説明

蛍光体複合材料に用いられるSnO−P2O5系ガラス

【課題】種々の蛍光体粉末に適用可能な低軟化特性を有し、焼成により蛍光体粉末と反応しにくく、しかも耐候性にも優れ、長期間に亘って使用しても劣化が少ない蛍光体複合材料に用いられるSnO−P系ガラスを提供する。
【解決手段】蛍光体複合材料に用いられるSnO−P系ガラスであって、SnO 72モル%以上かつB+ZnO 5モル%以下の組成を含有することを特徴とするSnO−P系ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(発光ダイオード)やLD(レーザーダイオード)等の半導体発光素子デバイスに好適な蛍光体複合材料に用いられるSnO−P系ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白色LED等の半導体発光素子デバイスは、白熱電球や蛍光灯に代わる次世代の光源として照明用途への応用が期待されている。一般に、白色LEDは、半導体発光素子であるLEDチップの発光面が、蛍光体粉末を含む有機系バインダー樹脂で被覆モールドされてなる。この被覆モールド部分をLEDチップからの励起光が通過する際に、その光の全部が蛍光体粉末に吸収されて別の波長に変換されたり、あるいは、励起光の一部が蛍光体粉末に吸収され波長変換された光と、波長変換されずに透過した光とが合成されて所望の白色光が発せられる。しかしながら、白色LEDを構成するモールド樹脂は耐熱性が低いため、青色〜紫外線領域の高出力の短波長励起光によって劣化し、変色を引き起こすという問題がある。
【0003】
そこで、上記問題を解決するために、500℃以上の高軟化点を有する非鉛系ガラス粉末と蛍光体粉末からなる材料をガラス粉末の軟化点以上の温度で焼成し、焼結させることで、ガラスマトリクス中に蛍光体粉末を分散させた蛍光体複合部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該蛍光体複合部材は、蛍光体粉末が無機材料であるガラスマトリクス中に分散されているため、化学的に安定であり劣化が少ない。しかも、長期間使用した後であっても、励起光によりガラスマトリクス自体が変色しにくい。
【0004】
しかしながら、白色LED等の半導体発光素子デバイスに使用される蛍光体粉末の中には、耐熱性が低いものもあり、特許文献1に記載の方法では、蛍光体粉末の安定性を十分に確保できない場合がある。すなわち、耐熱性が低い蛍光体粉末を、500℃以上の軟化点を有する非鉛系ガラス粉末と混合して焼成すると、焼成時の熱により蛍光体粉末が劣化して、蛍光体複合部材の発光効率が低下するという問題がある。そこで、上記問題を解決するために、低軟化点を有するSnO−P−B系ガラスに蛍光体粉末を分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−258308号公報
【特許文献2】特開2008−19421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蛍光体粉末の種類によっては、さらに低い焼成温度が要求される場合があり、特許文献2に記載のSnO−P−B系ガラスでは種々の蛍光体粉末に十分に対応できない場合がある。一方で、特許文献2に記載のSnO−P−B系ガラスは、軟化点を低下させると耐候性が低下しやすいという問題もある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、種々の蛍光体粉末に適用可能な低温軟化特性を有し、焼成により蛍光体粉末と反応しにくく、しかも耐候性にも優れ、長期間に亘って使用しても劣化が少ない蛍光体複合材料に用いられるSnO−P系ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、蛍光体複合材料に用いられるSnO−P系ガラスにおいて、当該SnO−P系ガラスが特定の組成を有する場合に前記課題を解消できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0009】
すなわち、本発明は、蛍光体複合材料に用いられるSnO−P系ガラスであって、SnO 72モル%以上かつB+ZnO 5モル%以下の組成を含有することを特徴とするSnO−P系ガラスに関する。
【0010】
一般に、低軟化点ガラスであるSnO−P系ガラスは耐候性が低いとされているが、本発明では、SnO含有量を72モル%以上と多く含有させることにより、低温軟化特性と耐候性の両方を兼ね備えた蛍光体複合材料を作製することが可能となった。したがって、本発明のSnO−P系ガラスを用いた蛍光体複合材料は低温焼結が可能であり、焼成時におけるガラス粉末と蛍光体粉末との反応が少なく、しかも当該蛍光体複合材料を焼結させてなる蛍光体複合部材は、耐候性に優れ、長期間に亘って使用しても劣化が少ないという特徴を有する。
