説明

蛇床子の抽出物を含む胞子型微生物の胞子殺菌用組成物

カビやバクテリアなどの胞子型微生物の胞子殺菌効果を持つ蛇床子の有機酸抽出物を含む組成物、およびこれを用いて胞子および栄養細胞を殺菌する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛇床子(Torilidis Fructus)の抽出物を含む胞子型微生物の胞子殺菌用組成物、およびこれを用いた殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌から収穫される農産物の原料、例えば野菜や香辛料などに自生する好気性菌としてのバシラス属(Bacillus sp.)と偏性嫌気性菌としてのクロストリジウム属(Clostridium sp.)の胞子型微生物は、耐熱性の大きい内生胞子(endospore)を形成して加工食品の品質を低下させ、衛生を害する直接・間接的原因として作用する。
胞子の中心細胞(core)は、脱水されて乾燥状態を維持し、ペプチドグリカン(peptidoglycan)からなるコルテクス(cortex)、およびタンパク質からなるコート層(coats layer)を持つ構造と生化学的特性(structure and biochemical properties)によって耐熱、抗菌剤または抗生剤などの化学薬品、リゾチーム(lysozyme)、物理的衝撃、紫外線(UV)放射、高圧、高電圧パルス電場などに対して大きい抵抗性を有し、不利な生育環境で生き残るために長期休眠機能も保有している。したがって、加工食品の微生物安全性設計の際に胞子の殺菌条件を優先的に検討しなければならない。
【0003】
また、胞子型微生物は、土壌由来食品原料、例えば野菜、香辛料などに自生するから問題になるだけでなく、缶、パウチ、トレイなどの様々な形のレトルト製品の殺菌においても重要な危険要素である。すなわち、胞子型微生物は、Fo4以上の十分な熱処理がなされない冷点(cold point)の発生、またはピンホール(pin hole)などの包装材の問題などに起因する2次汚染原因菌であって、主要殺菌ターゲット(sterilization target)になる。
したがって、胞子型微生物の発芽抑制(germination inhibition)および殺菌方法を研究、開発することは、加工食品の衛生および流通期限を確保するためには非常に重要なことである。
【0004】
胞子を形成しない病原性菌の場合、耐熱性が弱く、化学的処理に対する耐性も劣るので、100℃未満の熱処理、または商業化された抗菌剤、例えば有機酸(organic acid)、アルコール(alcohol)、バクテリオシン(bacteriocine)などで十分に菌の生育を抑制しまたは菌を死滅させることができる。ところが、胞子類は構造的、化学的、生態学的特性のため容易には死滅しないので、通常、耐熱性胞子類を死滅させるために、121℃の高温と1〜1.5Kg/cmの高圧で数分〜数十分加熱するレトルト(retort)殺菌方法を適用する。しかし、高温によって味、外観、質感などの官能品質の損傷が激しいうえ、栄養成分も多く破壊されて高品質の加工食品の開発に障害として作用する。別の商業的殺菌方法としては、65℃の中温で5〜6時間放置して胞子の発芽を誘導し、栄養細胞に転換させて殺菌する間欠殺菌(indirect sterilization)がある。この方法は、品質損傷なしに耐熱性胞子類を100℃以下の温度で滅菌させることができるという利点はあるが、生産現場で適用の際に時間損失が多く、また夏期には微生物汚染可能性が高いなどの欠点がある。その他にも、乳酸ナトリウム(sodium lactate)、リゾレシチン(lysolecithin)、ポリ脂肪酸エステル類(poly fatty acid ester)、L−フェニルアラニン(L-phenylalanine)、エッセンシャルオイル(essential oils)、グリシン(glycine)、L−セリン(L-serine)などによる胞子発芽抑制方法などを利用している。ところが、このような食品添加物を用いた方法は、胞子の発芽抑制効果に基づいたものなので、究極的に胞子が死滅しないため、潜在的危険要素は残存する。
【0005】
その他に、様々な抗菌組成物に関する研究が行われてきた。
