説明

虫歯予防用組成物

【課題】虫歯の予防及び治療に有効であり、かつ、工業上の製造特性や風味が良好な虫歯予防用組成物の提供。
【解決手段】ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subspecies lactis)TL6株(FERM BP−10758)の菌体、前記TL6株の培養物、及び、それらの処理物からなる群より選ばれる1以上と、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)の菌体表層タンパク質抗原に対する鶏卵抗体を有効成分とする虫歯予防用組成物、前記菌体表層タンパク質抗原が、菌体結合型グルコシルトランスフェラーゼである前記虫歯予防用組成物、発酵食品又は虫歯予防製剤である前記虫歯予防用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subspecies lactis)に属する新規乳酸菌とストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)の菌体表層タンパク質抗原に対する鶏卵抗体を含有する虫歯予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内の二大疾患として、虫歯(齲蝕)と歯周病がある。虫歯は、口腔内細菌が糖を分解して発生させた酸により、歯のエナメル質中の無機質が脱灰するために生じる。より詳細には、まず、主にストレプトコッカス・ミュータンスが、グルコシルトランスフェラーゼを用いて、口腔内の糖から粘着性の不溶性グルカンを生成して、菌体を歯面に付着させる。この付着したストレプトコッカス・ミュータンスを足場に、さらに多種多様な口腔細菌が凝集し、プラークを形成する。プラーク中では、口腔内細菌が発生した酸等の代謝物が非常に高濃度に存在するため、歯の脱灰が進行し、虫歯となる。したがって、虫歯の主な原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンスの、口腔内での増殖を抑制することや、グルコシルトランスフェラーゼ等の活性を抑制することが、虫歯の予防や治療に有効であることが期待できる。
【0003】
実際に、虫歯の原因菌の増殖等を抑制し得る乳酸菌として、例えば、(1)ラクトバチルス属に属する、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)の増殖を抑制するための細菌、特にラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
その他、歯周病の予防等に有効な食品として、例えば、(2)生きた乳酸菌、該乳酸菌含有物、該乳酸菌培養濾液、及びその処理物からなる群から選ばれた少なくとも1種と、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、トレハロース、マルチトール、マンニトール、パラチノース、還元乳糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖、フラクトオリゴ糖、アスパルテーム、エゾウコギ抽出物、ドクダミ抽出物、紅麹、ウコン色素、カリン抽出物、霊芝抽出物、サンザシ抽出物、シイタケ抽出物、月桃抽出物、ステビア抽出物、ハス胚芽抽出物、ラカンカ抽出物、緑茶抽出物、マリアアザミ抽出物、紫玄米抽出物、酵素分解甘草、黄杞葉抽出物、イチョウ抽出物、ルイボス茶抽出物、ヨモギ抽出物、グリチルリチン、ギムネマ抽出物、及び刺梨抽出物からなる群から選ばれた少なくとも1種とを含有する口腔内疾患の予防及び/又は治療用組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。該組成物は、キシリトール等の糖や糖アルコール類、各種植物抽出物等は、それぞれを単独で用いた場合には、口腔病原菌の増殖に対してほとんど影響を及ぼさないが、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)等のラクトバチルス(Lactobacillus)属菌と同時に用いることにより、口腔病原菌の増殖を抑制できるという知見に基づくものである。
【0005】
その他、例えば、(3)齲蝕誘発の病原菌としての血清型がc、eまたはfであるストレプトコッカス・ミュータンスの下記理化学的特性、すなわち、作用及び基質特異性がスクロースに作用し、水に不溶性のグルカンを合成するものであり、 至適pHが6.7〜7.0であり、作用適温の範囲が15〜50℃であり、失活の条件が80℃、5分間の処理であり、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子量が150〜165キロダルトンであり、動物において免疫原となり、該酵素に対する特異抗体を生成させ得る免疫原性を有するものであるという特性を有する菌体結合型グルコシルトランスフェラーゼを免疫した鶏が産生する卵より調製された免疫グロブリンであって、前記ストレプトコッカス・ミュータンスに対して免疫活性を有する抗体が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、例えば、(4)齲蝕誘発の病原菌としての血清型がc、eまたはfであるストレプトコッカス・ミュータンスの菌体表層タンパクに対する抗体の製造方法において、a)前記菌体表層タンパク抗原を鶏に免疫する工程と、b)該免疫された鶏が産生する卵から卵黄を分離する工程と、c)該卵黄から、前記菌体表層タンパク抗原に対して誘導され、かつ前記ストレプトコッカス・ミュータンスに対する免疫活性を有する抗体を含む免疫グロブリンを抽出する工程とを有することを特徴とする抗体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。これらの抗体により、ストレプトコッカス・ミュータンスの不溶性グルカンの生成等の活性を抑制し、口腔病原菌の歯面への付着を阻害することができる。
