説明

薬物含有微粒子を含む医薬組成物およびその製造方法

【課題】水溶性の高分子薬物を注射以外の方法で効率良く投与するために使用され得る医薬組成物、ならびにかかる医薬組成物を製造するための方法を提供することを提供すること。
【解決手段】(a)水溶性の薬物と(b)室温で固体である医薬上許容されるイオン結晶性化合物とからなる微粒子を含む医薬組成物であって、該イオン結晶性化合物が、該微粒子中で結晶化していることを特徴とする、当該医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性の薬物とイオン結晶性化合物とからなる微粒子を含む医薬組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物工学の進歩は、ペプチド、タンパク質、多糖、ポリ核酸、siRNA、RNA、抗体、抗原などの多くの治療化合物の発見をもたらした。これら化合物の物理化学的な特徴(例、大きな分子量、親水性、不安定性)は、注射以外の手段による生体への投与を難しくしている。これらの薬物のなかには、注射による一日複数回の投薬が必要なものもあり、特に若年患者における投薬不履行に繋がっている(非特許文献1および2)。
【0003】
経口、経肺、経口腔(口腔粘膜)、経膣および経鼻などの経粘膜経路による投与において、これらの薬物は、その物理的大きさや親水性などに起因して粘膜表面を通じて吸収されにくい。さらに、それらの薬物は、ペプチダーゼやプロテアーゼなどの酵素による分解を受けやすく、特に消化管においてそのことが問題となる。それらの薬物の粘膜表面を通じた輸送を改善するために、吸収促進剤を含有する製剤が使用されてきたが、そのような製剤は特に経鼻経路および経肺経路による送達においてある程度の成功を収めてきた。しかしながら、高分子量化合物の粘膜表面を通じた輸送を提供するための効果的な方法および組成物の開発が必要とされている。
【0004】
そのような輸送を提供する手段として、薬物を内包しているナノ粒子が文献に記載されている(非特許文献3)。しかしながら、化合物のサイズが大きいことやナノ粒子のマトリックス内が通常疎水的環境であることから、ペプチドやタンパク質のナノ粒子内への封入は困難で通常非常に低い担持能になり、そのため粘膜表面へ投与すべきナノ粒子の量を増やす必要が生じてしまう。これは、ナノ粒子の大部分が純粋な薬物であるナノ結晶を製造することによって、ある程度解決された。しかしながら、ナノ結晶の懸濁液は通常、結晶が安定化されない限り、結晶の段階的な成長が通常起こるため、非常に不安定である。ナノ結晶を安定化させるための通常の処置としては、架橋処理が施されてきた。これは、薬物自体をある程度架橋するため、薬物の生理活性の低下や、タンパク質などの薬物への免疫原性の付与を招いてしまう。さらにまた、粘膜を通るナノ粒子の輸送が容易には達成できないことは、文献での発表から明白である(非特許文献3)。
【0005】
ナノ粒子は、経粘膜薬物デリバリーのためのキャリアーとして、広く研究されてきた(非特許文献3−5)。上で概説したように、ナノ粒子は特にペプチドおよびタンパク質のために重要だった。しかしながら、ナノ粒子システムは、十分な量の薬物を経粘膜でデリバリーするためには有効でないこと、薬物の担持率が低いこと、およびナノ粒子のマトリックス内に封入されない場合にはペプチドやタンパク質の薬物の安定性が十分でないことなどの問題が報告されてきた。ペプチドまたはタンパク質のナノ結晶の形態のナノ粒子は、経粘膜および非経口的デリバリーのためのドラッグデリバリーシステムとして、文献に記載されてきた(非特許文献6および7)。しかしながら、文献に記載されたナノ結晶は、しばしば物理的に不安定であるか、あるいは安定性を向上させるために架橋された場合に生理活性の一部を失ってしまう。さらには、ナノ結晶はしばしば、1μmを上回る大きさを持ち、従って、ナノ結晶というよりむしろマイクロ結晶である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US2004/02192224
【特許文献2】WO98/46732
【特許文献3】US7087246
【特許文献4】WO02/072636
【特許文献5】WO99/55310
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Drug Discovery Today. 7; 1184-1189 (2002)
【非特許文献2】J. Control. Rel. 87; 187-198 (2003)
【非特許文献3】J. Pharm. Sci. 96; 473-483 (2007)
【非特許文献4】Biomaterials 23; 3193-3201 (2002)
【非特許文献5】Int J Pharm. 342; 240-249 (2007)
【非特許文献6】J. Biotech. 113; 151-170 (2004)
【非特許文献7】Pharm. Res. 22(9); 1461-1470 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、ペプチドやタンパク質などの水溶性の高分子薬物を微粒子内に高い効率で封入することや、水溶性の高分子薬物を含む微粒子を適切なサイズに調製することは容易ではない。また、乾燥された微粒子を含む組成物を使用時に水を添加して再懸濁する場合に、凝集を回避して微小なサイズの粒子として再分散させることも容易ではない。
【0009】
本発明の目的は、水溶性の薬物を注射以外の方法で効率良く投与するために使用され得る医薬組成物を提供することにある。より詳細には、本発明の目的は、水溶性の薬物(例、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、siRNA、多糖、リポペプチド、リポタンパク質、リポ多糖、低分子化合物、抗体、抗原、毒素、およびワクチンなど)を経粘膜または経皮的に効率よく投与するために使用され得る微粒子含有医薬組成物であって、従来の微粒子含有医薬組成物と比較して、水溶性の薬物を微粒子内に高い効率で封入することや、微粒子を適切なサイズに調製することを可能にし得る微粒子含有医薬組成物を提供することである。本発明はまた、かかる医薬組成物を製造するための方法を提供することもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような水溶性の薬物を注射以外の方法で効率良く投与するための方法として、ナノ粒子などの微粒子システムを使用した経粘膜および経皮的な投与に着目し鋭意検討を重ねた。その結果、水溶性の薬物とイオン結晶性化合物とを含む微粒子であって、該イオン結晶性化合物が該微粒子中で結晶化している微粒子を調製することにより、水溶性の薬物を微粒子内に高い効率で封入することや、微粒子を適切なサイズに調製することが可能となり得ることを見出した。本発明者らはさらに、該微粒子の表面を、静電相互作用によって適当なポリマーで被覆することによって、微粒子を懸濁液中で安定化させることが可能となることを見出した。これらの知見から、該微粒子を含む医薬組成物を使用することにより、従来法より優れた薬物送達システムを達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
[1](a)水溶性の薬物と(b)室温で固体である医薬上許容されるイオン結晶性化合物とからなる微粒子を含む医薬組成物であって、該イオン結晶性化合物が、該微粒子中で結晶化していることを特徴とする、当該医薬組成物。
[2]該微粒子が、不可逆的な架橋はされていないことを特徴とする、上記[1]に記載の医薬組成物。
[3]該微粒子の平均粒径が、10nm以上5000nm以下である、上記[1]または[2]に記載の医薬組成物。
[4]該水溶性の薬物が、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、siRNA、多糖、リポペプチド、リポタンパク質、リポ多糖、低分子化合物、抗体、抗原、毒素、およびワクチンからなる群より選択される、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[5]該イオン結晶性化合物が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、アンモニウムイオンからなる群より選択される1種以上の陽イオン電解質と、塩素イオン、硫酸イオン、乳酸イオン、酢酸イオン、リン酸イオン、グルコン酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオンからなる群より選択される1種以上の陰イオン電解質を構成成分として含む、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[6]該イオン結晶性化合物に対する該水溶性の薬物の重量比率が、0.001以上100以下である、上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[7]さらに(c)医薬上許容されるポリマーを含み、かつ、
該微粒子が所定のpHで正もしくは負の電荷を有し、該ポリマーが該pHにおいて該微粒子とは反対符号の電荷を有し、それによって該pHで該微粒子と該ポリマーとが互いに静電相互作用して該ポリマーが該微粒子の表面に付着した複合体を形成していることを特徴とする、
上記[1]〜[6]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[8]該複合体の平均粒径が、15nm以上6000nm以下である、上記[7]に記載の医薬組成物。
