説明

蛍光体とその製造方法、およびそれを用いた発光素子

【課題】青色LED又は紫外LEDを光源とする白色LEDの蛍光体材料を提供する。
【解決手段】一般式:(M1)X (M2)Y (Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、M1はLi、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素であり、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるαサイアロン型化合物からなる蛍光体であって、当該α型サイアロン粉末に含まれる酸素量が、前記一般式に基づいて計算される値より0.4質量%以下多いことを特徴とする蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色発光ダイオード(青色LED)又は紫外発光ダイオード(紫外LED)を光源とする白色発光ダイオード(白色LED)への利用可能な蛍光体とその製造方法、並びにLEDに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の希土類元素を付活させたサイアロン(Si−Al−O−N)は、有用な蛍光特性を有することが知られていて、例えば白色LED等への適用が検討されている(特許文献1〜5及び非特許文献1〜2参照)。
【特許文献1】特開2002−363554号公報
【特許文献2】特開2003−336059号公報
【特許文献3】特開2003−124527号公報
【特許文献4】特開2003−206481号公報
【特許文献5】特開2004−186278号公報
【非特許文献1】J.W.H.van Krebel,“On new rare―earth doped M―Si―Al―O―N materials”,TU Eindhoven,The Netherlands,p.145−161(1998)
【非特許文献2】第52回応用物理学関係連合講演会講演予稿集(2005年3月、埼玉大学)p.1614〜1615
【0003】
また、希土類元素を付活したCaSiAlNやCa(Si、Al)も同様の蛍光特性を有することが見いだされている(特許文献6、非特許文献2〜3参照)。
【特許文献6】特開2004−244560号公報
【非特許文献3】第65回応用物理学会学術講演会講演予稿集(2004年9月、東北学院大学)p.1282〜1284
【0004】
他にも、窒化アルミニウム、窒化珪素マグネシウム、窒化珪素カルシウム、窒化珪素バリウム、窒化ガリウム、窒化珪素亜鉛、等の窒化物や酸窒化物の蛍光体(以下、順に窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体ともいう)が提案されている。
【0005】
これら蛍光体の合成方法として、例えばα型サイアロン粉末の場合、酸化アルミニウム(Al23 )、酸化ケイ素( SiO2) 、格子内に固溶可能な金属或いは元素の酸化物等の混合粉末を、カーボンの存在下で、窒素雰囲気中で加熱処理する還元窒化法が知られている(非特許文献3〜5参照)。
【非特許文献3】M.Mitomo et.al.,“Preparation of α−SiAlON Powders by Carbothermal Reduction and Nitridation”,Ceram.Int.,14,43−48(1988)
【非特許文献4】J.W.T.van Rutten et al.,“Carbothermal Preparation and Characterization of Ca−α−SiAlON”,J.Eur.Ceram.Soc.,15,599−604(1995)
【非特許文献5】K.Komeya et al.,“Hollow Beads Composed of Nanosize Ca α−SiAlON Grains”,J.Am.Ceram.Soc.,83,995−997(2000)
【0006】
この方法は、原料粉末が安価で、1500℃前後の比較的低温で合成できるという特徴があるが、合成の途中過程で複数の中間生成物を経由するとともに、SiOやCO等のガス成分が発生するために、単相のものが得難く、組成の厳密な制御や粒度の制御が困難であった。
【0007】
また、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及びこれらの格子内に固溶する金属或いは元素の酸化物等の混合物を高温で焼成し、得られた焼結体を粉砕することによってもα型もしくはβ型サイアロン粉末が得られるが、粉砕操作によって蛍光体の発光強度が低下する問題があった。
【0008】
一方、現在までに得られている白色LEDは、発光効率が蛍光ランプに及ばない。蛍光ランプよりも発光効率に優れるLED、特に白色LEDが産業上で省エネルギーの観点から強く要望されている。サイアロン蛍光体等の酸窒化物や窒化物蛍光体を用いた白色LEDは、白熱電灯よりは高効率であるが、一般照明用まで含めた用途拡大のためには発光効率の一層の向上が必須であり、このために、蛍光体の発光効率向上が産業上の重要な課題となっている。
【0009】
また、白色LED用蛍光体は、エポキシ等の封止材料中にサブミクロン〜ミクロンサイズの粒子として分散して使用されるのが一般的であるが、その分散状態や封止材料との相性は、LEDの光の取り出し効率に大きな影響を与える。更に、蛍光体の発光効率向上や劣化防止を目的として、蛍光体の表面コートも検討されているが、その効果は蛍光体によって異なったり、全く効果の無い場合もあり、不確定である(特許文献7〜9)。
【特許文献7】特開2001−303037号公報
【特許文献8】特開2000−204368号公報
【特許文献9】国際公開第WO96/09353号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術の状況に鑑みてなされたもので、発明者が最終的に発光効率に優れるLED、特に白色LEDを提供することを目的に、そこに用いられる蛍光体の発光特性の向上、更に封止材料への分散を考慮して光の取り出し効率を向上するための検討を進め、その結果としてなされたものである。
【0011】
