説明

蛍光試料の光学特性測定方法および装置

【課題】蛍光増白試料の全分光放射率係数を求めるにあたって、蛍光基準試料や煩雑な校正作業を必要とすることなく、さらに前記蛍光増白試料の二分光蛍光放射率係数の選択についてユーザに負担をかけることなく、高い精度で蛍光試料の光学特性を求める。
【解決手段】代表的な蛍光増白紙であるコート紙と通常紙との二分光蛍光放射率係数を二分光データメモリ83に予め記憶しておき、CPU80が、共に励起域にあって分光分布の異なる2つの照明光(紫光)33,(紫外光)43で被測定試料1を照明して励起効率を測定し、その相対比に基づいて、CPU80が前記記憶されている二分光蛍光放射率係数から、被測定試料1のものに相対的に近似する二分光蛍光放射率係数を係数メモリ84から自動選択し、選択された二分光蛍光放射率係数に基づいて、蛍光増白試料の評価用照明光による全分光放射率係数を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光増白試料および蛍光増白基材上の印刷試料などの蛍光試料の光学特性を測定するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産されている紙や繊維の多くは、蛍光増白剤によって蛍光増白されており、これらおよびこれらを基材とする印刷面の白さ(白色度、ブライトネス)や色彩は、その蛍光の影響を無視して評価できないということが、関連する業界で問題となっている。すなわち、人の目に見えない紫外域の光が蛍光体に吸収されると、該蛍光体を励起させ、より波長の長い可視の光が放射される。このため、同じ測定試料であっても、光源によって励起の程度が異なり、したがって見え方が違ってくるということになる。そのような事情から、蛍光の影響を配慮した当該紙や繊維、ならびにこれらを基材とする印刷面に対する測色技術の向上が求められている。
【0003】
一般的に、反射試料の視覚的な光学特性は、白色との相対比、すなわち或る照明・受光条件において照明、受光された該反射試料からの放射光の、同一条件で照明、受光された完全拡散反射体からの放射光に対する波長λ毎の比である全分光放射率係数B(λ)で表される。
【0004】
しかしながら、前記の蛍光増白試料および該蛍光増白基材上の印刷試料(以降、蛍光試料という)では、反射光に、前記のように励起光で自発光した蛍光が重畳されて観察されることになる。すなわち、蛍光試料からの放射光は、該蛍光試料からの反射光(反射光成分)と蛍光(蛍光成分)との和として与えられる。したがって、蛍光試料における前記全分光放射率係数B(λ)は、上記と同様、或る照明・受光条件において照明、受光された蛍光試料からの反射光および蛍光それぞれの、同一条件で照明、受光された完全拡散反射体からの放射光に対する比である反射分光放射率係数R(λ)と蛍光分光放射率係数F(λ)との和として与えられる。これは以下の式(1)で示される。
【0005】
B(λ)=R(λ)+F(λ) …(1)
ただし、上記完全拡散反射体は蛍光を放射せず、その反射率は照明光の波長に依存しないので、比例定数を別にすれば、これら全分光放射率係数B(λ)、反射分光放射率係数R(λ)、および蛍光分光放射率係数F(λ)は、それぞれ波長λの放射光、反射光、および蛍光の、同じ波長の照明光に対する比として表される。なお、当該測色の目的は目視に準じる測定値を得ることにあり、物体色として感じられる蛍光試料の場合、求められるべきは全分光放射率係数B(λ)であり、この全分光放射率係数B(λ)から色彩値が導かれる。
【0006】
ここで、測色用の照明光としては、CIE(国際照明委員会)が分光分布(分光強度)を定義しているD65(昼光)やA(白熱光源)、或いはD50、D75、F11、Cなどの標準照明光が用いられる(蛍光試料には通常、標準照明光CやD50が用いられる)。そして、これらの照明光によって照明された蛍光試料(蛍光物質)の励起・蛍光特性は、該蛍光試料面を単位強度で照明する波長μの励起光(入射光)、すなわち単位エネルギーをもつ単波長光によって励起される波長λの蛍光の強度を表すマトリクスデータ、二分光蛍光放射率係数(Bispectral Luminescent Radiance Factor)F(μ,λ)によって記述される。
【0007】
上記マトリクスデータは、たとえば図8に示す3次元データであり、特定の蛍光波長λに沿った断面(たとえばλ=550nmの断面)は、波長λの蛍光を励起する励起光の波長毎の励起効率である分光励起効率を表し、励起波長μに沿った断面(たとえばμ=450nmの断面)は、450nmの照明光によって励起される蛍光の分光強度を表す。このことからも、蛍光現象は波長μから波長λへの波長変換を伴う現象であると言える。したがって、分光分布I(μ)を有する照明光Iで照明された、二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)を有する蛍光試料の蛍光分光放射率係数F(λ)は、比例定数を別にすれば、以下の式(2)によって求められる。
【0008】
F(λ)=∫F(μ,λ)・I(μ)dμ/I(λ) …(2)
つまり、F(λ)は、照明光Iの分光分布I(μ)と二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)との畳み込み積分と、I(λ)との比で与えられる。また、I(λ)は、比例定数を別にすれば、前記完全拡散反射体(面)からの反射光と等価である。また、式中、「・」、「/」および「∫」の記号は、それぞれ乗算、除算および積分を示すものとする(以降も同様)。
【0009】
このように、蛍光分光放射率係数F(λ)は、照明光Iの分光分布I(μ)に依存するので、この蛍光分光放射率係数F(λ)と、それ自身は照明光Iの分光分布I(μ)に依存しない反射分光放射率係数R(λ)との和である全分光放射率係数B(λ)も分光分布I(μ)に依存する。すなわち、蛍光試料に対する照明光の分光分布の違いによって、測定される全分光放射率係数B(λ)およびそれから導かれる色彩値も異なるものとなる。
【0010】
したがって、蛍光試料に対する光学特性の評価においては、照明光(以降、F(λ)やB(λ)等の光学特性の評価に用いる照明光のことを評価用照明光という)の分光分布を特定する必要があり、実際の測定では、測定装置の照明光の分光分布をこの特定の評価用照明光と一致させる必要がある。しかしながら、当該特定の評価用照明光に一致させること、すなわち評価用照明光として一般的に用いられる上記標準照明光(D50やC等)と同じ分光分布の照明光を実現することは非常に困難である。
【0011】
そこで、他の方法として、二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)、或いは二分光放射率係数B(μ,λ)を求め、これらの係数F(μ,λ)またはB(μ,λ)と、数値的に与えた評価用照明光の分光分布I(λ)とから、前記式(2)を用いて、蛍光分光放射率係数F(λ)、或いは全分光放射率係数B(λ)を数値的に求める方法がある。ただし、この二分光放射率係数B(μ,λ)は、前記二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)と同様に、蛍光試料面を単位強度で照明する波長μの照明光による、波長λの蛍光と反射光との和として与えられる波長λの全放射光の強度を表すマトリクスデータであり、全分光放射率係数B(λ)は、以下の式(3)に示すように照明光Iの分光分布I(μ)と二分光放射率係数B(μ,λ)との畳み込み積分と、I(λ)との比で与えられる。