【0006】
これらの乳酸菌や抗体等を用いた虫歯予防用組成物は、摂取した乳酸菌等が、口腔内において、虫歯の原因菌に作用することにより、虫歯を予防し、治療するものである。このため、該虫歯予防用組成物による虫歯等の予防効果を得るためには、該虫歯予防用組成物を継続的に経口摂取することが重要である。したがって、該虫歯予防用組成物が、風味が良好で嗜好性に優れていることや、工業上、製造することが容易であることが好ましい。
【特許文献1】特開2003−299480号公報
【特許文献2】国際公開第2002/080946号パンフレット
【特許文献3】特許第2641228号公報
【特許文献4】特許第2666212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記(1)の乳酸菌では、ラクトバチルス・ロイテリであっても、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制能が十分ではなく、虫歯の発症を抑制することは困難である。また、ラクトバチルス・ロイテリをスターターに用いたヨーグルトの製造方法も開示されているが、ラクトバチルス・ロイテリはヘテロ発酵をする乳酸菌であるため、乳中での発酵性が弱く、該製造方法により得られた発酵乳は、風味生成の点で不十分であるという問題もある。さらに、ラクトバチルス・ロイテリをスターターに用いた場合には、発酵時間が12時間以上と極端に長くなるため、工業上の製造特性に劣るという問題もある。また、上記(2)の方法では、主に歯周病の原因菌に対する効果について触れられており、虫歯予防の観点からは代表例としてキシリトールが挙げられている。ラクトバチルス属菌のストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制能を、キシリトール等が増強することが記載されているが、該増強効果も十分とは言い難い。
【0008】
一方、上記(3)及び(4)の抗体は、鶏卵由来であって、従来の抗体よりも工業上の製造特性が良好な抗体ではあるが、該抗体を単独で用いた場合には、ストレプトコッカス・ミュータンスの歯面への付着阻害効果は十分ではなく、該抗体を用いた虫歯予防剤は、未だに改善の余地がある。
【0009】
本発明は、虫歯の予防及び治療に有効であり、かつ、工業上の製造特性や風味が良好な虫歯予防用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性に優れた乳酸菌と、不溶性グルカンの生成抑制に優れたストレプトコッカス・ミュータンスに対して免疫活性を有する抗体を用いることにより、従来になくより一層効果的な虫歯予防用組成物を製造し得ることを見出した。さらに検討した結果、従来になくストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性に優れ、かつ、強い発酵性を有する乳酸菌であれば、発酵乳製造のためのスターターとして使用することが可能であり、特別な製造工程を必要とせず、虫歯予防用組成物となる発酵食品を工業上、容易に製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subspecies lactis)TL6株(FERM BP−10758)の菌体、前記TL6株の培養物、及び、それらの処理物からなる群より選ばれる1以上と、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)の菌体表層タンパク質抗原に対する鶏卵抗体を有効成分とする虫歯予防用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記菌体表層タンパク質抗原が、菌体結合型グルコシルトランスフェラーゼである虫歯予防用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記虫歯予防用組成物が発酵食品である虫歯予防用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記虫歯予防用組成物が虫歯予防製剤である虫歯予防用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の虫歯予防用組成物により、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖と歯面への付着の双方を顕著に抑制することができるため、従来になく効率的に虫歯を予防することができる。また、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株は、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性に優れているばかりではなく、発酵乳等の発酵食品の製造の際のスターターとして用いることができるという、優れた製造特性を有しているため、発酵食品である虫歯予防用組成物は、工業上、容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株は、ストレプトコッカス・サーモフィルスと併用した場合に培地が凝固する発酵性と、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性を有するものである。例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルスと併用した場合に10%(w/w)還元脱脂粉乳培地を凝固させることができるほど強い発酵性を有する乳酸菌であれば、発酵乳製造のためのスターターとして使用することが可能であり、特別な製造工程を必要とせず、発酵食品を工業上、容易に製造することができるためである。
【0014】