上記した通りに、従来技術に於いては、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体の粉体は、単に、構成元素を含む窒化物と付活元素を含む化合物を混合加熱したり、構成元素の酸化物の混合物をカーボン等で還元窒化するだけでは、十分な特性を持った蛍光体粉体を得ることは出来ないという問題がある。
【0012】
特に、構成元素を含む窒化物と付活元素を含む酸化物を混合加熱する従来から知られている窒化物または酸窒化物の製造方法においては、焼成過程での液相焼結により粒子間の結合が強固となるため、目的の粒度の粉末を得るために、過酷な条件での粉砕処理が必要となる。そして、粉砕条件が過酷になるほど不純物が混入する機会が多くなるとともに、各々の粒子表面に欠陥が導入される。蛍光体は、その表面近傍が励起光によって励起されて蛍光を発するので、粉砕処理により導入される表面欠陥は、蛍光特性に大きな影響を及ぼし、発光特性が劣化するという問題がある。
【0013】
更に、窒化物粉体は不可避的不純物として酸素を含んでおり、その酸素は、粒内に固溶しているものと、粒子表面に酸化物皮膜の形で存在しているものとの2種類がある。粒子内に存在する酸素(以下、固溶酸素という。)と表面に存在する酸素(以下、表面酸素という。)の量は、窒化物粉体の製造履歴、保管状態、窒化物の種類、等によって異なっており、このため窒化物原料を用いて合成した蛍光体の発光特性をばらつかせる原因となっている。
【0014】
また、窒化物や酸窒化物は、白色LEDに従来から用いられているYAG:Ceのような酸化物系蛍光体より屈折率が大きく、また比重が小さいため、酸化物蛍光体と同じように用いると、LEDとして十分な発光特性を得ることが出来なかった。
【0015】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題を解決し、発光効率に優れるLED、例えば、白色LED、特に青色LEDまたは紫外LEDを光源とする白色LEDを提供するとともに、それに好適な蛍光特性に優れる蛍光体を産業規模で安定して提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、窒化物蛍光体や酸窒化物蛍光体について各種の実験的検討を行い、蛍光体中の酸素量、蛍光体粒子表面の状態、表面コート、封止樹脂等の各種の要因を適切に組み合わせることによって当該蛍光体の蛍光特性が大きく左右されるとの知見を得て、本発明に至ったものである。
【0017】
即ち、本発明は、一般式:(M1)X (M2)Y(Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、M1はLi、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素であり、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるαサイアロン型化合物(以下、単にα型サイアロンという)からなる蛍光体であって、当該α型サイアロン粉末に含まれる酸素量が、前記一般式に基づいて計算される値より0.4質量%以下多いことを特徴とする蛍光体であり、好ましくは、前記M1がCaであり、かつ、M2がEuであることを特徴とする前記の蛍光体である。
【0018】
また、本発明は、金属の窒化物または酸窒化物の粒子から構成される粉末状の蛍光体であって、前記金属の窒化物または酸窒化物の粒子の少なくとも一部表面に、厚さ(10〜180)/n(単位:ナノメートル)の透明膜を有していることを特徴とする蛍光体である。ここで、nは透明膜の屈折率で1.2〜2.5である。そして、本発明の好ましい実施態様として、透明膜の屈折率が1.5以上2.0以下であり、当該蛍光体がサイアロン粒子から構成される粉末状であることが好ましく選択される。
【0019】
また、本発明は、前記の蛍光体と、発光波長の最大強度が240〜480nmにあるLEDと、を構成要素として含んでいることを特徴とする発光素子である。好ましくは、この発光素子は、LEDと、窒化物または酸窒化物蛍光体と、を屈折率1.58〜1.85の同じ樹脂層に埋め込み、該樹脂層表面を屈折率1.3〜1.58の樹脂で覆うことを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、一般式:(M1)X (M2)Y(Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、M1はLi、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素であり、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるα型サイアロンからなる蛍光体の製造方法であって、原料として、酸素を含まないカルシウム化合物を用いることを特徴とする前記の蛍光体の製造方法である。
【0021】
また、本発明は、一般式:(M1)X(M2)Y (Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、M1はLi、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素であり、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるα型サイアロンからなる蛍光体の製造方法であって、原料として、酸素を含まないカルシウム化合物と酸素を含むカルシウム化合物とを併用することを特徴とする前記の蛍光体の製造方法であり、好ましくは、酸素を含まないカルシウム化合物を、酸素を含むカルシウム化合物に対して、モル比で0.5倍以上を使用することを特徴とする前記の蛍光体の製造方法であり、更に好ましくは、原料中の酸素量を4質量%以下に配合することを特徴とする前記の蛍光体の製造方法である。
【0022】
