説明

薬学的組成物用調剤システム及び静脈内投与用キット

【課題】ボトル内で調剤してボトル内の成分を、静脈投与用液体に完全に移すことを確保し、同時に前記静脈投与成分を準備する医療担当者が偶発的に活性成分に接触することを防止するようにしたシステムを提供する。
【解決手段】静脈内注入用液体として投与される薬学的組成物を含むボトルの空容積が該ボトルの全容積に対して、80%から99%の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静脈投与される活性成分を含む薬学的組成物を調剤する新規システムに関し、より詳細には本発明は、ボトル内で調剤してボトル内の成分を、静脈投与用液体に完全に移すことを確保し、同時に前記静脈投与成分を準備する医療担当者が偶発的に活性成分に接触することを防止するようにしたシステムに関する。
【0002】
更に詳細には、本発明は、タクロリムス及び他の高活性薬剤を含む薬学的組成物を調剤するための新規なシステムに関する。
【0003】
本発明は、前記調剤システムを含む薬剤の非経口投与用のキットに関する。
【背景技術】
【0004】
抗腫瘍剤、免疫抑制剤、抗ウイルス剤、ホルモン誘導体のような活性薬剤は、投与時にそれらを取扱わなければならない医療担当者にとって特別に危険であると考えられる。この理由のため、米国では、NIОSH(国立労働安全衛生研究所)が医療労働者の健康及び安全を保護するためのガイドラインを刊行し(www.cdc.gov/niosh)、かつ薬剤の容器(小瓶等)の開封時に手袋や保護眼鏡を使用するなどの、投与時に特別の注意が要求される危険な活性成分を列挙している。
【0005】
活性成分の固有の特性のため又は患者の状況が経口投与の許容しないため、多くの場合、前記薬剤は静脈投与される。
【0006】
静脈投与用薬学的組成物は、それが販売されているパック内から投与用液体を保持する好適な容器に移さなければならない。この移行は前記組成物をシリンジなどに取り、このように得られた液体組成物を投与用液体を保持する容器に注入することにより行われる(既に溶液である場合あるいは使用時に好適な溶媒に溶解又は希釈させる)。このタイプの移行は、前述した通り、医療担当者が、極度に有毒であるか又は危険である薬剤で偶発的に接触する危険を含む幾つかの不都合がある。前記移行では、投与すべき薬剤の一部が失われる危険があり、これは例えばアンプルから、シリンジで液体を完全に取り出すことが困難で、パッケージ中に残ることがあるからである。しばしば起こりがちなこのような可能性は、非常に重大な結果を生じさせることがある。この理由のため、製薬会社は、販売する薬学的組成物に余分な量の活性成分を加える「過剰供給」により投与する処方量が少なくなり過ぎる危険を最小にしている。この過剰供給量は一般に10%前後で、特別な場合には20%にもなる。活性成分の浪費は極端に高価なものになる上に、この解決法は、患者に対し、治療に必要な量より過剰な量を投与してしまうという逆の危険を伴う。特に高活性薬剤については、この危険は患者の健康を損なう恐れがあることは容易に理解できる。
【0007】
アンプルを使用する他の問題点は、生産コストと生産の複雑さである。アンプル生成方法は、実際に、ボトル製造より遥かに高価で、活性成分用ビヒクルとして使用する溶媒の可燃性に関連する危険がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近前記欠点の少なくとも一部を解決する技術が開発されている。特に、少なくとも2本の開口用スパイク(スパイクとして知られている)を有するコネクタが開発されかつ市販され、このコネクタは、注入液体を保持する容器と薬学的組成物のパッケージを直接連結するために適していて、この場合コネクタは好適なゴム製キャップで封止されたボトルである。従ってこれらのコネクタは、一方で注入液体を保持する容器のキャップと、他方で前記組成物を保持するボトルのキャップを開口し、前記組成物は、変形可能な物質から成る注入容器の圧縮により上方に向けて押される注入液体によるボトルのいわゆるウォッシュアウトにより移行できる。これらは、例えばドイツの会社であるB.ブラウン・メルズンゲン(B. Braun Melsungen)・アクチェン・ゲゼルシャフトにより市販されている。
【0009】
この組み合わせは、医療担当者が偶発的に薬剤に接触する危険に関する不都合を回避できるが、注入による投与される液体への薬学的組成物の完全に移行させることに関する問題や薬剤の過剰供給の問題を解決するものではない。
【0010】