従来より、ヨーグルト等の発酵食品の製造には、スターターとして、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・ヘルベティクス、ラクトバチルス・カゼイ等の乳酸菌が用いられている。スターターは、単一菌種であってもよく、二菌種以上であってもよいが、単一菌種では、酸生成、風味生成、組織形成で、不十分であるという問題が生ずる。ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルスと併用して培養すると、単に培地が凝固するだけではなく、風味生成及び組織形成が良好な発酵食品を製造することができる。
【0015】
なお、該ストレプトコッカス・サーモフィルスは、通常、発酵乳等の発酵食品を製造するために用いられているストレプトコッカス・サーモフィルスであれば、特に限定されるものではない。該ストレプトコッカス・サーモフィルスとして、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P−17216株やストレプトコッカス・サーモフィルスATCC19258株等がある。
【0016】
本発明のラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスは、例えば以下の方法により得ることができる。まず、各種の試料から菌株を分離し、この中から10%(w/w)還元脱脂粉乳培地で、ストレプトコッカス・サーモフィルスと併用した場合の発酵性が優れたもの、すなわち、10%(w/w)還元脱脂粉乳培地で、37℃でストレプトコッカス・サーモフィルスと併用して培養した時に、培地を凝固させることができる発酵性を有するものを選択する。次いで、選択された菌から、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性を有する菌株を選択することにより得ることができる。
【0017】
以下、さらに詳細に説明する。
1.菌株の取得
本発明者らは、前記の性質を有する菌株を自然界から取得すべく、自然界から採集したサンプルを嫌気性希釈液(1980年叢文社発行、光岡知足著「腸内菌の世界」322ページ。以下、参考文献1と記載する。)で希釈し、Briggs liver broth(前記参考文献1、319ページ)の平板に塗布し、37℃で嫌気培養した。そして得られたコロニーの中でグラム陽性桿菌である菌を釣菌した。該釣菌した菌を、BL寒天培地平板に画線塗布し、前記と同様の方法で嫌気培養を反復し、純粋単離された菌株を得た。これらの菌株を、後記の試験例1に記載の方法を用いて、まず、10%(w/w)還元脱脂粉乳培地中で、ストレプトコッカス・サーモフィルスと併用した場合の発酵試験を行い、優れた発酵性を有する菌株を20株得た。続いて、後記の試験例4に記載の方法を用いて、それぞれの菌株のストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性を調べた結果、最も強い増殖抑制性を有していた菌株を1株取得した。該菌株は、TL6株と名付けられた。
【0018】
2.TL6株の同定
TL6株の菌学的性質を、表1に示す。表1の結果から、明らかであるように、TL6株は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス菌種と共通の菌学的性質を有していた。なお、菌学的性質を測定するための試験は、バージェイズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology、Peter H. A. Sneath編、第2巻、Williams and Wilkins Company、1986年)にほぼ従って行った。
【0019】
【表1】

【0020】
次に、TL6株の遺伝学的性質を調べるため、TL6株の16S rDNAの可変領域の塩基配列を常法により同定した。NCBI(National Center for Biotechnology Information、国立バイオテクノロジー情報センター)の国際塩基配列データベース(GenBank)上で、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)による該塩基配列についての相同性検索を行ったところ、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスの基準株であるラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスBCRC11051株と、98.52%の相同性があった。
【0021】
以上の菌学的性質及び遺伝学的性質の結果から、TL6株は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス菌種であることが確認された。
【0022】
そこで、出願人は、TL6株を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに新規菌株として寄託した(寄託日:平成19年1月17日)。受託番号は、FERM BP−10758である。
【0023】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株は、自然界から分離した乳酸菌の中から、発酵性、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性を有するものを選び出し得られたものである。したがって、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株は、口腔内に用いられる虫歯予防用組成物や食品として、安全に利用することが可能である。
【0024】