【0012】
B(λ)=∫B(μ,λ)・I(μ)dμ/I(λ) …(3)
しかしながら、二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)や二分光放射率係数B(μ,λ)(ここで、両者を二分光特性と総称し、各々によって算出される蛍光分光放射率係数F(λ)や全分光放射率係数B(λ)を分光蛍光特性と総称する。)の測定は、照明、受光系の双方に分光手段を備え、大掛かりで測定時間のかかる二分光器法測定器(ダブルモノクロメーター)を必要とすることから実用的ではない。このため、代表的な蛍光試料である蛍光増白紙等の品質管理などには、専ら以下の2つの簡易手法が用いられている。
【0013】
先ず第1の手法であるGaertner−Grisserの測定方法によれば、図9の光学特性測定装置600に示すように、蛍光試料601が積分球602の試料用開口603に配設される。そして、キセノンランプなど紫外域(UV域)に充分な強度を有する光源604からの光束605が、光源用開口を通って前記積分球602内に入射される。この光束605中には紫外カットフィルタ606が挿入可能となっており、前記光束605のうちの該紫外カットフィルタ606を通過した光束からは紫外成分が除去されるので、該紫外カットフィルタ606の挿入の程度を調節することで、照明光の可視域に対する紫外域(励起域)強度の相対比(相対紫外強度)を調整することができる。前記紫外カットフィルタ606を透過した光束および透過しなかった光束は、共に積分球602の内部で拡散多重反射され、合成されて蛍光試料601を拡散照明する。
【0014】
そして、合成された照明光によって照明されることで得られる蛍光試料601からの試料放射光の所定方向の成分(放射光成分607)が、放射光分光部608に入射し、該放射光成分607の分光分布Sx(λ)が測定される。一方、照明光と略同じ分光分布を有する光束609が、直接参照用光ファイバ610に入射して、この参照用光ファイバ610から照明光分光部611に入射し、該光束609の分光分布Mx(λ)が測定される。そして、これらの分光分布Sx(λ)およびMx(λ)の測定情報に基づいて、演算制御部612において、前記全分光放射率係数Bx(λ)が求められる。
【0015】
ここで、前記相対紫外強度の校正は、蛍光試料601に近似した励起・蛍光特性(二分光蛍光放射率係数)を有し、評価用照明光で照明したときの色彩値(たとえばCIEの白色度WI)が既知である蛍光基準試料を用い、該蛍光基準試料を試料用開口603に配設してこれに対する全分光放射率係数B(λ)を測定し、この全分光放射率係数B(λ)から算出した白色度WIが前記の既知の白色度WIsと一致するように、紫外カットフィルタ606の挿入度を調節することで行われる。
【0016】
しかしながら、このGaertner−Grisserの測定方法は、機械的に複雑で信頼性に問題があるだけでなく、上記白色度WIが既知の白色度WIsと一致するまで、紫外カットフィルタ606の挿入度の調節と測定とを繰返し行う煩雑な校正作業が必要となる。また、自由度が「1」であるので、白色度WIや色度Tintなどの2つ以上の色彩値を同時に校正したり、或いは全分光放射率係数B(λ)そのものを既知の評価用照明光で照明したときの全分光放射率係数Bs(λ)と一致させるような校正を行うことは原理的に不可能である。
【0017】
そこで提案されたのが特許文献1による第2の手法である。この特許文献1の測定方法は、紫外カットフィルタ606の挿入度に応じて照明光を合成し、結果的に全分光放射率係数B(λ)を合成するという前記Gaertner−Grisserの測定方法と同じ原理であり、また自由度も「1」であるものの、波長λ毎に相対紫外強度を調整して、先ず全分光放射率係数B(λ)を数値的に合成し、結果的にこれを与える照明光を合成するという点で異なる。具体的に説明すると、図10の光学特性測定装置700に示すように、積分球702に、紫外強度をもつ光束703を出力する第1照明部704、紫外強度をもたない光束705を出力する第2照明部706、試料用開口707に配設された蛍光試料701からの放射光(放射光成分708)の分光分布を測定する放射光分光部709、そのときの照明光の光束710の分光分布を光ファイバ711を介して測定する照明光分光部712、および演算制御部713を備える。そして、蛍光試料701を第1および第2照明部704,706で照明し、該蛍光試料701からの放射光の分光分布Sx1(λ),Sx2(λ)と、そのときの照明光の分光分布Mx1(λ),Mx2(λ)とを測定し、これらの分光分布Sx1(λ),Sx2(λ)とMx1(λ),Mx2(λ)とから、蛍光試料701に対する第1および第2照明部704,706の照明光による全分光放射率係数Bx1(λ),Bx2(λ)を求める。その後、この全分光放射率係数Bx1(λ),Bx2(λ)を、以下の式(4)に示すように、予め波長毎に設定して記憶しておいた重み係数W(λ)(以降、重み係数のことを「重み」と表現する)を用いて線形結合することで合成分光放射率係数Bxc(λ)を求め、この合成分光放射率係数Bxc(λ)を、評価用照明光で照明された蛍光試料701の全分光放射率係数とする。
【0018】
Bxc(λ)=W(λ)・Bx1(λ)+(1−W(λ))・Bx2(λ)…(4)
ただし、前記重みW(λ)は、蛍光試料701に近似した励起・蛍光特性を有し、評価用照明光で照明された場合の全分光放射率係数Bs(λ)が既知である蛍光基準試料を用いて設定される。すなわち、重みW(λ)は、蛍光基準試料を第1および第2照明部704,706によって照明して測定した分光放射率係数B1(λ),B2(λ)を該重みW(λ)によって線形結合させて得られるW(λ)・B1(λ)+(1−W(λ))・B2(λ)の値が、前記既知の全分光放射率係数Bs(λ)と等しくなるように、波長毎に数値的に求められる(たとえば、特許文献1の図2参照)。
【0019】
この方法は、前述のGaertner−Grisserの測定方法による相対紫外強度の校正を、全分光放射率係数B(λ)をパラメータとして波長毎に数値的に行うことに相当する。したがって、全分光放射率係数B(λ)について校正されるので、これから算出される全ての色彩値に対しても校正がなされるという特徴がある。また、測定に際しての機械的可動部や、煩雑な紫外カットフィルタ606の挿入度の調節作業が不要になるなど、Gaertner−Grisserの測定方法の多くの欠点を解決することができる。しかしながら、いずれも蛍光基準試料やそれを用いた事前の校正作業を必要とし、校正後の光源変動による誤差が避けられないという欠点があった。また、前記蛍光基準試料における蛍光物質は有機材料から成り、劣化の関係で、月に1度程度で交換しなければならないという問題もある。
【0020】