実際に、特に前述した高活性薬剤を含む注入用薬学的組成物では、活性成分が親油性物質を使用して溶解されることが多く、従来の注入用液体中には容易には溶解しない。前記親油性物質と混合する水溶液から成ることが必要な注入用液体でボトルを「ウォッシュアウト」することによる移行はしばしば不完全であることが検証されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、公知技術の不都合を全て解消し、静脈投与される活性成分を含んで成る薬学的組成物をボトル中で調剤するシステム、更にボトル中の内容物を、静脈注入するための液体に完全移行させることを確保しかつそれを投与しなければならない医療担当者にとって安全に使用できる完全なキットを提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、アンプル製造に係わるコストと危険を低減することである。
【0013】
本発明の更に他の目的は、静脈投与されるタクロリムス及び他の薬剤をボトル中に調剤するシステム、及び医療担当者の健康を守ることが可能で同時に必要で正確な量の活性成分を投与して高価な薬剤の浪費と患者への過剰投与の危険を減少させることが可能な完全なキットを提供することである。
【0014】
驚くべきことに、薬学的組成物の注入容器への正確な移行のためにはボトルのサイズが非常に重要であることが見出された。実際、ボトルの好適なサイズの特定が、薬剤を完全に移行させることを効率的にするための上述した「ウォッシュアウト」に不可欠であることが見出された。
【0015】
本発明者らは、上述したシステムを使用する、注入液体中への薬学的組成物、特に親油性物質に溶解し、注入用液体に容易には溶解しないタクロリムス及び他の薬剤、の移行を効率的にするために、ボトルサイズが果たすべき基本的な役割に初めて注目した。この臨界的な態様については従来は考慮されてこなかった。
【0016】
静脈注入用液体として投与される薬学的組成物を含む前述のタイプのボトルのウォッシュアウトは、大きな空容積が存在するような、つまり薬学的組成物でほぼ完全に充填されないようにボトルサイズが計算されている場合より遥かに効果的であることが、予期せずに観察された。この観察は、現在の薬学技術における粒子と鋭い対照を成し、特に液体の場合には、薬学的組成物の容器内に非常に小さい空容積しか残さない。例えば活性成分であるタクロリムスは、2mlの容積しかないアンプルで市販され、1mlの薬学的組成物しか含まず、半分充填されているに過ぎない。
【0017】
一態様によると、本発明は、静脈注入用液体で投与される薬学的組成物を保持する調剤システムにおいて、前記調剤システムが、前記薬学的組成物を含んで成り、その空容積がボトルの全容積に対して80%以上、好ましくは80%から99%、より好ましくは80%から95%の範囲、例えばボトルの全容積の85%前後が望ましいボトルであることを特徴とする。
【0018】
本発明では、「薬学的組成物」という用語は、静脈注入用液体に移行させることができる、1又は2以上の薬学的に受け入れられるビヒクルで製剤された薬を意味する。従って、静脈注入用液体に移行させる前に共溶媒で予備希釈を必要とする薬、例えばデセタキセルの場合、「薬学的組成物」は、濃縮物と共溶媒の混合物を意味する。
【0019】
本発明では、「静脈注入用液体」という用語は、任意の従来の静脈注入用溶液、例えば生理食塩水又はグルコースを含む生理溶液を意味する。
【0020】
本発明では、「ボトル」という用語は、ゴムキャップで閉止されかつ針又は刺し込みスパイクで開孔した、薬学的組成物を保持する容器を意味する。これらの容器は、異なったサイズのものが市販されている。
【0021】
本発明では、ボトルの大きさは、「容量」で定義され、ここで「容量」とは、製造者により一般表示された利用できる容積を意味し、ボトルの満杯量ではない。従って本発明で、例えば7mlのボトルという場合、製造者が容量が7mlであると宣言しているボトルを意味し、そのボトルは満杯になれば8ml以上、例えば8.4mlになることもある。
【0022】
本発明の良好な一態様によると、前記ボトルは、活性成分の感光度に応じて透明又は琥珀色になるガラス製であり、かつDIN/ISOタイプの開口(約22mm)を有し、この特性は従来のコネクタの多くと良好な適合性を示す。
【0023】
本発明によると、「空容積」(ヘッドスペースともいう)とは、薬学的組成物で占められていないボトル内の容積を意味する。本明細書では、空容積のパーセントは、ボトルの容量に関して、組成物の容積のパーセントと空容積のパーセントの合計が常に100%になるように与えられる。
【0024】
本発明の好ましい態様では、前記空容積は、活性成分及び/又は組成物の溶解度の関数として選択される。本発明の好ましい態様では、前記薬学的組成物は、親油性物質に溶解した高活性薬剤を含んで成る。
【0025】
本発明の特に好ましい態様では、前記薬学的組成物は、免疫抑制剤、抗癌剤及びホルモンから選択される薬剤を含んで成る。
