説明

蛍光体およびこれを用いた発光装置

【課題】 波長360nm乃至500nmの光で励起した際に、波長520nm乃至600nmに単一の発光バンドを有する色純度の良い緑−黄色−オレンジ光を放出可能であるとともに、毒性の低減されたケイ酸塩系蛍光体を提供する。
【解決手段】 アルカリ土類金属ケイ酸塩化合物からなり、Eu2+で活性化された蛍光体である。アルカリ土類金属元素に加えて、La,Gd,CsおよびKから選択される少なくとも1種の元素を含み、表層材を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ、照明や各種光源に使用されるケイ酸塩蛍光体およびこれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
励起光源としての発光素子と蛍光体とを組み合わせた発光ダイオード(以下、LEDという)が知られており、組み合わせによって様々な色の発光色を実現することができる。そのうち、いわゆる白色LEDと呼ばれる白色光を放出する発光装置を得るには、主に青色光を放つ発光素子と黄色系蛍光体を組み合わせる方法、近紫外光を放つ発光素子と青色系蛍光体、黄色系蛍光体、および赤色系蛍光体を組み合わせる方法がある。白色LEDに使用される黄色系蛍光体としては、YAG系蛍光体がよく知られているが、波長360nm乃至410nmの光では発光が弱いため、青色光源を用いたLEDに限定されている。
【0003】
波長360nm乃至500nmの光で励起した際の発光スペクトルが、黄色の光を放出する蛍光体としては、M2SiO4:Euで表わされる組成を有するケイ酸塩系蛍光体が知られている(例えば、非特許文献1)。例えばBa2SiO4:Eu2+の結晶構造は斜方晶のみであるが、Sr2SiO4:Eu2+の結晶構造は85℃以下では単斜晶となり、それ以上では斜方晶構造となることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
斜方晶Ba2SiO4:Eu2+及び単斜晶Sr2SiO4:Eu2+の発光は、ピーク波長520〜540nm前後の緑黄色となる。Sr2SiO4:Eu2+のSrの一部をBaに置き換えることによって室温でも斜方晶が得られ、その発光はピーク波長570nmの色純度の良い黄色となる。そのため、M2SiO4:Euで表わされる組成のケイ酸塩蛍光体において色純度の良い黄色発光を得るためには、Baを含むことが不可欠であった。また、520〜600nmの間で望ましい波長をもつバンドを得るためには、Baの含有量により調節することが必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】G.Blasse,W.L.Wanmaher,J.W.terVrugt,and A.Bril,Philips Res.Repts,23,189−200,(1968)
【非特許文献2】S.H.M.Poort,W.Janssen,G.Blasse,J.Alloys and Compounds,260,93−97,(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Ba化合物は毒物であり、劇物取締法により規制を受けた物質であり、人体に悪影響を及ぼす。純度の高い黄色発光を放出する蛍光体であっても、Ba化合物の含有量をできる限り低減することが望まれる。
【0007】
そこで本発明は、波長360nm乃至500nmの光で励起した際に、波長520nm乃至600nmに単一の発光バンドを有する色純度の良い緑−黄色−オレンジ光を放出可能であるとともに、毒性の低減されたケイ酸塩系蛍光体、およびこれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかる蛍光体は、アルカリ土類金属ケイ酸塩化合物からなり、Eu2+で活性化された蛍光体であって、アルカリ土類金属元素に加えて、La,Gd,CsおよびKから選択される少なくとも1種の元素を含み、表層材を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様にかかる発光装置は、360nm乃至500nmの波長の光を発光する発光素子と、前記発光素子上に配置され、蛍光体を含有する蛍光体層とを具備し、前記蛍光体の少なくとも一部は、前述の蛍光体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、波長360nm乃至500nmの光で励起した際に、波長520nm乃至600nmに単一の発光バンドを有する色純度の良い緑−黄色−オレンジ光を放出可能であるとともに、毒性の低減されたケイ酸塩系蛍光体、およびこれを用いた発光装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態にかかる発光装置の構成を表わす概略図。