【0011】
ところで、BとZnOは、ガラスの耐候性を向上させる効果がある反面、軟化点も上昇させてしまうという問題がある。そこで、本発明では、B+ZnO(BとZnOの合量)を5モル%以下に抑えることにより、さらに低い軟化点を達成することが可能となった。また、BとZnOは、紫外領域、特に波長330〜380nmの紫外線透過率を低下させる働きがある。本発明のSnO−P系ガラスは、BとZnOの含有量を上記範囲に制限しているため、優れた紫外線透過特性を有する。したがって、本発明のSnO−P系ガラスを用いた蛍光体複合材料は、紫外励起光源を用いた半導体発光素子デバイスに好適である。
【0012】
なお、本発明において「SnO−P系ガラス」とは、SnOおよびPを合量で50モル%以上含有するガラスをいう。
【0013】
第二に、本発明のSnO−P系ガラスは、BおよびZnOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0014】
既述のように、BとZnOは、ガラスの軟化点を上昇させるとともに紫外線透過率を低下させるという問題がある。したがって、SnO−P系ガラス粉末がBおよびZnOを実質的に含有しないことにより、さらに低い軟化特性を実現するとともに、紫外線透過率にも優れ、紫外励起光源を用いた半導体発光素子デバイスに好適な蛍光体複合材料を作製することが可能となる。
【0015】
なお、本発明において「BおよびZnOを実質的に含有しない」とは、BおよびZnOを意図的に添加しないという意味であり、不純物として混入するレベルを排除するものではない。具体的には、BおよびZnOの含有量が各0.1モル%未満であることをいう。
【0016】
第三に、本発明のSnO−P系ガラス粉末は、モル比SnO/Pが2.6〜15であることが好ましい。
【0017】
第四に、本発明のSnO−P系ガラス粉末は、モル%で、SnO 72〜90%、P 10〜28%、Al 0〜10%、SiO 0〜10%、LiO 0〜10%、NaO 0〜10%、KO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0〜10%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜10%、B+ZnO 0〜5%の組成を含有することが好ましい。
【0018】
第五に、本発明のSnO−P系ガラスは、波長365nmにおける内部透過率が80%以上であることが好ましい。
【0019】
当該構成を有するSnO−P系ガラスを用いた蛍光体複合材料は、紫外励起光源を用いた半導体発光素子デバイスに特に好適である。なお、本発明において「波長365nmにおける内部透過率」は厚み1mmにおける測定値をいう。
【0020】
第六に、本発明のSnO−P系ガラスは、軟化点が350℃以下であることが好ましい。
【0021】
当該構成によれば、耐熱性の低い蛍光体粉末を用いた場合であっても、焼成時に蛍光体粉末がSnO−P系ガラス粉末と反応して劣化することがほとんどない蛍光体複合材料を得ることができる。
【0022】
第七に、本発明は、前記いずれかに記載のSnO−P系ガラスからなるSnO−P系ガラス粉末に関する。
【0023】
SnO−P系ガラスを粉末状で用いることにより、蛍光体粉末をSnO−P系ガラス中に十分に分散させることができ、所望の特性を有する蛍光体複合部材を容易に作製することが可能となる。
【0024】
第八に、本発明は、前記SnO−P系ガラス粉末および蛍光体粉末を含有する蛍光体複合材料に関する。
【0025】
第九に、本発明の蛍光体複合材料は、蛍光体粉末の含有量が0.01〜30質量%であることが好ましい。
【0026】
第十に、本発明は、前記いずれかに記載の蛍光体複合材料の焼結体からなる蛍光体複合部材に関する。
【0027】
第十一に、本発明の蛍光体複合部材は、300〜500nmのいずれかの波長を有する励起光を、当該励起光の波長とは異なる波長380〜780nmの可視光に変換することが好ましい。
【0028】
第十二に、本発明は、前記いずれかに記載の蛍光体複合部材を用いた半導体発光素子デバイスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明において、「%」は特に断りのない限り「モル%」を表す。
【0030】