【0026】
本発明の特に好ましい態様では、前記薬学的組成物は、タクロリムス、シクロスポリン、アルキル化剤、カルムスチン、ブスルファン、ドセタキセル、パクリタキセル、テニポシド、ペンタミジン及びバルルビシンから選択される薬剤を含んで成る。
【0027】
他の態様では、本発明は、静脈内注入用液体として投与される薬学的組成物用の調剤システムにおいて、調製容器が5mlから10mlの容量のボトルであり、前記薬学的組成物が薬学的に受け入れられる油状のビヒクル中に、タクロリムスを、活性成分として含む調剤システムに関する。
【0028】
この最後の特に好ましい態様では、前記薬学的組成物は、200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノール、例えば無水エタノール(USP 80.0 % v/v, q.s. to 1 ml)から成る溶媒1mlに溶解した5mgのタクロリムスを含んで成る。
【0029】
本発明の特に好ましい態様では、前記薬学的組成物は、200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノール、例えば無水エタノール(米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む)から成る溶媒1mlに溶解した、0.1から0.5mg、特に約0.25gのクエン酸、及び5mgのタクロリムスを含んで成る。
【0030】
他の特に好ましい態様では、薬学的組成物は活性成分として、6から9mlの特に望ましくは7mlの容量を有するボトル中に含まれる5mgのタクロリムス(クエン酸は含んで含まなくても良い)を含み、従って空容積は85.7%に達する。
【0031】
必要であるかあるいは望ましいのならば、薬学的組成物は、不活性雰囲気、例えば窒素、アルゴン又はCO2雰囲気中で、本発明システムに従って調剤しても良い。
【0032】
本発明の調剤システムで使用するためには、ボトルは、少なくとも2本の開孔用スパイク(スパイクとして知られる)を有するコネクタと組み合わせて使用され、ボトルの内部を、注入用液体を保持する容器と直接接触させるために適している。注入用容器は、変形可能な物質、特に薬学的組成物及び投与される活性成分と相性の良い物質で形成され、例えばPVCと相性の悪い油状ビヒクルや薬剤を使用する場合は、PVC以外の物質で形成される。
【0033】
本発明では、「変形可能な物質」とは、上述した通り、注入用液体がコネクタのスパイクを通るように、手動で圧縮できる物質を意味する。
【0034】
図1は、2本のスパイクを有するコネクタ(c)により、計量ユニット(b)から容器(a)へ薬学的組成物を移行させる瞬間の本発明のキットの特に好ましい態様を示す。
【0035】
実際は、前述の通り、注入用液体を保持する容器は、少なくとも2本のスパイクを有するコネクタの一方端に係合し、前記スパイクの一方は前記容器のゴムキャップを貫通し内部に達している。そして本発明の調剤システムのボトルは、通常前記ゴムキャップの上端に存在する金属キャップ除去後に、上下逆にして、前記コネクタの他端に係合されてゴムキャップを開孔する。
【0036】
変形可能な物質製の容器に軽い圧力を掛けると、注入液体が2本のスパイクを通って、ボトル中に流れ、それを洗浄(ウォッシュアウト)する(図1)。
【0037】
本発明の調剤システムを適切に実行すると、つまりボトルの容量を適正に選択すると、該ボトル中に含まれる活性成分の99%以上が1回のウォッシュアウトで十分に移行する。常に最適の条件であると、2回のウォッシュアウトを行うと、実質的に100%の活性成分が確実に移行する。
【0038】
本発明の調剤システムと組み合わせて使用されるコネクタは公知で、例えばドイツの会社であるB.ブラウン・メルズンゲン・アクチェン・ゲゼルシャフトにより市販されている。
【0039】
前記スパイクは前記ボトル内に深く進入しないような長さを有することが好ましく、これによりボトル内に注入溶液と混合した薬学的組成物が残留しないようにする。
【0040】
変形可能な物質で製造された注入液体保持用容器は、多くの会社により市販されている。これらの容器はバッグ又はボトルの形状を有している。
【0041】
従って、本発明の一態様は、少なくとも、
a)非経口注入用流体を保持する容器、
b)非経口投与される液体状の少なくとも1つの薬学的組成物を含む計量ユニット、
c)計量ユニット(b)から容器(a)へ薬学的組成物を移行させる手段を含んで成る薬剤の非経口投与用キットであって、少なくとも1つの計量ユニットが本発明の調剤システムであることを特徴とするキットに関する。
【0042】
本発明において、「非経口投与」とは、経口以外の任意の投与を意味し、主として静脈投与を含むが、これに限定されない。
