説明

薬物高分子複合体の製造方法及び薬物高分子複合体

【課題】特性を劣化させることなく担体である高分子体中に薬物が均一に分散した薬物高分子複合体の製造方法、及びその製造方法により製造される薬物高分子複合体を提供する。
【解決手段】担体となる高分子体と薬物とを容器のキャビティ中で高分子体の軟化温度以下で混合攪拌することにより、薬物が高分子体の粒子内部にまで浸入し均一に分散した状態を形成するまでの間、高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に、再結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物高分子複合体製造方法、特に、担体となる高分子体とこれに複合される薬物とがキャビティ中で混合攪拌されることにより、薬物が高分子体の粒子内部にまで浸入し分散した状態を形成する薬物高分子複合体製造方法、及びその製造方法により製造される薬物高分子複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品製剤には、有効で副作用が少なく、さらに製造時における取り扱い易さ(ハンドリング性)、苦みのマスキング、溶解性の制御、薬物放出制御等の多様な特性が要求される。特に新規に開発される薬物の殆どが難溶性であることから、難溶性薬物の溶解性向上技術及び薬物の溶解性制御技術さらに薬物放出制御技術は、必須の製剤技術として盛んに開発検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、難溶性薬物の生物学的利用率の向上のために高速気流中衝撃式の粉体表面改質装置を用いて、バレイショデンプン、結晶セルロース等の核粒子表面に薬物をミクロンオーダー以下或いは非晶質状態で固定化する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2及び3には、薬物粉末を含む粉体原料に強力な圧縮力とせん断力を加えることにより、バインダーを用いることなく薬物複合粒子を製造する方法が開示され、この方法によって、薬物の溶出速度がこの処理をしない場合に比べて増大している例が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、無酸素条件下金属製ボールミルで、高分子化合物に高速振動処理を施して主鎖を切断することによりメカノラジカルを生成させ、これを無酸素条件下ポリテトラフルオロエチレン製ボールミルで、薬物と共に、または薬物及びビニルモノマーと共に高速振動処理することによりメカノラジカル同士またはメカノラジカルとビニルモノマーとを反応させて高分子マトリックスを形成させると同時に、この高分子マトリックスの内部に薬物を取り込んでマトリックス型徐放性製剤を製造する方法が開示されている。ここでは、無酸素条件の他に、メカノラジカル生成には金属からの電子を利用するため金属製ボールミル、メカノラジカル同士或いはメカノラジカルとビニルモノマーとの反応では新たにラジカルを発生させないためにポリテトラフルオロエチレン製ボールミルを使用しなければならないとされている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−115030号公報
【特許文献2】特開2003−12504号公報
【特許文献3】特開2004−143071号公報
【特許文献4】特開平11−269063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の粉体表面改質は、衝撃力によって核粒子の表面に薬物を固着させるに過ぎず、また、特許文献2及び3に記載された薬物複合粒子製造方法は、衝撃力、圧縮力、せん断力などの機械的力によって核となる母粒子の表面を子粒子で覆うことであって、何れも粉体表面での作用に留まっている。
【0008】
特許文献4は無酸素条件という特殊な条件下で、高分子化合物にラジカルを発生させそのラジカル同士或いはラジカルとビニルモノマーとを反応させることによりマトリックスを形成させ、その内部に薬物を取り込むものであるが、架橋反応が起きているため元の高分子の構造は変化している。
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的としてなされたものであり、担体である高分子体と薬物とを高分子体の軟化温度以下で混合分散することにより、高分子体の構造を変化させることなく高分子体の粒子内部にまで薬物が侵入し均一に分散した薬物高分子複合体の製造方法及びその製造方法により製造される薬物高分子複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、担体となる高分子体と薬物とを容器のキャビティ中で高分子体の軟化温度以下で混合攪拌することにより、薬物が高分子体の粒子内部にまで浸入し均一に分散した状態を形成することを特徴とする薬物高分子複合体製造方法である。
【0011】
請求項2に係る発明は、高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に、再結合させることを特徴とする請求項1記載の薬物高分子複合体製造方法である。
【0012】
請求項3に係る発明は、キャビティ中において回転する回転混合攪拌子によって高分子体と薬物とを混合攪拌するに際して、回転混合攪拌子の先端部周速を20m/sec以上200m/sec以下と制御し、キャビティ中の混合攪拌物の流れを層流とすることを特徴とする請求項1または2に記載の薬物高分子複合体製造方法である。
【0013】
請求項4に係る発明は、混合攪拌の前後における高分子体の分子量変化が20%以内であることを特徴とする請求項1から3に記載の薬物高分子複合体製造方法である。
【0014】
請求項5に係る発明は、高分子体の撹拌前後における構造変化がないことを特徴とする請求項1から4に記載の薬物高分子複合体製造方法である。
【0015】
請求項6に係る発明は、混合攪拌開始後の混合攪拌物にラジカル種が存在し、薬物が高分子体の粒子内部にまで浸入し均一に分散した状態を形成するまでにラジカル種が消滅することを特徴とする請求項1から5に記載の薬物高分子複合体製造方法である。
【0016】