更に、本発明は、前記の蛍光体の製造方法で、蛍光体を製造した後、更に、前記蛍光体を酸処理することを特徴とする蛍光体の製造方法であり、好ましくは、一般式:CaX M2Y(Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、MはCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれた1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるα型サイアロンからなる蛍光体を、有機溶媒に懸濁させ、有機金属錯体又は金属アルコキシドを滴下して、蛍光体を構成するα型サイアロン粒子の少なくとも一部表面に厚さ(10〜180)/n(単位:ナノメートル)の透明膜を形成することを特徴とする蛍光体の製造方法、又は、水に懸濁させ、pHを一定に保ちながら金属塩水溶液を滴下して、蛍光体を構成するα型サイアロン粒子の少なくとも一部表面に厚さ(10〜180)/n(単位:ナノメートル)の透明膜を形成することを特徴とする蛍光体の製造方法である。ここで、nは透明膜の屈折率で1.2〜2.5である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の蛍光体は、窒化物または酸窒化物、もしくは特定組成のαサイアロンであってしかも酸素量が特定含量に制限されていることから、或いは、当該蛍光体を構成する粒子の少なくとも一部表面に所定の屈折率の透明材料が所定厚さ設けられた構造を有していることから、従来品よりも著しく蛍光特性、特に400〜700nm領域の発光特性、に優れる特徴がある。
【0024】
本発明の蛍光体は、前記特徴を有するので、いろいろなLEDに好ましく適用でき、特に、発光波長が240〜480nmに最大強度を有するLEDと組み合わせて白色LEDを提供できる特徴がある。
【0025】
本発明の蛍光体の製造方法は、前記特徴を有する蛍光体を、安定して多量に提供できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明者は、本発明を達成するべく、窒化物蛍光体や酸窒化物蛍光体について各種の実験的検討を行った結果、(1)特定組成のαサイアロンであってしかも酸素量が特定含量に制限するときに優れた蛍光特性を確保できること、或いは(2)窒化物または酸窒化物蛍光体を構成する粒子の少なくとも一部表面に所定の屈折率の透明材料を所定厚さ設けられた構造を達成することによっても優れた蛍光特性を確保できることをも見いだし、本発明に至ったものである。
【0027】
まず、前記(1)について、詳説する。尚、以後断りの無い限り、百分率は質量%を示す。
【0028】
本発明の蛍光体は、特定組成のα型サイアロンからなる蛍光体であって、更に、含まれる酸素量が金属元素から計算される組成式に示される酸素量よりも0.4質量%以下、好ましくは0.25質量%以下多いという構成を有しており、そして、この構成を有するが故に、従来のものに比して、蛍光特性が優れる効果が得られる。
【0029】
α型サイアロンについて、一般式:(M1)X(M2)Y (Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、M1はLi、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素であり、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素)で示されることが公知であるが、本発明においては、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2の関係を有するα型サイアロンが選択される。
【0030】
前記組成の中で、安価で、安定した蛍光特性の蛍光特性が得られることから、M1としてCaが好ましく選択される。さらに、この場合に於いて、蛍光特性に優れることからM2がEuであることが選択される。さらにYはX+Yに対して、下限が0.01以上、好ましくは0.02以上であり、上限が0.5以下、0.3以下であることが好ましい。Yが上限を超えると、いわゆる濃度消光を起こして蛍光体の発光強度が低下し、またEuは高価なのでコストアップにつながる。
【0031】
また、本発明に於いては、前記特定組成のα型サイアロンからなり、しかも、当該サイアロン粉末に含まれる酸素量が、前記一般式に基づいて計算される値より0.4質量%以下多いことが選択される。前記α型サイアロン粉末に含まれる酸素量について、下限については0.8質量%以上が好ましく、更に1.0質量%以上が一層好ましく、上限については2.5質量%以下が好ましく、2.0質量%以下が一層好ましい。
【0032】
尚、前記構成を採用するとき、理由は不明であるが、粒子間の焼結を極力抑えた窒化物または酸窒化物蛍光体を得ることができ、解砕程度の粉砕により容易に微粒子化できる効果をも得ることができる。そしてこの効果により、蛍光体として好適な粒度とすることができる特徴が得られる。さらに、この蛍光体は、前記特徴に拠り、粉砕処理によって生じる表面欠陥が少なくなり、前記発光特性が優れるという特徴を助長していると推定される。
【0033】
次に、(2)について詳述する。この発明は、前記(1)に係る発明をなしたときに得られた知見を基に、更に実験を重ねることでなしたものである。
【0034】
本発明は、窒化物または酸窒化物粉末状蛍光体を構成する粒子の少なくとも一部表面に、所定厚さの特定の透明膜を配置した構造をもたせることで、当該蛍光体の蛍光特性が向上するという知見、つまり、粒子表面に所定材質の透明膜を所定厚み設ける時に、蛍光体の蛍光特性を高めることができるという知見に基づいている。
【0035】
発明者が詳細に検討したところ、粒子表面に設ける透明膜については、適当な厚み範囲が存在し、あまりに薄くなると、均一性の高い透明膜を設けることが難しくなり、また、蛍光体粒子表面の欠陥を低減させたり、粒子表面での蛍光体を励起する光(単に励起光という)の反射を防止する等の効果が小さくなるし、厚すぎれば膜自身による光の吸収が起きるために蛍光体の発光効率は低下する傾向がある。加えて、発明者が詳細に検討したところ、優れた蛍光特性を再現性高く得るためには単に厚みを定めるだけでは不十分であり、透明膜の屈折率をも考慮して定めるべきことを見いだし、本発明に至ったものである。
【0036】