【0043】
部材(a)として参照される「容器」は、例えば注入バッグやガラス製ボトルで、これは、例えば塩や砂糖などを含む生理溶液のような注入用溶液又はマイクロエマルジョン、又は例えば経口的に供給されるタイプのマイクロサスペンションである「非経口注入用流体」を含み、全てが無菌状態である。
【0044】
本発明の「容器」は更に、カップリング、チューブ、流量計、フィルタや投薬器、及び非経口注入用好ましくは静脈注入用液体を移行させる全ての器具、例えば針やバタフライバルブを備えても良い。
【0045】
本発明の「薬学的組成物を移行させるための手段」は、薬学的組成物を、計量ユニット(b)から容器(a)へ移行させるために適した任意の器具を意味する。薬学的組成物移行手段は、前記計量ユニットを前記容器と連絡するようにする好適なカップリングから成ることが好ましい。
【0046】
特に好ましい態様では、前記薬学的組成物移行手段は、ボトル内部を直接注入液体を保持する容器と接触させるために適した少なくとも2本の貫通スパイク(スパイクとして知られる)を有するコネクタである。
【0047】
本発明のキットは、医療担当者に必要な警告するためのラベルの他に、廃棄できる手袋と説明書を含むことが有利である。
【0048】
容器(a)に含まれる非経口注入用流体は、投与される薬剤と相溶性であることが必要である。例えば特定のpH値の注入溶液に耐えられない、又は特定のビヒクルを含む薬剤の場合、非経口注入用流体は、活性成分の起こり得る全ての劣化や変性を避けるために適正に選択しなければならない。
【0049】
従って、薬剤や投与する薬学的組成物の本質に応じて適宜選択された静脈投与用に必要な全てのパーツを含む本発明のキットは、医療担当者が安全かつ迅速に働けることを可能にすると理解できる。
【0050】
本発明の他の態様では、注入用流体は、静脈注入用溶液であって、0.9%の塩化ナトリウム(食塩水)又は5%の右旋性グルコース(グルコース溶液)の注射液を含む。
【0051】
本発明の他の態様では、上述の通り、キットは、一方が食塩水を、他方がグルコース溶液を含む2個の容器(a)を備える。この変形例では、医療担当者が望めば、その時点で処置に最も有用な注入用溶液を選択することを可能にする。
【0052】
特に好ましい態様では、本発明は、前記薬学的組成物が活性成分としてタクロリムスを含む上述したキットに関する。
【0053】
特に有利な態様における本発明は、前述したキットであって、前記計量ユニットが、200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノール(例えば米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む無水エタノール)から成る溶媒1mlに溶解した5mgのタクロリムスを含んで成る薬学的組成物を含むボトルであり、該ボトルは、5から10ml、好ましくは6から9ml、更に好ましくは約7mlの容量を有する。
【0054】
本発明の他の有利な態様は、前記計量ユニットが、200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノール、例えば無水エタノール(米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む)から成る溶媒1mlに溶解した、0.1から0.5mg、特に約0.25gのクエン酸、及び5mgのタクロリムスを含んで成る薬学的組成物を含むボトルである、前述のキットに関する。
【0055】
本発明の他の有利な態様は、少なくとも
a)非経口投与用流体を保持する容器、
b’)200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノール(例えば米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む無水エタノール)から成る溶媒1mlに溶解した5mgのタクロリムスを含んで成る少なくとも1種の薬学的組成物を含む、約7mlの容量のボトルの形態の計量ユニット、
c)前記薬学的組成物を、計量ユニットb’)から容器(a)へ移行させる手段を含んで成るキットに関する。
【0056】
本発明の有利な態様は、少なくとも
全てがPE製である、0.9%の塩化ナトリウムを有する食塩溶液500ml、カテーテル及びバタフライニードルを含む静脈注入用の変形可能な容器、
―200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノールから成る溶媒1mlに溶解した5mgのタクロリムスを含んで成る薬学的組成物を含む約7mlの容量を有するボトル、