そこで、このような問題を解決する他の従来技術として、本願発明者が提案した特許文献2が挙げられる。その特許文献2における最も有力な測定方法では、所定の二分光蛍光放射率係数(特許文献2では放射率係数は放射輝度率としている)で表される特定の二分光特性に近似の二分光特性を有する蛍光試料xを、共に可視域に強度を持ち、励起域と蛍光域との相対強度の異なる2つの照明光I1,I2によって照明して、全分光放射率係数Bx1(λ),Bx2(λ)を測定するとともに、前記照明光I1,I2の分光分布I1(μ),I2(μ)を測定する。さらに、照明光I1,I2および特定の評価用照明光Isによる蛍光分光放射率係数F1(λ),F2(λ)およびFs(λ)を、下記のように、測定された照明光I1,I2の分光分布I1(μ),I2(μ)と、予めデータとして与えられている評価用照明光Isの分光分布Is(μ)と、前記所定の二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)とを用いて、数値的に算出する。
【0021】
F1(λ)=∫F(μ,λ)・I1(μ)dμ/I1(λ) …(5)
F2(λ)=∫F(μ,λ)・I2(μ)dμ/I2(λ) …(6)
Fs(λ)=∫F(μ,λ)・Is(μ)dμ/Is(λ) …(7)
ここで、評価用照明光Isによる蛍光分光放射率係数Fs(λ)が、下式に示す照明光I1,I2による蛍光分光放射率係数F1(λ),F2(λ)の重み係数W(λ),1−W(λ)による重み付き線形結合で表されるように、前記重み係数W(λ),1−W(λ)を決定する。
【0022】
Fs(λ)=W(λ)・F1(λ)+(1−W(λ))・F2(λ) …(8)
そして、式(1)が示すように全分光放射率係数B(λ)は、蛍光分光放射率係数F(λ)と照明光の分光分布に依存しない反射分光放射率係数R(λ)との和であるので、前記式(8)で得られた同じ重み係数W(λ),1−W(λ)を、測定された全分光放射率係数Bx1(λ),Bx2(λ)にも適用でき、
Bxc(λ)=W(λ)・Bx1(λ)+(1−W(λ))・Bx2(λ)…(9) によって、特定の評価用照明光による全分光放射率係数Bxs(λ)に近似するBxc(λ)を求めることができる。なお、上記では、重み係数W(λ),1−W(λ)を、二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)を用いて求めた蛍光分光放射率係数F(λ)から決定したが、二分光放射率係数B(μ,λ)を用いて求めた全分光放射率係数B(λ)から決定することもできる。
【特許文献1】特開平8−313349号公報
【特許文献2】特開2006‐292510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
前記特許文献2の手法は、蛍光基準試料や、それを用いた校正作業を行うことなく、蛍光増白紙、或いは蛍光増白紙上の印刷試料の光学特性を測定することを可能にするが、Gaertner−Grisserの手法や、特許文献1の手法が、蛍光試料と蛍光基準試料との励起蛍光特性が近似していることを前提としているのと同様、試料の蛍光増白紙の二分光特性(以下では、二分光蛍光放射率係数F(μ,λ))が、算出に用いられる所定の二分光蛍光放射率係数に近似していることを前提としており、近似しない場合は、誤差が大きくなるという問題がある。しかしながら、前述のように、試料の二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)の測定は、二分光法測定器を要するために、一般には困難である。これに代わる実用的な手段として、予め保存された複数の代表的な二分光蛍光放射率係数の中から試料に近いものを選択する方法がある。しかし、選択をユーザに委ねることはユーザの負担を増し、また試料の二分光特性は一般には公開されていないので、誤選択による誤差の可能性を大きくする。
【0024】
本発明の目的は、ユーザに負担をかけることなく、高い精度で蛍光試料の光学特性を求めることができる蛍光試料の光学特性測定方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の蛍光試料の光学特性測定方法は、蛍光試料の光学特性を測定するための方法において、複数の二分光特性を予め記憶しておく工程と、分光分布の相互に異なる複数の励起光による前記蛍光試料の励起効率を測定する工程と、測定された各励起光による励起効率の相対比に基づいて、前記予め記憶されている複数の二分光特性の中から、前記蛍光試料の二分光特性に相対的に近似する二分光特性を選択する工程と、相対分光分布の相互に異なる第1および第2の照明光による前記蛍光試料の全分光放射率係数を測定する工程と、前記選択された二分光特性と、前記第1および第2の照明光の分光分布と、予め与えられている評価用照明光の分光分布とから、前記第1および第2の照明光と評価用照明光とによる前記蛍光試料の分光蛍光特性を数値的に算出する工程と、前記第1および第2の照明光による分光蛍光特性の重み付き線形結合が前記評価用照明光による分光蛍光特性に一致するように波長毎の重み係数を求める工程と、前記測定された第1および第2の照明光による全分光放射率係数を前記重み係数で線形結合して、前記蛍光試料の前記評価用照明光による全分光放射率係数を算出する工程とを含むことを特徴とする。
【0026】
また、本発明の蛍光試料の光学特性測定装置は、前記蛍光試料を分光分布の相互に異なる複数の励起光で照明する複数の励起光照明手段と、前記蛍光試料を分光分布の相互に異なる第1および第2の照明光で照明する第1および第2の照明手段と、前記複数の励起光または第1および第2の照明光で照明された蛍光試料からの放射光の分光分布と、前記複数の励起光または第1および第2の照明光の分光分布とを測定して出力する受光手段と、前記の工程に従って、前記複数の励起光照明手段、前記第1および第2の照明手段ならびに前記受光手段を制御し、前記受光手段の出力を処理して、前記蛍光試料の評価用照明光による全分光放射率係数を算出する制御処理手段とを含むことを特徴とする。
【0027】
上記の構成によれば、相対分光分布の相互に異なる第1および第2の照明光によって蛍光試料(蛍光増白試料および蛍光増白基材上の印刷試料など)の全分光放射率係数と、前記第1および第2の照明光の分光分布とを測定した後、前記測定された第1および第2の照明光の分光分布と予め与えられている評価用照明光の分光分布と、試料の二分光特性に近似する二分光特性とから、前記第1および第2の照明光と評価用照明光とによる前記蛍光試料の分光蛍光特性を数値的に算出し、前記第1および第2の照明光による分光蛍光特性の重み付き線形結合が前記評価用照明光による分光蛍光特性に一致するように波長毎の重み係数を求め、その重み係数で測定された前記第1および第2の照明光による全分光放射率係数を線形結合して、前記蛍光試料の前記評価用照明光による全分光放射率係数を算出することで、蛍光基準試料や煩雑な校正作業を不要にした蛍光試料の光学特性測定方法において、代表的な蛍光増白紙であるコート紙および通常紙などの典型的な二分光特性のような複数の二分光特性を予め記憶しておき、分光分布の相互に異なる複数の励起光によって前記蛍光試料を照明して、その励起効率を測定し、測定された各励起光による励起効率の相対比に基づいて、前記予め記憶されている複数の二分光特性の中から、前記蛍光試料の二分光特性に相対的に近似する二分光特性を自動選択して、試料の二分光蛍光放射率係数に近似する二分光蛍光放射率係数とする。