つまり、本発明に於いては、蛍光体が金属の窒化物または酸窒化物の粒子から構成される粉末状の蛍光体であり、その構成粒子の少なくとも一部表面に、屈折率n(1.2〜2.5)の透明膜を、厚さ(10〜180)/n(単位:ナノメートル)で設けた構造を有することを特徴としている。当該構成を採用することで、蛍光体の粒子表面の欠陥における光の反射や吸収を防止するとともに、励起光の蛍光体に於ける吸収率が向上し、高効率な蛍光体が安定して提供される。前記数値範囲外では、前記した通りに、透明膜の厚さが適当な厚さの範囲を必ずしも達成することができないので本発明においてはこれを選択しない。尚、本発明の透明膜を有する粒子は、理想的には粒子表面全体に設けられていることが望ましく、このような構造は走査型電子顕微鏡を用いると図1に例示されるとおりに観察されるが、本発明に於いては、粒子表面の一部、概ね半量以上が覆われていれば、本発明の効果が達成される。
【0037】
前記透明膜を構成する材質は、前記屈折率nが1.2〜2.5を有する透明な(特に用途に応じて紫外線から青色領域、特に240〜480nm領域、において透過係数が80%以上の透明性を有するものが望ましい)材質のものであればどのようなものでも用いることができるが、このような物質として、シリカ、チタニア、アルミナ、マグネシア、フッ化マグネシウム等の無機物質、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルスチレン等の樹脂を例示することができる。このうち、蛍光体の表面欠陥の低減効果を持たせるためには、無機物質を選択することが好ましい。
【0038】
また、蛍光体はLED等の用途に適用される時、蛍光体を樹脂に埋め込んで使用される例が多いが、この場合、前記樹脂と蛍光体表面との間に前記透明膜層が介在することになる。この場合には、透明膜の屈折率は、前記樹脂の屈折率と蛍光体構成粒子の屈折率との間の値であることが光学的に望まれる。
【0039】
例えば、窒化珪素の屈折率は2.0であり、LEDを構成する封止樹脂として広く使われているエポキシ樹脂や、紫外線LED用に検討されているはシリコン樹脂の屈折率は、どちらも1.5付近である。窒化物または酸窒化物蛍光体の屈折率について公表データがないが、実験的に確認すると比較的屈折率は大きいことが分かった。蛍光体と封止樹脂との屈折率差が大きいので、封止樹脂を通過して蛍光体表面に達した励起光がその表面で反射される原因となる。そこで、蛍光体表面に適切な屈折率を持つ膜を形成することは反射率低減、従い蛍光体の蛍光効率向上に役立つ。従って、透明膜の屈折率については、更に好ましい範囲が存在し、発明者の検討に拠れば、1.5以上2.0以下である。更に好ましくは、1.6以上1.9以下である。このような物質としては、マグネシアやアルミナが例示される。
【0040】
透明膜の材質とその厚さについては、透明膜材料と用途に応じて適切に選択することが望まれる。具体例を挙げれば以下の通りである。即ち、マグネシアは屈折率が1.75付近なので、その膜厚を5〜100nm、蛍光体を紫外励起型白色LED用に使う場合には、透明膜の厚さを5〜70nm、好ましくは10〜60nmに、青色励起型白色LED用に使う場合には、透明膜の厚さを10〜100nm、好ましくは15〜80nmとするのが良い。
【0041】
青色または紫外発光素子は主成分が窒化ガリウムであり、その屈折率は2.4〜2.5程度と非常に大きいことが知られている。この場合、発光素子から効率よく光を取りだすために、屈折率の高い樹脂で発光素子を覆うことが望まれ、しかも蛍光体の覆う樹脂(蛍光体が埋め込まれる樹脂)は、発光素子を覆う樹脂と同一のものを用いることが多い。当該用途に於いては、ポリカーボネート樹脂、フルオレン系エポキシ樹脂、フルオレン系シリコン樹脂、フェニルシラン系シリコン樹脂、硫黄系エポキシ樹脂等の屈折率の高い樹脂の使用が好ましい。加えて、光を発光素子の外に取りだす効率を高めるためには、それらの樹脂の外側を低屈折率の樹脂で覆うとよい。このような樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、フッ素系樹脂、フッ素系エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0042】
従い、窒化物蛍光体や酸窒化物蛍光体を発光素子に用いる場合、発光素子の構造については、蛍光体(構成粒子)の表面にアルミナやマグネシア等の屈折率1.6〜1.9の透明膜を設け、それを屈折率1.58〜1.85の樹脂、例えばフルオレン系エポキシ樹脂等の比較的高屈折率の樹脂と混合し、混合物で半導体素子(発光ダイオード)を封止し、封止材の外周を更に屈折率1.3〜1.58の樹脂、例えばフッ素系エポキシ樹脂等の比較的低屈折率の樹脂で囲む構造とすると、発光効率の高い発光素子を構成することができる。
【0043】
本発明は、前記蛍光体と、発光波長の最大強度が240〜480nmにあるLEDとを構成要素として含んでいるLEDである。当該LEDは、上記した通りに、蛍光体が優れた蛍光特性を有していることを反映して、優れた発光効率を示す。更に、前記蛍光体のうち蛍光体構成粒子の少なくとも一部表面に透明膜を設けたものでは、一層発光効率に優れる特徴を有するので好ましく、更に透明層の屈折率が1.6〜1.9としたものでは、樹脂に当該蛍光体を埋め込まれてLEDに用いられたときにも蛍光体本来の優れた蛍光特性を反映できることから一層好ましい。
【0044】
次に、(1)の蛍光体について、M1がCaの場合を例に、その製造方法を以下詳説する。
【0045】
αサイアロンは、(a)窒化珪素、(b)窒化アルミニウムと酸化アルミニウムのいずれか1種以上、(c)M1を含有する化合物、(d)M2を含有する化合物とを、これらを所望の組成となるように適宜配合した混合原料を用いて、これを加熱して合成される。本発明に於いては、上述した通りに、酸素含有量について0≦n≦1.5であり、しかも一般式に基づいて計算される値より0.4質量%以下多いという条件を達成するために、極力酸素量が少ない原料を用いることが特徴である。
【0046】