請求項7に係る発明は、切断される化学結合が主鎖による結合であることを特徴とする請求項1から6に記載の薬物高分子複合体製造方法である。
【0017】
請求項8に係る発明は、請求項1から7に記載の薬物高分子複合体製造方法により製造される薬物高分子複合体であって、その薬物高分子複合体の粒径が平均で0.1μmから1000μm、かつその粒子内部にまで薬物が浸入し均一に分散していることを特徴とする薬物高分子複合体である。
【0018】
請求項9に係る発明は、高分子体が水溶性高分子であることを特徴とする請求項8記載の薬物高分子複合体である。
【0019】
請求項10に係る発明は、薬物が難溶性薬物であることを特徴とする請求項8または9に記載の薬物高分子複合体である。
【0020】
請求項11に係る発明は、薬物高分子複合体中で薬物の少なくとも一部が非晶質化していることを特徴とする請求項8から10に記載の薬物高分子複合体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、特性を劣化させることなく担体である高分子体の粒子内部にまで薬物が浸入し均一に分散した薬物高分子複合体の製造方法、及びその製造方法により製造される薬物高分子複合体を提供できる。
【0022】
この薬物高分子複合体は、難溶性薬物の溶解速度を向上させることができるばかりでなく、用いる高分子体の種類を変えることにより薬物の溶解性をコントロールしたり、得られた薬物高分子複合体にさらに薬物及び/または高分子体を同様に処理すること等により他の薬物を複合化したり、薬物の放出を制御したりすることが可能となる。
【0023】
例えば、難溶性薬物を水溶性高分子と複合化させて薬物の溶解速度を向上させたり、薬物を生分解性高分子と複合化させることによって薬物に徐放性を付与したりすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本実施形態に係る薬物高分子複合体製造方法及びその製造方法により得られる薬物高分子複合体について説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではない。
【0025】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、担体である高分子体とこれと複合される薬物とがキャビティ中で混合攪拌されることで、高分子体の構造を変化させることなく高分子体の粒子内部にまで薬物が侵入し均一に分散した薬物高分子複合体を製造する製造方法、及びその製造方法により製造される薬物高分子複合体を見いだした。
【0026】
なお、本実施形態において、薬物高分子複合体とは高分子体中にこれと複合される薬物が均一に分散させられて存在する状態をいい、薬物高分子複合体が粉末状態で得られる場合、その高分子体の粉末粒子の表面だけでなく内部にまで薬物が浸入し均一に分散している状態をいう。
【0027】
この混合攪拌の状態とは、高分子体の軟化温度以下で混合攪拌し、その高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断された後に再結合させるというものである。本発明者らは、この現象がこのような混合撹拌状態下で製造される薬物高分子複合体の均一分散性及び特性劣化の抑制に有効であることを見出した。
【0028】
この混合撹拌を高分子体の軟化温度以下の温度という低温下で実施することで、熱による特性劣化が防止できる温度状態で、攪拌時間を短くし、衝撃力及び/または摩擦熱による特性劣化の抑制及び均一分散性の好適化を従来に比べより好適に図ることのできる薬物高分子複合体を提供できる。
【0029】
軟化温度以下の低温で短時間に所望の分散状態を得るには、高分子体を一時的に低分子量化することを利用する。キャビティ中で高分子体と薬物とを混合攪拌する際に、一方向に回転する回転混合撹拌子が高分子体に与える物理的衝撃力、及びこの回転混合撹拌子が作る層流によって高分子体に与えられる遠心力等により、高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されることで、高分子体の少なくとも一部が撹拌前よりも一時的に低分子量体化される。この低分子量体は、一時的に低分子量体化される前の高分子体単独よりも薬物を容易に拡散させ、短時間に混合攪拌物を所望の分散状態へ導くことに寄与することができる。短時間に所望の分散状態を得ることができるので長時間の攪拌に伴う衝撃力及び/または摩擦熱による特性劣化を防止できる。上記化学結合は、高分子鎖の主鎖であると並進運動の易動性が起きやすい。
【0030】
次に、生じた低分子量体を殆ど再結合させる。ここで、再結合とは、一時的に低分子量化された高分子体同士の再結合を主とする結合をいう。このように一時的に生成した低分子量体は、所望の分散状態を得るまでにその殆どが再結合するので、低分子量体が薬物などと反応して生じるような特性劣化は防止できる。殆ど結合したかどうかは、下記で述べるような攪拌前後のESRスペクトル、赤外線吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトル、分子量変化などから判断することができる。
【0031】
高分子体の低分子量化、及び低分子量化された後の高分子体の再結合を判定するためには、ESRスペクトルなどのラジカル種発生・消滅の有無の検出、赤外線吸収スペクトルや核磁気共鳴スペクトルによる実質的同一性の判定、分子量変化が所定値以内であるという判定など各判定手段を用いることができる他、高分子体の緩和時間なども挙げられる。
【0032】
また、本発明で得られた薬物高分子複合体の高分子体の分子量が、所望の変化量内、例えば20%以内であることを判定するためには、分子量を測定するゲルパーミエーションクロマトグラフィー、光散乱法、遠心分離法、粘度測定法などが挙げられる。
【0033】
なお、本発明では得られた薬物高分子複合体の高分子体の構造、特に一次構造が、混合前の高分子体のそれと比較し、変化のないことを判定するためには、赤外線吸収スペクトルや核磁気共鳴スペクトルなどが用いられる。
【0034】