本発明のSnO−P系ガラスにおいて、SnOはガラスの骨格を形成するとともに、軟化点を下げる成分である。SnOの含有量は72〜90%、73〜88%、特に75〜85%が好ましい。SnOの含有量が72%未満であると、耐候性が低下する傾向がある。一方、SnOの含有量が90%を超えると、ガラス中にSnに起因する失透ブツが析出し、ガラスの透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光効率を有する蛍光体複合部材が得られにくくなる。また、ガラスが不安定になり、ガラス化しにくくなる。
【0031】
はガラスの骨格を形成する成分である。Pの含有量は10〜28%、12〜27%、特に15〜25%が好ましい。Pの含有量が10%未満であると、ガラス化しにくくなる。一方、Pの含有量が28%を超えると、耐候性が著しく低下する傾向にある。
【0032】
なお、SnO−P系ガラスの軟化点を低下させ、しかも安定化させるには、SnO/Pの値を、モル比で、2.6〜15、2.9〜10、特に3〜7の範囲にすることが好ましい。SnO/Pの値が2.6未満であると、耐候性が著しく低下する傾向にある。一方、SnO/Pの値が15を超えると、ガラス中にSnに起因する失透ブツが析出してガラスの透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光効率を有する蛍光体複合部材が得られにくくなる。
【0033】
とZnOは、既述のように、ガラスの耐候性を向上させる効果がある反面、軟化点を上昇させ、しかも紫外領域、特に波長330〜380nmの紫外線透過率を低下させるという問題がある。したがって、BとZnOの含有量は合量で5%以下、3%以下、1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。BとZnOの含有量が合量で5%を超えると、低温軟化特性、特に350℃以下、さらには320℃以下の軟化点が得られにくくなる。また、紫外線透過率に劣り、当該SnO−P系ガラスを用いた蛍光体複合材料を、紫外励起光源を用いた半導体発光素子デバイスに使用することが困難となる。ただし、ガラスの耐候性をある程度確保することを目的とする場合は、BとZnOを合量で0.1%以上、さらには1%以上含有させることもできる。
【0034】
本発明のSnO−P系ガラスは、モル%で、SnO 72〜90%、P 10〜28%、Al 0〜10%、SiO 0〜10%、LiO 0〜10%、NaO 0〜10%、KO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0〜10%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜10%、B+ZnO 0〜5%の組成を含有するものが一例として挙げられる。ガラス組成をこのように限定した理由は、以下の通りである。なお、SnO、P、B、ZnOについては、既述の通りであり、以下では記載を省略する。
【0035】
Alはガラスを安定化させる成分である。Alの含有量は0〜10%、0〜7%、1〜5%、特に1〜2%である。Alの含有量が10%を超えると、ガラスの軟化点が上昇して蛍光体複合材料を低温焼結しにくくなり、蛍光体粉末が劣化しやすくなる。
【0036】
SiOはAlと同様にガラスを安定化させる成分である。SiOの含有量は0〜10%、0〜7%、0.1〜5%、特に0.1〜2%である。SiOの含有量が10%を超えると、ガラスの軟化点が上昇して蛍光体複合材料を低温焼結しにくくなり、蛍光体粉末が劣化しやすくなる。また、ガラスが分相しやすくなる。
【0037】
なお、AlとSiOの合量は0〜10%、0〜5%、特に0.1〜2%が好ましい。AlとSiOの合量が10%を超えると、ガラスの軟化点が上昇して蛍光体複合材料を低温焼結しにくくなり、蛍光体粉末が劣化しやすくなる。
【0038】
LiOはガラスの軟化点を著しく低下させる成分である。LiOの含有量は0〜10%、0〜7%、特に1〜5%が好ましい。LiOの含有量が10%を超えると、ガラスが著しく不安定になってガラス化しにくくなる。
【0039】
NaOはガラスの軟化点を低下させる成分である。NaOの含有量は0〜10%、0〜7%、特に0.1〜5%が好ましい。NaOの含有量が10%を超えると、ガラスが不安定になってガラス化しにくくなる。
【0040】
Oは、ガラスの軟化点を若干低下させる成分である。KOの含有量は0〜10%、0〜7%、特に1〜5%が好ましい。KOの含有量が多くなると、ガラスが不安定になりやすくガラス化しにくくなる。
【0041】
LiO、NaOおよびKOの合量は0〜10%、0〜7%、特に1〜5%であることが好ましい。これらの成分の合量が10%を超えると、ガラスが不安定になってガラス化しにくくなる。
【0042】
このようにLiO、NaOおよびKOはガラスの軟化点を低下させる効果があるため、蛍光体複合材料の焼成温度も低下させることが可能となり、結果として、蛍光体粉末の劣化が抑制され、発光効率に優れた蛍光体複合部材を作製することが可能となる。