【0028】
したがって、蛍光試料の二分光蛍光放射率係数の選択についてユーザに負担をかけることなく、高い精度で蛍光試料の光学特性を求めることができる。
【0029】
さらにまた、本発明の蛍光試料の光学特性測定方法は、前記複数の二分光特性を予め記憶しておく工程では、前記コート紙と通常紙とのような代表的な蛍光試料の代表的な二分光蛍光放射率係数が記憶され、前記二分光特性の選択工程は、共に前記代表的な蛍光試料の励起域にあって、分光分布の相互に異なる複数の励起光で前記蛍光試料を照明する工程と、各励起光による前記蛍光試料からの放射光および励起光の分光分布をそれぞれ測定する工程と、前記蛍光試料からの放射光および励起光の分光分布から、各励起光による励起効率を求める工程と、前記各励起光による励起効率の相対比を求める工程と、求められた前記相対比を所定の閾値で弁別することで、前記蛍光試料のものに相対的に近似する二分光蛍光放射率係数を選択する工程とを備え、前記第1および第2の照明光と評価用照明光とによる分光蛍光特性を数値的に算出する工程では、蛍光分光放射率係数が算出されることを特徴とする。
【0030】
上記の構成によれば、誤選択のリスクを回避して、実用上充分な精度での測定が可能な二分光特性を与えることができる。
【0031】
また、本発明の蛍光試料の光学特性測定方法では、前記蛍光試料が、蛍光増白紙に印刷された印刷試料から成る場合、前記二分光特性を選択する工程では、前記蛍光増白紙の二分光特性に相対的に近似する二分光特性を選択し、さらに選択された二分光特性と、印刷されているインクの実効的な透過率とから、前記印刷試料の実効的な相対二分光特性を推定することを特徴とする。
【0032】
上記の構成によれば、ユーザに負担をかけることなく、蛍光増白紙に印刷された印刷試料の光学特性を実用上充分な高精度で測定することができる。
【0033】
さらにまた、本発明の蛍光試料の光学特性測定装置では、前記複数の励起光照明手段は、前記励起域に相互に異なる中心波長をもつ単色光の光源であることを特徴とする。
【0034】
上記の構成によれば、適切に中心波長を選択して、二分光特性を選択し易くすることができる。
【0035】
また、本発明の蛍光試料の光学特性測定装置では、前記複数の励起光照明手段は、2種のLEDであることを特徴とする。
【0036】
上記の構成によれば、充分な強度と安定性とをもつ単色の励起光照射手段を容易に低コストで実現できる。
【0037】
さらにまた、本発明の蛍光試料の光学特性測定装置では、前記2種のLEDは、紫LEDと、紫外LEDとであり、前記第1および第2の照明光が、前記2種のLEDと白色LEDとの出力光の相互に異なる組み合わせであることを特徴とする。
【0038】
上記の構成によれば、充分な強度と安定性とをもつ2つの励起光照射手段と、2つの照明手段とを容易に低コストで実現できる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の蛍光試料の光学特性測定方法および装置は、以上のように、相対分光分布の相互に異なる第1および第2の照明光によって蛍光試料の全分光放射率係数を測定した後、前記第1および第2の照明光の分光分布と予め与えられている評価用照明光の分光分布と、試料の二分光蛍光放射率係数に近似する二分光蛍光放射率係数とから、前記第1および第2の照明光と評価用照明光とによる前記蛍光試料の蛍光分光放射率係数を数値的に算出し、前記第1および第2の照明光による蛍光分光放射率係数の重み付き線形結合が前記評価用照明光による蛍光分光放射率係数に一致するように波長毎の重み係数を求め、その重み係数で前記測定された第1および第2の照明光による全分光放射率係数を線形結合して、前記蛍光試料の前記評価用照明光による全分光放射率係数を算出することで、蛍光基準試料や煩雑な校正作業を不要にした蛍光試料の光学特性測定方法において、代表的な蛍光増白紙であるコート紙および通常紙などの典型的な二分光蛍光放射率係数のような複数の二分光特性を予め記憶しておき、分光分布の相互に異なる複数の励起光によって前記蛍光試料を励起して、その励起効率を測定し、測定された各励起光による励起効率の相対比に基づいて、前記予め記憶されている複数の二分光蛍光放射率係数の中から、前記蛍光試料の二分光蛍光放射率係数に相対的に近似する二分光蛍光放射率係数を自動選択して、試料の二分光蛍光放射率係数に近似する二分光蛍光分光放射率係数とする。
【0040】
それゆえ、蛍光試料の二分光蛍光放射率係数の選択についてユーザに負担をかけることなく、高い精度で蛍光試料の光学特性を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
図1は、本発明の実施の一形態に係る光学特性測定装置10の一例を示す概略構成図である。この光学特性測定装置10は、被測定試料1の光学特性(白さ(白色度、ブライトネス)や色彩)を測定するものであり、第1照明部2、第2照明部3、第3照明部4、参照面部5、受光部6、2チャンネル分光部7および制御部8を備えて構成されている。
【0042】
前記被測定試料1は、蛍光増白剤によって蛍光増白された紙や繊維およびこれらを基材とする印刷面から成る測定対象となる試料であり、該光学特性測定装置10の所定の測定位置に配置される。第1照明部2は、被測定試料1を照明するものであり、光源としての白色LED21と、該白色LED21を点灯駆動する第1駆動回路22とを備えて構成される。第2照明部3は、前記第1照明部2と同様に、被測定試料1を照明するものであり、紫域の光束を出力する紫LED31と、該紫LED31を点灯駆動する第2駆動回路32とを備えて構成される。第3照明部4は、紫外域の光束を出力する光源(紫外光源)としての紫外LED41と、該紫外LED41を点灯駆動する第3駆動回路42とを備えて構成される。
【0043】
参照面部5は、白色拡散面から成る参照面(反射面)を有するものであり、被測定試料1の測定域の近傍に配設されている。受光部6(受光系)は、光学レンズまたはレンズ群から成り、第1、第2および第3照明部2,3,4からの照明光23,33,43によって照明された被測定試料1からの蛍光を含む放射光および参照面部5からの蛍光を含まない反射光の法線方向の成分を受光するとともに、該受光した光束を後述の2チャンネル分光部7へ向けて入射させるものである。
【0044】
前記2チャンネル分光部7は、受光部6からの入射光に対する分光測定を行うものであり、第1および第2入射スリット71,72を備えている。前記照明光23,33,43によって照明された被測定試料1からの放射光は、第1入射スリット71に入射する一方、これらの照明光23,33,43によって照明された参照面部5(参照面)からの反射光は、第2入射スリット72に入射する。2チャンネル分光部7は、第1入射スリット71に入射した試料放射光に対する分光測定を行い、第1チャンネル出力として当該試料放射光の分光分布データを出力するとともに、第2入射スリット72に入射した参照面反射光(参照光)、すなわち前記照明光23,33,43そのものに対する分光測定を行い、第2チャンネル出力として当該照明光23,33,43の分光分布データを出力する。このように、2チャンネル分光部7は、分光測定して出力する受光手段として機能する。