本発明の薬物高分子複合体を製造するには、担体である高分子体に薬物を混合分散するに際して、薬物が高分子体中に所望の分散状態を形成するまでの間、高分子体の軟化温度以下で混合攪拌することにより、高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に、再結合させることを利用する。
【0035】
本発明者らは、担体である高分子体に薬物を混合分散するに際して、高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断され低分子量化された後に再結合させる状態を作ることにより、従来に比べ高分子体中に薬剤をより均一に分散させることができ、かつ特性劣化の抑制に効果的であることを見出した。
【0036】
例えば、上記薬物高分子複合体の各判定手段を用いれば、高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態を形成するなど当業者であれば製造方法を設計することができる。
【0037】
本発明者らは、上記判定手段を用いて、容器のキャビティ中において回転し、高分子体と薬物とを混合撹拌する回転混合撹拌子を備える高分子複合体製造装置において、高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態を得る高分子複合体製造装置を設計した結果、高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態を得られやすい条件を見出すことができた。
【0038】
また、本発明者らは、回転混合撹拌子の先端部周速を20m/sec以上200m/sec以下と制御し、キャビティ中の流れを層流とすると高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態を得られやすいことを見出すことができた。なお、層流とは粉体攪拌を含む概念であり、キャビティとして、円筒形状の内部空間が用いられる場合には、混合物質が同心円状に移動し、径方向にはほとんど移動しない状態で定義され、その状態は目視により確認することができる。
【0039】
また、キャビティとして、円柱形状の中空空間が用いられると高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態を得られやすいことも見いだすことができた。
【0040】
回転混合攪拌子は、羽根状の形状を有すると高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態は得られやすいことも見いだすことができた。これら条件を多く合わせるほど、望ましくは全部、合わせることにより高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態は得られやすい。
【0041】
回転混合撹拌子の先端部周速は200m/secを超えると摩擦による発熱が激しくなり、高分子体、薬物及び/または生成した薬物高分子複合体を熱劣化させる原因となる場合がある。熱劣化は、一時的に高分子体の化学結合が切断されて低分子量化させられた際に切断部位の再結合能を低下させる。通常は切断された高分子体は、撹拌エネルギーの低下に伴い、再結合するが、熱劣化はこの低分子量化させられた高分子体の結合を妨げる傾向にあるので、低分子量化させられた高分子体が結合できない場合が多くなり、結合できない低分子量化させられた高分子体は高分子体、薬物及び/または生成した薬物高分子複合体などを攻撃して結合し、形成された薬物高分子複合体の特性を劣化させる場合がある。回転混合撹拌子の先端部周速が20m/sec未満であると層流撹拌が得られず、高分子体に十分な衝撃力及び遠心力が伝達できず、一時的に低分子量化されないので、高分子体内部にまで薬物が拡散していない分散不良となってしまう場合がある。
【0042】
混合撹拌状態は、層流状態下で行われている。乱流である場合に比べ層流であると遠心力や回転羽根との衝撃による剪断力等を効率よく用いることができ、一時的に低分子量化させられた高分子体を生成することに有利である。遠心力や剪断力等を効率よく用いることができるので、羽根の周速を最小限に抑えることができ、摩擦熱等による特性劣化を防止することができる。同心円状撹拌である層流については目視で当業者が判定することができる。
【0043】
高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態を形成できる高分子複合体製造装置の一例を以下、図面に基づいて説明する。図2、図3には、本実施形態に係る高分子複合体製造装置100の断面図が示される。図2は後述の回転軸体14の重力方向に対して垂直方向である回転軸方向を縦方向とし、重力方向面で切断した縦方向断面図、図3は回転軸方向に対して垂直面を横方向とし、重力方向面の垂直面で切断した、図2のX−X’横方向断面図である。
【0044】
高分子複合体製造装置100は、容器となるキャビティ10を取り囲んで形成する内壁面部材32とその内部に形成されるキャビティ10とで構成され、その内部のキャビティ10に高分子体と薬物が混入され、混合攪拌される混合攪拌チャンバ12を備えている。
【0045】
混合攪拌チャンバ12は内壁面部材32が円筒形状を有し、それに取り囲まれるキャビティ10も円筒形状の内部空間を形成している。
【0046】
キャビティ10は、底面となる横方向の断面は真円形状である円筒形状であり、底面の直径は198mm、高さは162mmである円筒形状の内部空間である。
【0047】
内壁面部材32はキャビティ10と同様に横方向の断面は真円形状であり、その半径は99mmである。内壁面部材32の厚さは5mmである。内壁面部材32は、材料を“DUSA−RESIST”を用いたものであり、そのキャビティ10側の面は平滑面である。
【0048】
混合攪拌チャンバ12には、横方向において、中心軸に設けられる回転軸体14が貫通して設けられている。回転軸体14は、円柱形状であり、キャビティ10外に対してその内部の回転軸体14は太い形状を有するが、キャビティ10外、その内部それぞれについては一様な太さを有している。この回転軸体14は図示しない回転軸を駆動させる回転軸駆動手段により、横方向に対して左回りに回転させられる回転機構である。回転軸体14の横方向の直径は123mmであり、混合攪拌チャンバ12内の縦方向の長さは162mmである。その材料はSUS316である。