Alkhayat、Huhtanen、Ueda等によれば、丁子(clove)、ニクズク(mace)、白・黒胡椒(white and black pepper)、月桂樹(laurel)、ナットメグ(nutmeg)などの香辛料の熱水およびエタノール抽出物が、バシラスおよびボツリヌス菌A、B型胞子の発育阻止効果を最小阻止濃度(MIC、minimal inhibition concentration)125μg/mLで示し始める。また、Hara等によれば、茶抽出物であるタンニン(tannine)、ポリフェノール(polyphenol)、テアフラビン類(theaflavin)、カテキン類(catechine)などが胞子の発芽抑制に効果的であり、また、コーヒー酸(caffeic acid)や、魚類の精巣中に存在するDNAと塩類とが結合したぺプチド核タンパク質であるプロタミン(protamine)が胞子の死滅および発芽抑制に効果的である。プロタミンの場合、バシラス栄養細胞は細胞壁、原形質膜を損傷させて死滅させ、胞子はペプチドグリカン、DNA、RNA、タンパク質合成、ATP水準呼吸阻害などの効果によって生育抑制をもたらし、加熱の際に熱との共同作用によって胞子の死滅を一層促進させる。この他にも、界面活性剤の役割を果たして胞子の細胞構造に影響を与えて発育抑制効果があるポリリシン(polylysin)、胞子状態では直接的な影響を与えないが、胞子発芽初期の膨張期段階で胞子の薄い膜に浸透して胞子のコアに影響を与えることにより増殖を阻害する、例えばバクテリオシン(bacteriocine)、ニシン(nisin)、およびペディオシン(pediocine)などのアミノ酸からなるぺプチドおよびタンパク質成分、並びに胞子の発芽或いは胞子形成段階で発育を阻害するエタノールなどが、代表的な胞子の発芽抑制および殺菌効果を持つ天然抗菌素材として知られている。ところが、その大部分が胞子状態における直接的な殺菌効果よりは生育抑制または胞子発芽および形成段階で生育阻害を引き起こす作用をするものである。直接的な殺菌効果のある物質も、10程度の死滅効果のみがあって、期待する水準にははるかに及ばない。
【0006】
関連した国内外特許文献を考察すると、韓国特許出願第1992−18019号では、リシナス属(Ricinius sp.)植物の脱脂した澱粉質とオウレン属(Coptis sp.)植物の根とを混合して抽出した抽出物からなる胞子発芽抑制効果を持つ抽出組成物について記載しているが、胞子発芽抑制に関連した核心物質はベルベリン(berberine)であると記述している。韓国特許出願第1996−700557号では、過酸化物および塩化物または臭素化物の存在の下にハロペルオキシダーゼおよび少なくとも一つの抗菌活性増強剤によって酵母または胞子型微生物を死滅させ或いは成長阻害するための方法および組成物について記載している。この特許文献では、前記組成物は、抗菌活性増強剤として特定のα−アミノ酸を含み、この化合物に水素、置換されていないかヒドロキシまたはアミノで置換された1〜6の炭素原子を持つ直鎖または分枝鎖アルキル基、または置換されていないかヒドロキシまたはアミノで置換された7〜12の炭素原子を持つアリールアルキル基が結合した構造の化合物であると開示している。その他にグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、リジン、フェニルアラニン、およびチロシンのl−またはd−鏡像異性体よりなる群から選択されたα−アミノ酸またはそのアルキルエステル酸も抗菌活性増加剤に該当すると記述している。日本特許出願第1995−72164号では、飲料製品の製造において問題となる耐熱性胞子の発芽および増殖抑制を目的として、例えばラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸などの脂肪酸とモノエステルを含有するジグリセリン脂肪酸モノエステル組成物について記載している。日本特許出願第1993−301163号では、グリセリンモノステアリン酸エステル、イソレシチンなどの脂肪酸組成物を用いて胞子の発芽抑制を誘導する方法について記載している。これらの発明は、胞子類の生育抑制を主な目的としており、抗菌素材も大部分天然抗菌素材よりは合成食品添加物に近い素材である。
【0007】
このような背景の下で、完全な胞子殺菌効果を有し且つ副作用のない天然抗菌剤を開発するために努力した結果、香辛料類、漢方薬材類、熱帯果物類、野菜類などの100余り種の食用植物のうち、蛇床子抽出物が非常に高いバシラスサブチリス(Bacillus subtilis)の胞子殺菌効果を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、蛇床子の有機溶媒抽出物を含む胞子型微生物の胞子殺菌用組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記組成物で処理して胞子型微生物の胞子を殺菌する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの様態として、本発明は、蛇床子の有機溶媒抽出物を含む胞子型微生物の胞子殺菌用組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蛇床子の有機溶媒抽出物を含む、胞子型微生物の胞子および栄養細胞殺菌用組成物は、胞子型微生物の胞子および栄養細胞に対して優れた殺菌効果を示すので、低温および比熱処理条件で胞子を効果的に殺菌することが可能な商業的天然殺菌素材として様々に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、用語「抽出物」は、植物から分離された活性成分、ここでは胞子型微生物の胞子および栄養細胞に対する抗菌および殺菌活性を持つ物質を意味し、アルコールなどの有機溶媒を用いる抽出過程で製造され、有機溶媒抽出液、その乾燥粉末、またはこれを用いて剤形化されたすべての形態を含む。本発明の抽出物は蛇床子抽出物である。
