チカルシリン、カリンダシリン、カルフェシリン、ピペラシリン、メズロシリン、アスポキシシリン、セファロリジン、セファゾリン、セファピリン、セファセトリル、セフテゾール、セファログリシン、セファレキシン、セファトリジン、セファクロル、セフロキサジン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォチアム、セファロチン、セフラジン、セフロキシム、セフォキシチン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフメノキシム、セフォジジム、セフトリアキソン、セフゾナム、セフタジジム、セフェピム、セフピロム、セフォゾプラン、セフォセリス、セフルプレナム、セフォペラゾン、セフピミゾール、セフピラミド、セフィキシム、セフテラムピボキシル、セフポドキシムプロキセチル、セフチブテン、セフェタメトピボキシル、セフジニル、セフジトレンピボキシル、セフカペンピボキシル、セフスロジン、セフォキシチン、セフメタゾール、ラタモキセフ、セフォテタン、セフプペラゾン、セフミノクス、フロモキセフ、アズトレオナム、カルモナム、イミペネム、パニペネム、メロペネム、ビアペネム、ファロペネム、リチペネムアコキシル、またはこれらの混合物を挙げることができ、好ましくはアンピシリン、ベンジルペニシリン、フェネチシリン、メチシリン、オキサシリン、カルベニシリン、セファピリン、セフラジン、セフロキシム、セフォキシチン、セフォタキシム、パニペネムであり、より好ましくは、アンピシリン、セファピリン、ベンジルペニシリン、オキサシリン、セフォキシチンまたはこれらの混合物である。
抗生物質は製薬上許容され得る塩の形態であってもよく、製薬上許容され得る塩とは、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム等の塩、およびプロカイン、ジベンジルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、メチルグルカミン、タウリン等のアミン塩類や塩酸塩等の酸付加塩および塩基性アミノ酸など、通常抗生物質の塩として用いられる医薬的に許容可能な塩を意味する。
本発明の多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物の投与形態としては、通常の抗生物質と同様に非経口投与、経口投与または局所投与があげられる。一般的には、注射剤による投与が好適である。この場合注射剤は常法により調製され、注射剤の形態として、適当なビヒクル、例えば滅菌した蒸留水、生理食塩水等で溶解される場合も含まれる。
また多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物は様々な投薬型でβ−ラクタム系抗生物質と組み合わせることによって経口投与することができる。例えば、錠剤、カプセル、糖などで被覆した錠剤、液状溶液または懸濁液の形態である。
予防・治療で用いる多価フェノール誘導体とβ−ラクタム系抗生物質との併用剤の合計投与量は、組み合わせる薬剤の種類や、その併用比、または年齢、体重、患者の症状および投与経路によって変えることができ、例えば、成人(体重50kg)に対して投与する場合は、1回投与当たり、組み合わせた両薬剤の和で10mg〜2gを1日に1回から3回経口投与する。これらの投与量および投与経路を変化させることによって最良の治療効果をあげるようにする。
本発明において、多価フェノール誘導体とβ−ラクタム系抗生物質を併用あるいは混合する際の重量比についても幅広い範囲で適用することが可能である。また、感染症の種類および重篤度、併用されるβ−ラクタム系抗生物質の種類によって併用比は変わるので、併用比は特に限定されないが、常用量の範囲内で組み合わせれば併用効果を期待できる濃度の組み合わせが実現できる。
本発明の医薬組成物は、通常、常法に従って調製され、医薬的に適切な形態で投与される。例えば、固体経口形態は、活性化合物と共に、ラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、トウモロコシ澱粉およびジャガイモ澱粉などの希釈剤、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウムおよび/またはポリエチレングリコールなどの滑沢剤、澱粉、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリジンなどの結合剤、澱粉、アルギン酸、アルギン酸塩、グリコール酸デンプンナトリウムなどの崩壊剤、発泡剤、色素、甘味料、例えばレシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩などの湿潤剤、および一般に非毒性および医薬的処方に用いられる薬学的に非活性な物質を含んでいてもよい。
上記医薬組成物は既知の方法、例えば混合、粒状化、錠剤化、糖衣、または被覆方法などにより製造される。
非経口投与の場合、直腸への適用を意図した坐剤でも可能であるが汎用剤形は注射剤である。注射剤では液体製剤、用時溶解型製剤、懸濁製剤などの外観を異にする剤形があるが、基本的には活性成分を適当な方法により無菌化したのち、直接容器に入れ、密封する点で同一と考えられる。
最も簡単な製剤化法としては、活性成分を適当な方法により無菌化したのち、これを別々に、または物理的に混合した後、その一定量を分割製剤化する方法がある。液剤形態を選ぶ場合には活性成分を適当な媒体に溶解し、これを滅菌濾過したのち適当なアンプルまたはバイアルに充填、密封する方法をとることができる。
この場合汎用される媒体は注射用蒸留水であるが、本発明においては、これに拘束されるものではない。また必要ならば、塩酸プロカイン、塩酸キシロカイン、ベンジルアルコールおよびフェノールなどの局所麻酔作用を有する無痛化剤、ベンジルアルコール、フェノール、メチル、またはプロピルバクベン、およびクロロブタノールなどの防腐剤、クエン酸、酢酸、リン酸のナトリウム塩などの緩衝剤、エタノール、プロピレングリコール、塩酸アルギニンなどの溶解補助剤、L−システイン、L−メチオニン、L−ヒスチジンなどの安定化剤、さらには等張化剤などの添加剤を添加することも可能である。
本発明の多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物はβ−ラクタム剤と混合して抗菌剤または殺菌剤として調製することができる。これらの抗菌剤または殺菌剤は、0.1〜10(重量)%程度の濃度の多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物とβ−ラクタム剤の適量を含む。他の抗菌剤または殺菌剤をも含むことができる。ハサミ、メス、カテーテルなどの器具、患者の排出物の消毒、皮膚、粘膜、創傷の洗浄に用いる。
また、本発明の活性増強剤は薬剤耐性菌感染症を予防するための機能性食品の形態で適用することができる。
飲食品として使用する場合の形態については特に制限はなく、例えば、ドリンク剤、固形物、ゼリー状食品等があり、固形物には製剤として粉剤、顆粒剤、錠剤及びカプセル剤のいずれかの形態に加工したものが含まれる。また、前記多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物をうどん、そば等の麺類、クッキー、ビスケット、キャンディー、パン、ケーキ、その他の食品に、また、清涼飲料水、乳酸飲料その他種々の飲料に添加することもできる。
実験例
実験例1 オキサシリンに対するタラ抽出物の活性増強作用(ディスク拡散法)
タラのさやの部分10gを50%メタノール100mlで抽出後、濾過し、タラ抽出物を得た。抗菌活性の測定としてディスク拡散法を用いて行った。Base培地として、MHA(Mueller−Hinton Agar)及びオキサシリン(Oxacillin)(10μg/ml)含有MHAを作成し、その上を前培養したMRSA 菌株番号5、1×10CFU/mlを添加した半流動MHAでカバーした。直径6mmのディスクを置き、その上にタラ抽出物100μgを添加し、37℃で培養し、24時間、48時間後の阻止円の大きさを測定した。
結果

