説明

蛍光体及びそれを用いた光源

【課題】近紫外光だけでなく、紫〜青色光励起が可能で緑〜黄色光を放つ蛍光体を提供し、さらに、前記蛍光体を発光源として含み、演色性の良好な白色光を放つ固体照明光源を提供する。
【解決手段】本発明の蛍光体は、結晶の基本骨格がY2Si36と同一の化合物を含み、前記化合物は、発光中心イオンとしてCe3+イオンを含むことを特徴とする。また、本発明の光源は、発光素子と、前記発光素子が放つ一次光の少なくとも一部を吸収する蛍光体とを含み、前記発光素子が放つ一次光は、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し、前記蛍光体は、上記本発明の蛍光体であり、前記蛍光体は、前記一次光の少なくとも一部を吸収して波長変換し、前記一次光よりも波長が長い発光成分を放つことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体とそれを用いた光源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ce3+イオンを付活してなり、蛍光体母体の結晶格子の基本骨格を構成する一つの元素として希土類元素Lnを含み、LnaSiba+4b/3またはLnaSibca+4b/3-2c/3のいずれかの組成を有する化合物(但し、Lnは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Gd、Tb、Luなどの希土類元素であり、a、bおよびcは、各々、0<a≦1、0<b≦1、0≦c≦1を満足する数値である。)を蛍光体母体とする蛍光体として、LaSi35:Ce3+(例えば、特許文献1参照。)、La3Si611:Ce3+(例えば、特許文献2参照。)、La3Si8114:Ce3+(例えば、特許文献3参照。)、Y5(SiO43N:Ce3+、Y4Si272:Ce3+、YSiO2N:Ce3+、Y2Si334:Ce3+が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
上記LnaSiba+4b/3:Ce3+蛍光体またはLnaSibca+4b/3-2c/3:Ce3+蛍光体は、300〜450nmの近紫外〜紫〜青色光を効率良く吸収して420〜500nm付近に発光ピークを有する青色光に変換する青色蛍光体として知られ、近紫外〜紫色光を放つ発光素子と組み合わせた光源、例えば、白色光を放つ白色発光ダイオード(白色LED)としての応用が考案されている(特許文献1〜3参照。)。
【特許文献1】特開2003−96446号公報
【特許文献2】特開2003−206481号公報
【特許文献3】特開2005−112922号公報
【非特許文献1】J.W.H.van Krevel、H.T.Hintzen、R.Metselaar、and A.Meijerink、J.Alloys Compd.、268(1998)pp.272−277
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のLnaSiba+4b/3:Ce3+蛍光体またはLnaSibca+4b/3-2c/3:Ce3+蛍光体は、発光色が青色系に制限される課題があった。
【0005】
また、上記従来の蛍光体は、青色光の光吸収が小さく、青色光を放つ発光素子(安価に入手し得るために、光源の工業生産上好ましいものである。)と組み合わせた光源を提供するのが難しい課題があった。
【0006】
本発明は、近紫外〜紫〜青色光励起可能で、緑〜黄色系の光を放つ新しいCe3+付活蛍光体を提供することを目的とし、演色性の良好な白色光を放つ光源を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光体は、結晶の基本骨格がY2Si36と同一の化合物を含み、前記化合物は、発光中心イオンとしてCe3+イオンを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の光源は、発光素子と、前記発光素子が放つ一次光の少なくとも一部を吸収する蛍光体とを含む光源であって、前記発光素子が放つ一次光は、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し、前記蛍光体は、上記本発明の蛍光体であり、前記蛍光体は、前記一次光の少なくとも一部を吸収して波長変換し、前記一次光よりも波長が長い発光成分を放つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、近紫外光だけでなく、紫〜青色光励起が可能で緑〜黄色光を放つ従来にない蛍光体を提供できる。さらに、上記蛍光体を発光源として含み、演色性の良好な白色光を放つ固体照明光源を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