本発明において、「蛇床子(Torilidis Fructus)」は、セリ科に属する植物であるヤブジラミ(Torilis japonica Decandolle)およびオカゼリ(Cnidium monnieri(L.) Cussion)の乾燥な実を意味し、天然、雑種または変種の蛇床子を全て含む。
【0012】
蛇床子は、昔から掻痒症、皮膚傷、湿疹、腫れ物などの各種皮膚疾病の治療剤として使用されてきており、トリコモナス膣炎などの婦人病にも効果があると知られて漢方薬材として使用されてきている。最近では、皮膚病に対する漢方薬材だけでなく、殺虫剤成分としても活用されている。Nurayama等は蛇床子の収斂性消炎作用を報告し(Shokubutsu Kenkyn Zasshi, 3, 181, 1926)、Itokawa等はセスキテルペンの作用による鎮痙作用を報告し(Shoyakugaku Zasshi, 37, 223, 1983)、Shindoなどは蛇床子の抽出物が80%以上の補体抑制効果を持つことを報告した(Wakakanyaku Symposium, 16, 76, 1983)。また、韓国特許出願第2000−0006823号は蛇床子抽出物を用いた皮膚掻痒緩和用組成物について開示しており、韓国特許出願第1995−013750号は抗リュ-マチ、消炎鎮痛剤について開示している。
【0013】
蛇床子の主要成分は、l−カンフェン(l-camphene)、ベルガプテン(bergapten)。β−ユーデスモール(β-eudesmol)、コロンビアネチン(columbianetin)、アルチャンゲリシン(archangelicin)、エデュルチン(edultin)、イソピムピネリン(isopimpinelline)、アンソトキソル(anthotoxol)などであり、精油成分も1.3%程度含有している。
蛇床子は、昔から東洋医学で皮膚疾病関連治療剤等として使用されてきたが、胞子に対する殺菌効果は解明されていない。本発明の蛇床子抽出物は、前記胞子型微生物の栄養細胞だけでなく、例えば高温、酸、塩基、乾燥、化学薬品および放射線などの厳しい環境で生存可能な胞子も殺菌することを特徴とする。本発明者は、100余り種の植物エタノール抽出物を対象としてバシラスサブチリス胞子に対する殺菌効果をOD値の測定と総菌数測定法によって考察した結果、蛇床子抽出物が10〜10減菌(99.9〜99.99% Inactivation)の優れた殺菌効果を持つことが分かった。これは既存の10程度の死滅効果に比べると約100倍以上の効力を持つものである。また、本発明の蛇床子抽出物は、耐熱性バクテリアであるバシラス属の胞子の発芽を単純に抑制するものではなく、胞子のコート層の亀裂、損傷を誘導して死滅を誘導することを特徴とする。
【0014】
本発明において、「胞子型微生物」という胞子を形成する全ての微生物を意味し、カビ、バクテリアを含む。本発明の蛇床子抽出物は、すべての胞子型微生物の栄養細胞および胞子に対して優れた殺菌効果を持ち、特に胞子型バクテリアの栄養細胞および胞子に対して優れた殺菌効果を持つ。胞子を形成するバクテリアには、バシラスナト(Bacillus natto)、バシラスサブチリス(Bacillus subtilis)、バシラスメガテリウム(Bacillus megaterium)、バシラスステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バシラスコアギュランス(Bacillus coagulans)などを含むバシラス属のバクテリアと、クロストリジウムブチリカム(Clostridium butylicum)、クロストリジウムアセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)、 クロストリジウムボツリナム(Clostridium botulinum)、クロストリジウムスポロゲネス(Clostridium sporogenes)およびクロストリジウムウェルシュ(Clostridium welchii)などのクロストリジウム属のバクテリアを含む。
本発明の蛇床子は、有機溶媒を用いて抽出し、抽出した液は直ちに使用できるが、より好ましくは濾過し、濾液を乾燥させて使用する。
【0015】
