説明

薬物コーティングのための接着防止物質

被覆された医療器具及びそのような器具のコーティング法が開示されている。本発明は、医療器具のためのコーティング中の接着防止物質の使用に関する。より詳細に述べると、本発明は、医療器具の表面上に配置されたコーティングの様々な部分への自己接着を防止する接着防止物質を含む医療器具に関する。加えて本発明は、そのような医療器具のコーティング法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は概して、少なくとも1種の接着防止物質を含有する、医療器具のためのコーティングに関する。より詳細に述べると、本発明は、少なくともひとつの表面がその上に配置されたコーティングを有するような医療器具のふたつの表面の間の接着を防止する接着防止物質を含有する医療器具コーティングに関する。加えて本発明は、そのような医療器具コーティングの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
様々な病態は一般に、挿入可能又は埋込み可能な医療器具の体内への導入により治療される。多くの場合、この医療器具は、生物学的活性物質を放出することができるポリマーなどの物質により被覆されている。例えば、様々な種類の薬物で被覆されたステントが、体内管腔への薬物の局所的送達のために使用されている。例えばDingらの米国特許第6,099,562号を参照されたい。
【0003】
患者の体へ埋込み又は挿入された医療器具への曝露は、体組織が有害な生理的反応を示すことを引き起こし得る。例えばある種のカテーテル又はステントの挿入又は埋込みは、血管内での塞栓又は凝血塊の形成につながり得る。同様に、尿路カテーテルの埋込みは、特に尿路内で、感染症を引き起こし得る。その他の医療器具に対する有害反応には、過形成へつながり得る細胞増殖、血管閉塞、血小板凝集、人工臓器の拒絶反応、及びカルシウム沈着がある。
【0004】
医療器具は、疾患が、非限定的に、血管を含む体の管腔などの特定の部位へ局在化される場合に、疾患の治療のために、単にそのような有害作用を減少させるためだけではなく、生物学的活性物質の体の特定の部位への直接投与のためにも使用することができる。このような直接投与は、全身投与よりもより好ましいことがある。全身投与は、そのような物質の罹患部位への間接的送達のために、より大量及び/又は異なる濃度の生物学的活性物質を必要とする。同じく全身投与は、その生物学的活性物質が局所投与された場合には問題ではないかもしれないような副作用を引き起こすことがある。
【0005】
前述の有害作用を軽減し及び/又は生物学的活性物質を直接投与するために、医薬品は、医療器具の表面をそれらを含有するコーティングにより覆うことにより、医療器具へ塗布されている。例えば、米国特許第5,464,650号;第5,624,411号;及び、第6,099,562号は、治療的物質を含有するコーティングを有するステント又は医療器具を開示している。
【0006】
医療器具コーティング製剤は、エラストマー特性を伴う高分子材料などの、ポリマーコーティングを含むことができる。ポリマーコーティングのエラストマー特性は、亀裂を最小化し、かつ薬物の拡散放出のためにより可動性のマトリックスを提供するために、望ましいことが多い。エラストマーコーティングは、望ましい生体適合性及び抗-トロンボゲン形成の特性も示す。しかし、器具の被覆された部分の接着の結果として、合併症が、エラストマー特性を伴うものを含む粘着性のポリマーコーティングから生じ得る。例えば米国特許第5,741,331号を参照されたい。
【0007】
例えば、バルーンで拡張可能なステントにおいて、コーティング接着は、ステントが拡張した場合に、ストラット(strut)間にウェブの形成を生じる。特に被覆されたステントがバルーン上に圧着される場合、ステントの被覆された表面は、互いに接触し得る。ひとつのストラット上のコーティングは、別のストラット上のコーティングへ接着し得る。ステントを展開するためにバルーンが膨張した場合、接着したコーティングは、ストラット間にウェブを形成することができる。これらのウェブは、ステント基体からの破損及び層間剥離のようなコーティング損傷を生じ得る。更なる問題点は、自己拡張型ステントにおいて生じ、ここではコーティングの接着は、ステントが拡張できるようにシースが取り除かれた時点での、ステントの展開力を著しく低下させる。このことは、不充分なステントの展開、それに続く塞栓形成を生じる。更に埋込み可能な器具上のコーティングの送達システムへの接着は、埋込み時に操作上の問題点を引き起こすことがある。従って場合によっては、ステントなどの医療器具上のコーティングの接着特性を低下させることが望ましいであろう。
コーティングの接着特性を低下する新規かつ自明でない手段は、コーティング内の接着防止物質の使用である。この接着防止物質は、被覆された表面が密接に接触することを防ぎ、及び/又は接着を防止する。
【発明の開示】
【0008】
(発明の要旨)
ひとつの実施態様において、本発明は、表面及びその表面の少なくとも一部上に配置されたコーティングを備える、埋込み可能な医療器具に関する。このコーティングは、生物学的活性物質、第一の高分子材料、及び化学的接着防止物質を含有する。化学的接着防止物質は、コーティングの接着又は粘着を、化学的接着防止物質を含まない同じコーティングと比べ、減少、例えば低下もしくは防止する。この化学的接着防止物質は、コーティング内に分散することができる。同じく一部の実施態様において、コーティングは、外側面を有することができ、及び外側面での化学的接着防止物質の濃度は、コーティング内の化学的接着防止物質の濃度とは異なり、例えば外側面の濃度はより高い。
更にある実施態様において、コーティングは、下層、及び下層の上に配置された最上層を備える。最上層は、化学的接着防止物質を含有する。同じく最上層は、第二の高分子材料を更に含有することもできる。更に下層は、生物学的活性物質及び第一の高分子材料を含有することができる。
【0009】
一般に化学的接着防止物質は、意図された用途に関して生体適合性であろう。更に化学的接着防止物質は、生体安定性、生体吸収性、又は生分解性であってよい。この化学的接着防止物質は、水溶性であることができる。加えて化学的接着防止物質は、非イオン性界面活性剤を含有することができる。非イオン性界面活性剤の例は、いくつか例を挙げると、C12-C24脂肪酸;C18-C36モノ-、ジ-及びトリアシルグリセリド;ショ糖脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;C16-C18脂肪族アルコール;脂肪族アルコール又は脂肪酸のエステル;脂肪酸の無水物;脂肪酸の金属錯体、及びオルガノ-オニウム化合物を含むが、これらに限定されるものではない。化学的接着防止物質は、イオン化可能なバイオサーファクタントのような、バイオサーファクタントを含む(compromise)ことができる。同じく化学的接着防止物質は、ラウリル硫酸塩又はホスファチジルコリンなどの、イオン性界面活性剤を含むことができる。更にこの化学的接着防止物質は、低分子量表面活性化合物、中分子量オリゴマー又は高分子量ポリマー、例えばシリコーン又はフッ素化されたエーテルを含むことができる。
【0010】
ひとつの実施態様において、前記生物学的活性物質は、パクリタキセルを含むことができる。別の実施態様において、生物学的活性物質は、ラパマイシン、すなわち、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ABT578、又はその他のリムス誘導体を含むことができる。
更にこのコーティングは、化学的接着防止物質に加え、物理的接着防止物質を更に含むことができる。このコーティングの外側面での物理的接着物質(physical adhesion agent)の濃度は、コーティング内の物理的接着物質(physical adhesion agent)の濃度とは異なることができる。好適な物理的接着防止物質の例は、固形のガラス球、ガラスバブル、他の鉱物又はポリマー粒子を含むが、これらに限定されるものではない。
【0011】