【0043】
MgOはガラスを安定化させてガラス化しやすくする成分である。MgOの含有量は0〜10%、0〜7%、特に1〜5%が好ましい。MgOの含有量が10%を超えると、ガラスが失透して透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光効率を有する蛍光体複合部材が得られにくくなる。
【0044】
CaOはガラスを安定化させてガラス化しやすくする成分である。CaOの含有量は0〜10%、0〜7%、特に0.1〜5%が好ましい。CaOの含有量が10%を超えると、ガラスが失透して透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光効率を有する蛍光体複合部材が得られにくくなる。
【0045】
SrOはガラスを安定化させてガラス化しやすくする成分である。SrOの含有量は0〜10%、0〜7%、特に0.1〜5%が好ましい。SrOの含有量が10%を超えると、ガラスが失透して透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光効率を有する蛍光体複合部材が得られにくくなる。
【0046】
BaOはガラスを安定化させてガラス化しやすくする成分である。BaOの含有量は0〜10%、0〜5%、0〜3%、特に0.1〜1%が好ましい。BaOの含有量が5%を超えると、ガラスが著しく失透して透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光効率を有する蛍光体複合部材が得られにくくなる。
【0047】
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量は0〜10%、0〜7%、特に1〜5%であることが好ましい。これら成分の合量が10%より多くなると、ガラスが失透して透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光効率を有する蛍光体複合部材が得られにくくなる。
【0048】
なお、SnOを多量に含有する場合やアルカリ酸化物を添加した場合などは、ガラスが低軟化点化するが、ガラスが不安定になる傾向がある。一方、MgO、CaO、SrOおよびBaOはガラスを安定化させる効果があるため、これらの成分を添加することで、ガラスの安定性を維持しつつ、低軟化点化を図ることが可能となる。
【0049】
また、上記成分以外にも、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。例えば、耐候性を向上させるために、Ta、Nb、Gd、Laを合量で10%まで添加してもよい。
【0050】
本発明のSnO−P系ガラスは、波長365nmにおける内部透過率が80%以上、特に82%以上であることが好ましい。波長365nmにおける内部透過率が80%未満であると、当該SnO−P系ガラスを用いた蛍光体複合材料を、紫外励起光源を用いた半導体発光素子デバイスに使用することが困難となる。
【0051】
本発明のSnO−P系ガラスの軟化点は350℃以下、特に320℃以下であることが好ましい。SnO−P系ガラスの軟化点が350℃を超えると、耐熱性の低い蛍光体粉末を用いた場合、焼成時に蛍光体粉末が劣化する傾向にあり、蛍光体複合部材の発光効率が低下しやすくなる。
【0052】
本発明のSnO−P系ガラスは粉末状で用いることが好ましい。SnO−P系ガラス粉末の平均粒径D50は0.1〜300μm、特に0.7〜250μmであることが好ましい。SnO−P系ガラス粉末の平均粒径D50が300μmより大きくなると、低温焼結が困難となる傾向がある。一方、平均粒径D50が0.1μmより小さくなると、焼成時に発泡して、蛍光体複合部材の気孔率が大きくなり、発光効率が低下しやすくなる。
【0053】
本発明の蛍光体複合材料は、本発明のSnO−P系ガラス粉末および蛍光体粉末を含有してなるものである。蛍光体粉末は、可視域に発光ピークを有するものであれば、特に限定されるものではない。なお、本発明において可視域とは波長380〜780nmの範囲をいう。このような蛍光体粉末として、酸化物、窒化物、酸窒化物、塩化物、酸塩化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、カルコゲン化物、アルミン酸塩、ハロリン酸塩化物、YAG系化合物などの無機蛍光体粉末が挙げられる。窒化物、酸窒化物、塩化物、酸塩化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、カルコゲン化物、アルミン酸塩、ハロリン酸塩化物などの蛍光体粉末は、焼成時の熱により、ガラスと反応し、発泡や変色などの異常反応を起こしやすく、その程度は、焼成温度が高温であればあるほど著しくなる。本発明で用いられるSnO−P系ガラス粉末は十分に低い軟化点を有するため、こ