本発明におけるストレプトコッカス・ミュータンスの菌体表層タンパク質抗原に対する抗体は、鶏卵抗体であることが好ましい。他の動物に免疫して得られる抗体に比べて、低コストで量産できるためである。該菌体表層タンパク質抗原は、ストレプトコッカス・ミュータンスの菌体表層に発現しているタンパク質性の物質であり、かつ、免疫原性を有する物質であれば、特に限定されるものではない。該鶏卵抗体が、ストレプトコッカス・ミュータンスの菌体表層にある抗原に結合することにより、ストレプトコッカス・ミュータンスの活性を低下させ、歯面におけるストレプトコッカス・ミュータンスによる酸発生を低減させることにより、虫歯の発生を抑制できることが期待できる。該菌体表層タンパク質抗原は、特に、菌体結合型グルコシルトランスフェラーゼであることが好ましい。ストレプトコッカス・ミュータンスによる不溶性グルカンの産生を効果的に抑制し、ストレプトコッカス・ミュータンスの歯面への付着を阻害することができるためである。該鶏卵抗体は、例えば、「オーバルゲンDC」(ゲン・コーポレーション社製)等の市販の抗体を用いることができる。その他、特許第2641228号や特許第2666212号に従って製造した鶏卵抗体を用いることも可能である。
【0025】
本発明の虫歯予防用組成物は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株の菌体、前記TL6株の培養物、及び、それらの処理物からなる群より選ばれる1以上と、ストレプトコッカス・ミュータンスの菌体表層タンパク質抗原に対する鶏卵抗体を有効成分とする虫歯予防用組成物であれば、特に限定されるものではない。ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株の生菌を有効成分とする虫歯予防用組成物であることが好ましい。該虫歯予防用組成物として、例えば、食品、虫歯予防製剤、及び飼料、並びにこれらに対する添加物等がある。摂取が簡便であること、及び、他の乳酸菌と同様に整腸作用等も期待できることから、食品や食品添加物の形態であることが好ましい。該食品は、通常乳酸菌を用いるものであれば、いずれの種類の食品であってもよい。該食品として、例えば、ヨーグルト等の発酵食品、チョコレートやキャンディー、チューインガム等の菓子類等がある。ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株の生菌を大量に摂取することができるため、発酵食品であることが特に好ましい。その他、該虫歯予防製剤として、例えば、トローチ錠や口腔洗浄剤等がある。
【0026】
虫歯予防用組成物として用いる場合において、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株の、虫歯予防用組成物中の含有量や1日あたりの摂取量等は、虫歯予防効果が期待できる量であれば、特に限定されるものではない。例えば、1日あたり、1×10〜1×1011CFU程度のラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を摂取することが好ましい。
【0027】
本発明の発酵食品、すなわち、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を含有する発酵食品は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を、単に発酵用ベースに添加して培養したものに、ストレプトコッカス・ミュータンスの菌体表層タンパク質抗原に対する鶏卵抗体を添加することにより、簡便かつ効率よく製造することができる。予め前培養した該乳酸菌を、スターターとして発酵用ベースに添加してもよい。また、該鶏卵抗体を予め添加した発酵用ベースに、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を添加して培養してもよい。
【0028】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を含有する発酵食品の製造に用いられる発酵用ベースは、発酵食品の製造に通常用いられるベースであれば、特に限定されるものではないが、乳を主成分とする乳性発酵用ベースであることが好ましい。該乳を主成分とする乳性発酵用ベースとして、例えば、牛乳、脱脂乳、生クリーム、バター、全粉乳、脱脂粉乳等に、必要に応じて蔗糖等の甘味料、ペクチン、果実、フルーツジュース、寒天、ゼラチン、油脂、香料、着色料、安定剤、還元剤等を配合し、常法に従って殺菌、均質化、冷却等することにより調製することができる。
【0029】
本発明の発酵食品は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株のストレプトコッカス・ミュータンスに対する増殖抑制効果を阻害しない範囲において、他の乳酸菌を含有してもよい。該他の乳酸菌は、通常発酵乳等の発酵食品の製造に用いられるものであれば、特に限定されないが、ストレプトコッカス・サーモフィルスであることが好ましい。ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株とストレプトコッカス・サーモフィルスを、乳性発酵用ベース中で混合培養することにより、風味が良好で嗜好性に優れた発酵食品を製造することができるためである。その他、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)を含有した発酵食品であってもよい。
【0030】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株の発酵用ベースへの接種比率は、特に限定されるものではないが、該発酵用ベースに対して0.01〜10(w/w)%が好ましく、0.1〜5(w/w)%が特に好ましい。また、ストレプトコッカス・サーモフィルス等の他の乳酸菌を同時に添加する場合には、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株と、ストレプトコッカス・サーモフィルス等の、スターターとしての発酵用ベースへの接種比率は、特に限定されるものではないが、1:100〜10:1が好ましく、1:10〜1:1が特に好ましい。
