説明

蛍光顔料の製造方法、蛍光顔料、インク及び塗料

【課題】ホルムアルデヒドフリーで、一次粒子の平均粒径が2μm以下で粒度分布幅が狭く、蛍光染料濃度が高く、鮮明性に優れた蛍光顔料、その製造方法、該蛍光顔料を着色剤として含有するインク及び塗料を提供すること。
【解決手段】シアノ基及び親水基含有の蛍光染料で染着されたビニル共重合体(A)粒子の水分散体の製造工程、
ビニル共重合体(A)粒子の水分散体に、シアノ基含有ビニルモノマーを80質量%以上含有するビニルモノマーを滴下、重合し、シード重合体(B)粒子の水分散体の製造工程、
シード重合体(B)粒子の水分散体に蛍光染料をアニオン界面活性剤の存在下で添加し、分散混合して該シード重合体(B)粒子の染着工程、
該染着されたシード重合体(B)粒子を水分散体から分離する工程、
を有する蛍光顔料の製造方法、該製造方法で得られた蛍光顔料、該蛍光顔料を着色剤として含有するインク及び塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用、グラビア印刷用、インクジェット用等の各種インクや塗料等の着色剤として好適な、鮮明性に優れ、ホルムアルデヒドフリーの安全性の高い蛍光顔料の製造方法、その方法により得られた蛍光顔料並びに該蛍光顔料を含有するインク及び塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基体樹脂として環状アミノトリアジン化合物と芳香族モノスルホアミド化合物のホルムアルデヒド共縮合物を使用して、これを蛍光染料で染着して蛍光顔料を製造する方法が代表的な方法として知られていた(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、この方法は、着色樹脂を機械的粉砕により顔料粒子を製造しているので、平均粒径が大きく、粒度分布幅の狭い微粒子を製造することが困難であり、また環境安全上有害物質とされているホルムアルデヒドを含んでいる課題があった。
【0004】
そこで、これら課題を解消した方法として、例えば、水中にて染料を溶解させたビニルモノマーを重合させ、得られた着色樹脂微粉末を濾過分離する顔料の製造方法が開発されている(特許文献2)。
【0005】
この方法は、ホルムアルデヒドフリーで、小さい粒径の顔料微粒子を製造することが可能であるが、染料濃度が低く、充分な鮮明性のある顔料とは言えなかった。
【特許文献1】米国特許第2809954号明細書
【特許文献2】特公昭57−23682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記課題を解決するために、ホルムアルデヒドフリーで、また一次粒子の平均粒径が2μm以下で粒度分布幅が狭く、更に蛍光染料濃度が高く、鮮明性に優れた蛍光顔料の製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、上記蛍光顔料の製造方法で得られた蛍光顔料、該蛍光顔料を着色剤として含有するインク及び塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を行なった結果、以下の製造方法により上記課題を達成できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
本発明に従って、
(I)シアノ基及び親水基含有の蛍光染料で染着されたビニル共重合体(A)粒子の水分散体を製造する工程、
(II)該ビニル共重合体(A)粒子の水分散体に、シアノ基含有ビニルモノマーを80質量%以上含有するビニルモノマーを滴下し、重合させることによりシード重合体(B)粒子の水分散体を製造する工程、
(III)該シード重合体(B)粒子の水分散体に蛍光染料をアニオン界面活性剤の存在下で添加し、分散混合して該シード重合体(B)粒子を染着する工程、
(IV)該染着されたシード重合体(B)粒子を水分散体から分離する工程、
を有することを特徴とする蛍光顔料の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明に従って、上記蛍光顔料の製造方法で得られた蛍光顔料、並びに該蛍光顔料を着色剤として含有するインク及び塗料が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法により、蛍光染料濃度が高く、鮮明性に優れ、一次粒子の平均粒径が2μm以下で粒度分布幅が狭く、ホルムアルデヒドフリーの安全性の高い蛍光顔料が得られるので、インク用や塗料用の着色剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の蛍光顔料の製造方法は、主に以下の4工程からなる。