【0045】
制御部8は、各種制御プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)、演算処理や制御処理用のデータを格納するRAM(Random Access Memory)、および前記制御プログラム等をROMから読み出して実行するCPU(中央演算処理装置)等を備えて構成され、該光学特性測定装置10全体の動作制御を司るものである。具体的には、前記第1、第2および第3照明部2,3,4の点灯動作や、2チャンネル分光部7の受光・分光動作に関する駆動制御を行い、2チャンネル分光部7からの情報(分光情報)に基づいて、被測定試料1に対する全分光放射率係数の算出や二分光蛍光放射率係数の選択、印刷試料の実効的な相対二分光蛍光放射率係数の推定等に関する各種演算処理を実行する制御処理手段として機能する。制御部8のこれら各種演算機能等については後に詳述する。
【0046】
このような各部を備える光学特性測定装置10において、制御部8における後述のCPU80が、第1駆動回路22を介して(駆動させて)白色LED21を点灯させると、白色LED21は、被測定試料1を、該被測定試料1の法線に対して約45°の方向から(入射角度で)照明光(光束)23で照明する。同様に、CPU80が第2駆動回路32を介して紫LED31を点灯させると、紫LED31は、被測定試料1を、法線に対して約45°の方向から照明光(光束)33で照明する。一方、CPU80が第3駆動回路42を介して紫外LED41を点灯させると、紫外LED41は、被測定試料1を、上記45°よりも法線に近い方向から照明光(光束)43で照明する。図2に、これらの白色LED21、紫LED31および紫外LED41からの出力光の相対分光分布を示す。
【0047】
ここで、本実施形態において、第1および第2照明部2,3は第1の照明手段として機能し、それらを同時点灯させて合成した照明光23,33を第1の照明光I1とし、第1、第2および第3照明部2,3,4は第2の照明手段として機能し、それらを同時点灯させて合成した照明光23,33,43を第2の照明光I2とする。前記第1および第2の照明光I1,I2では、共に白色LED21および紫LED31を点灯させているので、図2に示すように可視域(400−700nm)をカバーし、それぞれ特許文献2における第1および第2の照明光に対応する。紫外LEDの照明光43を含む第2の照明光I2は、当該紫外LEDの照明光43を含まない第1の照明光I1に比べて、一般的な蛍光増白剤に高い励起強度を有する。
【0048】
これらの第1および第2の照明光I1,I2によって照明された被測定試料1からの放射光のうち、略法線方向の成分が受光部6によって2チャンネル分光部7の第1入射スリット71に入射して分光測定され、第1チャンネル出力としてその分光分布Sx1(λ)およびSx2(λ)が制御部8に出力される。一方、被測定試料1の測定域の近傍に配置された参照面部5が、被測定試料1の試料面と同時に前記第1および第2の照明光I1,I2によって照明され、この参照面部5からの反射光のうち、略法線方向の成分が受光部6によって2チャンネル分光部7の第2入射スリット72に入射して分光測定され、第2チャンネル出力としてその分光分布Mx1(λ)およびMx2(λ)が制御部8に出力される。
【0049】
なお、第2照明部3における紫LED31の中心波長は約410nm、第3照明部4における紫外LED41の中心波長は約375nmであり、共に一般的な蛍光増白剤の励起域にある。本発明の技術では、最も広い照明光23,33,43(第2の照明光I2)の分光分布を把握する必要性があるので、2チャンネル分光部7は、紫外LED31による放射光の波長域を含む約360nmから700nmの波長域をカバーする(この波長域の分光が可能である)。
【0050】
また、この光学特性測定装置10での光学系は、上述のような第1照明部2および第2照明部3と受光部6との組合わせ(配置)によって、45/0ジオメトリー(反射特性の測定ジオメトリー45°/0°)を構成している。このようなジオメトリーの目的は、被測定試料1からの正反射光の制御にあるが、可視域に分布をもたない第3照明部4による正反射光は測色に影響を与えることがないので、この第3照明部4は、ジオメトリーの制約を受けることなく任意に配置することができる。
【0051】
ここで、制御部8における各機能部の詳細について説明する。制御部8は、図1に示すように、CPU80、分光データメモリ81、評価用照明光データメモリ82、二分光データメモリ83および係数メモリ84等を備えている。CPU80は、前記第1、第2および第3照明部2,3,4、ならびに2チャンネル分光部7の駆動制御に関する演算、或いは被測定試料1に対する全分光放射率係数の算出や相対分光感度の校正に関する演算等の各種演算処理を行う上記中央演算処理装置(CPU)である。
【0052】
分光データメモリ81は、2チャンネル分光部7で分光測定され、該2チャンネル分光部7から送信されてきた被測定試料1の放射光、および参照面部5の反射光、すなわち照明光の分光分布データを記憶するものである。評価用照明光データメモリ82は、予め与えられた評価用照明光の分光分布データを記憶するものである。二分光データメモリ83は、複数の典型的な二分光蛍光放射率係数データを予め記憶するものである。
【0053】
係数メモリ84は、2チャンネル分光部7で測定された、参照面部5からの反射光(以降、参照面反射光という)の分光分布を、被測定試料1に対する照明光(以降、試料面照明光という)の分光分布に変換する変換係数、および被測定試料1からの放射光(以降、試料放射光という)と参照面反射光との分光分布から、被測定試料1の全分光放射率係数を求める校正係数等の係数データを記憶するものである。
【0054】
上述のように構成される光学特性測定装置10において、制御部8は、上記各メモリ81〜84に記憶された、放射光および照明光の分光分布データ、評価用照明光の分光分布データ、二分光蛍光放射率係数データ、ならびに変換係数および校正係数等のデータに基づいて、以下の各プロセスに関する測定制御(演算)を行う。
【0055】
先ず、被測定試料1の全分光放射率係数を測定する。詳しくは、図3に示す4つのプロセスで行われる。実際の試料測定に先立ち、ステップS1の白色校正によって、試料放射光と照明光との分光分布を被測定試料1の反射率係数に変換する校正係数が求められ、係数メモリ84に記憶される。次いで、ステップS2で、予め前記二分光データメモリ83に記憶されている2つの典型的な二分光蛍光放射率係数Fc(μ,λ),Fnc(μ,λ)の内、被測定試料1の二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)に相対的に近似するものが選択される。さらに、前記被測定試料1が蛍光増白基材への印刷試料の場合は、ステップS3で、印刷されたインクの透過率を考慮した実効的な相対二分光蛍光放射率係数Fe(μ,λ)が推定される。最後に、ステップS4で、選択された二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)、或いは推定された実効的な相対二分光蛍光放射率係数Fe(μ,λ)に基づいて、評価用照明光Isでの被測定試料1の全分光放射率係数Bxc(λ)が算出される。複数の被測定試料1を測定する場合は、ステップS5から、上記ステップS2〜S4が繰返される。ステップS1での白色校正と、ステップS3での印刷試料での実効的な相対二分光蛍光放射率係数Fe(μ,λ)の推定とについては、特許文献2で詳述されているので、ここでは触れない。