【0031】
本発明において、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株や、ストレプトコッカス・サーモフィルス等の前培養に用いられる培地は、通常乳酸菌の培養に用いられる培地であれば、特に限定されるものではないが、乳性培地であることが好ましい。取り扱いが簡便であるため、還元脱脂粉乳培地が特に好ましい。該還元脱脂粉乳培地の濃度は、3%(w/w)以上が好ましく、8%(w/w)以上が特に好ましい。さらに、酵母エキス等の生育促進物質を添加することが好ましい。例えば、0.1〜1%(w/w)の酵母エキスを含有した培地を用いることができる。また、前培養に用いられる培地は、殺菌処理をしたものを用いることが好ましい。該殺菌処理は、通常用いられる方法で行うことができ、例えば、80〜122℃で5〜40分間、好ましくは85〜95℃で5〜35分間の加熱処理により行うことができる。
【0032】
本発明の発酵食品を製造する場合の、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株の培養の温度は、30℃〜40℃が好ましく、36℃〜38℃が特に好ましい。該乳酸菌が充分に生育可能な温度範囲であるためである。また、培養時間は、製造する発酵食品の種類によって適宜決定されるが、4〜18時間が好ましい。
【0033】
培養後得られた発酵乳等の発酵食品は、そのまま食品としてもよく、例えば、均質化して液状に加工してもよい。その他、例えば、果汁、果実等を適宜添加してもよい。また、容器への充填等は、特に限定されるものではなく、通常用いられる方法で行うことができる。
【0034】
本発明の虫歯予防製剤は、すなわち、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を含有する虫歯予防製剤は、例えば、該乳酸菌の生菌等の菌末に、ストレプトコッカス・ミュータンスの菌体表層タンパク質抗原に対する鶏卵抗体を添加したものを用いることにより、製造することができる。該菌末は、常法により調製することができる。例えば、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を培養後、遠心分離することにより集菌した後、さらに凍結乾燥することにより、得ることができる。通常、医薬品の製造に用いられる安定剤、賦形剤、結合剤、コーティング剤、崩壊剤や、味や風味を調える甘味料や香料等を添加することができる。
【0035】
次に試験例及び実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の試験例及び実施例に限定されるものではない。
【0036】
(試験例1) 発酵乳の調整
発酵乳の製造に汎用されているストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P−17216株とラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスJCM1002T株、特許文献1に記載のストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性を有するラクトバチルス・ロイテリATCC53608株とラクトバチルス・ロイテリJCM1112T株、並びに、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスJCM1010株、及びラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスJCM1248T株を用いて、発酵乳を製造した。酸生成、風味生成、及び組織形成が十分となるように、単一菌株ではなく、表2に記載の組合せの2菌株、すなわち、ストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P−17216株と各ラクトバチルス属菌を、それぞれスターターとして、乳性発酵用ベースに添加して培養することにより、発酵乳を製造した。ここで、発酵乳1は、発酵乳の製造に汎用されている乳酸菌の組合せである。
【0037】
まず、上述した乳酸菌をそれぞれ、0.5%(w/w)酵母エキス含有10%(w/w)還元脱脂粉乳培地に接種し、37℃、16時間培養したものをバルクスターターとした。また、10%(w/w)脱脂粉乳からなる原料ミックスを、乳性発酵用ベースとして用いた。
該原料ミックスに、先に調製したバルクスターターをラクトバチルス属の各菌株については0.5%(w/w)ずつ、ストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P−17216株については1.5%(w/w)ずつ接種し、37℃でpH4.8になるまで培養を行い、発酵乳を得た。得られた発酵乳は、10℃で24時間保管し、再度pHを測定した。表2にpH4.8に到達するまでに要した時間と、調整された発酵乳を10℃で24時間保存した後のpHをそれぞれ示した。ただし、ラクトバチルス・ロイテリを用いた発酵乳5と6は、12時間培養した時点でpH4.8に到達しなかったため、培養12時間後のpHを示した。
【0038】
【表2】