【図2】実施例1および比較例2の蛍光体の励起スペクトル。
【図3】実施例1の蛍光体の発光スペクトル。
【図4】実施例1の蛍光体のX線回折図。
【図5】従来のSr2SiO4:Eu(単斜晶)のX線回折図。
【図6】従来の(Sr,Ba)2SiO4:Eu(斜方晶)のX線回折図。
【図7】実施例2の蛍光体の発光スペクトル。
【図8】実施例3の蛍光体の発光スペクトル。
【図9】実施例4の蛍光体の発光スペクトル。
【図10】実施例1の蛍光体と470nmのLEDチップを組み合わせた白色LEDの発光スペクトル。
【図11】比較例1の蛍光体の発光スペクトル。
【図12】比較例2の蛍光体の発光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
本発明者らは鋭意検討した結果、アルカリ土類金属ケイ酸塩化合物からなり、Eu2+で活性化された蛍光体においては、Baと同様に結晶構造を単斜晶から斜方晶に変化させる作用を有する元素が存在することを見出した。La,Gd,CsおよびKから選択される少なくとも1種であり、これらは毒性をほとんど有さず人体に無害である。本発明は、こうした知見に基づいてなされたものである。
【0014】
Ba含有アルカリ土類金属ケイ酸塩化合物からなり、Eu2+で活性化された蛍光体は、例えば、下記一般式(1)で表わすことができる。
【0015】
(Sr,Ca,Ba,Eu)2SiO4 (1)
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、例えば下記一般式(2)で表わされる。
【0016】
(Sr1-x-y-z-wCaxBayzEuw2Siv2+2v (2)
(上記一般式(2)中、AはLa,Gd,CsおよびKから選択される少なくとも1種の金属であり、x、y、z、w、およびvは、次の関係を満たす数値である。
【0017】
0≦x≦0.8, 0≦y≦0.6, 0<z≦0.1, 0.001≦w≦0.2
0<(1−x−y−z−w)<1, 0.9≦v≦1.1)
Caの含有量が多すぎる場合には、発光効率が低下するが、xが0.8以下であれば、これを避けることができる。また、人体への影響を考慮すると、Baの含有量は可能な限り少ないことが望まれ、y=0が最も好ましいが、発光波長を調整するためにBaが含有されてもよい。この場合には、yが0.6以下であれば、毒性の影響を低減することができる。
【0018】
アルカリ土類金属元素以外の元素Aは、La,Gd,CsおよびKから選択される少なくとも1種である。これらの元素は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。こうした元素の割合が多すぎる場合には、異相が現れて発光効率が低下するおそれがある。zが0.1以下の範囲であれば、これを避けることができる。
【0019】
上記一般式(2)に示されるように、本発明にかかる蛍光体は、Eu2+で活性化されたケイ酸塩化合物である。Euの組成比wは、0.001以上0.2以下であることが好ましい。wが0.001未満の場合には、十分な発光輝度を得るのが困難となる。一方、wが0.2を越えると、濃度消光によって発光輝度が低下するおそれがある。
【0020】
また、Siの組成比vは、0.9以上1.1以下であることが好ましい。vが0.9未満の場合には、500nm近傍の第二のバンドが発現して、発光スペクトルが広がるおそれがある。一方、1.1を超えると、充分な発光輝度を得るのが困難となる。vは、0.95以上1.05以下の範囲内であることがより好ましい。
【0021】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、例えば、以下のような手法により合成することができる。
【0022】
まず、構成元素の酸化物粉末を所定量秤量し、結晶成長剤として適当量の塩化アンモニウムを加えてボールミル等で混合する。酸化物粉末の代わりに、熱分解により酸化物となり得る各種化合物を用いることもできる。例えば、Eu原料としてはEu23等、Ca原料としてはCaCO3等、Sr原料としてはSrCO3等、Ba原料としてはBaCO3等、La原料としてはLa23等、Gd原料としてはGd23等、Cs原料としてはCsCl等、K原料としてはKCl等、Si原料としてはSiO2等を用いることができる。こうした原料粉末が結晶成長剤としても作用する場合には、必ずしも塩化アンモニウム等の結晶成長剤を別途加えなくてもよい。
【0023】