別の実施態様において、本発明は、表面及びその表面の少なくとも一部上に配置されたコーティングを備える埋込み可能な医療器具であり、ここで該コーティングは、生物学的活性物質、第一の高分子材料、及び物理的接着防止物質を含有する、前記医療器具に関する。この物理的接着防止物質は、物理的接着防止物質を含まない同じコーティングと比べ、コーティングの接着又は粘着を減少、例えば低下もしくは防止する。この物理的接着防止物質は、コーティング内に分散することができる。このコーティングは、外側面を有することができ、及び外側面での物理的接着防止物質の濃度は、コーティング内の物理的接着防止物質の濃度とは異なり、すなわちより高い。ある実施態様において、コーティングは、下層及び下層の上に配置された最上層を備え、並びに該最上層は、物理的接着防止物質を含有する。この最上層は、第二の高分子材料を更に含有することができる。下層は、生物学的活性物質及び第一の高分子材料を含有することができる。
【0012】
同じく一部の実施態様において、物理的接着防止物質は、有機物質を含有することができる。この有機物質は、少なくとも1つの架橋したポリマー球又は有機凝集体を含むことができる。物理的接着防止物質は、無機物質を含有することができる。一部の実施態様において、この物理的接着防止物質は、少なくとも固形のガラス球、ガラスバブル、又は鉱物粒子を含むことができる。少なくとも1種の鉱物粒子は、炭酸カルシウム又はタルクを含むことができる。更に一部の実施態様において、生物学的活性物質は、パクリタキセルを含む。生物学的活性物質は、ラパマイシン、すなわち、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、もしくはABT578、又はその他のリムス誘導体及びそれらの組合せを含むこともできる。
【0013】
別の実施態様において、本発明は、表面、及びその表面の少なくとも一部上に配置されたコーティングを備えるステントであり、ここで該コーティングは、生物学的活性物質、第一の高分子材料、及び非イオン性界面活性剤を含む化学的接着防止物質を含有する、前記ステントに関する。この化学的接着防止物質は、化学的接着防止物質を含まない同じコーティングと比べ、コーティングの接着又は粘着を減少、例えば低下もしくは防止する。非イオン性界面活性剤は、コーティング内に分散することができる。同じくコーティングは、外側面を有することができ、及び外側面での非イオン性界面活性剤の濃度は、コーティング内の非イオン性界面活性剤の濃度とは異なり、例えばより高い。
【0014】
別の実施態様において、本発明は、表面及びその表面の少なくとも一部上に配置されたコーティングを備えるステントであり、ここで該コーティングは、生物学的活性物質、第一の高分子材料、及び物理的接着防止物質を含有する、前記ステントに関する。この物理的接着防止物質は、物理的接着防止物質を含まない同じコーティングと比べ、コーティングの接着又は粘着を減少、例えば低下もしくは防止する。この物理的接着防止物質は、コーティング内に分散することができる。同じくコーティングは、外側面を有することができ、及び外側面での物理的接着防止物質の濃度は、コーティング内の物理的接着防止物質の濃度とは異なり、例えば外側面の濃度はより高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
(1. 化学的接着防止物質を含む実施態様)
本発明の埋込み可能な医療器具は、表面及びその表面の少なくとも一部上に配置されたコーティングを備える。ひとつの実施態様において、コーティングは、生物学的活性物質、高分子材料、及び化学的接着防止物質を含有する。用語「化学的接着防止物質」は、医療器具上のコーティングの表面にバリヤを形成し、並びに凝集力の欠如及び/又は弱い境界層により、コーティングの表面の、非限定的にコーティングの他の部分又は医療器具の被覆されない部分などの材料への接着を減少、例えば低下もしくは防止する化学物質を意味する。減少した接着の量は、粘着力の低下として測定することができる。
【0016】
図1A-1Dは、化学的接着防止物質を含む本発明の様々な実施態様の切断側面図である。図1Aは、医療器具1の表面6が、ポリマー3、化学的接着防止物質4、及び生物学的活性物質5を含有するコーティング2で被覆された実施態様を図示している。この実施態様において、化学的接着防止物質4及び生物学的活性物質5は、医療器具1の表面6上に配置されているポリマー3内に分散されている。化学的接着防止物質の多くは低い表面エネルギーを有するので、コーティングの外側面でのそれらの濃度は、コーティング内の濃度とは異なってよい。図1Bは、より多くの化学的接着防止物質4が、コーティング2の外側面で濃縮されているような実施態様を示す。一部の実施態様において、化学的接着防止物質のほとんどは、外側面にあることができる。例えばコーティング中の化学的接着防止物質の少なくとも80%は、外側面にあることができる。別の実施態様において、コーティング2の外側面の化学的接着防止物質は、コーティングの他の部分よりもより少なく濃縮される。
【0017】
図1Cは、医療器具1の表面6が、ポリマー3及び生物学的活性物質5を含有する下層2a、並びに下層2aの上に配置された化学的接着防止物質4を含有する最上層2bを含むコーティングで被覆された実施態様を表している。一部の実施態様において、最上層2bは、一時的に接着防止層として作用する保護的水溶性層であることができる。この層は、下層2aの一部又は全体を覆うことができる。経時的にこの層は、血中に溶解するであろう。一時的な又は可溶性の接着防止層の形成に好適な物質の例は、水溶性ポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキシド、及びヘパリンナトリウムなどの生物-ベースの物質を含むが、これらに限定されるものではない。
【0018】
図1Dは、医療器具1の表面6が、下層2aを含むコーティングで被覆されている実施態様を図示している。下層2aは、その中に生物学的活性物質5が分散されているポリマー3を含有する。この実施態様は、下層2aの上に配置された最上層7も含む。最上層7は、医療器具の別の被覆された部分のような物質へのコーティングの接着を防ぐために、ポリマー8中に化学的接着防止物質4が分散されている。図1C及び1Dは、下層2aの上に直接配置された最上層2b又は7を含むが、ある実施態様においては、最上層と下側層の間にコーティング層を介在することができる。
【0019】
ある実施態様において、1種よりも多い化学的接着防止(chemical anti-adhesion)を使用することができる。様々な化学的接着防止物質の各々は、コーティングの一部又は全部を覆うか又はこれらへ混和することができる。
好適な化学的接着防止物質は、コーティングの表面粘着を減少させる、任意の表面活性組成物を含む。これらの物質は、公知の高分子接着防止物質、例えばシリコーン及びフッ素含有ポリマーなどであってよい。これらの物質は、表面接着特性を減少させるように作用する公知の生体吸収性及び生分解性の組成物からなってもよい。これらの物質は、いくつか例を挙げると、ポリエーテル及びアルカンのオリゴマーのような中分子量の化合物、又は脂肪酸エステルのような生物学的油を更に含んでもよい。これらの物質は、低分子量シリコーン、フッ素化された物質のような低分子量表面活性化合物、又は糖質のような生物学的化合物であってもよい。
【0020】