【0014】
<工程(I)>
工程(I)は、シアノ基及び親水基含有の蛍光染料で染着されたビニル共重合体(A)粒子の水分散体を製造する工程である。
【0015】
この工程では、例えば水中に蛍光染料を溶解又は分散し、これにシアノ基含有モノマー及び親水基含有モノマーを含有するビニルモノマーの混合物を滴下、撹拌した後、又は撹拌しながら常法に従って重合し、シアノ基及び親水基含有の蛍光染料で染着されたビニル共重合体(A)粒子の水分散体を製造する。
【0016】
前記ビニルモノマー混合物は、シアノ基含有モノマー、親水基含有モノマー及びその他ビニルモノマーからなる混合物が挙げられる。
【0017】
前記シアノ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリルやシアン化ビニリデン等が代表的なものとして挙げられる。シアノ基含有モノマーをビニル共重合体(A)の構成成分とすることにより、蛍光顔料の耐光堅牢度を上げ、また蛍光染料を会合させることなく均一に分散染着させる極性基としての効果を有し、更に耐溶剤性、軟化点の向上効果も有する。シアノ基含有モノマーの量は、ビニル共重合体(A)の全構成モノマー中、10〜50質量%が好ましく、より好ましくは20〜40質量%が適当である。シアノ基含有モノマーの量が前記量より少なくなると前記効果が得難くなり、逆に過剰となるとビニル共重合体(A)粒子が粗くなる傾向にあり、印刷特性等に悪影響を及ぼし易くなる。
【0018】
前記親水基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有ビニルモノマー、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー等が代表的なものとして挙げられる。親水基含有モノマーをビニル共重合体(A)の構成成分とすることにより、蛍光染料の染着性を向上させる効果があり、発色性が良くなる。親水基含有モノマーの量は、ビニル共重合体(A)の全構成モノマー中、3〜15質量%が好ましく、より好ましくは5〜10質量%が適当である。親水基含有モノマーの量が前記量より少なくなると前記効果が得難くなり、逆に過剰となるとビニル共重合体(A)粒子同士が融着し易くなる傾向にあり、印刷特性等に悪影響を及ぼし易くなる。
【0019】
残りのビニル共重合体(A)の構成成分となる前記その他ビニルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系モノマー、グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有モノマー、酢酸ビニル等が代表的なものとして挙げられる。更に、ジビニルベンゼン、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の二重結合を2個以上有する架橋構造含有ビニルモノマーも挙げられる。なお、架橋構造含有ビニルモノマーは、ビニル共重合体(A)の全構成モノマー中、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは2〜5質量%混合するのが耐溶剤性や軟化点が向上するので好適である。
【0020】
前記蛍光染料としては、カラーインデックスナンバー(C・I)で挙げると、例えば、
BASIC YELLOW 1、BASIC YELLOW 40、
BASIC RED 1:1、BASIC RED 13、
BASIC VIOLET 11:1、
BASIC VIOLET 7、BASIC VIOLET 10、
BASIC ORANGE 22、
BASIC BLUE 7、
BASIC GREEN 1、
ACID YELLOW 3、ACID YELLOW 7、
ACID RED 52、ACID RED 77、ACID RED 92、
ACID BLUE 9、
DISPERSE YELLOW 82、
DISPERSE ORANGE 11、
DISPERSE RED 58、
DISPERSE BLUE 7、
DIRECT YELLOW 85、
DIRECT ORANGE 8、
DIRECT RED 9、
DIRECT BLUE 22、
DIRECT GREEN 6、
FLUORESCENT BRIGTHING AGENT 55、
FLUORESCENT BRIGTHING WHITEX WS 52、
FLUORESCENT 162、FLUORESCENT 112、
SOLVENT YELLOW 44、SOLVENT YELLOW 116、
SOLVENT RED 49、
SOLVENT BLUE 5、