即ち、本発明の蛍光体の製造方法の一つは、(a)窒化珪素、(b)窒化アルミニウム、(c)Caを含有する化合物、(d)M2を含有する化合物を原料に用い、しかも前記(c)Caを含有する化合物について、酸素を含まないカルシウム化合物を用いることを特徴とする。この場合、前記酸素を含まないカルシウム化合物としては、例えば、塩化カルシウム、硫化カルシウム、カルシウムシアナミド、炭化カルシウムが例示される。この構成を採用することにより、被粉砕性に優れ、蛍光特性に優れる蛍光体を安定して提供することができる。
【0047】
前記発明の好ましい実施態様として、(c)Caを含有する化合物について、酸素を含まないカルシウム化合物と酸素を含むカルシウム化合物とを併用することができる。この場合において、酸素を含まないカルシウム化合物としては、塩化カルシウム、硫化カルシウム、窒化カルシウム、カルシウムシアナミド、炭化カルシウムが例示され、酸素を含むカルシウム化合物としては、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウムが例示される。この構成を採用するとき、CaO等の微粉で反応性に富む原料や安価なカルシウム化合物を使用することができ、安価に蛍光体を提供できるので、産業上大いに効果が期待される。
【0048】
また、酸素を含まないカルシウム化合物と酸素を含むカルシウム化合物とを併用する場合、その割合は前者が後者に対してCaのモル比が0.5倍以上であることが好ましい。これは、酸素が多い原料を使用することにより、得られた蛍光体の酸素量が増して、蛍光特性が低下するのを防止するためである。
【0049】
更に、前記混合原料に関して、αサイアロンの一般式で表した場合、酸素含有量について0≦n≦1.5であり、しかも一般式に基づいて計算される値より0.4質量%以下多いという条件を達成するために、混合原料に於ける酸素量が少ないことが望ましいが、本発明者の検討に拠れば、混合原料中の酸素量を4質量%以下とするとき、確実に、前記条件を満足する蛍光体が得られることから好ましい。
【0050】
更に、本発明に於いて、更に酸処理することが好ましい。発明者の検討に拠れば、蛍光体を酸処理することで、蛍光体の酸素含有量を低減でき、その結果として蛍光特性の向上が図れる。そして、この操作を加えることにより、より一層蛍光特性に優れる蛍光体が安定して得ることができる効果が達せられる。酸処理に用いる酸としては、通常の酸で良いが、シリコンの酸化物を除去できる、例えば、フッ酸、又はフッ酸−硝酸、フッ酸−塩酸等の混酸が好ましい。
【0051】
しかし、発明者は、蛍光体中の酸素量が、金属成分の分析値を一般式に当てはめて計算することにより求められる酸素量以下の場合があることを経験している。この場合には、優れた蛍光特性を得られない。すなわち、一般式から求められる酸素量より、実際の酸素量が少ない場合は、たとえ、X線回折法によってαサイアロン以外の結晶相が確認できない場合であっても、αサイアロンとは異なる相が存在し、それによって十分な蛍光特性が得られないと考えられる。
【0052】
次に、(2)の蛍光体について、その製造方法を以下詳説する。
【0053】
蛍光体表面への透明膜の形成方法については、従来から知られている湿式法、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法、噴霧熱分解法、等の各種方法を用いることができるが、この中で、装置が簡単でありコスト上有利な点から、湿式法と噴霧熱分解法が好ましい方法であり、以下に湿式法の例を記す。
【0054】
即ち、本発明の蛍光体の製造方法は、窒化物又は酸窒化物蛍光体、例えば前記の所望組成を有するα型サイアロンからなる蛍光体を、アルコールなどを初めとする有機溶媒中に懸濁させ、当該懸濁液に有機金属錯体又は金属アルコシドとアルカリ性の水溶液を滴下して、蛍光体粒子表面に金属酸化物もしくは水酸化物の皮膜を形成し、その後必要に応じて空気中または窒素ガス等の不活性ガス中で焼成することにより、蛍光体を構成するサイアロン粒子の少なくとも一部表面に所定厚さの透明膜を形成する方法である。滴下条件を制御することにより粒子表面に設けられる透明膜の厚みが容易に制御できるので、安定して、再現性高く蛍光特性に優れる蛍光体を提供できる。
【0055】
また、湿式法の他の好ましい実施形態として、前記蛍光体構成粒子を水に懸濁させ、pHを一定に保ちながら金属塩水溶液を滴下して、蛍光体を構成するサイアロン粒子の少なくとも一部表面に厚さ(10〜180)/n(単位:ナノメートル)の透明膜を形成する方法である。この方法においては、pHを調整したアルカリ、酸もしくは緩衝液中に、蛍光体構成粒子を撹拌機や超音波分散器を使用して懸濁させ、金属塩水溶液を滴下し、蛍光体表面に該金属の酸化物もしくは水酸化物の皮膜を形成した後、ろ過、洗浄、乾燥し、必要に応じて空気中または窒素ガス等の不活性ガス中で加熱処理する方法である。
【0056】
また、この実施の態様に於いて、透明膜形成後に、シランカップリング剤、好ましくはエポキシ系シランカップリング剤で処理することにより、LED作製時に埋め込まれる樹脂と蛍光体との密着性が向上し、また蛍光体の前記樹脂への分散性が向上し、その結果としてLEDの特性が向上する。
【実施例1】
【0057】
次に、実施例、比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【0058】
(実施例1)本実施例のα型サイアロンは、原料粉末の配合組成として、窒化ケイ素粉末(電気化学工業製、9FWグレード)を83.0質量部と、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ製、Fグレード)を10.5質量部と、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業製、RUグレード)を1.5質量部と、硫化カルシウム粉末(和光純薬工業製)を5.5質量部とした。
【0059】
次に、上記原料粉末を、エタノール溶媒中において、窒化ケイ素質ポットとボールによる湿式ボールミル混合を3時間行い、ろ過し、乾燥して混合粉末を得た。混合粉末の酸素量をLECO社製酸素分析計で測定したところ、1.2質量%であった。混合粉末100gを内径100mm、高さ60mmの窒化ホウ素製坩堝に充填し、カーボンヒーターの電気炉で大気圧の窒素雰囲気中、1750℃で12時間の加熱処理を行った。得られた生成物を瑪瑙乳鉢で解砕し、目開き45μmの篩を通した。これらの操作によりα型サイアロンの蛍光体である合成粉末を得た。