(実施形態1)
先ず、本発明の蛍光体の実施の形態について説明する。本発明の蛍光体は、結晶の基本骨格がY2Si36と同一の化合物を含み、その化合物は、発光中心イオンとしてCe3+イオンを含むことを特徴とする。
【0012】
上記結晶の基本骨格がY2Si36と同一の化合物としては、Y2Si36自体をはじめとして、Y2Si36を構成するY、SiおよびNから選ばれる少なくとも1つの元素の少なくとも一部を他の元素で置換した化合物が該当する。Y2Si36を構成するY、SiおよびNから選ばれる少なくとも1つの元素の少なくとも一部を他の元素で置換した化合物としては、例えば、Yの一部または全部を、イオン半径が0.6Å以上1.5Å未満(特に、0.8Å以上1.2Å未満)で、且つ、イオンの価数が二〜四価となる金属元素(例えば、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属およびIn、Snなどの典型金属、Sc、La、Ce、Gd、Tb、Luなどの希土類、Zr、Hfなどの遷移金属など。)で置換した化合物や、Siの一部または全部を、イオン半径が0.2Å以上0.9Å未満で、且つ、イオンの価数が三〜四価となる金属元素(例えば、Sc、Ti、B、Al、Geなど。)で置換した化合物、あるいは、Nの一部をOやCなどで置換した化合物が挙げられる。
【0013】
このような化合物は、イオン半径が0.6Å以上1.5Å未満の陽イオン2個と、イオン半径が0.2Å以上0.9Å未満の陽イオン3個と、少なくともNを含む陰イオン6個とで構成される化合物であり、具体的には例えば、Y2Si36、(Y,Sc)2Si36、(Y,La)2Si36、(Y,Ca)2Si3(N,O)6、(Y,Sr)2Si3(N,O)6、(La,Ca)2Si3(N,O)6、Y2(Si,Al)3(N,O)6、Y2(Si,B)3(N,O)6、(Y,Sc,La,Gd)2(Si,Al,B)3(N,O,C)6のような化合物(蛍光物質)が挙げられる。
【0014】
本発明の蛍光体は、このように、Y2Si36と同じ結晶骨格や空間群を有する類似蛍光体を広く含むものである。なお、照明光源への応用を目的とした場合では、良好な演色評価指数(Ra)を有する高光束の照明光を得ることが容易になる理由で、510nm以上580nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色または黄色光を放つ蛍光体とするのが好ましい。
【0015】
本発明の蛍光体は、上記蛍光物質を主体としてなるもの、或いは上記蛍光物質を含有するものであれば産業利用上支障無く、不純物相などが混在するものや、化学量論的組成からずれた組成物であっても構わない。
【0016】
なお、蛍光物質を主体としてなるとは、蛍光体中に、所望の光を放つ単一結晶相の化合物(蛍光物質)を50モル%以上含む蛍光体を指し示すものとする。
【0017】
本発明の蛍光体は、発光中心としてCe3+イオンを少なくとも含むものであれば良く、発光の特性改善(色調改善など)を目的として、Ce3+イオン以外の発光中心イオンを共付活したものであっても構わない。
【0018】
共付活する発光中心としては、Ce3+以外の希土類イオンや遷移金属イオンが使用でき、具体的には例えば、Pr3+、Nd3+、Sm3+、Eu3+、Eu2+、Gd3+、Tb3+、Dy3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、Yb3+、Yb2+、Mn2+、Mn4+、Fe3+、Cr3+、Pb2+、Sn2+などから選ばれる少なくとも一つのイオンが使用できる。
【0019】
例えば、Pr3+イオンやTb3+イオンを共付活した蛍光体では、Ce3+イオンからTb3+イオンあるいはPr3+イオンへのエネルギー伝達が生じ、スペクトル半値幅の狭い緑色成分(Tb3+による)や赤色発光成分(Pr3+による)が発光ピークとして付加された分光分布の光を放つ蛍光体となることが期待できる。