表1からわかるように、対照の阻止円の大きさが21mmであったのに対して、オキサシリン含有では24mmと3mmも阻止円の大きさが増大した。このことはタラの成分が抗生物質の感受性を高めていることを示している。
実験例2 オキサシリンに対する各種ガレートの活性増強作用
(寒天平板希釈法による)
日本化学療法学会の定める寒天平板希釈法に従ってMIC(minimum inhibitory concentration)を測定した。感受性測定用培地としてMueller−Hinton II Agar(MHA)にCaイオン50mg/l、Mgイオン25mg/lと2%NaClを添加したCAMHAを用いた。37℃、一晩培養した菌液を生理食塩水で10CFU/mlになるよう希釈しミクロプランター(佐久間製作所)を用いて感受性測定用平板に接種し、37℃、24時間培養後、MICを判定した。結果を表2−1および表2−2に示す。


結果
オキサシリンとの併用効果に関しては、多価フェノールの側鎖の炭素数が多くなるにつれて併用効果が強くなり、炭素数5個のn−ペンチルガレートはMRSA 菌株番号2に関しては25μg/mlの濃度においてオキサシリンのMIC値を256μg/mlから0.06μg/mlまで高めた。また、この併用効果は炭素数をさらに多くすると減少し、側鎖の炭素数4〜6が最も高い併用効果を示すことがわかった。これらの効果はMRSAのみでなく、MSSAにおいても見られた。さらに多価フェノールの側鎖が枝別れしたイソブチルガレートや、イソアミルガレートにも強い併用効果が見られた。
なお、MRSA 菌株番号2に対するオキサシリン単独のMICは256であり、n−ペンチルガレート単独のMICは、下記の表3−1に見られるように、67.5であり、本来抗菌活性を示さない25μg/mlをオキサシリンと併用することによって、オキサシリンのMICが0.063になるのであるから、n−ペンチルガレートには優れた増強活性があることがわかる。
実験例3 ガルス酸および各種ガレート単独の抗菌活性
(寒天平板希釈法による)
ガルス酸、各種ガレートおよび多価フェノール誘導体の単独のMRSAおよびMSSAに対するMICを実験例2と同様にして測定した。結果を表3−1および表3−2に示す。