化学的接着防止物質は、様々な界面活性組成物を更に含んでよい。これらの界面活性物質は、組成物中で非イオン性又はイオン性であってよい。非イオン性界面活性剤は、事実上両性であるが、水溶液中では容易にイオン化されない物質として規定される。非イオン性界面活性剤は、例えば、C12-C24脂肪酸、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、及びリグノセリン酸;C18-C36モノ-、ジ-及びトリアシルグリセリド、例えばモノオレイン酸グリセリン、モノリノレン酸グリセリン、モノラウリン酸グリセリン(clyceryl)、モノドコサエン酸グリセリン、モノミリスチン酸グリセリン、モノデセン酸グリセリン、ジパルミチン酸グリセリン、ジドコサエン酸グリセリン、ジミリスチン酸グリセリン、ジデセン酸グリセリン、トリドコサエン酸グリセリン、トリミリスチン酸グリセリン、トリデセン酸グリセリン、トリステアリン酸グリセリン、及びそれらの混合物など、ショ糖脂肪酸エステル、例えばショ糖ジステアリン酸エステル及びショ糖パルミチン酸エステルなど;ソルビタン脂肪酸エステル、例えばソルビタンモノステアリン酸、ソルビタンモノパルミチン酸、及びソルビタントリステアリン酸など;C16-C18脂肪族アルコール、例えばセチルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、及びセトステアルアルコールなど、脂肪族アルコール又は脂肪酸のエステル、例えばセチルパルミテート及びセテアリルパルミテートなど;脂肪酸の無水物、例えばステアリン酸無水物などを含んでよい。非イオン性界面活性剤は、様々な金属塩、いくつか例を挙げると、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、及びステアリン酸亜鉛を更に含んでよい。非イオン性界面活性剤は、オルガノ-オニウム化合物も含んでよい。イオン界面活性剤は、事実上極性があり、かつ溶液中で容易にイオン化されるような物質として規定される。イオン界面活性剤は一般に、強酸及び強塩基の塩を含む有機化合物を含むであろう。イオン界面活性剤の例は、例えば、ラウリル硫酸アンモニウムなどのラウリル硫酸塩を含む。イオン界面活性剤は、ある種の生物学的脂質、例えばホスファチジルコリンなどを更に含んでもよい。
【0021】
前述の化学的接着防止物質は、その中に化学的接着防止(chemical anti-adhesion)が含まれるコーティング又はコーティング層の約0.0001〜約99重量%の量で存在することができる。化学的接着防止物質が最上層内にある場合、化学的接着防止物質は、最上層の>99重量%であることができる。好ましくは化学的接着防止物質は、その中に化学的接着物質(chemical adhesion agent)が含まれるコーティング又はコーティング層の約0.001〜90重量%である。一部の実施態様において、非イオン性界面活性剤は、その中に化学的接着防止物質が含まれるコーティング又はコーティング層の約0.001〜約50重量%の量で存在することができる。より好ましくは、非イオン性界面活性剤は、その中に化学的接着防止物質が含まれるコーティング又はコーティング層の0.001〜1重量%の量で存在することができる。一部の実施態様において、イオン界面活性剤は、その中に化学的接着防止物質が含まれるコーティング又はコーティング層の約0.001〜約50重量%の量で存在することができる。より好ましくは、イオン界面活性剤は、その中に化学的接着防止物質が含まれるコーティング又はコーティング層の0.001〜1重量%の量で存在することができる。
化学的接着防止物質は、負荷に応じて、コーティングの粘着力を約5〜約99%まで低下させることができる。一部の実施態様において、コーティングの粘着力は、負荷に応じて約5〜約95%、又は約10〜約75%まで低下することができる。
【0022】
(2. 物理的接着防止物質を含有する実施態様)
本発明の別の態様は、表面及びその表面の少なくとも一部上に配置されたコーティングを備える医療器具を含み、ここで該コーティングは、生物学的活性物質、高分子材料、及び物理的接着防止物質を含有する。用語「物理的接着防止物質」は、非限定的にその医療器具のコーティングの別の部分又は被覆されない部分などの物質へのコーティングの表面の接着を減少、例えば低下もしくは防止するために、医療器具上のコーティングの表面のバリヤとして作用する硬質材料を意味する。減少される接着の量は、粘着力の低下として測定することができる。
【0023】
図2A-2Cは、物理的接着防止物質を含有する本発明の様々な実施態様の切断側面図である。図2Aは、医療器具1の表面6が、ポリマー3、物理的接着防止物質9、及び生物学的活性物質5を含むコーティング2で被覆されている実施態様を表す。生物学的活性物質5及び物理的接着防止物質9は、ポリマーコーティング中に分散される。好ましくは、物理的接着防止物質9の少なくとも一部は、ポリマー3と、ポリマー被覆された表面などの他の物質の間の接触を防ぐために、ポリマー3から突出している。
【0024】
図2Bは、医療器具1の表面6が、ポリマー3中に分散された生物学的活性物質5及びコーティング2の外側面で濃縮された物理的接着防止物質9を含有するコーティング2で被覆された実施態様を図示している。この図に示されたように、物理的接着防止物質9は、コーティング2の外側面上に配置することができる。一部の実施態様において、物理的接着防止物質のほとんどは、外側面にあることができる。例えばコーティング中の物理的接着防止物質の少なくとも80%は、外側面にあることができる。あるいは、コーティングの外側面での物理的接着防止物質の濃度は、コーティングの他の部分の濃度よりも低い。
【0025】
図2Cは、医療器具1の表面6が、コーティングで被覆された実施態様を表している。このコーティングは、その中に生物学的活性物質5が分散されているポリマー3を含有する下層2aを有する。この実施態様は、下層2a上に配置されている最上層7も含む。最上層7は、ポリマー8及び物理的接着防止物質9を含む。物理的接着防止物質9は、最上層7と、ポリマー被覆された表面などの他の物質の間の接触を避けるために、最上層7から突出している。図2Cは下層2a上に直接配置された最上層7を示しているが、ある実施態様においては、最上層と下層の間にコーティング層を介在することができる。
【0026】
図3は、点11で互いに接触しているふたつの被覆された表面6a、6bを表している。このコーティングは、物理的接着防止物質9に加え化学的接着防止物質4を含有している。医療器具1の各部分15a、15bは、ポリマー3を含むコーティング2で被覆されている表面6a、6bを備える。この実施態様において、生物学的活性物質5及び化学的接着防止物質4は、ポリマー3内に分散されている。物理的接着防止物質9も、ポリマー3内に分散されているが、これはコーティング2の外側面近傍で濃縮されている。物理的接着防止物質9の少なくとも一部は、医療器具の第一部分15aのコーティング中に分散されている物理的接着防止物質9が、点11で、医療器具の第二部分15bのコーティング中に分散されている別の物理的接着防止物質9と接触することができるように、ポリマー3から突出している。物理的接着防止物質の点11で互いに接触する能力は、医療器具1の第一及び第二の部分15a、15bのコーティング間の接触を減少させる。
【0027】
ある実施態様において、1種よりも多い物理的接着防止物質を使用することができる。様々な物理的接着防止物質の各々は、コーティングの一部又は全部を被覆するか又はこれに混和される。
物理的接着防止物質の例は、有機物質又は無機物質を含む。有機物理的接着防止物質の例は、ポリマー球及び有機凝集体又は薄い硬質の高分子層を含むが、これらに限定されるものではない。無機物理的接着防止物質は、固形ガラス球、ガラスバブル、並びに炭酸カルシウム及びタルクなどの鉱物粒子を含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
この物理的接着防止物質は、その中に物理的接着防止(phisical anti-adhesion)が含まれるコーティング又はコーティング層の約0.0001〜約99重量%の量で存在することができる。物理的接着防止物質が最上層内にある場合、物理的接着防止物質は、最上層の>99重量%であることができる。好ましくは、物理的接着防止物質は、その中に物理的接着防止が含まれるコーティング又はコーティング層の約0.001〜約90重量%の量で存在することができる。同じく物理的接着防止物質は、その中に物理的接着防止が含まれるコーティング又はコーティング層の約0.001〜約50重量%、又は好ましくは0.01〜約25重量%の量で存在することができる。
同じく物理的接着防止物質は、コーティング又はコーティング層の外側面領域の約0.1%〜約100%を覆うことができる。好ましくは、物理的接着防止物質は、コーティング又はコーティング層の外側面領域の約50%〜約95%を覆う。
物理的接着防止物質は、負荷に応じて、コーティングの粘着力を5〜約95%まで低下させることができる。
【0029】
(3.コーティングに適したポリマー)