結晶成長剤としては、塩化アンモニウム以外のアンモニウム、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩化物、フッ化物、臭化物、あるいは沃化物などを用いてもよい。吸湿性の増加を防止するために、結晶成長剤の添加量は、原料粉末全体に対して0.5重量%以上30重量%以下程度とすることが好ましい。
【0024】
その後、坩堝に収容し、N2/H2の混合ガスからなる還元性雰囲気中、1000〜1600℃の温度で3〜10時間焼成する。得られた焼成物を、乳鉢等を用いて粉砕後、再度N2/H2の混合ガスからなる還元性雰囲気中、1000〜1600℃の温度で3〜7時間焼成する。こうした得られた第一の焼成物を粉砕して、再度容器に収容する。粉砕の程度は特に規定されず、焼成によって生じた塊を、乳鉢等を用いて砕いて表面積が増大すればよい。
【0025】
再び炉内に配置して、真空で窒素置換する。この際の真空は、1000Pa以下であることが好ましい。これ以上であると、材料に付着した水分を除去することができない。
【0026】
次いで、前記第一の焼成物を、水素濃度5%以上100%以下のN2/2の還元性雰囲気中で、1000〜1600℃で2〜6時間焼成する。得られた焼成物を、乳鉢等を用いて粉砕後、適当なメッシュ幅の篩を通過させることによって、前記一般式(2)で表わされるアルカリ土類金属ケイ酸塩化合物からなる蛍光体粒子を得ることができる。
【0027】
本発明の実施形態にかかる蛍光体粒子の表面には、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、テトラエトキシシラン(TEOS)、シリカ、ケイ酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、カルシウムポリフォスフェート、シリコーンオイル、およびシリコーングリースから選択される少なくとも一種からなる表層材が配置されてもよい。これによって、防湿効果を付与することができる。ケイ酸亜鉛およびケイ酸アルミニウムは、例えばZnO・aSiO2(1≦a≦4)、およびAl23・bSiO2(1≦b≦10)でそれぞれ表わされる。蛍光体粒子表面が完全に表層材で覆われている必要はなく、その一部が露出していてもよい。蛍光体粒子の表面に、上述したような材質からなる表層材が存在していれば、その効果が得られる。
【0028】
表層材は、その分散液または溶液を用いて蛍光体粒子表面に配置することができる。分散液または溶液中に蛍光体粒子を所定時間浸漬した後、加熱等により乾燥させることによって表層材が配置される。蛍光体としての本来の機能を損なうことなく、表層材の効果を得るために、表層材は、蛍光体粒子の0.1〜50%程度の体積割合で存在することが好ましい。
【0029】
図1に、本発明の一実施形態にかかる発光装置の断面を示す。
【0030】
図示する発光装置においては、樹脂ステム200はリードフレームを成形してなるリード201およびリード202と、これに一体成形されてなる樹脂部203とを有する。樹脂部203は、上部開口部が底面部より広い凹部205を有しており、この凹部の側面には反射面204が設けられる。
【0031】
凹部205の略円形底面中央部には、発光チップ206がAgペースト等によりマウントされている。発光チップ206としては、紫外発光を行なうもの、あるいは可視領域の発光を行なうものを用いることができる。例えば、GaAs系、GaN系等の半導体発光素子等を用いることが可能である。発光チップ206の電極(図示せず)は、Auなどからなるボンデイングワイヤー207および208によって、リード201およびリード202にそれぞれ接続されている。なお、リード201および202の配置は、適宜変更することができる。
【0032】
樹脂部203の凹部205内には、蛍光層209が配置される。この蛍光層209は、本発明の実施形態にかかる蛍光体210を、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層211中に5重量%から50重量%の割合で分散することによって形成することができる。
【0033】
発光チップ206としては、n型電極とp型電極とを同一面上に有するフリップチップ型のものを用いることも可能である。この場合には、ワイヤーの断線や剥離、ワイヤーによる光吸収等のワイヤーに起因した問題を解消して、信頼性の高い高輝度な半導体発光装置が得られる。また、発光チップ206にn型基板を用いて、次のような構成とすることもできる。具体的には、n型基板の裏面にn型電極を形成し、基板上の半導体層上面にはp型電極を形成して、n型電極またはp型電極をリードにマウントする。p型電極またはn型電極は、ワイヤーにより他方のリードに接続することができる。
【0034】
