説明

薬液容器

【課題】容器の内部への細菌等の侵入を防止した薬液容器において、製造が容易で薬液の逆流を確実に防止することができる逆止弁を備えた、薬液容器を提供する。
【解決手段】本発明に係る薬液容器は、容器本体1と、キャップ2と、中間部材3と、中栓4とを有している。キャップ2には、薬液排出路25と空気導入路28とが設けられている。中間部材3は、容器本体1の内部に向かって突出する管体35を有している。薬液導入路34と薬液排出路25との間には親水性フィルタ29が設けられ、空気導入路28に連通する空気供給路36と空気送出路43との間にはフィルタ37が設けられている。空気送出路43は、管体35の外周面に環状弁42の内周面が接触して容器本体1の内部に向かう方向にのみ空気を通過させる逆止弁を介して容器本体1の内部に連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薬液容器に関する。より詳しくは、液状の薬品や化粧品を保存する目的に使用される薬液容器であって、細菌や微生物等により容器内部の薬液が汚染されることを防止した薬液容器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液状の薬品や化粧品を保存するために使用される薬液容器は、容器内部と外部が無菌的に隔離されていない。いったん開封され使用し始めると、ノズル孔を通じて容器内部の薬液と大気とが常時連通する状態となる。そのため、ノズル孔を通して大気中の浮遊細菌が容器内部に進入する可能性があった。また、使用時にノズルが皮膚に触れた場合には、皮膚に付着していた細菌や微生物がノズル孔を通じて容器内部に容易に進入する恐れもあった。
【0003】
また、薬液容器としては、一般に手指による押圧により内部の薬液が排出され、押圧の解除により元の形状に復元する容器が使用されている。押圧により変形した容器が元の形状にもどる際には、大気を容器内部に吸引する。従来の薬液容器では、それに伴い大気中の細菌や微生物も容器内部へ吸引される可能性があった。細菌や微生物等が薬液容器内に侵入すると、薬液中の有効成分、あるいは薬液を安定化する目的で添加された緩衝剤や溶解補助剤を養分として、容器内部で繁殖する恐れがあった。
【0004】
使用後にノズル内に残留した薬液が容器内部に逆流する際や、押圧により弾性変形した容器が元の形状にもどる際に、細菌や微生物などが侵入するのを阻止する目的で、ノズルの内部に親水性フィルタを設けたものが提案されている。しかし、親水性フィルタは、一般的な条件では液体は通すが気体は通さない性質を持っているため、内容液が減少した後の容器は押圧により変形したままになってしまう。
【0005】
そこで、ノズル孔以外に通気孔を設けたものが提案されている。特許文献1(特開2004−166978号公報)では、使用後にノズル内に残留した薬液が容器内部に逆流する際や、押圧により弾性変形した容器が元の形状に戻る際に、細菌や微生物などが侵入するのを阻止するため、ノズルと容器本体の内部との間に親水性フィルタを設け、容器本体内部に空気を取り込む通気路に疎水性フィルタを設けた薬液容器が提案されている。
【0006】
特許文献1に記載の薬液容器においては、図7に示すように、キャップ102の内側に設けられたフィルタ取付部材103の一方の面に疎水性フィルタ105を設け、他方の面に親水性フィルタ104を設けている。また疎水性フィルタ105と容器内部との間に流量制限部が設けられている。流量制限部は、逆止弁141、またはオリフィスで構成されている。
【0007】
特許文献1に記載の薬液容器によると、薬液がノズルから容器の内部に逆流するときには、親水性フィルタ104により細菌や微生物などの侵入が防止される。また、容器本体101に空気が流入するときには、疎水性フィルタ105により細菌や微生物などの侵入が防止される。加えて、疎水性フィルタ105と容器本体101の内部との間には、流量制限部としての逆止弁141またはオリフィスが設けられているので、ノズルの内部に滞留している薬液が親水性フィルタを通じて容器の内部に回収されるのに十分な時間、容器の内部を負圧に保つことができる。
【特許文献1】特開2004−166978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の薬液容器ではダックビルタイプの逆止弁141が用いられている。この逆止弁141は、図8に示すように互いに連続する一対の楔状の弁体を成型した後、弁体の連続部にカッターなどを用いて切り込み加工する必要がある。逆止弁を所定の圧力で正確に動作させるためには、高度な切り込み加工精度が要求される。
【0009】