医療器具のコーティングの形成に有用なポリマーは、生体適合性があり、かつ体組織への刺激を回避するものでなければならない。これは、生体安定性又は生体吸収性のいずれかであることができる。好適な高分子材料は、架橋されたエラストマー、例えばシリコーンエラストマー(例えば、ポリシロキサン及び置換されたポリシロキサン)及びEPDMゴム、ポリウレタンなどの熱可塑性エラストマー、及びエチレン酢酸ビニルコポリマー及びポリアクリレートなどの熱可塑性樹脂、及び生分解性ポリエステル、並びに様々なポリオレフィン系エラストマーを含むが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本発明のコーティング組成物において使用される好適な高分子材料は、以下も含むことができるが、これらに限定されるものではない:ポリウレタン、シリコーン(例えばポリシロキサン及び置換されたポリシロキサン)、ポリエステル、スチレン-イソブチレンコポリマー、溶解し及び医療器具上で硬化もしくは重合することができるポリマー、又は生物学的活性物質と配合することができる比較的低い融点を有するポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、エチレン-αオレフィンコポリマー、アクリル酸及びアクリル酸エステル及びホスファチジルコリンベースのコポリマー、アクリル酸エステルポリマー、及びコポリマー、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー、例えばポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ塩化ビニル、ポリビニルメチルエーテルなどのポリビニルエーテル、ポリフッ化ビニリデン及びポリ塩化ビニリデンなどのポリハロゲン化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリスチレンなどのポリ芳香族ビニル、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル、ビニルモノマーのコポリマー、ビニルモノマー及びオレフィンのコポリマー、例えばエチレン-メタクリル酸メチルコポリマー、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、Nylon 66及びポリカプロラクトンなどのポリアミド、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、エポキシ樹脂、レーヨン-トリアセテート、セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、コラーゲン、キチン、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ乳酸-ポリエチレンオキシドコポリマー、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン)ゴム、フルオロシリコーン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアルキレングリコール(PAG)、多糖、リン脂質、及びそれらの組合せ。
【0031】
ある実施態様において、高分子材料は、親水性である(例えば、PVA、PLLA、PLGA、PEG、及びPAG)。別のある実施態様において、高分子材料は、親水性ではない(例えば、PLA、PGA、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン及びPCL)。更に別の実施態様において、高分子材料は、疎水性である(例えば、ポリオレフィン及びフルオロポリマー)。
例えば膨張及び収縮のような、機械的変化を受ける医療器具に関して、より好ましい高分子材料は、エラストマー系ポリマー、例えばシリコーン(例えばポリシロキサン及び置換されたポリシロキサン)、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリオレフィンエラストマー、及びEPDMゴムから選択すべきである。これらのポリマーの弾性性質のために、このコーティング組成物は、器具に力、応力又は機械的変化が加えられた時、降伏点以後の負荷において明確な降下を持たない。
【0032】
一部の実施態様において、高分子材料は、生分解性である。生分解性高分子材料は、ポリマー鎖の加水分解の結果として、生物学的に許容できる次第により小さい化合物へと、分解することができる。ひとつの実施態様において、高分子材料は、ポリラクチド、ポリグリコリド、又はそれらのコポリマーを含む。ポリラクチド、ポリグリコリド、及びそれらのコポリマーは、乳酸とグリコール酸へ分解され、これはクレブス回路へ進入し、更に二酸化炭素と水に分解される。
【0033】
これらの高分子材料は、ポリマーがマトリックスを通じかなり均一な様式で分解する、バルク加水分解によっても分解可能である。いくつかの新規の分解性ポリマーで、中でも最も注目されるポリ酸無水物及びポリオルソエステルに関して、分解は、ポリマーの表面のみで生じ、薬物療法物質及び/又はポリマー/治療的物質の混合物の表面積に比例した放出速度をもたらす。PLGAなどの親水性高分子材料は、バルク様式で浸食されるであろう。様々な市販のPLGAを、コーティング組成物の調製において使用することができる。例えば、ポリ(d,l-乳酸-コ-グリコール酸)は、市販されている。好ましい市販製品は、50%ラクチド及び50%グリコリドのモル組成率を有する50:50ポリ(d,l-乳酸-コ-グリコール酸)(d,l-PLA)である。その他の好適な市販製品は、65:35、75:25、及び85:15ポリ(d,l-乳酸-コ-グリコール酸)である。例えば、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)は、Boehringer Ingelheim(独国)から、商標Resomer(登録商標)で市販されており、例としてPLGA 50:50(Resomer RG 502)、PLGA 75:25(Resomer RG 752)及びd,l-PLA(resomer RG 206)があり、並びにBirmingham Polymers(バーミンガム、AL)から市販されている。これらのコポリマーは、広範な分子量及び乳酸対グリコール酸比で入手することができる。
【0034】
ひとつの実施態様において、コーティングは、所望の親水性/疎水性相互作用を伴うコポリマーを含有する(例えば、非線形親水性-疎水性マルチブロックコポリマーのナノ粒子及びマイクロ粒子を開示している、米国特許第6,007,845号を参照されたく、この特許の全体は引用により本明細書に組み込まれている。)。具体的実施態様において、このコーティングは、PLG由来の生分解性Aブロック及びPEO由来の親水性Bブロックからなる、ABAトリブロックコポリマーを含む。
【0035】
(4. 好適な生物学的活性物質)
用語「生物学的活性物質」は、治療的物質、同じく遺伝物質及び生物学的物質も包含している。本明細書において称される生物学的活性物質は、それらの類似体及び誘導体を含む。好適な治療的物質の非限定的例は、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、デキストロフェニルアラニン-プロリン-アルギニン-クロロメチルケトン(PPack)、エノキサプリン、アンギオペプチン、ヒルジン、アセチルサリチル酸、タクロリムス、エベロリムス、ラパマイシン(シロリムス)、ピメクロリムス、アムロジピン、ドキサゾシン、糖質コルチコイド、ベタメタゾン、デキサメタゾン、プレドニソロン、コルチコステロン、ブデソニド、スルファサラジン、ロシグリタゾン、ミコフェノール酸、メサラミン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、メトトレキセート、アザチオプリン、アドリアマイシン、ムタマイシン、エンドスタチン、アンギオスタチン、チミジンキナーゼ阻害剤、クラドリビン、リドカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、D-Phe-Pro-Argクロロメチルケトン、血小板受容体アンタゴニスト、抗-トロンビン抗体、抗-血小板受容体抗体、アスピリン、ジピリダモール、プロタミン、ヒルジン、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤、トラピジル、リプロスチン(liprostin)、ダニ抗血小板ペプチド、5-アザシチジン、血管内皮成長因子、