【0056】
前記ステップS2での二分光蛍光放射率係数の選択について、以下に説明する。図4に、複数の代表的な蛍光増白紙について、450nm(蛍光強度のピーク)の蛍光に対する分光励起効率と、紫LED31および紫外LED41の出力光の分光分布とを示す。450nmの蛍光に対する分光励起効率は、各蛍光波長の分光励起効率である二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)から抽出される。図4に示されているように、代表的な蛍光増白紙の分光励起効率は、短波長域で励起光が吸収されるために360nm以下の効率が極端に低いコート紙タイプ(B,E)と、360nm以下でも効率が維持される通常紙タイプ(A,C,D)とに大別できる。
【0057】
これらの蛍光増白紙を、紫LED31単体による第3の照明光I3(410nm)および紫外LED41単体による第4の照明光I4(375nm)で照明して測定された蛍光域の試料放射光の分光分布をSx3(λ),Sx4(λ)とし、同時に測定された参照面からの反射光の分光分布から求めた第3および第4の照明光I3,I4の分光分布をI3(μ),I4(μ)とすると、第3および第4の照明光I3,I4による励起効率Ex3,Ex4は、以下で求めることができる。前記のように紫LED31および紫外LED41は、単体動作するときは、励起光照明手段として機能する。
【0058】
Ex3=Sx3(450)dλ/∫I3(μ)dμ …(10)
Ex4=Sx4(450)dλ/∫I4(μ)dμ …(11)
上記式(10),(11)による励起効率Ex3,Ex4の相対比Rexは、
Rex=Ex3/Ex4 …(12)
であり、通常紙タイプが、コート紙タイプより明らかに小さくなる。
【0059】
したがって、適切な閾値で前記相対比Rexを弁別することで、被測定試料1がコート紙タイプか、通常紙タイプかを判別することができる。したがって、予めコート紙タイプと通常紙タイプとの代表的な二分光蛍光放射率係数Fc(μ,λ),Fnc(μ,λ)を二分光データメモリ83に記憶しておけば、CPU80は、上述の弁別を行って、被測定試料1のタイプに応じた二分光蛍光放射率係数を係数メモリ84から選択することができ、それを用いて実用上充分な精度での光学特性の測定が可能になる。
【0060】
図5は、光学特性測定装置10による上述のような被測定試料1に対する二分光蛍光放射率係数Fc(μ,λ),Fnc(μ,λ)の選択に関する動作の一例を示すフローチャートである。制御部8のCPU80は、測定開口に配設された前記被測定試料1に対し、ステップS20で、第2照明部3(紫LED31)単体を点灯させて、照明光33(第3の照明光I3)によって照明する。そして、ステップS21で、2チャンネル分光部7によって、照明光33による試料放射光の分光分布Sx3(λ)を測定するとともに、参照面反射光の分光分布を測定し、係数メモリ84に保存されている変換係数によって第3の照明光の分光分布I3(λ)に変換して分光データメモリ81に保存し、ステップS22で第2照明部3を消灯させる。
【0061】
続いて、CPU80は、ステップS23で、第3照明部4(紫外LED41)単体を点灯させて、照明光43(第4の照明光I4)によって被測定試料1を照明し、ステップS24で、ステップS21と同様に、2チャンネル分光部7によって、照明光43による試料放射光の分光分布Sx4(λ)を測定するとともに、参照面反射光の分光分布を測定し、第4の照明光の分光分布I4(λ)に変換して、分光データメモリ81に保存し、ステップS25で第3照明部4を消灯させる。
【0062】
次に、CPU80は、上記ステップS21,S24において保存された分光分布I3(λ),I4(λ)と、分光分布Sx3(λ),Sx4(λ)とから、ステップS26で、前記式(10),(11)によって、第3および第4の照明光I3,I4による励起効率Ex3,Ex4を求め、ステップS27で、前記式(12)によってそれらの相対比Rexを求める。続いて、ステップS28で、求められた相対比Rexと予め設定された閾値Rthとを比較し、前記二分光データメモリ83に予め保存されているコート紙タイプと通常紙タイプとの代表的な二分光蛍光放射率係数Fc(μ,λ),Fnc(μ,λ)から、前記閾値Rthより大きい場合はステップS29でコート紙タイプの蛍光分光放射率係数Fc(μ,λ)を選択し、閾値Rthより小さい場合はステップS30で通常紙タイプの蛍光分光放射率係数Fnc(μ,λ)を選択して処理を終了する。
【0063】
こうして、コート紙タイプと通常紙タイプとの何れであるかの選択が終了すると、制御部8のCPU80は、以下で示すようにして、被測定試料1の評価用照明光による全分光放射率係数Bxcの算出を行う。図6は、その全分光放射率係数の測定に関する動作の一例を示すフローチャートであり、前述の図3におけるステップS4を詳細に示すものである。先ず、測定に先立って、CPU80は、ステップS40で評価用照明光Isを選択する。具体的には、CPU80は、評価用照明光データメモリ82から、選択する評価用照明光Isの分光分布データIs(λ)(すなわち分光分布Is(μ))を読み出す。続いて、ステップS41で、測定開口に配設された被測定試料1に対し、第1照明部2(白色LED21)と第2照明部3(紫LED31)とを点灯させて、第1の照明光I1によって照明する。そして、ステップS42で、2チャンネル分光部7によって、当該第1の照明光I1による試料放射光の分光分布Sx1(λ)を測定するとともに、参照面反射光の分光分布を測定し、係数メモリ84に保存されている変換係数によって、第1の照明光I1の分光分布I1(λ)に変換して分光データメモリ81に保存する。
【0064】
続いて、CPU80は、前記ステップS42での第1照明部2と第2照明部3との点灯を維持させた状態で、ステップS43で、第3照明部4(紫外LED41)を点灯させて、第1、第2および第3照明部2,3,4による第2の照明光I2によって被測定試料1を照明し、ステップS42と同様にステップS44で、2チャンネル分光部7によって、当該第2の照明光I2による試料放射光の分光分布Sx2(λ)を測定するとともに、参照面反射光の分光分布を測定し、第2の照明光I2の分光分布I2(λ)に変換して、分光データメモリ81に保存する。その後、ステップS45で、第1、第2および第3照明部2,3,4を消灯する。
【0065】
次に、CPU80は、上記ステップS42,S44において保存された分光分布I1(λ),I2(λ)と、分光分布Sx1(λ),Sx2(λ)とから、ステップS46で、係数メモリ84に保存されている校正係数K(λ)を用い、下記の式(13),(14)によって、照明光I1,I2による全分光放射率係数Bx1(λ),Bx2(λ)を算出する。