弁体はゴムやエラストマで構成されており、容易に変形するため正確に切断することは容易ではなかった。そのため製造誤差が避けられず、製品性能が安定しないという問題があった。
【0010】
また、特許文献1に記載の薬液容器において、流量制限部がオリフィスで構成されている場合には、内容液が疎水性フィルタ105に逆流し、疎水性フィルタ105の性能を損なうという問題があった。
【0011】
加えて、特許文献1に記載の薬液容器においては、フィルタ取付部材の一方の面に疎水性フィルタを溶着し、他方の面に親水性フィルタを溶着し、さらに切り込み加工を行なう必要がある。すなわち、一つの部品を製造するために異なる方向から三つの工程を加える必要がある。
【0012】
薬液容器の内部構造を構成する小さい部品に対して、方向を転換しながら三つの工程を行なうことは、そのハンドリングが容易でない。また、この三つの工程のいずれか一つでも不良が発生すると、直接製品不良につながる上、最後の工程で不良が発生すると、前の全ての工程が無駄になるため影響が大きいという問題もある。
【0013】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、容器の内部への細菌等の侵入を防止した薬液容器において、製造が容易で薬液の逆流を確実に防止することができる逆止弁を備えた、薬液容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に基づいた薬液容器に従えば、口部を有し、押圧により変形可能でかつ押圧を解除すると元の形状に復元する容器本体と、薬液を排出するための薬液排出路と空気を流入させるための空気導入路とが設けられ、上記容器本体の口部に取り付けられたキャップと、上記容器本体の内部に向かって突出する管体を有し、上記薬液排出路に親水性フィルタを介して連通する上記管体の内部の薬液導入路と上記空気導入路に連通する空気供給路とが設けられ、上記キャップの内側に配設された中間部材と、上記管体の外周面にその内周面が接触して上記容器本体の内部に向かう方向にのみ空気を通過させる逆止弁を構成する環状弁を有し、上記空気供給路にフィルタを介して連通すると共に容器本体内部に上記逆止弁を介して連通する空気送出路が設けられ、上記中間部材の内側に配設された中栓とを備えている。
【0015】
上記薬液容器において、上記逆止弁は、上記容器本体の内部の圧力が、大気圧よりも5KPa以上低い時に、上記密封状態を解除し、上記空気送出路から上記容器本体の内部に向かう空気を通過させるものであってもよい。
【0016】
上記薬液容器において、上記中栓の外周部は、上記容器本体の口部の端面と上記中間部材との間に挟持させるようにしてもよい。
【0017】
上記薬液容器において、上記薬液排出路と上記薬液導入路との間に設けられた上記親水性フィルタは上記キャップに取り付けられ、上記空気供給路と上記空気送出路との間に設けられたフィルタは上記中間部材に取り付けられていてもよい。
【0018】
上記薬液容器において、上記空気供給路と上記空気送出路との間に設けられたフィルタは疎水性フィルタであってもよい。
【0019】
上記薬液容器において、上記中栓には、上記逆止弁と同軸上に位置し上記管体が嵌合される嵌合孔が設けてもよい。
【0020】
上記薬液容器において、上記嵌合孔の内面と上記管体の外面との間には、上記管体が貫通する方向に延びる通気溝が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る薬液容器によると、製造が容易で薬液の逆流を確実に防止することができる逆止弁を備えた薬液容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明に基づいた実施の形態における薬液容器の構造について、図を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態の薬液容器を示す分解斜視図であり、図2は同縦断面図である。図1および図2に示すように、本実施の形態の薬液容器は、容器本体1とキャップ2と中間部材3と中栓4とを備えている。容器本体1は、口部12を有し、押圧により変形可能でかつ押圧を解除すると元の形状に復元する。キャップ2は、薬液を排出するための薬液排出路25と空気を流入させるための空気導入路28とが設けられ、容器本体1の口部12に取り付けられている。中間部材3は、容器本体1の内部に向かって突出する管体35を有し、薬液排出路25に親水性フィルタ29を介して連通する管体35の内部の薬液導入路34と空気導入路28に連通する空気供給路36とが設けられ、キャップ2の内側に配設されている。中栓4は、管体35の外周面にその内周面が接触して容器本体1の内部に向かう方向にのみ空気を通過させる逆止弁を構成する環状弁42を有し、空気供給路36に疎水性フィルタ37を介して連通すると共に容器本体1内部に逆止弁を介して連通する空気送出路43が設けられ、中間部材3の内側に配設されている。以下、これらの各構造についてより詳しく説明する。