[9]上記[1]〜[6]のいずれか1つに記載の医薬組成物の製造方法であって、
該水溶性の薬物と該イオン結晶性化合物とを溶解した水溶液を、減圧下で非加熱的に乾燥することを含む、
当該製造方法。
[10]該乾燥が、凍結乾燥または遠心濃縮乾燥によるものである、上記[9]に記載の製造方法。
[11]上記[7]または[8]に記載の医薬組成物の製造方法であって、
該水溶性の薬物と該イオン結晶性化合物とを溶解した水溶液を、減圧下で非加熱的に乾燥することによって該微粒子を調製すること、および、
該ポリマーが溶解した該pHを有する溶液と該微粒子とを混合することを含む、
当該製造方法。
[12]該乾燥が、凍結乾燥または遠心濃縮乾燥によるものである、上記[11]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医薬組成物は、該医薬組成物に含まれる微粒子が、適度な粒径を持ち、かつ水溶性の薬物(例、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、siRNA、多糖、リポペプチド、リポタンパク質、リポ多糖、低分子化合物、抗体、抗原、毒素、およびワクチンなど)を微粒子内で集積化することができるため、そのような水溶性の薬物を哺乳動物に対して経粘膜または経皮的に効率よく投与することを可能にし得る。
さらには、微粒子の表面をポリマーで被覆された複合体を含む本発明の医薬組成物は、該複合体が高い安定性(例、保存安定性、対酵素安定性など)を有し、また、調製条件やポリマーの種類に応じて、薬物の放出速度を調節することが可能であるため、徐放性製剤用途およびワクチン用途のために望ましい放出特性を実現できる。
また、本発明の製造方法によれば、水溶性の薬物(例、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、siRNA、多糖、リポペプチド、リポタンパク質、リポ多糖、低分子化合物、抗体、抗原、毒素、およびワクチンなど)を高い収率で微粒子内に封入することができる。さらに、本発明の製造方法によれば、凍結乾燥などによって、水分を除去した乾燥微粒子を容易に得ることができ、それによって水溶性の薬物の保存安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の直径で示している。
【図2】実施例2における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の直径で示している。
【図3】比較例1における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の半径で示している。
【図4】実施例3における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の半径で示している。
【図5】比較例2における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の直径で示している。
【図6】実施例4における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の直径で示している。
【図7】実施例5における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の直径で示している。
【図8】実施例6における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の半径で示している。
【図9】実施例7における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の半径で示している。
【図10】実施例8における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の半径で示している。
【図11】実施例9における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の直径で示している。
【図12】実施例10における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の直径で示している。
【図13】実施例11における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の直径で示している。
【図14】比較例3における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の半径で示している。
【図15】比較例4における粒径測定結果を示す図である。横軸は粒径値(nm)、縦軸は散乱強度分布(インデックス値)を表す。粒径値を粒子の半径で示している。
【図16】実施例10の微粒子のTEM画像を示す図である。
【図17】実施例10のTEM画像の微粒子中の元素分析結果を示す図である。
【図18】実施例11の微粒子のTEM画像を示す図である。
【図19】実施例11のTEM観察画像の微粒子中の元素分析結果を示す図である。
【図20】試験例4におけるキトサン被覆インスリン微粒子の対酵素安定性試験の結果を示す図である。横軸は、37℃での30分間の振盪反応後のインスリン含有量の初期含有量に対するパーセンテージを表す。上から順に、i)表面被覆微粒子と酵素とを混合した試料、ii)表面被覆微粒子とバッファーとを混合した試料、iii)インスリン溶液と酵素とを混合した試料、そしてiv)インスリン溶液とバッファーとを混合した試料での結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、(a)水溶性の薬物と(b)室温で固体である医薬上許容されるイオン結晶性化合物とからなる微粒子を含む医薬組成物であって、該イオン結晶性化合物が、該微粒子中で結晶化していることを特徴とする医薬組成物を提供する。
【0015】
該医薬組成物は、例えば経粘膜または経皮的な投与のために使用することができる。従って、本発明の医薬組成物は、処置(treatment)および/または治療(therapy)を必要とする対象の粘膜(例、鼻、口腔、眼、膣および胃腸管などの粘膜)もしくは皮膚に対して、塗布、スプレー、噴霧、貼付など適切な方法で投与することができ、薬物が粘膜もしくは皮膚組織へと、または粘膜もしくは皮膚組織を通じて循環器系あるいは免疫系へと送達されることにより薬効またはワクチン効果などをもたらし得る。
【0016】
上記「水溶性の薬物」は、医薬組成物の使用目的に応じて適宜選択される。該薬物は、結晶性であっても非結晶性であってもよい。本明細書において「水溶性」とは、水と常温において相溶性を有することを意味し、該薬物の選択は、常温の水に対して少しでも水溶性を示す薬物である限り、特に制限されない。より具体的には、本発明の医薬組成物において使用され得る水溶性の薬物は、以下に限定されないが、例えば、25℃の水(100g)に溶解させたときに、好ましくは0.0001g以上、より好ましくは0.001g以上、さらに好ましくは0.01g以上溶解するものである。また、該薬物を溶かす溶媒としては、単なる水以外にも、有機溶媒(エタノールなど)と水との混合液、または酸水溶液、アルカリ水溶液を用いることができ、薬物の化学的特性に応じて適切な溶媒を適宜選択することができる。該薬物としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリルなどの水と混合可能な有機溶媒に溶ける薬物、あるいはそれらの有機溶媒と水との混合液に溶ける薬物が好ましい。
【0017】
薬物の分子量についても特に制限されず、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。なお、本明細書にいう低分子化合物とは、分子量500D未満の化合物を意味し、本明細書にいう高分子化合物とは、分子量500D以上の化合物を意味する。薬物としては、例えば、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、siRNA、多糖、リポペプチド、リポタンパク質、リポ多糖、低分子化合物、抗体、抗原、毒素、およびワクチンなどが挙げられる。あるいは、該薬物としては、例えば、抗高血圧剤、抗低血圧剤、鎮痛剤、抗精神病剤、抗鬱剤、抗躁剤、抗不安剤、鎮静剤、催眠剤、抗癲癇剤、オピオイドアゴニスト、喘息治療剤、麻酔剤、抗不整脈剤、関節炎治療剤、鎮痙剤、ACEインヒビター、鬱血除去剤、抗生物質、抗狭心症剤、利尿剤、抗パーキンソン病剤、気管支拡張剤、分娩促進剤、抗利尿剤、抗高脂血症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、制吐剤、抗感染症剤、抗新生物剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗糖尿病剤、抗アレルギー剤、解熱剤、抗腫瘍剤、抗痛風剤、抗ヒスタミン剤、止痒剤、骨調節剤、心血管剤、コレステロール低下剤、抗マラリア剤、喫煙を中止するための薬剤、鎮咳剤、去痰剤、粘液溶解剤、鼻詰り用薬剤、ドパミン作動剤、消化管用薬剤、筋弛緩剤、神経筋遮断剤、副交感神経作動剤、プロスタグランジン、興奮薬、食欲抑制剤、甲状腺剤または抗甲状腺剤、ホルモン、抗偏頭痛剤、抗肥満剤および抗炎症剤などの様々なペプチド、タンパク質、DNA、RNA、siRNA、多糖、リポペプチド、リポタンパク質、リポ多糖、低分子化合物、抗体、抗原、毒素、およびワクチンなどを挙げることもできる。
【0018】