増殖因子受容体、転写活性化因子、翻訳プロモーター、抗増殖剤、増殖因子阻害剤、増殖因子受容体アンタゴニスト、転写抑制因子、翻訳抑制因子、複製阻害剤、阻害抗体、増殖因子に対する抗体、増殖因子及び細胞毒素からなる二官能性分子、抗体及び細胞毒素からなる二官能性分子、コレステロール低下薬、血管拡張薬、内因性血管作用機構に干渉する物質、抗酸化剤、プロブコール、抗生物質製剤、ペニシリン、セフォキシチン、オキサシリン、トブラマイシン、血管新生物質、線維芽細胞増殖因子、エストロゲン、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)、17-βエストラジオール、ジゴキシン、β遮断薬、カプトプリル、エナロプリル、スタチン、ステロイド、ビタミン、パクリタキセル(加えてその誘導体、類似体又はタンパク質に結合したパクリタキセル、例えばAbraxane(商標))、2'-スクシニル-タキソール、2'-スクシニル-タキソールトリエタノールアミン、2'-グルタリル-タキソール、2'-グルタリル-タキソールトリエタノールアミン塩、N-(ジメチルアミノエチル)グルタミンとの2'-O-エステル、N-(ジメチルアミノエチル)グルタミド塩酸塩との2'-O-エステル、ニトログリセリン、亜酸化窒素、一酸化窒素、抗生物質、アスピリン、ジギタリス、エストロゲン、エストラジオール及び配糖体がある。ひとつの実施態様において、治療的物質は、平滑筋細胞阻害剤又は抗生物質である。好ましい実施態様において、治療的物質は、タキソール(例えばTaxol(登録商標))、又はその類似体もしくは誘導体である。別の好ましい実施態様において、治療的物質は、パクリタキセル、又はその類似体もしくは誘導体である。更に別の好ましい実施態様において、治療的物質は、抗生物質、例えばエリスロマイシン、アンホテリシン、ラパマイシン、アドリアマイシンなどである。
【0036】
用語「遺伝物質」は、ウイルスベクター及び非-ウイルスベクターを含む、人体へ挿入されることが意図されている、以下に列記される有用なタンパク質をコードしているDNA/RNAを含むが、これらに限定されるものではない、DNA又はRNAを意味する。
用語「生物学的物質」は、細胞、酵母、細菌、タンパク質、ペプチド、サイトカイン及びホルモンを含む。ペプチド及びタンパク質の例は、血管内皮成長因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、軟骨成長因子(CGF)、神経成長因子(NGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、骨格成長因子(SGF)、骨芽細胞-由来増殖因子(BDGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン-様増殖因子(IGF)、サイトカイン増殖因子(CGF)、血小板-由来増殖因子(PDGF)、低酸素症誘導因子-1(HIF-1)、幹細胞由来因子(SDF)、幹細胞因子(SCF)、内皮細胞成長補助因子(ECGS)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、増殖分化因子(GDF)、インテグリン調節因子(IMF)、カルモジュリン(CaM)、チミジンキナーゼ(TK)、腫瘍壊死因子(TNF)、成長ホルモン(GH)、骨形態形成タンパク質(BMP)(例えば、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6(Vgr-1)、BMP-7(PO-1)、BMP-8、BMP-9、BMP-10、BMP-11、BMP-12、BMP-14、BMP-15、BMP-16など)、マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)、マトリクスメタロプロテイナーゼ組織阻害因子(TIMP)、サイトカイン、インターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-15など)、リンホカイン、インターフェロン、インテグリン、コラーゲン(全ての型)、エラスチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、トランスフェリン、サイトタクチン、細胞結合ドメイン(例えば、RGD)、及びテナスシンがある。現在好ましいBMPは、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7である。これらの二量体タンパク質は、ホモ二量体、ヘテロ二量体、又はそれらの組合せとして、単独で、もしくは他の分子と一緒に提供することができる。細胞は、ヒト起源の(自家又は同種)又は動物給源由来(異種)であり、移植部位へ関心対象のタンパク質を送達するために、望ましいならば遺伝子操作することができる。この送達媒体は、細胞機能及び生存力を維持するように、必要に応じ製剤することができる。細胞は、前駆細胞(例えば、内皮前駆細胞)、幹細胞(例えば、間葉系、造血系、神経系)、ストロマ細胞、実質細胞、未分化細胞、線維芽細胞、マクロファージ、及びサテライト細胞を含む。
【0037】
他の非遺伝子治療薬は、以下を含む:
・抗トロンボゲン形成薬、例えばヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、及びPPack(デキストロフェニルアラニン-プロリン-アルギニン-クロロメチルケトン);
・抗増殖薬、例えばエノキサプリン、アンギオペプチン、又は平滑筋細胞増殖を遮断することが可能なモノクローナル抗体、ヒルジン、アセチルサリチル酸、タクロリムス、エベロリムス、アムロジピン及びドキサゾシン;
・抗炎症薬、例えば糖質コルチコイド、ベタメタゾン、デキサメタゾン、プレドニソロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジン、ロシグリタゾン、ミコフェノール酸及びメサラミン;
・抗新生物形成/抗増殖/抗有糸分裂薬、例えばパクリタキセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、メトトレキセート、アザチオプリン、アドリアマイシン及びムタマイシン;エンドスタチン、アンギオスタチン及びチミジンキナーゼ阻害剤、クラドリビン、タキソール及びそのアナログ又は誘導体;
・麻酔薬、例えばリドカイン、ブピバカイン、及びロピバカイン;
・抗凝固薬、例えばD-Phe-Pro-Argクロロメチルケトン、RGDペプチド-含有化合物、ヘパリン、抗トロンビン化合物、血小板受容体アンタゴニスト、抗-トロンビン抗体、抗-血小板受容体抗体、アスピリン(アスピリンは、鎮痛薬、解熱薬及び抗炎症薬としても分類される)、ジピリダモール、プロタミン、ヒルジン、プロスタグランジン阻害薬、血小板阻害薬、抗血小板薬、例えばトラピジル又はリプロスチン(liprostin)及びダニ抗血小板ペプチド;
・DNA脱メチル化薬、例えば5-アザシチジン、これは、ある種の癌細胞において細胞増殖を阻害しかつアポトーシスを誘導する、RNA又はDNA代謝産物としても分類される;
・血管細胞増殖プロモーター、例えば増殖因子、血管内皮成長因子(VEGF、VEGF-2を含む全ての型)、増殖因子受容体、転写活性化因子、及び翻訳プロモーター;
・血管細胞増殖阻害剤、例えば抗増殖剤、増殖因子阻害剤、増殖因子受容体アンタゴニスト、転写抑制因子、翻訳抑制因子、複製阻害剤、阻害性抗体、増殖因子に対する抗体、増殖因子及び細胞毒素からなる二官能性分子、抗体及び細胞毒素からなる二官能性分子;
・コレステロール降下薬、血管拡張薬、及び内因性血管作用機構に干渉する物質;
・抗酸化剤、例えばプロブコール;
・抗生物質、例えばペニシリン、セフォキシチン、オキサシリン、トブラマイシン、ラパマイシン(シロリムス);
・血管新生物質、例えば、酸性及び塩基性線維芽細胞増殖因子、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)、17-βエストラジオールを含むエストロゲン;
・心不全治療薬、例えばジゴキシン、β-遮断薬、カプトプリル及びエナロプリルを含むアンジオテンシン転換酵素(ACE)阻害薬、スタチン及び関連化合物;並びに
・マクロライド系薬物、例えばシロリムス、ピメロリムス、又はエベロリムス。
【0038】