―少なくとも2本の貫通スパイクを有するコネクタ、
―薬学的使用のための1対の廃棄用手袋、
―活性成分であるタクロリムスに関する説明書を、
備えるキットに関する。
【0057】
本発明の他の態様は、
―変形可能な物質で形成された静脈注入用液体を保持する容器を、少なくとも2本のスパイクを有しかつその中の1本が前記容器のゴムキャップを貫通しているコネクタの一方端に係合させ、
―前記ゴムキャップ上の金属キャップを除去した後に、本発明の調剤システムのボトルを、上下逆にして前記コネクタの他端に係合させて、ゴムキャップを開孔し、
−変形可能物質の容器に圧力を掛けて、前記注入液体を2本のスパイク内を通過させ、前記ボトルのウォッシュアウトを行い、
−必要に応じて前記工程を繰り返す、
ことを含んで成る、静脈注入用溶液中へ、静脈注入により投与するための薬学的組成物を移行する方法に関する。
【0058】
特に好ましい態様において本発明は、前述の通り、薬学的組成物が活性成分としてタクロリムスを含んで成る方法である。
【0059】
本発明は、前述の通り、薬学的組成物の非経口投与用の調剤システムの使用方法である。
【0060】
本発明の調剤システムは、例えばドセタキセルである注入液体を保持する容器中へ移行させる前に、予備希釈を必要とする薬剤に使用できる。
【0061】
例えばドセタキセルの特別の場合、市場での薬剤としての特殊性は、ポリソルベート(polysorbate)80中に活性成分を有するボトル及び注入液体中に移行する前に活性成分を希釈する溶媒を有するボトルを備えることである。希釈は、医療担当者がシリンジを使用して行う。医学的な特殊性に関する説明書は、希釈条件を明瞭に特定し、従って、最終溶液が過飽和になっても、移行用ニードルでボトルの壁を擦っても沈殿は生成しない。一旦希釈されると、生成する薬学的組成物は、通常シリンジで吸い上げられ、注入用液体を保持する容器中に移行する。前述の理由により、活性成分は申告量に対して、10%以上、時には20%過剰になる。
【0062】
本発明は、注入容器中に薬学的組成物を移行させることに関する不都合を解決するだけでなく、医療担当者が使用済シリンジの針に偶発的に接触したり、前記予備希釈を必要とする活性成分の起こり得る沈殿を防止する予備希釈システムも提供する。
【0063】
従って本発明の他の態様は、
(i)ドセタキセルを含む薬学的組成物用に適した前記調剤システム、
(ii)ドセタキセルの濃縮物の予備希釈のための溶媒又は好適な溶媒の混合物を含むボトル、及び
(iii)前記濃縮物を、前記溶媒又は好適な溶媒の混合物で予備希釈する手段
を備えるキットを提供する。
【0064】
前記手段(iii)は、例えば格納式の安全ニードルを有するシリンジ、一方の手のみでアクティベートされる遮蔽されたニードル(ガード)を有するシリンジ、穿孔性ゴム用に適したプラスチックニードルを有するシリンジ、及びニードルはないが、スパイクを有するコネクタに結合したルーサー・ロック(Luer-Lock)タイプの接続(雄)を一方(ボトルに面する)に有し、ルーサー・ロックタイプの接続(雌)を他方に有するシリンジを含む。
【0065】
本発明のこの特別な態様では、ボトル(ii)は存在せず、予備希釈用溶媒又は溶媒の混合物が、前記シリンジが予備充填された前記手段(iii)中に含まれる。
【0066】
この手法では、医療担当者は溶媒又は溶媒混合物を手に取って移行させることが可能になり、同時に活性成分沈殿するリスクを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、2本のスパイクを有するコネクタ(c)により、計量ユニット(b)から容器(a)へ薬学的組成物を移行させる瞬間の本発明のキットの特に好ましい態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0068】
前述の通り、移行の効率は使用する調剤システムに直接依存し、特に薬学的組成物の容積とボトルの空容積の比に直接依存する。
【0069】
例えば、200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノール(例えば米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む無水エタノール)から成る溶媒1mlに溶解した5mgのタクロリムスを含む薬学的組成物を含むボトルを含んで成る種々のタイプの調剤システムについて、洗浄テストを行った。
【0070】
特に前記組成物を含む異なった容量のボトル、つまり3から15mlの容量のボトルをテストした。
【0071】
テストでは、前述のウォッシュアウト操作を行い、1回又は2回の洗浄後のボトル中のタクロリムスの残量を評価した。