SOLVENT GREEN 7、
PIGMENT YELLOW 1、
PIGMENT BLUE 15、
PIGMENT GREEN 7、
PIGMENT RED 53、PIGMENT RED 57、
FBA 184
等が代表的なものとして挙げられる。なお、これら蛍光染料は、蛍光性のない通常の他の染料を鮮明性に影響を与えない程度に併用して使用することも可能である。
【0021】
蛍光染料は、前記ビニルモノマー混合物に対して、0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%使用するのが適当である。
【0022】
ビニル共重合体(A)粒子の水分散体は、代表的には、前記ビニルモノマーを混合し、これに染料を溶解又は分散させた水中に滴下、撹拌した後、又は撹拌しながら常法に従って重合し、シアノ基及び親水基含有の蛍光染料で染着されたビニル共重合体(A)粒子の水分散体を製造する。なお、水は、前記ビニルモノマー混合物を滴下する前に、温度40〜60℃に加温しておくのが好ましく、その後、アラビアガム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等の分散剤や、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシルエチレン誘導体、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等の乳化剤を、それぞれ好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.3〜2質量%添加、分散しておく。
【0023】
また、ビニルモノマー混合物を水中に滴下する際、又は滴下後、水中に硫酸銅、硫酸亜鉛等のラジカル調整剤及び過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム等の重合開始剤を添加する。その量は、前記ビニルモノマー混合物100質量部に対し、ラジカル調整剤は0.01〜1.0質量部、重合開始剤は1〜10質量部が適当である。
【0024】
なお、蛍光染料は、前述のように水中に溶解又は分散させず、ビニルモノマー混合物中に予め溶解若しくは分散させておいてもよい。
【0025】
このようにしてシアノ基及び親水基含有の蛍光染料で染着されたビニル共重合体(A)粒子の水分散体を製造する。
【0026】
<工程(II)>
工程(II)は、前記ビニル共重合体(A)粒子の水分散体に、シアノ基含有ビニルモノマーを80質量%以上含有するビニルモノマー(以下、場合により「シアノ基含有ビニルモノマーを主成分とするビニルモノマー」とも言う。)を滴下し、重合し、蛍光染料で染着されたビニル共重合体(A)を内包するシード重合体(B)粒子の水分散体を製造する工程である。この工程は、後述する水分散体から蛍光顔料を分離する際の濾過性や耐溶剤性等を向上させるためにも重要である。なお、シアノ基含有ビニルモノマーを主成分とするビニルモノマーは、シアノ基含有ビニルモノマーが100質量%であってもよい。
【0027】
前記シアノ基含有ビニルモノマーとしては、前記ビニル共重合体(A)を製造する際に使用されるものと同様なモノマーが挙げられる。また、残部ビニルモノマーとしては前記ビニル共重合体(A)を製造する際に使用されるものと同様なモノマーが挙げられるが、その量は20質量%以下、好ましくは10質量%未満が適当である。
【0028】
シード重合体(B)粒子を製造する方法は、例えば、蛍光染料で染着されたビニル共重合体(A)粒子の水分散体を好ましくは40〜70℃、より好ましくは50〜60℃に加温し、その中にシアノ基含有ビニルモノマーを主成分とするビニルモノマーを系の状態を急激に変化させない程度の速さで滴下後、シアノ基含有ビニルモノマーを主成分とするビニルモノマーがビニル共重合体(A)粒子の表面を均一に覆うように好ましくは30分間以上、より好ましくは60分間程度撹拌する。撹拌後に前述と同様な重合開始剤を投入し、重合反応を行う。反応の終点判別は不揮発分を測定し、理論値の97%以上をもって終点とする。
【0029】
なお、シアノ基含有ビニルモノマーを主成分とするビニルモノマーは、ビニル共重合体(A)とシアノ基含有ビニルモノマーを主成分とするビニルモノマーの質量割合が、好ましくは100:10〜100:20、より好ましくは100:12〜100:18となる量を滴下するのが適当である。シアノ基含有ビニルモノマーを主成分とするビニルモノマーの量が前記範囲より少ないと濾過性、耐溶剤性、軟化点の向上が左程なく、逆に過剰となると後述する工程(III)における蛍光染料の染着性に悪影響を及ぼす傾向にある。