好ましい生物学的物質は、抗増殖薬、例えばステロイド、ビタミン、及び再狭窄阻害薬を含む。好ましい再狭窄阻害薬は、微小管安定化薬、例えばタキソール(登録商標)、パクリタキセル(すなわちパクリタキセル、パクリタキセル類似体、パクリタキセル誘導体、及びそれらの混合物)である。例えば、本発明における使用に適した誘導体は、2'-スクシニル-タキソール、2'-スクシニル-タキソールトリエタノールアミン、2'-グルタリル-タキソール、2'-グルタリル-タキソールトリエタノールアミン塩、N-(ジメチルアミノエチル)グルタミンとの2'-O-エステル、及びN-(ジメチルアミノエチル)グルタミド塩酸塩との2'-O-エステルである。
【0039】
他の適切な治療薬は、タクロリムス;ハロフギノン;HSP90熱ショックタンパク質の阻害剤、例えばゲルダナマイシン;微小管安定化剤、例えばエポチロンD;ホスホジエステラーゼ阻害剤、例えばクリオスタゾール(cliostazole);Barkct阻害剤;ホスホランバン阻害剤;及び、Serca 2遺伝子/タンパク質である。
その他の好ましい治療的物質は、ニトログリセリン、亜酸化窒素、一酸化窒素、アスピリン、ジギタリス、エストラジオールなどのエストロゲン誘導体及び配糖体である。
【0040】
ひとつの実施態様において、治療的物質は、タンパク質合成、DNA合成、紡錘糸形成、細胞増殖、細胞移動、微小管形成、微小線維形成、細胞外マトリックス合成、細胞外マトリックス分泌、又は細胞容積の増加などの、細胞代謝を変更するか、又は細胞活性を阻害することが可能である。別の実施態様において、治療的物質は、細胞増殖及び/又は移動を阻害することが可能である。
【0041】
ある実施態様において、本発明の医療器具において使用するための治療的物質は、当業者に周知の方法により合成することができる。あるいは、治療的物質は、化学会社及び製薬会社から購入することができる。
生物学的活性物質を本発明の器具に適用する好適な方法は、この生物学的活性物質の治療的特性を変更しないか、又は有害な影響を及ぼさないことが好ましい。
【0042】
(5. 好適な医療器具)
本発明の被覆された医療器具は、患者の体内へ挿入及び/又は埋込むことができる。本発明に適した医療器具は、ステント、手術用ステープル、バルーンカテーテル、中心静脈カテーテル及び動脈カテーテルなどのカテーテル類、ガイドワイヤ、カニューレ、心ペースメーカーのリード又はリードチップ、除細動器のリード又はリードチップ、埋込式血管アクセスポート、血液貯蔵バック、血液チューブ、血管又はその他のグラフト、大動脈内バルーンポンプ、心臓弁、心臓血管縫合糸、完全人工心臓及び心室補助ポンプ、並びに血液酸素供給器、血液フィルター、中隔欠損閉塞装置、血液透析ユニット、血液灌流ユニット及び血漿交換ユニットなどの体外器具を含むが、これらに限定されるものではない。
【0043】
本発明に好適な医療器具は、管状又は円筒状の部分を有するものを含む。この医療器具の管状部分は、完全に円筒状である必要はない。例えば管状部分の断面は、円形のみではなく、長方形、三角形など任意の形状であることができる。そのような器具は、ステント、バルーンカテーテル、及びグラフトを含むが、これらに限定されるものではない。分岐ステントも、本発明の方法により加工され得る医療器具に含まれる。
【0044】
本発明に特に適している医療器具は、当業者に公知である医療目的のいずれかの種類のステントである。好適なステントは、例えば、自己拡張型ステント及びバルーン拡張型ステントなどの血管ステントである。本発明において有用な自己拡張型ステントの例は、Wallstenに発行された米国特許第4,655,771号及び第4,954,126号、並びにWallstenらに発行された米国特許第5,061,275号に開示されている。好適なバルーン拡張型ステントの例は、Pinchasikらに発行された米国特許第5,449,373号に開示されている。特定の実施態様において、ステントは、開口格子側壁ステント構造を含む。このようなステントが使用される場合、場合によっては、ステント上に配置されるコーティングを開口格子側壁構造を維持するようステントに合わせることが好ましい。好ましい実施態様において、本発明に適したステントは、Expressステントである。より好ましくは、Expressステントは、Express(商標)ステント又はExpress2(商標)ステント(Boston Scientific社、ナチク, マサチューセッツ州)である。
【0045】
本発明に適した医療器具は、金属材料、セラミック材料、もしくは高分子材料、又はそれらの組合せから加工されてよい。これらの物質は、生体適合性であることが好ましい。金属材料が、より好ましい。好適な金属材料は、チタンをベースにした金属及び合金(例えば、ニチノール、ニッケルチタン合金、熱記憶合金物質)、ステンレス鋼、タンタル、ニッケル-クロム、又はElgiloy(登録商標)及びPhynox(登録商標)などのコバルト-クロム-ニッケル合金を含むある種のコバルト合金を含む。金属材料は、国際公開公報第94/16646号に開示されたものなどの、被覆された複合フィラメントも含む。
【0046】
好適なセラミック材料は、遷移元素の酸化物、炭化物、又は窒化物、例えば酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化イリジウム、酸化クロム、酸化アルミニウム、及び酸化ジルコニウムを含むが、これらに限定されるものではない。シリカなどのケイ素ベースの材料も、使用されてよい。高分子材料は、生体安定性であってよい。同じく高分子材料は、生分解性であってよい。好適な高分子材料は、スチレンイソブチレンスチレン、ポリエーテルオキシド、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリ-2-ヒドロキシ-ブチラート、ポリカプロラクトン、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸(clycolic))、及びTeflonを含むが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明において医療器具を形成するために使用されてよい高分子材料は、ポリウレタン及びそのコポリマー、シリコーン及びそのコポリマー、エチレン酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、セルロース系、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー、アクリル酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸-ポリエチレンオキシドコポリマー、セルロース、コラーゲン、及びキチンを含むが、これらに限定されるものではない。
【0048】
医療器具の材料として有用であるその他のポリマーは、ダクロンポリエステル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ポリアルキレンオキサレート、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリシロキサン、ナイロン、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリシアノアクリレート、ポリホスファゼン、ポリ(アミノ酸)、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(HEMA)、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリカーボネート、ポリ(グリコリド-ラクチド)コポリマー、ポリ乳酸、ポリ(γ-カプロラクトン)、ポリ(γ-ヒドロキシブチラート)、ポリジオキサノン、ポリ(γ-グルタミン酸エチル)、ポリイミノカーボネート、ポリ(オルトエステル)、ポリ酸無水物、アルギン酸塩、デキストラン、キチン、綿、ポリグリコール酸、ポリウレタン、又はそれらの誘導された型、すなわち結合部位又は架橋基などを含むように修飾されているポリマー、例えばポリマーがそれらの構造完全性を維持しながら、細胞、及びタンパク質、核酸などの分子の結合を可能にするRGDなどを含むが、これらに限定されるものではない。好適なエラストマー系ポリマーは、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリ(ジメチルシロキサン)及びポリホスファゼンを含む。