【0049】
回転軸体14には、キャビティ10内部に混入された高分子体と薬物とを回転軸体14が回転することにより混合攪拌する回転羽根18a、18b、18c、18dが回転攪拌子として複数個、4箇所に取り付けられている。
【0050】
回転羽根18a、18b、18c、18dは、その全てが回転軸体14に向かって細くなる扇形形状を表面30に有している。この扇形形状はその表面30であり、より具体的には、二等辺三角形が二つ側面方向から併合される形状に擬似される四角形の形状である。
【0051】
扇形形状の表面30は回転軸体14に取り付けられる部分では殆ど面積を有さない状態となる。一方側面28は厚みを持っており、回転羽根で同一の厚さを有しているので、回転羽根18a、18b、18c、18dは、回転軸体14と側面28のほとんど厚みのみの線状の当接面で取り付けられている。表面30および表面の反対面の面積は500mmであり、側面28の厚さはシャフト側が10mmであり、先端が2mmの傾斜がつけられている。
【0052】
回転羽根18a、18b、18c、18dは、その全ての体積は同様である。また、側面形状および側面面積、表面形状および表面面積はその全てが同様である。回転羽根18a、18b、18c、18dを構成する材料はステンレス(ステライト溶射)などが挙げられる。表面30および表面の反対面、側面の表面形状は平滑面である。
【0053】
回転羽根18a、18b、18c、18dのうちいずれの2つ以上の回転羽根は、縦方向に対して一致する位置に設けられずずらされた位置関係となっている。回転羽根18a、18b、18c、18dがずらされる距離は隣の羽根にまで等間隔の65mmとされている。
【0054】
回転羽根18a、18b、18c、18dは、回転軸体14に取り付けられる相対的な、縦方向に対しての位置関係は全てずらされた位置にあり、回転羽根18a、18b、18c、18dのうちいずれの2つ以上の回転羽根は、縦方向に対して一致する位置に設けられていない。回転羽根18a、18b、18c、18dがずらされる距離は隣の羽根にまで等間隔とされている。
【0055】
回転羽根18a、18b、18c、18dは、回転軸体14に取り付けられる相対的な、横方向に対しての位置関係は角度を180°ずらされた正反対の位置関係にある。回転羽根18a、18bは同方向にあり、回転羽根18c、18dは回転羽根18a、18bと正反対の位置関係にある。それぞれ同方向にある回転羽根は略一致した位置に配置されている。
【0056】
回転羽根18a、18b、18c、18dは、回転軸体14と取り付けられる角度が回転軸体14に対して縦方向、横方向からずらされた斜め方向の位置に設けられている。横方向に対して同方向である回転羽根18aと18b、回転羽根18cと18dとはそれぞれ回転軸体14と取り付けられる角度が一致し、正反対の位置関係にある羽根同士は角度を90°ずらされて取り付けられている。
【0057】
回転羽根18a、18b、18c、18dは、その内壁面部材32に最も近い先端部26と内壁面部材32との間に間隙を有している。間隙の大きさは回転羽根18a、18b、18c、18dの全てにおいて1mmである。回転中もこの間隙の大きさは一様とされている。なお、図2中、掻き取り羽根36はキャビティ10の底面に沿って配置される。掻き取り羽根36は回転羽根の一部で、キャビティ内の端に存在する材料を内側に掻き取る。
【0058】
回転軸体14が回転することで、回転羽根18a、18b、18c、18dによりキャビティ内部に混入された高分子体と薬物34とが重力方向に垂直攪拌される(図2)。この垂直攪拌は、層流の同心円状攪拌となる層流状態で攪拌される(図3)。図3では、高分子体と薬物34とが円周に沿って真円形状を形成するように層流攪拌されている。
【0059】
混合攪拌チャンバ12は、回転軸体14の回転軸方向に対して垂直な側面壁に取り付けられ、これを通じて高分子体及び/または薬物がキャビティ10に混入されるホッパー部16を有している。
【0060】
ホッパー部16は、円錐形状の壁面部材からなるホッパー壁面部材24とこのホッパー壁面部材24が形成するホッパー貫通穴22から構成される。
【0061】
ホッパー貫通穴22は、高分子体及び/または薬物が投入されるホッパー口24から壁面貫通穴20へ向かって円錐形状にしぼむ貫通穴形状を有している。
【0062】
壁面貫通穴20は、混合攪拌チャンバ12の側面壁であって、重力方向と反対方向の壁を貫通させた壁面貫通穴20である。この壁面貫通穴20にホッパー壁面部材24が接合されることでホッパー部16は混合攪拌チャンバ12に取り付けられる。
【0063】
高分子体及び/または薬物は、外部からホッパー口24へと投入される。投入された高分子体及び/または薬物は、ホッパー貫通穴22を経て、最終的に壁面貫通穴20を通じて、キャビティ10中に混入される。
【0064】
次に、上記高分子複合体製造装置を用いて、高分子体と薬物を混合攪拌し、薬物高分子複合体を形成する方法について説明する。
【0065】
高分子体と薬物34をホッパー口24から投入して、キャビティ10内部へと混入する。混入後、高分子体及び薬物の軟化温度以下に設定し、回転軸体14を回転させる。回転軸体14の回転周速は、回転羽根18a、18b、18c、18dの先端の周速が20m/sec〜200m/secとなるように制御し、図3に示される層流攪拌とする。所望の分散及び複合固定化状態を形成した後、薬物高分子複合体は取り出される。
【0066】
薬物高分子複合体は、撹拌時間、周速、キャビティ内への高分子体及び薬物の投入量などの条件を選ぶことにより、必要に応じて粉状ではなく溶融固化状態で得ることもできる。これは、所望の分散状態が得られた後、さらに撹拌することによりキャビティ内部で薬物高分子複合体と回転混合攪拌子との衝撃などにより発生する熱を利用して溶融状態とするものであるが、溶融状態になった後直ちに回転を止めることで熱による特性劣化を抑えながら、溶融固化状態とすることができる。なお、溶融状態は、粘度の急激な上昇から容易に判定できる。
【0067】