薬物の具体例としては、以下に限定されないが、インスリン、グルカゴン、ロイプロリド、成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、血管内皮成長因子、エリスロポエチン、ヘパリン、シクロスポリン、オキシトシン、チロシン、エンケファリン、チロトロピン放出ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、バソプレシン、バソプレシン類似体、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、インターロイキンII、インターフェロン、コロニー刺激因子、腫瘍壊死因子、メラニン細胞刺激ホルモン、グルカゴン様ペプチド−1、グルカゴン様ペプチド−2、カタカルシン、コレシステキニン−12、コレシステキニン−8、エキセンディン、ゴナドリベリン関連ペプチド、インスリン様タンパク質、ロイシン−エンケファリン、メチオニン−エンケファリン、ロイモルフィン、ニューロフィジン、コペプチン、ニューロペプチドY、ニューロペプチドAF、PACAP関連ペプチド、膵臓ホルモン、ペプチドYY、ウロテンシン、腸ペプチド、副腎皮質刺激ペプチド、上皮成長因子、プロラクチン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、LHRHアゴニスト、成長ホルモン放出因子、ソマトスタチン、ガストリン、テトラガストリン、ペンタガストリン、エンドルフィン、アンジオテンシン、チロトロピン放出ホルモン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子、ヘパリナーゼ、インフルエンザワクチン用抗原、破傷風毒素、ジフテリア毒素、癌抗原タンパク、癌抗原ペプチド、β−アミロイド、免疫グロブリン、肝硬変治療用siRNA、癌治療用siRNA、および、ブロムヘキシン、グラニセトロン、ゾルミトリプタン、スマトリプタンなどの低分子化合物など、ならびにそれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。また、適宜2種類以上の薬物を供用することも可能である。
【0019】
上記「室温で固体である医薬上許容されるイオン結晶性化合物」の選択は、室温で固体であり、かつ医薬上許容されるイオン結晶性化合物である限り、特に制限されない。しかしながら、融点、分解温度、または昇華温度が40℃以上の化合物が好ましく、100℃以上の化合物がより好ましく、200℃以上の化合物がさらに好ましい。融点、分解温度、または昇華温度が40℃未満のものは微粒子中で安定した固体結晶となりえず、水溶性の薬物を析出、粒子化させる能力も小さいので好ましくない。また、該化合物の融点、分解温度、または昇華温度の上限は特に限定されないが、融点、分解温度、または昇華温度が2000℃以下のものが好ましく、1800℃以下のものがより好ましく、1500℃以下のものがさらに好ましい。
また、上述したように、該微粒子中で該イオン結晶性化合物は結晶化している。ここでいう「結晶化」は、例えば透過型電子顕微鏡などの好適な装置によって該水溶性化合物と該イオン結晶性化合物とからなる微粒子を観察したときに、該微粒子の内部に、該イオン化結晶性化合物の結晶が散在しているものであれば特に限定されない。なお、後述する実施例においても示されるように、例えばXMAによって、結晶の元素分析を行って、結晶が該化合物によるものであるのか否かを確かめることができる。微粒子中でイオン結晶性化合物が結晶化することによって塩が局所的に高濃度で含まれることになり、それによって塩の周囲に水溶性の薬物が効率よく析出して粒子化することができ、かつ薬物同士の凝集を阻害して微粒子の巨大化を防ぐことも可能にしているものと考えられる。
【0020】
本発明の医薬組成物のために使用され得るイオン結晶性化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、アンモニウムイオンからなる群より選択される1種以上の陽イオン電解質と、塩素イオン、硫酸イオン、乳酸イオン、酢酸イオン、リン酸イオン、グルコン酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオンからなる群より選択される1種以上の陰イオン電解質を構成成分として含むイオン結晶性化合物を用いることができる。その中でも、好ましいイオン結晶性化合物の例として、生体への安全性が高く、かつ塩の結晶形状の規則性が高いために薬物の析出の再現性を良好にすることができるという観点から、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムを挙げることができる。
【0021】
本発明の医薬組成物における該イオン結晶性化合物に対する該水溶性の薬物の重量比率は、所望の目的のために好適な特性を有する微粒子が得られる限り特に限定されないが、典型的には0.001以上100以下、好ましくは0.005以上50以下、より好ましくは0.01以上10以下である。このような重量比率を選択することにより、効率よく薬物の析出および塩結晶の生成を実現することができる。
【0022】
該微粒子中の水分含量は、周囲の状態に依存して変動し、例えば乾燥状態では無視できる含量であるが、水中では若干の水分が該微粒子中に浸透していると考えられる。水中での微粒子中の水分含量は、微粒子の構造および特性に本質的には関係しないため、微粒子中の水分含量の範囲も特に限定されないが、例えば0.01〜99.99重量%である。
また、該微粒子は、上述したように生理活性および免疫原性などの観点から、共有結合のような不可逆的な架橋はされていないことが好ましい。ここでいう不可逆的な架橋には、水分添加により可逆的に解離し得る擬似架橋(例えば、静電相互作用)は含まれない。
【0023】
本発明の医薬組成物における微粒子の大きさとしては、好ましくは10〜5000nm、より好ましくは20〜4000nm、さらに好ましくは50〜3000nmの平均粒径が挙げられる。微粒子の大きさが5000nmより大きくなると、同量の薬物を投与するときに、微粒子の数が少なくなり、微粒子の表面積の合計が小さくなり、薬物の放出速度が小さくなるので望ましくない。さらに、ワクチン用粒子として使用する場合の免疫担当細胞への取り込み効率が悪くなるという点からも好ましくない。また、微粒子の大きさが10nmより小さくなると、微粒子1つあたりに含まれる薬物の量が少な過ぎて、投与した後の薬理効果またはワクチン効果が弱くなるので望ましくない。さらに、製造時や使用時に、微粒子同士が凝集しやすくなって取り扱い難いという点からも好ましくない。
【0024】
なお、ここでいう粒径は、微粒子を水中に分散させて測定した値であり、微粒子の形状を球であると仮定して算出した直径のことである。具体的には、粒径を動的光散乱測定装置により測定し、散乱強度分布から求めた流体力学的直径の平均値を平均粒径として採用する。ここで、微粒子の平均粒径が、例えば、10nm以上であるとは、上記の動的光散乱測定装置の散乱強度分布の各粒径ピークの割合(全ピーク累積散乱強度に対する各粒径ピークの累積散乱強度の割合)において、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上のピークの平均粒径が10nm以上であることをいう。
【0025】
本発明の医薬組成物はさらに、医薬上許容されるポリマーを含むことができる。その場合、該微粒子を、所定のpHで正もしくは負の電荷を有するものとして構成し、かつ該ポリマーとして、該pHにおいて該微粒子とは反対符号の電荷を有するポリマーを選択することによって、該pHで該微粒子と該ポリマーとを互いに静電相互作用させて該ポリマーが該微粒子の表面に付着した複合体を形成させることが可能となり得る。
【0026】
すなわち、本発明はまた、(a)水溶性の薬物と(b)室温で固体である医薬上許容されるイオン結晶性化合物とからなる微粒子を含む医薬組成物であって、該イオン結晶性化合物が、該微粒子中で結晶化しており、
さらに、該医薬組成物は、(c)医薬上許容されるポリマーを含み、かつ、
該微粒子が所定のpHで正もしくは負の電荷を有し、該ポリマーが該pHにおいて該微粒子とは反対符号の電荷を有し、それによって該pHで該微粒子と該ポリマーとが互いに静電相互作用して該ポリマーが該微粒子の表面に付着した複合体を形成しているものである、当該医薬組成物を提供する。
【0027】
微粒子が所定のpHで正もしくは負の電荷を有するものとなる限り、本実施形態においても、上述した通りの水溶性の薬物、イオン結晶性化合物および微粒子を使用することができる。
なお、以下では、微粒子の表面にポリマーが付着していることを、ポリマーによって微粒子が「被覆」されているなどと表現することもあり、また、ポリマーが微粒子の表面に付着した複合体を、「表面被覆微粒子」と呼ぶこともある。さらに、ポリマーによって被覆されていない微粒子を、表面被覆微粒子と明示的に区別するために、以下では「コア微粒子」、または単純に「コア粒子」と呼ぶこともある。ポリマーによるコア微粒子の被覆は、コア微粒子の表面にポリマーが、微粒子とポリマーとの間の静電相互作用によって、付着しているものであれば特に限定されない。
【0028】
表面被覆微粒子を構成する医薬上許容されるポリマー(以下、「表面被覆ポリマー」とも呼ぶ)は、生体適合性であることが望ましい。本明細書において、用語「生体適合性」とは、ある物質およびその分解産物が、生体組織または生体システム(例、血液循環系、神経系、免疫系など)に対して中毒的または損傷的な影響を与えないこと、および過度の免疫的な拒否反応を起こさせないことを意味する。生体適合性のポリマーは、ヒトまたは他の動物への投与に適したものである。該ポリマーはまた、生体内分解性であることがより好ましい。本明細書において、用語「生体内分解性」とは、ある物質が、酵素的、化学的もしくは物理的プロセスなどにより生体内で許容される時間内に分解されて、より小さな化学種を形成することを意味する。ある物質の生体適合性および生体内分解性を検査する方法は、当該技術分野において周知である。