【0024】
容器本体1は、図1に示すような有底円筒状、あるいは側壁の下端部を閉止したものなど、任意の形態を採用することができる。容器本体1の上端には胴部11よりも細径の口部12が設けられている。そして、口部12の外周面には、キャップ2を嵌合するための係合突起13が形成されている。係合突起13は、容器本体1の上端部の外周を周回するように設けられている。口部12の端面には、口部12の水密性を向上させるため円環状のリブが設けられている。このリブは組立後、中栓4に食い込んで口部12の水密性を向上させる。
【0025】
容器本体1の材質は、手指での押圧により変形可能で、かつそのような押圧から開放されたときに、容易に元の形状に戻り得る可撓性材料が採用される。このような可撓性材料としては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレナフタレート、ポリエステル、軟質ポリ塩化ビニル、熱可塑性エラストマ、ポリカーボネート等の弾性を有する各種高分子素材が挙げられる。
【0026】
キャップ2は、下面が開放した円筒状に形成された部材であって、円形の天板21と、その周縁から延びるスカート部22からなる。そして、スカート部22の内周面には、容器本体1の係合突起13と係合する被係合溝23が形成されている。
【0027】
天板21の中心部分には上向きに突出するノズル24が設けられている。このノズル24は、円筒状あるいは円錐台形状に形成されている。ノズル24の内部には長軸方向に貫通したノズル孔により薬液排出路25が設けられている。薬液排出路25は、ノズル24の先端側に向かって内径が拡大している。また、キャップ2の外周面には雄ねじ部27が形成されている。
【0028】
キャップ2の天板21には、これを上下に貫通するように空気導入路28が設けられている。本実施の形態では、空気導入路28をキャップ2の天板21の外周部の四箇所に等間隔に設けている。空気導入路28は、複数箇所設けることが好ましいが、1箇所であっても良い。
【0029】
キャップ2の天板21の下面には、その外周部を溶着して親水性フィルタ29が設けられている。親水性フィルタ29は、円形に構成されている。
【0030】
図3は、親水性フィルタを除いた状態のキャップの下面図である。親水性フィルタ29が接触する箇所には、同心円上に配置された多数のリブ21aが設けられている。リブ21aは、その中心から放射状に延びる線と交差する部分に、不連続部が設けられている。不連続部においては、リブ21aは設けられていない。
【0031】
このリブ21aは親水性フィルタ29と天板21の下面とが完全に密着することを防止するとともに流路を確保するものである。すなわち、不連続部およびリブ21a相互の隙間が流路となって、親水性フィルタ29の全面への流通を確保するものである。
【0032】
空気導入路28は、平面視矩形に構成されている。また、その断面形状は、空気導入路28の内部を進むにしたがって断面積が狭くなるように構成されている。空気導入路28と親水性フィルタ29との間には両者を遮断する環状で下向きに突出した隔壁21bが設けられている。
【0033】
図4は、中間部材の構造を示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は底面図である。中間部材3は、概ね円板状の中間部材本体31とその下面に下向きに突出した管体35とを有している。中間部材3の中心部には、それを上下方向に貫通する薬液導入路34が設けられている。薬液導入路34と、キャップ2に設けられた薬液排出路25とは、同一直線上に位置している。
【0034】
図1および図4(a)に示すように、中間部材本体31の上面の親水性フィルタ29と対向する箇所には、同心円上に配置された多数のリブ31aが設けられている。リブ31aには、その中心から放射状に延びる線と交差する部分に、不連続部が設けられている。不連続部においては、リブ31aは設けられていない。
【0035】
このリブ31aも、リブ21aと同様、親水性フィルタ29の全面への流路を確保するものである。リブ31aが設けられた箇所を囲むように隔壁31bが設けられている。図2に示すように、隔壁31bは、キャップ2の隔壁21bと密着して、空気導入路28と、親水性フィルタ29が設けられた薬液排出路25および薬液導入路34とを仕切る。
【0036】