本発明の抽出物製造過程は、薬材を粉砕する段階、溶媒で抽出する段階、抽出液を濾過する段階、および濾液を乾燥させる段階を含む。
蛇床子は、メタノール、エタノール、イソプロタノール、ブタノール、エチレン、アセトン、エーテル、クロロホルム、酢酸エチル、DMF(N、N−ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの有機溶媒を用いて、生薬の有効成分が破壊されない或いは最小化された条件で抽出するようにし、室温または加温して抽出することができる。好ましくは20℃〜30℃で、12時間〜48時間程度放置して抽出する。抽出する有機溶媒によって薬剤の有効成分の抽出程度と損失程度が異なるので、適切な有機溶媒を選択して使用する。濾過は、抽出液から浮遊する固体粒子を除去する過程であって、綿やナイロンなどを用いて粒子を濾すか、冷凍濾過法、遠心分離法などを使用することができるが、これに制限されない。濾液を乾燥させる段階は、凍結乾燥、真空乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、泡沫乾燥、高周波乾燥、赤外線乾燥などを含むが、これに制限されない。乾燥工程の前に濾液を濃縮する工程を追加することができる。場合に応じて、最終乾燥した抽出物を粉砕する工程を追加することもできる。
【0016】
本発明の具体的な様態では、蛇床子をエタノールを用いて25℃で24時間攪拌しながら抽出し、Whatman濾紙を用いて不溶性物質を濾過し、濾液を44℃、真空状態で濃縮し、凍結乾燥させて蛇床子抽出物を製造した。
前記方法で製造された蛇床子有機溶媒抽出物は、酢酸ボニルおよび酢酸ゲラニル成分を含む。
蛇床子エタノール抽出物をヘキサン(hexane)で抽出した後、胞子殺菌の有効な抗菌成分を調べた結果、ピンネン(pinene)やシメン(cymene)、リモネン(limonene)、オストール(osthol)、カンフェン(camphene)、酢酸ボニル(bornyl acetate)、酢酸ゲラニル(geranyl acetate)などの成分のうち、疎水性、親水性基の両方ともを持っており且つ界面活性剤の役割を果たすことが可能な酢酸ボニル、酢酸ゲラニルが、胞子型微生物の栄養細胞および胞子に対する主殺菌効果を示す成分であると明らかになった。
酢酸ボニル、酢酸ゲラニル成分は、胞子の最外側のタンパク質から構成されているコート層の表面構造に直接損傷を与えて胞子を死滅させる。界面活性剤は、親水性領域であるヒドロキシル基(hydroxyl(OH) group)、エステル基(ester(RCOOR) group)、カルボキシル基(carboxyl(RCOOH) group)と、親油性領域であるメチレン基(methyl(CH--3) group)を同時に持っている。このような特性により栄養細胞の細胞壁、細胞膜の親水性基、親油性基に一つの化合物が同時に相互結合して細胞構造の変形、損傷をもたらし、胞子コート層の疎水性、親水性部分に同時に結合してタンパク質の変形を引き起こしてコート層の亀裂、損傷をもたらすことにより、栄養細胞および胞子を死滅させる。
【0017】
また、前記方法によって製造された蛇床子有機溶媒抽出物は、アラニン、マンニトールおよびキシリトール成分を含む。
胞子懸濁液に蛇床子エタノール抽出物からの水抽出物を添加すると、発芽促進剤による発芽初期段階が行われると確認されたが、蛇床子エタノール抽出物に含まれた発芽促進剤はアラニン、マンニトールおよびキシリトールである。
今まで知られている発芽促進剤には、疎水性アルキル残基を持つ、例えばL−アラニン(L-alanine)、L−アミノ酪酸塩(L-aminobutyrate)、アミノイソ酪酸塩(aminoisobutyrate)、L−バリン(L-valine)、L−イソロイシン(L-isoleucine)、L−システイン(L-cystein)、L−グルタミン(L-glutamine)などのアミノ酸と、カラメル化された糖成分(caramelized sugar)と、L−アラニンとは異なるメカニズムで発芽が誘導されるL−アスパラギン(L-asparagine)とがある。また、グルコース(glucose)、マンノース(mannose)、キシロース(xylose)、ラムノース(rhamnose)、スクロース(sucrose)などのアルドース(aldose)類と、アルドース類のデオキシ(deoxy)誘導体である2−デオキシグルコース(2-deoxyglucose)と、ラクトン(lactone)誘導体であるグルコノ−1,4−ラクトン(glucono-1,4-lactone)と、ガラクトン−1,4−ラクトン(galactono-1,4-lactone)、マンニトール(mannitol)、ソルビトール(sorbitol)、キシリトール(xylitol)などの炭水和物ベース発芽誘導体が知られている。その他に、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リン酸塩イオンなどはL−アラリンによる発芽を大きく促進させ、イオン自体では発芽剤として作用しないものと知られている。本発明の蛇床子エタノール抽出物からの水抽出物は、アラニン、マンニトール、およびキシリトールを多量含んでいることをGC−MS分析によって分かることができた。
