説明

薬物依存症治療薬

【課題】 薬物依存症は、麻薬、覚醒剤、ニコチン類、アルコール類等の乱用により生じる症状である。薬物依存症の治療は、その薬物との接触を断つことから開始され、それと同時にリハビリテーションすることが主体である。一方、セサミンはゴマに含まれる主要なリグナン化合物の一種であり、多くの生理活性があることが知られている。本発明はセサミンを含有するとともに、薬物依存症に対して優れた軽減効果を有する、薬物依存症治療薬を提供すること課題とする。
【解決手段】 セサミン類と、ビタミンEとを含有することを特徴とする薬物依存症治療薬。セサミン類と、コエンザイムQ10とを含有することを特徴とする薬物依存症治療薬。セサミン類と、ビタミンEと、コエンザイムQ10とを含有することを特徴とする薬物依存症治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物依存症治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物依存症は、麻薬、覚醒剤、ニコチン類、アルコール類等の乱用により生じる症状であることが知られている。薬物依存症の治療は、その薬物との接触を断つことから開始され、それと同時にリハビリテーションすることが主体である。
【0003】
一方、セサミンはゴマに含まれる主要なリグナン化合物の一種であり、ゴマ中には0.5−1%程度含まれている。セサミンには多くの生理活性があることが知られ、例えば、抗酸化作用、抗高血圧作用、抗炎症作用等が公知である。
また、セサミンには向精神作用があることも知られている(特許文献1)。
【特許文献1】米国特許第4427694号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、セサミンを含有するとともに、薬物依存症に対して優れた軽減効果を有する、薬物依存症治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、セサミン類に、ビタミンEおよび/またはコエンザイムQ10を加えた組成物が、薬物依存症に対して優れた軽減効果を提供することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
請求項1に記載の発明は、セサミン類と、ビタミンEとを含有することを特徴とする薬物依存症治療薬である。
請求項2に記載の発明は、セサミン類と、コエンザイムQ10とを含有することを特徴とする薬物依存症治療薬である。
請求項3に記載の発明は、セサミン類と、ビタミンEと、コエンザイムQ10とを含有することを特徴とする薬物依存症治療薬である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セサミン類に、ビタミンEおよび/またはコエンザイムQ10を配合したので、薬物依存症に対して優れた軽減効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(セサミン類)
本発明に用いることができるセサミン類としては、セサミン及びその類縁体を含むものであり、セサミン類縁体としては、エピセサミンの他、例えば特開平4−9331号公報に記載されたジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン誘導体がある。セサミン類の具体例としては、セサミン、セサミノール、エピセサミノール、セサモリン等を例示できる。なかでも、セサミン及びエピセサミンが好ましい。
【0009】
なお、セサミン類の代謝体も、本発明の効果を示す限り、本発明のセサミン類に含まれるセサミン類縁体であり、本発明に使用することができる。
本発明に用いるセサミン類は、その形態や製造方法等によって、何ら制限されるものではない。例えば、セサミン類としてセサミンを選択した場合には、通常、ごま油から公知の方法(例えば、特開平4−9331号公報に記載された方法)によって抽出したセサミン(セサミン抽出物または精製物という)を用いることができる。
【0010】
(コエンザイムQ10)