【0039】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス及びラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスを用いた発酵乳1〜4は、使用した菌株により若干発酵時間に差が認められたが、すべて発酵乳として良好な組織を得ることができた。特許文献1に記載のラクトバチルス・ロイテリの2菌株は、発酵性が弱く、発酵乳5と6は、発酵が不十分であり、12時間経過後も充分なカードが得られなかった。すなわち、表2の結果から、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株は、乳性発酵用ベースに、ストレプトコッカス・サーモフィルスと同時に接種して、37℃で培養した場合に、良好な発酵乳を得るために十分な発酵性を有していることが明らかである。
【0040】
(試験例2) 発酵乳の風味評価
試験例1で作成した発酵乳を用いて官能検査による風味評価を行った。5名のパネリストにより、各発酵乳に関するおいしさを5段階で評価した。大きい値ほどおいしい発酵乳であることを示す。表3は評価結果を示したものである。発酵が不十分であった発酵乳5と6は、風味評価も低かったが、発酵乳1〜4は、良好な風味を有していた。特に、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株及びラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスJCM1010株を用いて製造された発酵乳2と4は、汎用されている乳酸菌を用いて製造された発酵乳1よりも、風味が優れていることが明らかとなった。なお、ストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P-17216株に代えて、ストレプトコッカス・サーモフィルスATCC19258株等の他のストレプトコッカス・サーモフィルスを用いた場合であっても、同様に風味の良好な発酵乳が得られた。
すなわち、表3の結果から、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株とストレプトコッカス・サーモフィルスを用いることにより、風味が良好で嗜好性に優れている発酵食品を製造できることが明らかである。
【0041】
【表3】

【0042】
(試験例3) ストレプトコッカス・ミュータンスの阻止円の形成
200g/Lのスクロースと0.2U/mLのバシトラシンを加えたMitis Salivarius寒天培地(Difco社製)に、ストレプトコッカス・ミュータンスJCM5705T株を塗布した選択培地を用いて、試験例1で用いた乳酸菌のストレプトコッカス・ミュータンスの阻止円の形成能を測定した。
まず、3%(w/v)のショ糖を加えたGAMブイヨン液体培地(ニッスイ社製)に、試験例1で使用した乳酸菌を、それぞれ単独で接種した後、37℃で24時間培養した。その後、得られた培養液から、それぞれ30μLを分取して、濾紙に染み込ませた。該濾紙を該選択培地に載せ、37℃で48時間培養した後、阻止円の形成を観察した。観察した結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスに属する全ての菌株は、特許文献1に記載のラクトバチルス・ロイテリの2菌株と同様に、濾紙周辺にストレプトコッカス・ミュータンスの阻止円が形成された。中でもTL6株の培養液は、ラクトバチルス・ロイテリよりも非常に大きな阻止円を形成した。一方、発酵乳の製造に適しているストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P−17216株とラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスJCM1002T株は阻止円を形成しなかった。すなわち、表4の結果から、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株が、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性を有することが明らかである。
【0045】
(試験例4) ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性の検証
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株、及び、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスJCM1248T株(基準株)のストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性を比較検証した。
まず、ストレプトコッカス・ミュータンスJCM5705T株とストレプトコッカス・ミュータンスJCM5175株を、それぞれBHI(Brain heart Infusion)培地に接種し、37℃で16時間培養し、各菌株の菌溶液を調製した。また、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株とラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスJCM1248T株を、それぞれ0.5%(w/w)酵母エキス含有10%(w/w)還元脱脂粉乳培地に接種し、37℃で16時間培養し、各菌株の菌溶液を調製した。
【0046】
次に、3%(w/v)のショ糖を加えたGAMブイヨン液体培地(ニッスイ社製)をガラス試験管に5mLずつ分注した後、115℃で15分間高圧蒸気滅菌した。該ガラス試験管に、表4記載の各菌株の菌溶液を、0.1%(w/w)濃度となるように添加し、37℃で培養した。16時間後、ストレプトコッカス・ミュータンスの菌数を寒天平板法により測定した。ストレプトコッカス・ミュータンスの菌数は、具体的には、各ガラス試験管中の培養液の一部を、試験例3記載の選択培地に塗布した後、37℃で72時間培養し、コロニー数を計数して、菌数を算出した。
【0047】
【表5】

【0048】