【0029】
表面被覆ポリマーは、天然ポリマーであっても、あるいは合成ポリマーであっても良い。表面被覆ポリマーは、所定のpHにおいて、微粒子の表面で微粒子と静電相互作用するため、該pHで微粒子と反対電荷を有するポリマーでなければならない。該pHで同じ符号に帯電しうるポリマー同士であれば、必要に応じて2種類以上のポリマーを表面被覆ポリマーのために併用することもできる。
【0030】
表面被覆微粒子を含む本発明の医薬組成物は、例えば後述する製造法により製造され得るが、当該製造法により製造する場合、該所定のpHにおいて表面被覆ポリマーが単独では難水溶性であっても、表面被覆ポリマーが易水溶性であるpHで微粒子と混合した後、該混合液のpHを該所定のpHに調整することによって製造が可能である。従って、表面被覆ポリマーとしては、前記所定のpHにおいて易水溶性であるポリマーだけでなく、前記所定のpHにおいて難水溶性であるポリマーも使用され得る。
【0031】
表面被覆ポリマーに使用され得るポリマーとしては、以下に限定されないが、ポリアニオン性またはポリカチオン性の多糖、ポリアミノ酸およびその他の帯電したポリマーが挙げられ、使用される薬物の種類や電荷などに応じて適宜選択される。
【0032】
本発明に使用され得るポリアニオン性の多糖とは、カルボキシル基、硫酸基またはリン酸基などの1つ以上の酸性極性基を構成単位中に有する多糖類である。そのようなポリアニオン性の多糖の例としては、以下に限定されないが、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸、これらの誘導体や塩などが挙げられる。
【0033】
本発明に使用され得るポリカチオン性の多糖とは、アミノ基などの1つ以上の塩基性極性基を構成単位中に有する多糖類である。そのようなポリカチオン性の多糖の例としては、以下に限定されないが、キチン、キトサン、これらの誘導体や塩などが挙げられる。キトサンおよびキトサン誘導体は、様々な分子量および脱アセチル化の程度のものから選択することができ、また、キトサン誘導体については、様々な置換の程度のものから選択することができる。
【0034】
本発明に使用され得るポリアニオン性のポリアミノ酸とは、等電点が生理的pHよりも酸性側にあるポリアミノ酸であり、その例としては、以下に限定されないが、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、これらの誘導体や塩などが挙げられる。
【0035】
本発明に使用され得るポリカチオン性のポリアミノ酸とは、等電点が生理的pHよりも塩基性側にあるポリアミノ酸であり、その例としては、以下に限定されないが、ポリリジン、ポリアルギニン、これらの誘導体や塩などが挙げられる。
【0036】
表面被覆ポリマーに使用され得るポリマーとして、上記の多糖およびポリアミノ酸以外に、ポリエチレンイミンやポリアクリル酸、これらの誘導体や塩なども挙げられる。
【0037】
表面被覆ポリマーは、ポリエチレングリコール化(PEG化)および/またはグリコシル化されていても良い。
【0038】
表面被覆ポリマーは、粘膜付着性であってもよく、かつ/または経粘膜吸収促進因子として機能しても良い。粘膜付着性ポリマーとしては、例えば、キトサン、ポリアクリル酸、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースなどの他に、それらのPEG化されたポリマー類などが挙げられる。また、経粘膜吸収促進因子として機能するポリマーとしては、例えば、キトサン、ポリアクリル酸、ポリアルギニン、これらの塩や誘導体などが挙げられる。
【0039】
表面被覆ポリマーの分子量は、分解速度、機械強度、溶解度、表面被覆ポリマーと共に複合体を形成することになる微粒子の種類などの要素を考慮して当業者は決定することができる。典型的には、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定した表面被覆ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは1,000Da以上、より好ましくは2,000Da以上であるべきであり、また、好ましくは1,000,000Da以下、より好ましくは500,000Da以下であるべきである。従って、典型的には、表面被覆ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは1,000〜1,000,000Daであり、より好ましくは2,000〜500,000Daである。また、例えば、キチン又はキトサンの重量平均分子量は、1,000〜1,000,000Daであり得、キチン又はキトサンの脱アセチル化の程度は、20〜100%であり得る。
【0040】
表面被覆微粒子の大きさとしては、好ましくは15〜6000nm、より好ましくは25〜5000nm、さらに好ましくは55〜4000nmの平均粒径が挙げられる。表面被覆微粒子の大きさが6000nmより大きくなると、ワクチン用微粒子として使用する場合の免疫担当細胞への取り込み効率が悪くなるので好ましくない。また、表面被覆微粒子の大きさが15nmより小さくなると、製造時や使用時に微粒子同士が凝集しやすくなって取り扱い難いので好ましくない。
【0041】
なお、ここでいう粒径は、表面被覆微粒子を水中に分散させて測定した値であり、表面被覆微粒子の形状を球であると仮定して算出した直径のことである。具体的には、粒径を動的光散乱測定装置により測定し、散乱強度分布から求めた流体力学的直径の平均値を平均粒径として採用する。ここで、表面被覆微粒子の平均粒径が、例えば、15nm以上であるとは、上記の動的光散乱測定装置の散乱強度分布の各粒径ピークの割合(全ピーク累積散乱強度に対する各粒径ピークの累積散乱強度の割合)において、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上のピークの平均粒径が15nm以上であることをいう。
また、表面被覆微粒子におけるコア微粒子の粒径については、TEM、SEM、AFMなどの顕微鏡で観察した粒径値を採用することもできる。
【0042】
表面被覆微粒子を含む本発明の医薬組成物において、薬物、イオン結晶性化合物および表面被覆ポリマーの好適な組成比は、使用する薬物、イオン結晶性化合物および表面被覆ポリマーの種類、ならびにコア微粒子のサイズなどに応じて変動するため一概には言えないが、該組成比は、医薬組成物中の重量比として、例えば薬物:イオン結晶性化合物:表面被覆ポリマー=1:0.01〜1000:0.1〜1000であり得る。
【0043】
上記所定のpHは、本発明の医薬組成物が生体に投与されたときに局所刺激を回避するために、投与部位の好適な生理的pHに設定することが望ましい。上述したように、本発明の医薬組成物は、肺、口腔、眼、膣、腸および鼻などの粘膜または皮膚に投与され得るが、これらの様々の粘膜または皮膚の生理的pHは様々である。例えば、胃腸管の生理的pHは、その長さに沿って、胃における約pH1から、結腸におけるpH8まで上昇する;口腔は、6.8付近のpHを有する;鼻の流体のpHは、約pH5.5〜6.5の範囲にわたる;膣のpHは、4.5付近である。例えば、本発明の医薬組成物が鼻粘膜投与用である場合、その好ましいpH値として約6.0が挙げられる。
【0044】
本発明の医薬組成物は、微粒子(すなわち、コア微粒子または表面被覆微粒子)が標的部位に直接到達できる製剤形態であれば良く、経肺投与剤、経口投与剤、口腔内投与剤、眼内投与剤、膣内投与剤、鼻腔内投与剤、坐剤、経皮吸収剤などが挙げられる。
【0045】
経肺投与剤としては、なんらかの肺用吸入器により肺胞に送達される吸入剤が好ましい。
【0046】
経口投与剤としては、通常の経口投与製剤、例えば錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤などであるが、小腸内で薬物が放出されるように工夫された剤型、例えば腸溶性錠剤、腸溶性顆粒剤、腸溶性カプセル剤、腸溶性細粒剤が好ましい。
【0047】
口腔内投与剤、眼内投与剤および鼻腔内投与剤としては、口腔錠剤、口腔スプレー、点眼剤、点鼻剤、エアゾール、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、液剤、懸濁液剤、ローション剤、ドライパウダー剤、シート剤、貼付剤などが挙げられる。
【0048】
膣内投与剤および坐剤としては、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、液剤、懸濁液剤、ローション剤、ドライパウダー剤、シート剤、カプセル剤などが挙げられる。
【0049】
経皮吸収剤としては、薬物が皮膚から吸収されるのを可能とする剤型であれば特に限定されないが、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、ゲル状クリーム剤、液剤、ローション剤、エアゾール剤、リニメント剤、プラスター剤、パップ剤、リザーバー型パッチなどが挙げられる。これらの剤型を単独で非侵襲的に用いてもよいし、マイクロニードルや角質剥離テープ、アブレーションなどの侵襲的デバイスと組み合わせて用いてもよい。
【0050】