【0030】
<工程(III)>
工程(III)は、蛍光染料で染着されたビニル共重合体(A)を内包するシード重合体(B)粒子に、更に蛍光染料を染着し、顔料中の蛍光染料の濃度を高くし、鮮明性を向上させる工程である。
【0031】
なお、本発明者らは、シード重合体(B)粒子に、各種方法で蛍光染料を染着することを試みたが、染着性が悪く、良い結果が得られなかったが、後述するアニオン界面活性剤の存在下で染着すれば、染着性が非常に良くなることを見出した。
【0032】
アニオン界面活性剤と併用すれば染着性が良くなる理由については未だ解明されていないが、本発明者らはアニオン界面活性剤と蛍光染料が染料コンプレックスを生成し、疎水化した染料コンプレックスがシアノ基により引付けられ、シード重合体(B)粒子表面に移行するためと考えている。
【0033】
蛍光染料としては、前述の蛍光染料が使用可能であるが、特に水親和性のある蛍光染料が安定性の観点から好適である。
【0034】
前記アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩型、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩型、ドデシルベンゼンスルホン酸塩型、アルキルナフタレンスルホン酸塩型、ジアルキルスルホコハク酸塩型、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩型等が代表的なものとして挙げられる。特に、本発明においては、スルホコハク酸塩型アニオン界面活性剤が好ましく、なかでもジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸塩型等のジアルキルスルホコハク酸塩型アニオン界面活性剤が染着性に優れているので好適である。
【0035】
なお、前記シード重合体(B)粒子と蛍光染料とアニオン界面活性剤の質量割合は、100:2〜8:2〜10が好ましく、特に好ましくは100:3〜6:4〜8が適当である。蛍光染料の量は、前記範囲より多くしても染着性の向上は見込めず、一方、アニオン界面活性剤の量は、染料コンプレックスを生成するためのものなので蛍光染料の量に依存し、過剰になると濾過性に悪影響を及ぼす。
【0036】
工程(III)では、前記シード重合体(B)粒子の水分散体中に、蛍光染料をアニオン界面活性剤と共に添加し、分散混合して前記シード重合体(B)粒子を蛍光染料で染着する。この時の分散混合は、50〜90℃の温度下で行われることが、染着性の観点から好ましい。
【0037】
<工程(IV)>
工程(IV)は、工程(III)得られた、顔料となる蛍光染料で染着されたシード重合体(B)粒子を水分散体中から分離する工程である。
【0038】
分離方法としては特に制限ないが、通常の工業的濾過装置にて容易に分別可能で、濾別後、熱風乾燥機等により乾燥することにより一次粒子の平均粒径が0.1〜1.5μmの蛍光顔料が得られる。なお、分離方法として、噴霧乾燥等の他の方法も可能であることは言うまでもない。
【0039】
このようにして得られた本発明の蛍光顔料は、従来の機械的粉砕法と違い微粒で、粒度分布幅が狭く、また、前述の通り、鮮明性に優れ、且つホルムアルデヒドフリーであるので、各種インクや塗料の着色剤として好適に利用できる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例にて更に詳細に説明する。なお、実施例中「部」、「%」は、特に断らない限り質量基準で示す。
【0041】
(実施例1)
冷却装置、温度制御装置、モノマー滴下用ポンプ及び撹拌装置を取り付けた反応容器を、温水槽にセットした。次に、この反応容器中に、アラビアガム[今中LTD(株)製“GUM ALABIC AP−200”]1.9部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム[花王(株)製“ラテムルE−118B”]1.65部、BASIC VIOLET 11:1 0.57部、BASIC RED 1:1 0.56部及び水271部を仕込み、撹拌下に昇温し、内温を50℃に保った。
【0042】
一方、メタクリル酸メチル67.2部、アクリロニトリル35.2部、ヒドロキシプロピルメタクリレート6.9部及びトリメチロールプロパントリアクリレート3.8部を混合し、この混合液を、撹拌下で反応容器に12分間かけて滴下した。滴下終了後90分間撹拌し、ラジカル調整剤である0.5%硫酸銅水溶液を1部加えた後に重合開始剤である過硫酸カリウム1部、亜硫酸水素ナトリウム1部を二回に分けて投入し60分間反応させた。更にその後、不揮発分を測定し、理論値の97%以上になるまで重合開始剤をそれぞれ0.5部ずつ追加しながら30分間重合させ、ビニル共重合体(A)粒子の水分散体を製造した[工程(I)]。