【0060】
得られた粉末の金属成分分析値から計算して得た、α型サイアロン粉末の組成は、Ca0.48Eu0.05Si10.4Al1.60.515.5であり、組成X+Y=0.53、Y/(X+Y)=0.09であった。組成から計算される酸素量は、1.36質量%であった。得られたサイアロン蛍光体の酸素量をLECO社製酸素分析計で測定したところ、1.40質量%であった。また、蛍光特性について日立製作所製蛍光分光光度計を用いて測定したところ、励起波長400nmで測定した発光スペクトルのピーク波長は580nmであった。
【0061】
他の実施例、比較例との発光特性の対比については、本実施例の時のピーク波長における発光強度を100とし、他の実施例、比較例における、励起波長400nmで測定した発光スペクトルのピーク波長における発光強度を相対的に比較することとした。
【0062】
(実施例2)実施例1の原料粉末中の硫化カルシウム(以下、単にCaSと記すことがある)粉末5.5質量部の代わりに、硫化カルシウム粉末を2.8質量部と、炭酸カルシウム(以下、単にCaCOと記すことがある)粉末(関東化学製、特級試薬)を3.8質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、α型サイアロン蛍光体を製造した。尚、この時のCaS/CaCO3のモル比は1である。また、原料混合粉の酸素量は3.4質量%であった。
【0063】
得られたα型サイアロンの組成は、Ca0.48Eu0.05Si10.4Al1.60.515.5であり、組成X+Y=0.53、Y/(X+Y)=0.09であった。組成式から計算される酸素量は、1.36質量%であった。得られたサイアロン蛍光体の酸素量をLECO社製酸素分析計で測定したところ、1.71質量%であった。また、実施例1と同様に蛍光特性を測定したところ、実施例1を100とした時、発光強度の相対値は85であった。
【0064】
(比較例1)実施例1の原料粉末中の硫化カルシウム粉末5.5質量部の代わりに、炭酸カルシウム粉末(関東化学製、特級試薬)を7.6質量部とした以外は、実施例1と同様にしてα型サイアロンの蛍光体を製造した。原料混合粉の酸素量は5.6質量%であった。
【0065】
得られたα型サイアロンの組成は、Ca0.48Eu0.05Si10.4Al1.60.515.5であり、組成X+Y=0.53、Y/(X+Y)=0.09であった。組成から計算される酸素量は、1.36質量%であった。得られたサイアロン蛍光体の酸素量をLECO社製酸素分析計で測定したところ、1.80質量%であった。また、発光強度の相対値は65であった。
【実施例2】
【0066】
(実施例3)実施例2で得られたαサイアロン蛍光体を、48%フッ酸:60%硝酸:蒸留水=40:10:50(容積%)の混合溶液中に分散して50℃2時間保持し、蒸留水で洗浄ろ過し、更に濃硫酸:蒸留水=50:50(容積%)の混合溶液中に分散し、90℃2時間保持し、蒸留水で洗浄ろ過し、乾燥した。得られた粉体の酸素量は、1.55質量%であった。また、発光強度の相対値は90であった。
【実施例3】
【0067】
(比較例2、実施例4)原料粉末の配合組成として、窒化ケイ素粉(電気化学工業製、9FWグレード)を33.5質量部と、窒化アルミニウム粉(トクヤマ製、Fグレード)を29.5質量部と、酸化ユーロピウム粉(信越化学工業製、RUグレード)を2.5質量部と、窒化カルシウム(和光純薬工業製)を35.0質量部とした。
【0068】
次に、上記原料粉末を、キシレン溶媒中において、窒化ケイ素質ポットとボールによる湿式ボールミル混合を3時間行い、ろ過し、乾燥して混合粉末を得た。混合粉末100gを内径100mm、高さ60mmの窒化ホウ素製坩堝に充填し、カーボンヒーターの電気炉で圧力0.9MPaの窒素雰囲気中、1800℃12時間の加熱処理を行った。得られた生成物を瑪瑙乳鉢で解砕し、目開き45μmの篩を通し、CaAlSiN:Eu蛍光体粉末を得た。
【0069】
励起波長400nmで測定した発光スペクトルのピーク波長は650nmであった。以下の実施例、比較例においては、励起波長400nmで測定した発光スペクトルのピーク波長における発光強度を、本実施例のピーク波長における発光強度を100(比較例2)として、相対的に比較する。
【0070】
得られたCaAlSiN:Eu蛍光体粉末5.0gを、マグネシウムエトキシド(化学式:Mg(OC)0.5gを溶解したイソプロパノール50mlに良く分散させた。分散液を良く撹拌しながら、15%アンモニア水溶液50mlを滴下した。得られたスラリーをろ過洗浄乾燥し、1100℃にて窒素雰囲気で1時間焼成してマグネシア被膜付き蛍光体を得た。
【0071】
得られた蛍光体を透過型電子顕微鏡で観察した結果、マグネシア膜の厚さはおよそ60nmであった。蛍光スペクトルを測定した結果、発光スペクトル強度は115であった(実施例4)。
【0072】
また、上記と同様の操作をして得たマグネシア膜について、屈折率を大塚電子社製反射分光膜厚計にて測定したところ、1.73であった。
【0073】
(比較例3)マグネシウムエトキシドの量を1.0gとしたこと以外は、実施例6と同様にしてマグネシア被膜付き蛍光体を得た。得られた蛍光体を透過型電子顕微鏡で観察した結果、マグネシア膜の厚さはおよそ110nmであった。蛍光スペクトルを測定した結果、発光スペクトル強度は、比較例2を100とした時、96であった。
【実施例4】
【0074】
(実施例5)本実施例は、αサイアロン蛍光体表面に透明膜としてアルミナ膜を製膜する例である。0.1M硼酸0.1M塩化カリウム水溶液50mlに、0.1M水酸化ナトリウム水溶液32mlを加え、蒸留水で100mlに希釈した。この水溶液中に、実施例1と同様にして得られたαサイアロン蛍光体粉末5.0gを投入し、よく分散させた。
【0075】
前記スラリーのpHを水酸化ナトリウム水溶液を用いて9.0〜10.5の範囲に維持しながら、0.1M硫酸アルミニウム水溶液10mlを滴下して、スラリーの粒子表面にアルミニウム水酸化物微粒子が付着した蛍光体粒子を得た。この蛍光体粒子を洗浄・乾燥した後、空気中、600℃で2時間仮焼することにより、表面にアルミナ層が形成された蛍光体粉末を得た。蛍光体粒子を透過型電子顕微鏡で観察した結果、アルミナ層の厚さはおよそ50nmであった。蛍光分光光度計を用いて蛍光スペクトルを測定した結果、実施例1を100とした時、発光強度の相対値は108であった。