上記の剤型に製する方法としては、当該分野で一般的に用いられている公知の製造方法を適用することができる。また、上記の剤型に製する場合には、必要に応じて、特定の剤型に製する際に通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などの担体、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤、着色剤、保存剤、安定剤などの各種製剤添加物などを適宜、適量含有させて製造することができる。また、本発明の医薬組成物は、懸濁液を凍結乾燥するなどしてドライパウダー化した状態で保存し、使用時に該ドライパウダーに水を加えて再懸濁することもできる。かかる方法を採ることにより、医薬組成物の保存安定性を向上させるために加水分解を回避することが可能となる。
【0051】
本発明の医薬組成物における微粒子(すなわち、コア微粒子または表面被覆微粒子)の比率は、0.01〜100重量%であることが好ましく、0.1〜100重量%であることがより好ましい。
【0052】
本発明の医薬組成物は、安定かつ低毒性で安全に使用することができる。その投与頻度および1回の投与量は、使用する薬物、患者の状態や体重、投与経路、治療方針などによって異なり一概には言えないが、例えば、糖尿病などの患者に薬物としてインスリンを使用した本発明の医薬組成物を経鼻投与する場合には、一つの治療方針として、成人(体重約60kg)に対して有効成分(インスリン)として約2ないし約6mgを毎食の前に投与することができる。
【0053】
本発明はまた、上述した医薬組成物を製造する方法を提供する。但し、本発明の医薬組成物は、以下に説明する方法以外の製造方法によっても製造され得ることに留意すべきである。
【0054】
上記コア微粒子の調製は、上記水溶性の薬物と上記イオン結晶性化合物とを溶解した水溶液を、減圧下で非加熱的に乾燥することを含む方法によって、行うことができる。
【0055】
薬物とイオン結晶性化合物とを溶解した水溶液における薬物の濃度は、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.05〜20重量%である。薬物の濃度が0.01重量%よりも低い場合、製造される医薬組成物における薬物の組成比が小さくなり、製造の収率が低い点で好ましくない。薬物の濃度が30重量%よりも高い場合、乾燥による粒子化において小さいサイズの粒径とすることができない点で好ましくない。
また、薬物とイオン結晶性化合物とを溶解した水溶液におけるイオン結晶性化合物の濃度は、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.5〜30重量%である。イオン結晶性化合物の濃度が0.1重量%よりも低い場合、薬物の析出、および粒子化を効率よく起こすことができない点で好ましくない。イオン結晶性化合物の濃度が50重量%よりも高い場合、乾燥を行う前の段階で薬物の析出が始まり、小さいサイズのコア微粒子とすることができない点で好ましくない。
【0056】
上述したように、当該方法では、減圧下での非加熱的な乾燥が行われる。ここでいう「乾燥」とは、実質的に完全または部分的に、上記水溶液から水分を除去する操作を意味する。
減圧下での乾燥は、好ましくは0〜10000Pa、より好ましくは0〜600Pa、さらに好ましくは0〜200Paの圧力下で行われる。10000Paよりも高い圧力では、水分を効率よく除去できないため、好ましくない。
また、当該方法における非加熱的な乾燥は、好ましくは−200℃〜40℃、より好ましくは−100℃〜35℃の温度条件下で行われる。40℃よりも高い温度で乾燥を行った場合、薬物の溶解性が向上し、乾燥操作による薬物の析出、および粒子化の速度が遅くなり、その結果、粒径が大きくなってしまうため好ましくない。
【0057】
上記の乾燥を行うために、凍結乾燥または遠心濃縮乾燥を利用することができる。
【0058】
当該製造方法における凍結乾燥は、上記薬物とイオン結晶性化合物とを溶解した水溶液を、冷凍庫または液体窒素を利用して急速に冷却して凍結し、凍結されたものを速やかに凍結乾燥機にセットして減圧下で非加熱的に水分を除去することで行うことができる。当該操作によって、上記コア微粒子を調製することが可能である。凍結乾燥機としては、当該技術分野で使用される任意の種類のものを適宜使用すればよいが、例えばヤマト科学製のフリーズドライヤーDC400を挙げることができる。凍結乾燥を利用した製造方法では、上記水溶液を冷凍庫または液体窒素を用いて急速に冷却して凍結することで、急速に薬物を不溶化させて析出させることが可能であり、その結果、より粒径の小さいコア微粒子を製造できる点で好ましい。また、凍結乾燥を利用することにより、スケールアップ生産が可能となる点でも好ましい。
【0059】
当該製造方法における遠心濃縮乾燥は、上記薬物とイオン結晶性化合物とを溶解した水溶液を、適当な遠心濃縮乾燥機を用いて、遠心処理しながら減圧下で非加熱的に乾燥することによって水分を除去することで行うことができる。当該操作によって、上記コア微粒子を調製することが可能である。遠心濃縮乾燥機としては、当該技術分野で使用される任意のものを適宜使用すればよいが、例えばJouan concentrator evaporator system (RC10.22)やeppendorf社製Concentrator 5301を挙げることができる。遠心濃縮乾燥を利用した製造方法は、常温での水分除去による薬物の析出、および粒子化が可能であるため、凍結乾燥操作が薬物の安定性に影響を与え得る場合など、凍結乾燥を避けたい場合の代替手段として利用することができる。
【0060】
上記表面被覆微粒子の調製は、上記のようにして得られたコア微粒子を、表面被覆ポリマーが溶解した上記所定のpHを有する溶液と混合することを含む方法によって、行うことができる。あるいは、表面被覆ポリマーが該pHでは難溶性である場合、表面被覆ポリマーが易溶性であるpHで溶液中に表面被覆ポリマーを溶解させ、次いでコア微粒子と混合した後、混合液のpHを上記所定のpHに調整することを含む方法によって、表面被覆微粒子を調製することも可能である。これらの方法によって、表面被覆微粒子の懸濁液を得ることができる。得られた懸濁液を透析してもよく、あるいは透析しなくてもよい。
【0061】
上述したような方法で得られたコア微粒子または表面被覆微粒子の懸濁液から、上記したような適当な剤型に製する方法としては、当該技術分野で一般的に用いられている公知の方法を使用することができる。また、上述したように、上記の剤型に製する場合には、必要に応じて、特定の剤型に製する際に通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などの担体、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤、着色剤、保存剤、安定剤などの各種製剤添加物などを適宜、適量含有させて製造することができる。また、本発明の医薬組成物は、懸濁液を凍結乾燥するなどしてドライパウダー化した状態に製造してもよい。
【0062】
以下、実施例、比較例および試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例などによって制限されない。
【実施例】
【0063】
以下の実施例および比較例において、懸濁液中の粒子の粒径の測定は、DLS 802(Viscotek)またはELS-8000(大塚電子)を用いて動的光散乱法により行った。また、各試料の粒子のゼータ電位の測定はZeta sizer nano(Malvern)を用いて行った。
【0064】
実施例1:遠心濃縮乾燥による被覆されていないインスリンコア粒子の調製
本実施例では、タンパク質薬物としてインスリン(等電点(pI)=5.3)を使用し、遠心濃縮によってイオン結晶性化合物を含有するインスリン溶液から水分を除去することでインスリンを析出させ、インスリンコア粒子(被覆なし)を調製した。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、塩溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物58mg/mL、塩化亜鉛1.4mg/mL、塩化ナトリウム180mg/ml)2mLを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液0.25mlをガラスバイアルに移し、遠心濃縮機にて、非加熱、減圧下で水分を除去して乾固した。その乾固物に水2mLを加えて粒径測定用の懸濁液を調製した。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は730nmであった(図1)。従って、上記の調製法により、小さい粒径のコア粒子を得ることができることが分かった。
また、得られた懸濁液中の粒子のゼータ電位を測定したところ、ゼータ電位はpH6にて-10mVであった。pH6におけるインスリンのマイナス帯電を反映してコア粒子としてもマイナスに帯電していた。
【0065】
実施例2:凍結乾燥による被覆されていないインスリンコア粒子の調製
本実施例では、タンパク質薬物としてインスリン(pI=5.3)を使用し、凍結乾燥によってイオン結晶性化合物を含有するインスリン溶液から水分を除去することでインスリンを析出させ、インスリンコア粒子(被覆なし)を調製した。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、塩溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物58mg/mL、塩化亜鉛1.4mg/mL、塩化ナトリウム180mg/ml)2mLを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液0.25mlをガラスバイアルに移し、液体窒素で凍結させた後、凍結乾燥機にて、非加熱、減圧下で水分を除去して乾固した。その乾固物に水2mLを加えて粒径測定用の懸濁液を調製した。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は180nmであった(図2)。従って、上記の調製法によっても、小さい粒径のコア粒子を得ることができることが分かった。