【0018】
発芽は、発芽誘発物質(germinator)が胞子の受容体に結合する第1段階と、胞子発芽開始反応を始める第2段階と、脱水状態の胞子コア層に水分が投入されながら耐熱性を消失し、ジピコリン酸(dipicolic acid)、カルシウムイオンが遊離される第3段階と、水和によってコルテクス(cortex)の加水分解が行われる第4段階と、胞子の膨化に伴って胞子コア層の中央に亀裂が発生する第5段階と、コア細胞が放出されて発芽が完了する第6段階とからなっているが、蛇床子エタノール抽出物の水層抽出物に含まれた胞子発芽促進剤は、電子顕微鏡観察の結果、第1段階、第2段階に作用することが分かった。そして、蛇床子エタノール抽出物からの水抽出物には、発芽促進剤の他には特別な栄養成分がなくて、第3、4段階であるコルテクス(cortex)加水分解過程までは到達されず、単に胞子コートの一部損傷、すなわちヘキサン抽出物の抗菌成分が内部に移動しうる亀裂によるチャネルのみを生成するものと思われる。すなわち、アラニン、マンニトールおよびキシリトールは、胞子で発芽促進作用のみを行い、胞子コート上の変化をもたらすが、コアのDNAを放出して栄養細胞に転換される段階までは進まない。
【0019】
本発明の蛇床子有機溶媒抽出物は、アラニン、マンニトールおよびキシリトールの発芽促進剤と酢酸ボニル、酢酸ゲラニルの界面活性剤系統の天然抗菌物質の有機的な作用によって胞子殺菌に対する相乗的な効果を持つ。発芽促進剤の作用によって、胞子の初期発芽が行われると、胞子コート層の表面に亀裂が生ずることになり、胞子コートの亀裂を介して界面活性剤系統の天然抗菌物質である酢酸ボニル、酢酸ゲラニルが胞子の内部に浸透して、胞子のコルテクス、コアの成分と構造を損傷させて胞子を死滅させるので、ヘキサン抽出物単独処理の際によりさらに効果的な胞子死滅効果を示す。すなわち、蛇床子有機溶媒、より好ましくは、エタノール抽出物は酢酸ボニルおよび酢酸ゲラニル成分による10内外の直接殺菌メカニズムと、アラニン、マンニトールおよびキシリトールなどの発芽誘導剤による10内外の間接的殺菌メカニズムで、既存の抗菌素材の殺菌効果である10内外より100倍優れた胞子殺菌効果を持つ。また、本発明の蛇床子組成物は低温および比熱処理条件で胞子殺菌が可能なので、品質および栄養成分の破壊を伴わない。
別の様態として、本発明は、前記組成物で処理して胞子型微生物の胞子を殺菌する方法を提供する。
この際、組成物を有効量の範囲内で使用し、処理方法は特に限定されない。
【0020】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提供する。ところが、下記の実施例は本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
実施例1:植物抽出物の製造
蛇床子などの植物抽出物製造工程は、次のとおりである(図2)。
洗浄および粉砕工程(washing and griding)
蛇床子などの植物抽出物の表面にくっ付いている塵、異物などの汚染物質を除去するために、まず清浄水で洗浄する。洗浄した後、粉砕機(grinder)を用いて細かく粉砕し、粉砕した試料の水分含量を測定する。
エタノール抽出工程(ethanol extracting)
75%食用エタノールに蛇床子を0.1%の割合で混合した後、25℃の常温で24時間混合、攪拌する。
濾過工程(filtering)
エタノールとの混合攪拌が済んだ原料は濾紙(Whatman paper No.2)で濾過し、その後残った固形物ペレット(pellet)は再びエタノール抽出工程を行い、最初濾液に、2次実施したエタノール抽出濾液を合わせて使用する。
濃縮工程(evaporation)
濾液を44℃の温度、真空状態で濃縮する。
凍結乾燥工程(freeze drying)
真空濃縮した蛇床子エタノール抽出物を最終的に凍結乾燥させて低水分のペースト状に製造し、胞子型微生物の栄養細胞および胞子の抗菌テストに使用した。
ヘキサン抽出物の製造工程
100%ヘキサンに蛇床子エタノール抽出物を25℃の常温で24時間混合、攪拌した後、上澄み液を取って胞子型微生物の栄養細胞および胞子の抗菌テストに使用した。
水層抽出物の製造工程
蛇床子などの植物エタノール抽出物を水層で25℃の常温で24時間混合、攪拌した後、上澄み液を取って胞子型微生物の栄養細胞および胞子の抗菌テストに使用した。
【0021】
実施例2:バシラス胞子準備方法