コエンザイムQ10は、別名、補酵素Q10、ビタミンQ、ユビキノン及びユビデカレノンとして知られ、商業的に入手可能な化合物である。なお、コエンザイムQ10は、還元型のものが抗鬱作用および抗ストレス作用に優れるために好ましい。還元型のコエンザイムQ10を得る方法としては特に限定されず、例えば、合成、発酵、天然物からの抽出等の従来公知の方法によりコエンザイムQ10を得た後、クロマトグラフィーにより流出液中の還元型コエンザイムQ10区分を濃縮する方法などを採用することが出来る。この場合には、必要に応じて上記コエンザイムQ10に対し、水素化ほう素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム(ハイドロサルファイトナトリウム)等の一般的な還元剤を添加し、常法により上記コエンザイムQ10中に含まれる酸化型コエンザイムQ10を還元して還元型コエンザイムQ10とした後にクロマトグラフィーによる濃縮を行っても良い。また、既存の高純度コエンザイムQ10に上記還元剤を作用させる方法によっても得ることが出来る。
【0011】
(ビタミンE)
本発明でいうビタミンEとは、誘導体類も含むものであり、その例としては、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール等が挙げられる。
【0012】
本発明の薬物依存症治療薬において、セサミン類を1としたとき(質量基準)、ビタミンEを0.1〜10、コエンザイムQ10を0.1〜10の割合で配合するのが好ましい。
【0013】
なお、セサミン類の1日あたりの摂取量は、通常1〜60mg、好ましくは5〜60mg、コエンザイムQ10の1日あたりの摂取量は、通常1〜300mgの範囲、好ましくは10〜100mg、ビタミンEの1日あたりの摂取量は、通常10mg〜800mgであるので、本発明の薬物依存症治療薬のヒト摂取量は、この範囲内におさまるようにするのが望ましい。
【0014】
また本発明の薬物依存症治療薬には、その効果を損なわない限り、任意の所望成分を配合することができる。例えば、ビタミンC等のビタミン類やソフトカプセルを調製する時に通常配合される乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤等を適宜配合することができる。
【0015】
本発明の薬物依存症治療薬は、その形態を特に制限するものではないが、公知の方法によりマイクロカプセル、ソフトカプセル又はハードカプセルに封入してカプセル化することが好ましい。本発明の薬物依存症治療薬は、毒性が少なく、麻薬、覚醒剤、ニコチン類、アルコール類、バルビツレート類、ベンゾジアセピン類などの乱用による薬物依存症に有効である。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。なお、実施例1〜3で使用したコエンザイムQ10は、日清ファルマ株式会社製のコエンザイムQ10であり、ビタミンEは、α−トコフェロールである。
【0017】
実施例1
セサミン類としては、セサミン(竹本油脂製、セサミン:エピセサミン=56:44)を用いた。
セサミンおよびビタミンEをオリーブ油に溶解させ、本実施例の試験試料とした。
【0018】
アルコール依存に対する本発明の治療薬の効果の検討を行った。すなわち、Pharmacology Biochemistry and behavior,第35巻,第485〜487頁,1990年に記載の方法に従って試験を行った。
【0019】
(1)薬物用量
上記試験試料を、各試行においてエタノール投与の30分前に100mg/kg経口投与した(セサミンおよびビタミンEいずれも100mg/kg経口投与)。
(2)実験方法
動物はウイスター系雄性ラットの8〜9週齢のものを使用した。動物は1群10匹とした。実験装置は幅30cm、長さ60cm、高さ30cmのアクリル板製の2−compartments boxで、区画は中央に設置されているギロチンドアにより白及び黒区画に等分割されている。さらに、その床面は白区画では滑り難く、一方黒区画では滑り易く加工した、いわゆる白、黒の視覚刺激と床面の触覚刺激の両方を兼ね備えたシャトルボックスを用いた。
条件づけは1日1回、6日間行った。ラットにエタノール(0.5あるいは1g/kg)あるいは生理食塩液を処置後、一方の区画内に50分間入れ、翌日は前日とは異なる処置をしてもう一方の区画内に50分間入れるという試行を3回繰り返した。なお、条件づけ手順の差による結果への影響を最小限にするため、カウンターバランス方式を用い、即ちエタノール処置群、生理食塩液処置群と白あるいは黒区画との組合せについては、4通りの組合せを行った。