【0020】
また、例えば、Eu2+イオンやMn2+イオンを共付活した蛍光体では、Ce3+イオンからEu2+イオンあるいはMn2+イオンへのエネルギー伝達が生じ、スペクトル半値幅の広い発光成分が付加されて、広い波長域に亘る分光分布の光を放つ蛍光体となることが期待できる。
【0021】
なお、発光中心イオンの付活量は、例えば、前記イオン半径が0.6Å以上1.5Å未満の陽イオンを形成し得る金属イオン(例えば、Yなど)に対して、0.01原子%以上30原子%未満であり、良好な発光効率を得る目的では、好ましくは0.1原子%以上10原子%未満である。
【0022】
本発明の蛍光体は、その形状について特に限定されるものではない。例えば、粒子状、顆粒状、粒状、棒状、板状、塊状、セラミックス状、ガラス中に分散させた形状など、ありとあらゆる形状の蛍光体として利用可能である。
【0023】
本発明の蛍光体は、ガス吸着や粒子表面反応などによる特性劣化抑制、粒子の表面改質による粉体特性(例えば流動性など)の改善などを目的として、蛍光体粒子をコート剤で表面コートしても良い。上記コート剤としては、酸化アルミニウムや二酸化珪素などから適宜選択して用いれば良い。
【0024】
本発明の蛍光体は、窒化物を主体にしてなる蛍光体原料、例えば、YN、Si34、CeNなど(一部、酸化物が含まれていても良い。)の直接反応や、実施例で記載するような、炭素を還元剤として用いる炭素熱還元窒化法などの製造方法によって製造可能である。
【0025】
本発明の蛍光体は、例えば、実施例で説明するように反応温度を1400〜1900℃とする固相反応(好ましくは5気圧以上20気圧未満の高圧窒素ガス雰囲気)によって製造可能である。また、蛍光体原料同士の反応性を高める目的で、必要に応じて、フラックス(各種ハロゲン化物など)を用いても構わない。但し、本発明の蛍光体は、製造方法によって限定されるものではなく、合成の原理上は、気相反応などによっても製造可能である。
【0026】
本発明の蛍光体は、例えば白色LED光源などへの応用が可能なものである。例えば、室温において、InGaN系化合物を発光層とするLEDチップが放つ360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する近紫外〜紫〜青色の光で励起した時に、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色光を放つ蛍光体は、必要に応じて赤色蛍光体(600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ蛍光体)などとともに、上記LEDチップと組み合わせることによって、容易に白色LED光源を構成できるので好ましい蛍光体である。
【0027】
(実施形態2)
次に、本発明の光源について図面に基づき説明する。図1は、本発明の光源の基本構造の一例を示す断面図である。
【0028】
図1において、発光素子1は、近紫外(300nm以上380nm未満)〜紫(380nm以上420nm未満)〜青色(420nm以上500nm未満)のいずれかの光を放つ光電変換素子であり、電気エネルギーを光エネルギーに変換する機能を持つものである。例えば、発光ダイオード(安価な高出力光源を得る目的で好ましい。)、半導体レーザー、無機EL素子、有機EL素子などから選ばれる少なくとも一つの光電変換素子が発光素子1に相当する。
【0029】
また、発光素子1は、蛍光体層2で覆われ、蛍光体層2中には、少なくとも実施形態1で記載した蛍光体を含む蛍光物質3が含有されている。蛍光物質3は、上記発光素子1が放つ光を、当該光よりも長波長の光に波長変換する波長変換体である。
【0030】
本発明の光源は、発光素子1に電力を供給すると、発光素子1が、近紫外〜紫〜青色のいずれかの一次光(図示せず。)を放ち、一次光の一部または全部が蛍光体層2の中の蛍光物質3(前述の本発明の蛍光体など)を励起し、励起された蛍光物質3が上記一次光の波長変換光(二次光)を放つよう構成している。
【0031】