【0066】
比較例1:冷却による被覆されていないインスリンコア粒子の調製
本比較例では、タンパク質薬物としてインスリン(pI=5.3)を使用し、冷却によってイオン結晶性化合物を含有するインスリン溶液からインスリンを析出させ、インスリンコア粒子(被覆なし)の調製を試みた。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、2mlのクエン酸ナトリウム(0.2 M)、24μlの塩化亜鉛溶液(0.12g/ml)、0.36gの塩化ナトリウムを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を少量添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液1mlをガラスバイアルに移し、4℃にて一夜冷蔵することで結晶を析出させ、インスリン粒子の懸濁液を得た。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、粒子の直径は、インスリン数分子が集まっただけと考えられる6nmから大きな凝集物まで、粒径が大きくばらついており、粒径の制御が十分に行えていないことが分かった(図3)。
【0067】
実施例3:遠心濃縮乾燥および冷却による被覆されていないインスリンコア粒子の調製
本実施例では、タンパク質薬物としてインスリン(pI=5.3)を使用し、遠心濃縮によってイオン結晶性化合物を含有するインスリン溶液から水分の一部を除去することでインスリンを析出させ、さらに冷却によって析出を促進させてインスリンコア粒子(被覆なし)を調製した。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、2mlのクエン酸ナトリウム(0.2 M)、24μlの塩化亜鉛溶液(0.12g/ml)、0.36gの塩化ナトリウムを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を少量添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液1mlをガラスバイアルに移し、遠心濃縮機にて、非加熱、減圧下で、15分間だけ乾燥操作を行い、水分の一部だけを除去した。その後、4℃にて一夜冷蔵して結晶の析出を継続し、インスリン粒子の懸濁液を得た。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は390nmであった(図4)。従って、完全乾固しなくとも少しでも非加熱、減圧下での乾燥操作を行うことで、粒径のそろった良好な粒径のインスリンコア粒子が得られることが確かめられた。
【0068】
比較例2:イオン結晶性化合物を含有しないインスリン溶液を遠心濃縮乾燥することによるインスリンコア粒子の調製
本比較例では、タンパク質薬物としてインスリン(pI=5.3)を使用し、遠心濃縮乾燥によってイオン結晶性化合物を含有しないインスリン溶液から水分を除去することでインスリンを析出させ、インスリンコア粒子(被覆なし)の調製を試みた。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、添加物溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物58mg/mL、塩化亜鉛1.4mg/mL)2mLを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液0.25mlをガラスバイアルに移し、遠心濃縮機にて、非加熱、減圧下で水分を除去して乾固した。その乾固物に水2mLを加えて粒径測定用の懸濁液を調製した。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は3200nmであった(図5)。コア粒子の表面を被覆した場合にはそれ以上の大きさになるため、粒径がここまで大きいと、本発明で目的とする使用法、特にワクチン用途の使用には適しているとはいえず、好ましくない。
【0069】
実施例1〜3および比較例1〜2の結果より、インスリン溶液にイオン結晶性化合物を添加しておくことと、減圧下非加熱での乾燥によってインスリンを析出させることとが、適度な粒径のインスリンコア粒子(被覆なし)を調製するために有効であることが分かる。減圧下非加熱での乾燥によって、インスリンの析出と同時進行でイオン結晶性化合物が析出し、析出したインスリンの過度の凝集および巨大化を防いでいると考えられる。
【0070】
実施例4:遠心濃縮乾燥によって調製されたインスリンコア粒子をキトサンで被覆することによる表面被覆微粒子の調製
本実施例では、遠心濃縮乾燥によって調製したインスリンコア粒子をキトサンで被覆することによって、表面被覆微粒子を調製した。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、塩溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物58mg/mL、塩化亜鉛1.4mg/mL、塩化ナトリウム180mg/ml)2mLを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液0.25mlをガラスバイアルに移し、遠心濃縮機にて、非加熱、減圧下で水分を除去して乾固した。その乾固物に1%(w/v)に調製したキトサン水溶液(大日精化工業製、キトサン水溶液)の1mLを加えて再懸濁させ、透析チューブ(分子量カットオフ値10000)に入れて、500mLの5mM MESバッファー(pH 6.0)に対して60分間透析した。透析後の懸濁液を試料として得た。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は1800nmであった(図6)。同様の方法で調製された実施例1のインスリンコア粒子と比べて、粒径が大きくなっていた。
また、得られた懸濁液中の粒子のゼータ電位を測定したところ、ゼータ電位はpH6にて+19mVであった。実施例1のインスリンコア粒子が、pH6でのインスリンのマイナス帯電を反映してマイナスに帯電していたのに対し、本実施例で得られた微粒子の帯電は、pH6でのキトサンのプラスの帯電に由来してプラス帯電となった。
これらのことから、キトサンによるインスリンコア粒子の被覆は良好であったことが分かる。
【0071】
実施例5:凍結乾燥によって調製されたインスリンコア粒子をキトサンで被覆することによる表面被覆微粒子の調製
本実施例では、凍結乾燥によって調製したインスリンコア粒子をキトサンで被覆することによって、表面被覆微粒子を調製した。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、塩溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物58mg/mL、塩化亜鉛1.4mg/mL、塩化ナトリウム180mg/ml)2mLを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液0.25mlをガラスバイアルに移し、液体窒素で凍結させた後、凍結乾燥機にて、非加熱、減圧下で水分を除去して乾固した。その乾固物に1%(w/v)に調製したキトサン水溶液(大日精化工業製、キトサン水溶液)の1mLを加えて再懸濁させ、透析チューブ(分子量カットオフ値10000)に入れて、500mLの5mM MESバッファー(pH 6.0)に対して60分間透析した。透析後の懸濁液を試料として得た。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は1500nmであった(図7)。同様の方法で調製された実施例2のインスリンコア粒子と比べて、粒径が大きくなっていた。
また、得られた懸濁液中の粒子のゼータ電位を測定したところ、ゼータ電位はpH6にて+17mVであった。
これらのことから、凍結乾燥による方法でも、実施例4と同様に粒径の小さい表面被覆微粒子を得ることができることが確かめられた。
【0072】
実施例6:インスリンコア粒子をDMAEMA−PEGで被覆することによる表面被覆微粒子の調製(透析なし)
本実施例では、遠心濃縮乾燥によって調製したインスリンコア粒子をDMAEMA−PEGで被覆することによって、表面被覆微粒子を調製した。調製にあたり、透析は行わなかった。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、2mlのクエン酸三ナトリウム(0.2 M)、24μlの塩化亜鉛溶液(0.12g/ml)、0.36gの塩化ナトリウムを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を少量添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液1mlをガラスバイアルに移し、遠心濃縮機にて、非加熱、減圧下で水分を完全に除去した。その乾固物に0.1%w/vのDMAEMA-stat-PEGMA水溶液(pH 6.0)の1mLを加えて再懸濁させて試料とした。