胞子型微生物の殺菌対象としてバシラスサブチリス胞子を選定し、その中でも唐辛子味噌、醤油、唐辛子粉、香辛料、乾燥野菜などに多く自生するバシラスサブチリスATCC6633を選定した。
バシラスサブチリスATCC6633栄養細胞を継代培養してTSA(tryptic soy agar)プレートにストリーキング(streaking)し、30℃、48時間培養した後、5℃の低温に保管して種培養物(seed culture)として使用した。種培養物の良否を確認するために顕微鏡観察を行った後、異常がなければNAMS(nutrient agar contaning magnesium sulfate)培地にスプレード(spreading)して30℃、48時間培養した後、1010〜1012の胞子状態になると、食塩水で表面を洗浄し、白金耳で掻き出した後、滅菌チューブ(sterile tube)に捕集した。その後、4℃の低温で12,000rpmの速度で2分間遠心分離(centrifuge)する工程を2回繰り返し、ペレットの状態を顕微鏡で確認した後、5分間のオン/オフ超音波工程(ultrasonication)によって栄養細胞のみを破壊させて再び遠心分離し、その後ドルナー方法(Dorner method)によって胞子形成有無を最終確認した後、−20℃の冷凍庫に準備した胞子を保管しながら殺菌効果テスト用サンプルとして使用した。
【0022】
実施例3:蛇床子抽出物の胞子殺菌効果の測定
天然胞子殺菌剤を検出するために、オールスパイス(allspice)、バジル(basil)、黒コショウ(black pepper)、キャラウェー(caraway)、セロリ(celery)、シナモン(cinnamon)、丁子(clove)、コリアンダー(coriander)、クミン(cumin)、フェンネル(fennel)、マジョラム(marjoram)などの36種の香辛料系統、ニラ(leak)、ヨモギ(mugwort)、赤唐辛子(red pepper)、青ピーマン(grossum green pimento)、オランダガラシ(watercress)、オリーブ(olive)、カイワレ大根(radish sprout)、トマト(tomato)、ジャガイモ(potato)、生姜(ginger)、緑茶(green tea)、葡萄(grape)、ゴールドキーウィ(golden kiwi)、桃(peach)、グレープフルーツ(grapefruit)、レモン(lemon)などの野菜類、熱帯果物類27種、連翹(forsythiae fructus)、当帰(angelicae gigantis radix) 、花梨(chaenomelis fructus)、木通 (akebiae caulis)、升麻(cimicifugae rhizome)、金銀花(lonicerae flos)、黄連(coptidis rhizome)、蛇床子(torilidis fructus)などの漢方薬材などを含んで、抗菌力があると知られている総100余り種の植物性抗菌素材から、75%のアルコールを用いて抽出し、真空濃縮した後、凍結乾燥させて製造したエキスまたはパウダー状の抗菌物質を製造した。そして、これを用いて胞子型微生物の胞子と栄養細胞の殺菌に効果的な植物性天然抗菌素材をスクリーニング(screening)した。600nmにおけるOD値測定法(Optical Density analysis)と栄養培地平板培養を用いた総菌数測定法によって、胞子型微生物の代表菌であるバシラスサブチリス胞子を殺菌ターゲット対象として抗菌テストを行った。
【0023】
OD値測定法は、栄養細胞と胞子にTSB(tryptic soy broth)を添加した後、37℃で18時間培養し、600nmでOD値を測定して懸濁度によって栄養細胞および胞子の生育程度を間接的に分析する方法である。OD値の測定によって殺菌効果が有効なものと確認された植物性候補抗菌素材を1次配列し、次の段階では生菌数測定法(viable cell count)によって最終抗菌効果の有無を観察、分析した。具体的に、胞子懸濁液に食塩水とテスト用天然抗菌素材を混合して最終天然抗菌素材の濃度が1%となるように作った。30℃で3時間混合、攪拌した後、12,000rpmで遠心分離して、添加した抗菌物質が存在するものと推定される上澄み液を除去し、胞子が残っているエッペンドルフに蒸留水を加えて再び遠心分離し、残存可能な抗菌物質を除去した。このような操作を3回繰り返し行い、天然抗菌剤で処理された胞子のみを残すが、これは純粋な胞子状態で天然抗菌素材の殺菌効果を観察、分析するためのものである。抗菌物質を除去しなければ、栄養培地における総菌数分析法の際に、栄養細胞に転換された後に残存している抗菌物質による殺菌効果が発生するため、胞子に対する正確な殺菌効果を分かることができない。このような洗浄(washing)処理によって抗菌素材を完全に除去した後、0.85%食塩水を加えてTSA培地に混合(pouring)し、37℃で24時間および48時間培養して総菌数の測定によって胞子および栄養細胞の死滅効果を考察、分析した。その上、このような殺菌効果テストを天然抗菌剤の添加量別に行い、胞子および栄養細胞の死滅に効果的な最適濃度と最小生育阻害濃度(MIC)を決定した。