すなわち、本発明の光源は、発光素子1が放つ、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する近紫外〜紫〜青色の一次光の少なくとも一部を、少なくとも実施形態1に記載の蛍光体が吸収して波長変換し、上記一次光よりも波長が長い発光成分を放つように構成したことを特徴とする光源である。
【0032】
本発明の光源は、上記一次光と二次光の混合光を放つ光源とすることもでき、一次光と二次光の発光色を適宜選択することによって、これらの加法混色による白色光を放つ光源(照明光源として好ましい光源である。)とすることも可能である。
【0033】
なお、照明用として好ましい本発明の光源は、図1に示すように、発光素子1と、少なくとも実施形態1で記載した蛍光体とを組み合わせてなり、相関色温度が2500K以上12000K以下、好ましくは2500K以上6000K未満の白色光を放つ光源である。
【0034】
また、照らされたものの見え方が自然光に近いものとなる光を放つ好ましい照明光源は、平均演色評価数(Ra)が、80以上の上記白色光を放つ光源である。このような自然光に近い光を放つ光源は、蛍光物質3として、さらに赤色蛍光体(600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ蛍光体)を用いることによって実現できる。但し、光源が放つ光の平均演色評価数と光束とは相反する関係があるため、高光束の光を放つ好ましい照明光源は、Raが80未満の上記白色光を放つ光源である。なお、演色性と高光束とを両立する好ましい照明光源は、Raが、80以上90未満の上記白色光を放つ光源である。本発明の光源は、青色光での励起も可能な緑色蛍光体を用いて構成し得るので、演色性と高光束とを両立する好ましい照明光源になる。
【0035】
なお、上記赤色蛍光体としては、例えば、Eu2+付活M2Si5-aAlaa8-a蛍光体(但し、aは0≦a≦2を満足する数値)やEu2+付活MSiAlN3蛍光体などのEu2+付活窒化物系蛍光体(Sr2Si58:Eu2+やCaAlSiN3:Eu2+など)、Eu2+付活アルカリ土類金属硫化物(MS)蛍光体(CaS:Eu2+やSrS:Eu2+など)、および、Eu3+付活希土類酸硫化物蛍光体(La22S:Eu3+など)などの蛍光体が挙げられる。但し、上記Mはアルカリ土類金属元素を示す。
【0036】
さらに、高光束の光源を実現する目的で、上記発光素子1は、金属またはセラミックスのいずれかの基板4上に実装されていることが好ましい。特に、アルミニウムまたは銅のいずれかの金属基板や、酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムのいずれかのセラミックス基板は、放熱性が良好なだけでなく、入手が容易で安価なため実用上好ましい基板である。このような放熱性の良好な基板を用いた光源は、発光素子への投入電力を高めることができ、発光素子がより多くの光子を放つようにすることができるために、より高光束の光源を提供できるようになる。
【0037】
なお、基板4は、発光素子1の構造や基板への実装方法によって、導電性基板(例えば金属基板)、絶縁体基板(例えばセラミックス基板)、発光素子1の実装面側に少なくとも絶縁体を設けた導電性基板(例えば、絶縁体で実装面を覆った金属基板)などを適宜選択して用いればよい。
【0038】
上記と同様に、より高光束の光源を実現する目的で、発光素子1は、図1に示すようなフリップチップ実装された発光ダイオードであることが好ましい。なお、フリップチップ実装では、発光素子1の電極(図示せず。)を、バンプ5(例えば金バンプ)によって、基板4上に設けた電極6と接合し、発光素子1を基板4上に導通搭載する。
【0039】
このようにして発光ダイオードをフリップチップ実装した光源は、その構造上、発光ダイオードの発光層で生じる発熱を、比較的効率良く基板4へ逃がすことが可能となる。このため、発光素子1への投入電力を高めることができ、発光素子1がより多くの光子を放つようにすることができるために、より高光束の光源を提供できるようになる。
【0040】
さらに、高光束の光源を実現する目的で、複数個の発光素子1を有する光源にすることが好ましい。前記一次光の光子の数がより多い光源とすることができ、光源が放つ総光子数を多くすることができるためである。
【0041】
一方、照明光として適する、発光色及び発光強度が照射範囲内で一様な光を放つ光源を得る目的で、上記複数個の発光素子1は、一平面状に配置されていることが好ましく、少なくとも、発光素子1の主光取り出し面上の蛍光体層2の厚みは一定であることが好ましい。