【0020】
1)エタノールと白、次の日は生理食塩液と黒
2)生理食塩液と黒、次の日はエタノールと白
3)エタノールと黒、次の日は生理食塩液と白
4)生理食塩液と白、次の日はエタノールと黒
また、対照として、エタノール処置の代わりに生理食塩液を投与した群を設け同様に条件付けを行った。
【0021】
6日間の条件づけ試行の後、15分間、各区画における滞在時間を測定する試験試行を行った。条件づけしたラットにはエタノール、生理食塩液のいずれの投与も行わず、装置には区画分割部であるボックス中央部に、白黒の中間色である灰色の金網製プラットフォーム(幅2cm,長さ5cm)を設置した。滞在時間の測定は、プラットフォーム上にラットを乗せ、その後、ラットが床に降り、自由に白黒両区画を行き来できる状況になってから15分間、ラットの前足と頭部が区画内に入っている時間をその区画における滞在時間として測定した。なお、薬物処置区画に対する欲求効果、即ちplace preferenceは、薬物処置区画の滞在時間から生理食塩液処置区画の滞在時間を引いた値で求めた。
【0022】
結果を表1に示す。エタノール処置区画に対する欲求効果は用量依存的に増加した。本実施例の試験試料はエタノール依存を抑制した(表1)。本実施例の試験試料は有意な効果を示した。なお、別実験では、本発明の試験試料は用量依存的にエタノール依存を抑制できることも確認されている。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2
セサミン類としては、セサミン(竹本油脂製、セサミン:エピセサミン=56:44)を用いた。
セサミンおよびコエンザイムQ10をオリーブ油に溶解させ、本実施例の試験試料とした。試験試料の投与量は実施例1と同じである(セサミンおよびコエンザイムQ10いずれも100mg/kg経口投与)。
【0025】
続いて、実施例1と同様に、アルコール依存に対する本発明の治療薬の効果の検討を行った。
その結果、実施例1とほぼ同様の結果を得た。
【0026】
実施例3
セサミン類としては、セサミン(竹本油脂製、セサミン:エピセサミン=56:44)を用いた。
セサミン、ビタミンEおよびコエンザイムQ10をオリーブ油に溶解させ、本実施例の試験試料とした。試験試料の投与量は実施例1と同じである(セサミン、ビタミンEおよびコエンザイムQ10いずれも100mg/kg経口投与)。
【0027】
続いて、実施例1と同様に、アルコール依存に対する本発明の治療薬の効果の検討を行った。
その結果、エタノール0.5g/kg処置群において、欲求効果は8±8であった。エタノール1g/kg処置群において、欲求効果は9±8であった。
【0028】
比較例1
セサミン類としては、セサミン(竹本油脂製、セサミン:エピセサミン=56:44)を用いた。
セサミンをオリーブ油に溶解させ、本比較例の試験試料とした。
試験試料の投与量は実施例1と同じである(セサミン100mg/kg経口投与)。
【0029】
続いて、実施例1と同様に、アルコール依存に対する本発明の治療薬の効果の検討を行った。
その結果、エタノール0.5g/kg処置群において、欲求効果は95±10であった。エタノール1g/kg処置群において、欲求効果は101±13であった。
【0030】
比較例2
コエンザイムQ10をオリーブ油に溶解させ、本比較例の試験試料とした。
試験試料の投与量は実施例1と同じである(コエンザイムQ10 100mg/kg経口投与)。
【0031】
続いて、実施例1と同様に、アルコール依存に対する本発明の治療薬の効果の検討を行った。
その結果、エタノール0.5g/kg処置群において、欲求効果は171±12であった。エタノール1g/kg処置群において、欲求効果は345±22であった。
【0032】
比較例3
ビタミンEをオリーブ油に溶解させ、本比較例の試験試料とした。
試験試料の投与量は実施例1と同じである(ビタミンE 100mg/kg経口投与)。
【0033】
続いて、実施例1と同様に、アルコール依存に対する本発明の治療薬の効果の検討を行った。
その結果、エタノール0.5g/kg処置群において、欲求効果は180±21であった。エタノール1g/kg処置群において、欲求効果は330±24であった。
【0034】
実施例4