なお、回転軸及び円筒形のキャビティが基盤に対して縦型である縦型混合機の場合でも、一定速度の層流が得られるように設計されたものであれば使用できる。また、撹拌時の温度を調整するために、キャビティの外側及び/または回転部分に水などの冷媒を通すなどすることもできる。
【0068】
薬物高分子複合体に用いられる高分子の種類には特に制限が無いが、多糖類を具体例としてあげることができる。多糖類は、種々の単糖類の縮重合によって生体系で合成される生体高分子であり、ここではそれらをもとに化学修飾したものも含まれる。例えば、セルロース及びヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース及びその誘導体、小麦デンプン、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、シクロデキストリン、アミロース、アミロペクチンなどのデンプン類及びそれらの誘導体、その他にプルラン、カードラン、ザンタン、キチン、キトサン、カラギーナン、マンナンなど及びそれらの誘導体が挙げられる。
【0069】
合成の高分子としては、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリルアミド、ポリ(4−アセトアミノフェニルメタクリレート)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸など及びそれらの共重合体が挙げられる。
【0070】
本発明で使用する薬物としては、特に限定されないが、例えば以下のようなものを挙げることができる。
【0071】
1.解熱・鎮痛・消炎剤:インドメタシン、アスピリン、ジクロフェナックナトリウム、ケトプロフェン、イブプロフェン、メフェナム酸、デキサメタゾン、デキサメタゾン硫酸ナトリウム、ハイドロコーチゾン、プレドニゾロン、アズレン、フェナセチン、イソプロピルアンチピリン、アセトアミノフェン、塩酸ペンジタミン、フェニルブタゾン、フルフェナム酸、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸コリン、サザピリン、クロフェゾン、エトドラック。
【0072】
2.抗潰瘍剤:スルピリド、塩酸セトラキサート、ゲフェルナート、マレイン酸イルソグラジン、シメチジン、塩酸ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン、塩酸ロキサチジンアセテート。
【0073】
3.冠血管拡張剤:ニフェジピン、二硝酸イソソルビット、塩酸ジルチアゼム、トラピジル、ジピリダモール、塩酸ジラゼプ、メチル、2,6−ジメチル−4−(2−ニトロフェニル)−5−(2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イル)−1,4−ジヒドロピリジン−3−カルボキシレート、ベラパミル、ニカルジピン、塩酸ニカルジピン、塩酸ベラパミル。
【0074】
4.末梢血管拡張剤:酒石酸イフェンプロジル、マレイン酸シネパシド、シクランデレート、シンナリジン、ペントキシフィリン。
【0075】
5.抗生物質:アンピシリン、アモキシリン、セファレキシン、エチルコハク酸エリスロマイシン、塩酸バカンピシン、塩酸ミノサイクリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、エリスロマイシン。
【0076】
6.合成抗菌剤:ナリジクス酸、ピロミド酸、ピペミド酸三水和物、エノキサシン、シノキサシン、オフロキサシン、ノルフロキサシン、塩酸シプロフロキサン、スルファメトキサゾール・トリメトプリム。
【0077】
7.鎮けい剤:臭化プロパンテリン、硫酸アトロピン、臭化オキソビウム、臭化チメピジウム、臭化ブチルスコポラミン、塩化トロスピウム、臭化ブトロピウム、N−メチルスコポラミンメチル硫酸、臭化メチルオクタトロピン。
【0078】
8.鎮咳、抗喘息剤:テオフィリン、アミノフィリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸プロカテロール、塩酸トリメトキノール、リン酸コデイン、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、臭化水素酸デキストロメトルファン、リン酸ジメモルファン、塩酸クロブチノール、塩酸ホミノベン、リン酸ベンプロペリン、ヒベンズ酸チペピジン、塩酸エプラジノン、塩酸クロフェダノール、塩酸エフェドリン、ノスカピン、クエン酸カルベタペンテン、タンニン酸オキセラジン、クエン酸イソアミニル。
【0079】
9.気管支拡張剤:ジプロフィリン、硫酸サルブタモール、塩酸クロルプレナリン、フマル酸フォルモテロール、硫酸オルシプレナリン、塩酸ピルブテロール、硫酸ヘキソプレナリン、メシル酸ビトルテロール、塩酸クレンブテロール、硫酸テルブタリン、塩酸マブテロール、臭化水素酸フェノテロール、塩酸メトキシフェナミン。
【0080】
10.強心剤:塩酸ドパミン、塩酸ドブタミン、ドカルパミン、デノパミン、カフェイン、ジゴキシン、ジギトキシン、ユビデカレノン。
【0081】
11.利尿剤:フロセミド、アセタゾラミド、トリクロルメチアジド、メチクロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、エチアジド、シクロペンチアジド、スピロノラクトン、トリアムテレン、フロロチアジド、ピレタニド、メフルシド、エタクリン酸、アゾセミド、クロフェナミド。
【0082】
12.筋弛緩剤:カルバミン酸クロルフェネシン、塩酸トルペリゾン、塩酸エペリゾン、塩酸チザニジン、メフェネシン、クロルゾキサゾン、フェンプロバメート、メトカルバモール、クロルメザノン、メシル酸プリジノール、アフロクアロン、バクロフェン、ダントロレンナトリウム。
【0083】
13.脳代謝改善剤:塩酸メクロフェノキセート、ニセルゴリン。
【0084】
14.マイナートランキライザー:オキサゾラム、ジアゼパム、クロチアゼパム、メダゼパム、テマゼパム、フルジアゼパム、メプロバメート、ニトラゼパム、クロルジアゼボキシド。
【0085】
15.メジャートランキライザー:スルピリド、塩酸クロカプラミン、ゾテピン、クロルプロマジノン、ハロペリドール。
【0086】