【0042】
また、蛍光体層2の表面が、発光素子1の主光取り出し面に対して平行で且つ平坦である光源にすることが好ましい。蛍光体層2中を通過する前記一次光の行路長を一定にすることができるためである。
【0043】
また、長寿命の光源とする目的で、上記蛍光物質3は、劣化しにくいシリコーン系の樹脂中に埋設されていることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の蛍光体を実施例に基づき説明する。
【0045】
<蛍光体の作製>
本発明の蛍光体として、(Y0.98Ce0.022Si36の組成を有するY2Si36:Ce3+窒化物蛍光体を作製した。蛍光体の作製は、工業生産に好ましい炭素熱還元窒化法を用いた。
【0046】
蛍光体原料として、Y23(純度99.99%)、CeO2(純度99.9%)、およびSi34(純度99.9%)の各粉末を用い、還元剤として炭素粉末(純度99.999%)を用いた。
【0047】
なお、一般には、蛍光体原料の反応性を高め、蛍光体の高効率化を図る目的で、フラックス(例えば各種ハロゲン化物など)を用いるが、本実施例では、実験の簡略化のためにフラックス(反応促進剤)の使用を省いた。
【0048】
蛍光体原料および還元剤の混合割合は、次に示すモル割合とし、原料の総重量が10〜30gの範囲内になるようにした。参考のため、各蛍光体原料および還元剤の重量割合をカッコ内に記した。
(1)Y23 :0.98モル(11.065g)
(2)CeO2 :0.04モル( 0.344g)
(3)Si34 :1.0モル ( 7.413g)
(4)C :3.0モル ( 1.802g)
【0049】
なお、本実施例では、上記還元剤の割合を、後述する還元窒化反応によって化学量論的組成の(Y0.98Ce0.022Si36化合物が形成される割合としたが、不純物酸素の含有量が少ない窒化物蛍光体を製造する目的で、炭素還元剤の割合を、上記割合に対して過剰添加割合(例えば、上記割合の100%を超え130%以下となる割合)とするのも好ましい。
【0050】
自動乳鉢を用いて上記蛍光体原料を十分混合した後、混合原料を炭素製の焼成容器に仕込み、管状雰囲気炉を用いて、還元雰囲気中(窒素水素混合ガス雰囲気中:97容量%窒素、3容量%水素)で2時間焼成することによって蛍光体を合成した。
【0051】
焼成温度については、1400℃以上1800℃以下の範囲で大まかな最適化を行い、結果として1700℃を選択した。なお、実験の簡略化のため、分級や洗浄などの後処理については省いた。
【0052】
<蛍光体の評価>
以下に示す項目と手法(使用設備)で蛍光体を評価した。
(1)結晶構成物:X線回折法(MultiFlex:(株)リガク)
(2)励起/発光スペクトル:蛍光分光光度計(FP−6500:日本分光(株))
【0053】
以下、本実施例の蛍光体の特性を説明する。
【0054】
図2(a)は、本実施例の蛍光体のX線回折パターンを示す図である。比較のため、図2(b)、(c)、(d)および(e)に、PDF(Powder Diffraction File)に登録されている、各々、Y2Si36(#50−0751)、YSi35(#50−0750)、Y23(#41−1105)、YN(#35−0779)のパターンを示した。
【0055】
図2(a)と、図2(b)〜(e)との対比から、本実施例の蛍光体は、少量のY23およびYNと、僅かなYSi35とを含むものの、Y2Si36化合物を主体にしてなる蛍光体であるといえる。図2は、本実施例によって、Y2Si36:Ce3+蛍光体を合成し得たことを示す証拠となるものである。
【0056】
なお、本実施例において、Y2Si36:Ce3+蛍光体は、以下の還元窒化反応によって生成したと考えられる。
【0057】
(化1)
0.98Y23+0.04CeO2+Si34+3C+N2+0.02H2
(Y0.98Ce0.022Si36+3CO↑+0.02H2O↑
【0058】
図3は、本実施例で製造した蛍光体の励起スペクトル7と発光スペクトル8とをまとめて示した図である。図3は、本実施例の蛍光体が、220nm以上500nm以下の光によって励起可能で、560nm付近に発光ピークを有する黄色光を放つ蛍光体であることを示している。図3より、本実施例の蛍光体は、特に、340nm以上450nm以下の近紫外〜青色光を効率良く吸収して、上記黄色光に波長変換する蛍光体であることも判る。