【0024】
候補抗菌物質を胞子懸濁液対比1%の濃度で添加して30℃で3時間反応させた後、殺菌力と生育抑制効果を検証した結果、蛇床子エタノール抽出物が最も優れた10の栄養細胞および胞子殺菌効果を示した(図1)。蛇床子エタノール抽出物の他にも、薬用素材である梔子(Gardeniae fructus)、牛蒡子(Arctii semen)と香辛料(herb)系統であるコリアンダー(胡ズイ、Coriandum sativum)が10内外減菌程度のバシラスサブチリス胞子に対する殺菌効果を示し、残りの96種は殺菌効果がないか、或いは有意差水準の微々たる抗菌効果を示した。
関連研究文献と特許などの資料を検索した結果、大部分の天然抗菌剤が胞子に対して10内外の抗菌効果と生育抑制効果を示すが、これに対し、本発明のエタノール抽出物は約100倍以上の優れた殺菌効果を示した。
【0025】
実施例4:蛇床子生産地別、種類別胞子殺菌効果の測定
蛇床子生産地別、種類別殺菌効果をバシラスサブチリス胞子を対象として考察するために、韓国産のヤブジラミ(Torilis japonica Decandolle)およびオカゼリ(Cnidium monnieri(L.) Cussion)、中国産のヤブジラミ(Torilis japonica Decandolle)およびオカゼリ(Cnidium monnieri(L.) Cussion)を実施例1の方法で処理して比較してみた。実験結果、大部分10〜10のバシラスサブチリス胞子の殺菌効果を示して大きい差異がなく、収率も10%近傍でいずれも同様であったので、全種類の蛇床子を使用することができる。
【0026】
実施例5:蛇床子抽出物の濃度別、処理時間別胞子殺菌効果の測定
蛇床子エタノール抽出物の添加濃度別バシラスサブチリス胞子に対する殺菌効果を考察するために、胞子懸濁液の濃度に対し0.01%、0.05%、0.1%、0.5%、1.0%の濃度で蛇床子エタノール抽出物をそれぞれ添加した結果、0.1%の濃度で10減菌(99% Inactivation)効果を示し、0.5%、1.0%の濃度で10〜10減菌(99.9〜99.99% inactivation)効果を示した。最小生育阻害濃度(MIC)は0.1%添加量であり、0.5%〜1.0%添加量は味、原価、価格などの官能的、経済的要素を勘案するときに最適の使用量であることが分かる(図3)。
蛇床子エタノール抽出物の反応処理時間別バシラスサブチリス胞子に対する殺菌効果を考察するために、胞子懸濁液にそれぞれ0.5時間、1時間、2時間、3時間、6時間混合処理した結果、30分処理時から10(99% inactivation)の有効な殺菌効果を示し、1時間以後から10〜10殺菌(99.9〜99.99% inactivation)の最大殺菌効果を示した。1時間程度の反応の際に、抗菌物質による直接的殺菌効果と発芽促進物質による間接的殺菌効果によって10減菌以上の優れた殺菌および生育抑制効果を示すことが分かる(図4)。
【0027】
実施例6:蛇床子抽出物の層別胞子殺菌効果の測定
蛇床子エタノール抽出物の上層部と下層部の殺菌効果をバシラスサブチリス胞子を対象として比較テストした結果、下層部では殺菌効果が殆どなく、上層部では殺菌効果が10であって、蛇床子エタノール抽出物の全層と類似の結果を示した。以上の実験結果より、蛇床子エタノール抽出物の殺菌効果は上層部にある上澄み液の抗菌成分などによるものと明らかになった。
【0028】
実施例7:蛇床子抽出物のヘキサン抽出物の分離
微生物に有効な主抗菌成分を解明するために、蛇床子エタノール抽出物をヘキサンで再び抽出した(図5)。ヘキサンで抽出される疎水性グループ(hydrophobic group)の抗菌成分であるピンネン(pinene)、シメン(cymene)、リモネン(limonene)、オストール(osthol)、カンフェン(camphene)、酢酸ボニル(bornyl acetate)、酢酸ゲラニル(geranyl acetate)のうち、研究文献リブュー調査と分析設備によって究明した結果、疎水性、親水性基の両方ともを持っていて界面活性剤の役割を果たす酢酸ボニル、酢酸ゲラニルが、胞子型微生物に対する主抗菌力を示す成分であると確認された。この2成分の構造式を図6に示した。
【0029】
実施例8:蛇床子抽出物の水抽出物の分離
蛇床子エタノール抽出物の抗菌メカニズムを解明するために、蛇床子エタノール抽出物を再び水で抽出した後、その成分を考察した。