16.β−ブロッカー:ピンドロール、塩酸プロプラノロール、塩酸カルテオロール、酒石酸メトプロロール、塩酸ラベタロール、塩酸アセブトロール、塩酸ブフェトロール、塩酸アルプレノロール、塩酸アロチノロール、塩酸オクスプレノロール、ナドロール、塩酸ブクモロール、塩酸インデノロール、マレイン酸チモロール、塩酸ベフノロール、塩酸ブプラノロール。
【0087】
17.抗不整脈剤:塩酸プロカインアミド、ジソピラミド、アジマリン、硫酸キニジン、塩酸アプリンジン、塩酸プロパフェノン、塩酸メキシレチン。
【0088】
18.痛風治療剤:アロプリノール、プロベネシド、コルヒチン、スルフィンピラゾン、ベンズブロマロン、ブコローム。
【0089】
19.血液凝固阻止剤:塩酸チクロピジン、ジクマロール、ワルファリンカリウム。
【0090】
20.抗てんかん剤 フェニトイン、バルプロ酸ナトリウム、メタルピタール、カルバマゼピン。
【0091】
21.抗ヒスタミン剤:マレイン酸クロルフェニラミン、フマール酸クレマスチン、メキタジン、酒石酸アリメマジン、塩酸サイクロヘプタジン。
【0092】
22.鎮吐剤:塩酸ジフェニドール、メトクロプラミド、ドンペリドン、メシル酸ベタヒスチン、マレイン酸トリメブチン。
【0093】
23.降圧剤:塩酸レセルピン酸ジメチルアミノエチル、レシナミン、メチルドパ、塩酸プラゾシン、塩酸ブチゾシン、塩酸クロニジン、ブドララジン、ウラピジル。
【0094】
24.交感神経興奮剤:メシル酸ジヒドロエルゴタミン、塩酸イソプロテレノール、塩酸エチレフリン。
【0095】
25.去たん剤:塩酸ブロムヘキシン、カルボシスティン、塩酸エチルシスティン、塩酸メチルシスティン。
【0096】
26.経口糖尿病治療剤:グリベングラミド、トルブタミド、グリミジンナトリウム。
【0097】
27.循環器用剤:ユビデカレノン、ATP−2Na。
【0098】
28.鉄剤:硫酸第一鉄、乾燥硫酸鉄。
【0099】
29.ビタミン剤:ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、葉酸。
【0100】
30.頻尿治療剤:塩酸フラボキサート、塩酸オキシブチニン、塩酸テロリジン、4−ジエチルアミノ−1,1−ジメチル−2−ブチニル(±)−α−シクロヘキシル−α−フェニルグリコレートハイドロクロライドモノハイドレート。
【0101】
31.アンジオテンシン変換酵素阻害剤:マレイン酸エナラプリル、アラセプリル、塩酸デラプリル。
【0102】
32.ホルモン:エピネフィリン、デキサメタゾン、インシュリン、LH-RHアナログ。
【0103】
33.抗癌剤:カルモフール、シクロフォスファミド、メトトレキサレート。
【0104】
本発明の薬物高分子複合体の製造において薬物と高分子体を混合撹拌して複合化させるに際し、薬物及び/または高分子体は粉砕されたり、場合によっては凝集したりするが、薬物及び高分子体の種類並びに混合撹拌の条件などを選ぶことによって生成する薬物高分子複合体の粒子径をコントロールすることができ、その範囲は平均粒径で0.1μm以上1000μm以下である。
【0105】
また、本発明の薬物高分子複合体は担体として水溶性高分子を用いることにより難溶性薬物の可溶化に好適に用いることができる。本発明において難溶性薬物とは、温度25℃で第14改正日本薬局方収載の第1液または第2液に0.5mg/ml以下の溶解度を有する薬物をいう。
【0106】
薬物は粉末状のものが用いられ、その平均粒子径は0.01μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上10μ以下である。また、薬物の配合量は複合化により得られる薬物高分子複合体の0.01重量%以上70%以下であるが、好ましくは0.1重量%以上50重量%以下である。なお、粒子径はKozeny-Carman式に基づく空気透過法を用いて測定できるが、他にレーザー回折式の粒度分布測定器などの測定機及び顕微鏡写真などを利用して測定できる。
【0107】
高分子体は、遠心力や回転羽根との衝撃力による剪断力を効率的に利用して高分子体に薬物を複合化させるため薬物粉末より大きいことが好ましく、その平均粒子径は薬物粉末の2倍から1000倍の範囲にあることがさらに好ましい。また、その配合量は複合化により得られる薬物高分子複合体の99.99重量%以下30重量%が好ましく、さらに好ましくは99重量%以下50重量%以上である。
【0108】
本発明の薬物高分子体複合体には、高分子体及び薬物以外に、その要求される性質に応じて他の添加剤を加えることができる。これらの添加剤は、前もって高分子体または薬物に添加しておいても、混合撹拌の際に添加してもよい。また、前もって製造した薬物高分子複合体に他の薬物を同様の方法で複合化することもできる。これらの添加剤としては、滑沢剤、コート剤、紫外線散乱剤及び賦形剤などが挙げられる
【実施例】
【0109】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これら具体例には限定されることはない。
【0110】
「高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態の判定手段」
高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態となる装置を設計するために、以下のESR(Electron Spin Resonance)分析、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)分析、IR(赤外線吸収スペクトル)分析を用いて設計した装置が所望の状態を形成できるか判定し、上記実施形態に係る装置を設計した。
【0111】
<ESRによるラジカルの検出>
攪拌中と攪拌停止直後で2点を液体窒素中に一度に投入し、十分冷却した後試料管に封入し、日本電子社製ESR、FA200を用い、温度77K、掃引磁場320±7.5mT、磁場変調周波数100kHz、磁場変調幅0.2mT、時定数0.1、マイクロ波出力1mWにて測定し、攪拌中と攪拌停止直後の2点のスペクトルを比較した。
【0112】
<GPCによる分子量変化の検出>