テストの結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表中のデータから、前述のタクロリムスの薬学的組成物を含むボトルの最適な容量は5から10mlであることが分かる。
【0074】
ウォッシュアウトの効率化の目的のため、大きな容量のボトルも使用できるが、この場合、接続の安定性に関して若干のロスがある。
【0075】
実際、接続の安定性は同じように重要で、これは圧力の差はボトルに残る容積を限定するために決定的な役割を果たすからで、従って接続が密封させれいることは基本的なことである。接続の安定性は、ボトルのネックの形状とコネクタへ適応させる結果として生じる容量に大きく影響される。
【0076】
前記テストではこの理由で、残存する容量、つまりボトルに残る非常に少ない液体中の活性成分の同じパーセントの容量は、10ml未満であることが好ましく、これはより安定な接続を許容するからである。
【0077】
しかし50mlまでのよりサイズの大きいボトルもテストした。これらのボトルは、十分に安定した接続と十分な「ウォッシュアウト」の達成を示したが、理解できるように、1mlの薬学的組成物を含ませるには不適切で、これは視覚的なコントロールを効果的に行う可能性が失われるからである。
【0078】
このように準備しかつ前記テストで使用したボトルの安定性テストを行い、その結果、前記組成物の正確な安定性が示された。
【0079】
我々は、前記調剤システム、特に200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノール(例えば米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む無水エタノール)から成る溶媒1mlに溶解した5mgのタクロリムスから成る薬学的組成物を含む5から10mlの容量のボトルに関する前記調剤システムが、どのようにして従来技術の不都合を解決するかを、特に現在のところ、市販のタクロリムスを含む薬学的組成物のみがアンプル中に調剤され、かつネックを壊して開口し、シリンジでそれを取り出して移行させるという事実を考慮して、示した。
【0080】
本発明のキットは、本発明の幾つかの調剤システム(ボトル)を同じ注入バッグに、後に接続する可能性を提供して、これにより一連の負荷(洗浄)により、医療担当者にリスクを負わせずに、容易に注入バッグ中の薬剤の濃度を所望なものにすることを可能にできることが分かる。
【0081】
現在では、医療担当者は幾つかのボトル又はアンプルから活性成分の服用分を取り出し、この際にニードル付きシリンジを使用し、これにより各患者に望ましい特定の濃度に到達する。従って本発明のキットは、医療環境の安定性の整備のための重要な技術的進歩である。
【0082】
従って本発明の調剤システム、特に詳細に調べたタクロリムスを含むシステムの前述した利点は明瞭で、本発明が提示する重要な技術的進歩
を確認するものである。
【0083】
[実施例]
[実施例1]
[タクロリムスの静脈投与用キット]
全てがPE製である、0.9%の塩化ナトリウムを有する食塩溶液500ml、カップリング及びバタフライニードルを含む静脈注入用の変形可能な容器、
―200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノールから成る溶媒1mlに溶解した5mgのタクロリムスから成る薬学的組成物を含む約7mlの容量を有するボトル、
―少なくとも2本の貫通スパイクを有するコネクタ、
―薬学的使用のための1対の廃棄用手袋、
―活性成分であるタクロリムスに関する説明書を、
備えるキットを準備する。
【0084】
[実施例2〜5]
実施例1のような薬学的パッケージの形態のキットは、次のような異なったタイプの薬学的組成物を含んでいる。
【0085】
[実施例2]
無水エタノール(米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む無水エタノール)中の200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)から成る溶媒1mlに溶解した5mgの無水タクロリムスから成る薬学的組成物。
【0086】
[実施例3]
無水エタノール(米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む無水エタノール)中の200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)から成る溶媒1mlに溶解した5mgの無水タクロリムス、0.25mgのクエン酸から成る薬学的組成物。
【0087】
[実施例4]