表5は、ストレプトコッカス・ミュータンスの菌数測定の結果を示したものである。なお、各菌数は、独立した3回の測定の平均値を示している。表5の結果から、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスの基準株よりも、非常に強いストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性を有していることが明らかである。
【0049】
(試験例5) 鶏卵抗体によるラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株の虫歯予防作用の増強効果の検証
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株との併用により、より強い虫歯予防効果を示す物質を探索した。
まず、試験例4と同様に、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株、ストレプトコッカス・ミュータンスJCM5705T株及びJCM5175株の、各菌株の菌溶液を調製した。さらに、試験例4と同様に、ガラス試験管に、5mLの3%(w/v)ショ糖含有GAMブイヨン液体培地を分注して高圧蒸気滅菌した。
【0050】
該ガラス試験管に、表6記載の通りに、試料1〜6をそれぞれ調製した。具体的には、各菌株の菌溶液は0.1%(w/w)濃度となるように、ストレプトコッカス・ミュータンスの菌体表層タンパク質抗原に対する鶏卵抗体(以降、鶏卵抗体と略記する。)は1mg/mLとなるように、キシリトールは1%(w/v)濃度となるように、それぞれ添加し、37℃で16時間培養した。得られた培養液中のストレプトコッカス・ミュータンスの菌数を、試験例4と同様にして計測した。さらに、該培養液中の不溶性グルカン量を測定した。具体的には、ガラス試験管内に付着した不溶性グルカンをスパテルで良くそぎ落し、3,000rpmで15分間遠心分離して沈殿を集めた。集めた沈殿を、PBS(Phosphate Buffer Solution)で2回洗浄した後、5mLのPBSを加えて測定検体とした。なお、不溶性グルカンは、「生化学実験法23」(高橋禮子著、糖、蛋白質、糖鎖研究法 追補版)に記載のフェノール硫酸法により定量した。
【0051】
【表6】

【0052】
表6は、ストレプトコッカス・ミュータンスの菌数及び不溶性グルカン量の測定結果を示したものである。表中、IgYは鶏卵抗体を、TL6株はラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を、それぞれ表している。鶏卵抗体及びキシリトール単独では、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制効果は認められなかった。一方で、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を添加した試料4〜6では、増殖抑制効果が顕著であった。また、鶏卵抗体を添加した試料2と5では、不溶性グルカン産生の抑制が顕著であった。ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株と鶏卵抗体を同時に添加した試料5では、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖と不溶性グルカン産生の双方が顕著に抑制された。以上の結果より、ストレプトコッカス・ミュータンスの菌数及び不溶性グルカン生産の両方を抑制するためには、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株と鶏卵抗体の組合せが必要であることが明らかとなった。
【0053】
(試験例6) 臨床試験による効果の検証
健常成人23名を対象に、実施例1に従って作成したラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株及び鶏卵抗体を含有するヨーグルトを、10日間に渡り1日2個(100g×2)を摂取してもらう試験を実施し、虫歯予防効果について検証した。供したヨーグルトには1個当りラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株が5×10CFU以上、鶏卵抗体が10mg以上含まれていた。摂取開始前8日間は、指定の歯ブラシと研歯剤を用いて、朝夜の2回、通常通りの歯磨きを実施してもらった。
試験食摂取開始日及び終了日の朝、起床後すぐにサリベットを1分間左の奥歯で噛んでもらい唾液を回収した。得られた唾液を用いて、総嫌気性細菌数、付着性ストレプトコッカス・ミュータンス数、ミュータンススコア、及び唾液pHについて解析を行った。
【0054】
具体的には、総嫌気性細菌数は、各唾液の一部を、試験例3記載の選択培地に塗布した後、37℃で48時間培養し、コロニー数を計数して、菌数を算出した。また、付着性ストレプトコッカス・ミュータンス数及びミュータンススコアは、ミュータンス菌簡易菌数測定キット(商品名「ミューカウント」、昭和薬品化工株式会社製)を用いて、添付の説明書に従い、37℃で48時間静置培養した。培養終了後、アンプル管を静かに3回ほど反復倒立させ、管壁に付着してないストレプトコッカス・ミュータンスを落下させ、管壁に付着しているコロニー数を目視により数えた。該説明書に記載の表に従いコロニー数をスコア化した。該表を表7に示す。さらに、唾液pHは、得られた唾液を直接pHメーター(HORIBA社製)にて測定した。
【0055】
【表7】

【0056】
【表8】

【0057】
表8は、各唾液の測定結果を示したものである。表8の結果より、本発明のヨーグルトの摂取により、付着性ストレプトコッカス・ミュータンス菌数は著しく軽減したが、総嫌気性細菌数や唾液pHに対する影響は観察されなかった。したがって、摂取した本発明のヨーグルトの、口腔内の酸性化や総菌数に対する影響は認められなかったが、付着性ストレプトコッカス・ミュータンス菌数を減少させる効果は確認された。