攪拌する前の高分子体と攪拌後の高分子体の2点を0.02wt%の溶液に調製し、TOSOH製カラム、model TSK−GEL GMHHR−H(S)HとRI検出器、を備えた(株)センシュー科学製GPC装置、model SSC−7100を用い、流量1mL/min、温度140℃にて測定した。得られたクロマトグラムを標準ポリスチレン換算し、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)について攪拌する前の高分子体と攪拌後の高分子体の分子量を求め、比較した。
【0113】
<赤外線吸収スペクトルによる構造変化の検出>
攪拌する前の高分子体と攪拌後の高分子体の2点をPerkin Elmer社製FT−IR分光光度計を用いてSpectrum One法にて測定し、攪拌中と攪拌停止直後の2点のスペクトルを比較した。
【0114】
「実施例1」
<製造方法>
低密度ポリエチレン(宇部ポリエチレン社製:F522N、3mm径ペレット)の粉砕品(平均粒径400μm)9重量部、平均粒径4μmのフロセミド1重量部(和光純薬社製)を、混合機として上記実施形態に係る図2、図3に記載される高分子複合体製造装置のホッパー口より投入し、先端周速21m/secにて3分間室温で攪拌し、フロセミドとポリエチレンの複合体を得た。
【0115】
<高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態の観測>
図1に示したESRスペクトルから、攪拌中と停止直後のラジカル種の有無により高分子主鎖の切断と再結合が確認された。すなわち、攪拌中にラジカル種に基づく吸収スペクトルが確認されたことから、高分子主鎖が切断され、一時的に低分子量化された高分子体が生じていることがわかる。停止直後にラジカル種に基づく吸収スペクトルが消失していることから殆ど一時的に低分子量化された高分子体は再結合していることがわかる。
【0116】
表1に本攪拌物の攪拌前後におけるGPC分析による高分子体の分子量変化(数平均分子量:Mn、重量平均分子量:Mw)を示す。それより撹拌による分子量変化は20%以内であり、分子量が殆ど変化していないことが分かった。これにより一時的に低分子量化された高分子体は殆ど再結合していることがわかる。
【0117】
図4に示した赤外線吸収スペクトルは、吸収ピークが攪拌前後で一致しており、攪拌前後での高分子体の構造上の変化がないことが確認された。
【0118】
以上、図1及び4、表1から高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態を形成していることがわかり、本実施例および実施形態に係る高分子複合体製造装置は、高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に再結合される状態を形成できる高分子複合体製造装置であることが判定できた。
【0119】
【表1】

【0120】
「実施例2及び3」
表2に示すように、実施例1と同じ材料を同重量比率、同周速で、同じ混合機を用い、室温で、撹拌時間を変化させて薬物高分子複合体を得た。
【0121】
「比較例1」
表2に示すように、実施例1と同じ材料を同重量比率でポリエチレン袋中に入れ、5分間室温で手振り混合して薬物と高分子体の物理的混合物を得た。
【0122】
<薬物高分子複合体の薬物分散性の評価>
実施例1から3で得られた薬物高分子複合体、及び比較例1で得られた物理的混合物の各々一定量を秤量し、アセトンに一昼夜浸漬後、超音波洗浄機で3分間超音波処理した後、濾過し、不溶物をアセトンで5回洗浄した。得られた不溶物を200℃でプレスしてフィルムに成形し、そこに含まれているフロセミドを、Perkin Elmer社製FT−IR分光光度計によりフロセミドの特性吸収である3285cm−1の吸収を用いて定量し、フロセミドの残存率を計算した。その結果を表2に示した。
【0123】
【表2】

【0124】
表2によると、比較例1のように単に手で振り混ぜた物理的混合物では、薬物であるフロセミドは高分子体の表面に留まって中にまで浸入分散できないためアセトンで容易に洗い出されてしまう。一方、実施例1から3では、フロセミドは高分子体であるポリエチレン粒子の内部にまで浸入分散するためアセトンで洗っても少なくとも一部はポリエチレン内部に留まり、かつその量は処理時間が長くなると多くなり、30分処理では大部分の薬物が高分子体であるポリエチレン中に留まっていることが分かる。
【0125】
「実施例4」
平均粒径30μmのヒドロキシプロピルセルロース(HPC:L―Type 日本曹達社製)9重量部に平均粒径4μmのフロセミド1重量部(和光純薬社製)を、混合機として上記実施形態に係る図2、図3に記載される高分子複合体製造装置のホッパー口より投入し、先端周速21m/secにて1分間室温で攪拌し、フロセミドとHPCの複合体を得た。
【0126】
「実施例5〜7」
実施例4と同じ材料を同重量比率、同周速で、同じ混合機を用い、室温で、撹拌時間を3分(実施例5)、10分(実施例6)、30分(実施例7)と変化させて薬物高分子複合体を得た。
【0127】
実施例7の薬物高分子複合体の一定量をアセトンに溶解し、その中に含まれるフロセミドの量を下記の条件で高速液体クロマトグラフィを用いて定量することにより混合撹拌前後でフロセミド量に変化のないことを確認した。
【0128】
カラム:SUPELCO社製 Ascentis C18、3μm
Catalog#581320−U
溶出液:メタノール、2ml/min、40℃
検出: UV(280nm)
【0129】
「比較例2」
実施例4と同じ材料を同重量比率でポリエチレン袋中に入れ、5分間室温で手振り混合して薬物と高分子体の物理的混合物を得た。
【0130】
<薬物高分子複合体の薬物分散性の評価>
実施例4から7で得られた薬物高分子複合体及び比較例2で得られた物理的混合物についてリガク製X線回折測定装置 Geigerflex Rad IBを用いてX線回折を測定した。その結果を図5に示す。
【0131】
図5の左上はフロセミド、左下はHPCのX線回折である。図5の右側に比較例2及び実施例4から7のX線回折の測定結果を示す。右上の物理的混合物(比較例2)ではフロセミドの結晶に由来する回折が観察されるが、1分処理(実施例4)ではその結晶に由来する回折が小さくなり、処理時間が長くなるにつれさらにその回折が小さくなり30分(実施例7)では完全に消失している。