【0049】
同じく高分子材料として好ましいのは、スチレン-イソブチレン-スチレンコポリマーである。使用することができるその他のポリマーは、溶解しかつ医療器具上で硬化もしくは重合することができるもの、又は生物学的活性物質と配合することができる比較的低い融点を有するポリマーである。追加の好適なポリマーは、一般に熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、エチレン-αオレフィンコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー、ポリビニルメチルエーテルなどのポリビニルエーテル、ポリフッ化ビニリデン及びポリ塩化ビニリデンなどのポリハロゲン化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリスチレンなどのポリ芳香族ビニル、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル、ビニルモノマーのコポリマー、ビニルモノマー及びオレフィンのコポリマー、例えばエチレン-メタクリル酸メチルコポリマー、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、Nylon 66及びポリカプロラクトンなどのポリアミド、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、エポキシ樹脂、レーヨン-トリアセテート、セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、コラーゲン、キチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-ポリエチレンオキシドコポリマー、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン)ゴム、フルオロシリコーン、ポリエチレングリコール、多糖、リン脂質、及びそれらの組合せを含む。
【0050】
例えば膨張及び収縮のような機械的変化を受ける医療器具に関して、好ましい高分子材料は、エラストマー系ポリマー、例えばシリコーン(例えばポリシロキサン及び置換されたポリシロキサン)、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリオレフィンエラストマー、及びEPDMゴムなどから選択すべきである。これらのポリマーの弾性性質のために、このコーティング組成物は、器具に力、応力又は機械的変化が加えられた時、降伏点未満で、変形を受けることが可能である。
【0051】
(6. コーティング製造法)
被覆された医療器具の製造法も、提示される。この方法は、表面を有する医療器具を提供すること、及びその表面の少なくとも一部にコーティング組成物を塗布することを含み、ここでコーティング組成物は、生物学的活性物質、高分子材料、及び接着防止物質を含有する。図1A、1B、2A及び2Bの実施態様は、このような方法で形成することができる。
【0052】
ひとつの実施態様において、生物学的活性物質は、ポリマーと組合せられ、第一のコーティング組成物を形成し、これは器具の表面へ塗布され、下層を形成する。接着防止物質及びポリマーを含有する第二の組成物が形成される。この第二のコーティング組成物は、塗布され、下層の上に配置された最上層を形成する。図1C、1D及び2Cに示された実施態様は、同様の様式で形成することができる。更に別の実施態様において、コーティングは、生物学的活性物質及び高分子材料の組成物を塗布し、コーティング又はコーティング層を形成することにより、形成することができる。引き続き物理的及び/又は化学的接着防止物質を、この生物学的活性物質及び高分子材料のコーティング又はコーティング層の上に配置することができる。そのような実施態様において、接着防止物質は、コーティング又はコーティング層の外側面で濃縮され得る。
【0053】
溶媒を使用し、コーティング組成物を形成することができる。コーティング組成物を調製するのに適した溶媒は、高分子材料を溶液中に溶解又は懸濁することができるものである。好適な溶媒の例は、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、クロロホルム、トルエン、アセトン、イソオクタン、1,1,1-トリクロロエタン、ジクロロメタン、イソプロパノール、IPA、及びそれらの混合物を含むが、これらに限定されるものではない。化学的接着防止物質の表面での濃度をバルク濃度と比べて増加する溶媒が好ましい。
【0054】
コーティング組成物は、任意の方法で、医療器具の表面へ塗布し、コーティング層を形成することができる。好適な方法の例は、通常のノズル又は超音波ノズルによる噴霧、浸漬、回転、静電蒸着、及びエアサスペンション、パンコーティングもしくは超音波ミスト噴霧などのバッチ法を含むが、これらに限定されるものではない。1種よりも多いコーティング法でも、医療器具の表面上を塗布することができる。
【0055】
生物学的活性物質は、前述の医療器具を用い、体腔へ送達されてよい。ステント、又はその他の医療器具は、当業者に公知の方法により、患者の体へ挿入される。例えば、本発明のステントが自己拡張型ステントである場合、ステントは、これをシース内に配置することにより、直径が小さく潰され、カテーテルを用いて、患者の体の管腔へ導入され、標的領域において、シースからステントを取り外すことにより、拡張される。本発明のステントがバルーン拡張型ステントである場合、ステントは、直径が小さく潰され、血管形成術用バルーンカテーテル上に配置され、配置されるべき領域へと移動される。バルーンが膨張した時、ステントは拡張する。
【実施例】
【0056】
(実施例1. 化学的接着防止物質を含むコーティング)
下記の化学的接着防止物質のひとつを、THF及びトルエン中に溶解したスチレン-イソブチレンコポリマーの25%溶液へ添加した。接着防止物質の負荷量は、2重量%(ポリマー重量を基に)であった。コーティングは、ナイフコーターを用い、PETフィルム上に注型し、厚さ約20μmの乾燥コーティングを得た。コーティングは、80℃で1時間乾燥した。5秒間荷重50gを加え、コーティング表面に接触するように配置したステンレス鋼探針チップを用いて粘着を測定した。表面から探針を引き寄せるのに必要な力(グラム表示)を測定した。粘着力の結果を、表1に示す:
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例2. 化学的接着防止物質を含むコーティング)
下記の接着防止物質のひとつを用い、コーティング(水中2%固形物)を形成し、これを#7巻き線コーティングバーを用い、スチレン-イソブチレンコポリマーコーティングへ塗布した。このコーティングを、80℃で15分間乾燥した。粘着を、実施例1のように測定した。粘着力の結果を、表2に示す:
【0059】
【表2】

【0060】
(実施例3. 物理的接着防止物質を含むコーティング)
架橋したスチレンビーズ又はフルオロケミカル粒子を、THF(フルオロケミカル粒子)及びトルエン(架橋したビーズ)に溶解したスチレン-イソブチレンコポリマーの25%溶液へ添加した。フルオロケミカル粒子は、2重量%(ポリマー重量を基に)で添加し、ビーズは、0.5重量%(ポリマー重量を基に)で添加した。コーティングを、実施例1において説明したように塗布した。粘着力の結果を、表3に示す:
【0061】
【表3】

【0062】
(実施例4. 溶解可能な接着防止層を含むコーティング)
ポリビニルピロリドン(PVP)(K-15:ISP Inc)を、メタノール中に5%溶液として調製した。PVP溶液を、#7巻き線コーティングバーを用い、スチレン-イソブチレンコポリマーコーティングへ塗布し、65℃で15分間乾燥した。粘着力を、実施例1において説明したように測定した。次にコーティングを、水で約30秒間すすぎ、PVPを除去した。その後コーティングを乾燥し、粘着を測定した。結果は、1つが、硬質最上層のポリマーの過剰コーティングにより一時的に粘着を減少させることが可能であること、及び下側層がトップコートの溶解後に維持されることを示している。