【0066】
Bx1(λ)=K(λ)・Sx1(λ)/I1(λ) …(13)
Bx2(λ)=K(λ)・Sx2(λ)/I2(λ) …(14)
続いて、上記ステップS40において読み出した分光分布データIs(μ)とステップS42,S44において保存された分光分布I1(λ),I2(λ)と、ステップS2で選択された二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)、或いはステップS3で前記選択された二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)に基づいて推定された実効的な相対二分光蛍光放射率係数Fe(μ,λ)とから、ステップS47で、式(5),(6),(7)によって、第1および第2の照明光I1,I2による蛍光分光放射率係数F1(λ),F2(λ)ならびに評価用照明光Isによる蛍光分光放射率係数Fs(λ)を算出する。
【0067】
次に、ステップS48で、当該算出した蛍光分光放射率係数F1(λ),F2(λ),Fs(λ)に基づき、式(8)を波長毎に解くことで、重みW(λ)を求める。そして、ステップS46で算出された全分光放射率係数Bx1(λ),Bx2(λ)と、前記ステップS48において算出した重みW(λ)とから、ステップS49で、式(9)によって評価用照明光Isによる全分光放射率係数に近似するBxc(λ)を算出する。
【0068】
このように構成することで、相対分光分布の相互に異なる第1および第2の照明光I1,I2によって、蛍光増白試料および蛍光増白基材上の印刷試料などの被測定試料1の評価用照明光Isによる光学特性(全分光放射率係数Bxc(λ))を求めるにあたって、代表的な蛍光増白紙であるコート紙と通常紙との典型的な二分光蛍光放射率係数Fc(μ,λ),Fnc(μ,λ)を二分光データメモリ83に予め記憶しておき、分光分布の相互に異なる複数の励起光(第3および第4の照明光I3,I4)によって前記被測定試料1を照明して、その励起効率Ex3,Ex4を測定し、それらの励起効率Ex3,Ex4の相対比Rexに基づいて、前記予め記憶されている複数の二分光蛍光放射率係数Fc(μ,λ),Fnc(μ,λ)の中から、前記被測定試料1の二分光特性に相対的に近似する二分光蛍光放射率係数を自動選択し、選択された二分光蛍光放射率係数を用いて前記全分光放射率係数Bxc(λ)を求めるので、蛍光基準試料や煩雑な校正作業を不要にすることができるとともに、被測定試料1の二分光蛍光放射率係数の選択についてユーザに負担をかけることなく、高い精度で被測定試料1の光学特性(全分光放射率係数Bxc(λ))を求めることができる。
【0069】
また、選択される二分光蛍光放射率係数としては、前記コート紙と通常紙との二分光蛍光放射率係数Fc(μ,λ),Fnc(μ,λ)であり、それを選択する工程は、共にそれらの励起域にあって、分光分布の相互に異なる第3および第4の照明光I3,I4で前記被測定試料1および参照面部5を照明する工程(ステップS20,S22;S23、S25)と、各照明光I3,I4による前記被測定試料1および参照面部5からの放射光および反射光の分光分布をそれぞれ測定する工程(ステップS21,S24)と、前記被測定試料1および参照面部5からの放射光および反射光の分光分布Sx3(λ),Sx4(λ);I3(λ),I4(λ)から、各照明光I3,I4による励起効率Ex3,Ex4を求める工程(ステップS26)と、前記各照明光I3,I4による励起効率Ex3,Ex4の相対比Rexを求める工程(ステップS27)と、求められた前記相対比Rexを所定の閾値Rthで弁別することで、前記被測定試料1のものに相対的に近似する二分光蛍光放射率係数Fc(μ,λ)またはFnc(μ,λ)を選択する工程(ステップS28〜s30)とを行うので、誤選択のリスクを回避して、実用上充分な精度での測定が可能な二分光蛍光放射率係数を与えることができる。
【0070】
さらにまた、前記被測定試料1が、蛍光増白紙に印刷された印刷試料から成る場合、前記二分光蛍光放射率係数F(μ,λ)を選択する工程(ステップS2)では、印刷されていない蛍光増白紙の前記各照明光I3,I4による励起効率を求め、上述と同様に前記蛍光増白紙の二分光蛍光放射率係数に相対的に近似する二分光蛍光放射率係数Fc(μ,λ),Fnc(μ,λ)を選択し、さらに選択された二分光蛍光放射率係数と、印刷されているインクの実効的な透過率とから、前記被測定試料1の実効的な二分光蛍光放射率係数Fe(μ,λ)を推定する(ステップS3)ので、ユーザに負担をかけることなく、蛍光増白紙に印刷された印刷試料の全分光放射率係数Bxc(λ)を実用上充分な高精度で測定することができる。
【0071】
また、複数の励起光照明手段であるLED31,41は、励起域に相互に異なる中心波長をもつ単色光の光源であるので、適切に中心波長を選択して、二分光蛍光放射率係数Fc(μ,λ),Fnc(μ,λ)を選択し易くすることができる。
【0072】
さらにまた、複数の励起光照明手段は、2種の前記LED31,41であることで、充分な強度と安定性とをもつ単色の励起光照射手段を容易に低コストで実現できる。
【0073】
また、前記2種のLED31,41を、紫LED31と、紫外LED41とし、前記第1および第2の照明光I1,I2を、前記2種のLED31,41と白色LED21との出力光の相互に異なる組み合わせで実現することで、充分な強度と安定性とをもつ2つの励起光照射手段と、2つの照明手段とを容易に低コストで実現できる。
【0074】
上述の説明では、第1の照明光I1として第1および第2照明部2,3を同時点灯させ、第2の照明光I2として第1、第2および第3照明部2,3,4を同時点灯させて得ているけれども、第1、第2および第3照明部2,3,4をそれぞれ単独で点灯させて、各照明光(白色LED21単体による照明光を第5の照明光I5とする)の分光分布I5(λ),I3(λ),I4(λ)と、各照明光I5,I3,I4による試料面放射光の分光分布Sx5(λ),Sx3(λ),Sx4(λ)とを上記と同様に求め、これらを数値的に合成して、下式のように、第1の照明光I1および第2の照明光I2の分光分布I1(λ),I2(λ)と、各照明光I1,I2による試料面放射光の分光分布Sx1(λ),Sx2(λ)とを求めてもよい。
【0075】
I1(λ)=I5(λ)+I3(λ) …(15)
I2(λ)=I5(λ)+I3(λ)+I4(λ) …(16)
Sx1(λ)=Sx5(λ)+Sx3(λ) …(17)
Sx1(λ)=Sx5(λ)+Sx3(λ)+Sx4(λ) …(18)
この場合の図3のステップS4における詳細なフローチャートを図7に示す。図6と同様に、測定に先立って、CPU80は、ステップS40で評価用照明光Isを選択する。次に、ステップS51で、測定開口に配設された被測定試料1に対し、上述のように第1照明部2(白色LED21)のみを点灯させて、第5の照明光I5によって照明する。そして、ステップS52で、2チャンネル分光部7によって、当該第5の照明光I5による試料放射光の分光分布Sx5(λ)を測定するとともに、参照面反射光の分光分布を測定し、係数メモリ84に保存されている変換係数によって、第5の照明光I5の分光分布I5(λ)に変換して分光データメモリ81に保存する。