なお、DMAEMA-stat-PEGMAは、下記の化学式:
【0073】
【化1】

【0074】
を有する化合物である。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は260nmであった(図8)。
【0075】
実施例7:インスリンコア粒子をDMAEMA−PEGで被覆することによる表面被覆微粒子の調製(透析あり)
実施例6と同様にして調製した懸濁液を透析チューブ(分子量カットオフ値10000)に入れて、500mLの0.5mMクエン酸溶液(pH 6.0)に対して60分間透析した。透析後の懸濁液を試料として得た。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は260nmであった(図9)。
【0076】
実施例6および7では、表面被覆ポリマーとしてDMAEMA−PEGを使用したが、その場合も、透析の有無によらず、粒径の小さい安定な表面被覆微粒子を調製できることが確かめられた。
【0077】
実施例8:インスリンコア粒子をPEG修飾キトサンで被覆することによる表面被覆微粒子の調製
本実施例では、遠心濃縮乾燥によって調製したインスリンコア粒子をPEG修飾キトサンで被覆することによって、表面被覆微粒子を調製した。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、2mlのクエン酸三ナトリウム(0.2 M)、24μlの塩化亜鉛溶液(0.12g/ml)、0.36gの塩化ナトリウムを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を少量添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液1mlをガラスバイアルに移し、遠心濃縮機にて、非加熱、減圧下で水分を完全に除去した。その乾固物にPEG修飾キトサン(Carbomer.Inc.社製)の0.1%w/v水溶液(pH 6.0)の1mLを加えて再懸濁させて試料とした。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は510nmであった(図10)。
表面被覆ポリマーとしてPEG修飾キトサンを使用した場合も、粒径の小さい安定な表面被覆微粒子を調製できることが確かめられた。
【0078】
実施例9:卵白アルブミンコア粒子をキトサンで被覆することによる表面被覆微粒子の調製
本実施例では、遠心濃縮乾燥によって調製した卵白アルブミンコア粒子をキトサンで被覆することによって、表面被覆微粒子を調製した。
調製は以下の通りにして行った。
卵白アルブミン(Sigma)24mgに対して塩酸(0.02M)2.4mlを加えて溶解し、塩溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物59mg/mL、塩化ナトリウム180mg/ml)1.6mLを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液0.25mlをガラスバイアルに移し、遠心濃縮機にて、非加熱、減圧下で水分を除去して乾固した。その乾固物に1.5%(w/v)のキトサン水溶液(大日精化工業製、キトサン水溶液)の1mLを加えて再懸濁させ、透析チューブ(分子量カットオフ値10000)に入れて、500mLの5mM MESバッファー(pH 6.0)に対して60分間透析した。透析後の懸濁液を試料として得た。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は600nmであった(図11)。
また、得られた懸濁液中の粒子のゼータ電位を測定したところ、ゼータ電位はpH6にて+12mVであった。
本実施例では、タンパク質薬物として卵白アルブミンを使用し、塩化亜鉛を除いて遠心濃縮乾燥によって被覆粒子を調製したが、その場合も粒径の小さな表面被覆微粒子を調製できることが確かめられた。
【0079】
実施例10:卵白アルブミンコア粒子をカチオン系キトサン誘導体で被覆することによる表面被覆微粒子の調製(透析なし)
本実施例では、凍結乾燥によって調製した卵白アルブミンコア粒子をキトサンで被覆することによって、表面被覆微粒子を調製した。調製にあたり、透析は行わなかった。
調製は以下の通りにして行った。
卵白アルブミン(Sigma)24mgに対して塩酸(0.02M)2.4mlを加えて溶解し、塩溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物59mg/mL、塩化ナトリウム180mg/ml)1.6mLを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液0.25mlをガラスバイアルに移し、液体窒素で凍結させた後、凍結乾燥機にて、非加熱、減圧下で水分を除去して乾固した。その乾固物に1.1%(w/v)のカチオン系キトサン誘導体水溶液(大日精化工業製、カチオン系キトサン誘導体)の1mLを加えて再懸濁させて表面被覆微粒子を得た。その後5mM MESバッファー(pH6.5)を加えて希釈して卵白アルブミン濃度62.5μg/mlの試料を得た。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は260nmであった(図12)。
また、得られた懸濁液中の粒子のゼータ電位を測定したところ、ゼータ電位はpH6.5にて+21mVであった。
【0080】
実施例11:卵白アルブミンコア粒子をカチオン系キトサン誘導体で被覆することによる表面被覆微粒子の調製(透析あり)
本実施例では、凍結乾燥によって調製した卵白アルブミンコア粒子をキトサンで被覆することによって、表面被覆微粒子を調製した。調製にあたり、透析を行った。
調製は以下の通りにして行った。
卵白アルブミン(Sigma)24mgに対して塩酸(0.02M)2.4mlを加えて溶解し、塩溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物59mg/mL、塩化ナトリウム180mg/ml)1.6mLを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液0.25mlをガラスバイアルに移し、液体窒素で凍結させた後、凍結乾燥機にて、非加熱、減圧下で水分を除去して乾固した。その乾固物に1.1%(w/v)のカチオン系キトサン水溶液(大日精化工業製、カチオン系キトサン誘導体)の1mLを加えて再懸濁させ、透析チューブ(分子量カットオフ値10000)に入れて、500mLの5mM MESバッファー(pH 6.5)に対して30分間の透析を2回繰り返した。透析後の懸濁液を試料として得た。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は484nmであった(図13)。
また、得られた懸濁液中の粒子のゼータ電位を測定したところ、ゼータ電位はpH6.5にて+21mVであった。
【0081】
実施例10および11では、タンパク質薬物として卵白アルブミンを、表面被覆ポリマーとしてカチオン系キトサン誘導体を使用したが、その場合も、透析の有無によらず、粒径の小さい安定な表面被覆微粒子を調製できることが確かめられた。
【0082】
比較例3:ポリマーの代わりにTween80を使用した、微粒子の調製
本比較例では、DMAEMA-stat-PEGMA水溶液の代わりにTween80を使用する以外は実施例6と同様の方法で表面被覆微粒子の調製を試みた。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、2mlのクエン酸三ナトリウム(0.2 M)、24μlの塩化亜鉛溶液(0.12g/ml)、0.36gの塩化ナトリウムを添加混合した。その後、NaOH (0.1M)を少量添加してpHを6.25に調整した。得られた溶液1mlをガラスバイアルに移し、遠心濃縮機にて、非加熱、減圧下で水分を完全に除去した。その乾固物にTween80の0.1%w/v水溶液(pH 6.0)の1mLを加えて再懸濁させて試料とした。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は5000nmを上回っていた(図14)。
【0083】
比較例4:実施例8とは異なるpH設定での微粒子の調製
本実施例では、pHを6.5の代わりに4.0とした以外は実施例8と同様の方法で微粒子の調製を試みた。
調製は以下の通りにして行った。
ウシインスリン(Sigma)30mgに対して塩酸(0.02M)3mlを加えて溶解し、2mlのクエン酸三ナトリウム(0.2 M)、24μlの塩化亜鉛溶液(0.12g/ml)、0.36gの塩化ナトリウムを添加混合した。その後、HCl (0.1M)を少量添加してpHを4.0に調整した。得られた溶液1mlをガラスバイアルに移し、遠心濃縮機にて、非加熱、減圧下で水分を完全に除去した。その乾固物にPEG修飾キトサン(Carbomer.Inc社製)の0.1%w/v水溶液(pH 4.0)の1mLを加えて再懸濁させて試料とした。
得られた懸濁液中の粒子の粒径を測定したところ、主生成物の粒子の直径は5000nmを上回っていた(図15)。
【0084】
試験例1:微粒子の電子顕微鏡観察および元素分析
実施例10および11の試料について、カーボン支持膜付きCuメッシュ上に分散してのFE-TEM(HITACHI, HF-2000、加速電圧200kV)による観察、およびXMA(Kevex, Sigma, エネルギー分散型)による微粒子内部の元素分析を行なった。