【0063】
【表4】

【0064】
前述の説明及び図面は、本発明の好ましい実施態様を表しているが、添付された「特許請求の範囲」に規定された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な追加、変更、及び置換を行ってよいことは理解されなければならない。特に、本発明は、それらの精神又は本質的特徴から逸脱することなく、他の具体的な形態、構造、配置及び割合において、並びに他の元素、材料及び成分により実施されてよいことは、当業者には明らかであろう。当業者は、本発明は、多くの構造、配置、割合、物質及び成分の変更を伴い使用されてよく、そうでなければ、本発明の原理から逸脱することなく、特定の環境及び操作上の必要要件に特に適合される、本発明の実践において使用されてよいことを理解するであろう。従って本明細書に開示された実施態様は、全ての局面において例証としてみなされるべきであり、限定とみなされるべきではなく、本発明の範囲は、添付された「特許請求の範囲」により示され、前述の説明により限定されない。更に、本明細書において言及された全ての参考文献はあらゆる目的でそれらの全体は引用により本明細書に組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1A】医療器具の表面が、ポリマー、化学的接着防止物質、及び生物学的活性物質を含有するコーティングで被覆されている実施態様を図示する。
【図1B】医療器具の表面が、コーティングの外側面においてコーティング内に分散されたのとは異なる濃度の化学的接着防止物質を含有するコーティングで被覆されている実施態様を図示する。
【図1C】医療器具の表面が、ポリマー及び生物学的活性物質を含有する下層、並びに下層上に配置された化学的接着防止物質を含有する最上層を備えるコーティングで被覆されている実施態様を図示する。
【図1D】医療器具の表面が、ポリマー及び生物学的活性物質を含有する下層、並びにポリマー内に分散された化学的接着防止物質を含有する最上層を備えるコーティングで被覆されている実施態様を図示する。
【図2A】医療器具の表面が、ポリマー、物理的接着防止物質、及び生物学的活性物質を含有するコーティングで被覆されている実施態様を図示する。
【図2B】医療器具の表面が、コーティングの外側面においてコーティング内に分散されたのとは異なる濃度の物理的接着防止物質を含有するコーティングで被覆されている実施態様を図示する。
【図2C】医療器具の表面が、ポリマー及び生物学的活性物質を含有する下層、並びに物理的接着防止物質及びポリマーを含有する最上層を備えるコーティングで被覆されている実施態様を図示する。
【図3】医療器具のふたつの部分が、接着防止物質を含有するコーティングで被覆されて、ここでこれらの部分は互いに接触しているものを図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及びその表面の少なくとも一部上に配置されたコーティングを備える埋込み可能な医療器具であって、該コーティングは、生物学的活性物質、第一の高分子材料、及び化学的接着防止物質を含有し、該化学的接着防止物質は、化学的接着防止物質を含まない同じコーティングと比べコーティングの接着を減少させる、前記医療器具。
【請求項2】
前記コーティングが外側面を有し、及び該外側面での化学的接着防止物質の濃度が、該コーティング内の化学的接着防止物質の濃度とは異なる、請求項1記載の医療器具。
【請求項3】
前記コーティングが、下層、及び該下層の上に配置された最上層を備え、ここで該最上層が、化学的接着防止物質を含有する、請求項1記載の医療器具。
【請求項4】
前記化学的接着防止物質が、生体吸収性である、請求項3記載の医療器具。
【請求項5】
前記最上層が、第二の高分子材料を更に含有する、請求項3記載の医療器具。
【請求項6】
前記下層が、生物学的活性物質及び第一の高分子材料を含有する、請求項3記載の医療器具。
【請求項7】
前記化学的接着防止物質が、非イオン性界面活性剤を含有する、請求項1記載の医療器具。
【請求項8】
前記化学的接着防止物質が、バイオサーファクタントを含む、イオン性界面活性剤を含有する、請求項1記載の医療器具。
【請求項9】
前記化学的接着防止物質が、ラウリル硫酸塩又はホスファチジルコリンを含む、請求項1記載の医療器具。
【請求項10】
前記生物学的活性物質が、パクリタキセルを含む、請求項1記載の医療器具。
【請求項11】
前記生物学的活性物質が、ラパマイシン、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ABT578、又はその他のリムス誘導体を含む、請求項1記載の医療器具。
【請求項12】
物理的接着防止物質を更に含む、請求項1記載の医療器具。
【請求項13】
表面及びその表面の少なくとも一部上に配置されたコーティングを備えるステントであって、該コーティングは、生物学的活性物質、第一の高分子材料、及び化学的接着防止物質を含有し、該化学的接着防止物質は、非イオン性界面活性剤を含有し;並びに、該コーティングは、外側面を有し、該外側面での非イオン性界面活性剤の濃度は、コーティング内部の非イオン性界面活性剤の濃度とは異なり、該化学的接着防止物質は、化学的接着防止物質を含まない同じコーティングと比べコーティングの接着を減少させる、前記ステント。
【請求項14】
前記外側面での非イオン性界面活性剤の濃度が、コーティング内の非イオン性界面活性剤の濃度よりも高い、請求項13記載のステント。
【請求項15】
表面及びその表面の少なくとも一部上に配置されたコーティングを備える埋込み可能な医療器具であって、該コーティングは、生物学的活性物質、第一の高分子材料、及び物理的接着防止物質を含有し、該物理的接着防止物質は、物理的接着防止物質を含まない同じコーティングと比べコーティングの接着を減少させる、前記医療器具。
【請求項16】
前記コーティングが外側面を有し、及び該外側面での物理的接着防止物質の濃度が、該コーティング内の物理的接着防止物質の濃度とは異なる、請求項15記載の医療器具。
【請求項17】
前記コーティングが、下層、及び該下層の上に配置された最上層を備え、ここで前記最上層が、物理的接着防止物質を含有する、請求項15記載の医療器具。
【請求項18】
前記最上層が、第二の高分子材料を更に含有する、請求項17記載の医療器具。
【請求項19】
前記下層が、生物学的活性物質及び第一の高分子材料を含有する、請求項17記載の医療器具。
【請求項20】
前記物理的接着防止物質が、少なくとも固形のガラス球、ガラスバブル、又は鉱物粒子である、請求項15記載の医療器具。
【請求項21】
前記生物学的活性物質が、パクリタキセルを含む、請求項15記載の医療器具。
【請求項22】
前記生物学的活性物質が、ラパマイシン、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、もしくはABT578、又はその他のリムス誘導体を含む、請求項15記載の医療器具。
【請求項23】
表面及びその表面の少なくとも一部上に配置されたコーティングを備えるステントであって、該コーティングは、生物学的活性物質、第一の高分子材料、及び物理的接着防止物質を含有し、該コーティングは外側面を有し、及び該外側面での物理的接着防止物質の濃度は、コーティング内の物理的接着防止物質の濃度とは異なり、並びに該物理的接着防止物質は、物理的接着防止物質を含まない同じコーティングと比べコーティングの接着を減少させる、前記ステント。
【請求項24】
前記外側面での物理的接着防止物質の濃度が、コーティング内の物理的接着防止物質の濃度よりも高い、請求項23記載のステント。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−519110(P2009−519110A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545832(P2008−545832)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/047833
【国際公開番号】WO2007/070666
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】