れらの蛍光体粉末を使用することができる。
【0054】
なお、本発明の蛍光体複合材料はSnO−P系ガラス粉末および蛍光体粉末のみからなるものであってもよいが、それ以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、高軟化点ガラス、あるいはアルミナ、シリカ等の結晶粉末などの無機粉末を、蛍光体複合部材の強度向上や色合い、配向性、散乱性の調節等の目的で含有しても構わない。これらの無機粉末の含有量は、蛍光体複合材料中において合量で0.01〜50質量%であることが好ましく、0.05〜20質量%であることがより好ましい。
【0055】
本発明の蛍光体複合部材は、本発明の蛍光体複合材料の焼結体からなる。蛍光体複合部材の形状は特に限定されないが、長方形等の多角形や円形の板状が一般的である。その他にも、球状、半球状、メニスカスレンズ状、円錐状、膜状などが挙げられる。これらの形状は、研磨や切削加工により作製してもよいが、蛍光体複合材料の焼結物を所望の形状を有する金型を用いてリプレス成型することにより容易に作製することができる。
【0056】
蛍光体複合部材の発光効率は、ガラス中に分散した蛍光体粉末の種類や含有量、および蛍光体複合部材の厚みなどによって変化するため、発光効率が最適になるようにこれらのパラメータを適宜調整すればよい。
【0057】
ただし、蛍光体粉末の含有量が多すぎると、焼結しにくくなったり、気孔率が大きくなって、励起光が蛍光体粉末に効率良く照射されにくくなったり、蛍光体複合部材の機械的強度が低下しやすくなるなどの問題が生じる。一方、蛍光体粉末の含有量が少なすぎると、十分な発光強度が得られにくくなる。したがって、蛍光体複合材料における蛍光体粉末の含有量は0.01〜30質量%、0.05〜20質量%、特に、0.08〜15質量%が好ましい。
【0058】
また、蛍光体複合部材の厚みは0.05〜2mm、0.08〜1mm、0.1〜0.5mm、特に0.1〜0.2mmが好ましい。蛍光体複合部材の厚みが0.05mm未満であると、機械的強度に劣るとともに、製造および加工が困難となる。一方、蛍光体複合部材の厚みが2mmを超えると、励起光が透過しにくくなり、光束値が低下する傾向がある。
【0059】
蛍光体複合材料の焼成は大気中で行ってもよいが、さらに緻密な焼結体を得る場合やガラス粉末と蛍光体粉末の反応を抑制するために、減圧または真空雰囲気中、あるいは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で焼成することが好ましい。
【0060】
焼成温度は250〜350℃の範囲であることが好ましい。焼成温度が250℃未満であると、焼結体である蛍光体複合部材の気孔率が増加し、光の透過性が低下する場合がある。一方、焼成温度が350℃を超えると、蛍光体粉末が劣化したり、ガラス粉末と蛍光体粉末が反応し、発光効率が低下しやすくなる。
【0061】
焼成に供する際の蛍光体複合材料の形態は特に限定されるものではなく、例えば、所望形状の加圧成型体であってもよいし、ペーストやグリーンシートであってもよい。
【0062】
本発明の蛍光体複合材料を加圧成型して蛍光体複合部材とする方法は例えば次のように行われる。まず、蛍光体複合材料に樹脂バインダーを0〜5質量%添加して金型で加圧成型し、予備成型体を作製する。続けて、予備成型体を250℃以下の温度で脱バインダーを行った後、上記温度範囲で焼成することにより、蛍光体複合部材とすることができる。
【0063】
なお、樹脂バインダーとしては、樹脂の分解終了温度が250℃以下のものを用いることが好ましい。このような樹脂バインダーとしては、例えば、ニトロセルロース、ポリイソブチルアクリレート、ポリエチルカーボネート等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0064】
本発明の蛍光体複合材料をペーストの形態で使用する場合には、蛍光体複合材料に所定量の結合剤や溶剤等を添加および混錬してペースト化することが好ましい。ペースト全体に占める蛍光体複合材料の割合は30〜90質量%が一般的である。
【0065】
結合剤は、ペーストを乾燥して膜状蛍光体複合部材とした際に、当該膜状蛍光体複合部材の強度を高め、また柔軟性を付与する成分である。結合剤の含有量は、0.1〜20質量%程度が一般的である。結合剤の具体例としては、ポリブチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、エチルセルロース、ニトロセルロース等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0066】