中間部材3の外周面は、下端部が上部および中間部よりも大径とされている。中間部材3の外周面の上部および中間部と、キャップ2の内周面との隙間により、図2に示すように空気供給路36の一部が形成される。中間部材本体31の内部には、中間部材3の外周面に開口し、水平方向に延びた後、下向きに折れ曲がった空気通路により空気供給路36の本体部分が形成されている。
【0037】
空気供給路36を構成する空気通路の下流側端部が開口する箇所には、疎水性フィルタ37が設けられている。疎水性フィルタ37に代えて親水性フィルタを用いても良い。
【0038】
疎水性フィルタ37は、円形に構成されており、その外周が溶着されて中間部材3の下面に取り付けられている。図4(c)は、疎水性フィルタを除去した状態の、中間部材の下面を示しているが、疎水性フィルタ37が設けられた箇所の中央部には、疎水性フィルタ37が中間部材3に密着することを防止する突起32が設けられている。疎水性フィルタ37は、中間部材3の中心からずれた位置に配置されている。
【0039】
管体35の下部は円柱状に構成されている。中間部および上部は、下部より大径とされ、さらに、この大径の部分には縦に延びる通気溝35aが設けられている。管体35の下部は、環状弁42の内周面に密着し、通気溝35aは空気送出路43を構成する。
【0040】
キャップ2および中間部材3の材料としては、合成樹脂を用いることができる。キャップ2としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどを用いることができる。中間部材3には、若干の弾力性および柔軟性が要求され、たとえば、ランダムポリプロピレン、ポリエチレン、エラストマ、塩化ビニルなどの材料を用いることができる。本実施の形態では、キャップ2をポリプロピレン、中間部材3をポリエチレンで構成している。
【0041】
中栓4は、ゴムやエラストマなどの柔軟性に富む材料で構成されている。ここではスチレン系エラストマで構成している。中栓4を構成する材料としては、例えば熱可塑性エラストマやポリオレフィン系樹脂(低密度ポリエチレン、ランダムポリプロピレン)が挙げられる。中栓4の上面には、円形の窪み41が設けられている。この窪み41は、疎水性フィルタ37に対向している。窪み41は、疎水性フィルタ37を経由して流入した空気の流路となる。
【0042】
中栓4の中央部には縦方向に管体35が貫通する貫通孔44が設けられている。貫通孔44の下端部には、環状弁42が設けられている。環状弁42は、図1および図2に示すように、下方向に進むにしたがって肉厚が薄く形成された、環状の部材であり、管体35の外周にその下端部の内周面が密着することで逆止弁を構成する。
【0043】
中栓4の上端部には外周部が外側に突出したフランジ部45が設けられている。フランジ部45の下面は、容器本体1の口部12の端面に密着する。組み立てた状態において中栓4の外周のフランジ部45は、容器本体1の口部12の端面と中間部材3との間に挟持される。この中栓4の弾性により、キャップ2と中間部材3、中間部材3と中栓4、中栓4と容器本体1の間が密着し、気密性を保つことができる。
【0044】
ノズル24の先端を塞ぐため、図1に示すような、ノズルキャップ6が設けられる。ノズルキャップ6は、底部が開口した略円筒状の部材であり、その天井面には、ノズル24の先端部に密着しノズル孔を気密に密閉する封止部61が設けられている。
【0045】
この封止部61は、下面が開放した円筒状に形成されている。ノズルキャップ6は、その内周面に雌ねじ部62が設けられている。ノズルキャップ6は、キャップ2の外周面に設けられた雄ねじ部27と、その雌ねじ部62とが螺合することで固定される。ノズルキャップ6は、ノズル24と空気導入路28の両方を封止する。
【0046】
図5は、キャップ、中間部材および中栓の構造を示す分解断面図であり、図6は、キャップ、中間部材および中栓を組み立てた状態の断面図である。本実施の形態の薬液容器を組み立てるときには、キャップ2の内部に、中間部材3および中栓4を挿入する。その後、容器本体1の口部12をキャップ2の内部に挿入することで、キャップ2、中間部材3、中栓4および口部12を相互に密着させる。
【0047】
このとき、中間部材3の管体35は、中栓4の貫通孔44を貫通する。管体35の上部および中間部は、上述のとおり、下部よりも大径とされている。管体35の大径の部分が、中栓4の貫通孔44に嵌合される。これにより、管体35は、中栓4の所定位置に位置決めされる。同時に管体35の先端の小径部が、中栓4の環状弁42の内周面に密着し逆止弁が形成される。このとき管体35と中栓4とが正確に位置決めされているので、環状弁42に対して管体35を所定の位置に確実に位置させることができ、所望の性能の逆止弁を確実に得ることができる。
【0048】