【0076】
また、上記と同様の操作をして得たアルミナ層について、屈折率を実施例4と同様にして測定したところ、1.70であった。
【0077】
(実施例6)本実施例はαサイアロン蛍光体の表面にシリカ膜を形成した例である。実施例1と同様にして得た酸窒化物蛍光体粉末5.0gを、テトラエトキシシラン1.0gを溶解したイソプロパノール50mlと蒸留水20mlの混合液に良く分散させた。分散液を良く撹拌しながら、15%アンモニア水溶液50mlを滴下し、その後、撹拌しながら加熱還流を2時間行った。得られたスラリーをろ過洗浄乾燥し、600℃にて窒素雰囲気で1時間焼成してアモルファスシリカ被膜付き蛍光体を得た。
【0078】
得られた蛍光体を透過型電子顕微鏡で観察した結果、シリカ膜の厚さはおよそ70nmであった。蛍光スペクトルを測定した結果、発光スペクトル強度は、実施例1を100とした時、113であった。
【0079】
また、上記と同様の操作をして得たシリカ膜について、屈折率を実施例4と同様にして測定したところ1.48であった。
【実施例5】
【0080】
(実施例7)実施例5と同様にして得たアルミナ被膜付き酸窒化物蛍光体10gを、水100gにエポキシ系シランカップリング剤(信越シリコーン製、KBE402)1.0gと共に加え、撹拌しながら一晩放置する。その後、ろ過乾燥したシランカップリング剤で処理された酸窒化物蛍光体0.5gを、エポキシ樹脂(サンユレック製NLD−SL−2101)5.0gに混練し、発光波長470nmの青色LEDの上にポッティングし、真空脱気し、110℃で加熱硬化を行い、表面実装LEDを作製した。この表面実装LEDに10mAの電流を流して発生する光の発光スペクトルを測定し、580nmにおける強度を100とした。
【0081】
(実施例8)実施例6と同様にして得たシリカ被膜付き酸窒化物蛍光体を用いて、実施例7と同様に表面実装LEDを作製し、発光スペクトルを測定した。
580nmにおける強度は、実施例7を100としたとき、95であった。
【0082】
(比較例4)実施例1と同様にして得たアルミナ皮膜の付いていない酸窒化物蛍光体を用いて、実施例7と同様にして、表面実装LEDを作製した。このLEDの発光スペクトルの580nmにおける強度は、実施例7を100としたとき、75であった。
【実施例6】
【0083】
(実施例9)実施例7に記載のエポキシ樹脂に代えて、フルオレン系エポキシ化合物を用いたエポキシ樹脂(屈折率1.6)をポッティングし、エポキシ樹脂の硬化後、表面にフッ素系コーティング剤(東京産業洋紙製、INT350、屈折率1.36)を塗布し、約1μmのフッ素樹脂層を設けた。この発光素子の発光スペクトルの580nmにおける強度は、実施例7を100としたとき、108であった。
【実施例7】
【0084】
(実施例10)実施例4と同様にして得た窒化物蛍光体10gを、100mlの蒸留水にエポキシ系シランカップリング剤1.0gと共に添加し、撹拌しながら一晩放置した。その後、ろ過乾燥して発光スペクトルを測定したところ、650nmでの発光強度は、実施例4を100としたとき、104であった。
【0085】
(比較例5)原料粉末として、窒化ケイ素粉末を51.0質量部と、窒化アルミニウム粉末を30.0質量部と、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業製、RUグレード)を3.1質量部と、硫化カルシウム粉末を17.0質量部と、の配合組成とした以外は、実施例1と同様にして、酸窒化物蛍光体を製造した。得られた粉末をX線回折装置で分析したところ、α型サイアロンに帰属できない多くのピークが検出された。金属成分の分析値からα型サイアロンとして計算すると、Ca1.54Eu0.10Si7.2Al4.81.514.5であり、組成X+Y=1.64であった。580nmにおける発光強度の相対値は、実施例1を100としたとき、50であった。
【0086】
(実施例11)窒化ケイ素粉末(電気化学工業製、9FWグレード)90.1質量部、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ製、Fグレード)9.0質量部、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業製、RUグレード)0.9質量部を、エタノール溶媒中、窒化珪素製ポットとボールを用いて2時間混合し、ろ過、乾燥して混合粉末を得た。混合粉末100gを内径100mm、高さ60mmの窒化ホウ素製坩堝に充填し、カーボンヒーターの電気炉で0.9MPaの窒素雰囲気中、1900℃で12時間の加熱処理を行い、得られた生成物を瑪瑙乳鉢で解砕し、目開き45μmの篩を通した。これらの操作によりβ型サイアロンの蛍光体である合成粉末を得た。蛍光特性について日立製作所製蛍光分光光度計を用いて測定したところ、励起波長400nmで測定した発光スペクトルのピーク波長は540nmであった。
【0087】
この粉体を、実施例5と同様に処理して、表面に酸化アルミニウムの被膜を付け、蛍光特性を測定した。被膜を付けないβサイアロン蛍光体粉体の540nmにおける発光強度を100とした時、被膜を付けた蛍光体粉体は、110であった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の蛍光体は、従来品よりも著しく蛍光特性、特に400〜700nm領域の発光特性、に優れるので、LEDを初めとするいろいろな発光用途に好適に用いることができ、例えば、図2に例示する砲弾型LED、図3に例示する発光素子等に好適に用いられる。
【0089】
また、本発明の蛍光体は、発光波長が240〜480nmに最大強度を有するLEDと組み合わせて白色LEDを提供できるので、従来から使用されてきた蛍光ランプに置き換えていろいろな用途に適用できる。
【0090】
さらに、本発明の蛍光体の製造方法は、前記特徴を有する蛍光体を安定して多量に提供できるので、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の蛍光体の一例を示す断面模式図。