【0043】
次に、該ビニル共重合体(A)粒子の水分散体394.28部に、アクリロニトリル18.4部を50℃で12分間かけて滴下し、滴下後60分間撹拌した。次いで、撹拌下で過硫酸カリウム0.25部、亜硫酸水素ナトリウム0.25部を投入し、不揮発分を測定し、理論値の97%以上になっていることを確認するまで重合し、シード重合体(B)粒子の水分散体を製造した。工程(II)の重合時のビニル共重合体(A)とシアノ基含有ビニルモノマーを80質量%以上含有するビニルモノマー(本例ではアクリトニトリル)との質量割合は100:16である[工程(II)]。
【0044】
次に、該シード重合体(B)粒子の水分散体413.18部にジアルキルスルホコハク酸塩型アニオン界面活性剤[花王(株)製“ペレックスTR”]9.4部を加え40分間撹拌した後、BASIC VIOLET 11:1 3.32部、BASIC RED 1:1 3.25部を水150部に溶解させた染料溶解液を加え、昇温し、分散混合のため85℃で1時間撹拌し、シード重合体(B)粒子の染着を終了した[工程(III)]。
【0045】
得られた染着したシード重合体(B)粒子の水分散体を、No.2のろ紙にて吸引濾過し、60℃の熱風乾燥機にて乾燥し、マゼンタ色の蛍光顔料を得た[工程(IV)]。
【0046】
(実施例2)
工程(I)において、メタクリル酸メチル67.2部を57.2部に、アクリロニトリル35.2部を45.2部に変更する以外は、実施例1と同様にして、マゼンタ色の蛍光顔料を得た。工程(II)の重合時のビニル共重合体(A)とシアノ基含有ビニルモノマーを80質量%以上含有するビニルモノマーとの質量割合は100:16である。
【0047】
(実施例3)
工程(I)において、BASIC VIOLET 11:1とBASIC RED 1:1からなる蛍光染料をBASIC YELLOW 40 0.43部とDISPERSE YELLOW 82 0.7部からなる蛍光染料に変更し、更に、工程(III)において、BASIC VIOLET 11:1をBASIC YELLOW 40 3.95部に変更する以外は、実施例1と同様にして、レモン色の蛍光顔料を得た。
【0048】
(実施例4)
工程(III)において、ジアルキルスルホコハク酸塩型アニオン界面活性剤をアルキルナフタレンスルホン酸塩型アニオン活性剤[花王(株)製“ペレックスNB−L”]に変更する以外は、実施例1と同様にして、マゼンタ色の蛍光顔料を得た。
【0049】
(実施例5)
工程(II)において、重合時のビニル共重合体(A)とシアノ基含有ビニルモノマーを80質量%以上含有するビニルモノマーとの質量割合を100:10に変更する以外は、実施例1と同様にして、マゼンタ色の蛍光顔料を得た。
【0050】
(実施例6)
工程(II)において、重合時のビニル共重合体(A)とシアノ基含有ビニルモノマーを80質量%以上含有するビニルモノマーとの質量割合を100:20に変更する以外は、実施例1と同様にして、マゼンタ色の蛍光顔料を得た。
【0051】
(比較例1)
工程(III)において、ジアルキルスルホコハク酸塩型アニオン界面活性剤をポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン活性剤[花王(株)製“エマルゲン709”]に変更する以外は、実施例1と同様にして、マゼンタ色の蛍光顔料を得た。
【0052】
(比較例2)
工程(III)において、ジアルキルスルホコハク酸塩型アニオン界面活性剤をラウリルトリメチルアンモニウムクロライド型カチオン活性剤[花王(株)製“コータミン24P”]に変更する以外は、実施例1と同様にして、マゼンタ色の蛍光顔料を得た。
【0053】
(比較例3)
工程(III)において、ジアルキルスルホコハク酸塩型アニオン界面活性剤を使用しないこと以外は、実施例1と同様にして、マゼンタ色の蛍光顔料を得た。
【0054】
(比較例4)
従来技術に見られる工程(III)を行わない以外は、実施例1と同様にして、マゼンタ色の蛍光顔料を得た。
【0055】
実施例1〜6と比較例1〜4で得られた蛍光顔料について、粒度分布、平均粒径、鮮明性、耐光性、印刷特性及びホルムアルデヒド含有量を以下の方法で測定、評価した。その結果を表1及び表2に示した。
【0056】
試験方法及び評価方法
<粒度分布・平均粒子径>
得られた蛍光顔料は、重合時に凝集して二次粒子となっているため、一次粒子にする工程が必要である。
【0057】