また、逆止弁は、環状弁42の内部に管体35を貫通させるだけで構成することができるので、従来の逆止弁のように切り込み加工などをする必要がなく容易かつ確実に動作する逆止弁を構成することができる。
【0049】
本実施の形態の逆止弁は、容器本体1の内部の圧力が、大気圧よりも5KPa以上低い時に、環状弁42が外側に開くことで管体35との間に隙間が生じて密封状態を解除し、空気送出路43から容器本体1の内部に向かう空気を通過させるように構成している。これは、指で押圧して変形した容器本体1が、元の形状に戻ろうとする力により容器本体1の内部に発生する負圧力が5KPaから30KPaであることに基づく。
【0050】
本来、逆止弁は、容器本体1の内部に少しでも負圧力が発生すれば、空気送出路43からの空気を流入させ、空気送出路43への逆流を発生させないものであればよい。しかし、逆流を確実に防止する観点、および、逆止弁の流量制限部材としての観点から、容器本体1により発生する負圧力よりも少し小さい程度の負圧力で開放する逆止弁を用いることが好ましい。変形した状態から元の形状に戻る際に、容器本体1の内部に発生する負圧力が、大きい場合には、逆止弁が開放する圧力を大きくしてもよい。逆止弁が開放する圧力は環状弁の材質、形状などを変更することにより、種々の値に設定することができる。
【0051】
本実施の形態の薬液容器の使用方法について説明する。まず使用時にはノズルキャップ6を取り外す。ついで、薬液を排出すべく容器本体1を手指で圧迫する。内部の薬液は、容器の内部から押し出され、薬液導入路34、親水性フィルタ29および薬液排出路25を通過して、ノズル24から外部に滴下される。
【0052】
このとき、環状弁42と管体35とからなる逆止弁は閉じているので、薬液が空気送出路43に進入することはない。したがって、疎水性フィルタ37に薬液が触れることもない。そのため、疎水性フィルタ37の材質と相性の悪い薬液を用いる場合であっても、疎水性フィルタ5の劣化(例えば、親水性化など)を防止でき、疎水性フィルタ37の下面での薬液の結晶析出を防止することができる。
【0053】
そして、必要量滴下した後、容器本体1の圧迫をやめると、容器本体1はその可撓性に基づき元の形状に戻るように膨らむ。このとき容器本体1内は負圧になる。この負圧によってノズル孔の内部に排出停止後に溜まっていた薬液は、親水性フィルタ29を通過して、容器本体1内に戻されることになる。
【0054】
ノズル孔の内部に溜まっていた薬液は親水性フィルタ29を経由して容器本体1の内部に戻るので、ノズル孔の内部に溜まっていた薬液に細菌等が混入していても、親水性フィルタ29でろ過される。
【0055】
一方、容器本体1の内部が負圧になるので逆止弁は若干開く。これにより、空気導入路28、空気供給路36、疎水性フィルタ37および空気送出路43を経由して容器本体1の内部に空気が流入する。このとき、逆止弁により空気の流量が制限されるので、空気は容器本体1の内部に少しずつ進入し、容器本体1の元の形状への復帰も時間をかけてゆっくりと行われる。すなわち、親水性フィルタ29上の薬液が容器本体1内に回収される十分な時間を確保することができる。
【0056】
このように、容器本体1内の負圧により薬液が親水性フィルタ29を通過する時間が充分確保されることから、ノズル24内に薬液の残りが溜まることを回避することができる。ノズル24の内部に薬液が長期間残留すると、その残留した薬液中で雑菌等が繁殖し、次に使用するときにこれが薬液中に混入することがあるが、本実施の形態の薬液容器によるとこのような不具合を回避することができる。
【0057】
また、容器本体1の内部に流入する空気は、疎水性フィルタ37を経由することで細菌や微生物などがろ過される。これらにより容器本体1の内部を無菌状態に保つことができる。
【0058】
このような親水性フィルタおよび疎水性フィルタの孔径は、汚染起因菌として通常知られているCandida albicans、Pseudomonas属、Burkholderia cepaciaらの容器内部への侵入を防ぐために、好ましくは0.45μm以下、より好ましくは0.22μm以下であることが望ましい。
【0059】
また、フィルタの捕捉機構は、フィルタ内部で捕捉する「デプスタイプ」と、フィルタ表面で捕捉する「スクリーンタイプ」の2種類に大別されるが、本発明ではいずれのタイプも好適に用いることができる。
【0060】
本実施の形態の薬液容器においては、キャップ2に親水性フィルタ29を取り付け、中間部材3に疎水性フィルタ37を取り付けている。二つのフィルタを一つの部材には取り付けず、異なる部材にそれぞれ取り付けたので、フィルタの取り付け作業においては、一つの部材の両面にそれぞれ疎水性フィルタと親水性フィルタとを取り付けた従来の薬液容器のように、部材を反転させる必要がなく、その作業を容易に行なうことができる。