ファガストローム博士によるニコチン依存性テスト(阿部眞弓、「禁煙外来」芳賀書店、東京、1999年)において、中程度の依存性以上であって、起床して15分以内に喫煙習慣のある50名を被験者(平均体重:73kg)として選定し、試験を行った。試験においては、各被験者に、起床してからすぐ(起床後、約15分以内)に下記の試験試料を摂取させ、各被験者が該試験試料を摂取してから喫煙するまでの時間(喫煙前時間)を調べた。
【0035】
被験者を5群(各群10名)に分け、各被験者には、各群に対し割り当てた下記のいずれかの試験試料を月曜日から金曜日まで毎日摂取させ、喫煙前時間を測定した。得られた喫煙前時間のデータをもとに各試験試料ごとに平均時間を求め、それぞれ喫煙前時間として測定した。
【0036】
試験期間中、各被験者に対しいずれの試験試料を摂取しているかについては告知しなかった。試験期間中は、起床後すぐに試験試料を摂取すること以外は、喫煙を含め特に生活上の制限は課さなかった。
【0037】
(試験試料(実施例))
セサミン 3.5g
酢酸トコフェロール 0.5g
コエンザイムQ10 0.5g
無水ケイ酸 20g
微結晶セルロース 10g
ステアリン酸マグネシウム 3g
乳糖 60g
を混合し、単発式打錠機にて打錠して経7mm、重量100mgの錠剤を製造した。
【0038】
(試験試料(比較例))
乳糖 4.5g
無水ケイ酸 20g
微結晶セルロース 10g
ステアリン酸マグネシウム 3g
乳糖 60g
を混合し、単発式打錠機にて打錠して経7mm、重量100mgの錠剤を製造した。
【0039】
その結果、実施例の喫煙前時間は、3時間±15分であったのに対し、比較例の喫煙前時間は、40分±15分であった
【0040】
比較例4
実施例4において、試験試料(実施例)の錠剤から酢酸トコフェロールおよびコエンザイムQ10を省き、その替わりに乳糖を用いた。それ以外は実施例4と同じである。
【0041】
その結果、比較例4の喫煙前時間は、1時間±15分であった。
【0042】
比較例5
実施例4において、試験試料(実施例)の錠剤からセサミンおよび酢酸トコフェロールを省き、その替わりに乳糖を用いた。それ以外は実施例4と同じである。
【0043】
その結果、比較例5の喫煙前時間は、40分±15分であった。
【0044】
比較例6
実施例4において、試験試料(実施例)の錠剤からセサミンおよびコエンザイムQ10を省き、その替わりに乳糖を用いた。それ以外は実施例4と同じである。
【0045】
その結果、比較例6の喫煙前時間は、40分±15分であった。
【0046】
実施例5
セサミン 0.25g
酢酸トコフェロール 0.25g
コエンザイムQ10 0.1g
無水ケイ酸 20.5g
トウモロコシデンプン 79g
を均一に混合した。この化合物に10%ハイドロキシプロピルセルロース・エタノール溶液100mlを加え、常法通りねつ和し、押し出し、乾燥して顆粒剤を得た。
【0047】
実施例6
ゼラチン 70.0%
グリセリン 22.9%
パラオキシ安息香酸メチル 0.15%
パラオキシ安息香酸プロピル 0.51%
水 適量
計 100%
上記成分からなるソフトカプセル剤皮の中に、以下に示す組成物を常法により充填し、1粒200mgのソフトカプセルを得た。
セサミン/エピセサミン(1:1)混合物 10.8%
α−トコフェロール 20%
コエンザイムQ10 5%
小麦ビーズワックス 30%
パーム油 10%
小麦胚芽油 適宜
計 100%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セサミン類と、ビタミンEとを含有することを特徴とする薬物依存症治療薬。
【請求項2】
セサミン類と、コエンザイムQ10とを含有することを特徴とする薬物依存症治療薬。
【請求項3】
セサミン類と、ビタミンEと、コエンザイムQ10とを含有することを特徴とする薬物依存症治療薬。

【公開番号】特開2009−91319(P2009−91319A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264994(P2007−264994)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(707000691)辻堂化学株式会社 (104)
【Fターム(参考)】