発光チップ206のサイズ、凹部205の寸法および形状は、適宜変更することができる。本発明の実施形態にかかる蛍光体は、360nm乃至500nmの波長の光で励起することによって、520nm乃至600nmの緑色−黄色−オレンジ色の発光色を示す。具体的には、本発明の実施形態にかかる蛍光体の発光スペクトルは、520nm乃至600nmの間に単一の発光バンドを有する。なお、単一の発光バンドを有するとは、単一の発光ピークを有し、肩状の起伏を示さないバンド形を有することをさす。本発明に実施形態にかかる蛍光体を、青色発光蛍光体および赤色発光蛍光体と組み合わせて用いる場合には、白色光を得ることも可能である。
【0035】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は斜方晶構造を有するので、この蛍光体を含有する蛍光層を設けることによって、色純度のよい発光を放出する発光装置が得られる。
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
まず、(Sr0.915La0.06Eu0.0252SiO4で表わされる組成の蛍光体を調製した。原料粉末としては、SrCO3粉末、La23粉末、Eu23粉末およびSiO2粉末を用意し、所定量秤量した。原料粉末の全量に対して1.5重量%の割合で結晶成長剤としてのNH4Clを添加して、ボールミルで均一に混合した。
【0037】
得られた混合原料を蓋付きアルミナ坩堝に充填して、大気中、600℃で1時間焼成し、NH4Clを分解させた。次に、N2/H2の混合ガスからなる還元性雰囲気中、1000〜1600℃の温度で3〜7時間焼成して、第一の焼成物を得た。これを粉砕して再び坩堝に収容し、炉内に配置して、炉内を真空で窒素置換した。さらに、水素濃度5%以上100%以下のN2/2の還元性雰囲気において1000〜1600℃の温度で2〜6時間焼成して、第二の焼成物を得た。焼成物を乳鉢で粉砕し、目開き75μmの篩を通過させることによって、実施例1の蛍光体を得た。
【0038】
この蛍光体の励起スペクトルを、図2に曲線aとして示す。図2中、曲線bは後述する比較例2の蛍光体の励起スペクトルである。本実施例の蛍光体は、比較例2の蛍光体と同様のUV〜黄色まで広い波長域において励起可能であることが、曲線aからわかる。
【0039】
図3および図4には、本実施例の蛍光体の395nm励起時の発光スペクトル、および蛍光体のX線回折図をそれぞれ示す。ここで用いた発光スペクトルは、395nmおよび470nmのピーク波長を有する発光ダイオードにより励起された蛍光体の発光スペクトルを、大塚電子製IMUC−7000G型瞬間マルチ測光システムで測定したものである。図3の発光スペクトルに示されるように、単一の発光ピークを有し、肩状の起伏を示さない。このことから、本実施例の蛍光体は、波長360nm乃至500nmの光で励起した際の発光スペクトルが、波長520nm乃至600nmの間に単一のピークを有することがわかる。また、X線回折パターンは、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カード39−1256と一致している。なお、JCPDSカードとは、粉末X線回折のデータベースにかかわるものであり、JCPDSで編集、刊行されたカードをいう。2θ=34.2°にピークが存在しないことから、本実施例の蛍光体は斜方晶の結晶構造であることが、図4のX線回折図に現れている。
【0040】
参考のために、従来のSr2SiO4:Eu蛍光体のX線回折図を図5に示す。この回折パターンは、JCPDSカード76−1630と一致し、2θ=34.2°にピークが存在することから、単斜晶の結晶構造である。また、図6には、従来の(Sr,Ba)2SiO4:Eu蛍光体のX線回折図を示す。図6のX線回折図に示されるように、JCPDSカード39−1256と一致し、2θ=34.2°にピークが存在しないことから、従来の(Sr,Ba)2SiO4:Eu蛍光体は斜方晶の結晶構造を有することわかる。図4に示したX線回折図と比較すると、本発明の実施形態にかかる蛍光体は、従来のBaを含有する蛍光体と同様に、斜方晶の結晶構造を有することが明らかである。
【0041】
(実施例2)
まず、(Sr0.915Gd0.060Eu0.0252SiO4で表わされる組成の蛍光体を調製した。原料粉末としては、SrCO3粉末、Gd23粉末、Eu23粉末およびSiO2粉末を用意し、所定量秤量した。原料粉末の全量に対して1.5重量%の割合で結晶成長剤としてのNH4Clを添加して、ボールミルで均一に混合した。
【0042】
その後、実施例1と同様の製造方法にて実施例2の蛍光体を得た。この蛍光体の波長395nm励起時の発光スペクトルを、図7に示す。図7の発光スペクトルに示されるように、本実施例の蛍光体は、波長360nm乃至500nmの光で励起した際の発光スペクトルが、波長520nm乃至600nmの間に単一のバンドを有することがわかる。