【0061】
本発明に係る薬液容器は、化粧品よりも高い無菌性の要求される薬品において、さらに薬品の中にあっても、保存剤の添加が制限される点眼剤を保存する点眼容器に使用する場合においてその効果は顕著である。
【0062】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるのではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明に基づいた実施の形態における薬液容器を示す分解斜視図である。
【図2】この発明に基づいた実施の形態における薬液容器を示す縦断面図である。
【図3】この発明に基づいた実施の形態における親水性フィルタを除いた状態のキャップの構造を示す下面図である。
【図4】この発明に基づいた実施の形態における中間部材の構造を示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は底面図である。
【図5】この発明に基づいた実施の形態におけるキャップ、中間部材および中栓の構造を示す分解断面図である。
【図6】この発明に基づいた実施の形態におけるキャップ、中間部材および中栓を組み立てた状態の断面図である。
【図7】従来の薬液容器の構造を示す縦断面図である。
【図8】従来の薬液容器の逆止弁の構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 容器本体、2 キャップ、3 中間部材、4 中栓、5 疎水性フィルタ、6 ノズルキャップ、11 胴部、12 口部、13 係合突起、21 天板、21a リブ、21b 隔壁、22 スカート部、23 被係合溝、24 ノズル、25 薬液排出路、27 雄ねじ部、28 空気導入路、29 親水性フィルタ、31 中間部材本体、31a リブ、31b 隔壁、32 突起、34 薬液導入路、35 管体、35a 通気溝、36 空気供給路、37 疎水性フィルタ、42 環状弁、43 空気送出路、44 貫通孔、45 フランジ部、61 封止部、62 雌ねじ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口部を有し、押圧により変形可能でかつ押圧を解除すると元の形状に復元する容器本体と、
薬液を排出するための薬液排出路と空気を流入させるための空気導入路とが設けられ、前記容器本体の口部に取り付けられたキャップと、
前記容器本体の内部に向かって突出する管体を有し、前記薬液排出路に親水性フィルタを介して連通する前記管体の内部の薬液導入路と前記空気導入路に連通する空気供給路とが設けられ、前記キャップの内側に配設された中間部材と、
前記管体の外周面にその内周面が接触して前記容器本体の内部に向かう方向にのみ空気を通過させる逆止弁を構成する環状弁を有し、前記空気供給路にフィルタを介して連通すると共に容器本体内部に前記逆止弁を介して連通する空気送出路が設けられ、前記中間部材の内側に配設された中栓と、を備えた、薬液容器。
【請求項2】
前記逆止弁は、前記容器本体の内部の圧力が、大気圧よりも5KPa以上低い時に、前記密封状態を解除し、前記空気送出路から前記容器本体の内部に向かう空気を通過させる、請求項1に記載の薬液容器。
【請求項3】
前記中栓の外周部は、前記容器本体の口部の端面と前記中間部材との間に挟持されている、請求項1または2に記載の薬液容器。
【請求項4】
前記薬液排出路と前記薬液導入路との間に設けられた前記親水性フィルタは前記キャップに取り付けられ、前記空気供給路と前記空気送出路との間に設けられたフィルタは前記中間部材に取り付けられている、請求項1から3のいずれかに記載の薬液容器。
【請求項5】
前記空気供給路と前記空気送出路との間に設けられたフィルタは疎水性フィルタである、請求項1から4のいずれかに記載の薬液容器。
【請求項6】
前記中栓には、前記逆止弁と同軸上に位置し前記管体が嵌合される嵌合孔が設けられている、請求項1から5のいずれかに記載の薬液容器。
【請求項7】
前記嵌合孔の内面と前記管体の外面との間には、前記管体が貫通する方向に延びる通気溝が設けられている、請求項1から6のいずれかに記載の薬液容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−132013(P2008−132013A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318718(P2006−318718)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(000100492)わかもと製薬株式会社 (22)
【Fターム(参考)】