【図2】本発明の発光素子の一例である砲弾型LEDの断面模式図。
【図3】本発明の発光素子の他の一例である断面模式図。
【符号の説明】
【0092】
111 窒化物または酸窒化物蛍光体
112 透明膜
1 蛍光体入り封止材
2 半導体素子部
3 リードフレーム
4 第3の封止樹脂
11 蛍光体
12 封止樹脂
13 封止樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:(M1)X(M2)Y (Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、M1はLi、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素であり、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるαサイアロン型化合物(以下、単にα型サイアロンという)からなる蛍光体であって、当該α型サイアロン粉末に含まれる酸素量が、前記一般式に基づいて計算される値より0.4質量%以下多いことを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
M1がCaであり、かつ、M2がEuであることを特徴とする請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
金属の窒化物または酸窒化物の粒子から構成される粉末状の蛍光体であって、前記金属の窒化物または酸窒化物の粒子の少なくとも一部表面に、厚さ(10〜180)/n(単位:ナノメートル)の透明膜を有していることを特徴とする蛍光体。ここで、nは透明膜の屈折率で1.2〜2.5である。
【請求項4】
サイアロン粒子から構成される粉末状の蛍光体であって、しかも前記サイアロン粒子の少なくとも一部表面に、厚さ(10〜180)/n(単位:ナノメートル)の透明膜を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の蛍光体。ここで、nは透明膜の屈折率で1.2〜2.5である。
【請求項5】
透明膜の屈折率が1.5以上2.0以下であることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の蛍光体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載された蛍光体と、発光波長の最大強度が240〜480nmにあるLEDと、を構成要素として含んでいることを特徴とする発光素子。
【請求項7】
LEDと窒化物または酸窒化物蛍光体とを、共に屈折率1.58〜1.85の樹脂層に埋め込み、該樹脂層表面を屈折率1.3〜1.58の樹脂で覆うことを特徴とする請求項6記載の発光素子。
【請求項8】
一般式:CaX (M2)Y (Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるα型サイアロンからなる蛍光体の製造方法であって、原料として、酸素を含まないカルシウム化合物を用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
一般式:CaX (M2)Y (Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるα型サイアロンからなる蛍光体の製造方法であって、原料として、酸素を含まないカルシウム化合物と酸素を含むカルシウム化合物とを併用することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の蛍光体の製造方法。
【請求項10】
酸素を含まないカルシウム化合物を、酸素を含むカルシウム化合物に対して、モル比で0.5倍以上を使用することを特徴とする請求項9記載の蛍光体の製造方法。
【請求項11】
原料中の酸素量を4質量%以下に配合することを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項12】
請求項8乃至11のいずれか1項記載の方法で、蛍光体を製造した後、更に、前記蛍光体を酸処理することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項13】
一般式:CaX (M2)Y (Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれた1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるα型サイアロンからなる蛍光体を、有機溶媒に懸濁させ、有機金属錯体又は金属アルコキシドを滴下して、蛍光体を構成するα型サイアロン粒子の少なくとも一部表面に厚さ(10〜180)/n(単位:ナノメートル)の透明膜を形成することを特徴とする蛍光体の製造方法。ここで、nは透明膜の屈折率で1.2〜2.5である。
【請求項14】
一般式:CaX (M2)Y (Si)12−(m+n)(Al)m+n(O)(N)16−n(但し、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれた1種以上の元素で、0.3≦X+Y≦1.5、0<Y≦0.7、0.6≦m≦3.0、0≦n≦1.5、X+Y=m/2)で示されるα型サイアロンからなる蛍光体を、水に懸濁させ、pHを一定に保ちながら金属塩水溶液を滴下して、蛍光体を構成するα型サイアロン粒子の少なくとも一部表面に厚さ(10〜180)/n(単位:ナノメートル)の透明膜を形成することを特徴とする蛍光体の製造方法。ここで、nは透明膜の屈折率で1.2〜2.5である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−265506(P2006−265506A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118271(P2005−118271)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】