【0132】
また、図6Aには比較例2で得られた物理的混合物表面の電子顕微鏡写真を示すが、HPC粒子の表面に数μm程度のフロセミドが付着している様子が観察される。図6Bから6Eは各々実施例4から7で得られた薬物高分子複合体の粒子表面の電子顕微鏡写真であるが、それらの写真では、処理時間が長くなるほどHPC表面のフロセミドによると思われる小粒子が小さくなり、30分の処理(実施例7)ではHPC表面が平滑になり、その粒子が全く見えなくなってしまうことがわかる。これは薬物であるフロセミドが、処理時間が短い場合はHPC表面に少なくとも一部が留まっているが、処理時間が長くなるに従ってHPCの粒子表面から内部にまで浸入分散していることを示している。
【0133】
図7Aには実施例5で得られた薬物高分子複合体の粒子表面の電子顕微鏡写真を、図7Bにはその同じ部分のエネルギー分散型蛍光X線分析の結果を示す。これらの図によると、図7Bにおいて写真全面に分布している小さな白い点はフロセミドに含まれる硫黄原子に由来するものであるが、HPC粒子表面に極めて均一微細に硫黄原子すなわちフロセミドが分散していることがわかる。
【0134】
これら実施例4から7のX線回折の結果と表2の結果とを併せて考察すると、本発明の薬物高分子複合体は担体である高分子体の粒子内部にまで薬物が侵入し均一に分散していることがわかる。
【0135】
<溶解性の評価>
実施例4から7で得られた薬物高分子複合体、比較例2の物理的混合物及びフロセミド粉末について、第14改正日本薬局方収載の溶出試験法に従い溶出試験を実施した。図8にその結果示すが、フロセミド粉末及び物理的混合物と比べ実施例4から7の薬物高分子複合体では明らかに溶解速度が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明によれば、難溶性薬物の溶解速度を向上させることができるばかりでなく、用いる高分子体の種類を変えることにより薬物の溶解性をコントロールしたり、得られた薬物高分子複合体にさらに薬物及び/または高分子体を同様に処理すること等により他の薬物を複合化したり、薬物の放出を制御したりすることが可能となり、製薬技術として大いに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】実施例1に係るESRスペクトルである。
【図2】本実施形態に係る高分子複合体製造装置の断面図である。
【図3】本実施形態に係る高分子複合体製造装置の断面図である。
【図4】実施例1に係る赤外線吸収スペクトルである。
【図5】実施例4から7及び比較例2に係る粉末X線結晶回折である。
【図6A】比較例2に係る電子顕微鏡写真である。
【図6B】実施例4に係る電子顕微鏡写真である。
【図6C】実施例5に係る電子顕微鏡写真である。
【図6D】実施例6に係る電子顕微鏡写真である。
【図6E】実施例7に係る電子顕微鏡写真である。
【図7A】実施例5に係る電子顕微鏡写真である。
【図7B】実施例5に係るエネルギー分散型蛍光X線分析写真である。
【図8】実施例4から7及び比較例2に係る薬物の溶解速度を表す図である。
【符号の説明】
【0138】
10 キャビティ
12 混合撹拌チャンバ
14 回転軸体
16 ホッパー部
18a 回転羽根
18b 回転羽根
18c 回転羽根
18d 回転羽根
20 壁面貫通穴
22 ホッパー貫通穴
24 ホッパー口
26 先端部
28 側面
30 表面
32 内壁面部材
34 薬物と高分子体
36 掻き取り羽根
100 混合分散装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体となる高分子体と薬物とを容器のキャビティ中で高分子体の軟化温度以下で混合攪拌することにより、薬物が高分子体の粒子内部にまで浸入し均一に分散した状態を形成することを特徴とする薬物高分子複合体製造方法。
【請求項2】
高分子体の少なくとも一部の化学結合が切断されて低分子量化された後に、再結合させることを特徴とする請求項1記載の薬物高分子複合体製造方法。
【請求項3】
キャビティ中において回転する回転混合攪拌子によって高分子体と薬物とを混合攪拌するに際して、回転混合攪拌子の先端部周速を20m/sec以上200m/sec以下と制御し、キャビティ中の混合攪拌物の流れを層流とすることを特徴とする請求項1または2に記載の薬物高分子複合体製造方法。
【請求項4】
混合攪拌の前後における高分子体の分子量変化が20%以内であることを特徴とする請求項1から3に記載の薬物高分子複合体製造方法。
【請求項5】
高分子体の撹拌前後における構造変化がないことを特徴とする請求項1から4に記載の薬物高分子複合体製造方法。
【請求項6】
混合攪拌開始後の混合攪拌物にラジカル種が存在し、薬物が高分子体の粒子内部にまで浸入し均一に分散した状態を形成するまでにラジカル種が消滅することを特徴とする請求項1から5に記載の薬物高分子複合体製造方法。
【請求項7】
切断される化学結合が主鎖による結合であることを特徴とする請求項1から6に記載の薬物高分子複合体製造方法。
【請求項8】
請求項1から7に記載の薬物高分子複合体製造方法により製造される薬物高分子複合体であって、その薬物高分子複合体の粒径が平均で0.1μmから1000μm、かつその粒子内部にまで薬物が浸入し均一に分散していることを特徴とする薬物高分子複合体。
【請求項9】
高分子体が水溶性高分子であることを特徴とする請求項8記載の薬物高分子複合体。
【請求項10】
薬物が難溶性薬物であることを特徴とする請求項8または9に記載の薬物高分子複合体。
【請求項11】
薬物高分子複合体中で薬物の少なくとも一部が非晶質化していることを特徴とする請求項8から10に記載の薬物高分子複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2006−347939(P2006−347939A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175162(P2005−175162)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】