【0059】
なお、Ce3+付活蛍光体は、励起スペクトルの最長波側のピークよりも長波長の励起帯(すなわち、本実施例の蛍光体では、420nm以上500nm以下の励起帯)での内部量子効率が、励起スペクトルの最長波側のピーク波長の光で励起した時と遜色の無い高い効率水準にあることが知られている。
【0060】
このため、本実施例の蛍光体は、360nm以上500nm以下、特に、380nm以上470nm以下の波長領域に発光ピークを有する、近紫外(360nm以上380nm未満)、紫(380nm以上420nm未満)、または青色(420nm以上500nm未満)の光を、上記黄色光に高効率変換し得る蛍光体であると言える。
【0061】
すなわち、本実施例の蛍光体は、上記近紫外、紫、または青色の光を放つ発光素子と組み合わせることによって、高効率の光源(例えば白色LED光源)を提供し得る蛍光体である。
【0062】
また、本実施例の蛍光体は、製造条件(特に焼成条件)やCe3+付活剤の添加量や主成分組成などによって、発光スペクトルのピーク位置が幾分変わり、少なくとも540nm以上580nm以下の緑から黄色の波長範囲で制御可能である。
【0063】
なお、結晶中におけるCe3+イオンの振舞いや、Ce3+イオンを付活剤とする蛍光体の光物性を考慮すると、結晶の基本骨格がY2Si36と同一の化合物に、Ce3+イオンを添加してなる蛍光体についても同様の作用効果が期待できることは当業者であれば容易に類推できることである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、例えば白色LED光源用の緑または黄色蛍光体などとして利用できる従来にない窒化物系蛍光体を提供できる。また、本発明は、良好な照明用白色光を放つ照明光源として利用できる従来にない光源を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の光源の基本構造の一例を示す断面図である。
【図2】本発明における実施例の蛍光体のX線回折パターンおよびPDFに登録されたX線回折パターンを示した図である。
【図3】本発明における実施例の蛍光体の励起スペクトルと発光スペクトルとを示した図である。
【符号の説明】
【0066】
1 発光素子
2 蛍光体層
3 蛍光物質
4 基板
5 バンプ
6 電極
7 励起スペクトル
8 発光スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶の基本骨格がY2Si36と同一の化合物を含み、
前記化合物は、発光中心イオンとしてCe3+イオンを含むことを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記化合物は、Y2Si36を構成するY、SiおよびNから選ばれる少なくとも1つの元素の少なくとも一部を他の元素で置換した化合物である請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記化合物は、Y2Si36である請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
発光素子と、前記発光素子が放つ一次光の少なくとも一部を吸収する蛍光体とを含む光源であって、
前記発光素子が放つ一次光は、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し、
前記蛍光体は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体であり、
前記蛍光体は、前記一次光の少なくとも一部を吸収して波長変換し、前記一次光よりも波長が長い発光成分を放つことを特徴とする光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−222878(P2008−222878A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63829(P2007−63829)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】