無水エタノール(米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む無水エタノール)中の200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)から成る溶媒1mlに溶解した5mgの無水タクロリムス、0.25mgのクエン酸一水和塩から成る薬学的組成物。
【0088】
[実施例5]
無水エタノール(米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む無水エタノール)中の100mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)から成る溶媒0.5mlに溶解した2.5mgの無水タクロリムス、0.125mgのクエン酸一水和塩から成る薬学的組成物。
【0089】
[実施例6]
[ドセタキセルの静脈投与用キット]
全てがPE製である、0.9%の塩化ナトリウムを有する食塩溶液500ml及び/又は5%のドセタキセル溶液、カップリング及びバタフライニードルを含む静脈注入用の変形可能な容器、
―ポリソルベート1mlに溶解した40mgのドセタキセルから成る濃縮物を含む約24mlの容量を有するボトル、
―13%エタノール水溶液3mlを含む予備充填されたシリンジ、
−少なくとも2本の貫通スパイクを有するコネクタ、
―薬学的使用のための1対の廃棄用手袋、
―活性成分であるドセタキセルに関する説明書を、
備えるキットを準備する。
【0090】
[実施例7]
実施例6のような薬学的パッケージの形態のキットは、60mlの容量のボトル中の2.5mlのポリソルベート80中の100mgの活性成分から成る濃縮物と、13%エタノール水溶液7.5mlを含む予備充填されたシリンジを含む。
【符号の説明】
【0091】
a 容器
b 計量ユニット
c コネクタ
【図1(a)】

【図1(b)】

【図1(c)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
静脈内注入用液体として投与される薬学的組成物を含んで成る調剤システムにおいて、
該システムは、前記薬学的組成物を有するボトルであり、その空容積が前記ボトルの全容積に対して、80%から99%の範囲であることを特徴とする調剤システム。
【請求項2】
ボトルの空容積が、該ボトルの全容積に対して、80%から95%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の調剤システム。
【請求項3】
ボトルがゴムキャップで閉塞された、薬学的組成物用の容器であり、前記キャップは、針又は貫通スパイクが貫通できることを特徴とする請求項1記載の調剤システム。
【請求項4】
ボトルがガラス製であることを特徴とする請求項1記載の調剤システム。
【請求項5】
薬学的組成物は、薬学的に受け入れられる親油性物質に溶解した薬剤を含んで成る請求項1から4までのいずれか1項に記載の調剤システム。
【請求項6】
薬学的組成物は、薬学的に受け入れられる親油性物質に溶解した高活性の薬剤を含んで成る請求項1から5までのいずれか1項に記載の調剤システム。
【請求項7】
薬学的組成物は、免疫抑制剤、抗癌剤及びホルモンから選択される薬剤を含んで成る請求項1から6までのいずれか1項に記載の調剤システム。
【請求項8】
薬学的組成物は、タクロリムス、シクロスポリン、アルキル化剤、カルムスチン、ブスルファン、ドセタキセル、パクリタキセル、テニポシド、ペンタミジン及びバルルビシンから選択される薬剤を含んで成ることを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項に記載の調剤システム。
【請求項9】
静脈内注入用液体として投与される薬学的組成物用の調剤システムにおいて、調製容器が5mlを超える容積のボトルであり、前記薬学的組成物が薬学的に受け入れられる油状のビヒクル中のタクロリムスを、活性成分として含むことを特徴とする調剤システム。
【請求項10】
前記調剤システムは、5mlから10mlの容積を有するボトルである請求項9に記載の調剤システム。
【請求項11】
前記薬学的組成物は、200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノール(米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む無水エタノール)から成る溶媒1mlに溶解した5mgのタクロリムスを含んで成ることを特徴とする請求項10に記載の調剤システム。
【請求項12】
前記ボトルが、6から9mlの容積を有することを特徴とする請求項11に記載の調剤システム。
【請求項13】
前記ボトルが、7mlの容積を有することを特徴とする請求項12に記載の調剤システム。
【請求項14】