図16は、実施例10の微粒子のTEM画像である。実施例10の微粒子では、表面被覆ポリマーは電子密度が低いため観察できなかったが、卵白アルブミンの粒子そのものは観察できた。その粒子の内部には四角い結晶が観察され、結晶部分をXMAにより元素分析した結果、NaとClを多量含んでいた(図17)ことから塩化ナトリウムの結晶であることが分かった。透析により微粒子表面に付着している塩化ナトリウムが除去された実施例11の微粒子のTEM画像(図18)においても、粒子内部には四角い結晶があり、結晶部分のXMAによる元素分析の結果、NaとClを多量に含んでいた(図19)ことから塩化ナトリウムの結晶であることが分かった。
【0085】
試験例2:表面被覆微粒子へのインスリンの封入効率の解析
実施例4の方法で調製したキトサン被覆インスリン粒子について、遠心分離(10,000×G、30分)により上清(遊離インスリン)を除去して粒子分画を得た。粒子分画に酢酸33%溶液を添加して、インスリンを抽出し、HPLCにてインスリン濃度を定量した後、下記の計算式:
配合したインスリンの封入効率(%)
=100×(調製した表面被覆微粒子懸濁液のインスリン含有量mg/mL)
×(調製した表面被覆微粒子懸濁液の全量mL)/(配合したインスリンの全量mg);
により配合したインスリン量と比較して封入効率を算出した。
なお、サンプルのHPLC分析は以下の条件で行った:
C18カラム(Inertsil ODS-2, 5μm, 250mm×4.6mm);
移動相A:0.1% TFA水溶液,移動相B:0.1% TFA CH3CN溶液;
グラジエント条件(移動相B濃度):0分時:30%,10分時:50%, カラムオーブン温度:40℃,流速:1.0ml/分,注入量:50μl,検出:UV275nm
その結果、配合したインスリンの封入効率は88%と算出された。このことから、透析操作を含めた上記調製法におけるインスリンの封入効率は88%と高く、大きなロスなくインスリンを粒子中に封入できていることが確認できた。
【0086】
試験例3:室温保存における外観変化の観察
実施例1および実施例4で得られた試料について、各試料を5mM MESバッファーで希釈した液の初期、および室温での一日放置後の外観を目視で観察した。
結果を下記表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
ポリマーで被覆されていない微粒子は、コロイド粒子としての安定性が悪く、一方、表面被覆微粒子は水中で長期間放置してもすぐに溶解してしまうことはなく、安定であった。従って、ポリマーで被覆することによってインスリンの溶解性を遅くすることができていることが分かった。この結果から、本発明の表面被覆微粒子による、ワクチン用途やDDS用途における天然高分子の徐放性付与の可能性を確認できた。
【0089】
試験例4:キトサン被覆インスリン微粒子の対酵素安定性試験
実施例4のキトサン被覆インスリン微粒子の懸濁液(インスリン160μg/mL、5mM MESバッファー(pH6))またはインスリン溶液(インスリン160μg/mL 、5mM MESバッファー(pH6))の0.5mLをモデル酵素溶液(αキモトリプシン(シグマ)を40μg/mLの濃度で5mM MESバッファー(pH6)に溶解したもの)0.5mLと混合して37℃で30分間振盪反応させた。反応後、冷やしておいた酢酸0.5mLを添加して混合することで、酵素反応を止めると同時にインスリンを溶解させ、HPLCによってインスリン濃度を定量することで、キトサン被覆インスリン微粒子中のインスリンの安定性、およびインスリン溶液中のインスリンの安定性を評価した。コントロール実験として、モデル酵素溶液の代わりに5mM MESバッファー(pH6)を添加し37℃での30分間の振盪反応後に同様にインスリン濃度の定量を行う試験も行った。
なお、サンプルのHPLC分析は以下の条件で行った:
C18カラム(Inertsil ODS-2,5μm,250mm×4.6mm);
移動相A:0.1% TFA水溶液,移動相B:0.1% TFA CH3CN溶液;
グラジエント条件(移動相B濃度):0分時:30%,10分時:50%,カラムオーブン温度:40℃,流速:1.0ml/分,注入量:50μl,検出:UV275nm
結果を図20に示す。インスリンと酵素とを混合した試料では、30分間の振盪反応後にインスリン含有量が50%近く減小していたのに対して、表面被覆微粒子と酵素とを混合した試料、表面被覆微粒子とバッファーとを混合した試料、およびインスリン溶液とバッファーとを混合した試料では、30分間の振盪反応でも、ほぼ同等のインスリン含有量であった。
この結果から、インスリンコア粒子をポリマーで被覆することにより、酵素分解に対するインスリンの保護効果が得られることが確認できた。
【0090】
試験例5:実施例10の微粒子の免疫実験
実施例10の微粒子(卵白アルブミン濃度62.5μg/mL,pH6.5)または卵白アルブミン溶液(卵白アルブミン濃度62.5μg/mL,pH6.5)の200μLをマウス(C57BL/6系統)の背部に皮内注射した。1週間毎の注射をさらに2回繰り返し、合計3回注射した。最後の注射から1週間後にマウスの液性免疫レベルおよび細胞性免疫レベルを評価した。液性免疫レベルの評価は、ELISA法の吸光度により、血清中のOVAに対する抗体の量を測定することによって行った。細胞性免疫レベルの評価は、摘出した脾臓細胞をOVAペプチドで刺激し、ELISPOT法のスポット数を計数することで、分泌されるIFN-γの量を測定することによって行った。
結果を下記表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
実施例10の微粒子をマウスに投与したところ、液性免疫および細胞性免疫の両方について、比較対象の溶液を投与した場合に比べて、強く免疫誘導されていることが確認された。この結果は、本発明の微粒子がワクチン用途に有用であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水溶性の薬物と(b)室温で固体である医薬上許容されるイオン結晶性化合物とからなる微粒子を含む医薬組成物であって、該イオン結晶性化合物が、該微粒子中で結晶化していることを特徴とする、当該医薬組成物。
【請求項2】
該微粒子が、不可逆的な架橋はされていないことを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
該微粒子の平均粒径が、10nm以上5000nm以下である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
該水溶性の薬物が、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、siRNA、多糖、リポペプチド、リポタンパク質、リポ多糖、低分子化合物、抗体、抗原、毒素、およびワクチンからなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
該イオン結晶性化合物が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、アンモニウムイオンからなる群より選択される1種以上の陽イオン電解質と、塩素イオン、硫酸イオン、乳酸イオン、酢酸イオン、リン酸イオン、グルコン酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオンからなる群より選択される1種以上の陰イオン電解質を構成成分として含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
該イオン結晶性化合物に対する該水溶性の薬物の重量比率が、0.001以上100以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
さらに(c)医薬上許容されるポリマーを含み、かつ、
該微粒子が所定のpHで正もしくは負の電荷を有し、該ポリマーが該pHにおいて該微粒子とは反対符号の電荷を有し、それによって該pHで該微粒子と該ポリマーとが互いに静電相互作用して該ポリマーが該微粒子の表面に付着した複合体を形成していることを特徴とする、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
該複合体の平均粒径が、15nm以上6000nm以下である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法であって、
該水溶性の薬物と該イオン結晶性化合物とを溶解した水溶液を、減圧下で非加熱的に乾燥することを含む、
当該製造方法。
【請求項10】
該乾燥が、凍結乾燥または遠心濃縮乾燥によるものである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項7または8に記載の医薬組成物の製造方法であって、
該水溶性の薬物と該イオン結晶性化合物とを溶解した水溶液を、減圧下で非加熱的に乾燥することによって該微粒子を調製すること、および、
該ポリマーが溶解した該pHを有する溶液と該微粒子とを混合することを含む、
当該製造方法。
【請求項12】
該乾燥が、凍結乾燥または遠心濃縮乾燥によるものである、請求項11に記載の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−79747(P2011−79747A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231001(P2009−231001)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】