溶剤は、蛍光体複合材料をペースト化するために用いられる。溶剤の含有量は10〜50質量%程度が一般的である。溶剤の具体例としては、テルピネオール、酢酸イソアミル、トルエン、メチルエチルケトン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3ペンタジオールモノイソブチレート等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0067】
上記ペーストを用いて、無機材料の基材上に膜状蛍光体複合部材を形成することができる。具体的には、蛍光体複合部材と同程度の熱膨張係数を有する無機材料の基材を用意し、当該基材上にスクリーン印刷法や一括コート法等を用いてペーストを塗布し、所定膜厚の塗布層を形成する。その後、乾燥させ、上記温度で焼成することにより、膜状蛍光体複合部材を形成することができる。
【0068】
本発明の蛍光体複合材料をグリーンシートの形態で使用する場合、蛍光体複合材料に対して結合剤、可塑剤、溶剤等を添加してグリーンシート化する。グリーンシート中に占める蛍光体複合材料の割合は50〜80質量%程度が一般的である。
【0069】
結合剤および溶剤としては、上記ペーストの調製に用いられるものと同様のものを用いることができる。結合剤の混合割合は0.1〜30質量%程度、溶剤の混合割合は1〜40質量%程度が一般的である。
【0070】
可塑剤は、グリーンシート化する際の乾燥速度をコントロールするとともに、グリーンシートに柔軟性を与える成分である。可塑剤の含有量は、0〜10質量%程度が一般的である。可塑剤としは、フタル酸ジブチル、ブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0071】
グリーンシートを作製する一般的な方法としては、本発明の蛍光体複合材料に対して、結合剤、可塑剤、溶剤を添加してスラリーとし、当該スラリーをドクターブレード法によって、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルムの上にシート状に成形する。その後、得られたシート状の成形物を乾燥させることによって、溶剤等の有機物を除去し、グリーンシートとすることができる。
【0072】
以上のようにして得られたグリーンシートを無機材料の基材上に設置して熱圧着した後、上記温度で焼成することにより、蛍光体複合部材とすることができる。なお、グリーンシートは1枚のみ用いても良く、2枚以上を積層して用いてもよい。
【0073】
本発明の蛍光体複合部材は、上記蛍光体粉末を使用することにより、例えば、300〜500nmのいずれかの波長を有する励起光を、当該励起光の波長とは異なる波長380〜780nmの可視光に変換することができる。
【0074】
本発明の半導体発光素子デバイスの励起光源に用いられる半導体発光素子は、波長300〜500nmの光、例えば、波長330〜380nmの紫外光や波長430〜480nmの青色光のLEDまたはLDであることが好ましい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
表1および2、本発明の実施例(試料No.1〜9)および比較例(試料No.10
〜13)をそれぞれ示している。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
表の各試料は、次のようにして調製した。
【0080】
まず、表1および2に示すガラス組成となるように原料を調合し、均一に混合した。次いで、調合した原料をアルミナ坩堝に投入し、N雰囲気中900℃で2時間溶融した後、ガラス融液をローラー成形器を用いてフィルム状に成形した。続いて、得られたフィルム状のガラスをらいかい機で粉砕した後、325メッシュの篩にて分級し、SnO−P系ガラス粉末(平均粒径D50=15μm)を得た。
【0081】
SnO−P系ガラスの軟化点は、マクロ型示差熱分析計を用いて測定し、第四の変曲点の値を軟化点とした。
【0082】
SnO−P系ガラスの内部透過率は、溶融したガラスを成形し、1mmの厚みとなるように光学研磨した試料を用いて波長365nmの内部透過率を測定した。
【0083】
次に、得られたSnO−P系ガラス粉末99質量%に対し、1質量%のSrBaSiO:Eu2+粉末(耐熱性が500℃程度の蛍光体粉末)を添加し、混合して蛍光体複合材料を得た。次に、金型を用いて蛍光体複合材料を加圧成形し、15mm×15mm×5mmの予備成型体を作製した。この予備成型体を、100Paの減圧下(1気圧=1.013×10Pa)、表1および2に示す焼成温度で焼成した後、10mm×10mm×1mmの蛍光体複合部材の試料を得た。得られた試料について、発光効率および耐候性を評価した。結果を表1および2に示す。