【0076】
続いて、CPU80は、ステップS53で、第1照明部2(白色LED21)を消灯させた後、求められた分光分布Sx5(λ),I5(λ)ならびにステップS21,S24で求められた分光分布Sx3(λ),I3(λ)およびSx4(λ),I4(λ)から、ステップS54,S55において、上記式(15)〜(18)を用いて、分光分布Sx1(λ),I1(λ)およびSx2(λ),I2(λ)を求める。以降は、前記図6のステップS46〜S49を同様に行う。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施の一形態に係る光学特性測定装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】白色LED、紫LED、紫外LEDの分光分布を示すグラフである。
【図3】本発明の光学特性測定装置による蛍光試料の全分光放射率係数の測定処理の全体を示すフローチャートである。
【図4】代表的な蛍光増白紙の450nm蛍光に対する分光励起効率を示すグラフである。
【図5】前記全分光放射率係数の測定にあたって行われる本発明に係る蛍光試料の二分光蛍光放射率係数の選択処理のフローチャートである。
【図6】前記全分光放射率係数の測定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図7】前記全分光放射率係数の他の測定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図8】二分光蛍光放射率係数の強度マトリクスの一例を示すグラフである。
【図9】従来の光学特性測定装置の一例を示す概略構成図である。
【図10】従来の光学特性測定装置の他の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0078】
1 被測定試料(蛍光試料、試料)
2 第1照明部
21 白色LED
22 第1駆動回路
3 第2照明部
31 紫LED
32 第2駆動回路
4 第3照明部
41 紫外LED
42 第3駆動回路
5 参照面部
6 受光部
7 2チャンネル分光部(放射光分光手段、照明光分光手段)
71 第1入射スリット
72 第2入射スリット
8 制御部(演算制御手段)
80 CPU
81 分光データメモリ
82 評価用照明光データメモリ(記憶手段)
83 二分光データメモリ(記憶手段)
84 係数メモリ(記憶手段)
10 光学特性測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光試料の光学特性を測定するための方法において、
複数の二分光特性を予め記憶しておく工程と、
分光分布の相互に異なる複数の励起光による前記蛍光試料の励起効率を測定する工程と、
測定された各励起光による励起効率の相対比に基づいて、前記予め記憶されている複数の二分光特性の中から、前記蛍光試料の二分光特性に相対的に近似する二分光特性を選択する工程と、
相対分光分布の相互に異なる第1および第2の照明光による前記蛍光試料の全分光放射率係数を測定する工程と、
前記選択された二分光特性と、前記第1および第2の照明光の分光分布と、予め与えられている評価用照明光の分光分布とから、前記第1および第2の照明光と評価用照明光とによる前記蛍光試料の分光蛍光特性を数値的に算出する工程と、
前記第1および第2の照明光による分光蛍光特性の重み付き線形結合が前記評価用照明光による分光蛍光特性に一致するように波長毎の重み係数を求める工程と、
前記測定された第1および第2の照明光による全分光放射率係数を前記重み係数で線形結合して、前記蛍光試料の前記評価用照明光による全分光放射率係数を算出する工程とを含むことを特徴とする蛍光試料の光学特性測定方法。
【請求項2】
前記複数の二分光特性を予め記憶しておく工程では、代表的な蛍光試料における二分光蛍光放射率係数が記憶され、
前記二分光特性の選択工程は、
共に前記代表的な蛍光試料の励起域にあって、分光分布の相互に異なる複数の励起光で前記蛍光試料を照明する工程と、
各励起光による前記蛍光試料の放射光および励起光の分光分布をそれぞれ測定する工程と、
前記蛍光試料の放射光および励起光の分光分布から、各励起光による励起効率を求める工程と、
前記各励起光による励起効率の相対比を求める工程と、
求められた前記相対比を所定の閾値で弁別することで、前記蛍光試料のものに相対的に近似する二分光蛍光放射率係数を選択する工程とを備え、
前記第1および第2の照明光と前記評価用照明光とによる分光蛍光特性を数値的に算出する工程では、蛍光分光放射率係数が算出されることを特徴とする請求項1記載の蛍光試料の光学特性測定方法。
【請求項3】
前記蛍光試料が、蛍光増白紙に印刷された印刷試料から成る場合、前記二分光特性を選択する工程では、前記蛍光増白紙の二分光特性に相対的に近似する二分光特性を選択し、さらに選択された二分光特性と、印刷されているインクの実効的な透過率とから、前記印刷試料の実効的な相対二分光特性を推定することを特徴とする請求項1または2記載の蛍光試料の光学特性測定方法。
【請求項4】
前記蛍光試料を分光分布の相互に異なる複数の励起光で照明する複数の励起光照明手段と、
前記蛍光試料を分光分布の相互に異なる第1および第2の照明光で照明する第1および第2の照明手段と、
前記複数の励起光または第1および第2の照明光で照明された蛍光試料からの放射光の分光分布と、前記複数の励起光または第1および第2の照明光の分光分布とを測定して出力する受光手段と、
前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の工程に従って、前記複数の励起光照明手段、前記第1および第2の照明手段ならびに前記受光手段を制御し、前記受光手段の出力を処理して、前記蛍光試料の評価用照明光による全分光放射率係数を算出する制御処理手段とを含むことを特徴とする蛍光試料の光学特性測定装置。
【請求項5】
前記複数の励起光照明手段は、前記励起域に相互に異なる中心波長をもつ単色光の光源であることを特徴とする請求項4記載の蛍光試料の光学特性測定装置。
【請求項6】
前記複数の励起光照明手段は、2種のLEDであることを特徴とする請求項5記載の蛍光試料の光学特性測定装置。
【請求項7】
前記2種のLEDは、紫LEDと、紫外LEDとであり、前記第1および第2の照明光が、前記2種のLEDと白色LEDとの出力光の相互に異なる組み合わせであることを特徴とする請求項6記載の蛍光試料の光学特性測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−236486(P2009−236486A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78868(P2008−78868)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(303050160)コニカミノルタセンシング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】