【0043】
(実施例3)
まず、(Sr0.9200.055Eu0.0252SiO4で表わされる組成の蛍光体を調製した。原料粉末としては、SrCO3粉末、KCl粉末、Eu23粉末およびSiO2粉末を用意し、所定量秤量し、ボールミルで均一に混合した。ここでは、K原料であるKClが結晶成長剤としての役割を果たすため、NH4Clは添加しなかった。
【0044】
その後、実施例1と同様の製造方法にて実施例3の蛍光体を得た。この蛍光体の波長395nm励起時の発光スペクトルを、図8に示す。図8の発光スペクトルに示されるように、本実施例の蛍光体は、波長360nm乃至500nmの光で励起した際の発光スペクトルが、波長520nm乃至600nmの間に単一のバンドを有することがわかる。
【0045】
(実施例4)
まず、(Sr0.915Cs0.03La0.03Eu0.0252SiO4で表わされる組成の蛍光体を調製した。原料粉末としては、SrCO3粉末、CsCl粉末、La23粉末、Eu23粉末およびSiO2粉末を用意し、所定量秤量し、ボールミルで均一に混合した。ここでは、Cs原料であるCsClが結晶成長剤としての役割を果たすが、Cl比率調整のため、NH4Clも同時に添加した。
【0046】
その後、実施例1と同様の製造方法にて実施例4の蛍光体を得た。この蛍光体の波長395nm励起時の発光スペクトルを、図9に示す。図9の発光スペクトルに示されるように、本実施例の蛍光体は、波長360nm乃至500nmの光で励起した際の発光スペクトルが、波長520nm乃至600nmの間に単一のバンドを有することがわかる。
【0047】
(実施例5)
まず、(Sr0.915Ba0.03La0.03Eu0.0252SiO4で表わされる組成の蛍光体を調製した。原料粉末としては、SrCO3粉末、BaCO3粉末、La23粉末、Eu23粉末およびSiO2粉末を用意し、所定量秤量し、ボールミルで均一に混合した。原料粉末の全量に対して1.5重量%の割合で結晶成長剤としてのNH4Clを添加して、ボールミルで均一に混合した。
【0048】
その後、実施例1と同様の製造方法にて実施例5の蛍光体を得た。この蛍光体の波長395nm励起時の発光スペクトルは、ピーク波長575nm、波長470nm励起時の発光スペクトルは、ピーク波長580nmであった。実施例1乃至4の蛍光体と同様、本実施例の蛍光体も、波長360nm乃至500nmの光で励起した際の発光スペクトルが、波長520nm乃至600nmの間に単一の発光バンドを有するものであった。
【0049】
X線回折の結果から、実施例2乃至5のいずれの蛍光体も、実施例1の場合と同様、斜方晶の結晶構造を有することが確認された。
【0050】
(実施例6)(LED)
実施例1の蛍光体、青色蛍光体、および赤色蛍光体をエポキシ樹脂に分散させて、この樹脂混合物を調製した。なお、青色蛍光体としては、ユーロピウム付活アルカリ土類クロロリン酸塩蛍光体を用い、赤色蛍光体としては、ユーロピウム付活酸硫化ランタン蛍光体を用いた。この樹脂混合物を、発光ピーク波長395nmなるLEDチップをマウントしたLEDパッケージに塗布して、図1に示したような発光装置を作製した。
【0051】
得られた発光装置から、演色性のよい白色光が放出されることが確認された。
【0052】
(実施例7)(LED)
実施例1の蛍光体をエポキシ樹脂に分散させて、樹脂混合物を調製した。この樹脂混合物を、発光ピーク波長470nmなるLEDチップをマウントしたLEDパッケージに塗布して、白色LEDを作製した。
【0053】
得られた白色LEDの発光スペクトルを、図10に示す。この場合の発光色は、色度値x=0.337、y=0.303であり、色温度5247Kであった。このように、演色性のよい白色発光が放出される白色LEDを作製することができる。
【0054】
(比較例1)
まず、(Sr0.285Ba0.665Eu0.052SiO4で表わされる組成の蛍光体を調製した。原料粉末としては、SrCO3粉末、BaCO3粉末、Eu23粉末およびSiO2粉末を用意し、所定量秤量した。原料粉末の全量に対して1.5重量%の割合で結晶成長剤としてのNH4Clを添加して、ボールミルで均一に混合した。
【0055】
その後、実施例1と同様の手法により比較例1の蛍光体を得た。この蛍光体の波長395nm励起時の発光スペクトルを、図11に示す。図11の発光スペクトルから、525nmに単一のバンドを有する緑色の発光であることがわかるが、本比較例の蛍光体はBaを0.6よりも多く含有しているので、毒性の問題は回避することができない。
【0056】
(比較例2)