【0084】
蛍光体複合部材の発光効率は次のようにして算出した。青色LED(波長450nm)または紫外LED(波長365nm)の上に試料を設置し、積分球内で、試料上面から発せられる光のエネルギー分布スペクトルを測定した。得られたスペクトルに標準比視感度を掛け合わせて全光束を計算し、当該全光束を光源の電力で除することにより発光効率を算出した。
【0085】
耐候性の評価はプレッシャークッカー試験機を用いて行った。すなわち、試料を2気圧、湿度95%、温度121℃の試験条件下に24時間保持した後に、試料の発光効率および表面状態の評価を行った。試験後の発光効率は、上記と同様にして求めた。また、試験後の試料の表面状態は、各試料の表面を目視および顕微鏡で観察し、微小クラックおよびガラス成分等の溶出による白濁が認められなかったものを「○」、微小クラックおよび/または白濁が認められたものを「×」とした。
【0086】
表1および2から明らかなように、実施例である試料No.1〜9は、ガラスの軟化点が350
℃以下と低く、低温焼結することができた。発光効率は、青色LEDで、20lm/W以上、紫外LEDで5lm/Wと高かった。また、耐候性試験後も発光効率の低下や表面の白濁は認められず、耐候性に優れていた。また、波長365nmの内部透過率は80%以上と高かった。
【0087】
これに対して、試料No.10〜12は、ガラス中にB、ZnOを多く含むため、波長365nmの内部透過率は10%以下、紫外LEDでの発光効率は0.6lm/W以下と低かった。また、試料No.13は、SnOの含有量が少ないため、耐候性試験後の青色LEDの発光効率は6lm/W、紫外LEDの発光効率は1.5lm/Wと低くなった。さらに、試験後の焼結体表面は、目視で観察したところ白濁しており、顕微鏡で観察したところ微小クラックおよびガラス成分の溶出が認められ、耐候性が低いことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体複合材料に用いられるSnO−P系ガラスであって、SnO 72モル%以上かつB+ZnO 5モル%以下の組成を含有することを特徴とするSnO−P系ガラス。
【請求項2】
およびZnOを実質的に含有しないことを特徴とする請求項1に記載のSnO−P系ガラス。
【請求項3】
モル比SnO/Pが2.6〜15であることを特徴とする請求項1または2に記載のSnO−P系ガラス。
【請求項4】
モル%で、SnO 72〜90%、P 10〜28%、Al 0〜10%、SiO 0〜10%、LiO 0〜10%、NaO 0〜10%、KO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0〜10%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜10%、B+ZnO 0〜5%の組成を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のSnO−P系ガラス。
【請求項5】
波長365nmにおける内部透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のSnO−P系ガラス。
【請求項6】
軟化点が350℃以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のSnO−P系ガラス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のSnO−P系ガラスからなるSnO−P系ガラス粉末。
【請求項8】
請求項7に記載のSnO−P系ガラス粉末および蛍光体粉末を含有する蛍光体複合材料。
【請求項9】
蛍光体粉末の含有量が0.01〜30質量%であることを特徴とする請求項8に記載の蛍光体複合材料。
【請求項10】
請求項8または9に記載の蛍光体複合材料の焼結体からなる蛍光体複合部材。
【請求項11】
300〜500nmのいずれかの波長を有する励起光を、当該励起光の波長とは異なる波長380〜780nmの可視光に変換することを特徴とする請求項10に記載の蛍光体複合部材。
【請求項12】
請求項10または11に記載の蛍光体複合部材を用いた半導体発光素子デバイス。

【公開番号】特開2010−229002(P2010−229002A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81156(P2009−81156)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】