結果
表3からわかるように、単独でのガルス酸および各種ガレートのMRSAおよびMSSAに対する抗菌活性は、側鎖の炭素数が多くなるにつれて、強くなり、炭素数9から10のノニルガレート、デシルガレートが最も強く、MIC値は15.7μg/mlだった。さらに炭素数が増えると活性は弱くなった。
実験例4 他のβ−ラクタム剤に対するイソアミルガレートの活性増強作用
(寒天平板希釈法による)
オキサシリンと強い併用効果がみられたイソアミルガレートと他のβ−ラクタム剤との併用効果を検討するために、実験例2と同様にしてMICを測定した。結果を表4に示す。
結果

表4に示したように、ペニシリンG、セフォキシチン、アンピシリンおよびセファピリンにおいても強い併用効果がみられた。
実験例5 オキサシリンに対するガロイルキニン酸誘導体の活性増強作用
(寒天平板希釈法による)
タラから下記の既存物質の存在が確認されたので、オキサシリンとの併用効果について実験例2と同様にして、MICを判定した。結果を表5に示す。


結果
オキサシリンとの併用効果に関しては、3,4,5−トリ−ガロイルキニン酸が最も強く、続いて4,5−ジ−ガロイルキニン酸メチルエステルが強く、3,4,5−トリ−ガロイルキニン酸メチルエステル、3,4−ジ−ガロイルキニン酸の併用効果は弱かった。
実験例6 オキサシリンに対する各種ガレートの活性増強作用
(MIC(微量液体希釈法による)の測定およびFIC)
日本化学療法学会の定める微量液体希釈法に従って行った。感受性測定用培地としてMHB(Mueller−Hinton broth)にCaイオン50mg/l、Mgイオン25mg/lと2%NaClを添加したCAMHAを用いた。96穴マイクロプレートに薬剤含有感受性測定用培地を100μl分注し、37℃、一晩培養した菌液を生理食塩水で希釈し、最終菌濃度5×10CFU/wellになるように添加した。37℃、24時間培養後、菌の発育の有無からMICを測定した。これらの結果からFIC(fractional inhibitory concentration)値を算出し、併用効果の強さを測定した。結果を表6に示す。
結果

表6から分かるように供試したMRSA COL株、菌株番号5共に抗菌活性、ならびにオキサシリンとの併用効果がみられた。すなわち、表6において、MICは各種ガレートのMICであり、従って、単独での効果はオクチルガレート、ノニルガレート、デシルガレート、ウンデシルガレートが最も抗菌活性が強く、オキサシリンとの併用効果を示すFIC値ではブチルガレート、イソブチルガレートが最も併用効果を示すことがわかった。また、カテキンガレート、ガロカテキンガレートおよびエピカテキンガレートの併用効果はさらに強く特にカテキンガレートが強い併用効果を示した。
【実施例】
実施例1 タラ抽出物の製造
タラ(Caesalpinia spinosa)1kgを10倍量の50%エタノールで2時間、60℃で抽出した。抽出後、濾過し、濾液を約4分の1まで60℃で濃縮した。濃縮液と等量の酢酸エチルを加え、分液し、酢酸エチル層を濃縮乾固し、シリカゲルクロマトグラフィーにかけ、ヘキサン−酢酸エチルで溶出させた。溶出した画分を濃縮乾固し、タラ抽出物約2.5gを得た。
実施例2(錠剤)
常法によりイソアミルガレート50mg、オキサシリン50mg、乳糖1g、デンプン300mg、メチルセルロース50mg、タルク30mgを10錠の錠剤に調製して白糖で糖衣する。
実施例3〜18(錠剤)
イソアミルガレートに替えて、メチルガレート、エチルガレート、n−プロピルガレート、n−ブチルガレート、n−ペンチルガレート、n−ヘキシルガレート、n−ヘプチルガレート、n−オクチルガレート、n−ノニルガレート、n−デシルガレート、n−ウンデシルガレート、n−ラウリルガレート、イソブチルガレート、カテキンガレート、ガロカテキンガレートおよびエピカテキンガレートを用いて実施例1と同様にして錠剤を調製する。
実施例19(注射剤)
メチルガレート500mg、オキサシリン500mgからなる無菌混合物を滅菌バイアルに入れ密封する。使用時にこの混合物を生理食塩水に溶解し、注射剤とする。
実施例20〜27(注射剤)
メチルガレートに替えて、エチルガレート、n−プロピルガレート、n−ブチルガレート、n−ペンチルガレート、イソブチルガレート、カテキンガレート、ガロカテキンガレートおよびエピカテキンガレートを用いて実施例18と同様にして注射剤を調製する。
実施例28(消毒剤)
イソアミルガレート、オキサシリン、エタノールおよび滅菌蒸留水を原料とする消毒剤である。これらの消毒剤は以下のような比率で調製する。
イソアミルガレート 25mg
オキサシリン 10mg
エタノール 500ml
滅菌蒸留水 500ml
実施例29(機能性食品)
タラのさやの部分1kgに対し50%エタノール10lを入れ、加熱抽出し、濾過した液を適当な量まで濃縮し、スプレードライで粉末乾燥しエキスとする。このエキスに砂糖、密、液糖等の糖質を加えたものを用いて、クッキー等を作製する。また、このエキスを粉剤、錠剤にして機能性食品とすることができる。
【産業上の利用の可能性】
本発明の多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物と、β−ラクタム系抗生物質または抗菌薬を併用することにより、薬剤耐性菌に対するβ−ラクタム系抗生物質または抗菌薬の活性を増強する効果があると共に、使用するβ−ラクタム系抗生物質または抗菌薬の量を減らすことができ、未然にβ−ラクタム系抗生物質に対する耐性獲得の機会を減少させることが可能である。従って、本発明は多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物がβ−ラクタム系抗生物質の活性を増強させる特徴を利用した薬剤耐性菌感染症治療のための医薬組成物として、また、多価フェノール誘導体および/またはタラ抽出物を有効成分とする薬剤耐性菌に対する抗菌作用を有する消毒剤又は機能性食品にとして用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価フェノール誘導体または医薬的に許容され得るそれらの塩を含むβ−ラクタム系抗生物質の活性増強剤。
【請求項2】
さらにタラ抽出物を含む、請求項1記載のβ−ラクタム系抗生物質の活性増強剤。
【請求項3】
有効成分として多価フェノール誘導体または医薬的に許容され得るそれらの塩を含むタラ抽出物を含むβ−ラクタム系抗生物質の活性増強剤。
【請求項4】
上記β−ラクタム系抗生物質が、オキサシリン、セファピリン、アンピシリン、ベンジルペニシリン、セフォキシチンである、請求項1〜3のいずれか1項記載の活性増強剤。
【請求項5】
上記多価フェノール誘導体が、式I:

[式中、Rは低級アルキル、OR(ここで、Rは低級アルキルである)、またはカテキンアニオンである]で示される多価フェノール誘導体である、請求項1〜4のいずれか1項記載の活性増強剤。
【請求項6】
上記多価フェノール誘導体が、式II:

[式中、RはOR(ここで、Rは低級アルキルである)、またはカテキンアニオンである]で示される多価フェノール誘導体である、請求項5記載の活性増強剤。
【請求項7】
上記多価フェノール誘導体が、メチルガレート、エチルガレート、n−プロピルガレート、n−ブチルガレート、n−ペンチルガレート、n−ヘキシルガレート、n−ヘプチルガレート、n−オクチルガレート、n−ノニルガレート、n−デシルガレート、n−ウンデシルガレート、n−ラウリルガレート、イソブチルガレート、イソアミルガレート、カテキンガレート、ガロカテキンガレートまたはエピカテキンガレートである、請求項6記載の活性増強剤。
【請求項8】
上記多価フェノール誘導体が、4,5−ジ−ガロイルキニン酸メチルエステルまたは3,4,5−トリ−ガロイルキニン酸メチルエステルである、請求項1〜4のいずれか1項記載の活性増強剤。
【請求項9】
β−ラクタム系抗生物質および請求項1〜8のいずれか1項に記載の活性増強剤を含む、薬剤耐性感染症治療のための医薬組成物。
【請求項10】
有効成分として医薬的有効量のβ−ラクタム系抗生物質および請求項1〜8のいずれか1項に記載の活性増強剤を投与することを特徴とする薬剤耐性感染症の治療方法。
【請求項11】
薬剤耐性感染症の治療のための医薬組成物の製造のためのβ−ラクタム系抗生物質、請求項1〜8のいずれか1項に記載の活性増強剤および適当な医薬添加物の使用。
【請求項12】
β−ラクタム系抗生物質および請求項1〜8のいずれか1項に記載の活性増強剤を含む薬剤耐性菌用消毒剤。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の活性増強剤を含む機能性食品。

【国際公開番号】WO2004/066992
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504726(P2005−504726)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000751
【国際出願日】平成16年1月28日(2004.1.28)
【出願人】(393031450)アルプス薬品工業株式会社 (4)
【出願人】(504378308)株式会社マイクロバイオテック (3)
【Fターム(参考)】