(Sr0.915Ba0.06Eu0.0252SiO4で表わされる組成の蛍光体を調製した。原料粉末としては、SrCO3粉末、BaCO3粉末、Eu23粉末およびSiO2粉末を用意し、所定量秤量した。原料粉末の全量に対して1.5重量%の割合で結晶成長剤としてのNH4Clを添加して、ボールミルで均一に混合した。その後、実施例1と同様の製造方法にて比較例2の蛍光体を得た。
【0057】
この蛍光体の波長395nm励起時の発光スペクトルを図12に示す。Baを含有しているので、比較例2の蛍光体は、図12の発光スペクトルに示されるように、波長360nm乃至500nmの光で励起した際の発光スペクトルが、波長520nm乃至600nmの間に単一のバンドを有している。
【0058】
一方、実施例1〜4は、Baを含有しなくても同等の発光波長のバンドを示す。実施例5は、比較例2と同等の発光バンドを示すが、Baの量は比較例2に比べて半減する。
【0059】
下記表1には、上述した実施例および比較例の蛍光体の組成、発光ピーク、および結晶形をまとめる。
【表1】

【0060】
表1に示されるように、Baの少なくとも一部がLa,Gd,CsおよびKから選択される少なくとも1種で置換された本発明の実施形態にかかる蛍光体は、いずれも斜方晶の結晶構造を有する。その結果、395nmあるいは475nmで励起した際には、波長520nm乃至600nmの間に単一のバンドが現われて、純度の高い発光が放出されることになる。
【0061】
これは、比較例2の従来のBa含蛍光体の場合と比較しても、何等遜色ないことが明確に示されている。
【符号の説明】
【0062】
200…樹脂ステム; 201…リード; 202…リード; 203…樹脂部
204…反射面; 205…凹部; 206…発光チップ
207…ボンディングワイヤー; 208…ボンディングワイヤー
209…蛍光層; 210…蛍光体; 211…樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属ケイ酸塩化合物からなり、Eu2+で活性化された蛍光体であって、アルカリ土類金属元素に加えて、La,Gd,CsおよびKから選択される少なくとも1種の元素を含み、表層材を有することを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
波長360nm乃至500nmの光で励起した際の発光スペクトルが、波長520nm乃至600nmの間に単一の発光バンドを有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記蛍光体は、下記一般式(2)で表わされる組成を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
(Sr1-x-y-z-wCaxBayzEuw2Siv2+2v (2)
(上記一般式(2)中、AはLa,Gd,CsおよびKから選択される少なくとも1種の金属であり、x、y、z、w、およびvは、次の関係を満たす数値である。
0≦x≦0.8, 0≦y≦0.6, 0<z≦0.1, 0.001≦w≦0.2
0<(1−x−y−z−w)<1, 0.9≦v≦1.1)
【請求項4】
前記表層材は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、テトラエトキシシラン、シリカ、ケイ酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、カルシウムポリフォスフェート、シリコーンオイル、およびシリコーングリースからなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項5】
360nm乃至500nmの波長の光を発光する発光素子と、
前記発光素子上に配置され、蛍光体を含有する蛍光体層とを具備し、
前記蛍光体の少なくとも一部は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蛍光体であることを特徴とする発光装置。
【請求項6】
前記蛍光体層は、青色発光蛍光体および赤色発光蛍光体をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−17024(P2011−17024A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215777(P2010−215777)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【分割の表示】特願2004−303509(P2004−303509)の分割
【原出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】