水抽出物をGC−MS分析器で成分分析したところ、発芽促進成分として知られているアラニン(alanine)、マンニトール(mannitol)、キシリトール(xylitol)成分が多量検出された。殺菌実験対象であるバシラスサブチリス胞子に水抽出物を添加すると、発芽促進剤による発芽メカニズムによって化学的抗菌成分に対して耐性の強いコート層に亀裂、損傷が生じることになり、この部分を介して、蛇床子エタノール抽出物にある界面活性剤系統の抗菌成分である酢酸ボニル、酢酸ゲラニルが内部に浸透し、コアが破壊されて死滅メカニズムが起こることが分かった。図7は蛇床子エタノール抽出物の無添加菌と蛇床子エタノール抽出物から再びヘキサンで抽出した物質、水で抽出した物質でそれぞれ30℃で3時間処理し、この処理5時間経過の後に顕微鏡で観察した写真であって、栄養培地(TSA)のある胞子懸濁液では胞子が発芽して栄養細胞に転換されることが観察された。ヘキサン抽出物では発芽された胞子が観察されないから、胞子コート層などの損傷によって直接的な殺菌が一部起こるものと確認されたし、水抽出物では発芽促進剤によって発芽初期段階が行われるものと確認された。水抽出物においてこのような発芽初期段階が行われるので、胞子の抗菌成分に対する耐性が弱くなり、ヘキサン抽出物内の抗菌成分の作用を倍加させる。図8は図7において抗菌サンプルで処理した処理区などを電子顕微鏡(SEM)で観察した写真であり、蛇床子エタノール無添加群は胞子構造に大きい変化がなく、蛇床子エタノール抽出物でバシラスサブチリス胞子を処理した場合には胞子構造が破壊されてコア層などが損失されて死滅したものと観察されたし、ヘキサン抽出物処理の場合も胞子コート層の損傷が一部観察された。水抽出物では発芽初期段階による胞子構造の変化が観察された。
【0030】
本発明の前記および他の目的、特徴および利点は添付図面を参照する以降の詳細な説明からより明らかに理解可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は蛇床子エタノール抽出物のバシラスサブチリス胞子に対する殺菌効果を示す図である。
【図2】図2は蛇床子エタノール抽出物の製造工程を示す図である。
【図3】図3は蛇床子エタノール抽出物の添加濃度別バシラスサブチリス胞子に対する殺菌効果を示す図である。
【図4】図4は蛇床子エタノール抽出物の処理時間別バシラスサブチリス胞子に対する殺菌効果を示す図である。
【図5】図5は蛇床子エタノール抽出物からのヘキサン抽出物および水抽出物製造方法について示す図である。
【図6】図6は蛇床子エタノール抽出物の酢酸ボニルと酢酸ゲラニルの構造および殺菌メカニズムを示す図である。
【図7】図7は蛇床子エタノール抽出物無添加群、または蛇床子エタノール抽出物からのヘキサン抽出物または水抽出物で処理したバシラスサブチリス胞子の顕微鏡写真を示す図である。
【図8】図8は蛇床子エタノール抽出物無添加群、または蛇床子エタノール抽出物または蛇床子エタノール抽出物からのヘキサン抽出物または水抽出物で処理したバシラスサブチリス胞子の電子顕微鏡写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛇床子の有機溶媒抽出物を含む胞子型微生物の胞子殺菌用組成物。
【請求項2】
アルコール抽出物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
胞子型微生物がバシラス(Bacillus)またはクロストリジウム属(Clostridium)バクテリアである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
酢酸ボニルおよび酢酸ゲラニルの中から選択される一つ以上の成分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
アラニン、マンニトールおよびキシリトールの中から選択される一つ以上の成分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物で胞子型微生物を処理して胞子型微生物の胞子を殺菌する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2008−526738(P2008−526738A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549277(P2007−549277)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【国際出願番号】PCT/KR2006/000028
【国際公開番号】WO2006/073266
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(508081075)シージェイチェイルジェダンコーポレーション (6)
【Fターム(参考)】