―変形可能な物質で形成された静脈注入用液体を保持する容器を、少なくとも2本のスパイクを有しかつその中の1本が前記容器の内部に貫通しているコネクタの一方端に係合させ、
―請求項1から13までのいずれか1項に記載の調剤システムのボトルを、上下逆にして前記コネクタの他端に係合させて、ゴムキャップを開孔し、
−変形可能物質の容器に圧力を掛けて、前記注入液体を2本のスパイク内を通過させ、前記ボトルのウォッシュアウトを行い、
−必要に応じて前記工程を繰り返す、
ことを含んで成る、静脈注入用溶液中へ、静脈注入により投与するための薬学的組成物を移行する方法。
【請求項15】
前記薬学的組成物が、活性成分としてタクロリムスを含んで成ることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
薬学的組成物の静脈投与用に、請求項1から13までのいずれか1項に記載の調剤システムを使用する方法。
【請求項17】
少なくとも、
a)非経口注入用液体を保持する容器、
b)非経口投与される液体状態の少なくとも1種の薬学的組成物を含む計量ユニット、
c)薬学的組成物を、計量ユニット(b)から容器(a)へ移行させるための手段、
を備え、
前記少なくとも1個の計量ユニットが、請求項1から13までのいずれか1項に記載の調剤システムであることを特徴とするキット。
【請求項18】
薬学的組成物を、計量ユニット(b)から容器(a)へ移行させるための手段が、少なくとも2本のスパイクを有するコネクタである請求項17に記載のキット。
【請求項19】
更に廃棄用手袋と説明書を備える請求項17又は18に記載のキット。
【請求項20】
少なくとも
a)非経口投与用流体を保持する容器、
b’)200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノール(米国薬局方標準により、80容量%のエタノールを含む無水エタノール)から成る溶媒1mlに溶解した5mgのタクロリムスを含んで成る少なくとも1種の薬学的組成物を含む、約7mlの容量のボトルの形態の計量ユニット、
c)前記薬学的組成物を、計量ユニットb’)から容器(a)へ移行させる手段を含んで成る請求項17又は18に記載のキット。
【請求項21】
前記薬学的組成物が、0.1から0.5mgのクエン酸を含むことを特徴とする請求項20に記載のキット。
【請求項22】
―全てがPE製である、0.9%の塩化ナトリウムを有する食塩溶液500ml、カップリング及びバタフライニードルを含む静脈注入用の変形可能な容器、
―200mgのポリオキシエチレン化水素化カスターオイル(HCO−60)及びエタノールから成る溶媒1mlに溶解した5mgのタクロリムスを含んで成る薬学的組成物を含む約7mlの容量を有するボトル、
―少なくとも2本の貫通スパイクを有するコネクタ、
―薬学的使用のための1対の廃棄用手袋、
―活性成分であるタクロリムスに関する説明書を、
備える請求項17から19までのいずれか1項に記載のキット。
【請求項23】
注入用液体を保持する容器中へ移行させる前に、予備希釈を必要とする活性成分の非経口投与用キットであって、
該キットが、
(i)請求項1から4までのいずれか1項に記載の調剤システム、
(ii)前記活性成分を含む濃縮物の予備希釈のための溶媒又は好適な溶媒の混合物を含むボトル、及び
(iii)前記濃縮物を、前記溶媒又は好適な溶媒の混合物で予備希釈する手段
を備えるキット。
【請求項24】
手段(iii)が、格納式の安全ニードルを有するシリンジ、一方のみでアクティベートされる遮蔽されたニードル(ガード)を有するシリンジ、穿孔性ゴム用に適したプラスチックニードルを有するシリンジ、及びニードルはないが、スパイクを有するコネクタに結合したルーサー・ロック(Luer-Lock)タイプの接続(雄)を一方に有し、ルーサー・ロックタイプの接続(雌)を他方に有するシリンジから選択される請求項23に記載のキット。
【請求項25】
前記ボトル(ii)が存在せず、予備希釈用溶媒又は好適な溶媒の混合物が手段(iii)に含まれている請求項23又は24に記載のキット。

【公表番号】特表2010−504789(P2010−504789A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529790(P2009−529790)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国際出願番号】PCT/IB2007/002857
【国際公開番号】WO2008/038126
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(508097722)インファ ソシエテ アノニム (2)
【Fターム(参考)】