そこで、蛍光顔料0.1部を水100部中に分散し、水と同体積のガラスビーズを用いてディスパーで30分間練合させた。その試料を用いて、粒度分布測定装置[ベックマン・コールター(株)製“LS230型粒度分布測定装置”]により、粒度分布、平均粒子径を測定した。
【0058】
<鮮明性>
メラミンアルキッド樹脂ワニス[大日本塗料(株)製“LD−850C”]80部に蛍光顔料20部を混合し、ロール練合し、5ミルのアプリケーターにて塗布、乾燥した試料板を蛍光測色計[(株)日立サイエンスシステムズ製“C−2000”]によって評価した。なお、“良好”とは測色時の最大反射率が90%以上であることを示し(レモン色の場合は120%以上)、“やや良好”とは85%以上90%未満、“普通”とは80%以上85%未満、“不良”とは80%未満であることを示す。
【0059】
<耐光性>
フェード・メーター48時間照射により試験した。なお、試料板は、鮮明性に使用したものを用いた。その時の変退色の程度を変退色用グレースケールにて評価した。変退色用グレースケールによる耐光性の評価は、JIS L 0804−4−1に準ずる。
【0060】
<印刷適性>
印刷試験機[(株)明製作所製“RI−3型印刷適性試験機”]により、インキの印刷用紙への印刷テストを行い、転移性をチェックした。試験に用いるインキは、ロジン変性アルキッド樹脂ワニス[シンロイヒ(株)製“BV−040”]76部、アロマフリーソルベント[梨樹化学(韓国)社製“D−SOL 280”]4部及び蛍光顔料20部を混合し、ロール練合したものを用いる。なお、“良好”とはインキが平版に均一にのり、印刷用紙に正常に転移していくことを示し、“不良”とは粗粒等の影響で正常に転移しないことを示す。
【0061】
<ホルムアルデヒド放散試験>
JIS K 5601−4−1に準ずる。なお、表中のホルムアルデヒド(HCHO)の放散値は試験開始24時間後の測定値である。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1より明らかな通り、本発明の方法である実施例1〜6では、粒度分布幅が狭く、微粒で、鮮明性、耐光性の良好な蛍光顔料が得られた。また、ホルムアルデヒドの検出もなかった。
【0065】
一方表2に示される、工程(III)でノニオン界面活性剤を使用した比較例1、カチオン界面活性剤を使用した比較例2、界面活性剤を使用しない比較例3は、いずれも蛍光染料の染着性が不良のため実施例より鮮明性、耐光性が劣っていた。また、工程(III)のない従来の方法である比較例4は、鮮明性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)シアノ基及び親水基含有の蛍光染料で染着されたビニル共重合体(A)粒子の水分散体を製造する工程、
(II)該ビニル共重合体(A)粒子の水分散体に、シアノ基含有ビニルモノマーを80質量%以上含有するビニルモノマーを滴下し、重合させることによりシード重合体(B)粒子の水分散体を製造する工程、
(III)該シード重合体(B)粒子の水分散体に蛍光染料をアニオン界面活性剤の存在下で添加し、分散混合して該シード重合体(B)粒子を染着する工程、
(IV)該染着されたシード重合体(B)粒子を水分散体から分離する工程、
を有することを特徴とする蛍光顔料の製造方法。
【請求項2】
前記ビニル共重合体(A)と前記シアノ基含有ビニルモノマーを80質量%以上含有するビニルモノマーとの質量割合が、100:10〜100:20である請求項1に記載の蛍光顔料の製造方法。
【請求項3】
前記アニオン界面活性剤がスルホコハク酸塩型アニオン界面活性剤である請求項1又は2に記載の蛍光顔料の製造方法。
【請求項4】
前記工程(III)の分散混合が、50℃〜90℃の温度下で行われる請求項1乃至3に記載の蛍光顔料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の蛍光顔料の製造方法により得られたことを特徴とする蛍光顔料。
【請求項6】
請求項5に記載の蛍光顔料を着色剤として含有することを特徴とするインク。
【請求項7】
請求項5に記載の蛍光顔料を着色剤として含有することを特徴とする塗料。

【公開番号】特開2009−161688(P2009−161688A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2239(P2008−2239)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000107158)シンロイヒ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】