【実施例1】
【0058】
0.1%(w/w)酵母エキス含有10%(w/w)還元脱脂粉乳培地1000gを、115℃で20分間殺菌し、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株のシードカルチャーを30g接種し、37℃16時間培養して、バルクスターターを調製した。一方、0.1%(w/w)酵母エキス含有10%(w/w)還元脱脂粉乳培地1000gを、90℃で30分間殺菌し、ストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P-17216株を30g接種し、37℃5時間培養して、バルクスターターを調製した。
これとは別に、脱脂粉乳、クリーム及び乳タンパク質等の原料を混合溶解し、乳脂肪3.0%(w/w)、無脂乳固形分12.0%(w/w)からなる乳性発酵用ベース50kgを、70℃に加温して、15MPaの圧力で均質化した後、90℃で10分間殺菌して、40℃に冷却した。該殺菌した乳性発酵用ベースに、4倍希釈し75℃20秒間殺菌したオーバルゲンDC(鶏卵抗体含有卵黄液、ゲン・コーポレーション社製)を2kgと、前記の通り前培養を行ったラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株のバルクスターター150gと、ストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P-17216株のバルクスターター450gを接種し、37℃で4時間培養して発酵乳を得た。該発酵乳を直ちに攪拌冷却し、100mL容の紙カップ容器に充填し、密封し、ヨーグルトを得た。得られたヨーグルトはpH4.95であり、6.5×10CFU/mLのラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株と、2μg/mL相当の力価の該鶏卵抗体を含有していた。該ヨーグルトを、10℃で14日間保存した時のラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株の菌数は6.3×10CFU/mL(生残率:96.9%)であり、該鶏卵抗体の力価は1.8μg/mL相当であった。
【実施例2】
【0059】
肉エキス50g、酵母エキス100g、ペプトン100g、乳糖200g、K2HPO4 50g、KH2PO4 10g、シスチン4g及び水9.5kgの組成からなる培地で37℃16時間前培養したラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株のシードカルチャー500gを、前記培地と同一組成の培地10kgに接種し、37℃16時間培養した。更に、90℃で30分間殺菌した前記培地と同一組成の培地200kgに、前記培養液全量(10.5kg)を接種し、37℃16時間培養した。培養後の生菌数は2.4×10CFU/mLであった。
次いで、シャープレス型遠心分離機を用いて、遠心分離(15,000rpm)により菌体を集め、培地と同量の生理食塩水(90℃30分間殺菌済)に再懸濁し、前記と同様遠心分離して再度集菌した。集めた菌体を、脱脂粉乳10%(w/w)、蔗糖1%(w/w)、グルタミン酸ソーダ1%(w/w)からなる溶液(90℃30分間殺菌済)20kgに懸濁し、常法に従って凍結乾燥し、4.3×1010CFU/gのラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を含む粉末約2kgを得た。
続いて第12改正日本薬局方解説書製剤総則「錠剤」に記載の方法を参考に、上述した凍結乾燥菌末10g、オーバルゲンDC(ゲン・コーポレーション社製)粉末10g、クエン酸5.4g、還元麦芽糖水飴36g、還元乳糖15.8g、結晶セルロース7.2g、ステアリン酸カルシウム1.8g、二酸化ケイ素450mg、アスパルテーム360mg、香料(ライム)28.8gを加えて均一に混合し、打錠機で圧縮成型し、1錠当り450mgのトローチ錠を90g製造した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の虫歯予防用組成物により、ストレプトコッカス・ミュータンスの増殖と歯面への付着を顕著に抑制することができ、かつ、風味の良好な発酵食品等を簡便に製造することができるため、虫歯の予防や治療の分野や発酵食品等の製造分野で利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subspecies lactis)TL6株(FERM BP−10758)の菌体、前記TL6株の培養物、及び、それらの処理物からなる群より選ばれる1以上と、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)の菌体表層タンパク質抗原に対する鶏卵抗体を有効成分とする虫歯予防用組成物。
【請求項2】
前記菌体表層タンパク質抗原が、菌体結合型グルコシルトランスフェラーゼである、請求項1記載の虫歯予防用組成物。
【請求項3】
前記虫歯予防用組成物が発酵食品である、請求項1又は2記載の虫歯予防用組成物。
【請求項4】
前記虫歯予防用組成物が虫歯予防製剤である、請求項1又は2記載の虫歯予防用組成物。

【公開番号】特開2008−247750(P2008−247750A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87543(P2007−87543)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(500101243)株式会社ファーマフーズ (30)
【出願人】(000129976)株式会社ゲン・コーポレーション (11)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】